JP6328856B2 - 収縮力低下随伴性排尿筋過活動改善剤 - Google Patents

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Description

本発明は、3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オン又はその塩、もしくはその溶媒和物を有効成分とする、収縮力低下随伴性排尿筋過活動の治療方法に関する。
3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンは、構造が下記式(1)で表される化合物(以下、「本発明化合物1」)である。
Figure 0006328856
特許文献1は、式(1)で表される化合物を含むシクロヘキセノン長鎖アルコールが神経成長促進作用を示し、認知症等の脳疾患予防・治療用の医薬として有用であることを記載する。特許文献2は、式(1)で表される化合物を含むシクロヘキセノン長鎖アルコールが排尿障害治療剤として有用であることを記載する。特許文献3には、式(1)で表される化合物が膀胱・尿道協調不全(vesicourethral dyssynergia)に基づく疾患に対する治療剤として有用であるとの記載がある。
しかし、特許文献2で排尿障害治療剤として確認された上記作用は、膀胱機能の低下した排尿障害に対する改善作用(最大一回排尿量の改善作用、膀胱容量・排尿効率の改善作用)のみであり、本発明化合物1が収縮力低下随伴性排尿筋過活動を改善する化合物であることは全く知られていない。
また、特許文献3では、ストレプ卜ゾ卜シン(STZ)により排尿障害を誘導させてから4週後、膀胱排尿筋の収縮と尿道括約筋の弛緩のタイムラグが生じたラットモデルを用いて、そのタイムラグの改善作用(実施例1)及びそれに伴う最大一回排尿量の改善作用(実施例2)を確認しているのみであり、本発明化合物1が排尿筋の過活動と収縮不全を併せ持つ疾患に対して有効であることは全く記載も示唆もされていない。
そもそも特許文献3の実施例に記載されている排尿障害モデルは、後述の参考例のとおり、排尿筋の過活動を示さないモデルであり、排尿筋の過活動と収縮不全を併せ持つ疾患に対する治療効果を評価できるモデルでは無い。
なお、特許文献3には、その段落番号[0032]に、「膀胱・尿道協調不全に基づく疾患」として多数の疾患が列挙されており、その中のひとつとして「収縮不全を伴った排尿筋過活動(DHIC)」が挙げられているが、これは膀胱・尿道協調不全が原因となって新たに発症する可能性がある疾患の例示にすぎない。また当該段落番号[0033]に「膀胱・尿道協調不全を伴わないこれらの疾患は、本発明の治療対象疾患ではない」との記載がされていることから明らかなように、特許文献3にかかる発明は、排尿筋の過活動と収縮不全を併せ持つ疾患、特に膀胱・尿道協調不全を原因としない排尿筋の過活動と収縮不全を併せ持つ疾患を対象としていない。
正常な排尿機能は、蓄尿時には排尿筋は収縮せず弛緩することで膀胱内に尿を溜めることができ、排尿時にのみ排尿筋が収縮する。蓄尿障害病態(過活動膀胱)においては、蓄尿時に排尿筋過活動が生じており、十分に尿を溜めることができない状態となっている。このような病態に対しては、抗コリン剤やβ3受容体アゴニストなどが効果的である。一方、尿排出障害病態(低活動膀胱)においては、排尿筋収縮不全が生じており、残尿量増大が問題となる。このような病態に対しては、コリンエステラーゼ阻害剤やコリン作動薬などが用いられる。しかしながら、一般的に、過活動膀胱に対し有効な薬剤は、低活動膀胱に対しては無効もしくは悪化させることが知られている(非特許文献1,非特許文献2)。また、低活動膀胱に対し有効な薬剤は、過活動膀胱に対し無効もしくは悪化させることが知られている(非特許文献3)。これらのように過活動膀胱及び低活動膀胱が個別に生じている病態に対しては治療手段が存在するが、過活動膀胱と低活動膀胱が同時に生じている病態に対しては、その両方に効果が期待される薬剤は殆どなく、治療手段がない。
収縮力低下随伴性排尿筋過活動(detrusor hyperactivity with impaired contractility 、DHIC)は、排尿筋過活動と排尿筋収縮不全が同一個体内で共存する疾患である(非特許文献4、非特許文献5)。近年、収縮力低下随伴性排尿筋過活動は、過活動膀胱や低活動膀胱とは異なる新しい疾患として認知されてきている。臨床において収縮力低下随伴性排尿筋過活動の患者は多数報告されており、65才以上においては約20パーセントの割合で患者が存在することが知られており(非特許文献6)、人口統計情報をもとに2025年頃には推定患者数は本邦で約440万人に達すると考えられる。排尿筋過活動に排尿筋収縮不全による残尿量増加が加わることから、高圧蓄尿や尿失禁が生じ、更に、この状態が適切に管理されずに放置されると、尿路感染症、上部尿路障害や腎機能障害などの重篤な病態を来すことになる。
臨床における収縮力低下随伴性排尿筋過活動の診断は、膀胱内圧・尿流同時測定(Pressure-Flow Study)にて、蓄尿時の排尿筋過活動と排尿時の排尿筋収縮不全(ノモグラム解析が有効)の確認により実施する(非特許文献4、非特許文献5)。
また、収縮力低下随伴性排尿筋過活動は排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全が共存する疾患であることから、その診断には、過活動膀胱および低活動膀胱の診断方法が活用されうる(非特許文献7,非特許文献8)。則ち、過活動膀胱の診断は自覚症状(尿意切迫感、尿失禁、頻尿等)を用い、低活動膀胱の診断は自覚症状(尿勢低下、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、残尿感、尿閉等)、尿流測定、および残尿量測定等を用い実施し、両疾患の共存を確認することで実施する。
収縮力低下随伴性排尿筋過活動の治療については、相反する排尿筋過活動と排尿筋収縮不全とが共存しているため、治療難易度の非常に高い排尿障害である。上記のとおり、一般に過活動膀胱あるいは低活動膀胱のいずれか一方の改善作用しかない薬剤は、収縮力低下随伴性排尿筋過活動の患者に対する臨床での効果が不十分であるばかりでなく、むしろそれぞれの症状を増悪させるリスクも含んでいる。このような現状から、排尿筋過活動と排尿筋収縮不全の共存する収縮力低下随伴性排尿筋過活動に対する有効な治療剤が求められている。なお、近年、尿排出障害(低活動膀胱)に対して有効なTamsulosinなどのα1遮断薬が、過活動膀胱に対しても有効であることが報告されている(非特許文献9)。
国際公開WO1999/008987号公報 国際公開WO2002/066024号公報 国際公開WO2015/046377号公報
J Smooth muscle Res 48, p115-124 (2012) Br J Urol 82, p272-277 (1998) J Urol 174, p1137-1141 (2005) JAMA,257, p3076-3081 (1987) Rev Hosp Clin Fac Med Sao Paulo, 59, p206-215 (2004) 排尿障害プラクティス,14,p299-306(2007) Neurourol Urodyn, 29, p4-20 (2010) Eur Urol,65,p389-398 (2014) JAMA 296, p2319-2328 (2006)
本発明は、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を改善することによって、収縮力低下随伴性排尿筋過活動の治療方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、下記一般式(1)で表される3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンが、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を共に改善すること、収縮力低下随伴性排尿筋過活動に対する治療剤として有用であることを見出した。
Figure 0006328856
すなわち、本発明は以下の項を包含する:
項1.3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物を含む、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)の治療剤。
項2.3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物を含む、収縮力低下随伴性排尿筋過活動(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)の治療剤。
項3.3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物及び薬学的担体を含む、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)を治療するための医薬組成物。
項4.3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物及び薬学的担体を含む、収縮力低下随伴性排尿筋過活動(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)を治療するための医薬組成物。
項5.排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)の治療剤を製造するための、3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物の使用。
項6.収縮力低下随伴性排尿筋過活動(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)の治療剤を製造するための、3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物の使用。
項7.排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)の治療に使用するための3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物。
項8.収縮力低下随伴性排尿筋過活動(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)の治療に使用するための3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物。
項9.排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)を治療するための3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物の使用。
項10.収縮力低下随伴性排尿筋過活動(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)を治療するための3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物の使用。
項11.3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物の治療的有効量を投与することを含む、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)を治療する方法。
項12.収縮力低下随伴性排尿筋過活動(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)の患者に3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物の治療的有効量を投与することを含む、収縮力低下随伴性排尿筋過活動(特に、膀胱・尿道協調不全に基づく疾患を除く)の治療方法。
項13.3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩又はその溶媒和物を含む、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患における症状の軽減剤。
項14.当該症状が、尿意切迫感、尿失禁、頻尿、尿勢低下、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、残尿感、尿閉、尿流の低下、及び残尿量の増大のいずれかである項13.記載の軽減剤。
項15.当該症状が、尿意切迫感、尿失禁及び頻尿のいずれかと、尿勢低下、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、残尿感、尿閉、尿流の低下及び残尿量の増大のいずれかである項13.記載の軽減剤。
項16.排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患における症状の軽減剤を製造するための、3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩又はその溶媒和物の使用。
項17.排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患における症状の軽減に使用するための、3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩又はその溶媒和物。
項18.排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患における症状を軽減するための、3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩又はその溶媒和物。
項19.3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物の有効量を投与することを含む、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患における症状を軽減する方法。
本発明によれば、収縮力低下随伴性排尿筋過活動を効果的に治療することができる。
収縮力低下随伴性排尿筋過活動を示すラット排尿障害モデルの膀胱内圧典型チャート 収縮力低下随伴性排尿筋過活動を示すラット排尿障害モデルの膀胱収縮力に対する本発明化合物1及びα1遮断薬(Tamsulosin)の作用。Sham: n=11 コントロール(6% Gelucire ): n=19、本発明化合物1(10 mg/kg ×2/day p.o.): n=8、Tamsulosin (0.3 mg/kg, i.v.): n=6 膀胱・尿道協調不全を示すラット排尿障害モデルの膀胱内圧典型チャート
本発明化合物1は公知化合物であり、例えば国際公開WO1999/008987号公報の記載の方法に準じて製造することが出来る。
本発明でいう「排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患」とは、蓄尿時の排尿筋過活動と排尿時の排尿筋収縮不全が共存する病態であり、具体的には収縮力低下随伴性排尿筋過活動(DHIC)である。
収縮力低下随伴性排尿筋過活動の診断は、膀胱内圧・尿流同時測定(Pressure-Flow Study)にて、蓄尿時の排尿筋過活動と排尿時の排尿筋収縮不全(ノモグラム解析が有効)の確認により実施することができる(JAMA,257, p3076-3081 (1987);Rev Hosp Clin Fac Med Sao Paulo, 59, p206-215 (2004))。
また、収縮力低下随伴性排尿筋過活動は排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全が共存する疾患であることから、その診断には、過活動膀胱および低活動膀胱の診断方法が活用されうる(Neurourol Urodyn, 29, p4-20 (2010);Eur Urol,65,p389-398 (2014))。則ち、過活動膀胱の診断は自覚症状(尿意切迫感、尿失禁、頻尿等)を用い、低活動膀胱の診断は自覚症状(尿勢低下、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、残尿感、尿閉等)、尿流測定、および残尿量測定等を用い実施し、両疾患の共存を確認することで実施することができる。
本発明において収縮力低下随伴性排尿筋過活動(DHIC)は、蓄尿時の排尿筋過活動と排尿時の排尿筋収縮不全が共存する病態である限り、疾患の発症原因は限定されないが、膀胱・尿道協調不全を原因としない収縮力低下随伴性排尿筋過活動(DHIC)が好ましい。
本発明でいう「排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患の治療方法」とは、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患の治療又は改善方法、当該疾患における症状の軽減方法、および再発防止のための維持療法を含む。
本発明でいう「収縮力低下随伴性排尿筋過活動の治療方法」とは、収縮力低下随伴性排尿筋過活動の治療又は改善方法、当該疾患における症状の軽減方法、および再発防止のための維持療法を含む。
なお、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患及び収縮力低下随伴性排尿筋過活動における「症状」としては、例えば、尿意切迫感、尿失禁、頻尿、尿勢低下、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、残尿感、尿閉等の自覚症状、及び尿流の低下、残尿量の増大が挙げられる。特に、本発明化合物1は、排尿筋過活動の症状である尿意切迫感、尿失禁及び頻尿のいずれかと、排尿筋収縮不全の症状である尿勢低下、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、残尿感、尿閉、尿流の低下及び残尿量の増大のいずれかを同時に軽減することができる。
本発明化合物1は酸付加物塩又は塩基との塩を形成する場合もあり、かかる塩が製薬学的に許容される塩である限りにおいて本発明に包含される。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、ピクリン酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、グルタミン酸などの有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムなどの無機塩基やメチルアミン、エチルアミン、メグルミン、エタノールアミンなどの有機塩基又はリジン、アルギニン、オルニチンなどの塩基性アミノ酸との塩やアンモニウム塩が挙げられる。
また本発明化合物1の溶媒和物の溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
本発明の3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オン又はその塩、もしくはその溶媒和物は、薬学的に許容される担体を用いて、通常公知な製剤方法により各種投与形態として製造することができる。かかる投与形態としては特に制限はなく、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口剤;注射剤、坐剤等の非経口剤などが例示できる。
錠剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、コーンスターチ、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖等の崩壊剤;白糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤などを使用できる。更に、錠剤は必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。
丸剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤;アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤;ラミナラン、カンテン等の崩壊剤などを使用できる。カプセル剤は常法に従い、上記で例示した各種の担体と混合して硬質ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
経口用液体製剤とする場合は、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤、等を用い、常法により、内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。この場合、矯味・矯臭剤としては、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸等が、緩衝剤としては、クエン酸ナトリウム等が、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチン等が挙げられる。
坐剤の形態に成形するに際しては、担体として、例えばポリエチレングリコール、カカオ脂、高級アルコール、高級アルコールのエステル類、ゼラチン、半合成グリセライド等を使用できる。
注射剤とする場合、液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、且つ血液と等張であるのが好ましく、これらの形態に成形するに際しては、希釈剤として、例えば水、乳酸水溶液、エチルアルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレン化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用できる。
尚、この場合、等張性の溶液を調製するに充分な量の食塩、ブドウ糖又はグリセリンを医薬製剤中に含有せしめてもよく、また通常の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を添加してもよい。更に上記各製剤には必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や、他の医薬品を配合してもよい。
本発明の収縮力低下随伴性排尿筋過活動改善剤における投与方法は特に限定させず、各種投与形態、患者の年齢、性別その他の条件、患者の症状の程度等に応じて適宜決定される。例えば錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤及び乳剤は経口投与される。注射剤は単独で又はブドウ糖、アミノ酸等の通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じて単独で動脈内、筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与される。坐剤は直腸内投与される。
上記の各投与単位形態中に配合されるべき本発明化合物又はその塩の量は、これを適用すべき患者の症状により、あるいはその剤形等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり、経口剤では約0.005〜1,000mg、より好ましくは1〜800mg、さらに好ましくは5〜500mg、注射剤では約0.001〜500mg、より好ましくは0.02〜400mg、さらに好ましくは1〜250mg坐剤では約0.01〜1,000mg、より好ましくは1〜800mg、さらに好ましくは5〜500mgとするのが望ましい。また、上記投与形態を有する薬剤の1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できないが、通常成人1日あたり約0.005〜5,000mg、好ましくは0.01〜2,000mg、より好ましくは10〜1600mg、さらに好ましくは20〜800mgとすればよく、これを1日1回又は2〜4回程度に分けて投与するのが好ましい。
以下、試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
試験例1 ラット収縮力低下随伴性排尿筋過活動モデルの作成
本モデルは、9週齢 雌性 Sprague-Dawleyラットの尿道を部分狭窄(φ1.57 mm)し作製した。モデル作製6週後に部分狭窄を解除し、その翌日に、覚醒下にて膀胱内圧・排尿量を測定し、Qmax(最大尿流率)とPdet(排尿筋圧)を用いたノモグラム解析にて、排尿時の排尿筋収縮力を評価した。また、過活動膀胱の指標である排尿筋過活動と、低活動膀胱の指標である残尿量増大を評価した。
図1に膀胱内圧典型チャートを示す。Shamラットに比し本排尿障害ラット(コントロール)において、顕著な排尿筋過活動と残尿量増大が観察され、収縮力低下随伴性排尿筋過活動の特徴が認められた(表1)。
Figure 0006328856
さらに、臨床のノモグラム解析(Urol Clin North Am, 17, p553-566 (1990))を参考にして排尿時の膀胱収縮力を評価したところ、Sham群に対してコントロール群のプロット位置は原点に近いことから(図2)、本ラット排尿障害モデルにて膀胱収縮力低下が生じていると判断された(原点からの距離:Sham群 24.75±3.14、コントロール群 4.24±0.53、p<0.05)。
これらのことから、本ラット排尿障害モデルは、収縮力低下随伴性排尿筋過活動の臨床における診断指標である蓄尿時の排尿筋過活動およびノモグラム解析による排尿筋収縮力低下が、同一個体内で共存することが確認された。すなわち、本ラット排尿障害モデルが、収縮力低下随伴性排尿筋過活動のモデルとして評価可能であることが明らかとなった。
試験例2 ラット収縮力低下随伴性排尿筋過活動モデルの排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全/収縮力低下に対する改善作用
収縮力低下随伴性排尿筋過活動に対する3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オン(以下、「本発明化合物1」)の効果を検討した。
試験例1と同様にモデル作製し、作製2週間後から各評価薬物(vehicle:6% Gelucire、本発明化合物1 10mg/kg)を4週間1日2回経口投与した。最終投与日に部分狭窄を解除し、その翌日に、覚醒下にて膀胱内圧・排尿量を測定し、過活動膀胱の指標である排尿筋過活動と低活動膀胱の指標である残尿量増大を評価した。また,QmaxとPdetを用いたノモグラム解析にて、排尿時の排尿筋収縮力を評価した。
Vehicle(6% Gelucire)を投与したコントロール群の排尿筋過活動:1.73±0.10 times/min,残尿量:0.57±0.06 mLに対し、本発明化合物1を投与することにより、排尿筋過活動:0.63±0.14 times/min、残尿量:0.28±0.13 mLと有意な改善効果が認められた(表1)。さらにノモグラム評価の結果、本発明化合物1群のプロットはコントロール群よりも原点から離れた位置であったことから(原点からの距離:10.5±2.3, p<0.05)、本発明化合物1群の排尿筋収縮力はコントロール群に比し改善していると判断された(図2)。
排尿筋過活動と排尿筋収縮不全が共存する収縮力低下随伴性排尿筋過活動モデルにおいて、本発明化合物1は排尿筋過活動と排尿筋収縮不全の両方に対する改善作用を有することが認められた。
比較例1 ラット収縮力低下随伴性排尿筋過活動モデルの膀胱過活動及び膀胱低活動/収縮力低下に対するα1遮断薬の改善作用
排尿障害治療剤として広く使用されているα1遮断薬Tamsulosinについて、収縮力低下随伴性排尿筋過活動に対する効果を検討した。
試験例1と同様に、モデル作製6週間後に部分狭窄を解除した。その翌日に覚醒下にて膀胱内圧・排尿量を測定し、過活動膀胱の指標である排尿筋過活動と低活動膀胱の指標である残尿量増大を評価した。また,QmaxとPdetを用いたノモグラム解析にて、排尿時の膀胱収縮力を評価した。Tamsulosin(3 μg/kg)は、評価時(モデル作製6週後)に静脈内投与した。
コントロール群の排尿筋過活動:1.73±0.10 times/minに対し、Tamsulosin(3 μg/kg)投与により、排尿筋過活動:0.68±0.33 times/minと有意な改善効果が認められた(表1)。しかしながら,残尿量(表1)およびノモグラムによる収縮力(図2)に対するTamsulosin(3 μg/kg)の改善作用は、認められなかった。すなわち、排尿筋過活動と排尿筋収縮不全が共存するラット収縮力低下随伴性排尿筋過活動モデルにおいて、Tamsulosinは排尿筋過活動に対する改善効果を有するが、排尿筋収縮不全に対する効果を有さないことが認められた。
比較例2 ラット低活動膀胱モデルの排尿筋収縮不全に対するα1遮断薬の作用
WO2013/027806を参考に、低活動膀胱に対するα1遮断薬(Tamsulosin)の作用の効果を検討した。本排尿障害モデルは、10週齢 雌性 Wistarラットにストレプトゾトシン(STZ、65 mg/kg, i.p.)を処置し作製した。モデル作製4週後より、Tamsulosin(1 μg/kg/hr)を浸透圧ポンプにて皮下投与した。投与開始から4週後に、ウレタン麻酔下にて膀胱内圧・排尿量を測定し、低活動膀胱の指標として残尿量に対する作用を評価した。
表2に結果を示す。Sham群に対してコントロール群(モデル発症8週間後)では低活動膀胱の指標である残尿量の有意な増加が認められた。コントロール群で認められる残尿量増大に対し、Tamsulosinは有意な減少作用を示した。以上より、Tamsulosinが低活動膀胱を改善し、すなわち排尿筋収縮不全を改善することが示唆された。
Figure 0006328856
参考例 膀胱・尿道協調不全を示すラット排尿障害モデルの作成
特許文献3の試験例1の記載に基づき、ストレプ卜ゾ卜シン(STZ)により排尿障害を誘導させてから4週後、膀胱排尿筋の収縮と尿道括約筋の弛緩のタイムラグが生じているラットモデルを作成した。本モデルを用いてウレタン麻酔下にて膀胱内圧を測定し排尿筋過活動の有無を評価した。
図3に膀胱内圧典型チャートを示す。排尿障害ラット(コントロール)において、試験例1の排尿障害ラット(コントロール)で見られるような、排尿筋過活動で特徴的な連続するピークが見られなかった。したがって、特許文献3の試験例1で記載された膀胱・尿道協調不全を示すラット排尿障害モデルは排尿筋過活動の症状を示さないため、収縮力低下随伴性排尿筋過活動を評価できないことが示された。
以上の結果より、排尿障害治療剤として一般的に用いられているα1遮断薬は、低活動膀胱では効果を発揮し(比較例2)、過活動膀胱に対する有効性も報告(J Urol, 190, p1116-1122 (2013))されているが、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全(収縮力低下)が共存する排尿障害(収縮力低下随伴性排尿筋過活動)では,その効果は認められなかった(比較例1)。一方、本発明化合物1は、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全(収縮力低下)が共存する収縮力低下随伴性排尿筋過活動においても,両障害に対する改善作用を示し、収縮力低下随伴性排尿筋過活動に対する有効な治療剤となりうることが示された(試験例2)。

Claims (6)

  1. 3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物を含む、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患(尿道狭窄の患者を除く)の治療剤。
  2. 3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物を含む、収縮力低下随伴性排尿筋過活動(尿道狭窄の患者を除く)の治療剤。
  3. 3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物及び薬学的担体を含む、排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患(尿道狭窄の患者を除く)を治療するための医薬組成物。
  4. 3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物及び薬学的担体を含む、収縮力低下随伴性排尿筋過活動(尿道狭窄の患者を除く)を治療するための医薬組成物。
  5. 排尿筋過活動及び排尿筋収縮不全を併せ持つ疾患(尿道狭窄の患者を除く)の治療剤を製造するための、3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物の使用。
  6. 収縮力低下随伴性排尿筋過活動(尿道狭窄の患者を除く)の治療剤を製造するための、3-(15-ヒドロキシペンタデシル)-2,4,4-トリメチル-2-シクロヘキセン-1-オンもしくはその塩、又はその溶媒和物の使用。
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