JP6335979B2 - 点火プラグ - Google Patents

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Description

本明細書は、内燃機関等において燃料ガスに点火するための点火プラグに関する。
内燃機関に用いられる点火プラグは、例えば、軸線方向に延びる軸孔を有する絶縁体と、軸孔に挿設された中心電極と、絶縁体の外周に設けられた筒状の主体金具と、主体金具に接続された接地電極と、を備えている。また、耐消耗性の向上を図るべく、中心電極や接地電極のうち、火花放電が発生する間隙を形成する部位に、貴金属チップが配置された点火プラグが知られている。
また、中心電極や接地電極は、内燃機関の高温の燃焼ガスに曝されるために、高い耐酸化性が求められる。例えば、接地電極の材料として、ニッケル(Ni)を主成分とし、ケイ素(Si)の含有量が0.50質量%以上1.0質量%未満、アルミニウム(Al)の含有量が0.2質量%以上2.0質量%以下、クロム(Cr)の含有量が12質量%以上34質量%以下、希土類元素からなる群より選択される少なくとも一種の含有量が0.03質量%以上0.2質量%以下、鉄(Fe)の含有量が0質量%超20質量%以下、炭素(C)の含有量が0.10質量%以下、マンガン(Mn)の含有量が1.0質量%以下であり、ケイ素(Si)及びアルミニウム(Al)の合計含有量が、0.80質量%以上、かつ、Crの含有量の1/10以下である合金が提案されている。このような組成とすることで、電極において、耐酸化性の向上を図ることができ、例えば、電極とチップとの間に酸化スケールが形成されることを抑制して、チップの耐剥離性を向上できる、とされている。
特許第5662622号公報
しかしながら、上記技術では、材料の熱引き性能の向上について十分な工夫がされていないために、例えば、電極の温度が過度に高くなり、プレイグニッションを引き起こす可能性があった。
本明細書は、内燃機関に用いられる点火プラグにおいて、電極の耐酸化性を確保しつつ、プレイグニッションの発生を抑制する技術を開示する。
本明細書に開示される技術は、以下の適用例として実現することが可能である。
[適用例1]中心電極と、前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極と、を備え、
前記中心電極と、前記接地電極と、のうちの少なくとも一方の電極は、ニッケルを主成分とし、20質量%以上のクロムを含有するニッケル合金を用いて形成される点火プラグであって、
前記電極のうち、前記ニッケル合金を用いて形成された部分において、
ケイ素の含有量は、0.1質量%以上であり、
希土類元素からなる元素群から選択される1種以上の特定元素の含有量の合計は、0.01質量%以上であり、
長手方向に平行な断面の面積の全体に占めるボイドの面積の割合は、1%以下であることを特徴とする、点火プラグ。
上記構成によれば、電極のうち、ニッケル合金を用いて形成された部分は、クロムの含有量が20重量%以上であり、ケイ素の含有量が0.1質量%以上であり、希土類元素からなる元素群から選択される1種以上の特定元素の含有量の合計は、0.01質量%以上であるので、緻密で剥離し難い酸化膜が表面に形成されるので、耐酸化性を向上できる。さらに、ニッケル合金は、長手方向に平行な断面の面積の全体に占めるボイドの面積の割合は、1%以下である。この結果、ボイドに起因する熱伝導率の低下を抑制できるので、電極の熱引き性能を向上して、プレイグニッションの発生を抑制することができる。したがって、電極の耐酸化性を確保しつつ、プレイグニッションの発生を抑制することができる。
[適用例2]適用例1に記載の点火プラグであって、
前記電極のうち、前記ニッケル合金を用いて形成された部分において、
鉄の含有量は、11質量%以上19質量%以下であり、
クロムの含有量は、30質量%以下であり、
ケイ素の含有量は、1質量%以下であり、
前記1種類以上の特定元素の含有量の合計は、0.2質量%以下であり、
ケイ素の含有量と、前記1種類以上の特定元素の含有量と、の積は、0.15以下であることを特徴とする、点火プラグ。
上記構成によれば、電極の熱引き性能をより向上することができる。したがって、電極の耐酸化性を確保しつつ、さらに、電極の熱引き性能を向上して、プレイグニッションの発生を抑制することができる。
[適用例3]適用例1または2に記載の点火プラグであって、
前記電極のうち、前記ニッケル合金を用いて形成された部分において、
カーボンの含有量は、0.1質量%以下であり、
アルミニウムの含有量は、0.2質量%以上1.5質量%以下であることを特徴とする、点火プラグ。
上記構成によれば、電極の熱引き性能をさらに向上することができる。したがって、電極の耐酸化性を確保しつつ、さらに、プレイグニッションの発生を抑制することができる。
[適用例4]適用例1〜3のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記電極のうち、前記ニッケル合金を用いて形成された部分において、
アルミニウムの含有量は、0.5質量%以上1.0質量%以下であり、
クロムの含有量は、26質量%以下であり、
鉄の含有量は、13質量%以上17質量%以下であることを特徴とする、点火プラグ。
上記構成によれば、電極の熱引き性能を、さらに、向上することができる。したがって、電極の耐酸化性を確保しつつ、さらに、プレイグニッションの発生を抑制することができる。
[適用例5]適用例1〜4のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記電極のうち、前記ニッケル合金を用いて形成された部分において、前記長手方向に平行な前記断面の面積の全体に占めるボイドの面積の割合は、0.5%以下であることを特徴とする、点火プラグ。
上記構成によれば、ボイドに起因する熱伝導率の低下をさらに抑制できるので、電極の熱引き性能をさらに向上することができる。したがって、電極の耐酸化性を確保しつつ、さらに、プレイグニッションの発生を抑制することができる。
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、点火プラグや点火プラグを用いた点火装置、その点火プラグを搭載する内燃機関や、その点火プラグを用いた点火装置を搭載する内燃機関、点火プラグの電極、点火プラグの電極用の合金等の態様で実現することができる。
実施形態の点火プラグの一例の断面図である。 点火プラグ100の先端近傍の拡大断面図である。 高温下における接地電極本体33の表面近傍の構造の模式図である。 接地電極本体33を長手方向に平行な面で切断した断面のCOMPO像を示す図である。
A.実施形態:
A−1.点火プラグの構成:
図1は、実施形態の点火プラグの一例の断面図である。図示された一点波線は、点火プラグ100の軸線COを示している。図示された断面は、軸線COを含む断面である。以下、軸線COと平行な方向を「軸線方向」とも呼ぶ。軸線COと平行な方向のうち、図1における下方向を先端方向LDと呼び、上方向を後端方向BDとも呼ぶ。先端方向LDは、後述する端子金具40から電極20、30に向かう方向である。また、軸線COを中心とし、軸線COと垂直な面上に位置する円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、当該円の円周方向を、単に「周方向」とも呼ぶ。先端方向LDの端を、単に、先端とも呼び、後端方向BDの端を、単に、後端とも呼ぶ。
点火プラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、端子金具40と、主体金具50と、第1の導電性シール層60と、抵抗体70と、第2の導電性シール層80と、第1パッキン8と、タルク9と、第2パッキン6と、第3パッキン7と、を備えている。
絶縁体10は、軸線方向に沿って延びて絶縁体10を貫通する軸孔12を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、アルミナを焼成して形成されている(他の絶縁材料も採用可能である)。絶縁体10は、先端側から後端方向BDに向かって順番に並ぶ、脚部13と、縮外径部15と、第1胴部17と、鍔部19と、第2胴部18と、を有している。縮外径部15の外径は、先端方向LDに向かって、徐々に小さくなる。絶縁体10の縮外径部15の近傍(図1の例では、第1胴部17)の内部には、先端方向LDに向かって内径が徐々に小さくなる縮内径部16が形成されている。
中心電極20は、絶縁体10の軸孔12内の先端側に位置している。中心電極20は、中心電極チップ28と、中心電極本体26と、を備えている。
中心電極本体26は、軸線方向に沿って延びる棒状の部材である。中心電極本体26は、先端側から後端方向BDに向かって順番に並ぶ、脚部25と、鍔部24と、頭部23と、を有している。脚部25の先端側の部分は、絶縁体10の先端側で、軸孔12の外に露出している。中心電極20の他の部分は、軸孔12内に保持されている。鍔部24の先端側の面は、絶縁体10の縮内径部16によって、支持されている。
中心電極本体26は、例えば、ニッケル(Ni)またはニッケルを主成分として含む合金(例えば、NCF600、NCF601)を用いて形成されている。なお、中心電極本体26は、内部に埋設され、Ni又はNiを主成分として含む合金よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金で形成された芯材を含んでもよい。
中心電極チップ28は、中心電極本体26の脚部25の先端部分に、例えば、レーザー溶接によって接合されている。中心電極チップ28は、高融点の貴金属を主成分とする材料で形成されている。この中心電極チップ28の材料には、例えば、イリジウム(Ir)や白金(Pt)、あるいは、IrやPtを主成分とする合金が用いられる。
端子金具40は、絶縁体10の軸孔12内の後端側に位置している。端子金具40は、軸線方向に沿って延びる棒状体であり、導電材料(例えば、低炭素鋼等の金属)を用いて形成されている。端子金具40は、先端側から後端方向BDに向かって順番で並ぶ、脚部43と、鍔部42と、キャップ装着部41と、を有している。脚部43は、絶縁体10の軸孔12に挿入されている。キャップ装着部41は、絶縁体10の後端側で、軸孔12の外に露出している。
円柱状の抵抗体70は、絶縁体10の軸孔12内において、端子金具40と中心電極20との間に、配置されている。抵抗体70は、火花発生時の電波ノイズを低減する機能を有している。抵抗体70は、例えば、主成分であるガラス粒子と、ガラス以外のセラミック粒子と、導電性材料と、を含む組成物で形成されている。
第1の導電性シール層60は、中心電極20と抵抗体70との間に配置され、第2の導電性シール層80は、端子金具40と抵抗体70との間に配置されている。この結果、中心電極20と端子金具40とは、抵抗体70と導電性シール層60、80とを介して、電気的に接続される。導電性シール層60、80は、例えば、B23−SiO2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物で形成されている。
主体金具50は、軸線COに沿って延びて主体金具50を貫通する挿入孔59を有する略円筒状の部材である。主体金具50は、低炭素鋼材を用いて形成されている(他の導電材料(例えば、金属材料)も採用可能である)。主体金具50の挿入孔59には、絶縁体10が挿入されている。主体金具50は、絶縁体10の径方向の周囲に配置された状態で、絶縁体10を保持している。主体金具50の先端側では、絶縁体10の先端側の端部(本実施形態では、脚部13の先端側の部分)が、挿入孔59の外に露出している。主体金具50の後端側では、絶縁体10の後端側の端部(本実施形態では、第2胴部18の後端側の部分)が、挿入孔59の外に露出している。
主体金具50は、先端側から後端方向BDに向かって順番に並ぶ、ネジ部52と、座部54と、変形部58と、工具係合部51と、加締部53と、を有している。座部54とネジ部52との間には、金属板を折り曲げて形成された環状のガスケット5が嵌め込まれている。
座部54は、鍔状の部分である。ネジ部52は、内燃機関の取付孔に螺合するためのネジが外周面に形成された略円筒状の部分である。
主体金具50は、変形部58よりも先端側に配置された、縮内径部56を有している。縮内径部56の内径は、後端側から先端方向LDに向かって、徐々に小さくなる。主体金具50の縮内径部56と、絶縁体10の縮外径部15と、の間には、第1パッキン8が挟まれている。第1パッキン8は、鉄製のOリングである(他の材料(例えば、銅等の金属材料)も採用可能である)。
工具係合部51の形状は、点火プラグレンチが係合する形状(例えば、六角柱)である。工具係合部51の後端側には、加締部53が設けられている。加締部53は、絶縁体10の鍔部19よりも後端側に配置され、主体金具50の後端側の端を形成する。加締部53は、径方向の内側に向かって屈曲されている。
主体金具50の後端側では、主体金具50の内周面と、絶縁体10の外周面と、の間に、環状の空間SPが形成されている。本実施形態では、この空間SPは、主体金具50の加締部53および工具係合部51と、絶縁体10の鍔部19の後端部分および第2胴部18と、に囲まれた空間である。この空間SP内の後端側には、第2パッキン6が配置されている。この空間SP内の先端側には、第3パッキン7が配置されている。本実施形態では、これらのパッキン6、7は、鉄製のCリングである(他の材料も採用可能である)。空間SP内における2つのパッキン6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。
点火プラグ100の製造時には、加締部53が内側に折り曲がるように加締められる。そして、加締部53が先端側に押圧される。これにより、変形部58が変形し、パッキン6、7とタルク9とを介して、絶縁体10が、主体金具50内で、先端側に向けて押圧される。第1パッキン8は、縮外径部15と縮内径部56との間で押圧され、そして、主体金具50と絶縁体10との間をシールする。以上により、内燃機関の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁体10との間を通って外に漏れることが、抑制される。また、主体金具50が、絶縁体10に、固定される。
接地電極30は、接地電極本体33と、接地電極チップ38と、を有している。接地電極本体33は、主体金具50と電気的に接続された棒状の部材である。接地電極本体33は、例えば、ニッケル(Ni)を主成分として含む合金を用いて形成されている。接地電極本体33を形成するニッケル合金の詳細については、後述する。
なお、接地電極本体33は、中心電極本体26と同様に、内部に埋設され、Ni又はNiを主成分として含む合金よりも熱伝導性に優れる銅または銅を主成分とする合金で形成された芯材を含んでもよい。接地電極チップ38には、例えば、IrやPt、あるいは、IrやPtを主成分とする合金が用いられる。
A−2.点火プラグの先端近傍の構成
図2を参照して、点火プラグ100の先端近傍の構成について、さらに、説明する。図2は、点火プラグ100の先端近傍の拡大断面図である。
絶縁体10の先端(すなわち、脚部13の先端)は、主体金具50の先端より、先端側に位置している。そして、中心電極本体26の先端と中心電極チップ28とは、絶縁体10の先端より先端側に位置している。
接地電極本体33の一端は、接地電極30と主体金具50とが電気的に導通するように、例えば、抵抗溶接によって、主体金具50の先端に接続されている接続端31である。接地電極本体33の他端は、自由端32である。接地電極本体33は、主体金具50に接続された接続端31から先端方向LDに向かって延び、軸線COに向かって曲がっている。そして、接地電極本体33は、軸線COと垂直な方向に延びて自由端32に至る。
接地電極本体33のうち、軸線COと垂直な方向に延びる自由端32側の部分の一側面は、中心電極チップ28と、軸線CO上で軸線方向に対向している。接地電極本体33の当該一側面には、中心電極チップ28と対抗する位置に接地電極チップ38が溶接されている。接地電極チップ38は、中心電極チップ28との間で火花放電が生じるギャップ(間隙とも呼ぶ)を形成する。
図2の接地電極本体33の断面は、棒状の接地電極本体33の軸線を通る面で接地電極本体33を切断した断面である。図2の接地電極本体33の断面は、接地電極本体33の長手方向と平行な断面のうちの1つである。
図2の中心電極本体26の断面は、棒状の中心電極本体26の軸線を通る面で、中心電極本体26を切断した断面である。図2の中心電極本体26の断面は、中心電極本体26の長手方向と平行な断面のうちの1つである。
A−3.接地電極本体33を形成する材料
接地電極本体33を形成する材料について説明する。接地電極本体33は、燃焼室内に最も突出している部分であるので、高温の燃焼ガスに曝される。このために、接地電極本体33には、高い耐酸化性が求められる。特に、近年は、内燃機関のエミッションの低減や燃費向上のために、内燃機関の燃焼室内の更なる高温化が進んでいることや、点火プラグ100の小型化が進んでいることから、接地電極本体33を形成する材料には、より高い耐酸化性が求められている。一方で、耐酸化性の向上のために、接地電極本体33を形成するNi合金に、添加物として他の元素を添加すると、一般的に熱伝導性が低下しやすいために、接地電極本体33の熱引き性能が低下しやすい。この結果、接地電極本体33が過度に高温になり、プレイグニッション(過早着火)が発生しやすくなる問題があった。このために、本実施形態では、接地電極本体33の耐酸化性を確保しつつ、熱引き性能を向上して、プレイグニッションの発生を抑制するために、接地電極本体33を形成する材料に、工夫がなされている。以下に詳しく説明する。
接地電極本体33の材料は、Niを主成分とする合金である。ここで、ニッケルを主成分とする合金(以下、単にNi合金とも呼ぶ)とは、合金に含まれる複数個の成分(元素)のうち、含有量(単位は、質量%)が最も多い成分が、Niである合金を意味する。ニッケルが主成分である合金は、例えば、鉄(Fe)が主成分である合金と比較して、耐酸化性に優れている。例えば、Feを主成分とする合金を採用すれば、ベースの合金の耐酸化性が不十分であるので、後述する添加物を制御したとしても、十分な耐酸化性を得られない。
このNi合金は、添加物として、少なくともクロム(Cr)と、ケイ素(Si)と、希土類元素からなる元素群から選択される1種以上の特定元素と、を含んでいる。希土類元素からなる元素群は、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメシウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテシウム(Lu)、スカンジウム(Sc)である。含有される1種以上の希土類元素としては、実用的には、例えば、Y、La、Ce、Ndが用いられ得る。
このNi合金で形成された接地電極本体33において、
(1)Crの含有量は、20質量%以上である。
(2)Siの含有量は、0.1質量%以上である。
(3)1種類以上の希土類元素の含有量の合計は、0.01質量%以上である。
この結果、このNi合金の耐酸化性を十分に確保できる。
Crは、酸化クロム(Cr)の被膜をNi合金の表面に形成する。上記(1)が満たされることによって、Crの被膜が十分に合金の表面に形成されるため、合金の耐酸化性を向上できる。
Siは、酸化物の標準生成自由エネルギー(ΔG)がクロムより小さいので、少量の添加で合金の表面において、Crの被膜の下層に、より緻密な酸化物(例えば、シリカ)の被膜を形成できる。上記(2)が満たされることによって、Crの被膜の下層に、十分にケイ素の酸化物の被膜を形成できるために、Ni合金の耐酸化性を向上できる。
希土類元素は、Ni合金と、Ni合金の表面に形成される酸化皮膜(Crやシリカ)と、の界面に集まりやすく、少量の添加で、該界面にて、Ni合金と酸化被膜との結合を強化する楔として機能する。上記(3)が満たされることによって、合金と酸化被膜との結合が強化されて、酸化被膜の剥離を抑制して、Ni合金の耐酸化性を向上することができる。
このNi合金で形成された接地電極本体33において、
(4)長手方向に平行な断面(例えば、図2の接地電極本体33の断面)の面積の全体に占めるボイド(材料中の微少な空隙)の面積の割合(以下、ボイド面積率とも呼ぶ)は、1%以下である。
この結果、接地電極本体33の熱引き性能を向上して、プレイグニッションの発生を抑制することができる。
Ni合金中のボイドは、他の部分より熱伝導率が低いために、ボイド面積率が高いほど、Ni合金のマクロでの熱伝導率が低下する。上記(4)が満たされることによって、内部のボイドに起因する接地電極本体33の熱伝導率の低下を抑制できるので、接地電極本体33の熱引き性能を向上して、プレイグニッションの発生を抑制することができる。
以上の説明から解るように、本実施形態では、上記の(1)〜(4)が満たされることによって、接地電極30(接地電極本体33)の耐酸化性を確保しつつ、プレイグニッションの発生を抑制することができる。
さらに、Ni合金で形成された接地電極本体33において、上記(1)〜(4)に加えて、下記(5)〜(9)が満たされることが、より好ましい。
(5)Feの含有量は、11質量%以上19質量%以下である。
(6)Crの含有量は、30質量%以下である。
(7)Siの含有量は、1質量%以下である。
(8)1種類以上の希土類元素の含有量の合計は、0.2質量%以下である。
(9)Siの含有量(単位は質量%)と、1種類以上の希土類元素の含有量の合計(単位は質量%)と、の積は、0.15以下である。
図3は、高温下における接地電極本体33(Ni合金)の表面近傍の構造の模式図である。図3に矢印AR1で示すように、点火プラグ100が使用される高温(例えば、摂氏900度)下では、Ni合金の表面に、上述した酸化被膜OL(例えば、Crやシリカの被膜)が形成される。酸化被膜OLは、主として、Crの被膜であるので、酸化被膜OLが形成される際には、Ni合金の表面近傍において、Ni合金中のCrが表面に向かって移動する。この結果、Ni合金の表面近傍において、酸化被膜OLの下層には、Crの含有量が、Ni合金の芯部CLより低いCr欠乏層LLが形成される。実際には、Crの含有量は、合金の表面から中心に向かって、段階的に変化するので、Cr欠乏層LLと、芯部CLと、の境界は、明確に定められるものではないが、図3では、図の簡略下のために、Cr欠乏層LLと、芯部CLと、を明確に区別している。
添加物の含有量(濃度)が少ないほど、金属の熱伝導率は、高くなる。このため、Cr欠乏層LLは、Crの含有量が芯部CLより少ないために、芯部CLより熱伝導率が低い。したがって、Cr欠乏層LLが存在すると、接地電極本体33の熱引き性能が向上する。ここで、Cr欠乏層LLが形成されると、Cr欠乏層LLと芯部CLとの間で、Crの濃度勾配が生じるため、図3において矢印AR2で示すように、濃度拡散によって、芯部CLからCr欠乏層LLへと、Crが移動する。このために、Crの拡散による移動が促進されると、Cr欠乏層LLでは、Crの欠乏が解消され、熱引き性能の向上をもたらすCr欠乏層LLは、消滅または減少する。
Feは、拡散によるCrの移動を阻害するので、Feの含有量が多いほど、Crの拡散速度を遅くすることができる。このために、Feの含有量が11質量%以上とすれば、形成されたCr欠乏層LLを維持でき、接地電極本体33の熱引き性能を向上することができる。一方で、Feの含有率が過度に高いと、高温環境下での連続使用中に、Ni合金中に粒界割れを引き起こす。Ni合金中に粒界割れによって欠陥が増加すると、接地電極本体33の熱引き性能が低下し得る。合金中の欠陥は、合金の熱伝導率を低下させるからである。Feの含有量が、19質量%以下であれば、Ni合金中に粒界割れを抑制して、接地電極本体33の熱引き性能の低下を抑制できる。したがって、上記(5)が満たされることによって、Cr欠乏層LLを維持しつつ、高温環境下での連続使用中の粒界割れを抑制できるので、接地電極本体33の熱引き性能をより向上できる。
Crの含有量が、過度に多いと、Cr欠乏層LLにおいて、Crの含有量が十分に少なくならない可能性があり、また、Cr欠乏層LLの形成に時間がかかる可能性がある。上記(6)が満たされることによって、Cr欠乏層LLにおいて、Crの含有量が十分に少なくなるとともに、早期にCr欠乏層LLが形成される。したがって、接地電極本体33の熱引き性能をより向上できる。
酸化被膜OLは、Cr欠乏層LLや芯部CLと比較して、熱伝導性が低いため、過度に厚い酸化被膜OLは、接地電極本体33の熱引き性能を低下させ得る。Siの含有量が、過度に多いと、酸化被膜OLが過度に緻密になり、酸化被膜OLの剥離が生じなくなり、酸化被膜OLの厚さが過度に厚くなり得る。また、希土類元素の含有量が過度に多いと、酸化被膜OLと合金表面との結合が過度に強固になり、酸化被膜OLの剥離が生じなくなり、酸化被膜OLの厚さが過度に厚くなり得る。上記(7)〜(9)が満たされることで、Siや希土類元素に起因して、酸化被膜OLが過度に厚くなることを抑制できる。したがって、接地電極本体33の熱引き性能をより向上できる。
以上の説明から解るように、上記(5)〜(9)が満たされることによって、さらに、接地電極30の熱引き性能を向上することができる。したがって、接地電極30の耐酸化性を確保しつつ、よりプレイグニッションの発生を抑制することができる。
さらに、Ni合金で形成された接地電極本体33において、上記(1)〜(9)に加えて、下記(10)、(11)が満たされることが、さらに、好ましい。
(10)カーボン(C)の含有量は、0.1質量%以下である。
(11)アルミニウム(Al)の含有量は、0.2質量%以上1.5質量%以下である。
Cは、Ni合金中で、Crと反応して熱伝導率が低いクロムカーバイト(例えば、Cr)を形成する。(10)が満たされることで、クロムカーバイトの生成を抑制できるので、接地電極本体33の熱引き性能をさらに向上できる。
Alは、酸化被膜OLとNi合金との間に、アルミナイトライド(AlN)の層を形成する。AlNは、Ni合金より熱伝導率が高い。Alの含有量が、0.2質量%以上であれば、アルミナイトライド(AlN)の層が形成され、接地電極本体33の熱引き性能がさらに向上する。一方で、Alの含有率が過度に高いと、高温環境下での連続使用中にNi合金中に粒界割れを引き起こす。上述したように、Ni合金中に粒界割れによって欠陥が増加すると、熱伝導率が低下して、接地電極本体33の熱引き性能が低下し得る。Alの含有量が、1.5質量%以下であれば、Ni合金中に粒界割れを抑制して、接地電極本体33の熱引き性能の低下を抑制できる。したがって、上記(11)が満たされることによって、AlNの層が形成されつつ、粒界割れを抑制できるので、接地電極本体33の熱引き性能をさらに向上できる。
以上の説明から解るように、上記(10)、(11)が満たされることによって、接地電極本体33の耐酸化性を低下させることなく、さらに、接地電極本体33の熱引き性能を向上することができる。したがって、接地電極30の耐酸化性を確保しつつ、さらに、プレイグニッションの発生を抑制することができる。
さらに、Ni合金で形成された接地電極本体33において、上記(1)〜(11)に加えて、下記(12)〜(14)が満たされることが、特に好ましい。
(12)Alの含有量は、0.5質量%以上1.0質量%以下である。
(13)Crの含有量は、26質量%以下である。
(14)Feの含有量は、13質量%以上17質量%以下である。
この結果、さらに、接地電極本体33の熱引き性能を向上することができる。したがって、接地電極30の耐酸化性を確保しつつ、さらに、接地電極30の熱引き性能を向上して、プレイグニッションの発生を抑制することができる。
上記(12)に示すように、Alの含有量の範囲をさらに厳しく制限することで、熱伝導率の高いAlNの層を、より多く形成できるととともに、より細かな粒界割れを抑制できる。上記(13)に示すように、Crの含有量の上限をさらに厳しく制限することで、Cr欠乏層LLにおいてCrの含有量がさらに低くできるとともに、Cr欠乏層LLの形成をさらに早期化することができる。
この結果、上記(12)〜(14)が満たされることによって、接地電極本体33の熱引き性能をさらに向上することができる。したがって、接地電極30の耐酸化性を確保しつつ、特にプレイグニッションの発生を抑制することができる。
さらに、Ni合金で形成された接地電極本体33において、上記(1)〜(14)に加えて、下記(15)が満たされることが、最も好ましい。
(15)ボイド面積率は、0.5%以下である。
こうすれば、ボイドに起因する接地電極本体33の熱伝導率の低下をさらに抑制できるので、接地電極本体33の熱引き性能をさらに向上することができる。したがって、接地電極30の耐酸化性を確保しつつ、プレイグニッションの発生を、最も抑制することができる。
A−3.接地電極本体33の製造方法
接地電極本体33は、溶解工程、冷却工程、加工工程を経て製造される。溶解工程では、通常の真空溶解炉を用いて、所望の成分塑性を持った合金の溶湯が調製される。冷却工程では、真空溶解炉内にて、溶湯を自然冷却することによって、インゴットが得られる。加工工程では、インゴットを熱間鍛造にて、所定の直径(例えば、1.6mm)の棒材が得られる。加工工程では、さらに、棒材に冷間で伸線加工を施すことによって、所定の断面寸法(例えば、1.3mm×2.7mmの矩形)を有する線材が得られる。線材を所定の長さ(例えば、15mm)に切断することによって、接地電極本体33が得られる。
得られた接地電極本体33は、主体金具50の先端に一端が接合されるとともに、他端の近傍に接地電極チップ38が溶接され、その後に曲げ加工がなされる。これによって、接地電極30が完成する。
ここで、ボイド面積率を抑制する方法について説明する。図4は、接地電極本体33を長手方向に平行な面で切断した断面のCOMPO像を示す図である。COMPO像は、走査方電子顕微鏡(SEM)を用いて撮影される反射電子組成像である。図4において、白色を有する部分は、Siおよび希土類元素を主成分とする析出物である。図4において、析出物に隣接して存在する黒色を有する部分が、ボイドである。このように、ボイドは、析出物の近傍に現れる。
ボイドは、加工工程における伸線加工の前の段階の合金には、ほとんど見られず、伸線加工の過程で、合金内に導入されることが確認されている。ボイドは、母材(図4のグレーの部分)と、析出物と、の間の加工特性の違い(延性や硬さなど)に起因して、伸線加工時に、析出物と母材との間に発生するストレスによって発生すると考えられる。
このために、ボイドの量を低減するためには、析出物の量を低減する方法と、析出物と母材との間に発生するストレスを低減する方法と、があると考えられる。一度に生成する溶湯の量を減らすほど、冷却工程において溶湯の冷却速度を速くすることができ、冷却速度を速くするほど、析出物の量を低減することができる。この方法によって、ボイド面積率を、1%以下にまで低減することができた。
さらに、冷間での伸線加工を、熱間(例えば、摂氏1000度)での伸線加工に変更することによって、ボイド面積率を、0.5%以下にまで低減することができた。これは、熱間で伸線加工を行うことによって、伸線加工時において、析出物と母材との間に発生するストレスが緩和されたためであると考えられる。
B.評価試験
点火プラグのサンプルを用いて、耐酸化性と、プレイグニッションに対する耐性(以下、耐プレイグ性とも呼ぶ)を評価する評価試験が実行された。評価試験では、下の表1、2に示すように、53種類のサンプル1〜53が作成された。各サンプルにおいて、接地電極本体33を形成する材料(合金)以外の構成は、上述した点火プラグ100のとおりであり、共通である。
以下の寸法は、各サンプル間で共通である。
ギャップの長さG:0.75mm
主体金具50先端から絶縁体10先端までの長さH1:2mm
主体金具50先端から中心電極20先端までの長さH2:3mm
中心電極20先端の径(中心電極チップ28の径):0.6mm
曲げ加工前の接地電極本体33の断面の寸法:1.3mm×2.7mm
曲げ加工前の接地電極本体33の長手方向の長さ:10mm
下の表1に示すように、各サンプルでは、接地電極本体33を形成する材料が互いに異なる。各サンプルの接地電極本体は、上述した製造方法を用いて作成された。
各種類のサンプルは、複数個ずつ準備され、それぞれ、成分の含有量の測定、ボイド面積率の測定、耐プレイグ性の評価試験、耐酸化性の評価試験に用いられた。
各種類のサンプルの接地電極本体33に用いられた合金は、表1、2に示す添加元素(Si、Cr、Al、Fe、C、希土類元素、その他)を、表1、2に示す含有量(単位は、重量%)だけ含み、残りはNiで構成されている。「その他」の元素は、例えば、不可避不純物である。なお、各サンプルの接地電極本体33の成分の含有量は、具体的には、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法を用いて、測定された。
希土類元素は、サンプル1〜20では、Yであり、サンプル21〜40では、Laであり、サンプル41〜53では、Ceである。なお、全ての希土類元素およびその組み合わせについて、サンプルを用意していないが、希土類元素は、種類が異なっても互いに非常に類似した特性を有することが知られており、他の種類の希土類元素を用いたとしても今回用意されたサンプルと同等の結果が得られるものと考えられる。
各種類のサンプルの接地電極本体33のボイド面積率は、表1、2に示すとおりである。ボイド面積率は、以下のように測定された。接地電極本体33の長手方向に平行な面、具体的には、接地電極本体33の軸線を通る面で、接地電極本体33を切断した断面(すなわち、図2に示す断面)において、接地電極本体33のCOMPO像が撮影された。具体的には、材料表面から少なくとも0.1mm離れた領域が、加速電圧20kV、倍率150倍の条件で、日本電子株式会社製の走査電子顕微鏡JSM−IT300を用いて撮影された。そして、画像全体の面積に占めるボイドの面積(図4の例に示すように、画像中の黒色の部分の面積)がボイド面積率として算出された。
耐プレイグ性の評価試験では、各種類のサンプルを3個ずつ用いて、1時間、100時間、200時間の実機運転が行われた。実機運転では、4気筒、排気量1.3L、自然吸気のガソリンエンジンに各サンプルを取り付けて、1分間のスロットル全開(WOT(Wide-Open Throttle))での運転の後に1分間のアイドリング運転を行うサイクルが、繰り返し行われた。スロットル全開の運転での回転速度は、3500rpmとされ、アイドリング運転での回転速度は、760rpmとされた。
そして、実機運転後の各サンプルについて、耐プレイグ性を評価した。具体的には、まず、点火進角30度(上死点から30度だけ進角した点火時期)として、上述のガソリンエンジンを用いて、スロットル全開、回転速度3500rpmで、1分間の運転が行われた。
そして、1分間の運転中にプレイグニッションによる異常燃焼が40回未満である場合には、さらに、点火進角を2度だけ進角して、1分間の運転が行われた。この繰り返しを行って、異常燃焼が40回以上になった時点での点火進角が特定された。そして、1時間、100時間、200時間の実機運転後のそれぞれについて特定された点火進角のうち、最小の点火進角を評価値として特定した。
最小の点火進角が62度以上であるサンプルの評価を「A」とし、最小の点火進角が56度以上60度以下であるサンプルの評価を「B」とし、最小の点火進角が50度以上54度以下であるサンプルの評価を「C」とした。最小の点火進角が44度以上48度以下であるの評価を「D」とし、最小の点火進角が38度以上42度以下であるサンプルの評価を「E」とし、最小の点火進角が36度以下であるサンプルの評価を「F」とした。
耐酸化性の評価試験では、各種類のサンプルを用いて、200時間の実機運転が行われた。実機運転では、上述のガソリンエンジンを用いて、上述した1分間のスロットル全開での運転の後に1分間のアイドリング運転を行うサイクルが、繰り返し行われた。
そして、実機運転後のサンプルの接地電極本体33を、軸線を通る面で切断した断面(すなわち、図2に示す断面)を、光学顕微鏡を用いて観察して、ギャップの反対側の面MA(図2参照)における酸化スケールの厚さを測定した。
そして、酸化スケールの厚さが0.1mm未満であるサンプルの評価を「A」とし、酸化スケールの厚さが0.1mm以上0.2mm未満であるサンプルの評価を「B」とし、0.2mm以上0.3mm未満であるサンプルの評価を「C」とした。酸化スケールの厚さが0.3mm以上0.4mm未満であるサンプルの評価を「D」とし、酸化スケールの厚さが0.4mm以上であるサンプルの評価を「E」とした。
評価結果は、表1、表2に示す通りである。サンプル1〜19は、比較のためのサンプルであり、上記実施形態が満たす上記(1)〜(4)の少なくとも1つを満たしていない。サンプル20〜53は、上記実施形態の点火プラグ100のサンプルであり、少なくとも上記(1)〜(4)を全て満たしている。
上記(1)〜(3)の条件は、上述したように、耐酸化性を確保するための条件である。サンプル1〜8は、上記(1)〜(3)の少なくとも1つを満たしていない。例えば、サンプル1、4〜6は、Siを含有しておらず、上記(2)を満たしていない。サンプル2、4、6は、Crの含有量が19質量%であり、上記(1)を満たしていない。また、サンプル7、8は、Crの含有量が1質量%であり、上記(1)を満たしていない。サンプル3、5、6は、希土類元素を含有しておらず、上記(3)を満たしていない。
上記(1)〜(3)の少なくとも1つを満たしていないサンプルの耐酸化性の評価は、「B」以下であった。例えば、Crの含有量が極めて少ないサンプル7、8は、耐酸化性の評価が「E」であった。これは、耐酸化性を確保するための基礎となる酸化クロムの被膜がほとんど形成できないからであると考えられる。また、Crがある程度含有されたサンプル1〜6の中では、上記(1)〜(3)のうち、2つを満たしており、1つを満たしていないサンプル1〜3の耐酸化性の評価は、「B」であり、上記(1)〜(3)のうち、1つを満たしており、2つを満たしていないサンプル4、5の耐酸化性の評価は、「C」であり、上記(1)〜(3)の全てを満たしていないサンプル6の耐酸化性の評価は、「D」であった。
これに対して、上記(1)〜(3)の全てを満たしているサンプル9〜53の耐酸化性の評価は、「A」であった。
以上の結果から、上記(1)〜(3)の全てを満たすことによって、接地電極本体33の耐酸化性を確保できることが確認できた。
上記(4)〜(14)の条件は、耐プレイグ性を向上するための条件である。先ず、耐酸化性を確保できないサンプル1〜8の耐プレイグ性の評価結果について説明する。サンプル7、8は、耐プレイグ性の評価が「A」であった。特に、サンプル8は、ボイド面積率が、1%を超えている(1.1%)にも関わらずに、耐プレイグ性の評価が「A」であった。サンプル7、8は、Crの含有量が極めて少ない(1質量%)ために、Niの含有量が多く(90質量%以上)、添加元素の含有量の合計が少ない。このために、サンプル7、8では、耐酸化性は、確保できないが、材料自体の熱伝導率が高いために、ボイド面積率に関わらずに、耐プレイグ性は、十分に高いと考えられる。
サンプル1〜6は、耐プレイグ性の評価が「A」であった。これは、上記(4)〜(14)の条件を全て満たしているからであると考えられる。このために、サンプル1〜6は、耐プレイグ性は、十分に高いと考えられる。
次に、(1)〜(3)の全てを満たすことによって、耐酸化性を確保できているサンプル9〜53の耐プレイグ性の評価結果について説明する。ボイド面積率が1%を超えているサンプル、すなわち、上記(4)を満たしていないサンプル9〜19の耐プレイグ性の評価は、他の条件に関わらずに、「F」であった。例えば、サンプル17〜19は、Si、Cr、Al、Fe、C、希土類の含有量が上記(5)〜(14)の条件を満たしているにも関わらずに、耐プレイグ性の評価は、「F」であった。
これに対して、上記(4)を満たしているサンプル20〜53の耐プレイグ性の評価は、他の条件に関わらずに、「E」以上であった。
以上の結果から、上記(1)〜(3)を全て満たすことによって、耐酸化性を確保でき、上記(4)を、さらに、満たすことによって、プレイグニッションの発生を抑制できることが解った。
次に、(1)〜(4)を全て満たすサンプル20〜53の耐プレイグ性の評価結果について、さらに詳しく説明する。
サンプル20〜33の耐プレイグ性の評価は、「E」であり、サンプル34〜53の耐プレイグ性の評価は、「D」以上であった。
耐プレイグ性の評価が「E」であるサンプル20〜33は、上記(5)〜(9)の少なくとも1つを満たしていない。例えば、サンプル20〜33は、上記(5)〜(9)の全てを満たしていない。サンプル24、25は、上記(5)、(7)〜(9)を満たしているが、Crの含有量が上記(6)を満たしていない。サンプル26、27は、上記(6)〜(9)を満たしているが、Feの含有量が上記(5)を満たしていない。サンプル28、29は、上記(5)、(6)、(8)、(9)を満たしているが、Siの含有量が上記(7)を満たしていない。サンプル30、31は、上記(5)〜(7)、(9)を満たしているが、希土類の含有量が、上記(8)を満たしていない。サンプル32、33は、上記(5)〜(8)を満たしているが、Siの含有量と希土類の含有量との積が、上記(9)を満たしていない。
これに対して、耐プレイグ性の評価が「D」以上であるサンプル34〜53は、上記(5)〜(9)の全てを満たしている。
以上の結果から、上記(1)〜(4)に加えて、上記(5)〜(9)を全て満たすことによって、プレイグニッションの発生をより抑制できることが解った。
次に、(1)〜(9)を全て満たすサンプル34〜53の耐プレイグ性の評価結果について、さらに詳しく説明する。
サンプル34〜41の耐プレイグ性の評価は、「D」であり、サンプル42〜53の耐プレイグ性の評価は、「C」以上であった。
耐プレイグ性の評価が「D」であるサンプル34〜41は、上記(10)、(11)の少なくとも1つを満たしていない。例えば、サンプル34〜37は、上記(10)、(11)の全てを満たしていない。サンプル38、39は、上記(11)を満たしているが、Cの含有量が上記(10)を満たしていない。サンプル40、41は、上記(10)を満たしているが、Alの含有量が上記(11)を満たしていない。
これに対して、耐プレイグ性の評価が「C」以上であるサンプル42〜53は、上記(10)、(11)の全てを満たしている。
以上の結果から、上記(1)〜(9)に加えて、上記(10)、(11)を全て満たすことによって、プレイグニッションの発生をさらに抑制できることが解った。
次に、(1)〜(11)を全て満たすサンプル42〜53の耐プレイグ性の評価結果について、さらに詳しく説明する。
サンプル42〜49の耐プレイグ性の評価は、「C」であり、サンプル50〜53の耐プレイグ性の評価は、「B」以上であった。
耐プレイグ性の評価が「C」であるサンプル42〜49は、上記(12)〜(14)の少なくとも1つを満たしていない。例えば、サンプル42、43は、上記(12)〜(14)の全てを満たしていない。サンプル44、45は、上記(12)、(14)を満たしているが、Crの含有量が上記(13)を満たしていない。サンプル46、47は、上記(13)、(14)を満たしているが、Alの含有量が上記(12)を満たしていない。サンプル48、49は、上記(12)、(13)を満たしているが、Feの含有量が上記(14)を満たしていない。
これに対して、耐プレイグ性の評価が「B」以上であるサンプル50〜53は、上記(12)〜(14)の全てを満たしている。
以上の結果から、上記(1)〜(11)に加えて、上記(12)〜(14)を全て満たすことによって、プレイグニッションの発生を、特に抑制できることが解った。
耐プレイグ性の評価が「B」以上であるサンプル50〜53のうち、ボイド面積率が、0.5%を超えるであるサンプル、すなわち、上記(15)を満たさないサンプル50、51の耐プレイグ性の評価は、「B」であった。これに対して、ボイド面積率が、0.5%以下であるサンプル、すなわち、上記(15)を満たすサンプル52、53の耐プレイグ性の評価は、「A」であった。
以上の結果から、上記(1)〜(14)に加えて、上記(15)を満たすことによって、プレイグニッションの発生を、最も抑制できることが解った。
C.変形例
C−1.変形例1
上記実施形態では、接地電極30の接地電極本体33について、上記(1)〜(15)のうち、少なくとも(1)〜(4)を満たすNi合金を適用した。これに代えて、中心電極20の中心電極本体26について、該Ni合金を適用しても良い。この場合であっても、中心電極本体26の耐酸化性を確保しつつ、中心電極本体26の熱引き性能を向上できる。したがって、中心電極本体26の耐酸化性を確保しつつ、プレイグニッションの発生を、抑制することができる。
C−2.変形例2
上記実施形態では、接地電極30は、接地電極チップ38を備えているが、接地電極チップ38を備えなくても良い。この場合には、接地電極30の全体が、接地電極本体33であるので、接地電極30の全体が上記(1)〜(15)のうち、少なくとも(1)〜(4)を満たすNi合金を用いて形成される。
上記実施形態では、接地電極30の接地電極本体33は、銅などのNi合金より熱伝導性が高い銅で形成された芯部を備えていないが、接地電極本体33は、該芯部を備えていても良い。この場合には、接地電極30の接地電極本体33のうち、芯部を除いた部分が、上記(1)〜(15)のうち、少なくとも(1)〜(4)を満たすNi合金を用いて形成される。
このように、一般的には、接地電極30のうち、Ni合金を用いて形成される部分が、上記(1)〜(15)のうち、少なくとも(1)〜(4)を満たせば良い。中心電極20について、本発明が適用される場合についても同様である。
C−3.変形例3
上記実施形態の点火プラグ100の具体的構成は、一例であり、他の構成が採用され得る。例えば、点火プラグの発火部の構成は、様々な構成が採用され得る。例えば、点火プラグは、軸線と垂直な方向に接地電極30と中心電極20とが対向して、ギャップを形成するタイプの点火プラグでも良い。また、複数個の接地電極30と、1個の中心電極20と、を備え、複数個のギャップが形成されるタイプの点火プラグでも良い。
また、例えば、絶縁体10の材料や、端子金具40の材料は、上述の材料に限られない。例えば、絶縁体10は、アルミナ(Al)を主成分とするセラミックスに代えて、他の化合物(例えば、AlN、ZrO、SiC、TiO、Yなど)を主成分とするセラミックスを用いて形成されてもよい。
以上、本発明の実施形態および変形例について説明したが、本発明はこれらの実施形態および変形例になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の態様での実施が可能である。
5...ガスケット、6...第2パッキン、7...第3パッキン、8...第1パッキン、9...タルク、10...絶縁体、12...軸孔、13...脚部、15...縮外径部、16...縮内径部、17...第1胴部、18...第2胴部、19...鍔部、20...中心電極、23...頭部、24...鍔部、25...脚部、26...中心電極本体、28...中心電極チップ、30...接地電極、31...接続端、32...自由端、33...接地電極本体、38...接地電極チップ、40...端子金具、41...キャップ装着部、42...鍔部、43...脚部、50...主体金具、51...工具係合部、52...ネジ部、52...サンプル、53...加締部、54...座部、56...縮内径部、58...変形部、59...挿入孔、60...第1の導電性シール層、70...抵抗体、80...第2の導電性シール層、100...点火プラグ

Claims (5)

  1. 中心電極と、前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極と、を備え、
    前記中心電極と、前記接地電極と、のうちの少なくとも一方の電極は、ニッケルを主成分とし、20質量%以上のクロムを含有するニッケル合金を用いて形成される点火プラグであって、
    前記電極のうち、前記ニッケル合金を用いて形成された部分において、
    ケイ素の含有量は、0.1質量%以上であり、
    希土類元素からなる元素群から選択される1種以上の特定元素の含有量の合計は、0.01質量%以上であり、
    長手方向に平行な断面の面積の全体に占めるボイドの面積の割合は、1%以下であることを特徴とする、点火プラグ。
  2. 請求項1に記載の点火プラグであって、
    前記電極のうち、前記ニッケル合金を用いて形成された部分において、
    鉄の含有量は、11質量%以上19質量%以下であり、
    クロムの含有量は、30質量%以下であり、
    ケイ素の含有量は、1質量%以下であり、
    前記1種類以上の特定元素の含有量の合計は、0.2質量%以下であり、
    ケイ素の含有量と、前記1種類以上の特定元素の含有量と、の積は、0.15以下であることを特徴とする、点火プラグ。
  3. 請求項2に記載の点火プラグであって、
    前記電極のうち、前記ニッケル合金を用いて形成された部分において、
    カーボンの含有量は、0.1質量%以下であり、
    アルミニウムの含有量は、0.2質量%以上1.5質量%以下であることを特徴とする、点火プラグ。
  4. 請求項3に記載の点火プラグであって、
    前記電極のうち、前記ニッケル合金を用いて形成された部分において、
    アルミニウムの含有量は、0.5質量%以上1.0質量%以下であり、
    クロムの含有量は、26質量%以下であり、
    鉄の含有量は、13質量%以上17質量%以下であることを特徴とする、点火プラグ。
  5. 請求項4に記載の点火プラグであって、
    前記電極のうち、前記ニッケル合金を用いて形成された部分において、前記長手方向に平行な前記断面の面積の全体に占めるボイドの面積の割合は、0.5%以下であることを特徴とする、点火プラグ。
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