図8に示されるように、ステアリング装置は、ステアリングホイール1の動きを、ステアリングシャフト2を介して、ステアリングギヤに伝達し、左右の操舵輪3に舵角を付与するように構成される。また、ステアリングホイール1と運転者との位置関係は、運転者の体格や運転姿勢により変化するため、ステアリングホイール1の前後位置および上下位置を調節する機能を備えたチルト・テレスコピック式ステアリング装置が広く使用されている。
図9および図10は、特開2011-218941号公報に記載されている、従来のチルト・テレスコピック式ステアリング装置を示している。このステアリング装置は、電動式パワーステアリング装置を備え、後端部にステアリングホイール1を固定したステアリングシャフト2と、このステアリングシャフト2をその内側に回転自在に支持したステアリングコラム4と、このステアリングシャフト2に補助トルクを付与するための操舵力補助装置5と、このステアリングシャフト2の回転に基づきタイロッド6を変位させるためのステアリングギヤユニット7と、を備える。なお、前後方向は、車両の前後方向を意味する。
ステアリングシャフト2は、インナシャフト8とアウタシャフト9とを、回転力の伝達可能に、かつ、軸方向の相対変位を可能に組み合わせることにより構成される。インナシャフト8とアウタシャフト9との軸方向の変位により、ステアリングホイール1の前後位置の調節が可能となるほか、衝突事故の際には、ステアリングシャフト2の全長を縮めて、ステアリングホイール1に衝突する運転者への衝撃を緩和することが可能となっている。
ステアリングコラム4は、前側に配置されたインナコラム10の後端側部分に、後側に配置されたアウタコラム11の前端側部分を、軸方向の相対変位を可能に外嵌することにより、ステアリングシャフト2とともに軸方向の拡縮を可能に構成される。インナコラム10の前端部は、操舵力補助装置5を構成するギヤハウジング12の後端面に結合固定される。また、インナシャフト8は、ギヤハウジング12内に挿入され、インナシャフト8の前端部は、操舵力補助装置5を構成する入力軸に結合される。この入力軸には、トーションバーを介して、操舵力補助装置5を構成する出力軸13が連結され、出力軸13の前端部は、ギヤハウジング12の前端面から突出し、中間軸および自在継手を介して、ステアリングギヤユニット7に連結される。
インナコラム10は、前側支持ブラケット14により、ギヤハウジング12を介して、車体15の一部に支持される。また、前側支持ブラケット14により、ギヤハウジング12は、枢軸16を中心として揺動自在に支持される。また、アウタコラム11の前端寄り部分は、後側支持ブラケット17により、車体15の一部に支持される。また、後側支持ブラケット17は、車体15に対して、前方に向いた強い衝撃が加わった場合に、前方に離脱可能に支持される。
後側支持ブラケット17の前方への離脱を可能にするため、図10に示すように、後側支持ブラケット17を構成する左右1対の支持板部18のそれぞれの上端部に、結合板部19が、ステアリングコラム4の側方に突出するように設けられている。それぞれの結合板部19には、切り欠き20が、結合板部19の後端縁に開口するように形成されている。そして、それぞれの切り欠き20には、図示しないボルトにより車体15に固定されたカプセル21が係止される。それぞれのカプセル21の左右側面には、結合板部19のうちの切り欠き20の左右側縁部を係合させるための係合溝22が形成され、その中間部には、前記ボルトを挿通させるための上下方向通孔23が形成されている。
衝突事故の際には、運転者の身体からステアリングホイール1、ステアリングシャフト2を介して、ステアリングコラム4に、前方に向いた大きな衝撃荷重が加わる。これにより、ステアリングシャフト2およびステアリングコラム4が、この衝撃のエネルギを吸収しつつ全長を縮める傾向となる。この際、後側支持ブラケット17は、アウタコラム11とともに前方に変位する傾向となるが、カプセル21はいずれも、前記ボルトともにそのままの位置に止まる。この結果、カプセル21がいずれも切り欠き20から後方に抜け出し、ステアリングホイール1の前方への変位が許容される。このように構成される衝撃吸収機構により、衝突事故の際に、運転者からステアリングホイール1に加わった衝撃エネルギを吸収して、運転者の保護が図られる。
また、ステアリングホイール1の前後位置および上下位置を調節可能とするため、アウタコラム11は、後側支持ブラケット17に対して、前後方向および上下方向に変位可能に支持される。より具体的には、アウタコラム11の前端部下面に、幅方向に互いに離隔した1対の被挟持部24を有するコラム側ブラケット25が一体的に設けられている。また、これらの被挟持部24の互いに整合する位置に、それぞれ前後方向に伸長するコラム側通孔26が形成されている。また、後側支持ブラケット17のそれぞれの支持板部18のうち、互いに整合し、かつ、コラム側通孔26の前後方向の一部と整合する部分に、上下方向に伸長する車体側通孔27が形成されている。そして、被挟持部24が、支持ブラケット17の支持板部18により挟持された状態で、コラム側通孔26および車体側通孔27を、一方から他方に(図10の右側から左側に)挿通した杆状部材28の他端に、結合ナット29を螺合させている。結合ナット29は、調節レバー30により回転自在となっている。
調節レバー30の操作に基づいて、結合ナット29が回転し、結合ナット29と杆状部材28の頭部31との間隔を拡縮させることにより、支持板部18同士の間隔を拡縮させて、アウタコラム11を後側支持ブラケット17に対して、固定したり、あるいは、固定を解除したり、また、被挟持部24同士の間隔を拡縮させて、アウタコラム11をインナコラム10に対して、固定したり、あるいは、固定を解除したりすることが可能となる。このような構成により、結合ナット29と頭部31との間隔を拡げた状態では、杆状部材28がコラム側通孔26の内側で変位できる範囲(テレスコピック調節範囲)で、アウタコラム11をインナコラム10に対して前後方向に相対変位させて、ステアリングホイール1の前後位置の調節を行うことができる。また、杆状部材28が車体側通孔27の内側で変位できる範囲(チルト調節範囲)で、ステアリングコラム4を、枢軸16を中心として上下方向に揺動変位させて、ステアリングホイール1の上下位置の調節を行うことができる。
一方、図11は、特開2006−159920号公報に記載されている、ステアリングコラム4aに対して上方への押圧力を付与する付勢ばね32を備えた、従来のチルト式ステアリング装置を示している。付勢ばね32は、いわゆるダブルトーションばねであって、ばね鋼製の1本の線材に折り曲げ加工などを施すことにより形成され、線材の両端寄り部分に設けられた1対のコイルばね部33を、後側支持ブラケット17aの前方に配置し、かつ、1対のコイルばね部33を捩ることにより、これらのコイルばね部33で捩り方向の弾力を発生させた状態で、付勢ばね32の両端部を、後側支持ブラケット17aの前端に設けられた前板部34の一部に係合させ、かつ、線材の中間部によって構成される押圧部35により、ステアリングコラム4aに上方への押圧力を作用させた状態で、組み付けられている。
付勢ばね32を設けることにより、調節レバー30を操作した際に、重力によりステアリングコラム4aが下方に揺動してしまうことが防止され、かつ、ステアリングコラム4aの高さ位置を調節する際に必要となる力の軽減が図られる。ただし、付勢ばね32を、図9および図10に示した衝撃吸収機構を備えたチルト・テレスコピック式ステアリング装置におけるステアリングコラム4の支持機構として適用した場合、二次衝突の際に、付勢ばね32の両端部が係止された後側支持ブラケット17とアウタコラム11とともに、付勢ばね32も前方に変位して、コイルばね部33が、操舵力補助装置5を構成するギヤハウジング12の後端部などの、付勢ばね32よりも前方に配置された部材に衝突して、付勢ばね32が、さらに前方へ変位することが阻止されてしまう可能性がある。
付勢ばね32がさらに前方へ変位することを阻止された状態で、後側支持ブラケット17およびアウタコラム11が、さらに前方に変位しようとした場合、付勢ばね32の後側支持ブラケット17aへの係止状態が解除されない限り、付勢ばね32が、ギヤハウジング12の後端部と後側支持ブラケット17との間で突っ張り、後側支持ブラケット17およびアウタコラム11の前方への円滑な変位が妨げられてしまう可能性がある。
また、二次衝突の際に、付勢ばね32の後側支持ブラケット17への係止状態が解除されたとしても、後側支持ブラケット17がさらに前方に変位すると、後側支持ブラケット17とコイルばね部33とが前後方向に干渉してしまい、後側支持ブラケット17aの前方への変位の障害となって、後側支持ブラケット17およびアウタコラム11の前方への円滑な変位が妨げられてしまう可能性がある。なお、このような事情は、図11に示したチルト式ステアリング装置に、二次衝突の際に、ステアリングコラム4aおよび後側支持ブラケット17aが前方に変位することを可能とする衝撃吸収機構を適用した場合も同様である。
本発明は、衝撃吸収機構を備えたチルト式ステアリング装置に、ステアリングコラムに対して上方への押圧力を作用させるための付勢ばねを適用した場合であっても、二次衝突の際に、付勢ばねが干渉することなく、ステアリングコラムおよび支持ブラケットが前方に円滑に変位することができる構造を提供することを目的とする。
本発明は、ステアリングコラムと支持ブラケットとの間に掛け渡された状態で設けられ、該ステアリングコラムに対して上方への押圧力を作用させるための付勢ばねを備えるチルト式ステアリング装置において、二次衝突の際に、前記ステアリングコラムおよび前記支持ブラケットのストロークの途中で、これらの部材とともに前記付勢ばねが前方に変位して、該付勢ばねが、より前方に配置された部材と前後方向に関して干渉した場合に、該付勢ばねの前記支持ブラケットへの係止状態を解除して、前記ステアリングコラムおよび前記支持ブラケットがさらに前方に変位することを許容する構成に特徴がある。なお、本発明において、ストロークとは、テレスコピック機構を備えた構造の場合には、二次衝突の際における、ステアリングコラムの前後方向(軸方向)に関する収縮可能な長さを意味し、テレスコピック機構を備えていない構造の場合には、二次衝突の際における、ステアリングコラムの前方への変位可能な長さを意味する。
具体的には、本発明のチルト式ステアリング装置は、ステアリングコラムと、支持ブラケットと、付勢ばねとを備える。前記ステアリングコラムは、車体に固定の部分に対して、幅方向に設置された枢軸を介して、支持された前部を備え、該枢軸を中心として揺動変位可能であり、かつ、内側にステアリングシャフトを回転自在に支持する。このステアリングシャフトの後端部には、ステアリングホイールが支持固定される。また、前記支持ブラケットは、車体に対して、前方への離脱可能に支持された結合板部と、該結合板部に下方に垂れ下がるように固定され、互いの間隔の拡縮により、前記ステアリングコラムを幅方向両側から挟んで保持する状態と、前記ステアリングコラムの前記揺動変位を可能とする状態とを可能にする、1対の支持板部とを備える。
より具体的には、前記ステアリングコラムの軸方向一部に、コラム側ブラケットが設けられる。また、前記1対の支持板部の互いに整合する部分には、上下方向に伸長する車体側通孔が設けられ、前記コラム側ブラケットのうち、前記車体側通孔と整合する部分には、コラム側通孔が幅方向に貫通するように設けられる。なお、テレスコピック機能を備えたステアリング装置の場合には、該コラム側通孔は、前後方向に伸長する。前記車体側通孔および前記コラム側通孔を幅方向に挿通するように、杆状部材が設けられ、該杆状部材には、前記1対の支持板部同士の間隔を拡縮する機構を備える。さらに、該杆状部材の端部には調節レバーが設けられ、該調節レバーの回動に伴って、前記1対の支持板部同士の間隔を拡縮する機構が作動する。
前記付勢ばねは、前記ステアリングコラムおよび前記支持ブラケットとともに前方への変位が可能なように、該ステアリングコラムと該支持ブラケットとの間に組み付けられ、該ステアリングコラムに上方への押圧力を付与するように構成される。
特に、本発明のチルト式ステアリング装置においては、前記付勢ばねは、1対の係止腕部と、押圧部とを備える。前記1対の係止腕部のそれぞれの一部には、ばね側係止部が形成されており、該ばね側係止部はいずれも、前記支持ブラケットに所定の傾き角に形成されたブラケット側係止部に係止されている。また、前記押圧部は、前記ステアリングコラムの一部に直接または間接的に係止され、該ステアリングコラムに対して、前記ばね側係止部を支点とした上方への押圧力を作用させている。そして、本発明のチルト式ステアリング装置は、二次衝突の際に、前記ステアリングコラムおよび前記支持ブラケットが前方に変位可能なストロークの途中で、前記付勢ばねが、該付勢ばねよりも前方に配置された部材と前後方向に関して干渉した場合に、前記ばね側係止部と前記ブラケット側係止部との係止状態が解除されて、前記付勢ばねが前方に変位することなくその場に止まり、前記ステアリングコラムおよび前記支持ブラケットがさらに前方に変位することを許容するように構成されている。
本発明のチルト式ステアリング装置は、好ましくは、前記ばね側係止部の前記ブラケット側係止部への係止状態が解除されて、前記ステアリングコラムおよび前記支持ブラケットがさらに前方に変位する際に、前記付勢ばねと前記支持ブラケットとが、前後方向に関して干渉することがないように構成される。
好ましくは、前記付勢ばねは、1本の線材により構成され、かつ、1対のコイルばね部をさらに備え、前記押圧部は、前記線材の中間部に曲げ成形を施すことにより形成され、前記1対のコイルばね部は、前記線材の両端寄り部分を螺旋状に巻き回すことにより、かつ、互いに幅方向に離隔した状態で形成され、前記1対の係止腕部は、前記線材の両端部により、かつ、前記1対のコイルばね部の反対側の端部から、後方に延出する状態で形成され、および、前記ブラケット側係止部は、前記1対の支持板部の幅方向側面にそれぞれ設けられる。
この場合、好ましくは、前記1対のコイルばね部は、前記1対の支持板部よりも前方で、該1対の支持板部とは前後方向に関して重畳せず、かつ、前記1対の係止腕部と幅方向に関して整合する位置に配置される。
また、好ましくは、前記1対のコイルばね部および前記1対の係止腕部は、幅方向に関して前記1対の支持板部よりも外側に配置され、前記ブラケット側係止部は、前記1対の支持板部の幅方向外側面に設けられる。
本発明のチルト式ステアリング装置は、好ましくは、前記車体に固定の部分に支持されて、二次衝突の際に、前記支持ブラケットの落下を防止しつつ、該支持ブラケットの前方への変位を案内する案内部材をさらに備える。この場合、前記1対の係止腕部のうち、二次衝突時に、前記ブラケット側係止部と摺接する部分に、前記案内部材が前記支持ブラケットを案内する方向に対して上下平行または上下略平行な、ばね側ガイド部が設けられていることがさらに好ましい。
本発明のチルト式ステアリング装置において、前記ばね側係止部に、低摩擦材製のコーティング層が形成されていることが好ましい。あるいは、前記ばね側係止部と前記ブラケット側係止部との係止部分に、グリースが塗布されていることが好ましい。
本発明のチルト式ステアリング装置によれば、二次衝突の際に、ステアリングコラムおよび支持ブラケットを前方に円滑に変位させることができる。すなわち、本発明においては、二次衝突の際に、ステアリングコラムおよび支持ブラケットとともに前方に変位する付勢ばねが、別の部材と前後方向に関して干渉してしまった場合に、該付勢ばねのばね側係止部の前記支持ブラケットのブラケット側係止部への係止状態が解除される。このため、前記ステアリングコラムおよび前記支持ブラケットが前方に変位可能なストロークの途中で、前記付勢ばねが、前記別の部材と前記支持ブラケットとの間で突っ張ってしまうことがない。この結果、二次衝突の際に、前記ステアリングコラムおよび前記支持ブラケットが前方に円滑に変位することが許容される。
また、本発明のチルト式ステアリング装置において、前記付勢ばねの前記支持ブラケットへの係止状態が解除されて、前記ステアリングコラムおよび前記支持ブラケットがさらに前方に変位する際に、前記付勢ばねと前記支持ブラケットとが、前後方向に関して干渉することがない構成を採用することにより、二次衝突の際に大きなストロークを確保できるとともに、該ストロークの全長にわたって、前記ステアリングコラムおよび前記支持ブラケットを前方に円滑に変位させることが可能となる。
図1〜図7は、本発明の実施の形態の1例を示している。本例では、本発明を、チルト式ステアリング装置のうち、ステアリングホイールの高さ位置と前後位置の両方を調節可能としたチルト・テレスコピック式ステアリング装置に適用している。具体的には、本例のチルト・テレスコピック式ステアリング装置は、前側に配置されたインナコラム10と後側に配置されたアウタコラム11aとを組み合わせることにより構成されたステアリングコラム4bと、車体15に対して、前方への離脱可能に支持され、ステアリングコラム4bを幅方向両側から挟むように構成された1対の支持板部18aを有する支持ブラケット17bと、ステアリングコラム4bおよび支持ブラケット17bとともに前方に変位可能な状態で、ステアリングコラム4bと支持ブラケット17bとの間に組み付けられ、ステアリングコラム4bに上方への押圧力を付与する付勢ばね32aと、を備える。
ステアリングコラム4bは、車体に固定の部分に対して、幅方向に設置された枢軸16を介して支持された前部を備え、枢軸16を中心として揺動変位可能であり、かつ、内側にステアリングホイール1をその後端部に支持固定するステアリングシャフト2を回転自在に支持する。なお、ステアリングコラム4bの前部を、前側支持ブラケット14を介して、揺動変位可能に車体に固定の部分に支持される構造においては、支持ブラケット17bは、いわゆる後側支持ブラケットに相当する。
ステアリングコラム4bを構成するアウタコラム11aの軸方向一部に、コラム側ブラケット25aが設けられる。また、1対の支持板部18aの互いに整合する部分に、上下方向に伸長する車体側通孔27が設けられ、コラム側ブラケット25aのうち、車体側通孔27と整合する部分に、前後方向に伸長するコラム側通孔26が幅方向に貫通するように設けられる。車体側通孔27およびコラム側通孔26を幅方向に挿通するように、杆状部材28が設けられ、杆状部材28には、1対の支持板部18a同士の間隔を拡縮する機構が備えられる。このような機構としては、杆状部材28の頭部と杆状部材28の先端部に螺合されたナットからなる機構のほか、カム装置を用いた機構なども採用可能である。杆状部材18aの端部には調節レバー30が設けられ、調節レバー30の回動に伴って、前記1対の支持板部18a同士の間隔を拡縮する機構が作動することにより、ステアリングコラム4bを構成するアウタコラム11aを幅方向両側から挟んで保持する状態と、ステアリングコラム4bの揺動変位を可能とする状態とが切り換えられる。
本例の特徴は、ステアリングコラム4bに対して上方への押圧力を作用させるための付勢ばね32aを備えた、衝撃吸収機構付きのチルト・テレスコピック式ステアリング装置において、付勢ばね32aの形状およびその支持構造を工夫した点にある。本例の特徴部分以外のチルト・テレスコピック式ステアリング装置の構造は、従来の構造と同様であるから、その説明は省略もしくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
本例のチルト・テレスコピック式ステアリング装置を構成する支持ブラケット17bは、上方ブラケット43と、上方ブラケット43の下方に設けられた左右1対の支持板部18aとにより構成される。上方ブラケット43は、幅方向に伸長する1枚の板状部材であり、左右1対の結合板部19aと、幅方向に関して結合板部19aの間に設けられた連続板部44とにより構成される。連続板部44は、両側にある結合板部19aよりも上方に突出した状態で、結合板部19aの幅方向内端同士を連結させている。また、連続板部44の幅方向中央部の後端寄り部分には、連続板部44を上下方向に貫通した被案内側通孔45が形成されている。
1対の支持板部18aは、その上端部を、1対の結合板部19aと連続板部44との連続部の下面に溶接などの手段により結合固定されている。支持板部18aの上下方向中間部の前端寄り部分に、その一部を幅方向外方へ折り曲げることにより形成された係止片41が設けられる。なお、係止片41は、本発明におけるブラケット側係止部に相当する。ブラケット側係止部の構造は、係止片41に限定されることなく、ブラケット側係止部として突起などの他の任意の係止構造を採用することも可能である。また、本例では、支持ブラケット17bを構成する1対の前板部34aの上下方向に関する長さ寸法を小さくして、前板部34aの下端縁位置を、従来構造よりも上方に位置させている。このようにして、二次衝突の際に、これらの前板部34aと付勢ばね32aとの前後方向に関する干渉を防止するとともに、付勢ばね32aの支持ブラケット17bに対する組み付け性の向上を図っている。
本例の場合、車体15と、支持ブラケット17bを構成する上方ブラケット43の上面との間に、二次衝突の際に、支持ブラケット17bの落下を防止しつつ、支持ブラケット17bの前方への変位を案内する案内部材46が設けられる。案内部材46は、幅方向に長い一枚の板状部材であり、左右1対の固定板部47と、幅方向中央部に設けられた案内板部48とにより構成される。固定板部47の中央部には、固定板部47を上下方向に貫通する固定用通孔49が形成される。また、これらの固定板部47の前端部の幅方向両側には、幅方向外方に突出するように、1対の固定フランジ部50が形成されている。それぞれの固定フランジ部50には、固定フランジ部50を上下方向に貫通した固定側小通孔51が形成される。
案内板部48は、両側の固定板部47よりも上方に突出した状態で、固定板部47の幅方向内端同士を連結している。すなわち、案内部材46は、上方ブラケット43の上面に沿う形状を有している。また、案内板部48の幅方向中央部で、組み付け状態において、上方ブラケット43を構成する連続板部44の被案内側通孔45と幅方向および前後方向に整合する位置に、前後方向に伸長し、その幅方向寸法が、被案内側通孔45の直径よりも少しだけ大きい案内側長孔52が形成されている。
案内部材46は、カプセル21が組み付けられた上方ブラケット43の上方に配置され、かつ、固定板部47の固定用通孔49と、カプセル21の上下方向通孔23とを整合させた状態で、カプセル21を車体に固定するための図示しないボルトにより、車体15に結合固定される。また、案内部材46の前端部は、固定フランジ部50の固定側小通孔51を下方から挿通した図示しないボルトにより、車体15に対して結合固定される。したがって、案内部材46は、二次衝突の際には、車体15に対する前後方向の変位を阻止される。このように、案内部材46を車体15に結合固定した状態では、連続板部44の被案内側通孔45と案内部材46の案内側長孔52の前後方向後端部とが整合する。
被案内側通孔45と案内側長孔52とに、その頭部を連続板部44の下方に配置したボルト53の軸部を挿通するとともに、該軸部のうち、案内板部48よりも上方に突出した部分に形成された雄ねじ部に、ナット54が螺合される。この状態において、連続板部44および案内板部48は、ボルト53の頭部とナット54との間に、強く挟持されることなく、案内部材46に対する上方ブラケット43の前後方向の変位を可能に結合される。すなわち、案内部材46と支持ブラケット17bが結合した状態で、支持ブラケット17bは、案内部材46に吊り下げ支持された状態で、案内部材46により前後方向の変位を案内される。なお、本例では、支持ブラケット17bの連続板部44の上面と、ナット54の下面との間に、滑り板55が、その中央に形成された通孔に、ボルト53の軸部のうち、案内板部48よりも上方に突出した部分を挿通した状態で、設けられる。これにより、支持ブラケット17bが、案内部材48により前後方向により円滑に案内されることになる。なお、案内部材48により支持ブラケット17bを案内する構造は、本例の構造に限定されるものではなく、車体に固定された案内部材と、支持ブラケットとの直接または間接的な係合により、該支持ブラケットが、前記案内部材により案内される、公知の各種構造も採用することができる。
本例のチルト・テレスコピック式ステアリング装置を構成する付勢ばね32aは、ステアリングコラム4bを構成するアウタコラム11aと支持ブラケット17bとの間に掛け渡され、組み付け状態において、ステアリングコラム4bのアウタコラム11aに上方への押圧力を付与し、ステアリングコラム4bおよびステアリングコラム4bとともに昇降する部材の重量とバランスする。本例における付勢ばね32aは、いわゆるダブルトーションばねの構造を有し、ばね鋼製の1本の線材により構成され、1対のコイルばね部33aと、コイルばね部33a同士の幅方向に関する間部分に設けられた押圧部35aと、1対の係止腕部36とを備える。ただし、本発明の付勢ばねは、本例の構造に限定されることなく、2つの捩りばねなどのステアリングコラム4bと支持ブラケット17bとの間に掛け渡され、かつ、本発明の特徴を実現できる任意の構造のばねを採用することができる。
コイルばね部33aはそれぞれ、前記線材の両端寄り部分を螺旋状に巻き回すことにより、互いに同心にかつ幅方向に離隔した状態で形成されている。押圧部35aは、前記線材の中間部に曲げ成形を施して、該中間部をU字形に折り返すことにより形成され、互いに平行な1対の直線部37と、これらの直線部37の後端部同士を連結する円弧状の第一の連結部38とを備える。1対の直線部37の前端部と両側のコイルばね部33aの互いに対向する側の端部とを、第二の連結部39により連結している。なお、第二の連結部39のうち、組付け状態で、支持板部18aの前方に配置される部分(幅方向外端寄り部分)は、可能な限り前方に配置されることが好ましい。このようにして、二次衝突の際に、第二の連結部39が支持ブラケット17bの前方への変位の障害とならないようにしている。
また、1対の係止腕部36はそれぞれ、前記線材の両端部により、全体を前後方向に長く、上下方向から見ると略直線形状を有し、側方から見るとジグザグに湾曲した形状(三角波形状)を有している。ばね側係止部40は傾き角θ=20°(図1にθで示す部分)を斜面とする山形に曲げられている。また、係止腕部36の後端寄り部分に、前記線材を少しだけ上方に突出するように(折れ曲がり角度が鈍角となるように)折り曲げることにより、略L字形のばね側係止部40が形成される。
また、本例の場合、1対の係止腕部36のうちの、二次衝突時に、係止片41と摺接する部分、すなわち、ばね側係止部40の前端から、ステアリングコラム4bおよび支持ブラケット17bが前方に変位し切った状態(図5に示す状態)で、係止片41と前後方向と整合する位置にある部分(図1にαで示す部分)を、案内部材46が支持ブラケット17bを案内する方向(前後方向)に対して上下平行または上下略平行である、ばね側ガイド部56としている。言い換えると、ばね側ガイド部56は、案内板部48の上面に対して、上下平行または上下略平行な状態で設けられる。本例のように、ばね側ガイド部56が、案内板部48の上面に対して、わずかに傾斜した複数(本例の場合2本)の直線部により、ジグザグ形状に構成されている場合には、これらの直線部の傾きの平均値が、案内部材46が支持ブラケット17bを案内する方向に対して、上下平行または上下略平行となるように、1対の係止腕部36は配置される。代替的に、ばね側ガイド部56が、緩やかな曲線により全体が波形となるように構成されている場合には、直線近似により求めた仮想線が、案内部材46が支持ブラケット17bを案内する方向に対して、上下平行または上下略平行となるように、1対の係止腕部36は配置される。これらの係止腕部36の前端部は、1対のコイルばね部33aの反対側の端部から係止腕部36が後方に延出されるように、これらの端部に連結される。また、これらのコイルばね部33aと係止腕部36とは、幅方向に関してほぼ整合した位置に形成される。言い換えれば、コイルばね部33aと係止腕部36とは、前後方向に関してほぼ重畳した状態で設けられる。なお、これらの係止腕部36を、コイルばね部33aよりも幅方向外方に設けることも可能である。
また、本例の場合、付勢ばね32aは、全体的に低摩擦材製のコーティング層により覆われている。この低摩擦材製のコーティング層は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)コーティング、フッ素コーティング、二硫化モリブデンコーティング、リン酸亜鉛皮膜処理などの各種表面処理により形成される。このようなコーティング層を、本例のように、付勢ばね32aの全体に形成することもできるし、付勢ばね32aのうち、支持ブラケット17b、ステアリングコラム4bを構成するアウタコラム11a、あるいは、杆状部材28などの周辺部材と当接する部分にのみ形成することもできる。このように、コーティング層を形成する部分を限定すれば、このコーティング層を形成するための処理コストを抑えることができる。
このような付勢ばね32aは、コイルばね部33aを支持ブラケット17bよりも前側に配置するとともに、これらのコイルばね部33aを捩ることにより、それぞれのコイルばね部33aで捩り方向の弾力を発生させた状態で、係止腕部36の湾曲したばね側係止部40の後側半部と、支持ブラケット17bにコラム軸方向に対し角度θ=20°(図1にθで示す部分)の傾き角に設けられた係止片41の上面に係止させ、かつ、押圧部35aを杆状部材28の軸方向中央部の下面に設けた受面42に係合させている。この状態で、付勢ばね32aは、杆状部材28を介して、アウタコラム11aに対し、上方に向う弾力を付与する。なお、押圧部35aは、受面42との間に作用する摩擦力によってのみ前後方向へ相対変位を阻止されており、それ以外の押圧部35aが前後方向に相対変位することを規制するための構造は設けられていない。また、受面42は、アウタコラム11aの下端に設けることも可能である。
また、本例の場合、1対の係止腕部36のばね側係止部40と、支持ブラケット17bの係止片41との係止部分と、押圧部35aと杆状部材28の受面42との当接部との両方に、グリースが塗布されている。このグリースとしては、潤滑性、粘性を考慮したうえで、任意の種類のグリースを適宜採用することができるが、滴下および飛散が僅少であり、防錆性を有し、長期使用可能であって、使用温度の範囲が広域であるといった特性を有するグリースを採用することが好ましい。
組み付けられた状態で、付勢ばね32aのうちの両側に配置された係止腕部36およびコイルばね部33aは、幅方向に関して、支持ブラケット17bの1対の支持板部18aの外側にそれぞれ配置される。すなわち、係止腕部36とコイルばね部33aは、支持板部18aと前後方向に関して重畳しない位置に配置される。また、付勢ばね32aの押圧部35aは、幅方向に関して、支持板部18a同士の間部分に配置される。したがって、支持板部18aの前方には、付勢ばね32aのうち第二の連結部39の幅方向外端寄り部分のみが配置される。
組み付けられた状態で、付勢ばね32aは、ばね側係止部40により、係止片41を下方に押圧する。また、付勢ばね32aは、押圧部35aにより、ステアリングコラム4bのアウタコラム11aに、両側のばね側係止部40と係止片41との係止部分を支点とする上方への押圧力を作用させる。そして、この押圧力(ステアリングコラム4bを、枢軸16を中心として上方に揺動させようとする力)と、重力(ステアリングコラム4bを下方に揺動させようとする力=モーメント)とをバランスさせて、ステアリングホイール1の高さ位置の調節時に、ステアリングコラム4bを、枢軸16を中心として揺動させるために必要な力を軽減できるようにしている。なお、ばね側係止部40と係止片41は、ステアリングホイール1の高さ位置および前後位置を調節するための操作の際に、付勢ばね32aが前後方向にずれない程度の係止力で係合している。
本例のチルト式ステアリング装置は、衝突事故に伴う二次衝突の際に、運転者の身体がステアリングホイール1に衝突すると、図1および図2に示す通常状態から、案内部材46および左右1対のカプセル21を車体15に固定された位置に止めたまま、アウタコラム11aおよび支持ブラケット17bを前方に変位させる。この際、支持ブラケット17bは、案内部材46により、その脱落を阻止された状態で、前方への変位を案内される。したがって、二次衝突の際に、支持ブラケット17bは、案内部材46に沿って、車体15から離脱して前方に変位するが、二次衝突が進行した状態でも、落下してしまうことはない。このため、二次衝突の際に、運転手からステアリングホイール1に加わる力の方向に拘わらず、支持ブラケット17bは安定して前方に変位させられる。また、支持ブラケット17bの落下による衝撃で付勢ばね32aが外れてしまうことがないため、アウタコラム11aおよび支持ブラケット17bとともに、付勢ばね32aも前方に円滑に変位する。
アウタコラム11aおよび支持ブラケット17bが前方に変位可能なストロークの中盤において、図3および図4に示すように、付勢ばね32aの第二の連結部39のうちの一方(図4の下方にある第二の連結部39)の幅方向外端寄り部分が、付勢ばね32よりも前方に配置された部材である、操舵力補助装置5を構成するギヤハウジング12の後端部に設けた受面57に当接して、付勢ばね32aがさらに前方へ変位することが阻止される。
なお、本例の場合、ギヤハウジング12の後端部のうち、第二の連結部39の前記一方と当接する受面57は、支持ブラケット17bの変位方向(前後方向)に対して直交する仮想平面上に設けられる。このように、受面57を設けることで、二次衝突の際に、付勢ばね32aの前端部(第二の連結部39の前記一方の前端部)が、受面57に当接した後における、付勢ばね32aの姿勢を安定させることができる。また、本例の場合、ギヤハウジング12の受面57を、第二の連結部39の前記一方とのみ当接するように設けているが、ギヤハウジングの受面を、両方の第二の連結部39と当接するように設けることもできる。このような構成により、二次衝突の際に、付勢ばね32の前端部(両方の第二の連結部39の前端部)が受面に当接した後の、付勢ばね32の姿勢を、さらに安定させることができる。
一方、アウタコラム11aおよび支持ブラケット17bには、これらをさらに前方に変位させようとする力が作用する。そして、付勢ばね32aのばね側係止部40と支持ブラケット17bの係止片41との係合が外れて、付勢ばね32aがその場に止まった状態で、アウタコラム11aと支持ブラケット17bはさらに前方に変位して、図5および図6に示す、前方に変位し切った状態となる。このように、本例の場合、付勢ばね32aが、より前方に存在する別の部材であるギヤハウジング12の後端部に設けた受面57と、前後方向に関して干渉した場合に、付勢ばね32aのばね側係止部40の支持ブラケット17bのブラケット側係止部である係止片41への係止状態が解除される。このため、ステアリングコラム4bのアウタコラム11aおよび支持ブラケット17bが前方に変位可能なストロークの途中で、付勢ばね32aが、ギヤハウジング12の受面57と支持ブラケット17bとの間で突っ張ってしまうことがない。この結果、二次衝突の際に、アウタコラム11aおよび支持ブラケット17bが前方に円滑に変位することが許容される。
また、図3および図4に示す状態から、図5および図6に示す状態に移行する際に、支持ブラケット17bと付勢ばね32aとが前後方向に干渉することがない。このため、二次衝突の際に大きなストロークを確保できるとともに、このストロークの全長にわたって、アウタコラム11aおよび支持ブラケット17bを前方に円滑に変位させることが可能となる。なお、アウタコラム11aと支持ブラケット17bの前方への変位に伴い、係止片41が、付勢ばね32aの係止腕部36を上方に弾性変形させた状態で、これらの係止腕部36の下端と摺接しながら前方に変位するが、このような摺接による干渉は、アウタコラム11aおよび支持ブラケット17bの前方への円滑な変位を妨げるものではない。また、係止片41の傾き角を角度θ=20°とし、係止腕部36のばね側係止部40と係止片41の上面が接触する長さを確保することより、チルト作動による変位や衝突の衝撃による係止腕部36の位置ズレを防止し、二次衝突時にアウタコラム11aおよび支持ブラケット17bを前方へ円滑に変位させることが可能になる。また、付勢ばね32aの押圧部35aとステアリングコラム4bの受面42との当接部も、アウタコラム11aおよび支持ブラケット17bの前方への円滑な変位を妨げるものではない。
本例の場合、付勢ばね32aの係止腕部36のうち、少なくともばね側係止部40の前端から、ステアリングコラム4bおよび支持ブラケット17bが前方に変位し切った状態で、係止片41と前後方向に整合する位置にある部分(図1にαで示す部分)に、案内部材46が支持ブラケット17bを案内する方向(案内板部48の上面)に対して上下平行または上下略平行な、ばね側ガイド部55が設けられている。このため、二次衝突の際に、付勢ばね32aが、ギヤハウジング12の後端部と干渉して、付勢ばね32aが前方に変位することなくその場に止まった後、付勢ばね32aに対する支持ブラケット17bの前方への変位をスムーズに行わせることが可能となっている。
また、本例の場合、付勢ばね32aの全体に、低摩擦材製のコーティング層が形成されており、かつ、付勢ばね32aのばね側係止部40と支持ブラケット17bの係止片41との係合部分、および、押圧部35aと杆状部材28の受面42との当接部に、グリースが塗布されている。このため、二次衝突の際に、付勢ばね32aが、ギヤハウジング12の後端部に当接して、付勢ばね32aの前方への変位が阻止された後、付勢ばね32aに対するアウタコラム11aおよび支持ブラケット17bの前方への変位を円滑に行わせることができる。また、これらの係止部分および当接部における、擦れ合い、きしみ、振動などに基づく、異音の発生を防止することもできる。なお、低摩擦材製のコーティング走は、付勢ばね32aのうち、少なくともばね側係止部40に形成されていればよい。また、グリースは、ばね側係止部40と支持ブラケット17bの係止片41との係合部分にのみ塗布されていてもよい。