特許文献1には、セシウム除去後の土壌を洗浄して脱塩しなければ、耕作地用には使用できないという課題に対して、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、カルシウムシアナミド及び硝酸カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種類の無機カルシウム化合物を揮散促進剤として用いることにより、塩化ナトリウムの添加量を抑制し、加熱処理後の脱塩を不要にする技術が開示されている。
しかし、放射性セシウム汚染物に塩化ナトリウム等の塩素化合物を添加して加熱処理すると、排ガス中に添加物由来の塩化水素ガス等の塩素系ガスが発生して煙道及び排ガス処理設備の腐食を招くため、消石灰等の中和剤を排ガスに投入する中和剤添加機構を設ける必要があり、セシウムの揮散を促進させるために塩化ナトリウム等の塩素化合物の添加量を増量すると、それに伴って設備コスト及び薬剤コストが嵩むという問題があった。
そして、放射性セシウムの揮散率をさらに上昇させるためには、塩化ナトリウム等の塩素化合物の添加量を増量せざるを得ず、それだけ塩素化合物を含めた薬剤コストが嵩み、設備コストの嵩む大型のバグフィルタが必要になるという問題があった。
特許文献2には、放射性セシウムを含む焼却灰を、0.5〜1.3の塩基度に調整することにより好ましい溶融性を得ることが開示されているが、そのために必要な塩基度調整剤のコストも嵩むという問題があり、特に放射性セシウムに汚染された土壌の場合にはその組成が地域により大きく変動し、放射性セシウムを揮散させるための薬剤コストに加えて、溶融時に必要となる塩基度調整剤のコストも処理コストに大きく影響を及ぼすという問題もあった。
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、放射性セシウムの揮散を促進する塩素系助剤の使用量を抑制しながらも、放射性セシウムの揮散率をさらに上昇させることができる放射性セシウム分離濃縮方法を提供する点にある。
上述の目的を達成するため、本発明による放射性セシウム分離濃縮方法の第一特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、土壌を含む被処理物に含まれる放射性セシウムを加熱処理により分離濃縮する放射性セシウム分離濃縮方法であって、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤とを所定割合で配合して塩基度調整助剤として被処理物に添加する塩基度調整工程と、塩基度調整助剤が添加された被処理物を1200℃から1500℃に加熱して被処理物から放射性セシウムを揮散分離する分離工程と、前記分離工程で揮散分離された放射性セシウムを捕集する捕集工程と、を含み、前記塩基度調整工程において予め求める被処理物の塩基度が一定値のもとで、塩素系塩基度調整助剤添加割合とセシウム揮散率との関係に基づいて放射性セシウムの揮散率が最大となる範囲に入るように配合割合を決定する点にある。
放射性セシウムで汚染された土壌を含む被処理物に塩素系助剤を添加して加熱処理すれば、被処理物が溶融する際に放射性セシウムと塩素が結合して溶融物から塩化セシウムとして揮散分離される。本願発明者らは、その際に被処理物に塩基度調整助剤を添加するとスラグの骨格構造が脆弱化して、スラグからセシウムが遊離し易くなるという知見を得ている。
そこで、塩基度調整工程で被処理物に添加する塩基度調整助剤として塩素系の塩基度調整助剤を用いれば、好ましい塩基度への調整のみならず、放射性セシウムの揮散促進剤としても機能するのではないかと想到し、鋭意実験を行なったところ、少なくとも塩素系塩基度調整助剤を含む塩基度調整助剤を被処理物に添加すれば、別途の塩化ナトリウム等の塩素系助剤を添加しなくても、分離工程で高効率に放射性セシウムを揮散させることができ、捕集工程で効率的に放射性セシウムを捕集できるという新知見を得たのである。
その結果、塩素系の腐食ガスの発生量を低減できるようになり、中和剤を含めた薬剤コストを大きく低減でき、また大型の排ガス処理設備を構築する必要もなくなった。ここに、塩基度とは酸化カルシウムと二酸化珪素の比[CaO(重量%)/SiO2(重量%)]のみならず、光学的塩基度等のスラグの骨格の塩基性を表現する指標を意味する。尚、光学的塩基度はDuffyとIngramによって見出された指標であり、紫外光吸収ピークがガラス組成に対して敏感に変化することに注目し、多成分系酸化物ガラスについて、ガラスの組成とそれらを構成するカチオンの電気陰性度とから、所定の数式に基づいて導き出される指標である。
さらに、本発明者らは、塩基度調整工程で添加する塩基度調整助剤として、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤を所定の添加割合、つまり放射性セシウムの揮散率に基づいて決定した値に配合して用いることで、塩素系塩基度調整助剤を単独で用いた場合に比べ、放射性セシウムの揮散率をより上昇させることができるという新知見を得た。つまり、塩素系助剤としても機能する塩素系塩基度調整助剤を徒に増量しなくても効率的に放射性セシウムを揮散させることができ、その結果、腐食性の強い塩素系ガスの発生量を抑制することができるようになるのである。
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述した第一の特徴構成に加えて、前記塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の添加割合は、塩素系塩基度調整助剤が塩基度調整助剤全体の25重量%から85重量%である点にある。
塩素系塩基度調整助剤の添加割合が塩基度調整助剤全体の25重量%から85重量%になるように塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤を被処理物に添加することで、塩素系塩基度調整助剤を単独で用いるよりも放射性セシウムの揮散率を上昇させながらも、排ガスに含まれる塩素系の腐食ガスの発生量を抑制することができるようになる。
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記所定の添加割合は、被処理物の光学的塩基度が0.6以上になるように決定される値である点にある。
被処理物の光学的塩基度が0.6以上になるように、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の添加割合が決定されることが好ましい。
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記所定の添加割合は、CaO(%)/SiO2(%)が0.7以上になるように決定される点にある。
被処理物の二成分塩基度CaO(%)/SiO2(%)が0.7以上になるように、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の添加割合が決定されることが好ましい。
同第五の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、上述の第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、前記塩基度調整工程で添加される塩基度調整助剤の添加割合は、被処理物に対して25重量%から50重量%である点にある。
塩基度調整助剤を被処理物に対して25重量%から50重量%添加することで、放射性セシウムの揮散率を上昇させながらも、塩基度調整助剤の使用量を適正量に調整することができる。
同第六の特徴構成は、同請求項6に記載した通り、上述の第一から第五の何れかの特徴構成に加えて、前記被処理物に含まれる放射性物質は5000Bq/kg以上である点にある。
被処理物が放射性物質を5000Bq/kg以上含む高濃度に汚染された被処理物であっても、放射性セシウムが効率よく分離濃縮されるので、分離工程の後に被処理物に残存する放射性物質の量が許容値、例えば土木資材などとして有効利用可能な値に調整されるようになる。
同第七の特徴構成は、同請求項7に記載した通り、上述の第一から第六の何れかの特徴構成に加えて、前記所定の添加割合は、前記分離工程で被処理物から揮散する放射性セシウムの揮散率が99%以上になるように決定される値である点にある。
放射性セシウムの揮散率が99%以上であると、被処理物に含まれる放射性物質が10000Bq/kgであっても、処理後の放射性物質が100Bq/kg(クリアランスレベル)以下となり被処理物は放射性物質を含まないものとして取り扱うことができる。
同第八の特徴構成は、同請求項8に記載した通り、上述の第一から第七の何れかの特徴構成に加えて、前記塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤を添加した後の被処理物の塩基度が略一定である点にある。
塩基度調整助剤を添加した後の被処理物の塩基度を略一定に保つ限り、塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤または非塩素系塩基度調整助剤の種類を変えても、スラグの骨格の脆弱化による放射性セシウムの揮散率の上昇という効果が恒常的に得られる。
同第九の特徴構成は、同請求項9に記載した通り、上述の第一から第八の何れかの特徴構成に加えて、前記塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤は、無機塩化物または無機塩化物が含まれる物質の何れかから選択される単一または複数の物質である点にある。
塩素系塩基度調整助剤が、無機塩化物または無機塩化物が含まれる物質であれば、塩基度が好適に調整されるとともに放射性セシウムの揮散率が好適に調整される。
同第十の特徴構成は、同請求項10に記載した通り、上述の第九の特徴構成に加えて、前記塩素系塩基度調整助剤は、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化鉄の何れかから選択される単一または複数の物質である点にある。
塩素系塩基度調整助剤として、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化鉄、またはそれらの組合せが好適に利用できる。
同第十一の特徴構成は、同請求項11に記載した通り、上述の第一から第十の何れかの特徴構成に加えて、前記塩基度調整工程で添加される非塩素系塩基度調整助剤は、非塩素系アルカリ金属化合物、非塩素系アルカリ土類金属化合物、非塩素系マグネシウム化合物、非塩素系ホウ素化合物、非塩素系鉄化合物、及び非塩素系鉛化合物の何れかから選択される単一または複数の物質である点にある。
非塩素系塩基度調整助剤として、非塩素系アルカリ金属化合物、非塩素系アルカリ土類金属化合物、非塩素系マグネシウム化合物、非塩素系ホウ素化合物、非塩素系鉄化合物、及び非塩素系鉛化合物、またはそれらの組合せが好適に利用できる。
同第十二の特徴構成は、同請求項12に記載した通り、上述の第一から第十一の何れかの特徴構成に加えて、前記被処理物が土壌であり、前記塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤が塩化カルシウムであり非塩素系塩基度調整助剤が水酸化カルシウムである点にある。
放射性セシウムで汚染された広範囲に広がる土壌に対して好適に放射性セシウムを分離除去でき、しかも塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤として塩化カルシウムを用いれば効果的に塩基度を調整できるとともに放射性セシウムの揮散率を上昇させることができ、非塩素系塩基度調整助剤として水酸化カルシウムを用いれば、塩化カルシウムに代替して効果的に塩基度を調整できるようになる。
同第十三の特徴構成は、同請求項13に記載した通り、上述の第十二の特徴構成に加えて、前記塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤は、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の合計量の30重量%から50重量%であり、被処理物に対する塩基度調整助剤全体の添加割合が30重量%から45重量%である点にある。
塩素系塩基度調整助剤として塩化カルシウムを用い、非塩素系塩基度調整助剤として水酸化カルシウムを用いる場合には、塩化カルシウムを塩素系塩基度調整助剤の合計量の30重量%から50重量%の割合で添加し、被処理物である地土壌に対する塩基度調整助剤全体の添加割合を30重量%から45重量%に調整することで、塩素系ガスの発生量を抑制しながらも放射性セシウムを高い揮散率で揮散させることができるようになる。
同第十四の特徴構成は、同請求項14に記載した通り、上述の第一から第十三の何れかの特徴構成に加えて、被処理物に還元剤を添加する還元剤添加工程をさらに含む点にある。
還元剤添加工程で被処理物に還元剤を添加すれば、分離工程で加熱処理が還元的雰囲気で進行し、放射性セシウムが塩化物に移行する反応が促進されるようになる。
同第十五の特徴構成は、同請求項15に記載した通り、上述の第十四の特徴構成に加えて、前記還元剤が、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、コークス、木炭、プラスチック、草木、及び下水汚泥の何れかから選択される単一または複数の物質である点である。
還元剤として、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、コークス、木炭、プラスチック、草木、及び下水汚泥、またはそれらの組合せが好適に利用できる。放射性セシウムで汚染されたプラスチック、草木、または下水汚泥を用いれば、さらに効果的な除染処理が実現できる。
同第十六の特徴構成は、同請求項16に記載した通り、上述の第一から第十五の何れかの特徴構成に加えて、前記分離工程は、被処理物を1200℃から1400℃で溶融して放射性セシウムを揮散分離する工程である点にある。
比較的低い温度で処理することで、加熱に要する燃料費等の運転コストを低減でき、加熱処理に用いる炉壁等の耐火物の焼損を回避して設備コストを低減できるようになる。
以上説明した通り、本発明によれば、放射性セシウムの揮散を促進する塩素系助剤の使用量を抑制しながらも、放射性セシウムの揮散率を上昇させることができる放射性セシウム分離濃縮方法を提供することができるようになった。
以下、本発明による放射性セシウム分離濃縮方法、放射性セシウム分離濃縮装置、及び放射性セシウム分離濃縮装置の運転方法の実施形態を説明する。
図1には、本発明による放射性セシウム分離濃縮装置1が示されている。放射性セシウム分離濃縮装置1は、放射性セシウムで汚染された土壌を含む被処理物から放射性セシウムを分離濃縮する装置で、放射性セシウムを含有する被処理物を集積する受入部2と、被処理物を1200℃から1500℃の温度範囲で加熱溶融して放射性セシウムを揮散分離する溶融炉5と、溶融炉5で被処理物から揮散分離された放射性セシウムを含む飛灰を捕集する第1集塵機11を備えている。
受入部2に集積された被処理物を溶融炉5に搬送する搬送機構3が設けられ、搬送機構3で搬送される被処理物に塩基度調整助剤を添加する塩基度調整助剤添加装置4が設置されている。塩基度調整助剤として、被処理物に含まれる放射性セシウムを揮散させる助剤としても機能する塩素系塩基度調整助剤が好適に用いられ、塩素系塩基度調整助剤に加えて非塩素系塩基度調整助剤が必要量添加される。
塩基度調整助剤添加装置4により添加される塩基度調整助剤の添加量、つまり塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の添加量及び配合割合を決定する塩基度調整助剤添加量決定装置16がさらに設けられている。塩基度調整助剤添加量決定装置16によって、被処理物に対して放射性セシウムの揮散率が所定の範囲に入るように当該添加量及び配合割合が決定される。
溶融炉5で溶融され、所定の揮散率で放射性セシウムが揮散された被処理物は溶融スラグとして下方に設置された冷却水槽6に滴下され、急冷されて水砕スラグとなり、排出機構7により槽外に排出される。排出されたスラグは、例えばコンクリート骨材、セメント材料、道路舗装材等の産業用資源として有効利用される。一方、溶融の過程で発生した排ガスは煙道8から流出し、煙道8に沿って配置された冷却装置9、剥離剤添加装置10、第1集塵機11、中和剤添加装置12、第2集塵機13、ヒータ14、触媒塔15、煙突を経て排出される。尚、溶融炉5の炉室及び煙道8は耐火レンガや耐火セメント等の耐火物で被覆されている。
冷却装置9により冷却されて排ガス中で析出し、固化された放射性セシウム化合物を含む飛灰が第1集塵機11で集塵され、排ガスに含まれる塩化水素ガスやSOx等の酸性ガスが中和剤添加装置12から添加される中和剤としての消石灰で中和されてカルシウム塩化物やカルシウム硫化物として第2集塵機13で集塵される。第1集塵機11及び第2集塵機13は主にバグフィルタで構成され、潮解性を有する飛灰が濾布に強固に付着しないように、剥離剤添加装置10から添加された剥離剤が濾布表面にコーティングされ、パルスジェット等による清掃時の剥離性が確保される。尚、乾式で中和する場合には中和剤として消石灰が好適に用いられるが、例えば湿式洗浄装置を利用する場合には水酸化ナトリウム(NaOH)も用いられる。
図2には、上述の放射性セシウム分離濃縮装置1によって実行される本発明の放射性セシウム分離濃縮装置の運転方法が示されている。
即ち、塩基度調整助剤添加量決定装置16によって被処理物に対して放射性セシウムの揮散率が所定の範囲に入るように塩基度調整助剤である塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の添加量及び配合割合を予め決定する塩基度調整助剤添加量決定工程が実行され、塩基度調整助剤添加装置4によって被処理物に塩基度調整助剤を添加する塩基度調整工程が実行され、溶融炉5によって塩基度調整助剤が添加された被処理物を溶融して溶融スラグから放射性セシウムを揮散分離する分離工程が実行され、第1集塵機11によって排ガスに含まれる放射性セシウムを捕集する捕集工程が実行される。
土壌を汚染した放射性セシウムは、土壌中の粘土鉱物成分等への吸着性が高く、一旦吸着されてしまうと物理的に分離除去することが難しい。また、強固な結合状態で土壌に吸着されているため、そのままでは加熱しても揮散分離しにくい。
従来は、加熱処理時にセシウムが揮散しやすいように、揮散促進剤として塩化ナトリウム等の塩素系助剤を被処理物に添加することにより、放射性セシウムと結合して沸点の低い塩化セシウムに移行させる方法が採用されていたが、加熱処理で塩化ナトリウム由来の腐食性ガスである塩化水素ガスが大量に発生するため、排ガスへの中和剤の添加量が増して薬剤コストの上昇を招いたり、飛灰量の増加のため大型のバグフィルタを構成することによる設備コストの上昇を招いたりするという問題があった。
また、沸点が溶融温度に近い塩化ナトリウムは、セシウムと化合する前に揮散し易く、塩化水素ガスの発生量が増し易いという特性があるため、効率的にセシウムを揮散させるという観点でさらなる改良の余地があった。
ところで、塩素系助剤を添加して被処理物を加熱溶融する際に被処理物に塩基度調整助剤を添加するとスラグの骨格構造が脆弱化して、スラグからセシウムが遊離し易くなる。
そこで、塩基度調整工程で被処理物に添加する塩基度調整助剤として塩素系の塩基度調整助剤を用いることにより、好ましい塩基度への調整のみならず、放射性セシウムの揮散促進剤としても機能させ、別途の塩化ナトリウム等の塩素系助剤を添加しなくても、分離工程で高効率に放射性セシウムを揮散させることができ、捕集工程で効率的に放射性セシウムを捕集できるようになる。つまり、塩素系塩基度調整助剤は、塩基度の調整と塩素による揮散促進の両方の機能を兼ね備えた高機能の塩基度調整助剤である。
そして、塩基度の調整に際して塩素系の塩基度調整助剤に加えて非塩素系の塩基度調整助剤を加えることにより、添加する塩素量を減らすことで、塩化水素ガスの発生を抑制しながらも、放射性セシウムの揮散率をさらに上昇させることができるようになる。特に、被処理物に添加する塩基度調整助剤の量や塩基度を略一定とした条件で、放射性セシウムの揮散率を向上させるときに有用である。
具体的に、塩基度調整助剤添加量決定工程では、少量の被処理物に対して、塩素系塩基度調整助剤及び非塩素系塩基度調整助剤の添加量及び配合割合を異ならせた試験サンプルを試験装置で加熱溶融して得られたスラグの成分分析を行ない、放射性セシウムの揮散率が所定の範囲(ここでは下限値及び上限値の双方であってもよいし、下限値のみであってもよい。)に入る添加量及び配合割合に決定される。
塩基度調整助剤の添加率は放射性セシウムの揮散率、つまり、加熱処理前後の放射性物質の減少率と相関する。被処理物の放射性物質の量は、地域、固形物の種類により異なることから、その濃度が、例えば法定の使用可能値以下または処分可能値以下、あるいは自主規制される使用可能値以下または処分可能値以下となるように、地域、固形物の種類に応じて揮散率の目標値を算出すればよく、その値を達成できるように、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の添加量及び配合割合を決定すればよい。
土壌のように被処理物の塩基度(CaO(重量%)/SiO2(重量%))が低い場合には、被処理物に塩基度調整助剤を添加することによって、溶融スラグからの放射性セシウムの分離効率を向上させることができる。尚、一般的な土壌の塩基度(CaO(重量%)/SiO2(重量%))は0.03〜0.1程度、土壌の光学的塩基度は0.50〜0.52程度である。
被処理物の塩基度(CaO(重量%)/SiO2(重量%))が低いと、SiO2を主成分として陽イオン結合で構成されるスラグの骨格構造の結合が強く、骨格構造と結合しているセシウムとの結合力も強い。そのため、塩素成分がセシウムと結合しようとしてもセシウムは骨格構造から離れることが出来ず、塩素とセシウムの結合は阻害され、結果として溶融スラグに放射性セシウムが残存する傾向が強くなる。
そのような場合でも、塩基度調整助剤を添加することによって、スラグの塩基度が上昇する。より低い温度で被処理物が溶融して流動性が上昇する。つまり、スラグの骨格構造の結合が弱くなり、セシウムはスラグの骨格構造から離れやすくなる。添加された塩素系塩基度調整助剤に含まれる塩素と放射性セシウムはイオン結合の機会が増加し、塩化セシウムに移行する反応が促進されるためである。そのため、放射性セシウムの揮散が促進される。
塩基度として簡易的な2成分塩基度(CaO(重量%)/SiO2(重量%))を指標として用いる場合を説明したが、塩基度はこれ以外にも様々な定義があり、廃棄物学会論文誌(Vol.19,No19,pp17-25,2008)に開示されている。例えば、以下の式で示すように、複数の成分で表すものもある。
(CaO+MgO+Fe2O3+K2O+Na2O)/(SiO2+Al2O3)
光学的塩基度は、対応可能な成分の数を大幅に増やし、ほぼ全ての酸化物を加味することのできる塩基度であるため、様々な組成を有する処理対象固形物に対して共通的に使用可能な塩基度指標である。
光学的塩基度は、DuffyとIngramによって見出された指標であり、紫外光吸収ピークがガラス組成に対して敏感に変化することに注目し、多成分系酸化物ガラスについて、ガラスの組成とそれらを構成するカチオンの電気陰性度とから、以下の数式に基づいて導き出される指標である。
光学的塩基度Λ=1−Σ(zi・ri/2)・(1−1/γi)
但し、γi=1.36(χi−0.26)
ここに、ziはi種カチオンの原子価であり、riは酸素1個あたりで表現したときのi種カチオンの数であり、χiはi種カチオンの電気陰性度である。
塩基度は塩素系、非塩素系のどちらの塩基度調整助剤を添加しても同様に増加する。したがって、塩素系と非塩素系の両者の添加比率は被処理物の塩素濃度を指標として調整する。塩基度が同一な値であっても、塩素濃度が高いほど塩素系塩基度調整助剤の比率が高く、塩素濃度が低いほど非塩素系塩基度調整助剤の比率が高い添加条件となる。
つまり、塩基度調整助剤添加後の被処理物の塩基度、光学的塩基度、塩素濃度、被処理物の加熱処理工程後の塩基度、光学的塩基度の何れかから選択される単一または複数の指標が所定の範囲に収まるように、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の添加量及び配合割合を決定することも可能である。
塩素系塩基度調整助剤として、無機塩化物または無機塩化物が含まれる物質の何れかから選択される単一または複数の物質を採用することが好ましく、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化鉄の何れかから選択される単一または複数の物質を採用することがさらに好ましく、特に高沸点の塩化物として塩化カルシウム等が好適に用いられ、第2集塵機13で回収された塩化カルシウム等を含む飛灰や、ごみ焼却炉で発生した塩化カルシウム等を含む飛灰を使用することも可能である。
非塩素系塩基度調整助剤として、非塩素系アルカリ金属化合物、非塩素系アルカリ土類金属化合物、非塩素系マグネシウム化合物、非塩素系ホウ素化合物、非塩素系鉄化合物、及び非塩素系鉛化合物の何れかから選択される単一または複数の物質を好適に用いることができる。
特に、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化ホウ素、ホウ砂、ホウ酸、酸化第一鉄、四酸化三鉄、酸化第二鉄、一酸化鉛、二酸化鉛等の何れかから選択される単一または複数の物質が好適に用いられる。
塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤を添加した後の被処理物の塩基度が略一定であることが好ましく、塩基度を略一定に保つ限り、塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤または非塩素系塩基度調整助剤の種類や添加割合を変えても、スラグの骨格の脆弱化による放射性セシウムの揮散率の上昇という効果が恒常的に得られる。特に、同じ元素の塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の組み合わせの場合に、添加割合をモル比で変更すると、塩基度が変化することなく、調整をすることが可能となる。尚、塩基度調整助剤の添加量の制御性を向上させるため、塩基度調整効果のない物質を混合して塩基度調整助剤とすることも可能である。また、一定の塩基度の条件の下で、塩素の量(塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の添加割合)を変えて、放射性セシウムの揮散率を変化させることも可能である。塩素の量を減らしても、放射性セシウムの揮散率が上がる場合があり、放射性セシウムの揮散率を最大とする添加割合が存在する。
塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤が塩化カルシウムであり非塩素系塩基度調整助剤が水酸化カルシウムであることが好ましく、放射性セシウムで汚染された広範囲に広がる土壌に対して好適に放射性セシウムを分離除去でき、しかも塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤として塩化カルシウムを用いれば効果的に塩基度を調整できるとともに放射性セシウムの揮散率を上昇させることができ、非塩素系塩基度調整助剤として水酸化カルシウムを用いれば、塩化カルシウムに代替して効果的に塩基度を調整できるようになる。
塩素系塩基度調整助剤として塩化カルシウムを用い、非塩素系塩基度調整助剤として水酸化カルシウムを用いる場合には、塩化カルシウムを塩素系塩基度調整助剤の合計量の30重量%から50重量%の割合で添加し、被処理物である地土壌に対する塩基度調整助剤全体の添加割合を30重量%から45重量%に調整することで、塩素系ガスの発生量を抑制しながらも放射性セシウムを高い揮散率で揮散させることができるようになる。
塩基度調整助剤添加量決定工程では、還元剤が添加された被処理物に対して、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の添加量及び配合割合が決定されることが好ましい。還元剤を被処理物に添加すれば、加熱処理工程で被処理物に含まれる放射性セシウムの酸化物が効果的にセシウムに還元処理され、還元された放射性セシウムが効率的に塩素と結合して塩化セシウムに移行し、放射性セシウムの揮散がより促進されるようになる。
塩基度調整助剤添加量決定工程で好ましい還元剤の添加量を求め、溶融炉に投入される被処理物に還元剤を添加する還元剤添加装置を備えればよい。還元剤として、活性炭、グラファイト、カーボンブラック、コークス、木炭、プラスチック、草木、及び下水汚泥の何れかから選択される単一または複数の物質が好適に用いられる。下水汚泥には生物処理によって有機物が分解された炭素成分が含まれているため、還元剤として好適に利用できる。尚、プラスチックのうち廃プラスチックを用いれば経済性が上がり、より好適に用いられる。
塩基度調整助剤添加量決定装置16として、試験炉及び試験炉で溶融されたスラグの成分分析装置を備え、さらに、受入部2に受け入れられた被処理物を定量サンプルして所定量の塩基度調整助剤、好ましくは還元剤をも自動添加し、試験炉で溶融処理し、得られたスラグの成分を成分分析して、好ましい塩基度調整助剤の添加量及び塩素系と非塩素系の添加割合を自動決定して、決定した添加量及び添加割合を塩基度調整助剤添加装置4に出力する制御装置を備えることが好ましい。
以上の説明の通り、本発明による放射性セシウム分離濃縮方法は、土壌を含む被処理物に含まれる放射性セシウムを加熱処理により分離濃縮する放射性セシウム分離濃縮方法であって、少なくとも塩素系塩基度調整助剤を含む塩基度調整助剤を被処理物に添加する塩基度調整工程と、塩基度調整助剤が添加された被処理物を1200℃から1500℃に加熱して被処理物から放射性セシウムを揮散分離する分離工程と、前記分離工程で揮散分離された放射性セシウムを捕集する捕集工程と、を含む点にある。
また、塩基度調整工程は、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤を所定の添加割合で配合する工程であり、前記所定の添加割合は、前記分離工程で被処理物から揮散する放射性セシウムの揮散率に基づいて決定される値であることが好ましいが、少なくとも塩基度調整助剤として塩素系塩基度調整助剤を用いることが好ましい。
塩基度調整工程で添加される塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の添加割合は、塩素系塩基度調整助剤が塩基度調整助剤全体の25重量%から85重量%であることが好ましく、これにより塩素系塩基度調整助剤を単独で用いるよりも放射性セシウムの揮散率を上昇させながらも、排ガスに含まれる塩素系の腐食ガスの発生量を抑制することができるようになる。
塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の添加割合は、被処理物の光学的塩基度を指標にする場合には、0.6以上になるように決定される値であることが好ましく、2成分塩基度CaO(重量%)/SiO2(重量%)を指標にする場合には、0.7以上になるように決定されることが好ましく、どちらも上限は特に制限されることはない。また、光学的塩基度を指標にする場合には、0.61以上0.68以下になるように決定することがより好ましく。2成分塩基度CaO(重量%)/SiO2(重量%)を指標にする場合には、0.8以上1.6以下になるように決定することがより好ましい。
さらに、塩基度調整工程で添加される塩基度調整助剤の添加割合は、被処理物に対して25重量%から50重量%であることが好ましく、30重量%から50重量%であることがさらに好ましい。このような値を採用すれば放射性セシウムの揮散率を上昇させながらも、塩基度調整助剤の使用量を適正量に調整することができる。
さらに、所定の添加割合は、前記分離工程で被処理物から揮散する放射性セシウムの揮散率が99%以上になるように決定される値であることが好ましい。放射性セシウムの揮散率が99%以上になれば、分離工程の後に被処理物に残存する放射線量が許容値、例えば一般廃棄物として許容される値に調整されるようになる。
また、被処理物が放射性物質を5000Bq/kg以上含む高濃度に汚染された被処理物であっても、放射性セシウムが効率よく分離濃縮されるので、分離工程の後に被処理物に残存する放射性物質の量が許容値、例えば土木資材などとして有効に利用できる値に調整されたり、例えば残存する放射性物質が100Bq/kg(クリアランスレベル)以下となり被処理物は放射性物質を含まないものとして取り扱うことができるようになる。
更に、放射性セシウムの揮散率が99%以上であると、被処理物に含まれる放射性物質が10000Bq/kgであっても、処理後の放射性物質が100Bq/kg(クリアランスレベル)以下となり被処理物は放射性物質を含まないものとして取り扱うことができる。上述の実施形態では被処理物に塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤を同一の装置で纏めて投入する機構を備えた例を説明したが、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤を異なる装置で別個に投入してもよい。
煙道8では、排ガスの温度低下とともに揮散した放射性セシウムの一部が析出し、耐火物へ浸透する虞がある。上述の通り煙道8は耐火レンガや耐火セメント等の耐火物で被覆されているので、耐火物の張替えメンテナンス時に汚染された耐火物を粉砕して被処理物として同様に処理することも可能である。
上述の実施形態では加熱炉として溶融炉の形式は限定せずに説明したが、必要な温度まで加温できれば燃料式、電気式、連続式とバッチ式の何れでもよい。例えば回転式表面溶融炉、固定式表面溶融炉、シャフト式溶融炉、キルン式溶融炉、電気溶融炉、高周波炉、プラズマ溶融炉等、何れの形式であってもいい。
尚、回転式表面溶融炉は被処理物に可燃物を含む下水汚泥、各種バイオマス等であっても安定して処理することができ、可燃物を燃料の補助として利用することができる、より良い形式である。また、加熱炉として十分な加熱が行われば、溶融炉に限らずどのような形式であってもよい。
以上の説明では、土壌を含む被処理物を対象に本発明を説明したが、本発明による放射性セシウム分離濃縮方法は、土壌に限らず下水汚泥、浚渫汚泥、一般廃棄物、産業廃棄物、農業系バイオマス、木質系バイオマス、草本系バイオマス若しくはそれらの焼却残さから選択される単一または複数の物質と土壌との混合物であっても適用可能であり、土壌を除く上述の被処理物であっても適用可能である。
上述した実施形態は、何れも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的な構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
以下に実験例を説明する。尚、以下の実験例で揮発率を除いて「%」というときは、「重量%」を意味するものとする。
本実験では、試料の基材として模擬土壌を用いた。この模擬土壌は真砂土(砂成分)99.5%と炭酸セシウム(Cs2CO3)試薬0.5%を混合したもの(基材A)と、土壌(真砂土とベントナイトを重量比85:15で混合したもの)70%に下水汚泥焼却灰(可燃分)29%と炭酸セシウム(Cs2CO3)試薬1%を混合したもの(基材B)である。図3に基材A,Bの組成を示す。
この基材に塩素系塩基度調整助剤としてCaCl2若しくはNaCl、及び非塩素系塩基度調整助剤としてCa(OH)2若しくはNa2CO3を添加して試料とし、添加薬剤種、添加薬剤比率、放射性セシウムの揮散率を最大化する条件を変えて以下の実験を行った。
試験方法は、図4(a),(b),(c)に示すように、舟形形状の磁性ボートの一端部側に試験片を充填し、充填部が上方になるように磁性ボートを所定角度傾斜させた状態で、所定温度に保持された空気自然対流下の電気炉内に所定時間(15分)静置し、自然冷却させてスラグを作成し、スラグを磁性ボートから分離した。スラグの重量と元素含有濃度を分析し、各元素の揮散率を算出した。また、以下に示す一部の実験例では、スラグの状態を確認した。
(実験例1〜8)
(塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の薬剤種による効果の検討)
塩素系塩基度調整助剤として、Ca系塩素系塩基度調整助剤(CaCl2)、Na系塩素系塩基度調整助剤(NaCl)を、非塩素系塩基度調整助剤として、Ca系非塩素系塩基度調整助剤(Ca(OH)2)、Na系非塩素系塩基度調整助剤(Na2CO3)をそれぞれ用いた。塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の配合割合は、基材と塩基度調整助剤を含めた組成全体に対して、非塩素系塩基度調整助剤15%に対して、塩素系塩基度調整助剤を10%または20%になるように配合した。処理対象物として基材Aを用い、処理対象物75%に対して、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の合計が25%になるように配合して、1350℃にて溶融させた。配合条件は、図5の実施No.1〜8に示すとおりである。
図6は、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の種類と配合割合を変えた場合のセシウムの揮散率を算出した結果を表すグラフである。図6において、横軸は塩基度調整助剤の種類として、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の組み合わせを表し、縦軸はセシウムの揮散率(%)を表す。また、棒グラフは、各塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の組み合わせに対する、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の配合割合の相違によるセシウムの揮散率(%)を表している。
尚、セシウムの揮散率は、下記の式から求めた。他の元素の揮散率も同様に求めた。セシウム揮散率=100×{1−(スラグの重量×スラグのセシウム含有濃度)/(試料の重量×試料のセシウム含有濃度)}
図6から、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤として、CaCl2とCa(OH)2を用いたものが最もセシウムの揮散率(%)に優れ、次いで、CaCl2とNa2CO3を用いたものと、NaClとCa(OH)2を用いたものがほぼ同等にセシウムの揮散率(%)に優れ、NaClとNa2CO3を用いたものが続くことがわかる。これらの結果から、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤として、いずれもカルシウム系を用いるほうがセシウムの揮散率(%)に優れることがわかった。
図7(a)は、基材と塩基度調整助剤を含めた組成全体に対して、非塩素系塩基度調整助剤15%に対して、塩素系塩基度調整助剤を10%配合した場合、図7(b)は、非塩素系塩基度調整助剤15%に対して、塩素系塩基度調整助剤を20%配合した場合の薬剤元素の揮散率を示すグラフである。図7(a),(b)において、横軸は塩基度調整助剤の種類として、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の組み合わせを表し、縦軸は薬剤元素の揮散率(%)を表す。また、棒グラフは、各塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の組み合わせに対する、CaとNaの揮散率(%)を表している。
図7(a),(b)から、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤のいずれの組み合わせにおいてもCaの揮散率は小さく、Naの揮散率は30%から72%と大きいことがわかる。CaCl2とNaClの沸点は、それぞれ1935℃、1413℃であり、NaClの沸点は、CaCl2の沸点に比べ、500℃程度低く、溶融温度にも近いことから、NaClは、溶融温度における飽和蒸気圧が高く、セシウムと反応せずに、そのまま揮散したためであると考えられる。
(実験例9〜18)
(塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の配合割合による効果の検討)
塩素系塩基度調整助剤として、CaCl2を、非塩素系塩基度調整助剤として、Ca(OH)2を用いた。塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の配合割合が、基材と塩基度調整助剤を含めた組成全体に対して、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の合計量35%、40%に対して、塩素系塩基度調整助剤を0%から35%になるように配合した。処理対象物として基材Bを用い、処理対象物65%および60%に対して、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の合計が35%および40%になるように配合して、1400℃にて溶融させた。配合条件は、図5の実施No.9〜18に示すとおりである。
実験例9〜18で溶融後のスラグの状態を目視で確認した。図8(a),(b)は、溶融後のスラグの状態を示す写真である。図8(a)は実験例9〜13の溶融後のスラグの状態を示し、図8(b)は実験例14〜18の溶融後のスラグの状態を示している。また、各スラグの写真において白丸で囲まれた部分が溶融後のスラグを示している。塩化カルシウムの添加濃度が20%以上の実験例(実験例9〜11,14〜16)においては、塩化カルシウムの白色粒子が表面に観察された。これは、塩化カルシウムの添加濃度が高いと、塩化カルシウムの一部が被処理物と均一なスラグ融液相を形成できずに塩化カルシウム融液相として遊離したと考えられる。
図9は、実験例9〜18おける塩素系塩基度調整助剤の添加量に対するセシウムの揮散率を算出した結果を表すグラフである。図9から、塩素系塩基度調整助剤であるCaCl2の添加量が15%の場合に、セシウムの揮散率が最大となり、塩基度調整助剤合計が35%の場合のセシウムの揮散率は99.80%、塩基度調整助剤合計が40%の場合のセシウムの揮散率は99.96%であることがわかる。塩基度調整助剤合計が同じであれば、塩基度はほぼ同じ値になると考えられる。この場合に、セシウムの揮散率は、塩素系塩基度調整助剤の添加量に従って増加するのではないことがわかった。
図10(a),(b)は、実験例9〜18おける塩素系塩基度調整助剤の添加量に対するセシウム、ナトリウム、カリウム、塩素の揮散率を算出した結果を表すグラフである。図10(a)は、塩基度調整助剤35%添加の場合の各元素の揮散率を表し、図10(b)は、塩基度調整40%添加の場合の各元素の揮散率を表す。図10(a),(b)から、ナトリウム、カリウムの揮散率は、セシウムの揮散率と同様の傾向を示すことがわかる。また、塩素の揮散率は、CaCl2の添加濃度が低いほど揮散率が低く、スラグに取り込まれる割合が多かったことがわかった。これらの結果は、上述のスラグの状態を示す写真の結果と一致する。すなわち、遊離した塩化カルシウム融液相がセシウムと反応をせずに、逆にセシウムの揮散を阻害したと考えられる。
以上の結果から、塩基度調整助剤の量が同じ、又は塩基度調整助剤を含む被処理物の塩基度が略一定の場合、塩素系塩基度調整助剤つまり塩素の添加量が多いほどセシウムの揮散率が高くなるわけではないことがわかる。また、塩素系塩基度調整助剤の添加量と非塩素系塩基度調整助剤の添加量との添加割合を調整することで、セシウムの揮散率が極大値となる添加割合が存在することがわかる。
(実験例19〜22)
(還元剤添加による効果の検討)
塩素系塩基度調整助剤として、CaCl2を、非塩素系塩基度調整助剤として、Ca(OH)2を用いた。還元剤の添加割合を可燃分及び塩基度調整助剤を含む被処理物全体の40%、50%とした。塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の配合割合が、基材、塩基度調整助剤及び還元剤を含めた組成全体に対して、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の合計量35%に対して、塩素系塩基度調整助剤を15%、非塩素系塩基度調整助剤を20%になるものと、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤の合計量40%に対して、塩素系塩基度調整助剤を15%、非塩素系塩基度調整助剤を25%になるものを、基材Bに混合して、1400℃にて溶融させた。配合条件は、図5の実施No.19〜22に示すとおりである。
図11は、実験例12,17,19〜22おける塩素系塩基度調整助剤の添加量に対するセシウムの揮散率を算出した結果を表すグラフである。図11から、還元剤の添加量が多いほどセシウムの揮散率が高いことがわかる。特に、土壌に対して還元剤を50%含有する処理対象物を用い、塩基度調整助剤を40%添加する実験例22の場合は、セシウムの揮散率が99.99%に達することがわかった。
以上の結果から、塩素系塩基度調整助剤の添加条件と還元剤の添加割合を適宜調整すれば、セシウムの揮散率を高くすることができることがわかった。
(実験例23〜25)
(プラントを用いた実験)
図1の装置を用いて、セシウムの揮散率および排ガス中のHCl濃度を測定した。図12に示すような処理対象物に塩素系塩基度調整助剤としてCaCl2を、非塩素系塩基度調整助剤としてCa(OH)2を図12に示す配合割合で配合して溶融処理を行った。処理後のスラグのセシウムの揮散率と排ガス中のHCL濃度を測定した。HCL濃度の測定は、第2集塵機13の入口で行った。結果を図12に示す。
図12から、非塩素系塩基度調整助剤を含まない実験例23では、セシウムの揮散率が96.7%と低く、排ガス中のHCL濃度も、8,200ppmと高濃度であった。非塩素系塩基度調整助剤の添加割合が増加するに応じて、セシウムの揮散率が増加し、排ガス中のHCL濃度も低減することがわかる。
上記実験例9〜22で、最高のセシウム揮散率が得られる実験例22と同様の条件である実験例25においては、セシウムの揮散率が99.9%と高く、排ガス中のHCL濃度も、1,900ppmと低濃度で、実験室における実験結果と同様の結果がプラントを用いた実験においても得られることがわかった。
また、セシウムの揮散率が高い実験例25のスラグの光学塩基度および二成分塩基度(CaO(%)/SiO2(%))は、本発明における好ましい光学塩基度および二成分塩基度(CaO(%)/SiO2(%))の範囲に含まれる。
従って、少量の処理対象物を用いて、塩素系塩基度調整助剤と非塩素系塩基度調整助剤を事前に決定した所定の添加割合で添加すれば、プラントを用いて同様の条件で放射性セシウムを分離濃縮することができることがわかった。