(第1実施例)図を参照して第1実施例の通信システム2を説明する。図1に、通信システム2のブロック図を示す。通信システム2は、2本の通信線3に、キャリア供給器10と、送信器20と、受信器30が接続されたシステムである。送信器20から受信器30へデータを送信することができる。送信器20は、受信器30へ、デジタルデータを送信することができる。デジタルデータは、振幅変調されて通信線3で伝送される。デジタルデータである「0」と「1」のビット列を、キャリア波の振幅を変化させることで相手に送る方式なので、実施例の通信システム2は、振幅偏移変調(ASK)方式である。アドレスを指定する通信プロトコルを採用すれば、通信線3に、複数の送信器20と複数の受信器30が接続されてもよい。
通信線3は、信号線3aとグランド線3bの2線である。グランド線3bは、キャリア供給器10、送信器20、受信器30のそれぞれが有する部品に共通のグランド電位を与える。
通信システム2は、周波数分割方式により、異なるデータを通信線3で伝送することができる。また、通信システム2は、振幅変調された信号に直流電圧を重畳することで、通信線3を使ってキャリア供給器10から送信器20と受信器30へ、信号と同時に電力を送ることができる。
本実施例の通信システム2では、送信器20は、温度センサ29を備えており、温度センサ29の計測データを受信器30に送ることを目的とする。
キャリア供給器10は、キャリア発生器11と電源13を備えている。キャリア発生器11は、抵抗要素12を介して通信線3(信号線3a)に接続されている。キャリア発生器11のグランド14は、通信線3のグランド線3bに接続されている。キャリア発生器11は、周波数の異なる2種類のキャリア波を生成して通信線3に供給することができる。周波数の異なる2種類のキャリア波を、以下では、第1キャリア信号と第2キャリア信号と称する。
電源13は、高周波チョークコイル17を介して通信線3に接続されており、送信器20と受信器30が有するデジタル回路の駆動電圧Vddを供給する。図示を省略しているが、電源13の負極もグランド14に接続されている。先に述べたように、通信線3には、電源13が供給する直流成分に、周波数の異なる2種類のキャリア信号が重量している。
送信器20について説明する。送信器20は、第1フィルタ21、第2フィルタ22、デジタル通信回路23を備えている。また、送信器20には、センサ信号処理回路28が接続されており、センサ信号処理回路28には温度センサ29が接続されている。
デジタル通信回路23は、オープンドレイン出力タイプ(オープンコレクタ出力タイプ)の2個の信号端子(第1信号端子231と第2信号端子232)を備えている。オープンドレイン出力タイプ(オープンコレクタ出力タイプ)とは、回路の内部でnpn型トランジスタのドレイン(コレクタ)に接続されている信号端子である。トランジスタのソース(エミッタ)は、グランドに接続されている。ドレインは、回路内部では、どこにも接続されていない浮動状態か、あるいは、別の高インピーダンス端子に接続されている。トランジスタがオンに切り換わると、ドレイン(コレクタ)は、グランドと接続され、信号端子は低インピーダンス状態になる。トランジスタがオフに切り換わると、ドレイン(コレクタ)はグランドから遮断され、信号端子は高インピーダンス状態となる。なお、「オープンドレイン出力」とは、FET(Field Effect Transistor)での呼び名であり、「オープンコレクタ出力」とは、バイポーラタイプのトランジスタでの呼び名であって、機能の上で両者に相違はない。
第1信号端子231は、デジタル通信回路23の内部で、第1トランジスタ24のドレイン24dに接続されている。第1トランジスタ24のソース24sは、通信線3のグランド線3bに接続されている。第1トランジスタ24のゲート24gは、制御回路26に接続されている。第1トランジスタ24と後述する第2トランジスタ25は、FET(Field Effect Transistor)である。ドレイン24dには、第1信号端子231のほかには何も接続されていない。従って、第1トランジスタ24がオフ状態のとき、第1信号端子231は高インピ−ダンス状態となる。第1トランジスタ24がオン状態のとき、第1信号端子231は低インピーダンス状態となる。
第2信号端子232も同様である。第2信号端子232は、デジタル通信回路23の内部で、第2トランジスタ25のドレイン25dに接続されている。第2トランジスタ25のソース25sは、通信線3のグランド線3bに接続されている。第2トランジスタ25のゲート25gは、制御回路26に接続されている。ドレイン25dには、第2信号端子232のほかには何も接続されていない。第2トランジスタ25がオフ状態のとき、第2信号端子232は高インピーダンス状態となる。第2トランジスタ25がオン状態のとき、第2信号端子232は低インピーダンス状態となる。
以下では、説明をシンプルにするために、第1トランジスタ24がオンに切り換わって第1信号端子231がグランドと接続された状態を、第1信号端子231がオン状態である、と表記する。また、第1トランジスタ24がオフに切り換わって第1信号端子231がグランドから遮断された状態を、第1信号端子231がオフ状態である、と表記する。第2信号端子についても同様の表現を用いる。
制御回路26は、センサ信号処理回路28に接続されている。制御回路26は、センサ信号処理回路28から、温度センサ29の計測データを受信し、受信した計測データを、通信線3を介して受信器30に伝えるべく、所定の通信プロトコルに従って第1信号端子231と第2信号端子232から出力する。計測データは「0」と「1」のビット列で表される。制御回路26は、ゲート24gとゲート25gの電圧を制御し、計測データのビット列に応じて第1トランジスタ24と第2トランジスタ25のオンとオフを切り替える。別言すれば、デジタル通信回路23は、データをビット列で表し、ビット列のHIGHとLOWに対応して第1信号端子231、あるいは、第2信号端子232のオンとオフを切り替える。詳しくは後述するが、第1信号端子231(第2信号端子232)のオンとオフの切り換えに応じて、通信線3の第1キャリア信号(第2キャリア信号)の振幅が変化する。
第1フィルタ21は、入力端211が通信線3の信号線3aに接続されており、出力端212は第1信号端子231に接続されている。第1フィルタは、受動素子(キャパシタンス要素とインダクタンス要素)で構成されるアナログ回路である。第1フィルタ21は、単体では、所定の周波数の信号を通過させる回路であるが、通信システム2では、第1フィルタ21を第1信号端子231とつなぐことで、第1周波数に対する入力インピーダンスの切換装置として用いる。第1フィルタ21は、第2周波数に関しては、第2キャリア信号を遮断するフィルタ本来の機能を果たす。
第2フィルタ22は、入力端221が通信線3の信号線3aに接続されており、出力端222は第2信号端子232に接続されている。第2フィルタも、受動素子(キャパシタンス要素とインダクタンス要素)で構成されるアナログ回路である。第2フィルタ22は、単体では、第1フィルタとは異なる所定の周波数の信号を通過させる回路であるが、通信システム2では、第2フィルタ22を第2信号端子232とつなぐことで、第2周波数に対する入力インピーダンスの切換装置として用いる。第1周波数に対しては、第2フィルタ22は、第1キャリア信号を遮断するフィルタ本来の機能を果たす。詳しくは後述するが、第1フィルタ21と第2フィルタ22は、出力端に接続される信号端子のオンとオフを切り換えるトランジスタのアナログ要素としての特性を考慮し、入力インピーダンスが所定の2値の間で切り換わるように設計される。
送信器20は、キャリア信号の振幅変調によって、データを受信器30に伝送する。送信器20は、キャリア供給器10が通信線3に供給しているキャリア信号の振幅を変化させることで、振幅変調を実現する。そのメカニズムを以下、説明する。
送信器20は、第1信号端子231の状態変化により、第1キャリア信号の振幅を変化させることができる。第1フィルタ21は、第1信号端子231がオン状態のとき、第1周波数における入力インピーダンスが所定のインピーダンス閾値よりも低くなり、第1信号端子231がオフ状態のとき、第1周波数における入力インピーダンスがインピーダンスダンス閾値よりも高くなる。なお、第2周波数における入力インピーダンスは、第1信号端子231の状態に関わりなく、インピーダンス閾値よりも高い状態に保持される。
キャリア供給器10のキャリア発生器11は抵抗要素12を介して通信線3と接続されているので、第1フィルタ21の第1周波数における入力インピーダンスが下がると、通信線3における第1キャリア信号の電圧振幅が小さくなる。例えて言うなら、第1周波数において、通信線3のキャリア発生器側の抵抗要素12(インピーダンス)に対する第1フィルタ21の側の抵抗(インピーダンス)が下がることで、キャリア発生器11の出力端電圧(出力端における第1キャリア信号の電圧振幅)に対する通信線3の分圧(通信線3における第1キャリア信号の電圧振幅)が下がる。第1信号端子がオフ状態に切り換わると、第1フィルタ21の入力インピーダンスが高くなり、通信線3における第1キャリア信号の電圧振幅が元に戻る。こうして、振幅変調が実現される。なお、第1信号端子の状態がオン状態でもオフ状態でも、第2周波数における入力インピーダンスはインピーダンス閾値よりも高く保持されており、第2キャリア信号は影響を受けない。第2信号端子と第2フィルタの組み合わせについても同様である。第1フィルタと第1信号端子の組み合わせと、第2フィルタと第2信号端子の組み合わせが、それぞれ、変調器の機能を実現する。
インピーダンス閾値は、キャリア発生器11に接続されている抵抗要素12の大きさと、デジタル信号の「0」と「1」の夫々に対応するキャリア信号の電圧振幅に要求される電圧差に基づいて定まる。なお、デジタル回路のTTLレベルにおける閾値では、HIGHレベルを判定する電圧閾値VHと、LOWレベルを判定する電圧閾値VLが異なる(VH>VL)。即ち、電圧閾値は、所定の幅を有している。これと同様に、インピーダンス閾値も、所定の幅を有していてもよい。即ち、第1信号端子231がオンのとき、第1フィルタ21の入力インピーダンスはインピーダンス閾値Zpsよりも小さく、第1信号端子231がオフのとき、入力インピーダンスはインピーダンス閾値Zcf(>Zps)よりも大きい、と規定してもよい。この場合、インピーダンス閾値は、ZcfとZpsの間に相当する幅を有していることになる。
図2に、第1信号端子231の波形(1)、第2信号端子232の波形(2)と、キャリア信号の電圧波形(3)、(4)の一例を示す。図2(3)のグラフG1は、通信線3に現れる信号の第1キャリア信号の成分を示している。図2(4)のグラフG2は、通信線3に現れる信号の第2キャリア信号成分を示している。先に述べたように、第1トランジスタ24がオン状態のときを、「第1信号端子231がオンである」と表現し、第1トランジスタ24がオフ状態のときを、「第1信号端子231がオフである」と表現する。第2信号端子232についても同様である。
時刻T1からT2の間、及び、時刻T5からT6の間で第1信号端子231がオンに保持され、時刻T3からT4の間で第2信号端子232がオンに保持される。第1信号端子231と第2信号端子232のいずれもがオフのとき、第1キャリア信号と第2キャリア信号はいずれも電圧振幅はdV1である。第1信号端子231がオンに保持されている間(時刻T1−T2、T5−T6)、第1キャリア信号の電圧振幅はdV2(<dV1)となる。この間、第2キャリア信号の電圧振幅はdV2のままである。第2信号端子232がオンに保持されている間(時刻T3−T4)、第2キャリア信号の電圧振幅はdV2(<dV1)となる。この間、第1キャリア信号の電圧振幅はdV2のままである。
上記の通り、送信器20は、キャリア発生器を備えることなく、デジタル通信回路の端子のオンオフ制御だけで、通信線3の上のキャリア信号を振幅変調することができる。
なお、送信器20において、通信線3の信号線3aは、高周波チョークコイル27を介してデジタル通信回路23の駆動電圧入力端233に接続されている。高周波チョークコイル27によって信号線3aの第1/第2キャリア信号が除去され、駆動電圧入力端233にはノイズの無い直流電圧Vddが供給される。直流電圧Vddは、センサ信号処理回路28にも供給される。送信器20は、電源とキャリア発生器を備えることなく、振幅変調した信号を受信器30へ伝えることができる。
次に、第1フィルタ21の設計と具体的な構造について説明する。第2フィルタ22についても同様であるので、第2フィルタ22については説明を省略する。なお、以下では、説明を単純化するために、「インピーダンスが無限大」という表現を用いるが、これは、第1フィルタの入力インピーダンスが前述したインピーダンス閾値を超えるほどに十分に大きいことを意味する。同様に、「インピーダンスがゼロ」という表現は、入力インピーダンスがインピーダンス閾値を下回るほどに充分に小さいことを意味する。
第1フィルタ21の入力インピーダンスを記号Zinで表す。Zinの望ましい周波数特性を図3に示す。周波数f1が第1キャリア信号の周波数を示しており、周波数f2が第2キャリア信号の周波数を示している。また、Zcfは、入力インピーダンスZinがこの値よりも大きければ、通信線3を流れるキャリア信号の振幅が、デジタル信号のHIGH(あるいはLOW)に対応する振幅となる閾値である。Zpsは、入力インピーダンスZinがこの値よりも小さければ、通信線3を流れるキャリア信号の振幅が、デジタル信号のLOW(あるいはHIGH)に相当する振幅となる閾値である。別言すれば、インピーダンス閾値が、ZpsからZcfの幅を有している、ということである。
グラフG3は、第1信号端子231(第1トランジスタ24)がオフのときの特性であり、第1周波数f1、第2周波数f2、いずれにおいても入力インピーダンスZinがZcfよりも高い。その結果、通信線3を通る第1キャリア信号と第2キャリア信号は、いずれも、振幅がHIGHレベルとなる。また、第1フィルタ21は、低周波数域のインピーダンスも高く、直流成分は通さない。
グラフG4は、第1信号端子231(第1トランジスタ24)がオン状態のときの特性であり、第1周波数f1においては入力インピーダンスZinがZpsよりも下がる。一方、低周波数域と第2周波数f2においては、入力インピーダンスZinはZcfを超えたままである。従って、通信線3を流れる第1キャリア信号の振幅は、LOWレベルとなる。一方、第2キャリア信号の振幅は、HIGHレベルのままとなる。
図4に、第1フィルタ21と第1信号端子231と第1トランジスタ24の等価回路図を示す。図4において、IinとIoutは、それぞれ、第1フィルタ21の入力端211を流れる電流と出力端212を流れる電流を意味している。VinとVoutは、それぞれ、第1フィルタ21の入力端211の電圧と出力端212の電圧を意味している。記号Zinは、入力端211のインピーダンス(入力インピーダンス)を意味しており、Zoは第1信号端子231のインピーダンスを示している。
第1キャリア信号と第2キャリア信号の周波数帯域は、1〜100[MHz]程度である。この周波数帯域においては、第1トランジスタ24は、オフ状態のときにはキャパシタンス要素24aとして振る舞い、オン状態のときには抵抗要素24bとして振る舞う。なお、より正確には、第1トランジスタ24は、オフ状態のときにはキャパシタンス要素と抵抗要素の並列回路として振る舞い、オン状態のときには抵抗要素とインダクタンス要素の直列接続回路として振る舞う。しかし、ここでは、上記のように単純化して考えればよい。
一般に、トランジスタがオン状態のときに抵抗要素として振る舞う場合であっても、オフ状態のときにキャパシタンス要素として振る舞う場合であっても、その値の大きさは十分に小さい。即ち、キャパシタンス要素24aも抵抗要素24bも、その値は十分に小さい。
第1フィルタ21が満たすべき要求は、次の3個である。(1)第1トランジスタ24がオフ状態のとき(即ち、第1トランジスタ24がキャパシタンス要素24aとして振る舞うとき)、第1周波数における入力インピーダンス|Zin|が高いこと。(2)第1トランジスタ24がオン状態のとき(即ち、第1トランジスタ24が抵抗要素24bとして振る舞うとき)、第1周波数における入力インピーダンス|Zin|が低いこと。(3)第1トランジスタ24がオフ状態であってもオン状態であっても、第2周波数における入力インピーダンス|Zin|が高いこと。なお、ここで「入力インピーダンスが高い/低い」とは、先に述べたように、通信線3におけるキャリア信号の電圧振幅が、デジタル信号の「0」と「1」に対応する電圧振幅として区別するのに十分なほどに高い/低いことを意味する。図3の例でいえば、入力インピーダンス|Zin|が高いとは、入力インピーダンス|Zin|がインピーダンスZcfよりも高ければよい。入力インピーダンス|Zin|が低いとは、入力インピーダンス|Zin|がインピーダンスZpsよりも低ければよい。
第1フィルタ21の入出力端子の電圧・電流の関係を、インピーダンス行列を用いて表すと、(数式1)となる。
数式1は、以下、数式2−数式4のように変形することができ、第1フィルタ21の入力端211のインピーダンスZ
inは、数式4の形で表すことができる。
第1フィルタ21に対する要求(1)を検討する。第1トランジスタ24がオフ状態のとき、即ち、第1トランジスタ24がキャパシタンス要素24aとして振る舞うとき、第1周波数におけるインピーダンスZo=ZHとする。数式4より、Z12・Z21≠0かつZH+Z22=0となる場合に、入力インピーダンス|Zin|は無限大になる。オフ状態のときの第1トランジスタ24の抵抗要素は無視できるため、オフ状態のときの第1トランジスタ24は純キャパシタンス要素24aとしてモデル化できる。それゆえ、キャパシタンス要素24aと並列共振となるようにインダクタンス要素を用いてZ22=−ZHが実現可能である。即ち、Im[Z22]>0である。別言すれば、Z12・Z21≠0、かつ、第1周波数におけるZ22がキャパシタンス要素24aのインピーダンスZHと同等の大きさであり、かつ、両者が異符号であれば(すなわち、インダクタンス要素であれば)、要求(1)を充足する。
要求(2)を検討する。第1トランジスタ24がオン状態のとき、即ち、第1トランジスタ24が抵抗要素24bとして振る舞うとき、第1周波数におけるインピーダンスZo=ZLとする。第1トランジスタ24がオン状態のときの抵抗は十分に小さいものであるから、第1周波数においても、抵抗要素24bの抵抗値は十分に小さい。それゆえ、第1周波数において、ZL+Z22≒Z22とみなしてよい。従って、数式4において、Z11=Z12・Z21/Z22と決定すれば、入力インピーダンス|Zin|をほぼゼロにすることができる。即ち、要求(2)を充足する。
通常の線形受動素子で構成されるフィルタ回路では、Z12=Z21であるから、これを改めてZxとおくと、次の(数式5)が得られる。
要求(1)の結果から、Z
22=ZHであり、これを(数式5)に代入すると、次の(数式6)が得られる。
数式6が(1)と(2)の要求を満たすフィルタの条件である。一方、数式1において、Z12=Z21をZxと置くと、数式1のフィルタは、一般に、T型フィルタとして図5のように表現することができる。数式6を使って、図5のフィルタからZ11を消去すると図6のようになる。図6の回路が、(1)と(2)の要求を満たすフィルタである。
図6の回路をキャパシタンス要素とインダクタンス要素を使って表現すると、第1フィルタ21は、図7(A)、(B)のようになる。なお、T型フィルタのバリエーションはほかにもあるが、インピーダンスZLが小さいことなどの条件を考慮すると、図7(A)と(B)が、要求(1)と(2)を充足する現実的な回路となる。
最後に要求(3)を検討する。第1周波数が第2周波数よりも低い場合、図7の回路に、第1周波数よりも高い周波数成分をカットする特性を付け加えればよい。高周波をカットする特性を加えると、第1フィルタ21は、図8(A)の回路となる。一方、第1周波数が第2周波数よりも低い場合には、図7の回路に、第1周波数よりも低い周波数成分をカットする特性を付け加えればよい。その場合、第1フィルタ21は、図8(B)の回路となる。インピーダンスZHは、第1トランジスタ24がオン状態でキャパシタンス要素として振る舞うときの第1周波数におけるインピーダンスである。図8(A)、(B)の各インダクタンス要素とキャパシタンス要素の大きさは、インピーダンスZH、第1周波数、第2周波数から定めることができる。
なお、図8(A)において入力端211に近い箇所のキャパシタンス要素は、直流成分をカットするために挿入したものである。図8(B)において入力端211に近い箇所のキャパシタンス要素と出力端212に近い箇所のキャパシタンス要素も、直流成分をカットするための要素である。こうして、(1)から(3)の要求、及び、直流成分をカットするという要求を充足する第1フィルタ21が得られる。
図8(A)、(B)のT型フィルタの回路はよく知られている。T型フィルタに対する周波数特性の要求が明らかになれば、各要素の具体的な値を算出することができる。
第1周波数が第2周波数よりも低い場合、図8(A)が第1フィルタ21の回路図となり、図8(B)が第2フィルタ22の回路図となる。逆に、第1周波数が第2周波数よりも高い場合、図8(B)が第1フィルタ21の回路図となり、図8(A)が第2フィルタ22の回路図となる。
図9に、設計した第1フィルタ21と第2フィルタ22の周波数特性の一例を示す。図9はシミュレーションの結果である。この例では、第1周波数f1は20[MHz]に設定されており、第2周波数f2は50[MHz]に設定されている。図9(A)は、第1フィルタ21の周波数特性を示しており、図9(B)は第2フィルタ22の周波数特性を示している。縦軸は、通信線3の信号線3aにおける電圧振幅の相対値を示している。
図9(A)のグラフG5は、第1信号端子231がオフ(第1トランジスタ24がオフ)のときの特性を示している。図9(A)のグラフG6は、第1信号端子231がオン(第1トランジスタ24がオン)のときの特性を示している。
第1信号端子231がオンのときとオフのときでは、第1周波数f1において約15dBの電圧変化(振幅変化)が生じる。従って、振幅の大小によって「1」と「0」を区別することができる。即ち、振幅変調器として十分に機能する。一方、第2周波数f2においてはほとんど電圧変化を生じない。即ち、第1フィルタ21に接続された第1信号端子231の状態切換によって、第2キャリア信号に影響を与えることなく、第1キャリア信号を振幅変調することができる。なお、グラフG5、G6はともに、低周波域では高いインピーダンスを保持する。即ち、このフィルタは、直流成分も通さない。
図9(B)のグラフG7は、第2信号端子232がオフ(第2トランジスタ25がオフ)のときの特性を示している。図9(B)のグラフG8は、第2信号端子232がオン(第2トランジスタ25がオン)のときの特性を示している。第2信号端子232がオンのときとオフのときでは、第2周波数f2において15dB以上の電圧変化(振幅変化)が生じる。一方、第1周波数f1においてはほとんど電圧変化を生じない。グラフG7、G8の周波数特性を有する第2フィルタ22も、変調器として十分に機能する。即ち、第2フィルタ22に接続された第2信号端子232の状態切換によって、第1キャリア信号に影響を与えることなく、第2キャリア信号を振幅変調することができる。グラフG7、G8はともに、低周波域では高いインピーダンスを保持する。即ち、このフィルタは、直流成分も通さない。
図8に示したように、第1フィルタ21と第2フィルタ22は、受動素子だけで構成することができる。送信器20は、キャリア発生器やアナログ増幅器などの能動素子を用いることなく、オープンドレイン出力タイプの信号端子と受動素子だけで、振幅変調を実現することができる。本実施例の通信システム2における送信器20は、省電力に優れているとともに小型化し易いという利点を有する。
図1に戻り、受信器30について説明する。受信器30は、第2キャリア信号は遮断するが第1キャリア周波数は通過させる第1バンドパスフィルタ31、第1キャリア信号は遮断するが第2キャリア信号は通過させる第2バンドパスフィルタ32、復調器(第1復調器33、第2復調器34)、信号処理回路35で構成されている。第1バンドパスフィルタの入力端311は通信線3の信号線3aに接続されており、出力端は第1復調器33に接続されている。第1復調器33の出力は信号処理回路35の第1信号端子351に接続されている。第2バンドパスフィルタの入力端321は通信線3の信号線3aに接続されており、出力端は第2復調器34に接続されている。第2復調器34の出力は信号処理回路35の第2信号端子352に接続されている。
通信線3の第1キャリア信号の電圧振幅が大きいときは、第1バンドパスフィルタ31を第1キャリア信号が通り、第1復調器33の出力がHIGHレベルになる。通信線3の第1キャリア信号の電圧振幅が小さいときは、第1復調器33への入力信号が小さくなり、その出力がLOWレベルになる。同様に第2キャリア信号の電圧振幅が大きいときには第2復調器34の出力がHIGHレベルとなり、第2キャリア信号の電圧振幅が小さいときには第2復調器34の出力がLOWレベルになる。受信器30は、従来の振幅復調器と同じ構成でよい。なお、通信線3の信号線3aは、高周波チョークコイル37を介して信号処理回路35の駆動電圧入力端353に接続されている。信号処理回路35は、信号線3aに重畳されている電源電圧Vddで駆動される。受信器30も、自身が電源を備えることなく、動作することができる。
(第2実施例)図10を参照して第2実施例の通信システム2aを説明する。通信システム2aは、キャリア供給器10と、通信装置40を備えている。図示を省略しているが、通信システム2aは、通信装置40と同じ構成の別の通信装置を備えている。キャリア供給器10と2個の通信装置40は、通信線3に接続されている。キャリア供給器10は、第1実施例のキャリア供給器と同じであるので説明は省略する。
通信装置40は、第1実施例の送信器20と受信器30の両方の機能を備えている。また、通信装置40は、I2C(Inter-Integrated Circuit)の通信規格で相互に通信する。即ち、通信装置40は、通信線3を介して別の通信装置と、シリアルデータ信号(SDA)とシリアルクロック信号(SCL)を授受することができる。シリアルデータ信号(SDA)とシリアルクロック信号(SCL)は、周波数分割方式で、通信線3を通じて送受信される。第1実施例の第1キャリア信号の振幅変調でシリアルクロック信号(SCL)が送信され、第2キャリア信号の振幅変調でシリアルデータ信号(SDA)が送信される。
通信システム2aは、第1フィルタ21、第2フィルタ22、第1復調器33、第2復調器34、デジタル通信回路46を備えている。デジタル通信回路46は、第1信号端子461と第2信号端子462を有しており、それらは、オープンドレイン出力タイプである(なお、I2Cの通信規格が、出力端子としてオープンドレイン出力タイプを規定している)。第1フィルタ21の入力端211が通信線3(信号線3a)に接続されており、第1フィルタ21の出力端212がデジタル通信回路46の第1信号端子461に接続されている。第2フィルタ22の入力端221が通信線3(信号線3a)に接続されており、第2フィルタ22の出力端222がデジタル通信回路46の第2信号端子462に接続されている。第1信号端子461は、I2C通信規格のシリアルクロックピン(SCLピン)に相当し、第2信号端子462はI2C通信規格のシリアルデータピン(SDAピン)に相当する。第1フィルタ21と第1信号端子461の関係は、第1実施例の送信器20の場合と同じである。第2フィルタ22と第2信号端子462の関係も同様である。通信装置40のデータ送信機能については第1実施例の送信器20と同じであるので説明は割愛する。第2実施例の通信システム2aも、第1実施例の送信器20と同様に、キャリア信号発生器や従来の振幅変調器を備えることなく、第1フィルタ21と第1信号端子461(第2フィルタ22と第2信号端子462)によって、通信線3の上のキャリア信号の振幅を変調することができる。
通信線3の信号線3aは、高周波チョークコイル41を介してデジタル通信回路46の駆動電圧入力端463に接続されている、デジタル通信回路46は、通信線3で伝送される直流電力(電圧Vdd)で動作する。
復調機能について説明する。第1フィルタ21の出力端212には、第1復調器33の入力端が接続されており、第1復調器33の出力端は、高周波チョークコイル43を介して第1信号端子461に接続されている。なお、第1復調器33の出力端は、プルアップ抵抗42を介して電力線49に接続されている。
第1キャリア信号は、第1信号端子461がオフ状態(高インピーダンス状態)であっても、第1フィルタ21の出力端212までは現れる。第2キャリア信号は、第1フィルタ21を通過できず、出力端212には現れない。従って第1キャリア信号のみが第1復調器33に入力される。第1復調器33は、第1キャリア信号の振幅の大小に応じてHIGHレベルとLOWレベルを識別可能な低周波のデジタル電圧信号を、高周波チョークコイル43を介して第1信号端子461に与える。
第2フィルタ22の出力端222に接続されている第2復調器34についても同様である。第2復調器34の出力端は、高周波チョークコイル45を介して第2信号端子462に接続されている。第2復調器34の出力端は、プルアップ抵抗44を介して電力線49に接続されている。第2復調器34も、第2キャリア信号の振幅の大小に応じてHIGHレベルとLOWレベルを識別可能な低周波のデジタル電圧信号を、高周波チョークコイル45を介して第2信号端子462に与える。
なお、第1信号端子461は、高周波チョークコイル43を介して電力線49に接続されている。従って、第1キャリア信号と第2キャリア信号の周波数帯の信号は、電力線49に届かない。一般に、駆動電力を供給する電力線49は、電圧変動を吸収するために、大容量のキャパシタンスにつながっており、高周波信号は吸収されてしまう。しかし、電力線49と第1信号端子461は、高周波チョークコイル43を介して接続されている。それゆえ、キャリア信号の周波数帯においては、第1信号端子461は、電力線49(即ち、デバイスを駆動するための電力を供給する電力線)とは、遮断される。第2信号端子462についても同様である。
以上説明したように、実施例の通信システムは、振幅変調/復調方式を採用しており、さらに、周波数分割により複数の信号を同時に送受信することができる。そして、送信器は、電力を必要とするキャリア発生器を備える必要がなく、さらには、アナログ信号増幅器などの能動素子を含む変調器を備える必要が無い。よって、小型で省電力な送信器を実現することができる。また、実施例の通信システムは、2線で複数の信号と電力を同時に伝達することができる。これら利点は、特に、複数のセンサを配置するシステム(例えば、衣服にセンサを分散配置する装置)に好適である。
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。実施例で説明した通信システムの特徴は、送信器とは別個にキャリア発生器を備えることと、受動素子だけで構成できるアナログフィルタによって振幅変調を実現している点にある。アナログフィルタの出力端は、通常はデジタル出力端として用いられるオープンドレイン出力タイプの信号端子に接続される。本明細書が開示する技術では、信号端子に接続されているトランジスタが、キャリア周波数の帯域ではキャパシタンス要素(オフのとき)あるいは抵抗要素(オンのとき)として振る舞うことに着目した。キャパシタンス要素は、信号端子に接続されているアナログフィルタの入力インピーダンスに影響を与える。具体的には、キャパシタンス要素として振る舞うトランジスタとアナログフィルタのインダクタンス要素で生じる共振現象が入力インピーダンスに影響する。本明細書が開示する技術は、この共振現象による入力インピーダンスの変化を利用して、通信線上のキャリア信号の振幅を変化させる。
実施例の通信システムの特徴は、次のように表現することもできる。送信器20では、送信すべきデジタルデータの出力端子(第1信号端子231と第2信号端子232)のオンオフ切り換えが、他の能動素子を要することなく、通信線のキャリア信号の振幅変調を生じさせる。また、第1フィルタ21は、第2キャリア信号に対しては、フィルタ本来の周波数選択デバイスとして機能し、第1キャリア信号に対しては、第1信号端子と結合して変調器として機能する。即ち、第1フィルタ21は、2つの異なる機能を実現している。第2フィルタ22も同様である。
キャリア信号に用いられる周波数帯域は、信号端子がオンオフされる帯域(即ち、デジタル信号の伝送帯域)よりもはるかに高い。すなわち、デジタル通信回路は、信号端子に入力されるキャリア信号をデジタル情報として扱うわけではない。この点も、実施例の送信器の特徴の一つである。キャリア信号の周波数帯域は、デジタル通信回路の第1信号端子のオンオフ切換の帯域より概ね10倍以上高ければよい。その程度の差があれば、キャリア信号と第1信号端子のオンオフ切り換えが干渉することが避けられる。
上記したように、フィルタの入力インピーダンスは、出力端に接続されているトランジスタがオンのときの容量に影響される。キャリア信号の周波数帯域は、オフのときのトランジスタの容量に基づいて定められるとよい。例えば、オフのときのトランジスタの容量が10[pF]程度の場合、キャリア信号の周波数帯域が、1〜100[MHz]程度の間であれば、キャパシタンス要素とインダクタンス要素がそれぞれ妥当な数値のアナログフィルタを実現することができる。
アナログフィルタの入力インピーダンスの変化に着目して実施例の通信システム2、2aを表現すると、以下の通りとなる。実施例の通信システム2、2aは、抵抗要素12(インピーダンス要素)を介して第1周波数の第1キャリア信号と第2周波数の第2キャリア信号を通信線3に供給するキャリア発生器11と、キャリア発生器11から独立して通信線3に接続されている送信器20(40)を備えている。送信器20(40)は、デジタル通信回路23(46)と、第1(アナログ)フィルタ21と、第2(アナログ)フィルタ22を備えている。デジタル通信回路23(46)は、グランドと導通する第1状態とグランドから遮断される第2状態を切り換え可能な第1信号端子231(461)と第2信号端子232(462)を有している。第1(第2)信号端子は、キャリア信号の周波数帯域においては、デジタル通信回路を駆動する電源とも遮断されている。別言すれば、第2状態のとき、第1(第2)信号端子は、キャリア信号の周波数帯域において高インピーダンスである別の端子に接続されていてもよい。
第1フィルタ21は、入力端211が通信線3に接続されているとともに出力端212が第1信号端子231(461)に接続されている。第1フィルタ21は、第1信号端子231(461)が第1状態のときに第1周波数における入力インピーダンスがインピーダンス閾値Zps(図3参照)よりも小さくなり、第1信号端子231(461)が第2状態のときに第1周波数における入力インピーダンスがインピーダンス閾値Zcf(図3参照)よりも大きくなる。第1フィルタ21は、第1信号端子231(461)の状態に関わらずに第2周波数における入力インピーダンスをインピーダンス閾値Zcfよりも高い状態に保持する。
第2フィルタ22に関する説明は、第1フィルタ21に関する上記の説明において、「第1」を「第2」に、「第2」を「第1」に読み替えればよい。
本明細書が開示する技術は、デジタル回路の要素である信号端子(信号端子とグランドの間のスイッチング要素)が、キャリア信号の周波数帯域において、グランドと接続されたときには抵抗値の小さい抵抗要素として振る舞い、グランドから遮断されたときには容量の小さいキャパシタンス要素として振る舞う点に着目している。そして、それら抵抗要素とキャパシタンス要素を考慮した上で、信号端子のオン状態とオフ状態の夫々において入力インピーダンスが所望の値となるように第1フィルタと第2フィルタを設計する。そうして、アナログフィルタとオープンドレイン出力タイプの信号端子によって、振幅変調器を実現する。
そのほかの留意点について述べる。実施例では、デジタル信号回路は、オープンドレイン出力タイプの信号端子を有していた。デジタル信号回路の信号端子は、オープンコレクタ出力タイプであってもよい。さらには、第1信号端子と第2信号端子は、キャリア信号の周波数帯域において、低インピーダンス状態(グランドに接続された第1状態)と、高インピーダンス状態(グランドから遮断された第2状態)を切り換えることが可能な端子であればよい。第1(第2)信号端子の状態を切り換えるスイッチは、実施例のトランジスタに限定されるものではなく、別のスイッチング素子であってもよい。
実施例のキャリア供給器10において、キャリア発生器11は、抵抗要素12を介して通信線3に接続されていた。キャリア発生器と通信線の間には、コイルやキャパシタなど、インピーダンス要素が接続されていればよい。
通信システム2、2aは、デジタル信号の「0」と「1」のデータ列をキャリア信号の振幅の大小に変換して伝送する振幅偏移変調方式(ASK変調方式)を採用している。
本明細書が開示する信号システムは、周波数の異なる3以上のキャリア信号と、それぞれの周波数に対応するアナログフィルタと、夫々のアナログフィルタの出力端に接続されるオープンドレイン出力タイプの信号端子を備えていてもよい。第2実施例の通信システム2aは、I2C通信規格のシリアル通信を行うシステムである。本明細書が開示する技術は、2以上の周波数分割によってパラレルデータ通信を行う通信システムに適用することも好適である。本明細書が開示する技術は、2本の通信線に複数の通信装置が接続される通信システムに適用することも好適である。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。