以下、本発明の第一の実施の形態に係る電動工具を、図1乃至図8に基づき説明する。図1に示される電動工具である穿孔工具1は、被加工部材Wに穿孔するロータリーハンマドリルであり、ハウジング2は、ハンドル部21と、モータハウジング22と、ギヤハウジング23とを有する。以下においては、図1における左側(穿孔ビット1A側)を穿孔工具1の前端側として前後方向を定義し、前後方向と直交する方向であってハンドル部21がモータハウジング22から延出される方向を下側として上下方向を定義して説明する。ハウジング2の前後方向におけるハウジング2の長さ、即ち図1における左右方向における長さは30cm〜40cm程度である。
ハンドル部21及びモータハウジング22は一体成型されたプラスチック製であって、略O字状をなしている。ハンドル部21の後部21A下部には、電源ケーブル91が取付けられていると共に、後述のモータ30に電気的に接続されるスイッチ機構24が内蔵されている。スイッチ機構24には、作業者によって操作可能なトリガ25が機械的に接続されている。トリガ25を操作することにより、後述のインバータ回路部102(図2)への電源供給又は停止が切り替えられる。また、ハンドル部21の後部21Aであってトリガ25の下側には、後部21Aを穿孔工具1の使用者が把持したときに、中指と薬指によって把持される部分である把持部21Cが設けられている。
ハンドル部21の前部21Bには、先端方向に指向するセンサ50及びLED51が設けられている。センサ50は、波長は850nm程度の赤外線センサにより構成されており、前後方向におけるセンサ50から被加工部材Wまでの間の距離:Xを測定値として測定可能である。LED51は、点灯することにより、穿孔工具1の先端部近傍を照射することができる。図2における図示は省略するが、センサ50及びLED51はマイコン110によって制御されるよう構成されている。
モータハウジング22は、ハンドル部21の上方に設けられ、後述のモータ30を収容している。モータハウジング22の外表面であって上部には、入力端末(入力手段)である入力部26が設けられている。入力部26は、図3に示されるように、デジタル表示される表示部26Aと、回転数制御解除ボタン117と、その他各種ボタンを備えている。回転数制御解除ボタン117は、後述の回転数制御機能のオンオフを切換可能であって、切替スイッチの一例である。
図1に示されるモータ30は、三相直流ブラシレスモータにより構成されており、後述のマイコン110(図2)により回転の制御が行われる。モータ30は、回転駆動力を出力し、前端側へ延出されて前後方向を軸方向とする出力軸31を備える。出力軸31の基部には軸流ファン32が出力軸31と同軸的に一体回転可能に設けられている。
ギヤハウジング23は樹脂製であって、モータハウジング22の前端部に設けられている。ギヤハウジング23内には、第一中間シャフト61が出力軸31と同軸的に配置され、軸受63により回転可能に支承されている。第一中間シャフト61の後端は出力軸31と連結している。第一中間シャフト61の先端には第一ギヤ61Aが設けられている。また、ギヤハウジング23内には、出力軸31と平行に第二中間シャフト72が、軸受72Bによってその軸心を中心に回転可能に支承されている。
第二中間シャフト72の後端部には、第一ギヤ61Aと噛合する第二ギヤ71が同軸固定されている。第二中間シャフト72の前端側にはギヤ部72Aが形成され、後述する第三ギヤ73と噛合している。ギヤハウジング23内であって第二中間シャフト72の上方の位置には、シリンダ74が設けられている。シリンダ74は第二中間シャフト72と平行に延び、ギヤハウジング23により回転可能に支承されている。第三ギヤ73はシリンダ74の外周に固定されている。第三ギヤ73とギヤ部72Aとが噛合することにより、シリンダ74はその軸心を中心として回転可能に構成されている。
第二中間シャフト72の中間部分には、バネによって後端側へ付勢されるクラッチ76がスプライン係合されており、クラッチ76は、ギヤハウジング23に設けられた図示せぬチェンジレバによってハンマドリル・モードとドリルモードとを切換え可能である。クラッチ76のモータ30側には、回転運動を往復運動に変換する運動変換部80が第二中間シャフト72に回転可能に外装されている。運動変換部80の腕部80Aは、第二中間シャフト72の回転により穿孔工具1の前後方向に往復移動可能に設けられている。
クラッチ76がハンマドリル・モードに切換えられているときには、クラッチ76により第二中間シャフト72と運動変換部80とが結合している。運動変換部80は、ピストンピン81を介して、シリンダ74内に設けられたピストン82と連動するように接続されるように構成されている。
シリンダ74には、ピストン収容部74A、中間子収容部74B、及び、先端工具支持部74Cを有している。シリンダ74内にはバンパ74Dが設けられ、ピストン収容部74Aと中間子収容部74Bとを区画している。
ピストン収容部74Aは、大気と連通する空気孔74aが形成され、ピストン82を収容している。ピストン82は、第二中間シャフト72と平行な方向に往復運動可能且つシリンダ74内で摺動可能に装着されている。ピストン82には、空気孔74aと連通可能な図示せぬ貫通孔が形成されている。ピストン82内には打撃子83が内装されており、ピストン収容部74A内であってピストン82と打撃子83との間には空気室84が画成される。打撃子83の後端部にはシール部材83Aが設けられ、シール部材83Aはピストン82の図示せぬ貫通孔より後方に位置する状態で空気室84を密閉する。
ピストン収容部74Aの前方には、中間子収容部74Bが設けられている。中間子収容部74Bは中間子85を収容し、前端部には絞り部74Eを有している。中間子85は、中間子収容部74B内を前後方向に摺動可能であって、前後方向に延びる小径部85Aと、小径部85Aよりも大きな径の大径部85Bと、小径部85Aと大径部85Bとの間を接続する斜面85Cとを有している。中間子85は、大径部85Bの前端が絞り部74Eに当接することにより、前方への移動が規制されている。
中間子収容部74Bの前方には、先端工具支持部74Cが設けられている。先端工具支持部74Cには、後述の装着部40を介して穿孔ビット1Aが取付られている。先端工具支持部74Cには、後述のボール40Aを受け入れ可能な貫通孔74bが形成されている。貫通孔74bは、前後方向に延びる長径と、ボール40Aの径よりも大きな短径とを有する。
ギヤハウジング23の前方であって、先端工具支持部74Cの近傍には、装着部40が取付けられている。装着部40は、被加工部材Wを加工する先端工具である穿孔ビット1Aを装着可能に構成されている。装着部40は、後述の穿孔ビット1Aの溝部1Dとシリンダ74の貫通孔74bとの間に配置されるボール40Aと、ボール40Aの前後方向の移動を規制するボール規制部材40Bと、ボール規制部材40Bを前方に向けて付勢するバネ40Cと、を有している。バネ40Cの付勢力により、ボール40Aはボール規制部材40Bを介して前方に付勢され、貫通孔74bの前端位置に配置される。
穿孔ビット1Aはドリルビットであり、図1に示されるように、丸棒状を成し螺旋状の溝が切られた胴部1Bと、胴部1Bの先端に位置する先細り形状の先端部1Cと、胴部1Bの後方に形成され前後方向に延びる溝部1Dと、を有する。穿孔ビット1Aは、溝部1Dにボール40Aを配置することにより、装着部40に対して取付可能であり、交換可能である。具体的には、装着部40に穿孔ビット1Aを押し込むことにより、ボール40Aがバネ40Cの付勢力に抗して穿孔ビット1Aの溝部1D内に配置され、穿孔ビット1Aが装着部40に取付けられる。また、穿孔ビット1Aは、ボール40Aが溝部1Dに対して摺動することにより、溝部1Dの前後方向の長さからボール40Aの直径を減算した長さ分、ボール40Aに対して移動可能に構成されている。
以上の構成により、打撃子83が中間子85を介して穿孔ビット1Aを打撃可能に構成されている。穿孔ビット1Aが打撃されると、先端部1Cが先頭となり被加工部材Wに孔を穿孔可能に構成されている。
次に、図2を参照して、インバータ回路部102、制御回路部103、整流回路部104、及び、モータ30の回路構成について説明する。制御回路部103は、マイコン110と、スイッチ操作検出回路111と、印加電圧設定回路112と、入力電圧検出回路113と、電流検出回路114と、回転子位置検出回路115と、回転数検出回路116と、制御信号出力回路119と、を備えている。
また、マイコン110は、制御部の一例としてのCPU110Aと、時間を測定するタイマ110Bと、ROMやRAM等の記憶手段110Cと、を備えている。
スイッチ操作検出回路111は、トリガ25の押込の有無を検出し、トリガ25が押込まれた際にはオン信号を出力し、押込まれていない場合にはオフ信号をマイコン110へ出力する。印加電圧設定回路112は、トリガ25から出力される信号に応じて、インバータ回路部102のスイッチング素子Q1〜Q6を駆動するためのPWM駆動信号のPWMデューティーを設定し、マイコン110へ出力する。
入力電圧検出回路113は、インバータ回路部102と整流回路部104との間の電圧を検出し、その検出結果をマイコン110に出力している。電流検出回路114は、インバータ回路部102と整流回路部104との間の電流量を検出し、その検出結果をマイコン110に出力している。回転子位置検出回路115は、ホールIC30Aから出力された回転位置検出信号に基づいてモータ30のロータの回転位置を検出し、その検出結果をマイコン110に出力している。回転数検出回路116は動作状態検出手段であり、回転子位置検出回路115で検出した回転位置から、モータ30の回転数を検出して、その検出結果をマイコン110に出力している。
マイコン110は、印加電圧設定回路112からの出力に基づいてPWMデューティーの目標値を算出する。また、回転子位置検出回路115からの出力に基づいて、適切に通電するステータ巻線を決定し、出力切替信号H1〜H3およびPWM駆動信号H4〜H6を生成する。PWM駆動信号H4〜H6はPWMデューティーの目標値の大きさに基づいてデューティー幅が決定されて出力される。制御信号出力回路119は、マイコン110で生成された出力切替信号H1〜H3及びPWM駆動信号H4〜H6をインバータ回路部102に出力する。
インバータ回路部102には、商用電源からの交流電力が整流回路部104を介して給電される。インバータ回路部102では、出力切替信号H1〜H3およびPWM駆動信号H4〜H6に基づきスイッチング素子Q1〜Q6が駆動されて、通電されるステータ巻線が決定される。さらにPWM駆動信号はPWMデューティーの目標値でスイッチングされている。これにより、モータ30の三相のステータ巻線(U、V、W)に電気角120°の三相交流電圧が順に印加されることとなる。
次に、穿孔工具1の動作について説明する。マイコン110によってモータ30が駆動されると、モータ30の回転出力が第一中間シャフト61、第一ギヤ61A、及び第二ギヤ71を介して第二中間シャフト72に伝達される。第二中間シャフト72の回転は、ギヤ部72Aと第三ギヤ73との噛合によりシリンダ74に伝わり、穿孔ビット1Aに回転力が伝達される。
クラッチ76をハンマドリル・モードに移動させると、クラッチ76が運動変換部80と結合し、第二中間シャフト72の回転駆動力が運動変換部80に伝達される。これにより、回転駆動力が運動変換部80及びピストンピン81を介してピストン82の往復運動に変換される。図5に示されるように、穿孔ビット1Aの中心軸と被加工部材Wの平面とが直交するように穿孔ビット1Aを被加工部材Wに押し当てると、ボール40Aが溝部1D上を摺動して、穿孔ビット1Aが後方に移動する。穿孔ビット1Aが後方に移動すると、穿孔ビット1Aの後端部が中間子85に当接して後方へ押すので中間子85も後方へ移動する。さらに、中間子85が後方へ移動すると、中間子85の後端部が打撃子83に当接して後方に押すので、打撃子83は打撃可能位置に配置される。打撃子83が打撃可能位置にあるとき、空気室84はシール部材83Aによって密閉される。空気室84が密閉されると、ピストン82の往復運動に伴う空気室84内の空気の圧力変化、すなわち、空気ばねの作用により、打撃子83に打撃力を伝達することができる。具体的には、ピストン82の上死点付近において空気室84内の空気が圧縮されることにより、打撃子83を前進させて中間子85の後端面に衝突し、中間子85を介して打撃力が穿孔ビット1Aに伝達される。その後、ピストン82が下死点から上死点に向けて移動すると空気室84内の圧力が低下するので、ピストン82と共に打撃子83が打撃可能位置まで移動する(図6)。このようにして、クラッチ76がハンマドリル・モードにあるときには、ピストン82を往復運動させることにより、穿孔ビット1Aに回転力と打撃力が同時に付与される。
一方、クラッチ76がドリルモードにあるときは、クラッチ76は第二中間シャフト72と運動変換部80との接続を断ち、第二中間シャフト72の回転駆動力のみがギヤ部72A、第三ギヤ73を介してシリンダ74に伝達される。よって、穿孔ビット1Aには回転力のみが付与される。
上述の穿孔工具1のハンマドリル・モードにおいて、打撃子83が打撃可能位置よりも前方に位置する状態(具体的には、打撃子83の後端部に設けられたシール部材83Aがピストン82に形成された図示せぬ連通孔よりも前方に位置する状態)では、ピストン82に形成された図示せぬ連通孔がシリンダ74と連通して空気室84を密閉しないので、ピストン82の往復運動が打撃子83に伝達されない。いわゆる、空打ちが発生してしまう。打撃子83が打撃可能位置よりも前方に位置する原因として、穿孔ビット1Aが被加工部材Wを貫通して穿孔ビット1Aが受けていた抵抗がなくなったとき(図7)、又は、穿孔工具1を被加工部材Wから持ち上げたときに(図8)、穿孔ビット1Aが前方に移動したことが挙げられる。穿孔ビット1Aが前方に移動すると、中間子85も前方に移動する。さらに、打撃子83も中間子85によって後方に付勢されないし、空気室84が大気圧であるためにピストン82の往復運動が伝達されない。よて、空打ちが発生することになる。空打ち状態では穿孔ビット1Aが駆動されないままピストン82が往復運動し続けるので、不要な振動や衝撃が生じて穿孔工具1の寿命が短くなるという問題がある。
次に、マイコン110によって行われる制御について、図4のフローチャートを参照して説明する。
まず、S1において、CPU110Aは、回転数制御解除ボタン117がオンであるか否かを判定する。制御解除モードとは、空打ちを抑制する制御を行わないモードである。回転数制御解除ボタン117がオンであれば(S1:YES)、制御解除モードをオン状態に設定する(S2)。回転数制御解除ボタン117がオフであれば(S1:YES)、制御解除モードをオフ状態に設定する(S3)。制御解除モードオフ状態が第1モードに相当し、制御解除モードオン状態が第2モードに相当する。
次に、トリガ25が操作されオンにされたか否かを判定する(S4)。トリガ25がオンでない場合には(S4:NO)、S1に戻る。トリガ25がオンの場合には(S4:YES)、モータ30を駆動する信号を制御信号出力回路119に出力してモータ30を駆動し(S5)、センサ50をオンにして被加工部材Wまでの距離の測定を開始する(S6)。
次に、制御解除モードがオフ状態であるか否かを判定する(S7)。制御解除モードがオン状態であれば(S7:NO)、トリガ25がオンか否かを判定する(S8)。トリガ25がオンである場合には(S8:YES)、S7に戻る。トリガ25がオンでない場合には(S7:NO)、S14に進みモータ30を停止する。具体的には、CPU110Aはモータ30の停止信号を制御信号出力回路119に出力し、インバータ回路部102を制御して、モータ30の電源供給が停止される。
制御解除モードがオフ状態である場合には(S7:YES)、タイマ110Bが時間Tの計測を開始し、センサ50が測定する被加工部材Wまでの距離Xを取得する(S9)。時間Tが所定時間(例えば、0.5秒)以上か否かを判定し(S10)、所定時間未満であれば(S10:NO)、所定時間以上となるまで判定を繰り返す。時間Tが所定時間以上になると(S10:YES)、時間Tをリセットし(S11)、センサ50が測定する被加工部材Wまでの距離Xを取得して、タイマ110Bが時間Tの計測を開始した時とリセットした時の当該距離Xの差、つまり変化量dxを算出する(S12)。換言すれば、所定時間ごとに測定された被加工部材Wまでの距離Xを取得して、距離Xの変化量dxを算出する。詳細には、距離の変化量dxは、時間Tの計測を開始した時に取得されたセンサ50から被加工部材Wまでの距離X’と、時間Tをリセットした時に取得したセンサ50から被加工部材Wまでの距離Xとの差である。S12が変化量算出手段の一例である。
S13では、S12で算出された変化量dxの絶対値を第1の閾値と比較する。第1の閾値は所定の変化量の一例である。第1の閾値は、通常の穿孔作業を行う場合に穿孔工具1が移動する所定時間辺りの移動量に基づき、予め設定される。具体的には、中間子85のストローク距離よりも大きな値が、第1の閾値として設定されている。本実施の形態では、第1の閾値は予め10mmに設定されている。変化量dxの絶対値が10mm以下であれば(S13:NO)、S8に戻り、トリガ25が引き続きオン状態か否かを判定する。一方、変化量dxの絶対値が10mmよりも大きければ(S13:YES)、モータ30を停止し(S14)、制御を終了する。モータ30を停止させることは、広義にはモータ30の回転数を低下させるよう制御しているともいえる。S14は回転数制御手段の一例である。
S13の判定についてより詳細に説明する。変化量dxの絶対値が第1の閾値以下の場合には通常の穿孔動作が行われていると考えられ、変化量dxの絶対値が第1の閾値よりも大きくなる場合には、通常の穿孔動作が行われていないと考えられる。例えば、図6に示されるように所定深さの穿孔処理が完了した状態から穿孔工具1を被加工部材Wから引抜く場合や、図7に示されるように穿孔ビット1Aが被加工部材Wを貫通した場合には、通常の穿孔作業中に穿孔工具1が移動する場合よりも勢いよく移動する。よって、所定時間ごとの距離の変化量dxの絶対値に基づいて、穿孔工具1の状態を判定し、モータ30の回転数を適切に制御することができる。
第1の実施の形態に係る穿孔工具1によれば、距離Xの変化量dxの絶対値が第1の閾値以上であるときにモータ30の回転数を低下させる(停止する)ので、空打ちによる振動の発生を抑制することができる。例えば、穿孔動作が完了して穿孔工具1を被加工部材Wから離間させる際には、一般的に、穿孔工具1は穿孔動作中の移動量よりも大きく移動する。本実施の形態では、第1の閾値以上の変化量dxの絶対値が算出された際には、通常の穿孔動作を行う場合ではないと判断してモータ30を停止し、空打ちによる振動の発生を抑制することができる。空打ちによる振動や衝撃は穿孔工具1の負荷となり穿孔工具1の寿命を短くする原因となるが、本実施の形態によれば、穿孔工具1の長寿命化を実現することができる。
特に、距離Xの変化量dxの絶対値が第1の閾値以上であるときにモータ30を停止することによって、より確実に連続的な空打ちを防止して穿孔工具1の短寿命化を抑制することができる。
また、本実施の形態では、制御解除モードがオフ状態であれば(S7:NO)、S9〜S14の制御を行い、制御解除モードがオン状態であれば(S7:YES)、S9〜S14の制御は行わない。よって、作業者のニーズに合わせてモータ30の回転数制御を行うか否かを切り替えることができ、操作性がよい。
次に、第2の実施形態に係る穿孔工具101について説明する。穿孔工具101は、図4に示される制御に代えて、図9に示される制御を行う点で穿孔工具1と異なる。穿孔工具101の機械的、電気的構成は穿孔工具1と同一であるので説明を省略する。
第2の実施の形態においてマイコン110が行う制御について、図9のフローチャートに基づき説明する。本実施の形態では、S101〜S107により、穿孔工具101の移動方向を判定し、移動方向に応じて異なるモータ制御を行う。
なお、図9に示されるS1〜S12、S14は、S6とS7の順番が逆になっている点を除いて、図4に示されるS1〜12、S14と同一であるので説明を省略する。本実施の形態では、センサ50をオンにする前に、制御解除モードがオフ状態であるか否かの判定を行う(S7)。つまり、制御解除モードがオフ状態であれば(S7:YES)、センサ50をオンにして被加工部材Wまでの距離Xの測定を開始する(S6)。
本実施の形態における制御では、S12で距離Xの変化量dxを算出した後、変化量dxが負の値か否かを判定する(S101)。変化量dxが負の値である場合には(S101:YES)、変化量dxの絶対値を第2の閾値と比較する(S102)。変化量dxが負の値であれば、穿孔工具101が被加工部材Wに近づく方向に移動している(前進している)ことがわかる。第2の閾値は、通常の穿孔作業を行う場合に穿孔工具101が移動する所定時間辺りの移動量、及び、穿孔工具101の穿孔ビット1Aに抵抗がなくなった状態、例えば、図7に示されるように被加工部材Wを貫通した場合に穿孔工具101が移動し得る所定時間当たりの移動量に基づいて、予め設定されている。また、本実施の形態では第2の閾値は予め10mmに設定されており、S102は図4のS13と同様の判定といえる。変化量dxの絶対値が10mm以下であれば(S102:NO)、S107に進む。変化量dxの絶対値が10mmよりも大きければ(S102:YES)、モータ30を停止し(S14)、制御を終了する。S101が判定手段の一例であり、穿孔工具101が被加工部材Wに近づく方向が第1の方向に相当する。第2の閾値は第1の変化量に相当する。
変化量dxがゼロ又は正の値である場合には(S101:NO)、変化量dxの絶対値を第3の閾値と比較する(S104)。変化量dxが正の値であれば、穿孔工具1が被加工部材Wから遠ざかる方向に移動している(後退している)ことがわかる。穿孔工具1が被加工部材Wから遠ざかる方向が第2の方向に相当する。第3の閾値は、穿孔処理完了後に穿孔工具101が被加工部材Wの切屑等から受け得る抵抗等を考慮した、穿孔工具101を引き抜く際に移動し得る所定時間辺りの移動量に基づいて、予め設定されている。本実施の形態では、第3の閾値は予め5mmに設定されている。変化量dxの絶対値が5mm以下であれば(S104:NO)、S107に進む。第3の閾値は第2の変化量に相当する。
変化量dxの絶対値が5mmよりも大きければ(S104:YES)、モータ30の回転数を低下させる(S105)。具体的には、CPU110Aからモータ30の回転数を低下させる信号を制御信号出力回路119へ出力し、当該信号に基づいてインバータ回路部102を制御し、モータ30の回転数が低下するよう制御を行う。
次に、トリガ25がオンか否かを判定する(S106)。トリガ25が引き続きオンである場合には(S106:YES)、トリガ25がオフになるまで判定を繰り返す。トリガ25がオフになると(S7:NO)、モータ30を停止し(S14)、制御を終了する。
また、S107でも、同様にトリガ25がオンか否かを判定する。トリガ25が引き続きオンであれば(S107:YES)、S9に戻る。トリガ25がオフになると(S107:NO)、モータ30を停止し(S14)、制御を終了する。S105及びS14が回転数制御手段の一例である。
第2の実施の形態に係る穿孔工具101によれば、穿孔工具101が移動する方向に応じてモータ30に対する制御を変えている。具体的には、穿孔工具101が被加工部材Wを貫通した場合にはモータ30を停止させる。一方で、穿孔処理が完了した後に被加工部材Wから穿孔ビット1Aを引き抜く際にはモータ30を停止させずに回転数を下げるので、図6に示されるように穿孔ビット1Aが被加工部材Wに嵌りこんで抜けにくい場合であっても、穿孔ビット1Aを回転させることにより容易に穿孔工具101を引き抜くことができる。よって、空打ちによる振動の発生を抑制することができる。
次に、図10及び図11を参照して、第3の実施形態に係る穿孔工具201について説明する。図10に示されるように、穿孔工具201の機械的、電気的構成は、入力部26に初期位置設定ボタン118(図3)が設けられる点、ボタン操作検出回路120、及び、初期位置設定回路121(図2)を有する点を除いて、穿孔工具1と同一であるので同一の構成については説明を省略する。また、穿孔工具201は、図4に示される制御に代えて図11に示される制御を行う点で穿孔工具1とは異なる。
初期位置設定ボタン118は、図5に示されるように穿孔工具201を被加工部材Wに対して配置したときに使用者が押圧することで、初期位置を設定するプッシュボタンである。初期位置設定ボタン118は、ボタン操作検出回路120と初期位置設定回路121とに接続されている。ボタン操作検出回路120及び初期位置設定回路121は、それぞれマイコン110に接続されている。ボタン操作検出回路120は、初期位置設定ボタン118が押されると検出信号をマイコン110に出力する。検出信号を受信したマイコン110は、初期位置設定回路121を介して、初期位置設定ボタン118が押されたときの距離Xを初期値X1として記憶手段110Cに記憶する。初期位置設定ボタン118は入力手段の一例である。
第3の実施の形態においてマイコン110によって行われる制御について、図10のフローチャートに基づき説明する。本実施の形態では、第1の実施の形態及び第2の実施の形態と同様に変化量dxに基づくモータ30の制御(S8、S10〜S14)に加えて、被加工部材Wまでの距離Xも基づくモータ30の制御を行う。
まず、S201では、初期位置設定ボタン118が押されたか否かを判定する。初期位置設定ボタン118が押されたときには(S201:YES)、センサ50をオンにして被加工部材Wまでの距離Xの測定を開始するとともに(S202)、初期位置設定ボタン118が押されたときに測定された距離Xを初期値X1として記憶手段110Cに記憶する(S203)。初期位置設定ボタン118が押されなければ(S201;NO)、S204に進む。
S204では、トリガ25がオンか否かを判定する。トリガ25がオンでない場合には(S204:NO)、S201に戻る。トリガ25がオンである場合には(S204:YES)、モータ30の駆動を開始し(S205)、タイマ110Bに時間Tの計測を開始させる(S206)。なお、S201において初期位置設定ボタン118が押されなかったと判定された場合(S201:NO)には、S206においてセンサ50による被加工部材Wまでの距離Xの測定も開始する。
S207では、トリガ25がオンか否かを判定する。トリガ25がオンでない場合には(S207:NO)、S14に進み、モータ30を停止する。トリガ25がひきつづきオンである場合には(S207:YES)、センサ50の測定距離Xが、記憶手段110Cに記憶される初期値X1よりも大きいか否かを判定する(S208)。測定距離Xが初期値X1よりも大きければ(S208:YES)、S14に進み、モータ30を停止する。例えば、図8に示されるように、穿孔工具201が被加工部材Wから離間した状態であれば、距離Xは初期値X1を超える。一方、測定距離Xが初期値X1以下であれば、もしくは、記憶手段110Cに初期値X1が記憶されていない場合には(S208:NO)、S10に進む。
S8、S10〜S14は図4のS8、S10〜S14と同一の処理であるので、説明を簡略化する。時間Tが0.5秒未満の場合には(S10:NO)、S207に戻る。時間Tが0.5秒以上経過すると(S10:YES)、時間Tをリセットし(S11)、変化量dxを算出する(S12)。変化量dxの絶対値が10mm以下であれば(S13:NO)、S8に進み、トリガ25がオンか否かを判定する。トリガ25がオンであれば(S8:YES)S206に戻り、オフであれば(S8:NO)モータ30を停止して(S209)、制御を終了する。
一方、変化量dxの絶対値が10mmよりも大きければ(S13:YES)、モータ30を停止する(S14)。その後、S210では、トリガ25がオンか否かを判定する。トリガ25がオンでない場合には(S210:NO)、制御を終了する。トリガ25がオンのままであれば(S210:YES)、被加工部材Wまでの距離Xが初期値X1を超えたか否かを判定する(S211)。距離Xが初期値X1以下であるとき、もしくは、記憶手段110Cに初期値X1が記憶されていない場合には(S211:NO)、S210に戻る。
距離Xが初期値X1を超えた場合には(S211:YES)トリガ25がオンか否かを判定する(S212)。トリガ25がオフになった場合には(S212:NO)、制御を終了する。トリガ25がオンのままであれば(S212:YES)、被加工部材Wまでの距離Xが初期値X1以下になったか否かを判定する(S213)。距離Xが初期値X1より大きい場合には(S213:NO)、S212に戻る。距離Xが初期値X1以下の場合には(S213:YES)、タイマ110Bが時間Tの計測を開始する(S214)。本実施の形態では、初期値X1が所定値に相当し、S213が所定値算出手段に相当する。
S215〜S217は、S10〜S12と同様の処理であるので、説明を簡略化する。時間Tが0.5秒未満の場合には(S215:NO)、時間Tが0.5秒以上になるまで判定を繰り返す。時間Tが0.5秒以上になると(S215:YES)、時間Tをリセットし(S216)、変化量dxを算出する(S217)。
S218では、変化量dxの絶対値が5mm以下であるか否かを判定する。変化量dxの絶対値が5mmより大きければ(S218:NO)、S212に戻る。変化量dxの絶対値が5mm以下であれば(S218:YES)、S205に進み、モータ30の駆動を再度開始する。
S210〜S218の制御によれば、被加工部材Wに対して連続して穿孔処理を行う場合に、自動的にモータ30の駆動を制御することができる。具体的には、1度目の穿孔処理を完了した後にトリガ25をオンの状態のまま穿孔工具201を持ち上げると測定距離Xは初期値X1を超え(図8)、穿孔工具201が次の穿孔位置で被加工部材Wに押し付けられると測定距離Xは再度初期値X1となる(図5)。穿孔工具201が被加工部材Wに押し付けられている状態では、穿孔工具201はほとんど移動しないので、変化量dxが5mm以下である。このように、S210〜S218の処理によれば、穿孔工具201が被加工部材Wに押し付けられている、つまり、次の穿孔位置に配置が完了したことを判定できる。そして、次の穿孔位置に配置が完了したときに(S218:YES)、モータ30を自動的に駆動し穿孔処理を行うことができる(S205)。
また、初期位置設定ボタン118を押すことにより使用者の任意の状態における距離Xを初期値X1として設定することができるので、良好な操作性を実現できる。
また、被加工部材Wまでの距離Xが所定値X1以上であるときにもモータ30の回転数を低下させるので、穿孔工具201が被加工部材Wから明らかに離間している状態でモータ30を駆動してしまい空打ちを発生させることを抑制することができる。よって、振動の発生を抑制することができる。
なお、本発明に係る電動工具は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変形や改良が可能である。
例えば、上述の実施の形態では、所定時間として0.5秒、第1〜第3の閾値として10mm又は5mmの値を用いたが、これらの値は、モータ30の回転数や穿孔ビット1Aの径等によって、適宜設定される値であることは言うまでもない。
また、上述の実施の形態では、センサ50として赤外線センサを用いたが、超音波やレーザにより距離を測定するセンサであってもよい。
また、第3の実施の形態では、図9のS213において、測定距離Xが初期値X1を超えたか否かを判定することにより、穿孔工具201が再度被加工部材W上に押し付けられたか否かを判定したが、初期値X1に代えて、初期値X1に調整値を加算または減算した比較値X2を用いてもよい。例えば、被加工部材Wの表面粗さに応じて調整値を設定し、比較値X2を算出するようにしてもよい。
また、第3の実施の形態では、初期位置設定ボタン118を使用者が押したときの測定距離Xを初期値X1としたが、これに限られない。例えば、穿孔ビット1Aが被加工部材Wに当接したときに、センサ50によって被加工部材Wまでの距離を測定し、測定された距離を初期値として記憶手段に記憶してもよい。このような構成によれば、長さの異なる穿孔ビットに交換した場合に、交換された穿孔ビットに適した初期値を自動的に設定することができる。
また、第3の実施の形態では、S214〜S218において、穿孔工具201が被加工部材Wに押し付けられている状態かどうかを判断しているが、S214〜S218を省略し、S213で被加工部材Wまでの距離Xが初期値X1以下になったらS205に進みモータ30の駆動を再度開始するような構成としても良い。
また、第3の実施の形態において、初期位置設定ボタン118が押されるとLED51が点灯するような構成としても良い。特に、LED51は、複数の異なる色のLED光を点灯可能であって、初期位置設定ボタン118が押されたときに点灯するLED光の色が、穿孔工具先端を照射するためのLED光の色とは異なるような構成としても良い。このような構成とすることにより、使用者はLED51の状態を見て初期位置設定ボタン118が押されたか、また、S210〜S218の制御を行う状態かどうかを確認することができる。
また、加工動作を行う際に工具全体が被加工部材に向けて前進する電動工具、例えば、ドリル等の電動工具にも本発明を適用可能であり過剰な加工動作による無駄な電力消費を抑制することができる。