以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る手動変速機の同期装置1を示す。この手動変速機は、図示は省略するが、自動車等の車両に搭載されていて、クラッチを介してエンジンの出力軸に連結されたプライマリシャフトと、このプライマリシャフトに平行に配置されたセカンダリシャフト(カウンタシャフト)とを有する。これら両シャフト間には、複数の前進変速段用のギヤ列が設けられている。これらギヤ列は、プライマリシャフト及びセカンダリシャフトのうちの一方に固定された固定ギヤと、他方のシャフトに遊嵌された遊転ギヤとが常時噛み合った常時噛合い式のギヤ列である。
上記同期装置1は、各前進変速段用のギヤ列における遊転ギヤである被同期ギヤ21と、該被同期ギヤ21が設けられる回転軸2(上記プライマリシャフト又は上記セカンダリシャフト)との回転を同期させて、被同期ギヤ21を回転軸2と共に回転させるようにするものである。図1では、或る1つの変速段(以下、特定変速段という)用のギヤ列の被同期ギヤ21と回転軸2とを同期させる同期装置1を示す。被同期ギヤ21の中心部には、回転軸2が貫通する貫通孔21fが形成されており、この貫通孔21fの内径は回転軸2の径よりも大きくて、被同期ギヤ21が回転軸2に対して遊転可能になされている(図1では、貫通孔21fの径を実際よりも大きく描いている)。尚、図1中、一点鎖線で示す線Cは、回転軸2の中心線であり、図1では、回転軸2の中心線Cに対して上半分のみを示す。
同期装置1は、回転軸2上に固設されたクラッチハブ3を備えている。クラッチハブ3は、内周部3aと、外周部3bと、これら内周部3aと外周部3bとを連結する連結部3cとを有している。これら内周部3a及び外周部3bは、連結部3cよりも回転軸2の軸方向(以下、単に軸方向という)の両側に延設されている。
クラッチハブ3の内周面(内周部3aの内周面)は、回転軸2に固定されている。クラッチハブ3の外周面(外周部3bの外周面)の全周には、後述のスリーブスプライン8と係合するハブスプライン4が設けられている。このハブスプライン4のスプライン歯4a及びスプライン溝4bは、上記軸方向に延びている。
クラッチハブ3の外周側(外周部3bの外周側)には、ハブスリーブ7が設けられている。このハブスリーブ7も、クラッチハブ3と同様に、内周部7aと、外周部7bと、これら内周部7aと外周部7bとを連結する連結部7cとを有している。ハブスリーブ7の内周部7a及び外周部7bも、連結部7cよりも上記軸方向の両側に延設されている。
ハブスリーブ7の内周面(内周部7aの内周面)の全周には、スリーブスプライン8が形成されている。このスリーブスプライン8のスプライン歯8a及びスプライン溝8bも、上記軸方向に延びている。そして、ハブスプライン4とスリーブスプライン8との係合(ハブスプライン4のスプライン歯4aとスリーブスプライン8のスプライン溝8bとの係合、及び、ハブスプライン4のスプライン溝4bとスリーブスプライン8のスプライン歯8aとの係合)により、ハブスリーブ7は、クラッチハブ3に対して上記軸方向に摺動可能にかつ相対回転不能に設置されている。
ハブスリーブ7の外周部7bの外周面における上記軸方向の中央部には、該ハブスリーブ7をクラッチハブ3に対して上記軸方向(本実施形態では、被同期ギヤ21側(図1の右側)に摺動させるためのシフトフォーク(図示せず)が嵌合する嵌合部7dが設けられている。この嵌合部7dは、外周部7bの外周面の周方向全体に亘って溝状に形成されたものである。上記車両のチェンジレバーがニュートラル状態にあるとき、スリーブスプライン8の上記軸方向の全体がハブスプライン4の上記軸方向の全体と係合した位置にあり、上記軸方向において、ハブスリーブ7の連結部7cがクラッチハブ3の連結部3cと略同じ位置に位置する。このときのハブスリーブ7の上記軸方向の位置を中立位置という。そして、上記車両のドライバーによるチェンジレバーのニュートラル状態から上記特定変速段へのシフト操作により、上記シフトフォークが上記軸方向の被同期ギヤ21側に移動することで、ハブスリーブ7が上記中立位置からクラッチハブ3に対して上記軸方向の被同期ギヤ21側に摺動する(前進移動する)ことになる。
ハブスリーブ7の外周部7bにおける上記軸方向の被同期ギヤ21側に延設された部分の内周面には、コーン面とされた同期摺動面7eが形成されている。この同期摺動面7eの径は、上記軸方向において被同期ギヤ21に近いほど大きくされている。
回転軸2上におけるクラッチハブ3に対して上記軸方向の一方側(図1では、右側)に、被同期ギヤ21が回転軸2に対して相対回転自在に設置されている。また、ハブスリーブ7に対して上記軸方向の被同期ギヤ21側には、シンクロナイザリング11が配設されている。このシンクロナイザリング11には、後述するように、シンクロスプライン15が設けられている(特に図2参照)。シンクロスプライン15のスプライン歯15a及びスプライン溝15bは、上記軸方向に延びている。
被同期ギヤ21は、上記固定ギヤの歯部と噛み合う歯部21aを有する。被同期ギヤ21において歯部21aに対するクラッチハブ3側の部分には、スリーブスプライン8及びシンクロスプライン15、並びに、シンクロナイザリング11における後述のインナリング14の突出部14bと係合する係合部21bが設けられている。尚、図2(シンクロナイザリング11を、上記軸方向のハブスリーブ7側から見た図)には、被同期ギヤ21の係合部21b(後述の凹状部21c及びギヤスプライン22)を、一点鎖線で示す。
図2及び図3に示すように、係合部21bの周側面における周方向の3箇所には、該周側面から被同期ギヤ21の径方向内側に凹む凹状部21cが形成されている。各凹状部21cは、係合部21bの周側面に開口しているとともに、被同期ギヤ21のクラッチハブ3側の端面(係合部21bのクラッチハブ3側の端面でもある)にも開口している。
また、係合部21bの周側面において周方向に相隣接する凹状部21cの間の3箇所には、ギヤスプライン22が設けられている。ギヤスプライン22のスプライン歯22a及びスプライン溝22bは、上記軸方向に延びている。ギヤスプライン22は、スリーブスプライン8及びシンクロスプライン15と係合可能である。
ハブスリーブ7が上記中立位置にあるときには、スリーブスプライン8は、ギヤスプライン22と係合していない。そして、上記シフト操作の完了時には、スリーブスプライン8がハブスプライン4及びギヤスプライン22の両方に係合することで、被同期ギヤ21がクラッチハブ3及びハブスリーブ7を介して回転軸2と共に回転することになる。このときのハブスリーブ7の上記軸方向の位置をシフト位置という(図11参照)。尚、ハブスリーブ7が上記シフト位置にあるとき、シンクロスプライン15もギヤスプライン22と係合する。このときのシンクロナイザリング11の上記軸方向の位置を係合位置という。
被同期ギヤ21のクラッチハブ3側の端面において凹状部21cが開口していない部分には、リング状の線ばね24が収容されるばね収容溝21dが形成されている(図1及び図3参照)。線ばね24は、断面円形、又は、断面楕円形(長軸が上記軸方向若しくは回転軸2の径方向に延びる楕円形)のものが好ましいが、シンクロナイザリング11(詳細には、後述のインナリング14の突出部14b)に対して後述の如く動作させることができるのであれば、どのような断面形状であってもよい。
また、被同期ギヤ21のクラッチハブ3側の端面においてばね収容溝21dよりも被同期ギヤ21の径方向内側の部分は、ばね収容溝21dから径方向外側の部分よりもクラッチハブ3側に突出しており、この突出部分の側周面には、抜け止め収容溝21eが形成されており、この抜け止め収容溝21eには、ばね収容溝21dに収容された線ばね24がばね収容溝21dから抜け出るのを阻止するリング状の抜け止め部材25が嵌められて固定されている(図1及び図5参照(図3及び図4では、抜け止め部材25の記載を省略している))。
本実施形態では、シンクロナイザリング11は、その径方向の外側から順に、アウタリング12、ミドルリング13及びインナリング14を有するトリプルコーン型のものである。ミドルリング13は、アウタリング12とインナリング14との間に挟まれているとともに、ハブスリーブ7に該ハブスリーブ7と共に回転するように支持されていて、該ハブスリーブ7として働くものである。アウタリング12、ミドルリング13及びインナリング14は、インナリング14の内周側の部分を除いて、ハブスリーブ7における内周部7aと外周部7bとの間に位置している。
図1及び図2に示すように、ミドルリング13において上記軸方向のハブスリーブ7側の面における周方向の3箇所には、ハブスリーブ7の連結部7cに形成された嵌合孔7fに嵌合固定される嵌合突部13aが形成されており、ミドルリング13は、この嵌合突部13aの嵌合孔7fへの嵌合固定により、ハブスリーブ7に該ハブスリーブ7と共に回転するように支持されることになる。ミドルリング13の外周面及び内周面には、コーン形状とされた外周側及び内周側同期摺動面13b,13cがそれぞれ設けられている。これらの同期摺動面13b,13cは、ハブスリーブ7側に設けられた同期摺動面と見做すことができる。これらの同期摺動面13b,13cの径も、上記軸方向において被同期ギヤ21に近いほど大きくされている。
アウタリング12の外周面には、ハブスリーブ7の同期摺動面7eと対応するコーン形状の外周側同期摺動面12aが形成され、アウタリング12の内周面には、ミドルリング13の外周側同期摺動面13bと対応するコーン形状の内周側同期摺動面12bが形成されている。また、インナリング14の外周面には、ミドルリングの内周側同期摺動面13cと対応するコーン形状の同期摺動面14aが形成されている。
被同期ギヤ21の回転を回転軸2の回転に同期させる同期動作の際には、ハブスリーブ7側の同期摺動面(ハブスリーブ7自体の同期摺動面7eと、ハブスリーブ7側に設けられた同期摺動面と見做すことが可能な、ミドルリング13の外周側及び内周側同期摺動面13b,13cとを含む)と、シンクロナイザリング11側の同期摺動面(アウタリング12の外周側及び内周側同期摺動面12a,12b並びにインナリング14の同期摺動面14a)とが互いにシンクロナイザリング11の周方向に摺動することになる。すなわち、上記同期動作の際には、ハブスリーブ7の同期摺動面7eとアウタリング12の外周側同期摺動面12aとが摺動し、アウタリング12の内周側同期摺動面12bとミドルリング13の外周側同期摺動面13bとが摺動し、ミドルリング13の内周側同期摺動面13cとインナリング14の同期摺動面14aとが摺動する。
本実施形態では、ハブスリーブ7側の同期摺動面7e,13b,13c及びシンクロナイザリング11側の同期摺動面12a,12b,14aは、スリーブスプライン8(詳細には、スプライン溝8b)よりも回転軸2の径方向の外側でかつ嵌合部7dよりも回転軸2の径方向の内側に位置している。このようにハブスリーブ7側の同期摺動面7e,13b,13c及びシンクロナイザリング11側の同期摺動面12a,12b,14aをスリーブスプライン8よりも回転軸2の径方向の外側に位置させることで、ハブスリーブ7側の同期摺動面7e,13b,13c及びシンクロナイザリング11側の同期摺動面12a,12b,14aの半径を大きくすることができ、これにより、上記ドライバーのチェンジレバーのシフト操作力を小さくすることができる。一方、ハブスリーブ7側の同期摺動面7e,13b,13c及びシンクロナイザリング11側の同期摺動面12a,12b,14aを嵌合部7dよりも回転軸2の径方向の外側に位置させる場合には、同期装置1が大型化しないようにしながらシンクロナイザリング11及び後述のカバー部材31を上記シフトフォークと干渉しないように設けることが困難になるので、嵌合部7dよりも回転軸2の径方向の内側に位置させるようにしている。但し、ハブスリーブ7側の同期摺動面7e,13b,13c及びシンクロナイザリング11側の同期摺動面12a,12b,14aを嵌合部7dよりも回転軸2の径方向の外側に位置させるようにすることも可能である。
図1及び図2に示すように、インナリング14の内周側の部分は、クラッチハブ3及びハブスリーブ7の上記軸方向の被同期ギヤ21側を覆うようになされている。インナリング14の内周面における周方向の3箇所には、インナリング14の径方向内側に突出する突出部14bが形成されている。また、インナリング14の内周面において周方向に相隣接する突出部14bの間の3箇所には、シンクロスプライン15が設けられており、これら3箇所のシンクロスプライン15が上記3箇所のギヤスプライン22とそれぞれ係合可能になっている。
各突出部14bは、係合部21bの周側面における凹状部21cの開口から凹状部21c内に入り込んだ後、ハブスリーブ7側(クラッチハブ3側)に折れ曲がって、被同期ギヤ21のクラッチハブ3側の端面における凹状部21cの開口から凹状部21cの外側に出て、クラッチハブ3の外周部3bの径方向内側でかつ連結部3cの近傍位置にまで延びている。
各突出部14bにおける折れ曲がり部分から先端にかけての部分は、上記軸方向に延びる軸方向延設部14cとされている。この軸方向延設部14cの径方向内側の面、及び、該面に繋がる、折れ曲がり部分の角部に形成された傾斜面14dは、線ばね24に当接するようになされている。このようにインナリング14は、線ばね24を介して被同期ギヤ21に支持されている。傾斜面14dは、上記軸方向において被同期ギヤ21に近付くほど回転軸2の中心線Cから遠ざかるように傾斜している。
各突出部14bの周方向の幅d1は、被同期ギヤ21の凹状部21cの周方向の幅d2よりも小さくされており(図3及び図5参照)、インナリング14は、被同期ギヤ21に対して所定量(d2−d1)の相対回転が許容されている。このようにインナリング14は、被同期ギヤ21に対して上記所定量の相対回転が許容された状態で該被同期ギヤ21に支持されている。
図2に示すように、アウタリング12において上記軸方向の被同期ギヤ21側の面における周方向の3箇所には、アウタリング12の径方向内側に突出する突起部12cが形成されている。各突起部12cは、ミドルリング13を超えてインナリング14の位置にまで延びていて、突起部12cの先端部がインナリング14に固定されている。これにより、アウタリング12は、インナリング14を介して被同期ギヤ21に支持され、アウタリング12及びインナリング14は、被同期ギヤ21に対して上記所定量の相対回転が許容された状態で該被同期ギヤ21に支持されることになる。
図6に示すように、シンクロスプライン15のスプライン歯15aにおける上記軸方向の被同期ギヤ21側の端部は、当該スプライン歯15aをシンクロナイザリング11の径方向外側から見たとき、2つの傾斜面15cが形成されるように三角形状に尖った形状をなしている。同様に、ギヤスプライン22のスプライン歯22aにおける上記軸方向のシンクロナイザリング11側の端部も、2つの傾斜面22cが形成されるように三角形状に尖った形状をなし、スリーブスプライン8のスプライン歯8aにおける上記軸方向の被同期ギヤ21側の端部も、2つの傾斜面8cが形成されるように三角形状に尖った形状をなしている。
ハブスリーブ7が上記中立位置にあるとき、インナリング14における突出部14bの傾斜面14dが線ばね24に当接している(図1参照)。このときのシンクロナイザリング11の上記軸方向の位置を、初期位置という。この初期位置では、シンクロスプライン15は、上記軸方向においてギヤスプライン22とスリーブスプライン8との間に位置していて、ギヤスプライン22と係合していない。傾斜面14dが線ばね24に当接しているときには、線ばね24は傾斜面14dに対して殆ど力を作用させていない。
ハブスリーブ7が上記中立位置からクラッチハブ3に対して上記軸方向の被同期ギヤ21側に摺動した(前進移動した)とき、シンクロナイザリング11もハブスリーブ7に押されて上記軸方向の被同期ギヤ21側に移動する。このシンクロナイザリング11の移動の初期において、突出部14bの傾斜面14dによって、線ばね24における突出部14bに対応する部分が径方向内側に押圧されて、図4に示すように、線ばね24が、軸方向延設部14cの径方向内側の面に当接するようになる。これにより、インナリング14の回転に僅かなブレーキがかかり、このため、突出部14bが、上記固定ギヤとの噛み合いにより回転している被同期ギヤ21の凹状部21c内で相対的に移動して、凹状部21c内における周方向の一方の端(図4では、右側の端)に移動することになる。突出部14bが凹状部21c内の一方の端に移動した後は、インナリング14(及びアウタリング12)は、被同期ギヤ21に対して相対回転しないで該被同期ギヤ21と共に回転することになる。
図4では、被同期ギヤ21が矢印で示す方向に回転しているために、突出部14bが凹状部21c内の右側の端に移動することになるが、被同期ギヤ21が図4とは逆方向に回転している場合には、突出部14bが凹状部21c内の左側の端に移動することになる。このようにインナリング14の回転に少しだけブレーキをかければ、突出部14bが凹状部21c内の一方又は他方の端に移動するので、線ばね24の付勢力としてはかなり小さくて済み、線ばね24の付勢力が上記ドライバーのチェンジレバーのシフト操作力に影響を及ぼすようなことはない。
突出部14bが凹状部21c内の上記一方の端に移動したときには、シンクロスプライン15のスプライン歯15aとギヤスプライン22のスプライン歯22aとの周方向の位置関係が、シンクロスプライン15のスプライン歯15aにおける2つの傾斜面15cのうちの一方の傾斜面15cと、ギヤスプライン22のスプライン歯22aにおける2つの傾斜面22cのうちの一方の傾斜面22cとが接触可能な位置関係となり(図8参照)、これにより、上記同期動作の前に、ギヤスプライン22のスプライン歯22aがシンクロスプライン15のスプライン溝15bにいきなり入り込むようなことはない。一方、突出部14bが凹状部21c内の上記他方の端に移動したときには、シンクロスプライン15のスプライン歯15aとギヤスプライン22のスプライン歯22aとの周方向の位置関係が、シンクロスプライン15のスプライン歯15aの2つの傾斜面15cのうちの他方の傾斜面15cと、ギヤスプライン22のスプライン歯22aの2つの傾斜面22cのうちの他方の傾斜面22cとが接触可能な位置関係となる。このように突出部14bが凹状部21c内の一方の端に移動しても他方の端に移動しても、シンクロスプライン15のスプライン歯15aの傾斜面15cとギヤスプライン22のスプライン歯22aの傾斜面22cとが接触可能な位置関係となるように、上記所定量が設定されている。
ハブスリーブ7の外周部7bには、シンクロナイザリング11の上記軸方向の被同期ギヤ21側を覆うリング状のカバー部材31が設けられている。このカバー部材31の外周縁部は、ハブスリーブ7の外周部7bの外周面及び被同期ギヤ21側の端面に固定されており、その固定された部分から、回転軸2の径方向内側に延びている。カバー部材31は、シンクロナイザリング11におけるアウタリング12、ミドルリング13及びインナリング14の全ての上記軸方向の被同期ギヤ21側を覆っている。カバー部材31は、ハブスリーブ7に固定されていることにより、ハブスリーブ7と共に上記軸方向に移動することになる。カバー部材31は、ハブスリーブ7が上記シフト位置から上記中立位置へ後退移動するときに、シンクロナイザリング11を、上記係合位置から、次回の同期動作を適切に行える上記初期位置にまで戻すためのものである。尚、カバー部材31は、アウタリング12のみの上記軸方向の被同期ギヤ21側を覆うようにしてもよく、アウタリング12及びミドルリング13のみの上記軸方向の被同期ギヤ21側を覆うようにしてもよい。
次に、上記のように構成された同期装置1の動作について、図1、図5〜図11を参照して説明する。尚、図5〜図11に示すX方向は上記軸方向であり、Y方向は被同期ギヤ21の周方向である。
同期装置1の作動前は、図1に示すように、ハブスリーブ7が上記中立位置にあり、シンクロナイザリング11が上記初期位置にある。また、図1及び図6に示すように、スリーブスプライン8及びシンクロスプライン15とギヤスプライン22とは非係合状態にある。さらに、インナリング14の突出部14bは、被同期ギヤ21の凹状部21c内において周方向のどの位置に位置するかは定まっていない。
上記ドライバーによりチェンジレバーのニュートラル状態から上記特定変速段へのシフト操作がなされたとき、そのシフト操作に連動するように、上記シフトフォークを介して、ハブスリーブ7が上記中立位置からクラッチハブ3に対して上記軸方向の被同期ギヤ21側に摺動する(前進移動する)。この前進移動するハブスリーブ7に押されてシンクロナイザリング11も上記軸方向の被同期ギヤ21側に移動する。つまり、インナリング14の突出部14bが凹状部21c内において歯部21a側に移動する。この突出部14bの移動の初期において、上記したように、突出部14bの傾斜面14dによって、線ばね24における突出部14bに対応する部分が径方向内側に押圧されて、線ばね24が軸方向延設部14cの径方向内側の面に当接するようになり、これにより、突出部14bが、被同期ギヤ21の凹状部21c内で相対的に移動して、凹状部21c内における周方向の一方の端に移動する(図7参照)。尚、図7及び図8に記載の矢印は、被同期ギヤ21の回転方向を示している。
ハブスリーブ7が被同期ギヤ21側に更に前進移動すると、図8に示すように、シンクロスプライン15のスプライン歯15aの一方の傾斜面15cとギヤスプライン22のスプライン歯22aの一方の傾斜面22cとが接触した状態になる。このとき、スリーブスプライン8及びシンクロスプライン15とギヤスプライン22とは未だ非係合の状態にある。この状態で、ハブスリーブ7側の同期摺動面7e,13b,13cとシンクロナイザリング11側の同期摺動面12a,12b,14aとが互いにシンクロナイザリング11の周方向に摺動することにより、被同期ギヤ21の回転を回転軸2の回転に同期させる同期動作が実行される。この同期動作の実行の際、インナリング14(及びアウタリング12)は、被同期ギヤ21に対して相対回転しないで該被同期ギヤ21と共に回転する。また、ミドルリング13は、クラッチハブ3及びハブスリーブ7を介して、回転軸2と共に回転する。上記同期動作の実行により、被同期ギヤ21とハブスリーブ7(回転軸2)とが同じ回転速度で回転することになる。
そして、上記同期動作の実行後、ハブスリーブ7が被同期ギヤ21側に更に前進移動すると、シンクロスプライン15のスプライン歯15aの一方の傾斜面15cとギヤスプライン22のスプライン歯22aの一方の傾斜面22cとの接触により、被同期ギヤ21がインナリング14に対して図9に示す矢印の方向に相対回転して、シンクロスプライン15のスプライン溝15bとギヤスプライン22のスプライン歯22aとの位置合わせ(シンクロナイザリング11の周方向の位置合わせ)が行われる。これにより、ギヤスプライン22とシンクロスプライン15とが係合し、その後直ぐに、ギヤスプライン22とスリーブスプライン8とが係合することになる(図10参照)。このギヤスプライン22とスリーブスプライン8との係合直前に、スリーブスプライン8のスプライン歯8aの位置とギヤスプライン22のスプライン歯22aとの位置関係によっては、スリーブスプライン8のスプライン歯8aの傾斜面8cとギヤスプライン22のスプライン歯22aの傾斜面22cとが接触して、スリーブスプライン8のスプライン溝8bとギヤスプライン22のスプライン歯22aとの位置合わせが行われる。
上記ドライバーによる上記シフト操作の完了時には、図11に示すように、ハブスリーブ7が上記シフト位置に位置し、シンクロナイザリング11が上記係合位置に位置する。このとき、スリーブスプライン8は、ハブスプライン4と係合したまま、ギヤスプライン22と係合した状態となる。これにより、回転軸2と被同期ギヤ21とが一体的に回転するようになり、回転軸2と、上記固定ギヤが固定された別の回転軸との間で、特定変速段用のギヤ列を介して動力を伝達できるようになる。
上記ドライバーがチェンジレバーを上記シフト操作の完了位置からニュートラル状態に戻す操作を行うと、上記シフトフォークを介して、ハブスリーブ7が上記中立位置へ後退移動する。このとき、ハブスリーブ7にカバー部材31が設けられていないと仮定すると、シンクロナイザリング11は上記係合位置に位置したままとなって、次回の同期動作を適切に行うことができなくなる可能性が高くなる。線ばね24の復元力は、シンクロナイザリング11をその径方向外側に押圧する力であり、シンクロナイザリング11を上記初期位置に戻すような向きに作用してはおらず、しかも、線ばね24の復元力も弱いので、線ばね24の復元力によってシンクロナイザリング11が上記初期位置に戻ることはない。
ここで、上記特許文献1のように、線ばね24の復元力を、シンクロナイザリング11を上記初期位置に戻すような向きに作用させるようにして、線ばね24の復元力によってシンクロナイザリング11を上記初期位置に戻すように構成した場合、シンクロナイザリング11を上記初期位置に確実に戻すためには、線ばね24の復元力を強くする必要がある。このように線ばね24の復元力を強くすると、チェンジレバーのシフト操作力が大きくなって、ドライバーはスムーズなシフト操作を行えなくなる可能性が高くなる。
しかし、本実施形態では、ハブスリーブ7が上記中立位置へ後退移動するときに、そのハブスリーブ7に設けられたカバー部材31により、シンクロナイザリング11を、次回の同期動作を適切に行える上記初期位置にまで戻すことができる。これにより、シンクロナイザリング11を上記初期位置にまで戻すための、ばね等の付勢手段は不要になるか、又は、又は、付勢手段の付勢力を低減することができる。このように付勢手段が不要になるか、又は、付勢手段の付勢力を低減できることにより、ハブスリーブ7側の同期摺動面7e,13b,13c及びシンクロナイザリング11側の同期摺動面12a,12b,14aが、スリーブスプライン8よりも回転軸2の径方向の外側に設けられていることと相俟って、ドライバーのチェンジレバーのシフト操作力を出来る限り低減することができるようになり、ドライバーはチェンジレバーを軽快にシフト操作することができるようになる。
また、カバー部材31は、シンクロナイザリング11におけるアウタリング12、ミドルリング13及びインナリング14の全ての上記軸方向の被同期ギヤ21側を覆っているので、ハブスリーブ7が上記中立位置へ後退移動するときに、アウタリング12、ミドルリング13及びインナリング14の全てをスムーズに上記軸方向に移動させることができ、この結果、ドライバーがチェンジレバーをシフト操作の完了位置からニュートラル状態に戻す操作の操作力が増大するのを抑制することができる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。