以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(1.従来技術についての検討)
まず、本発明の好適な一実施形態について説明するに先立ち、本発明をより明確なものとするため、本発明者らが従来技術について検討した内容について説明するとともに、本発明に想到した背景について説明する。
図1は、従来の振動検出装置の一構成例を示す概略図である。図1を参照すると、従来の振動検出装置60は、筐体610の中に加速度センサ620及び発電部630が搭載されて構成される。図1では、説明のため、筐体610を透過して内部の構成部材を図示している。図1に示すように、振動検出装置60は、診断対象である設備700の表面(設置面)に載置され固定されており、加速度センサ620によって設備700の振動を検出することができる。図中で、設備700の設置面に示す矢印は、設備700の主振動方向を模式的に示すものである。
なお、以下の説明では、簡単のため、設備700の設置面が略均一な平面であるとみなし、当該平面内で直交する2方向をx軸方向及びy軸方向と定義する。また、設備700の設置面と垂直な方向をz軸方向と定義する。
発電部630は、コイル640と、錘650と、ばね655と、永久磁石670と、が、筐体680の中に搭載されて構成される。筐体680と筐体610とは、例えばボルト等の接続部材(図示せず。)によって互いに接続されており、筐体610に対して発電部630が固定的に接続されている。
ばね655は、一端が筐体680の一面(上面)に接続され、他端に錘650が接続される。錘650の周囲にはコイル640が所定の巻き数で巻かれている。このように、ばね655は、先端に錘650とコイル640とから構成される可動部660が設けられた状態で、その延伸方向に伸縮可能に構成されている。また、永久磁石670は、ばね655の伸縮方向において可動部660と対向するように配置される。
図1に示すように、振動検出装置60は、設備700の設置面に対してばね655の伸縮方向が略垂直となるように(すなわち、ばね655の伸縮方向がz軸方向と略平行となるように)、設備700に取り付けられる。コイル640及び錘650(すなわち、可動部660)が、設備700の振動に応じてz軸方向に振動することにより、永久磁石670によってコイル640に印加される磁界が変化するため、コイル640に誘導起電力が発生する。このように、発電部630は、可動部660の振動に基づいて電力を発生させることができる。コイル640と加速度センサ620とは、例えば導線(図中に模式的に示す。)等によって電気的に接続されており、加速度センサ620は、発電部630において発電された電力によって駆動することができる。
ここで、図1に示すように、設備700の主振動方向がz軸方向と略平行であったとする。この場合、発電部630の可動部660の振動方向と設備700の主振動方向とが略平行となるため、設備700の振動に伴う可動部660の振動加速度はより大きなものとなる。可動部660の振動加速度が大きくなると、発電量が増加する反面、可動部660の振動が加速度センサ620の検出値に及ぼす影響が大きくなり、設備700における微小な振動が高精度に検出されないことが懸念される。設備700の診断項目の中には、このような微小な振動に基づいて設備700の異常が判断されるものもあるため、可動部660の振動成分は、加速度センサ620の検出値においてノイズとなる可能性がある。
一例として、振動検出装置60を製鉄プラントにおける焼結篩の軸受に取り付けた際の加速度センサ620の検出値(すなわち、振動信号)を、図2に示す。図2は、従来の振動検出装置60の加速度センサ620の検出値の一例を示すグラフ図である。図2では、横軸に時間を取り、縦軸に加速度センサ620の出力値である振動加速度(m/sec2)を取り、両者の関係性をプロットしている。
図2を参照すると、長波長(低周波)の正弦波が検出されているとともに、当該正弦波に対して短波長(高周波)の波形が重畳されて検出されていることが分かる。低周波の波形は、主に発電部630の可動部660による振動成分を表しており、例えば可動部660の固有振動を表している。一方、高周波の波形は、焼結篩において生じ得る高周波の振動を表している。焼結篩の診断では、このような高周波の振動に基づいて異常が判断されるものが存在する。従って、焼結篩の診断を行う際には、可動部660の固有振動成分はノイズとなり得る。ここでは、設備700の一例として焼結篩における振動信号を示したが、他の設備についても同様のことが言える。従って、可動部660の振動加速度が大きくなると、加速度センサ620の検出値において、診断時にノイズとなり得る低周波の波形がより支配的となり、本来観察したい高周波の振動信号の検出精度が低下する可能性がある。
しかしながら、可動部660の振動加速度があまりにも小さいと、発電部630での発電量が低下してしまい、振動検出装置60が正常に動作しなくなる可能性がある。このように、振動検出装置60においては、振動信号の検出精度と発電量とがトレードオフの関係にあるため、両者のバランスを考慮して発電部630の可動部660の振動加速度が制御されることが好ましい。
ここで、従来の振動検出装置60では、振動検出装置60を設備700に一旦載置したら、可動部660の振動方向が一意に決定されてしまい、その振動方向を調整することができない。例えば、図1に示す例では、可動部660の振動方向はz軸方向に固定されてしまう。しかしながら、設備700の種類や操業条件等に応じて、設備700の主振動方向は変化し得る。従って、従来の振動検出装置60では、振動信号の検出精度と発電量との双方を最適にするように可動部660の振動加速度を調整することは困難であると考えられる。
以上、図1及び図2を参照して、本発明者らが従来技術について検討した結果について説明した。以上説明したように、本発明者らは、従来技術について検討した結果、従来の振動検出装置60では、振動信号の検出精度及び発電量の双方を最適化することは困難であるとの知見を得た。本発明者らは、上記知見に鑑みて、振動信号の検出精度をより高精度に検出することが可能な構成について鋭意検討した結果、以下に示す本発明に係る振動検出装置及び振動検出方法に想到した。以下では、本発明者らが想到した、本発明の好適な一実施形態について詳細に説明する。
(2.振動検出装置の構成)
図3を参照して、本発明の一実施形態に係る振動検出装置の構成について説明する。図3は、本実施形態に係る振動検出装置の一構成例を示す概略図である。
図3を参照すると、本実施形態に係る振動検出装置10は、筐体110の内部に、加速度センサ120と、発電部130を構成する各種の部材が搭載されて構成される。図3では、説明のため、筐体110を透過して内部の構成部材を図示している。図3に示すように、振動検出装置10は、診断対象である設備700の表面(設置面)に載置され固定されており、加速度センサ120によって設備700の振動を検出することができる。図中で、設備700の設置面に示す矢印は、設備700の主振動方向を模式的に示すものである。
筐体110は上段部111と下段部112とに分割されており、上段部111に発電部130の各構成部材が搭載され、下段部112に加速度センサ120が搭載される。下段部112は、その一面が設備700への設置面に載置され固定されており、加速度センサ120は、筐体110の隔壁を介して設備700の設置面上に配設される。加速度センサ120を設備700の設置面上に配設することにより、設備700における指向性の低い振動や、高周波の振動を好適に検出することが可能となる。なお、筐体110の設備700との接触面には、隔壁が設けられなくてもよく、加速度センサ120が設備700の設置面に直接接触するように配設されてもよい。加速度センサ120を設備700に直接接触させることにより、上述した設備700における指向性の低い振動や高周波の振動を、より高い精度で検出することができる。
加速度センサ120は、振動を検出する振動センサの一例である。加速度センサ120は、例えば1軸の加速度センサであり、その検出軸が設備700の設置面に対して垂直となるように配置される。加速度センサ120により、設備700の振動が検出軸方向における加速度(m/sec2)として検出され得る。ただし、加速度センサ120はかかる例に限定されず、例えば2軸又は3軸の加速度センサであってもよい。また、加速度センサ120の種類は一意に限定されず、加速度センサ120としては、例えば静電容量型、ピエゾ抵抗型等、各種の方式の物が適用されてよい。更に、加速度センサ120の代わりに、他の物理量(例えば変位や速度)に基づいて振動を検出する振動センサが用いられてもよい。
発電部130は、コイル140と、錘150と、ばね155と、永久磁石170と、によって構成される。ばね155は、一端が筐体110の一面(上面)に接続され、他端に錘150が接続される。錘150の周囲にはコイル140が所定の巻き数で巻かれている。このように、ばね155は、先端に錘150とコイル140とから構成される可動部160が設けられた状態で、その延伸方向に伸縮可能に構成されている。また、永久磁石170は、ばね155の伸縮方向において可動部160と対向するように配置される。
図3に示す例では、設備700の設置面に対してばね155の伸縮方向が略垂直となるように(すなわち、ばね155の伸縮方向がz軸方向と略平行となるように)、振動検出装置10が設置されている。設備700が振動すると、錘150とコイル140とから構成される可動部160がz軸方向に振動し、ばね155がz軸方向に伸縮する。ばね155の伸縮により、永久磁石170によってコイル140に印加される磁界が変化するため、コイル140に誘導起電力が発生する。このように、発電部130では、コイル140及び錘150(すなわち、可動部160)が、設備700の振動に応じて振動することにより、電力を発生させることができる。
なお、本実施形態では、発電部130は、可動部160の振動に基づいて発電を行う機能を有すればよく、その具体的な構成は図1に示す例に限定されない。例えば、発電部130は、上記特許文献1に記載されているような、可動部が磁石によって構成されており、当該磁石がコイル内で振動することによって発電が行われるものであってもよいし、上記特許文献2に記載されているような、梁状の可動部を有し、当該梁の振動に基づいて発電が行われるものであってもよい。
コイル140と加速度センサ120とは、例えば導線(図中に模式的に示す。)等によって電気的に接続されており、加速度センサ120は、発電部130において発電された電力によって駆動することができる。なお、簡単のため、図3では図示を省略しているが、振動検出装置10は、発電部130において生じた交流電流を直流電流に変換する整流器や、発電部130によって発電された電力を蓄える蓄電部(バッテリ等)を更に備えてもよい。発電部130によって発電された電力は、当該整流器等の処理回路を介して蓄電部に一旦蓄電された後に、加速度センサ120に対して供給されてもよい。
ここで、本実施形態に係る振動検出装置10は、筐体110の上段部111と下段部112との間に、設備700への設置面に対する発電部130の設置角度を調整する、設置角度調整機構180が設けられる。設置角度調整機構180によって、発電部130の設置角度を適宜調整することにより、可動部160の振動方向を制御することが可能となる。なお、図3及び下記図4では、図面が煩雑になることを避けるため、設置角度調整機構180の詳細な図示を省略しているが、実際には、設置角度調整機構180として、上段部111と下段部112との間に、後述するラチェット機構のような、下段部112に対する上段部111の角度を変更可能な機構が設けられている。
図4に、設置角度調整機構180によって、発電部130の設置角度が変更された様子を示す。図4は、図3に示す振動検出装置10において、発電部130の設置角度が調整された場合の一例を示す概略図である。図4に示すように、設置角度調整機構180によって、発電部130をz軸方向に対して任意の角度(図4に示す例ではθ’)だけ傾けることができ、可動部160の振動方向を調整することができる。なお、図4に示す振動検出装置10の構成は、発電部130の設置角度が変更されていること以外は、図3に示す振動検出装置10と同様であるため、各構成部材についての詳細な説明は省略する。
具体的には、設置角度調整機構180は、下段部112に対して上段部111(すなわち発電部130)を回転させる回転機構によって構成され得る。例えば、当該回転機構は、図5に示すようなラチェット機構によって実現されてよい。図5は、本実施形態に係る設置角度調整機構180の具体的な構成の一例を示す図である。回転機構がラチェット機構によって実現されることにより、発電部130を所定の方向(図5に示す例では反時計回り)にのみ回転させる(傾ける)ことが可能となるとともに、逆方向に回転しないように発電部130の設置角度が所定の角度で固定され得る。また、本実施形態では、設置角度調整機構180は、アクチュエータ等の電気的な駆動機構を有さずに、例えば図5に示すラチェット機構のように作業者の手作業によって簡便に動作可能な機構によって構成され得る。これにより、発電部130の設置角度の調整作業を簡略化することができる。また、電力を消費させずに設置角度調整機構180を動作させることができるため、振動検出装置10における消費電力を低減することができる。
ここで、図3及び図4に示すように、設備700の主振動方向が、z軸方向に対して角度θcだけ傾いている場合について考える。この場合、設備700の主振動方向への振動加速度がG(m/sec2)(Gは重力加速度:1G≒9.8(m/sec2))であるとすると、図3に示すように可動部160の振動方向がz軸と平行である状態では、可動部160の振動加速度は、設備700の振動加速度であるG(m/sec2)よりも小さな値であるGcosθc(m/sec2)となる。一方、図4に示すように可動部160の振動方向が設備700の主振動方向と略平行となるように(すなわち、θ’=θcとなるように)発電部130の設置角度を調整した状態では、可動部160の振動加速度は、設備700の振動加速度であるG(m/sec2)と略一致することとなる。
図4に示す状態では、発電部130の可動部160が最大の加速度で振動し得るため、発電部130における発電量は最大になることが期待される。その反面、図2を参照して説明したように、加速度センサ120の検出値において、可動部160の固有振動が支配的となり、設備700の振動の高周波成分を高精度に検出できない可能性がある。また、例えば装置700の振動が非常に大きい場合には、可動部160の振動振幅が大きくなり、最悪の場合には発電部130が破損する恐れがある。
一方、図3に示す状態では、発電部130の可動部160の振動加速度が、図4に示す状態よりも小さくなるため、発電部130における発電量は低下する。しかしながら、加速度センサ120の検出値に対して可動部160の振動が及ぼす影響は小さくなるため、設備700の振動の高周波成分を高精度に検出することが可能となる。また、設備700の振動によって振動検出装置10の発電部130が破損する危険性を低減することができる。
このように、本実施形態では、発電部130の設置角度を調整可能な設置角度調整機構180を設けることにより、発電部130の可動部160の振動方向を任意に調整することが可能となる。従って、設備700への設置面にかかわらず、発電部130の設置角度を、加速度センサ120による振動信号の検出精度と、発電部130による発電量とのトレードオフが最適となるような角度に調整することができる。よって、効率的に発電を行うとともに、振動信号をより高精度に検出することが可能となる。なお、本実施形態に係る振動検出装置10は、比較的高い振動の指向性を有する装置700の診断に好適に適用され得る。振動の指向性が高い装置700であれば、その主振動方向(図3及び図4に示す矢印の方向)を事前に予測することが可能となるため、上記のような、加速度センサ120による振動信号の検出精度と、発電部130による発電量とのトレードオフが最適となるような発電部130の設置角度の調整を、より高い精度で行うことが可能となる。
具体的には、発電部130の具体的な設置角度は、例えば、過去に行われた診断時に取得された振動信号の履歴等に基づいて、設備700の種類や、操業条件、診断項目等に応じた、適切な振動信号の検出精度及び発電量を実現するように、適宜決定されてよい。例えば、可動部160の振動の影響の少ない、より高精度な振動信号に基づいて診断を行う必要がある場合であれば、例えば、可動部160の振動加速度が所定の値以下になるように、発電部130の設置角度が調整され、設備700の主振動方向に対する可動部160の振動方向の角度が調整される。このように発電部130の設置角度が調整されることにより、可動部160の振動が抑制され、加速度センサ120による検出値の精度を向上させることができる。
一方、診断項目によっては、診断に用いられる周波数帯域の関係から、可動部160の振動加速度が比較的大きくても、診断を精度よく行うことができる場合がある。このような場合には、例えば、より発電の効率を重視した設置角度(すなわち、設備700の主振動方向に対する可動部160の振動方向の傾きがより小さくなるような設置角度)が選択されてもよい。また、必要に応じて、発電部130における発電効率を更に向上させるために、可動部160の振動方向が設備700の主振動方向と略一致するように、発電部130の設置角度が調整されてもよい。
以上、図3−図5を参照して、本発明の一実施形態に係る振動検出装置10の構成について説明した。ここで、本実施形態では、発電部130のみが設置角度調整機構180によって可動であるように構成され、下段部112に搭載される加速度センサ120は設備700の設置面上に配設された状態で固定され得る。上述したように、加速度センサ120を設備700の設置面上に配設することにより、設備700の振動の高周波成分をより精度良く検出することが可能となるため、加速度センサ120の配設位置を変更せずに発電部130のみを回転させることにより、振動信号の検出精度を維持したまま、可動部160の振動の影響のみを低減することが可能となる。
また、振動検出装置10は、以上説明した構成以外にも、送信装置やマイコン等の他の構成を備えることができる。送信装置は、加速度センサ120によって検出された振動信号を外部機器(例えば振動信号に対して設備診断のための各種の信号処理を行う設備診断PC(Personal Computer))に無線で送信することができる。当該送信装置における通信方式は所定の方式に限定されず、当該送信装置は、例えば電波、超音波、赤外線等、公知な各種の通信方式を用いて振動信号を外部機器に送信することができる。また、送信装置は、診断対象の設備700の種類や、診断項目等に応じて、所定のタイミングで振動信号を外部機器に送信することができる。振動検出装置10に送信装置が備えられることにより、有線での通信により外部機器に振動信号を送信する必要がなくなる。従って、データ送信用のケーブルにより設備700の円滑な操業が妨げられる事態が防止される。また、データ送信用のケーブルが設けられることにより生じ得る他の問題、すなわち、設備700の振動に起因するケーブルの断線や、ケーブル敷設に伴うコストの増加等の諸問題を解決することが可能となる。
また、マイコンは、CPU等のプロセッサを有し、当該プロセッサによって、加速度センサ120及び上記送信装置の駆動が制御されてよい。マイコンに搭載されるプロセッサによって、例えば加速度センサ120における振動信号を取得する間隔(すなわちサンプリングレート)や、当該送信装置における振動信号を外部機器に送信するタイミング等が制御される。
送信装置やマイコン等の構成が振動検出装置10に一体的に組み込まれることにより、振動検出装置10の駆動がマイコンによって制御され、検出された振動信号が送信装置によって自動的に外部機器に送信され得る。従って、作業者は、振動検出装置10を設備700に取り付けた後は、外部機器に随時送信される振動信号に基づいて設備700の診断を行うことができるため、設備700の診断作業をより効率的に行うことが可能となる。また、送信装置やマイコン等は、発電部130によって発電された電力によって駆動され得るため、蓄電部であるバッテリ等の頻繁な交換作業も不要となる。
(3.振動検出方法)
図6を参照して、本実施形態に係る振動検出方法の処理手順について説明する。図6は、本実施形態に係る振動検出方法の処理手順の一例を示すフロー図である。
図6を参照すると、本実施形態に係る振動検出方法では、まず、診断対象の設備700及び診断項目に応じて、振動検出装置10における発電部130の最適設置角度が決定される(ステップS101)。発電部130の最適設置角度としては、例えば、上述したように、過去に行われた診断時に取得された振動信号の履歴に基づいて、診断対象の設備700及び診断項目に応じた、適切な振動信号の検出精度及び発電部130の発電量を実現するような設置角度が決定されてよい。
次に、ステップS101で決定された最適設置角度に基づいて発電部130の設置角度が調整され、振動検出装置10が診断対象である設備700に取り付けられる(ステップS103)。本実施形態では、設置角度調整機構180は、例えばラチェット機構のような機械的な簡易な機構によって実現され、アクチュエータ等の電気的な駆動機構は好適に用いられない。これにより、振動検出装置10の消費電力を低減できるとともに、作業者が手作業により容易に発電部130の設置角度を調整することが可能となり、振動検出装置10の取り付け作業の短時間化による作業の効率化を図ることができる。
次に、操業中における振動信号が加速度センサ120によって検出される(ステップS105)。そして、検出された振動信号は、例えば振動検出装置10に備えられる送信装置によって外部機器である設備診断PCに無線で送信される(ステップS107)。振動信号が設備診断PCに無線で送信されることにより、ケーブル等の信号線を設備700の周囲に敷設する必要がなくなるため、設備700の円滑な操業が維持される。また、設備700の振動に起因してケーブルが断線してしまうことにより診断が中断される事態を回避することができ、より安定的な設備700の診断が実現される。更に、ケーブルの敷設費用を削減することが可能となる。
次に、振動信号を受信した設備診断PCにおいて、振動信号に基づく各種の診断が行われる(ステップS109)。設備診断PCでは、公知な各種の振動信号に基づく設備700の診断が行われてよい。例えば、設備診断PCにおける診断では、例えば、診断項目に応じて振動信号から所定の周波数帯域の信号が抽出され、抽出された信号に対してエンベロープ処理や周波数解析処理等の各種の振動解析処理が行われる。
以上、図5を参照して、本実施形態に係る振動検出方法の処理手順について説明した。なお、本実施形態に係る振動検出方法では、ステップS103において振動検出装置10を設備700に取り付けた後は、ステップS105、S107に示す処理は、例えば振動検出装置10に備えられるマイコンのプロセッサや、設備診断PCのプロセッサ等により、所定のプログラムに従って自動的に実行され得る。また、振動検出装置10が発電部130を備え、発電部130によって発電された電力によって自身を駆動することができるため、蓄電部であるバッテリ等の頻繁な交換作業も不要となる。従って、作業者は、振動検出装置10を設備700に取り付けた後は、振動検出装置10に対して何らかの作業を行う必要がなく、設備診断PCによる診断結果を参照することにより、設備700の診断を行うことができる。よって、設備700の保守作業をより効率的に行うことが可能となる。
本発明の効果を確認するために、本発明を適用した振動信号の検出の実施例について説明する。実施例として、本実施形態に係る振動検出装置10を所定の設備700(例えば製鉄プラントにおける焼結篩の軸受)に取り付けた状態で、当該設備700の振動状態(例えば主振動方向や振動加速度の最大値)を様々に変化させながら、振動検出装置10の発電部130の可動部160の振動加速度を算出するシミュレーションを行った。同様に、比較例として、上述した図1に示す従来の振動検出装置60における、発電部630の可動部660の振動加速度を算出した。
まず、図7を参照して、本実施形態に係る振動検出装置10における発電効率の向上効果について説明する。図7は、本実施形態に係る振動検出装置10における発電効率の向上効果を示すグラフ図である。図7では、横軸に発電部130の設置角度θ’を取り、縦軸に実施例における発電部130の可動部160の振動加速度と比較例における発電部630の可動部660の振動加速度との比を取り、両者の関係性をプロットしている。また、図7では、設備700の主振動方向がz軸方向に対して45(deg)だけ傾いている場合(すなわち、θc=45(deg)である場合)と、設備700の主振動方向がz軸方向に対して60(deg)だけ傾いている場合(すなわち、θc=60(deg)である場合)と、における、実施例と比較例との振動加速度比を示している。
上述したように、従来の振動検出装置60では、発電部630の設置角度を調整することができず、図1に示すように、発電部630の可動部660の振動方向はz軸方向と平行である。従って、従来の振動検出装置60の可動部660の振動加速度は、図7においては発電部630の設置角度θ’=0(deg)上の点Bとして図示され得る。
一方、本実施形態に係る振動検出装置10では、発電部630の設置角度θ’を調整することができ、設置角度θ’を変化させることにより、可動部160の振動加速度も変化する。図7に示すように、振動加速度比は、設備700の主振動方向と可動部160の振動方向とが平行となるときに極大値を示す。具体的には、θc=45(deg)である場合には、振動加速度比は、発電部130の設置角度θ’=45(deg)のときに極大値を有し、その値は約1.4であった(図中点C)。また、θc=60(deg)である場合には、振動加速度比は、発電部130の設置角度θ’=60(deg)のときに極大値を有し、その値は約2.0であった(図中点D)。
このように、図7に示す結果から、本実施形態に係る振動検出装置10を用いることにより、θc=45(deg)である場合には、可動部160の振動加速度を従来に比べて約1.4倍にすることができることが分かった。また、同様に、θc=60(deg)である場合には、可動部160の振動加速度を従来に比べて約2.0倍にすることができることが分かった。振動検出装置10では、可動部160の振動加速度が大きいほど、発電部130における発電量は大きくなると言える。このように、本実施形態に係る振動検出装置10を適用し、発電部130の設置角度θ’を適宜調整することにより、発電部130での発電効率が従来に比して向上されることが確認された。
次に、図8を参照して、本実施形態に係る振動検出装置10における可動部160の振動抑制効果について説明する。図8は、本実施形態に係る振動検出装置10における可動部160の振動抑制効果を示すグラフ図である。図8では、横軸に発電部130の設置角度θ’を取り、縦軸に実施例における発電部130の可動部160の振動加速度を取り、両者の関係性をプロットしている。また、図8では、設備700のz軸方向における振動加速度が20(m/sec2)である場合と、設備700のz軸方向における振動加速度が30(m/sec2)である場合と、における、可動部160の振動加速度を示している。
例えば、本実施形態及び従来技術ともに、振動検出装置10、60の発電部130、630の可動部160、660の許容振動加速度が10(m/sec2)であったとする。従来の振動検出装置60では、発電部630の可動部660の振動方向はz軸方向と平行な状態から変更することができない。従って、設備700のz軸方向における振動加速度とほぼ同等の振動加速度によって可動部660が加振されることとなる。よって、図8に示すように20(m/sec2)や30(m/sec2)の振動加速度で設備700が振動している場合には、従来の振動検出装置60を適用することは難しい。
一方、本実施形態に係る振動検出装置10では、発電部630の設置角度θ’を調整することができる。図8に示すように、発電部130の設置角度θ’が大きくなるほど、可動部160の振動加速度比は小さくなり、所定の設置角度以上で可動部160の振動加速度が10(m/sec2)以下になり得る。具体的には、図8に示す結果から、設備700のz軸方向における振動加速度が20(m/sec2)である場合には、発電部130の設置角度θ’を60(deg)以上にすることにより、可動部160の振動加速度を10(m/sec2)以下に抑制できることが分かる。また、同様に図8に示す結果から、設備700のz軸方向における振動加速度が30(m/sec2)である場合には、発電部130の設置角度θ’を70(deg)以上にすることにより、可動部160の振動加速度を10(m/sec2)以下に抑制できることが分かる。
このように、本実施形態に係る振動検出装置10を適用し、発電部130の設置角度θ’を適宜調整することにより、設備700の振動加速度が大きい場合であっても、可動部160の振動を抑制できることが確認された。可動部160の振動が例えば許容振動加速度以下に抑制されることにより、設備700の振動に伴う加振により振動検出装置10が破壊されることがなく、設備700の診断を継続することができる。また、可動部160の振動が抑制されることにより、可動部160の振動が加速度センサ120の検出値に及ぼす影響を低減することができ、より高精度な振動信号の検出が可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。