本開示は、STRO−1+細胞が、抗原特異的機構および非抗原特異的機構を介してT細胞活性化を阻害することを示している。例えば、本開示は、STRO−1+細胞が、in vivoにおけるMOG−特異的T細胞増殖応答を阻害することを示している。本開示はまた、STRO−1+細胞がin vitroにおける抗CD3を介したT細胞増殖応答を阻害することを示している。従って、本開示は、調節性T細胞の数および/または機能における異常が観察された疾患(例えば、自己免疫障害)を治療または予防するための新規の治療方法を提供する。
定義
本明細書で使用される場合、「治療」、「治療すること」等の用語は、所望の薬理学的効果および/または生理学的効果を得ることを指す。前記効果は、障害もしくはその症状を完全に、もしくは部分的に予防するという観点から予防的なものであってもよく、並びに/または、障害(例えば、自己免疫疾患)および/もしくは障害に起因する悪影響の部分的または完全な治療という観点から治療的なものであってもよい。「治療」とは、本明細書で使用される場合、哺乳動物、特にヒトにおけるあらゆる疾患の治療を包含し、(a)生存期間を増加させること;(b)疾患による死亡リスクを減少させること;(c)疾患に罹り易いがそれを患っているとはまだ診断されていない対象において疾患が発生することを予防すること;(d)疾患を阻害すること、すなわち、その進行を抑止すること(例えば、疾患増悪の速度を減少させること);および(e)疾患を軽減すること、すなわち、疾患の後退を引き起こすこと、を含む。
本明細書で使用される場合、障害または状態を「予防する」治療薬とは、統計的な検体において、無処置対照検体と比較した場合、処置された検体において障害もしくは状態の発生を減少させる、または無処置対照検体と比較した場合、障害もしくは状態の発症を遅延する、もしくは障害もしくは状態の一つもしくは複数の症状の重症度を減少させる化合物を指す。
本明細書で使用される場合、「対象」および「患者」という用語は、哺乳動物、例えばヒトを含む動物を指す。「哺乳動物」という用語には、霊長類、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ヤギ、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、モルモットを含む家畜、動物園の動物等の捕獲動物、および野生動物が含まれる。
治療法
本開示は、in vitroまたはin vivoにおいてもたらされ得る、T細胞活性化を抑制するための方法を提供する。
一部の実施形態では、T細胞活性化を抑制するための方法は、T細胞を含む細胞集団を、in vitroまたはex vivoで、有効量のSTRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子と、T細胞活性化を抑制するのに十分な時間接触させることを含む。
一部の実施形態では、前記方法は、T細胞(例えば、CD4+細胞)を含む細胞集団を得ること、並びにそのT細胞をSTRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子と、T細胞受容体活性化を抑制するのに十分な時間接触させることを含む。
一実施形態では、STRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子は、前記細胞集団内の調節性T細胞の形成または増殖を刺激する。調節性T細胞は、エフェクターT細胞の活性を抑制し、CD4+CD25+マーカーによって特徴づけられる一部のT細胞である。一部の実施形態では、調節性T細胞はFoxP3+および/またはIL−10産生調節性T細胞である。
従って、さらなる実施形態では、本開示の方法は、T細胞を含む細胞集団を、in vitroまたはex vivoで、有効量のSTRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子、並びにα−メラニン細胞刺激ホルモン(α−MSH)および/またはトランスフォーミング増殖因子−β2(TGF−β2)等の、調節性T細胞の形成を刺激する一つまたは複数の因子と一緒に培養することを含む。一部の態様では、培地には、IL−10産生調節性T細胞の発生を促進することが明らかにされているビタミンD3および/またはデキサメタゾンも含まれる(Barrat et al. J. Exp. Med. 195(5): 2002, 603−616)。
一部の実施形態では、T細胞は、STRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子への曝露に先立ち、哺乳類試料から単離される。
T細胞に対しての「単離された」という用語は、少なくとも70、80、90、95、99、または100%のT細胞を有するような細胞集団調製物を指す。一部の態様では、所望の細胞集団を他の細胞成分から単離し、場合によっては、単離状態の細胞の研究を「汚染する」または妨げる可能性がある他の細胞型を特異的に排除する。しかしながら、そのような「単離された」細胞集団が、細胞生存に必要な、または本開示によって提供される所望の結果を達成するためのさらなる細胞型を組み込んでもよいことは理解されるべきである。例えば、単球(マクロファージ)または樹状細胞等の抗原提示細胞は、T細胞の「単離された」細胞集団中に存在してもよく、または調節性T細胞の発生を目的として単離されたT細胞の集団に添加されてもよい。一部の態様では、これらの抗原提示細胞は、活性化された単球または樹状細胞であってもよい。
本開示の方法で用いるT細胞を含む細胞集団は、哺乳類の対象から取った生物試料より単離されてもよい。前記試料は、いくつかの源、例えば、限定はされないが、末梢血、白血球アフェレーシス血液製剤、アフェレーシス血液製剤、骨髄、胸腺、組織生検、腫瘍、リンパ節組織、消化管関連リンパ系組織、粘膜関連リンパ組織、肝臓、免疫性病変部位(例えば、滑液)、膵臓、および脳脊髄液に由来するものであってもよい。ドナーとなる対象は好ましくはヒトであり、胎児、新生児、小児、成人であってよく、正常の、病気の、または注目の疾患に罹り易いものであってよい。
一部の実施形態では、T細胞試料は血液試料から得た末梢血単核球(PBMC)を含む。「末梢血単核球」または「PBMC」が意味するものは、リンパ球(T細胞、B細胞、NK細胞等を含む)および単球である。通常は、PBMCは標準的な技術を用いて患者から単離される。一部の実施形態では、実質的に全ての赤血球および多形核白血球をドナーに残すまたは戻すことによって、PBMCのみが採取される。PBMCは、白血球フェレーシス(leukophoresis)等の、当該技術分野において周知の方法を用いて単離することができる。通常、5〜7リットルの白血球フェレーシス(leukophoresis)ステップが行われ、患者からPBMCが原則的に除去され、残りの血液成分が戻される。試料の収集は、好ましくは、抗凝固剤(例えば、ヘパリン)の存在下で行われる。
PBMCまたは単離T細胞を含むT細胞含有試料は、STRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子で処置する前に、種々の方法を用いて前処置することができる。一般的に、収集した時点で、収集または細胞をさらに精製および/もしくは濃縮することと同時にこれを行わない場合、細胞をさらに濃縮することができる。例えば、PBMCは、密度勾配遠心(例えば、フィコール−ハイパック比重差)によって、部分的に精製することができる。通常、ドナーの試料から単離された細胞は、当該技術分野において周知の技術を用いて、洗浄され、自己抗体、阻害剤等の血清タンパク質および可溶性血液成分が除去される。通常、これには生理的培地または緩衝液の添加と、それに続く遠心が含まれる。これは必要に応じて繰り返してもよい。その後、細胞をカウントすることができるが、一般的に、1×109〜2×109個の白血球が、5〜7リットルの白血球アフェレーシスから回収される。精製した細胞を適切な培地または緩衝液に再懸濁し、生存率を維持することができる。適切な再懸濁用溶液は、一般的には、低濃度、通常5〜50mMの許容できる緩衝液と共に、ウシ胎仔血清、BSA、HSA、正常ヤギ血清、および/または他の天然因子を所望により補添した平衡塩類溶液(例えば、生理食塩水、PBS、ハンクス平衡塩類溶液等)であるだろう。都合のよい緩衝液には、限定はされないが、HEPES、リン酸緩衝液、乳酸緩衝液等が含まれる。
所望の特性(例えば、CD4+、FoxP3+等)を有する細胞を富化する技術を用いて、特定の細胞型(例えば、エフェクターT細胞、調節性T細胞等)を細胞の混合物から分別することができる。最も標準的な分別法は、親和性精製技術を用いており、実質的に単離された細胞集団が得られる。親和性分別のための技術には、限定はされないが、磁気分別(例えば、抗体被膜磁気ビーズを用いる)、アフィニティークロマトグラフィー、モノクローナル抗体に連結された細胞毒(例えば、補体および細胞毒)、並びに固体基盤に結合された抗体での「パニング」が含まれ得る。厳密な分別を提供する技術には、蛍光標識細胞分取が含まれ、それは多色チャネル、インピーダンスチャネル等、様々な程度に高度化(sophistication)され得る。死細胞と会合する色素(例えば、ヨウ化プロピジウム、LDS等)を使用することによって、死細胞から、生細胞を選別することができる。選別された細胞の生存能に対し過度に有害ではない技術は全て使用することができる。
使用される親和性試薬は、細胞表面の分子(例えば、CD4、CD25等)に対して特異的な受容体またはリガンドであってもよい。抗体はモノクローナルであってもポリクローナルであってもよく、遺伝子導入動物、免疫動物、不死化B細胞、およびその抗体をコードしているDNAベクターを形質移入された細胞によって産生されてもよい。抗体作製および特定の結合メンバーとしての使用へのそれらの適合性に関する詳細は当業者に周知である。抗体試薬に加えて、ペプチド−MHC抗原およびT細胞受容体対、並びにペプチドリガンド、エフェクター分子および受容体分子を使用してもよい。
精製のための親和性試薬として用いられる抗体は、通常、分別用の標識と結合している。標識には、磁気ビーズ(直接分別を可能にする)、ビオチン(担体に結合したアビジンもしくはストレプトアビジンで除去できる)、蛍光色素(蛍光標示式細胞分取器で用いることができる)、または特定の細胞型の分別の容易さを可能にするような他の標識が含まれ得る。蛍光色素には、フィコエリトリンおよびアロフィコシアニン等のフィコビリタンパク質、フルオレセイン並びにテキサスレッドが含まれ得る。しばしば、各々のマーカーに対する別個の分取を可能とするために、各々の抗体は異なる蛍光色素で標識される。
所望の細胞集団の精製のために、細胞特異的抗体を細胞の懸濁液に加え、利用可能な細胞表面抗原に結合するのに十分な時間インキュベートする。インキュベーションは、通常少なくとも約5分で、通常約30分未満となる。分別効率が抗体の不足によって制限されないように、反応混合物中には十分な濃度の抗体が存在することが望ましい(すなわち、飽和量の抗体を用いる)。適切な濃度は滴定によって決定することもできる。細胞の生存能を維持するいかなる培地も、細胞が分別される培地となる。好ましい培地は、0.1%〜0.5%BSA含有リン酸緩衝食塩水である。様々な培地が市販されており、細胞の性質に応じて使用することができ、例えば、ウシ胎仔血清、BSA、HSA等を所望により補添された、ダルベッコ変法イーグル培地、ハンクス塩基性塩類溶液(Hank’s Basic Salt Solution)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、RPMI、イスコフ培地(Iscove’s medium)、5mM EDTA含有PBS等が挙げられる。
細胞の染色強度はフローサイトメトリーでモニターすることができるが、フローサイトメトリーではレーザーによって蛍光色素の量的レベル(抗体が結合した細胞表面抗原量に比例)が検出される。フローサイトメトリー、または蛍光標識細胞分取(FACS)は、抗体染色の強度、並びに細胞サイズおよび光散乱等の他のパラメーターに基づいて細胞集団を分別するのにも使用することができる。染色の絶対レベルは特定の蛍光色素および抗体製剤によって様々であり得るが、データは対照に基準化することができる。
標識された細胞は、続いて、指定のマーカー(例えば、CD4、CD25等)の発現に応じて分別される。分別された細胞は、通常、回収用チューブの底に血清のクッション(cushion)を有する、細胞の生存能を維持するあらゆる適切な培地に回収することができる。様々な培地が市販されており、細胞の性質に応じて用いることができ、例えば、しばしばウシ胎仔血清が補添されているdMEM、HBSS、dPBS、RPMI、イスコフ培地(Iscove’s medium)等が挙げられる。
所望の特性(例えば、CD4+T細胞、CD4+CD25+調節性T細胞等)が高度に富化された細胞集団はこのようにして得られる。前記所望の集団は、細胞組成の70%以上または約70%以上、通常は細胞組成の90%以上または約90%以上になり、細胞集団の約95%以上程にすることもできる。富化された細胞集団は即時使用することができる。細胞は凍結することも可能であるが、分別手順前に細胞を凍結することが好ましい。あるいは、細胞は液体窒素温度で凍結し、長期間保存することができ、解凍して再利用することが可能である。細胞は通常、DMSOおよび/またはFCS中に、培地、グルコース等と共に保存される。解凍されると、細胞は、増殖および分化のための増殖因子、抗原、刺激、抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)等を用いることで増殖することができる。
PBMCまたは単離T細胞が必要な前処置全てを施された後、その細胞はSTRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子で処置される。「処置」とは、本明細書においては、細胞を、STRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子を含む適切な栄養培地中で、エフェクターT細胞を介した免疫応答を阻害する能力を有する調節性T細胞を生じさせるのに十分な期間、インキュベートすることを意味する。一部の実施形態では、最初の培養液は、おおよそ等体積の栄養培地で希釈される。他の態様では、最初の細胞培養液は2つ以上の部分に分割され、続いて栄養培地で希釈される。培養液分割の利点は、最初の培養液を分割する間に、最初の培養液中に形成された細胞塊(数千の細胞)が自動的に崩れ、より小さな細胞塊(数十〜数百の細胞)を形成することである。これらの小塊は、その後、次の成長期の間により大きな塊に成長することができる。このようにして作製した細胞培養液は、同様の方法を用いて、2倍以上継代することができる。
細胞集団は、in vitroにおいて、種々の培養条件下で成長することができる。培地は液体であっても半固体(例えば、寒天、メチルセルロース等を含有する)であってもよい。細胞集団は、好都合にも、通常はウシ胎仔血清(約5〜10%)、L−グルタミン、および抗生物質(例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシン)が補添されている、イスコフ改変ダルベッコ培地、またはRPMI−1640を含むが限定はされないあらゆる適切な栄養培地中に懸濁することができる。
細胞培養液は細胞が応答する増殖因子を含有してもよい。本明細書で定義される増殖因子とは、膜貫通受容体に対する特異的な作用を介して、培養液または無傷組織のいずれかにおいて細胞の生存、成長および/または分化を促進することが可能な分子である。増殖因子には、ポリペプチドおよび非ポリペプチド因子が含まれる。対象の細胞を培養するのに用いることができる具体的な増殖因子には、インターロイキン(例えば、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−13、IL−14、IL−15、IL−16、IL−17、IL−18等)および抗原(例えば、ペプチド抗原、タンパク質抗原、例えば同種抗原)が含まれ、好ましくは抗原提示細胞、レクチン、非特異的な刺激(例えば、ConA;LPS等)と共に用いられる。培養液は、調節性T細胞の活性を刺激することができる細胞表面受容体に対する抗体(例えば抗CD3)、または特異的リガンド(精製されたリガンド形態、Fc融合タンパク質形態、またはロイシンジッパー形態のような組換えにより標識された他の形態)を含有してもよい。例えば、調節性T細胞上のTNFRまたは他の共起刺激分子と結合し、調節性T細胞の活性を刺激し、増加することができるmAbまたはリガンド。
T細胞集団は、STRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子処置の前、間、後に、未成熟または成熟樹状細胞、並びに他の抗原提示細胞(例えば、単球、B細胞、マクロファージ等)と一緒に共培養することができる。
一部の態様では、本発明の方法は、患者に移植するための調節性T細胞のex vivoでの産生、または調節性T細胞機能のin vitroモデルおよび分析法の開発に有用である。調節性T細胞培養は新規の制御因子および医薬品の貴重な源として有用である。
T細胞の養子移入法は、当該技術分野においては十分に説明がなされており、例えば、米国特許出願第2006/0115899号、同第2005/0196386号、同第2003/0049696号、同第2006/0292164号、および同第2007/0172947号を参照されたい(それらの内容は参照によって本明細書に組み込まれる)。従って、熟練した実施者ならば、本開示の方法によって得られた処置後T細胞集団を、それを必要とする患者に移植または再導入することは容易であろう。移植されたT細胞は、患者自身または治療を受けていない別のドナーから得られたT細胞を含む試料に由来するものであってもよい。これは、通常、当該技術分野で知られている通りに行われ、通常は注入、または他の導入方法を含み、処置された細胞は患者に静脈内投与によって戻される。例えば、細胞は無菌の注射器または他の無菌の導入機構を用いる注入によって、フェンウォール社製の50ml輸液バッグに入れることができる。細胞は、その後直ちに、一定期間に渡って、患者のフリーフローの静脈ライン中に静脈投与によって注入することが可能である。一部の態様では、緩衝液または塩等のさらなる試薬も加えることができる。
本開示の別の態様は、本開示の方法により得られた処置後T細胞および少なくとも1つのさらなる活性薬剤の同時投与(conjoint administration)によって、自己免疫関連障害を治療するための方法を提供する。一部の実施形態では、前記さらなる活性薬剤は、自己免疫疾患を治療または予防するために用いられる治療薬である。本発明の活性薬剤には、限定はされないが、β−インターフェロン、副腎皮質ステロイド、非ステロイド性抗炎症剤、腫瘍壊死遮断薬、抗マラリア剤、シクロスポリン、腫瘍壊死α阻害剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、サイトカイン、抗移植片拒絶治療薬、ビタミンD3、デキサメタゾン、抗体治療薬、およびT細胞エピトープ(例えば、CircassiaによるToleroTrans移植片拒絶治療(ToleroTrans Transplant Rejection Therapy)等)が含まれ得る。同時投与(conjoint administration)に適したサイトカインには、限定はされないが、IL−2、IL−4、IL−7、IL−10、TGF−β、IL−15および/またはIL−17が含まれ得る。一部の実施形態では、前記さらなる活性薬剤は、調節性T細胞以外の細胞型を含む細胞集団であり得る。例えば、処置後T細胞は、治療を必要とする患者に、単球または樹状細胞等の一つまたは複数の抗原提示細胞型と共に、同時に投与され得る。一部の態様では、これらの抗原提示細胞は、活性化された単球または樹状細胞であり得る。
前記細胞を患者に移植した後、必要であれば、治療の効果を評価することができる。当業者ならば、自己免疫疾患の免疫学的徴候を評価するための多くの方法が存在することを認めるであろう(例えば、全抗体価の定量化または特異的免疫グロブリンの定量化、腎機能試験、組織損傷の評価等)。T細胞の数、表現型、活性化状態並びに抗原および/またはマイトジェンへの応答能等のT細胞の機能の試験を行うこともできる。
本開示の一態様は、治療を要する患者に、患者におけるT細胞活性化を抑制するのに有効な量のSTRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子を投与することによって、患者における、自己免疫性の障害または状態等の、過剰なT細胞活性化によって引き起こされる障害を治療または予防するための方法を提供する。
本開示の実施例は、STRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子のマウスモデルへの投与によって、エフェクターT細胞活性の抑制がもたらされたことを示している。
一実施形態では、本開示は、STRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子を投与して、自己免疫性の障害または状態の調節性T細胞を介した抑制を促進する方法を提供する。
本発明の方法は自己免疫障害を患う患者を治療するために用いることができるが、一部の実施形態では、方法は、自己免疫応答を患ってはいないが、発症の危険性がある患者にも適用される。
本開示は、STRO−1+細胞および/またはそれに由来する可溶性因子並びに少なくとも1つのさらなる活性薬剤の同時投与(conjoint administration)によって、自己免疫関連障害を治療するための方法を提供する。本発明の活性薬剤には、限定はされないが、β−インターフェロン、副腎皮質ステロイド、非ステロイド性抗炎症剤、腫瘍壊死遮断薬、抗マラリア剤、シクロスポリン、腫瘍壊死α阻害剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、サイトカイン、抗移植片拒絶治療薬、細胞ベースの治療薬(cell−based therapeutics)、ビタミンD3、デキサメタゾンおよび抗体治療薬が含まれ得る。同時投与(conjoint administration)に適したサイトカインには、限定はされないがIL−2、IL−4、IL−10、TGF−β、IL−15および/またはIL−17が含まれ得る。一部の実施形態では、前記さらなる活性薬剤は、自己免疫疾患を治療または予防するために用いられる治療薬である。
いくつかの自己免疫疾患の病因は、臓器に存在する自己抗原に対する自己免疫性のT細胞応答によって生じると考えられている。例えば、自己反応性T細胞は、以下の病因に関係付けられている:I型糖尿病、多発性硬化症、関節リウマチ、乾癬性関節炎、自己免疫性心筋炎、天疱瘡、セリアック病、重症筋無力症、橋本甲状腺炎、グレーブス病、アジソン病、自己免疫性肝炎、慢性ライム関節炎、家族性拡張型心筋症、若年性皮膚筋炎、多発性軟骨炎、シェーグレン症候群、乾癬、若年性特発性関節炎、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、および移植片対宿主病。
本明細書で使用される場合、「可溶性因子」という用語は、STRO−1+細胞および/またはその子孫によって産生される、水溶性のあらゆる分子、例えば、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、リポ蛋白、リポペプチド、炭水化物等を意味すると解されるものとする。そのような可溶性因子は、細胞内に存在し得る、および/または細胞によって分泌され得る。そのような可溶性因子は、複雑な混合物(例えば、上清)および/もしくはその画分であり得る、並びに/または精製された因子であり得る。本発明の一実施形態では、可溶性因子は、上清中に存在するか、上清中に含有される。従って、一つまたは複数の可溶性因子の投与を対象とする本明細書のいかなる実施形態も、上清の投与に準用すると解されるものとする。
本発明の方法には、STRO−1+細胞および/もしくはその子孫細胞に富化された細胞集団単独、並びに/またはそれに由来する可溶性因子の投与が含まれ得る。本発明の方法には、子孫細胞単独、または子孫細胞由来の可溶性因子の投与も含まれ得る。本発明の方法には、STRO−1強陽性細胞およびその子孫細胞の混合集団、またはSTRO−1強陽性細胞およびその子孫細胞の混合培養から得た可溶性因子の投与も含まれ得る。
さらに、本発明のSTRO−1+細胞および/もしくはその子孫細胞、並びに/またはそれに由来する可溶性因子を用いた1回のみの処置は、長期に渡る免疫抑制剤治療の必要性を排除するため、必要とされ得ると考えられる。あるいは、STRO−1+細胞および/もしくはその子孫細胞並びに/またはそれに由来する可溶性因子の複数回投与が採用され得る。
STRO−1+細胞および/もしくはその子孫細胞並びに/またはそれに由来する可溶性因子の投与量は、広い範囲内で変化し、当然ながら、各々の特殊な症例における個々の要求に合わせられるだろう。通常、非経口投与の場合、レシピエントの体重1キログラム当たり約0.01〜約5百万個の細胞を投与することが通例である。使用される細胞数は、レシピエントの体重および状態、投与の回数または頻度、並びに当業者に知られる他の可変要素(variable)によって決まる。
細胞の投与量の例としては、0.1×106〜5×106個のSTRO−1+細胞および/またはその子孫が挙げられる。例えば、本方法は、0.3×106〜2×106個のSTRO−1+細胞および/またはその子孫を投与することを含む。
本方法の1つの形態には、低用量のSTRO−1+細胞および/またはその子孫を投与することが含まれる。かかる低用量とは、例えば、0.1×105〜0.5×106個のSTRO−1+細胞および/またはその子孫であり、例えば、約0.3×106個のSTRO−1+細胞および/またはその子孫である。
前記細胞は、約0.01〜約5×106細胞/mlの濃度で、適切な希釈液中に懸濁することができる。注射液に用いる適切な賦形剤は、緩衝食塩水溶液または他の適した賦形剤等の、生物学的および生理学的に細胞およびレシピエントに適合するものである。投与用の組成物は、好ましくは、適当な無菌性および安定性を満たして、標準方法に従って製剤化、製造および保存される。
以下の例は本発明の態様をさらに説明するものである。もっとも、それらは本明細書に記載される本発明の教示または開示を限定するものではない。
STRO−1 + 細胞または子孫細胞、およびそれに由来する上清または1つもしくは複数の可溶性因子
STRO−1+細胞は、骨髄、血液、歯髄細胞、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靱帯、腱、骨格筋、真皮、および骨膜で見出される細胞であり;中胚葉および/または内胚葉および/または外胚葉等の生殖細胞系に分化することができる。
一実施形態では、STRO−1+細胞は、多数の細胞型、例えば、限定はされないが、脂肪組織、骨組織、軟骨組織、弾性組織、筋肉組織、および線維性結合組織に分化可能な多能性細胞である。これらの細胞が迎える具体的な細胞系譜の決定および分化経路は、増殖因子、サイトカイン、および/または宿主組織によって構築される局所的な微小環境の条件等の機械的影響および/または内在性生物活性因子からの種々の影響に依存する。従って、STRO−1+多能性細胞は、分裂して、どちらも幹細胞である娘細胞を生じる非造血系前駆細胞であるか、または適切な時期に不可逆的に分化して表現型を持つ細胞(phenotypic cell)を生じる前駆細胞である。
一例では、STRO−1+細胞は、対象、例えば、治療を受ける対象または近縁の(related)対象もしくは非近縁の(unrelated)対象(同一種か異種かに関わらない)から得られた試料から富化される。「富化された」、「富化」という用語またはその変化形は、無処置の細胞集団(例えば、天然環境にある細胞)と比較したときに、ある特定の細胞型の割合またはいくつかの特定の細胞型の割合が増加している細胞集団を記述するために本明細書では使用される。
一例では、本開示で用いられる細胞は、TNAP+、VCAM−1+、THY−1+、STRO−4+(HSP−90β)、STRO−2+、CD45+、CD146+、3G5+またはその組合せからなる群から、個々に、または集合的に選択される一つまたは複数のマーカーを発現する。
「個々に」とは、本開示が、列挙されたマーカーまたはマーカー群を個別に含むこと、および、個々のマーカーまたはマーカー群が本明細書では個別に記載されてはならないにもかかわらず、添付の特許請求の範囲は、かかるマーカーまたはマーカー群を互いから個別に、且つ可分的に定義してもよいことを意味している。
「集合的に」とは、本開示があらゆる数の、またはあらゆる組合せの列挙されたマーカーまたはペプチド群を含むこと、および、かかるあらゆる数の、またはあらゆる組合せの列挙されたマーカーまたはマーカー群が本明細書では具体的に記載されてはならないにもかかわらず、添付の特許請求の範囲は、かかる組合せまたは部分的な組合せを、マーカーまたはマーカー群の他のあらゆる組合せから個別に、且つ可分的に定義してもよいことを意味している。
一例では、STRO−1+細胞はSTRO−1強陽性(bright)(STRO−1強陽性(bri)と同義)である。一例では、Stro−1強陽性細胞は、STRO−1弱陽性またはSTRO−1中間(intermediate)細胞と比較して優先的に富化される。
一例では、STRO−1強陽性細胞は、さらに、TNAP+、VCAM−1+、THY−1+、STRO−4+(HSP−90β)、STRO−2+および/またはCD146+のうちの一つまたは複数である。
一例では、前記間葉系前駆細胞は、WO2004/85630で定義されたように、血管周囲の間葉系前駆細胞である。
所与のマーカーに関して「陽性」であると見なされる細胞は、用語が蛍光の強度に関連する場合、マーカーが細胞表面上に存在している程度に応じた、低(低(lo)または弱陽性(dim))レベルもしくは高(強陽性(bright、bri))レベルのマーカー、または細胞の分取過程で使用される他のマーカーのどちらかを発現している場合がある。低(または弱陽性もしくは微陽性)および強陽性の差異は、分取されている特定の細胞集団上の使用されるマーカーとの関連で理解されるだろう。所与のマーカーに関して「陰性」であるとみなされる細胞は、必ずしもその細胞に全く存在していないわけではない。この用語は、マーカーが、前記細胞によって相対的に非常に低いレベルで発現されていること、および、検出可能な程度に標識された場合に、マーカーが非常に小さなシグナルを発すること、またはバックグラウンドレベル、例えば、アイソタイプ対照抗体を用いて(suing)検出されたレベル以上には検出不能であること、を意味する。
「強陽性(bright)」という用語は、本明細書で使用される場合、検出可能な程度に標識された場合に、相対的に大きなシグナルを発する細胞表面上マーカーを指している。理論に制限されることを望むものではないが、「強陽性」細胞は、試料中の他の細胞よりもいっそう多くの標的マーカータンパク質(例えばSTRO−1から識別される抗原)を発現すると提唱されている。例えば、STRO−1強陽性細胞は、FITC結合STRO−1抗体で標識された場合、蛍光標識細胞分取(FACS)分析によって測定される、非強陽性細胞(STRO−1微陽性/弱陽性)よりも大きな蛍光シグナルを発する。一例では、「強陽性」細胞は、出発試料中に含まれる最も明るく標識された骨髄単核細胞のうちの少なくとも約0.1%を構成している。他の例では、「強陽性」細胞は、出発試料中に含まれる最も明るく標識された骨髄単核細胞のうちの少なくとも約0.1%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、または少なくとも約2%を構成している。一例では、STRO−1強陽性細胞は、「バックグラウンド」、すなわちSTRO−1−である細胞と比較して、STRO−1の細胞表面発現が2対数分(2 log magnitude)高い。比較した場合、STRO−1弱陽性および/またはSTRO−1中間細胞は、「バックグラウンド」よりも、STRO−1の細胞表面発現が2対数未満分高く、典型的には、約1対数以下分高い。
本明細書で使用される場合、「TNAP」という用語は、組織非特異的なアルカリホスファターゼの全てのアイソフォームを包含することが意図されている。例えば、前記用語には、肝アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)および腎アイソフォーム(KAP)が包含される。一例では、TNAPはBAPである。一例では、TNAPは、本明細書で使用される場合、ブダペスト条約の規定に基づきPTA−7282の受託番号で2005年12月19日にATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるSTRO−3抗体と結合することができる分子を指す。
さらに、一例では、STRO−1+細胞はクローン原性のCFU−Fを生じさせることができる。
一例では、かなりの割合のSTRO−1+多能性細胞が、少なくとも2種類の異なる生殖細胞系に分化することができる。多能性細胞が分化決定され得る系譜の例としては、限定はされないが、骨前駆細胞;胆管上皮細胞および肝細胞への多分化能を有する肝細胞前駆細胞;乏突起膠細胞および星状膠細胞へと進行するグリア細胞前駆細胞を生じることができる神経限定細胞(neural restricted cell);ニューロンへと進行する神経前駆細胞;心筋および心筋細胞の前駆細胞、グルコース応答性インスリン分泌膵β細胞株が挙げられる。他の系譜としては、限定はされないが、象牙芽細胞、象牙質産生細胞および軟骨細胞、並びに以下の前駆細胞:網膜色素上皮細胞、 線維芽細胞、ケラチノサイト等の皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、尿細管上皮細胞、平滑筋細胞および骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靱帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄基質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管細胞、上皮細胞、グリア細胞、神経細胞、星状膠細胞および乏突起膠細胞が挙げられる。
別の例では、STRO−1+細胞は、培養後、造血細胞を生じさせることができない。
一例では、本細胞は治療を受ける対象から採取され、標準的な技術を用いてin vitroで培養され、自己成分または同種異系成分としてその対象に投与するための上清または可溶性因子または増殖した細胞を得るために用いられる。別の例では、樹立されたヒト細胞株のうちの一つまたは複数の細胞が用いられる。本開示の別の有用な例では、非ヒト動物の(または、患者がヒトでない場合は別の種に由来の)細胞が用いられる。
本開示は、STRO−1+細胞および/またはその子孫細胞(後者は増殖後細胞(expanded cell)とも称される)から得られる、または由来する、in vitroでの培養から生成される上清または可溶性因子の使用も企図している。本開示の増殖後細胞は、培養条件(培地中の刺激因子の数および/または種類を含む)、継代数等に応じて、種々様々な表現型を有し得る。ある例では、子孫細胞は、約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、または約10回の継代後に、親集団から得られる。もっとも、子孫細胞は、任意の回数の継代後に親集団から得ることができる。
子孫細胞は任意の適切な培地中で培養することによって得ることができる。「培地」という用語は、細胞培養に関して使用される場合、細胞周辺の環境の成分を含む。培地は固体、液体、気体または相および物質の混合物であってもよい。培地には、液体の増殖培地、および細胞増殖を維持しない液体培地が含まれる。また、培地には、寒天、アガロース、ゼラチンおよびコラーゲン基質等のゼラチン質の培地も含まれる。気体培地の例としては、ペトリ皿または他の固体もしくは半固体の担体上で増殖している細胞が曝される気相が挙げられる。また、「培地」という用語は、それが未だ細胞と接触していない場合であっても、細胞培養での使用を目的としている物質を指す。すなわち、細菌培養用に調製された栄養分に富んだ液体が培地である。水または他の液体と混合されたときに細胞培養に適したものとなる粉末状混合物は、「粉末状培地」と称することができる。
一例では、本開示の方法に有用な子孫細胞は、STRO−3抗体で標識した磁気ビーズを用いて、TNAP+STRO−1+細胞を骨髄から単離し、その後、その単離細胞を培養増殖することによって得られる(適切な培養条件の例は、Gronthos et al. Blood 85: 929−940, 1995を参照)。
一例では、そのような増殖後細胞(子孫)(例えば、少なくとも5回継代後)は、TNAP−、CC9+、HLAクラスI+、HLAクラスII−、CD14−、CD19−、CD3−、CD11a−c−、CD31−、CD86−、CD34−および/またはCD80−であり得る。しかし、可能性としては、本明細書に記載の条件とは異なる培養条件下では、種々のマーカーの発現は異なる場合がある。また、これらの表現型の細胞は増殖後の細胞集団において優勢であり得るが、一方で、そのことはこの表現型を有さない細胞の割合が小さいことを意味するものではない(例えば、わずかな比率の増殖後細胞はCC9−であり得る)。一例では、増殖後細胞は異なる細胞型への分化能をまだなお有している。
一例では、上清もしくは可溶性因子、または細胞それ自体を得るために用いられる消費後(expended)細胞集団が含む細胞は、そのうち少なくとも25%、例えば少なくとも50%等がCC9+である。
別の例では、上清もしくは可溶性因子、または細胞それ自体を得るために用いられる増殖後細胞集団が含む細胞は、そのうち少なくとも40%、例えば少なくとも45%等がSTRO−1+である。
さらなる例では、増殖後細胞は、LFA−3、THY−1、VCAM−1、ICAM−1、PECAM−1、P−セレクチン、L−セレクチン、3G5、CD49a/CD49b/CD29、CD49c/CD29、CD49d/CD29、CD90、CD29、CD18、CD61、インテグリンβ6−19、トロンボモジュリン、CD10、CD13、SCF、PDGF−R、EGF−R、IGF1−R、NGF−R、FGF−R、レプチン−R(STRO−2はレプチン−Rである)、RANKL、STRO−1強陽性およびCD146からなる群から集合的に、もしくは個々に選択される一つもしくは複数のマーカー、またはこれらのマーカーのあらゆる組合せを発現し得る。
一例では、子孫細胞は、WO2006/032092で定義および/または記載される、多能性増殖後STRO−1+多能性細胞子孫(Multipotential Expanded STRO−1+ Multipotential cells Progeny)(MEMP)である。子孫が由来し得るSTRO−1+多能性細胞が富化された集団を調製する方法は、WO01/04268およびWO2004/085630に記載されている。in vitroの状況では、STRO−1+多能性細胞は完全に純粋な調製物として存在することはまれであり、通常は組織特異的分化決定済み(committed)細胞(TSCC)である他の細胞と一緒に存在している。WO01/04268は、そのような細胞を骨髄から約0.1%〜90%の純度レベルで回収することに言及している。子孫が由来するMPCを含む集団は、組織源から直接回収してもよいし、あるいは、ex vivoで既に増殖させてある集団であってもよい。
例えば、子孫は、それらが存在する集団の全細胞の少なくとも約0.1、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80または95%を含む、収集され、増殖していない、実質的に精製されたSTRO−1+多能性細胞の集団から得てもよい。このレベルは、例えば、TNAP、STRO−1強陽性、3G5+、VCAM−1、THY−1、CD146およびSTRO−2からなる群から個々に、または集合的に選択される少なくとも1つのマーカーが陽性である細胞を選別することによって達成することができる。
MEMPSは、STRO−1強陽性マーカーに対し陽性であり、アルカリホスファターゼ(ALP)マーカーに対し陰性であるという点で、新たに収集されたSTRO−1+多能性細胞と区別することができる。対照的に、新たに単離されたSTRO−1+多能性細胞は、STRO−1強陽性およびALPの両方に対し陽性である。本開示の一例では、投与される細胞のうち少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%が、STRO−1強陽性、ALP−の表現型を有する。一例では、MEMPSはKi67、CD44および/またはCD49c/CD29、VLA−3、α3β1マーカーのうちの一つまたは複数に対し陽性である。さらなる例では、MEMPはTERT活性を示さず、および/または、CD18マーカーに対し陰性である。
STRO−1+細胞出発集団は、WO01/04268またはWO2004/085630に記載される、あらゆる一つまたは複数の組織型、すなわち、骨髄、歯髄細胞、脂肪組織および皮膚由来、あるいは、より広範に、脂肪組織、歯、歯髄、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、脾臓、リンパ節、胸腺、膵臓、骨、靱帯、骨髄、腱および骨格筋由来であってもよい。
本開示を実施する際、任意の所与の細胞表面マーカーを保有している細胞の分別は、いくつかの異なる方法によって達成できるが、一部の方法は、結合物質(例えば、抗体またはその抗原結合断片)を関係するマーカーに結合し、高レベル結合、または低レベル結合または結合なしのいずれかである、結合を示す細胞を分別することに依存することは理解されるだろう。最も都合のよい結合物質は、モノクローナル抗体等の、抗体または抗体ベースの分子であるか、またはこれらの後者の作用物質の特異性によってモノクローナル抗体に基づいている。抗体は両方のステップに用いることができるが、他の作用物質を用いてもよく、従って、マーカーを保有している細胞、またはマーカーがない細胞を富化するために、これらのマーカーに対するリガンドを使用してもよい。
抗体またはリガンドを固体の担体に付着させることで、粗分別が可能となる
分別技術は、収集される画分の生存能の保持率を最大とすることが好ましい。異なる効率の種々の技術が、比較的粗い分別を行うために使用可能である。使用される具体的な技術は、分別効率、随伴する細胞毒性、実施の容易さおよび速さ、並びに高性能機器および/または技巧の必要性に応じたものとなるだろう。分別の手順には、限定はされないが、抗体被膜磁気ビーズを用いた磁気分別、アフィニティークロマトグラフィーおよび固体の基盤に付着した抗体での「パニング」が含まれ得る。正確な分別を提供する技術としては、限定はされないが、FACSが挙げられる。FACSを実施するための方法は、当業者には明らかであるだろう。
本明細書に記載のマーカーの各々に対する抗体は市販されており(例えば、STRO−1に対するモノクローナル抗体はR&Dシステム社、米国から購入できる)、ATCCまたは他の預託機関から入手可能であり、および/または、当該分野で認知されている技術を用いて作製することができる。
STRO−1+細胞を単離するための方法は、例えば、STRO−1の高レベル発現を認識する磁気細胞分取(MACS)を利用する固相分取ステップである第一ステップを含む。所望であれば、より高レベルの前駆細胞発現をもたらすために、WO01/14268の特許明細書に記載される第二の分取ステップを続けることができる。この第二の分取ステップには、2つ以上のマーカーの使用が含まれ得る。
STRO−1+細胞を得るための方法には、既知の技術を用いた第一富化ステップの前に、細胞の源を収集することが含まれてもよい。従って、組織が外科的に摘出される。源組織を構成する細胞は、その後分別されて、いわゆる単一細胞浮遊液にされる。この分別は、物理的手段および/または酵素的手段によって達成することができる。
適切なSTRO−1+細胞集団を得た後、細胞を任意の適切な手段で培養または増殖させてMEMPを得ることができる。
一例では、前記細胞は治療を受ける対象から採取され、標準的な技術を用いてin vitroで培養され、その対象に自己または同種異系間の組成物として投与することを目的とした上清または可溶性因子または増殖後細胞を得るために用いられる。別の例では、樹立されたヒト細胞株のうちの一つまたは複数の細胞が、上清または可溶性因子を得るために使用される。本開示の別の有用な例では、非ヒト動物(または、患者がヒトでない場合は別の種に由来)の細胞が、上清または可溶性因子を得るために使用される。
本開示は、あらゆる非ヒト動物種由来の細胞、例えば、限定はされないが、非ヒト霊長類細胞、有蹄動物、イヌ、ネコ、ウサギ、げっ歯類、トリ、および魚の細胞を用いて実施できる。本開示を実施することができる霊長類細胞としては、限定はされないが、チンパンジー、ヒヒ、カニクイザル、および他のあらゆる新世界ザルまたは旧世界ザルの細胞が挙げられる。本開示を実施することができる有蹄動物細胞としては、限定はされないが、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、水牛およびバイソンの細胞が挙げられる。本開示を実施することができるげっ歯類細胞としては、限定はされないが、マウス、ラット、モルモット、ハムスターおよびスナネズミの細胞が挙げられる。本開示を実施することができるウサギ種の例としては、家畜化されたウサギ、ノウサギ(jack rabbit、hare)、ワタオウサギ、カンジキウサギ、およびナキウサギが挙げられる。ニワトリ(Gallus gallus)は、本開示を実施することができるトリ種の一例である。
本開示の方法に有用な細胞は、使用前、または上清もしくは可溶性因子を得る前に、保存することができる。真核細胞、具体的には哺乳類細胞を保存および保管するための方法およびプロトコールは、当該技術分野において周知である(例えば、Pollard, J. W. and Walker, J. M. (1997) Basic Cell Culture Protocols, Second Edition, Humana Press, Totowa, N.J.; Freshney, R. I. (2000) Culture of Animal Cells, Fourth Edition, Wiley−Liss, Hoboken, N.J.を参照)。間葉系幹/前駆細胞、またはその子孫等の単離された幹細胞の生物活性を維持するための方法は、本開示と一緒に利用することができる。一例では、前記細胞は凍結保存を用いて維持および保管される。
遺伝子改変細胞
一実施形態では、STRO−1+細胞および/またはその子孫細胞は、遺伝子改変されて、例えば、関心のタンパク質、例えば、治療効果および/または予防効果を与えるタンパク質、例えば、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ、膵リパーゼもしくは膵アミラーゼ、または促進された血管新生に関連するもしくはその原因となるポリペプチド、または細胞の膵細胞もしくは血管細胞への分化に関連するポリペプチドを発現および/または分泌する。
細胞を遺伝子改変する方法は、当業者には明らかであるだろう。例えば、細胞で発現されるべき核酸は、細胞での発現を誘導するためのプロモーターと機能的に連結される。例えば、核酸は、例えば、ウイルスプロモーター、例えば、CMVプロモーター(例えば、CMV−IEプロモーター)またはSV−40プロモーター等の、対象の種々の細胞中で機能できるプロモーターに連結される。さらなる適切なプロモーターは当該技術分野において周知であり、本発明の実施形態に準用すると解されるものとする。
好ましくは、核酸は発現コンストラクトの形態で提供される。本明細書で使用される場合、「発現コンストラクト」という用語は、細胞中で機能的に連結された核酸(例えば、レポーター遺伝子および/または対抗選択可能な(counter−selectable)レポーター遺伝子)を発現させる能力を有する核酸を指す。本発明の枠組みにおいては、発現コンストラクトは、プラスミド、バクテリオファージ、ファージミド、コスミド、ウイルスのサブゲノム断片もしくはゲノム断片、または異種DNAを発現可能な形態で維持および/または複製できる他の核酸を含むか、またはそれら自身であってもよいことは理解されるべきである。
本発明を実施するための適切な発現コンストラクトを構築するための方法は、当業者には明らかであり、例えば、Ausubel et al (In: Current Protocols in Molecular Biology. Wiley Interscience, ISBN 047 150338, 1987)または Sambrook et al (In: Molecular Cloning: Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York, Third Edition 2001)に記載されている。例えば、発現コンストラクトの各成分は、例えばPCRを用いて適切な鋳型核酸から増幅され、その後、例えばプラスミドまたはファージミド等の適切な発現コンストラクト中にクローニングされる。
そのような発現コンストラクトに適切なベクターは、当該技術分野において周知であり、および/または、本明細書に記載されている。例えば、哺乳類細胞における、本発明の方法に適切な発現ベクターは、例えば、インビトロジェン社より提供されるpcDNAベクター一式のベクター、pCIベクター一式(プロメガ社)のベクター、pCMVベクター一式(クロンテック社)のベクター、pMベクター(クロンテック社)、pSIベクター(プロメガ社)、VP16ベクター(クロンテック社)またはpcDNAベクター一式(インビトロジェン社)のベクターである。
当業者は、さらなるベクター、および例えば、インビトロジェン社、クロンテック社またはプロメガ社等の、そのようなベクターの供給源は承知しているだろう。
単離された核酸分子またはそれを含む遺伝子コンストラクトを発現のために細胞に導入する手段は、当業者に周知である。所与の生物体に用いられる技術は、既知の優れた技術に依存する。組換えDNAを細胞に導入するための手段としては、マイクロインジェクション、DEAE−デキストランによって媒介されるトランスフェクション、例えばリポフェクタミン(ギブコ社、米国メリーランド州)および/またはセルフェクチン(ギブコ社、米国メリーランド州)による、リポソームによって媒介されるトランスフェクション、PEGによって媒介されるDNAの取り込み、エレクトロポレーション、並びに、例えばDNAを被膜したタングステンまたは金粒子(アグラセタス社(Agracetus Inc.)、米国ウィスコンシン州)による微小粒子照射(microparticle bombardment)が特に挙げられる。
あるいは、本発明の発現コンストラクトはウイルスベクターである。適切なウイルスベクターは当該技術分野において周知であり、市販されている。核酸の運搬および宿主細胞ゲノムへの核酸の組込みを目的とした従来のウイルスベースの系としては、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。あるいは、アデノウイルスベクターが、エピソームのままの核酸を宿主細胞に導入するのに有用である。ウイルスベクターは、標的細胞および標的組織における遺伝子導入の、効率的で且つ用途の広い方法である。さらに、高い導入効率が、多くの異なる細胞型および標的組織で確認されている。
例えば、レトロウイルスベクターは、通常、最大6〜10kbの外来配列パッケージング容量を有する、シス作動性長末端反復配列(LTR)を含む。最小のシス作動性LTRであってもベクターの複製およびパッケージングには十分であり、その後、発現コンストラクトを標的細胞に組み込むのに使用され、長期発現を提供する。広く使用されているレトロウイルスベクターとしては、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SrV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびその組合せをベースとするものが含まれる(例えば、Buchscher et al., J Virol. 56:2731−2739 (1992); Johann et al, J. Virol. 65:1635−1640 (1992); Sommerfelt et al, Virol. 76:58−59 (1990); Wilson et al, J. Virol. 63:274−2318 (1989); Miller et al., J. Virol. 65:2220−2224 (1991); PCT/US94/05700; Miller and Rosman BioTechniques 7:980−990, 1989; Miller, A. D. Human Gene Therapy 7:5−14, 1990; Scarpa et al Virology 75:849−852, 1991; Burns et al. Proc. Natl. Acad. Sci USA 90:8033−8037, 1993を参照)。
また、様々なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター系が核酸運搬用に開発されている。AAVベクターは、当該技術分野において周知の技術を用いて容易に構築することができる。例えば、米国特許第5,173,414号および同第5,139,941号;国際公開第WO92/01070号および同第WO93/03769号;Lebkowski et al. Molec. Cell. Biol. 5:3988−3996, 1988; Vincent et al. (1990) Vaccines 90 (Cold Spring Harbor Laboratory Press);Carter Current Opinion in Biotechnology 5:533−539, 1992; Muzyczka. Current Topics in Microbiol, and Immunol. 158:97−129, 1992; Kotin, Human Gene Therapy 5:793−801, 1994; Shelling and Smith Gene Therapy 7:165−169, 1994;並びにZhou et al. J Exp. Med. 179:1867−1875, 1994を参照されたい。
本発明の発現コンストラクトを運搬するのに有用なさらなるウイルスベクターとしては、例えば、ワクシニアウイルスおよびトリポックスウイルス等の痘ファミリー(pox family)のウイルス由来のもの、またはアルファウイルス属または複合(conjugate)ウイルスベクター(例えば、Fisher−Hoch et al., Proc. Natl Acad. Sci. USA 56:317−321, 1989に記載のもの)が挙げられる。
細胞および可溶性因子の治療/予防における有用性試験
STRO−1強陽性細胞由来の可溶性因子の、T細胞活性化を抑制する能力を測定する方法は、当業者には明らかであるだろう。
例えば、可溶性因子の免疫抑制活性を測定するための適切なin vitro試験は、本明細書の実施例5および8に記載されている。
別の例では、本明細書に記載の細胞および/または可溶性因子の有効性は、本明細書中の実施例6に記載されるように、実験的炎症性脳脊髄炎(EAE)のin vivoモデルにおいて評価される。
上記のことから当業者には明らかであるが、本開示はまた、T細胞活性化を抑制するための可溶性因子を同定または単離するための方法を提供し、方法には、
(i) EAEを患っている試験対象に可溶性因子を投与すること、およびその対象におけるEAEの進行を評価すること;
(ii) (i)の対象におけるEAEレベルを、可溶性因子を投与されていないEAEを患っている対照となる対象におけるEAEレベルと比較すること、を含み、
ここで、対照となる対象と比較して試験対象のEAEが減少していることは、可溶性因子がEAEを治療、防止または遅延させたことを示唆する。
細胞性組成物
一実施形態では、本発明のSTRO−1+細胞および/またはその子孫細胞は、組成物の形態で投与される。好ましくは、かかる組成物は薬剤的に許容できる担体および/または賦形剤を含む。
「担体」および「賦形剤」という用語は、貯蔵、投与、および/または活性化合物の生物活性を促進するために当該技術分野において従来的に用いられる組成物を指す(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 16th Ed., Mac Publishing Company (1980)を参照)。担体は活性化合物のあらゆる望ましくない副作用を減らすこともできる。適切な担体は、例えば、安定であり、例えば、担体中の他の成分と反応できない。一例では、担体は、治療に使用された投与量および濃度において、重大な局所的または全身的な有害作用をレシピエントにもたらさない。
本発明のための適切な担体には、従来的に使用されるものが含まれ、例えば、水、食塩水、水性デキストロース、ラクトース、リンゲル液、緩衝液、ヒアルロナンおよびグリコールは、特に(等張である場合)水剤用に、好ましい液体担体である。適切な医薬担体および賦形剤としては、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等が挙げられる。
別の例では、担体は、例えば、その中で細胞が生育または懸濁される、培地組成物である。好ましくは、かかる培地組成物は、それを投与された対象においていかなる有害作用も誘導しない。
好ましい担体および賦形剤は、細胞の生存能および/または膵機能障害を減少、防止または遅延させる細胞の能力に悪影響を及ぼさない。
一例では、担体または賦形剤によって緩衝作用(buffering activity)がもたらされ、それにより細胞および/または可溶性因子が適切なpHに維持されることで生物活性が発現される。例えば、前記担体または賦形剤はリン酸緩衝食塩水(PBS)である。PBSは、魅力的な担体または賦形剤であるが、その理由は、血流中または組織もしくは組織の周辺もしくは隣接領域中への、例えば、注射による直接的な適用を目的として、本発明の組成物が液体として製造されるような場合に、PBSが細胞および因子と最小限にしか相互作用せず、細胞および因子の迅速な放出を可能とするためである。
STRO−1+細胞および/またはその子孫細胞は、レシピエント適合性であり、レシピエントに対し有害ではない産物に分解される足場に組み込む、または埋め込むこともできる。これらの足場によって、レシピエントである対象に移植されるべき細胞に、支持および保護がもたらされる。天然および/または合成の生分解性足場は、そのような足場の例である。
種々の異なる足場が、本発明の実施において成功裏に使用され得る。好ましい足場としては、限定はされないが、生物的で、分解可能な足場が挙げられる。天然の生分解性足場としては、コラーゲン、フィブロネクチン、およびラミニン足場が挙げられる。細胞移植の足場のための適切な合成材料は、広範な細胞成長および細胞機能を支持可能なものであるべきである。そのような足場は再吸収可能なものであってもよい。適切な足場としては、例えば、Vacanti, et al. J. Ped. Surg. 23:3−9 1988; Cima, et al. Biotechnol. Bioeng. 38:145 1991; Vacanti, et al. Plast. Reconstr. Surg. 88:753−9 1991に記載されるような、ポリグリコール酸の足場;またはポリ酸無水物、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸等の合成高分子が挙げられる。
別の例では、本細胞はゲル状足場(アップジョン社のゼルフォーム等)に投与され得る。
本発明に有用な本細胞性組成物は、単独で、または他の細胞との混合物として投与されてもよい。本発明の組成物と併せて投与され得る細胞としては、限定はされないが、他の多分化能もしくは多能性を有する細胞もしくは幹細胞、または骨髄細胞が挙げられる。異なる型の細胞は、本発明の組成物と、投与の直前または少し前に混合することができ、あるいは、それらを投与前にある一定期間一緒に共培養してもよい。
好ましくは、本組成物は、有効量または治療的もしくは予防的に有効量の細胞を含む。例えば、本組成物は、約1×105STRO−1+細胞/kg〜約1×107STRO−1+細胞/kgまたは約1×106STRO−1+細胞/kg〜約5×106STRO−1+細胞/kgを含む。投与されるべき細胞の正確な量は、種々の因子、例えば、患者の年齢、体重、および性別、並びに膵機能障害の範囲および重症度に応じて決定される。
一部の実施形態では、細胞は、細胞が対象の血行路に出て行くことを拒むが、細胞から分泌された因子が血行路に進入することは許すチャンバー内に含まれる。このように、本細胞が対象の血行路に因子を分泌することを可能とさせることにより、可溶性因子は対象に投与され得る。そのようなチャンバーは、対象におけるある部位に均等に埋め込むことで可溶性因子の局所レベルを増加させることができ、例えば、移植臓器の中または近くに埋め込まれる。
本発明の一部の実施形態では、細胞性組成物を用いた治療の開始前に患者を免疫抑制することは、必ずしも必要であったり、望まれるわけではない。従って、Stro−1強陽性細胞またはその子孫の、同種異系間、さらには異種間での移植であっても、場合によっては許容されることがある。
しかし、他の場合においては、細胞治療開始前に、患者を薬理学的に免疫抑制することが望ましいか、または適切であり得る。これは、全身的または局所的な免疫抑制剤の使用によって達成することができ、あるいは封入デバイスにて本細胞を送達することによって達成することもできる。本細胞は、細胞および治療因子に必要とされる栄養分および酸素を透過させるが、免疫液性因子および細胞は透過させないカプセルに封入してもよい。好ましくは、カプセルの材料は、アレルギーを起こしにくいもので、標的組織内に容易に且つ安定して位置し、移植された構造体に保護を与える。移植細胞に対する免疫応答を低減または除去するためのこれらおよび他の手段は、当該技術分野において周知である。代わりに、本細胞を、それらの免疫原性を低減させるために、遺伝的に改変してもよい。
可溶性因子の組成物
本発明の一実施形態では、STRO−1+細胞由来の、および/または子孫細胞由来の上清または可溶性因子は、例えば、適切な担体および/または賦形剤を含む組成物の形態で、投与される。好ましくは、担体または賦形剤は可溶性因子または上清の生物学的効果に悪影響を及ぼさない。
一実施形態では、本組成物は、可溶性因子または上清の成分、例えば、プロテアーゼ阻害剤を安定化させるための組成物を含む。好ましくは、プロテアーゼ阻害剤は、対象に対し有害作用を有するのに十分な量では含まれない。
STRO−1+細胞由来の、および/または子孫細胞由来の上清または可溶性因子を含む組成物は、例えば、培地中で、または安定な担体もしくは緩衝溶液、例えば、リン酸緩衝食塩水中で、適切な液体懸濁液として調製してもよい。適切な担体は本明細書の上記の通りである。別の例では、STRO−1+細胞由来の、および/または子孫細胞由来の上清または可溶性因子を含む懸濁液は、注射用の油状懸濁液である。適切な親油性溶媒またはビヒクルとしては、ゴマ油等の脂肪油;またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリド等の合成脂肪酸エステル;またはリポソームが挙げられる。注射用に使用されるべき懸濁液は、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストラン等の、懸濁液の粘度を増加させる物質を含有してもよい。所望により懸濁液は、化合物の溶解性を増加させ、高濃度での溶液の調製を可能とさせる、適切な安定剤または作用物質を含んでもよい。
無菌の注射剤は、必要とされる量の上清または可溶性因子を、上記成分のうちの1つまたは組合せと一緒に、適切な溶媒に組み入れ、必要に応じて、その後フィルター滅菌を行うことによって、調製できる。
通常、分散液は、上清または可溶性因子を、基本(basic)分散媒および上に列挙されたものから必要な他の成分を含有する無菌のビヒクルに組み入れることによって調製される。無菌注射剤調製用の無菌散剤の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥および凍結乾燥であり、それによって、活性成分およびその予め細菌濾過した溶液由来の任意のさらなる所望の成分の粉末が得られる。本発明の別の態様によれば、上清または可溶性因子は、その溶解性を増強する一つまたは複数のさらなる化合物と共に製剤化され得る。
担体または賦形剤の他の例は、例えば、Hardman, et al. (2001) Goodman and Gilman’s The Pharmacological Basis of Therapeutics, McGraw−Hill, New York, N. Y.; Gennaro (2000) Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott, Williams, and Wilkins, New York, N. Y.; Avis, et al. (eds.) (1993) Pharmaceutical Dosage Forms: Parenteral Medications, Marcel Dekker, NY; Lieberman, et al. (eds.) (1990) Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets, Marcel Dekker, NY; Lieberman, et al. (eds.) (1990) Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems, Marcel Dekker, NY; Weiner and Kotkoskie (2000) Excipient Toxicity and Safety, Marcel Dekker, Inc., New York, N. Y.に記載されている。
治療組成物は、通常、製造および貯蔵の条件下では無菌且つ安定であるべきである。本組成物は、溶液、マイクロエマルション、リポソーム、または他の規則構造として製剤化することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、および適切なその混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。例えば、レシチン等の被膜の使用によって、分散の場合に必要とされる粒径の維持によって、および界面活性剤の使用によって、適切な流動性を維持することができる。多くの場合、本組成物中に等張剤、例えば、糖類、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトール等、または塩化ナトリウムを含むことが好ましいだろう。注射用組成物の持続的吸収は、本組成物中に、吸収を遅らせる作用物質、例えば、一ステアリン酸塩およびゼラチンを含むことによってもたらされ得る。さらに、可溶性因子を、徐放性製剤、例えば徐放性ポリマーを含む組成物中に、投与してもよい。例えば、移植片およびマイクロカプセル化した送達系を含む徐放性製剤等、活性化合物は化合物を急速な放出から保護する担体と一緒に調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸およびポリ乳酸ポリグリコール酸コポリマー(PLG)等の、生分解性、生体適合性の高分子を使用することができる。そのような製剤を調製するための多くの方法が、特許をとられているか、または当業者に一般的に知られている。
上清または可溶性因子は、例えば、可溶性因子を除放させるために、適切な基質と併せて投与してもよい。
投与様式
STRO−1+細胞由来の上清もしくは可溶性因子、STRO−1+細胞またはその子孫は、外科的に移植、注射、送達(例えば、カテーテルまたは注射器を手段として)されてもよいし、あるいは、修復または増強を必要としている部位、例えば臓器に、または対象の血液系に直接的または間接的に投与されてもよい。
好ましくは、STRO−1+細胞由来の上清もしくは可溶性因子、STRO−1+細胞またはその子孫は、対象の血流に送達される。例えば、Stro−1強陽性細胞由来の上清もしくは可溶性因子、STRO−1+細胞またはその子孫は非経口的に送達される。非経口投与の経路の例としては、限定はされないが、静脈内、筋肉内、皮下、動脈内、腹腔内、脳室内(intraventricular, intracerebroventricular)、くも膜下腔内が挙げられる。好ましくは、STRO−1+細胞由来の上清もしくは可溶性因子、STRO−1+細胞またはその子孫は、動脈内、大動脈中、心臓の心房もしくは心室中、または膵臓に連結した血管、例えば、腹大動脈、上腸間膜動脈、膵十二指腸動脈または脾動脈中に送達される。
心臓の心房または心室への細胞送達の場合、肺への急速な細胞送達によって生じ得る合併症を避けるため、細胞は左心房または左心室に投与されることが好ましい。
好ましくは、STRO−1+細胞由来の上清もしくは可溶性因子、STRO−1+細胞またはその子孫は、例えば、注射器を用いて、またはカテーテルもしくは中心静脈カテーテル(central line)を通じて、送達部位に注入される。
治療製剤の投与計画の選択は、いくつかの因子、例えば、血清または組織での実体(entity)の代謝回転速度、症状レベル、および実体(entity)の免疫原性に依存する。投与計画は、許容できる副作用レベルを一貫させて、患者に送達される治療化合物の量を最大とすることが望ましい。従って、送達される製剤の量は、特定の実体(entity)および治療されている状態の重症度に部分的に依存する。
一実施形態では、STRO−1+細胞由来の上清もしくは可溶性因子、STRO−1+細胞またはその子孫は、単回急速投与量として送達される。あるいは、STRO−1+細胞由来の上清もしくは可溶性因子、STRO−1+細胞またはその子孫は、持続点滴によって、または、例えば、1日、1週間の間隔の、もしくは週に1〜7回の投与によって、投与される。好ましい投与プロトコールは、重大な望ましくない副作用を回避する、最大の投与量または投与頻度を含むものである。週当たりの合計投与量は、使用される化合物のタイプおよび活性に応じて決定される。適切な投与量の決定は、臨床医によって、例えば、当該技術分野において、治療に影響を与えると知られている、もしくは疑われている、または治療に影響を与えると予想されるパラメーターまたは因子を用いて、行われる。通常、投与はやや適量未満の量から開始され、その後、あらゆる負の副作用と比較して所望の、または最適の効果が達成されるまで、小さな増加量で増加される。重要な診断法には、糖尿病の症状の診断法が含まれる。
実施例1:MSC調製
MSCを、US5,837,539に記載の通りに、骨髄から新規に生成する。およそ80〜100mlの髄を無菌のヘパリン含有注射器内に吸引させ、MSC生成のためMDACC細胞治療研究所(MDACC Cell Therapy Laboratory)に搬送した。骨髄単核細胞をフィコール‐ハイパークを用いて単離し、ゲンタマイシン、グルタミン(2mM)および20%(v/v)ウシ胎児血清(FBS)(ハイクローン社(Hyclone))を含有するα改変MEM(αMEM)を含む、フラスコ当たり50mlのMSC増殖培地と共に、2本のT175フラスコ内に入れた。
前記細胞を37℃、5%CO2で2〜3日間培養し、その時点で非接着細胞を除去した;残った接着細胞を細胞コンフルエンスが70%以上に達するまで続けて培養し(7〜10日間)、その後細胞をトリプシン処理し、MSC増殖培地(フラスコ当たり50mlの培地)と共に6本のT175フラスコに移した。US5,837,539の表5に記載のように、このように単離して増殖させたMSCはSTRO−1陰性である。
実施例2:STRO−3+細胞の選択によるMPCの免疫選択
骨髄(BM)を、ロイヤルアデレード病院(Royal Adelaide Hospital)の施設倫理委員会により承認された方法に従って、健康な正常成人の志願者(20〜35歳)から採取する。簡潔には、40mlのBMを、後腸骨稜から、リチウム−ヘパリン抗凝固剤含有チューブに吸引する。
BMMNCを、前述(Zannettino, A.C. et al. (1998) Blood 92: 2613−2628)の通りに、Lymphoprep(商標)(ニコメッドファーマ(Nycomed Pharma)、ノルウェイ、オスロ)を用いて、密度勾配分別によって調製する。400×g、4℃、30分間の遠心分離後、淡黄色の層をホールピペットで除去し、5%ウシ胎仔血清(FCS、CSLリミテッド社(CSL Limited)、オーストラリア、ヴィクトリア)を含有するハンクス平衡塩類溶液(HBSS;ライフテクノロジー社(Life Technologies)、メリーランド州ゲイサーズバーグ)から成る「HHF」中で3回洗浄する。
続いて、STRO−3+(またはTNAP+)細胞を、前述(Gronthos et al. (2003) Journal of Cell Science 116: 1827−1835; Gronthos, S. and Simmons, P.J. (1995) Blood 85: 929−940)の通りに、磁気活性化細胞分取で単離した。簡潔には、およそ1〜3×108個のBMMNCを、HHF中10%(v/v)正常ウサギ血清から成るブロッキング緩衝液中で、20分間、氷上でインキュベートする。細胞を、ブロッキング緩衝液中10μg/mlのSTRO−3mAb溶液200μlと一緒に、氷上で1時間インキュベートする。続いて、細胞を400×gでの遠心分離によってHHF中で2回洗浄する。HHF緩衝液中1/50希釈のヤギ抗マウスγ−ビオチン(サザンバイオテクノロジー社(Southern Biotechnology Associates)、英国バーミンガム)を加え、細胞を氷上で1時間インキュベートする。細胞を、上記と同様に、MACS緩衝液(1%BSA、5mM EDTAおよび0.01%アジ化ナトリウムを補充したCa2+およびMn2+を含まないPBS)中で2回洗浄し、最終体積0.9mlのMACS緩衝液中に再懸濁する。
100μlのストレプトアビジンミクロビーズ(ミルテニーバイオテック社(Miltenyi Biotec);ドイツ、ベルギッシュグラートバハ)を細胞懸濁液に添加し、氷上で15分間インキュベートする。細胞懸濁液を2回洗浄し、0.5mlのMACS緩衝液に再懸濁した後、ミニMACSカラム(MS Columns、ミルテニーバイオテック社(Miltenyi Biotec))上に充填し、0.5mlのMACS緩衝液で3回洗浄して、STRO−3mAb(2005年12月19日にアメリカ合衆国培養細胞系統保存機関(ATCC)にPTA−7282の受託番号で寄託;国際公開第WO2006/108229号を参照)と結合しなかった細胞を回収する。さらに1mlのMACS緩衝液を加えた後、カラムを磁石から取り除き、TNAP+細胞を陽圧で単離した。各画分からの細胞の一定分量をストレプトアビジン−FITCで染色し、純度をフローサイトメトリーで評価することができる。
実施例3:STRO−3mAbによって選択された細胞はSTRO−1 強陽性 細胞である。
STRO−3mAbをSTRO−1強陽性細胞を単離するための単一試薬として用いることの可能性を確認することを目的とする実験を設計した。
STRO−3(IgG1)はSTRO−1(IgM)とは異なるアイソタイプであることを考慮し、STRO−3のクローン原性CFU−Fを同定する能力を、MACS方法を用いて単離されたSTRO−1+細胞とのその共発現に基づく2色FACS分析によって評価した(図1)。ドットプロットヒストグラムは、リストモードデータとして収集された5×104個の事象を表わしている。垂直線および水平線は、同条件下で処理したアイソタイプ対応対照抗体、1B5(IgG)および1A6.12(IgM)で得られた平均蛍光の1.0%未満の反応性レベルに設定された。結果は、STRO−1強陽性細胞のうち微量の集団がTNAPを共発現したが(右上象限)、残りのSTRO−1+細胞はSTRO−3mAbと反応しなかったことを示している。その後、4つの象限全てからFACSで単離された細胞をCFU−Fの発生率に対して評価した(表1)。
実施例4:Stro−1 微陽性 細胞およびStro−1 強陽性 細胞の相対的な遺伝子および細胞表面タンパク質の発現
最初の一連の実験では、半定量的RT−PCR分析を用いて、蛍光標識細胞分取により単離されたSTRO−1微陽性またはSTRO−1強陽性集団によって発現される種々の系譜関連遺伝子の遺伝子発現プロファイルを調べた(図2A)。第二の一連の実験では、フローサイトメトリーおよび平均チャネル蛍光分析を用いて、蛍光標識細胞分取によって単離されたSTRO−1微陽性またはSTRO−1強陽性集団により発現される、種々の系譜関連タンパク質のうちの細胞表面タンパク質の発現プロファイルを調べた。
全細胞内RNAを、2×106個のSTRO−1強陽性またはSTRO−1微陽性分取一次細胞、軟骨細胞ペレットおよび他の誘導された培養液のいずれかから調製し、RNAzolB抽出法(バイオテックスラボラトリーズ社(Biotecx Lab.Inc.)、テキサス州ヒューストン)を用い、製造元の推奨に従って、溶解した。その後、ファーストストランドcDNA合成キット(ファルマシアバイオテック社(Pharmacia Biotech)、スウェーデン、ウプサラ)を用いて調製された、各亜集団から単離されたRNAを、cDNA合成の鋳型として使用した。種々の転写物の発現を、前述(Gronthos et al., J. Bone and Min. Res. 14:48−57, 1999)の通りに、標準的なプロトコールを用いてPCR増幅によって評価した。本研究で用いられたプライマーセットを表2に示す。増幅後、各反応混合物を1.5%アガロースゲル電気泳動によって分析し、エチジウムブロマイド染色によって可視化した。RNA完全性をGAPDHの発現によって評価した。
各細胞マーカーについての相対的な遺伝子発現を、ImageQantソフトウェアを用い、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの発現を基準にして評価した(図2B、C)。さらに、2色フローサイトメトリー分析を用い、STRO−1抗体と組み合わせて、広範の細胞系譜関連マーカーの発現に基づくex vivoで増殖したMPCのタンパク質発現プロファイルを調べた。STRO−1微陽性およびSTRO−1強陽性培養細胞の、遺伝子およびタンパク質発現に基づく一般的な表現型の概要を表3に示す。データは、ex vivoで増殖したSTRO−1強陽性MPCが、アンジオポエチン−1、VCAM−1、SDF−1、IL−1β、TNFα、およびRANKLを含む血管周囲細胞に関連するマーカーの、特異的なより高い発現を示すことを表わしている。STRO−1微陽性およびSTRO−1強陽性培養細胞のタンパク質および遺伝子発現プロファイルの比較を、表3および表4に要約する。
また、STRO−1強陽性細胞によって唯一発現される遺伝子を同定するために、サブトラクティブハイブリダイゼーション研究を行った。簡潔には、STRO−1微陽性およびSTRO−1強陽性を、上記の通りに単離した(図3A参照)。全RNAを、RNA STAT−60系(TEL−TEST)を用いて5つの異なる髄試料からプールしたSTRO−1微陽性およびSTRO−1強陽性細胞から調製した。SMART cDNA合成キット(クロンテック社)を用いてファーストストランド合成を行った。製造元の仕様書に従って、最初の室温プロセス中に形成される3’および5’プライマー末端の特異的なプライマー部位を用いる長距離PCR(Advantage2PCRキット;クロンテック社)によって、得られたmRNA/一本鎖cDNAハイブリッドを増幅した。STRO−1強陽性cDNAのRsaI消化後、2つの分割量(aliquot)を使用して、クロンテック社製PCR−Select cDNAサブトラクションキットを用いて、異なる特異的なアダプターオリゴヌクレオチドを連結した。製造元のプロトコールに従って、STRO−1強陽性(テスター)およびSTRO−1微陽性(ドライバー)cDNAを用いて、逆の場合も同様に、2回のサブトラクティブハイブリダイゼーションを行った。また、この方法を逆に、STRO−1強陽性ドライバーcDNAに対してハイブリダイズしたSTRO−1微陽性テスターcDNAを用いて行った。
STRO−1強陽性集団によって唯一発現される遺伝子を同定するため、STRO−1強陽性−サブトラクテッドcDNAを用いて、T/Aクローニングベクターに連結されたSTRO−1強陽性サブトラクテッドcDNAで形質転換された200の無作為に選択された細菌クローンを含む、複製(replicate)低密度マイクロアレイフィルターを構築した。続いて、マイクロアレイを[32P]dCTP標識したSTRO−1強陽性またはSTRO−1微陽性サブトラクテッドcDNAで精査した(図3B−C)。ディファレンシャルスクリーニングによって、STRO−1微陽性およびSTRO−1強陽性亜集団の間で高度に特異的に発現される合計44のクローンが同定された。特異的に発現されるクローン全てのDNA塩基配列決定によって、1つのクローンのみが既知の間質細胞マイトジェンで代表的なもの;すなわち、血小板由来増殖因子(PDGF)であることが明らかにされた(Gronthos and Simmons, Blood. 85: 929−940, 1995)。興味深いことに、44のクローンのうち6つが、ケモカインである間質細胞由来因子−1(SDF−1)に対応しているDNA挿入断片を含むことが発見された。ヒトSTRO−1強陽性細胞中の多量のSDF−1転写物を、新しく分取したSTRO−1強陽性、STRO−1微陽性、およびSTRO−1陰性骨髄亜集団から調製した全RNAの半定量的RT−PCRで確認した(図3Dおよび表3)。
タンパク質細胞表面発現とSTRO−1発現の密度を関連させるため、ex vivo増殖後細胞由来の骨髄MPCの単個細胞浮遊液をトリプシン/EDTA剥離によって調製し、続いて広範な細胞系譜関連マーカーを同定する抗体と組み合わせて、STRO−1抗体と一緒にインキュベートした。STRO−1をヤギ抗マウスIgM−フルオレセインイソチオシアネートを用いて同定し、一方で他の全てのマーカーはヤギ抗マウスまたは抗ウサギIgG−フィコエリトリンのいずれかを用いて同定した。細胞内抗原を同定するこれらの抗体について、細胞調製物を最初にSTRO−1抗体で標識し、冷70%エタノールで固定して細胞膜を透過性にし、その後、細胞内抗原に特異的な抗体と一緒にインキュベートした。アイソタイプ一致の対照抗体を同一の条件下で使用した。COULTER EPICSフローサイトメーターおよび収集されたリストモードのデータを用いて、2色フローサイトメトリー分析を行った。ドットプロットは、各系譜の細胞マーカー(y軸)およびSTRO−1(x軸)の蛍光強度レベルを示している5,000個のリストモードの事象を表わしている。垂直および水平の象限は、アイソタイプ一致の負の対照抗体を基準にして確立した。
これらの結果は、SDF−1αおよびRANKLがSTRO−1強陽性細胞によって高発現されることを示している。これら両方のタンパク質は、GVHD等の免疫不全に対する保護を与えるCD4+CD25+調節性T細胞の増加に関わることが知られているため、このことは重要である(Loser et al., Nature Medicine 12:1372−1379, 2006; Hess, Biol. Blood Marrow Transplant, 12 (1 Suppl 2):13−21, 2006; and Meiron et al., J. Exp. Medicine 205:2643−2655, 2008)。
実施例5.
In vitroでの免疫抑制活性
培養増殖されたSTRO−1強陽性細胞(MPC(B))の免疫抑制活性を評価するため、読み取り(read−out)として、CD3/CD28刺激を用いた。結果を、実施例1の通りに単離した、培養増殖された、骨髄由来STRO−1陰性細胞(MSC(A))の集団と比較した。ヒト末梢血単核球(PBMC)を、4つの上昇する濃度のMSCおよびMPC調製物の存在下で、CD3/CD28被膜ビーズで刺激した。T細胞の増殖を3H−Tdr取り込みによって測定した。
MSC(A)およびStro−1強陽性MPC(B)を、ヒト末梢血単核球(PBMC)のCD3/CD28刺激に対する応答を抑制するそれらの能力について試験した。MSCおよびMPCまたは市販品の対照ヒトMSC(ロンザ社(Lonza))を、PBMCの培養液に異なる比率で加えた。3日後、3H−Tdrを18時間加え、培養液を回収した。
CD3/CD28に応答してのPBMC増殖は全ての調製物によって用量依存的に阻害された。しかし、調製物Bは調製物Aおよび対照hMSCによって生じた効果よりも明らかに優れていた(図4)。MSC:PBMC比が1:100のとき、MPC Bは70%の対照T細胞増殖をなお阻害したが、一方で対照の市販品MSC(ロンザ社)およびMSC Aは、それぞれ50%および60%の阻害を生じた(図5)。
実施例6:T細胞増殖に対するMPCのIn vivo効果
以下の実験のために、C57Bl/6Jマウスにおけるミエリン乏突起膠細胞糖タンパク質(MOG)誘導性実験的炎症性脳脊髄炎(EAE)を使用した。C57Bl/6JマウスはMS患者のものに類似した表現型の症状(進行性麻痺)を示し、CNSにおいて広範な炎症、脱髄および軸索消失/損傷を示す。用いられるEAE誘導、臨床症状の評価およびMPC移植のための免疫化手順は以下の通りである。
EAEの能動誘導
リン酸緩衝食塩水(PBS)中に溶解し、400μgの不活化ヒト型結核菌H37Raを含有する等量のフロイント完全アジュバントと混合した200μgの組換えMOGでマウスを免疫した。0.1mlのこの混合物を、25ゲージ(G)の針を用いて、左右の側腹部に皮下注射した(合計0.2ml/マウス)。また、マウスを、0.30mlのPBS中の350ngの不活化された百日咳菌毒素で、0日目および2日目に29G針を用い尾静脈を介して静脈内(i.v.)に免疫した。静脈注射部位からの出血のリスクを低減させるために、注射後に30秒間、静脈注射部位に圧力を穏やかに加えた。
マウスを2〜5分毎に、10〜15分間モニターして、活動性出血がないことを確認した。
MPCを用いた治療
MPCを、基本的には実施例2に記載の通りに単離した。疾患誘導から8、10および12日後に、2×105個または4×105個のMPCを、体積200μlのPBS中の単回の静脈内(i.v.)注射として、投与した(表5参照)。対照は等量のPBSのみの静脈内注射を受けた。マウスを毎日モニターし、臨床徴候を下記の尺度に従ってスコア化した。およそ36日間、実験を継続し、疾患の経過をモニターした。実験終了時に、脳、脊髄および視神経を解剖し、ホルマリン溶液中で固定した。
MPC処置マウスおよび対照を疾患誘導(MOG35−55免疫化)後36日目に選別した。脾細胞をin vitroで、培地単独で培養、またはMOG35−55で再刺激し、その後[3H]−チミジン取り込みを介してT細胞増殖応答を測定した。MOGに対して特異的な増殖応答を、培地単独(刺激なし)で培養された対応脾細胞と比較した。PMA/イオノマイシン中で培養した脾細胞は、T細胞増殖の非特異的な(抗原非依存的な)刺激を測定するのに有用である。
図6に示されるデータは、対照動物由来で培養されたT細胞と比較して、MOGを用いた第二のin vitro抗原刺激に対するT細胞免疫応答が阻害されることを示している。
これらのデータは、ヒトMPCが特異的抗原(例えば、MOGによる抗原刺激)に対するT細胞の免疫応答を、MPCの最終投与から24日後であっても、低減または阻止することを示している。データは、STRO−1富化MPCが多発性硬化症抗原に対する耐性を誘導することを示している。
実施例7:MPCのIn Vitro効果
MPCの免疫調節性を、下記の通りに、増殖アッセイ、混合リンパ球培養反応およびサイトカイン産生によって試験した。
増殖アッセイおよび混合リンパ球培養反応
単核細胞を、基本的には実施例4に記載の通りに、MPCまたはビヒクル単独で処置した健康なC57BL/6マウス、2D2遺伝子導入マウスまたはMOG−免疫化マウスの脾臓から採取する。単個細胞浮遊液を、10%FBS、2mMのL−グルタミン、100ユニット/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン(全てインビトロジェン社より入手)、1mMのピルビン酸ナトリウム(シグマ社)および50μMのβ−メルカプトエタノール(シグマ社)を含有する完全RPMI培地中で調製する。赤血球溶解後、細胞を2回洗浄し、その後、20μg/mlのMOG35−55(GLバイオケム社(GL Biochem))、800ng/mlのイオノマイシンおよび20pg/mlのホルボールミリステートアセテート(PMA)(共にシグマ社から入手)いずれかの存在下で、または10μg/mlの抗CD3および10μg/mlの抗CD8(共にBD社から入手)で予め被膜したウェルに、2.5×105細胞/ウェルの濃度で96ウェル平底マイクロタイタープレート(Nunc)に3連で播種した。その後、細胞を37℃、5%CO2で72時間インキュベートし、1μCi/ウェルの[3H]チミジンを培養の最後の18時間の間加えた。細胞をろ過マット上で回収し、組み込まれた放射活性核酸をTop Count Harvester(パッカードバイオサイエンス社(Packard Biosciences))上でカウントした。MPCによるT細胞増殖の阻害を含む実験のために、脾細胞添加前に2.5〜0.002×104細胞/ウェルの濃度範囲のMPCを播種する。
混合リンパ球培養反応(MLR)において、C57BL/6マウス(レスポンダー)由来の2×105個の脾細胞を、等数の照射済み(20Gy)Balb/cスティミュレーターまたは照射済みMPCと共にインキュベートし、5日間培養し、培養の最後の24時間の間、1μCi/ウェルの[3H]チミジンを添加する。
T細胞阻害に関するMLRにおいて、2×104個の照射済みMPCを、脾細胞の添加前にウェルに播種する。
サイトカイン産生
サイトカイン産生の分析に使用される上清を、20μg/mlのMOG35−55単独で、または2×104個のMPC存在下(1:10のMPC:脾細胞比)で刺激した2D2遺伝子導入マウス由来の2.5×106個の脾細胞の2日目の共培養液から得た。サイトカインの定量分析を、マウスTh1/Th2/Th17cytometric bead array(CBA)キット(BD社)を用い、基本的には製造元の説明書に従って行い、BD FACSCanto II フローサイトメーターで分析する。以下のサイトカインを測定する:インターロイキン(IL)−2、IL−4、IL−6、IL−10、IL−17A、インターフェロン−γ(IFN−γ)および腫瘍壊死因子−α(TNF−α)。
この予備研究のデータは一貫して、STRO−1強陽性MPCが、無処置またはSTRO−1陰性MSC処置と比べて、優れた免疫抑制能を示したことを表わしている。これはin vitroアッセイにおいて明らかであって、そして最も重要な事だが、in vivoアッセイにおいても明らかであった。
実施例8:PHA媒介リンパ球増殖に対するMPCの効果
PBMCを、違法な(illicit)リンパ球増殖のために、フィトヘマグルチニン(PHA;10ug/ml;シグマケミカル社、ミズーリ州セントルイス)で刺激した。ある濃度範囲(表6参照)のSTRO−1強陽性細胞は、図7に示すように、PBMC T細胞増殖応答を有意に抑制することができた。
ヒトにおける研究結果と同様に、ヒツジMPCは、PHAで刺激したヒツジPBMCに対する同種免疫反応のレベルを有意に阻害することができた(図8)。また、ヒツジSTRO−3選別細胞も、ヒツジPBMCまたは精製ヒツジT細胞(ミルテニー(Miltenyi)社製T細胞単離キットを用いて選別)に対するスティミュレーターとして用いられた場合に、用量依存的にリンパ球増殖を抑制することができた(図9)。
本文書で引用された参照は全て、参照によって本明細書に組み込まれたものとする。
広義に記載される本発明の精神または範囲から逸脱することなく、多数の変更および/または改変を特定の実施形態において示される本発明に対し行うことが可能であることは、当業者には理解されるだろう。従って、本発明の実施形態は、あらゆる観点において、説明のためのものであり、限定するものではないと見なされるべきである。