しかしながら、上記特許文献1では、ピストンリングがシリンダの内周面に常時密着するので、燃焼ガスのシール性は十分に確保されるものの、ピストンリング(ピストン)の摺動抵抗が大きくなって、かえって燃費性能が悪化するおそれがあった。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、燃焼ガスの吹き抜け(リーク)を抑制しつつピストンの摺動抵抗を低減することが可能なピストンリングおよびこれを備えたエンジンを提供することを目的とする。
前記課題を解決するためのものとして、本発明のエンジンは、シリンダと、当該シリンダ内に往復運動可能に収容され、シリンダ壁面との間に燃焼室を形成するピストンと、当該ピストンの外周に取り付けられたピストンリングと、当該ピストンリングを前記ピストンの外周に沿って回転させる回転駆動手段とを備え、前記ピストンリングは、当該ピストンリングの回転に伴って、前記燃焼室で生成された燃焼ガスをシールするための空気層を前記シリンダの内周面とピストンリングの外周面との間に形成する空気層形成手段を有する、ことを特徴とするものである(請求項1)。
本発明によれば、ピストンリングの回転に伴ってピストンリングの外周面に空気層が形成されるので、この空気層の存在により、燃焼室で生成された燃焼ガスがピストンリングの外周面とシリンダの内周面との間を通じて反燃焼室側に吹き抜けるのを抑制することができ、例えば吹き抜けガス量の増大に起因してエンジン出力が低下すること等を効果的に防止することができる。
また、前記空気層は、ピストンリングの外周面とシリンダの内周面との間の隙間寸法を常に一定程度に維持する役割を果たすので、ピストンリングがシリンダの内周面に接触するのを有効に回避することができ、シリンダ内でのピストンの摺動抵抗を効果的に低減することができる。しかも、回転駆動手段によりピストンリングを強制回転させつつその回転に伴って前記空気層を形成するので、往復運動するピストンがシリンダ内のどの位置にあっても(例えば往復運動方向の速度がゼロになる上死点または下死点であっても)、前記空気層の形成が途切れることがない。これにより、ピストンの摺動抵抗が十分かつ確実に低減するので、エンジンの燃費性能を効果的に向上させることができる。
本発明において、好ましくは、前記空気層形成手段は、前記ピストンリングの回転に伴って前記シリンダの内周面とピストンリングの外周面との間に反燃焼室側から燃焼室側に向かう空気流が形成されるように前記ピストンリングの外周面に設けられた複数の外周凹部である(請求項2)。
このように、ピストンリングの外周凹部を利用して反燃焼室側から燃焼室側に向かう空気流を形成し、燃焼ガスの吹き抜け方向とは反対方向に常に空気が流れるようにした場合には、ピストンリングの外周面に凹部(外周凹部)を設けるだけの比較的簡単な構成で、前記空気層を確実に形成することができる。
前記構成において、より好ましくは、前記外周凹部は、前記ピストンリングの外周面上を周方向に並ぶように設けられるとともに、燃焼室に近づくほど前記ピストンリングの回転方向の反対側に位置するようにシリンダ軸線に対し傾斜している(請求項3)。
この構成によれば、上述した反燃焼室側から燃焼室側に向かう空気流を、シリンダ軸線に対し傾斜した外周凹部によって効率よく形成することができ、前記空気層をより確実に形成することができる。
さらに、前記外周凹部は、燃焼室に近づくほど周方向の幅が拡がるように形成されるのが好ましい(請求項4)。
この構成によれば、外周凹部の燃焼室側の圧力が反燃焼室側よりも低圧になるので、上述した空気流の形成をより促進することができる。
前記外周凹部は、周方向に並ぶ複数の第1外周凹部と、第1外周凹部よりも反燃焼室側において周方向に並ぶ複数の第2外周凹部とを有するものであってもよい。この場合において、前記ピストンリングの周長に対する前記第1外周凹部の周方向の合計幅の比率を第1凹部占有率、前記ピストンリングの周長に対する前記第2外周凹部の周方向の合計幅の比率を第2凹部占有率としたとき、前記第1凹部占有率の方が前記第2凹部占有率よりも大きく設定されるのが好ましい(請求項5)。
この構成によれば、ピストンリングの回転中、燃焼室側に位置する第1外周凹部の内部圧力の方が、反燃焼室側に位置する第2外周凹部の内部圧力よりも低くなるので、この圧力差を利用して、上述した反燃焼室側から燃焼室側に向かう空気流を形成することができる。
本発明において、好ましくは、前記ピストンリングの燃焼室側の面に、当該ピストンリングの回転に伴って径方向内側から外側に向かう空気流を形成するための複数の燃焼室側凹部が設けられるとともに(請求項6)、前記ピストンリングの反燃焼室側の面に、当該ピストンリングの回転に伴って径方向外側から内側に向かう空気流を形成するための複数の反燃焼室側凹部が設けられる(請求項7)。
この構成によれば、ピストンリングの燃焼室側/反燃焼室側の面に空気流が形成されるので、この空気流の作用により、ピストンリングは、これを収容する収容溝(リング溝)の壁面などと接触することなく、いわば浮揚した状態に維持される。これにより、ピストンリングを回転させる際の抵抗力が大幅に減少するので、当該ピストンリングを回転駆動手段によって円滑に回転させることができる。
また、ピストンリングの燃焼室側の面では径方向内側から外側に向かう空気流が形成されるので、燃焼室で生成された燃焼ガスがピストンリングの上面の隙間(当該上面と収容溝の壁面との隙間)に入り込むのを抑制することができる。さらに、ピストンリングの反燃焼室側の面では径方向外側から内側に向かう空気流(つまり燃焼室側の空気流とは反対方向の流れ)が形成されるので、ピストンリングの燃焼室側/反燃焼室側の各面に同じ方向の空気流を形成した場合と異なり、ピストンリング周りの空気の収支バランスがとれるので、圧力の不均衡等に起因して意図しない方向に空気が流れたりすることが抑制され、所望の空気流を確実に形成することができる。
前記のようにピストンリングの燃焼室側および反燃焼室側の面にそれぞれ凹部(燃焼室側凹部および反燃焼室側凹部)が設けられている場合、さらに、前記ピストンリングは、前記燃焼室側凹部および反燃焼室側凹部よりも径方向内側に、前記ピストンリングを貫通する連通孔を有することが好ましい(請求項8)。
この構成によれば、ピストンリングの反燃焼室側の面に形成される径方向外側から内側への空気流と、ピストンリングの燃焼室側の面に形成される径方向内側から外側への空気流とが、ピストンリングに設けられた連通孔を通じてつながることになる。これにより、ピストンリングの反燃焼室側の面から連通孔を通って燃焼室側の面に抜ける一連の空気の流れが形成されるので、ピストンリングの各部の空気流をそれぞれ十分に強化することができ、ピストンリングを確実に浮揚させることができる。
前記構成において、より好ましくは、前記回転駆動手段は、前記ピストンリングにおける前記連通孔よりも径方向内側において前記ピストンリングを貫通するように設けられた複数の給気孔と、当該給気孔に空気を供給する空気供給源とを有し、前記空気供給源から供給された空気が当該給気孔内を流通するのに伴って前記ピストンリングに周方向の力が作用するように、前記給気孔の中心軸線がシリンダ軸線に対し傾斜している(請求項9)。
この構成によれば、連通孔の径方向内側に形成された給気孔に空気供給源からの空気を導入するだけの簡単な方法で、ピストンリングに周方向の力を付与することができ、当該周方向の力に応じてピストンリングを確実に回転させることができる。また、給気孔が連通孔よりも径方向内側に位置しているため、給気孔に導入される空気の流れが上述したピストンリング周りの一連の空気の流れ(ピストンリングの反燃焼室側の面から連通孔を通って燃焼室側の面に抜ける流れ)を阻害することがなく、ピストンリングを回転させる駆動力を確保しつつピストンリングを確実に浮揚させることができる。
本発明において、好ましくは、前記回転駆動手段は、前記燃焼室内の燃焼圧力が高い運転条件であるほど前記ピストンリングを高速で回転させる(請求項10)。
この構成によれば、燃焼圧力が高く燃焼ガスの吹き抜けが起き易い条件であるほど、ピストンリングの回転速度が速められて前記空気層の形成が促進されるので、当該空気層によって燃焼ガスを確実にシールすることができる。
本発明において、好ましくは、前記回転駆動手段は、エンジン始動時に、クランキングにより前記ピストンが往復運動される前に前記ピストンリングを回転させる(請求項11)。
この構成によれば、クランキングが開始される時点では既にピストンリングが回転しているので、クランキングに伴いピストンリングがシリンダの内周面に接触するのを回避でき、当該接触による傷等の発生からシリンダの内周面を効果的に保護することができる。
本発明において、好ましくは、前記回転駆動手段は、エンジンが始動されてから完全停止するまで前記ピストンリングを継続的に回転させる(請求項12)。
この構成によれば、エンジンの運転中は常にピストンリングが回転しているので、上述した燃焼ガスの吹き抜け抑制効果とピストン摺動抵抗の低減効果とをエンジンの運転中に常に発揮させることができ、エンジンの出力および燃費性能を効果的に向上させることができる。
また、本発明は、シリンダ内に往復運動可能に収容されかつシリンダ壁面との間に燃焼室を形成するピストンの外周に取り付けられ、所定の回転駆動手段により前記ピストンの外周に沿って回転駆動されるピストンリングであって、当該ピストンリングの回転に伴って、燃焼室側から反燃焼室側への吹き抜けガスを抑制するための空気層を前記シリンダの内周面とピストンリングの外周面との間に形成する空気層形成手段を有する、ことを特徴とするものである(請求項13)。
本発明のピストンリングによれば、これを取り付けたエンジンにおいて、上述した発明と同様の作用効果が奏される。
以上説明したように、本発明のエンジンおよびピストンリングによれば、燃焼ガスの吹き抜け(リーク)を抑制しつつピストンの摺動抵抗を低減することができる。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態にかかるエンジンの断面図であり、図2はその一部拡大図である。これらの図に示されるエンジンは、例えば自動車等の車両に設けられたレシプロエンジンであり、上下方向に延びる円筒状のシリンダ1を内部に形成するシリンダブロック2およびシリンダヘッド3と、シリンダ1の内部に往復運動可能に収容されたピストン5とを備えている。
ピストン5の上方には、シリンダ1の天井部の壁面とピストン5の上面とに囲まれた燃焼室Vが形成されている。燃焼室Vには吸気ポート6および排気ポート7が開口しており、吸気ポート6を開閉する吸気弁8と排気ポート7を開閉する排気弁9とがシリンダヘッド3に設けられている。燃焼室Vでは、図外のインジェクタから噴射される燃料と吸気ポート6から導入された空気とが混合されて燃焼し、当該燃焼により生じたガス(燃焼ガス)が燃焼室Vから排気ポート7へと排出される。また、燃焼ガスによる膨張力を受けてピストン5が押し下げられることにより、ピストン5がシリンダ1内で上下方向に往復運動する。
ピストン5の下方に位置するクランク室Cには、出力軸であるクランクシャフト11が、シリンダ1の中心軸であるシリンダ軸線Xと直交する方向(紙面に直交する方向)に延びるように配設されている。クランクシャフト11はコネクティングロッド12を介してピストン5と連結されており、ピストン5の往復運動に応じてクランクシャフト11が中心軸回りに回転するようになっている。なお、当実施形態のエンジンは、ガソリンを燃料として供給するガソリンエンジンである。このため、シリンダヘッド3には、燃焼室V内の混合気に着火するための点火プラグ4が設けられている。
ピストン5の外周には、シリンダ軸線Xを中心とした円環状のピストンリング20が、ピストン5の外周に沿って回転可能に取り付けられている。具体的に、ピストン5の外周には、径方向内側に凹陥したリング溝31がピストン5の全周に亘って(環状に)形成されており、当該リング溝31に収容された状態でピストンリング20がピストン5に対し回転可能に(シリンダ軸線Xを中心に回転可能に)取り付けられている。
ピストンリング20は、シリンダ軸線Xと平行な面に沿った断面が略矩形状に形成されており、ピストン5の外周面(リング溝31よりも上側および下側の部分の外周面)からわずかに径方向外側に突出する状態でリング溝31に収容されている。ピストンリング20の外径は、シリンダ1の内径よりもわずかに小さい値に設定されており、ピストンリング20の外周面21とシリンダ1の内周面との間にはごく小さな隙間(図3において符号Qで示す隙間)が形成されるようになっている。
シリンダブロック2には、ピストンリング20に空気を供給するためのエアポンプP(請求項にいう「空気供給源」に相当)が取り付けられている。エアポンプPは、図外の電気モータにより駆動される電動式のポンプであり、当該電気モータの駆動力制御により、エンジンの運転状態とは独立して空気の供給流量を調整可能とされている。
ピストン5の内部には、エアポンプPから圧送された空気をリング溝31(ピストンリング20)に導入するためのエア導入路35と、リング溝31に導入された空気を外部に排出するためのエア排出路36とが形成されている。詳細は後述するが、エアポンプPから供給される空気は、ピストンリング20を一定の方向(後述する回転方向R)に回転させるように作用する。
図3は、ピストンリング20周りの空気の流れを示すために図2をさらに拡大した断面図であり、図4(a)(b)はピストンリング20を上方から見た上面図であり、図5(a)(b)はピストンリング20を下方から見た底面図であり、図6(a)(b)はピストンリング20を外周側から見た側面図である。なお、ピストンリング20は、エアポンプPからの供給空気によって一定の方向に回転駆動されるので、各図においては、このピストンリング20の回転方向を矢印Rで示している。
図2〜図5に示すように、ピストンリング20の内周縁の近傍には、ピストンリング20を厚み方向(上下方向)に貫通する複数の給気孔25が、周方向に等間隔に並ぶように設けられている。また、給気孔25の径方向外側には、ピストンリング20を厚み方向に貫通する複数の連通孔26が、給気孔25と同様のピッチで周方向に並ぶように設けられている。
連通孔26の径方向外側におけるピストンリング20の上面22には、当該上面22を部分的に下方に凹入させた複数の上面凹部27が、連通孔26と同様のピッチで周方向に並ぶように設けられている。また、連通孔26の径方向外側におけるピストンリングの下面23には、当該下面23を部分的に上方に凹入させた複数の下面凹部28が、連通孔26と同様のピッチで周方向に並ぶように設けられている。なお、上面凹部27は請求項にいう「燃焼室側凹部」に相当し、下面凹部28は請求項にいう「反燃焼室側凹部」に相当する。
図6に示すように、ピストンリング20の外周面21には、当該外周面21を部分的に径方向内側に凹入させた複数の外周凹部29が、周方向に等間隔に並ぶように設けられている。
上述した給気孔25および連通孔26のより詳細な構造を図7(a)〜(c)に示す。具体的に、図7(a)は図4(a)の一部拡大図であり、図7(b)は図7(a)のb−b線に沿った断面図であり、図7(c)は図7(a)のc−c線に沿った断面図である。
図7(a)に示すように、各給気孔25は、ピストンリング20の周方向に所定の幅をもった略矩形(より正確には部分扇形状)の貫通孔であり、上下方向のいずれの位置でも同じ略矩形状の水平断面を有している。ただし、図7(b)に示すように、各給気孔25の中心軸線をYとすると、この中心軸線Yは、上側の方が下側よりもピストンリング20の回転方向Rの前側に位置するように傾斜している。言い換えると、給気孔25は、燃焼室Vに近づくほど回転方向Rの前側に位置するようにシリンダ軸線Xに対し傾斜しつつ上下方向に延びている。
図2および図3に示すように、エア導入路35の出口およびエア排出路36の入口は、ピストンリング20の給気孔25と上下方向に対向するような位置に形成されている。このため、エアポンプPからエア導入路35を通じてピストン5のリング溝31に供給された空気は、図3に矢印Aで示すように、給気孔25の内部を上方から下方へと通過するように流れる。給気孔25を通過した空気は、エア排出路36を通じて外部に排出される。
図7(b)において、給気孔25内を流通する空気の流れが同じく矢印Aとして示される。この矢印Aのように給気孔25内を流通する空気は、傾斜した給気孔25における回転方向Rの前側の壁面25aに当接し、これによって当該壁面25aに破線の矢印で示すような力を作用させる。ピストンリング20は、この空気流Aに由来した力を受けて、回転方向R(上面視で時計回り)に回転する。
このように、当実施形態では、ピストン5の外周に沿ってピストンリング20を回転させる回転駆動手段が、空気の供給源であるエアポンプPと、エアポンプPから供給された空気をピストンリング20に導入するエア導入路35と、導入された空気が流通するようにピストンリング20に穿設された傾斜した給気孔25とによって構成されている。
上記のようにピストンリング20を回転方向Rに回転させる駆動力は、エア導入路35を通じた供給空気の流量が多いほど大きくなる。すなわち、本実施形態では、エアポンプP(図1)から供給される空気の流量を調節することにより、ピストンリング20の回転速度を増減させることが可能である。
図4(a)(b)に示すように、ピストンリング20の上面22に形成された各上面凹部27は、それぞれ平面視(上面視)で台形に形成されている。具体的に、各上面凹部27は、ピストンリング20の径方向の外側ほど幅が広くなるような台形とされており、台形の下底(互いに平行な対辺のうちの長い方)に相当する辺が径方向外側に位置し、かつ上底(互いに平行な対辺のうちの短い方)に相当する辺が径方向内側に位置するように配置されている。この上面凹部27がなす台形の上底と下底とを結ぶ一辺、より詳しくはピストンリング20の回転方向Rの反対側の辺を27aとすると(図4(b)参照)、この辺27aは、径方向外側ほど回転方向Rの反対側に位置するように傾斜している。
上記のような形状の上面凹部27が形成されていることにより、ピストンリング20の回転に伴って、図4(b)および図3において矢印B4で示すように、上面凹部27内を径方向内側から外側に向かうような空気の流れが形成される。すなわち、ピストンリング20が回転駆動されると、ピストンリング20の上面22とこれに対向するリング溝31の壁面との間に存在する空気は、順次、回転方向Rの前側から上面凹部27内へと流入するが、このとき、上面凹部27の形状(つまり径方向内側よりも外側の方が拡幅された形状)に起因して、上面凹部27の内部圧力は、径方向内側よりも外側の方が低くなる。すると、このような圧力分布に起因して、上面凹部27内に流入した空気が径方向外側を指向するように方向転換されて、径方向内側から外側へと向かうような空気流(矢印B4)が形成される。特に、上面凹部27における回転方向Rの反対側の辺27aが上記のように傾斜しているため、この辺27aに沿うように空気が流れることにより、上記矢印B4の流れ(径方向内側から外側への空気流)が強化される。
図5(a)(b)に示すように、ピストンリング20の下面23に形成された各下面凹部28は、上述した上面凹部27と同様に、それぞれ平面視(底面視)で台形に形成されている。ただし、各下面凹部28は、上面凹部27とは逆に、ピストンリング20の径方向の内側ほど幅が広くなるような台形とされており、台形の下底(互いに平行な対辺のうちの長い方)に相当する辺が径方向内側に位置し、かつ上底(互いに平行な対辺のうちの短い方)に相当する辺が径方向外側に位置するように配置されている。この下面凹部28がなす台形の上底と下底とを結ぶ一辺、より詳しくはピストンリング20の回転方向Rの反対側の辺を28aとすると(図5(b)参照)、この辺28aは、径方向内側ほど回転方向Rの反対側に向かうように傾斜している。
上記のような形状の下面凹部28が形成されていることにより、ピストンリング20の回転に伴って、図5(b)および図3において矢印B2で示すように、下面凹部28内を径方向外側から内側に向かうような空気の流れが形成される。すなわち、ピストンリング20が回転駆動されると、ピストンリング20の下面23とこれに対向するリング溝31の壁面との間に存在する空気は、順次、回転方向Rの前側から下面凹部28内へと流入するが、このとき、下面凹部28の形状(つまり径方向外側よりも内側の方が拡幅された形状)に起因して、下面凹部28の内部圧力は、径方向外側よりも内側の方が低くなる。すると、このような圧力分布に起因して、下面凹部28内に流入した空気が径方向内側を指向するように方向転換されて、径方向外側から内側へと向かうような空気流(矢印B2)が形成される。特に、下面凹部28における回転方向Rの反対側の辺28aが上記のように傾斜しているため、この辺28aに沿うように空気が流れることにより、上記矢印B2の流れ(径方向外側から内側への空気流)が強化される。
以上のように、当実施形態では、ピストンリング20の回転に伴い、図3に示すように、ピストンリング20の下面23(下面凹部28に対応する領域)に沿って径方向外側から内側に向かう空気流B2と、ピストンリング20の上面22(上面凹部27に対応する領域)に沿って径方向内側から外側に向かう空気流B4とが形成される。ここで、下面凹部28および上面凹部27の直ぐ内側には、上述したように、ピストンリング20を厚み方向(上下方向)に貫通する連通孔26が形成されている。このため、連通孔26の内部には、自ずと、矢印B3で示すような空気の流れ、つまり、上述したピストンリング20の上下面の空気流B2,B4をつなぐように下方から上方へと向かう空気流B3が形成される。
図7(a)に示すように、各連通孔26は、ピストンリング20の周方向に所定の幅をもった略矩形状(より正確には部分扇形状)の貫通孔であり、上下方向のいずれの位置でも同じ略矩形状の水平断面を有している。ただし、図7(c)に示すように、各連通孔26の中心軸線をZとすると、この中心軸線Zは、上側の方が下側よりもピストンリング20の回転方向Rの反対側に位置するように傾斜している。言い換えると、連通孔26は、燃焼室Vに近づくほど回転方向Rの反対側に位置するようにシリンダ軸線Xに対し傾斜しつつ上下方向に延びている。このような方向に連通孔26が傾斜していることで、ピストンリング20の回転に伴って連通孔26の下から空気が入り込み易くなるので、当該連通孔26を下から上に流通する空気流B3の形成が促進される。
図6(a)に示すように、ピストンリング20の外周面21に設けられた各外周凹部29は、それぞれ側面視で台形に形成されている。具体的に、各外周凹部29は、上側(燃焼室V側)ほど幅が広くなるような台形とされており、台形の下底(互いに平行な対辺のうちの長い方)に相当する辺が上側に位置し、かつ上底(互いに平行な対辺のうちの短い方)に相当する辺が下側に位置するように配置されている。各外周凹部29の中心線(上下の対辺の中心どうしを結ぶ線)をWとすると、この中心線Wは、上側の方が下側よりもピストンリング20の回転方向Rの反対側に位置するように傾斜している。言い換えると、外周凹部29は、燃焼室Vに近づくほど回転方向Rの反対側に位置するようにシリンダ軸線Xに対し傾斜している。また、外周凹部29がなす台形の上底と下底とを結ぶ一辺、より詳しくはピストンリング20の回転方向Rの反対側の辺を29aとすると(図6(b)参照)、この辺29aは、燃焼室Vに近づくほど(上方ほど)回転方向Rの反対側に位置するように傾斜しており、その傾斜角度は上述した中心線Wよりもさらに大きく設定されている。
上記のような形状の外周凹部29が形成されていることにより、ピストンリング20の回転に伴って、図6(b)および図3において矢印B1で示すように、外周凹部29内を下方から上方へと向かうような空気の流れが形成される。すなわち、ピストンリング20が回転駆動されると、ピストンリング20の外周面21とこれに対向するシリンダ1の内周面との隙間(以下、当該隙間のことをピストン隙間Q(図3参照)ともいう)に存在する空気は、順次、回転方向Rの前側から下面凹部28内へと流入するが、このとき、外周凹部29の形状(つまり下側よりも上側の方が拡幅された形状)に起因して、外周凹部29の内部圧力は、下側よりも上側の方が低くなる。すると、このような圧力分布に起因して、外周凹部29内に流入した空気が上方を指向するように方向転換されて、下方から上方へと向かうような空気流(矢印B1)が形成される。特に、外周凹部29における回転方向Rの反対側の辺29aが、側面視で上方ほど回転方向Rの反対側に位置するように傾斜しており、かつ外周凹部29の中心線Wも同様の方向に傾斜しているため、上記辺29aに沿うように空気が流れることにより、上記矢印B1の流れ(下方から上方への空気流)が強化される。
上記のようにピストンリング20の回転に伴ってピストン隙間Qを下方から上方に流れる空気流B1は、当該ピストン隙間Qに比較的密度の高い空気層を形成し、当該空気層は、上方の燃焼室Vで生成された燃焼ガスがピストン隙間Qを通ってクランク室Cに吹き抜けるのを防止する機能(燃焼ガスをシールする機能)を発揮する。すなわち、当実施形態では、燃焼ガスをシールするための比較的密度の高い空気層をピストンリング20の回転に伴ってピストン隙間Qに形成する空気層形成手段が、ピストンリング20の外周面21に形成された複数の外周凹部29によって構成されている。
ここで、ピストンリング20を回転させるための空気の供給源であるエアポンプPは、エンジンの運転状態に応じて次のように制御される。
すなわち、エンジンの運転中、エアポンプPは、燃焼室Vで生成される燃焼ガスの圧力(燃焼圧力)が高い運転条件であるほど多量の空気を吐出するように制御される。例えば、燃焼圧力はエンジンの要求負荷が大きい(つまり燃料の噴射量が多い)ほど高くなるので、当該要求負荷が大きいほどエアポンプPからの吐出流量が増大制御される。ピストンリング20は、このような態様で制御されるエアポンプPによって、要求負荷が大きく燃焼圧力が高い運転条件であるほど高速で回転駆動される。
また、エンジンの始動時、エアポンプPは、クランキング(つまり始動モータによりクランクシャフト11を強制回転させる制御)が行われるよりも前に駆動されて、ピストンリング20に空気を供給する。これにより、ピストンリング20は、クランキングによりピストン5が往復運動を開始する時点では既にピストン5の周りを回転していることになる。
エンジンが始動されると、エアポンプPは、エンジンが完全停止するまで継続的に作動して、ピストンリング20に空気を供給する。これにより、ピストンリング20は、エンジンの始動から完全停止までの間、常にピストン5の周りを回転するように駆動される。
以上説明したように、上記第1実施形態のエンジンによれば、ピストン5の外周に取り付けられたピストンリング20がエアポンプPから供給される空気によって回転駆動されるとともに、ピストンリング20の外周面21に設けられた複数の外周凹部29が、ピストンリング20の回転に伴って燃焼ガスシール用の空気層をピストンリング20の外周面21に形成する空気層形成手段として機能するので、燃焼ガスの吹き抜け(リーク)を抑制しつつピストン5の摺動抵抗を効果的に低減できるという利点がある。
すなわち、上記第1実施形態では、ピストンリング20の回転に伴ってピストンリング20の外周面21に空気層が形成されるので、この空気層の存在により、燃焼室Vで生成された燃焼ガスがピストン隙間Q(ピストンリング20の外周面21とシリンダ1の内周面との間)を通じてクランク室C側(反燃焼室側)に吹き抜けるのを抑制することができ、例えば吹き抜けガス量の増大に起因してエンジン出力が低下すること等を効果的に防止することができる。
また、上記空気層は、ピストンリング20の外周面21とシリンダ1の内周面との間の隙間寸法を常に一定程度に維持する役割を果たすので、ピストンリング20がシリンダ1の内周面に接触するのを有効に回避することができ、シリンダ1内でのピストン5の摺動抵抗を効果的に低減することができる。しかも、エアポンプP等を用いてピストンリング20を強制回転させつつその回転に伴って上記空気層を形成するので、往復運動するピストン5がシリンダ1内のどの位置にあっても(例えば往復運動方向の速度がゼロになる上死点または下死点であっても)、上記空気層の形成が途切れることがない。これにより、ピストン5の摺動抵抗が十分かつ確実に低減するので、エンジンの燃費性能を効果的に向上させることができる。
特に、上記第1実施形態では、ピストンリング20の外周面21上を周方向に等間隔に並ぶように複数の外周凹部29が設けられるとともに、各外周凹部29の中心線Wが、上方ほど(燃焼室Vに近いほど)ピストンリング20の回転方向Rの反対側に位置するようにシリンダ軸線Xに対し傾斜しているので、このように傾斜した外周凹部29の作用により、ピストンリング20の外周面21に沿って下方から上方に(クランク室C側から燃焼室V側に)流れる空気流B1を形成することができる。これにより、燃焼ガスの吹き抜け方向とは反対方向に常に空気を流すことができるので、上述したピストン隙間Qの空気層を確実に形成することができる。
さらに、上記第1実施形態では、上方ほど(燃焼室Vに近づくほど)周方向の幅が拡がるように各外周凹部29が形成されているため、外周凹部29の上側の圧力が下側よりも低圧になる。これにより、上述した空気流B1の形成をより促進することができる。
また、上記第1実施形態では、ピストンリング20の回転に伴って径方向内側から外側に向かう空気流B4を形成するための複数の上面凹部27がピストンリング20の上面22に形成されるとともに、ピストンリング20の回転に伴って径方向外側から内側に向かう空気流B2を形成するための複数の下面凹部28がピストンリング20の下面23に設けられているので、これら空気流B2,B4の作用により、ピストンリング20は、これを収容するリング溝31の上下の壁面と接触することなく、いわば浮揚した状態に維持される。これにより、ピストンリング20を回転させる際の抵抗力が大幅に減少するので、エアポンプPからの供給空気によりピストンリング20を円滑に回転させることができる。また、ピストンリング20の上面22では径方向内側から外側に向かう空気流B4が形成されるので、燃焼室Vで生成された燃焼ガスがピストンリング20の上面22の隙間(当該上面22とこれに対向するリング溝31の壁面との隙間)に入り込むのを抑制することができる。さらに、ピストンリング20の下面では径方向外側から内側に向かう空気流B2(つまり燃焼室側の空気流とは反対方向の流れ)が形成されるので、ピストンリング20の上面22および下面23にそれぞれ同じ方向の空気流を形成した場合と異なり、ピストンリング20周りの空気の収支バランスがとれるので、圧力の不均衡等に起因して意図しない方向に空気が流れたりすることが抑制され、所望の空気流を確実に形成することができる。
また、上記第1実施形態では、上面凹部27および下面凹部28よりも径方向内側に、ピストンリング20を貫通する複数の連通孔26が形成されているので、ピストンリング20の下面23に形成される径方向外側から内側への空気流B2と、ピストンリング20の上面22に形成される径方向内側から外側への空気流B4とが、連通孔26を通じてつながることになる。これにより、ピストンリング20の下面23から連通孔26を通って上面22に抜ける一連の空気の流れ(B2,B3,B4)が形成されるので、ピストンリング20の各部の空気流をそれぞれ十分に強化することができ、ピストンリング20を確実に浮揚させることができる。
また、上記第1実施形態では、ピストンリング20における連通孔26よりも径方向内側に複数の給気孔25が形成されるとともに、エアポンプPから供給された空気が当該給気孔25内を流通するのに伴ってピストンリング20に周方向の力が作用するように、給気孔25の中心軸線Yがシリンダ軸線Xに対し傾斜しているので、給気孔25にエアポンプPからの空気を導入するだけの簡単な方法で、ピストンリング20に周方向の力(図7(b)にて破線矢印で示す力)を付与することができ、当該周方向の力に応じてピストンリング20を確実に回転させることができる。また、給気孔25が連通孔26よりも径方向内側に位置しているため、給気孔25に導入される空気の流れが上述したピストンリング周りの一連の空気の流れ(ピストンリング20の下面23から連通孔26を通って上面22に抜ける流れ)を阻害することがなく、ピストンリング20を回転させる駆動力を確保しつつピストンリング20を確実に浮揚させることができる。
また、上記第1実施形態では、燃焼室V内の燃焼ガスの圧力(燃焼圧力)が高い運転条件であるほどピストンリング20を高速で回転させるようにエアポンプPが制御されるので、燃焼圧力が高く燃焼ガスの吹き抜けが起き易い条件であるほど、ピストンリング20の回転速度が速められて上記ピストン隙間Qでの空気層の形成が促進され、当該空気層によって燃焼ガスを確実にシールすることができる。
また、上記第1実施形態では、エンジン始動時にクランキングが行われる前にエアポンプPが駆動されてピストンリング20が回転させられるので、クランキングが開始された時点でピストンリング20は既に回転している。このため、クランキングに伴いピストンリング20がシリンダ1の内周面に接触するのを回避でき、当該接触による傷等の発生からシリンダ1の内周面を効果的に保護することができる。
また、上記第1実施形態では、エンジンが始動されてから完全停止するまでエアポンプPが継続的に駆動されるので、エンジンの運転中は常にピストンリング20が回転している。このため、上述した燃焼ガスの吹き抜け抑制効果とピストン摺動抵抗の低減効果とをエンジンの運転中に常に発揮させることができ、エンジンの出力および燃費性能を効果的に向上させることができる。
なお、上記第1実施形態では、ピストン5の上端(頂面)近傍の外周面に単一のピストンリング20を取り付けたが、ピストンリング20の下方に同じものを追加で取り付けてもよく、あるいは、ピストンリング20とは機能の異なる別のリング(例えば摩擦係数が小さくなるように表面処理された回転しないリング)をピストンリング20の下方に取り付けてもよい。
また、上記第1実施形態では、ピストンリング20の外周面21に台形状の外周凹部29を設けたが、外周凹部は、ピストンリング20の回転に伴って下方から上方に(クランク室C側から燃焼室V側に)流れる空気流B1を形成できる形状であればよく、種々の形状に代替することが可能である。同様に、上記第1実施形態では、ピストンリング20の上面22(下面23)に台形状の上面凹部27(下面凹部28)を設けたが、上面凹部(下面凹部)は、ピストンリング20の回転に伴って径方向内側から外側に(径方向外側から内側に)流れる空気流B4(B2)を形成できる形状であればよく、種々の形状に代替することが可能である。以下では、その一例を第2実施形態として説明する。
<第2実施形態>
図8〜図10は、本発明の第2実施形態にかかるピストンリング20を示す側面図、上面図、および底面図である。なお、これらの図において、先の第1実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
図8に示すように、ピストンリング20の外周面21には、当該外周面21を部分的に径方向内側に凹入させた複数の外周凹部59が設けられている。外周凹部59は、燃焼室Vに近い上寄りの高さ位置において周方向に並ぶ複数の第1外周凹部59Aと、第1外周凹部59Aよりも燃焼室Vから離れた下寄りの高さ位置において周方向に並ぶ複数の第2外周凹部59Bとを有している。
第1外周凹部59Aおよび第2外周凹部59Bは、それぞれ、ピストンリング20の外周面21に沿って等間隔に並ぶように設けられており、ともに同じ数だけ設けられている。すなわち、図8(b)に示すように、隣接する第1外周凹部59Aどうしの周方向の間隔(ピッチ)と、隣接する第2外周凹部59Bどうしの周方向の間隔(ピッチ)とは、ともにLである。一方、各第1外周凹部59Aの周方向の幅をW1、各第2外周凹部59Bの周方向の幅をW2とすると、第1外周凹部59Aの幅W1の方が第2外周凹部59Bの幅W2よりも大きくなるように設定されている(W1>W2)。
第1外周凹部59Aおよび第2外周凹部59Bの数をそれぞれnとすると、各第1外周凹部59Aの周方向の幅を合計した値(合計幅)はW1×nであり、各第2外周凹部59Bの周方向の幅を合計した値(合計幅)はW2×nである。また、ピストンリング20の外周面21の円周(周長)は、L×nで表すことができる。
ここで、ピストンリング20の周長(L×n)に対する第1外周凹部59Aの合計幅(W1×n)の比率を第1凹部占有比率とすると、当該比率は、W1/Lで表すことができる。同様に、ピストンリング20の周長(L×n)に対する第2外周凹部59Bの合計幅(W2×n)の比率を第2凹部占有比率とすると、当該比率は、W2/Lで表すことができる。上述したとおり、第1外周凹部59Aの幅W1の方が第2外周凹部59Bの幅W2よりも大きいことから、当然、第1凹部占有比率W1/Lは第2凹部占有比率W2/Lよりも大きくなる。
このように、第1凹部占有比率が第2凹部占有比率よりも大きいこと(W1/L>W2/L)から、ピストンリング20の回転中における第1外周凹部59Aの内部圧力は、第2外周凹部59Bの内部圧力よりも低くなる。このため、図8(b)において矢印B1で示すように、ピストンリング20の回転に伴って、圧力の高い第2外周凹部59Bから圧力の低い第1外周凹部59Aに向けた空気流が形成されることになる。この空気流B1は、図3に示す断面視において、ピストンリング20の外周面21とシリンダ1の内周面との隙間(ピストン隙間Q)を下方から上方へと向かう流れ、つまりクランク室C側から燃焼室V側へと向かう流れとなる。
図9および図10に示すように、第2実施形態にかかるピストンリング20の径方向内側領域には給気孔25および連通孔26が形成されている。これら給気孔25および連通孔26の構造および機能は、先の第1実施形態の給気孔25および連通孔26と同様である。
図9に示すように、ピストンリング20の上面22における連通孔26よりも径方向外側には複数の上面凹部57が設けられている。上面凹部57は、上面22の最外周部において周方向に等間隔に並ぶ複数の第1上面凹部57Aと、第1上面凹部57Aよりも径方向内側において周方向に等間隔に並ぶ複数の第2上面凹部57Bとを有している。これら第1上面凹部57Aと第2上面凹部57Bとは、ともに同一のピッチで周方向に並べられているが、それぞれの凹部の周方向の幅(占有率)については、第1上面凹部57Aの方が第2上面凹部57Bよりも大きい。このため、ピストンリング20の回転中は、第1上面凹部57Aの内部圧力の方が第2上面凹部57Bの内部圧力よりも低くなり、その結果、図9(b)に示すように、第2上面凹部57Bから第1上面凹部57Aに向けて、つまり径方向内側から外側に向けて流れる空気流B4が形成される。
図10に示すように、ピストンリング20の下面23における連通孔26よりも径方向外側には複数の下面凹部58が設けられている。下面凹部58は、下面23の最外周部において周方向に等間隔に並ぶ複数の第1下面凹部58Aと、第1下面凹部58Aよりも径方向内側において周方向に等間隔に並ぶ複数の第2下面凹部58Bとを有している。これら第1下面凹部58Aと第2下面凹部58Bとは、ともに同一のピッチで周方向に並べられているが、それぞれの凹部の周方向の幅(占有率)については、第2下面凹部58Bの方が第1下面凹部58Aよりも大きい。このため、ピストンリング20の回転中は、第2下面凹部58Bの内部圧力の方が第1下面凹部58Aの内部圧力よりも低くなり、その結果、図10(b)に示すように、第1下面凹部58Aから第2下面凹部58Bに向けて、つまり径方向外側から内側に向けて流れる空気流B2が形成される。
以上のように、第2実施形態にかかるピストンリング20によれば、上下2段の外周凹部59(第1、第2外周凹部59A,59B)の作用により、ピストンリング20の外周面21(ピストン隙間Q)に下方から上方に向かう空気流B1が形成される。また、内外2段の上面凹部57(第1、第2上面凹部57A,57B)の作用により、ピストンリング20の上面22に径方向内側から外側に向かう空気流B4が形成されるとともに、内外2段の下面凹部58(第1、第2下面凹部58A,58B)の作用により、ピストンリング20の下面23に径方向外側から内側に向かう空気流B2が形成される。さらに、連通孔26には、空気流B2,B4をつなぐように下方から上方へと向かう空気流B3が形成される。これの空気流が形成される上記第2実施形態によれば、先の第1実施形態と同様に、ピストンリング20を浮揚状態で回転させることができ、燃焼ガスの吹き抜け(リーク)を抑制しつつピストン5の摺動抵抗を低減できる等の利点が得られる。