本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示す本実施形態に係るマスタシリンダ1は、図示略のブレーキペダルの操作量に応じた力が図示略のブレーキブースタの出力軸を介して導入される。マスタシリンダ1は、ブレーキペダルの操作量に応じたブレーキ液圧を発生させる。このマスタシリンダ1には、鉛直方向上側にブレーキ液を給排するリザーバ2(図1において一部のみ図示)が取り付けられている。なお、本実施形態においては、マスタシリンダ1に直接リザーバ2を取り付けているが、マスタシリンダ1から離間した位置にリザーバを配置し、リザーバとマスタシリンダ1とを配管で接続するようにしても良い。
マスタシリンダ1は、金属製のシリンダ本体5を有している。シリンダ本体5は、シリンダ底部3とシリンダ筒部4とを有する有底筒状に一つの素材から加工されて形成される。このシリンダ本体5内のシリンダ開口6側には、シリンダ本体5から一部突出して金属製のプライマリピストン11(ピストン)が移動可能に配設されている。シリンダ本体5内のプライマリピストン11よりもシリンダ底部3側には、同じく金属製のセカンダリピストン12が移動可能に配設されている。
シリンダ本体5内のプライマリピストン11とセカンダリピストン12との間は、プライマリ圧力室14となっている。プライマリピストン11とセカンダリピストン12との間には、間隔調整部16が設けられている。間隔調整部16は、プライマリピストンスプリング15(ピストンスプリング)を含む。プライマリピストンスプリング15は、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態で、プライマリピストン11とセカンダリピストン12との間隔を決める。シリンダ本体5内のセカンダリピストン12とシリンダ底部3との間は、セカンダリ圧力室17となっている。セカンダリピストン12とシリンダ底部3との間には、セカンダリピストンスプリング18が設けられている。セカンダリピストンスプリング18は、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態で、セカンダリピストン12とシリンダ底部3との間隔を決める。シリンダ本体5のシリンダ開口6の外側には、プライマリピストン11のシリンダ本体5からの抜け出しを規制するストッパ部材19が取り付けられている。
プライマリピストン11には、いずれも底面を有する内周孔20(孔,基端側の孔)および内周孔21(孔,先端側の孔)が軸方向両側に形成されている。セカンダリピストン12には底面を有する内周孔22が形成されている。マスタシリンダ1は、いわゆるプランジャ型である。マスタシリンダ1は、上記したように2つのプライマリピストン11およびセカンダリピストン12を有するタンデムタイプのマスタシリンダである。なお、本発明の実施形態は、上記タンデムタイプのマスタシリンダへの適用に限られるものではなく、プランジャ型のマスタシリンダであれば、シリンダ本体に1つのピストンを配したシングルタイプのマスタシリンダや、3つ以上のピストンを有するマスタシリンダ等のいかなるプランジャ型のマスタシリンダにも適用できる。
シリンダ本体5には、取付台部23が、そのシリンダ筒部4の円周方向(以下、シリンダ周方向と称す)における所定位置に一体に形成されている。取付台部23は、シリンダ筒部4の径方向(以下、シリンダ径方向と称す)の外側に突出する。取付台部23には、リザーバ2を取り付けるための取付穴24および取付穴25が形成されている。なお、本実施形態においては、取付穴24および取付穴25は、互いにシリンダ周方向における位置を一致させた状態で、シリンダ本体5のシリンダ筒部4の軸線(以下、シリンダ軸と称す)方向における位置をずらして鉛直方向上部に形成されている。シリンダ本体5は、シリンダ軸方向が車両前後方向に沿う姿勢で車両に配置される。
シリンダ筒部4の取付台部23側には、シリンダ底部3の近傍にセカンダリ吐出路26が形成されている。また、セカンダリ吐出路26よりもシリンダ開口6側にプライマリ吐出路27が形成されている。これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27は、図示は略すが、ブレーキ配管を介してディスクブレーキやドラムブレーキ等の制動用シリンダに連通しており、セカンダリ圧力室17およびプライマリ圧力室14のブレーキ液を制動用シリンダに向けて吐出する。なお、本実施形態においては、これらセカンダリ吐出路26およびプライマリ吐出路27が、互いにシリンダ周方向における位置を一致させた状態でシリンダ軸方向における位置をずらして形成されている。
シリンダ筒部4のシリンダ底部3側の内周部には、シリンダ径方向内方に突出しシリンダ周方向に環状をなす摺動内径部28が形成されている。セカンダリピストン12は、この摺動内径部28の最小の内径面に摺動可能に嵌合されている。セカンダリピストン12は、この内径面で案内されてシリンダ軸方向に移動する。シリンダ筒部4の摺動内径部28よりもシリンダ開口6側の内周部には、摺動内径部29が形成されている。摺動内径部29は、シリンダ径方向内方に突出しシリンダ周方向に環状をなしている。プライマリピストン11は、この摺動内径部29の最小の内径面に摺動可能に嵌合されている。プライマリピストン11は、この内径面で案内されてシリンダ軸方向に移動する。
摺動内径部28には、円環状の周溝30、及び円環状の周溝31が、シリンダ底部3側からこの順に形成されている。周溝30、及び周溝31は、摺動内径部28に、シリンダ軸方向における位置をずらして複数、具体的には2カ所に形成されている。また、摺動内径部29にも、円環状の周溝32、及び円環状の周溝33がシリンダ底部3側からこの順に形成されている。周溝32、及び周溝33は、摺動内径部29に、シリンダ軸方向における位置をずらして複数、具体的には2カ所に形成されている。周溝30,31は、シリンダ周方向に環状をなして摺動内径部28の最小の内径面よりもシリンダ径方向外側に凹む形状をなしている。周溝32,33は、シリンダ周方向に環状をなして摺動内径部29の最小の内径面よりもシリンダ径方向外側に凹む形状をなしている。周溝30〜33は、いずれも全体が切削加工により形成されている。
周溝30〜33のうち最もシリンダ底部3側にある周溝30は、取付穴24および取付穴25のうちのシリンダ底部3側の取付穴24の近傍に形成されている。この周溝30内には、周溝30に保持されるように、円環状のピストンシール35が配置されている。
シリンダ本体5の摺動内径部28における周溝30よりもシリンダ開口6側には、開口溝37が形成されている。開口溝37は、シリンダ径方向外側に摺動内径部28の最小の内径面よりも凹む環状の形状を有する。この開口溝37は、シリンダ底部3側の取付穴24から穿設される連通穴36をシリンダ筒部4内に開口させる。ここで、この開口溝37と連通穴36とが、シリンダ本体5に設けられてリザーバ2に常時連通するセカンダリ補給路38を構成している。
シリンダ本体5の摺動内径部28の周溝30よりもシリンダ底部3側には、連通溝41が、シリンダ径方向外側に摺動内径部28の最小の内径面よりも凹むように形成されている。連通溝41は、周溝30に開口するとともに、周溝30からシリンダ軸方向に直線状にシリンダ底部3側に向け延出している。連通溝41は、シリンダ底部3と周溝30との間であってシリンダ底部3の近傍となる位置に形成されたセカンダリ吐出路26と周溝30とを、セカンダリピストン12とシリンダ底部3との間のセカンダリ圧力室17を介して連通させる。
シリンダ本体5の摺動内径部28には、シリンダ軸線方向における上記開口溝37の周溝30とは反対側、つまりシリンダ開口6側に、上記周溝31が形成されている。この周溝31内には、周溝31に保持されるように、円環状の区画シール42が配置されている。
シリンダ本体5の摺動内径部29には、シリンダ開口6側の取付穴25の近傍に、上記した周溝32が形成されている。この周溝32内には、周溝32に保持されるように、円環状のピストンシール45が配置されている。
シリンダ本体5の摺動内径部29におけるこの周溝32のシリンダ開口6側には、シリンダ径方向外側に開口溝47が形成されている。開口溝47は、摺動内径部29の最小の内径面よりも凹む環状の形状を有する。この開口溝47は、シリンダ開口6側の取付穴25から穿設される連通穴46をシリンダ筒部4内に開口させる。ここで、この開口溝47と連通穴46とが、シリンダ本体5に設けられてリザーバ2に常時連通するプライマリ補給路48を主に構成している。
シリンダ本体5の摺動内径部29の周溝32よりもシリンダ底部3側には、連通溝51が、シリンダ径方向外側に摺動内径部29の最小の内径面よりも凹むように形成されている。連通溝51は、周溝32に開口するとともに、周溝32からシリンダ軸方向に直線状にシリンダ底部3側に向け延出する。シリンダ本体5には、周溝31と周溝32との間であって周溝31の近傍となる位置にプライマリ吐出路27が形成される。シリンダ本体5には、プライマリピストン11とセカンダリピストン12との間に、プライマリ圧力室が形成される。連通溝51は、プライマリ吐出路27と周溝32とを、プライマリ圧力室14を介して連通させる。
シリンダ本体5の摺動内径部29における上記開口溝47の周溝32とは反対側、つまりシリンダ開口6に、周溝33が形成されている。この周溝33内には、周溝33に保持されるように、円環状の区画シール52が配置されている。
シリンダ本体5のシリンダ底部3側に配置されるセカンダリピストン12は、円筒状部55と、円筒状部55の軸線方向における一側に形成された底部56と、底部56から円筒状部55とは反対側に突出する突出部57とを有する。上記した内周孔22は、円筒状部55と底部56とにより形成されている。セカンダリピストン12は、円筒状部55をシリンダ本体5のシリンダ底部3側に配置した状態で、シリンダ本体5の摺動内径部28、摺動内径部28に設けられたピストンシール35および区画シール42のそれぞれに嵌合されている。セカンダリピストン12は、これらで案内されてシリンダ本体5内を摺動する。
円筒状部55の底部56とは反対の端側外周部には、凹部59が形成されている。凹部59は、セカンダリピストン12の外周面において最大の外径面よりも径方向内方に凹む円環状の形状を有する。凹部59には、その底部56側にシリンダ径方向に貫通するポート60が複数、シリンダ周方向の等間隔位置に放射状となるように形成されている。
セカンダリピストン12の内周孔22内には、コイルスプリングである上記したセカンダリピストンスプリング18が挿入されている。セカンダリピストンスプリング18は、軸方向の一端がセカンダリピストン12の底部56に当接する。セカンダリピストンスプリング18の軸方向の他端は、シリンダ本体5のシリンダ底部3に当接する。セカンダリピストンスプリング18は、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態でセカンダリピストン12とシリンダ底部3との間隔を決める。セカンダリピストンスプリング18は、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力があると縮長し、縮長に応じてセカンダリピストン12をシリンダ開口6側に付勢する。
ここで、シリンダ底部3と、シリンダ筒部4のシリンダ底部3側と、セカンダリピストン12とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してセカンダリ吐出路26にブレーキ液圧を供給する上記したセカンダリ圧力室17を構成する。言い換えれば、セカンダリピストン12は、シリンダ本体5との間に、セカンダリ吐出路26に液圧を供給するセカンダリ圧力室17を形成している。このセカンダリ圧力室17は、セカンダリピストン12がポート60を開口溝37に開口させる位置にあるとき、セカンダリ補給路38つまりリザーバ2に連通する。
シリンダ本体5の周溝31に保持される区画シール42は、合成ゴムからなる一体成形品である。区画シール42は、その中心線を含む径方向断面の片側形状がC字状をなしている。区画シール42は、リップ部分がシリンダ開口6側に向く状態で周溝31内に配置されている。区画シール42は、内周が、シリンダ軸方向に移動するセカンダリピストン12の外周面に摺接する。区画シール42の外周は、シリンダ本体5の周溝31に当接する。これにより、区画シール42は、セカンダリピストン12およびシリンダ本体5の区画シール42の位置の隙間を常時密封する。
シリンダ本体5の周溝30に保持されるピストンシール35は、EPDM等の合成ゴムからなる一体成形品である。ピストンシール35は、その中心線を含む径方向断面の片側形状がE字状をなしている。ピストンシール35は、リップ部分がシリンダ底部3側に向く状態で周溝30内に配置されている。ピストンシール35の内周は、シリンダ軸方向に移動するセカンダリピストン12の外周面に摺接する。ピストンシール35の外周は、シリンダ本体5の周溝30に当接する。
このピストンシール35は、セカンダリピストン12が基本位置(非制動位置)にあるとき、すなわち、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がなく、セカンダリピストン12が図1に示すようにポート60を開口溝37に開口させる位置にあるとき、上記セカンダリピストン12の凹部59内にあって、ポート60にその一部がシリンダ軸方向に重複する。この状態では、セカンダリ補給路38およびポート60を介してセカンダリ圧力室17とリザーバ2とが連通している。
図示略のブレーキブースタの出力によって、プライマリピストン11がシリンダ底部3側に移動すると、プライマリピストン11にプライマリピストンスプリング15を含む間隔調整部16を介して押圧されてセカンダリピストン12がシリンダ底部3側に移動する。その際に、セカンダリピストン12は、シリンダ本体5の摺動内径部28およびシリンダ本体5に保持されたピストンシール35および区画シール42の内周で摺動して移動する。シリンダ底部3側に移動すると、セカンダリピストン12は、ポート60をピストンシール35よりもシリンダ底部3側に位置させる状態となる。この状態で、ピストンシール35は、リザーバ2およびセカンダリ補給路38と、セカンダリ圧力室17との間を密封する状態になる。その結果、セカンダリピストン12がシリンダ底部3側にさらに移動すると、セカンダリ圧力室17内のブレーキ液が加圧される。セカンダリ圧力室17内で加圧されたブレーキ液は、セカンダリ吐出路26から車輪側の制動用シリンダに供給される。
他方、セカンダリ圧力室17内のブレーキ液を加圧している状態から、図示略のブレーキブースタの出力が小さくなると、セカンダリピストンスプリング18の付勢力によって、セカンダリピストン12がシリンダ開口6側に戻ろうとする。このセカンダリピストン12の移動によってセカンダリ圧力室17の容積が拡大していくことになるが、その際に、ブレーキ配管を介してのブレーキ液の戻りがセカンダリ圧力室17の容積拡大に追いつかなくなってしまうと、大気圧であるセカンダリ補給路38の液圧とセカンダリ圧力室17の液圧とが等しくなった後、セカンダリ圧力室17内の液圧は負圧となる。
すると、このセカンダリ圧力室17内の負圧が、ピストンシール35を変形させてピストンシール35と周溝30との間に隙間を形成する。これにより、セカンダリ補給路38のブレーキ液が、この隙間を通って、セカンダリ圧力室17に補給される。これにより、セカンダリ圧力室17の液圧を負圧状態から大気圧に戻す速度が速められる。
シリンダ本体5のシリンダ開口6側に配置されるプライマリピストン11は、図示略のブレーキブースタの出力軸側となる基端側の基端側円筒状部71と、基端側円筒状部71の軸線方向における一側に形成された底部72と、底部72の基端側円筒状部71とは反対側に形成された先端側円筒状部73とを有する。上記した内周孔20は、基端側円筒状部71と底部72とにより形成される。内周孔21は、先端側円筒状部73と底部72とにより形成されている。
プライマリピストン11は、先端側円筒状部73をセカンダリピストン12側に配置した状態で、シリンダ本体5の摺動内径部29、摺動内径部29に設けられたピストンシール45および区画シール52のそれぞれに嵌合されている。プライマリピストン11は、これらで案内されてシリンダ本体5内を摺動する。基端側円筒状部71の内側、つまり内周孔20内に、図示略のブレーキブースタの出力軸が挿入される。この出力軸によって底部72が押圧されてプライマリピストン11がシリンダ底部3側に前進する。
先端側円筒状部73の底部72とは反対の端側外周部には、凹部75が形成されている。凹部75は、プライマリピストン11の外周面において、最大径の外径面よりも径方向内方に凹む円環状の形状を有する。この凹部75には、その底部72側に径方向に貫通するポート76が複数、シリンダ周方向の等間隔位置に、放射状に形成されている。
プライマリピストン11のセカンダリピストン12側には、間隔調整部16が設けられている。間隔調整部16は、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がない非制動状態で、プライマリピストン11とセカンダリピストン12の間隔を決める。間隔調整部16は、プライマリピストンスプリング15と、プライマリピストンスプリング15の最大長を規制するスプリングリテーナ80と、から構成される。スプリングリテーナ80は、シート81と、ステム82と、を有している。シート81は、プライマリピストンスプリング15のシリンダ底部3に近い端部側を係止する係止部材である。ステム82は、シート81にシリンダ底部3に近い一端側が当接可能であり、シリンダ開口6に近い他端側がプライマリピストン11に螺合されて固定される棒状部材である。プライマリピストンスプリング15は、シリンダ開口6に近い側の端部がプライマリピストン11の底部72に当接し、シリンダ底部3に近い側の端部がシート81に当接する。プライマリピストンスプリング15は、シート81とプライマリピストン11の底部72との間に介装されている。プライマリピストン11は、軸方向両端部にそれぞれ内周孔20,21を有する。プライマリピストン11の先端側の内周孔21に、スプリングリテーナ80が固定されている。間隔調整部16は、シート81がセカンダリピストン12の底部56に当接する。その際に、シート81は、セカンダリピストン12の突出部57を内側に係合させる。
ステム82は、シート81の軸方向の移動範囲を規制しつつシート81を摺動可能に支持する。すなわち、ステム82は、ステム82およびこれが固定されたプライマリピストン11に対するシート81の所定範囲を越える移動を規制する。その結果、ステム82は、シート81に係止されたプライマリピストンスプリング15の伸長を、その最大長が所定長さを越えないように規制する。プライマリピストンスプリング15は、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力があってプライマリピストン11とセカンダリピストン12との間隔が狭まると縮長する。プライマリピストンスプリング15は、縮長に応じてプライマリピストン11を図示略のブレーキブースタの出力軸側に付勢する。
シリンダ本体5のシリンダ筒部4と、プライマリピストン11と、セカンダリピストン12とで囲まれて形成される部分が、ブレーキ液圧を発生してプライマリ吐出路27にブレーキ液を供給する上記したプライマリ圧力室14を構成する。言い換えれば、プライマリピストン11は、セカンダリピストン12とシリンダ本体5との間に、プライマリ吐出路27に液圧を供給するプライマリ圧力室14を形成している。このプライマリ圧力室14は、図1に示すようにプライマリピストン11がポート76を開口溝47に開口させる位置にあるとき、プライマリ補給路48、つまりリザーバ2に連通するようになっている。
シリンダ本体5の周溝33に保持される区画シール52は、区画シール42と共通の部品である。区画シール52は、合成ゴムからなる一体成形品である。区画シール52は、その中心線を含む径方向断面の片側形状がC字状をなしている。区画シール52は、リップ部分がシリンダ底部3側に向く状態で周溝33内に配置されている。区画シール52は、内周が、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン11の外周面に摺接するとともに、外周がシリンダ本体5の周溝33に当接する。これにより、区画シール52は、プライマリピストン11およびシリンダ本体5の区画シール52の位置の隙間を常時密封する。
シリンダ本体5の周溝32に保持されるピストンシール45は、ピストンシール35と共通の部品である。ピストンシール45は、EPDM等の合成ゴムからなる一体成形品である。ピストンシール45は、その中心線を含む径方向断面の片側形状がE字状をなしている。ピストンシール45は、リップ部分がシリンダ底部3側に向く状態で周溝32内に配置されている。ピストンシール45の内周は、シリンダ軸方向に移動するプライマリピストン11の外周面に摺接する。ピストンシール45の外周は、シリンダ本体5の周溝32に当接する。
ピストンシール45は、プライマリピストン11が基本位置(非制動位置)にあるときに、すなわち、図示略のブレーキブースタの出力軸から入力がなく、プライマリピストン11が図1に示すようにポート76を開口溝47に開口させる位置にあるとき、プライマリピストン11の凹部75内にあって、ポート76にその一部がシリンダ軸方向に重複する。この状態では、プライマリ補給路48およびポート76を介してプライマリ圧力室14とリザーバ2とが連通している。
図示略のブレーキブースタの出力によって、プライマリピストン11がシリンダ底部3側に移動する。その際に、プライマリピストン11は、シリンダ本体5の摺動内径部29およびシリンダ本体5に保持されたピストンシール45および区画シール52の内周で摺動して移動する。シリンダ底部3側に移動するとプライマリピストン11はポート76をピストンシール45よりもシリンダ底部3側に位置させる状態となる。この状態で、ピストンシール45は、リザーバ2およびプライマリ補給路48と、プライマリ圧力室14との間を密封する状態になる。これにより、プライマリピストン11がシリンダ底部3側にさらに移動すると、プライマリ圧力室14内のブレーキ液が加圧される。プライマリ圧力室14内で加圧されたブレーキ液は、プライマリ吐出路27から車輪側の制動用シリンダに供給される。
他方、プライマリ圧力室14内のブレーキ液を加圧している状態から、図示略のブレーキブースタの出力が小さくなると、プライマリピストンスプリング15の付勢力によって、プライマリピストン11がシリンダ底部3とは反対側に戻ろうとする。このプライマリピストン11の移動によってプライマリ圧力室14の容積が拡大していくことになるが、その際に、ブレーキ配管を介してのブレーキ液の戻りがプライマリ圧力室14の容積拡大に追いつかなくなってしまうと、大気圧であるプライマリ補給路48の液圧とプライマリ圧力室14の液圧とが等しくなった後、プライマリ圧力室14内の液圧は負圧となる。
すると、このプライマリ圧力室14内の負圧が、ピストンシール45を変形させてピストンシール45と周溝32との間に隙間を形成する。これにより、プライマリ補給路48のブレーキ液が、この隙間を通って、プライマリ圧力室14に補給される。これにより、プライマリ圧力室14の液圧を負圧状態から大気圧に戻す速度が速められる。
図2は、図1に示す間隔調整部16が取り付けられる前のプライマリピストン11を示す。図2に示すように、プライマリピストン11の基端側の内周孔20内には、治具111が嵌合する嵌合部101が形成されている。治具111は、プライマリピストン11の回転を抑制する。嵌合部101は、図3に示すように、基端側円筒状部71の内周部に形成された複数の嵌合溝102を有している。複数の嵌合溝102は、いずれも同形状でプライマリピストン11の軸方向に直線状に延在しており、プライマリピストン11の周方向に等間隔で配置されている。つまり、嵌合部101はセレーション形状をなしている。なお、嵌合部101は、治具と嵌合してプライマリピストン11の回転を抑制することができれば良い。例えば、互いに平行に対向する二平面を基端側円筒状部71の内周面、つまり内周孔20に形成する一方、治具に互いに反対に向く平行な二平面を形成して、これら治具および内周孔20を嵌合させても良い。
治具111には、図2に示すように、スプライン軸部112が形成されている。スプライン軸部112には、複数の凸状部113が形成されている。凸状部113は、いずれも同形状でスプライン軸部112の軸方向に直線状に延在しており、スプライン軸部112の周方向に等間隔で配置されている。治具111は、作業台等に固定されて用いられる。治具111は、スプライン軸部112がプライマリピストン11の嵌合部101に嵌合されると、各凸状部113が各嵌合溝102に嵌合する。これにより、プライマリピストン11の相対回転が抑制される。
内周孔20の底面を形成する底部72の軸方向の基端側円筒状部71側には、凹状部106が形成されている。凹状部106は、径方向の中央ほど軸方向の先端側に位置するように凹む形状を有する。凹状部106の径方向の中央位置は、最も凹む最深部107となっている。底部72のこの最深部107に、図示略のブレーキブースタの出力軸の先端部が当接する。
プライマリピストン11の先端側円筒状部73の内周面120は、底部72とは反対側つまり先端側から順に、円筒面部121とテーパ面部122と円筒面部123とを有している。円筒面部121は一定径の円筒面状をなしている。テーパ面部122は、円筒面部121の底部72側の端縁部から底部72側に位置するほど小径となるテーパ面状をなして延出している。円筒面部123は、テーパ面部122の底部72側の端縁部から一定径の円筒面状をなして底部72側に延出している。円筒面部121とテーパ面部122と円筒面部123とは中心軸線を一致させている。
プライマリピストン11の底部72の先端側円筒状部73側の底面125は、環状面部126と円筒面部127と環状面部128とを有している。環状面部126は、円環状をなしている。環状面部126は、円筒面部123のテーパ面部122とは反対側の端縁部から円筒面部123と直交して径方向内方に延出している。円筒面部127は、環状面部126の内周縁部から円筒面部121側に円筒面状をなして延出している。環状面部128は、円環状をなしている。環状面部128は、円筒面部127の環状面部126とは反対側の端縁部から円筒面部127と直交して径方向内方に延出する。円筒面部123と、環状面部126と、円筒面部127と、環状面部128とは中心軸線を一致させている。円筒面部123と、環状面部126と、円筒面部127とによって、内周孔21内には、底部72に環状凹部129が形成されている。環状凹部129は、環状面部128よりも基端側円筒状部71側に凹む円環状の形状を有する。
内周孔21内には、円柱状の取付部131が形成されている。取付部131は、底部72の径方向中央から先端側円筒状部73と同側つまり先端側に突出する。取付部131は、外周面132と、先端側の先端面133とを有している。外周面132は、環状面部128の内周縁部から底部72とは反対方向に円筒面状をなして延出している。先端面133は、外周面132の底部72とは反対側の端縁部から先端面133と直交して径方向内方に延出している。環状面部128と外周面132と先端面133とは中心軸線を一致させている。
取付部131には、径方向中央に先端面133から凹んでネジ孔141が形成されている。ネジ孔141は、プライマリピストン11を軸方向に貫通することなく所定深さまで形成されている。言い換えれば、ネジ孔141は、内周孔21内に開口する一方、内周孔20内には開口することなく形成されている。プライマリピストン11は、基端側円筒状部71、底部72、先端側円筒状部73および取付部131が、一つの素材から加工されて形成されている。
図4に示すように、ネジ孔141には、雌ネジ部144が形成されている。雌ネジ部144は、ネジ孔141の開口部142の開口端からその底部143よりも若干開口部142側までの範囲に形成されている。つまり、プライマリピストン11には雌ネジ部144が形成されている。雌ネジ部144を有するネジ孔141は、取付部131と同様にプライマリピストン11の中心軸上に形成されている。雌ネジ部144は、径方向内方に突出する螺旋状のネジ山145を有している。雌ネジ部144は、ネジ山145により、径方向外方に凹む螺旋状の谷146を有している。雌ネジ部144のネジ山145の内径D1はネジ山145の頂部を通る円筒の直径、つまりネジ山145の最小径である。また、雌ネジ部144の谷146の径D2は、谷146の底部を通る円筒の直径、つまり谷146の最大径である。谷146の径D2は、ネジ孔141の中でも最大径となっている。
ステム82は、図5に示すように、軸方向一端側から順に、円板状の大径部151と、大径部151よりも小径の円柱状の棒状部152と、棒状部152よりも小径となるように径方向に凹む円環状の環状溝部153と、雄ネジ部154とを有している。つまり、ステム82には、軸方向一端側に大径部151が形成されている。ステム82の軸方向他端側には、その先端(大径部151とは反対側の端)に雄ネジ部154が設けられている。ステム82には、雄ネジ部154よりも大径部151側、つまり軸方向一端側に環状溝部153が設けられている。ステム82には、環状溝部153よりも大径部151側、つまり軸方向一端側に棒状部152が形成されている。これら大径部151、棒状部152、環状溝部153および雄ネジ部154は、中心軸線を一致させている。ステム82は、一つの素材から加工されて形成されている。
ステム82の大径部151側つまり軸方向一端側には、多角形孔155が設けられている。多角形孔155には、ステム82を回転させるための工具161が挿入される。工具161は具体的には六角レンチである。よって、多角形孔155は、図6に示すように正面から見て正六角形状をなす孔となっている。
図4に示すように、棒状部152は、外周面165が、円筒面部166と円筒面部166の雄ネジ部154側のテーパ面部167とを有している。円筒面部166は一定径の円筒面状をなしている。テーパ面部167は、円筒面部166の雄ネジ部154側の端縁部から雄ネジ部154側に位置するほど小径となるテーパ面状をなして延出している。外周面165は、円筒面部166を主体としており、テーパ面部167は棒状部152の雄ネジ部154側に段状の先端側端部168を形成している。棒状部152の先端側端部168は、テーパ面部167とこれに繋がる円筒面部166の一部とを有している。先端側端部168の外径D3は、円筒面部166の径つまり先端側端部168の最大径となっている。
環状溝部153は、上記したテーパ面部167と、テーパ面部167の雄ネジ部154側の円筒面部171と、雄ネジ部154の棒状部152側の端面172とで形成されている。円筒面部171は一定径の円筒面状をなしている。端面172は、円筒面部171のテーパ面部167とは反対側の端縁部から円筒面部171と直交して径方向外方に延出している。円筒面部166、テーパ面部167、円筒面部171、端面172および雄ネジ部154は、中心軸線を一致させている。円筒面部171はテーパ面部167よりも軸方向長さが長くなっている。環状溝部153の外径D4は、溝底面となる円筒面部171の径、つまり環状溝部153の最小径である。
雄ネジ部154は、径方向外方に突出する螺旋状のネジ山175を有している。雌ネジ部154は、ネジ山175により、径方向内方に凹む螺旋状の谷176を有している。雄ネジ部154のネジ山175の外径D5は、ネジ山175の頂部を通る円筒の直径、つまりネジ山175の最大径である。また、雄ネジ部154の谷176の径D6は、谷176の底部を通る円筒の直径、つまりネジ山175の最小径である。ネジ山175の外径D5は、雄ネジ部154の中でも最大径となっている。
ここで、雄ネジ部154のネジ山175の外径D5は、先端側端部168を含む棒状部152の外径D3つまり円筒面部166の径と同径になっている。雄ネジ部154のネジ山175の外径D5は、雌ネジ部144の谷146の径D2とネジ山145の内径D1との間の大きさとなっている。
雄ネジ部154よりも棒状部152側に形成された環状溝部153の外径D4、つまり円筒面部171の径は、雄ネジ部154のネジ山175の外径D5と、雄ネジ部154の谷176の径D6との間の大きさとなっている。言い換えれば、棒状部152の先端側端部168、環状溝部153、および雄ネジ部154の中で、雄ネジ部154の谷176の径D6が最小となっている。雄ネジ部154の谷176の径D6は、雌ネジ部144のネジ山145の内径D1よりも小さくなっている。
環状溝部153の外径D4は、雌ネジ部144のネジ山145の内径D1と雌ネジ部144の谷146の径D2との間の大きさとなっている。さらに、先端側端部168を含む棒状部152の外径D3は、雌ネジ部144のネジ山145の内径D1よりも大径になっている。加えて、環状溝部153の底面である円筒面部171の軸方向の幅は、雌ネジ部144および雄ネジ部154のピッチ(リード)と同等以上になっている。ここで、棒状部152は、段差状をなしていても良く、その場合、少なくとも先端側端部168が雌ネジ部144のネジ山145の内径D1よりも大きな外径を有していればよい。
図7に示すように、シート81は、円筒状の嵌合口部181と、円環状の当接部182と、円筒状の胴部183と、環状の係止部184とを有している。当接部182は、嵌合口部181の軸方向一端側の端縁部から嵌合口部181に直交して径方向外方に延出する。胴部183は、当接部182の外周縁部から軸方向の嵌合口部181とは反対側に延出する。係止部184は、胴部183の当接部182とは反対側の端縁部から胴部183に直交して径方向外方に延出する。
シート81には、ステム82が、雄ネジ部154を先頭にして、係止部184側から胴部183および嵌合口部181の内側に挿入される。その際に、ステム82は棒状部152が嵌合口部181に摺動可能に嵌合する。また、ステム82は、大径部151が当接部182に当接することで嵌合口部181を通過してしまうことが規制される。
シート81およびステム82が、このように組み立てられてスプリングリテーナ80を構成する状態で、シート81の係止部184と、プライマリピストン11の底部72との間にプライマリピストンスプリング15を介装させる。そして、ステム82の大径部151に当接部182にて当接したシート81でプライマリピストンスプリング15を自然状態よりも縮長させながらステム82の雄ネジ部154をプライマリピストン11の雌ネジ部144に螺合させる。
その際に、プライマリピストン11の図2に示す嵌合部101に治具111のスプライン軸部112を嵌合させて、プライマリピストン11の回転を抑制した状態とする。そして、図5に示すステム82の多角形孔155に嵌合する工具161を回転させることにより、ステム82の雄ネジ部154をプライマリピストン11の雌ネジ部144に螺合させる。これにより、図7に示すように、シート81およびステム82からなるスプリングリテーナ80とプライマリピストンスプリング15とからなる間隔調整部16が、プライマリピストン11に組み付けられて、ピストン組立体191となる。
プライマリピストン11および間隔調整部16は、予め上記のように組み立てられたピストン組立体191の状態で、図1に示すシリンダ本体5に組み付けられる。つまり、シリンダ本体5の周溝30にピストンシール35を、周溝31に区画シール42を取り付けた状態で、セカンダリピストンスプリング18およびセカンダリピストン12をこの順番でシリンダ本体5内に挿入し、セカンダリピストン12をピストンシール35および区画シール42に嵌合させる。次に、シリンダ本体5の周溝32にピストンシール45を取り付ける。周溝33に区画シール52を取り付ける。ピストン組立体191をシリンダ本体5内に挿入する。プライマリピストン11をピストンシール45および区画シール52に嵌合させる。そして、プライマリピストン11を覆うように、ストッパ部材19をシリンダ本体5のシリンダ開口6側の係止溝198に係止させる。
図7に示すピストン組立体191は、シート81が、プライマリピストン11に固定されたステム82の大径部151に当接部182にて当接する。これにより、シート81の、プライマリピストン11から軸方向に離れる方向の移動が規制される。この状態で、プライマリピストンスプリング15は、自然状態よりも縮長した状態にある。
上記のようにステム82をプライマリピストン11に組み付ける際には、プライマリピストン11に対するプライマリピストンスプリング15のシート81側の端部までの長さが所定長さとなるまでねじ込む。その際に、まず、図8Aから図8Bに示すように、ステム82をその環状溝部153がネジ孔141の開口部142の位置に位置するまで仮締めする。この状態では、ステム82は、プライマリピストン11を変形させていない。その後、図8C、さらには図8Dに示すように増し締めする。
具体的には、図7に示すように、距離Lを、図示略のブレーキブースタの出力軸に当接するプライマリピストン11の基端側の凹状部106の最深部107から、シート81のプライマリピストン11とは反対側の端部までの距離であると定義したとき、距離Lが所定距離となるように、ステム82をねじ込む。言い換えれば、ステム82のねじ込みによって、プライマリピストン11に対するプライマリピストンスプリング15のシート81側の端部までの長さが所定長さとなるまで、棒状部152の先端側端部168をプライマリピストン11の雌ネジ部144内に配置する。さらに言い換えれば、ピストン組立体191の組み立て工程において、ステム82の組み付け量は、プライマリピストン11に対するプライマリピストンスプリング15のシート81側の端部までの長さが所定長さになるように管理される。これにより、ステム82が、シート81に一端側が当接してプライマリピストンスプリング15の長さを規制する状態となる。
スプリングリテーナ80のステム82は、上記のようにプライマリピストン11に対するプライマリピストンスプリング15のシート81側の端部までの長さが所定長さになるようにねじ込まれて規定の取付状態となる。
ステム82は、規定の取付状態となるまでねじ込まれると、図8Cおよび図8Dに示すように、棒状部152の先端側端部168によってプライマリピストン11の雌ネジ部144のネジ山145を軸方向に潰すまでプライマリピストン11に挿入されてプライマリピストン11に固定される。また、規定の取付状態となるまでねじ込まれたステム82は、棒状部152の先端側端部168が、プライマリピストン11の雌ネジ部144のネジ山145を塑性変形させることになり、軸方向において雌ネジ部144内に配置されている。
ステム82が規定の取付状態となるまでねじ込まれると、その先端側端部168は、プライマリピストン11の雌ネジ部144のネジ山145を軸方向に乗り越える。ステム82が規定の取付状態となるまでねじ込まれると、その先端側端部168は、塑性変形した雌ネジ部144のネジ山145と全周にわたって密着する。これにより、メタルコンタクトの閉ループの密閉部195が形成される。つまり、規定の取付状態となるまでねじ込まれたステム82は、棒状部152の先端側端部168によって、プライマリピストン11のネジ孔141をシールする。
以上のようにプライマリピストン11を塑性変形させることから、ステム82は、プライマリピストン11よりも硬い材料から構成されている。例えば、ステム82は鋼材で形成され、プライマリピストン11はアルミニウム合金の鋳造品あるいは鍛造品、鉄の鋳造品あるいは鍛造品からなっている。
上記した特許文献1に記載のマスタシリンダでは、ピストンバネをその最大長が所定長さとなるように規制した状態に予め組み立ててバネ組立体の状態にしておき、このバネ組立体をピストンに組み付ける。このため、ピストンバネの最大長を規制するためのリテーナに、ピストンバネの一端を係止する係止部材と、ピストンバネの他端を係止する係止部材と、一端が一方の係止部材に固定され、他端が他方の係止部材に移動可能に連結される連結部材との3部品が必要になっている。このため、部品点数が多くなり、コストが高くなってしまう。
また、上記した特許文献2に記載のマスタシリンダは、リテーナをピストンに直接取り付けて、これらの間に戻しバネを配置する。このため、部品点数を低減でき、コストを低減できる。しかしながら、リテーナを螺合させるため、ピストンにはネジ孔が必要である。このネジ孔には、リテーナ螺合後にエアが存在する。すると、このエアが使用時に流出すると、ペダルフィーリングを低下させてしまう可能性がある。
これに対して、本実施形態に係るマスタシリンダ1も、スプリングリテーナ80のステム82の他端側がプライマリピストン11に固定される。スプリングリテーナ80は、シート81に一端側が当接してプライマリピストンスプリング15の長さを規制する。このため、本実施形態に係るマスタシリンダ1によれば、部品点数が少なくなり、コストを低減することが可能になる。また、スプリングリテーナ80の部品点数が少なくなることから、規制するプライマリピストンスプリング15の最大長に影響する誤差の累積が少なくなり、この最大長の誤差を抑制できる。したがって、ブレーキペダルの無効ストロークのバラツキおよびマスタシリンダ1の特性のバラツキを抑制できる。
また、ステム82の棒状部152の少なくとも先端側端部168は、雌ネジ部144のネジ山145の内径D1よりも大きな外径D3を有する。このため、ステム82を、棒状部152の先端側端部168が雌ネジ部144内に配置されるまでねじ込むと、先端側端部168で雌ネジ部144のネジ山145を先端側端部168の形に倣うように変形させることが可能になる。よって、棒状部152の先端側端部168と変形後の雌ネジ部144のネジ山145とを密着させることが可能となる。したがって、ネジ孔141に残存するエアの流出を抑制することができ、ペダルフィーリングの低下を抑制することができる。
また、ステム82の環状溝部153が、雄ネジ部154のネジ山175の外径D5と雄ネジ部154の谷176の径D6との間の大きさの外径D4を有している。このため、棒状部152の先端側端部168が雌ネジ部144内に配置されるまでステム82を螺合させると、環状溝部153によっても雌ネジ部144のネジ山145を変形させることが可能になる。よって、環状溝部153と変形後の雌ネジ部144のネジ山145とを密着させることが可能となる。したがって、ネジ孔141に残存するエアの流出を抑制することができ、ペダルフィーリングの低下を抑制することができる。
また、ステム82の環状溝部153が、雌ネジ部144のネジ山145の内径D1と雌ネジ部144の谷146の径D2との間の大きさの外径D4を有している。このため、棒状部152の先端側端部168が雌ネジ部144内に配置されるまでステム82を螺合させると、環状溝部153によっても雌ネジ部144のネジ山145を変形させることができる。よって、環状溝部153と変形後の雌ネジ部144のネジ山145とを密着させることができる。したがって、ネジ孔141に残存するエアの流出を抑制することができ、ペダルフィーリングの低下を抑制することができる。
また、ステム82は、その棒状部152の先端側端部168によってプライマリピストン11の雌ネジ部144のネジ山145を軸方向に潰すまでプライマリピストン11に挿入されてプライマリピストン11に固定される。このため、雌ネジ部144のネジ山145を棒状部152の先端側端部168の形に倣うように変形させることが可能になる。よって、棒状部152の先端側端部168と変形後の雌ネジ部144のネジ山145とを密着させることが可能となる。したがって、ネジ孔141に残存するエアの流出を抑制することができ、ペダルフィーリングの低下を抑制することができる。
また、棒状部152の先端側端部168は、ステム82がプライマリピストン11に固定されている状態で、プライマリピストン11の雌ネジ部144のネジ山145を塑性変形させているため、プライマリピストン11の雌ネジ部144の一部のピッチをステム82の雄ネジ部154のピッチと異ならせることができる。よって、ステム82の軸方向移動を抑制できることになり、棒状部152の先端側端部168と変形後の雌ネジ部144のネジ山145との密着状態を良好に維持できる。加えて、スプリングリテーナ80が規制するプライマリピストンスプリング15の最大長の変動を抑制できる。したがって、ブレーキペダルの無効ストロークの変動およびマスタシリンダ1の特性の変動を抑制できる。
また、ステム82のねじ込みによって、プライマリピストン11に対するプライマリピストンスプリング15のシート81側の端部までの長さが所定長さとなるまで棒状部152の先端側端部168がプライマリピストン11の雌ネジ部144内に配置される。このため、規制するプライマリピストンスプリング15の最大長に影響する誤差の累積が少なくなり、規制した最大長の誤差を抑制できる。また、プライマリピストン11に対するプライマリピストンスプリング15のシート81側の端部までの長さを所定長さとすれば良いため、プライマリピストンスプリング15の最大長の規制の管理が容易となる。したがって、ブレーキペダルの無効ストロークのバラツキおよびマスタシリンダの特性のバラツキを容易に抑制できる。
また、プライマリピストン11の基端側の内周孔20内の嵌合部101に治具111を嵌合させてプライマリピストン11の回転を抑制した状態で、ステム82の多角形孔155に工具161を挿入してステム82を回転させることで、ステム82を良好にプライマリピストン11にねじ込むことができる。
また、ステム82は、棒状部152の先端側端部168によって、プライマリピストン11の雌ネジ部144が形成されたネジ孔141をシールする。このため、ネジ孔141に残存するエアの流出を抑制することができ、ペダルフィーリングの低下を抑制することができる。
以上の実施形態に基づくマスタシリンダとしては、例えば、以下に記載する態様のものがあげられる。マスタシリンダの第1の態様としては、シリンダ本体内を摺動するピストンと、該ピストンを付勢するピストンスプリングと、該ピストンスプリングの最大長を規制するスプリングリテーナと、を有するマスタシリンダにおいて、前記スプリングリテーナは、前記ピストンスプリングの端部側を係止する係止部材と、該係止部材に一端側が当接して前記ピストンスプリングの長さを規制し、他端側が前記ピストンに固定される棒状部材と、を有し、該棒状部材の前記他端側には、先端に設けられ前記ピストンに形成される雌ネジ部へ螺合される雄ネジ部と、該雄ネジ部のネジ山の外径と前記雄ネジ部の谷の径との間の大きさの外径、または、前記雌ネジ部のネジ山の内径と前記雌ネジ部の谷の径との間の大きさの外径を有して、前記雄ネジ部よりも前記一端側に形成される環状溝部と、該環状溝部よりも前記一端側に形成され、少なくとも先端側端部が前記雌ネジ部のネジ山の内径よりも大きな外径を有する棒状部と、が形成され、前記棒状部材は、前記棒状部の前記先端側端部が前記雌ネジ部内に配置されて前記ピストンに固定される。
第1の態様のマスタシリンダによれば、係止部材に一端側が当接してピストンスプリングの長さを規制するスプリングリテーナの棒状部材の他端側がピストンに固定される。このため、部品点数が少なくなり、コストを低減することが可能になる。スプリングリテーナの部品点数が少なくなることから、規制するピストンスプリングの最大長に影響する誤差の累積が少なくなり、この最大長の誤差を抑制できる。したがって、ブレーキペダルの無効ストロークのバラツキおよびマスタシリンダの特性のバラツキを抑制できる。また、棒状部材の棒状部の少なくとも先端側端部は、雌ネジ部のネジ山の内径よりも大きな外径、または、雌ネジ部のネジ山の内径よりも大きな外径を有する。このため、棒状部材を、棒状部の先端側端部が雌ネジ部内に配置されるまでねじ込むと、棒状部の先端側端部が雌ネジ部を先端側端部の形に倣うように変形させることが可能になる。よって、棒状部の先端側端部と変形後の雌ネジ部とを密着させることが可能となる。したがって、エアの流出を抑制することができ、ペダルフィーリングの低下を抑制することができる。また、棒状部材の環状溝部が、雄ネジ部のネジ山の外径と雄ネジ部の谷の径との間の大きさの外径を有している。このため、棒状部の先端側端部が雌ネジ部内に配置されるまで棒状部材を螺合させると、環状溝部によっても雌ネジ部のネジ山を変形させることが可能になる。よって、環状溝部と変形後の雌ネジ部とを密着させることが可能となる。したがって、エアの流出を抑制することができ、ペダルフィーリングの低下を抑制することができる。
マスタシリンダの第2の態様としては、第1の態様において、前記棒状部の前記先端側端部は、前記棒状部材が前記ピストンに固定されている状態で、前記ピストンの前記雌ネジ部のネジ山を塑性変形させている。
上記第2の態様によれば、棒状部材の軸方向移動を抑制できることになり、棒状部の先端側端部と変形後の雌ネジ部との密着状態を良好に維持できる。また、スプリングリテーナが規制するピストンスプリングの最大長の変動を抑制できる。
マスタシリンダの第3の態様としては、第1または第2の態様において、前記ピストンは、軸方向両端部にそれぞれ孔を有する。前記ピストンの先端側の孔に前記スプリングリテーナが固定される。前記棒状部の前記先端側端部は、前記棒状部材のねじ込みによって、前記ピストンに対する前記ピストンスプリングの前記端部までの長さが所定長さとなるまで前記ピストンの前記雌ネジ部内に配置される。
上記第3の態様によれば、規制するピストンスプリングの最大長に影響する誤差の累積が少なくなり、この最大長の誤差を抑制できる。また、ピストンに対するピストンスプリングの係止部材側の端部までの長さを所定長さとすれば良いため、ピストンスプリングの最大長の規制の管理が容易となる。したがって、ブレーキペダルの無効ストロークのバラツキおよびマスタシリンダの特性のバラツキを容易に抑制できる。
マスタシリンダの第4の態様としては、第1乃至第3のいずれかの態様において、前記棒状部材の前記一端側には、多角形孔が設けられる。前記多角形孔には、該棒状部材を回転させるための工具が挿入される。前記ピストンの基端側の孔内には、該ピストンの回転を抑制するための治具が嵌合する嵌合部が形成されている。
上記第4の態様によれば、ピストンの基端側の孔内の嵌合部に治具を嵌合させてピストンの回転を抑制した状態で、棒状部材の多角形孔に工具を挿入して棒状部材を回転させることで、棒状部材を良好にピストンにねじ込むことができる。
マスタシリンダの第5の態様としては、第1乃至第4のいずれかの態様において、前記棒状部材は、前記雄ネジ部よりも前記一端側に形成される棒状部の先端側端部によって、前記雄ネジ部が螺合される前記ピストンの雌ネジ部のネジ山を軸方向に潰すまで前記ピストンに挿入されて該ピストンに固定される。
上記第5の態様によれば、棒状部材は、その棒状部の先端側端部によってピストンの雌ネジ部のネジ山を軸方向に潰すまでピストンに挿入されてピストンに固定されるため、雌ネジ部を棒状部の先端側端部の形に倣うように変形させることが可能になる。よって、棒状部の先端側端部と変形後の雌ネジ部とを密着させることが可能となる。したがって、エアの流出を抑制することができ、ペダルフィーリングの低下を抑制することができる。
マスタシリンダの第6の態様としては、第1乃至第5のいずれかの態様において、前記棒状部材は、前記棒状部の前記先端側端部によって、前記ピストンの前記雌ネジ部が形成されたネジ孔をシールする。
上記第6の態様によれば、エアの流出を抑制することができ、ペダルフィーリングの低下を抑制することができる。