以下、図面を参照しながら、本発明に係るスピン伝導素子の好適な実施形態について詳細に説明する。図中には、必要に応じてXYZ直交座標軸系が示されている。図1は、本実施形態に係るスピン伝導素子の斜視図である。図2(a)は、本実施形態に係るスピン伝導素子の上面図である。図2(b)は、図2(a)に示す領域Bの拡大図である。図3は、図1のIII−III線に沿った断面図である。
図3に示すように、スピン伝導素子1は、半導体としてシリコンを用いた場合において、シリコン基板10と、酸化珪素膜11と、シリコンチャンネル層12と、第一トンネル層13Aと、第二トンネル層13Bと、第一強磁性層14Aと、第二強磁性層14Bと、第一参照電極15Aと、第二参照電極15Bと、酸化膜7aと、酸化膜7bと、を備える。シリコンチャンネル層12と、第一トンネル層13Aと、第一強磁性層14Aとが、スピン注入電極構造IEを構成している。
図4に示すように、第一トンネル層13Aは第一トンネル層下部領域16Aと第一トンネル層上部領域16Bからなる構造である。但し、第一トンネル層下部領域16Aと第一トンネル層上部領域16Bの材料の組成は連続的に変化しており、前記二つの領域の境目は明確ではない。同様に、第二トンネル層13Bは第二トンネル層下部領域16Cと第二トンネル層上部領域16Dからなる構造である。但し、第二トンネル層下部領域16Cと第二トンネル層上部領域16Dの材料の組成は連続的に変化しており、前記二つの領域の境目は明確ではない。(図4は、連続的に変化していることを説明する図としては如何かと。ハッチングを工夫してみては如何でしょう。)
基板10、酸化珪素膜11、およびシリコンチャンネル層12として、例えばSOI(Silicon On Insulator)基板を用いることができる。基板10はシリコン基板であり、酸化珪素膜11は基板10上に設けられている。酸化珪素膜11の膜厚は例えば200nmである。また、シリコンチャンネル層12はゲルマニウム、ガリウム砒素、あるいは、シリコンとゲルマニウムの化合物でもほぼ同様の結果が得られる。
シリコンチャンネル層12は、スピンが伝導する層として機能する。シリコンチャンネル層12の上面は例えば(100)面である。シリコンチャンネル層12は、例えばZ軸方向(厚み方向)から見てX軸を長軸方向とする矩形状を有している。シリコンチャンネル層12は主としてシリコンからなり(翻訳を考えれば入れておいた方が良いと思います。)、シリコンチャンネル層12には必要に応じて不純物イオンが添加されている。イオン濃度は、例えば5.0×1019cm−3である。シリコンチャンネル層12の膜厚は例えば100nmである。あるいは、第一トンネル層13Aまたは第二トンネル層13Bと、シリコンチャンネル層12との界面におけるショットキー障壁を調整できるように、当該界面からシリコンチャンネル層12における10nmの深さにイオン濃度のピークがあるような構造を有するシリコンチャンネル層12でもよい。また、シリコンチャンネル層12のイオン濃度が低い場合、酸化珪素膜11に電圧を印加し、シリコンチャンネル層12にキャリアを誘起させるなどの手法がある。
図3に示すように、シリコンチャンネル層12は側面に傾斜部を有しており、その傾斜角θは50度から60度である。この傾斜角θとは、シリコンチャンネル層12の底部と側面のなす角度である。なお、シリコンチャンネル層12はウェットエッチングにより形成することができる。
図3に示すように、シリコンチャンネル層12は、第一凸部(第一部分)12A、第二凸部(第二部分)12B、第三凸部(第三部分)12C、第四凸部(第四部分)12D、および主部12Eを含む。第一凸部12A、第二凸部12B、第三凸部12C、および第四凸部12Dは、主部12Eから突出するように延在する部分であり、この順に所定軸(図3に示す例ではX軸)方向に所定の間隔を置いて配列している。
第一凸部12A、第二凸部12B、第三凸部12C、および第四凸部12Dの膜厚(図3に示す例ではZ軸方向の長さ)H1は、例えば20nmである。主部12Eの膜厚(図3に示す例ではZ軸方向の長さ)H2は、例えば80nmである。第一凸部12Aと第三凸部12Cとの間の距離L1は、例えば100μm以下である。第一凸部12AのX軸方向の長さの中央部と、第二凸部12BのX軸方向の長さの中央部との間の距離dは、スピン拡散長以下であることが好ましい。室温(300K)でのシリコンチャンネル層12におけるスピン拡散長は例えば0.8μmである。第一強磁性層14Aから第一凸部12Aに注入されたスピン、あるいは第二強磁性層14Bから第二凸部12Bに注入されたスピンは、主部12Eにおける第一凸部12Aと第二凸部12Bとの間の領域を拡散・伝導する。
第一トンネル層13Aおよび第二トンネル層13Bは、強磁性体(第一強磁性層14Aおよび第二強磁性層14B)のスピン分極と、シリコンチャンネル層12のスピン分極とを効率的に接続するためのトンネル絶縁膜として機能する。第一トンネル層13Aは、シリコンチャンネル層12の第一部分である第一凸部12A上に設けられている。第二トンネル層13Bは、シリコンチャンネル層12の第二部分である第二凸部12B上に設けられている。
第一トンネル層13Aおよび第二トンネル層13Bは、シリコンチャンネル層12の例えば(100)面上に結晶成長させたものである。これらの第一トンネル層13Aまたは第二トンネル層13Bが設けられていることにより、第一強磁性層14Aまたは第二強磁性層14Bからシリコンチャンネル層12へスピン偏極した電子を多く注入することが可能となり、スピン伝導素子1の電位出力を高めることが可能となる。
第一トンネル層13Aおよび第二トンネル層13Bの膜厚は2.2nm以下であることが好ましい。この場合、得られるスピン出力に対して界面抵抗率を1MΩμm2以下に低くしてノイズを抑えることができるので、スピンの注入や出力を好適に行える。また、第一トンネル層13Aおよび第二トンネル層13Bの膜厚は、0.6nm以上であることが好適であり、この場合、シリコンチャンネル層12上に均一に成膜された第一トンネル層13Aおよび第二トンネル層13Bを用いることができる。
第一強磁性層14Aおよび第二強磁性層14Bの一方は、シリコンチャンネル層12にスピンを注入するための電極として機能し、他方は、シリコンチャンネル層12内のスピンを検出するための電極として機能する。第一強磁性層14Aは、第一トンネル層13A上に設けられている。第二強磁性層14Bは、第二トンネル層13B上に設けられている。
第一強磁性層14Aおよび第二強磁性層14Bは、主として強磁性材料からなる。第一強磁性層14Aおよび第二強磁性層14Bの材料の一例として、CoおよびFeからなる群から選択される金属、前記群の元素を1以上含む合金、又は、前記群から選択される1以上の元素とホウ素(B)とからなる化合物が挙げられる。第一強磁性層14Aおよび第二強磁性層14Bの結晶構造は、体心立方格子構造であることが好適である。これにより、第一トンネル層上に第一強磁性層を部分的にエピタキシャル成長させることができるとともに、第二トンネル層上に第二強磁性層を部分的にエピタキシャル成長させることができる。
図1に示す例では、第一強磁性層14Aおよび第二強磁性層14Bは、Y軸方向を長軸とした直方体形状を有している。第一強磁性層14Aおよび第二強磁性層14Bの形状異方性によって、第一強磁性層14Aおよび第二強磁性層14Bとは保磁力差が付けられていることが好適である。第一強磁性層14Aの幅(X軸方向の長さ)は、例えば350nm程度となっている。第二強磁性層14Bの幅(X軸方向の長さ)は、例えば2μm程度となっている。図1に示す例では、第一強磁性層14Aの保磁力は、第二強磁性層14Bの保磁力よりも大きくなっている。
第一参照電極15Aおよび第二参照電極15Bは、シリコンチャンネル層12に検出用電流を流すための電極としての機能と、スピンによる出力を読み取るための電極としての機能を有する。第一参照電極15Aは、シリコンチャンネル層12の第三凸部12C上に設けられている。第二参照電極15Bは、シリコンチャンネル層12の第四凸部12D上に設けられている。第一参照電極15A及び第二参照電極15Bは、導電性材料からなり、例えばAlなどのSiに対して低抵抗な非磁性金属である。
酸化膜7aは、シリコンチャンネル層12の側面に形成されている。また、酸化膜7bは、シリコンチャンネル層12、酸化膜7a、第一トンネル層13A、第二トンネル層13B、第一強磁性層14A、第二強磁性層14B、第一参照電極15A、及び第二参照電極15Bの側面上に形成されている。また、シリコンチャンネル層12の上面のうち、第一強磁性層14A、第二強磁性層14B、第一参照電極15A、および第二参照電極15Bの設けられていない主部12E上には、酸化膜7bが形成されている。酸化膜7bは、第一トンネル層13Aと第二トンネル層13Bとの間において、シリコンチャンネル層12の主部12E上に設けられている。酸化膜7bは、シリコンチャンネル層12、第一トンネル層13A、第二トンネル層13B、第一強磁性層14A、第二強磁性層14B、第一参照電極15A、および第二参照電極15Bの保護膜として機能し、これらの層の劣化を抑制する。酸化膜7bは、例えば酸化珪素膜である。
図1に示すように、第一参照電極15A上及び酸化膜7b(シリコンチャンネル層12の傾斜した側面)上に、配線18Aが設けられている。同様に、第一強磁性層14A上及び酸化膜7b上に、配線18Bが設けられている。第二強磁性層14B上及び酸化膜7b上に、配線18Cが設けられている。第二参照電極15B上及び酸化膜7b上に、配線18Dが設けられている。配線18A〜18Dは、Cuなどの導電性材料である。酸化膜7b上に配線を設けることにより、この配線によってシリコンチャンネル層12内を伝導するスピンが吸収されることを抑制できる。また、酸化膜7b上に配線を設けることにより、配線からシリコンチャンネル層12へ電流が流れることを抑制でき、スピン注入効率を向上できる。また、配線18A〜18Dのそれぞれの端部には、測定用の電極パッドE1〜E4が設けられている。配線18A〜18Dの端部及び測定用の電極パッドE1〜E4は、酸化珪素膜11上に形成されている。電極パッドE1〜E4は、Auなどの導電性材料である。
図4は、第一トンネル層13A及び第二トンネル層13Bの断面図である。第一トンネル層13Aは、第一トンネル層下部領域16Aと第一トンネル層上部領域16Bから成る。第一トンネル層下部領域16Aは、シリコンチャンネル層12上に結晶成長しているか、あるいは、シリコンチャンネル層12上に部分的に結晶成長している。また、第一トンネル層上部領域16Bは第一トンネル層下部領域16Aの上に設けられ、第一トンネル層上部領域16B上に第一強磁性層14Aが設けられている。同様に、第二トンネル層13Bは第二トンネル層下部領域16Cと第二トンネル層上部領域16Dから成る。第二トンネル層下部領域16Cは、シリコンチャンネル層12上に結晶成長しているか、あるいは、シリコンチャンネル層12上に部分的に結晶成長している。また、第二トンネル層上部領域16Dは、第二トンネル層下部領域16Cの上に設けられ、第二トンネル層上部領域16D上に第二強磁性層14Bが設けられている。
以下、第一トンネル層13Aを構成する第一トンネル層下部領域16Aと第一トンネル層上部領域16Bと、第一強磁性膜14Aについて記述する。
第一トンネル層13Aはアルミニウム、亜鉛、シリコン、チタン、あるいは、マグネシウムを含むトンネル層が適している。これらの材料が結晶化した場合にはコヒーレントトンネル効果によって高いスピン分極率を持ったトンネル層として機能する。
また、第一トンネル層13Aはスピネル構造によるトンネル層が適している。この場合、上記の元素の種類及び濃度によって結晶格子が任意に歪む事ができるため、下地の半導体チャンネルや強磁性層に合わせて格子定数を変化させることができる。
第一トンネル層下部領域16Aは、元素が欠損したγ型アルミニウム酸化物の組成であり、スピネル構造であることが好ましい。これはスピネル構造の組成式AB2O4のAの元素の一部、あるいは、全部が欠損した構造である。なお、このスピネル構造は、Aの元素には酸素が四配位し、Bの元素には酸素が六配位したものである。このような構造の場合、シリコンチャンネル12と格子定数が近いため、界面におけるスピンの散乱を抑制することができる。
また第一トンネル層上部領域16Bはアルミニウムとマグネシウムによる酸化物の組成であり、スピネル構造であることが好ましい。このような構造の場合、第一強磁性層14Aと格子定数が近いため、界面におけるスピンの散乱を抑制することができる。
第一トンネル層13Aの第一トンネル層下部領域16Aと第一トンネル層上部領域16Bを構成する元素の濃度は連続的に変化している。上記の例では第一トンネル層下部領域16Aから第一トンネル層上部領域16Bに向かって、スピネル構造の組成式AB2O4のAの元素の一部、あるいは、全部が欠損した状態からAの元素に亜鉛が配置された構造に連続的に変化する。
第一トンネル層13Aの第一トンネル層下部領域16Aは、スピネル構造の組成式AB2O4のAの元素の全部が欠損した構造が最も良いが、Aの元素の一部が欠損した構造でも良い。同様に、第一トンネル層上部領域16Bは、アルミニウムとマグネシウムによる酸化物の組成であることが好ましいが、マグネシウムの一部が欠損した構造でも良い。
さらに、第一トンネル層下部領域16AのA元素(サイト)の濃度は第一トンネル層上部領域16BのA元素(サイト)の濃度よりも低いことが好ましい。この場合、半導体チャンネル層と強磁性層のそれぞれに対して、それぞれの格子定数が近くなり、界面におけるスピン散乱を抑制することができる。
上記は、第二トンネル層13Bの第二トンネル層下部領域16Cと第二トンネル層上部領域16Dの材料の場合でも同様である。
第一強磁性層14Aの結晶構造は、体心立方格子構造(BCC)であることが好適である。第一強磁性層14Aの材料がCoおよびFeからなる群から選択される金属、前記群の元素を1以上含む合金、又は前記群から選択される1以上の元素とホウ素(B)とを含む化合物である場合、第一強磁性層14Aは第一トンネル上部領域16B上にエピタキシャル成長しやすくなる。
例えば、第一トンネル層13Aの第一トンネル層上部領域16Bの組成をMgAl2O4とし、第一強磁性層14AをFeとした場合、MgAl2O4とFeの格子定数は、ほぼ一致しているため、第一トンネル層13Aの第一トンネル層上部領域16Bと第一強磁性層14Aの界面においてスピン散乱を抑制することが可能である。なお、結晶構造や格子定数は積層膜の断面TEM(Transmission Electorn Microscopy)、XRD(X Ray Diffraction)、あるいは、EDX(Energy Dispersive X−Ray analysis)によって解析でき
る。
さらに、第一強磁性層14Aはホイスラー合金であることがより好ましい。ホイスラー合金(またはフルホイスラー合金とも言う)とは、X2YZの化学組成をもつ金属間化合物の総称であり、ここで、Xは周期表上で、Co、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素である。YはMn、V、CrあるいはTi族の遷移金属でありXと同じ元素種をとることもできる。ZはIII族からV族の典型元素である。ホイスラー合
金X2YZはX・Y・Zの規則性から3種類の結晶構造に分けられる。結晶の周期性を利用したX線回折等の分析により、3元素の区別ができるX≠Y≠Zとなる最も規則性の高い構造がL21構造、次に規則性の高いX≠Y=Zとなる構造がB2構造、そして3元素
の区別ができないX=Y=Zとなる構造がA2構造である。
第二トンネル層13Bも、上記第一トンネル層13Aと同様である。
以下、本実施形態に係るスピン伝導素子1のNL(非局所)測定法を用いる動作の一例について説明する。NL測定法では、図3に示すように、スピン伝導素子1は例えばY軸方向の外部磁場B1を検出する。第一強磁性層14Aの磁化方向G1(Y軸方向)を第二強磁性層14Bの磁化方向G2(Y軸方向)と同一方向に固定する。また、図1に示すように、電極パッドE1及びE3を交流電流源70に接続することにより、第一強磁性層14Aに検出用電流を流す。強磁性体である第一強磁性層14Aから、第一トンネル層13Aを介して、非磁性体のシリコンチャンネル層12へ検出用電流が流れることにより、第一強磁性層14Aの磁化の向きG1に対応するスピンを有する電子がシリコンチャンネル層12へ注入される。注入されたスピンは第二強磁性層14B側へ拡散していく。このように、シリコンチャンネル層12に流れる電流及びスピン流が、主に所定の軸(X軸)方向に流れる構造とすることができる。そして、外部磁場B1によって変化される第一強磁性層14Aの磁化の向き、すなわち電子のスピンと、シリコンチャンネル層12の第二強磁性層14Bと接する部分の電子のスピンとの相互作用により、シリコンチャンネル層12と第二強磁性層14Bの間において出力が発生する。この出力は、電極パッドE2及びE4に接続した出力測定器80により検出する。
次に、本実施形態に係るスピン伝導素子1のNL−Hanle測定法を用いる動作の一例を説明する。NL−Hanle測定法ではHanle効果を利用する。Hanle効果とは、電流によって強磁性電極からチャンネルに注入されたスピンが他の強磁性電極に向かって拡散・伝導する際に、スピンの向きと垂直な方向から外部磁場が印加されたときに、ラーモア歳差を起こす現象である。NL−Hanle測定法では、図3に示すように、スピン伝導素子1は例えばZ軸方向の外部磁場B2を検出する。第一強磁性層14Aの磁化方向G1(Y軸方向)は、第二強磁性層14Bの磁化方向G2(Y軸方向)と同一方向に固定する。そして、第一強磁性層14Aおよび第一参照電極15Aを交流電流源70に接続することにより、第一強磁性層14Aにスピンの検出用電流を流すことができる。強磁性体である第一強磁性層14Aから第一トンネル層13Aを介して、非磁性体のシリコンチャンネル層12へ電流が流れることにより、第一強磁性層14Aの磁化の向きG1に対応する向きのスピンを有する電子がシリコンチャンネル層12の第一凸部12Aへ注入される。第一凸部12Aに注入されたスピンは、主部12Eを通って第二強磁性層14B側へ拡散していく。このように、シリコンチャンネル層12に流れる電流およびスピン流が主にX軸方向に流れる構造となる。
ここで、シリコンチャンネル層12に外部磁場B2を印加しないとき、すなわち外部磁場がゼロのとき、シリコンチャンネル層12のうち第一強磁性層14Aと第二強磁性層14Bとの間の領域を拡散するスピンの向きは回転しない。よって、予め設定された第二強磁性層14Bの磁化の向きG2と同一方向のスピンが、シリコンチャンネル層12における第二強磁性層14B側の領域に拡散してくることとなる。従って、外部磁場がゼロのとき、出力(例えば抵抗出力や電圧出力)は極値となる。なお、電流や磁化の向きで極大値または極小値をとりうる。出力は、第二強磁性層14Bおよび第二参照電極15Bに接続した電圧測定器などの出力測定器80により評価できる。
対して、シリコンチャンネル層12に外部磁場B2を印加する場合を考える。外部磁場B2は、第一強磁性層14Aの磁化方向G1(図3の例ではY軸方向)および第二強磁性層14Bの磁化方向G2(図3の例ではY軸方向)に対して垂直な方向(図3の例ではZ軸方向)から印加する。外部磁場B2を印加すると、シリコンチャンネル層12内を拡散・伝導するスピンの向きは、外部磁場B2の軸方向(図3の例ではZ軸方向)を中心として回転する(いわゆるHanle効果)。シリコンチャンネル層12における第二強磁性層14B側の領域まで拡散してきたときのこのスピンの回転の向きと、予め設定された第二強磁性層14Bの磁化の向きG2、すなわちスピンの向きと、の相対角により、シリコンチャンネル層12と第二強磁性層14Bの界面の出力(例えば抵抗出力や電圧出力)が決定される。外部磁場B2を印加する場合、シリコンチャンネル層12内を拡散するスピンの向きは回転するので、第二強磁性層14Bの磁化の向きと向きが揃わない。よって、出力は、外部磁場がゼロのときに極大値をとる場合、外部磁場B2を印加するときには極大値以下となる。また、出力は、外部磁場がゼロのときに極小値をとる場合、外部磁場B2を印加するときには極小値以上となる。
従って、NL−Hanle測定法では、外部磁場がゼロのときに出力のピークが現われ、外部磁場B2を増加または減少させると出力が減少していく。つまり、外部磁場B2の有無によって出力が変化するので、本実施形態に係るスピン伝導素子1は、例えば磁気センサとして使用できる。
また、上記のスピン伝導素子1を複数備えた磁気検出装置とすることができる。例えば、上記のスピン伝導素子1を複数並列あるいは複数積層して、磁気検出装置とすることができる。この場合、各スピン伝導素子1の出力を合算することができる。このような磁気検出装置は、例えば癌細胞などを検知する生体センサなどに適用できる。
また、上記のスピン注入電極構造IEやスピン伝導素子1は、例えば磁気ヘッド、磁気抵抗メモリ(MRAM)、論理回路、核スピンメモリ、量子コンピュータなどの種々のスピン伝導デバイスに用いることができる。
また、スピン検出部(第二強磁性層14B、第二トンネル層13B、およびシリコンチャンネル層12の第二凸部12B)の構成は、上記実施形態に限定されず、例えば電流を流すことによってスピンを検出するものでもよい。
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
まず、基板、絶縁膜、及びシリコン膜からなるSOI基板を準備した。基板にはシリコン基板、絶縁膜には200nmの酸化珪素層を用い、シリコン膜は100nmであった。シリコン膜に導電性を付与するリンイオンの打ち込みを行った。その後、900℃のアニールにより不純物を拡散させて、シリコン膜の電子濃度の調整を行った。この際、シリコン膜全体の平均電子濃度が5.0×1019cm−3となるようにした。
次いで、RCA洗浄を用いて、SOI基板の表面の付着物、有機物、及び自然酸化膜を除去した。その後、HF洗浄液を用いてSOI基板の表面を水素で終端させた。続いて、SOI基板を分子線エピタキシー(MBE)装置に搬入した。ベース真空度(積層処理を実際に施す前の装置内の真空度)を2.0×10−9Torr以下とした。SOI基板の加熱によるフラッシング処理を行った。これにより、シリコン膜表面の水素を離脱させ、清浄表面を形成した。
次に、MBE法を用いて、シリコン膜上に第一トンネル層を形成した。まず、酸化アルミニウムを結晶化させて第一トンネル層下部領域を形成し、酸化アルミニウムと同時にマグネシウムを成膜し、マグネシウムとアルミニウムと酸素を含む第一トンネル層上部領域を形成した。これらを形成する過程において欠損する酸素は原子層を数枚形成したら、成膜を一度止め、酸素イオンを膜の表面に照射して補った。以上を繰り返して、第一トンネル層を形成した。その後、強磁性層として鉄膜、及び保護膜としてチタン膜をこの順に成膜し、積層体を得た。成膜時における真空度は5×10−8Torr以下であった。チタン膜は、鉄膜の酸化による特性劣化を抑制するためのキャップ層である。
なお、本実施例において、第一部分と第二部分において、トンネル層のスピネル層、強磁性層の鉄膜、及び保護膜のチタン膜は同じ工程で作成しているため、第一部分と第二部分の積層構造は同じである。
続いて、第一トンネル層の結晶化を安定化させるため、500℃のフラッシュアニール後に、200度で3時間のアニールを行った。
次に、積層体の表面の洗浄を行った後、フォトリソグラフィ法およびリフトオフにより、Taのアライメントマークを基板に形成した。続いて、マスクを用いて、シリコン膜を異方性ウェットエッチングによりパターニングした。これにより、側面に傾斜部を有するシリコンチャンネル層12を得た。この際、シリコンチャンネル層12のサイズは、23μm×300μmとなった。また、得られたシリコンチャンネル層12の側面を酸化させて、酸化珪素膜(酸化膜7a)を形成した。
次いで、フォトリソグラフィ法を用いて、チタン膜、鉄膜、シリコンチャンネル層をパターニングすることにより、図3のように第一強磁性層14Aおよび第二強磁性層14Bを形成した。シリコンチャンネル層12と、第一強磁性層14Aおよび第二強磁性層14Bとの間以外に位置する酸化膜とマグネシウム膜を除去した。これにより、第一トンネル層13Aおよび第二トンネル層13Bを得た。露出したシリコンチャンネル層12の一端側と他端側に、Al膜を形成し、第一参照電極15Aおよび第二参照電極15Bをそれぞれ得た。
次に、イオンミリングおよびエッチングを用いて、シリコンチャンネル層12の表面のうち、第一強磁性層14A、第二強磁性層14B、第一参照電極15Aおよび第二参照電極15Bの形成されていない部分において、シリコンチャンネル層12の表面から20nmの深さまでシリコンチャンネル層12を掘り込んだ。これにより、シリコンチャンネル層12は、第一凸部12A、第二凸部12B、第三凸部12C、第四凸部12D、および主部12Eを含む構造となった。第一凸部12A、第二凸部12B、第三凸部12C、および第四凸部12Dは、この順にX軸方向に所定の間隔を置いて配列され、主部12Eから突出するように延在する部分である。第一凸部12A、第二凸部12B、第三凸部12C、および第四凸部12Dの膜厚H1は、10nmであった。このような構造により、シリコンチャンネル層12となるシリコン膜に、導電性を付与するイオンの打ち込みの際に形成された表面ダメージが除去された。
さらに、酸化膜7a、第一トンネル層13A、第二トンネル層13B、第一強磁性層14A、第二強磁性層14B、第一参照電極15Aおよび第二参照電極15Bの側面上と、シリコンチャンネル層12の上面のうち、第一強磁性層14A、第二強磁性層14B、第一参照電極15Aおよび第二参照電極15Bの形成されていない主部12E上とに、酸化珪素膜(酸化膜7b)を形成した。
次に、第一強磁性層14A、第二強磁性層14B、第一参照電極15Aおよび第二参照電極15B上に配線18A〜18Dをそれぞれ形成した。配線18A〜18Dとして、Ta(厚さ10nm)、Cu(厚さ50nm)、及びTa(厚さ10nm)の積層構造を用いた。さらに、各配線18A〜18Dの端部にそれぞれ電極パッドE1〜E4を形成した。電極パッドE1〜E4として、Cr(厚さ50nm)とAu(厚さ150nm)の積層構造を用いた。こうして、図1〜4に示すスピン伝導素子1と同様の構成を有する実施例1のスピン伝導素子を作成した。
(NL測定の結果)
NL測定法では、実施例1で作製したスピン伝導素子において、第一強磁性層14Aの磁化方向G1および第二強磁性層14Bの磁化方向G2を外部磁場B1の磁化方向と同一方向(図3に示すY軸方向)に固定した。このスピン伝導素子に対して、第一強磁性層14Aおよび第二強磁性層14Bの磁化方向と平行な方向(Y軸方向)から外部磁場B1を印加した。交流電流源70からの検出用電流を第一強磁性層14Aへ流すことにより、第一強磁性層14Aからシリコンチャンネル層12へスピンを注入した。そして、外部磁場B1による磁化変化に基づく出力を出力測定器80により測定した。この際、測定はいずれも室温にて行った。
図5は、NL測定法における印加磁場と電圧出力の関係を示すグラフである。図5のF1は、外部磁場B1をマイナス側からプラス側に変化させた場合を示し、図5のF2は、外部磁場B1をプラス側からマイナス側に変化させた場合を示す。図5のF1及びF2に示されるように、スピン伝導素子では、約26.8μVの電圧出力であった。
(NL−Hanle測定の結果)
NL−Hanle測定法では、実施例1で作製したスピン伝導素子において、印加する外部磁場B2の方向(図3に示すZ軸方向)を第一強磁性層14Aの磁化方向(図3に示すY軸方向)G1および第二強磁性層14Bの磁化方向(図3に示すY軸方向)G2と垂直方向とした。図6は、NL−Hanle測定法における印加磁場と電圧出力の関係を示すグラフである。図6は、第一強磁性層14Aの磁化方向を第二強磁性層14Bの磁化方向と平行に固定した場合の測定結果である。
図6の測定結果からわかるように、外部磁場B2の印加によって、シリコンチャンネル層を伝導しているスピンが回転・減衰を起こしていることがわかる。したがって、図6の測定結果はスピン伝導によって生じた信号であることが証明できる。
(膜の解析)
トンネル層の評価は断面TEM及びEDXにて実施した。断面TEMの結果からトンネル層の厚さは2.1nmであった。断面TEMの写真からトンネル層部分を切り出して、フリーエ解析を行って、ブラッグ点を解析することで格子定数を見積もった。切り出した部分は、シリコンチャンネル層に接する部分、強磁性層に接する部分、シリコンチャンネル層に接する部分と強磁性層に接する部分の中間である。また、トンネル層のシリコンに接する部分の格子定数が7.8Åであった。この格子定数はスピネル構造のγ型アルミニウム酸化物であることを示している。トンネル層の強磁性層に接する部分の格子定数が8.1Åであった。この格子定数はスピネル構造のマグネシウムとアルミニウムの酸化物であることを示している。
さらに、EDXにてマグネシウム、アルミニウム、酸素、鉄、及び、シリコンの分析を行った。図7に示したように、深さ方向のプロファイルからトンネル層のシリコンチャンネル層側がマグネシウムの含有量の少ないマグネシウムの一部、あるいは、全部が欠損したスピネル層であり、トンネル層の強磁性層側がマグネシウムを多く含んだマグネシウムの欠損が少ないスピネル層であることが解る。また、図8にトンネル層のシリコンチャンネル層との境界を基準とした厚さ方向に対する格子定数の結果を示す。厚さ方向に対して系統的な変化が観測された。
(実施例2)
実施例1と同様に素子作成を行った。但し、第一トンネル層の第一トンネル層上部領域形成時にマグネシウムの代わりに亜鉛を用いた。スピン伝導素子の作成法は実施例1と同様に行った。
トンネル層の評価は、実施例1と同様に行い、トンネル層の厚さは、2.2nmであった。また、トンネル層のシリコンチャンネル層に接する部分の格子定数は7.85Åであり、スピネル構造のγ型アルミニウム酸化物であることを示している。また、トンネル層の強磁性層に接する部分の格子定数は8.03Åであり、スピネル構造の亜鉛とアルミニウムの酸化物であった。
(実施例3)
実施例1と同様に素子作成を行った。但し、強磁性層としてホイスラー合金膜を用いた。このホイスラー合金は、Co2FeAl0.5Si0.5の組成式で表される。また、ホイスラー合金膜は基板を300℃で成膜した。スピン伝導素子の作成法は実施例1と同様に行った。
トンネル層の評価は、実施例1と同様に行い、トンネル層の厚さは、2.2nmであった。また、トンネル層のシリコンチャンネル層に接する部分の格子定数は7.8Åであり、スピネル構造のγ型アルミニウム酸化物であることを示している。また、トンネル層の強磁性層に接する部分の格子定数は8.08Åであり、スピネル構造のマグネシウムとアルミニウムの酸化物であった。また、ホイスラー合金の構成元素が、シリコンチャンネル層まで拡散していないことを確認した。
(比較例1)
次に、第1トンネル層として、スピネル構造のγ型酸化アルミニウムを用い、第一トンネル層下部領域と第2トンネル層領域は、同一組成となるようにし、フラッシュアニールは実施せず、230℃で3時間のアニールを実施した。なお、スピン伝導素子は、実施例1と同様に作成した。
このようにして得られたスピン伝導素子について、NL−Hanle測定法でスピン出力を測定した結果を、表1に示す。
実施例1、実施例2、及び実施例3は室温にてほぼ同様の結果が得られた。実施例3は、強磁性層として鉄よりもスピン分極率が高いホイスラー合金を使っているため、やや高い出力が得られた。
(実施例4)
実施例1と同様にスピン伝導素子の作成を行った。但し、半導体チャンネル層としてゲルマニウムを用いた。
まず、基板、絶縁膜、及びゲルマニウム膜からなるGOI基板を準備した。基板にはゲルマニウム基板、絶縁膜には200nmの酸化珪素層を用い、ゲルマニウム膜は100nmであった。ゲルマニウム膜に導電性を付与する不純物の打ち込みを行った。その後、900℃のアニールにより不純物を拡散させて電子濃度の調整を行った。この際、ゲルマニウム膜全体の平均電子濃度が2.0×1019cm−3となるようにした。
次いで、RCA洗浄を用いて、GOI基板の表面の付着物、有機物、及び自然酸化膜を除去した。その後、HF洗浄液を用いてGOI基板の表面を水素で終端させた。続いて、GOI基板を分子線エピタキシー(MBE)装置に搬入した。ベース真空度(積層処理を実際に施す前の装置内の真空度)を2.0×10−9Torr以下とした。GOI基板の加熱によるフラッシング処理を行った。これにより、ゲルマニウム膜表面の水素を離脱させ、清浄表面を形成した。
次に、MBE法を用いて、ゲルマニウム膜上に第一トンネル層を形成した。まず、酸化アルミニウムと酸化マグネシウムの比が2対0.7になるように形成した。この時、チャンバー内の酸素分圧を調整して結晶化させて第一トンネル層下部領域を形成した。成膜が進む毎にマグネシムの比率が高くなるように調整し、強磁性層形成前にはアルミニウムとマグネシウムの比が2対1となるように調整した。このようにしてマグネシウムとアルミニウムを含むスピネル構造のトンネル層を形成した。これらを形成する過程において欠損する酸素は、原子層を数層形成したのち、成膜を一度止め、酸素イオンを膜の表面に照射して補った。この工程を繰り返して、第一トンネル層を形成した。その後、第一強磁性層として鉄膜、及び保護膜としてチタン膜をこの順に成膜し、積層体を得た。成膜時における真空度は5×10−8Torr以下であった。チタン膜は、鉄膜の酸化による特性劣化を抑制するためのキャップ層である。
続いて、第一トンネル層の結晶化を安定化させるため、500℃のフラッシュアニール後に、200度で3時間のアニールを行った。
トンネル層の評価は、実施例1と同様に行い、トンネル層の厚さは、2.0nmであった。また、トンネル層のゲルマニウムチャンネル層に接する部分の格子定数は7.8Åであり、スピネル構造のγ型アルミニウム酸化物であることを示している。また、トンネル層の強磁性層に接する部分の格子定数は8.09Åであり、スピネル構造のマグネシウムとアルミニウムの酸化物であった。さらに、EDXにてマグネシウム、アルミニウム、酸素、鉄、及び、ゲルマニウムの分析を行った。深さ方向のプロファイルからトンネル層のゲルマニウムチャンネル層側がマグネシウムの含有量の少ないスピネル層であり、トンネル層の強磁性層側がマグネシウムを多く含むスピネル層であった。
出力の評価は実施例1と同様に非局所測定にて実施した。
(実施例5)
実施例4と同様に素子作成を行った。トンネル領域形成時にマグネシウムの代わりに亜鉛を用いた。素子の作成法及び評価は実施例4と同様である。
(実施例6)
実施例4と同様に素子作成を行った。但し、強磁性層として、ホイスラー合金膜を形成した。このホイスラー合金はCo2FeAl0.5Si0.5の組成式で表される。また、ホイスラー合金を成膜時には基板を300℃で形成を行った。スピン伝導素子の作成法は実施例1と同様である。
(比較例2)
実施例4と同様に素子作成を行った。但し、第一トンネル層の第一トンネル領域と第二トンネル領域は同じ組成になるようにし、第一トンネル層は酸化マグネシウムを用いた。また、実施例4と異なり、フラッシュアニールは実施せず、250℃で3時間のアニールを実施した。
表2に測定結果を示す。実施例4、実施例5、及び実施例6で室温にてほぼ同様の結果が得られた。実施例6は、強磁性層として鉄よりもスピン分極率が高いホイスラー合金を使っているため、やや高い出力が得られた。
(実施例7)
次に、半導体チェンネル層として、ガリウム砒素を用い、実施例1と同様にスピン伝導素子の作成を行った。成膜方法は以下の通りである。
まず、基板、絶縁膜、及びガリウム砒素膜から成る基板を準備した。基板にはガリウム砒素、絶縁膜には200nmの酸化シリコン層を用い、ガリウム砒素膜は100nmであった。ガリウム砒素膜に導電性を付与するシリコンを不純物として打ち込みを行った。その後、900℃のアニールにより不純物を拡散させて、ガリウム砒素膜の電子濃度の調整を行った。この際、ガリウム砒素膜全体の平均電子濃度が5.0×1019cm−3となるようにした。
次いで、RCA洗浄を用いて、ガリウム砒素基板の表面の付着物、有機物、及び自然酸化膜を除去した。その後、HF洗浄液を用いてガリウム砒素基板の表面を水素で終端させた。続いて、基板を分子線エピタキシー(MBE)装置に搬入した。ベース真空度(積層処理を実際に施す前の装置内の真空度)を2.0×10−9Torr以下とした。ガリウム砒素基板の加熱によるフラッシング処理を行った。
次に、MBE法を用いて、ガリウム砒素基板上に第一トンネル層を形成した。まず、酸化アルミニウムを結晶化させて第一トンネル層下部領域を形成し、酸化アルミニウムと同時にマグネシウムを成膜し、マグネシウムとアルミニウムと酸素を含む第一トンネル層上部領域を形成した。これらを形成する過程において欠損する酸素は原子層を数枚形成したら、成膜を一度止め、酸素イオンを膜の表面に照射して補った。以上を繰り返して、第一トンネル層を形成した。その後、強磁性層として鉄膜、及び保護膜としてチタン膜をこの順に成膜し、積層体を得た。成膜時における真空度は5×10−8Torr以下であった。チタン膜は、鉄膜の酸化による特性劣化を抑制するためのキャップ層である。
続いて、第一トンネル層の結晶化を安定化させるため、500℃のフラッシュアニール後に、200度で3時間のアニールを行った。
トンネル層の評価は、実施例1と同様に行い、トンネル層の厚さは、2.2nmであった。また、トンネル層のガリウム砒素チャンネル層に接する部分の格子定数は7.9Åであり、スピネル構造のγ型アルミニウム酸化物であることを示している。また、トンネル層の強磁性層に接する部分の格子定数は8.06Åであり、スピネル構造のマグネシウムとアルミニウムの酸化物であった。さらに、EDXにてマグネシウム、アルミニウム、酸素、鉄、及び、ガリウム砒素の分析を行った。深さ方向のプロファイルからトンネル層のガリウム砒素チャンネル層側がマグネシウムの含有量の少ないスピネル層であり、トンネル層の強磁性層側がマグネシウムを多く含むスピネル層であった。
出力の評価は実施例1と同様に非局所測定にて実施した。
(実施例8)
実施例7と同様に素子作成を行った。トンネル領域形成時にマグネシウムの代わりに亜鉛を用いた。素子の作成法及び評価は実施例7と同様である。
(実施例9)
実施例7と同様に素子作成を行った。但し、強磁性層としてホイスラー合金膜を形成した。このホイスラー合金はCo2FeAl0.5Si0.5の組成式で表される。また、ホイスラー合金を成膜時には基板を300℃で形成を行った。素子の作成法は実施例と同様である。
(比較例3)
実施例7と同様に素子作成を行った。但し、第一トンネル層の第一トンネル領域と第二トンネル領域は同じ組成になるようにし、第一トンネル層は酸化マグネシウムを用いた。また、実施例7と異なり、フラッシュアニールは実施せず、250℃で3時間のアニールを実施した。
表3に測定結果を示す。実施例7、実施例8、及び実施例9は室温にてほぼ同様の結果が得られた。実施例9は、強磁性層として鉄よりもスピン分極率が高いホイスラー合金を使っているため、やや高い出力が得られた。