JP6333487B1 - 嚥下機能訓練具、嚥下機能訓練キット、及び嚥下機能訓練方法 - Google Patents

嚥下機能訓練具、嚥下機能訓練キット、及び嚥下機能訓練方法 Download PDF

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Abstract

舌圧の低下した認知症の高齢者であっても、介護者等の手を借りることなく訓練可能な嚥下機能訓練具を提供する。本発明の嚥下機能訓練具100は、飲料容器4の吸い口からなり、軟質樹脂により形成され、前端18が前方へ湾出する凸湾曲面により塞がれた有蓋筒状をなすとともに前端18に飲料を送出する送出孔11を有して少なくとも前端側の一部が被訓練者の口蓋窩Kに収容される口腔内挿入部10と、口腔内挿入部10の後端に連続するとともに後方に向かって横断面が徐々に拡がる筒状に設けられる基部20とを備え、口腔内挿入部10は、厚みが最小となる方向を上下方向として、上面、及び下面の横断面が凸湾曲線をなしている。

Description

この発明は、高齢者の誤嚥性肺炎の防止を目的として、その嚥下機能を鍛える訓練具に関し、特に、飲料容器から飲料を摂取することにより嚥下機能を鍛える吸い口型の嚥下機能訓練具に関する。
誤嚥性肺炎は、気管を開閉する喉頭蓋という器官が、食物を飲み込む際に正常に気管を閉塞せず、食物と共に菌が気管に侵入することにより発症する。この喉頭蓋は舌の奥にあり、舌を口蓋に押し付けて舌の根元に圧力が加わると喉頭蓋が倒れて気管を閉塞する。高齢者では、この舌で口蓋を押し上げる舌圧が加齢とともに低下するため、喉頭蓋が正常に機能しなくなるものである。
そのため、従来、舌やその周辺を鍛えるための取り組みが各種行なわれており、例えば、老人ホーム等の施設では、高齢者の舌圧を高めるために、嚥下体操や口腔体操と呼ばれる頬や口、舌等を動かす体操が実施されている。
また、嚥下を促すために、軟口蓋や舌根部、咽頭後壁などの嚥下反射誘発部位に刺激を与える方法も広く行われており、特許文献1では、嚥下反射誘発部位に刺激を与えるためのリハビリ用具が提案されている。特許文献1の訓練具では、高齢者自身が訓練しやすいように、また、嚥下反射誘発部位に過度の刺激を与えないように工夫がなされている。
また、特許文献2には、口腔内に挿入する弾性部材からなるバルーンを備えた嚥下機能回復用のリハビリ用具が提案されている。特許文献2のリハビリ用具は、高齢者自身が舌と口蓋の間にバルーンを挿入して舌でバルーンを押し付ける訓練を行うものである。
ところが、上記の体操やリハビリ用具による訓練は、誤嚥性肺炎を防止しようという意欲が持てる程度の健常者にとっては効果的であるが、かかる意欲の持てない認知症の進んだ高齢者等に実施させるのは難しいという問題がある。
そこで、本発明者は、哺乳瓶の吸い口の様に飲み物を飲ませる際に口にくわえるものを利用して、高齢者の舌圧を高めることに想到する。即ち、飲み物を飲むために必然的に行う運動であれば、認知症の高齢者にも実施させやすいと考えたものである。
このように、哺乳瓶の吸い口等を利用して高齢者の口回りの筋肉を鍛えるものとして、例えば、特許文献3の実施形態2では、高齢者の閉塞性睡眠時無呼吸症候群OSASや痴呆の予防、治療のために、日常の食生活の中で自然に口唇を噤む運動を反復させ、口輪筋及び舌筋を鍛錬できる口唇器具が提案されている。この特許文献3の口唇器具は、乳首(吸い口)の根元部分に切れ込みを設けた有蓋円筒状のカップを内装し、乳首の外側から口唇でこのカップを挟みつけて変形させると、該切れ込みを通して飲み物が乳首前端側に供給されるよう構成されている。
特開2007−319303号公報 特開2011−172996号公報 特開2003−305095号公報
しかし、特許文献3の口唇器具では、通常の哺乳瓶の乳首より強い力を加える必要があるため、舌圧の低下した高齢者には使えないという問題がある。
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、舌圧の低下した認知症の高齢者であっても、介護者等の手を借りることなく訓練可能な嚥下機能訓練具の提供を目的とする。
上記課題を解決するためになされた発明は、軟質樹脂からなり、飲料容器の吸い口からなる嚥下機能訓練具であって、前端が前方へ湾出する凸湾曲面により塞がれた有蓋筒状をなすとともに前端に飲料を送出する送出孔を有して被訓練者の口蓋窩の奥まで収容可能な口腔内挿入部と、前記口腔内挿入部の後端に連続するとともに後方に向かって横断面が徐々に拡がる筒状に設けられる基部とを備え、前記口腔内挿入部は、厚みが最小となる方向を上下方向として、上面、及び下面の横断面が凸湾曲線をなしており、前記口腔内挿入部は、前後方向、及び上下方向に垂直な方向の幅が前端から後方に向けて初めて27mm以上となる部分より前端側の部分からなるとともに、前後方向の長さが40mm以上であることを特徴とする
尚、ここで、「横断面」とは、前後方向に垂直な断面をいうものとする。
また「厚み」とは、横断面を挟んで対向する当該横断面の外周面上の2点間の距離をいうものとする。
嚥下の際には、舌で口蓋窩を強く押圧した際の反力が、舌から舌骨、喉頭蓋へと伝達されて喉頭蓋が閉じ、嚥下の際に飲料が気管に入ることを防止する。ところが、高齢者では舌が細くなって口蓋窩に接触しなくなり、舌で口蓋窩を押圧できないため喉頭蓋が閉じなくなって誤嚥が生じる。本発明の嚥下機能訓練具は、口腔内挿入部が被訓練者の口蓋窩へ収容されるため、舌が細くなったことにより生じた口蓋窩と舌の間の空間が埋まり、口腔内挿入部を介して口蓋窩に舌圧を加えることができるため、その反作用で舌の根元に加わる力により喉頭蓋を倒して気管を塞ぐことができる。
また、軟質樹脂からなる飲料容器の吸い口であることから、認知症の高齢者であっても、これを用いて飲料を飲ませることで、嚥下機能の訓練をすることができる。また、口腔内挿入部の上面、及び下面の横断面が凸湾曲線をなすことから、厚み方向を上下方向として口にくわえると、上面のカーブが口蓋窩の窪みに沿い、下面のカーブが舌の窪みに沿うため、舌が細くなって口蓋窩と舌の間の空間を上手く埋められなくなった高齢者がこの空間を埋めることを効果的に補助することができる。
そして、本発明は、口腔内挿入部の前後方向の長さを40mm以上とすることで、当該口腔内挿入部が、口蓋窩まで十分に届いて舌と口蓋窩の間の空間を十分に埋めるため、高齢者の痩せた舌であっても、口腔内挿入部を介して口蓋窩に舌圧を加えることができ、その反作用で舌の根元に加わる力により喉頭蓋を倒して気管を塞ぐことができる。
前記口腔内挿入部は、前端から10mm以上40mm以下の領域の全域に亘って前記幅が10mm以上27mm未満とすることが好ましい。こうすることで、舌と口蓋の間の空間を幅方向についても十分に満たすことができるため、より効果的に硬口蓋に舌圧を加えることができる。
前記口腔内挿入部は、前後方向の長さが60mm以下であることが好ましい。こうすることで、口腔内挿入部が軟口蓋に届かないようにして、被訓練者がえずくことを抑制できる。
前記口腔内挿入部は、上下方向の厚みが、幅より小さいことが好ましい。こうすることで、口腔内挿入部が舌の上で安定しやすい。また、前記口腔内挿入部は、前端から10mm以上40mm以下の領域の全域に亘って、厚みが5mm以上20mm以下であることが好ましい。当該領域は、厚みが5mm未満であると、被訓練者が舌を持ち上げても十分に舌圧をかけることができない虞があり、厚みが20mmを超えると、舌が押し下げられて被訓練者が不快に感じる虞がある。
本発明は、軟質樹脂からなり、飲料容器の吸い口からなる嚥下機能訓練具であって、前端が前方へ湾出する凸湾曲面により塞がれた有蓋筒状をなすとともに前端に飲料を送出する送出孔を有して少なくとも前端側の一部が被訓練者の口蓋窩に収容される口腔内挿入部と、前記口腔内挿入部の後端に連続するとともに後方に向かって横断面が徐々に拡がる筒状に設けられる基部とを備え、前記口腔内挿入部は、厚みが最小となる方向を上下方向として、上面、及び下面の横断面が凸湾曲線をなし、前記口腔内挿入部の先端部の側面視断面における上面側の曲率が下面側の曲率より大きく、前記送出孔の位置が、下面側に偏っていることを特徴とする嚥下機能訓練具を含む。口腔内挿入部の先端部の側面視断面における上面の曲率、下面の曲率より大きくすることで、口腔内挿入部の先端が下面側に曲がりやすくなり、口腔内挿入部の上面が口蓋窩に密着しやすくできる。
前記口腔内挿入部の前記基部との境界側における上面側と下面側に幅方向に延びる凹部からなるくびれ部を備えることが好ましい。こうすることで、くびれ部に歯を入れことができるため、当該嚥下機能訓練具をくわえたまま口を閉じやすい。
本発明は、軟質樹脂からなり、飲料容器の吸い口からなる嚥下機能訓練具と、飲料を貯留するための飲料容器とを備え、前記嚥下機能訓練具は、前端が前方へ湾出する凸湾曲面により塞がれた有蓋筒状をなすとともに前端に飲料を送出する送出孔を有して少なくとも前端側の一部が被訓練者の口蓋窩に収容される口腔内挿入部と、前記口腔内挿入部の後端に連続するとともに後方に向かって横断面が徐々に拡がる筒状に設けられる基部とを有し、前記口腔内挿入部は、厚みが最小となる方向を上下方向として、上面、及び下面の横断面が凸湾曲線をなしており、前記飲料容器は、飲料容器本体と、前記飲料容器本体を前記嚥下機能訓練具に連結する袋ナット状のキャップとを有し、前記飲料容器本体は、円板状の蓋板部、前記蓋板部から前方へ延出する扁平円筒状の雄ねじ部、及び前記蓋板部から後方へ延出する筒状のハンドルとを含み、前記キャップは、前記雄ねじ部に螺合する扁平円筒状の雌ねじ部を含み、前記蓋板部を前記嚥下機能訓練具の後端縁に当接した状態で前記キャップを前記飲料容器本体に螺合して前記飲料容器を前記嚥下機能訓練具に連結する嚥下機能訓練キットを含む。このように、蓋板部を嚥下機能訓練具の後端縁に当接するようにして飲料容器を嚥下機能訓練具に連結することで、蓋板部で嚥下機能訓練具の後端の開口を塞いで嚥下機能訓練部の内部のみに飲料を貯留することができる。
本発明に係る嚥下機能訓練具は、高齢者が嚥下機能を鍛える嚥下機能訓練方法であって、軟質性樹脂からなり、前端が前方へ湾出する凸湾曲面により塞がれた有蓋筒状をなすとともに前端に飲料を送出する送出孔を有する口腔内挿入部と、前記口腔内挿入部の後端に連続するとともに後方に向かって横断面が徐々に拡がる筒状に設けられる基部とを有する吸い口からなる嚥下機能訓練具を飲料容器に取り付け、前記口腔内挿入部が、前記口蓋窩を奥まで満たすように、かつ、前記送出孔が軟口蓋に達しない程度に前記口腔内挿入部をくわえ、前記口腔内挿入部を舌で口蓋窩に押付ける動作により喉頭蓋で気管を塞いだ状態で、前記嚥下機能訓練具から飲料を飲むことにより嚥下機能を鍛える嚥下機能訓練方法に用いる。
上述した嚥下機能訓練方法は、前記口腔内挿入部が、厚みが最小となる方向を上下方向として、上下方向の厚みが、前記領域の全域に亘って上下方向、及び前後方向に垂直な方向の幅より小さい嚥下機能訓練具を用いることが好ましく、さらに、前記口腔内挿入部の先端部の側面視断面における上面側の曲率が下面側の曲率より大きい嚥下機能訓練具を用いることが好ましい。
また、上述した嚥下機能訓練方法は、前記口腔内挿入部の前記基部との境界側における上面側と下面側に幅方向に延びる凹部からなるくびれ部を備える嚥下機能訓練具を用いてもよい。
以上説明したように、本発明の嚥下機能訓練具によれば、舌圧の低下した認知症の高齢者であっても、介護者等の手を借りることなく嚥下機能の訓練を行うことができる。
本発明の第1実施形態に係る嚥下機能訓練具の斜視図である。 図1の嚥下機能訓練具の正面図である。背面図は、正面図と対称に表れる。 図1の嚥下機能訓練具の右側面図である。左側面図は、右側面図と対称に表れる。 図1の嚥下機能訓練具の平面図である。 図1の嚥下機能訓練具の底面図である。 図2のI−I線断面図である。 図3II−II線断面図である。 図1の嚥下機能訓練具を用いて行う訓練方法の説明図である。 図1の嚥下機能訓練具を用いて行う訓練方法の説明図である。 図1の嚥下機能訓練具を用いて行う訓練方法の説明図である。 図1の嚥下機能訓練具を用いて行う訓練方法の説明図である。 本発明の第2実施形態に係る嚥下機能訓練具の右側面図である。左側面図は右側面図と対称に表れる。 図9の嚥下機能訓練図のIII−III線断面図である。 本発明の第3実施形態に係る嚥下機能訓練具の(a)平面図、(b)IV−IV線断面図(c)V−V線断面図である。 図14に示した嚥下機能訓練具を用いた嚥下機能訓練キットを示す正面視断面図である。 実施例1における被験者1の訓練期間と舌圧の関係を示す折線グラフである。 実施例2における被験者2の訓練期間と舌圧の関係を示す折線グラフである。 上顎における口蓋窩の位置を示す説明図である。
以下、適宜図面を用いながら本発明の実施形態について詳述する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る嚥下機能訓練具100を示す。嚥下機能訓練具100は、軟質樹脂により一体的に形成され、有蓋筒状をなす口腔内挿入部10と、口腔内挿入部10の基端側に連続する基部20とを備えている。嚥下機能訓練具100は、図1に仮想線で示すように、飲料を貯留する飲料容器4に取り付けて用いられる。嚥下機能訓練具100に用いられる軟質樹脂としては、適宜の弾性、及び可撓性を有するものであれば特に限定されず、シリコンゴムが好ましく用いられる他、イソプレンゴム、天然ゴム等を利用できる。
口腔内挿入部10は、前端(図1の上端)が前方へ湾出する凸湾曲面からなる天蓋状をなし、該前端に飲料を送出する送出孔11を有し、送出孔11に飲料を供給すべく中空筒状に形成されている。送出孔11は、図のような円形貫通孔に限らず、X字、あるいはY字の切れ込みであってもよい。
口腔内挿入部10の前後方向(図2の上下方向)に垂直な横断面は、図6に示すように、上面10a、及び下面10bの横断面が凸湾曲線をなし、全体として厚みが幅より小さい楕円に形成されている。
また、口腔内挿入部10は、図2に示すように、正面視で前後方向が幅方向(図1の左右方向)より長い角丸長方形をなしている。
図2、図3の2点鎖線13は、嚥下機能訓練具100において、前端18から後方に向けて初めて幅W0が27mm以上となる位置を示し前端から2点鎖線13までが口腔内挿入部10に相当する。本実施形態では、口腔内挿入部10の前後方向(図2における上下方向)の長さLは、40mm以上60mm以下に設けられている。
そして、2点鎖線14は前端18からの距離aが10mmの位置を、2点鎖線15は前端からの距離bが40mmの位置を示し、前端18からの距離が10mm以上40mm以下の領域16において、口腔内挿入部10の幅は、図2に示すように、最小幅W1が10mm以上に、最大幅W2が27mm以下に設けられている。また、領域16における口腔内挿入部10の上下方向の厚みは、図3に示した、最小厚みT1が5mm以上に、最大厚みT2が20mm以下に設けられている。
基部20は、図2に示すように、略円錐台をなし、裾広がりの筒状に設けられ、後端に円形に開口した飲料導入口21を有している。飲料導入口21周縁には、フランジ部22が設けられ、フランジ部22の下面には、円環状の凸条からなる封止部22aが設けられている。フランジ部22は、図7に示すように、厚み方向に貫通する円形孔からなる空気穴22bを備えている。嚥下機能訓練具100は、袋ナット状の固定具(キャップ)5(図1に仮想線で示す)を嵌合用部23に嵌合し、フランジ部22を固定することにより飲料容器4に取付けられ、封止部22aにより、フランジ部22と飲料容器4の連結部を水密に封止する。
(嚥下機能訓練方法)
次に、図8から図11、図18の模式図を用いて、嚥下機能訓練具100の使用方法、及びその作用効果について説明する。図中、符号Aは舌を、符号Bは硬口蓋を、符号Cは舌骨を、符号Dは喉頭蓋を、符号Eは気管を、符号Fは軟口蓋を、符号Gは鼻腔と口腔の境界を、符号Hは食道を、符号Iは喉頭を、符号Jは食道の入り口を、符号Kは口蓋窩を、符号Lは口蓋垂を示している。
嚥下機能訓練具100を用いて嚥下機能の訓練を行う際には、嚥下機能訓練を行う被訓練者に飲料容器4を手渡し、図8に示すように、嚥下機能訓練具100の口腔内挿入部10を、その厚み方向が上下方向となるようにして、送出孔11が軟口蓋Fに達しないように、かつ口腔内挿入部10が、最大限、口蓋窩Kを埋めるようにくわえる。続けて、飲料容器4の嚥下機能訓練具100側が斜め下方向きとなるようにして、嚥下機能訓練具100が飲料Xで満たされるようにする。図8は、被訓練者が口腔内挿入部10をくわえたのち嚥下を開始する前の様子を示しており、この状態では、軟口蓋Fは鼻腔と口腔の境界Gを開放し、喉頭蓋Dは気管Eを開放している。
そして、被訓練者が、飲料Xを飲もうとして口腔内挿入部10を吸引すると、図9に示すように、口蓋窩Kを口腔内挿入部10で満たしているので、被訓練者の舌Aが痩せて、舌Aと口蓋窩Kの間の空間が広がっている場合であっても、図9に上向きの矢印で示すように、舌Aは口腔内挿入部10の下面10bを押圧して下面10bにしっかりと密着することができ、舌Aの力を口蓋窩Kに伝えることができる。これにより、口蓋窩Kからの反力が口腔内挿入部10により舌Aに伝達される。舌Aに伝達された力は、舌筋その他の筋繊維を介して伝播し、舌骨Cが引き上げられ、喉頭Iが前方へ移動し、そのため喉頭蓋Dが後方へ倒れる。軟口蓋Fは、口腔と鼻腔の境界Gを遮断し、飲料Xが鼻腔に逆流することを防止する。
続けて、図10に示すように、舌A全体が口腔内挿入部10を介して口蓋窩Kにさらに強く密着するに至り、舌骨Cはさらに上方へ引き上げられ、喉頭Iはさらに上前方へ移動し、これにより喉頭蓋Dが気管Eを閉塞する。同時に、喉頭Iが前方へ移動することにより食道の入口Jが開き、飲料Xが通りやすくなる。
被訓練者の嚥下が終了すると、口腔内挿入部10へ押し付けられていた舌Aは緊張を弱め、図11に示したように、舌骨C、喉頭Iは下方に下がり、それとともに喉頭蓋Dは上方へ、軟口蓋Fは前方に復帰する。すると、被訓練者の舌Aにより押圧されて薄く変形していた口腔内挿入部10は、弾性力によりもとの厚みに復帰し、飲料容器4から口腔内挿入部10に飲料Xが追加され、被訓練者は、続けて口腔内挿入部10を吸引することにより嚥下機能の訓練を続けることができる。
この舌Aが口蓋Bを押し上げることに連動する一連の嚥下運動の際、口腔内挿入部10を口蓋窩Kに収容することが最も重要である。舌が痩せたために、舌が口蓋窩に接しなくなった被訓練者は、嚥下を行っても舌が口蓋窩に接触しない。嚥下は、上述したように、舌で口蓋窩を押圧することの反力により生じるのであるが、舌で口蓋窩を押せなくては、この反力を得ることができないため、嚥下が行えず、さらに舌が痩せてますます嚥下機能が低下する原因となる。このように、口蓋窩を口腔内挿入部10で埋めてやることで、舌の力を口腔内挿入部10を介して口蓋窩に伝えて、その反力を得ることができるので、舌の痩せた高齢者に嚥下を行わせることができる。すると、舌の厚みを維持、又は回復して、嚥下機能の維持や回復を図ることができる。
また、口腔内挿入部10は、前後方向の長さLを40mm以上とすることが好ましく、こうすることで、被訓練者が特に苦労を要することなく口蓋窩を奥まで十分に満たすことができる、舌Aの特に痩せた高齢者であっても、口腔内挿入部10を介して容易に舌Aを口蓋Bに押し付けることができ、その反作用である口蓋Bが舌Aを押し返す力により嚥下に必要な舌圧を十分に確保することができる。
また、口腔内挿入部10の前後方向の長さLを60mm以下としたので、自然に、送出孔11が軟口蓋に届かなくなり、口腔内挿入部10が口腔の奥まで入りすぎて軟口蓋に届き被訓練者がえずいたり、送出孔11から噴出した飲料Xが被訓練者の喉に当たって飲料者がむせることを抑制できる。
また、口腔内挿入部10は、幅を10mm以上としたので、舌Aと口蓋Bの間の空間の左右両側に隙間が生じることを抑制でき、また、27mm以下としたので、幅が大きすぎてかえって嚥下を妨げるというようなことがない。
さらに、口腔内挿入部10は、領域16における厚みを5mm以上としたので、被訓練者が舌を持ち上げて十分に舌圧をかけることができ、また、領域16における厚みを20mm以下としたので、舌が押し下げられて被訓練者が不快に感じることを抑制できる。
(第2実施形態)
図12は、本発明の第2実施形態に係る嚥下機能訓練具200の側面図を示している。嚥下機能訓練具200は、口腔内挿入部210と基部20を備える他、口腔内挿入部210の基部20側の端部にくびれ部30を備えている。
尚、第2実施形態以降の実施形態において、第1実施形態と共通する部材は、同一符号を付して説明を省略する。また、嚥下機能訓練具200は、正面図、背面図、平面図、底面図が、第1実施形態と同様に表れるため図示を省略する。
くびれ部30は、図12に示すように、口腔内挿入部210の基部20よりの端部において、口腔内挿入部210の幅方向(図12の奥行方向)に延びるよう設けられた凹部からなる。くびれ部30の横断面は図12に示すように、扁平のトラック形をなしている。
第1実施形態同様、仮想の2点鎖線13が、前端18から後方に向けて初めて口腔内挿入部10の幅が27mm以上となる位置を示し、前端18からくびれ部30を跨いで2点鎖線13までが口腔内挿入部210に相当する。口腔内挿入部210は、前端18からの距離が10mm以上40mm以下となる領域(2点鎖線14と2点鎖線15の間の領域)216のうち、くびれ部30の谷底部分で最小厚みT1をとり、くぼみ部30より前端側の部分で最大厚みT2をとる。最小厚みT1は5mm以上に、最大厚みT2は20mm以下に設けられている。
(第3実施形態)
図14は、本発明の第3実施形態に係る嚥下機能訓練具300である。嚥下機能訓練具300は、軟質性樹脂からなり、送出孔11を有する口腔内挿入部310と、口腔内挿入部310の後端に連続する基部20と、基部20の後端側に連続する扁平円筒状の嵌合用部23と、嵌合用部23の後端側に連続する円環状のフランジ部22と、フランジ部22の後端側に連続する扁平円筒状の飲料室324とを備えている。
口腔内挿入部310は、先端部の側面視断面における上面310aの曲率が先端部の下面310bの曲率より大きい曲面になっている。これにより、口腔内挿入部310は下面310b側に曲がりやすくなっており、口蓋窩Kの曲面に密着させやすい。また、これに合わせて、送出孔11の位置は、やや下面310b側に偏っている。飲料室324の後端縁には、外側に延出するリブ324aが設けられている。
図15は、嚥下機能訓練キット1000を示している。嚥下機能訓練キット1000は、第3実施形態に係る嚥下機能訓練具300を、飲料容器304に取り付けたものであり、飲料容器304は、飲料容器本体40と袋ナット状のキャップ50とを有している。
飲料容器本体40は、下端が開口するとともに末広がりのグリップエンド41aが設けられたハンドル41と、ハンドル41の前端側(図15の上端側)開口を塞ぐ、ハンドル41より外径の大きな蓋板部42と、蓋板部42の周縁のやや内側から前方(図15の上方)へ延出する扁平円筒状の雄ねじ部43とを有している。雄ねじ部43の外面には雄ねじが設けられている。
キャップ50は、雄ねじ部43に螺合する扁平円筒状の雌ねじ部51と嚥下機能訓練具300の嵌合用部23に嵌合する扁平円筒状の開口部53と、雌ねじ部51と開口部53の前端(図15の上端)縁の間を塞ぐ蓋部52とを有している。
嚥下機能訓練キット1000は、嚥下機能訓練具300の嵌合用部23にキャップ50の開口部53を嵌合させた状態で、リブ324aが蓋板部42に当接するまで雌ねじ部51を雄ねじ部43に螺結し、雄ねじ部43内部の空間44に飲料室324の全体を収容するよう構成されている。
このように、嚥下機能訓練具300は、飲料室324を蓋板部42で閉塞するようにしたので、嚥下機能訓練具300の内部のみに飲料が貯留されることとなる。これにより、飲料容器に誤って飲料を多量に入れることにより、被訓練者が飲料を飲み過ぎて誤嚥を起こす事故を抑制できる。また、送出孔11側を下に向けても、送出孔11にかかる圧が抑制されるため、飲料の過量の送出を抑制できる。
次に、本発明に係る実施例について詳述する。
(実施例1)
80歳代、要介護度4の男性を被験者1とした。
嚥下機能訓練具は、シリコンゴムにより、前端から幅が初めて27mmとなる位置までの口腔内挿入部310の長さを47mm、前端から10mm以上40mm以下の領域の厚みを5mm以上20mm以下に形成し、その他の寸法を、図14に示した寸法(単位はmm)に形成した嚥下機能訓練具300を用いた。嚥下機能訓練具300の飲料室324に水30ccを入れ、これを飲料容器304に取り付けて嚥下機能訓練キット1000とし、口腔内挿入部310が概ね被験者1の口蓋窩Kを埋めるように、かつ送出孔11が軟口蓋Fには達しない程度に、口腔内挿入部310を口に含ませるようにして、被験者1に毎食後5乃至10分程度かけて30cc全量を摂取させた。
試験開始から1週間毎に、株式会社ジェイ・エム・エス社製の舌圧測定器を用いて、舌圧プローブのバルーンを口蓋窩に収め、舌と口蓋の間でパルーンを押し潰すようにしてそのときの圧力を最大舌圧として測定した。
その結果を図16に示す。
(実施例2)
90歳代の女性を被験者2とし、実施例1と同様にして試験を行った。
その結果を図17に示す。
表1、表2に示すように、訓練開始1週間後の舌圧が、それぞれ6kPa、16kPaであったが、被験者1、被験者2とも、週を追うごとに舌圧を回復し、試験開始9週間後までには、両被験者とも舌圧が20kPaを越えた。これにより、本発明に係る嚥下機能訓練具および嚥下機能訓練方法が嚥下機能の回復に大変効果的であることがわかった。
本発明の嚥下機能訓練具は、上記の実施形態に限らず、例えば、基部は、後方に横断面が広がる中空筒状であれば、公知の形状を適宜に用いることができる。また、口腔内挿入部は、横断面の上縁、及び下縁が凸湾曲線をなしていればよく、横断面が楕円のものに限らず、円形であってもよいし、上面と下面を非対称とする等、公知の形状を適宜に採用できる。また、嚥下機能訓練具の飲料容器との連結は、フランジ部と袋ナット状のキャップに限らず、他の公知の方式により連結することができる。
嚥下機能訓練具100,200,300
嚥下機能訓練キット1000
飲料容器4,304
送出孔11
口腔内挿入部10,210,310
上面10a,210a,310a
下面10b,210b,310b
基部20
くびれ部30
飲料容器本体40
ハンドル41
蓋板部42
雄ねじ部43
キャップ50
雌ねじ部51

Claims (8)

  1. 軟質樹脂からなり、飲料容器の吸い口からなる嚥下機能訓練具であって、
    前端が前方へ湾出する凸湾曲面により塞がれた有蓋筒状をなすとともに前端に飲料を送出する送出孔を有して被訓練者の口蓋窩の奥まで収容可能な口腔内挿入部と、
    前記口腔内挿入部の後端に連続するとともに後方に向かって横断面が徐々に拡がる筒状に設けられる基部とを備え、
    前記口腔内挿入部は、厚みが最小となる方向を上下方向として、上面、及び下面の横断面が凸湾曲線をなしており、
    前記口腔内挿入部は、前後方向、及び上下方向に垂直な方向の幅が前端から後方に向けて初めて27mm以上となる部分より前端側の部分からなるとともに、前後方向の長さが40mm以上であることを特徴とする嚥下機能訓練具。
  2. 前記口腔内挿入部は、前端から10mm以上40mm以下の領域の全域に亘って前記幅が10mm以上27mm未満であることを特徴とする請求項1に記載の嚥下機能訓練具。
  3. 前記口腔内挿入部は、前後方向の長さが60mm以下である請求項1、又は請求項2に記載の嚥下機能訓練具。
  4. 前記口腔内挿入部は、上下方向の厚みが、幅より小さい請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の嚥下機能訓練具。
  5. 前記口腔内挿入部は、前端から10mm以上40mm以下の領域の全域に亘って厚みが5mm以上20mm以下である請求項4に記載の嚥下機能訓練具。
  6. 軟質樹脂からなり、飲料容器の吸い口からなる嚥下機能訓練具であって、
    前端が前方へ湾出する凸湾曲面により塞がれた有蓋筒状をなすとともに前端に飲料を送出する送出孔を有して少なくとも前端側の一部が被訓練者の口蓋窩に収容される口腔内挿入部と、
    前記口腔内挿入部の後端に連続するとともに後方に向かって横断面が徐々に拡がる筒状に設けられる基部とを備え、
    前記口腔内挿入部は、厚みが最小となる方向を上下方向として、上面、及び下面の横断面が凸湾曲線をなし、
    前記口腔内挿入部の先端部の側面視断面における上面側の曲率が下面側の曲率より大きく、
    前記送出孔の位置が、下面側に偏っていることを特徴とする嚥下機能訓練具。
  7. 前記口腔内挿入部の前記基部との境界側における上面側と下面側に幅方向に延びる凹部からなるくびれ部を備える請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の嚥下機能訓練具。
  8. 軟質樹脂からなり、飲料容器の吸い口からなる嚥下機能訓練具と、
    飲料を貯留するための飲料容器と
    を備え、
    前記嚥下機能訓練具は、前端が前方へ湾出する凸湾曲面により塞がれた有蓋筒状をなすとともに前端に飲料を送出する送出孔を有して少なくとも前端側の一部が被訓練者の口蓋窩に収容される口腔内挿入部と、前記口腔内挿入部の後端に連続するとともに後方に向かって横断面が徐々に拡がる筒状に設けられる基部とを有し、
    前記口腔内挿入部は、厚みが最小となる方向を上下方向として、上面、及び下面の横断面が凸湾曲線をなしており、
    前記飲料容器は、飲料容器本体と、前記飲料容器本体を前記嚥下機能訓練具に連結する袋ナット状のキャップとを有し、
    前記飲料容器本体は、円板状の蓋板部、前記蓋板部から前方へ延出する扁平円筒状の雄ねじ部、及び前記蓋板部から後方へ延出する筒状のハンドルとを含み、
    前記キャップは、前記雄ねじ部に螺合する扁平円筒状の雌ねじ部を含み、
    前記蓋板部を前記嚥下機能訓練具の後端縁に当接した状態で前記キャップを前記飲料容器本体に螺合して前記飲料容器を前記嚥下機能訓練具に連結する嚥下機能訓練キット。
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