そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、耐震性及び耐久性が高く、高層の建物にも対応可能な木造軸組構造の提供を課題とするものである。
上記の課題を解決するために、本発明に係る木造軸組構造は、「夫々が無垢の木材からなり土台に沿って配置されている複数の柱材、複数の該柱材の側面同士が接合されており上下方向へ間隔を開けて配置されている複数の接合部、及び少なくとも一つの前記柱材に形成されている梁連結部を有し、一つの柱に形成されている柱体と、該柱体の前記梁連結部に連結されている無垢の木材からなる梁材と、を具備しており、前記接合部は、接合されている前記柱材の夫々に形成されており、互いに離れる方向へ拡張している蟻溝と、夫々の該蟻溝に両端が密接した状態で挿入されている木材からなる蟻ダボと、該蟻ダボの両端の間において前記柱材同士の間に隙間を形成しているスペーサとを備えており、前記梁連結部は、前記梁材の長手方向に直交した断面と同じ大きさで前記柱材の側面から窪んでおり、前記梁材の端部が挿入されている梁用溝と、前記柱材における前記梁用溝が窪んでいる側面の幅方向の中途において前記梁用溝内へ突出している位置決突起とを備えており、前記梁材は、端部に前記位置決突起が嵌合されている位置決溝が形成されていることを特徴とする」ものである。
ここで、「無垢の木材」とは、長手方向に直交する断面に年輪の中心を有したものである。また、「柱材」としては、「断面形状が、正方形のもの」、「断面形状が、長辺が短辺の2倍の長さの長方形のもの」、を例示することができる。
また、「柱材」としては、複数の柱材を土台に沿って(土台上に)配置して接合したものであれば良く、断面形状としては、「I字形」、「L字形」、「T字形」、「十字形」、等を例示することができる。
更に、「梁材」としては、長手方向に直交する断面における水平方向へ延びた辺の長さ(厚さ)が、柱材における梁用溝が窪んでいる側面の幅と同じ長さのものが望ましい。
また、「接合部」としては、接合されている柱材の夫々を、貫通していても良いし、貫通していなくても良い。接合部において柱材を貫通している場合の「蟻溝」としては、「接合されている夫々の柱材の互いに対向している側面から柱材の中心付近まで一定の断面形状で延びている挿通穴部と、挿通穴部の端部から柱材の反対側の側面まで断面形状が拡張するように延びている蟻部と、を備えているもの」、「接合されている夫々の柱材において、互いに対向している側面から反対側の側面まで断面形状が拡張するように延びているもの」、等を例示することができる。一方、接合部において柱材を貫通していない場合の「蟻溝」としては、「接合されている夫々の柱材において、互いに対向している側面から反対側の側面へ向かって拡張するように中途まで窪んでいるもの」、「接合されている夫々の柱材において、互いに対向している側面から反対側の側面へ向かって柱材の長手方向に拡張するように中途まで窪んでいると共に、柱材の側面の幅方向の一方へ開口しているもの」、等を例示することができる。
また、「蟻ダボ」としては、「蟻溝に挿入される両端の一方が、予め蟻溝と密接する形状に形成されており、反対側が端面から楔を打込むことで蟻溝と密接する形状に変形するもの」、「蟻溝に挿入される両端が、予め蟻溝と密接する形状に形成されているもの」、「蟻溝に挿入される両端の間の軸部が、接合されている柱材同士の間に隙間を形成しているスペーサを兼ねているもの」、等を例示することができる。また、「蟻ダボ」は、柱材と同じ種類の木材を用いても良いし、柱材と異なる種類の木材を用いても良い。
更に、「スペーサ」としては、接合されている柱材同士の間に隙間を形成することができるものであれば良く、「蟻ダボとは別体に形成されており、蟻ダボが挿通される貫通孔を備えているもの」、「蟻ダボと一体に形成されているもの」、等を例示することができる。
また、スペーサの厚さ、つまり、柱材同士の間の隙間の距離としては、接合されている柱材同士が互いに対向している側面の幅に対して、0.1倍〜2倍、望ましくは、0.1倍〜1倍の範囲とすることが望ましい。柱材同士の隙間の距離がこの範囲内であると、この範囲よりも狭い場合に比べて、一つの柱体に用いる柱材の数に対する、断面積、断面二次モーメント、及び断面係数等増加の割合が大きくなり柱体として十分な剛性を得られるためであり、この範囲よりも広い場合と比較して、柱体における土台が延びている方向の長さの増加を抑制させて柱体同士の間に位置する窓や扉等のための開口を相対的に広くすることができるためである。
また、「接合部」は、隣接している二つの柱材を接合させるものであっても良いし、三つ以上の柱材を接合させるものであっても良い。更に、「接合部」は、上下方向へ100mm〜2000mmの範囲内の間隔を開けて配置することが望ましく、この範囲よりも間隔が短いと柱材に形成されている蟻溝が接近し過ぎることで柱材の強度が低下する虞があるためであり、この範囲よりも間隔が長いと柱体における接合部の数が少なくなることで柱体にした時に十分な強度を得られなくなる虞があるためである。
更に、梁連結部の「梁用溝」は、梁材の長手方向に直交した断面と同じ大きさ、つまり、梁材の太さと同じ大きさである。また、「梁用溝」としては、柱材の側面からの深さが、柱材の側面の幅の1/6〜1/3の範囲の深さとすることが望ましい。梁用溝の深さが、この範囲よりも浅いと地震等により横から荷重が作用した時に梁材が抜ける虞があるためであり、この範囲よりも深いと梁用溝の部位における柱材の断面積が小さくなりすぎて十分な強度を得られない虞があるためである。
本構成では、柱体の接合部において、側面同士が互いに対向している夫々の柱材の蟻溝に、蟻ダボの両端が夫々挿入されていることから、柱材同士が遠ざかる方向への移動が規制されている。また、接合部において、柱材同士の間にスペーサが挟まれていることから、柱材同士が接近する方向への移動が規制されている。これにより、柱体は、接合部において、柱材同士が接合されている。
そして、本構成の柱体は、複数の柱材の側面同士が接合されている複数の接合部を、上下方向へ間隔を開けて配置していると共に、各接合部において、柱材同士の間にスペーサが配置されているため、二つの柱材と複数のスペーサとによって梯子状に接合されたラーメン構造を形成することができる。これにより、複数の柱材の側面同士を接触させて柱体を形成した場合と比較して、断面積、断面二次モーメント、及び断面係数等が大きくなることから、柱体の上下方向及び横方向(水平方向)の強度や剛性をより高めることができる。
上記のことから、本構成では、複数の柱材を塊り状に接合して太い柱体を形成しなくても、複数の柱材を水平方向の一方向へ並べて複数の接合部により接合させることで、梯子状のラーメン構造を形成して十分な強度や剛性を得ることができるため、柱体において複数の柱材を土台に沿って配置することができる。これにより、平面視において柱体が土台と重なった状態とすることが可能となるため、柱体が室内へ突出することにより建物の室内が狭くなることを防止することができる。
また、本構成では、接合部において、蟻溝への蟻ダボの挿入により柱材同士を接合させているため、接着剤で接合させた場合と比較して、建築現場でも簡単に接合させることができる。また、本構成では、複合材からなる柱材や、柱材の接合に接着剤を用いていないため、経年変化による接着剤の劣化を懸念しなくても良い。
また、本構成では、夫々が無垢の木材からなる複数の柱材を、木材からなる蟻ダボで接合させて柱体を形成していることから、経年変化等によって柱材が収縮しても蟻ダボも同じように収縮するため、柱材同士の接合が緩むことはなく、柱体を長期に亘って良好な状態に維持できる。また、本構成では、複数の柱材を接合部の蟻溝と蟻ダボにより接合して柱体を形成しているため、互いに側面同士が対向している所定長さの二つの柱材において、一方の柱材の長手方向の途中に、他方の柱材の長手方向の端部を位置させ、夫々の柱材の長手方向端部に、次の柱材の長手方向の端部を夫々突き合わせるようにして、複数の柱材を長手方向へ交互に並べて夫々を複数の接合部で接合すると、柱材の所定長さよりも長い柱体を簡単に形成することができる。そして、上述したように、本構成の柱体は、剛性が高いことから、複数階に亘る長い柱体(通し柱)を形成しても十分な剛性を有しており、木造建築物の高層化も可能である。
また、本構成では、梁連結部において、柱体における梁材の太さと同じ大きさの梁用溝に梁材の端部を挿入させているため、梁材の太い部分で柱体と連結しており、建物の剛性に対して梁材の太い部分の強度を十分に生かすことができる。また、柱体の位置決突起に梁材の位置決溝を嵌合させているため、梁材に対して柱材における梁用溝が窪んでいる側面の幅方向への移動を規制することができる。これらのことから、特許文献1の技術や、ホゾとホゾ溝とを用いた従来の技術と比較して、柱体と梁材とを高い剛性で強固に連結することができる。
従って、本構成の木造軸組構造によれば、柱体が梯子状のラーメン構造により強度や剛性が高められている上に、柱体と梁材とが高い剛性で連結されているため、建物の軸組を剛性の高いラーメン構造とすることができ、4階建てや5階建て等のような高層の木造建築物であっても、十分な耐震性や耐久性を備えた建物とすることができる。
また、本発明に係る木造軸組構造は、上記の構成に加えて、「前記蟻ダボは、一方の端部へ向かって拡張しており前記蟻溝に密接する形状に形成されている第一係合部と、該第一係合部から反対側の端部の方向に一定の断面形状で延びている軸部と、該軸部から他方の端部まで延びており、前記軸部と続く一定の断面形状に延びていた外周形状が、端面から楔が打込まれることにより前記蟻溝と密接する形状に変形している第二係合部と、を備えており、前記スペーサは、前記軸部が挿通されている貫通孔を備えている」ものとすることができる。
本構成の木造軸組構造は、一方の柱材の蟻溝に、蟻ダボの第一係合部を挿入し、その蟻溝から突出している蟻ダボの軸部を、スペーサの貫通孔に挿通させる。そして、スペーサの貫通孔から蟻ダボの変形する前の第二係合部を、接合する相手側の柱材の蟻溝に挿入し、第二係合部の端面に楔を打込んで、蟻溝と密接する形状に変形させることにより、構築することができる。これにより、柱材同士を、間にスペーサを挟んだ状態で接合することができ、柱体を簡単に形成することができる。
以上のように、本発明の効果として、耐震性及び耐久性が高く、高層の建物にも対応可能な木造軸組構造を提供することができる。
本発明の一実施形態である木造軸組構造1について、図1乃至図4を参照して説明する。本実施形態の木造軸組構造1は、土台2に立設されている複数の柱体3と、柱体3同士を高さ方向の所定位置で連結している梁材4と、を備えている。
柱体3は、土台2に沿って配置されている複数の柱材10と、複数の柱材10の側面同士が接合されている複数の接合部20と、少なくとも一つの柱材10に形成されている梁連結部30と、を有している。柱体3は、上下方向へ間隔を開けて配置されている複数の接合部20において、複数の柱材10が接合されることにより、一つの柱に形成されている(図2を参照)。
柱材10は、長手方向に直交した断面に、年輪の中心を有した一本の無垢の木材である。柱体3には、断面の形状が正方形の柱材11と、断面の形状が長方形の柱材12とを用いている。長方形の柱材12は、長方形の断面の短辺が正方形の柱材11の一辺と同じ長さであり、長方形の断面の長辺が正方形の柱材11の一辺の2倍の長さである。断面が正方形の柱材11は、一辺の長さが、土台の幅以下であり、90mm〜150mm(望ましくは、100mm〜120mm)の範囲内のものである。柱材の断面における短い方の一辺の長さを90mm〜150mmの範囲内であると、この範囲よりも短い場合に比べて、柱材として十分な強度を得られるためであり、この範囲よりも長い場合に比べて、壁が厚くなりすぎて室内が狭くなってしまう虞が低減される共に、柱材の単価の増加を抑えられるためである。本実施形態では、正方形の柱材11が120mm×120mmであり、長方形の柱材12が120mm×240mmである。
接合部20は、接合されている柱材10の夫々に形成されており、互いに離れる方向へ拡張している蟻溝21と、夫々の蟻溝21に両端が密接した状態で挿入されている木材からなる蟻ダボ22と、蟻ダボ22の両端の間において接合されている柱材10同士の間に隙間を形成しているスペーサ23と、を備えている。
蟻溝21は、接合されている夫々の柱材10の互いに対向している側面から柱材10の中心付近まで一定の断面形状で延びている挿通穴部21aと、挿通穴部21aの端部から柱材10の反対側の側面まで断面形状が拡張するようにテーパ状に延びている蟻部21bと、を備えている(図3を参照)。蟻溝21は、柱材10を貫通している。
蟻ダボ22は、図3に示すように、接合されている夫々の柱材10において、側面同士が互いに対向している方向に延びている一方の柱材10の辺の長さと、他方の柱材10の辺の長さと、スペーサ23の厚さとを足した長さで棒状に延びている。蟻ダボ22は、長手方向の途中から一方の端部へ向かって拡張しており、柱材10の蟻溝21の蟻部21bに密接する形状に形成されている第一係合部22aと、第一係合部22aから反対側の端部の方向に一定の断面形状で延びている軸部22bと、軸部22bから他方の端部まで軸部22bと続く一定の断面形状に延びており、柱材10の蟻溝21の蟻部21bと密接する形状に変形可能な第二係合部22cと、を備えている。
蟻ダボ22の第一係合部22aは、外形形状が、蟻溝21の内形形状と一致する形状に形成されている。軸部22b及び第二係合部22cは、断面形状が、柱材10に形成されている蟻溝21の挿通穴部21aの内周形状と一致する形状に形成されている。蟻ダボ22は、柱材10よりも硬い木材(例えば、ケヤキ、朴の木、等)により形成されている。
スペーサ23は、接合されている夫々の柱材10の互いに対向している側面の幅よりも外周が小さい平板状に形成されており、中央に蟻ダボ22の軸部22bが挿通される貫通孔23aが形成されている。スペーサ23の厚さは、正方形の柱材11の一辺の長さの0.1倍〜1倍である。スペーサ23は、木材により形成されている。
梁連結部30は、図4に示すように、梁材4の長手方向に直交した断面と同じ大きさで柱材10の側面から窪んでいる梁用溝31と、柱材10における梁用溝31が窪んでいる側面の幅方向の中途(ここでは、中央)において梁用溝31内へ突出している位置決突起32と、を備えている。梁用溝31の深さは、垂直に延びた柱体3を、梁用溝31の位置で水平方向に切断した断面において、正方形の柱材11一つ分の断面と同じ大きさの領域が少なくとも残るように、断面正方形の柱材11の一辺の長さの1/6〜1/3の範囲内の深さで形成されるものである。ここでは、梁用溝31の深さを、柱材10の側面から正方形の柱材11の一辺の長さの1/4の深さの場合を図示により例示している。また、本実施形態では、柱材10における梁用溝31が窪んでいる側面の幅が、梁材4の幅と同じであるため、梁用溝31が、柱材10における梁用溝31が窪んでいる側面の幅方向に開放されている。
位置決突起32は、梁用溝31の内面を構成している上面及び下面において、柱材10の側面の幅方向中央から、夫々下方及び上方へ四角く突出している。位置決突起32は、柱材10の側面から梁用溝31の底まで延びている。
ここで、柱体3は、梁用溝31の底から窪んでいるホゾ溝33と、ホゾ溝33の部位において柱材10における梁用溝31が窪んでいる側面と直交している側面を貫通している込み栓穴34と、を備えている。ホゾ溝33は、上下二つの位置決突起32の間の高さにおいて、上下に長い四角形の一定の断面形状で窪んでいる。ホゾ溝33は、柱材10の反対側の側面まで貫通していても良いし、貫通していなくても良い。
梁材4は、長手方向に直交した断面内に、年輪の中心を有した無垢の木材である。梁材4は、断面の形状が上下方向に長い四角形であり、その断面の短辺(幅)が正方形の柱材11の一辺と同じ長さであり、断面の長辺(高さ)が正方形の柱材11の一辺より長い。梁材4は、長手方向の両端部に、柱体3における梁連結部30の上下二つの位置決突起32が嵌合される二つの位置決溝4aが形成されている。
また、梁材4は、両端部における上下二つの位置決溝4aの間から長手方向外方へ突出しているホゾ部4bと、ホゾ部4bを貫通している込み栓穴4cと、を備えている。ホゾ部4bは、柱材10のホゾ溝33に挿入可能な大きさに形成されている。また、込み栓穴4cは、梁材4のホゾ部4bを、柱体3(柱材10)のホゾ溝33に挿入し、梁材4の端部を梁用溝31の底に当接させた時に、柱材10の込み栓穴34と一致する位置に形成されている。
次に、木造軸組構造1の構築について説明する。まず、柱体3の組立てについて説明する。複数の柱材10を接合させる場合、夫々の柱材10に、側面を貫通する蟻溝21を、柱材10の長手方向(上下方向)へ間隔を開けて複数形成する。また、蟻溝21は、接合される柱材10同士に対して、上下方向の同じ位置に形成する。この蟻溝21を形成する際に、接合される二つの柱材10が反っている場合、夫々の柱材10の反っている方向が、互いに相反する方向を向いて接合されるようにする。これにより、柱材10同士が接合されることで、夫々の柱材10の反りによる応力を相殺することができ、経年変化による柱体3の歪みを低減させることができる。
複数の柱材10に蟻溝21を形成したら、柱材10における蟻溝21の蟻部21b側の側面から、蟻ダボ22の楔24の打込により変形する前の第二係合部22cを、蟻溝21に挿入し、軸部22bの一部と第二係合部22cを反対側の側面から外方へ突出させる。続いて、柱材10の側面から突出している第二係合部22cを、スペーサ23の貫通孔23aに挿通した上で、接合される柱材10の蟻溝21の挿通穴部21a側の側面から第二係合部22cを蟻溝21に挿入する。
そして、蟻ダボ22の第一係合部22aを、蟻溝21に密接させると共に、互いに対向している柱材10の側面をスペーサ23に夫々当接させた状態で、蟻ダボ22の第二係合部22c側の端面に楔24を打込み、第二係合部22cが蟻溝21と密接するように変形させる。
この状態では、接合されている夫々の柱材10の互いに対向している夫々の側面にスペーサ23が当接していると共に、夫々の柱材10の蟻溝21の蟻部21bに、蟻ダボ22の第一係合部22aと第二係合部22cが夫々密接しているため、夫々の柱材10は、柱材10同士が対向している方向への移動が規制されている。また、接合されている夫々の柱材10における蟻溝21の内周面と、蟻ダボ22における蟻溝21に挿入されている部位の外周面とが密着しているため、夫々の柱材10は、柱材10同士が対向している方向に対して直交する方向への移動が規制されている。従って、柱材10同士を、接合部20においてスペーサ23を挟んだ状態で接合させることができると共に、柱材10同士の間にスペーサ23の厚さと同じ距離の隙間を形成させることができる。
このように、複数の柱材10を、複数の接合部20において接合させることで、一つの柱体3が形成される。そして、各接合部20では、柱材10同士の間にスペーサ23が配置されているため、二つの柱材10と複数のスペーサ23とによって梯子状に接合されたラーメン構造となり、上下方向及び横方向(水平方向)の強度や剛性の高い柱体3を形成させることができる。柱体3の形成(組立て)は、柱材10等を加工する工場で予め組立てて、建築現場へ搬入しても良いし、建築現場において組立てても良い。
ここで、複数の柱材10により形成される柱体3の断面形状、つまり、複数の柱材10の組合せとしては、土台2における柱体3を立設する位置に応じた断面形状の組合せとすれば良い。具体的には、例えば、断面形状がI字形の柱体3としては、図5(a1)に示すように、二つの断面正方形の柱材11を接合させたり、図5(a2)に示すように、二つの断面長方形の柱材12を、夫々の短辺の側面同士を接合させたりすることができる。また、断面形状がL字形の柱体3としては、図5(b1)に示すように、断面正方形の柱材11の或る側面と、断面長方形の柱材12の短辺の或る側面とが同一面となるように接合させたり、図5(b2)に示すように、断面長方形の柱材12の短辺の或る側面と、断面長方形の柱材12の長辺の或る側面とが同一面となるように接合させたりすることができる。
また、断面形状がT字形の柱体3としては、図5(c1)に示すように、断面長方形の柱材12の長辺の或る側面の中央に、断面正方形の柱材11を接合させたり、図5(c2)に示すように、断面長方形の柱材12の短辺の或る側面と断面正方形の柱材11の或る側面とが同一面となるように、断面長方形の柱材12の長辺の両側面に断面正方形の柱材11を夫々接合させたりすることができる。更に、断面形状が十字形の柱体3としては、図5(d1)に示すように、断面長方形の柱材12の二つの長辺の側面の夫々中央に、夫々断面正方形の柱材11を接合させたり、断面正方形の柱材11の四つの側面に、夫々断面正方形の柱材11を接合させたりすることができる。
続いて、柱体3と梁材4との組立てについて説明する。柱体3の高さ方向に形成されている梁連結部30において、梁用溝31が窪んでいる柱材10の側面に対して略直角方向から、梁材4の一方の端部を挿入する。この際に、柱体3のホゾ溝33に梁材4のホゾ部4bを挿入させると共に、柱体3の上下二つの位置決突起32を梁材4の上下二つの位置決溝4aに嵌合させる。
柱体3の梁用溝31に、梁材4の端部を挿入して、梁用溝31の底に梁材4の端部を当接させると、柱材10の込み栓穴34と、梁材4におけるホゾ部4bの込み栓穴4cとが、略一致している状態となる。この状態で、柱材10の側面の込み栓穴34に、ホゾ部4bの込み栓穴4cを貫通するように込み栓5を挿入する。込み栓5を挿入することにより、ホゾ部4bを介して梁材4が柱体3側へ引っ張られ、梁用溝31の内面に梁材4の端部を密着させることができる。
この状態では、柱体3における梁用溝31に梁材4の端部が挿入されていると共に、柱体3の位置決突起32が梁材4の位置決溝4a内に嵌合していることで、柱体3に対して梁材4の上下方向及び幅方向(梁材4の長手方向に対して直交する方向)への相対的な移動が規制されている。また、柱体3の梁用溝31の内面に梁材4の端部が密着するように挿入されていると共に、柱材10の込み栓穴34と梁材4のホゾ部4bの込み栓穴4cに込み栓5が挿入されていることで、柱体3に対して梁材4の長手方向への相対的な移動が規制されている。従って、柱体3と梁材4とが、強固に連結されている。
上記のように土台2に立設されている複数の柱体3同士を、梁連結部30を介して梁材4により連結することで、建物の骨組みをラーメン構造とすることができ、上下方向や横方向(水平方向)からの耐荷重性に優れた剛性の高い木造建物を構築することができる。また、図示は省略するが、本実施形態の木造軸組構造1では、従来の軸組構造と同様に、柱体3や間柱の間に筋交いを入れて、更に剛性を高めでも良い。
従って、例えば、図6に示すような高層(ここでは五階建て)の木造建築物を構築できる。詳述すると、図6に示す木造軸組構造1の柱体3は、複数の柱材10が土台2の延びている方向へ四列に並ぶように接合されており、左から二列目の柱材10に梁連結部30が形成されている。この柱体3は、図6において、左側の二列には、二階分に亘る長さの柱材10を主に使用しており、三列目と四列目には、土台2と梁材4との間の長さ、或いは、上下方向の梁材4同士の間の長さ、の柱材10を使用している。
図6の例では、左側の二列において、二階分に亘る長さの柱材10を、一方の列の柱材10の長手方向の途中に、他方の列の柱材10の長手方向の端部を位置させ、夫々の列の夫々の柱材10の長手方向端部に、次の柱材10の端部を突き合わせるようにして、複数の柱材10を夫々の列において交互に並べて、夫々の列の柱材10同士が複数の接合部20により接合されている。そして、左から二列目の柱材10に、梁材4を上下から挟むように三列目となる複数の柱材10が接合されており、更に、三列目の柱材10に、梁材4を上下から挟むように四列目となる複数の柱材10が接合されている。このように、各列の柱材10同士が複数の接合部20のスペーサ23によって梯子状に接合されてラーメン構造を形成しており、十分な剛性を有した複数階に亘る長い柱体3を形成することができ、高層の木造建築にも対応することができる。
ところで、図6に示すように、一つの柱体3において、土台2の延びている方向へ三つ以上の柱材10を接合する場合、一つの柱材10において異なる柱材10を接合するための接合部20を、上下方向へ少なくとも100mm以上離すようにすると好適である。これにより、接合部20の蟻溝21が接近することによる柱材10の強度の低下を抑制させることができる。
このように、本実施形態の木造軸組構造1によれば、複数の柱材10の側面同士が接合されている複数の接合部20を、上下方向へ間隔を開けて配置していると共に、各接合部20において、柱材10同士の間にスペーサ23が配置されているため、二つの柱材10と複数のスペーサ23とによって梯子状に接合されたラーメン構造を形成することができる。これにより、複数の柱材10の側面同士を接触させて柱体3を形成した場合と比較して、断面積、断面二次モーメント、及び断面係数等が大きくなることから、柱体3の上下方向及び横方向(水平方向)の強度や剛性をより高めることができる。
上記のことから、複数の柱材を塊り状に接合して太い柱体を形成しなくても、複数の柱材10を水平方向の一方向へ並べて複数の接合部20により接合させることで、梯子状のラーメン構造を形成して十分な強度や剛性を得ることができるため、柱体3において複数の柱材10を土台2に沿って配置することができる。これにより、平面視において柱体3が土台2と重なった状態とすることが可能となるため、柱体3が室内へ突出することにより建物の室内が狭くなることを防止することができる。
また、接合部20において、蟻溝21への蟻ダボ22の挿入により柱材10同士を接合させているため、接着剤で接合させた場合と比較して、建築現場でも簡単に接合させることができる。また、複合材からなる柱材や、柱材10の接合に接着剤を用いていないため、経年変化による接着剤の劣化を懸念しなくても良い。
更に、夫々が無垢の木材からなる複数の柱材10を、木材からなる蟻ダボ22で接合させて柱体3を形成していることから、経年変化等によって柱材10が収縮しても蟻ダボ22も同じように収縮するため、柱材10同士の接合が緩むことはなく、柱体3を長期に亘って良好な状態に維持できる。
また、柱体3において、梁用溝31の深さを、断面正方形の柱材11の一辺の1/4の深さとしていることから、垂直に延びた柱体3を、梁用溝31の位置で水平方向に切断した断面において、正方形の柱材11一つ分の断面と同じ大きさの領域が少なくとも残るため、梁用溝31の形成による柱体3の強度の低下を低減させることができ、十分な強度や剛性を有した柱体3とすることができる。
また、梁連結部30において、柱体3における梁材4の太さと同じ大きさの梁用溝31に梁材4の端部を挿入させていると共に、柱体3の位置決突起32に梁材4の位置決溝4aを嵌合させて、柱体3と梁材4とを連結しているため、ホゾとホゾ溝とを用いた従来の技術と比較して、柱体3と梁材4とを高い剛性で強固に連結することができる。
本実施形態の木造軸組構造1によれば、ラーメン構造により柱体3の強度や剛性が高められている上に、柱体3と梁材4とが高い剛性で連結されていることにより、建物の軸組も剛性の高いラーメン構造とすることができるため、4階建てや5階建て等のような高層の木造建築物であっても、十分な耐震性や耐久性を備えた建物とすることができる。
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
例えば、上記の実施形態では、蟻溝21が柱材10を貫通している接合部20を示したが、これに限定するものではなく、図7に示すような接合部40としても良い。接合部40は、接合されている夫々の柱材10において、互いに対向している側面から反対側の側面へ向かって拡張するように中途まで窪んでいる蟻溝41と、互いに対向している柱材10の側面に形成されている蟻溝41に夫々挿入されており、柱材10の互いに対向している側面同士の間に隙間を形成した状態で柱材10を接合している蟻ダボ42と、を備えている。蟻溝41は、一定の断面形状で上下方向(柱材10の長手方向)に延びている。また、接合部40は、夫々の蟻溝41の上下方向の一方側(ここでは上側)において、柱材10の側面から蟻溝41の上下方向の長さと同じ高さ且つ蟻溝21と同じ深さで窪んでおり蟻溝41と上下に連通している連通溝43と、一方の柱材10の連通溝43内に嵌合されている埋め木44と、を備えている。蟻溝41と連通溝43は、柱材10を貫通していない止り孔であり、接合されている夫々の柱材10の互いに対向している側面のみに開口している。
蟻ダボ42は、一方の端部へ向かって拡張しており蟻溝41に密接する形状に形成されている第一係合部42aと、第一係合部42aから反対側の端部の方向へ延びている軸部42bと、軸部42bの先端から第一係合部42aとは反対側の端部へ向かって拡張しており蟻溝41に密接する形状に形成されている第二係合部42cと、を備えている。この蟻ダボ42は、第一係合部42aと第二係合部42cが、軸部42bを間にして対称形状に形成されている。蟻ダボ42の軸部42bは、本発明のスペーサに相当している。
続いて、接合部40における柱材10同士の接合手順について説明する。まず、接合される柱材10の一方の連通溝43に、蟻ダボ42の第一係合部42aを挿入する(図7(a)及び(b)を参照)。連通溝43に蟻ダボ42の第一係合部42aを挿入したら、蟻ダボ42を蟻溝41側へ移動させて、第一係合部42aを蟻溝41に挿入し、蟻溝41の上側の連通溝43内に埋め木44を嵌合させる(図7(c)及び(d)を参照)。この状態では、柱材10の側面から、蟻ダボ42の軸部42bと第二係合部42cが突出しており、埋め木44の外側面が柱材10の側面と同一面になっている。
一方の柱材10の蟻ダボ42を取付けたら、接合される反対側の柱材10の連通溝43に、突出している蟻ダボ42の第二係合部42cを挿入させる(図7(e)を参照)。そして、反対側の柱材10をその長手方向へ移動させて、第二係合部42cを反対側の柱材10の蟻溝41内に挿入する(図7(f)を参照)。
これにより、柱材10同士が、互いに対向している側面同士を結んだ方向への移動、当該側面の幅方向へ移動、及び、柱材10の長手方向(上下方向)のうちの埋め木44が嵌合されていない連通溝43の有る方向とは反対方向への移動、が夫々規制された状態となる。従って、接合部40によって、柱材10同士を接合させることができ、上記と同様の作用効果を奏することができる。
また、接合部20では、接合されている柱材10同士の互いに背向している側面に蟻溝21や蟻ダボ22の端面が露出しているのに対して、接合部40では、柱材10同士の互いに背向している側面に蟻溝41や連通溝43等が露出することはなく、接合されている柱材10同士の互いに対向している側面以外の側面では、柱材10の木肌を良好に見せることができる。従って、接合部40により接合させることで、柱材10の一部の側面が室内に露出する化粧柱に、柱体3を好適に用いることができる。
また、柱材10同士の接合として、上記の接合部20や接合部40の他に、図8に示すような接合部50としても良い。この接合部50は、接合されている夫々の柱材10において、互いに対向している側面から反対側の側面へ向かって柱材10の長手方向(上下方向)に拡張するように中途まで窪んでいると共に、柱材の側面の幅方向の一方へ開口している蟻溝51と、互いに対向している柱材10の蟻溝51に夫々挿入されており、柱材10の互いに対向している側面同士の間に隙間を形成した状態で柱材10を接合している蟻ダボ52と、を備えている。
蟻ダボ52は、一方の端部へ向かって拡張しており蟻溝51に密接する形状に形成されている第一係合部52aと、第一係合部52aから反対側の端部の方向へ延びている軸部52bと、軸部52bの先端から第一係合部52aとは反対側の端部へ向かって拡張しており蟻溝51に密接する形状に形成されている第二係合部52cと、を備えている。この蟻ダボ52は、第一係合部52aと第二係合部52cが、軸部52bを間にして対称形状に形成されている。蟻ダボ52の軸部52bは、本発明のスペーサに相当している。
この接合部50は、接合される柱材10同士における互いに対向している側面と直交し蟻溝51が開口している側面側から、夫々の蟻溝51内に蟻ダボ52の第一係合部52aと第二係合部52cを挿入させることで、柱材10同士を、互いに対向している側面同士の間に隙間を形成した状態で接合させることができる。接合部50を適用した柱体3では、柱体3の側面に取付けられる壁材等によって、蟻溝51からの蟻ダボ52の抜けを防止することができる。従って、接合部50を用いても、上記と同様の作用効果を奏することができる。
また、上記の実施形態では、全ての柱体3において、柱材10同士の間に隙間が形成されているものを示したが、建物の階数や間取り等により作用する荷重が小さい部位に用いられる柱体では、スペーサの無い接合部を用いて、接合している柱材同士の間に隙間が形成されていない互いの柱材の側面同士が接している柱体を用いても良い。