JP6338137B2 - 二重鎖核酸の解離の制御方法、二重鎖核酸の鎖交換反応の制御方法および核酸の増幅方法 - Google Patents
二重鎖核酸の解離の制御方法、二重鎖核酸の鎖交換反応の制御方法および核酸の増幅方法 Download PDFInfo
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Description
PCR法においては、二重鎖核酸の解離を90℃以上に加熱することにより行っている。しかし、PCR法は熱反応サイクルを自動で制御するため、現実的にはサーマルサイクラーを必要とする。また、高温に加熱するため反応液中の他の成分(酵素など)の劣化を促進する。
LAMP法においては、実質的に等温の条件下で反応し、インナープライマーからの伸長鎖と鋳型核酸との二重鎖核酸の解離を鎖置換型ポリメラーゼにより行っている。しかし、LAMP法は特殊な構造をしたインナープライマーや鎖置換型ポリメラーゼなどの試薬が必要となる。また、等温増幅であるが故、一度反応が開始されると連続的に鎖置換反応が進行し、制御することができない。
光応答性核酸を該第1の核酸に相補的に会合させることにより、該二重鎖核酸における該第2の核酸を解離させる工程と
を含む、光照射による二重鎖核酸の解離の制御方法を提供する。
光応答性核酸を該第1の核酸に相補的に会合させることにより、該二重鎖核酸における該第2の核酸を解離させる工程と
第1の波長とは異なる第2の波長の光の照射によって光応答性核酸を該第1の核酸に会合できない形態にする工程と、
光応答性核酸と該第1の核酸との会合を解離させる工程と
を含む、光照射による二重鎖核酸の解離の制御方法を提供する。
光応答性核酸を該二重鎖核酸の第1の核酸に相補的に会合させることにより、該二重鎖核酸における第2の核酸を解離させる工程と、
解離した第2の核酸に第3の核酸を相補的に会合させる工程と
を含む、光照射による二重鎖核酸の鎖交換反応の制御方法を提供する。
光応答性核酸を該二重鎖核酸の第1の核酸に相補的に会合させることにより、該二重鎖核酸における第2の核酸を解離させる工程と、
該第1の波長とは異なる第2の波長の光の照射によって光応答性核酸を、該第1の核酸に会合できない形態にする工程と、
光応答性核酸と該第1の核酸との会合を解離させる工程と、
解離した第1の核酸に第3の核酸を相補的に会合させる工程と
を含む、光照射による二重鎖核酸の鎖交換反応の制御方法を提供する。
(1)一本鎖の標的核酸に第1ポリヌクレオチドを相補的に会合させ、該標的核酸の該第1ポリヌクレオチドが会合する領域に隣接する領域に第2ポリヌクレオチドを相補的に会合させる工程;
(2)該第1ポリヌクレオチドと第2ポリヌクレオチドを連結させる工程;
(3)該標的核酸と、該第1ポリヌクレオチドおよび第2ポリヌクレオチドが連結した連結鎖との二重鎖核酸に、第1の波長の光の照射によって該標的核酸に会合可能な形態にした光応答性核酸を接触させることにより、該標的核酸と該光応答性核酸とを相補的に会合させ、該連結鎖を解離させる工程;
(4)該第1の波長とは異なる第2の波長の光の照射によって該光応答性核酸を該標的核酸と会合できない形態にすることにより、該標的核酸を該光応答性核酸から解離させ、解離した標的核酸を工程(1)における一本鎖の標的核酸とする工程。
本発明の二重鎖核酸の解離の制御方法に関して、光応答性核酸によって、二重鎖核酸を構成する2本の核酸鎖を解離させる態様(実施態様1)を、以下に説明する。ここで、二重鎖核酸の解離の制御方法に関して、便宜上、二重鎖核酸を構成する2本の核酸鎖のうち、光応答性核酸と相補的に会合する方の鎖を「第1の核酸」と呼び、この会合によって解離される方の鎖を「第2の核酸」と呼ぶ。なお、実施態様1について、望ましい反応原理を図1に例示したので参照されたい。図1には、アゾベンゼンまたはその誘導体を結合させた光応答性核酸を用いた場合の反応原理が示されている。
光応答性核酸に用いられる核酸としては、DNAやRNAを用いることができる。また、PS−オリゴ、PNA(ペプチド核酸)、モルホリノオリゴ、2’O−置換RNA、BNA (Bridged Nucleic Acid)など従来公知の人工核酸であってもよい。これらの中でも、DNAが好ましい。
本発明においては、上記の光応答性核酸を用いる二重鎖核酸の解離の制御方法を利用して、光照射によって二重鎖核酸の鎖交換反応を制御することも可能となる。すなわち、本発明の範囲には、二重鎖核酸の鎖交換反応の制御方法も含まれる。ここで、二重鎖核酸の鎖交換反応の制御方法に関して、便宜上、二重鎖核酸を構成する2本の核酸鎖のうち、光応答性核酸と相補的に会合する方の鎖を「第1の核酸」と呼び、この会合によって解離される方の鎖を「第2の核酸」と呼ぶ。また、第1の核酸または第2の核酸と交換するための核酸を「第3の核酸」と呼ぶ。まず、光応答性核酸を用いることで、第2の核酸と第3の核酸とを相補的に会合させる態様(実施態様1)について、以下に説明する。なお、実施態様1について、望ましい反応原理を図4に例示したので参照されたい。図4には、アゾベンゼンまたはその誘導体を結合させた光応答性核酸を用いた場合の反応原理が示されている。
本発明においては、上記の光応答性核酸を用いる二重鎖核酸の解離および鎖交換反応の制御方法を利用して、光照射によって核酸の増幅を行うことも可能となる。具体的には、本発明の二重鎖核酸の解離および鎖交換反応は、二重鎖核酸を構成する2本の核酸鎖のうちの一方を標的核酸として、この標的核酸に対する複数の連結可能な核酸プローブを用いて核酸連結体を形成させることによって核酸を増幅する方法に応用することができる。そこで、本発明の核酸増幅方法(以下、「増幅方法」ともいう)について、以下に説明する。なお、本発明の増幅方法では、二重鎖核酸および一本鎖核酸のいずれをサンプル調製時の鋳型として用いても核酸の増幅が可能であるが、説明の便宜上、一本鎖核酸(以下、「一本鎖の標的核酸」ともいう)をサンプル調製時の鋳型として核酸増幅反応を行う場合について、以下に述べる。また、この増幅方法について、望ましい反応原理を図6に例示したので参照されたい。図6には、アゾベンゼンまたはその誘導体を結合させた光応答性核酸を用いた場合の反応原理が示されている。
本実施例では、光応答性核酸を用いて、光照射による二重鎖核酸の解離を行うことができるか否かについて評価した。本実施例の反応原理を、図7に例示する。なお、図7には、アゾベンゼンを結合させた光応答性核酸を用いた場合の反応原理が示されている。
(1-1)光応答性核酸
光応答性核酸として、アゾベンゼンまたは2', 6'-ジメチルアゾベンゼンを2塩基ごとに1つ結合させた一本鎖DNAを、つくばオリゴサービス株式会社に委託して合成した。この光応答性核酸の配列を以下に示す。
5’- CT(Z)TT(Z)AA(Z)GA(Z)AG(Z)GA(Z)GA(Z)TA(Z)TA(Z)CC(Z)TG(Z)AG(Z)TG(Z)AT(Z)CT(Z)
AG(Z)TG(Z)TA(Z)CT(Z)TA -3’(配列番号1および2)
5’- CTTTAAGAAGGAGATATACCTGAGTGATCTAGTGTACTTA -3’(配列番号3)
二重鎖核酸を、蛍光物質を標識した一本鎖DNAと、消光物質を標識した一本鎖DNAとをアニールさせることによって作製した。この二重鎖核酸では、2本の核酸鎖が解離していない状態では、消光物質の存在により蛍光物質からのシグナルは消失するが、2本の核酸鎖が解離すると、蛍光物質からシグナルが放出される。よって、二重鎖核酸が解離しているか否かは、試料の蛍光強度を測定することにより評価することができる。
5'-FITC- CTTTAAGAAGGAGATATACCTGAGTGATCTAGTGTACTTA -3'(配列番号4)
5'- TTAAGTACACTAGATCACTCAGGTATATCTCCTTCTTAAAG -BHQ1-3'(配列番号5)
上記で得た二重鎖核酸の溶液をチューブに分注した。そして、これらのチューブに、紫外光を照射した光応答性核酸(アゾベンゼン修飾DNAおよびジメチルアゾベンゼン修飾DNA)および未修飾一本鎖DNAのそれぞれを終濃度120 nMとなるように添加した。そして、各チューブにミネラルオイルを滴下して、測定用試料を得た。
測定用試料の入ったチューブを、サーモプレート(東海ヒット)上に設置したステンレス製チューブラックにて59℃に加熱した。各チューブを蛍光顕微鏡(BX51,オリンパス株式会社)のステージ上に設置し、水銀ランプ(超高圧UVランプUSH-1030L、オリンパス株式会社)を光源として、可視光フィルター(U-MNIBA3、オリンパス株式会社)を通過させた光(波長470〜495 nm)を各チューブに30秒間照射した。そして、FITC由来の蛍光画像を得た(これを「照射前」と呼ぶ)。この測定の5分後に、水銀ランプを光源として、紫外光フィルター(U-MWU2、オリンパス株式会社)を通過させた光(波長330〜385 nm)を各チューブに30秒間照射した。5分後、FITC由来の蛍光画像を得た(これを「紫外光1」と呼ぶ)。この測定の5分後に、水銀ランプを光源として、可視光フィルターを通過させた光(波長470〜495 nm)を各チューブに30秒間照射した。5分後、FITC由来の蛍光画像を得た(これを「可視光1」と呼ぶ)。この測定の5分後に、水銀ランプを光源として、紫外光フィルターを通過させた光(波長330〜385 nm)を各チューブに30秒間照射した。5分後、FITC由来の蛍光画像を得た(これを「紫外光2」と呼ぶ)。この測定の5分後に、水銀ランプを光源として、可視光フィルターを通過させた光(波長470〜495 nm)を各チューブに30秒間照射した。5分後、FITC由来の蛍光画像を得た(これを「可視光2」と呼ぶ)。
図8より、未修飾DNAを添加した試料では、いずれの波長の光を照射しても蛍光強度はほとんど変化していなかった。これに対して、アゾベンゼンまたはジメチルアゾベンゼンで修飾した光応答性核酸を添加した試料では、蛍光強度は、紫外光の照射により減少し、可視光の照射により増加していた。ここで、可視光の照射による蛍光強度の増加は、可視光の照射により光応答性核酸が二重鎖核酸からFITC標識DNA鎖を解離させて、FITC由来の蛍光シグナルが生じたことを意味する。そして、紫外光の照射による蛍光強度の減少は、紫外光の照射により光応答性核酸が二重鎖核酸のBHQ1標識DNA鎖との会合を維持できなくなり、元の二重鎖核酸が再形成されて、FITC由来の蛍光シグナルが消失したことを意味している。したがって、アゾベンゼンまたはジメチルアゾベンゼンを結合させた光応答性核酸により、光照射依存的に二重鎖核酸の解離の可逆的な制御が可能であることがわかった。
本実施例では、光応答性核酸を用いた光照射による二重鎖核酸の解離において、鎖交換促進物質が有用であるか否かについて評価した。
本実施例では、実施例1と同じ光応答性核酸、未修飾DNAおよび二重鎖核酸を用いた。また、測定用試料は、鎖交換促進物質としてPLL-g-Dex(PLLの分子量8000、グラフト率90%)を終濃度15.6μMとなるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして調製した。なお、比較のために、PLL-g-Dexを添加していない測定用試料も調製した。
調製した各測定用試料について、実施例1と同様にして、各波長の光を照射したときのFITC由来の蛍光画像を得た。そして、得られた蛍光画像をtifファイルに変換し、蛍光シグナルの強度をImage Jソフトウェアで数値化した。各測定用試料について、「照射前」の蛍光強度を1として、光照射後の蛍光強度の相対値を算出した。結果を図9に示す。
PLL-g-Dex存在下では、非存在下に比べて、光照射による蛍光強度の変化が著しく大きくなっていた。具体的には、可視光を照射した直後に蛍光強度が著しく上昇し、上昇した蛍光強度は、紫外光の照射により顕著に減少した。そして、減少した蛍光強度は。可視光の照射により再び顕著に上昇していた。したがって、PLL-g-Dex存在下においては、二重鎖の解離と再形成がより積極的に誘導され、光照射によって二重鎖核酸の解離を可逆的に制御することができることが明らかとなった。また、実施例1と同様に、解離の効率は、ジメチルアゾベンゼンを結合させた光応答性核酸を用いた場合が最も高いことが明らかとなった。
本実施例では、実施例1および2よりも低い温度条件(45℃)でも、光照射による二重鎖核酸の解離の制御が可能であるか否かについて評価した。
本実施例では、実施例1と同じ光応答性核酸、未修飾DNAおよび二重鎖核酸を用いた。また、測定用試料は、鎖交換促進物質としてPLL-g-Dex(PLLの分子量8000、グラフト率90%)を終濃度15.6μMとなるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして調製した。
なお、比較のために、PLL-g-Dexを添加していない測定用試料も調製した。
測定用試料の入ったチューブを45℃で加熱したこと以外は実施例1と同様にして、各測定用試料について、各波長の光を照射したときのFITC由来の蛍光画像を得た。そして、得られた蛍光画像をtifファイルに変換し、蛍光シグナルの強度をImage Jソフトウェアで数値化した。各測定用試料について、「照射前」の蛍光強度を1として、光照射後の蛍光強度の相対値を算出した。結果を図10に示す。
鎖交換反応促進物質であるPLL-g-Dexの非存在下では、紫外光および可視光の光照射サイクルに依存した蛍光強度の変化は全く見られなかった。これに対して、PLL-g-Dex存在下では、蛍光強度の変化に光照射依存性が見られた。したがって、PLL-g-Dexを用いれば、低温条件においても光照射によって二重鎖核酸の解離を可逆的に制御できることが示唆された。
本実施例では、光応答性核酸を用いた光照射による二重鎖核酸の解離において、高い塩濃度条件が有用であるか否かについて評価した。
(1-1)光応答性核酸および二重鎖核酸
本実施例では、実施例1と同じ光応答性核酸(ジメチルアゾベンゼン修飾DNA)および二重鎖核酸を用いた。ただし、高塩濃度の測定用試料のために、塩化ナトリウム(1M)およびジチオスレイトール(1mM)を含有する10 mMリン酸緩衝溶液(pH7)中に、実施例1のFITC標識DNAおよびBHQ1標識DNAを、それぞれの終濃度が90 nMおよび100 nMとなるように溶解させて得た二重鎖核酸を用いた。
以下の3種の試料を調製した。なお、いずれの試料もジメチルアゾベンゼン修飾DNAを終濃度120 nMで含む。
・PLL-g-Dex(PLLの分子量8000、グラフト率90%、終濃度15.6μM)を含む、通常の塩濃度(0.15 M塩化ナトリウム)の試料
・PLL-g-Dexを含まない、高い塩濃度(1M塩化ナトリウム)の試料
・PLL-g-Dexを含まない、通常の塩濃度(0.15 M塩化ナトリウム)の試料
測定用試料の入ったチューブを、サーモプレート(東海ヒット)上に設置したステンレス製チューブラックにて59℃に加熱した。各チューブを蛍光顕微鏡(BX51,オリンパス株式会社)のステージ上に設置し、水銀ランプ(超高圧UVランプUSH-1030L、オリンパス株式会社)を光源として、可視光フィルター(U-MNIBA3、オリンパス株式会社)を通過させた光(波長470〜495 nm)を各チューブに30秒間照射した。そして、FITC由来の蛍光画像を得た(これを「照射前」と呼ぶ)。そして、水銀ランプを光源として、可視光フィルターを通過させた光(波長470〜495 nm)を各チューブに30秒間照射した。5分後、FITC由来の蛍光画像を得た(これを「可視光照射後」と呼ぶ)。この測定の5分後に、水銀ランプを光源として、紫外光フィルター(U-MWU2、オリンパス株式会社)を通過させた光(波長330〜385 nm)を各チューブに30秒間照射した。5分後、FITC由来の蛍光画像を得た(これを「紫外光照射後」と呼ぶ)。
PLL-g-Dexの非存在下での光照射による蛍光強度の変化に比べて、1M塩化ナトリウムの存在下での光照射による蛍光強度の変化は著しく大きかった。これは、鎖交換反応促進物質を用いる代わりに、反応系の塩濃度を高くすることによっても、光照射による二重鎖核酸の解離を制御できることを示している。
本実施例では、二重鎖核酸の塩基配列に対する光応答性核酸の特異性が、二重鎖核酸の解離において重要であるか否かを評価した。
(1-1)光応答性核酸および二重鎖核酸
本実施例では、実施例1と同じ光応答性核酸(ジメチルアゾベンゼン修飾DNA)および二重鎖核酸を用いた。ここで、実施例1の二重鎖核酸を、便宜上、「特異配列の二重鎖核酸」とも呼ぶ。また、光応答性核酸の塩基配列に対して相補的ではない塩基配列の二重鎖核酸(以下、「非特異配列の二重鎖核酸」とも呼ぶ)を作製するために、以下の塩基配列の標識一本鎖DNAを日本バイオサービス株式会社に委託して合成した。
5'-FITC- CAGATTACGATTCAGGTAAGGCTTAGACTTGAAAACCGGT -3'(配列番号6)
5'- ACCGGTTTTCAAGTCTAAGCCTTACCTGAATCGTAATCTG -BHQ1-3'(配列番号7)
測定用試料として、特異配列の二重鎖核酸を含む試料および非特異配列の二重鎖核酸を含む試料を実施例1と同様にして作製した。なお、いずれに試料にも、ジメチルアゾベンゼン修飾DNA(終濃度120 nM)およびPLL-g-Dex(PLLの分子量8000、グラフト率90%、終濃度15.6μM)が含まれている。
調製した各測定用試料について、実施例4と同様にして、各波長の光を照射したときのFITC由来の蛍光画像を得た。そして、得られた蛍光画像をtifファイルに変換し、蛍光シグナルの強度をImage Jソフトウェアで数値化した。各測定用試料について、「照射前」の蛍光強度を1として、光照射後の蛍光強度の相対値を算出した。結果を図12に示す。
特異配列の二重鎖核酸に対しては、これまでの実施例の結果と同様に、可視光の照射後に蛍光強度が上昇した。これに対して、非特異配列の二重鎖核酸に対しては、可視光を照射しても蛍光強度に変化が全く見られなかった。このことから、光応答性核酸による二重鎖核酸の解離は、二重鎖核酸の塩基配列に非依存的に起こるのではなく、塩基配列に依存して起こることが明らかとなった。
本実施例では、光応答性核酸を用いて、光照射による二重鎖核酸の鎖交換反応を行うことができるか否かについて評価した。なお、本実施例の反応原理を、図13に示す。
(1-1)光応答性核酸
本実施例では、実施例1と同じ光応答性核酸(ジメチルアゾベンゼン修飾DNA)を用いた。
(1-2)二重鎖核酸
二重鎖核酸を、上記の光応答性核酸と同じ塩基配列を含む40塩基の未修飾一本鎖DNAと、消光物質を標識した一本鎖DNAとをアニールさせることによって作製した。未修飾一本鎖DNAと、5'末端をブラックホールクエンチャー(商標)2(BHQ2)で標識した一本鎖DNAとを日本バイオサービス株式会社に委託して合成した。これらの一本鎖DNAの配列を以下に示す。
5’- CTTTAAGAAGGAGATATACCTGAGTGATCTAGTGTACTTA -3’(配列番号3)
5'-BHQ2- TTAAGTACACTAGATCACTCAGGTATATCTCCTTCTTAAAG -3'(配列番号8)
一本鎖交換核酸として、20塩基の未修飾一本鎖DNAおよび3'末端をTexasRedで標識した20塩基の一本鎖DNAを用いた。これらの一本鎖DNAの塩基配列をつなげると、上記の配列番号3と同一の塩基配列となる。なお、標識一本鎖DNAは、ライフテクノロジーズジャパン株式会社に委託して合成した。また、20塩基の未修飾一本鎖DNAは、日本バイオサービス株式会社に委託して合成した。これらの一本鎖DNAの配列を以下に示す。
5'- CTTTAAGAAGGAGATATACC -3'(配列番号9)
5’- TGAGTGATCTAGTGTACTTA -TexasRed-3’(配列番号10)
上記で得た二重鎖核酸の溶液をチューブに分注した。そして、これらのチューブに、一本鎖交換核酸(終濃度100 nM)に添加した。これらのうちの1つを、光応答性核酸およびPLL-g-Dexを含まない対照試料とした。そして、残りのチューブに光応答性核酸および/またはPLL-g-Dex(PLLの分子量8000、グラフト率90%)を適宜添加して、以下の3種の試料を調製した。
・光応答性核酸を含まないが、PLL-g-Dex(終濃度15.6μM)を含む試料
・PLL-g-Dexを含まないが、光応答性核酸(終濃度120 nM)を含む試料
・光応答性核酸(終濃度120 nM)およびPLL-g-Dex(終濃度15.6μM)を含む試料
そして、各チューブにミネラルオイルを滴下して、測定用試料を得た。
測定用試料の入ったチューブを、サーモプレート(東海ヒット)上に設置したステンレス製チューブラックにて60℃に加熱した。各チューブを蛍光顕微鏡(BX51,オリンパス株式会社)のステージ上に設置し、水銀ランプ(超高圧UVランプUSH-1030L、オリンパス株式会社)を光源として、可視光フィルター(U-MNIBA3、オリンパス株式会社)を通過させた光(波長470〜495 nm)を各チューブに30秒間照射した。そして、TexasRed由来の蛍光画像を得た(これを「照射前」と呼ぶ)。そして、水銀ランプを光源として、可視光フィルターを通過させた光(波長470〜495 nm)を各チューブに30秒間照射した。可視光の照射から10分後、水銀ランプを光源として、紫外光フィルターを通過させた光(波長330〜385 nm)を各チューブに30秒間照射した。10分後、TexasRed由来の蛍光画像を得た(これを「照射後」と呼ぶ)。
対照試料およびPLL-g-Dexのみを含む試料では、光を照射しても、鎖交換反応が生じたことを示す蛍光強度の減少が見られなかった。これに対して、光応答性核酸を含む試料では、光照射によって蛍光強度が約97%にまで減少していた(図14中の「+アゾベンゼン修飾DNA」のバーを参照)。また、光応答性核酸およびPLL-g-Dexを含む試料では、光照射によって蛍光強度が約90%にまで減少していた(図14中の「+アゾベンゼン修飾DNA+PLL-g-Dex」のバーを参照)。したがって、ジメチルアゾベンゼンを結合させた光応答性核酸により、光照射依存的に二重鎖核酸の鎖交換反応の制御が可能であることがわかった。また、鎖交換の効率はPLL-g-Dexの添加により促進されることがわかった。なお、本実施例では、二重鎖核酸の交換対象鎖(未修飾DNA)の濃度と一本鎖交換核酸の濃度が同じである条件下で、鎖交換の効率が最大で約10%であった。この鎖交換の効率は、反応系における一本鎖交換核酸の濃度を上げることでさらに向上できると考えられる。
本実施例では、光応答性核酸を用いる鎖交換反応を利用して、核酸連結体の形成することによる二重鎖核酸の増幅反応を行うことができるか否かについて評価した。具体的には、次のような一連の反応について検討する。まず、鋳型となる一本鎖核酸に、2つのポリヌクレオチドを互いに隣接するように相補的に会合させる。そして、2つのポリヌクレオチドをライゲーションさせて核酸連結体を形成させることにより、二重鎖核酸を生成させる。そして、光応答性核酸を用いる鎖交換反応を利用することにより、生成した二重鎖核酸において核酸連結体と鋳型核酸鎖とを解離させて、2つのポリヌクレオチドによる核酸連結体の形成を繰り返す。なお、本実施例では、2つのポリヌクレオチドのライゲーションには、ホスホロチオート基とヨードチミジン基との化学反応を利用した化学ライゲーション法を用いた。
(1-1)光応答性核酸
本実施例では、実施例1と同じ光応答性核酸(ジメチルアゾベンゼン修飾DNA)を用いた。
(1-2)鋳型核酸
鋳型核酸として、上記の光応答性核酸の塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列を有する40塩基の未修飾一本鎖DNAを日本バイオサービス株式会社に委託して合成した。この一本鎖DNAの配列を以下に示す。
5’- TAAGTACACTAGATCACTCAGGTATATCTCCTTCTTAAAG -3’(配列番号11)
ポリヌクレオチドとして、3'末端をホスホロチオート基で修飾した20塩基の一本鎖DNA(第1ポリヌクレオチド)と、5'末端をヨードチミジン基で修飾し、3'末端をTexasRedで標識した20塩基の一本鎖DNA(第2ポリヌクレオチド)を用いた。第1ポリヌクレオチドおよび第2ポリヌクレオチドの塩基配列をつなげると、上記の配列番号11の塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列となる。なお、これらのポリヌクレオチドは、日本バイオサービス株式会社に委託して合成した。これらのポリヌクレオチドの配列を以下に示す。
第1ポリヌクレオチド:5'- CTTTAAGAAGGAGATATACC -ホスホロチオエート基-3'(配列番号12)
第2ポリヌクレオチド:5’-ヨードチミジン基- TGAGTGATCTAGTGTACTTA -TexasRed-3’(配列番号13)
塩化ナトリウム(0.15 M)およびジチオスレイトール(1mM)を含有する10 mMリン酸緩衝溶液(pH7)に、光応答性核酸(終濃度0.75 nM)、鋳型核酸(終濃度1nM)およびPLL-g-Dex(PLLの分子量8000、グラフト率90%、終濃度15.6μM)を溶解させた。得られた溶液を、石英ガラス製8連マイクロウェル(島津製作所)に分注し、サーモプレート(東海ヒット)上で60℃に加熱した。なお、対照として、光応答性核酸を含まない溶液も調製して、同様に8連マイクロウェルに分注し60℃に加熱した。そして、各ウェルに、第1ポリヌクレオチドおよび第2ポリヌクレオチドをそれぞれ終濃度1nMとなるように添加して、測定用試料を調製した。
ポリヌクレオチドを添加した5分後に、水銀ランプ(超高圧UVランプUSH-1030L、オリンパス株式会社)を光源として、紫外光フィルター(U-MWU2、オリンパス株式会社)を通過させた光(波長330〜385 nm)を1分間照射した。紫外光の照射から30分後、水銀ランプを光源として、可視光フィルター(U-MNIBA3、オリンパス株式会社)を通過させた光(波長470〜495 nm)を1分間照射した。なお、比較のために、この一連の光照射を計5回行った試料および光照射を全く行わなかった試料を用意した。
光応答性核酸を含まない試料では、ポリヌクレオチドが鋳型核酸に会合することにより、光照射非依存的に核酸連結体が形成されていた。これに対して、光応答性核酸を含む試料では、光を照射する前はポリヌクレオチドの連結体の形成反応が起こっていないが、紫外光および可視光の照射を一度行うと、ポリヌクレオチドの連結体の形成反応が起こることが確認できた。さらに、紫外光および可視光の照射サイクルを4回繰り返すことにより、形成される連結体の量が増加したことが確認できた。したがって、光応答性核酸を用いることにより、光照射回数に依存した二重鎖核酸の増幅反応を行うことができることが明らかとなった。
Claims (8)
- 以下の(1)〜(4)の工程:
(1)一本鎖の標的核酸に第1ポリヌクレオチドを相補的に会合させ、前記標的核酸の前記第1ポリヌクレオチドが会合する領域に隣接する領域に第2ポリヌクレオチドを相補的に会合させる工程;
(2)前記第1ポリヌクレオチドと第2ポリヌクレオチドを連結させる工程;
(3)前記標的核酸と、前記第1ポリヌクレオチドおよび第2ポリヌクレオチドが連結した連結鎖との二重鎖核酸に、第1の波長の光の照射によって前記標的核酸に会合可能な形態にした光応答性核酸を接触させることにより、前記標的核酸と前記光応答性核酸とを相補的に会合させ、前記連結鎖を解離させる工程;
(4)前記第1の波長とは異なる第2の波長の光の照射によって前記光応答性核酸を前記標的核酸と会合できない形態にすることにより、前記標的核酸を前記光応答性核酸から解離させ、解離した標的核酸を工程(1)における一本鎖の標的核酸とする工程
を実質的に等温条件下で繰り返すことにより核酸を増幅する方法であって、
前記光応答性核酸が、アゾベンゼンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種を1つ以上結合させた核酸であり、
前記光応答性核酸の融解温度が、前記光応答性核酸と同一の塩基配列を有し、且つアゾベンゼンおよびその誘導体のいずれも含まない核酸の融解温度よりも高い、
核酸の増幅方法。 - 前記第1のポリヌクレオチドおよび前記第2のポリヌクレオチドのうち少なくとも一方に標識物質が結合しており、前記連結鎖の標識物質を検出することにより、前記連結鎖の増幅を確認する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
- 前記第1の波長の光を照射し、前記アゾベンゼンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種を、シス体からトランス体に変形させることにより、前記光応答性核酸を前記標的核酸に会合可能な形態にする、請求項1又は2に記載の方法。
- 前記第2の波長の光を照射し、前記アゾベンゼンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種を、トランス体からシス体に変形させることにより、前記光応答性核酸を前記標的核酸に会合できない形態にする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- アゾベンゼンの誘導体が、ジメチルアゾベンゼンである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- ポリLリジン−デキストラン共重合体(PLL-g-Dex)の存在下で行われる請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
- 前記光応答性核酸が、アゾベンゼンおよびその誘導体から選択される少なくとも1種を、2〜10残基に1つの割合で結合させた核酸である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
- 前記光応答性核酸が、前記標的核酸の塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
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