しかしながら、上記カフ100を例えば被測定者が自ら左腕90に装着するとき、右手を左腕90よりも左側(つまり、体の側方)に位置させて、右手でカフ100の先端部104fを図19(A)中に矢印A1で示すように左向き(つまり、体の側方からさらに側方へ遠ざかる向き)に引っ張り、カフ100が緩まないようにその引っ張り力の大きさをほぼ維持しながら、図19(B)中に矢印B1で示すように右側へ折り返すという、不自然な動作を強いられる。このため、上記折り返しタイプのカフは、被測定者が独りで装着するのに少しコツを要するという問題がある。
そこで、本出願人は、先に、新規な血圧測定用カフおよびその装着方法を提案した(特願2013−042843号)。
上記血圧測定用カフおよびその装着方法によれば、装着途中に、既述の折り返しタイプのカフの場合とは異なり、不自然な動作を強いられることがないので、被測定者が独りで容易に装着を行うことができる。
この発明の課題は、さらに改善された、被測定者が独りで容易に装着可能な血圧測定用カフを提供することにある。
また、この発明の課題は、そのようなカフを被測定者が被測定部位に独りで容易に装着できる血圧測定用カフ装着方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、この発明の血圧測定用カフは、
被測定部位を周方向に沿って一方向に取り巻く血圧測定用カフであって、
上記被測定部位に接すべき内布とこの内布に対向する外布とで流体袋を内包してなる帯状体と、
上記外布の内周端側の領域に、リング取付部材を介して取り付けられたリングと、
上記内布の外周端側の領域に設けられ、上記外布に着脱可能に固定される面ファスナと
を備え、
上記リングは、上記周方向に対して交差する方向に延在する第1の辺と、この第1の辺に沿って延在する第2の辺と、上記第1、第2の辺の端部同士をつなぐ一対の連結部とを含み、上記第1の辺の少なくとも一部が上記リング取付部材に取り囲まれて上記外布の上記内周端側の領域に取り付けられており、
上記リングは、装着途中に、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングを通して上記被測定部位から遠ざかる向きに腕力で引き出されるのを許容する一方、上記腕力によって引き出された上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記被測定部位の弾性力によって上記リングを通して引き戻されるのを抑制する仮止め構造を有し、
上記仮止め構造は、
上記第2の辺の周りに揺動可能に嵌合されたスリーブ部材を含み、
上記スリーブ部材が上記第2の辺の周りの揺動範囲内にあるとき、自然状態で、上記リング取付部材の外周面と上記スリーブ部材の外周面との間に、上記帯状体を通すことが可能な隙間があり、
上記スリーブ部材の外周面のうち上記第1の辺に対向し得る範囲に、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が引き出される上流側から下流側へ向かって、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングを通して上記被測定部位から遠ざかる向きに腕力で引き出されるとき、上記外布を滑らせる第1領域と、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記被測定部位の弾性力によって上記リングを通して引き戻されるとき、上記帯状体に連れて上記スリーブ部材が上記第2の辺の周りに回転することによって上記隙間に入り、上記外布に引っ掛かって摩擦力を与える突起を有する第2領域とを順に備えることを特徴とする。
本明細書で、「被測定部位」とは、被測定者の血圧を測定するために、上腕、手首等のカフで取り巻くことが可能な部位を指す。
被測定部位を「周方向に沿って一方向に取り巻く」とは、カフ(帯状体)が、折り返されることなく、被測定部位を周方向に沿って重ねられて取り巻くことを意味する。言い換えれば、被測定部位の長手方向に沿って見た断面視で、カフ(帯状体)が被測定部位を渦巻き状に取り巻くことを意味する。
帯状体が「流体袋を内包」するとは、流体袋の実体部分、すなわち流体室が、帯状体に内包されていることを意味する。必ずしも、流体袋全体が帯状体によって完全に取り囲まれていることを意味するものではない。例えば、流体袋のうち流体室以外の周縁に存在する部分が、帯状体の外部へ露出していてもよい。
また、「内布」および外布」は、布だけではなく、一層あるいは複数層の樹脂からなっていても良い。
「内周端」とは、カフ(帯状体)が被測定部位を周方向に沿って一方向(断面視で渦巻き状)に取り巻くときに、内周となる側の端部を指す。
「外周端」とは、カフ(帯状体)が被測定部位を周方向に沿って一方向(断面視で渦巻き状)に取り巻くときに、外周となる側の端部を指す。
第1領域が「外布を滑らせる」とは、その第1領域が外布に与える摩擦力が、上記帯状体を引き出す腕力に比して十分に小さいことを意味する。
この発明の血圧測定用カフは、例えば次のようにして被測定部位(説明の便宜のために左腕に巻く用のカフとする。)に装着される。まず、被測定者は、上記帯状体の外布を外側にして、上記帯状体の上記外周端側の上記面ファスナが設けられている領域が上記リングを通過した状態で、上記帯状体を左腕よりも十分に太い筒状にする。次に、被測定者にとって上記筒状の帯状体が左巻きの渦巻き状(内周端から外周端へ向かって反時計回り)に見える側から、この筒状の帯状体の中に左腕を通す。そして、上記リングが上記被測定部位の下方または右側方にくるように調整する。次に、被測定者は、右手で上記帯状体の外周端を上記帯状体がなす筒に対して径方向外向き(上記被測定部位から遠ざかる向きであり、この例では上記被測定部位に対する上記リングの位置に応じて下方または右側方となる。)に一旦引っ張り、上記帯状体の内布と左腕との間の隙間を実質的に無くす(この動作を適宜「仮止め」と呼ぶ。)。このとき、上記リングは、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングを通して上記径方向外向き(この例では下方または右側方)に右手の腕力で引き出されるのを許容する。具体的には、例えば、仮止め開始時に、上記スリーブ部材の外周面のうち上記第1領域と上記第2領域との間の境界が上記第1の辺に対向する位置(これを適宜「中立位置」と呼ぶ。)の近傍にあるものとする。この中立位置の近傍から、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングを通して上流側から下流側へ向かって引き出されるのに連れて、上記リングの第2の辺の周りに揺動可能に嵌合されたスリーブ部材が、上記第2の辺の周りに回転して、上記スリーブ部材の外周面のうちの第1領域が上記第1の辺に対向する角度位置(これを「第1の角度位置」と呼ぶ。)に来る。これにより、上記第1領域が上記帯状体の外布に接する状態になり、上記帯状体の外布を滑らせる。したがって、被測定者は、上記帯状体の上記外周端に連なる領域を容易に引き出すことができる。一方、上記リングの仮止め構造は、上記腕力によって引き出された上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記被測定部位の弾性力によって上記リングを通して引き戻されるのを抑制する。具体的には、仮止めの動作の後、被測定者が右手で引っ張る力を緩めたとする。上記被測定部位の弾性力によって、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングを通して戻ろうとすると、上記リングの第2の辺の周りに揺動可能に嵌合されたスリーブ部材が、引き出しの時とは逆向きに、上記帯状体に連れて上記第2の辺の周りに回転して(これにより、上記帯状体が少しだけ緩む。この緩む量を「設定緩み量」と呼ぶ。)、上記スリーブ部材の外周面のうちの第2領域が上記第1の辺に対向する角度位置(これを「第2の角度位置」と呼ぶ。)に来る。これにより、上記第2領域が上記帯状体の外布に接する状態になり、上記帯状体の外布に摩擦力を与える。具体的には、上記第2領域の上記突起が上記隙間に入り、上記帯状体の外布に引っ掛かって摩擦力を与える。したがって、上記帯状体が上記設定緩み量を超えて緩むのを抑制できる。この後、被測定者は、右手で(例えば、右手を左腕よりも胴体に近い側で上方へ動かして)、上記帯状体の上記外周端に連なる領域を、左腕の周方向に沿って、上記帯状体の上記リングを越えていない部分の向きと同じ向きに揃える。これにより、上記内布の上記外周端側の領域に設けられた面ファスナを上記外布の対向する部分に固定する(この動作を適宜「本固定」と呼ぶ。)。このようにして、このカフが被測定部位としての左腕に周方向に沿って一方向に装着される。すなわち、被測定者が被測定部位の長手方向に沿って見たとき、左巻きの渦巻き状に装着される。
なお、被測定部位を右腕とする場合は、左右を反転させた構造のカフを作成し、上述の装着の仕方の説明において「左」を「右」と読み替えれば良い。また、被測定部位を手首等とする場合は、「上腕」を「手首」等と読み替えれば良い(以下の説明において同様。)。
このように、この血圧測定用カフは、装着途中に、既述の折り返しタイプのカフの場合とは異なり、不自然な動作を強いられることがない。特に、上述の左腕への仮止め時に、被測定者は、右手で上記帯状体の上記外周端を上記径方向外向き(上の例では下方または右側方)に一旦引っ張れば足りる。この仮止めの動作は、手が体の側方からさらに側方へ遠ざかる向きの動作ではなく、また、本固定が完了するまで上記帯状体の張力を維持するように被測定者が腕力を出し続ける必要も無い。したがって、この血圧測定用カフは、被測定者が独りで容易に装着することができる。例えば、腕が太くて体の側方へ手を伸ばしにくい肥満者や、体が硬い高齢者や、あまり腕力を出せない病人でも、独りで容易に装着可能である。
また、本固定完了後の装着状態では、この血圧測定用カフは、被測定部位を周方向に沿って一方向に取り巻く。つまり、被測定部位の周方向に沿った全域で、内布は隠れており、表側に見えるのは外布だけである。一般に、被測定部位を圧迫するために、内布は伸縮性が大きく、外布は内布に比して伸縮性が小さく(または非伸縮性に)設定される。その場合、血圧測定のために上記流体袋に空気がポンプで圧送されたとき、この血圧測定用カフでは、表側に見える布(外布)が無用に外側(被測定部位と反対の側)へ膨張することがない。したがって、上記流体袋への空気の供給量を抑えて加圧の効率を高めることができる。
また、この血圧測定用カフでは、表側に見える布(外布)が無用に外側へ膨張することがないので、被測定者に不安感を与えることがない。
さらに、この血圧測定用カフでは、表側に見える布(外布)が無用に外側へ膨らむことがないので、上記帯状体内で上記流体袋を周方向(長手方向)に関して大部分の領域にわたって延在させる配置が可能となる。そのような配置によれば、上記折り返しタイプのカフの場合の空気袋の周方向延在範囲の制約(後述)を受けなくなって、このカフの仕様として設定される被測定部位の周方向寸法の範囲(最小周長から最大周長までの範囲を指す。以下同様。)を広げることができる。
また、知られているように、被測定部位の動脈を圧迫する圧迫力は、上記流体袋の周方向の寸法とそれに対して交差する幅方向の寸法とに依存する。上記流体袋の周方向寸法、幅方向寸法が大きい方が圧迫力は大きくなる。ここで、上記流体袋を周方向に関して大部分の領域にわたって延在させる配置によれば、必要な圧迫力を得るために、むしろ上記流体袋の幅方向寸法を小さくすることが可能となる。そのように上記流体袋の幅方向寸法を小さくし、それに伴って上記帯状体の幅方向寸法を小さくすれば、この血圧測定用カフは、被測定者がより容易に装着することができる。また、上記流体袋と上記帯状体の幅方向寸法を小さくすれば、材料費を低減できる。したがって、この血圧測定用カフは、低コストで作製可能となる。
被測定者が左腕から上記カフを取り外すときは、まず、右手で上記内布の上記外周端側の領域に設けられた面ファスナを上記外布の対向する部分から引き剥がす(本固定解除)。次に、例えば、上記帯状体と左腕との間に右手の指を入れて、上記帯状体の筒径が広がるように、上記スリーブ部材の上記第2領域による摩擦力を超える力を加える。すると、上記帯状体の上記外周端に連なる領域は、上記第2領域による摩擦力を受けながら、上記リングを通して引き戻される。これにより、上記帯状体が左腕よりも十分に太い筒状になる(仮止め解除)。この後、左腕から上記カフが取り外される。
なお、上記折り返しタイプのカフでは、先端部近傍の折り返された領域では、表側に見えるのは内布であることから、仮に折り返された領域に空気袋が延在していると、血圧測定のために上記空気袋に空気がポンプで圧送されたとき、表側に見える布(内布)が無用に外側(被測定部位と反対の側)へ膨張する。このため、上記空気袋への空気の供給量が増えて加圧の効率が低下する。また、被測定者にその膨張が異常ではないかとの不安感を与える。したがって、上記折り返しタイプのカフでは、実際問題として、上記空気袋は周方向に関して折り返し用金具を超えて延在することができない。この空気袋の周方向延在範囲の制約のせいで、このカフの仕様として設定される被測定部位の周方向寸法の範囲が狭くなる。詳しくは、折り返された領域に空気袋が延在できないため、最小周長は、上記空気袋の周方向寸法を下回ることができない。また、上記帯状体の周方向寸法に比して上記空気袋の周方向寸法が小さく抑えられるため、最大周長は比較的小さい寸法に制限される(一般に、上記空気袋の周方向寸法は、このカフが適用される最大周長の約2/3以上必要であるとされている。)。また、必要な圧迫力を得るために、上記空気袋の幅方向寸法を小さくできず、それに伴って上記帯状体の幅方向寸法も小さくできない。
また、医療機関向けのカフとしては、被測定部位を周方向に沿って一方向に取り巻くタイプのカフであって、上述のリングや仮止め構造を有しないものが普及している。しかしながら、そのような医療機関向けカフは、患者(被測定者)の被測定部位に対して、医療従事者(医師や看護師など)が両手を使って装着することを想定しており、被測定者自らが装着するのは困難である。
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記スリーブ部材の上記第2の辺の周りの揺動範囲を、上記スリーブ部材の外周面のうちの上記第1領域が上記第1の辺に対向する第1の角度位置から上記第2領域が上記第1の辺に対向する第2の角度位置までの範囲に規制する規制要素を備えたことを特徴とする。
この一実施形態の血圧測定用カフでは、規制要素は、上記スリーブ部材の上記第2の辺の周りの揺動範囲を、上記スリーブ部材の外周面のうちの上記第1領域が上記第1の辺に対向する第1の角度位置から上記第2領域が上記第1の辺に対向する第2の角度位置までの範囲に規制する。したがって、上述の仮止めの動作によって、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングを通して引き出される時、上記帯状体に連れて上記スリーブ部材が上記第2の辺の周りに回転しても、上記第1の角度位置で止まる。したがって、上記第1領域が上記帯状体の外布に確実に接する状態になり、上記帯状体の外布を確実に滑らせる。したがって、被測定者は、上記帯状体の上記外周端に連なる領域を容易に引き出すことができる。また、上述の仮止めの動作の後、被測定者が右手で引っ張る力を緩めて、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングを通して戻ろうとする時、引き出しの時とは逆向きに、上記帯状体に連れて上記スリーブ部材が上記第2の辺の周りに回転しても、上記第2の角度位置で止まる。したがって、上記第2領域が上記帯状体の外布に確実に接する状態になり、上記帯状体の外布に摩擦力を確実に与える。したがって、上記帯状体が上記設定緩み量を超えて緩むのを確実に抑制できる。
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記規制要素は、第1の規制要素として、上記スリーブ部材の外周面を含み、
上記スリーブ部材の上記第2の辺に垂直な断面の半径が、このスリーブ部材の周りで上記第1領域と上記第2領域との間の境界から遠ざかるにつれて次第に大きくなっており、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングに通されている状態で上記スリーブ部材が上記第2の辺の周りに回転すると、上記スリーブ部材の外周面が上記リングを通る上記帯状体の外布に当接して係止されることを特徴とする。
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングに通されている状態で上記スリーブ部材が上記第2の辺の周りに回転すると、上記スリーブ部材の外周面が上記リングを通る上記帯状体の外布に当接して係止される。これにより、既述のように、上記スリーブ部材の上記第2の辺の周りの揺動範囲が、上記スリーブ部材の外周面のうちの上記第1領域が上記第1の辺に対向する第1の角度位置から上記第2領域が上記第1の辺に対向する第2の角度位置までの範囲に規制される。したがって、上述の仮止めの動作時に、被測定者は、上記帯状体の上記外周端に連なる領域を容易に引き出すことができる。また、上述の仮止めの動作の後、上記第2領域が上記帯状体の外布に確実に接する状態になり、上記帯状体の外布に摩擦力を確実に与える。したがって、上記帯状体が上記設定緩み量を超えて緩むのを確実に抑制できる。
一実施形態の血圧測定用カフでは、
上記規制要素は、第2の規制要素として、上記スリーブ部材の長手方向の端面から突出し、かつ上記スリーブ部材の中心の周りで上記第1領域に対応する予め定められた箇所に配置されたピンを含み、
上記ピンは、上記スリーブ部材が上記第2の辺の周りに回転すると上記リングの上記連結部に当接して係止され、これにより、上記第1の角度位置を、上記第1の規制要素としての上記スリーブ部材の外周面によって定められる角度位置に比して、上記スリーブ部材の外周面のうちの上記第1領域と上記第2領域との間の境界が上記第1の辺に対向する中立位置により近い角度位置に規制することを特徴とする。
上記スリーブ部材の外周面のうち特に上記第1領域において、上記第2の辺に垂直な断面の半径がこのスリーブ部材の周りで上記第1領域と上記第2領域との間の境界から遠ざかるにつれて次第に大きくなっている場合は、上述の仮止めの動作によって、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が引き出されるのに連れて上記スリーブ部材が上記第2の辺の周りに回転すると、上記帯状体が上記スリーブ部材の外周面と上記リング取付部材の外周面との間の隙間に挟まって、無視できない摩擦力を受ける可能性が生ずる。ここで、この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記規制要素は、第2の規制要素として、上記スリーブ部材の長手方向の端面から突出し、かつ上記スリーブ部材の中心の周りで上記第1領域に対応する予め定められた箇所に配置されたピンを含む。そして、上記ピンは、上記スリーブ部材が上記第2の辺の周りに回転すると上記リングの上記連結部に当接して係止され、これにより、上記第1の角度位置を、上記第1の規制要素としての上記スリーブ部材の外周面によって定められる角度位置に比して、中立位置(すなわち、上記スリーブ部材の外周面のうちの上記第1領域と上記第2領域との間の境界が上記第1の辺に対向する位置)により近い角度位置に規制する。したがって、上記スリーブ部材の外周面と上記リング取付部材の外周面との間の隙間を確保でき、上記帯状体が上記スリーブ部材の外周面と上記リング取付部材の外周面との間の隙間に挟まるような事態を回避できる。この結果、被測定者は、上記リングを通して上記帯状体の外周端に連なる領域を容易に引き出すことができる。
また、この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記第1の角度位置が上記中立位置に対してより近い角度位置になることから、上述の設定緩み量(すなわち、仮止めの動作の後、上記スリーブ部材が第2の辺の周りに上記第1の角度位置から上記第2の角度位置まで回転することに伴う上記帯状体の緩み)を少なくすることができる。したがって、上述の仮止めの動作の後、本固定までの間に、上記帯状体が緩むのをさらに抑制できる。
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記突起は、上記帯状体が予め定められた設定量(設定緩み量)を超えて緩むのを抑制することを特徴とする。
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上述の仮止めの動作の後、上記スリーブ部材が、引き出しの時とは逆向きに、上記帯状体に連れて上記第2の辺の周りに上記第2の角度位置まで回転したとき、上記帯状体が上記設定緩み量を超えて緩むのを確実に抑制できる。
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記第2領域の上記突起の先端は、上記スリーブ部材の長手方向に沿って見たとき、このスリーブ部材の周りで上記第1領域と上記第2領域との間の境界から遠ざかる向きに傾斜して突出していることを特徴とする。
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記第2領域の上記突起の先端は、上記スリーブ部材の長手方向に沿って見たとき、このスリーブ部材の周りで上記第1領域と上記第2領域との間の境界から遠ざかる向きに傾斜して突出している。したがって、上述の仮止めの動作の後、上記スリーブ部材が、引き出しの時とは逆向きに、上記帯状体に連れて上記第2の辺の周りに上記第2の角度位置まで回転したとき、上記突起の先端が上記帯状体の外布に確実に引っ掛かって大きな摩擦力を与える。したがって、上記帯状体が上記設定緩み量を超えて緩むのを確実に抑制できる。
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記第2領域の上記突起は、複数設けられ、このスリーブ部材の周りに沿って並べて配置されていることを特徴とする。
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記第2領域の上記突起は、複数設けられ、このスリーブ部材の周りに沿って並べて配置されている。したがって、上述の仮止めの動作の後、上記スリーブ部材が、引き出しの時とは逆向きに、上記帯状体に連れて上記第2の辺の周りに回転するとき、複数の突起のうちいずれかが、上記帯状体の外布に引っ掛かって摩擦力を与える。したがって、上記帯状体が上記設定緩み量を超えて緩むのを確実に抑制できる。
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記第1の辺の周りに長手方向に沿って延在する拡径部が設けられ、この拡径部を上記リング取付部材が取り巻いていることを特徴とする。
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記第1の辺の周りに長手方向に沿って延在する拡径部が設けられ、この拡径部を上記リング取付部材が取り巻いている。したがって、上記拡径部の径方向の厚さに応じて、上記スリーブ部材の外周面と上記リング取付部材の外周面との間の隙間の寸法(最近接距離)を設定することが容易になる。これにより、上記リング自体を構成するために、従来の折り返しタイプのカフに用いられているような折り返し金具と同様のものを用いることが容易になる。そのようにした場合、プラスチック材料を用いる場合に比して、上記リングの機械的強度を高めることが容易になる。
なお、上記隙間の寸法は、上記帯状体の厚さよりも若干だけ大きく設定される。その理由は、第1に、上記スリーブ部材が上記中立位置の近傍にあるとき、この隙間を通して上記帯状体の上記外周端に連なる領域が円滑に引き出されるため、第2に、上述の仮止めの動作の後、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングを通して戻ろうとする時、上記スリーブ部材の上記第2領域の上記突起が上記隙間に入り、上記帯状体の外布に引っ掛かって摩擦力を与えるようにするためである。本明細書で、上記帯状体の「厚さ」とは、面ファスナなどを除いた上記帯状体自体の厚さを指す。また、上記帯状体の領域によって厚さが異なる場合は、最大の厚さを指す。
また、この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記拡径部が設けられていない場合に比して、上記リング取付部材の外周面の曲率が小さくなる。この結果、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が通る方向に関して、上記スリーブ部材の外周面と上記リング取付部材の外周面との間の距離の変化が少なくなる。したがって、上述の仮止めの動作の後、上記スリーブ部材が、引き出しの時とは逆向きに、上記帯状体に連れて上記第2の辺の周りに上記第2の角度位置まで回転したとき、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が通る方向に関して、上記スリーブ部材の外周面のうちの上記第2領域の上記突起が上記帯状体の外布に接し得る範囲が広がり、上記帯状体の外布に確実に摩擦力を与える。したがって、上記帯状体が上記設定緩み量を超えて緩むのを確実に抑制できる。
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記拡径部は弾性材料からなることを特徴とする。
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記拡径部は弾性材料からなる。したがって、上述の仮止めの動作の後、上記スリーブ部材が、引き出しの時とは逆向きに、上記帯状体に連れて上記第2の辺の周りに上記第2の角度位置まで回転して、上記スリーブ部材の外周面のうちの上記第2領域が上記帯状体の外布に接する状態になったとき、上記第2領域の上記突起から上記帯状体と上記リング取付部材とを介して押圧力を受けて、上記拡径部の外周面の曲率が小さくなるように弾性変形する。これにより、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が通る方向に関して、上記スリーブ部材の外周面のうちの上記第2領域の上記突起が上記帯状体の外布に接し得る範囲がより広がり、上記帯状体の外布により確実に摩擦力を与える。したがって、上記帯状体が上記設定緩み量を超えて緩むのをより確実に抑制できる。
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記第2の辺の周りの上記スリーブ部材の外周面のうち上記第1の辺に対向する側で、かつ長手方向に関して特定の箇所に、上記周方向に関して上記流体袋内の流体の流通を許容する窪みが設けられていることを特徴とする。
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記第1の辺の周りの上記拡径部の外周面または上記第2の辺の周りの上記スリーブ部材の外周面のうち上記第1の辺に対向する側で、かつ長手方向に関して特定の箇所に、上記周方向に関して上記流体袋内の流体の流通を許容する窪みが設けられている。したがって、既述のような上記帯状体内で上記流体袋を周方向(長手方向)に関して大部分の領域にわたって延在させる配置をとった場合に、上記窪みのおかげで、上記周方向に関して上記流体袋内の流体の流通が許容される。したがって、上記流体袋の周方向に関する全域にわたって流体の供給、排気が円滑に行われる。この結果、この血圧測定用カフを用いた血圧測定が円滑に行われる。
また、上記第1の辺の周りに上記拡径部が設けられている場合は、上記拡径部の長手方向に関して特定の箇所に、上記周方向に関して上記流体袋内の流体の流通を許容するように、上記拡径部の外周に沿った環状の窪みが設けられているのが望ましい。その場合、上記リング取付部材のうち上記拡径部の窪みに対応する領域に、切り欠きが設けられているのが望ましい。これにより、上記流体袋の周方向に関する全域にわたって流体の供給、排気が円滑に行われる。この結果、この血圧測定用カフを用いた血圧測定が円滑に行われる。
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記帯状体の厚さが実質的に均一であることを特徴とする。
本明細書で、上記帯状体の「厚さ」とは、既述のように、面ファスナなどを除いた上記帯状体自体の厚さを指す。
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記帯状体の厚さが実質的に均一であるから、上述の仮止めの際に、被測定者は、上記帯状体の上記外周端に連なる領域を、上記スリーブ部材の外周面と上記リング取付部材の外周面との間の隙間を通して容易に引き出すことができる。
なお、上記帯状体(上記内布)の上記面ファスナが設けられている領域(上記面ファスナの厚さの分だけ上記帯状体自体よりもカフ全体として厚くなっている領域)は、製品出荷時に上記リングを通過した状態にあるのが望ましい。
一方、この一実施形態の血圧測定用カフでは、上述の左腕への仮止めの動作の後、被測定者が右手で引っ張る力を緩めたとき、上記リングのところに上記帯状体のうちどの部分が位置しているか否かにかかわらず、言い換えれば、上記被測定部位の周方向の寸法にかかわらず、上記リングの仮止め構造は、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングを通して引き戻されるのを抑制する。
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記帯状体の上記外布は起毛を有し、この起毛は、上記外周端に連なる領域が上記リングを通して引き出される向きに対して順目になっていることを特徴とする。
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記帯状体の上記外布は起毛を有し、この起毛は、上記外周端に連なる領域が上記リングを通して引き出される向きに対して順目になっている。したがって、上述の左腕への仮止めの動作時に、上記帯状体の外布の上記外周端に連なる領域が上記第2の辺の周りの上記スリーブ部材の上記第1領域上を円滑に滑る。したがって、上記帯状体の上記外周端に連なる領域は、上記リングを通して容易に引き出される。一方、上述の仮止めの動作の後、被測定者が上記帯状体を引っ張る力を緩めて、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングを通して戻ろうとする時、上記外布の上記起毛は逆目になる。したがって、上記スリーブ部材の上記第2領域の上記突起が上記帯状体の外布により大きな摩擦力を与える。この結果、上記帯状体が緩むのをより確実に抑制できる。
一実施形態の血圧測定用カフでは、上記帯状体の上記外周端側の上記面ファスナが設けられている領域は上記リングを通過した状態にあり、それにより、上記帯状体は実質的に環状になっている。
ここで、「実質的に環状」とは、上記帯状体が環状になっている部分を有することを意味する。例えば、上記リングを越えた上記帯状体の外周端がその環から外れていてもよい。また、「環状」は、立体的である必要はなく、偏平であってもよいし、折り畳まれていてもよい。
この一実施形態の血圧測定用カフでは、上記帯状体の上記外周端側の上記面ファスナが設けられている領域(上記面ファスナの厚さの分だけ上記帯状体自体よりもカフ全体として厚くなっている領域)は上記リングを通過した状態にあり、それにより、上記帯状体は実質的に環状になっている。したがって、ユーザは、このカフの使用に際して、上記帯状体の外周端から上記面ファスナが設けられている領域までを上記リングに通す必要が無く、手間がかからない。また、逆に、上記面ファスナが抜け止めとなり、上記帯状体の外周端が上記リングから外れにくくなる。
この発明の血圧測定用カフ装着方法は、被測定部位を周方向に沿って一方向に取り巻くように、上記いずれかの血圧測定用カフを装着する血圧測定用カフ装着方法であって、
上記帯状体の外布を外側にして、上記帯状体の上記外周端側の上記面ファスナが設けられている領域が上記リングを通過した状態で、上記帯状体を上記被測定部位よりも太い筒状にするとともに、上記被測定部位が被測定者の左半身に属するときは上記被測定者にとって上記筒状のカフが左巻きの渦巻き状に見える側から上記筒状の帯状体の中に上記被測定部位を通して、上記リングが上記被測定部位の下方または右側方に位置するように調整する一方、上記被測定部位が被測定者の右半身に属するときは上記被測定者にとって上記筒状のカフが右巻きの渦巻き状に見える側から上記筒状の帯状体の中に上記被測定部位を通して、上記リングが上記被測定部位の下方または左側方に位置するように調整する配置ステップを有し、
上記被測定部位が属する半身とは反対側の半身に属する手で上記帯状体の外周端を上記帯状体がなす筒に対して径方向外向きに引っ張り、上記帯状体の内布と上記被測定部位との間の隙間を実質的に無くす仮止めステップを有し、この仮止めステップでは、上記リングは、上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記リングを通して上記径方向外向きに上記手の腕力で引き出されるのを許容する一方、上記リングの仮止め構造は、上記腕力によって引き出された上記帯状体の上記外周端に連なる領域が上記被測定部位の弾性力によって上記リングを通して引き戻されるのを抑制し、
上記手で、上記帯状体の上記外周端に連なる領域を、上記被測定部位の周方向に沿って、上記帯状体の上記リングを越えていない部分の向きと同じ向きに揃えて、上記内布の上記外周端側の領域に設けられた面ファスナを上記外布の対向する部分に固定する本固定ステップを有する。
この発明の血圧測定用カフ装着方法によれば、装着途中に、既述の折り返しタイプのカフの場合とは異なり、不自然な動作を強いられることがない。特に、上述の仮止めステップでは、被測定者は、上記手で上記帯状体の上記外周端を上記径方向外向き(上記被測定部位から遠ざかる向き)に一旦引っ張れば足りる。この仮止めの動作は、手が体の側方からさらに側方へ遠ざかる向きの動作ではなく、また、本固定ステップが完了するまで上記帯状体の張力を維持するように被測定者が腕力を出し続ける必要も無い。したがって、この血圧測定用カフ装着方法によれば、被測定者がカフを被測定部位に独りで容易に装着することができる。例えば、腕が太くて体の側方へ手を伸ばしにくい肥満者や、体が硬い高齢者や、あまり腕力を出せない病人でも、独りで容易に装着可能である。
以上より明らかなように、この発明の血圧測定用カフは、被測定者が独りで容易に装着することができる。
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1、図2は、この発明の一実施形態の血圧測定用カフ(全体を符号1で表す。)を展開状態で、それぞれ外布4側、内布5側から見たところを示している。このカフ1は、被測定部位(例えば左腕)を周方向に沿って一方向に取り巻くことを予定したものである。
このカフ1は、実質的に円弧状に細長く延在する帯状体11を備えている。この帯状体11が延在する方向Xは、被測定部位への装着状態では実質的に被測定部位の周方向に一致される(このため、被測定部位の周方向を適宜同じ符号Xで表す。)。
この帯状体11は、被測定部位に接すべき内布5(図2に示す。)と、この内布5に対向する外布4(図1に示す。)とを備えている。これらの内布5と外布4とは、互いの周縁が環状のライン11mに沿って溶着されて袋状に形成されている(溶着された領域に斜線を付している)。この例では、図6に示すように、内布5は、被測定部位を圧迫するために伸縮性が大きく織られたポリエステル布51と、このポリエステル布51の裏側に接着されたポリウレタンフィルム52とからなっている。外布4は、ナイロン糸で編まれたナイロン布41と、このナイロン布41の裏側に接着され、ナイロン布41よりも粗く実質的に非伸縮性に織られたターポリン層(織り目の隙間に接着用のポリ塩化ビニル(PVC)を含む)43と、このターポリン層43の裏側に接着されたポリウレタンフィルム42とからなっている。ナイロン布41は、編地41bと、この編地41bの表側に設けられた起毛41aとを有している。起毛41aは、後述する面ファスナ(フック)3と係合するようにループ状に形成されている。この起毛41aは、次に述べる外周端11fから見て順目になっている(ループの根元41cよりもループの頂部41dが外周端11fから遠くなる向きに倒れている。)。
図1、図2に示すように、帯状体11は、被測定部位を周方向に沿って一方向(被測定部位の長手方向に沿って見た断面視で渦巻き状)に取り巻くときに、内周となる側の内周端11eと、外周となる側の外周端11fとを有している。この帯状体11の外周端11fに近い箇所で、内布5と外布4とは、延在方向Xに対して垂直な幅方向Yに横切って延びる仕切りライン11nに沿って溶着されている。これにより、内布5と外布4との間に、仕切りライン11nとこの仕切りライン11nの右側(図1、図2において)の環状のライン11mとで、流体袋としての空気袋12が区画されている。この結果として、帯状体11の厚さは実質的に均一になっている。
内布5の外周端11f側の領域5fに、面ファスナ3が設けられている。この面ファスナ3は、図示しないフック状の起毛を有し、外布4(の起毛41a)に着脱可能に固定され得る。
外布4の内周端11e側の領域4eに、リング取付部材7を介して、仮止め構造60を有するリング6が取り付けられている。この例では、リング6は、帯状体11の幅方向Yに沿って取り付けられているが、幅方向Yに対して少し傾斜して取り付けられていてもよい。
図3(A)は、この仮止め構造60を有するリング6を、概ね図2におけるのと同じ側から見たところを示している。図3(B)は、図3(A)に示すリング6を右側方から見たところを示している。図3(C)は、図3(A)におけるC−C線矢視断面を示している。この仮止め構造60を有するリング6は、従来の折り返しタイプのカフ100に用いられているような折り返し金具と同様の長円形状のリング6に、拡径部65と、スリーブ部材2とを取り付けて構成されている。
リング6自体は、図4(A)に示すように、一体に形成された金属材料からなり、帯状体11の幅方向Yに沿って延在する丸棒状の第1の辺61と、この第1の辺61に沿って延在する丸棒状の第2の辺62と、第1、第2の辺61,62の端部同士をつなぐ一対の円弧状の連結部63,64とを含んでいる。この例では、第1、第2の辺61,62の直径はそれぞれ4mm、連結部63,64の円弧の外径はそれぞれ7.5mmに設定されている。リング6の全長は159mmに設定されている。このように、リング6として既存の折り返し金具と同様のものを用いているので、プラスチック材料を用いる場合に比して、リング6の機械的強度を高めることが容易になる。
図4(B)に示すように、リング6の第1の辺61の周りには、長手方向に沿って延在する拡径部65が設けられている。この拡径部65は、弾性材料としてのエラストマからなり、第1の辺61と一体に設けられている。この例では、拡径部65の長さは144mm、拡径部65の外径は8mmにそれぞれ設定されている。図1中に示すように、カフ1の完成状態では、この拡径部65をリング取付部材7が取り巻く。
図5(B)は、図3(A)中に示すスリーブ部材2を単独で示し、また、図5(A)、図5(C)、図5(D)は、それぞれ図5(B)に示すスリーブ部材2を上方、下方、右側方から見たところを示している。図5(C)に示すように、スリーブ部材2の長手方向の長さは145mm、幅は15mmにそれぞれ設定されている。
図5(B)、図5(D)に示すように、このスリーブ部材2は、プラスチック材料(例えばABS樹脂(acrylonitrile butadiene styrene copolymer)からなり、分割面2Cを介して上部2Aと下部2Bとに分割されている(なお、「上部」、「下部」という名称は、説明のための便宜上のものである。)。
図5(D)に示すように、このスリーブ部材2は、概ね楕円形状の断面を有している。下部2Bの輪郭は、長軸の長さが15mmで短軸の長さが12mmの楕円Isに沿っている。上部2Aの輪郭は、楕円Isよりも偏平な楕円、より詳しくは、長軸の長さが15mmで、短軸の長さが楕円Isの短軸の長さよりも片側において1.6mmだけ短い楕円に沿っている。スリーブ部材2のうち楕円Isの中心に相当する箇所には、第2の辺62を嵌合させるための孔29が形成されている。孔29の内径寸法は、リング6の第2の辺62の外径寸法と略同じに、約4mmに設定されている(より正確には、スリーブ部材2を揺動させるために、孔29の内径寸法はリング6の第2の辺62の外径寸法よりも若干大きく設定されている)。
図5(A)、図5(D)に示すように、スリーブ部材2の外周面2Sのうち第1の辺61に対向し得る範囲(上部2A)には、後述の帯状体11の外周端11fに連なる領域が引き出される上流側から下流側へ向かって、外布4を滑らせる第1領域21と外布4に摩擦力を与える第2領域22とが順に設けられている。第1領域21は平滑に形成されている。一方、第2領域22には、外布4に引っ掛かって摩擦力を与えるための2個の突起25A,25B(適宜、符号25で総称する。)が形成されている。これらの突起25A,25Bは、それぞれスリーブ部材2の長手方向に沿って延在し、スリーブ部材2の周りに沿って並べて配置されている。この例では、突起25A,25Bの周方向の間隔(スリーブ部材2の中心からの見込み角)は、約30°に設定されている。突起25A,25Bの先端は、図5(D)に示すようにスリーブ部材2の長手方向に沿って見たとき、このスリーブ部材2の周りで第1領域21と第2領域22との間の境界20から遠ざかる向きに傾斜して突出している。
図5(A)、図5(B)に示すように、スリーブ部材2の上部2Aのうち長手方向に関して特定の箇所(この例では左右の2箇所)に、窪み27,28が設けられている。これらの窪み27,28は、このカフ1を用いた血圧測定時に、周方向Xに関して空気袋12内の流体の流通を許容する。
図3(A)に示すように、リング6に仮止め構造60を設けるために、リング6の第1の辺61の周りに拡径部65が設けられる。一方、リング6の第2の辺62の周りに、スリーブ部材2が揺動可能に取り付けられる。具体的には、スリーブ部材2の上部2Aと下部2Bとをそれぞれ作製しておく。そして、スリーブ部材2の上部2Aがリング6の第1の辺61に対向し、孔29がリング6の第2の辺62を取り囲む態様で、接着剤によって上部2Aと下部2Bとを分割面2Cで互いに接着する。なお、上部2Aと下部2Bのうち一方にフック、他方にそのフックに係合する孔を設けておき、上部2Aと下部2Bとを組み合わせると上記フックが上記孔に嵌まって係合され、これにより、上部2Aと下部2Bとが互いに分離しなくなる取り付け態様としてもよい。
ここで、図3(C)に示すように、スリーブ部材2の外周面2S(ここでは、リング6の第1の辺61に対向する上部2Aの外周面を指す。)では、断面の半径Rが、このスリーブ部材2の周りで第1領域21と第2領域22との間の境界20から遠ざかるにつれて次第に大きくなっている。この結果、スリーブ部材2が第2の辺62の周りに回転すると、スリーブ部材2の外周面2Sが、第1の規制要素として働いて、第1の辺61の拡径部65(このカフ1の完成状態では、リング取付部材7の外周面またはリング6を通る帯状体11の外布4)に当接して係止される。つまり、スリーブ部材2の第2の辺62の周りの揺動範囲が規制される。この結果、スリーブ部材2は、第2の辺62の周りに揺動可能に嵌合された状態になる。これにより、リング6の仮止め構造60が構成される。
この仮止め構造60は、後述する仮止め時に、帯状体11の外周端11fに連なる領域が被測定部位の弾性力によってリング6を通して引き戻されるのを抑制するように、帯状体11のうちリング6(より正確には、リング取付部材7の外周面とスリーブ部材2の外周面2Sとの間の隙間69を指す。)を通る部分に対して摩擦力を与える。
図1および後述の例えば図11によって分かるように、リング取付部材7は、リング6の第1の辺61の拡径部65を取り囲む筒状部分7aと、この筒状部分7aを外布4に連結するための平坦部分7bとを含んでいる。この例では、筒状部分7aは、内布5と同じ布材(表側にポリエステル布51、裏側にポリウレタンフィルム52を有する。)からなっている。平坦部分7bは、外布4と同じ布材(表側にナイロン布41、中間にターポリン層43、裏側にポリウレタンフィルム42を有する。)からなっている。
この例では、リング取付部材7は、図11中に示すように、筒状部分7aを、リング6の第1の辺61の拡径部65を取り囲むように折り返し、筒状部分7aの先端7e,7eによって平坦部分7bを挟み、2本のライン7s,7tに沿って縫製して形成されている。平坦部分7bは、図1中に示すように外布4の内周端11e側の領域4eに溶着して固定されている(溶着された領域7mに斜線を付して示している)。
このリング取付部材7によってリング6が取り付けられている結果として、リング6が第1の辺61の周りに回動できる。したがって、例えば後述する装着時に、被測定部位を取り囲む帯状体11に対してリング6が適切な角度(姿勢)をとることができる。
また、帯状体11の外布4には、空気袋12に給排気を行うためのニップル8が設けられている。ニップル8は外布4の略中央部に溶着して取り付けられている(溶着された領域8mに斜線を付して示している)。このニップル8には、図8中に示すエアチューブ88が接続される。
上記カフ1を製造する工場の製品出荷時に、帯状体11の外周端11f側の面ファスナ3が設けられている領域(面ファスナ3の厚さの分だけ帯状体11自体よりもカフ全体として厚くなっている領域)は、リング6を通過した状態にあり、それにより、帯状体11は実質的に環状になっている。このようにすれば、ユーザは、このカフの使用に際して、帯状体11の外周端11fから面ファスナ3が設けられている領域までをリング6に通す必要が無く、手間がかからない。また、逆に、面ファスナ3が抜け止めとなり、帯状体11の外周端11fがリング6から外れにくくなる。
図7は、被測定部位としての左腕90に上記カフ1を装着する装着方法のフローを示している。この装着方法は、被測定者が、大別して、配置ステップS1と、仮止めステップS2と、本固定ステップS3とを、この順に実行する。
(1)配置ステップS1では、まず図8に示すように、被測定者は、帯状体11の外布4を外側にして、帯状体11の外周端11f側の面ファスナ3が設けられている領域がリング6を通過した状態で、帯状体11を左腕90よりも十分に太い筒状にする(図7のステップS1−1)。
なお、図3(C)によって説明したように、スリーブ部材2の外周面2Sが、第1の規制要素として働いて、スリーブ部材2の第2の辺62の周りの揺動範囲を規制している。これにより、スリーブ部材2の上部2Aが、常にリング6の第1の辺61に対向する側にある。したがって、被測定者は、帯状体11を筒状にするとき、スリーブ部材2の第2の辺62の周りの角度位置を気にする必要が無い。
次に、図8に示すように、被測定者にとって筒状の帯状体11が左巻きの渦巻き状(内周端11eから外周端11fへ向かって反時計回り)に見える側から、この筒状の帯状体11の中に左手91ないし左腕90を通す(図7のステップS1−2)。
次に、帯状体11が左腕90の上腕部を取り囲むとともに、この例ではリング6が左腕上腕部のほぼ真下に位置するように調整する(図7のステップS1−3)。なお、正確に真下でなくても、リング6が左腕上腕部の下方に位置すれば足りる。実際には、エアチューブ88の位置を上側に合わせる。または、カフ1(帯状体11)に目印を付けておきそれを例えば腕の中心に合わせるなどでもよい。この正しい位置にカフを装着した場合、上記カフ1の構造では、リング6の位置が、腕の下方から右側方の範囲内になる。
このようにして、筒状の帯状体11の中に左腕90を位置させる。
(2)仮止めステップS2では、図9に示すように、被測定者は、右手92で帯状体11の外周端11fを帯状体11がなす筒に対して径方向外向き(左腕90から遠ざかる向きであり、この例では左腕90に対するリング6の位置に応じて下方C1となる。)に一旦引っ張り、帯状体11の内布5と左腕との間の隙間を実質的に無くす(この動作を適宜「仮止め」と呼ぶ。)。なお、図9中の矢印C2,C3は、右手92の腕力によってそれぞれ帯状体11、リング取付部材7が受ける張力を示している。
このとき、リング6は、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xがリング6を通して径方向外向き(この例では下方C1)に右手92の腕力で引き出されるのを許容する。具体的には、例えば、仮止め開始時に、図8中に示すように、スリーブ部材2の外周面2Sのうち第1領域21と第2領域22との間の境界20が第1の辺61に対向する位置(これを適宜「中立位置」と呼ぶ。)の近傍にあるものとする。この中立位置の近傍から、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xがリング6を通して上流側から下流側へ向かって引き出されるのに連れて、図11に示すように、リング6の第2の辺62の周りに揺動可能に嵌合されたスリーブ部材2が、第2の辺62の周りに回転して、スリーブ部材2の外周面2Sのうちの第1領域21が第1の辺61に対向する角度位置(これを「第1の角度位置」と呼ぶ。)に来る。この時、スリーブ部材2の第1領域21が、第1の規制要素として働いて、リング6を通る帯状体11の外布4に当接して係止される。したがって、スリーブ部材2は第1の角度位置で止まる。この例では、第1の角度位置は、第1領域21と第2領域22との間の境界20が、リング6の第1の辺61と第2の辺62とを含む平面PLに対して、図11において右回りに角度θ1(この例では、θ1≒−45°)だけ回転した角度位置になっている。これにより、第1領域21が帯状体11の外布4に接する状態になり、帯状体11の外布4を滑らせる。このとき、第1領域21が外布4に与える摩擦力f1は、帯状体11を引き出す腕力に比して十分に小さく、問題にはならない。したがって、被測定者は、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xを容易に引き出すことができる。
また、このカフ1では、帯状体11の厚さが実質的に均一である。したがって、上述の左腕90への仮止めの動作時に、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xは、スリーブ部材2の外周面2Sとリング取付部材7の外周面との間の隙間69を円滑に通過して、さらに容易に引き出される。
また、このカフ1では、帯状体11の外布4は起毛41aを有し、この起毛41aは、外周端11fに連なる領域11xがリング6を通して引き出される向きに対して順目になっている。したがって、上述の左腕90への仮止めの動作時に、帯状体11の外布4の外周端11fに連なる領域11xが第2の辺62の周りのスリーブ部材2の第1領域21上を円滑に滑る。したがって、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xは、リング6を通してさらに容易に引き出される。
また、リング取付部材7の外周面のうちスリーブ部材2の外周面2Sとの間の隙間69をなす部分(筒状部分7a)では、起毛41aは、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xがリング6を通して引き出される向きに対して順目になっている。したがって、上述の左腕90への仮止めの動作時に、帯状体11の内布5がリング取付部材7の外周面に接触したとしても、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xがリング6を通して容易に引き出される。
上述の仮止めの動作の後、被測定者が右手で引っ張る力を緩めたとする。すると、リング6の仮止め構造60は、右手92の腕力によって引き出された帯状体11の外周端11fに連なる領域11xが左腕90の弾性力によってリング6を通して引き戻されるのを抑制する。具体的には、左腕90の弾性力によって、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xがリング6を通して戻ろうとすると、図12に示すように、リング6の第2の辺62の周りに揺動可能に嵌合されたスリーブ部材2が、引き出しの時とは逆向きに、帯状体11に連れて第2の辺62の周りに回転して、スリーブ部材2の外周面2Sのうちの第2領域22が第1の辺61に対向する角度位置(これを「第2の角度位置」と呼ぶ。)に来る。この時、スリーブ部材2の第2領域22の突起25が、第1の規制要素として働いて、リング6を通る帯状体11の外布4に当接して係止される。したがって、スリーブ部材2は第2の角度位置で止まる。この例では、第2の角度位置は、第1領域21と第2領域22との間の境界20が、リング6の第1の辺61と第2の辺62とを含む平面PLに対して、図12において左回りに約15°だけ回転した角度位置になっている。言い換えれば、第1領域21と第2領域22との間の境界20が、第1の角度位置(図11に示すθ1≒−45°)から図12において左回りに角度θ2(この例では、θ2≒+60°)だけ回転した角度位置になっている。このスリーブ部材2の角度θ2の回転に伴って、帯状体11が少しだけ緩む。この緩む量を「設定緩み量Δ」と呼ぶ。ここで、このカフ1では、スリーブ部材2が第2の角度位置(図12)に来たとき、第2領域22に形成された突起25(この例では、突起25A)が帯状体11の外布4に対して強く接触して大きな摩擦力f2を与える。しかも、第2領域22の突起25の先端は、スリーブ部材2の長手方向に沿って見たとき(つまり、図12の断面視で)、このスリーブ部材2の周りで第1領域21と第2領域22との間の境界20から遠ざかる向きに傾斜して突出している。したがって、突起25の先端が帯状体11の外布4に確実に引っ掛かって大きな摩擦力f2を与える。したがって、被測定者が右手92の引っ張る力を緩めても、帯状体11が設定緩み量Δを超えて緩むのを確実に抑制できる。
また、スリーブ部材2の突起25A,25Bは、第2領域22内で並んで、スリーブ部材2の長手方向に沿って延在している。したがって、スリーブ部材2が、引き出しの時とは逆向きに、帯状体11に連れて第2の辺62の周りに回転するとき、スリーブ部材2の第2領域22内に複数並んで形成された突起25A,25Bのうちいずれかが、帯状体11の外布4に引っ掛かって摩擦力f2を与える。したがって、帯状体11が設定緩み量Δを超えて緩むのを確実に抑制できる。
また、上の例では、第1の辺61の周りに拡径部65が設けられ、この拡径部65をリング取付部材7が取り巻いているので、拡径部65の径方向の厚さに応じて、スリーブ部材2の外周面2Sとリング取付部材7の外周面との間の隙間69の寸法(最近接距離)を設定することが容易になる。上記隙間69の寸法は、帯状体11の厚さよりも若干だけ大きく設定されている。
また、拡径部65が設けられていない場合に比して、リング取付部材7の外周面の曲率が小さくなる。この結果、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xが通る方向に関して、スリーブ部材2の外周面2Sとリング取付部材7の外周面との間の距離の変化が少なくなる。したがって、スリーブ部材2の外周面2Sとリング取付部材7の外周面との間の隙間69を帯状体11の外周端11fに連なる領域11xが通る方向に関して、スリーブ部材2の外周面2Sのうちの第2領域22の突起25が帯状体11の外布4に接し得る範囲が広がり、帯状体11の外布4に確実に摩擦力f2を与える。したがって、帯状体11が設定緩み量Δを超えて緩むのを確実に抑制できる。
また、拡径部65は弾性材料としてのエラストマからなる。したがって、上述の仮止めの動作の後、スリーブ部材2が第2の角度位置(図12)まで回転したとき、第2領域22の突起25から帯状体11とリング取付部材7とを介して押圧力f3を受けて、拡径部65の外周面の曲率が小さくなるように弾性変形する。これにより、スリーブ部材2の外周面2Sとリング取付部材7の外周面との間の隙間69を帯状体11の外周端11fに連なる領域11xが通る方向に関して、スリーブ部材2の外周面2Sのうちの第2領域22の突起25が帯状体11の外布4に接し得る範囲がより広がり、帯状体11の外布4により確実に摩擦力f2を与える。したがって、帯状体11が設定緩み量Δを超えて緩むのをより確実に抑制できる。
また、このカフ1では、帯状体11の厚さが実質的に均一であるから、上述の左腕90への仮止めの動作の後、被測定者が右手92で引っ張る力を緩めたとき、リング6のところに帯状体11のうちどの部分が位置しているか否かにかかわらず、言い換えれば、左腕90の周方向Xの寸法にかかわらず、リング6の仮止め構造60は、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xがリング6を通して引き戻されるのを確実に抑制できる。
また、このカフ1では、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xがリング6を通して戻ろうとする時、外布4の起毛41aは逆目になる。したがって、スリーブ部材2の第2領域22の突起25が帯状体11の外布4により大きな摩擦力を与える。したがって、帯状体11が緩むのをより確実に抑制できる。
(3)本固定ステップS3では、図10に示すように、被測定者は、右手92を左腕90よりも胴体に近い側で上方D1へ動かして、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xを、左腕の周方向Xに沿って、帯状体11のリング6を越えていない部分の向きと同じ向きに揃える。これにより、内布5の外周端11f側の領域5fに設けられた面ファスナ3を外布4の対向する部分4xに固定する(この動作を適宜「本固定」と呼ぶ。)。
このようにして、このカフ1が被測定部位としての左腕90に周方向Xに沿って一方向に装着される。すなわち、被測定者が左腕90の長手方向に沿って見たとき、左巻きの渦巻き状に装着される。
このように、この血圧測定用カフ1は、装着途中に、既述の折り返しタイプのカフ100の場合とは異なり、不自然な動作を強いられることがない。特に、上述の左腕への仮止め時に、被測定者は、右手92で帯状体11の外周端11fを径方向外向き(上の例では下方C1)に一旦引っ張れば足りる。この仮止めの動作は、手が体の側方からさらに側方へ遠ざかる向きの動作ではなく、また、本固定が完了するまで帯状体11の張力を維持するように被測定者が腕力を出し続ける必要も無い。したがって、この血圧測定用カフ1は、被測定者が独りで容易に装着することができる。例えば、腕が太くて体の側方へ手を伸ばしにくい肥満者や、体が硬い高齢者や、あまり腕力を出せない病人でも、比較的容易に装着可能である。
本固定完了後の装着状態で、図8中に示すエアチューブ88を通して空気袋12に空気がポンプで圧送または排気され、例えばオシロメトリック法(カフ自体が圧力センサとして脈波の変化を検知する)によって血圧が測定される。なお、カフ1(帯状体11)にマイクロフォンを内蔵しておき、コロトコフ法により、マイクロフォンによって観測された脈拍音に基づいて血圧を測定してもよい。
また、本固定完了後の装着状態では、この血圧測定用カフ1は、左腕90を周方向Xに沿って一方向に取り巻く。つまり、左腕90の周方向Xに沿った全域で、内布5は隠れており、表側に見えるのは外布4だけである。既述のように、外布4は内布5に比して伸縮性が小さく(または非伸縮性に)設定されている。その場合、血圧測定のために空気袋12に空気がポンプで圧送されたとき、この血圧測定用カフ1では、表側に見える布(外布4)が無用に外側(左腕90と反対の側)へ膨張することがない。したがって、空気袋12への空気の供給量を抑えて加圧の効率を高めることができる。
また、この血圧測定用カフ1では、表側に見える布(外布4)が無用に外側へ膨張することがないので、被測定者に不安感を与えることがない。
さらに、この血圧測定用カフ1では、表側に見える布(外布4)が無用に外側へ膨らむことがないので、帯状体11内で空気袋12を周方向X(長手方向)に関して大部分の領域にわたって延在させる配置が可能となる。そのような配置によれば、折り返しタイプのカフ100の場合の空気袋の周方向延在範囲の制約(既述)を受けなくなって、このカフ1の仕様として設定される被測定部位の周方向寸法の範囲(最小周長から最大周長までの範囲を指す。)を広げることができる。
例えば折り返しタイプのカフ100の仕様で被測定部位の周方向寸法の範囲が22cm〜32cmであるものとすると、このカフ1の仕様では被測定部位の周方向寸法の範囲を例えば17cm〜36cmに広げることができる。実際に被測定者の左腕90の周方向寸法がこの範囲内にあれば、帯状体11の空気袋12は左腕90の全周を取り囲むことができる。
また、知られているように、左腕90の動脈を圧迫する圧迫力は、空気袋12の周方向Xの寸法とそれに対して交差する幅方向Yの寸法とに依存する。空気袋12の周方向寸法、幅方向寸法が大きい方が圧迫力は大きくなる。ここで、図1、図2中に示したように空気袋12を周方向Xに関して大部分の領域にわたって延在させる配置によれば、必要な圧迫力を得るために、むしろ空気袋12の幅方向寸法を小さくすることが可能となる。そのように空気袋12の幅方向寸法を小さくし、それに伴って帯状体11の幅方向寸法を小さくすれば、この血圧測定用カフ1は、被測定者がより容易に装着することができる。例えば折り返しタイプのカフ100の仕様でカフの幅方向寸法が125mmであるものとすると、このカフ1の仕様ではカフ(帯状体)の幅方向寸法を例えば115mmに小さくすることができる。また、空気袋12と帯状体11の幅方向寸法を小さくすれば、材料費を低減できる。したがって、この血圧測定用カフ1は、低コストで作製可能となる。
また、このカフ1では、図5(A)、図5(B)に示したように、第2の辺62の周りのスリーブ部材2の外周面2Sのうち第1の辺61に対向する側で、かつ長手方向に関して特定の箇所(この例では2箇所)に、周方向Xに関して空気袋12内の流体の流通を許容する窪み27,28が設けられている。したがって、既述のような帯状体11内で空気袋12を周方向X(長手方向)に関して大部分の領域にわたって延在させる配置をとった場合に、窪み27,28のおかげで、周方向Xに関して空気袋12内の流体の流通が許容される。したがって、空気袋12の周方向Xに関する全域にわたって流体の供給、排気が円滑に行われる。この結果、この血圧測定用カフ1を用いた血圧測定が円滑に行われる。
また、上の例のように第1の辺61の周りに拡径部65が設けられている場合は、拡径部65の長手方向に関して特定の箇所に、周方向Xに関して空気袋12内の流体の流通を許容するように、拡径部65の外周に沿った環状の窪みが設けられているのが望ましい(第1の辺61の一部がその窪みによって露出していてもよい。)。その場合、リング取付部材7のうち拡径部65の窪みに対応する領域に、切り欠きが設けられているのが望ましい。つまり、これにより、空気袋12の周方向Xに関する全域にわたって流体の供給、排気が円滑に行われる。この結果、この血圧測定用カフ1を用いた血圧測定が円滑に行われる。
被測定者が左腕90からカフ1を取り外すときは、まず、右手92で内布5の外周端11f側の領域5fに設けられた面ファスナ3を外布4の対向する部分から引き剥がす(本固定解除)。次に、例えば、帯状体11と左腕90との間に右手92の指を入れて、帯状体11の筒径が広がるように、スリーブ部材2の第2領域22による摩擦力f2を超える力を加える。すると、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xは、第2領域22による摩擦力f2を受けながら、リング6を通して引き戻される。これにより、帯状体11が左腕90よりも十分に太い筒状になる(仮止め解除)。この後、左腕90からカフ1が取り外される。
なお、仮止め解除のためには、被測定者が右手92でリング6の第2の辺62の周りのスリーブ部材2を摘まんで、第2の辺62の周りに回転させて第1の角度位置(図11)にしてもよい。具体的には、スリーブ部材2の外周面2Sのうちの第1領域21が第1の辺61に対向して帯状体11の外布4に接する状態にする。この状態で、右手92でスリーブ部材2をリング6の第2の辺62とともに左腕90から遠ざかる向き(この例では下方C1)に引っ張る。すると、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xは、スリーブ部材2の外周面2Sのうちの第1領域21上を滑って、リング6を通して容易に引き戻される。これにより、帯状体11が左腕90よりも十分に太い筒状になる(仮止め解除)。
なお、左腕90に代えて、被測定部位を右腕とする場合は、左右を反転させた構造のカフを作成し、上述の左腕への装着の仕方、取り外しの仕方の説明において「左」を「右」と読み替えれば良い。また、被測定部位は、カフ1で取り巻くことが可能な部位であれば良く、例えば手首や脚であってもよい。
(変形例)
上述の仮止めの動作によって、図11に示したように、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xが引き出されるのに連れてスリーブ部材2が第2の辺62の周りに回転すると、帯状体11がスリーブ部材2の外周面2Sとリング取付部材7の外周面との間の隙間69に挟まって、無視できない摩擦力を受ける可能性が生ずる。
図13(A)は、その点について対策された変形例の仮止め構造60′を有するリング6を、概ね図2におけるのと同じ側から見たところを示している。図13(B)は、図13(A)に示すリング6を右側方から見たところを示している。図13(C)は、図13(A)におけるC−C線矢視断面を示している。この仮止め構造60′を有するリング6は、既述のスリーブ部材2に代えて、第2の規制要素としてのピン23,24を有するスリーブ部材2′を備えた点のみが異なっている。
図14(A)〜図14(D)は、このスリーブ部材2′を単独で、図5(A)〜図5(D)に対応して示している。図14(A)〜図14(C)において、ピン23,24は、それぞれスリーブ部材2′と一体に形成され、スリーブ部材2′の長手方向の端面から左右対称に突出している。この例では、ピン23,24が突出する寸法は、それぞれ5mmに設定されている。図14(D)に示すように、ピン24(および23)は、スリーブ部材2′の中心の周りで第1領域21に対応する予め定められた箇所に配置されている。具体的には、図13(B)(スリーブ部材2′は、外周面2Sのうちの第1領域21と第2領域22との間の境界20が第1の辺61に対向する中立位置にある。)において、スリーブ部材2′が右回りに約30°回転すると、ピン23,24の側面23S,24Sがリング6の連結部63,64に当接して係止されるような配置になっている。
なお、図13、図14(および後述の図15、図16)においては、既述の構成要素と同じ構成要素については同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
図15(A)は、上記カフが図13の仮止め構造60′を有するリング6を備えた場合に、仮止めのために被測定者が帯状体11の外周端11fを帯状体11がなす筒に対して径方向外向き(この例では下方C1)に引っ張るときの、そのリング6の近傍を側方から見たところを示している。図15(B)は、図15(A)に対応する断面を示している。
図15(A)に示すように、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xがリング6を通して上流側から下流側へ向かって引き出されるのに連れて、リング6の第2の辺62の周りに揺動可能に嵌合されたスリーブ部材2が、第2の辺62の周りに回転する。すると、上述のように、ピン23,24の側面23S,24Sが第2の規制要素として働いて、リング6の連結部63,64に当接して係止される。したがって、図15(B)に示すように、スリーブ部材2′が止まる第1の角度位置は、第1の規制要素としてのスリーブ部材2′の外周面2Sによって定められる角度位置に比して、上記中立位置により近い角度位置に規制される。この例では、第1の角度位置は、第1領域21と第2領域22との間の境界20が、リング6の第1の辺61と第2の辺62とを含む平面PLに対して、図15(B)において右回りに角度θ1′(この例では、θ1′≒−30°)だけ回転した角度位置になっている。したがって、スリーブ部材2′の外周面2Sとリング取付部材7の外周面との間の隙間69を確保でき、帯状体11がスリーブ部材2の外周面2Sとリング取付部材7の外周面との間の隙間69に挟まるような事態を回避できる。この結果、被測定者は、リング6を通して帯状体11の外周端11fに連なる領域11xを容易に引き出すことができる。
図16(A)は、上記カフが図13の仮止め構造60′を有するリング6を備えた場合に、仮止めの動作の後、被測定者が帯状体11を引っ張る力を緩めたときの、そのリング6の近傍を側方から見たところを示している。図16(B)は、図16(A)に対応する断面を示している。
被測定者が帯状体11を引っ張る力を緩めると、図16(B)に示すように、リング6の第2の辺62の周りに揺動可能に嵌合されたスリーブ部材2が、引き出しの時とは逆向きに、帯状体11に連れて第2の辺62の周りに回転して、スリーブ部材2の外周面2Sのうちの第2領域22が第1の辺61に対向する第2の角度位置に来て止まる。この例では、第2の角度位置は、先の例(図12)におけるのと同様に、第1領域21と第2領域22との間の境界20が、リング6の第1の辺61と第2の辺62とを含む平面PLに対して、図16(B)において左回りに約15°だけ回転した角度位置になっている。言い換えれば、この第2の角度位置は、第1領域21と第2領域22との間の境界20が、第1の角度位置(図15(B)に示すθ1′≒−30°)から図12において左回りに角度θ2′(この例では、θ2′≒+45°)だけ回転した角度位置になっている。このスリーブ部材2の角度θ2′の回転に伴って、帯状体11が少しだけ緩む。この角度θ2′(≒+45°)に対応する緩み量(設定緩み量Δ′)は、先の例の角度θ2(≒+60°)に対応する設定緩み量Δに比して、少なくなっている。
このように、この変形例の仮止め構造60′を有するリング6を備えた場合、第1の角度位置が中立位置に対してより近い角度位置(θ1′≒−30°)になることから、設定緩み量を少なくすることができる。したがって、上述の仮止めの動作の後、本固定までの間に、帯状体11が緩むのをさらに抑制できる。
なお、スリーブ部材2′の端面におけるピン23,24の配置を、第1領域21と第2領域22との間の境界20により接近させた配置にしてもよい。例えば、図13(B)において、スリーブ部材2′が右回りに約15°回転すると、ピン23,24の側面23S,24Sがリング6の連結部63,64に当接して係止されるような配置にしてもよい。その場合、上述の仮止めの動作の後、被測定者が帯状体11を引っ張る力を緩めたとき、設定緩み量Δ′を与える角度θ2′は約+30°になり、上の例(θ2′≒+45°)に比してさらに少なくなる。したがって、上述の仮止めの動作の後、本固定までの間に、帯状体11が緩むのをさらに抑制できる。
この変形例では、スリーブ部材2′は、スリーブ部材2と同様に、概ね楕円形状の断面を有するものとした。しかしながら、これに限られるものではない。特に、上部2Aの第1領域21については、断面の半径Rを一定(第1領域21と第2領域22との間の境界20における半径と同じ)にしてもよい。これにより、帯状体11の外周端11fに連なる領域11xが引き出されるのに連れて帯状体11がスリーブ部材2の外周面2Sとリング取付部材7の外周面との間の隙間69に挟まる可能性を無くすことができる。
また、この変形例では、スリーブ部材2′の揺動範囲を規制するために、第1の規制要素としてのスリーブ部材2′の外周面2Sに加えて、第2の規制要素としてのピン23,24を付加的に設けたが、これに限られるものではない。例えば、スリーブ部材の端面において第1領域21、第2領域22に対応する箇所にそれぞれピンを設けて、それらのピンだけで、スリーブ部材の第2の辺62の周りの揺動範囲を規制してもよい。その場合、第2領域22に対応するピンは、突起25の機能を妨げないように、スリーブ部材の端面において、突起25に対応する箇所よりも、第1領域21と第2領域22との間の境界20から遠い箇所に配置されるのが望ましい。
(製造方法)
図17(A1),(A2)〜図17(D)は、上記カフ1の製造の仕方を示している(これらの図は、図1中の幅方向Yに沿って切断した断面に相当する。)。
まず、図17(A1)に示すように、外布4の材料として既述のナイロン布41と、ターポリン層43の材料としてのターポリン生地43′と、ポリウレタンフィルム42とを用意する。図17(B1)に示すように、ナイロン布41の裏側(編地41b側)に、溶融したポリ塩化ビニル(PVC)を接着剤として用いてターポリン生地43′を貼り付けて、ターポリン生地43′の織り目の隙間にPVCを含むターポリン層43を形成する。さらに、このターポリン層43の裏側に、図示しない接着剤を用いてポリウレタンフィルム42を接着する。これにより、外布4を形成する。これとともに、図17(A2),(B2)に示すように、内布5の材料として既述のポリエステル布51とポリウレタンフィルム52とを用意し、ポリエステル布51の裏側に図示しない接着剤を用いてポリウレタンフィルム52を接着する。これにより、内布5を形成する。
なお、この段階で、外布4に、図1中に示したニップル8、リング取付部材7の平坦部分7bを取り付けておく。
次に、図17(C)に示すように、内布5と外布4とを、それぞれのポリウレタンフィルム42,52を対向させて重ね合わせる。
次に、図17(D)に示すように、内布5と外布4とを、図1中に示した斜線の領域11m,11nにおいて加熱して溶着する。
これにより、内布5と外布4との間に、流体袋としての空気袋12を内包した帯状体11を形成する。この帯状体11の厚さは、実質的に均一に仕上がる。
次に、第1の辺61に拡径部65を有するリング6(図4(B)に示した状態のもの)を用意する。そして、図11中に示したように、リング取付部材7の筒状部分7aを、リング6の第1の辺61の拡径部65を取り囲むように折り返し、筒状部分7aの先端7e,7eによって平坦部分7bを挟み、2本のライン7s,7tに沿って縫製する。これにより、帯状体11にリング取付部材7を介してリング6を取り付ける。
この後、図8中に示したように、リング6(より正確には、リング取付部材7の筒状部分7aと第2の辺62との間)に、帯状体11の外周端11fから面ファスナ3が設けられている領域までを通す(これにより、帯状体11は実質的に環状になる。)。その状態で、リング6の第2の辺62の周りに、予め作製されたスリーブ部材2または2′の上部2Aと下部2B(例えば図5(D)、図14(D)参照)とを、上部2Aが第1の辺61に対向する配置で、例えば接着剤によって互いに接着する。これにより、スリーブ部材2または2′を、リング6の第2の辺62の周りに揺動可能に取り付ける。
このようにして、上記カフ1の製造を完了する。工場からの製品出荷時には、帯状体11は実質的に環状のまま折り畳まれて出荷される。
なお、図18(A)〜図18(D)は、一般的な帯状体110の製造の仕方を示している。
まず、図18(A)に示すように、空気袋102の材料としてPVCフィルム111,112を用意する。
次に、図18(B)に示すように、それらのPVCフィルム111,112を、対向させて重ね合わせる。そして、PVCフィルム111,112を、それらのPVCフィルムの周縁の領域において溶着する。これにより、空気袋102を形成する。
次に、図18(C)に示すように、周方向および幅方向に関して空気袋102の寸法よりも大きい寸法をもつ内布105と外布104を用意して、これらの内布105と外布104を、空気袋102を挟んで対向させる。
そして、図18(D)に示すように、それらの内布105と外布104を、周縁121を縫製して袋状にする。なお、周縁121に沿って、図8中に示すような縁部カバー15を設けてもよい。
このようにして形成される一般的な帯状体110では、空気袋102が存在する領域と存在しない領域との間でカフ全体としての厚さが異なり、空気袋102が存在する領域と存在しない領域との間の境界で外形に段差が生じる。この場合、上述の仮止め構造60または60′を有するリング6において、スリーブ部材2の外周面2Sとリング取付部材7の外周面との間の隙間69の寸法(最近接距離)を、帯状体110の最大の厚さ(空気袋102が存在する領域の厚さ)よりも若干だけ大きく設定するのが望ましい。
上の各例では、スリーブ部材2の第2領域22における突起25は2個(25Aと25B)としたが、これに限られるものではない。スリーブ部材2の第2領域22では、3個以上の突起25が、このスリーブ部材の周りに沿って並べて配置されていてもよい。その場合、上述の仮止めの動作の後、スリーブ部材2が、引き出しの時とは逆向きに、帯状体11に連れて第2の辺62の周りに回転するとき、3個以上の突起25のうちいずれかが、帯状体11の外布4に引っ掛かって摩擦力を与える。したがって、帯状体11が設定緩み量を超えて緩むのを確実に抑制できる。なお、突起25の数は1個であってもよい。
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。