(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる制御装置を車載主機としての全節巻SRモータに適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に示すように、直流電源としてのバッテリ10は、端子電圧が例えば数百Vとなる2次電池である。なお、バッテリ10としては、例えば、リチウムイオン2次電池やニッケル水素2次電池を用いることができる。
バッテリ10には、平滑コンデンサ12を介して電力変換回路20が接続されている。電力変換回路20には、車載主機としてのモータジェネレータが接続されている。モータジェネレータとしては、U相巻線22u、V相巻線22v及びW相巻線22wを備える3相の全節巻SRモータを用いている。
電力変換回路20は、U相を構成する、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームダイオードDu2の直列接続体、U相上アームダイオードDu1及びU相下アームスイッチング素子Su2の直列接続体と、V相を構成する、V相上アームスイッチング素子Sv1及びV相下アームダイオードDv2の直列接続体、V相上アームダイオードDv1及びV相下アームスイッチング素子Sv2の直列接続体と、W相を構成する、W相上アームスイッチング素子Sw1及びW相下アームダイオードDw2の直列接続体、W相上アームダイオードDw1及びW相下アームスイッチング素子Sw2の直列接続体とを備えている。本実施形態では、U〜W相上アームスイッチング素子Su1,Sv1,Sw1及びU〜W相下アームスイッチング素子Su2,Sv2,Sw2として、IGBTを用いている。
ここで、U相の接続態様について詳述する。U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームダイオードDu2の接続点と、U相上アームダイオードDu1及びU相下アームスイッチング素子Su2の接続点とは、U相巻線22uを介して接続されている。U相上アームスイッチング素子Su1のエミッタ及びU相下アームダイオードDu2のカソード同士は接続され、U相上アームスイッチング素子Su1のコレクタは、バッテリ10の正極端子に接続されている。また、U相下アームダイオードDu2のアノードは、バッテリ10の負極端子に接続されている。一方、U相上アームダイオードDu1のアノード及びU相下アームスイッチング素子Su2のコレクタ同士は接続され、U相上アームダイオードDu1のカソードは、バッテリ10の正極端子に接続されている。また、U相下アームスイッチング素子Su2のエミッタは、バッテリ10の負極端子に接続されている。
なお、V相及びW相の接続態様は、U相と同様である。このため、本実施形態では、V相及びW相についての接続態様の詳細な説明を省略する。
制御装置30は、図示しない中央演算装置(CPU)及びメモリを備え、メモリに記憶された各種プログラムを中央演算装置によって実行することで、全節巻SRモータの駆動状態を示す制御量である出力トルクを、その指令値(駆動要求)であるトルク指令値T*に制御する。制御装置30には、平滑コンデンサ12の端子間電圧Vdc(バッテリ10の出力電圧、電力変換回路20の入力電圧)を検出する電圧センサ34の検出値、全節巻SRモータの回転子26の回転子位置θを検出する回転角センサ36の検出値が入力される。回転子位置θは、0°以上360°未満の範囲で変化する値である。
制御装置30は、これら各種センサの検出値に基づき、全節巻SRモータの出力トルクをトルク指令値T*に制御すべく、電力変換回路20を構成する各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2に対して、ON状態とOFF状態との切り替えを指示する操作信号gu1,gu2、gv1、gv2、gw1、gw2を出力することで、各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2を操作する。
詳しくは、制御装置30は、回転数算出部30a、電圧設定手段として機能する変調波生成部30b、及び、電圧制御手段として機能する操作信号生成部30cを備えている。回転数算出部30aは、回転角センサ36によって検出された回転子位置θの時間微分値を用いて回転数N(r/min)を算出する。また、変調波生成部30bは、トルク指令値T*、回転子位置θ及び回転数Nに基づき、U相変調波αu(θ)、V相変調波αv(θ)、W相変調波αw(θ)を生成する。操作信号生成部30cは、変調波生成部30bから出力された各変調波αu(θ)、αv(θ)、αw(θ)に基づき、各スイッチング素子Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2を操作するための操作信号gu1,gu2、gv1、gv2、gw1、gw2を生成する。
なお、トルク指令値T*は、例えば、制御装置30よりも上位の制御装置(例えば、車両の走行制御を統括する制御装置)から制御装置30に入力される。また、SRモータの各相は独立しており、さらに、制御装置30における各相に関する処理のそれぞれは、基本的には同一の処理となる。
図2(a)に全節巻SRモータの概略を示す。全節巻SRモータは、円筒形状の固定子24と、円柱形状の回転子26とを備えている。固定子24の内面には、6つの突極25、すなわち、相数の2倍の突極25が、周方向に等間隔に設けられている。一方、回転子26の外側には、4つの突極27が、周方向に等間隔に設けられている。U相巻線22u、V相巻線22v、W相巻線22wのそれぞれは、固定子24の突極25間に設けられた、回転方向に機械角で180°対向する一対のスロットに集中巻される。一方のスロットと他方のスロットでは、巻線は通電方向が逆方向となるように巻かれている。
全節巻SRモータでは、U相巻線22u、V相巻線22v、W相巻線22wのそれぞれに、互いに位相が120°ずれ、且つ、通電期間が重複するように電圧を印加する。そしてU相巻線22u、V相巻線22v、W相巻線22wのうちの、2つの巻線に通電されることによるインダクタンスの変化を利用して、回転子26を回転させる。このとき、固定子24の突極25、及び、回転子26の突極27には、固定子24の突極25を挟む一対の巻線に印加される電圧による鎖交磁束ψが発生する。
ところで、スイッチトリラクタンスモータとして、単節巻SRモータも知られている。図2(b)に単節巻SRモータの概略を示す。単節巻SRモータは、全節巻SRモータと同様に、円筒形状の固定子24と、円柱形状の回転子26とを備えている。固定子24の内面には、6つの突極25、すなわち、相数の2倍の突極25が、周方向に等間隔に設けられている。一方、回転子26の外側には、4つの突極27が、周方向に等間隔に設けられている。X相巻線22x、Y相巻線22y、Z相巻線22zのそれぞれは、回転方向に機械角で180°対抗する、固定子24の一対の突極25に集中巻される。一方の突極25と他方の突極25とでは、巻線は通電方向が逆方向となるように巻かれている。また、互いに隣接する突極25の間において、通電方向が同一方向となるように巻かれている。
単節巻SRモータでは、U相巻線22u、V相巻線22v、W相巻線22wのそれぞれに、互いに位相が120°ずれるように電圧を印加する。すなわち、U相巻線22u、V相巻線22v、W相巻線22wのそれぞれは、通電開始時期がずれている。このとき、固定子24の突極25に巻かれた巻線に印加される電圧による鎖交磁束ψが発生する。
そのため、全節巻SRモータにおいて、単節巻SRモータと同等の鎖交磁束を発生させるためには、全節巻SRモータの各スロットの巻線に印加される電圧を、単節巻SRモータにおける、そのスロットを挟む突極25に巻かれた一対の巻線に印加される電圧の合計値とすればよい。ゆえに、U相巻線22uに印加するU相電圧Vu、V相巻線22vに印加するV相電圧Vv、W相巻線22wに印加するW相電圧Vwは、単節巻SRモータのX相巻線22xに印加するX相電圧Vx、Y相巻線22yに印加するY相電圧Vy、Z相巻線22zに印加するZ相電圧Vzを用いて、下記数式1で表すことができる。
また、U相巻線22uに印加するU相電流Iu、V相巻線22vに印加するV相電流Iv、W相巻線22wに印加するW相電流Iwは、単節巻SRモータのX相巻線22xに印加するX相電流Ix、Y相巻線22yに印加するY相電流Iy、Z相巻線22zに印加するZ相電流Izを用いて、下記数式2で表すことができる。
ここで、鎖交磁束ψは、巻線に印加される電圧の時間積分値として表されることが知られている。そして、鎖交磁束ψに急峻な変化が生じた場合、高調波鉄損や騒音が発生する。そのため、本実施形態では、鎖交磁束ψの変化を緩やかにする電圧を巻線に印加することにより、高調波鉄損や騒音を低減する。
上述した通り、全節巻SRモータでは、固定子24の突極25のそれぞれについて、一対の巻線に通電を行うことにより、その一対の巻線に挟まれた突極25に鎖交磁束ψを発生させる。一方、単節巻SRモータでは、固定子24の突極25のそれぞれについて、その突極25に巻かれた1つの巻線に通電を行うことにより鎖交磁束ψを発生させる。そこで、まず、単節巻SRモータにおいて、鎖交磁束の変化を緩やかにすることができる、各相の電圧を指令する値である、X相指令電圧Vx(θ)、Y相指令電圧Vy(θ)、Z相指令電圧Vz(θ)を設定したうえで、上記数式1に基づいて、全節巻SRモータの各相の電圧を指令する値である、U相指令電圧Vu(θ)、V相指令電圧Vv(θ)、W相指令電圧Vw(θ)を決定する。
以下、鎖交磁束ψの変化を緩やかにすべく制御されるU相電圧Vuについて説明する。なお、V相電圧Vv及びW相電圧Vwについても、U相電圧Vuと同様の制御が行われるため、その説明を省略する。後述する各実施形態においても同様である。
図3を用いて、本実施形態におけるU相指令電圧Vu(θ)の設定手法について説明する。図3では、単節巻SRモータを想定した場合のX相指令電圧Vx(θ)及びY相指令電圧Vy(θ)と、全節巻SRモータのU相指令電圧Vu(θ)の時間変化を示している。
X相指令電圧Vx(θ)はX相通電開始角θx、通電角度幅Δθである正弦波であり、Y相指令電圧Vy(θ)はY相通電開始角θy、通電角度幅Δθの正弦波である。X相通電開始角θxは、X相巻線22xへの通電開始を指示する角度を示しており、Y相通電開始角θyは、Y相巻線22yへの通電開始を指示する角度を示しており、通電角度幅Δθは通電を継続させる期間を示している。X相通電開始角θx、Y相指令電圧Vy、通電角度幅Δθは、トルク指令値T*及び回転数Nに基づいて定まる値である。
X相通電開始角θxと、Y相通電開始角θyとは、上述したとおり、120°ずれている。また、通電角度幅Δθは、120°より大きく、240°よりも小さい。すなわち、X相指令電圧Vx(θ)の負電圧を印加する期間と、Y相指令電圧Vy(θ)の正電圧を印加する期間とが、重複するように設定される。
そして、数式1に基づいて、単節巻SRモータのX相指令電圧Vx(θ)と、Y相指令電圧Vy(θ)を加算し、U相指令電圧Vu(θ)とする。すなわち、U相指令電圧Vu(θ)を求める際に、第1電圧としてX相指令電圧Vx(θ)を用いており、第2電圧としてY相指令電圧Vy(θ)を用いている。
U相指令電圧Vu(θ)は、X相通電開始角θxに対応する時間t1において上昇を開始し、時間t2において極大値をとって減少に転じ、時間t3においてゼロとなる。続いて、時間t4まで減少を続け、Y相通電開始角θyに対応する時間t4では、X相指令電圧VxとY相指令電圧Vyとの加算により、極小値をとって増加に転ずる。そして、X相指令電圧Vxの符号反転値とY相指令電圧Vyとが等しくなる時間t5においてゼロとなった後、X相通電開始角θxに通電角度幅Δθを加算した時間に対応する時間t6において極大値をとって減少に転じ、時間t7においてゼロとなる。最後に、時間t8において極小値をとって増加に転じ、時間t9においてゼロとなる。
すなわち、U相指令電圧Vu(θ)は、徐変して増減する正の電圧が印加されるt1〜t3の第1区間と、第1区間とは周波数及び振幅が異なる徐変する電圧が印加されるt3〜t7の第2区間と、徐変して増減する負の電圧が印加されるt7〜t9の第3区間とに区分される。第1区間の幅と第3区間の幅は等しくなっている。一方、第2区間の幅は、第1、第3区間の幅よりも長くなっている。また、第1区間と第2区間とは連接しており、第2区間と第3区間とは連接しているといえる。
続いて、図4を用いて、U相指令電圧Vu(θ)、V相指令電圧Vv(θ)、W相指令電圧Vw(θ)について説明する。図4は、回転数N及びトルク指令値T*が一定である場合の各指令電圧を示している。
Y相通電開始角θyはX相通電開始角θxに対して位相が120°遅れるものとしており、Z相通電開始角θzはY相通電開始角θyに対して位相が120°遅れるものとしている。また、通電角度幅Δθは、それぞれ等しくなっている。そのため、Y相指令電圧Vy(θ)はX相指令電圧Vx(θ)に対して位相が120°遅れた同波形のものとなり、Y相指令電圧Vy(θ)はX相指令電圧Vx(θ)に対して位相が120°遅れた同波形のものとなる。
ゆえに、V相指令電圧Vv(θ)はU相指令電圧Vu(θ)に対して位相が120°遅れた同波形のものとなり、W相指令電圧Vw(θ)はV相指令電圧Vv(θ)に対して位相が120°遅れた同波形のものとなる。
なお、回転数N及びトルク指令値T*の少なくとも一方が変化した場合には、変化前の各指令電圧の波形と、変化後の各指令電圧の波形とは異なるものとなる。
次に、変調波生成部30bが実行する変調波生成処理について、図5のフローチャートを用いて説明する。この処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
まず、上述したように、上位の制御装置から入力されるトルク指令値T*、回転角センサ36が検出した回転子位置θ、回転数算出部30aが算出した回転数N、電圧センサ34が検出した端子間電圧Vdcを取得する(S101)。
続いて、取得したトルク指令値T*、回転数N、端子間電圧Vdcに基づき、指令変調率α0、X相巻線22xへの通電開始を指示するX相通電開始角θx、Y相巻線22yへの通電開始を指示するY相通電開始角θy、通電継続期間を指示する通電角度幅Δθを設定する(S102)。ここで、指令変調率α0とは、正弦波形として設定されるX相指令電圧Vx(θ)、Y相指令電圧Vy(θ)の振幅を、バッテリ10から出力される端子間電圧Vdcで除算した値のことである。このとき、指令変調率α0、X相通電開始角θx、Y相通電開始角θy、通電角度幅Δθは、トルク指令値T*及び回転数Nと関係付けられたマップや数式を用いて設定すればよい。なお、マップや数式は、制御装置30が備えるメモリに記憶されている。
次に、回転子位置θが、X相における通電角度幅Δθ内であるか否かを判断する(S103)。具体的には、回転子位置θからX相通電開始角θxを減算した値を分子とし、通電角度幅Δθを分母とする値をX相判定パラメータとし、0以上であり1以下であるか否かを判断する。ここで、回転子位置θがX相通電開始角θxである場合には、X相判定パラメータは0となり、回転子位置θの変化に正比例してX相判定パラメータが増加し、回転子位置θが、X相通電開始角θxに通電角度幅Δθを加算した値である場合には、X相判定パラメータが1となる。
回転子位置θが、X相における通電期間内であると判断した場合(S103:YES)、X相判定パラメータに360°を乗算した値を独立変数とする正弦関数に、指令変調率α0を乗算することで、X相変調波αx(θ)を生成する(S104)。そして、回転子位置θが、Y相における通電角度幅Δθ内であるか否かの判断(S106)へ移行する。一方、回転子位置θが、X相における通電角度幅Δθ内でないと判断した場合(S103:NO)、X相変調波αx(θ)を0とする(S105)。そして、回転子位置θが、Y相における通電角度幅Δθ内であるか否かの判断(S106)へ移行する。
回転子位置θが、Y相における通電期間内であるか否かの判断(S106)は、X相に対する判断と同様に行われる。すなわち、回転子位置θからY相通電開始角θyを減算した値を分子とし、通電角度幅Δθを分母とする値をY相判定パラメータとし、0以上であり1以下であるか否かを判断する。
回転子位置θが、Y相における通電角度幅Δθ内であると判断した場合(S106:YES)、Y相判定パラメータに360°を乗算した値を独立変数とする正弦関数に、指令変調率α0を乗算することで、Y相変調波αy(θ)を生成する(S107)。一方、回転子位置θが、Y相における通電期間内でないと判断した場合(S108:NO)、Y相変調波αy(θ)を0とする(S108)。
そして、X相変調波αx(θ)と、Y相変調波αy(θ)とを加算することにより、U相変調波αu(θ)を算出し(S109)、一連の処理を一旦終了する。
なお、図5のフローチャートでは、U相変調波αu(θ)を算出するものを示しているが、変調波生成部30bは、V相変調波αv(θ)及びW相変調波αw(θ)も、図5のフローチャートに係る処理と同様の処理により、同時に算出している。上述したように、V相電圧VvはY相電圧VyとZ相電圧Vzを加算したものであるため、V相変調波αv(θ)は、Y相通電開始角θyとZ相通電開始角θzを用いて算出される。また、W相電圧VwはZ相電圧VzとX相電圧Vxを加算したものであるため、W相変調波αw(θ)は、Z相通電開始角θzとX相通電開始角θxを用いて算出される。
なお、図5のフローチャートに係る処理により生成された変調波αu(θ)に、バッテリ10から出力される端子間電圧Vdcを乗算した値が、先の図4に示した指令電圧Vu(θ)となる。
続いて、U相巻線22uに印加される電圧が指令電圧Vu(θ)となるように、U相変調波αu(θ)に基づいて電力変換回路20を制御する電圧制御処理について、図6〜図9を用いて説明する。なお、V相巻線22vについての電圧制御処理、及び、W相巻線22wについての電圧制御処理は、U相巻線22uについでの電圧制御処理と同様に行われるため、省略する。
電圧制御処理は、U相巻線22uに印加される電圧の波形が指令電圧Vu(θ)となるように、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームスイッチング素子Su2のオン/オフ状態を切り替える、PWM(パルス幅変調)制御を行う。まず、図6(a)〜(d)を用いて、U相巻線22uに印加される電圧について説明する。
図6(a)は、指令電圧Vu(θ)がVdcである場合の電気経路を示している。この場合には、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームスイッチング素子Su2が共にオン操作される。そのため、電気経路は、バッテリ10の正極、U相上アームスイッチング素子Su1、U相巻線22u、U相下アームスイッチング素子Su2、バッテリ10の負極の順に電気的に接続される閉回路となり、U相巻線22uには、Vdcの電圧が印加される。
図6(b)は、指令電圧Vu(θ)が0である場合の電気経路を示している。この場合には、U相上アームスイッチング素子Su1がオフ操作され、U相下アームスイッチング素子Su2がオン操作される。そのため、電気経路は、U相下アームダイオードDu2、U相巻線22u、U相下アームスイッチング素子Su2の順に接続される閉回路となり、U相巻線22uに印加される電圧はゼロとなる。
図6(c)は、指令電圧Vu(θ)が0である場合の電気経路の、別の例を示している。この場合には、U相上アームスイッチング素子Su1がオン操作され、U相下アームスイッチング素子Su2がオフ操作される。そのため、電気経路は、U相上アームダイオードDu1、U相上アームスイッチング素子Su1、U相巻線22uの順に接続される閉回路となり、U相巻線22uに印加される電圧はゼロとなる。
図6(d)は、指令電圧Vu(θ)が−Vdcである場合の電気経路を示している。この場合には、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームスイッチング素子Su2が共にオフ操作される。そのため、電気経路は、バッテリ10の負極、U相下アームダイオードDu2、U相巻線22u、U相上アームダイオードDu1、バッテリ10の正極の順に電気的に接続される閉回路となり、U相巻線22uには、−Vdcの電圧が印加される。
次に、図7のフローチャートを用いて、操作信号生成部30cが実行する、U相変調波αu(θ)に基づく電圧制御処理を説明する。電圧制御処理では、変調波生成部30bから出力されたU相変調波αu(θ)が搬送波Cs(θ)の値以上であるか否かを判断する。本実施形態では、搬送波Cs(θ)として、最小値が0であり最大値が1である三角波信号を用いている。
まず、U相変調波αu(θ)が、0以上であるか否かを判断する(S201)。U相変調波αu(θ)が0以上であると判断した場合(S201:YES)、U相変調波αu(θ)が搬送波Cs(θ)以上であるか否かを判断する(S202)。U相変調波αu(θ)が搬送波Cs(θ)以上であると判断した場合(S202:YES)、電圧指示値V*をVdcとし、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームスイッチング素子Su2へ、制御信号を送信する(S203)。また、U相変調波αu(θ)が搬送波Cs(θ)以上でないと判断した場合(S202:NO)、電圧指示値V*を0とし、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームスイッチング素子Su2へ、制御信号を送信する(S204)。
一方、U相変調波αu(θ)が0以上でない判断した場合(S201:NO)、U相変調波αu(θ)の符号反転値が搬送波Cs(θ)の値以上であるか否かを判断する(S205)。すなわち、U相変調波αu(θ)を正の値としたうえで、搬送波Cs(θ)との比較を行う。U相変調波αu(θ)の符号反転値が搬送波Cs(θ)の値以上であると判断した場合、電圧指示値V*を−Vdcとし、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームスイッチング素子Su2へ、制御信号を送信する(S206)。また、U相変調波αu(θ)の符号反転値が搬送波Cs(θ)以上でないと判断した場合(S205:NO)、電圧指示値V*を0とし、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームスイッチング素子Su2へ、制御信号を送信する(S204)。
図8(a)はU相変調波αu(θ)を示しており、図8(b)は、0よりも小さい値となる場合には符号を反転させたU相変調波αu(θ)と、搬送波Cs(θ)とを示しており、図8(c)は、U相指令電圧Vu(θ)と、電圧指示値V*に基づいてU相巻線22uに印加される電圧とを示している。
図8に示すように、変調波αu(θ)及び搬送波Cs(θ)の大小比較に基づくパルス幅変調によって、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームスイッチング素子Su2のオン/オフ操作を行うことができる。これにより、搬送波Cs(θ)の各周期におけるU相巻線22uの平均印加電圧を指令電圧Vu(θ)に制御することができる。
ところで、図7のフローチャートで示したとおり、U相変調波αu(θ)が、0以上の場合には、電圧指示値V*をVdcと0とで切り替えている。また、U相変調波αu(θ)が、0よりも小さい場合には、電圧指示値V*を−Vdcと0とで切り替えている。この際の、U相変調波αu(θ)に対する、U相上アームスイッチング素子Su1の制御方法と、U相下アームスイッチング素子Su2の制御方法とを、図9(a)〜(d)に示す。
U相変調波αu(θ)が0以上の場合、すなわち、電圧指示値V*をVdcと0とで切り替える場合、図6(a)で示した電流経路と、図6(b)で示した電流経路と図6(c)で示した電流経路の一方とを切り替えればよい。
このとき、図6(a)で示した電流経路と図6(b)で示した電流経路とを用いる場合には、図9(a)及び(c)に示すように、U相上アームスイッチング素子Su1について、オン状態とオフ状態とを切り替えるPWM制御を行い、U相下アームスイッチング素子Su2について常にオン状態とすればよい。また、図6(a)で示した電流経路と図6(c)で示した電流経路とを用いる場合には、図9(b)及び(d)に示すように、U相上アームスイッチング素子Su1を常にオン状態とし、U相下アームスイッチング素子Su2について、オン状態とオフ状態とを切り替えるPWM制御を行えばよい。
一方、U相変調波αu(θ)が0よりも小さい場合、すなわち、電圧指示値V*を−Vdcと0とで切り替える場合、図6(d)で示した電流経路と、図6(b)で示した電流経路と図6(c)で示した電流経路の一方とを切り替えればよい。
このとき、図6(d)で示した電流経路と図6(b)で示した電流経路とを用いる場合には、図9(b)及び(c)に示すように、U相上アームスイッチング素子Su1を常にオフとし、U相下アームスイッチング素子Su2について、オン状態とオフ状態とを切り替えるPWM制御を行えばよい。また、図6(d)で示した電流経路と図6(c)で示した電流経路とを用いる場合には、図9(b)及び(d)に示すように、U相上アームスイッチング素子Su1について、オン状態とオフ状態とを切り替えるPWM制御を行い、U相下アームスイッチング素子Su2を常にオフ状態とすればよい。
図10と図11とを用いて、U相電圧Vu、U相電流Iu、鎖交磁束ψ、及び、ラジアル力の変化を説明する。なお、上述した通り、全節巻SRモータでは、突極25を挟む一対の巻線に電圧を印加することにより鎖交磁束ψを発生させる。そのため、図11(c)に示す鎖交磁束ψ、及び、図11(d)に示すラジアル力は、U相電圧Vuに加えて、W相指令電圧Vw(θ)に基づいて制御されるW相電圧Vwも印加された状態で発生するものを示している。
図10は、従来例のごとく、巻線に流れる電流が一定となるように制御した場合を示している。U相電圧Vuは、U相電流Iuが一定となるように、制御される。すなわち、U相電流Iuを増加させる必要が生ずれば、U相電圧Vuとして最大値を印加し、U相電流Iuを減少させる必要が生ずれば、U相電圧Vuをゼロ電圧とする。この制御により、U相電流Iuは一定に制御されるものの、鎖交磁束ψに急峻な変化が発生し、また、ラジアル力も増加する。
図11は本実施形態に係る制御を行った場合を示している。U相電圧VuはU相指令電圧Vu(θ)に追従するように制御されるため、U相電流Iuは一定とならない。一方、鎖交磁束ψを緩やかにすべく設定されたU相指令電圧Vu(θ)に追従するように、U相電圧Vuを制御するためにより、鎖交磁束ψに急峻な変化は生じず、その変化は緩やかとなっている。また、それにともない、ラジアル力も小さくなる。
続いて、図12を用いて、図10の場合と図11の場合とに対応する、全節巻SRモータの損失の内訳を示す。図示されるように、本実施形態によれば、全節巻SRモータにおける損失のうち、特に全節巻SRモータの固定子24における渦電流損と、回転子26の渦電流損とを大きく低減させることができる。
上記構成により、本実施形態に係る制御装置は以下の効果を奏する。
(1)変調波生成部30bにより生成された変調波αu(θ),αv(θ),αw(θ)により、指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)となるように巻線22u,22v,22wの印加電圧を制御することにより、鎖交磁束ψを間接的に制御することができる。そして、指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)が、徐変する正の電圧及び負の電圧を含むため、巻線22u,22v,22wの鎖交磁束ψの変化を緩やかにすることができ、鎖交磁束ψの高調波成分を低減させることができる。したがって、全節巻SRモータの高調波鉄損及び騒音を好適に低減させることができる。
(2)全節巻SRモータの巻線に印加される電圧は、単節巻SRモータの、隣り合う一対の突極25に巻かれる巻線に印加される電圧の和として表すことができる。ゆえに、単節巻SRモータの固定子24の突極25に生ずる鎖交磁束ψを減少させることができる電圧に基づいて、全節巻SRモータの巻線22u,22v,22wに印加される電圧を設定すれば、全節巻SRモータの固定子24の突極25に生ずる鎖交磁束ψを減少させることができる。
ここで、単節巻SRモータの巻線22x,22y,22zに対する指令電圧Vx(θ),Vy(θ),Vz(θ)を、徐変する期間を含む正の電圧を印加する区間と、徐変する期間を含む負の電圧を印加する区間とを含むものとした場合、鎖交磁束ψは巻線に印加される電圧の時間積分値であるため、鎖交磁束ψの変化は緩やかになり、高調波成分は減少する。また、単節巻SRモータの巻線22x,22y,22zへの電圧の印加は、所定位相ずらして行われる。
したがって、全節巻SRモータの巻線22u,22v,22wに対する指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)を、単節巻SRモータにおける鎖交磁束ψの変化を緩やかとする指令電圧Vx(θ),Vy(θ),Vz(θ)に基づいて求めることにより、全節巻SRモータにおける鎖交磁束の変化を緩やかとすることができる。ゆえに、鎖交磁束ψの高調波成分を低減させることができ、高調波鉄損及び騒音を好適に低減させることができる。
<第2実施形態>
本実施形態に係る制御装置は、第1実施形態に係る制御装置に対して、操作信号生成部30cが実行する電圧制御処理が異なっている。
図13のフローチャートを用いて、本実施形態に係る操作信号生成部30cが実行する、U相変調波αu(θ)に基づく電圧制御処理を説明する。電圧制御処理では、変調波生成部30bから出力されたU相変調波αu(θ)が搬送波Cs(θ)の値以上であるか否かを判断する。本実施形態では、第1実施形態と異なり、搬送波Cs(θ)として、最小値が−1であり最大値が1である三角波信号を用いている。
まず、U相変調波αu(θ)が搬送波Cs(θ)以上であるか否かを判断する(S210)。そして、U相変調波αu(θ)が搬送波Cs(θ)以上であると判断した場合(S210:YES)、電圧指示値V*をVdcとし、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームスイッチング素子Su2へ、制御信号を送信する(S211)。一方、U相変調波αu(θ)が搬送波Cs(θ)以上でないと判断した場合(S210:NO)、電圧指示値V*を−Vdcとし、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームスイッチング素子Su2へ、制御信号を送信する(S212)。
本実施形態では、図13のフローチャートで示したとおり、電圧指示値V*とVdcと−Vdcの2段階に切り替えている。すなわち、図6(a)で示した電気経路と、図6(d)で示した電気経路とを切り替える制御を行っている。
図14(a)は、U相変調波αu(θ)と搬送波Cs(θ)とを示しており、図14(b)は、U相指令電圧Vu(θ)と、電圧指示値V*に基づいてU相巻線22uに印加される電圧とを示している。
図14に示すように、変調波αu(θ)及び搬送波Cs(θ)の大小比較に基づくパルス幅変調によって、U相上アームスイッチング素子Su1及びU相下アームスイッチング素子Su2のオン/オフ操作を行うことができる。これにより、搬送波Cs(θ)の各周期におけるU相巻線22uの平均印加電圧を指令電圧Vu(θ)に制御することができる。
上記構成により、本実施形態に係る制御装置は、第1実施形態に係る制御装置に準ずる効果を奏する。
<第3実施形態>
本実施形態では、上記各実施形態に対して、操作信号生成部30cが実行する処理がPAM(パルス振幅変調)制御である点で、異なっている。また、電力変換回路20についてもPAM制御を行うべく構成されており、上記各実施形態とは一部異なっている。
すなわち、本実施形態に係る電力変換回路20は、図示しない昇降圧型コンバータを備えている。昇降圧型コンバータは、各巻線22u、22v、22wに接続されている。操作信号生成部30cが、昇降圧型コンバータが備えるスイッチング素子へ操作信号を送信し、昇降圧型コンバータから各巻線22u、22v、22wに印加される電圧を、指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)に追従するように制御する。
図15を用いて、U相電圧Vu、U相電流Iu、鎖交磁束ψ、及び、ラジアル力の変化を説明する。なお、上述した通り、全節巻SRモータでは、突極25を挟む一対の巻線に電圧を印加することにより鎖交磁束ψを発生させる。そのため、図15(c)に示す鎖交磁束ψ、及び、図15(d)に示すラジアル力は、U相電圧Vuに加えて、W相指令電圧Vw(θ)に基づいて制御されるW相電圧Vwも印加された状態で発生するものを示している。
U相電圧VuはU相指令電圧Vu(θ)に追従するように制御されため、U相電流Iuは一定とならない。一方、鎖交磁束ψを緩やかにすべく設定されたU相指令電圧Vu(θ)に追従するように、U相電圧Vuを制御するためにより、鎖交磁束ψに急峻な変化は生じず、その変化は緩やかとなっている。また、それにともない、ラジアル力も小さくなる。
続いて、図16を用いて、第1実施形態の図10で示した場合と、本実施形態の図15で示した場合とに対応する、全節巻SRモータの損失の内訳を示す。図示されるように、本実施形態によれば、全節巻SRモータにおける損失のうち、特に全節巻SRモータの固定子24における渦電流損と、回転子26の渦電流損とを大きく低減させることができる。
本実施形態では、PAM制御により、各相電圧Vu,Vv,Vwが指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)となるように制御しているため、各相電圧Vu,Vv,Vwは、より指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)に近い値となる。そのため、上記各実施形態と比べて、損失をより低減することができる。
<第4実施形態>
本実施形態では、変調波生成部30bが実行する変調波生成処理の一部が、上記各実施形態と異なっている。すなわち、本実施形態では、各変調波αu(θ),αv(θ),αw(θ)を生成する際に、各巻線22u,22v,22wの巻線抵抗による電圧降下を考慮している。また、本実施形態では、U相巻線22uに流れる電流値であるU相電流Iu、V相巻線22vに流れる電流値であるV相電流Iv、W相巻線22wに流れる電流値であるW相電流Iwをそれぞれ検出する、電流センサを備えている。
図17に、U相を構成する回路の概略図を示している。U相巻線22uに印加される電圧VLは、端子間電圧Vdcから、巻線抵抗Rによる電圧降下分を除算した値となる。そこで、U相指令電圧Vu(θ)に巻線抵抗Rによる電圧降下分を加算する。なお、電圧降下分は、巻線抵抗RにU相電流Iuを乗算した値として算出される。なお、巻線抵抗Rは、予め計測された値が制御装置30のメモリに記憶されている。
変調波生成部30bが実行する変調波生成処理について、図18のフローチャートを用いて説明する。この処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。なお、図18において、第1実施形態の図5のフローチャートと同一の部分には、同じ記号を付しており、その説明を省略する。
まず、上位の制御装置から入力されるトルク指令値T*、回転角センサ36が検出した回転子位置θ、回転数算出部30aが算出した回転数N、電圧センサ34が検出した端子間電圧Vdc、U相電流Iuを取得する(S101a)。続いて、第1実施形態と同様に、X相変調波αx(θ)及びY相変調波αy(θ)を算出する(S102〜S108)。
そして、X相変調波αx(θ)とY相変調波αy(θ)との加算値に、巻線抵抗RにU相電流Iuを乗算した電圧降下分を端子間電圧Vdcにより除算した値を加算し、U相変調波αu(θ)を得る(S109a)。
なお、上記各実施形態と同様に、図18に示した変調波生成処理は、V相変調波αv(θ)、W相変調波αw(θ)についても同様に行われる。また、操作信号生成部30cが実行する処理は、上記各実施形態のいずれかと同様の処理となる。
上記構成により、本実施形態に係る制御装置は、第1〜3実施形態に係る制御装置に対して、指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)の設定制度を高めることができる。ゆえに、高調波鉄損、振動及び騒音の低減効果をより高めることができる。
<第5実施形態>
本実施形態では、トルク指令値T*が所定値よりも小さいか否かを判定しており、また、回転数Nが所定数よりも少ないか否かを判定する点が、上記各実施形態と異なっている。すなわち、トルク指令値T*にトルク上限値Tlimを設定しており、回転数Nに回転数上限値Nlimを設定している。トルク上限値Tlim及び回転数上限値Nlimは、制御装置30のメモリに記憶されている。
変調波生成部30bは、トルク指令値T*及び回転数Nを取得した際に、トルク指令値T*がトルク上限値Tlimよりも小さく、且つ、回転数Nが回転数上限値Nlimよりも小さい場合に、変調波生成処理を実行する。一方、そうでない場合には、変調波生成処理を行わず、U相巻線22uに流れるU相電流Iu、V相巻線22vに流れるV相電流Iv、W相巻線22wに流れるW相電流Iwのそれぞれが一定となるように制御を行う。
この場合には、制御装置30が備える電流一定制御部により、取得したU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを用いて、それぞれの値が通電期間において等しくなるように、各スイッチング素子Su1,Su2,Sv1,Sv2,Sw1,Sw2のスイッチング制御を行う。
図19は、回転数Nに対して出力可能な最大トルクを示すグラフであり、図中に、トルク上限値Tlimと回転数上限値Nlimとを示している。すなわち、図19中、斜線で示した範囲において、変調波生成処理が行われる。
上記構成により、本実施形態に係る制御装置は、第1〜4実施形態に係る制御装置に準ずる効果に加えて、以下の効果を奏する。
(3)回転数Nが多いほど、電気角の1周期に相当する時間が短くなる。このため、回転数Nが多いにもかかわらず各相の指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)を徐変させると、電気角の1周期における鎖交磁束ψを、トルク指令値T*を満たすことができる程度に十分に増大させることができないおそれがある。ゆえに、トルク指令値T*に対してSRモータの出力トルクが不足するおそれがある。本実施形態では、回転数Nに関する条件を課して指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)を設定するものとしたため、SRモータの出力トルクの不足を回避することができる。
(4)上記各実施形態では、巻線に流れる電流の制御を行わず、トルク指令値T*となるように、指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)を設定して制御を行っている。そのため、トルク上限値Tlim以上にトルク指令値T*を与え、指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)を徐変させると、SRモータに流れる電流が増大し、SRモータが破損する可能性がある。本実施形態では、トルク指令値T*に関する条件を課して指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)を設定するものとしているため、過電流によるSRモータの破損を、回避することができる。
<第6実施形態>
本実施形態では、各指令電圧Vu(θ)、Vv(θ)、Vw(θ)が、上記各実施形態と異なっている。すなわち、U相指令電圧Vu(θ)、V相指令電圧Vv(θ)、W相指令電圧Vw(θ)を求める際に用いられる、X相指令電圧Vx(θ)、Y相指令電圧Vy(θ)、Z相指令電圧Vz(θ)は、上記各実施形態と同様に、位相が120°ずれた正弦波である。一方、X相指令電圧Vx(θ)、Y相指令電圧Vy(θ)、Z相指令電圧Vz(θ)の通電角度幅Δθがそれぞれ240°である。
なお、本実施形態において、変調波生成部30bが実行する変調波生成処理、及び、操作信号生成部30cが実行する電圧制御処理は、上記各実施形態のいずれかと同様の処理により行われる。
U相指令電圧Vu(θ)を算出するために用いるX相指令電圧Vx(θ)とY相指令電圧Vy(θ)とは、通電角度幅Δθが240°であり、且つ、Y相通電開始角θyは、X相通電開始角θxより120°遅れている。そのため、X相指令電圧Vx(θ)の負電圧印加部分の符号反転値と、Y相指令電圧Vy(θ)の正電圧印加部分とが等しい値となる。
X相指令電圧Vx(θ)と、Y相指令電圧Vy(θ)とを加算したU相指令電圧Vu(θ)について、図20を用いて説明する。
U相指令電圧Vu(θ)は、X相通電開始角θxに対応する時間t1において上昇を開始し、時間t2において極大値をとって降下に転じ、Y相通電開始角θyに対応する時間t4でゼロとなる。ゼロ電圧は、通電角度幅Δθに対応する時間t5まで継続し、その時間t5において、降下に転ずる。そして、時間t5において極大値をとって上昇に転じ、時間t6においてゼロとなる。
すなわち、U相指令電圧Vu(θ)は、徐変して増減する正の電圧が印加されるt1〜t3の第1区間と、ゼロ電圧となるt3〜t4の第2区間と、徐変して増減する負の電圧が印加されるt4〜t6の第3区間とに区分される。第1区間、第2区間、第3区間の長さは等しく、その長さを回転子位置θの角度幅により表すと、120°である。
本実施形態に係る制御装置は、上記構成により、上記各実施形態に係る制御装置に準ずる効果を奏する。
<変形例>
上記各実施形態において、X相指令電圧Vx(θ)、Y相指令電圧Vy(θ)、Z相指令電圧Vz(θ)をそれぞれ正弦波としたが、正弦波以外の、徐変する期間を含むものとしてもよい。この場合のU相指令電圧Vu(θ)について、図21〜図28を参照しながら、以下の(A)〜(H)に例示する。また、鎖交磁束ψは、上記各実施形態と同様に、W相巻線22wにもW相指令電圧Vw(θ)に基づく電圧を印加した場合を示している。なお、以下の各変形例において、単節巻SRモータにおける指令電圧Vx(θ),Vy(θ),Vz(θ)を正弦波以外の波形としているため、変調波生成部30bが実行する変調波生成処理が一部上記各実施形態と異なるものとなる。また操作信号生成部30cが実行する電圧制御処理は上記各実施形態のいずれかと同様の処理により行われる。
(A)図21は、X相指令電圧Vx(θ)及びY相指令電圧Vy(θ)が、通電角度幅Δθが120°よりも大きく、且つ、240°よりも小さい三角波である場合の、U相指令電圧Vu(θ)を示している。
U相指令電圧Vu(θ)は、X相通電開始角θxに対応する時間t1において上昇を開始し、時間t2において極大値をとって降下に転じ、時間t3においてゼロとなる。続いて、時間t4まで降下を続け、Y相通電開始角θyに対応する時間t4から時間t5にかけて、X相指令電圧VxとY相指令電圧Vyとの加算により一定値をとった後、増加に転ずる。X相指令電圧Vxの符号反転値とY相指令電圧Vyとが等しくなる時間t6においてゼロとなった後、時間t7まで上昇を続け、時間t7から時間t8まで一定値をとり、降下に転ずる。そして、時間t9においてゼロとなり、時間t10において極小値をとって降下に転じ、時間t11でゼロとなる。
すなわち、U相指令電圧Vu(θ)は、徐変して増減する正の電圧が印加されるt1〜t3の第1区間と、第1区間とは周波数及び振幅が異なる電圧が印加されるt3〜t9の第2区間と、徐変して増減する負の電圧が印加されるt9〜t11の第3区間とに区分される。第1区間の幅と第3区間の幅は等しくなっている。一方、第2区間の幅は、第1、第3区間の幅よりも長くなっている。
(B)図22は、X相指令電圧Vx(θ)及びY相指令電圧Vy(θ)が、通電角度幅Δθが240°の三角波である場合の、U相指令電圧Vu(θ)を示している。
U相指令電圧Vu(θ)は、X相通電開始角θxに対応する時間t1において上昇を開始し、時間t2において極大値をとって降下に転じ、Y相通電開始角θyに対応する時間t3でゼロとなる。ゼロ電圧は、通電角度幅Δθに対応する時間t4まで継続し、その時間t4において、降下に転ずる。そして、時間t5において極大値をとって降下に転じ、時間t6においてゼロとなる。
すなわち、U相指令電圧Vu(θ)は、徐変して増減する正の電圧が印加されるt1〜t3の第1区間と、ゼロ電圧となるt3〜t4の第2区間と、徐変して増減する負の電圧が印加されるt4〜t6の第3区間とに区分される。第1区間、第2区間、第3区間の長さは等しく、その長さを回転子位置θの角度幅により表すと、120°である。
(C)図23は、X相指令電圧Vx(θ)及びY相指令電圧Vy(θ)が、通電角度幅Δθが120°よりも大きく、且つ、240°よりも小さい台形波である場合の、U相指令電圧Vu(θ)を示している。
U相指令電圧Vu(θ)は、X相通電開始角θxに対応する時間t1において上昇を開始し、時間t2から時間t3まで一定値をとった後に降下に転じ、時間t4においてゼロとなる。続いて、時間t5まで降下を続け、Y相通電開始角θyに対応する時間t5から時間t6かけて、X相指令電圧VxとY相指令電圧Vyとの加算により一定値をとった後、増加に転ずる。X相指令電圧Vxの符号反転値とY相指令電圧Vyとが等しくなる時間t7においてゼロとなり、そのゼロ電圧は時間t8まで継続した後、上昇に転ずる。その後、時間t9まで上昇して、時間t9から時間t10まで一定値をとった後に降下に転じ、時間t11でゼロとなる。そして、時間t12まで降下を続け、時間t12から時間13まで一定値をとった後に上昇に転じ、時間t14においてゼロとなる。
すなわち、U相指令電圧Vu(θ)は、徐変して増減する期間を含む正の電圧が印加されるt1〜t4の第1区間と、第1区間とは周波数及び振幅が異なり、徐変して増減する期間を含む電圧が印加されるt4〜t11の第2区間と、徐変して増減する期間を含む負の電圧が印加されるt11〜t14の第3区間とに区分される。第1区間の幅と第3区間の幅は等しくなっている。一方、第2区間の幅は、第1、第3区間の幅よりも長くなっている。
(D)図24は、X相指令電圧Vx(θ)及びY相指令電圧Vy(θ)が、通電角度幅Δθが240°の台形波である場合の、U相指令電圧Vu(θ)を示している。
U相指令電圧Vu(θ)は、X相通電開始角θxに対応する時間t1において上昇を開始し、時間t2から時間t3まで一定値をとった後に降下に転じ、時間t4においてゼロとなる。ゼロ電圧は、通電角度幅Δθに対応する時間t5まで継続し、その時間t5において、降下に転ずる。そして、時間t6から時間t7まで一定値をとった後に上昇に転じ、時間t8でゼロとなる。
すなわち、U相指令電圧Vu(θ)は、徐変して増減する期間を含む正の電圧が印加されるt1〜t4の第1区間と、ゼロ電圧となるt4〜t5の第2区間と、徐変して増減する期間を含む負の電圧が印加されるt5〜t8の第3区間とに区分される。第1区間、第2区間、第3区間の長さは等しく、その長さを回転子位置θの角度幅により表すと、120°である。
(E)図25は、X相指令電圧Vx(θ)及びY相指令電圧Vy(θ)が、通電角度幅Δθが120°よりも大きく、且つ、240°よりも小さい多角形波である場合の、U相指令電圧Vu(θ)を示している。
U相指令電圧Vu(θ)は、X相通電開始角θxに対応する時間t1において上昇を開始し、時間t2で上昇量が変化し、時間t3で極大値をとった後に降下に転じ、時間t4で降下量が変化して、時間t5でゼロとなる。続いて、Y相通電開始角θyに対応する時間t6まで降下を続け、時間t6から時間t7にかけて、X相指令電圧VxとY相指令電圧Vyとの加算により一定値をとった後、増加に転ずる。そこから、時間t8から時間t9にかけての一定電圧区間、時間t10のゼロ電圧、時間t11から時間t12にかけての一定電圧区間を経つつ増加し、時間t13から時間t14にかけて一定値をとった後、降下に転じ、時間t15でゼロとなる。そして、時間t16で降下量が変化して、時間t17で極小値をとって上昇に転じ、時間t18で上昇量が変化して、時間t19においてゼロとなる。
すなわち、U相指令電圧Vu(θ)は、徐変して増減する正の電圧が印加されるt1〜t5の第1区間と、第1区間とは周波数及び振幅が異なり、徐変して増減する期間を含む電圧が印加されるt4〜t15の第2区間と、徐変して増減する期間を含む負の電圧が印加されるt15〜t19の第3区間とに区分される。第1区間の幅と第3区間の幅は等しくなっている。一方、第2区間の幅は、第1、第3区間の幅よりも長くなっている。
(F)図26は、X相指令電圧Vx(θ)及びY相指令電圧Vy(θ)が、通電角度幅Δθが240°の台形波である場合の、U相指令電圧Vu(θ)を示している。
U相指令電圧Vu(θ)は、X相通電開始角θxに対応する時間t1において上昇を開始し、時間t2で上昇量が変化し、時間t3で極大値をとった後に降下に転じ、時間t4で降下量が変化して、時間t5でゼロとなる。ゼロ電圧は、通電角度幅Δθに対応する時間t6まで継続し、その時間t6において、降下に転ずる。そして、時間t7で降下量が変化して、時間t8で極小値をとって上昇に転じ、時間t9で上昇量が変化して、時間t10においてゼロとなる。
すなわち、U相指令電圧Vu(θ)は、徐変して増減する正の電圧が印加されるt1〜t5の第1区間と、ゼロ電圧となるt5〜t6の第2区間と、徐変して増減する負の電圧が印加されるt6〜t10の第3区間とに区分される。第1区間、第2区間、第3区間の長さは等しく、その長さを回転子位置θの角度幅により表すと、120°である。
(G)図27は、X相指令電圧Vx(θ)が、通電角度幅Δθが120°よりも大きく、且つ、240°よりも小さい正弦波であり、Y相指令電圧Vy(θ)が、通電角度幅Δθが120°よりも大きく、且つ、240°よりも小さい三角波である場合の、U相指令電圧Vu(θ)を示している。
U相指令電圧Vu(θ)は、X相通電開始角θxに対応する時間t1において上昇を開始し、時間t2において極大値をとって降下に転じ、時間t3においてゼロとなる。続いて、時間t4まで降下を続け、Y相通電開始角θyに対応する時間t4では、X相指令電圧VxとY相指令電圧Vyとの加算により、極小値をとって上昇に転ずる。X相指令電圧Vxの符号反転値とY相指令電圧Vyとが等しくなる時間t5においてゼロとなった後、時間t6まで降下する。その後、上昇に転じ、X相通電開始角θxに通電角度幅Δθを加算した時間に対応する時間t7において極大値をとって降下に転じ、時間t8においてゼロとなる。最後に、時間t9において極小値をとって上昇に転じ、時間t10においてゼロとなる。
すなわち、U相指令電圧Vu(θ)は、徐変して増減する正の電圧が印加されるt1〜t3の第1区間と、第1区間とは周波数及び振幅が異なり、徐変して増減する電圧が印加されるt3〜t8の第2区間と、徐変して増減する期間を含む負の電圧が印加されるt8〜t10の第3区間とに区分される。第1区間の幅と第3区間の幅は等しくなっている。一方、第2区間の幅は、第1、第3区間の幅よりも長くなっている。
(H)図28は、X相指令電圧Vx(θ)が、通電角度幅Δθが240°の正弦波であり、Y相指令電圧Vy(θ)が、通電角度幅Δθが240°の三角波である場合の、U相指令電圧Vu(θ)を示している。
U相指令電圧Vu(θ)は、X相通電開始角θxに対応する時間t1において上昇を開始し、時間t2において極大値をとって降下に転じ、Y相通電開始角θyに対応する時間t4でゼロとなる。ゼロ電圧は、通電角度幅Δθに対応する時間t5まで継続し、その時間t5において、降下に転ずる。そして、時間t5において極大値をとって上昇に転じ、時間t6においてゼロとなる。なお、負の値をとる正弦波と正の値をとる三角波とを加算した場合、ゼロとはならないものの、ゼロに近似する値とみなすことができる。そのため、時間t3〜t4の電圧をゼロとしている。
すなわち、U相指令電圧Vu(θ)は、徐変して増減する正の電圧が印加されるt1〜t5の第1区間と、ゼロ電圧となるt5〜t6の第2区間と、徐変して増減する負の電圧が印加されるt6〜t10の第3区間とに区分される。第1区間、第2区間、第3区間の長さは等しく、その長さを回転子位置θの角度幅により表すと、120°である。
また、指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)の設定手法としては、さらに、以下に説明するものであってもよい。
指令電圧Vu(θ),Vv(θ),Vw(θ)を算出する際に用いられる指令電圧Vx(θ),Vy(θ),Vz(θ)の波形は、上記各実施形態で示した理想的な正弦波である正弦波形や、上記(A)〜(J)の一部で登場した多角形状の波形に限らない。正弦波形が若干歪んだ波形(正弦波状の波形)や、三角波形が若干歪んだ波形(三角波状の波形)、台形波形が若干歪んだ波形(台形波状の波形)であってもよい。この場合であっても、鎖交磁束の変化を緩やかにできることから、SRモータの高調波損失等の低減効果を得ることはできる。
各実施形態において、制御装置が3相の全節巻SRモータの制御を行うものとしたが、3相以外の全節巻SRモータの制御を行うものとすることもできる。その場合には、全節巻SRモータがn相であれば、各相の指令電圧を360°/nずれたものとすればよい。
・上記第5実施形態において、トルク上限値Tlimと回転数上限値Nlimとの、いずれか一方のみを用いるものとしてもよい。
・上記各実施形態において、各スイッチング素子としてIGBTを用いるものとしているが、MOSFETやバイポーラトランジスタであってもよい。
・直流電源はバッテリに限らない。例えば、交流電源と、交流電源から出力される交流電圧を直流電圧に変換して出力する整流回路とで直流電源を構成してもよい。
・本発明の適用対象としては、車載主機としてのモータに限らず、例えば車載補機としてのモータであってもよい。また、本発明の適用対象としては、車載モータに限らない。