JP6322303B2 - 歯付ベルト - Google Patents

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本発明は、歯付ベルトに関するものである。
自動車のオーバーヘッドカム軸(OHC)の伝動駆動、バランサー駆動、オイルポンプ駆動、スライドドアの開閉駆動など、自動車用途で用いられる歯付ベルトは、耐屈曲疲労性が求められる。そこで、歯付ベルトの心線にラング撚り心線を用いることで、耐屈曲疲労性を向上させる技術が知られている(特許文献1,2参照)。ここで、ラング撚りとは、繊維を1本または2本以上引き揃えて撚りを加え(下撚り)、これを2本以上引き揃えて下撚りと同じ方向に撚り(上撚り)を掛けたものである。
その一方、自動車用途で用いられる歯付ベルトは、寒冷地域の例えば−20〜−30℃の極低温状態の条件下で使用されたり、多湿や雨水がかかる条件下で使用されたりする。即ち、自動車用途で用いられる歯付ベルトは、使用環境によっては、耐屈曲疲労性を確保したまま、耐水性及び耐寒性が必要となることがある。
例えば、降雨時の自動車走行等、多湿や雨水がかかる条件下では、歯付ベルトが水分と接触して、埋設している心線にまで水が浸入すると、水に濡れた心線が膨潤し、心線周りを被覆している接着成分(RFL固形分)が離脱する。そして、水分が心線の屈曲による疲労劣化を促進し、心線の切断に至り、歯付ベルトの強力が著しく低下することで、歯付ベルトの切断が起こりやすくなるという問題が生じる。そこで、歯付ベルトの心線を諸撚り心線にして、諸撚り心線に対して、ゴム糊やオーバーコート等の表面処理により耐水性を向上させる技術が開発されている(特許文献3,4参照)。ここで、諸撚りとは、繊維を1本または2本以上引き揃えて撚りを加え(下撚り)、これを2本以上引き揃えて下撚りと反対方向に撚り(上撚り)を掛けたものである。諸撚り心線は、ラング撚り心線に比べると、キンクの発生が少ないという効果はある。しかし、このような諸撚り心線の歯付ベルトでは、耐屈曲疲労性が不充分であるという問題が生じる。従って、耐屈曲疲労性を確保したまま、耐水性に優れた歯付ベルトが求められる。
また、寒い地域、すなわち極低温(例えば−20〜−30℃)での条件下では、例えば、夜間の自動車のエンジンが停止している間に歯付ベルトは極低温状態で放置され、プーリに巻きかかった箇所が屈曲したまま低温で硬化する。硬化した歯付ベルトは、朝のエンジンの起動時に大きなトルクが必要となり、かかる状態で歯付ベルトを用いると、急激に伸ばされることによって激しく疲労し、早期のクラック発生や、クラックが拡大して歯付ベルトが切断に至る虞がある。従って、極低温状態で放置しても硬化せず、小さいトルクで起動できる、耐寒性に優れた歯付ベルトが求められる。
実公昭59−15780号公報 特公昭62−7413号公報 特開平7−27179号公報 特開平9−124802号公報
本発明は、上記のような課題を解決するものであり、耐屈曲疲労性を確保したまま、耐水性及び耐寒性に優れた歯付ベルトを提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明の歯付ベルトは、ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置される歯部、心線、及び該心線を埋設した背部を有する歯付ベルトであって、前記心線は、ラング撚りのガラス繊維、加硫助剤を含む接着処理層及びオーバーコート処理層を含み、前記心線の表面に前記接着処理層が形成されると共に前記接着処理層の表面に前記オーバーコート処理層が形成され、前記心線が前記ラング撚りからなり、且つ、前記心線に前記オーバーコート処理層が形成されていることにより、耐水性を備え、前記心線が前記ガラス繊維で形成されていることにより、耐寒性を備える。
本発明の歯付ベルトの構成によれば、心線をラング撚りにすることで、諸撚り心線に比べると、水が浸入し、膨潤したとしても耐摩耗性に優れているため、構造的に表面がこすれにくく接着成分が離脱しにくい。そのため、心線の保護が比較的残っており、耐水性が向上する。また、心線の接着処理層の表面に更にオーバーコート処理層が形成されているため、心線内への浸水が原因となる繊維の切断等が発生しにくくなる。また、心線をガラス繊維で構成することで、伸びや温度変化が小さいため、寸法安定性に優れており、常温だけでなく極低温でも耐屈曲疲労性を維持することができる。
また、心線の表面に形成される接着処理層に加硫助剤を添加することで、接着処理層中に含まれるゴム組成物とオーバーコート処理層を構成するゴム組成物との層間の化学的結合力が強化されて接着性が向上し、心線の接着処理層の剥離が抑制され、心線の耐水性が向上する。更に、接着処理層中に含まれるゴム組成物自身の化学的結合力(架橋の力)が強化され、その結果、接着処理層の凝集破壊による剥離(即ち、層間剥離)よりも、接着対象であるオーバーコート処理層の破壊による剥離が先行すると考えられる。
上記歯付ベルトにおいて、前記接着処理層は、加硫助剤が添加されない層と、前記加硫助剤が添加されない層の表面に形成された前記加硫助剤が添加された層からなることが好ましい。これにより、接着処理層に含まれるゴムラテックス成分の架橋よりもRFの熱硬化が優先される。
更に、上記歯付ベルトにおいて、前記接着処理層は、前記加硫助剤が添加された層が、前記加硫助剤が添加されない層に比べて、ゴムラテックス成分を多く含むことが好ましい。これにより、親和性の異なる繊維とゴムの両方に対する、接着処理層の接着性を高めることができる。
上記歯付ベルトにおいて、前記ガラス繊維は、無アルカリガラスであることが好ましい。これにより、安価である無アルカリガラスを用いて歯付ベルトを構成することができる。
上記歯付ベルトにおいて、前記心線は、前記ガラス繊維に下撚りおよび上撚りを加えてラング撚りにしたものであり、前記下撚り数が8〜16T/10cmであることが好ましい。更に、前記心線は、前記上撚り数が8T/10cmであることが好ましい。
以上の説明に述べたように、本発明によれば、耐屈曲疲労性を確保したまま、耐水性及び耐寒性に優れた歯付ベルトを得ることができる。
本発明の実施形態に係る歯付ベルトの断面斜視図である。 本実施例に係る歯付ベルトにおいて、注水走行試験前後の引張強さについて測定した結果を示すグラフである。 本実施例に係る歯付ベルトにおいて、注水走行試験前後の引張強さに基づいて算出された引張強さ保持率を示すグラフである。 本実施例に係る歯付ベルトにおいて、起動トルク測定試験の結果を示すグラフである。
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[歯付ベルトの構成]
図1に示すように、本実施形態の歯付ベルト1は、ベルト長手方向(図中矢印)に沿って所定間隔で配置された複数の歯部2、複数の心線3、及び複数の心線3が埋設された背部4を有するベルト本体10と、複数の歯部2の表面を被覆する歯布5とを有する。
複数の歯部2と背部4とを有するベルト本体10は、ゴム組成物から構成される。このベルト本体10を構成するゴム組成物は、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム(HNBR)、天然ゴム、EPT(エチレン・プロピレン・ターポリマー)、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム等が用いられる。ベルト本体10を構成するゴム組成物は、耐寒性の良いポリマーであることが好ましい。特に、安価という観点では、クロロプレンゴムが好ましい。尚、歯部2と背部4を構成するゴム組成物は、同じゴム組成物を使用しても、異なるゴム組成物を使用してもよい。
背部4を構成するゴム組成物には、可塑剤を添加する。尚、可塑剤は、背部4を構成するゴム組成物に添加していれば良く、歯部2を構成するゴム組成物には、添加していても添加していなくても良い。可塑剤を添加することで、極低温で長時間放置しても歯付ベルトが硬化せず、常温時と大差の無い程度のしなやかさを有することができる。可塑剤としては、例えばエーテル系、エステル系、エーテルエステル系、フタル酸系、アジピン酸系等の可塑剤を使用することができる。なかでも、少量の添加で極低温時にも常温時と大差の無い程度のしなやかさをゴム組成物に付与することができるアジピン酸系可塑剤が最も好ましい。アジピン酸系可塑剤としては、アジピン酸ジオクチル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)等が挙げられる。ここで、常温時と大差無い程度のしなやかさとは、具体的には、−30℃でのゴム硬度が、25℃でのゴム硬度に比べて+0〜+4°であることが好ましい。尚、ゴム硬度は、JIS K 6253(2012)に準拠したタイプAデュロメータを用いて測定した硬度で、−30℃及び25℃それぞれの雰囲気下で90分間放置した歯付ベルト1の背面ゴムの硬度で判定する。
可塑剤の添加量としては、ゴム成分100質量部に対して5〜20質量部である。添加量が5質量部未満であると、極低温時に常温時と大差の無い程度のしなやかさをゴム組成物に付与することができない。一方、添加量が20質量部を超えると、歯付ベルト1が柔らかくなりすぎるため、歯付ベルト1の歯せん断力が低くなる。ここで、可塑剤を添加しても耐歯欠け性を確保するためには、歯付ベルト1の歯せん断力が、800〜1500Nであることが好ましい。尚、歯せん断力は、歯付ベルト1の1つの歯を一定圧力で押え付けた状態で、オートグラフによって50±10mm/minの速度で引っ張り、引張値の最大値を歯せん断力とする。更に、極低温においても耐クラック性を維持するために、−30℃での起動トルクが、30cN・m未満であることが好ましい。尚、起動トルクは、2軸のレイアウトのプーリに巻きかけた状態で、−30℃の雰囲気下に90分間放置した歯付ベルト1に対して、プーリを180°回転させて起動させるのに必要なトルクを判定する。
ベルト本体10の背部4には、それぞれベルト長手方向に延在する複数の心線3が、ベルト幅方向に並べて背部4に埋設されている。この心線3は、ガラス繊維を1本または2本以上引き揃えて撚りを加え(下撚り)、これを2本以上引き揃えて下撚りと同じ方向に撚り(上撚り)を掛けたラング撚りからなる心線である。ラング撚りにすることで、常温だけでなく極低温でも耐屈曲疲労性は維持できるとともに、心線3の耐水性を向上させることができる。ラング撚りの心線3は、水が浸入し、膨潤したとしても耐摩耗性に優れているため、構造的に表面がこすれにくく接着成分が離脱しにくい。そのため、諸撚り心線に比べると、心線3の保護が比較的残っており、耐水性が向上する。また、心線3を構成するガラス繊維としては、無アルカリガラス(Eガラス)あるいは、Si成分の多い高強度ガラス(K、U、Sガラス)の何れでも良く、フィラメントの太さ及びフィラメントの収束本数及びストランド本数に制限されない。これらのガラス繊維の中でも、「安価」という観点から無アルカリガラス(Eガラス)が最も好ましい。
心線3は、背部4を構成するゴム組成物との接着性を高めるために接着処理を行う。ここで、接着処理としては、例えば、心線3を構成するガラス繊維をレゾルシン−ホルマリン−ラテックス処理液(RFL処理液)に浸漬後、加熱乾燥して、表面に均一に接着処理層を形成する。RFL処理液は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合体をラテックスに混合したものであり、ここで使用するラテックスとしては、クロロプレン、スチレン・ブタジエン・ビニルピリジン三元共重合体(VPラテックス)、水素化ニトリル、NBR等が挙げられる。尚、接着処理として、エポキシ又はイソシアネート化合物で前処理を行った後に、RFL処理液で処理する方法等もある。
ここで、RFL処理液には、硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、マレイミド系化合物のうち少なくとも1つの加硫助剤、又は、これらの加硫助剤を水に分散させたものを添加することが好ましい。硫黄化合物の水分散物としては、例えば、硫黄の水分散物やテトラメチルチウラムジスルフィドなどが採用され得る。キノンオキシム系化合物としては、例えば、p−キノンジオキシムなどが採用され得る。メタアクリレート系化合物としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレートやトリメチロールプロパントリメタクリレートなどが採用され得る。マレイミド系化合物としては、例えば、N,N´−m−フェニレンビスマレイミドやN,N´−(4,4´−ジフェニルメタンビスマレイミド)などが採用され得る。尚、「当該加硫助剤を水に分散させたもの」における「水」は、例えばメタノールなどのアルコールを若干程度含むものであっても良い。これによれば、「当該加硫助剤」が水に対して不溶性の場合であっても、「当該加硫助剤」の水に対する親和性が向上して「当該加硫助剤」が分散し易くなる。
このように、RFL処理液に加硫助剤を添加することで以下の効果が期待される。即ち、RFL処理液中に含まれるゴムラテックス成分と外層ゴム(後述するオーバーコート処理で形成されるオーバーコート処理層を構成するゴム組成物を意味する。)との層間の化学的結合力が強化されることで、接着性が向上し、心線3の接着処理層の剥離が抑制され、心線3の耐水性が向上する。更に期待される効果として、RFL処理液中に含まれるゴムラテックス成分自身の化学的結合力(架橋の力)が強化され、その結果、接着層(接着処理層)の凝集破壊による剥離(即ち、層間剥離)よりも、接着対象である上記外層ゴムの破壊による剥離が先行すると考えられる。
また、RFL処理液に加硫助剤を添加する場合、心線3を構成するガラス繊維の浸漬処理を2回に分けて実行しても良い。この場合、まず、1回目の浸漬処理においては、RFL処理液には、前述した何れの加硫助剤も添加しないこととする。これは、1回目の浸漬処理においては、ゴムラテックス成分の架橋よりもRFの熱硬化を優先するためである。一方、2回目の浸漬処理においては、1回目のRFL処理液と比較してゴムラテックス成分を多く含み、硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、及びマレイミド系化合物のうち少なくとも1つの加硫助剤、又は、加硫助剤を水に分散させたものを添加したRFL処理液を使用する。なお、1回目の浸漬処理と2回目の浸漬処理とで、RFL処理液のゴムラテックス成分の割合に差を設けるのは、親和性の異なる繊維とゴムの両方に対する、RFL層の接着性を高める為である。
また、RFL処理等の接着処理した心線3の接着処理層の表面に、更にゴム糊等をオーバーコート処理して、オーバーコート処理層を形成する。RFL処理等の接着処理層の表面に更にオーバーコート処理層が形成されるため、心線3の耐水性が高まり、心線3内への浸水が原因となるガラス繊維の切断等が発生しにくくなる。ここで、オーバーコート処理としては、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロスルフォン化ポリエチレンゴム(CSM)等のゴム組成物をメチルエチルケトン、トルエン、キシレン等の有機溶剤に溶解した処理液に、RFL処理等の接着処理した心線3を浸漬後、加熱乾燥して表面に均一にオーバーコート処理層を形成することで行われる。
歯布5は帆布で形成されており、ベルト長手方向に延在する経糸7とベルトの幅方向に延在する緯糸6とを織成してなる繊維織物を基材とする。緯糸6、経糸7等を形成する繊維材料の材質としては、それぞれナイロン、アラミド、ポリエステル、ポリベンゾオキサゾール、綿等の何れかまたはこれらの組み合わせが採用できる。繊維の形態は、フィラメント糸及び紡績糸の何れでもよく、単独組成の撚糸または混撚糸、混紡糸の何れであってもよい。歯付ベルトの場合、使用環境と要求寿命により、ナイロン、アラミド等が好適に使用される。歯布の織成構成は、綾織り、繻子織り、平織り等何れでも良い。
ベルト本体10のゴム組成物と歯布5の接着性を高めるために、歯布5には以下のような工程を含む一連の接着処理を経て、歯部2を構成するゴムに接着されることが好ましい。
(1)歯布5を構成する繊維織物をRFL処理液に浸漬後、加熱乾燥して表面に均一に接着処理層を形成する。ここで、上述と同様に、RFL処理液には、硫黄化合物の水分散物、キノンオキシム系化合物、メタアクリレート系化合物、及びマレイミド系化合物のうち少なくとも1つの加硫助剤、又は、これらの加硫助剤を水に分散させたものを添加することが好ましい。
(2)ゴム組成物をメチルエチルケトン、トルエン、キシレン等の有機溶媒に溶解してゴム糊とし、エポキシ又はイソシアネート化合物をこのゴム糊に含めた処理液を調整し、これに歯布5を浸漬させ、前処理を行う。
(3)ゴム組成物をメチルエチルケトン、トルエン、キシレン等の有機溶媒に溶解してゴム糊とし、このゴム糊に歯布5を浸漬処理して、歯布5にゴム組成物を含浸、付着させ、接着処理層を形成する。
なお、上記(1)〜(3)の接着処理は、全てを行う必要はなく、必要に応じて、いずれか1つを単独で、或いは、2以上の複数を組み合わせて行うことができ、処理順序や処理回数は特に限定されない。但し、(2)の前処理は、(3)のゴム糊処理の前に行われる。例えば、(1)の処理においてRFL処理液に加硫助剤を添加する場合には、この処理のみで繊維織物とゴム間の接着力がかなり高められることから、(2)の前処理、または、(2)の前処理と(3)のゴム糊処理を省略しても良い。ここで、(1)のRFL処理液に加硫助剤を添加した場合には、後述するコート処理で使用するゴム糊と圧延ゴムにも、RFL処理液に添加した加硫助剤と同一のものを添加することが好ましい。これにより、RFL処理液で処理された繊維織物とゴム糊の間の接着力の著しい改善が期待できる。
また、接着処理した歯布5とベルト本体10のゴム組成物との接着性をより高めるために、歯布5とゴム組成物とをカレンダロールに通して、歯布5にゴム組成物を刷り込む処理や、歯布5の歯部2との接着面側にゴム組成物を積層する処理を施してもよい。即ち、歯布5を構成する繊維織物の表面に、圧延ゴムをコーティングして、接着処理層を形成する処理を行っても良いし、ゴム糊と圧延ゴムとを、歯布5を構成する繊維織物から歯部2へ向かって、この順にコーティングして、接着処理層を形成する処理を行っても良い。これらの処理は、コート処理とも称される。
[歯付ベルトの成形方法]
本実施形態に係る歯付ベルト1は、例えば、以下の工法で作製される。まず、歯付ベルト1の歯部2に対応する複数の凹条を有する円筒状モールドに、歯布5を形成する帆布を巻き付ける。続いて、帆布が巻き付けられた円筒状モールドに心線3を構成するコードを円筒状モールドの長手方向に所定のピッチを有するように巻き付ける。次に、背部4及び歯部2を形成するゴムシートを巻き付けて未加硫スリーブを形成する。そして前記未加硫スリーブが巻き付けられた円筒状モールドを加硫缶内に移し、加熱・加圧することにより、上記ゴムシートをモールド溝部に圧入させ、歯部2を形成する。得られたスリーブ状の成形体を所定のカット幅に従って切断刃で切断することにより、個々の歯付ベルト1が得られる。
または、歯付ベルト1は、予備成型工法により作製することができる。予備成型工法では、以下の手順で作製する。まず、歯型を有する金型によって歯布5と歯部2とを予め成型し、予備成形体を得る。次に、得られた予備成形体を金型に巻きつけ、その上に心線3を螺旋状にスピニングする。そして、その上に背部4を構成する未加硫ゴムを巻いた後、全体を加硫缶で加硫して、歯付ベルト1が得られる。この予備成型工法においては、加硫前に歯布5と歯部2が予め成型される為、加硫時に背部4を構成する未加硫ゴムを心線の間から内側(腹側、即ち、歯部2側)へ流動させ、歯布5を緊張させて歯部2を形成する必要がない。そのため、心線間距離(ピッチ)を狭くすることが可能となる。
以上のように、本実施形態に係る歯付ベルト1は、心線3をラング撚りにすることで、諸撚り心線に比べると、水が浸入し、膨潤したとしても耐摩耗性に優れているため、構造的に表面がこすれにくく接着成分が離脱しにくい。そのため、心線の保護が比較的残っており、耐水性が向上する。また、心線3の接着処理層の表面に更にオーバーコート処理層が形成されているため、心線3内への浸水が原因となる繊維の切断等が発生しにくくなる。また、心線3をガラス繊維で構成することで、伸びや温度変化が小さいため、寸法安定性に優れており、常温だけでなく極低温でも耐屈曲疲労性を維持することができる。更に、背部4を構成するゴム組成物に可塑剤を添加することで、極低温で長時間放置しても歯付ベルト1が硬化せず、常温時と大差の無い程度のしなやかさを有し、耐寒性を向上させることができる。
[歯付ベルトの心線の耐水性評価試験]
まず、本実施例に係る歯付ベルトの心線1〜3及び比較例に係る歯付ベルトの心線4〜6について、耐水性評価試験を行った。
心線1〜6は、それぞれ、ガラス繊維に下撚り、上撚りを加えたものを用いた。心線1は、下撚り数を16(T/10cm)とし、上撚り数を8(T/10cm)とし、心線2,4〜6は、下撚り数を12(T/10cm)とし、上撚り数を8(T/10cm)とし、心線3は、下撚り数を8(T/10cm)とし、上撚り数を8(T/10cm)とした。ここで、ガラス繊維は、Eガラスを使用した。ガラス繊維は、原糸がECG−150であり、ストランドの構成が3/6であり、心線径が0.9mmである。心線1〜3,6はラング撚りで構成し、心線4,5は諸撚りで構成した。
そして、心線1〜6について、それぞれ、RFL処理液にて接着処理(RFL処理)した。接着処理では、下撚り、上撚りを加えたガラス繊維を表1に示すRFL処理液に浸漬後、200〜280℃で熱処理した。
RFL処理後、心線1〜3,5について、それぞれ、オーバーコート処理をした。オーバーコート処理では、RFL処理後のガラス繊維を、表2に示す処理液に浸漬後、130〜180℃で熱処理した。
以上のように作製した心線1〜6の構成を以下の表3に示す。尚、表3に示すように、心線6のみにキンクが発生している。これは、ラング撚りの心線は、元来、キンクが発生しやすいという問題があり、オーバーコート処理を行っていないラング撚りの心線6にキンクが発生しているが、ラング撚りの心線1〜3は、オーバーコート処理することでキンクの発生を抑えることができていることを示している。
次に、上記心線1〜6をそれぞれ使用して、歯付ベルトを作製した。歯付ベルトの作製に使用するゴム組成物は、表4の通りである。
また、歯布で使用した繊維織物の構成は次の通りである。組成は、緯糸が66ナイロン、スパンデックス、経糸が66ナイロンである。糸構成は、緯糸が155dtex、122dtexであり、経糸が155dtexである。密度は、緯糸が95±5本/3cmであり、経糸が116本/3cmである。また、織り構成は、綾織りである。そして、上記構成の歯布を、表1に示したRFL処理液にて、RFL処理を行った。その後、表4に示したゴム配合物をトルエンに溶解したゴム糊にて接着処理し、更に、表4に示した配合のゴム組成物シートと積層してコート処理を行った。
次に、ベルト成形用の金型に上記処理をした歯布を歯布面がベルト表面となるよう巻きつけた後、表3に示す心線1〜6を、それぞれ、歯布が巻きつけられた金型の歯布の上から巻きつけを行った。更に、表4に示すクロロプレンゴム配合物からなるゴムシートを巻きつけた。その後、加硫缶に投入して通常の圧力方式により歯形を形成させた後、161℃にて25分間加硫して、ベルト背面を一定厚さ研磨し一定幅に切断して歯付ベルトを得た。作製した歯付ベルトは、幅8mm、周長1000mm、歯形S5M(STPD歯形、歯ピッチ5.0mm)、歯数200歯である。
そして、心線1〜6について、それぞれ作製した歯付ベルトの注水走行試験を行い、心線の耐水性を評価した。注水走行試験では、16歯の駆動プーリ(Dr)と16歯の従動プーリ(Dn)に歯付ベルトを架け渡し、従動プーリが水の入った容器に浸るようにして、表5に示す走行条件の元、連続的な耐久試験(走行時間40時間)を、3回繰り返し行った。
注水走行試験前の引張強さと注水走行試験後の引張強さとを測定し、走行試験前後の引張強さの保持率に基づいて、心線1〜6を使用して作製した歯付ベルトの耐水性を評価した。その結果を、図2及び図3に示す。図2は、注水走行試験前後の引張強さについて測定した結果を示すグラフである。図3は、注水走行試験前後の引張強さに基づいて算出された引張強さ保持率を示すグラフである。図2及び図3において、originalは注水走行試験前の測定結果を示す。また、n=1,2,3は、それぞれ、注水走行試験を1回目、2回目、3回目行った後の測定結果を示す。また、表6は、図2及び図3の結果をまとめたものであり、注水走行試験後の測定結果は、n=1,2,3の測定結果の平均値を示している。表6に示す耐水性の評価では、引張強さ保持率80%以上のものを○、40%以上80%未満のものを△、40%未満のものを×とした。
図2及び図3、表6から、ラング撚りで且つ接着処理層にオーバーコート処理を行いオーバーコート処理層を形成した心線(心線1〜3)が、引張強さ保持力が高く、耐水性に優れていたことがわかる。より詳細には、ラング撚りの心線(心線1〜3、6)を使用した歯付ベルトは、諸撚りの心線(心線4、5)よりも耐水性が向上した。これは、ラング撚りの心線は水が浸水し、膨潤したとしても耐摩耗性に優れているため、構造的に表面がこすれにくく接着成分が離脱しにくいからであると考えられる。その結果、ラング撚りの心線は諸撚りの心線に比べると、心線の保護が比較的残っており、耐水性が高くなる。更に、ラング撚りの心線をオーバーコート処理することで(心線1〜3)、オーバーコート処理していない心線(心線6)に比べて、更に耐水性が向上した。これは、オーバーコート処理することで、心線に保護層(オーバーコート処理層)が形成され、水分との接触を防ぐためであると考えられる。
[ゴム組成物の物性評価試験]
次に、本実施例に係る歯付ベルトの歯部及び背部を構成するゴム組成物について、物性評価試験を行った。
ゴム組成物の配合は、表7の通り、配合1〜7の7種類である。ここで、配合2〜7のゴム組成物には、可塑剤を添加した。配合1のゴム組成物には、可塑剤を添加していない。尚、配合2〜6のゴム組成物には、アジピン酸系可塑剤を添加した。また、配合7のゴム組成物には、エーテルエステル系可塑剤を添加した。表7に示すゴム組成物の配合では、ゴム成分100質量部に対する可塑剤等の質量部を示している。
配合1〜7のゴム組成物は、ゴム練り後、161℃にて25分間、加硫して、ゴム組成物の物性評価試験(後述するゴム硬度測定試験、低温衝撃脆化試験、ゲーマンねじり試験の各試験)の試験片を作製した。そして、配合1〜7のゴム組成物について、それぞれ、ゴム組成物の物性評価試験として、ゴム硬度測定試験、低温衝撃脆化試験、ゲーマンねじり試験を行った。
ここで、ゴム硬度測定試験は、JIS K 6253(2012)に準拠して行い、JIS A型硬度計により測定した。また、低温衝撃脆化試験は、JIS K 6261(2006)に準拠して行い、低温衝撃脆化温度を測定した。尚、低温衝撃脆化温度は、値が小さいほど、より低温までしなやかさを維持でき、耐寒性(低温柔軟性)が向上することを示すものである。低温衝撃脆化試験のサンプル(試験片)は、40.0mm×6.0mm×2.0mmの短冊状とした。また、ゲーマンねじり試験では、JIS K 6261(2006)に準拠して行い、ゲーマンねじり試験のT10である、ねじり剛性が23℃での値の10倍になる温度を測定した。ゲーマンねじり試験T10の温度は、値が小さいほど、より低温までしなやかさを維持する ことができ、耐寒性(低温柔軟性)が向上することを示すものである。
配合1〜7のゴム組成物のそれぞれについて行った、ゴム硬度測定試験、低温衝撃脆化試験、ゲーマンねじり試験の結果を表7に示す。
表7の結果から、以下のことがわかった。配合1〜6のゴム組成物のゴム硬度の結果を参照すると、可塑剤の添加量に応じて、ゴム硬度が低下した。配合4と配合7のゴム組成物のゴム硬度の結果を参照すると、可塑剤の種類によるゴム硬度の違いはほとんど見られなかった。配合1〜6のゴム組成物の低温衝撃脆化温度及びゲーマンねじり試験温度の結果を参照すると、アジピン酸系可塑剤の添加量が多いほど、低温衝撃脆化温度、ゲーマンねじり試験温度の低下が見られた。これにより、アジピン酸系可塑剤を添加することで、ゴム組成物の耐寒性が向上していることがわかる。また、配合1、4、7のゴム組成物の低温衝撃脆化温度及びゲーマンねじり試験温度の結果を参照すると、エーテルエステル系可塑剤では、アジピン酸系可塑剤ほどの効果は得られなかったが、エーテルエステル系可塑剤を添加することで耐寒性の向上が見られた。以上により、ゴム組成物に可塑剤を添加することで、極低温でも硬化せず、常温と大差のない程度のしなやかさを有する構成となることがわかる。
[歯付ベルトの物性評価試験]
次に、本実施例に係る歯付ベルトについて、物性評価試験を行った。
表7に示す配合1〜7のゴム組成物と、表6に示す心線2及び心線5を使用して実施例1〜4及び比較例1〜4の8種類の歯付ベルトを作製した。尚、歯付ベルトに使用した歯布は、上述した歯付ベルトの心線の耐水性試験と同じである。また、ゴム組成物の加硫条件については、上述した本実施例に係る歯付ベルトのゴム組成物の物性評価試験と同じ161℃×25分間である。更に、歯付ベルトの成形方法は、ベルト幅が10mmであること以外は、上述した本実施例に係る歯付ベルトの心線の耐水性試験と同じである。
そして、実施例1〜4及び比較例1〜4の8種類の歯付ベルトの物性評価試験として、後述する歯せん断力測定試験、ゴム硬度測定試験、耐寒耐久走行試験、及び起動トルク測定試験を行った。
ここで、歯付ベルトの歯せん断力測定試験は、1つの歯を一定圧力で押え付けた状態で、オートグラフによって50±10mm/minの速度で引っ張り、引張値の最大値を歯せん断力とした。実施例1〜4及び比較例1〜4の歯付ベルトのそれぞれについて行った、歯せん断力測定試験の結果を表10に示す。表10では、歯せん断力は1200N以上の歯付ベルトを◎、800N以上1200N未満の歯付ベルトを○、800N未満の歯付ベルトを×として評価した。
歯付ベルトのゴム硬度測定試験は、JIS K 6253(2012)に準拠したタイプAデュロメータを用いて、ゴム硬度は、歯付ベルトを雰囲気温度(25℃、−30℃)で90分間放置後、歯付ベルトの背面ゴム硬度を測定した。実施例1〜4及び比較例1〜4の歯付ベルトのそれぞれについて行った、ゴム硬度測定試験の結果を表10に示す。表10では、25℃と−30℃のゴム硬度の差が4°以下のベルトを○、4°より大きいベルトを×として評価した。
また、歯付ベルトのゴム硬度測定試験において、25℃で測定したゴム硬度が、70〜85°であるかどうかにより、常温時において、使用可能な歯付ベルトのゴム硬度を確保できているか評価した。ここで、ゴム硬度が70°未満であると、歯付ベルトが柔らかすぎるため、巻き掛けるプーリ等に粘着してしまうという問題が生じる。一方、ゴム硬度が80°を超えると、歯付ベルトが硬すぎるため、プーリ等に巻き掛ける際の屈曲性に問題が生じる。
歯付ベルトの耐寒耐久走行試験は、16歯の駆動プーリ(Dr)と16歯の従動プーリ(Dn)に歯付ベルトをかけた状態で、−30℃の雰囲気下で15時間放置後、表8に示す耐寒耐久走行条件にて、ベルト背面にクラックが発生するまでの走行時間を測定した。実施例1〜4及び比較例1〜4の歯付ベルトのそれぞれについて行った、耐寒耐久走行試験の結果を表10に示す。表10では、クラックが発生するまでの時間が50時間以上のベルトを◎、30時間以上50時間未満のベルトを○、30時間未満のベルトを×として評価した。
歯付ベルトの起動トルク測定試験は、18歯の駆動プーリ(Dr)と従動プーリ(Dn)に歯付ベルトをかけ、雰囲気温度(25℃、−30℃)で90分間放置後、表9に示す条件で、トルクゲージにて手動でプーリを回転させ、この時の起動トルクを測定した。尚、耐寒性に優れた歯付ベルトであれば、操作力(起動トルク)を低く抑えることができる。実施例1〜4及び比較例1〜4の歯付ベルトのそれぞれについて行った、起動トルク測定試験の結果を表10及び図4に示す。表10では、−30℃での起動トルクが25cN・m未満のベルトを◎、25cN・m以上30cN・m未満のベルトを○、30cN・m以上のベルトを×として評価した。
歯付ベルトのベルト評価は、上述の歯せん断力測定試験の評価が◎または〇であり、且つ、ゴム硬度測定試験の評価が〇であり、且つ、耐寒耐久走行試験の評価が◎または〇であり、且つ、起動トルク測定試験の評価が◎または〇である歯付ベルトを、耐寒性に優れた歯付ベルトとして、〇と評価した。一方、上述の歯せん断力測定試験、ゴム硬度測定試験、耐寒耐久走行試験、起動トルク測定試験のいずれかの評価が×である歯付ベルトを、耐寒性を備えない歯付ベルトとして×と評価した。表10に示す通り、評価結果は、実施例1〜4の歯付ベルトが耐寒性に優れた歯付ベルトとなり、比較例1〜4の歯付ベルトが耐寒性を備えない歯付ベルトとなった。
表10及び図4の結果から、以下のことがわかった。
歯せん断力測定試験では、可塑剤の添加量の増加に伴い、歯せん断力が低下したことがわかる。具体的には、ゴム組成物の配合が表7に示す配合1〜6と順に可塑剤の添加量が増加する比較例1、比較例2、実施例2、実施例1、実施例3、比較例3の順に、歯せん断力が低下している。ゴム組成物の配合が配合6であり、最も可塑剤の添加量が多かった比較例3の歯付ベルトは、歯せん断力が小さく、実用的なレベルには達していなかった。尚、ゴム組成物の配合が配合4である実施例1の歯付ベルトとゴム組成物の配合が配合7である実施例4の歯付ベルトとを比較しても、可塑剤の種類による違いはほとんど見られなかった。心線が表6に示す心線2を用いた実施例1の歯付ベルトと心線が表6に示す心線5を用いた比較例4の歯付ベルトを比較しても、心線の種類による違いはほとんど見られなかった。
ゴム硬度測定試験では、ゴム組成物の配合が表7に示す配合1,2である比較例1,2の歯付ベルトと比較して、配合3〜7の実施例1〜4及び比較例3,4の歯付ベルトが、25℃と−30℃のゴム硬度の差の評価が〇であり、可塑剤の添加により−30℃でのゴム硬度の上昇を抑えることができたことがわかる。即ち、可塑剤をゴム成分100質量部に対して5質量部以上添加した配合3〜7の実施例1〜4及び比較例3,4の歯付ベルトは、25℃と−30℃で測定したゴム硬度の値の差が小さく、4°以下であった。尚、ゴム組成物の配合が配合4である実施例1の歯付ベルトとゴム組成物の配合が配合7である実施例4の歯付ベルトとを比較しても、可塑剤の種類による違いはほとんど見られなかった。心線が表6に示す心線2を用いた実施例1の歯付ベルトと心線が表6に示す心線5を用いた比較例4の歯付ベルトを比較しても、心線の種類による違いはほとんど見られなかった。
また、可塑剤の添加量が最も多い比較例3の歯付ベルトは、25℃のゴム硬度が、70°未満であり、常温時において、使用可能な歯付ベルトのゴム硬度を確保できていないことが分かる。実施例1〜4及び比較例1,2,4の歯付ベルトは、25℃のゴム硬度が、70〜85°の範囲に含まれ、可塑剤を添加しても、常温での使用可能な歯付ベルトのゴム硬度を確保できていることが確認された。
耐寒耐久走行試験では、心線2を使用し、アジピン酸系可塑剤をゴム成分100質量部に対して10質量部以上添加した実施例1、3及び比較例3の歯付ベルトは、60時間完走しても、ベルト背面にクラックが発生しなかった。ここで、アジピン酸系可塑剤をゴム成分100質量部に対して5質量部添加した実施例2の歯付ベルト及びエーテルエステル系可塑剤をゴム成分100質量部に対して10質量部添加した実施例4の歯付ベルトは、それぞれ36時間、34時間でベルト背面にクラックが発生したが、30時間以上走行しているので、実用的には許容な範囲である。即ち、エーテルエステル系可塑剤をゴム組成物に配合した実施例4の歯付ベルトでは、アジピン酸系可塑剤をゴム組成物に配合した実施例1〜3及び比較例3の歯付ベルトほどの効果は得られなかったが、可塑剤を添加することで耐寒耐久走行時間が延長したことがわかる。また、可塑剤を添加していない比較例1の歯付ベルトと、アジピン酸系可塑剤をゴム成分100質量部に対して2質量部添加した比較例2の歯付ベルトは、それぞれ3.5時間、20時間でベルト背面にクラックが発生した。比較例4の歯付ベルトは、アジピン酸系可塑剤をゴム成分100質量部に対して10質量部添加したが、心線に諸撚り心線を使用していたため、クラックが発生したと思われる。これは、諸撚りの心線はラング撚りの心線に比べ、耐屈曲疲労性が劣っているからであると考えられる。
起動トルク測定試験では、25℃の試験環境下では、実施例1〜4の歯付ベルト、及び、比較例1〜4の歯付ベルトともに大きな違いは見られなかった。一方、−30℃の試験環境下では、可塑剤の添加量に応じて、起動トルクが低下した。具体的には、ゴム組成物の配合が表7に示す配合1〜6と順に可塑剤の添加量が増加する比較例1、比較例2、実施例2、実施例1、実施例3、比較例3の順に、起動トルクが低下している。可塑剤を添加していない比較例1の歯付ベルトと、アジピン酸系可塑剤をゴム成分100質量部に対して2質量部添加した比較例2の歯付ベルトは、起動トルクが大きく、実用的なレベルには達していなかった。エーテルエステル系可塑剤をゴム組成物に配合した実施例4の歯付ベルトでは、アジピン酸系可塑剤ゴム組成物に配合した実施例1〜3及び比較例3の歯付ベルトほどの効果は得られなかったが、可塑剤を添加することで−30℃での起動トルクを30cN・m未満に低下させることができた。
以上の結果をまとめると、背部を構成するゴム組成物に可塑剤を添加することにより極低温でも硬化せず、常温時と大差のない程度のしなやかさを有する歯付ベルトを成形することができることがわかった。また、可塑剤を、ゴム成分100質量部に対して5質量部未満の量を添加しても、極低温時に常温時と大差の無い程度のしなやかさをゴム組成物に付与することができないことがわかった。一方、可塑剤を、ゴム成分100質量部に対して20質量部を超える量を添加すると、歯付ベルトの歯せん断力が低く、実用的なレベルには達しないことがわかかった。また、エーテルエステル系可塑剤ではアジピン酸系可塑剤ほどの効果は得られなかったが、可塑剤を添加することで耐寒性(低温柔軟性)が向上することがわかった。アジピン酸系可塑剤を添加しても、諸撚り心線を使用すると耐寒耐久走行試験で早期にクラックが発生することがわかった。
[考察]
上述の試験より、以下のことが明らかになった。
表6の結果から、水分との接触を妨げ、耐水性を向上させるために、ガラス心線を以下の構成にすると良いことが明らかになった。
ガラス心線をラング撚りとする。即ち、ラング撚り心線は水が浸入し、膨潤したとしても耐摩耗性に優れているため、構造的に表面がこすれにくく接着成分が離脱しにくい。そのため、諸撚り心線に比べると、心線の保護が比較的残っており、耐水性が向上する。表6に示す注水走行試験の心線4及び心線6の結果、心線を諸撚りからラング撚りとすることで(オーバーコート処理なし)、引張強さ保持率が約23%向上していることからも、ラング撚りのガラス心線の優れた耐水性が確認された。
更に、心線の接着処理層に更にオーバーコート処理し、保護層であるオーバーコート処理層を作製し、水分との接触を防ぐ。表6に示す注水走行試験の心線2及び心線4の結果、心線を諸撚りからラング撚りとし、更にオーバーコート処理を行うことで引張強さ保持率が約61%向上していることからも、オーバーコート処理による優れた耐水性が確認された。
表10の結果から、極低温状態で放置しても硬化せず、常温時と大差の無い程度のしなやかさを有し、小さいトルクで起動できるために、以下の構成にすると良いことが明らかになった。
心線はラング撚りとすることで、常温だけでなく、−20〜−30℃の極低温でも耐屈曲疲労性は維持できる。また、歯付ベルトの背部を構成するゴム組成物を、極低温でも硬化しない、しなやかな配合とするために、ゴム組成物に可塑剤を添加する。ここで、可塑剤の添加量は、ゴム成分100質量部に対して5〜20質量部とする。また、可塑剤は、アジピン酸系可塑剤が好ましく、その他、エーテルエステル系可塑剤、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤等を用いても良い。
表10に示す歯せん断力測定試験の結果、上記構成の実施例1〜4の歯付ベルトは、歯付ベルトの1つの歯を一定圧力で押え付けた状態で、オートグラフによって50±10mm/minの速度で引っ張り、引張値の最大値である歯せん断力が、800〜1500Nであり、優れた歯の強度や耐歯欠け性が確認された。また、表10に示すゴム硬度測定試験の結果、上記構成の実施例1〜4の歯付ベルトは、JIS K 6253(2012)に準拠したタイプAデュロメータを用いて、−30℃の雰囲気下で90分間放置して測定した歯付ベルトの背部のゴムのゴム硬度が、25℃の雰囲気下で90分間放置して測定した歯付ベルトの背面ゴムのゴム硬度に対して、+0〜+4°しか増大せず、優れた耐寒性が確認された。また、表10に示すゴム硬度測定試験の結果、上記構成の実施例1〜4の歯付ベルトは、JIS K 6253(2012)に準拠したタイプAデュロメータを用いて、25℃の雰囲気下で90分間放置して測定した歯付ベルトの背面ゴムのゴム硬度が、70〜85°の範囲に含まれ、常温での使用可能な歯付ベルトのゴム硬度を確保できていることが確認された。また、表10に示す耐寒耐久走行試験の結果、上記構成の実施例1〜4の歯付ベルトは、2軸のレイアウトのプーリに巻きかけた状態で−30℃の雰囲気下に15時間放置した歯付ベルトを、クラックが発生するまでの走行させた走行時間が30時間以上であり、優れた耐寒性が確認された。更に、表10に示す起動トルク測定試験の結果、上記構成の実施例1〜4の歯付ベルトは、歯付ベルトを2軸のレイアウトのプーリに巻きかけた状態で、−30℃の雰囲気下に90分間放置した歯付ベルトに対して、プーリを180°回転させて起動させるのに必要な起動トルクが、30cN・m未満であり、優れた耐寒性が確認された。
以上より、ラング撚りのガラス心線に対し、接着処理を行って、接着処理層を形成した後、更にオーバーコート処理を行って、オーバーコート処理層を形成し、また、背部を構成するゴム組成物に、ゴム成分100質量部に対して5〜20質量部の可塑剤が添加して作製した歯付ベルトが、耐屈曲疲労性を確保したまま、耐水性及び耐寒性に優れていることが明らかとなった。
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態及び実施例に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態及び実施例の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
本発明を利用すれば、耐屈曲疲労性を確保したまま、耐水性及び耐寒性に優れた歯付ベルトを得ることができる。
1 歯付ベルト
2 歯部
3 心線
4 背部

Claims (6)

  1. ベルト長手方向に沿って所定間隔で配置される歯部、心線、及び該心線を埋設した背部を有する歯付ベルトであって、
    前記心線は、ラング撚りのガラス繊維、加硫助剤を含む接着処理層及びオーバーコート処理層を含み、前記心線の表面に前記接着処理層が形成されると共に前記接着処理層の表面に前記オーバーコート処理層が形成され、
    前記心線が前記ラング撚りからなり、且つ、前記心線に前記オーバーコート処理層が形成されていることにより、耐水性を備え、前記心線が前記ガラス繊維で形成されていることにより、耐寒性を備える、歯付ベルト。
  2. 前記接着処理層は、加硫助剤が添加されない層と、その表面に形成された加硫助剤が添加された層からなることを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト。
  3. 前記接着処理層は、前記加硫助剤が添加された層が、前記加硫助剤が添加されない層に比べて、ゴムラテックス成分を多く含む、請求項2に記載の歯付ベルト
  4. 前記ガラス繊維は、無アルカリガラスである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯付ベルト。
  5. 前記心線は、前記ガラス繊維に下撚りおよび上撚りを加えてラング撚りにしたものであり、前記下撚り数が8〜16T/10cmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の歯付ベルト。
  6. 前記心線は、前記上撚り数が8T/10cmである、請求項5に記載の歯付ベルト。
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