[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るラッチ機構を備えた駆動力伝達装置及びその周辺部の断面図である。この駆動力伝達装置1は、例えば車両のエンジン等の駆動源の駆動力を断続可能に伝達するために用いられる。なお、ここでラッチ機構とは、一方向から押圧力を断続的に付与することにより、その押圧力が付与される方向に進退移動する対象部材が複数箇所に位置決めされる機構をいう。
駆動力伝達装置1は、同軸上で相対回転可能に配置された第1回転部材11及び第2回転部材12と、第2回転部材12に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結された噛み合い部材2と、通電により磁力を発生する電磁コイル3と、電磁コイル3を保持するヨーク30と、電磁コイル3への通電によって作動するラッチ機構10とを備え、ラッチ機構10の作動によって第1回転部材11と第2回転部材12とが駆動力伝達可能に連結される。第1回転部材11及び第2回転部材12は、回転軸線Oを共有してハウジング100に回転可能に支持されている。ハウジング100は、第1ハウジング部材101及び第2ハウジング部材102からなり、第1ハウジング部材101と第2ハウジング部材102とが複数のボルト103(図1には1つのボルト103のみを示す)によって相互に固定されている。なお、以下の説明において、回転軸線Oに平行な方向を軸方向といい、回転軸線Oを中心とする周方向を単に周方向ということがある。
第1回転部材11は、第1ハウジング部材101との間に配置された玉軸受13によって回転可能に支持されている。第1回転部材11は、玉軸受13に支持された軸部111と、軸部111の端部から径方向外方に張り出して形成された張り出し部112と、張り出し部112の外径端部から回転軸線Oに沿って第2回転部材12側に延在する円筒部113と、円筒部113の先端部からさらに径方向外方に張り出して形成された第1噛合部としてのギヤフランジ部114とを一体に有している。ギヤフランジ部114には、周方向に沿って複数のギヤ歯115が形成されている。
第2回転部材12は、第2ハウジング部材102に形成された開口102aから挿入されるシャフト14を挿通させる挿通孔120が形成された円筒状であり、挿通孔120の内面には、シャフト14の外周スプライン嵌合部14aにスプライン嵌合する内周スプライン嵌合部12aが形成されている。第2回転部材12とシャフト14とは、内周スプライン嵌合部12aと外周スプライン嵌合部14aとのスプライン嵌合により相対回転不能であり、かつスナップリング15によって軸方向の相対移動が規制されている。シャフト14の外周面と第2ハウジング部材102の開口102aの内面との間は、シール部材16によって封止されている。
第2回転部材12は、軸方向の一端部が第1回転部材11の円筒部113の内側に配置された玉軸受17によって支持され、軸方向の他端部が第2ハウジング部材102との間に配置された玉軸受18によって支持されている。玉軸受17,18は、第2回転部材12の外周面に嵌合し、第2回転部材12の外周面における玉軸受17と玉軸受18との間には、回転軸線Oに平行に延在する複数の突条からなる外周スプライン嵌合部12bが形成されている。第2回転部材12の外周面とハウジング100の内面との間には、ラッチ機構10とが配置されている。
ラッチ機構10は、電磁コイル3の磁力によって軸方向移動する押圧部材としてのアーマチャ4と、第2回転部材12に外嵌された被係止部材としてのピストンリング5と、第2ハウジング部材102に形成された複数の係止突起19と、噛み合い部材2とピストンリング5との間に配置された転がり軸受6と、噛み合い部材2をピストンリング5側に弾性的に押圧する付勢部材としての弾性部材7と、アーマチャ4を電磁コイル3とは反対側に付勢する付勢部材としての皿バネ301とを備えている。アーマチャ4、ピストンリング5、及び係止突起19は、例えば鉄系金属からなる。
ピストンリング5は、アーマチャ4及び複数の係止突起19と転がり軸受6との間に配置され、弾性部材7による押圧力を噛み合い部材2から転がり軸受6を介して複数の係止突起19側への軸方向の付勢力として受ける。アーマチャ4は、弾性部材7による押圧力に抗してピストンリング5を転がり軸受6側に押圧する。すなわち、弾性部材7は、ピストンリング5をアーマチャ4による押圧方向とは反対方向に付勢する。
係止突起19は、アーマチャ4と軸方向に対向する第2ハウジング部材102の対向面よりもピストンリング5側に向かって突出した突起として形成されている。本実施の形態では、複数の係止突起19が第2ハウジング部材102に一体に設けられているが、複数の係止突起19は第2ハウジング部材102と別体でもよい。
また、本実施の形態では、転がり軸受6が針状スラストころ軸受からなる。弾性部材7は、一対の皿バネ71,72を向かい合わせて構成され、噛み合い部材2の第1回転部材11側の位置に配設されている。皿バネ71は噛み合い部材2の軸方向端面に接触し、皿バネ72は、内輪171、外輪172、及び複数の球状の転動体173からなる玉軸受17の内輪171の軸方向端面に接触している。
噛み合い部材2は、第2回転部材12の外周スプライン嵌合部12bにスプライン嵌合する内周スプライン嵌合部21aを有する円筒部21と、円筒部21における第1回転部材11側の端部から径方向外方に張り出して形成された第2噛合部としてのギヤフランジ部22とを一体に有している。噛み合い部材2は、第2回転部材12に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結され、噛み合い部材2が第1回転部材11側に移動すると、ギヤフランジ部22が第1回転部材11のギヤフランジ部114に噛み合うように構成されている。
ギヤフランジ部22には、周方向に沿って複数のギヤ歯23が形成され、この複数のギヤ歯23がギヤフランジ部114の複数のギヤ歯115に噛合する。図1では、回転軸線Oよりも上側に、噛み合い部材2のギヤフランジ部22が第1回転部材11のギヤフランジ部114に噛み合っていない状態(非連結状態)を示し、回転軸線Oよりも下側に、噛み合い部材2のギヤフランジ部22が第1回転部材11のギヤフランジ部114に噛み合った状態(連結状態)を示している。
ピストンリング5は、アーマチャ4の軸方向移動に応動し、噛み合い部材2のギヤフランジ部22が第1回転部材11のギヤフランジ部114に噛み合うように、噛み合い部材2を回転軸線Oに沿って軸方向に押圧する。すなわち、噛み合い部材2は、ピストンリング5によって第2回転部材12に対して軸方向に移動し、ギヤフランジ部22が第1回転部材11のギヤフランジ部114に噛み合うことで、第1回転部材11と第2回転部材12とが連結される。ピストンリング5が噛み合い部材2を押圧する際の動作については後述する。
電磁コイル3は、樹脂からなるボビン31に図略のコントローラから供給される電流が流れる巻線32を巻き回してなる。この電磁コイル3は、鉄等の強磁性体からなる環状のヨーク30に保持され、ヨーク30は第2ハウジング部材102に支持されている。ヨーク30には、回転軸線Oに平行となるように配置された円柱状のピン300が嵌合する複数の穴部30aが形成され、この穴部30aにピン300の一端部が挿入されている。また、第2ハウジング部材102には、ピン300の他端部が嵌合する複数の穴部102bが形成されている。
図2は、アーマチャ4を示す斜視図である。アーマチャ4は、中心部に第2回転部材12を挿通させる貫通孔4aが形成された円環板状の本体部40と、本体部40の内周面から内方に向かって突出した環状の受け部41と、受け部41におけるピストンリング5側の軸方向端面である受け面41aから軸方向に突出した複数の押圧部42とを一体に有している。本体部40は、電磁コイル3及びヨーク30と軸方向に対向して配置され、かつ複数のピン300(図1に示す)を挿通させるピン挿通孔4bが複数箇所(本実施の形態では4箇所)に形成されている。
受け部41は、軸方向の厚さが本体部40よりも薄く形成されている。本実施の形態では、受け部41が本体部40の厚さ方向におけるピストンリング5とは反対側に偏在し、受け面41aと本体部40における電磁コイル3及びヨーク30との対向面40aとの間には段差が形成されている。受け面41aは、軸方向に対して直交する平坦な面である。
押圧部42は、貫通孔4aの内側から見た場合に三角形状を呈し、受け部41の受け面41aからピストンリング5側に向かって突出している。また、押圧部42は、ピストンリング5に対向して配置され、電磁コイル3への通電時にピストンリング5に当接する当接面42aと、受け部41の受け面41aに対して直交する端面42bとを有している。当接面42aは、ピストンリング5の周方向に対して傾斜した傾斜面であり、当接面42aと端面42bとがなす角は鋭角である。本実施の形態では、6つの押圧部42が周方向に等間隔に形成されている。受け面41aは、複数の当接面42aの間に形成されている。
アーマチャ4は、図1に示すように、本体部40とヨーク30との間に配置された皿バネ301によって、ヨーク30から離間する方向に弾性的に押し付けられている。アーマチャ4は、電磁コイル3が非通電であるときには、皿バネ301の押し付け力によって第2ハウジング部材102の受け部102cに当接し、電磁コイル3に通電されると、その磁力によってヨーク30に引き寄せられる。
また、アーマチャ4は、ピン挿通孔4bに挿通された複数のピン300によって第2ハウジング部材102及びヨーク30に対する回転が規制され、電磁コイル3に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。アーマチャ4は、第2ハウジング部材102の受け部102cに当接した後退位置と、ヨーク30に当接した前進位置との間を、複数のピン300に案内されて軸方向に進退移動する。皿バネ301は、アーマチャ4を前進位置から後退位置に向かって付勢している。図1では、回転軸線Oよりも上側にアーマチャ4が後退位置にある状態を示し、回転軸線Oよりも下側にアーマチャ4が前進位置にある状態を示している。
図3は、第2ハウジング部材102に設けられた複数の係止突起19及びその周辺部を示す斜視図である。
第2ハウジング部材102には、第2回転部材12を挿通させる貫通孔102dが形成され、複数の係止突起19は、貫通孔102dの内周面から内方に膨出し、かつ回転軸線Oに沿ってピストンリング5側に突出している。複数の係止突起19は、貫通孔102dの周方向に沿って等間隔に設けられ、その個数はアーマチャ4の押圧部42の個数と同じである。
係止突起19は、アーマチャ4の押圧部42における当接面42aと同様に、後述するピストンリング5の軸方向突起51の先端面51aに当接する当接面19aが、ピストンリング5の周方向に対して傾斜した傾斜面として形成されている。また、係止突起19は、ピストンリング5の周方向に対して直交する平坦な第1側面19b及び第2側面19cを有し、第1側面19bと第2側面19cとの間に当接面19aが形成されている。第1側面19bと当接面19aとがなす角は鋭角であり、第2側面19cと当接面19aとがなす角は鈍角である。
図4は、ピストンリング5を示し、(a)はピストンリング5を回転軸線Oに沿って複数の係止突起19側から見た平面図、(b)はピストンリング5の一部を示す斜視図である。
ピストンリング5は、第2回転部材12を挿通させる環状の基部50と、基部50から軸方向に突出した複数の軸方向突起51とを有している。本実施の形態では、回転軸線Oに沿った断面における基部50の断面形状が矩形状であり、基部50と一体に12個の軸方向突起51が等間隔に設けられている。それぞれの軸方向突起51の軸方向端面である先端面51aには、被係止部510が形成されている。より具体的には、軸方向突起51の先端面51aは、ピストンリング5の周方向に対して傾斜した第1傾斜面510aと、同じくピストンリング5の周方向に対して第1傾斜面510aと同方向に傾斜した第2傾斜面510bとを含み、第1傾斜面510aと第2傾斜面510bとがピストンリング5の周方向に並んでいる。
第1傾斜面510aと第2傾斜面510bとの間には、回転軸線Oと平行な段差面510cが形成されている。また、軸方向突起51は、ピストンリング5の周方向に対して直交する平坦な第1側面51b及び第2側面51cを有し、第1側面51bが第1傾斜面510aと連続して形成され、第2側面51cが第2傾斜面510bと連続して形成されている。
ピストンリング5の周方向における第1傾斜面510a及び第2傾斜面510bの幅は、第1傾斜面510aの幅の方が第2傾斜面510bの幅よりも広く形成されている。被係止部510は、第1傾斜面510a及び段差面510cによって形成され、ピストンリング5の外周側から見た場合に三角形状をなす窪みとして構成されている。周方向に隣り合う2つの軸方向突起51の間における基部50の軸方向端面50aは、軸方向に対して直交する平坦な面であり、軸方向突起51は、軸方向端面50aに対して垂直に立設されている。基部50における軸方向端面50aとは反対側の面には、軸受6が対向する。
ピストンリング5の被係止部510は、係止突起19によって係止される。より具体的には、係止突起19の当接面19aが被係止部510の先端面51aにおける第1傾斜面510aに面接触することで、ピストンリング5の軸方向移動及び回転が係止突起19によって規制される。ピストンリング5の被係止部510が係止突起19によって係止された状態では、噛み合い部材2のギヤフランジ部22が第1回転部材11のギヤフランジ部114に噛み合い、第1回転部材11と第2回転部材12とが駆動力伝達可能に連結される。
また、軸方向突起51の先端面51aには、電磁コイル3が励磁された際、アーマチャ4の押圧部42における当接面42aが当接する。より詳細には、押圧部42における当接面42aは、ピストンリング5の径方向における先端面51aの外周側の一部に当接し、先端面51aの内周側の一部には、係止突起19の当接面19aが当接する。
電磁コイル3が励磁されると、アーマチャ4は、その当接面42aと軸方向突起51の先端面51aとの接触により、ピストンリング5を、基部50が係止突起19から離間する方向に押圧する。
(ラッチ機構10の動作)
図5(a)〜(d)は、ピストンリング5の被係止部510が係止突起19に係止されない非係止状態(第2状態)から、ピストンリング5の被係止部510が係止突起19に係止された係止状態(第1状態)に切り替わる際のラッチ機構10の動作を示す模式図である。図5(a)〜(d)では、説明の容易化及び明確化のため、ピストンリング5及びアーマチャ4の周方向を図面の上下方向に延びる直線状に示し、複数の係止突起19のうち1つの係止突起19の輪郭を二点鎖線で図示している。また、アーマチャ4は破線で図示している。
本実施の形態では、ピストンリング5が図面の左方に移動した際に噛み合い部材2のギヤフランジ部22が第1回転部材11のギヤフランジ部114に噛み合い、ピストンリング5が図面の右方に移動した際に噛み合い部材2のギヤフランジ部22が第1回転部材11のギヤフランジ部114から離脱する。以下、図面の左側に向かう方向を噛合方向といい、図面の右側に向かう方向を離脱方向という。
ピストンリング5は、アーマチャ4の進退移動に伴って被係止部510の先端面51aが係止突起19及びアーマチャ4の当接面19a,42aを摺動して回転する。ピストンリング5の被係止部510が係止突起19に係止されない非係止状態では、被係止部510が周方向に隣り合う一対の係止突起19の間に位置する。
非係止状態では、図5(a)に示すように、弾性部材7の押圧力によりピストンリング5の第1傾斜面510aにアーマチャ4における押圧部42の当接面42aが当接する。前述のように、ピストンリング5の第1傾斜面510a及びアーマチャ4の当接面42aはピストンリング5の周方向に対して傾斜しているので、アーマチャ4の当接面42aがピストンリング5の第1傾斜面510aに当接することにより、ピストンリング5には回転軸線Oを回転軸とする回転力が発生するが、ピストンリング5の回転は、軸方向突起51の第1側面51bが係止突起19の第1側面19bに接触することで規制されている。
図5(b)は、図5(a)に示す非係止状態から、電磁コイル3に通電されてアーマチャ4がヨーク30側に移動し、ピストンリング5がアーマチャ4と共に軸方向に移動して、軸方向突起51の第1側面51bの全体が係止突起19の第1側面19bよりも噛合方向に変位した状態を図示している。この状態では、軸方向突起51の第1側面51bと係止突起19の第1側面19bとの接触によるピストンリング5の回転規制が解除されるので、ピストンリング5が回転し、図5(c)に示すように被係止部510の先端面51a(第1傾斜面510a)がアーマチャ4の当接面42aを摺動する。また、この回転に伴って、ピストンリング5が離脱方向に移動する。
このピストンリング5の回転は、軸方向突起51の段差面510cがアーマチャ4の押圧部42における端面42bに当接することで規制される。このとき、軸方向突起51の第1の傾斜面510aは、係止突起19の当接面19aに対向する。そして、電磁コイル3への通電が遮断されてアーマチャ4が離脱方向に移動すると、被係止部510の先端面51a(第1傾斜面510a)が係止突起19の当接面19aを摺動して回転し、図5(d)に示すように軸方向突起51の段差面510cが係止突起19の先端部における第1側面19bに当接する。
これにより、ピストンリング5の被係止部510が係止突起19に係止された係止状態となり、噛み合い部材2におけるギヤフランジ部22の複数のギヤ歯23が第1回転部材11におけるギヤフランジ部114の複数のギヤ歯115に噛合して、第1回転部材11と第2回転部材12とが駆動力伝達可能に連結される。
図6(a)〜(d)は、ピストンリング5の被係止部510が係止突起19に係止された係止状態(第1状態)から、ピストンリング5の被係止部510が係止突起19に係止されない非係止状態(第2状態)に切り替わる際のラッチ機構10の動作を示す模式図である。
図6(a)は、図5(d)に示す係止状態から電磁コイル3に通電されてアーマチャ4が噛合方向に移動し、アーマチャ4の当接面42aが係止突起19の当接面19aよりも噛合方向に変位した状態を図示している。この状態では、軸方向突起51の段差面510cと係止突起19の第1側面19bとの接触によるピストンリング5の回転規制が解除され、ピストンリング5が弾性部材7の押圧力によってアーマチャ4の当接面42aを摺動して回転し、図6(b)に示すように、軸方向突起51の先端面51a(第2傾斜面510bの一端)がアーマチャ4の受け部41の受け面41aに当接する。軸方向突起51の先端面51aがアーマチャ4の受け面41aに当接することにより、ピストンリング5の軸方向移動が規制されると共に、ピストンリング5の回転速度が制限される。
そして、電磁コイル3に供給される励磁電流の減少に伴い、アーマチャ4が離脱方向に移動すると、図6(c)に示すように、隣接する他の軸方向突起51の第1側面51bが押圧部42の端面42bに当接し、ピストンリング5の回転が一旦停止する。これにより、ピストンリング5が過剰に回転することによって隣接する他の軸方向突起51が係止突起19に係止されてしまうこと(軸方向突起51の飛び越え)が防止される。また、このときのピストンリング5の軸方向移動は、軸方向突起51の先端面51a(第2傾斜面510b)が受け部41の受け面41aに当接することにより規制される。
その後、アーマチャ4がさらに離脱方向に移動すると、図6(d)に示すように、押圧部42が係止突起19の当接面19aよりも離脱方向に変位してピストンリング5の回転規制が解除され、ピストンリング5の回転によって軸方向突起51の第1側面51bが係止突起19の第1側面19bに当接すると共に、弾性部材7の押圧力によって軸方向突起51の先端面51a(第1傾斜面510a)が押圧部42の当接面42aに当接する。
そして、ピストンリング5が軸方向突起51の先端面51aと押圧部42の当接面42aとの接触状態と保ちながら、アーマチャ4と共に移動する。すなわち、ラッチ機構10が第1状態から第2状態に切り替わるとき、ピストンリング5とアーマチャ4とは、所定の距離にわたって軸方向に共に移動する。
アーマチャ4が皿バネ301の押し付け力によって第2ハウジング部材102の受け部102cに当接するまで離脱方向に移動すると、前述の図5(a)に示すように、係止突起19が周方向に隣り合う2つの軸方向突起51の間に位置する第2状態となる。これにより、噛み合い部材2におけるギヤフランジ部22の複数のギヤ歯23と第1回転部材11におけるギヤフランジ部114の複数のギヤ歯115との噛み合いが解除され、第1回転部材11と第2回転部材12とが相対回転可能となる。
ここで、図6(b)に示すように、ピストンリング5の周方向に対するアーマチャ4の受け面41aの傾斜角度θ1は、同じくピストンリング5の周方向に対する係止突起19における当接面19aの傾斜角度θ2よりも小さい。本実施の形態では、前述のように受け面41aが軸方向に対して直交しているので、受け面41aの傾斜角度θ1は0°である。当接面19aの傾斜角度θ2は、例えば12.5°から20.0°程度である。
なお、アーマチャ4の受け面41aの傾斜角度θ1は、係止突起19の当接面19aの傾斜角度θ2よりも小さければよく、アーマチャ4の受け面41aは必ずしも軸方向に対して直交していなくともよい。ただし、その傾斜の方向は、共通であることが望ましい。θ1<θ2の関係が満たされていれば、軸方向突起51の先端面51a(第2傾斜面510b)が係止突起19の当接面19aを摺動しながらピストンリング5が回転する際、その回転速度がアーマチャ4の受け面41aによって規制されるので、ピストンリング5の回転速度が緩和される。
また、本実施の形態では、ラッチ機構10を第1状態から第2状態に切り替える際、駆動力伝達装置1を制御する制御装置が、例えばPWM(Pulse Width Modulation)制御によって、電磁コイル3に供給する励磁電流を徐々に低減させる。これにより、アーマチャ4の離脱方向への移動が緩やかになり、ピストンリング5も、アーマチャ4と共に軸方向に緩やかに移動する。なお、アーマチャ4の離脱方向への移動を緩やかにする手段としては、上記のように励磁電流を除変させる他、例えばアーマチャ4のピン挿通孔4bの内面とピン300との間に、摺動抵抗を発生させるOリング等の弾性体を介在させてもよい。
(第1の実施の形態の作用及び効果)
上記説明した第1の実施の形態によれば、以下に述べる作用及び効果が得られる。
(1)ラッチ機構10が第1状態から第2状態に切り替わる際、ピストンリング5は、所定の距離にわたってアーマチャ4と共に移動するので、騒音を抑制することができる。つまり、仮にアーマチャ4に受け部41が形成されていない場合には、ラッチ機構10が第1状態から第2状態に切り替わる際、弾性部材7の押圧力によってピストンリング5の基部50が係止突起19又はアーマチャ4に衝突して衝突音が発生するおそれがあるが、本実施の形態では、ピストンリング5がアーマチャ4と共に離脱方向に移動するので、騒音を抑制することが可能となる。
(2)ラッチ機構10が第1状態から第2状態に切り替わる際、ピストンリング5は、アーマチャ4の複数の当接面42aの間に形成された受け面41aに接触して軸方向に移動するので、簡素な構成により確実にピストンリング5とアーマチャ4とを共に移動させることができる。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係るラッチ機構について説明する。第2の実施の形態に係るラッチ機構は、その構成部材であるアーマチャ4A及びピストンリング5Aの形状及び動作が第1の実施の形態とは異なる。以下、この違いの部分について重点的に説明する。
図7は、本実施の形態に係るアーマチャ4Aを示す斜視図である。図7において、第1の実施の形態に係るアーマチャ4と共通する構成要素については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
アーマチャ4Aは、本体部40と、本体部40の内周面から内方に突出した押圧突起43とを一体に有している。押圧突起43は、貫通孔4aの内側から見た場合に台形状を呈し、電磁コイル3への通電時にピストンリング5Aに当接する当接面43aを有している。当接面43aは、ピストンリング5Aの周方向に対して傾斜した傾斜面であり、台形状の下底にあたる端面43bと当接面43aとがなす角は鋭角である。本実施の形態では、6つの押圧突起43が周方向に等間隔に形成されている。なお、アーマチャ4Aは、周方向に隣り合う2つの押圧突起43の間が貫通孔4aの一部となっており、第1の実施の形態に係るアーマチャ4の受け部41に相当する構成は具備していない。
図8は、本実施の形態に係るピストンリング5Aを示し、(a)はピストンリング5Aを軸方向から見た平面図、(b)はピストンリング5Aの一部を示す斜視図である。図8において、第1の実施の形態に係るピストンリング5と共通する構成要素については、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
ピストンリング5Aは、第1の実施の形態に係るピストンリング5と同様に、基部50及び複数の軸方向突起51を備えている。また、ピストンリング5Aは、軸方向突起51の間に、アーマチャ4Aの押圧突起43の当接面43aに当接する壁部52を有している。壁部52は、基部50の軸方向端面50aから軸方向に突出し、軸方向視において円弧状に形成されている。壁部52の軸方向端面52aは、軸方向に対して直交する平坦な面である。
また、壁部52は、押圧突起43の当接面43aとの対向位置に、軸方向突起51よりも小さい突出量を以って基部50から軸方向に突出して形成され、係止突起19の当接面19aとの対向位置には壁部52が形成されていない。このため、係止突起19の当接面19aは、基部50の軸方向端面50aに軸方向に対向する。本実施の形態では、押圧突起43の当接面43aが係止突起19の当接面19aよりもピストンリング5Aの外周側で壁部52の軸方向端面52aに対向するので、壁部52は、基部50の外周側に偏在して形成されている。
アーマチャ4A及びピストンリング5Aは、係止突起19等と共にラッチ機構10を構成する。ピストンリング5Aは、弾性部材7の押圧力によって係止突起19側に付勢され、アーマチャ4Aは、皿バネ301によって電磁コイル3とは反対側に付勢されている。
(ラッチ機構10の動作)
図9(a)〜(d)は、ピストンリング5Aの被係止部510が係止突起19に係止されない非係止状態(第2状態)から、ピストンリング5Aの被係止部510が係止突起19に係止された係止状態(第1状態)に切り替わる際のラッチ機構10の動作を示す模式図である。図10(a)〜(d)では、説明の容易化及び明確化のため、ピストンリング5A及びアーマチャ4Aの周方向を図面の上下方向に延びる直線状に示し、複数の係止突起19のうち1つの係止突起19の輪郭を二点鎖線で図示している。また、アーマチャ4Aは破線で図示している。
ピストンリング5Aは、アーマチャ4Aの進退移動に伴って被係止部510の先端面51aが係止突起19及びアーマチャ4Aの押圧突起43の当接面19a,43aを摺動して回転する。ピストンリング5Aの被係止部510が係止突起19に係止されない非係止状態では、被係止部510が周方向に隣り合う一対の係止突起19の間に位置する。
非係止状態では、図9(a)に示すように、弾性部材7の押圧力によりピストンリング5Aの第1傾斜面510aに押圧突起43の当接面43aが当接する。ピストンリング5Aの第1傾斜面510a及び押圧突起43の当接面43aはピストンリング5Aの周方向に対して傾斜しているので、押圧突起43の当接面43aがピストンリング5Aの第1傾斜面510aに当接することにより、ピストンリング5Aには回転軸線Oを回転軸とする回転力が発生するが、ピストンリング5Aの回転は、軸方向突起51の第1側面51bが係止突起19の第1側面19bに接触することで規制されている。
図9(b)は、図9(a)に示す非係止状態から、電磁コイル3に通電されてアーマチャ4Aがヨーク30側に移動し、ピストンリング5Aがアーマチャ4Aと共に軸方向に移動して、軸方向突起51の第1側面51bの全体が係止突起19の第1側面19bよりも噛合方向に変位した状態を図示している。この状態では、軸方向突起51の第1側面51bと係止突起19の第1側面19bとの接触によるピストンリング5Aの回転規制が解除されるので、ピストンリング5Aが回転し、図9(c)に示すように被係止部510の先端面51a(第1傾斜面510a)が押圧突起43の当接面43aを摺動して回転する。また、この回転に伴って、ピストンリング5Aが離脱方向に移動する。
このピストンリング5Aの回転は、軸方向突起51の段差面510cが押圧突起43の端面43bに当接することで規制される。このとき、軸方向突起51の第1の傾斜面510aは、係止突起19の当接面19aに対向する。そして、電磁コイル3への通電が遮断されてアーマチャ4Aが離脱方向に移動すると、被係止部510の先端面51a(第1傾斜面510a)が係止突起19の当接面19aを摺動してピストンリング5Aが回転し、図9(d)に示すように軸方向突起51の段差面510cが係止突起19の先端部における第1側面19bに当接する。
これにより、ピストンリング5Aの被係止部510が係止突起19に係止された係止状態となり、噛み合い部材2におけるギヤフランジ部22の複数のギヤ歯23が第1回転部材11におけるギヤフランジ部114の複数のギヤ歯115に噛合して、第1回転部材11と第2回転部材12とが駆動力伝達可能に連結される。
図10(a)〜(d)は、ピストンリング5Aの被係止部510が係止突起19に係止された係止状態(第1状態)から、ピストンリング5Aの被係止部510が係止突起19に係止されない非係止状態(第2状態)に切り替わる際のラッチ機構10の動作を示す模式図である。
図10(a)は、図9(d)に示す係止状態から電磁コイル3に通電されてアーマチャ4Aが噛合方向に移動し、押圧突起43の当接面43aが係止突起19の当接面19aよりも噛合方向に変位した状態を図示している。この状態では、軸方向突起51の段差面510cと係止突起19の第1側面19bとの接触によるピストンリング5Aの回転規制が解除され、軸方向突起51の先端面51a(第2傾斜面510b)が弾性部材7の押圧力によって押圧突起43の当接面43aを摺動してピストンリング5Aが回転し、図10(b)に示すように、ピストンリング5Aにおける壁部52の軸方向端面52aが押圧突起43に接触する。これにより、ピストンリング5Aのさらなる回転及び軸方向移動が規制される。
そして、電磁コイル3に供給される励磁電流の減少に伴い、アーマチャ4Aが離脱方向に移動すると、図10(c)に示すように、ピストンリング5Aは、軸方向突起51の先端面51aが係止突起19の当接面19aを摺動して回転しながら、ピストンリング5Aの壁部52と押圧突起43との接触状態を保持してアーマチャ4Aと共に軸方向に移動する。つまり、ピストンリング5Aとアーマチャ4Aとは、第1状態から第2状態に切り替わるとき、所定の距離にわたって軸方向に共に移動する。
このピストンリング5Aの回転は、隣り合う軸方向突起51の第1側面51bが押圧突起43の端面43bに当接することにより規制され、ピストンリング5Aの回転が一旦停止する。これにより、ピストンリング5Aが過剰に回転することによって隣接する他の軸方向突起51が係止突起19に係止されてしまうこと(軸方向突起51の飛び越え)が防止される。また、このときのピストンリング5Aの軸方向移動は、軸方向突起51の先端面51a(第2傾斜面510b)が係止突起19の当接面19aに当接することにより規制される。
その後、アーマチャ4Aがさらに離脱方向に移動すると、図10(d)に示すように、押圧突起43の端面43bが軸方向突起51の第1側面51bよりも離脱方向に変位してピストンリング5Aの回転規制が解除され、ピストンリング5Aの回転によって軸方向突起51の第1側面51bが係止突起19の第1側面19bに当接すると共に、弾性部材7の押圧力によって軸方向突起51の先端面51a(第1傾斜面510a)が押圧突起43の当接面43aに当接する。
そして、アーマチャ4Aが皿バネ301の押し付け力によって第2ハウジング部材102の受け部102cに当接するまで離脱方向に移動すると、前述の図9(a)に示すように、係止突起19が周方向に隣り合う2つの軸方向突起51の間に位置する第2状態となる。これにより、噛み合い部材2におけるギヤフランジ部22の複数のギヤ歯23と第1回転部材11におけるギヤフランジ部114の複数のギヤ歯115との噛み合いが解除され、第1回転部材11と第2回転部材12とが相対回転可能となる。
なお、本実施の形態においても、電磁コイル3に供給する励磁電流を徐々に低減させること等により、アーマチャ4Aの離脱方向への移動を緩やかにする手段を講じることが望ましい。
以上説明した本実施の形態によれば、第1の実施の形態について説明した(1)の作用及び効果と同様の作用及び効果が得られる。また、ラッチ機構10が第1状態から第2状態に切り替わる際、ピストンリング5Aは、壁部52がアーマチャ4Aの押圧突起43に接触して軸方向に移動するので、簡素な構成により確実にピストンリング5Aとアーマチャ4Aとを共に移動させることができる。
(付記)
以上、本発明を第1及び第2の実施の形態に基づいて説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記第1及び第2の実施の形態では、ラッチ機構10を車両のエンジン等の駆動源の駆動力を断続可能に伝達する駆動力伝達装置1に適用した場合について説明したが、このラッチ機構10の用途に限定はなく、例えば回転部材を車体に対して固定する電磁ブレーキに第1及び第2の実施の形態に係るラッチ機構10と同様の構成を適用することも可能である。またさらに、車載装置に限らず、工作機械や各種の器具に本発明を適用することも可能である。
また、上記第1の実施の形態では、アーマチャ4における受け部41の受け面41aが周方向に隣り合う2つの押圧部42の全体に亘って形成された場合について説明したが、これに限らず、受け部41の受け面41aは、ラッチ機構10が第1状態から第2状態に切り替わるとき、少なくとも軸方向突起51の先端面51a(第2傾斜面510b)に接触する範囲に形成されていればよい。同様に、上記第2の実施の形態では、ピストンリング5Aの壁部52が周方向に隣り合う2つの軸方向突起51の間の全体に亘って形成された場合について説明したが、これに限らず、壁部52は、ラッチ機構10が第1状態から第2状態に切り替わるとき、少なくとも押圧突起43の当接面43aに接触する範囲に形成されていればよい。