本明細書における用語「固定部材」は、基材と、かかる基材上に設けられた面ファスナーとを有する被固定部材の固定に用いる部材である。例えば、本明細書で記載される固定部材は、(1)被固定部材(物品)における第1領域と第2領域との固定(具体的には、使い捨ておむつ等の吸収性物品における前方腰部と後方腰部との連結、衣類における左右前身頃、襟及び/または袖口等の固定、靴のアッパー部における履き口部の固定)、(2)複数の異なる被固定部材同士の固定(具体的には、生理用品、その他衛生用品等の吸収性物品と衣類への固定、取り付け)、(3)固定部材を被固定部材へ巻き付け、面ファスナーを基材に係合させることによる被固定部材の固定(動きの制限)(具体的には、小さく折り畳まれた若しくは丸められた物品の形状保持、肌へ貼られた湿布等のずれ・剥がれ防止)等の用途に用いられるが、その用語が網羅する範囲はこれに限定されない。
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本実施形態では、図1及び2に示すように、固定部材20を吸収性物品1に適用した例について説明する。なお、図1及び2においては、吸収性物品1の一例としてオープン型(フラット型)のおむつを挙げているが、固定部材が設けられる吸収性物品は、図1及び2に示すおむつに限定されず、例えば、テープ止め型、パッド型等の他の形態のおむつや、ナプキン、ショーツ一体型ナプキン等の生理用品・衛生用品であることができる。
おむつ(吸収性物品)1は、腹側から背側にかけて着用者の股部を覆うシート状の本体部10と、本体部10の腹側端部10aと背側端部10bとを着用者の腰部の左右で着脱自在に連結する一対の固定部材20とを備えている。本明細書では、おむつ1の着用者側の面を「内面」といい、その反対側の面を「外面」という。
本体部10は、外側シート11と、外側シート11の内側に積層された液体透過性の内側シート12と、外側シート11と内側シート12との間に収容された液体吸収性の高分子吸収体13とを有している。外側シート11は、一般的に、液体不透過性フィルムと不織布層との積層体から構成され、液体不透過性フィルムが高分子吸収体13側、不織布層がおむつ1本体の外面側に存在している。すなわち、おむつ1の着用時に、内側シート12は、おむつ1本体の内面側で着用者の皮膚に隣接して配置され、外側シート11(その不織布層)は、おむつ1本体の外面側で着用者の衣服等に隣接して配置される。ここで、外側シート11に用いられる不織布層としては、例えば、スパンボンド法によって作製されたポリプロピレン不織布を用いることができる。この場合、この不織布層を固定部材との固定に使用することが可能である。
なお、本体部10の腹側端部10aの外面に、本体部10の幅方向(着用時における横方向)に伸びる帯状のループ材14が設けられていてもよい。ループ材14は、フックが係合する多数のループ体を有する。あるいは、ループ材14に代えて、フックを繊維に係合させることが可能な不織布等を使用してもよい。また、ループ材14を設ける代わりに、フックが係合する多数のループ体が設けられた素材により外側シート11の外面層を構成してもよいし、上述のように、フックを繊維に係合させることが可能な不織布等により外側シート11を構成してもよい。
本実施形態においては、図1に示すように、固定部材20は、基材21及び面ファスナー30を備えている。基材21は、背側端部10bから本体部10の幅方向に沿って外側に突出しており、着用時に腹側端部10aに巻き付いて連結する部分である。この基材21は柔軟性を有している。ここで、柔軟性とは、基材21が、固定部材が適用される被固定部材の表面形状に沿って簡単に曲がって追従可能となるような性質をいう。伸長性・伸縮性を有しているものであっても、また、弾性的な変形であってもよく、更に、弾性的な変形の一部に塑性的な変形が含まれていても良い。固定部材20が吸収物品・衣類に適用される場合、柔軟性とは、着用者がごわごわ感を感じない程度の剛性をいう。なお、基材21の柔軟性の度合いは、被固定部材の表面形状、構造、組成、用途等に基づき任意に定めてよい。基材21として不織布を用いた場合には、柔軟性を不織布の坪量で表すことができ、ある態様においては、不織布の坪量が5g/m2以上、10g/m2以上もしくは20g/m2以上であって、600g/m2以下、400g/m2以下もしくは200g/m2以下の範囲であれば、基材21が柔軟性を有すると見ることができる。ある態様においては、不織布の坪量を30g/m2以上、100g/m2以下とすることが好ましい。
本実施形態では、基材21は突出方向(巻付け方向)に向かって次第に窄む台形状(あるいは翼状)を呈しているが、基材21の形状はこれに限定されない。例えば、基材21は矩形状であってもよいし、基材21の外縁の少なくとも一部が円弧であってもよい。
基材21の基端側は背側端部10bの外面に接着、縫い付け、溶着などにより取り付けられている。
基材21の材料は、被固定部材に対する基材21の柔軟性の観点から適宜選択される。例えば、織布、不織布、プラスチック・フィルム、あるいはこれらの混合により基材21を作製してもよい。基材21は外側シート11と同じ材料により作製されてもよく、この場合には基材21と外側シート11とが一体成形されてもよい。あるいは、エラストマー成形体と伸縮性を有する繊維集合体との積層体により、伸縮性を有する基材21を作製してもよい。エラストマー成形体と繊維集合体とは接着剤や熱融着などにより接合されてもよいし、編んだり縫ったりする等の物理的方法により接合されてもよい。なお、基材21には空隙部が設けられていてもよい。空隙部の形状については、特に制限はなく、後述する面ファスナー30の貫通部33(開口部34)と同様な形状であってもよく、異なる形状であってもよい。ネット状のものも使用可能である。空隙部の形状が、面ファスナー30の貫通部33(開口部34)と同様な形状である場合、固定部材20において、基材21の空隙部と面ファスナー30の貫通部33(開口部34)とを重ねることも可能である。
エラストマーの例として熱可塑性エラストマーが挙げられる。この熱可塑性エラストマーはハードセグメントとソフトセグメントとからなり、主にハードセグメントが分子拘束の機能を有する。熱可塑性エラストマーは、そのハードセグメントの種類により分類することができる。熱可塑性エラストマーの例として、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、塩ビ系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。エラストマー成形体は一種類の熱可塑性エラストマーのみから成るものであってもよいし、2種以上の熱可塑性エラストマーの混合物であってもよい。エラストマー成形体は更に、各種の添加剤(タッキファイヤー(粘着性付与剤)、酸化防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、着色剤、無機充填材、オイル等)を含んでもよい。
繊維集合体は例えば不織布である。繊維集合体の材料について特に制限はなく、従来から知られている種々の繊維材料を使用することができる。繊維集合体の伸縮性、柔らかさ、及び肌触りの良さを得るための材料の例として、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維とポリオレフィン繊維とを混紡した混合繊維、ポリエチレンテレフタレートの芯材をポリエチレンで覆った同心型複合繊維、ポリプロピレンの芯材をポリエチレンで覆った同心型複合繊維などが挙げられる。繊維集合体の製造方法に関しても特に制限はなく、スパンボンド法、スパンレース法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法などのような周知の様々な製造方法を用いることができる。
基材21の厚さは、被固定部材に対する基材21の柔軟性の観点から適宜選択される。例えば、その厚さの下限は50μm、70μm、または100μmでもよく、その厚さの上限は500μm、400μm、または300μmでもよい。基材21の広さも被固定部材に対する基材21の柔軟性の観点から適宜選択してよい。例えば、基材21の巻付け方向(図1のL方向)における最大長は60mm以上でもよく、300mm以下、または250mm以下でもよい。また、基材21の幅方向(巻付け方向と直交する方向、図1のW方向)における最大長は40mm以上でもよく、200mm以下または150mm以下でもよい。
本明細書における用語「面ファスナー」は、60〜380μmの厚さを有するものである。図1に示される本実施形態ではフック材30を指すが、その用語が網羅する範囲はこれに限定されない。例えば、面ファスナー30はループ材も含む概念である。面ファスナー30の形状については、得られる固定部材におけるずれに対する安定性、被固定部材の動きに対する追従性の観点から、適宜選択される。具体的には、例えば、矩形状、円状、長円状、楕円状、多角形状またはそれらを組み合わせた形状などが挙げられる。基材21に対し、同一形状または異なる形状の面ファスナー30が複数設けられていても良い。基材21に対する面ファスナー30の設置範囲については後述する。
面ファスナー30の厚さは、上述の通り、60〜380μmである。得られる固定部材におけるずれに対する安定性、被固定部材の動きに対する追従性の観点から、ある態様においては、下限を90μmまたは115μmとすることができ、上限を350μmまたは320μmとすることができる。本明細書では、このような厚さの条件を満たす面ファスナーを「薄型面ファスナー(low-profile fastener)」ということもある。
図1に示される本実施形態では、面ファスナー30の一例としてフック材を用いた例が記載されており、フック材30が、固定部材20における基材21先端部の内面に、接着、縫い付け、溶着などにより取り付けられる。したがって、図2に示すようにその固定部材20のフック材30をループ材14に貼り付けることでおむつ1を着用者に穿かせることができる。なお、図1に示されるように、本実施形態では基材21の先端部はフック材30により覆われておらず、この先端部は、フック材30がループ材14に接合された状態でも容易につまむことが可能なつまみ部21aとして機能する。また、基材21の先端までフック材30が存在していてもよい。本明細書では、いくつかの図に示すように、基材21及びフック材30の巻付け方向を符号Lで示し、その巻付け方向Lと直交する方向を幅方向Wと定義する。巻付け方向Lは基材21の突出方向と同義である。
フック材30は、シート状のベース31と、そのベース31表面に設けられた多数のフック32とを備えている。図3に示すように、本実施形態では、フック32はベース31から延びる茎部32aと、その茎部32aの先端に形成された傘部32bとを備えており、全体として茸状を呈している。なお、フック32における傘部32bの形状としては、係合力を満足できるものであれば種類を問わないが、例えば、上記した茸状以外にも、鉤状、T字状、J字状のものが使用できる。
フック材30は、例えば熱可塑性樹脂によって形成される。まず、多数の貫通孔を有する型板またはダイスを用いた押出成形により、複数のフックの原形をなす複数の柱状体が表面に並んだシート材を形成する。次に、各柱状体の先端部を加熱して、例えば、円板状に潰すことで傘部32bを有する各フック32を形成し、フック材30を得る。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等のポリアミド、ポリ(スチレン−アクリロニトリル)、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)、可塑化塩化ビニル、ポリエステル等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の1種のみを用いてもよいし、2種以上の熱可塑性樹脂を混合したポリマーブレンドを用いてもよい。また、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマーを用いてもよい。
図3に示すフック材30の厚さ及び高さは、得られる固定部材におけるずれに対する安定性、被固定部材の動きに対する追従性の観点から、例えば以下のように設定することができる。
ベース31の厚さtの下限は20μm、30μm、または35μmでもよく、その厚さtの上限は80μm、70μm、または60μmでもよい。
フック32の高さhの下限は40μm、60μm、または80μmでもよく、その高さhの上限は300μm、280μm、または260μmでもよい。
茎部32aの底の最大幅wa及び茎部32aの先端の幅wcについては、所望の係合力が得られるのであれば、その幅に、特に制限はない。図3に示すような茸状のフック材を例にとると、茎部32aの底の最大幅waの下限は70μmまたは100μmであってもよく、その最大幅waの上限は250μm、200μm、または190μmであってもよい。茎部32aの先端の幅wcの下限は50μmまたは80μmであってもよく、その幅wcの上限は200μm、195μm、または185μmであってもよい。
また、傘部32bの最大幅wbについても、係合力の観点から、適宜その幅について定めることができる。図3に示されるように、傘部32bの最大幅wbは茎部32aの底の幅waよりも大きいことが好ましく、傘部32bの最大幅wbと茎部32aの底の幅waとの比の上限は1.01:1、2:1、または3:1であってもよい。その最大幅wbの下限は70μmまたは100μmであってもよく、最大幅wbの上限は350μmまたは340μmであってもよい。茎部32aの先端からの傘部32bの張出し量pの下限は5μmでも10μmでもよく、その張出し量pの上限は90μm、85μm、80μm、または75μmであってもよい。
上記のベース31の厚さ及びフック32の高さに基づくと、フック材30全体の厚さの下限は60μm、90μm、または115μmでもよく、その厚さの上限は380μm、350μm、または320μmでもよい。このフック材30全体の厚さは、そのフック材30が取り付けられる基材21の柔軟性を考慮して設定される。本明細書では、上記のような厚さの条件を満たすフック材を「薄型フック(low-profile hook)材」ともいう。
上記実施形態では固定部材がフック材を備えていたが、ループ材を備える固定部材にも適用できる。この場合には、ベース上に形成されるループ体(係合部)の高さを上記実施形態におけるフック32と同様に定めることができる。
また、ある態様においては、例えば、基材21の厚さに対する面ファスナー30の厚さの比(基材厚さ/面ファスナー厚さ)の下限を0.12、0.225、または0.383とすることができ、その比の上限を7.6、5、または3.2とすることができる。
図4〜17に示すように、基材21に設けられるフック材30には溝または貫通部が形成されている。図4〜12は、複数のスリット状の溝または貫通部が形成されているフック材30の例を示している。一方、図13〜17はスリット状以外の形状の貫通部(開口部)が形成されたフック材30の例を示している。本明細書では、隣り合う溝または貫通部で挟まれた細長いフック材領域をストランドという場合がある。なお、図4以降では、図3に示すフック32を簡略化して表している。
ここで、本明細書における用語「溝」は、フック材30におけるフック32側のベース31表面に設けられており、フック32とは反対側のベース31表面に貫通していない状態を示す。本実施形態では、スリット状の溝33bを指すが、その用語が網羅する範囲はこれに限定されない。例えば、「溝」は、線状ではなく二次元(面)状に広がる凹みも含む概念である。
また、本明細書における用語「貫通部」は、フック材30に設けられた孔・開口が、フック32側のベース31表面から、フック32とは反対側のベース31表面まで貫通している状態を示す。本実施形態では、スリット状の貫通部33a、及びスリット状以外の形状の貫通部(すなわち、開口部34)を指すが、その用語が網羅する範囲は限定されない。例えば、「貫通部」は、フック材30に設けられた点状の孔、直線以外の波型、山形、凹凸型の貫通したスリットも含む概念である。
図5(b)に示すように、スリット状の溝33bはフック材30の一方の面、すなわちフック32側のベース31表面にのみ形成され、フック32側の反対側の面までは到達しない。これに対して、図5(a)に示すようなスリット状の貫通部33a、図13〜17に示すような開口部34は、面ファスナーの一方の面から他方の面にかけて開口が形成される。また、図5(c)、図12(c)、図14に示すように、フック材30において、溝と貫通部の両方が存在していてもよい。
溝及び貫通部33は、従来から用いられている任意の手法により形成することができる。例えば、スリット状の溝33bや貫通部33aは、刃やレーザ切断などにより、それぞれ、フック32側のベース31表面からベース31の一定の厚さまで、及びフック32側のベース31表面からフック32側の反対側の面に亘って形成される。一方、貫通部の他の例である開口部34は、例えば、スリット状の貫通部33aが形成されたフック材30をスリット列と直交する方向に広げることで形成することができる。また、開口部34は、フック材30を所望の形にくり抜くことで、フック材30を広げることなく形成してもよい。なお、スリット状の貫通部33aを形成し、基材21に貼り付けた後に、基材21と一緒にスリット状の貫通部33aを拡げることで、開口部34を形成してもよい。また、基材21にフック材30を貼り付けた後に、基材21及びフック材30を貫くスリット状の貫通部を形成し、基材21とフック材30とを一緒に拡げることで、開口部34を形成してもよい。この場合には、基材21の空隙部と面ファスナー30の貫通部33(開口部34)とが重なった固定部材20が得られる。フック材30を広げる手段としては、幅出し機(tenter)やローラーなどの機械や、手作業などが挙げられる。開口部を形成する際のフック材30の伸張率は限定されず、その上限は例えば50%、100%、150%、200%、300%、400%または600%であってもよい。ここで、伸長率は、フック材30における、貫通部を拡げることで開口部を形成する方向(図19における伸長方向)の元々の長さ(初期長さ)に対して、どの程度伸長させたか、を示したものである。すなわち、伸長率50%とは、フック材30の長さが初期長さに対して1.5倍になっていることを、伸長率100%とは、フック材30の長さが初期長さに対して2倍になっていることを、伸長率200%とは、フック材30の長さが初期長さに対して3倍になっていることを、それぞれ表わしている。
全体の厚さが上記のように設定された薄型面ファスナー30を用いれば、面ファスナー30の剛性が小さくなり、面ファスナー自体が柔軟に変形するようになる。そして、かかる薄型面ファスナー30に溝または貫通部33を形成することによって、薄型面ファスナー30の剛性を下げることができるので、面ファスナー自体が柔軟に変形するようになる。したがって、柔軟性を有する基材21にその面ファスナー30を取り付けたとしても、固定部材全体として柔軟性を維持することができる。その結果、固定部材全体が柔軟性を有することになり、その固定部材が被固定部材の動きなどに追従できるようになるので、固定部材を被固定部材に適用した後、面ファスナー30が被固定部材から剥がれにくくなる。また、薄型面ファスナー30は柔らかいので、ごわつかず、固定部材を吸収性物品、衣類等の被固定部材に取り付けた場合、着用者の肌に与える刺激を低減させることができる。よって、上記した固定部材を使用することで、吸収性物品の使い勝手をより高めることが可能になる。
図4の例では、スリット状の溝または貫通部列Rs(以下、スリット列Rsという場合もある)は、フック材30の幅方向Wに沿った各フック列Rhの間に、隣り合うスリット列Rsで各フック列Rhを挟み込むように形成されている。したがって、この例では、フック列Rhから構成されるストランド35の幅方向(フック材30における巻き付け方向L)におけるフック32の個数は1であり、言い換えれば、各ストランド35の幅はフック32の1個分(正確には、フック32の1個分及びフック32から続く一定長さのベース31部分)に相当する。各スリット列Rsにおいて複数のスリット状の溝または貫通部33が、一定の間隔をおいて形成されており、図4〜10、図13〜17における実施形態では、その間隔に相当する領域(ベース31がそのままの状態で残っている領域)を中継部36という。図4の例では、中継部36が千鳥状に並んでいる。
図5に示すように、スリット状の溝または貫通部33に関し、図5(a)の例ではすべてのスリットがベース31を貫通しており、スリット状の貫通部33aが形成されている。また、図5(b)の例ではすべてのスリットが溝であり、フック32が存在するベース31表面から一定深さを有する、スリット状の溝33bが形成されている。更に、図5(c)の例のように、ベース31を貫通したスリット状の貫通部33aと溝状のスリット状の溝33bとが交互に配されていてもよい。スリット33が溝である場合には、ベース31の厚さに対するスリット33の深さの比の下限は0.4でもよく、その比の上限は0.9でもよい。
ストランド35の幅は限定されない。例えば、図6に示すようにストランド35の幅がフック32の2個分であってもよいし、3個以上のフック32に相当してもよい。ストランド35の最大幅はフック32の10個分であってもよい。
フック材30に設けられるスリット列Rsの間隔も限定されない。例えば、スリット列Rsと直交する方向において、1cm当たりのスリット列Rsの個数の下限は1でもよく、その個数の上限は10でもよい。
スリット状の溝または貫通部33が延びる方向も限定されない。例えば、図7に示すように各スリット列Rsが巻付け方向Lに沿って延びていてもよい。あるいは、各スリット列Rsは巻付け方向Lまたは幅方向Wに対して任意の角度θ(0°<θ<90°)で傾斜していてもよい。
ストランド35の幅は不均一でもよい。例えば図8に示すように、基材21の先端に向かってストランド35の幅が次第に狭くなっていくようにスリット33を形成してもよい。あるいは図9に示すように、一つのフック列Rhのみを含むストランド35と、二つのフック列Rhを含むストランド35とが混在していてもよい。
中継部36の配置は、図4に示すような千鳥状に限定されない。例えば図10に示すように、隣り合う任意の中継部36が、スリット列Rsと直交する方向(図10では巻付け方向L)に沿って並んでいてもよい。
図11に示すように、一本のスリット状の溝または貫通部33がフック材30の一辺からその対辺にかけて途切れることなく延びていてもよい。この場合には中継部36はフック材30上に存在しないことになる。この場合、スリット列Rsの態様としては、図12(a)に示すように、すべてのスリットがベース31を貫通しており、スリット状の貫通部33aが形成されていてもよいし、図12(b)のように、すべてのスリットが溝であり、フック32が存在するベース31表面から一定深さを有する、スリット状の溝33bが形成されていてもよい。更に、図12(c)の例のように、ベース31を貫通したスリット状の貫通部33aと溝状のスリット状の溝33bとが交互に配されていてもよい。スリット33が溝である場合には、ベース31の厚さに対するスリット33の深さの比の下限は0.4でもよく、その比の上限は0.9でもよい。
スリット状の溝または貫通部33の長さは任意に設定してよい。例えば、各スリット状の溝または貫通部33の長さの下限は8mm、10mmまたは12mmであってもよい。あるいは、スリット列Rsに沿ったフック材30の長さに対する、該スリット列Rs内のスリット状の溝または貫通部33の長さの合計の比(スリット状の溝または貫通部長さの合計/スリット列Rsの長さ)で、スリット状の溝または貫通部33を規定することができる。例えば、その比は40%以上または50%以上とすることができる。
中継部36の長さも任意に設定してよい。例えば、中継部36の長さの下限は0.25mm、0.5mm、または0.75mmでもよく、その長さの上限は10mm、15mm、または20mmでもよい。
図13は、開口部34が設けられたフック材30を示している。図13に示す開口部34は、フック材30の幅方向Wに沿って延びるスリットを巻付け方向Lに広げることで形成されたものである。この例では、各ストランド35の幅はフック32の1個分に相当し、開口部34及び中継部36はそれぞれ千鳥状に並んでいる。
図13の例では開口部34が略菱形であるが、開口部の形状はこれに限定されない。例えば、開口部は六角形であってもよく、そのような開口部が千鳥状に並んだ場合にはフック材30はハニカム構造であるといえる。あるいは、開口部は円形、楕円形、矩形、星形、波形、あるいは他の多角形であってもよい。
図14に示すように、複数のスリットの一部のみを広げることで、開口部34及びスリット状の溝または貫通部33の双方が存在するフック材30を用意してもよい。この例では開口部34がフック材30の中央部に設けられ、スリット状の溝または貫通部33が両端付近に設けられているが、スリット状の溝または貫通部33及び開口部34の位置はこれに限定されない。例えば、スリット状の溝または貫通部33が中央部に設けられ、開口部34が両端付近に設けられてもよい。
図15に示す開口部34は、フック材30の巻付け方向Lに沿って延びるスリットを広げることで形成されたものである。このように、開口部の基となるスリット状の貫通部33の延びる方向は限定されない。
貫通部として開口部34を採用した場合でも、スリット状の溝または貫通部33の場合と同様に、ストランド35の幅は限定されない。例えば、各ストランド35の幅は2個分のフック32に相当するものであってもよいし、その幅の最大値は10個分のフック32に相当するものであってもよい。ストランド35の幅は均一でなくてもよく、例えば図16のように、基材21の先端に向かってストランド35の幅が次第に狭くなっていくように開口部34を形成してもよい。
開口部34の大きさは均一である必要なく、例えば図17や上記図16に示すように開口部34の大きさが不均一であってもよい。また、図17の例のように開口部34の形状が様々であってもよい。
開口部34が形成されたフック材30に関しても、中継部36は千鳥状に配されていなくてもよい。例えば、図10の例と同様に中継部36が格子状に並んでいてもよい。
上記したスリット状の溝または貫通部33の向き及び長さ、開口部34の向き、形状及び大きさ、並びに中継部36の位置は、固定部材20における面ファスナー30自体が柔軟に変形できるよう、設定される。したがって、固定部材全体としての柔軟性、固定部材の被固定部材に対する追従性、及び固定部材を吸収性物品や衣類に使用した場合における肌への刺激の低減などの効果は、これらの様々な変形例においても同様に維持される。
基材21に対する面ファスナー30の設置範囲は、得られる固定部材におけるずれに対する安定性、被固定部材の動きに対する追従性の観点から、固定部材20の幅方向Wの長さ、及び/または基材21の面積に対する面ファスナー30の総面積の比に基づいて設定することができる。
一例として図18を参照し、固定部材20の幅方向Wに沿った長さに関していうと、基材21に設けられる面ファスナー30は、基材21の幅方向Wにおける上端辺(幅方向Wにおける一方の辺)と、かかる上端辺に最も近い位置に存在する面ファスナー端部との間の距離W1を0〜4cmの範囲とすることができ、ある態様においては、0mm、2mm、5mm、1cm、2cmまたは4cmとすることができる。W1は小さい方が好ましく、W1を0mmとすることがより好ましい。また、基材21に設けられる面ファスナー30は、基材21の幅方向Wにおける下端辺(幅方向Wにおける他方の辺)と、かかる下端辺に最も近い位置に存在する面ファスナー端部との間の距離W2も0〜4cmの範囲とすることができ、ある態様においては、0mm、2mm、5mm、1cm、2cmまたは4cmとすることができる。W2についても小さい方が好ましい。
基材21の面積に対する面ファスナー30の総面積の比(面ファスナー30の総面積/基材21の面積)は、1%以上、3%以上、8%以上とすることができ、また100%以下、90%以下、80%以下とすることができる。ここで、基材21の面積とは、基材21の全体のうち、背側端部10bと重なっている領域を除いた残りの領域の面積である。ある態様においては、基材21の面積に対する面ファスナー30の総面積の比を10%以上、70%以下とすることが好ましい。ここで、面ファスナー30の総面積とは、面ファスナー30におけるベース31の面積と開口部34の面積との和を意味し、複数の面ファスナー30が間隔をあけて設置されている場合、その間隔の面積は含まない。基材21の全面に面ファスナー30が設置されていても良い。
基材21の幅方向Wの長さを、その巻付け方向Lの長さと同程度、またはそれよりも長くした上で、面ファスナー30の設置範囲を上記の比に基づいて規定すれば、面ファスナー30の幅が広くなる。その結果、固定部材及び被固定部材間に生じるずれに対する安定性を損なうことなく、より確実に被固定部材の動きに追従し得る固定部材を提供することができると共に、基材21が幅方向Wに沿って折れにくくなる。また、複数の面ファスナー30を間隔をあけて基材21に設置しても良い。
このように、面ファスナー30の設置領域を基材21上に十分確保したとしても、この面ファスナー30は薄型面ファスナーであって上記特定の厚さを有しており、柔軟性があるので、基材21の柔軟性が必要以上に妨げられない。したがって、固定部材及び被固定部材間に生じるずれに対する安定性を確保するため、面ファスナー30の領域を広く確保しても、固定部材は被固定部材の動きなどに追従し、面ファスナー30は被固着部材から剥がれにくくなる。また、固定部材を吸収性物品や衣類等に使用した適用には、着用者の肌に与える刺激が抑えられるので、基材21の両端(基材21におけるW方向の両端)まで面ファスナー30を貼り付けたとしても、着用者に痛みや不快感などを与えるおそれがない。このように、薄型面ファスナーを用いれば、その固定部材20における面ファスナー30領域を増やしたとしても、おむつ等の吸収性物品や衣類における使い勝手を良好に維持することができる。
開口部34が形成された面ファスナー30を接着剤または粘着剤により基材21に貼り付けた際には、その接着剤または粘着剤が開口部34から露出していてもよい。
面ファスナーがフック材である場合、基材21に取り付けられる、溝または貫通部が形成されたフック材におけるフック32の密度について説明する。かかるフック密度は、「フック材におけるフック総本数/フック材におけるベース31及び開口部34の総面積」から求められる。なお、複数のフック材30を基材21に間隔をあけて設置した場合には、複数のフック材30間に存在する隙間面積は前記総面積に含めない。基材21上におけるフック32の密度の下限は、例えば約31個/cm2、約39個/cm2とすることができる。また、その密度の上限は、例えば約1550個/cm2、約1240個/cm2であってもよい。例えば、その密度は約465個/cm2でもよい。
スリット状の貫通部33が形成されたフック材30を広げることで開口部34を形成し、その形成された開口部34の形状を維持したままフック材30を基材21に取り付ける場合において、広げる前のフック材30におけるフック32の初期密度を以下のように設定してもよい。すなわち、その初期密度の下限は例えば155個/cm2、186個/cm2、または248個/cm2であってもよく、その初期密度の上限は例えば1550個/cm2でもよい。なお、フック32の初期密度は、「フック材におけるフック総本数/拡げる前のフック材におけるベース31の総面積」から求められる。なお、複数のフック材30を基材21に間隔をあけて設置した場合には、そのフック材30のそれぞれを上記初期密度の範囲とすることができる。
また、フック材30が基材21に取り付けられた際の、フック材30全体の面積に対する傘部32b表面の面積の合計値の割合(傘部の相対密度)の下限は、例えば5%でも10%でもよい。その割合の上限は例えば24%、30%、または40%でもよい。なお、複数のフック材30を基材21に設置した場合には、そのフック材30のそれぞれを上記割合の範囲とすることができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、面ファスナー30に溝または貫通部33が設けられると共に、その面ファスナー30は上記の通り特定の厚みを有している薄型面ファスナーであるので、面ファスナー30の剛性が小さくなり、固定部材を被固定部材に適用した際、面ファスナーが被固定部材の曲げやねじりなどに応じて柔軟に変形するようになる。したがって、固定部材及び被固定部材間に生じるずれに対する安定性を高めるために、フック材30における巻付け方向L及び幅方向W双方の寸法を基材21に対して十分な長さに確保したとしても、その固定部材が被固定部材の動きなどに追従できるようになるので、固定部材を被固定部材に適用した後、面ファスナー30が被固定部材から剥がれにくくなる。また、薄型面ファスナー30は柔らかいので、ごわつかず、固定部材を吸収性物品や衣類等の被固定部材に取り付けた場合、着用者の肌に与える刺激を低減させることができる。
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。
フック材として、フックの初期密度が1平方インチ(6.4516平方センチ)当たり約2000個(約310個/cm2)であるフック材をポリプロピレンで作製し、このフック材から実施例1−1〜1−7に用いられるフック材と、比較例1−1に用いられるフック材とをそれぞれ作製した。このフック材は、ベースの厚さが約50μmでありフックの高さが約210μmである薄型(low−profile)フックである。実施例1−1〜1−7においては、ファスナー面を貫通するスリット状の貫通部をカッターで形成した。スリット状の貫通部及び中継部の長さはそれぞれ19mm及び2mmに統一した。ストランド幅はすべて、フック2個分に相当する約1.25mmとした。
基材として、厚みが約150〜200μm(最大で約200μm)であるスパンボンド不織布(ユニチカ社のELEVES(登録商標) S0303WDO M6K。30gsm)を用いた。上記実施例及び比較例のフック材の裏面をそれぞれホット・メタル・プレートでアニール加工し、その裏面をスプレー式接着剤(スリーエム社製)により基材と貼り付けることで、固定部材を得た。固定部材の形状は矩形とし、その幅及び長さはそれぞれ25mm、100mmに統一した。なお、幅はスリット列の方向に沿った寸法であり、長さはスリット列に直交する方向に沿った寸法である。
なお、比較例1−1では、スリット状の貫通部を設けることなく、用意したフック材をそのまま基材に固定した。また、実施例1−1では、スリット状の貫通部を広げることなくフック材をそのまま基材に固定した。実施例1−2〜1−7では、図19に示すように、スリット列と直交する方向(図19における伸長方向)にフック材を所定の割合だけ広げて開口部を設け、その開口部を維持したままフック材を基材に固定した。実施例1−2〜1−7におけるフック材の伸張率はそれぞれ、5%、10%、50%、80%、140%、及び180%とした。言い換えれば、実施例1−2〜1−7におけるフック材を基材に固定する際には、フック材の長さをそれぞれ、1.05倍、1.1倍、1.5倍、1.8倍、2.4倍、及び2.8倍に伸ばした。基材に固定されたフック材のいくつかの写真を図20に示す。
このように用意した固定部材それぞれのループ・スティフネスを東洋精機製作所製のループ・スティフネス・テスタにより測定した。この測定では、固定部材により形成されるループの内側にフック材が位置するように、固定部材の伸張方向(スリットの方向と直交する方向)に沿って固定部材を曲げることでループを作った。ループの周長は70mmに統一した。測定結果を図20(表)及び図21(ボックスプロット(boxplot))に示す。これらの図は、フック材にスリット状の貫通部を設けることで固定部材の剛性が大幅に下がることを示している。
さらに、用意した固定部材のうちのいくつかについて、剥離に要する力(剥離力)を測定した。この測定では、基材として、上記スパンボンド不織布(ユニチカ社のELEVES(登録商標) S0303WDO M6K。30gsm)の代わりに、スリーエム社製のテープ(#373)を用いた。開口部を有する実施例については、その開口部に露出する接着剤を除去した。この測定では、固定部材の形状を、幅及び長さをそれぞれ25mm、20mmである矩形状とした。このようにして作製された固定部材サンプルのフック材と係合する部材としてスパンボンド不織布(17gsm)を用いた。
フック材を介して固定部材とそのスパンボンド不織布とを貼り付け、係合させた後に、1kgのせん断荷重を与え、その後、固定部材の長さ方向且つ不織布の面と直交する方向(不織布表面に対して垂直方向)に沿って固定部材を剥離(90度剥離)する時の剥離力を測定した。測定結果を図20(表)及び図22(ボックスプロット)に示す。なお、これらの図に示す剥離力はフック材部分の積分平均である。これらの図は、用意した固定部材については、開口部を一定のレベルまで広げても固定部材の剥離力(接合力)を所望のレベル以上に維持できたことを示している。
なお、図20、22における剥離テストの結果はあくまでも一例であり、固定部材の具体的な構成を変えることで、180%を超える伸張率においても固定部材の接合力を所望のレベル(具体的な数値は本実施例に限定されない)以上に維持し得る。
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
上記実施形態では固定部材を吸収性物品の一例であるおむつに適用したが、固定部材を他の物品(被固定部材)に適用できる。例えば、生理用ナプキンなどの生理用品、衛生用品などに固定部材を適用することも可能であり、また、包帯等に適用してもよい。なお、固定部材そのものを包帯として使用することも可能である。更に、複数のケーブル等を束ね、整えるための結束バンド、複数の物品同士の仮固定用部材等の用途においても使用可能である。
本発明は以下の態様を包含する。
(項目1)
柔軟性を有する基材と、
前記基材上に設けられた面ファスナーと
を備え、
前記面ファスナーには溝または貫通部が形成されており、
前記面ファスナーの厚さが60〜380μmである、
固定部材。
(項目2)
前記面ファスナーのベースの厚さが20〜80μmである、
項目1に記載の固定部材。
(項目3)
前記面ファスナーのフックの高さが40〜300μmである、
項目1または2に記載の固定部材。
(項目4)
前記面ファスナーにスリット状の溝が形成されている、
項目1〜3のいずれかに記載の固定部材。
(項目5)
前記面ファスナーにスリット状の貫通部または開口部が形成されている、
項目1〜4のいずれかに記載の固定部材。
(項目6)
項目1〜5のいずれかに記載の固定部材を備える吸収性物品。