以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
本発明は、基本的な原理として、基材上に付与された機能性材料を含む液体を乾燥させる際に、液体に含まれる機能性材料を液体の縁部に選択的に堆積させる現象を利用する。この現象は、コーヒーリング現象あるいはコーヒーステイン現象とも称される。本発明は、リング形状のパターンを形成するものに限定されないので、以下の説明では、この現象について、コーヒーステイン現象という場合がある。
図1は、かかる基本原理を説明する概略図である。
図1において、1は、基材であり、2は、機能性材料を含むライン状液体であり、3は、ライン状液体2の縁に機能性材料を選択的に堆積させることにより形成される塗膜である。また、Hは基材1上に液体を付与するための付与手段であり、ここでは、液滴吐出装置により構成されている。液滴吐出装置Hは、例えば、インクジェット記録装置が備えるインクジェットヘッドにより構成することができる。
図1(a)に示すように、液滴吐出装置Hと基材1とを相対的に走査させながら、液滴吐出装置Hから機能性材料を含む液体を吐出し、順次吐出された複数の液滴が基材上で合一することで機能性材料を含むライン状液体2を形成する。
そして、図1(b)に示すように、ライン状液体2を蒸発させ、乾燥させる際に、コーヒーステイン現象を利用して、ライン状液体2の縁に機能性材料を選択的に堆積させる。
コーヒーステイン現象は、ライン状液体2を乾燥させる際の条件設定により生起させることができる。
即ち、基材1上に配置されたライン状液体2の乾燥は中央部と比べ縁において速く、乾燥の進行と共に固形分濃度が飽和濃度に達し、ライン状液体2の縁に固形分の局所的な析出が起こる。この析出した固形分によりライン状液体2の縁が固定化された状態となり、それ以降の乾燥に伴うライン状液体2の幅方向の収縮が抑制される。この効果により、ライン状液体2の液体は、縁で蒸発により失った分の液体を補う様に中央部から縁に向かう対流を形成する。この対流は、乾燥に伴うライン状液体2の接触線の固定化とライン状液体2中央部と縁の蒸発量の差に起因するため、固形分濃度、ライン状液体2と基材1の接触角、ライン状液体2の量、基材1の加熱温度、ライン状液体2の配置密度、または温度、湿度、気圧の環境因子に応じて変化し、これらを調整することにより制御することができる。
その結果、図1(c)に示すように、基材1上に、機能性材料を含む細線からなる塗膜3が形成される。1本のライン状液体2から形成された塗膜3は、1組2本の細線31、32により構成されている。
本発明では、上記のようにコーヒーステイン現象を利用して塗膜形成するに際して、基材1として、機能性材料を含む液体(上記の例ではライン状液体2)に対する接触角の異なる領域を複数有する基材を用いる。なお、以下の説明では、機能性材料を含む液体に対する接触角のことを、単に接触角という場合がある。
図2は、本発明の塗膜形成方法を概念的に説明する平面図であり、図2(a)は、接触角が一様な基材を用いた場合(比較)の例を、図2(b)は、接触角が異なる領域を複数有する基材を用いた場合(本発明)の例を、それぞれ示している。
図2(a)に示されるように、接触角が一様にθAである基材101を用いた場合は、ライン状液体102は、基材101上に一様に濡れ広がり、その状態で乾燥される。その結果、ライン状液体102の縁部に生成される細線131、132は、ライン状液体102の縁部の直線状の輪郭に対応して、直線状に形成される。その結果、塗膜103を構成する細線131、132は直線状になる。
これに対して、図2(b)に示されるように、接触角が異なる領域(ここでは領域11及び12)を複数有する基材1を用いた場合は、これら接触角の異なる領域11及び12に跨るようにライン状液体2を付与することで、ライン状液体2は、領域11及び12上における濡れ性の違いに起因して、縁部の輪郭が波線状になる。その結果、ライン状液体2の縁部に生成される細線31、32は、ライン状液体2の縁部の波線状の輪郭に対応して、波線状に形成される。このようにして、塗膜3を構成する細線31、32を波線状とすることができる。
具体的には、図2(b)の例では、接触角が異なる領域11、12が、ライン状液体2の長手方向に交互に配置されている。ここで、領域11のライン状液体2に対する接触角θAと、領域12のライン状液体2に対する接触角θBとは、θA>θBの関係にある。
そのため、ライン状液体2のうち、領域11上の部分は、濡れ性が低く、基材1上に濡れ広がり難い。一方、ライン状液体2のうち、領域12上の部分は、濡れ性が高く、基材1上に濡れ広がり易い。
その結果、線幅が狭い部分(即ち領域11上の部分)と、広い部分(即ち領域12上の部分)とが、ライン状液体2の長手方向に交互に現れる。
このように変形されたライン状液体2の縁部に、乾燥の進行により、機能性材料が選択的に堆積されることによって、波線状の細線31、32が形成される。
図2(b)に示したように、波線状の細線31は、その両端が、他の波線状の細線32の両端とそれぞれ接続され、連続体として形成されることも好ましいことである。
図2(a)で得られるような直線状の細線と、図2(b)で得られるような波線状の細線とを対比した場合、波線状の細線の方が、低視認性を向上する点で有利である。
即ち、直線状の細線は、細線が設けられている部分と、設けられていない部分とが、明確に区別されるため、全体として、見た目上のコントラストが強くなる場合がある。つまり、細線部からの反射光が直線に沿って密集した状態となることで、ぎらつきが生じ易くなる場合があり、特に反射光の多い明るい環境下においては、細線の低視認性を向上する観点で、更なる改善の余地がある。
これに対して、波線状の細線は、細線が設けられている部分と、設けられていない部分とが、波状に入り乱れた状態となるため、全体として見た目上のコントラストが弱い。つまり、本発明によれば、上述した接触角の作用により、基材上において液体の輪郭が変形されるため、得られる細線における波線状の度合いを増すことができる。そのため、細線部の分布が広がり、該細線部からの反射光も広く分布した状態となり、ぎらつきが軽減され、特に反射光の多い明るい環境下においても、細線が視認されにくくなり、低視認性の更なる向上を図ることができる。
これまで、透明電極においては、主に物理的な透明性(即ち光透過率)の向上が試みられてきた。そして、単純に光透過率のみを考慮した場合は、細線部の形成面積が増大する波線状よりも、直線状の方が有利な場合がある。
しかるに、例えば画像表示装置などに用いられる透明電極としての用途においては、例えば、利用者は、当該塗膜が形成された基材(透明電極)を介して画像を見ることになる。このような場合、単純な光透過率のみでなく、利用者にとって、塗膜を構成する細線が視認できないことも重要になる。
本発明では、まず、上述したコーヒーステイン現象を利用することにより、細線自体を十分に細くすることができる。従って、光透過率は十分に向上でき、利用者は十分な明るさで画像を見ることができる。このとき、上述した接触角の作用により細線を波線状とすることによって、実用上問題のない光透過率を保持しながら、塗膜を構成する細線を十分に視認できないものとすることができる。
また、プロセスの面でも、基本的に、コーヒーステイン現象を生起させるための乾燥条件の設定や、基板の接触角の設定によって、容易に実施することができる。
基材上において、機能性材料を含む液体に対する接触角の異なる複数の領域は、各領域の接触角が10°以上45°以下の範囲であることが好ましい。接触角が、この範囲内であれば、コーヒーステイン現象をより好適に生起させることができ、低視認性を更に向上できる。
また、これら複数の領域の中から、接触角の差が最小となるように領域を選択した場合に、接触角の差が5°以上20°以下であることが好ましい。
接触角の差が5°以上であることにより、液体の濡れ性に十分な差が生じ、細線がより波線化され易くなる。
また、接触角の差が20°以下であることにより、接触角の高い領域(濡れ性が低い領域)側から、接触角の低い領域(濡れ性が高い領域)側への液体の流動をある程度抑制して、得られる細線に断線を生じることをより確実に防止できる。用途により断線が問題にならない場合もあるが、特に、機能性材料として導電性材料を用い、導電性細線を形成する場合は、断線をより確実に防止できることの意義が大きい。なお、後述する移動集積法を用いる場合などにおいては、接触角の大きさによらず、好適に断線を防止できる。
基材上に接触角の異なる領域を形成する方法は、格別限定されず、例えば基材に対して表面処理を施すことにより、適宜、所定の接触角を付与することができる。
このような表面処理は、例えば、フォトリソグラフィ、レーザーアブレーション、マスク処理による紫外線照射法、プラズマ処理、酸化ガス処理等により行うことができる。特に好ましい方法として、基材上に、接触角の異なる領域を、塗布方式により形成する方法を挙げることができる。
例えば接触角が一様である基材を用意し、接触角を変更したい領域に対して選択的に、表面処理剤を含む液体を塗布する。このようにして、表面処理剤により表面処理された領域に、他の領域とは異なる接触角を付与することができる。
表面処理剤は、接触角を変更できるものであれば、格別限定されず、接触角を低下させるものでも、上昇させるものでも用いることができる。また、接触角を変更する機構も格別限定されず、例えば、基材の表面を変化させて接触角を変更するものや、基材の表面に残留して接触角を変更するものなどを用いることができる。表面処理剤は、用いる基材の材質などに合わせて適宜選択することができる。具体的な表面処理剤としては、例えば、シリコン系化合物、アクリル系化合物、フッ素含有化合物等を好ましく用いることができる。
表面処理剤の塗布方法は、格別限定されず、例えば、種々の印刷法を用いることができ、特にインクジェット法が好適である。
また、後に詳述するが、機能性材料を含む液体の塗布により、基材上に接触角の異なる領域を形成することも好ましいことである。例えば、機能性材料を含む液体に表面処理剤を添加する、または機能性材料を含む液体の塗膜乾燥部に対して、接触角が変化する溶剤等を添加する。このようにして、機能性材料を含む液体の塗布により、基材上に接触角の異なる領域を形成することができる。
次に、実施態様の例を挙げて、本発明について更に詳しく説明する。
図3は、本発明の塗膜形成方法の第1態様を説明する平面図である。
まず、図3(a)に示すように、接触角の異なる領域11及び12を有する基材1を用意する。
各領域11及び12は、基材1上に、図中縦方向に長い帯状に形成されており、図中横方向に交互に所定のピッチで配列されている。即ち、接触角の異なる領域11及び12は、図中縦方向にストライプ状に形成されている。
次に、図3(b)に示すように、基材1上に、機能性材料を含むライン状液体2を形成する。この例では、上述したように、液滴吐出装置(ここでは不図示)から機能性材料を含む液体を吐出し、順次吐出された液滴が基材上で合一することでライン状液体2を形成している。
図示の例では、液滴吐出装置を図中横方向に走査しながらライン状液体2を形成している。従って、ライン状液体2は、その形成方向(長手方向)が図中横方向に配向されるように形成されている。
ライン状液体2は、その形成方向において、接触角の異なる領域11及び12の複数に跨って形成されている。
接触角の異なる領域11及び12が形成する縦方向のストライプに対して、ライン状液体の形成方向が交差するように設けられている。
接触角の異なる領域11及び12が形成するストライプと、ライン状液体の形成方向とが交差する角度αは、図示の例では、略90°とされている。本明細書において、略90°とは、80°〜100°を指し、好ましくは、85°〜95°を指す。
ライン状液体2は、図示の状態から、基材1の濡れ性に応じて濡れ広がり、変形される。即ち、ライン状液体2のうち、領域11上の部分は、濡れ性が低く、基材1上に濡れ広がり難い。一方、ライン状液体2のうち、領域12上の部分は、濡れ性が高く、基材1上に濡れ広がり易い。
その結果、線幅が狭い部分(即ち領域11上の部分)と、広い部分(即ち領域12上の部分)とが、ライン状液体2の長手方向に交互に現れ、このように変形されたライン状液体2の縁部に、乾燥の進行により、機能性材料が選択的に堆積されることによって、図3(c)に示すように、波線状の細線31、32が形成される。
このようにして、波線状の細線31、32が一方向に並列されたストライプ状の塗膜3が得られる。
この例では、一本のライン状液体2から形成される一対の波線状の細線31、32は互いに位相が逆となっている。即ち、これら細線31、32の間には、互いに近接する部位と、互いに離隔する部位とが、長手方向に交互に現れている。
更に、この例においては、一本のライン状液体2から形成される一対の波線状の細線31、32の位相は、該一本のライン状液体2と隣り合う一本のライン状液体2から形成される細線31、32の位相と同じである。
図4は、本発明の塗膜形成方法の第2態様を説明する平面図である。
まず、図4(a)に示すように、接触角の異なる領域11及び12を有する基材1を用意する。
領域11及び12は、基材1上に、図中縦方向及び横方向に沿って互いに千鳥状に所定のピッチで配置されている。
次に、図4(b)に示すように、基材1上に、機能性材料を含むライン状液体2を、その形成方向(長手方向)が図中横方向に配向されるように形成する。
ライン状液体2は、その形成方向において、接触角の異なる領域11及び12の複数に跨って形成されている。
ライン状液体2は、領域11及び12の千鳥状の配置における図中横方向の各列に沿うように、複数形成されている。
ライン状液体2は、図示の状態から、基材1の濡れ性に応じて濡れ広がり、変形される。即ち、ライン状液体2のうち、領域11上の部分は、濡れ性が低く、基材1上に濡れ広がり難い。一方、ライン状液体2のうち、領域12上の部分は、濡れ性が高く、基材1上に濡れ広がり易い。
その結果、線幅が狭い部分(即ち領域11上の部分)と、広い部分(即ち領域12上の部分)とが、ライン状液体2の長手方向に交互に現れ、このように変形されたライン状液体2の縁部に、乾燥の進行により、機能性材料が選択的に堆積されることによって、図4(c)に示すように、波線状の細線31、32が形成される。
このようにして、波線状の細線31、32が一方向に並列されたストライプ状の塗膜3が得られる。
この例においても、一本のライン状液体2から形成される一対の波線状の細線31、32は互いに位相が逆となっている。即ち、これら細線31、32の間には、互いに近接する部位と、互いに離隔する部位とが、長手方向に交互に現れている。
更に、この例においては、一本のライン状液体2から形成される一対の波線状の細線31、32の位相は、該一本のライン状液体2と隣り合う一本のライン状液体2から形成される細線31、32の位相と逆である。
図5は、本発明の塗膜形成方法の第3態様を説明する平面図である。
第3態様において、基材1の用意(図5(a))、ライン状液体2の付与(図5(b))、波線状の細線31、32の形成(図5(c))までの工程については、上述した第1態様での説明を援用することができる。
第3態様では、図5(c)に示される図中横方向の波線状の細線31、32が形成された基材1上に、更なるライン状液体2を付与する。
即ち、図5(d)に示すように、図中横方向の波線状の細線31、32と交差するように、図中縦方向に、ライン状液体2を付与する。
図示の例では、領域11の形成方向(長手方向)に沿って、領域11上にライン状液体2を形成している。
図示の例では、基材1上において、領域11のライン状液体2に対する接触角θAと、細線31、32が形成された領域のライン状液体2に対する接触角θCは、互いに異なっている。このような接触角差は、細線31、32の組成などの調節により適宜設定することができる。ここでは、これら接触角は、θA>θCの関係にある。
ライン状液体2は、図示の状態から、基材1の濡れ性に応じて濡れ広がり、変形される。即ち、ライン状液体2のうち、領域11上の部分は、濡れ性が低く、基材1上に濡れ広がり難い。一方、ライン状液体2のうち、細線31、32の形成領域上の部分は、濡れ性が高く、基材1上に濡れ広がり易い。
その結果、線幅が狭い部分(即ち領域11上の部分)と、広い部分(即ち細線31、32の形成領域上の部分)とが、ライン状液体2の長手方向に交互に現れ、このように変形されたライン状液体2の縁部に、乾燥の進行により、機能性材料が選択的に堆積されることによって、図5(e)に示すように、更なる波線状の細線31、32が、図中縦方向に形成される。
このようにして、波線状の細線31、32が縦方向及び横方向に交差する格子状の塗膜3が得られる。
上記の例のように、接触角の異なる領域の少なくとも一つを、機能性材料を含む液体の塗布により形成することも、好ましいことである。この例では、図5(b)におけるライン状液体2の塗布により、後に図5(d)で塗布されるライン状液体2に対する接触角の異なる領域を形成している。
この例では、領域11のライン状液体2に対する接触角θAと、細線31、32が形成された領域のライン状液体2に対する接触角θCを、θA>θCの関係にする場合について説明したが、これに限定されるものではなく、θA<θCの関係にすることも好ましいことである。
図6は、本発明の塗膜形成方法の第4態様を説明する平面図である。
まず、図6(a)に示すように、接触角の異なる領域11及び12を有する基材1を用意する。
この例では、帯状の領域12が、図中縦方向及び横方向に所定のピッチで複数配置され、全体として格子状に形成されている。一方、領域11は、領域12による格子に取り囲まれて、縦方向及び横方向に島状に複数形成されている。
次に、図6(b)に示すように、基材1上に、機能性材料を含むライン状液体2を、その形成方向(長手方向)が図中横方向に配向されるように形成する。
ライン状液体2は、その形成方向において、接触角の異なる領域11及び12の複数に跨って形成されている。
ライン状液体2は、領域11の図中横方向の各列に沿うように、複数形成されている。
ライン状液体2は、図示の状態から、基材1の濡れ性に応じて濡れ広がり、変形される。即ち、ライン状液体2のうち、領域11上の部分は、濡れ性が低く、基材1上に濡れ広がり難い。一方、ライン状液体2のうち、領域12上の部分は、濡れ性が高く、基材1上に濡れ広がり易い。
その結果、線幅が狭い部分(即ち領域11上の部分)と、広い部分(即ち領域12上の部分)とが、ライン状液体2の長手方向に交互に現れ、このように変形されたライン状液体2の縁部に、乾燥の進行により、機能性材料が選択的に堆積されることによって、図6(c)に示すように、波線状の細線31、32が形成される。
次に、図6(d)に示すように、図中横方向の波線状の細線31、32が形成された基材1上に、該細線31、32と交差するように、図中縦方向に、更なるライン状液体2を付与する。
図示の例では、領域11の図中縦方向の各列に沿って、領域11及び領域12に跨るようにライン状液体2を形成している。
ライン状液体2は、図示の状態から、基材1の濡れ性に応じて濡れ広がり、変形される。即ち、ライン状液体2のうち、領域11上の部分は、濡れ性が低く、基材1上に濡れ広がり難い。一方、ライン状液体2のうち、細線31、32の形成領域上の部分は、濡れ性が高く、基材1上に濡れ広がり易い。
その結果、線幅が狭い部分(即ち領域11上の部分)と、広い部分(即ち細線31、32の形成領域上の部分)とが、ライン状液体2の長手方向に交互に現れ、このように変形されたライン状液体2の縁部に、乾燥の進行により、機能性材料が選択的に堆積されることによって、図6(e)に示すように、更なる波線状の細線31、32が、図中縦方向に形成される。
このようにして、波線状の細線31、32が縦方向及び横方向に交差する格子状の塗膜3が得られる。
以上の説明では、いくつかの態様において、接触角の異なる領域をストライプ状に設けておき、ライン状液体の形成方向(長手方向)が、かかるストライプに対して略90°で交差するようにした場合について示したが、これに限定されるものではなく、所定の角度で交差させることができ、例えば、傾斜した状態で交差させることも好ましいことである。
図7は、接触角の異なる領域の形成方向に対してライン状液体の形成方向を傾斜させる態様を説明する図である。
まず、図7(a)に示すように、接触角の異なる複数の領域11、12が交互にストライプ状に配置された基板1を用意する。各領域11、12の長手方向は、図中縦方向から傾斜している。
次に、図7(b)に示すように、ライン状液体2を図中横方向に形成する。即ち、ライン状液体2の形成方向(長手方向)は、領域11、12が形成するストライプに対して傾斜角βで傾斜している。傾斜角βは、格別限定されないが、0°<β<80°の範囲であることが好ましい。なお、傾斜角βは、ライン状液体2の形成方向と、領域11、12のストライプの方向とが交差する箇所に現れる角のうち鋭角側の角の角度である。
ライン状液体2は、その形成方向において、接触角の異なる領域11及び12の複数に跨って形成されている。
ライン状液体2は、図示の状態から、基材1の濡れ性に応じて濡れ広がり、変形され、変形されたライン状液体2の縁部に、乾燥の進行により、機能性材料が選択的に堆積されることによって、図7(c)に示すように、波線状の細線31、32が形成される。
形成された波線状の細線31、32には、接触角の異なる領域11、12の形成方向に対するライン状液体2の形成方向の傾斜角βや、ライン状液体2の線幅、複数のライン状液体の付与間隔などの設定に応じて、任意の位相差を設けたり、位相を同じにしたりすることができる。
即ち、上述した図3の例では、一本のライン状液体2から形成される一対の波線状の細線31、32は互いに位相が逆となる場合を示したが、図7の例では、一本のライン状液体2から形成される一対の波線状の細線31、32は互いに位相が同じである。
更に、図7の例においては、一本のライン状液体2から形成される一対の波線状の細線31、32の位相は、該一本のライン状液体2と隣り合う一本のライン状液体2から形成される細線31、32の位相と同じである。
その結果、図7の例のように、位相が同じである波線状の細線31、32を複数配列してなる塗膜3を得ることができる。
このように、ストライプ状に形成された接触角の異なる領域の形成方向に対してライン状液体の形成方向を傾斜させる場合は、その傾斜角βや、ライン状液体2の線幅、複数のライン状液体の付与間隔などの設定により、細線31、32間の位相を容易に調整できるようになる。具体的には、一本のライン状液体2から形成される一対の波線状の細線31、32間の位相を調整することもできるし、一本のライン状液体2から形成される一対の波線状の細線31、32と、該一本のライン状液体2と隣り合う一本のライン状液体2から形成される細線31、32との間の位相も調整することもできる。
接触角の異なる領域11及び12の形成パターンは上記の例に限定されず、任意の形成パターンとすることができる。
例えば、図8に示すように、基材1上を主に領域11で構成し、ライン状液体2を変形させたい箇所に選択的に領域12が設けられることも好ましいことである。
図8(a)の例では、基材1上を主に領域11で構成し、ライン状液体2を濡れ広がらせたい箇所に選択的に領域12を設けている。ここでは、図中縦方向及び横方向に所定のピッチで領域12を設けており、ライン状液体2(ここでは不図示)を横方向の列に沿って付与することで、図3に示した例と同様にして、塗膜3を形成している。
図8(b)は、図8(a)における領域12の形成パターンを、千鳥状にした例を示しており、ライン状液体2(ここでは不図示)を横方向の列に沿って付与することで、図4に示した例と同様にして、塗膜3を形成している。
図8の例では、領域12を円形状に形成する場合について示したが、これに限定されず、任意の形状とすることができる。
また、基材1上を主に領域12で構成し、ライン状液体2の濡れ広がりを抑えたい箇所に選択的に領域11を設けることも好ましいことである。
以上の説明では、基材上に付与される機能性材料を含む液体の形状として、主にライン状液体の場合について示したが、これに限定されず、任意の形状であってよい。何れの形状であっても、基材上に付与された該液体が、上述した接触角の異なる複数の領域に跨った状態で、コーヒーステイン現象を利用した乾燥に供されればよい。これにより、該複数の領域に跨った該液体の縁部が、濡れ性の相違により変形され、該縁部が好適に波線化された状態で、該縁部に機能性材料を選択的に堆積させて塗膜を得ることができる。
以上の説明では、基材上に機能性材料を含む液体を付与するための具体的な方法として、主に液滴吐出装置を用いる方法について示したが、これに限定されず、基材上に機能性材料を含む液体を付与できれば、何れの方法を用いてもよい。
好ましい態様として、印刷法を好ましく例示できる。印刷法は、有版印刷、無版印刷の何れであってもよく、特に好ましいのは無版印刷である。
無版印刷の例としては、例えば、機能性材料を含む液体を液滴として吐出し、基材に付与するように構成された液滴吐出装置を用いる方法を好ましく例示することができる。
液滴吐出装置は、例えば、インクジェット記録装置が備えるインクジェットヘッドにより構成することができる。インクジェットヘッドの液滴吐出機構は、サーマル方式、ピエゾ方式、コンティニュアス方式等を好ましく例示できる。
インクジェット法によりインクジェットヘッドの1ノズルから1回の液滴吐出で吐出される液滴量は、格別限定されないが、好ましくは1pl〜200plの範囲、より好ましくは1pl〜100plの範囲である。
更に、基材上に機能性材料を含む液体を付与する方法として、移動集積法を用いることも好ましいことである。
図9は、移動集積法を用いた塗膜形成の基本構成を説明する図である。
まず、図9(a)に示すように、機能性材料を含む液体2が入った槽Bを用意し、該槽B内の液体2に基材1を浸漬させた後、基材1を徐々に引き上げる。
図9(b)は、図9(a)に示す基板1を側面から見た概略図である。
液体2の液面は、図9(b)に示すように、表面張力により基材1の表面に立ち上がって、立ち上がり部21を形成する。
立ち上がり部21の縁部を乾燥させる際に、上述したコーヒーステイン現象を生起させて、該縁部に機能性材料を選択的に堆積させる。その結果、縁部に沿うように、細線33が形成される。
基材1を徐々に引き上げる際に、機能性材料の選択的な堆積が繰り返し生じることで、引き上げ方向に沿って細線33が複数配置された塗膜3が形成される。
図10は、移動集積法を用いた塗膜形成方法の一例を説明する平面図であり、図10(a)は、接触角が一様な基材を用いた場合(比較)の例を、図10(b)は、接触角が異なる領域を複数有する基材を用いた場合(本発明)の例を、それぞれ示している。
図10(a)に示されるように、接触角が一様にθAである基材101を用いた場合、液体102の立ち上がりは、その縁部が基材101上において直線状となり、その状態で乾燥される。その結果、液体102の縁部に生成される各細線133は、液体102の縁部の直線状の輪郭に対応して、直線状に形成される。その結果、塗膜103を構成する細線133は直線状になる。
これに対して、図10(b)に示されるように、接触角が異なる領域(ここでは領域11及び12)を複数有する基材1を用い、これら接触角の異なる領域11及び12に跨るように液体2の液面を配置した場合は、液体2は、領域11及び12上における濡れ性の違いに起因して、立ち上がりの高さに差を生じ、縁部の輪郭が波線状になる。その結果、液体2の縁部に生成される細線33は、液体2の縁部の波線状の輪郭に対応して、波線状に形成される。このようにして、塗膜3を構成する細線33を波線状とすることができる。
具体的には、図10(b)の例では、接触角が異なる領域11、12が、液体2の液面方向(図中横方向)に交互に配置されている。ここでも、領域11の液体2に対する接触角θAと、領域12の液体2に対する接触角θBとは、θA>θBの関係にある。
そのため、液体2の液面のうち、領域11と接触する部分は、濡れ性が低く、基材1上に立ち上がり難い。一方、液体2のうち、領域12と接触する部分は、濡れ性が高く、基材1上に立ち上がり易い。
その結果、立ち上がり幅が小さい部分(即ち領域11上の部分)と、大きい部分(即ち領域12上の部分)とが、液体2の液面方向に交互に現れる。
このように変形された液体2の縁部に、乾燥の進行により、機能性材料が選択的に堆積されることによって、波線状の細線33が形成される。このような乾燥と共に、基材1を液面から引き上げていくことによって、基材1上に複数の波線状の細線33が形成される。
この例において、基材1上に形成される複数の波線状の細線33は互いに位相が同じとなっている。
図10の例では、接触角の異なる領域をストライプ状に設けておき、液体2の液面が、かかるストライプに対して90°で交差するようにした場合について示したが、これに限定されるものではなく、所定の角度で交差させることができ、例えば、傾斜した状態で交差させることも好ましいことである。
図11は、移動集積法を用いた塗膜形成方法の他の例を説明する平面図である。
図示するように、基板1には、接触角の異なる複数の領域11、12が交互にストライプ状に配置され、各領域11、12の長手方向は、図中縦方向、即ち液面方向から傾斜角βで傾斜するように配置される。このような状態で、機能性材料を選択的に縁部に堆積させる乾燥と共に、基材1を液面から引き上げていくことによって、基材1上に複数の波線状の細線33が形成される。
この例において、基材1上に形成される複数の波線状の細線33は互いに位相が逆となっている。
このように、移動集積法を用いた態様においても、ストライプ状に形成された接触角の異なる領域の形成方向に対して液面を傾斜させる場合は、その傾斜角βや、細線33の形成間隔などの設定により、複数の細線33間の位相を容易に調整できるようになる。
移動集積法において、基材1の一面のみに塗膜3を形成してもよいが、両面に塗膜3を形成してもよい。基材1の一面のみに塗膜3を形成する場合は、例えば、該面の表面エネルギーを、コーヒーステイン現象が生起される範囲に調整し、他面の表面エネルギーを、コーヒーステイン現象が生起されにくい範囲に調整する等の方法を用いることができる。両面に塗膜3を形成する場合は、両面の表面エネルギーを、コーヒーステイン現象が生起される範囲に調整する等の方法を用いることができる。また、両面に塗膜3を形成した後、何れかの面に形成された塗膜3を除去する工程を設けてもよい。
以上の説明では、領域11のライン状液体2に対する接触角θAと、領域12のライン状液体2に対する接触角θBとが、θA>θBの関係にある場合について示したが、これに限定されず、θA<θBであってもよい。また、接触角が互いに異なる3以上の領域を有することも好ましいことである。
塗膜を構成する波線状の細線の寸法は、格別限定されるものではないが、線幅が10μm以下であることが好ましく、また、基材1表面からの厚みが50nm以上5μm以下の範囲であることが好ましい。また、機能性材料を含む液体が付与された領域のうち細線部以外の領域には、該液体の縁部に運ばれずに残留した機能性材料が僅かに存在してもよいが、その厚みは10nm以下であることが好ましい。
基材は、格別限定されないが、例えば、ガラス、プラスチック(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンポリプロピレン、アクリル、ポリエステル、ポリアミド等)、金属(銅、ニッケル、アルミ、鉄等や、あるいは合金)、セラミックなどを挙げることができ、これらは単独で用いてもよいし、貼り合せた状態で用いてもよい。中でも、プラスチックが好ましく、ポリエチレンテレフタレートや、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィンなどが好適である。
本発明において、機能性材料は、格別限定されるものではないが、例えば、半導体材料、誘電性材料、絶縁性材料、光電変換材料、光学材料などを好ましく例示できる。また、特に透明導電膜利用における機能性材料として、導電性微粒子、導電性ポリマーなどの導電性材料を好ましく例示できる。
導電性微粒子としては、格別限定されないが、Au、Pt、Ag、Cu、Ni、Cr、Rh、Pd、Zn、Co、Mo、Ru、W、Os、Ir、Fe、Mn、Ge、Sn、Ga、In等の微粒子を好ましく例示でき、中でも、Au、Ag、Cuのような金属微粒子を用いると、電気抵抗が低く、且つ腐食に強い回路パターンを形成することができるので、より好ましい。コスト及び安定性の観点から、Agを含む金属微粒子が最も好ましい。これらの金属微粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜100nmの範囲、より好ましくは3〜50nmの範囲とされる。
また、導電性微粒子として、カーボン微粒子を用いることも好ましい。カーボン微粒子としては、グラファイト微粒子、カーボンナノチューブ、フラーレン等を好ましく例示できる。
導電性ポリマーとしては、格別限定されないが、π共役系導電性高分子を好ましく挙げることができる。
π共役系導電性高分子としては、特に限定されず、ポリチオフェン類、ポリピロール類、ポリインドール類、ポリカルバゾール類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、ポリフラン類、ポリパラフェニレン類、ポリパラフェニレンビニレン類、ポリパラフェニレンサルファイド類、ポリアズレン類、ポリイソチアナフテン類、ポリチアジル類等の鎖状導電性ポリマーを利用することができる。中でも、高い導電性が得られる点で、ポリチオフェン類やポリアニリン類が好ましい。ポリエチレンジオキシチオフェンであることが最も好ましい。
導電性ポリマーは、より好ましくは、上述したπ共役系導電性高分子とポリアニオンとを含んで成ることである。こうした導電性ポリマーは、π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを、適切な酸化剤と酸化触媒と、ポリアニオンの存在下で化学酸化重合することによって容易に製造できる。
ポリアニオンは、置換若しくは未置換のポリアルキレン、置換若しくは未置換のポリアルケニレン、置換若しくは未置換のポリイミド、置換若しくは未置換のポリアミド、置換若しくは未置換のポリエステル及びこれらの共重合体であって、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるものである。
このポリアニオンは、π共役系導電性高分子を溶媒に可溶化させる可溶化高分子である。また、ポリアニオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性と耐熱性を向上させる。
ポリアニオンのアニオン基としては、π共役系導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であればよいが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシ基、スルホ基等が好ましい。さらに、官能基のπ共役系導電性高分子へのドープ効果の観点より、スルホ基、一置換硫酸エステル基、カルボキシ基がより好ましい。
ポリアニオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
また、化合物内にF(フッ素原子)を有するポリアニオンであってもよい。具体的には、パーフルオロスルホン酸基を含有するナフィオン(Dupont社製)、カルボン酸基を含有するパーフルオロ型ビニルエーテルからなるフレミオン(旭硝子社製)等を挙げることができる。
これらのうち、スルホン酸を有する化合物であると、インクジェット印刷方式を用いた際に液体射出安定性が特に良好であり、かつ高い導電性が得られることから、より好ましい。
さらに、これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸が好ましい。これらのポリアニオンは、導電性に優れるという効果を奏する。
ポリアニオンの重合度は、モノマー単位が10〜100000個の範囲であることが好ましく、溶媒溶解性及び導電性の点からは、50〜10000個の範囲がより好ましい。
導電性ポリマーは市販の材料も好ましく利用できる。例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる導電性ポリマー(PEDOT/PSSと略す)が、H.C.Starck社からCLEVIOSシリーズとして、Aldrich社からPEDOT−PASS483095、560598として、Nagase Chemtex社からDenatronシリーズとして市販されている。また、ポリアニリンが、日産化学社からORMECONシリーズとして市販されている。
また、特に透明導電膜利用における機能性材料として、導電性材料前駆体も好ましく用いることができ、例えば、有機金属錯体、無機金属塩、無電解メッキ触媒などを好ましく例示できる。
本発明において、機能性材料を含有させる液体としては、水や、有機溶剤等の1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
有機溶剤は、格別限定されないが、例えば、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1,2−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコールなどのアルコール類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類等を例示できる。
また、機能性材料を含有させる液体としては、本発明の効果を損なわない範囲で、界面活性剤など種々の添加剤を含んでもよい。
界面活性剤を用いることで、基材との接触角を調整して、上述したコーヒーステイン現象を好適に生起させることも好ましいことである。界面活性剤としては、格別限定されないが、シリコン系界面活性剤等を用いることができる。シリコン系界面活性剤とはジメチルポリシロキ酸の側鎖または末端をポリエーテル変性したものであり、例えば、信越化学工業製のKF−351A、KF−642やビッグケミー製のBYK347、BYK348などが市販されている。界面活性剤の添加量は、機能性材料を含有する液体の全量に対して、1重量%以下であることが好ましい。
本発明の透明導電膜付き基材は、以上に説明した塗膜形成方法により形成された導電性を有する塗膜を含む透明導電膜を基材表面に有してなる。
塗膜への導電性の付与は、例えば、機能性材料として導電性材料を用いることにより行うか、あるいは、機能性材料として導電性材料前駆体を用いて形成された塗膜に、後処理を施すことによって導電性を付与することによって行うことができる。
本発明の透明導電膜付き基材は、塗膜を構成する細線部の反射光が広く分布したパターン形状となり、ぎらつきが軽減され、明るい環境下でも視認されにくい、すなわち低視認性の向上を図ることができる。
透明導電膜付き基材の用途は、格別限定されず、種々の電子機器が備える種々のデバイスに用いることができる。
透明導電膜付き基材の好ましい用途は、本発明の効果を顕著に奏する観点で、例えば、液晶・プラズマ・有機エレクトロルミネッセンス・フィールドエミッション等、各種方式のディスプレイ用透明電極として、あるいは、タッチパネルや携帯電話、電子ペーパー、各種太陽電池、各種エレクトロルミネッセンス調光素子等に用いられる透明電極として好適に用いることができる。
より具体的には、透明導電膜付き基材は、デバイスの透明電極として好適に用いられる。デバイスとしては、格別限定されるものではないが、例えば、タッチパネルセンサー等を好ましく例示できる。また、これらデバイスを備えた電子機器としては、格別限定されるものではないが、例えばスマートフォン、タブレット端末等を好ましく例示できる。
特に、本発明の透明導電膜付き基材は、塗膜を構成する細線の低視認性に優れるため、利用者が、該基材を介して画像を目視するような用途において、際立った効果が奏される。
以上の説明において、一つの態様について説明された構成は、他の態様にも適宜組み合わせることができる。
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例により限定されない。
以下の実施例、比較例及び参考例では、基材に、機能性材料を含む液体に対する接触角が互いに異なる領域を形成するに際して、下記の表面処理を行った。
<表面処理>
PETからなる基材表面に、UV―オゾン表面処理装置を用いて下記UV―オゾン処理により表面処理を行った後、各実施例に記載されている領域Bのパターン部が打ち抜きされたシリコーンゴムシートを基材に重ね合わせ、再度、UV―オゾン表面処理装置を用いて表面処理を行い、機能性材料を含む液体に対する接触角が互いに異なる領域A及び領域Bを形成した。
(UV―オゾン処理)
UV―オゾン表面処理装置を用いて、基材塗布面を低圧水銀灯(UV波長254nm、185nm)で30mmの距離から照度2mW/cm2で照射し処理を行った。この時、チャンバー内に、2L/minの送風条件で大気を送った。領域A及び領域Bの機能性材料を含む液体に対する接触角は、処理時間を変えることで制御を行った。
(実施例1)
<基材の調製>
PETからなる基材の表面に、UV−オゾン表面処理装置により表面処理を施し、機能性材料を含む液体に対する接触角が互いに異なる帯状の領域A及び帯状の領域Bをストライプ状に形成した。
具体的には、図12(a)に示したようにストライプ状に形成した。ここで、領域Aの短手方向の幅は182μmであり、領域Bの短手方向の幅は100μmである。
各領域A、Bの接触角及び接触角差は、表1に示す通りである。
<塗膜の形成>
以下、実施例1での塗膜の形成は、基本的に、図10(b)により説明した方法に基づくものである。
槽内に表1に示す組成の液体(機能性材料を含む液体)を入れ、該液体中に調製された基材を浸漬しておき、この基材を30μm/sの速度で液面から垂直に引き上げた。その際、液面に対して、基材の領域A、Bが形成するストライプが90°となるように配置した状態で、基材を引き上げた。
この引き上げ過程で、表面張力により基材の表面に立ち上がった液体の縁部が順次乾燥され、その際、該縁部に固形分を堆積させることで、複数の細線が形成された。
このようにして、塗膜を表面に備えた基材を得た。
<評価方法>
1.パターン性状
(1)細線形状
光学顕微鏡観察により、塗膜を構成する細線について観察し、該細線の形状が波線状であるか又は直線状であるかを確認した。
(2)細線幅
細線幅(μm)は、光学顕微鏡観察により、塗膜を構成する1本の細線の幅を測定したものである。
2.透過率
透過率(全光線透過率)(%T)は、東京電色社製AUTOMATIC HAZEMETER(MODEL TC−HIIIDP)を用いて、全光線透過率を測定した値である。なお、パターン(透明導電膜)のない基材を用いて補正を行い、作成したパターン(透明導電膜)の全光線透過率として測定した値である。
3.低視認性
低視認性は、サンプルをライトテーブル上で50cm離れた位置から目視し、細線が視認できないほど低視認性に優れるとするものであり、具体的には、細線が視認できないものを「○」、細線が若干視認できるが実用上問題ないものを「△」、細線がはっきりと視認できるものを「×」と評価した。
4.塗膜の抵抗
細線をストライプ状に形成した実施例1〜7及び10、比較例1〜4、並びに参考例1〜4では、パターン形成後、ホットプレートで基材を加熱し(基材表面温度:120℃、1時間)、次いで、下記「(1)抵抗値(Ω)」の測定により、塗膜の抵抗を評価した。また、細線を格子状に形成した実施例8及び9では、下記「(2)シート抵抗(Ω/□)」の測定により、塗膜の抵抗を評価した。
(1)抵抗値(Ω)
抵抗値(Ω)の評価は、ストライプ状に形成された細線に対し、複数の細線を跨ぐように長さ5cmの取り出し電極を5cm間隔に配置し、三和電気計器株式会社製CD770を用いて測定した。
(2)シート抵抗(Ω/□)
導電性パターンを構成する導電性細線部のシート抵抗を4端子4探針法にて測定した。10点の測定を行って測定された平均値を、シート抵抗とした。
以上の評価結果を表1に示した。
(実施例2)
実施例1において、下記の方法で塗膜の形成を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、細線からなる塗膜を表面に備えた基材を得た。
<塗膜の形成>
以下、実施例2での塗膜の形成は、基本的に、図3により説明した方法に基づくものである。
調製された基材(図12(a)に示したように接触角の異なる領域A、Bがストライプ状に形成された基材)の表面に、インクジェットヘッド(コニカミノルタ社製「KM512L」;標準液滴量42pl)により、表1に示す組成の液体(機能性材料を含む液体)を、ノズル列方向間ピッチ282μm、走査方向間ピッチ45μmとなるように液滴として順次吐出し、基材上において走査方向に連続的に付与された液滴を合一させることで複数のライン状液体を形成した。その際、複数のライン状液体の形成方向(長さ方向)は、領域A、Bが形成するストライプに対して90°で交差するようにした。ホットプレートで基材を70℃で加熱し、これらライン状液体を乾燥させる過程で、縁部に固形分を堆積させることで、1本のライン状液体から1組2本の細線が形成された。
このようにして、塗膜を表面に備えた基材を得た。
実施例1と同様にして評価した結果を表1に示した。
(実施例3)
<基材の調製>
PETからなる基材の表面に、UV−オゾン表面処理装置により表面処理を施し、機能性材料を含む液体に対する接触角が互いに異なる帯状の領域A及び帯状の領域Bを千鳥状に形成した。
具体的には、図12(b)に示したように千鳥状に形成した。ここで、千鳥状に配置される領域Aの短手方向(図中縦方向)の幅は141μm、長手方向(図中横方向)の幅は182μmであり、領域Bの短手方向(図中横方向)の幅は100μm、長手方向(図中縦方向)の幅は141μmである。千鳥状に配置された領域Aは互いに連続している。
各領域A、Bの接触角及び接触角差は、表1に示す通りである。
<塗膜の形成>
以下、実施例3での塗膜の形成は、基本的に、図4により説明した方法に基づくものである。
調製された基材の表面に、インクジェットヘッド(コニカミノルタ社製「KM512L」;標準液滴量42pl)により、表1に示す組成の液体(機能性材料を含む液体)を、ノズル列方向間ピッチ282μm、走査方向間ピッチ45μmとなるように液滴として順次吐出し、基材上において走査方向に連続的に付与された液滴を合一させることで複数のライン状液体を形成した。その際、領域A及びBの千鳥状の配置における図中横方向の各列に沿うように、複数のライン状液体を形成した。ホットプレートで基材を70℃で加熱し、これらライン状液体を乾燥させる過程で、縁部に固形分を堆積させることで、1本のライン状液体から1組2本の細線が形成された。
このようにして、塗膜を表面に備えた基材を得た。
実施例1と同様にして評価した結果を表1に示した。
(実施例4〜7)
実施例2において、基材の領域A、Bの接触角及び接触角差を表1に示す値としたこと以外は、実施例2と同様にして、塗膜を表面に備えた基材を得た。
実施例1と同様にして評価した結果を表1に示した。
(実施例8)
実施例1において、下記の方法で塗膜の形成を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、塗膜を表面に備えた基材を得た。
<塗膜の形成>
以下、実施例8での塗膜の形成は、基本的に、図5により説明した方法に基づくものである。
調製された基材(図12(a)に示したように接触角の異なる領域A、Bがストライプ状に形成された基材)の表面に、インクジェットヘッド(コニカミノルタ社製「KM512L」;標準液滴量42pl)により、表2に示す組成の液体(機能性材料を含む液体)を、ノズル列方向間ピッチ282μm、走査方向間ピッチ45μmとなるように液滴として順次吐出し、基材上において走査方向に連続的に付与された液滴を合一させることで複数のライン状液体を形成した。その際、複数のライン状液体の形成方向(長さ方向)は、領域A、Bが形成するストライプに対して90°で交差するようにした。
これらライン状液体を乾燥させる過程で、縁部に固形分を堆積させることで、1本のライン状液体から1組2本の細線が形成された。
更に、基材をインクジェットヘッドの走査方向に対して90°回転させた後、領域Bの形成方向に沿って、更なるライン状液体を形成し、これらライン状液体を乾燥させる過程で、縁部に固形分を堆積させることで、1本のライン状液体から更なる1組2本の細線が形成された。
このようにして、塗膜を表面に備えた基材を得た。
実施例1と同様にして評価した結果を表2に示した。
(実施例9)
<基材の調製>
PETからなる基材の表面に、UV−オゾン表面処理装置により表面処理を施し、機能性材料を含む液体に対する接触角が互いに異なる領域A及び領域Bを、格子状に形成した。
具体的には、図12(c)に示したように格子状に形成した。ここで、線幅100μmの帯状の領域Bは、図中縦方向に282μmのピッチ、横方向に282μmのピッチで複数配置され、全体として格子状に形成されている。一方、領域Aは、領域Bによる格子に取り囲まれて、縦方向及び横方向に島状に複数形成されている。
各領域A、Bの接触角及び接触角差は、表1に示す通りである。
<塗膜の形成>
以下、実施例9での塗膜の形成は、基本的に、図6により説明した方法に基づくものである。
調製された基材の表面に、インクジェットヘッド(コニカミノルタ社製「KM512L」;標準液滴量42pl)により、表2に示す組成の液体(機能性材料を含む液体)を、ノズル列方向間ピッチ282μm、走査方向間ピッチ45μmとなるように液滴として順次吐出し、基材上において走査方向に連続的に付与された液滴を合一させることで複数のライン状液体を形成した。その際、領域Aの図中横方向の各列に沿うように、複数のライン状液体を形成した。
これらライン状液体を乾燥させる過程で、縁部に固形分を堆積させることで、1本のライン状液体から1組2本の細線が形成された。
更に、基材をインクジェットヘッドの走査方向に対して90°回転させた後、領域Aの図中縦方向の各列に沿うように、複数のライン状液体を形成し、これらライン状液体を乾燥させる過程で、縁部に固形分を堆積させることで、1本のライン状液体から更なる1組2本の細線が形成された。
このようにして、塗膜を表面に備えた基材を得た。
実施例1と同様にして評価した結果を表2に示した。
(比較例1)
実施例1において、基材として、機能性材料を含む液体に対する接触角が一様(接触角23.9°)である基材に、塗膜の形成を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、塗膜を表面に備えた基材を得た。
実施例1と同様にして評価した結果を表3に示した。
(比較例2〜4)
実施例2において、基材として、機能性材料を含む液体に対する接触角が表3に示す一様な値である基材に、塗膜の形成を行ったこと以外は、実施例2と同様にして、塗膜を表面に備えた基材を得た。
実施例1と同様にして評価した結果を表3に示した。
(参考例1〜4)
実施例2において、基材の領域A、Bの接触角及び接触角差を表4に示す値としたこと以外は、実施例2と同様にして、塗膜を表面に備えた基材を得た。
実施例1と同様にして評価した結果を表4に示した。
(実施例10)
実施例1において、基材の領域A、Bの接触角及び接触角差を表4に示す値としたこと以外は、実施例1と同様にして、塗膜を表面に備えた基材を得た。
実施例1と同様にして評価した結果を表4に示した。
上記表2中、「DEGBE」は、ジエチレングリコールモノブチルエーテルの略である。
4.評価
実施例1〜9では、得られる塗膜が低視認性に優れ、また、透過率や抵抗値にも優れることがわかる。
これに対して、比較例1及び2では、透過率や抵抗値の面では問題ないが、低視認性に劣ることがわかる。
参考例1及び2は、基材が、接触角の異なる領域A、Bを有しているが、領域Bの接触角が10°に満たない(参考例1)、あるいは、領域Aの接触角が45°を超える(参考例2)。そのため、コーヒーステイン現象が好適に発現せず、得られる細線の細線幅が比較的太いものとなっている。しかるに、液体の組成(例えば、溶剤や機能性材料の選択など)や、乾燥条件などを変更することで、これら接触角条件においてもコーヒーステイン現象を好適に発現させることは可能である。また、同じ細線幅で比較した場合、直線状の細線(比較例3、4)よりも、参考例1、2で得られた波線状の細線の方が、低視認性に優れる効果を奏する。
参考例3は、基材が、接触角の異なる領域A、Bを有しているが、領域A、Bの接触角の差が5°未満である。そのため、液体の濡れ性に十分な差を設けることが困難になり、得られる細線が実質的に直線状となっている。しかるに、接触角差を付与しない場合と比較すれば、微小ではあるが波線状とすることができる。特に、微細なパターンを形成する際においては、このような微小な波線状であっても、有効に用いられ得る。
参考例4は、基材が、接触角の異なる領域A、Bを有しているが、領域A、Bの接触角の差が20°を超えている。そのため、接触角の低い領域(濡れ性が高い領域)側への液体の流動が著しくなり、接触角の高い領域における液体が不在となり、得られる細線に断線が生じた。しかるに、液体の組成(例えば、粘度の設定など)や、基材の表面状態、乾燥条件などを変更することで、液体の流動を抑制して、断線の防止を図ることは可能である。更に、移動集積法においては、このような接触角差があっても、好適に断線を防止できる(実施例10)。また更に、導電膜以外の種々の用途においては、断線が問題にならない場合もあり、有効に用いられ得る。