以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置について説明する。
[システム構成]
まず、図1を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置が適用されたエンジンシステムについて説明する。図1は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置が適用されたエンジンシステムの概略構成図である。
図1に示すように、エンジンシステム200は、主に、ディーゼルエンジンとしてのエンジンEと、エンジンEに吸気を供給する吸気系INと、エンジンEに燃料を供給するための燃料供給系FSと、エンジンEの排気ガスを排出する排気系EXと、エンジンシステム200に関する各種の状態を検出するセンサ96〜110と、エンジンシステム200の制御を行うPCM(Power-train Control Module)60と、を有する。このエンジンシステム200は、例えばフロントエンジン・フロントドライブの駆動方式の車両に適用される。
まず、吸気系INは、吸気が通過する吸気通路1を有しており、この吸気通路1上には、上流側から順に、外部から導入された空気を浄化するエアクリーナ3と、通過する吸気を圧縮して吸気圧を上昇させる、ターボ過給機5のコンプレッサと、外気や冷却水により吸気を冷却するインタークーラ8と、通過する吸気流量を調整する吸気シャッター弁7と、エンジンEに供給する吸気を一時的に蓄えるサージタンク12と、が設けられている。
また、吸気系INにおいて、エアクリーナ3の直下流側の吸気通路1上には、吸入空気量を検出するエアフローセンサ101と吸気温度を検出する吸気温度センサ102とが設けられ、ターボ過給機5には、吸気の圧力を検出する吸気圧センサ103が設けられ、インタークーラ8の直下流側の吸気通路1上には、吸気温度を検出する吸気温度センサ106が設けられ、吸気シャッター弁7には、この吸気シャッター弁7の開度を検出する吸気シャッター弁位置センサ105が設けられ、サージタンク12には、吸気マニホールドにおける吸気の圧力を検出する吸気圧センサ108が設けられている。これらの、吸気系INに設けられた各種センサ101〜108は、それぞれ、検出したパラメータに対応する検出信号S101〜S108をPCM60に出力する。
次に、エンジンEは、吸気通路1(詳しくは吸気マニホールド)から供給された吸気を燃焼室17内に導入する吸気バルブ15と、燃焼室17に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁20と、燃焼室17内での混合気の燃焼により往復運動するピストン23と、ピストン23の往復運動により回転されるクランクシャフト25と、燃焼室17内での混合気の燃焼により発生した排気ガスを排気通路41へ排出する排気バルブ27と、を有する。また、エンジンEには、クランクシャフト25における上死点などを基準とした回転角としてのクランク角を検出するクランク角センサ100が設けられており、このクランク角センサ100は、検出したクランク角に対応する検出信号S100をPCM60に出力し、PCM60は、この検出信号S100に基づきエンジン回転数を取得する。基本的には、クランク角センサ100は、クランクシャフト25が180度回転する間に検出信号S100を少なくとも2回以上出力する。例えば、クランク角センサ100は、クランクシャフト25が30度回転するごとに検出信号S100を出力する、つまり30度ごとのクランク角を検出する。
次に、燃料供給系FSは、燃料を貯蔵する燃料タンク30と、燃料タンク30から燃料噴射弁20に燃料を供給するための燃料供給通路38とを有する。燃料供給通路38には、上流側から順に、低圧燃料ポンプ31と、高圧燃料ポンプ33と、コモンレール35とが設けられている。
次に、排気系EXは、排気ガスが通過する排気通路41を有しており、この排気通路41上には、上流側から順に、通過する排気ガスによって回転され、この回転によって上記したようにコンプレッサを駆動する、ターボ過給機5のタービンと、排気ガスの浄化機能を有するディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)45及びディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel particulate filter)46とが設けられている。DOC45は、排出ガス中の酸素を用いて炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)などを酸化して水と二酸化炭素に変化させる触媒であり、DPF46は、排気ガス中の粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集するフィルタである。
また、排気系EXにおいては、ターボ過給機5のタービンの上流側の排気通路41上には、排気圧を検出する排気圧センサ109が設けられ、DPF46の直下流側の排気通路41上には、酸素濃度を検出するリニアO2センサ110が設けられている。これらの、排気系EXに設けられた各種センサ109及び110は、それぞれ、検出したパラメータに対応する検出信号S109及びS110をPCM60に出力する。
更に、本実施形態では、ターボ過給機5は、排気エネルギーが低い低回転域から高回転域まで全域で効率よく高過給を得られる2段過給システムとして構成されている。即ち、ターボ過給機5は、高回転域において多量の空気を過給するための大型ターボチャージャー5aと、低い排気エネルギーでも効率よく過給を行える小型ターボチャージャー5bと、小型ターボチャージャー5bのコンプレッサへの吸気の流れを制御するコンプレッサバイパスバルブ5cと、小型ターボチャージャー5bのタービンへの排気の流れを制御するレギュレートバルブ5dと、大型ターボチャージャー5aのタービンへの排気の流れを制御するウェイストゲートバルブ5eとを備えており、エンジンEの運転状態(エンジン回転数及び負荷)に応じて各バルブを駆動することにより、大型ターボチャージャー5aと小型ターボチャージャー5bによる過給を切り替える。
本実施形態によるエンジンシステム200は、更に、EGR装置43を有する。EGR装置43は、ターボ過給機5のタービンの上流側の排気通路41とターボ過給機5のコンプレッサの下流側(詳しくはインタークーラ8の下流側)の吸気通路1とを接続するEGR通路43aと、EGR通路43aを通過させる排気ガスの流量を調整するEGRバルブ43bとを有する。EGR装置43によって吸気系INに還流される排気ガス量(EGRガス量)は、ターボ過給機5のタービン上流側の排気圧と、吸気シャッター弁7の開度によって作り出される吸気圧と、EGRバルブ43bの開度とによって概ね決定される。
次に、図2を参照して、本発明の実施形態によるエンジンにおけるエンジントルクの伝達系について説明する。図2は、本発明の実施形態によるエンジンのトルク伝達系を示す概略図である。
図2に示すように、エンジンEは、エンジンマウントMtにより車体に固定されており、このエンジンEから出力されたエンジントルクは、フライホイール(図示せず)を介して、トランスミッションTMに伝達される。本実施形態では、エンジンE及びトランスミッションTM(フライホイールも含む)が一体的に組み付けられてパワートレインPTを構成しており、このパワートレインPT全体がエンジンマウントMtにより車体に固定されている。そして、トランスミッションTMから出力されたエンジントルクは、ドライブシャフトDSを介して、駆動輪としての車輪(タイヤ)WHに伝達される。このようなエンジントルクの伝達系は、図2に示すように、ばねとマス(質量)によって構成されており、ばねによる振動要素を有している。
なお、一般的に用いられている「パワートレイン」の文言には、エンジンマウントMtにより車体に構成されたユニットだけでなく、これ以外の構成要素(例えばプロペラシャフトなど)も含む場合があるが、本明細書では、エンジンマウントMtにより車体に構成されたユニット(後述するロール運動を一体的に行うユニット)に対して「パワートレイン」の文言を用いている。
次に、図3を参照して、本発明の実施形態によるパワートレインの構成について説明する。図3は、本発明の実施形態によるパワートレインの概略構成を示している。
図3に示すように、パワートレインPTは、エンジンE、フライホイールFW(トルクコンバータでもよい)及びトランスミッションTMを有しており、上記したエンジンマウントMtを構成する第1のエンジンマウントMt1及び第2のエンジンマウントMt2によって車体に固定されている。具体的には、パワートレインPTは、ペンデュラム方式にて車体に固定されている。このペンデュラム方式では、パワートレインPTを上方から第2のエンジンマウントMt2により釣り下げて振り子の運動で前後に動かすようにし(パワートレインPTの重心とほぼ重なるような慣性主軸(ロール軸)を用いて前後に振れるようにしている)、パワートレインPTの下方に第1のエンジンマウントMt1を設けて、この第1のエンジンマウントMt1によって振り子の動き(前後方向の動き)を規制している。第1のエンジンマウントMt1は、振り子の動きを車両の推進力にすることもできる。
次に、図4を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の電気的構成について説明する。図4は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
本発明の実施形態によるPCM60(エンジンの制御装置)は、上述した各種センサ100〜110の検出信号S100〜S110に加えて、アクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ97、及び車速を検出する車速センサ98のそれぞれが出力した検出信号S97、S98に基づいて、燃料噴射弁20に対する制御を行うべく制御信号S131を出力する。具体的には、PCM60は、クランク角センサ100からの検出信号S100に対応するエンジン回転数を取得するエンジン回転数取得部61と、アクセル開度センサ97からの検出信号S97に対応するアクセル開度を取得するアクセル開度取得部63と、アクセル開度などに基づきエンジントルクを制御するトルク制御部65と、を備える。トルク制御部65は、アクセル開度に応じた目標加速度を決定して、この目標加速度に応じた目標トルクを決定し、この目標トルクを実現するように燃料噴射弁20を制御する。
これらのPCM60の各構成要素は、CPU、当該CPU上で解釈実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)、及びプログラムや各種のデータを記憶するためのROMやRAMの如き内部メモリを備えるコンピュータにより構成される。
[加速時に発生する振動]
次に、図5を参照して、車両の加速時(特に減速から加速に転じるとき)に発生する振動について説明する。図5(a)〜(c)は、図3と同様のパワートレインPTの概略構成を示しており、図5(a)は、加速初期に発生する振動についての説明図であり、図5(b)は、加速中期に発生する振動についての説明図であり、図5(c)は、加速後期に発生する振動についての説明図である。
まず、図5(a)に示すように、加速初期では、エンジントルクが上昇し始めたときに、エンジントルクが伝達される伝達系のガタを有する部材間(伝達系内のギヤや、ドライブシャフトDSと車輪WHとの間のスプラインなど)において所謂「ガタ詰め」が行われる。このときにガタ詰めが勢いよく行われると、振動が発生する(特に音が発生する)。なお、より厳密に言うと、加速初期では、まず、燃焼室17内での燃焼によりピストン23等を介してクランクシャフト25に付与されたトルクによってクランクシャフト25が捻じれて、この後に伝達系のガタ詰めが行われる。
次に、図5(b)に示すように、伝達系のガタ詰めが終了すると、ペンデュラム方式にて車体に釣り下げられたパワートレインPTがロール運動を行う。具体的には、クランクシャフト25が回転する方向と反対方向にパワートレインPTに力が付与されて、パワートレインPTが前方にロール運動を行う。このようにパワートレインPTがロール運動を行うときに、振動(ショック)が発生する傾向にある。
次に、図5(c)に示すように、パワートレインPTのロール運動が終了すると(具体的にはロール運動による第1のエンジンマウントMt1のつぶし込みが終了すると)、ドライブシャフトDSを介して車輪WHに向かって力が加わることとなるが、車輪WHが路面に接地しているため、車輪WHが転がる前に、エンジントルクによりドライブシャフトDSが捻じれる。このときに振動が発生する傾向にある。なお、ドライブシャフトDSの捻じれは、パワートレインPTのロール運動が終了した時点で発生するとは限らず、パワートレインPTのロール運動中にも発生する。つまり、パワートレインPTのロール運動と並行してドライブシャフトDSの捻じれが発生する場合もある。
そして、ドライブシャフトDSの捻じれが所定の位相に達すると(例えば降伏点に達すると)、ドライブシャフトDSの捻じれが止まり、ドライブシャフトDSから車輪WHに向かって力が加わり、車輪WHが転がり始める。この場合、車輪WHによるドライブシャフトDSの固定が解放され、捻じれたドライブシャフトDSが復元しようとし、このドライブシャフトDSの復元による力が反力としてパワートレインPTに向かって伝達される。このときにも振動が発生する傾向にある。
上記したような一連の振動は、加速時にエンジントルクを大きく上昇させると、繰り返し発生する。つまり、伝達系のガタ詰め→パワートレインPTのロール運動→ドライブシャフトDSの捻じれ→捻じれたドライブシャフトDSの復元、が繰り返し発生する。一般的には、このように振動が繰り返し発生することを抑制するために、エンジントルクをかなり緩やかに上昇させるようにしている。
[制御内容]
次に、本発明の実施形態によるエンジントルク制御について説明する。
最初に、図6を参照して、本発明の実施形態によるエンジントルク制御の概要について説明する。図6は、本発明の実施形態によるエンジントルク制御の概要を説明するためのタイムチャートである。
図6において、グラフG11は、アクセル開度の時間変化を示し、グラフG12は、アクセル開度に応じた要求トルクの時間変化を示し、グラフG13は、本実施形態において決定された目標トルクを示し、グラフG14は、比較例による目標トルクを示し、グラフG15は、本実施形態による目標トルクを適用したときの加速度の時間変化を示している。
ここでは、時刻t11において、アクセルペダルが踏み込まれて(アクセル開度が上昇)、減速状態にある車両が加速状態へと移行する場合について説明する。また、グラフG12に示すアクセル開度に応じた要求トルクは、アクセル開度に応じた目標加速度を実現するために付与すべきトルク(以下では適宜「基本目標トルク」と呼ぶ。)である。グラフG13に示す目標トルクは、本実施形態において、加速性能を確保しつつ加速時の振動を抑制する観点から、基本目標トルクを変更したトルク(以下では適宜「振動抑制用目標トルク」と呼ぶ。)である。また、グラフG14に示す目標トルクは、加速性能の向上を犠牲にして加速時の振動を抑制することを優先して定めた、比較例による目標トルクである。
グラフG13に示すように、本実施形態では、PCM60のトルク制御部65は、車両の加速時に発生する振動を抑制するために、原則、グラフG12に示す基本目標トルク(要求トルク)よりもエンジントルクの上昇率を小さくして、エンジントルクの上昇を制限する制御を行う。また、本実施形態では、トルク制御部65は、このようにエンジントルクの上昇を制限しつつも、車両の加速性能を確保するように(グラフG15参照)、グラフG14に示す比較例による目標トルクよりもエンジントルクの上昇率を大きくする。
特に、本実施形態では、トルク制御部65は、車両伝達系、つまりばねマス系の振動特性を考慮に入れ(図2参照)、振動特性に応じたエンジントルクの上昇の制限を行うことで、加速時の振動を適切に抑制しつつ、必要以上にエンジントルクの上昇を制限しないようにして加速性能を確保するようにしている。具体的には、トルク制御部65は、加速時において振動の発生要因となる、上記した伝達系のガタ詰め、パワートレインPTのロール運動、ドライブシャフトDSの捻じれ、及び捻じれたドライブシャフトDSの復元のそれぞれに対処するように、エンジントルクの上昇率を制御する。この場合、本実施形態では、図6に示すように、トルク制御部65は、5つの制御ステート0〜4を規定し、各々の制御ステートにおいて個別にエンジントルクの上昇率を制御する(矢印A1参照)。なお、制御ステート0〜2によるトルク制御は本発明における「第1のトルク制御」に相当し、制御ステート3〜4によるトルク制御は本発明における「第2のトルク制御」に相当する。
まず、加速開始直後の制御ステート0では(時刻t11から時刻t12)、トルク制御部65は、エンジントルクが伝達される伝達系のガタ詰め時に発生する振動を抑制するように、エンジントルクの上昇を制限する制御を行う。こうすることで、伝達系のガタ詰めをゆっくり行わせて、ガタ詰め時に大きな振動(特に音)を生じさせないようにしている。
次いで、トルク制御部65は、制御ステート1では(時刻t12から時刻t13)、パワートレインPTのロール運動の開始条件(換言すると初期状態)を与えるように、具体的にはパワートレインPTのロール運動の初速を制御するように、エンジントルクの上昇を制限する制御を行う。こうすることで、パワートレインPTのロール運動の初速を所定速度以下に制限して、この後に実行するパワートレインPTのロール運動を抑制する制御の制御性を向上させるようにしている。
次いで、トルク制御部65は、制御ステート2では(時刻t13から時刻t14)、パワートレインPTのロール運動が発生している最中において、このロール運動を抑制するように、エンジントルクの上昇を制限する制御を行う。こうすることで、パワートレインPTのロール速度をコントロールして、つまり低い速度でロール運動させるようにして、第1のエンジンマウントMt1を速やかに減衰状態にし、パワートレインPTのロール運動が収束するようにしている。
なお、エンジンマウントMtのほうがドライブシャフトDSよりも柔らかい材料で形成されているので、上記のようにパワートレインPTのロール運動を抑制するようにエンジントルクの上昇を制限することで(制御ステート2)、ドライブシャフトDSの捻じれに適切に対処することができる。つまり、パワートレインPTのロール運動を抑制するように制御を行うことで、ドライブシャフトDSをゆっくり捻じれさせることができ、ドライブシャフトDSの捻じれに起因する振動を抑制できるのである。
次いで、トルク制御部65は、制御ステート3では(時刻t14から時刻t15)、エンジンEから伝達されたトルクにより捻じれたドライブシャフトDSが復元するときに発生する反力を打ち消すように、上記したエンジントルクの上昇の制限を解除して、エンジントルクを上昇させる制御を行う。具体的には、トルク制御部65は、捻じれたドライブシャフトDSが復元するときにパワートレインPTへと伝達される力(パワートレインPTを後方へと押し戻そうとする力)よりも少なくとも大きな前向きの力をパワートレインPTに発生させるように、エンジントルクを上昇させる制御を行う。例えば、トルク制御部65は、基本目標トルク(要求トルク)の上昇率と同程度の上昇率か、若しくは基本目標トルクの上昇率よりも大きな上昇率にて、エンジントルクを上昇させる。こうすることで、捻じれたドライブシャフトDSの反力による影響を抑制して、具体的にはドライブシャフトDSの反力によりパワートレインPTが後方に押し戻されることを抑制して、推進方向に向けてパワートレインPTに力が付与された状態を保持するようにしている。これにより、ドライブシャフトDSの反力によってパワートレインPTが後方に押し戻されて、パワートレインPTのロール運動などが再度発生することを抑制するようにしている。
次いで、トルク制御部65は、制御ステート4では(時刻t15から時刻t16)、要求トルクとしての基本目標トルクにエンジントルクを到達させるように、エンジントルクを上昇させる制御を行う。例えば、トルク制御部65は、基本目標トルクの上昇率と同程度の上昇率か、若しくは基本目標トルクの上昇率よりも大きな上昇率にて、エンジントルクを上昇させる。また、トルク制御部65は、実際のエンジントルクが基本目標トルクに近付くにつれて、エンジントルクの上昇率を小さくしていく。こうすることで、エンジントルクをアクセル開度に応じた基本目標トルクに違和感なく速やかに到達させて、加速性能を向上させるようにしている。
なお、トルク制御部65は、上記したような制御ステート0〜4ごとのトルク制御を、エンジン回転数変化に基づき切り替える。具体的には、トルク制御部65は、クランク角センサ100から入力された検出信号S100に基づき、クランクシャフト25の角速度、角加速度及び角躍度(換言すると角加加速度)の少なくとも1以上を求め、これらの角速度、角加速度及び角躍度の少なくとも1以上に基づき、制御ステート0〜4を切り替えて、エンジントルクの上昇率を変化させる。この場合、トルク制御部65は、角速度、角加速度及び角躍度の少なくとも1以上に基づいて、エンジンシステムにおいて発生している、伝達系のガタ詰め、パワートレインPTのロール運動、及び捻じれたドライブシャフトDSの復元を判定し(特にこれらの現象の発生タイミング及び/又は終了タイミングを判定する)、その判定結果に応じて制御ステート0〜4を切り替える。
また、トルク制御部65は、制御ステート0〜4のいずれかを実行している最中であっても、アクセル開度が上昇し始めてから所定時間(例えば100〜400ms程度の時間)が経過したときに、制御ステート0〜4のいずれかに応じたトルク制御を中止し、基本目標トルクに応じた通常のトルク制御を実行する。基本的には、制御ステート0〜4によるトルク制御は、アクセル開度が上昇し始めてから所定時間以内に完了するように設定されている、つまり制御ステート0〜4によるトルク制御を実行することで加速時の振動が所定時間以内に収まるように設定されている。しかしながら、状況によっては制御ステート0〜4によるトルク制御を実行しても振動が収まりにくい場合もあり、その場合には、加速性能を確保する観点から、制御ステート0〜4によるトルク制御を途中で終了し、基本目標トルクに応じた通常のトルク制御を実行する。
次に、図7を参照して、本発明の実施形態によるエンジントルク制御について、より具体的に説明する。図7は、本発明の実施形態によるエンジントルク制御を実行した場合に得られた各種パラメータの時間変化を示すタイムチャートの一例である。
図7(a)は、アクセル開度の時間変化を示し、図7(b)は、ドライブシャフトDSのトルクの時間変化を示し、図7(c)は、第1のエンジンマウントMt1の前後方向における位相(換言すると前後方向の移動量)の時間変化を示し、図7(d)は、制御ステートの時間推移を示し、図7(e)は、エンジントルクの時間変化を示し、図7(f)は、エンジン回転数の時間変化を示し、図7(g)は、クランクシャフト25の角速度に関して時間軸上で隣り合う角速度の変化比の時間変化を示し、図7(h)は、クランクシャフト25の角躍度(角加加速度)の時間変化を示している。
ここでは、図7(a)に示すように、時刻t21において、アクセルペダルが踏み込まれて、減速状態にある車両が加速状態へと移行する場合について説明するものとする。図7(b)に示すドライブシャフトDSのトルクは、例えばドライブシャフトDSに付した歪みゲージなどにより計測される。図7(c)に示す第1のエンジンマウントMt1の位相は、「0」を基準位置とし、第1のエンジンマウントMt1が前方に移動すると「0」よりも小さな値になる。図7(e)において、破線は基本目標トルク(要求トルク)の時間変化を示し、実線は本実施形態による振動抑制用目標トルクの時間変化を示している。図7(f)に示すエンジン回転数は、PCM60がクランク角センサ100の検出信号S100から求めた値であり、図7(g)、(h)に示す角速度の変化比及び角躍度は、PCM60がこのエンジン回転数から求めた値である。この場合、PCM60は、クランク角センサ100から今回入力された検出信号S100に基づき求めた角速度を、クランク角センサ100から前回入力された検出信号S100に基づき求めた角速度によって除算した値を、角速度の変化比として求める。この角速度の変化比は、角加速度を表すパラメータとなる。角加速度は、角速度の変化度合いを絶対値により示すパラメータであるのに対して、角速度の変化比は、離散値として取得された角速度において、角速度の今回値と前回値との相対値を示すパラメータとなる。
まず、時刻t21においてアクセル開度が上昇し始めたときに、PCM60のトルク制御部65は、制御ステート0を設定して、エンジントルクが伝達される伝達系のガタ詰め時に発生する振動を抑制するように、エンジントルクの上昇を制限する制御を行う。具体的には、トルク制御部65は、制御ステート0では、ガタ詰め時の振動を抑制しつつ、ガタ詰めが速やかに完了するように、必要最小限のエンジントルクを付与してガタ詰めを完了させるようにする。例えば、トルク制御部65は、3〜4程度の燃焼サイクルにおいて、0N付近のエンジントルクを付与するように制御を行う。この0N付近のトルクは、フライホイールFWに発生しているトルクに相当し、エンジンEにおいてピストン23からクランクシャフト25に実際に伝達される力は100N程度である。
次いで、伝達系のガタ詰めが完了した後に、パワートレインPTのロール運動が開始する。このようにパワートレインPTのロール運動が開始したときには、図7(c)中の矢印A21に示すように、第1のエンジンマウントMt1の位相が基準位置(「0」)から前方にずれる、若しくは、第1のエンジンマウントMt1の位相が上昇状態から下降状態へと移行する。この場合、パワートレインPTのロール運動が開始すると、クランクシャフト25の角速度が上昇し始めることとなる。したがって、トルク制御部65は、クランクシャフト25の角速度が上昇し始めたタイミングで、パワートレインPTのロール運動が開始したと判断して、制御ステート0から制御ステート1に切り替える。具体的には、トルク制御部65は、角躍度が正の値で、且つ角速度の変化比が1以上の第1所定値(例えば1.01)を超えたときに(時刻t22)、制御ステート0から制御ステート1に切り替えて、パワートレインPTのロール運動の初速を制御するようにエンジントルクの上昇を制限する制御を開始する。この場合、トルク制御部65は、制御ステート1では、パワートレインPTのロール運動の初速が所定速度以下となるように、比較的小さな上昇率にてエンジントルクを上昇させる(このエンジントルクの上昇率は事前に適合などにより決定すればよい)。また、ロール運動の初速に適用する所定速度は、振動(ショック)をほとんど生じさせないようなロール運動をパワートレインPTに行わせる観点から定められる。基本的には、トルク制御部65は、制御ステート1でのエンジントルクの上昇率を、上記した制御ステート0でのエンジントルクの上昇率よりも小さくする。
次いで、トルク制御部65は、パワートレインPTのロール運動が発生している最中の所定のタイミングで、このロール運動を直接的に抑制する制御を行うべく、制御ステート1から制御ステート2に切り替える。具体的には、トルク制御部65は、角躍度が正の値で、且つ角速度の変化比が上記の第1所定値よりも大きな第2所定値(例えば1.02)を超えたときに(時刻t23)、制御ステート1から制御ステート2に切り替えて、パワートレインPTのロール運動を抑制するようにエンジントルクの上昇を制限する制御を開始する。この場合、トルク制御部65は、制御ステート2では、第1のエンジンマウントMt1を速やかに減衰状態にして、パワートレインPTのロール運動を収束させるべく、パワートレインPTが低い速度でロール運動を行うように、比較的小さな上昇率にてエンジントルクを上昇させる(このエンジントルクの上昇率は事前に適合などにより決定すればよい)。基本的には、トルク制御部65は、制御ステート2でのエンジントルクの上昇率を、上記した制御ステート1でのエンジントルクの上昇率よりも小さくする。
次いで、パワートレインPTのロール運動が終了すると、その後、捻じれたドライブシャフトDSが復元して反力が発生することとなる。この場合、図7(c)中の矢印A22に示すタイミングにおいて、第1のエンジンマウントMt1の前方への移動が止まり、パワートレインPTのロール運動が終了していることがわかる。また、このタイミングでは、図7(b)中の矢印A23に示すように、ドライブシャフトDSに付与されるトルクが大きく、ドライブシャフトDSが大きく捻じれていることがわかる。これより、この後直ちにドライブシャフトDSが復元して反力を発生することが推測される。このように、パワートレインPTのロール運動が終了し、ドライブシャフトDSの反力が発生しそうなタイミングでは、クランクシャフト25の角速度が上昇から下降に転じることとなる(換言すると角躍度が正値から負値に転じることとなる)。
したがって、トルク制御部65は、クランクシャフト25の角速度が上昇状態から下降状態へと変化したタイミングで、パワートレインPTのロール運動が終了して、この後にドライブシャフトDSの反力が発生するものと判断して、制御ステート2から制御ステート3に切り替える。具体的には、トルク制御部65は、角躍度が所定値(0又は0付近の負の値)以下となり、且つ角速度の変化比が下降し始めたときに(時刻t24)、制御ステート2から制御ステート3に切り替えて、ドライブシャフトDSが復元するときに発生する反力を打ち消すようにエンジントルクを上昇させる制御を開始する。この場合、トルク制御部65は、制御ステート3では、ドライブシャフトDSの反力によりパワートレインPTが後方に押し戻されることを抑制して、推進方向に向けてパワートレインPTに力が付与された状態を保持するように、比較的大きな上昇率にてエンジントルクを上昇させる(このエンジントルクの上昇率は事前に適合などにより決定すればよい)。例えば、トルク制御部65は、基本目標トルク(要求トルク)の上昇率と同程度の上昇率か、若しくは基本目標トルクの上昇率よりも大きな上昇率にて、エンジントルクを上昇させる。基本的には、トルク制御部65は、制御ステート3でのエンジントルクの上昇率を、上記した制御ステート2でのエンジントルクの上昇率よりも大きくする。
次いで、トルク制御部65は、捻じれたドライブシャフトDSが復元するときの反力による影響が抑制されたタイミングで、上記した制御ステート3から制御ステート4に切り替える。具体的には、トルク制御部65は、角速度の変化比がほぼ1であり、且つ角躍度が上昇し始めたときに(時刻t25)、ドライブシャフトDSの反力による影響が抑制されたものと判断して、制御ステート3から制御ステート4に切り替えて、基本目標トルク(要求トルク)に到達させるようにエンジントルクを上昇させる制御を開始する。例えば、トルク制御部65は、基本目標トルクの上昇率と同程度の上昇率か、若しくは基本目標トルクの上昇率よりも大きな上昇率にて、エンジントルクを上昇させる。1つの例では、トルク制御部65は、制御ステート4でのエンジントルクの上昇率を、上記した制御ステート3でのエンジントルクの上昇率よりも大きくする。
この後、時刻t26において、アクセル開度が上昇し始めてから(換言すると加速時の振動を抑制するための本実施形態による制御を開始してから)所定時間が経過することで、トルク制御部65は、上記した制御ステート4による制御を終了して、基本目標トルクに応じた通常のトルク制御を実行する。
なお、制御ステート3及び4においてエンジントルクを上昇させる制御を行う場合に、車両の加速時に発生する躍度が所定の制限値以下になるように、エンジントルクの上昇率を制御するのがよい。この躍度の制限値は、加速フィーリングを向上する観点から、車両のギヤ段やアクセル開度の大きさなどに応じて設定するのがよい。
[フローチャート]
次に、図8及び図9を参照して、本発明の実施形態によるエンジントルク制御において実行される具体的な制御処理について説明する。
図8は、本発明の実施形態によるエンジントルク制御の全体処理を示すフローチャートである。このフローは、車両のイグニッションがオンにされ、エンジンの制御装置(PCM60)に電源が投入された場合に起動され、所定の周期で繰り返し実行される。
まず、ステップS1では、PCM60は、車両の運転状態を取得する。具体的には、PCM60は、アクセル開度センサ97が検出したアクセル開度、車速センサ98が検出した車速、クランク角センサ100が検出したクランク角、車両の変速機に現在設定されているギヤ段等を含む、上述した各種センサ97、98、100〜110が出力した検出信号S97、S98、S100〜110等を運転状態として取得する。
次いで、ステップS2では、PCM60は、ステップS1において取得されたアクセルペダルの操作等を含む車両の運転状態に基づき、目標加速度を設定する。具体的には、PCM60のトルク制御部65が、種々の車速及び種々のギヤ段について規定された加速度特性マップ(予め作成されてメモリなどに記憶されている)の中から、現在の車速及びギヤ段に対応する加速度特性マップを選択し、選択した加速度特性マップを参照して現在のアクセル開度に対応する目標加速度を決定する。
次いで、ステップS3では、PCM60のトルク制御部65は、ステップS2において決定された目標加速度を実現するためのエンジンEの基本目標トルクを決定する。この場合、トルク制御部65は、現在の車速、ギヤ段、路面勾配、路面μなどに基づき、エンジンEが出力可能なトルクの範囲内で、基本目標トルクを決定する。
次いで、ステップS4では、トルク制御部65は、本実施形態による加速時の振動を抑制するためのエンジントルク制御(以下では「振動抑制制御」と呼ぶ。)を実行する条件が成立しているか否かを判定する。具体的には、トルク制御部65は、アクセルペダルが踏み込まれて、車両を減速状態から加速状態へと移行させる場合に、振動抑制制御の実行条件が成立していると判定する(ステップS4:Yes)。この場合には、ステップS5に進み、トルク制御部65は、振動抑制制御を実行すべく、ステップS3において決定された基本目標トルクを変更した新たな目標トルクを決定する(以下では、当該目標トルクを「振動抑制用トルク」と呼び、振動抑制用トルクを決定する処理を「振動抑制用トルク決定処理」と呼ぶ)。この後、ステップS6に進む。他方で、振動抑制制御の実行条件が成立していない場合(ステップS4:No)、ステップS5を実行せずに、ステップS6に進む。
ステップS6では、トルク制御部65は、エンジンEから最終的に出力させるべき最終目標トルクを決定する。具体的には、トルク制御部65は、ステップS5を実行した場合には、ステップS5において決定された振動抑制用トルクを最終目標トルクとして決定し、ステップS5を実行しなかった場合には、ステップS4において決定された基本目標トルクを最終目標トルクとして決定する。
次いで、ステップS7では、トルク制御部65は、ステップS6において決定された最終目標トルクをエンジンEから出力させるべく、燃料噴射弁20を制御する。具体的には、まず、トルク制御部65は、最終目標トルク及びエンジン回転数に基づいて、燃料噴射弁20から噴射させるべき要求噴射量を設定し、この要求噴射量及びエンジン回転数に基づいて、燃料の噴射パターン及び燃圧を設定する。そして、トルク制御部65は、こうして設定した噴射パターン及び燃圧に基づき、燃料噴射弁20を制御する。
なお、アクセル開度の大きさやアクセル開度の変化速度やギヤ段などに応じて、車両に発生する躍度を制限するための制限値を設定し、車両に発生する躍度が当該制限値を超えないように目標加速度を制限するのがよい。若しくは、車両に発生する躍度が当該制限値を超えないように基本目標トルク又は最終目標トルクを制限してもよい。
次に、図9を参照して、図8のステップS5において実行される振動抑制用トルク決定処理について説明する。図9は、本発明の実施形態による振動抑制用トルク決定処理を示すフローチャートである。このフローも、PCM60(特にトルク制御部65)によって繰り返し実行される。
まず、ステップS501では、トルク制御部65は、アクセル開度が上昇し始めてから(換言すると振動抑制制御を開始してから)所定時間が経過したか否かを判定する。例えば、当該所定時間は、100〜400ms程度の時間に設定される。所定時間が経過した場合(ステップS501:Yes)、振動抑制用トルク決定処理を終了し、所定時間が経過していない場合(ステップS501:No)、ステップS502に進む。
ステップS502では、トルク制御部65は、クランク角センサ100から入力された検出信号S100に基づき、クランクシャフト25の角速度に関して時間軸上で隣り合う角速度の変化比と、クランクシャフト25の角躍度とを求める。
次いで、ステップS503では、トルク制御部65は、制御ステート0によるトルク制御を実行する条件(ステート0実行条件)が成立しているか否かを判定する。このステート0実行条件は、角速度の変化比が1以上の第1所定値(例えば1.01)未満であるか、若しくは角躍度が負の値であるという条件である。ステート0実行条件に、このような角速度の変化比及び角躍度の条件に加えて、制御ステート1〜4によるトルク制御を現在実行中でないという条件を付加してもよい。こうすることで、制御ステート0に設定されている場合に、後述するステート1実行条件が成立するまで制御ステート0によるトルク制御を継続させるようにするのがよい。
ステート0実行条件が成立している場合(ステップS503:Yes)、ステップS504に進み、トルク制御部65は、制御ステート0によるトルク制御において適用する振動抑制用トルク(ステート0用トルク)を設定する。具体的には、トルク制御部65は、エンジントルクが伝達される伝達系のガタ詰め時に発生する振動を抑制すべく、エンジントルクの上昇率を制限するようなステート0用トルクを設定する。例えば、トルク制御部65は、上述したような0N付近のトルクをステート0用トルクとして設定する。また、トルク制御部65は、現在設定されているギヤ段に応じてステート0用トルクを変化させる。この場合、トルク制御部65は、低速ギヤ(2速や3速など)では高速ギヤ(4速や5速など)よりもステート0用トルクを小さくする。
他方で、ステート0実行条件が成立していない場合(ステップS503:No)、ステップS505に進み、トルク制御部65は、制御ステート1によるトルク制御を実行する条件(ステート1実行条件)が成立しているか否かを判定する。このステート1実行条件は、角速度の変化比が1以上の第1所定値(例えば1.01)以上で、且つ角躍度が正の値であるという条件である。ステート1実行条件に、このような角速度の変化比及び角躍度の条件に加えて、制御ステート0又は1によるトルク制御を現在実行中であるという条件(換言すると制御ステート2〜4によるトルク制御を現在実行中でないという条件)を付加してもよい。こうすることで、制御ステート0に設定されている場合には、上記の角速度の変化比及び角躍度の条件が成立したときに、制御ステート0から制御ステート1に切り替えるようにし、制御ステート1に設定されている場合には、後述するステート2実行条件が成立するまで制御ステート1によるトルク制御を継続させるようにするのがよい。
ステート1実行条件が成立している場合(ステップS505:Yes)、ステップS506に進み、トルク制御部65は、制御ステート1によるトルク制御において適用する振動抑制用トルク(ステート1用トルク)を設定する。具体的には、トルク制御部65は、パワートレインPTのロール運動の初速を制御すべく、エンジントルクの上昇率を制限するようなステート1用トルクを設定する。特に、トルク制御部65は、パワートレインPTのロール運動の初速が所定速度以下となるようなステート1用トルクを設定する。また、トルク制御部65は、現在設定されているギヤ段に応じてステート1用トルクを変化させる。この場合にも、トルク制御部65は、低速ギヤでは高速ギヤよりもステート1用トルクを小さくする。更に、トルク制御部65は、制御ステート1でのエンジントルクの上昇率が制御ステート0でのエンジントルクの上昇率よりも小さくなるように、ステート1用トルクを設定する。
他方で、ステート1実行条件が成立していない場合(ステップS505:No)、ステップS507に進み、トルク制御部65は、制御ステート2によるトルク制御を実行する条件(ステート2実行条件)が成立しているか否かを判定する。このステート2実行条件は、角速度の変化比が第1所定値よりも大きな第2所定値(例えば1.02)以上で、且つ角躍度が正の値であるという条件である。ステート2実行条件に、このような角速度の変化比及び角躍度の条件に加えて、制御ステート1又は2によるトルク制御を現在実行中であるという条件(換言すると制御ステート0、1、3によるトルク制御を現在実行中でないという条件)を付加してもよい。こうすることで、制御ステート1に設定されている場合には、上記の角速度の変化比及び角躍度の条件が成立したときに、制御ステート1から制御ステート2に切り替えるようにし、制御ステート2に設定されている場合には、後述するステート3実行条件が成立するまで制御ステート2によるトルク制御を継続させるようにするのがよい。
ステート2実行条件が成立している場合(ステップS507:Yes)、ステップS508に進み、トルク制御部65は、制御ステート2によるトルク制御において適用する振動抑制用トルク(ステート2用トルク)を設定する。具体的には、トルク制御部65は、パワートレインPTのロール運動を抑制すべく、エンジントルクの上昇率を制限するようなステート2用トルクを設定する。特に、トルク制御部65は、パワートレインPTが所定速度以下でロール運動を行うようなステート2用トルクを設定する。また、トルク制御部65は、現在設定されているギヤ段に応じてステート2用トルクを変化させる。この場合にも、トルク制御部65は、低速ギヤでは高速ギヤよりもステート2用トルクを小さくする。更に、トルク制御部65は、制御ステート2でのエンジントルクの上昇率が制御ステート1でのエンジントルクの上昇率よりも小さくなるように、ステート2用トルクを設定する。
他方で、ステート2実行条件が成立していない場合(ステップS507:No)、ステップS509に進み、トルク制御部65は、制御ステート3によるトルク制御を実行する条件(ステート3実行条件)が成立しているか否かを判定する。このステート3実行条件は、角速度の変化比が下降し、且つ角躍度が所定値(0又は0付近の負の値)以下であるという条件である。ステート3実行条件に、このような角速度の変化比及び角躍度の条件に加えて、制御ステート2又は3によるトルク制御を現在実行中であるという条件(換言すると制御ステート0、1、4によるトルク制御を現在実行中でないという条件)を付加してもよい。こうすることで、制御ステート2に設定されている場合には、上記の角速度の変化比及び角躍度の条件が成立したときに、制御ステート2から制御ステート3に切り替えるようにし、制御ステート3に設定されている場合には、後述するステート4実行条件が成立するまで制御ステート3によるトルク制御を継続させるようにするのがよい。
ステート3実行条件が成立している場合(ステップS509:Yes)、ステップS510に進み、トルク制御部65は、制御ステート3によるトルク制御において適用する振動抑制用トルク(ステート3用トルク)を設定する。具体的には、トルク制御部65は、ドライブシャフトDSが復元するときに発生する反力を打ち消すようにエンジントルクを上昇させるステート3用トルクを設定する。この場合、トルク制御部65は、ドライブシャフトDSの反力によりパワートレインPTが後方に押し戻されることを抑制して、推進方向に向けてパワートレインPTに力が付与された状態を保持するように、ステート3用トルクを設定する。また、トルク制御部65は、現在設定されているギヤ段に応じてステート3用トルクを変化させる。この場合にも、トルク制御部65は、低速ギヤでは高速ギヤよりもステート3用トルクを小さくする。更に、トルク制御部65は、制御ステート3でのエンジントルクの上昇率が制御ステート2でのエンジントルクの上昇率よりも大きくなるように、ステート3用トルクを設定する。例えば、トルク制御部65は、制御ステート3でのエンジントルクの上昇率が基本目標トルクの上昇率以上になるように、ステート3用トルクを設定する。
他方で、ステート3実行条件が成立していない場合(ステップS509:No)、ステップS511に進み、トルク制御部65は、制御ステート4によるトルク制御を実行する条件(ステート4実行条件)が成立しているか否かを判定する。このステート4実行条件は、振動発生が収まった状態であるか否かを判定するための条件に相当し、角速度の変化比がほぼ1で、且つ角躍度が上昇しているという条件である。ステート4実行条件に、このような角速度の変化比及び角躍度の条件に加えて、制御ステート3又は4によるトルク制御を現在実行中であるという条件(換言すると制御ステート0〜2によるトルク制御を現在実行中でないという条件)を付加してもよい。こうすることで、制御ステート3に設定されている場合には、上記の角速度の変化比及び角躍度の条件が成立したときに、制御ステート3から制御ステート4に切り替えるようにし、制御ステート4に設定されている場合には、アクセル開度が上昇し始めてから所定時間が経過するまで制御ステート4によるトルク制御を継続させるようにするのがよい。
ステート4実行条件が成立している場合(ステップS511:Yes)、ステップS512に進み、トルク制御部65は、制御ステート4によるトルク制御において適用する振動抑制用トルク(ステート4用トルク)を設定する。具体的には、トルク制御部65は、エンジントルクを基本目標トルクに到達させるようにエンジントルクを上昇させるステート4用トルクを設定する。この場合にも、トルク制御部65は、現在設定されているギヤ段に応じてステート4用トルクを変化させる。つまり、トルク制御部65は、低速ギヤでは高速ギヤよりもステート4用トルクを小さくする。更に、トルク制御部65は、制御ステート4でのエンジントルクの上昇率が制御ステート3でのエンジントルクの上昇率よりも大きくなるように、ステート4用トルクを設定する。例えば、トルク制御部65は、制御ステート4でのエンジントルクの上昇率が基本目標トルクの上昇率以上になるように、ステート4用トルクを設定する。
他方で、ステート4実行条件が成立していない場合(ステップS511:No)、振動抑制用トルク決定処理を終了する。
なお、実験やシミュレーションを行って最適なステート1用トルク〜ステート4用トルクを事前に決定しておき、図9の振動抑制用トルク決定処理では、そのように決定されたステート1用トルク〜ステート4用トルクのそれぞれを設定するのがよい。特に、種々のギヤ段ごとに適用すべきステート1用トルク〜ステート4用トルクのそれぞれを事前に決定しておくのがよい。また、ギヤ段だけでなく、車速に応じたステート1用トルク〜ステート4用トルクのそれぞれを決定しておいてもよい。
[作用効果]
次に、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の作用効果について述べる。
本実施形態によれば、エンジン回転数変化(クランクシャフト25の角速度、角加速度、角躍度の少なくとも1以上)に基づいて、エンジンシステムにおいて発生している、伝達系のガタ詰め、パワートレインPTのロール運動、及び捻じれたドライブシャフトDSの復元を判定し、その判定結果に応じてエンジントルクの上昇を個別に制限するので、これらの現象に起因する振動の各々を適切に抑制することができる。この場合、本実施形態では、振動の要因となる現象に応じたトルク制限を行うため、振動の要因となる現象を考慮せずにトルク制限を行う比較例に比して、必要以上にエンジントルクの上昇を制限することがないので、全体で見たときのトルク制限を緩めることができ、つまり加速時におけるエンジントルクの上昇率を大きくすることができ、車両の加速性能(加速レスポンス)を向上させることができる。
具体的には、本実施形態では、まず、加速開始直後に、エンジントルクが伝達される伝達系のガタ詰め時に発生する振動を抑制するようにエンジントルクの上昇を制限するので、このガタ詰め時に発生する振動を適切に抑制することができる。次に、パワートレインPTのロール運動の開始時に、パワートレインPTのロール運動の初速を制御するようにエンジントルクの上昇を制限するので、パワートレインPTのロール運動の制御性を向上させることができ、その結果、パワートレインPTのロール運動を抑制しやすくなる。次に、パワートレインPTのロール運動中に、このロール運動を抑制するようにエンジントルクの上昇を制限するので、パワートレインPTを低い速度でロール運動させて、第1のエンジンマウントMt1を速やかに減衰状態にし、パワートレインPTのロール運動を適切に収束させることができる。
次に、本実施形態では、エンジンEから伝達されたトルクにより捻じれたドライブシャフトDSが復元するときに発生する反力を打ち消すように、エンジントルクの上昇の制限を解除して、エンジントルクを上昇させるので、ドライブシャフトDSの反力によりパワートレインPTが後方に押し戻されることを抑制して、推進方向に向けてパワートレインPTに力が付与された状態を適切に保持することができる。これにより、パワートレインPTのロール運動などが再度発生することを抑制することができる。次に、アクセル開度に応じた要求トルク(基本目標トルク)にエンジントルクを到達させるように、エンジントルクを上昇させるので、エンジントルクをアクセル開度に応じた要求トルクに速やかに到達させ、加速性能を向上させることができる。
[変形例]
上記した実施形態では、ディーゼルエンジンとしてのエンジンEに対して本発明を適用した例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。本発明は、ガソリンエンジンにも適用可能である。
また、上記した実施形態では、パワートレインPTがペンデュラム方式にて車体に固定された構成に対して本発明を適用した例を示したが、本発明は、パワートレインPTをペンデュラム方式以外のマウント方式にて車体に固定した構成にも適用可能である。