以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態による車両用冷暖房システム100の構成について説明する。
本実施形態による車両用冷暖房システム100は、図1に示すように、エンジン91を備えた乗用車、バスおよびトラックなどの車両90の車内空間95の空調(冷房および暖房)に適用される。具体的には、車両用冷暖房システム100は、圧縮式冷凍機10(二点鎖線枠内)と単一の吸収式ヒートポンプ装置20(二点鎖線枠内)とを備えている。また、圧縮式冷凍機10および吸収式ヒートポンプ装置20は、各々が車両90に搭載可能であるように後述する配管類および機器配置のレイアウトが構成されている。
まず、圧縮式冷凍機10について説明する。圧縮式冷凍機10には、冷媒としてR134aが用いられている。また、圧縮式冷凍機10は、圧縮機11と、凝縮器12と、受液器13と、膨張弁14と、蒸発器15と、これらを順次接続する吐出管16a〜吸入管16dからなる冷媒配管とを備えている。なお、圧縮式冷凍機10における冷媒(R134a)は、本発明の「圧縮式用冷媒」の一例である。
圧縮機11は、吸入された冷媒(R134a)を圧縮して吐出管16aに吐出する役割を有する。また、圧縮機11には、可変容量型の圧縮機が用いられている。すなわち、圧縮機11は、エンジン91の駆動力が伝達される際、圧縮機11内部の冷媒を圧縮するピストンのストロークが機械的に調整されることにより吐出容量が制御される。
空気熱交換器からなる凝縮器12は、内部を流通する高温高圧(絶対圧力で約1100kPa以上)のガス冷媒を冷却用ファン61により強制的に吸い込まれた外気または車両90の走行風を用いて冷却(液化)する機能を有する。なお、冷却用ファン61は電動式であり、詳細については後述する。また、凝縮器12内で凝縮(液化)された冷媒は、受液器13に一時的に貯留されて冷媒量が調整される。そして、液冷媒は、液管16bを矢印A方向に流通して膨張弁14に流入される。
膨張弁14は、凝縮器12で冷却(液化)され受液器13に貯留された液冷媒を絞り膨張させて蒸発器15に供給する役割を有する。また、空気熱交換器からなる蒸発器15は、膨張弁14から接続配管16cを介して供給された冷媒を気液二相状態で蒸発させる機能を有する。すなわち、ブロアファン62により車内空間95から還流され蒸発器15の外表面を通過する空気から熱が奪われるとともに、蒸発器15内を流通する気液二相冷媒は蒸発潜熱(気化熱)を得る。また、蒸発器15で冷却された冷気は、ブロアファン62により車内空間95に吹き出される。蒸発後の冷媒(低温低圧のガス冷媒)は、吸入管16dに流通されて圧縮機11の吸入部に戻される。
次に、吸収式ヒートポンプ装置20について説明する。吸収式ヒートポンプ装置20には、冷媒として水が用いられるとともに、吸収液として臭化リチウム(LiBr)水溶液が用いられる。また、吸収式ヒートポンプ装置20は、図1に示すように、加熱部21および気液分離部22を含む再生器23(二点鎖線枠内)と、凝縮器24と、蒸発器25と、吸収器26と、液−液熱交換器27と、これらを接続する経路28a〜28gとを備えている。なお、凝縮器24および蒸発器25は、それぞれ、本発明の「吸収式用凝縮器」および「吸収式用蒸発器」の一例である。また、吸収式ヒートポンプ装置20における冷媒としての水は、本発明の「吸収式用冷媒」の一例である。なお、臭化リチウム(LiBr)水溶液は、本発明の「吸収液」の一例である。
加熱部21は、プレート式熱交換器であり、冷媒(水)がLiBr水溶液(濃液)に吸収されて希釈された吸収液(希液)を加熱する役割を有する。より具体的には、加熱部21において、車両90のエンジン91に接続された排気ガス管92を流通する高温(約300℃〜約400℃)の排気ガスと、経路28aを流通(循環)する吸収液(希液)とが熱交換されるように構成されている。また、気液分離部22は、加熱部21により加熱された吸収液から、冷媒蒸気(高温水蒸気)を分離する機能を有する。したがって、気液分離部22には冷媒蒸気が分離された後の吸収液(濃液)が貯留される。なお、エンジン91の排気ガスの排熱は、本発明の「車両の排熱」の一例である。また、冷媒蒸気(高温水蒸気)は、本発明の「吸収式用冷媒蒸気」の一例である。
凝縮器24は、気液分離部22で分離され経路28bを介して供給された冷媒蒸気を凝縮して液化させる役割を有する。この場合、凝縮器24は、容器内部に熱交換部24aが設けられており、高温水蒸気が熱交換部24aの外表面に直接的に晒される。また、熱交換部24aの内部には冷却水35が流通される。これにより、冷媒蒸気は冷却水35により冷やされて凝縮水(冷媒)になる一方、冷却水35は凝縮熱を得て温められる。また、凝縮器24には、凝縮水が所定量貯留されるように構成されている。
蒸発器25は、経路28cを介して供給された凝縮水(冷媒)を低温低圧(絶対圧力で約1kPa以下の真空状態)の条件下で蒸発(気化)させる役割を有する。この場合、蒸発器25は、容器内部に熱交換部25aが設けられており、凝縮水(冷媒)が熱交換部25aの外表面に直接的に晒される。また、熱交換部25aの内部には冷却水45が流通される。これにより、冷媒(凝縮水)は蒸発潜熱を得ながら蒸発して冷媒蒸気(低温水蒸気)になる一方、冷却水45は、熱を奪われて冷やされる。なお、冷却水45は水であってもよいしクーラント(不凍液)であってもよい。
吸収器26は、気液分離部22に貯留され経路28dを介して供給された吸収液(濃液)に、蒸発器25で蒸発(気化)するとともに経路28eを介して吸引された冷媒蒸気(低温水蒸気)を吸収させる役割を有する。この場合、吸収器26は、容器内部に熱交換部26aが設けられており、吸収液(濃液)および低温水蒸気が熱交換部26aの外表面に直接的に晒された状態で、吸収液(濃液)に冷媒(低温水蒸気)が吸収される。また、熱交換部26aの内部には冷却水35が流通される。これにより、冷媒(低温水蒸気)が吸収された吸収液(希液)は、冷却水35により冷やされる一方、冷却水35は、吸収熱を得て温められる。また、吸収器26には、吸収液(希液)が貯留される。
なお、経路28dには、気液分離部22に貯留された濃液を吸引して吸収器26に供給する送液ポンプ29aが設けられている。また、経路28fには、吸収器26に貯留された希液を吸引して加熱部21(経路28a)に供給する送液ポンプ29bが設けられている。また、気液分離部22と送液ポンプ29aとの間には、気液分離部22に貯留された吸収液が吸収器26に流入するのを遮断する弁3aが設けられている。また、経路28fには、吸収器26に貯留された吸収液(希液)が経路28aに流入するのを遮断する弁3bが設けられている。なお、弁3aおよび弁3bは、電磁開閉弁である。
液−液熱交換器27は、経路28dを流通する吸収液(濃液)と、経路28fを流通する吸収液(希液)との熱交換を行う役割を有する。液−液熱交換器27は、プレート式熱交換器であり、液−液熱交換器27においては気液分離部22から吸収器26に向かって流れる濃液の熱が吸収器26から経路28aに向かって流れる希液に付与される。これにより、気液分離部22から吸収器26へ流れる濃液の温度は低下されるとともに、吸収器26から経路28aへ流れる希液の温度は上昇される。また、気液分離部22を出た直後の経路28dと、液−液熱交換器27を出た直後の経路28fとを接続する経路28gが設けられている。そして、経路28gには、気液分離部22に貯留された吸収液(濃液)を吸引して経路28aおよび28g内を循環させる送液ポンプ29cが設けられている。
ここで、経路28aおよび28gによって、加熱部21と気液分離部22との間を吸収液が矢印P1方向に循環することが可能な「第1循環経路」が構成されている。また、経路28a、28dおよび28fによって加熱部21と気液分離部22と吸収器26との間を吸収液が矢印P2方向に循環するとともに、経路28a、28b、28c、28eおよび28fによって加熱部21と気液分離部22と凝縮器24と蒸発器25と吸収器26との間を冷媒(水)が循環することが可能な「第2循環経路」が構成されている。そして、吸収式ヒートポンプ装置20では、第1循環経路と第2循環経路とが切り替え可能に構成されている。ここで、第2循環経路は、吸収式ヒートポンプ装置20が通常の冷房モード(図3参照)で運転される際の吸収式冷媒循環経路である。なお、上記した第1循環経路と第2循環経路との切り替え動作の詳細については、図2および図3を参照しながら後述する。なお、経路28a〜28fは、本発明の「吸収式冷媒循環経路」の一例である。
また、吸収式ヒートポンプ装置20は、図1に示すように、冷却水35が矢印B方向に循環される冷却水冷却装置30を備えている。また、冷却水冷却装置30は、冷却水35が流通する循環経路31と、循環経路31内に設けられた冷却水35を循環させるための送水ポンプ32と、凝縮器24および吸収器26で温められた冷却水35を冷却するための冷却器33とを含む。すなわち、冷却水冷却装置30は、凝縮器24内における冷媒蒸気(高温水蒸気)の冷却(液化)と、吸収器26における冷媒(低温水蒸気)の吸収液(LiBr濃液)への吸収時に発生する吸収熱の冷却(除熱)とを、冷却器33における空気(外気)との熱交換により行う機能を有する。なお、冷却水35は水であってもよいしクーラントであってもよい。
また、車両90には、エンジン冷却水(クーラント)55が循環されるエンジン冷却装置50が設けられている。エンジン冷却装置50は、ラジエターコア51と、サーモスタット52と、送水ポンプ53と、ヒータコア54とを主に備えている。また、各構成要素が水配管により順次接続されることにより、エンジン冷却装置50には、エンジン冷却水55が矢印C1方向に循環される循環経路56と、エンジン冷却水55が矢印C2方向に循環される循環経路57とが形成されている。なお、循環経路57は、本発明の「エンジン冷却水通路」の一例である。
ラジエターコア51は、エンジン91におけるウォータジャケット93(破線で示す)内を循環して高温になったエンジン冷却水55を、車両90の前方側から取り込まれた外気により強制的に冷やす役割を有する。また、サーモスタット52は、エンジン冷却水55の温度を制御する役割を有する。すなわち、エンジン91の暖機運転が十分でない時にはラジエターコア51への循環経路56を閉じてエンジン91の暖機運転に伴いエンジン冷却水55を迅速に昇温するとともに、エンジン冷却水55の昇温後は、ラジエターコア51へ流通させる冷却水流量を制御してエンジン冷却水55を適切な温度範囲に保つ機能を有する。
ヒータコア54は、車内空間95を暖房する際に使用される。すなわち、車内空間95の暖房要求時には、循環経路57が開かれる。そして、エンジン91で温められたエンジン冷却水55がヒータコア54内部の伝熱管(コルゲートチューブ)を通る際に、ブロアファン62により車内空間95から還流された空気との熱交換が行われる。これにより、車内空間95に温風が吹き出される。また、熱交換後のエンジン冷却水55は、エンジン91に戻される。エンジン冷却装置50では、循環するエンジン冷却水55の温度によって、循環経路56と循環経路57とを流通されるエンジン冷却水55の冷却水流量の割合がサーモスタット52の動作によって調整されるように構成されている。
ここで、本実施形態では、圧縮式冷凍機10および吸収式ヒートポンプ装置20に加えて、エンジン冷却装置50も車両用冷暖房システム100の一部を構成している。
詳細に説明すると、車両用冷暖房システム100は、冷却水熱回収器58を備えている。冷却水熱回収器58は、循環経路57における経路57aと、吸収式ヒートポンプ装置20における経路28aとに跨るように配置されている。そして、冷却水熱回収器58は、経路57aと経路28aとの間で熱の受け渡しを行う機能を有している。また、経路57aにおける冷却水熱回収器58とヒータコア54との間には、三方弁5aが設けられている。そして、ヒータコア54をバイパスするようにバイパス経路57bが設けられている。バイパス経路57bは、一方端が三方弁5aに接続され、他方端がヒータコア54の下流における循環経路57との合流部分に接続されている。
これにより、本実施形態では、車両90の暖房時には、加熱部21と気液分離部22との間を循環する第1循環経路(経路28aおよび28g)に吸収式用冷媒を含む吸収液を循環させる動作が行われる。そして、車両90の排気ガスの排熱から回収した吸収式ヒートポンプ装置20の吸収液の熱を、冷却水熱回収器58を介してエンジン冷却水55に付与することにより、ヒータコア54に熱を付与するように構成されている。すなわち、車両用冷暖房システム100では、排気ガスの排熱を加熱部21を介して回収するとともに吸収液を加熱し、加熱された吸収液の熱を冷却水熱回収器58を介してエンジン冷却水55を加熱してヒータコア54に流通させるように構成されている。したがって、ヒータコア54から吹き出される温風は、ウォータジャケット93によりエンジン冷却水55が得たエンジン排熱に加えて、排気ガスの排熱も利用されるように構成されている。
一例を挙げると、約350℃の排気ガスが加熱部21に流通された際、吸収液は約100℃まで加熱される。そして、約100℃の吸収液が冷却水熱回収器58に流通されることによって、約85℃〜約90℃のエンジン冷却水55が得られる。なお、暖房時には、ラジエターコア51への循環経路56が閉じられて、エンジン冷却水55は、エンジン91と、冷却水熱回収器58と、ヒータコア54とを間を循環する循環経路57にのみ流通される。
また、本実施形態では、低外気温度の環境下でエンジン91が始動(冷間始動)された場合にも、吸収液を早期に昇温させることが可能に構成されている。すなわち、エンジン91の冷間始動時には、吸収式ヒートポンプ装置20の第1循環経路(経路28aおよび28g)にのみ吸収液を循環させる(弁3aおよび3bは閉弁される)とともに、凝縮器24に貯留された液化した冷媒(凝縮水)を気液分離部22の吸収液(濃液)に供給するように構成されている。具体的には、凝縮器24と気液分離部22とを直接的に接続する経路28hが設けられている。また、経路28hには、送液ポンプ29dおよび弁3cが設けられている。
これにより、冷間始動時には、弁3cが開かれるとともに送液ポンプ29dが駆動されることにより、凝縮器24に貯留された液化した冷媒(凝縮水)が気液分離部22の吸収液(濃液)に供給される。そして、気液分離部22において冷媒(凝縮水)が吸収液(濃液)に吸収されることにより吸収熱が発生し吸収液は温められる。この意味で、吸収式ヒートポンプ装置20は蓄熱機能を有している。車両用冷暖房システム100では、この吸収液中に発生した吸収熱を冷却水熱回収器58を介してエンジン冷却水55に付与するように構成されている。
したがって、冷間始動時などエンジン91からの排気ガスの排熱を十分に得ることができない場合においても、吸収式ヒートポンプ装置20の第1循環経路を循環する冷媒(水)を含む吸収液が吸収熱を利用して早期に昇温される。これにより、暖房要求時には、冷間始動直後であっても、吸収液中に発生させた吸収熱を適切に利用してヒータコア54からより短時間で温風を発生させることが可能とされている。
また、冷却水熱回収器58の熱回収機能は、冷房時にも利用される。具体的には、本実施形態では、車両90の冷房時には、三方弁5aがバイパス経路57bにエンジン冷却水55を流通させる状態に切り替えられて、循環経路57からヒータコア54が切り離される。そして、循環経路57の熱を冷却水熱回収器58を介して吸収式ヒートポンプ装置20に付与することにより、吸収式ヒートポンプ装置20の熱源にするように構成されている。すなわち、エンジン91を冷却することによって温められたエンジン冷却水55の熱(エンジン排熱)を、冷却水熱回収器58を介して経路28aを流通する吸収液(希液)に付与することにより、吸収液の加熱補助が行われるように構成されている。これにより、吸収式ヒートポンプ装置20では、排気ガス管92および加熱部21を流通する高温の排気ガスの排熱と、循環経路57(経路57a)および冷却水熱回収器58を流通するエンジン冷却水55の熱とが、吸収液(希液)を加熱するための熱源として利用される。
また、車両用冷暖房システム100では、冷房時に、吸収式ヒートポンプ装置20による冷熱により、圧縮式冷凍機10の冷媒(R134a)が過冷却されるように構成されている。具体的には、圧縮式冷凍機10は、過冷却器17をさらに備えている。
過冷却器17は、凝縮器12の下流に配置された受液器13と、蒸発器15の上流側に配置された膨張弁14との間の液管16bに配置されている。また、過冷却器17は、受液器13に貯留された液冷媒(R134a)が流通される冷媒通路部17a(液管16b)と、熱交換流体としての冷却水45が流通される冷却水通路部17bとが、互いに熱交換可能に構成されている。なお、冷却水45は水であってもよいしクーラントであってもよい。そして、吸収式ヒートポンプ装置20における蒸発器25の熱交換部25aと、過冷却器17の冷却水通路部17bとが、循環経路41により順次接続されて閉じた冷却水循環回路を構成している。また、循環経路41には、冷却水45を矢印R方向に循環させるための送水ポンプ42が設けられている。
そして、本実施形態では、車両90の冷房時には、吸収式ヒートポンプ装置20における加熱部21と気液分離部22と吸収器26との間に吸収液を循環させるとともに、加熱部21と気液分離部22と凝縮器24と蒸発器25と吸収器26との間に冷媒(水)を循環させる第2循環経路に切り替えられる。そして、第2循環経路に吸収式用冷媒を含む吸収液を循環させることにより、蒸発器25における冷媒(凝縮水)の蒸発潜熱を利用して冷却水45が冷やされる。さらに、過冷却器17と蒸発器25との間で冷却水45が矢印R方向に循環されることにより、吸収式ヒートポンプ装置20の蒸発器25において冷却された冷却水45と、圧縮式冷凍機10の過冷却器17を流通する液冷媒(R134a)との間で熱交換が行われる。また、これにより、液冷媒(R134a)が飽和液状態からさらに熱が奪われ温度が低下された過冷却状態になるように構成されている。
一例を挙げると、約15℃の冷却水45と約50℃の液冷媒(R134a)とが過冷却器17において熱交換された場合、液冷媒は、約20℃まで過冷却される。この場合、過冷却度(サブクール)は、約30K(ケルビン)になる。したがって、冷房時は、吸収式ヒートポンプ装置20の冷熱により過冷却された冷媒を用いて蒸発器15に所定の冷房能力が得られる分、圧縮機11の機械的入力量が低減されてエンジン負荷が低減される。また、圧縮機11への入力量が低減される分、凝縮器12における凝縮圧力(凝縮温度)はより低くなり、冷却用ファン61の運転時間が低減される方向に発停制御される。
なお、本実施形態では、蒸発器25においてつくられた冷却水45と、圧縮式冷凍機10の液冷媒(R134a)との間で熱交換を行うことにより、液冷媒(R134a)の過冷却を行う過冷却器17を設けている。これにより、過冷却器17を別途設けて液冷媒を過冷却することができるので、圧縮式冷凍機10および吸収式ヒートポンプ装置20を車両90に搭載する際のレイアウト上の制約が厳しい中でも搭載レイアウトの自由度が確保される。また、蒸発器25と過冷却器17との間に循環経路41を介在させることによって、内部が高圧になる冷媒通路部17a(液管16b)と内部が真空状態になる蒸発器25との間で直接的な熱交換を行わせる熱交換器を単体設計する場合と異なり、冷却水45の流れる冷却水通路部17bが熱交換に介在する過冷却器17および冷却水45の流れる熱交換部25aが熱交換に介在する蒸発器25を、各々の耐圧基準で設計すればよい。したがって、高圧の液冷媒(R134a)と真空状態で蒸発する冷媒(水)とを伝熱壁を介して直接的に熱交換させるために厳格な耐圧基準が要求される熱交換器を特別に設計することを必要とせずに車両用冷暖房システム100を構成することが可能になる。
また、図1に示すように、圧縮式冷凍機10の凝縮器12と吸収式ヒートポンプ装置20の冷却器33とが、車両90の前方側(図示しないフロントバンパーの内側)に左右に並べられて配置されている。また、凝縮器12および冷却器33の後方に近接する(重なる)ようにしてラジエターコア51が平行に配置されている。そして、ラジエターコア51の後方には、図示しないファンシュラウドを介して1台の冷却用ファン61が配置されている。これにより、凝縮器12を流通するガス冷媒(R134a)および冷却器33を流通する冷却水35は、共通の冷却用ファン61を用いて吸い込まれた外気との熱交換によって冷却されるように構成されている。
なお、凝縮器12、冷却器33およびラジエターコア51に外気を強制的に吸い込む冷却用ファン61は、種々の条件によって始動および停止が制御される。すなわち、車両90には制御部(図示せず)が搭載されており、制御部(ECU)によって圧縮式冷凍機10側の負荷(凝縮器12に要求される排熱量)、吸収式ヒートポンプ装置20側の負荷(冷却器33に要求される冷却量)、エンジン冷却装置50側の負荷(ラジエターコア51に要求される冷却量)および車両90の車速などに応じて冷却用ファン61の動作制御が行われるように構成されている。ここで、車両90では、エンジン91の駆動力を用いて図示しないオルタネータ(発電機)により発電された電力が、図示しないバッテリ(蓄電池)に蓄電される。そして、バッテリの蓄電電力またはオルタネータの発電電力を利用して冷却用ファン61が駆動されるように構成されている。
したがって、冷房時は、吸収式ヒートポンプ装置20の冷熱により冷媒を過冷却して凝縮器12の凝縮温度をより低く抑えることができる分、凝縮器12を通過して後方のラジエターコア51に吸い込まれる空気温度をより低く抑えることができる。これにより、ラジエターコア51を流通するエンジン冷却水55は、より低い空気温度との間で熱交換されるので、効果的に冷却される。また、車両90が走行中の場合には、走行風のみによって凝縮器12の冷媒を凝縮させるとともにエンジン冷却水55を冷やす時間的割合も増加される。したがって、冷却用ファン61の運転時間は低減される。すなわち、オルタネータ(図示せず)の発電電力を利用して冷却用ファン61を駆動する時間が削減される分、エンジン負荷は減らされる。また、エンジン91が低負荷状態であれば、エンジン冷却水55の温度上昇も抑制されてエンジン冷却水55の冷却負荷も下げられる。
上記のように、冷房時に液冷媒を過冷却して圧縮式冷凍機10を機能させることによって、同じ冷房負荷を得るための圧縮機11および冷却用ファン61の入力量を共に低減することができる。そして、冷却水45を得るための吸収式ヒートポンプ装置20の熱源に排気ガスの排熱が利用される。また、暖房時に排気ガスの排熱を吸収液に一旦回収し、加熱された吸収液の熱をエンジン冷却水55に受け渡してヒータコア54の熱源にすることによって、エンジン91の排熱(排気ガスの排熱およびエンジン冷却水55の熱)の効率的な利用が図られる。さらには、冷間始動時においても吸収式ヒートポンプ装置20の蓄熱(吸収熱)を一時的に利用して暖房の熱源が確保される。したがって、車両用冷暖房システム100が適用された車両90は、省エネルギー性に優れる。このようにして、車両用冷暖房システム100は構成されている。
[冷房時の動作]
次に、図2および図3を参照して、本発明の一実施形態による車両用冷暖房システム100を用いて車両90に対する冷房時の動作の詳細について説明する。
(エンジン駆動時)
まず、図2に示すように、エンジン91の駆動中においては、送水ポンプ53の駆動とともにエンジン冷却水55が循環経路56または循環経路57に流通されることにより、エンジン91が冷却されて一定の温度範囲に保たれる。車内空間95の暖房要求がない場合には、エンジン冷却水55は、循環経路56のみを流通されてラジエターコア51で冷却される。なお、冷却用ファン61は、車両90の走行状態に応じて回転される。したがって、走行中、エンジン負荷が小さい場合には、冷却用ファン61が回転されずに車両90が走行することによる走行風がラジエターコア51を通過してエンジン冷却水55が冷却される。なお、車内空間95に暖房要求が生じた場合には、エンジン冷却水55は、循環経路57にも流通され、ブロアファン62の回転とともにヒータコア54から車内空間95に向けて温風が供給される。なお、循環経路56と循環経路57との流量割合は、サーモスタット52により調整される。
そして、車内空間95に冷房要求が生じた場合、エンジン冷却水55は、循環経路56の流通に切り替えられる。また、三方弁5aがバイパス経路57bにエンジン冷却水55を流通させる状態に切り替えられることにより循環経路57からヒータコア54が切り離されて、エンジン冷却水55は、ヒータコア54には流通されなくなる。また、エンジン91の駆動力により圧縮機11が駆動されて圧縮式冷凍機10が冷却機能を発揮し始める。すなわち、走行風または冷却用ファン61により、凝縮器12において冷媒(R134a)は凝縮するとともに、蒸発器15において冷媒は蒸発する。そして、ブロアファン62の回転とともに蒸発器15から車内空間95に向けて冷風が供給される。
また、車両用冷暖房システム100では、圧縮式冷凍機10の始動とともに、吸収式ヒートポンプ装置20も始動される。また、エンジン91の駆動とともにエンジン91から排出される高温(約300℃〜約400℃)の排気ガスが、排気ガス管92を流通する。ここで、吸収式ヒートポンプ装置20は、以下の二段階の動作ステップを経ることによって、冷熱を発生させるための蒸発器25が実際に機能し始める。
まず、第1の運転動作として、図2に示すように、吸収式ヒートポンプ装置20の始動時には、弁3aおよび弁3bが閉じられるとともに送液ポンプ29cが始動されて気液分離部22に貯留された吸収液が経路28aおよび28g(第1循環経路)を循環するとともに、吸収液は、冷却水熱回収器58でエンジン冷却水55の熱を得て加熱(昇温)される。さらに、吸収液は、加熱部21で排気ガスの排熱を得て加熱(昇温)される。なお、吸収液が経路28aおよび28g(第1循環経路)を循環されるので吸収液は早期に昇温される。これにより、約100℃付近の温度を有する高温の冷媒蒸気が短時間で発生して気液分離部22に充満する。気液分離部22では、LiBr濃度が高められた吸収液(濃液)と冷媒蒸気(水蒸気)とが互いに分離される。高温の冷媒蒸気は、運転開始とともに経路28bを介して直ちに凝縮器24に供給され始める。
その後、経路28a内を循環する吸収液の温度が約100℃付近に達した際、第2の運転動作に切り替わる。具体的には、図3に示すように、吸収液が経路28aおよび28gのみの第1循環経路を循環されていたのが、経路28a、28b、28c、28d、28eおよび28f(第2循環経路)にも循環されるように状態が切り替えられる。すなわち、送液ポンプ29cの運転に加えて、弁3aおよび弁3bが開かれて送液ポンプ29aおよび29bが始動される。また、冷却水冷却装置30の送水ポンプ32も始動されて冷却水35が循環される。これにより、経路28aおよび28gのみを循環していた吸収液の一部(気液分離部22に貯留されたLiBr濃液)が、気液分離部22と吸収器26と加熱部21との間を循環される。また、気液分離部22で分離された冷媒蒸気は、凝縮器24における冷却水35との熱交換により液化されるとともに、液化(凝縮)された冷媒(凝縮水)は経路28cを介して蒸発器25に供給される。
蒸発器25では、冷媒(水)は低温低圧の条件下で蒸発(気化)して冷媒蒸気(低温水蒸気)になる。この際、冷媒の蒸発熱(気化熱)によって熱交換部25aを通過する冷却水45が冷却される。一方、低温の冷媒蒸気は、経路28eを通過して、蒸発器25よりも圧力の低い吸収器26へと差圧吸引される。
ここで、本実施形態では、送水ポンプ42が始動されることにより、循環経路41中を冷却水45が矢印R方向に循環される。そして、蒸発器25における熱交換部25aにおいて冷やされた冷却水45が過冷却器17の冷却水通路部17bを流通される際、圧縮式冷凍機10の受液器13から出た液冷媒(R134a)との熱交換が行われる。すなわち、熱交換部25aから過冷却器17に向かって流れる冷却水45の熱(冷熱)が、受液器13から膨張弁14に向かって流れる液冷媒(R134a)に付与される。これにより、熱交換部25aから過冷却器17に向かって流れる冷却水45の温度は上昇されるとともに、受液器13から膨張弁14に向かって流れるR134a冷媒の温度は低下されて過冷却度(サブクール)が確保される。
また、液−液熱交換器27においては、気液分離部22から吸収器26に向かって経路28dを流れる吸収液(LiBr濃液)の熱が、吸収器26から経路28aに向かって経路28fを流れる吸収液(希液)に付与される。これにより、気液分離部22からの吸収液(濃液)は温度が低下した状態で吸収器26に流入するとともに、吸収器26からの吸収液(希液)は温度を上昇した状態で経路28aに流入する。したがって、吸収器26には、より低温の吸収液(濃液)が供給されて吸収器26内の圧力がより低い圧力状態に維持される。反対に、吸収器26から経路28aに流入する吸収液(希液)は、経路28aを循環する吸収液の温度により近付けられた状態で経路28aに流入される。
また、吸収器26では、気液分離部22から経路28dを介して供給された吸収液(濃液)が噴射される。そして、蒸発器25から吸引された冷媒蒸気(低温水蒸気)と噴射された吸収液とが吸収器26内で混ざり合って希液状態の吸収液となって貯留される。なお、吸収液に冷媒蒸気が吸収される際の吸収熱は、熱交換部26aを流通する冷却水35によって取り除かれる。
また、送液ポンプ29bにより経路28fを介して経路28aに戻された吸収液(希液)は、送液ポンプ29cにより気液分離部22から吸引され経路28aおよび28gを流通する吸収液(濃液)とも混合されて、再び加熱部21で加熱(昇温)されて気液分離部22へと送られる。この際、吸収液中の冷媒が高温の水蒸気となって再生される。
吸収式ヒートポンプ装置20は、上記した第1および第2の運転動作を経て定常状態となって冷熱(冷却水45)をつくり続ける。そして、圧縮式冷凍機10は、冷却水45による冷媒の過冷却により圧縮機11の電気入力量が低減された状態で、冷房能力を発揮し続ける。この際、凝縮器12の凝縮温度が低く抑えられるので、凝縮器12から吹き出されたより低い空気温度によりラジエターコア51を流通するエンジン冷却水55も冷却される。また、エンジン冷却水55の温度は早期に低下するので、冷却用ファン61の運転時間も短い。車両用冷暖房システム100では、エンジン駆動時に冷房要求が生じた場合には、上記のように運転されて車内空間95の冷房が行われる。
[暖房時の動作]
次に、図4および図5を参照して、本発明の一実施形態による車両用冷暖房システム100を用いて車両90に対する暖房時の動作の詳細について説明する。
(エンジン駆動時)
まず、図4に示すように、エンジン91の駆動中においては、送水ポンプ53の駆動とともにエンジン冷却水55が循環経路56または循環経路57に流通されることにより、エンジン91が冷却されて一定の温度範囲に保たれる。そして、車内空間95に暖房要求が生じた場合には、エンジン冷却水55は、循環経路57の流通に切り替えられる。すなわち、エンジン冷却水55は、ラジエターコア51には流通されなくなる。
また、吸収式ヒートポンプ装置20も始動される。すなわち、弁3aおよび弁3bが閉じられるとともに送液ポンプ29cが始動される。これにより、気液分離部22に貯留された冷媒(水)を含む吸収液が第1循環経路(経路28aおよび28g)を循環するとともに、加熱部21で排気ガスの排熱を得て加熱(昇温)される。
そして、本実施形態では、車両90の排気ガスの排熱から回収した吸収液の熱は、冷却水熱回収器58を介してエンジン冷却水55に付与される。また、エンジン冷却水55は、ヒータコア54に流通される。そして、ブロアファン62の回転とともにヒータコア54から車内空間95に向けて温風が供給される。したがって、ヒータコア54から吹き出される温風は、ウォータジャケット93によりエンジン冷却水55が得た熱に加えて、排気ガスの排熱も利用される。車両用冷暖房システム100では、エンジン駆動時に暖房要求が生じた場合には、上記のように運転されて車内空間95の暖房が行われる。
(エンジンの冷間始動時)
また、本実施形態では、低外気温度の条件下でエンジン91が始動(冷間始動)された場合にも、吸収式ヒートポンプ装置20は機能される。具体的には、図5に示すように、低外気温度の条件下でエンジン91が始動(冷間始動)された場合、送液ポンプ29cが始動されて第1循環経路(経路28aおよび28g)にのみ吸収液を循環させる。この場合も、弁3aおよび弁3bは閉じられる。これとともに、弁3cが開かれるとともに送液ポンプ29dが駆動される。これにより、凝縮器24に貯留された液化した冷媒(凝縮水)が気液分離部22の吸収液(濃液)に供給される。そして、気液分離部22において冷媒(凝縮水)が吸収液(濃液)に吸収されることにより、吸収液中に吸収熱を発生させる。そして、吸収液中に発生した吸収熱は、吸収液の循環に伴って冷却水熱回収器58を介してエンジン冷却水55に付与される。
本実施形態では、冷間始動時などエンジン91からの排気ガスの排熱を十分に得ることができない場合においても、第1循環経路(経路28aおよび28g)を循環する冷媒(水)を含む吸収液が早期に昇温される。そして、ウォータジャケット93によりエンジン冷却水55が得た熱に加えて、吸収液中に発生した吸収熱も利用して、冷間始動後には、ヒータコア54からより短時間で温風が発生させることが可能になる。車両用冷暖房システム100では、冷間始動時に暖房要求が生じた場合には、上記のように運転されて車内空間95の暖房が行われる。そして、エンジン91の暖機運転が完了すると、排気ガスの排熱が加熱部21において吸収液に回収されるとともに冷却水熱回収器58においてエンジン冷却水55に付与されて、車内空間95の暖房が継続される。
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
本実施形態では、上記のように、吸収液(LiBr水溶液)を用いるとともに車両90の排気ガスの排熱を熱源に利用して冷熱を発生させる(冷却水45をつくる)吸収式ヒートポンプ装置20と、エンジン冷却水55が流れる循環経路57に接続可能に配置されたヒータコア54と、循環経路57における経路57aと吸収式ヒートポンプ装置20の経路28aとの間で熱の受け渡しを行う冷却水熱回収器58とを備える。そして、暖房時には、車両90の排熱(排気ガスの排熱)から回収した吸収式ヒートポンプ装置20の吸収液の熱を、冷却水熱回収器58を介してエンジン冷却水55に付与することによりヒータコア54に熱を付与するように構成する。これにより、冷房要求時には、圧縮式冷凍機10により車両90の冷房を行うことが可能であるとともに、暖房要求時には、車両90の排熱を冷却水熱回収器58を介してエンジン冷却水55に受け渡してヒータコア54により車両90の暖房を行うことが可能になる。したがって、エンジン91の排熱を有効に利用して冷房要求にも暖房要求にも対応することができる。
また、本実施形態では、車両90の暖房時には、吸収式ヒートポンプ装置20における加熱部21と気液分離部22との間を循環する第1循環経路(経路28aおよび28g)に冷媒(水)を含む吸収液を循環させる。そして、車両90の排熱から回収した吸収式ヒートポンプ装置20の吸収液の熱を、冷却水熱回収器58を介してエンジン冷却水55に付与することによって、ヒータコア54に熱を付与するように構成する。これにより、所定の熱容量を有する凝縮器24、蒸発器25および吸収器26を介在させることなく、加熱部21と気液分離部22との間を循環する小規模な第1循環経路(経路28aおよび28g)にのみ冷媒(水)を含む吸収液を循環させて車両90の排熱を迅速に吸収液に回収することができる。そして、車両90の排熱から回収した吸収液の熱を冷却水熱回収器58を介してエンジン冷却水55に迅速に受け渡すことができる。したがって、ヒータコア54からより短時間で温風を発生させることができるので、暖房時の応答性を向上させることができる。
また、本実施形態では、エンジン91の冷間始動時には、第1循環経路(経路28aおよび28g)に吸収液を循環させるとともに、凝縮器24に貯留された液化した冷媒(水)を気液分離部22の吸収液(濃液)に供給して吸収(希釈)させることにより吸収熱を発生させる。そして、発生した吸収熱を、冷却水熱回収器58を介してエンジン冷却水55に付与するように構成する。これにより、エンジン91の冷間始動時などエンジン91からの排熱を十分に得ることができない場合においても、液化した冷媒(水)を気液分離部22の吸収液に吸収させる際の吸収熱を利用して第1循環経路(経路28aおよび28g)を循環する冷媒(水)を含む吸収液を早期に昇温させることができる。このように、吸収熱を吸収液の加熱補助に利用することができるので、冷間始動後にヒータコア54からより短時間で温風を発生させることができる。
また、本実施形態では、車両90の冷房時には、循環経路57からヒータコア54を切り離すとともに、循環経路57の熱を、冷却水熱回収器58を介して吸収式ヒートポンプ装置20に付与することにより、吸収式ヒートポンプ装置20の熱源にするように構成する。これにより、エンジン91の排熱によって温められたエンジン冷却水55をヒータコア54に無用に流通させることなく冷却水熱回収器58に導入して吸収式用冷媒を含む吸収液の加熱時の熱源として有効に利用することができる。したがって、エンジン冷却水55を熱源として吸収式ヒートポンプ装置20を駆動して吸収式ヒートポンプ装置20による冷熱を冷房に有効に利用することができる。また、年間を通じて、暖房のみならず冷房でも冷却水熱回収器58を有効に使用することができる。
また、本実施形態では、車両90の冷房時には、吸収式ヒートポンプ装置20における加熱部21と、気液分離部22と、凝縮器24と、蒸発器25と、吸収器26との間を循環する第2循環経路(経路28a〜28f)に切り替える。そして、第2循環経路(経路28a〜28f)に冷媒(水)を含む吸収液を循環させることにより発生させた冷熱によって、圧縮式冷凍機10の液冷媒(R134a)の過冷却を行うように構成する。これにより、冷房時は、吸収式ヒートポンプ装置20の冷熱により過冷却された液冷媒(R134a)を用いて所定の冷房能力が得られる分、圧縮式冷凍機10における圧縮機11を駆動するための機械的入力量を低減することができる。さらには、圧縮機11への入力量が低減される分、冷媒を凝縮させる際の凝縮圧力(凝縮温度)をより低くすることができる。すなわち、電動式の冷却用ファン61の稼働率(運転時間)を低減させることができるので、エンジン91の燃費(燃料消費率)を向上させることができる。
また、本実施形態では、車両90を駆動するエンジン91の排気ガスの排熱を利用して液冷媒(R134a)の冷却を行うように吸収式ヒートポンプ装置20を構成する。これにより、車両90の排熱のうち、混合気の燃焼とともに発生する高温の排気ガスの排熱を回収して吸収式ヒートポンプ装置20の熱源(吸収液加熱時の熱源)に有効に用いることができる。すなわち、エンジン91の排熱を効率よく回収して車両90の冷房能力向上に寄与することができる点で、車両用冷暖房システム100は、利用価値が高い。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
たとえば、上記実施形態では、第1循環経路(経路28aおよび28g)における吸収液の流通方向(矢印P1方向)の上流側に冷却水熱回収器58を配置するとともに、その下流側に加熱部21を配置するように構成した例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図6に示す第1変形例のように、第1循環経路(経路28aおよび28g)における吸収液の流通方向(矢印P1方向)の上流側に加熱部21を配置するとともに加熱部21よりも下流側に冷却水熱回収器58を直列的に配置してもよい。この第1変形例のように車両用冷暖房システム105を構成した場合、暖房時においては、加熱部21において排気ガスの排熱を得た吸収液を下流側の冷却水熱回収器58に迅速に流通させることができる。したがって、第1循環経路(経路28aおよび28g)および気液分離部22への熱リークを極力抑制した状態で、排気ガスの排熱をエンジン冷却水55に受け渡すことができる分、ヒータコア54による暖房能力を向上させることができる。
また、上記実施形態では、第1循環経路(経路28aおよび28g)において冷却水熱回収器58と加熱部21とを直列的に配置した例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、図7に示す第2変形例のように、加熱部21と冷却水熱回収器58とを並列的に配置してもよい。すなわち、経路28aの一部を互いに並列な経路28jおよび28kに分割して、経路28jに加熱部21を配置するとともに経路28kに冷却水熱回収器58を配置して車両用冷暖房システム110を構成してもよい。これにより、第1循環経路(経路28aおよび28g)を循環する吸収液の流通抵抗を低減することができる。
また、上記実施形態では、冷間始動時に、凝縮器24の凝縮水を気液分離部22の吸収液に供給して吸収熱により昇温された吸収液を加熱部21および冷却水熱回収器58を含む第1循環経路(経路28aおよび28g)に循環させた例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、この動作時には第1循環経路から加熱部21を一時的に切り離した状態で吸収液を冷却水熱回収器58のみを含む第1循環経路に循環させてもよい。すなわち、加熱部21をバイパスして冷却水熱回収器58と気液分離部22とを直接的に接続する経路を設けてもよい。これにより、十分に温まっていない排気ガス管92側に吸収液の熱量(吸収熱)が奪われるのを防止することができる。
また、上記実施形態では、エンジン冷却装置50のラジエターコア51の後方に1台の冷却用ファン61を配置するように構成した例について示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、圧縮式冷凍機10の凝縮器12、吸収式ヒートポンプ装置20の冷却器33およびラジエターコア51に共通に用いられるのであれば、ラジエターコア51の後方に複数台の冷却用ファン61を配置していてもよい。
また、上記実施形態では、圧縮式冷凍機10の凝縮器12と吸収式ヒートポンプ装置20の冷却器33とを車両90の前方側(フロントバンパーの内側)に左右に並べて配置した例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、凝縮器12と冷却器33とをフロントバンパーの内側に上下(垂直方向)に並べて配置していてもよい。
また、上記実施形態では、圧縮式冷凍機10の凝縮器12と吸収式ヒートポンプ装置20の冷却器33とを車両90の前方側(フロントバンパーの内側)に左右に並べて配置した例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、凝縮器12を車両90の前方側に配置するとともに、凝縮器12の後方に近接する(重なる)ようにしてエンジン冷却装置50のラジエターコア51と吸収式ヒートポンプ装置20の冷却器33とを並べて配置して車両用冷暖房システムを構成してもよい。
また、上記実施形態では、エンジン91の駆動力(回転力)を電磁クラッチなどを介して駆動される圧縮機11を用いて圧縮式冷凍機10を構成した例について示したが、本発明はこれに限られない。すなわち、車両90に搭載されたバッテリ(蓄電池)などに蓄電された電力およびオルタネータ(発電機)により発電された電力を利用して駆動される電動式圧縮機を用いて圧縮式冷凍機10を構成してもよい。バッテリやオルタネータの電力を利用して電動式圧縮機が駆動される場合には、吸収式ヒートポンプ装置20の冷熱により過冷却された液冷媒を用いて圧縮式冷凍機10に所定の冷房能力が得られる分、電動式圧縮機を駆動するための電気入力量を低減することができる。特にオルタネータの電力が直接的に電動式圧縮機に投入される場合、電気入力量が低減される分、エンジン負荷を低減することができて、エンジン91の燃費(燃料消費率)を向上させることができる。
また、電動式圧縮機の場合には、エンジン91が一時的に停止して車両90の排熱(排気ガスの排熱)が吸収式ヒートポンプ装置20の熱源として得られない場合であっても、冷房要求時に電動式圧縮機が駆動されて車両90の冷房を行う際に、吸収式ヒートポンプ装置20に蓄熱された熱エネルギー(冷媒(水)および吸収液(LiBr濃液)の貯留容量分の冷熱を用いて一定期間の間だけ冷却された冷却水45)を用いて圧縮式冷凍機10の液冷媒を過冷却することが可能である。すなわち、エンジン91が停止され、かつ、冷却用ファン61が停止されて凝縮器12がほとんど機能しない場合であっても、電動式圧縮機を低回転数(低負荷)で駆動して冷媒(R134a)を循環させることにより、過冷却器17において冷却(過冷却)された液冷媒を膨張弁14および蒸発器15を流通させて車内空間95の冷房を行うことが可能である。
また、上記実施形態では、過冷却器17と蒸発器25との間で冷却水45が循環されることにより、吸収式ヒートポンプ装置20の蒸発器25で冷却された冷却水45と、圧縮式冷凍機10の過冷却器17を流通する液冷媒(R134a)との間で熱交換を行うように構成した例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、過冷却器17と蒸発器25とを近接配置するレイアウト構成が実現可能であるならば、蒸発器25に液管16bを直接的に導入して冷媒(水)の蒸発潜熱によって液管16bを流通する液冷媒を過冷却するように構成してもよい。すなわち、本発明の「吸収式用蒸発器」の一部が「冷媒冷却用熱交換器」を兼ねていてもよい。
また、上記実施形態では、冷房運転を開始した後、経路28aおよび28gを循環する吸収液(LiBr水溶液)の温度が約100℃付近に達したことに基づいて弁3aおよび弁3bを開いて吸収器26を用いた通常の冷房運転に移行した例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、吸収液が経路28aおよび28gを循環する際の気液分離部22の冷媒蒸気の圧力が所定の基準値(たとえば、絶対圧力で10kPa付近)に達したことに基づいて、弁3aおよび弁3bを開いて通常の冷房運転に移行してもよい。
また、上記実施形態では、駆動中のエンジン91の排気ガスの排熱を利用して冷熱(冷却水45)をつくり液冷媒(R134a)を過冷却するように構成した例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、エンジン91の駆動が一時的に停止された場合であっても、駆動停止直後の冷え切らないエンジン冷却水55の熱を冷却水熱回収器58を介して経路28aを流通する吸収液(希液)に付与してもよい。これにより、吸収式ヒートポンプ装置20を駆動して冷却水45をつくり液冷媒(R134a)を過冷却することが可能である。なお、この場合には、圧縮式冷凍機10には電動式圧縮機を適用する必要がある。
あるいは、エンジン91が停止されて加熱部21に熱源(高温の排気ガス)が存在しない場合であっても、凝縮器24の凝縮水(冷媒)を経路28cを介して蒸発器25(真空状態)に差圧吸引しながら移動させるとともに、気液分離部22の濃液を経路28dを介して吸収器26(真空状態)に差圧吸引しながら移動させてもよい。これにより、吸収器26においては冷媒蒸気(低温水蒸気)の吸収液(濃液)への吸収反応が進行され、蒸発器25においては冷媒(凝縮水)の蒸発が進行される。したがって、熱交換部25aを流通する冷却水45を、一定期間の間、蒸発器25における冷媒(凝縮水)の蒸発潜熱を利用して冷却することができるので、過冷却器17を用いて液冷媒(R134a)を過冷却することが可能である。なお、この場合も、圧縮式冷凍機10には電動式圧縮機を適用する必要がある。
また、上記実施形態では、吸収式ヒートポンプ装置20を運転するための冷媒および吸収液として、それぞれ、水および臭化リチウム水溶液を用いた例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、冷媒および吸収液として、それぞれ、アンモニアおよび水を用いた吸収式ヒートポンプ装置20を用いて車両用冷却システム100を適用してもよい。この場合、冷房時に吸収液を経路28aおよび28gのみを循環させて加熱した状態から吸収器26を用いる通常運転に移行する際の条件(吸収液の温度条件)は、アンモニア−水系の熱物性値によって適宜決定される。
また、上記実施形態では、圧縮式冷凍機10に冷媒としてR134aを用いた例について示したが、本発明はこれに限られない。圧縮式用冷媒としてR134a以外の他の代替フロン冷媒を用いてもよいし、代替フロン冷媒以外の自然冷媒を用いてもよい。
また、上記実施形態では、冷却水35を循環させて凝縮器24における冷媒(水)および吸収器26における吸収液(希液)の熱を冷却器33から放熱させた例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、冷却水35を介在させることなく、走行風または冷却用ファン61により直接的に凝縮器24および吸収器26を冷却するように構成してもよい。
また、上記実施形態では、プレート式熱交換器を用いて加熱部21および液−液熱交換器27を構成した例について示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、プレート式熱交換器以外のたとえば、二重管式熱交換器を用いて加熱部21および液−液熱交換器27を構成してもよいし、円管の外壁同士が管軸方向に沿って接合された状態で円管(楕円管)または扁平管が螺旋状に巻き回されたスパイラル熱交換器などを用いて加熱部21および液−液熱交換器27を構成してもよい。
また、上記実施形態では、エンジン91を備えた乗用車、バスおよびトラックなどの車両90の冷暖房システムに本発明の「吸収式ヒートポンプ装置」を適用する例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ディーゼルエンジンを備えた列車や船舶などの冷暖房システムに適用してもよい。
また、上記実施形態では、車両90の排熱としてエンジン91の排気ガスの排熱を吸収液に一時的に回収してエンジン冷却水55を加熱してヒータコア54の熱源とした例について示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、排気ガスの排熱に加えて、オートマチックトランスミッション内のATフルードの熱を回収してヒータコア54の熱源にしてもよい。さらには、車両制動時のブレーキ熱(ブレーキパッドの摩擦熱)なども車両90の排熱に含まれるため、このブレーキ熱(ブレーキパッドの摩擦熱)を回収してヒータコア54の熱源にしてもよい。また、エンジン(内燃機関)91を備えた車両90のみならず、エンジン駆動および電動モータ駆動を併用して走行するハイブリッド自動車が有する排熱(バッテリや電動モータの排熱)や、燃料電池システムを備えた燃料電池自動車が有する排熱(燃料電池における発電時の排熱)を吸収液に一時的に回収してヒータコア54の熱源として利用してもよい。また、冷房時には、これらの車両90の排熱を利用して吸収液を加熱して、吸収式ヒートポンプ装置20を駆動するとともに、吸収式ヒートポンプ装置20による冷熱により圧縮式冷凍機10の冷媒を過冷却するように構成してもよい。