JP6342926B2 - 芝移植・栽培用シート - Google Patents

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Description

本発明は、芝移植・栽培用シートに関する。
競技場や公園・庭園の芝生は、種子繁殖する芝によって形成されるほか、栄養繁殖型の芝を予めマット状もしくはロール状に生育させた芝により移植・生育して形成される。マット状もしくはロール状に生育させた芝移植・生育用の資材の例として、短冊状(通常30cm×37cm程度の大きさ)切り芝となしたもののほか、長尺の巻ロール状のものがある(特許文献1〜4)。
前記のマットもしくはロール芝の他に、ゴーローン(登録商標)として市販されている資材も知られている。ゴーローンは、芝のほふく茎を完全にほぐした状態で高圧洗浄・噴霧消毒処理をして2枚の木綿ネットに挟んだ、通常約1.15m×約46m(正味50m)程度の大きさを有する製品である。
特開平3−164111号公報 特開平5−268830号公報 特開平5−268831号公報 登録実用新案3030216号公報
「ZN工法」、ニチノー緑化社製品パンフレット チャンピオンドワーフ、<https://www.nichino-ryokka.co.jp/wp-content/uploads/2015/11/9%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%95A4.pdf#search='%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%94%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%95+%E5%88%87%E3%82%8A%E6%9C%AD'>、2003年5月15日発表データ部分について2016年2月7日に取得
競技場や公園における芝生は、ボールの転がりや安全性の観点から、その表面形状を所望の形状に保つことが求められる。例えばゴルフ場においては特定の表面形状(アンジュレーションと称されるフェアウェーやグリーンなどの起伏)又はフラットな表面が、部位によってそれぞれ必要とされる。また、その他の競技(サッカー、ラグビー等)の競技場や公園・庭園においては一般に均一でフラットな表面が全面あるいは特定の箇所において要求される。
しかしながら種子繁殖の場合は播種前に耕運機により植栽予定地の土壌を攪拌しなければならないため、芝生を植栽する場所の表面形状は一旦破壊され設計上意図された表面形状の維持には適しない。また短冊状の切り芝も表面形状に対する追従性にかけるため、フラットな表面を形成するには足りるが起伏のある表面形状の形成には適しないため汎用性に欠ける。
ゴーローンは通常の切り芝よりはるかに大きい一定の大きさを有し、またネットの伸縮性のため、芝生を植栽する場所の表面形状の維持により適している。一方使用場面によっては、ゴーローンのような資材において、表面形状の形成がより効率的に行える資材に対する要求がある。すなわち、競技の種類、とくにゴルフにおいては、ボールがより滑らかに、かつ速く転がる芝面に仕上げるために芝の草丈を一定程度まで短くする必要があるが、生育完了時の草丈が比較的高い芝の種類(ゾイシア等)の場合は、短くするための刈り込みの手間・コストがかかってしまう。
競技場や公園・庭園の芝生についての上記背景及び問題点に鑑み、本発明は、芝生を形成する場所における所望の表面形状の形成がより効率的に行える資材を提供することを目的とした。
本発明者らは、上記課題に鑑み芝の種類を含めた資材を探索したところ、これまで併せて用いられることがなかった芝の種類及び補助資材により上記課題が解決される可能性があることを見出し、さらに鋭意研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
したがって本発明は、少なくとも以下の発明に関する:
[1]芝のほふく茎をほぐし少なくとも2つのネットに保持せしめた芝移植・栽培用シートであって、前記芝がハイブリッド・バミューダグラスである芝移植・栽培用シート。
[2]前記芝のほふく茎が2つのネットの間に挟持されて保持されている前記[1]に記載の芝移植・栽培用シート。
[3]ハイブリッド・バミューダグラスが、ウルトラドワーフ、ティフグリーン、ティフドワーフ、ティフウェイ(419)及びティフウェイIIからの1種又は2種以上を含む、前記[1]又は[2]に記載の芝移植・栽培用シート。
[4]ハイブリッド・バミューダグラスがウルトラドワーフを含む前記[3]に記載の芝移植・栽培用シート。
[5]ウルトラドワーフがチャンピオンドワーフ、ミニバーディー、フロラドワーフ、MSスプリーム及びティフイーグル等からの1種又は2種以上を含む、前記[4] に記載の芝移植・栽培用シート。
[6]ウルトラドワーフがチャンピオンドワーフである前記[5]に記載の芝移植・栽培用シート。
[7]芝生の上で行われるボール競技の競技場の芝生又は公園あるいは庭園の芝生について予め設計された表面形状を、芝生の生育後にも保持する芝生の植栽方法であって、
芝のほふく茎をほぐし少なくとも1つのネットに保持せしめた芝移植・栽培用シートであって、前記芝がハイブリッド・バミューダグラスである芝移植・栽培用シートにより、前記競技場又は公園あるいは庭園の芝生を生育させる予定地の少なくとも一部に芝を移植すること、
移植された芝を生育せしめること、
を含む芝生の植栽方法。
[8]前記芝のほふく茎が2つのネットの間に挟持されて保持されている前記[7]に記載の方法。
[9]ボール競技の競技場がゴルフ場、サッカー場、ラグビー場、ホッケー場又は野球場である前記[7]又は[8]に記載の方法。
[10]ボール競技の競技場がゴルフ場である前記[9]に記載の方法。
[11]ハイブリッド・バミューダグラスがウルトラドワーフを含む前記[7]〜[10]のいずれかに記載の方法。
[12]ウルトラドワーフがチャンピオンドワーフ、ミニバーディー、フロラドワーフ、MSスプリーム及びティフイーグルからの1種又は2種以上を含む、前記[11]に記載の方法。
[13]ウルトラドワーフがチャンピオンドワーフである前記[12]に記載の方法。
[14]ボール競技の競技場がゴルフ場であり、ハイブリッド・バミューダグラスとしてチャンピオンドワーフが用いられる前記[7]に記載の方法。
本発明によれば、競技場や公園・庭園における芝生について所望の表面形状の形成が容易に行えるばかりでなく、一旦形成された表面形状の維持もより効率的に行うことができ、かつ競技場や公園においては該表面を転がるボールの速度の減衰が阻害されにくい芝生
の形成・維持を容易に行うことができる。
理論に束縛されるものではないが、芝移植・栽培用シートは、自在に変形し得るネットを用いているため予め設計された表面形状に対する追従性に優れるばかりでなく、芝としてドワーフ種であるハイブリッド・バミューダグラスを採用することにより、必要な刈り込みの回数を少なくして芝刈り機等の重機の重量による表面形状への影響を軽減することができるため、表面形状の形成・維持及び転がるボールの速度の減衰が阻害されにくい芝面の形成・維持が容易に行えるのである。このような特性により、本発明の芝移植・栽培用シートによれば、芝が生育する期間中あるいは生育後にスポーツ競技等によって芝がダメージを受けた場合において、重機による作業を可能ならしめるといった効果も奏する。
特許文献1〜4にはハイブリッド・バミューダグラスを長尺の巻ロールの芝に用いてよい移植栽培用芝について記載されているが、これらの文献にはいずれにおいてもゾイシア属の芝を使ってもよい旨記載される一方で、実際にハイブリッド・バミューダグラスを用いた資材を製造したことについては具体的に記載されていない。またこれらの文献は、いずれも芝を移植する際の効率を高めることを指向する発明・考案について記載するに留まり、本願発明が奏する効果については、解決しようとする課題も含め、記載も示唆もするものではない。
また非特許文献1にはゴーローンについて開示されているところ、ハイブリッド・バミューダグラスを用いたものや、競技場や公園・庭園における芝生について所望の表面形状の形成に資するものであることについては記載も示唆もなされていない。
芝生を植栽する施工において所望の表面形状を形成するためには、施工地点の表面形状に追従し、さらに表面形状を所望の期間にわたり維持することが必要である。理論に束縛されるものではないが、施工時の追従性に関係する芝の形態上の主たる特性としてストロン直径(ほふく茎の直径)と節間の長さが考えられ、副次的な特性として葉幅と葉身長(葉長)が考えられる。すなわち、ストロン直径及び節間が小さい芝の苗においては、アンジュレーションの維持及び追従性により優れると考えられる。苗がより変形しやすく柔軟性に富み、当該苗が、接しているか又は近傍に存在する外部の形状に追従しやすいためである。
これらの観点に鑑み、ティフウェイ(419)と同様な形態的な特徴をストロン直径及び節間について有するティフグリーン、ティフドワーフは、ティフウェイ(419)と同等のアンジュレーションへの追従性を有し、それらのアンジュレーションへの追従性は従来技術において用いられる芝を上回ると考えられる。同様な観点から、上記各芝品種と同様な形態的な特徴をストロン直径及び節間について有するチャンピオンドワーフ以外のウルトラドワーフ(ミニバーディー、フロラドワーフ、MSスプリーム及びティフイーグル)に分類される芝についても、アンジュレーションへの追従性はティフウェイ(419)等の上記各芝品種と同等であり、それらのアンジュレーションへの追従性も従来技術において用いられる芝を上回ると考えられる。
表面形状の維持に関係する芝の形態上の特性としては、単位面積当たりのバイオマス量(クッション性)が考えられる。バイオマス量が大きい方が、クッションにより優れるため、追従により一旦形成された所望の表面形状が、芝生を管理するより長い期間にわたり維持されるためである。
アンジュレーションの維持についても、本発明に用いられるハイブリッド・バミューダグラス、とくにウルトラドワーフ、ティフグリーン、ティフドワーフ、ティフウェイ(419)及びティフウェイII、なかんずくウルトラドワーフ(チャンピオンドワーフ、ミニバーディー、フロラドワーフ、MSスプリーム及びティフイーグル)は、従来技術において用いられる芝を上回ると考えられる。
このように、ハイブリッド・バミューダグラスを用いる本発明により、芝生を形成する場所における所望の表面形状を従来技術より効率的に形成し、かつより長期にわたり維持し得る資材・方法が提供されるのである。
本発明の芝移植・栽培用シートの一例を示す断面摸式図である。 ロール状に巻いた本発明の芝移植・栽培用シートの状態を示す斜視図である。 本発明の芝移植・栽培用シート及び芝生の植栽方法を用いて植栽すると、地下茎を含む根域の体積が多くなるとを模式的に示す写真図である。図の左側がティフドワーフ、右側がチャンピオンドワーフを用いた例であり、チャンピオンドワーフを用いた右側の方が地下茎を含む根域が密に発達し、体積が多くなっている。 試験例4において、試験区の区割り後の様子を示す写真図である。 試験例4において、芝の苗を撒き、その上に1つのネットを広げて該撒かれた苗にかぶせた後の状況を示す写真図である。
以下に本発明をより詳細に説明する。
なお、本明細書において「表面形状を維持する」とは、アンジュレーションと称される起伏を有する表面やほぼフラットな表面が、企図された形状に実質的に維持されることを意味する。例えば、競技場や公園・庭園の表面が、実用的に問題のない程度に維持されることを意味する。
芝移植・栽培用シート
上記のとおり本発明は、芝のほふく茎をほぐし少なくとも2つのネットに保持せしめた芝移植・栽培用シートであって、前記芝がハイブリッド・バミューダグラスである芝移植・栽培用シートに関する。
図1に本発明の芝移植・栽培用シートの例を断面図で示す。ほふく茎1はハイブリッド・バミューダグラスのほふく茎であり、2及び3は上下のネットを示す。上下のネットいずれも木綿製であってよく、ネットの目の大きさは1.0cm角であってよく、前記上下のネット2及び3の間にほふく茎1を挟んでロール状に巻いて保存及び運搬をしてよい(図2。10はロール状に巻いた本発明の芝移植・栽培用シートを示す。)。ネットまたはシートのサイズ(長さ及び幅)は使用場所、施工地の表面の形状及び/又は使用目的に応じて変更可能であり、施工地の表面の形状に合わせて切断してもよい。
本発明の芝移植・栽培用シートの大きさは、通常の短冊状切り芝の大きさが30cm×37cm程度であるのに対し、はるかに長い帯状の形状である。本発明の芝移植・栽培用シートの大きさは本発明の目的を達成する限りにおいてとくに限定されないところ、約1m×約50mであり、好ましくは約1.15m×約46m(正味50m)程度であるが、使用目的に応じて適宜改変してよい。
また、上記「ネット」は平板でかつ可撓性を有し透水性を具備する芝の生育を阻害しない網目状の資材を意味し、いわゆるネットのほか、網体、紐、織布及び不織布ならびにシートと称される物も包含される。
本発明の芝移植・栽培用シートにおいて、芝を保持することができるものであればネットの目の大きさはとくに限定されず、例えば約1cm〜約4cm(例えば1.8cm×1.8cm)であってよい。
前記目の形状も限定されずほぼ正方形の形状及び矩形状等の多角形が例示される。またネットの目の大きさ及び形状は必ずしも均一でなくてよく、例えば前記の大きさ及び形状のものがそれぞれ混在していてもよい。
本発明の芝移植・栽培用シートのうち、ネットを1つのみ用いるものにおいては、比較的大きめの目を有するネットであってよい。ネットを1つのみ用いる本発明の芝移植・栽培用シートにおける目の大きさは、例えば約1cm〜約4cm(例えば1.8cm×1.8cm)であってよい。この場合、ほふく茎をその一部がネットに絡め、またほふく茎の実質的に全体が少なくとも一部の他のほふく茎と相互に絡まり合うような状態にすることにより、ほふく茎をネットに保持することができる。ここで「芝を保持する」とは、ネットに保持せしめた芝が、その後の製造工程、運搬工程及び施工時において2つのネットを用いて挟持する場合と実質的に同程度であることを意味する。
ネットを2つ用い該2つのネットの間にほふく茎が挟持されて保持されている本発明の芝移植・栽培用シートにおいては、ほふく茎はネットの目の大きさにかかわらず2つのネットの間に挟持されて保持されるため、ネットの目の大きさの自由度はより高い。したがって、ネットを2つ用いる本発明の芝移植・栽培用シートにおける目の大きさは、例えば約1cm〜約4cm(例えば1.8cm×1.8cm)であってよい。芝のほふく茎をほぐし、2つのネットの間に挟持する挟持の仕方も、移植後の芝の生育が阻害されず、また本発明の目的が達成されればとくに限定されない。
ハイブリッド・バミューダグラスは、バミューダグラス(Cynodon spp. L.C. Rich)のうちC. dactylon(4倍体)とC. transvaalensis(2倍体)とを掛け合わせて得られた3倍体である。
本発明の芝移植・栽培用シートにおけるハイブリッド・バミューダグラスは、本発明の目的を達成するものであればとくに限定されないところ、ハイブリッド・バミューダグラスが、ウルトラドワーフ、ティフグリーン、ティフドワーフ、ティフウェイ(419)及びティフウェイIIからの1種又は2種以上を含むものは好ましく、ウルトラドワーフを含む本発明の芝移植・栽培用シートはより好ましい。
ウルトラドワーフはハイブリッド・バミューダグラスの一品種であり、突然変異により生じた3倍体のハイブリット種の一つである。ウルトラドワーフは低めの刈高に対応できるため好ましい。ウルトラドワーフとして、チャンピオンドワーフ、ミニバーディー、フロラドワーフ、MSスプリーム及びティフイーグルなどが知られているところ、ウルトラドワーフがチャンピオンドワーフ、ミニバーディー、フロラドワーフ、MSスプリーム及びティフイーグルからの1種又は2種以上を含む本発明の芝移植・栽培用シートは製造が容易であるため好ましい。
ウルトラドワーフのうち、チャンピオンドワーフは、超矮性(葉幅が狭く、葉身長と節間が短い)であり、ハイブリッド・バミューダグラスの中でも成長点が低い位置にあるため、低刈り抵抗性がとくにすぐれている(刈高2.5mmで管理が可能)。また圧力耐性が高いため、芝刈り機、落下したボールあるいは競技者・歩行者から受ける押圧によるダメージからの回復能にも優れるためとくに好ましい。またチャンピオンドワーフは以下のような好ましい特性も具備している:
-非常に密度の高い芝生を形成する
-地下茎の発達が旺盛であるためクッション性が高い(押圧によるダメージ自体が少ない)
-葉幅が細く、きめの細かい芝生を形成する
-垂直方向への伸長は遅いが、横方向への伸長は速いため工期を短くできる
-雑草や藻類の侵入が少ない
本発明の芝移植・栽培用シートはボール競技の競技場、公園あるいは庭園といった、芝生の需要があるあらゆる施設に用いることができる。
前記ボール競技の競技場として、ゴルフ場、サッカー場、ラグビー場、ホッケー場及び野球場が例示される。
公園あるいは庭園には通常の公園・庭園のほか、学校、幼稚園・保育園等の教育施設の校庭・園庭が包含される。
これらの施設のうち、ゴルフ場においてはすでに述べたとおりアンジュレーションと称される起伏が意図的に形成されるところ、本発明の芝移植・栽培用シートは、表面形状の維持及び滑らかなボールの転がりを実現するものであるため、ゴルフ場にとくに好適に用いることができる。また、ゴルフ場において、ハイブリッド・バミューダグラスとしてチャンピオンドワーフを少なくとも一部に含む本発明の芝移植・栽培用シートは、とくに好ましい。
なお、本発明の芝移植・栽培用シートはゴルフ場のみに適用場面が限定されるものではない。本発明の芝移植・栽培用シートは、芝生の表面がフラットであることが企図される施設にも好適に用いることができるためである。すなわち、本発明の芝移植・栽培用シートは、ゴルフ以外の競技場又は公園あるいは庭園にも好適に用いられる。
本発明の芝移植・栽培用シートの製造は、本技術分野における通常の方法により行うことができる。例えば芝(ハイブリッド・バミューダグラスである芝)のほふく茎をほぐし、該ほぐされたほふく茎(苗)を、少なくとも2つのネットの間に保持する。苗の保持は2つのネットの間に挟持して行うことが好ましい。
2つのネットを用いる場合は、製造現場又は植栽現場において、床面あるいは植栽地に延展して静置したネットに、所望の個体数のほぐされた苗をほぼ均等な密度になるように置き、上からもう1つのネットをかぶせてよい。又は延展したネット上にほぐされた苗をほぼ均等な密度になるように置いてもよい。2つのネットの少なくとも一方に、さらに他の1つ以上のネットを重ねてもよい。
保持される芝の密度(苗量)は、約100g/m〜約500g/mであってよい。なお、ほふく茎を完全にほぐすことにより該ほふく茎に付着していた土壌は脱落するところ、高圧洗浄等の洗浄を行うことは一層の軽量化に資するため好ましい。また、噴霧・浸漬等により、各種殺菌剤・殺虫剤による消毒処理を行うことも植栽後のより健全な生育に資するため好ましい。一方、校庭用や公園用等においては消毒処理を行わないことも好ましい。本発明の芝移植・栽培用シートによる芝の移植は、通常ロール状で提供される同シートを所望の場所に延展し、目土施工(目土掛け)を行えばよく、10,000m程度の場所について1日〜2日で施工を完了することができる。その後の芝の生育は、本技術分野において通常行われる方法に従うことができる。
芝生の植栽方法
また、本発明は以下の方法にも関する:
芝生の上で行われるボール競技の競技場の芝生又は公園あるいは庭園の芝生について予め設計された表面形状を、芝生の生育後にも保持する芝生の植栽方法であって、
芝のほふく茎をほぐし少なくとも1つのネットに保持せしめた芝移植・栽培用シートであって、前記芝がハイブリッド・バミューダグラスである芝移植・栽培用シートにより、前記競技場又は公園あるいは庭園の芝生を生育させる予定地の少なくとも一部に芝を移植すること、
移植された芝を生育せしめること、
を含む芝生の植栽方法。
本発明の方法には、芝生の施工現場において芝の苗を撒き、その上に1つ又は2つ以上のネット又はシートを広げて該撒かれた苗にかぶせ、苗を保持する植栽方法も包含される。本発明の方法によれば、用いられるネット又はシートの枚数にかかわらず、ネット又はシートを広げて苗を保持する工程において、ネット又はシートを当該場所の地形(アンジュレーションやフラットな地形)に合わせて張ることができる。芝のほふく茎が2つのネットの間に挟持されて保持されている(2重ネット)芝移植・栽培用シートを用いる本発明の方法は、植栽時に苗の脱落がより少ないばかりでなく、コスト及び作業時間等における優位性があるため好ましい。上記2重ネットを用いる態様においては、ネット又はシートを地形に合わせて張ることがより容易かつ正確に行える利点もある。
前記ボール競技の競技場として、ゴルフ場、サッカー場、ラグビー場、ホッケー場及び野球場が例示される。
公園あるいは庭園には通常の公園・庭園のほか、学校、幼稚園・保育園等の教育施設の校庭・園庭が包含される。
本発明の植栽方法においては、本発明の芝移植・栽培用シートを用いることができる。したがって、本発明の芝移植・栽培用シートについての上記説明は、本発明の植栽方法において用いられる前記芝移植・栽培用シートについても該当することである。
したがって、ボール競技の競技場がゴルフ場であり、ハイブリッド・バミューダグラスとしてチャンピオンドワーフが用いられる本発明の方法はとくに好ましい。
またボール競技の競技場がゴルフ場であり、ハイブリッド・バミューダグラスとしてチャンピオンドワーフが用いられる本発明の方法は好ましい。この場合、芝のほふく茎が2つのネットの間に挟持されて保持されている芝移植・栽培用シートを用いる本発明の方法はより好ましい。
本発明の植栽方法において、芝移植後の芝の生育は、本技術分野において通常行われる方法に従うことができる。
本発明について以下に実施例・試験例を示しながらさらに詳細に説明する。本発明はいかなる意味においても、これらの実施例・試験例に限定されるものではない。
[実施例1]ウルトラドワーフ(チャンピオンドワーフ)を用いた本発明の芝移植・栽培用シート
芝(チャンピオンドワーフ)のほふく茎を完全にほぐし、高圧洗浄・噴霧消毒処理をした後、2枚の木綿ネットの間に挟み本発明の芝移植・栽培用シートを製造した。供試された芝の密度(苗量)は、約300g/mであった。
同様な方法により、他のハイブリッド・バミューダグラス(ミニバーディー、フロラドワーフ、MSスプリーム及びティフイーグル等)についても本発明の芝移植・栽培用シートを製造することができる。
[試験例1]ボール速度評価試験
関東地方にあるゴルフ場において、チャンピオンドワーフを用いて形成された芝面におけるゴルフボールの転がり(グリーンスピード)を測定した(2013年4月〜8月)。
スティンプメーターを用い、一定の高さ26.06cmから一定の角度(20度)において放出されたゴルフボールの転がる距離を測定してゴルフボールの転がりの指標とした。
その結果、本発明の芝移植・栽培用シートを用いて形成された芝面における計測距離は9.0ftであり、USGA(全米ゴルフ場協会)による一般のゴルフ場についてのパッティンググリーンのスピードを評価する評価区分において、最も優れた「速い」区分(表1)に相当するものであった。
他のハイブリッド・バミューダグラス(フロラドワーフ、ティフドワーフ、ティフイーグル、MSスプリーム、ミニバーディー及びティフグリーン)についても、同様な結果が得られた。
したがって本発明の芝移植・栽培用シートを用いて形成された芝面におけるゴルフボールの転がりは、極めて優れていることが明らかである。
[試験例2]アンジュレーション維持能評価試験
関東地方にあるゴルフ場において、チャンピオンドワーフを用いて形成された芝生のアンジュレーション維持能の指標として、単位面積当たりのバイオマス量(クッション性)を測定した(2013年4月〜8月)。
その結果、チャンピオンドワーフ5を用いて形成された芝面における地下茎を含む根域の厚みは、それぞれ8.3mm及び13.8mmであり、ゾイシア等を用いた芝生をはるかに上回る厚みが得られた。地下茎及び根からなる根域の量(体積)も顕著に多かった(図3の右側)。
したがって本発明の芝移植・栽培用シートを用いて形成された芝面におけるアンジュレーション維持能、すなわち芝移植前の表面形状を維持する特性は、極めて優れていることが推測された。
なお図3においてティフドワーフ4についても併せて示した(図3の左側)。ティフドワーフ4もゾイシア等を用いた芝生を上回る厚みが得られた。
[試験例3]低刈り耐性評価試験
米国の8ヶ所(テキサス州の2ヶ所、アラバマ州の2ヶ所、アリゾナ州の1ヶ所、ミズーリー州の1ヶ所、カリフォルニア州の1ヶ所及びフロリダ州の1ヶ所)において、チャンピオンドワーフの生育について試験を行った(2003年)。
その結果、チャンピオンドワーフを用いて形成された芝における生育指標(葉幅、葉身長、ストロン直径及び節間)の数値は表2に示すとおりであり、極めて矮性であった。また、チャンピオンドワーフの成長点は葉頂から1/3付近の低位置に存在するため、一層の低刈りが可能であることが明らかになった。
したがって本発明の芝移植・栽培用シートを用いて形成された芝面における低刈り耐性能は、極めて優れていることが推測された。
[実施例2・試験例4]アンジュレーションへの追従性評価試験
1.目的:
アンジュレーション(不陸)のある斜面地において本発明を実施し、アンジュレーションへの追従性を比較例との対比により明らかにする。
2.試験場所:株式会社ニチノー緑化 技術センター
3.実施日:2015年11月6日
4.材料と方法:
下記表3に示す品種を用いた。ティフウェイ(419)とチャンピドワーフは本発明の実施例である。比較例として、コモンバミューダである武蔵を用いた。 芝苗量は、いずれの品種についても実用量とした。すなわち、ティフウェイ(419)と武蔵については150g/mとし、チャンピドワーフについては250g/mとした。芝苗量とアンジュレーションへの追従性との間は負の相関がある。
各品種において、1重ネットと2重ネットを用いる区を設けた。1重ネット試験区は上記[7]の本発明の実施例であり、2重ネット試験区上記[1]の本発明の実施例である。
5.試験区:
各区あたり2mの面積(2m×1m)を取り、上記芝苗量にて施工した。
試験区の配置は下図のとおりであった。図の左右が北と南の方角である。
アンジュレーションの状態は下図のとおりであった。各試験区のアンジュレーションを設計に合わせて設け、各区が同一の形状になるようにした。すなわち、基準となる高さの地点を中央とし、当該地点から2方向に1m離れた地点に向かって、なだらかな曲面のゆるいアーチ状の両方向傾斜面を設けた。作業に際しては水準器を用い、端部が1mの幅を有し、前記中央付近の地点から所定の高さ(−20cm)になるようにした。この作業を繰り返し行い、下図のような相互に隣接する各試験区の区割りを設けた(図4)。
区割りを設けた後、芝の品種以外は本技術分野において通常採用される施工法により各区の設営を行った。すなわち、1重ネットを用いる区においては、土壌面にほぐされた芝の苗を撒き、その上に1つのネット(目の大きさ:1.8cm×1.8cm)を広げて該撒かれた苗にかぶせ(図5)、その後重機により目砂を行った。目砂は、芝の苗によるネットの浮きを抑えるためにネット上に所定量の砂を均一に散布する作業である。目砂を行うことにより、一般にアンジュレーションへの追従性は改善される。
2重ネットを用いる区においては、試験区外でネット(目の大きさ:1.8cm×1.8cm)を敷均した上に芝苗を撒き、さらにその上からネット(目の大きさ:1.8cm×1.8cm)をかぶせ、2重のネットを両方とも合わせて一旦巻き取り(ゴーローン製品と同じ形状にし)、試験区で延展した(図5)。すなわち、2重ネットを用いる区においてはゴーローン(登録商標)の製造に相当する実作業を行い、製造されたゴーローン(登録商標)に相当する部材を処理したことになる。その後重機により目砂を行った。
6.評価方法:3名のパネラーにより、アンジュレーションのある斜面への追従性を達観評価するとともに、施工性(施工の容易さ、所要時間)を評価した。いずれの指標についても、非常によい(◎)、よい(○)、可(△)、やや悪い(▲)、悪い(×)の5段階により評価を行った、一般にアンジュレーションへの追従性については、可(△)以上の評価において実用性が認められると判断される。
7.結果
下記表4に、パネラーによるコメントと併せて示す。表中、「419」はティフウェイ(419)を、「チャンピオン」はチャンピオンドワーフを表す。
いずれの区においても、アンジュレーションに追従した。したがって、本発明について、1重ネットを用いたる方法においても十分な効果と実用性が認められた。
品種間においては、差がみられた。すなわち、ティフウェイ(419)(ハイブリッドバミューダグラス)を用いた区(本発明)においては、比較例である武蔵(コモンバミューダ)を用いた区よりアンジュレーションへの追従性は明らかに高く、チャンピオンドワーフを用いた区(本発明)においてはさらに優れたアンジュレーションへの追従性が認められた。すなわち、アンジュレーションへの追従性はチャンピオンドワーフ(本発明)、ティフウェイ(419)(ハイブリッドバミューダグラス)(本発明)、武蔵(コモンバミューダ)の順に高く、本発明の資材及び方法は、比較例である従来技術を顕著に上回る効果を奏することが明らかになった。
また、施工性についても同様な傾向が明らかに認められ、チャンピオンドワーフ(本発明)、ティフウェイ(419)(ハイブリッドバミューダグラス)(本発明)、武蔵(コモンバミューダ)の順に優れていた。
8.考察
上記のようにアンジュレーションへの追従性はチャンピオンドワーフ(本発明)が最も優れていた。このことは、チャンピオンドワーフを処理した区においては他の区より芝苗量が多くアンジュレーション維持がなされにくい条件であったにもかかわらずとくに優れたアンジュレーションへの追従性を示したことを考慮すると、本発明においてチャンピオンドワーフを用いる態様は、極めて優れた効果を少なくともアンジュレーションへの追従性について奏することが明らかである。
本試験に供試した3種の芝の形態を比較して顕著に認められる差異は、ストロン直径(ほふく茎の直径)と節間に少なくとも存在する。すなわち、ストロン直径及び節間ともに、武蔵、ティフウェイ(419)、チャンピオンドワーフの順に小さく(すなわち武蔵>ティフウェイ(419)>チャンピオンドワーフ)、このことがアンジュレーションへの追従性に影響したと推察される。したがって、ティフウェイ(419)(ストロン直径:約0.45mm、節間長:約25mm)と同様な形態的な特徴をストロン直径及び節間長について有するティフグリーン(それぞれ0.48mm、28.3mm)、ティフドワーフ(それぞれ0.41cm、24.8mm)においても、ティフウェイ(419)と同様なアンジュレーションへの追従性が示されると考えられる(表5)。
さらに、ティフウェイ(419)と同様な形態的な特徴をストロン直径及び節間長について有し、葉長はティフウェイ(419)より短い他のウルトラドワーフ(ミニバーディー、フロラドワーフ、MSスプリーム及びティフイーグル)に分類される芝については、アンジュレーションへの追従性はティフウェイ(419)と同等以上であると考えられる(表5)。
本発明によれば、競技場や公園の表面形状の維持が容易になされるばかりでなく、転がるボールの速度の減衰が阻害されにくい芝面の作製・維持管理を容易に行うことができる。したがって本発明は、芝移植・生育産業およびその関連産業の発展に寄与するところ大である。
1・・・ほふく茎
2・・・上網
3・・・下網
4・・・ティフドワーフ
5・・・チャンピオンドワーフ
10・・・芝移植・栽培用シート

Claims (12)

  1. 芝のほふく茎をほぐし少なくとも2つのネットに保持せしめた芝移植・栽培用シートであって、前記芝がウルトラドワーフであり、保持される芝の密度(苗量)が100g/m 〜500g/m である芝移植・栽培用シート。
  2. 前記芝のほふく茎が2つのネットの間に挟持されて保持されている請求項1に記載の芝移植・栽培用シート。
  3. 保持される芝の密度(苗量)が250g/m 〜500g/m である請求項1又は2に記載の芝移植・栽培用シート。
  4. ウルトラドワーフがチャンピオンドワーフ、ミニバーディー、フロラドワーフ、MSスプリーム及びティフイーグルからの1種又は2種以上を含む、請求項1〜のいずれに記載の芝移植・栽培用シート。
  5. ウルトラドワーフがチャンピオンドワーフである請求項に記載の芝移植・栽培用シート。
  6. 芝生の上で行われるボール競技の競技場の芝生又は公園あるいは庭園の芝生について予め設計された起伏を有する表面形状を、芝生の生育後にも保持する芝生の植栽方法であって、
    芝のほふく茎をほぐし少なくとも1つのネットに保持せしめた、保持される芝の密度(苗量)が100g/m 〜500g/m である芝移植・栽培用シートであって、前記芝がウルトラドワーフである芝移植・栽培用シートにより、前記競技場又は公園あるいは庭園の芝生を生育させる予定地の少なくとも一部に、前記予め設計された起伏を有する表面形状が形成されるように芝を移植すること、
    移植された芝を、前記予め設計された起伏を有する表面形状を維持しつつ生育せしめること、
    を含む芝生の植栽方法。
  7. 保持される芝の密度(苗量)が250g/m 〜500g/m である請求項6に記載の方法。
  8. 前記芝のほふく茎が2つのネットの間に挟持されて保持されている請求項に記載の方法。
  9. ボール競技の競技場がゴルフ場である請求項に記載の方法。
  10. ウルトラドワーフがチャンピオンドワーフ、ミニバーディー、フロラドワーフ、MSスプリーム及びティフイーグルからの1種又は2種以上を含む、請求項に記載の方法。
  11. ウルトラドワーフがチャンピオンドワーフである請求項10に記載の方法。
  12. ボール競技の競技場がゴルフ場であり、ウルトラドワーフとしてチャンピオンドワーフが用いられる請求項に記載の方法。
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