以下、第1の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下においては、本発明の鞍乗型車両のシートヒンジ構造をスクータータイプの自動二輪車に適用した例について説明するが、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、本発明の鞍乗型車両のシートヒンジ構造を、他のタイプの車両にも適用可能である。
図1を参照して、第1の実施の形態に係る自動二輪車全体の概略構成について説明する。図1は、第1の実施の形態に係る自動二輪車1の側面図である。なお、図1においては、車体前方を矢印FR、車体後方を矢印REでそれぞれ示す。
図1に示すように、スクータータイプの自動二輪車1は、鋼製又はアルミ合金製の車体フレーム2(図2参照)に車体外装としての各種カバーを装着して構成されている。この自動二輪車1は、ライダーの前方を保護するようにフロントカウル31が設けられ、フロントカウル31の背面側にはライダーの脚部を保護するレッグシールド32が設けられている。また、レッグシールド32の下端から後方に向ってステップボード33が延在し、ステップボード33の後方にはシート14の下方にシートカウル34が設けられている。
このスクータータイプの自動二輪車1には、レッグシールド32とステップボード33とによってシート14の前方にライダーの脚部が置かれる足置き空間が形成されている。足置き空間は、車幅方向の中央に位置するセンターコンソール35によって左右に分けられている。センターコンソール35は、レッグシールド32とシートカウル34とを連ねるように前後方向に延在している。
車体前側には、ヘッドパイプ(不図示)に設けられたステアリングシャフト(不図示)を介して一対のフロントフォーク11が左右に揺動可能に支持されている。一対のフロントフォーク11の上方には、前輪4操舵用のハンドルバー12が設けられている。車体左側のハンドルバー12には、後輪17用のブレーキレバー121が設けられ、車体右側のハンドルバー12には前輪4用のブレーキレバー(不図示)が設けられている。一対のフロントフォーク11の下部には、前輪4が回転可能に支持されると共に、前輪4の上部を覆うフロントフェンダ13が設置される。
前輪4には、ブレーキディスク41とブレーキディスク41を挟持するキャリパー42が設けられている。フロントカウル31の前面には、ヘッドランプ311が設けられ、ヘッドランプ311の上方には風除け用のウィンドスクリーン312が設けられている。
車体中央のセンターコンソール35の後方のシートカウル34上には、シート14が設けられている。シート14は、後述するシートヒンジ23(図2参照)を介して車体側に連結されている。シート14は、シートヒンジ23の一部を支点として回転自在となっている。なお、シート14の詳細構成については後述する。
シートカウル34の後部にはテールランプ342及びリヤフェンダ343が設けられている。また、シートカウル34の内側には、車体フレーム2に搭載されたエンジン(不図示)が収容されている。
車体後部の下側には、スイングアームとして機能する変速機ケース18が上下方向に揺動可能に連結されている。車体フレーム2及び変速機ケース18間には、後輪緩衝用のサスペンション(不図示)が取り付けられている。変速機ケース18の内側には、エンジン側のドライブプーリと後輪17側のドリブンプーリとにドライブベルトを掛け渡したベルト式無段変速機が収容されている。この変速機は、ドライブベルトの巻き掛け半径を可変することで変速される。後輪17は、ドライブベルトを介してエンジンからの動力が伝達されることで回転駆動される。
エンジンは、シリンダを前方に向けて略水平方向に倒した状態で車体フレーム2に懸架される。エンジンには、インテークパイプ(不図示)を介して空気が取り込まれ、燃料噴射装置にて空気と燃料とが混合されて燃焼室に供給される。燃焼室内での燃焼後の排気ガスは、エンジンの下方に延出されたエキゾーストパイプ15を経てマフラ16から排気される。エンジン各部からの熱は、車体前側のフロントカウル31の内側に配置されたラジエータ(不図示)により冷却される。
次に、図2を参照して第1の実施の形態に係るシート14周辺の構成について説明する。図2は、第1の実施の形態に係る自動二輪車1のシート14周辺の断面図である。なお、図2においては、本発明に係るシート14の構成例を示すものであり、その構成についてはこれに限定されるものではない。また、図2においては、説明の便宜上、実線によりシート14の閉状態を示し、二点鎖線によりシート14の開状態を示している。以下の説明において、シート14の閉状態とは、シート14が車体上方で閉じた状態をいう。シート14の開状態とは、シート14が回転限界まで開かれた状態をいう。
図2に示すように、シート14は自動二輪車の前後方向に延びる車体フレーム2の上方に設けられる。シート14は、車体フレーム2に沿って延びており、シート14の略前半部がライダーシート141、略後半部がピリオンシート142となっている。ライダーシート141の下方には、ラゲッジボックス21が設けられている。ラゲッジボックス21は、上方が開口された箱形状を有している。ラゲッジボックス21の開口は、通常、シート14によって閉じられた状態となっている。また、車体フレーム2の後下方には、上述したリヤフェンダ―343が設けられている。そして、シート14下方のラゲッジボックス21及び車体フレーム2を覆うように、上述したセンターコンソール35やシートカウル34等のカバーが設けられる。
シート14は、一端部が開閉自在であると共に、他端部を回転支点として回転自在に車体に支持されている。より具体的には、シート14は、前端部近傍の一部を回転支点として、後端部が車体前方側に開閉自在に車体に支持されている。シート14の後端部近傍であって、その下面には、シート14の閉状態を保持するシートロック機構22が設けられている。
シート14は、シートヒンジ23を介して車体側に連結されている。このシートヒンジ23は、シート14の前端部近傍の下面に設けられている。シートヒンジ23の一部品(後述するシート側ヒンジ部24)は、シート14に一体に設けられているため、シート14の一部とみなすこともできる。第1の実施の形態においては、シート14に一体に設けられたシートヒンジ23の一部品の一部を回転支点として、シート14が回転自在に車体に連結されている。ここで、シートヒンジ23の構成について、図3を参照して詳細に説明する。図3は、第1の実施の形態に係る自動二輪車1のシートヒンジ23周辺の拡大図である。
図3に示すように、第1の実施の形態において、シートヒンジ23は、シート側ヒンジ部24と、車体側ヒンジ部25と、ヒンジピン26とを含んで構成される。これらのシート側ヒンジ部24、車体側ヒンジ部25及びヒンジピン26は、例えば、金属材料で構成される。シート側ヒンジ部24は、シート14の前端部近傍の下面において、シート14本体に固定されている。シート側ヒンジ部24の一部は、シート14の下面から下方に向かって突出している。車体側ヒンジ部25は、例えば、ラゲッジボックス21(図2参照)の前壁部と一体化して設けられている。車体側ヒンジ部25の一部は、ラゲッジボックス21の前面から車体前方に向かって突出した形状を有している。ヒンジピン26は、シート14の下面から突出したシート側ヒンジ部24の一部に設けられている。ヒンジピン26は、シート側ヒンジ部24の下端部近傍において、車幅方向に延在している。ヒンジピン26は、シート側ヒンジ部24と車体側ヒンジ部25とを回転可能に連結する役割を果たす。
車体側ヒンジ部25の上面には、ヒンジピン26が収容されると共にヒンジピン26をスライド可能に支持するガイド部270が形成されている。シート側ヒンジ部24の下端部近傍に設けられたヒンジピン26は、ガイド部270内に収容される。そして、車体側ヒンジ部25の上面から板状の蓋部材28でガイド部270を塞ぐことによって、ヒンジピン26を介してシート14が車体側に支持固定される。また、車体側ヒンジ部25の前端部分は、規制壁251を構成する。規制壁251は、一定条件下において、後述するシート14の突起部143と当接する。規制壁251は、開状態のシート14における閉方向への回転を規制する規制部として機能する。
ガイド部270は、上方が開口された断面視略L字形状の溝によって構成される。ガイド部270は、車体の後端側から前方側に向かって延びる第1ガイド部271と、第1ガイド部271の先端部(前端部)から下方に延びる第2ガイド部272とによって形成される。第1ガイド部271の後端には、シート14の閉状態におけるヒンジピン26を収容する第1軸収容部273が形成されている。第1軸収容部273は、下方に窪んだ略半円形状を有している。また、第2ガイド部272の下端には、シート14の開状態におけるヒンジピン26を収容する第2軸収容部274が形成されている。第2軸収容部274は、下方に窪んだ略半円形状を有している。このとき、第2軸収容部274は第1軸収容部273よりも下方に配置されている。このように、ガイド部270の一部を活用して第1軸収容部273及び第2軸収容部274が形成されることから、複雑な構成を必要とすることなく、ガイド部270を形成することができる。なお、第1軸収容部273と第2軸収容部274とは、それぞれ、第1収容部と第2収容部とを構成する。
また、シート14の前端側において、シート14の内面には、下方に向かって突出する突起部143が形成されている。突起部143は、シート14の閉状態において、車体側ヒンジ部25の上方側(より具体的には、ガイド部270よりも後方側の一部の上方側)に位置する。一方、突起部143は、シート14の開状態において、車体側ヒンジ部25の前方側(より具体的には、規制壁251の前方側)に位置する(図5C参照)。この突起部143は、シート14が開状態の場合にシート14に閉方向(すなわち、シート14を後方側に倒す方向)の外力が働いても、シート14が不意に閉じるのを防止するストッパの役割を果たす。
このように構成された自動二輪車1では、シート14の開放動作の際に、シート14(ヒンジピン26)をガイド部270に沿って前方にスライドさせながらシート14を開くことができる。これによって、シート14の開放動作の終了時には十分に間口を確保することができ、利便性が向上される。
次に、図4及び図5を参照して、シート14の開閉動作について説明する。図4及び図5は、第1の実施の形態に係るシート14の開閉動作の説明図である。図4及び図5においては、説明の便宜上、シートヒンジ23周辺の構成のみを示している。
図4Aに示すように、シート14の閉状態においては、ヒンジピン26は、第1軸収容部273に収容されている。まずシート14の後端部のシートロック機構22(図2参照)を解除する。そして、この状態から、シート14の後端部を上方に持ち上げると、シート14は第1軸収容部273に収容されたヒンジピン26を支点として回転する。そして、図4Bに示すように、シート14が所定角度だけ回転された状態となる。この所定角度を維持した状態で、次に、シート14を若干上方に持ち上げながら車体前方に向かってスライドさせる。このとき、ヒンジピン26は、第1ガイド部271に沿って車体前方に向かってスライドされる。そして、図4Cに示すように、ヒンジピン26が第1ガイド部271の先端まで移動された状態となる。この状態から、シート14の後端部をさらに上方に持ち上げると、シート14は、第1ガイド部271の先端に位置するヒンジピン26を支点として回転する。
そして、図5Aに示すように、シート14が略90度開いた状態となる。次に、シート14を下方に移動させる。すると、ヒンジピン26は第2ガイド部272に沿って下方に移動される。このとき、第2ガイド部272が下方に延びた形状を有していることから、シート14を移動させるのにシート14の自重を利用することができる。このため、シート14を車体外側に平行移動させる場合や車体上方側に移動させる場合と比べて、操作者の負担を軽減することができる。この結果、シート14の開放動作に要する操作性を向上することが可能となる。
シート14が下方に移動されると、ヒンジピン26が、第2軸収容部274に収容され、図5Bに示す状態となる。図5Bの状態では、シート14の前端部とラゲッジボックス21(図2参照)を覆うセンターコンソール35との間に十分な隙間が確保されている。このため、シート14をさらに回転させることができる。そして、図5Cのように、シート14が回転限界位置まで回転されることで、シート14が開き切った状態、すなわち開状態となる。なお、回転限界位置は、シート14とセンターコンソール35とが干渉する位置としてもよい。また、シート14の開方向の回転を規制する部品を別途設けてもよい。以上のように、シート14の開き角度を十分に確保することができるため、シート14下方のラゲッジボックス21へのアクセスが容易になる。
このとき、シート14の突起部143は、車体側ヒンジ部25の規制壁251に対向する位置であって、ヒンジピン26より上方かつ規制壁251の上端部よりも下方に位置付けられている。この場合、シート14に閉方向の外力が働いてシート14が閉方向に回転しても、突起部143が規制壁251の前面に当接される。これによって、シート14の閉方向の回転が規制される。このように、規制壁251の前面は突起部143が当接される当接部となっている。以上により、突起部143及び規制壁251によってシート14の回転が規制されることで、シート14の開状態を保持することができる。よって、シート14が不意に閉まることを防止することができる。また、図5Cの状態においては、シート14の重心がヒンジピン26よりも車体前方に位置しているため、シート14の重力はシート14の開方向に向かっている。このため、シート14が自重によって閉まる方向に回転することを抑制することができる。
シート14を開状態から閉状態に戻す場合には、図5Cに示す状態から上方に引き上げ、図5Aの状態にする。図5Aの状態においては、突起部143が規制壁251の上端よりも上方に位置付けられている。よって、シート14を閉方向に回転させても突起部143が規制壁251の前面(当接部)に当接することがない。このため、シート14を回転させながら後方に移動させることによって、ヒンジピン26が第1軸収容部273に収容される(図4B参照)。そして、シート14の後端部側のシートロック機構22(図2参照)により、シート14を車体フレーム2側にロックさせることで、シート14が閉状態となる(図4A参照)。以上の動作を経て、シート14の開閉操作が行われる。
次に、図6を参照して、比較例に係るシートヒンジ構造を用いたシート7の開放動作について説明する。図6は、比較例に係るシートヒンジ構造を用いたシート7の開放動作の説明図である。図6Aにおいては、シート7の閉状態を示し、図6Bにおいては、シート7の開状態を示している。なお、比較例に係るシートヒンジ8においては、シート7の一端に設けられたヒンジピン83が車体の前後方向にスライドしない点で第1の実施の形態に係るシートヒンジ23と異なる。以下の説明においては、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
図6に示すように、比較例に係るシート7は、シートヒンジ8を介して車体側に連結されている。シートヒンジ8は、シート側ヒンジ部81と、車体側に設けられる車体側ヒンジ部82と、シート側ヒンジ部81と車体側ヒンジ部82とを回転可能に連結するヒンジピン83とを含んで構成される。車体側ヒンジ部82は、ラゲッジボックス84の前面から車体前方に向かって突出した形状を有している。車体側ヒンジ部82の上面には、ヒンジピン83を収容する軸収容部85が形成されている。軸収容部85はヒンジピン83に対応した形状を有しており、ヒンジピン83は軸収容部85内に収容される。そして、その軸収容部85を板状の蓋部材86で塞ぐことによって、ヒンジピン83を介してシート7が車体側に支持固定される。上述したように、第1の実施の形態においては、ヒンジピン26が車体側ヒンジ部25内でスライド可能であるのに対し、比較例においては、ヒンジピン83がスライドすることはない。よって、比較例に係るシート7は、ヒンジピン83(軸収容部85)を支点として回転移動のみ可能となっている。
比較例においては、図6Aに示すように、シート7の閉状態からシート7の他端部(後端部)を上方に持ち上げると、シート7は、ヒンジピン83(軸収容部85)を支点に回転する。そして、図6Bに示すように、シート7の突起部71が車体側ヒンジ部82の先端部(前端部)上面に当接する位置で、シート7の回転移動が規制される。この状態が比較例におけるシート7の開状態を示す。このように、比較例においては、突起部71によってシート7の開方向の回転移動が規制されるため、シート7は略90度しか開かない。仮に、シート7を90度以上に開放しようとすると、シート7の前端部とラゲッジボックス84の前方側の車体外装カバーとが干渉してしまい、シート7や外装カバーの破損等の不具合が生じ得る。また、突起部71によってシート7の開方向の回転移動が規制されるものの、シート7の開状態が保持されるわけではない。このため、シート7に閉方向の外力が作用した場合、シート7が不意に閉じてしまう事態が生じ得る。
これに対し、図3から図5に示す第1の実施の形態に係るシートヒンジ構造は、シート14の開放動作に伴ってヒンジピン26を車体側ヒンジ部25のガイド部270に沿って車体前方側(車体外側)にスライド可能にしている。これにより、開状態とした場合のシート14の他端部(前端部)と車体外装カバー等(センターコンソール35)との距離を確保できる。このため、シート14と車体外装カバーとの干渉を回避できる範囲を拡大できる。これにより、シート14の開き角度を拡張できる。この結果、シート14の開き角度を十分に確保し、シート14下方のスペースへのアクセスを容易にすることが可能となる。
以上のように、第1の実施の形態においては、ガイド部270が側面視にて略L字形状を有する場合について説明している。しかしながら、ガイド部270の形状については、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、ガイド部270の形状については、図7に示すような形状を採用することも可能である。図7は、第1の実施の形態に係るガイド部270の変形例の説明図である。なお、図7においては、説明の便宜上、変形例に係るガイド部270の説明に第1の実施の形態と同一の符号を付与している。
例えば、図7Aに示すように、ガイド部270は、第1軸収容部273から前下方に延びる第1ガイド部271と、第1ガイド部271の先端から下方に延びる第2ガイド部272とによって形成され、第2ガイド部272の下端を第2軸収容部274としてもよい。また、図7Bに示すように、ガイド部270は、第1軸収容部273から前方に延びる第1ガイド部271と、第1ガイド部271の先端から前下方に延びる第2ガイド部272とによって形成され、第2ガイド部272の下端を第2軸収容部274としてもよい。これらの変形例においては、第1の実施の形態と同様に、シート14の開き角度を十分に確保することができる。また、これらの場合には、第1軸収容部273が第2軸収容部274よりも上方側に配置されることから、シート14の自重を利用することにより操作者の負担を軽減でき、シート14の開放動作に要する操作性を向上することが可能となる。
さらに、図7Cに示すように、ガイド部270を、車体の前後に延びる直線形状とし、その後端を第1軸収容部273、前端を第2軸収容部274としてもよい。すなわち、本発明に係るシートヒンジ構造においては、ガイド部270を車体の前後方向に延在させ、ヒンジピン26を車体の前後方向にのみスライド可能とする内容を含む。ガイド部270を単純な直線形状とする場合においても、第1の実施の形態と同様に、ヒンジピン26をシート14の前後方向にスライドすることができ、シート14の開き角度を十分に確保することができる。
次に、第2の実施の形態に係るシートヒンジ構造について説明する。第1の実施の形態においては、シート側ヒンジ部24がヒンジピン26によって直に車体側ヒンジ部25に連結される。これに対し、第2の実施の形態においては、シート側ヒンジ部がガイド部材を介して車体側ヒンジ部に連結される点において相違する。以下の説明においては、第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
図8は、第2の実施の形態に係るシートヒンジ構造を説明するための模式図である。特に、図8においては、第2の実施の形態に係るシートヒンジ構造を用いたシートの開放動作を示している。なお、図8においては、説明の便宜上、第1の実施の形態に係るシート14及びシートヒンジ23と同等の機能を有する構成について、第1の実施の形態と先頭数字のみ異なる符号を付し、その詳細な説明を省略する。図8Aにおいては、第2の実施の形態に係るシートヒンジ63を用いたシート54の閉状態を示している。また、図8B及び図8Cにおいては、シート54の閉状態から開状態への遷移の様子を示し、図8Dにおいては、シート54の開状態を示している。
図8Aに示すように、第2の実施の形態に係るシートヒンジ構造においては、シートヒンジ63は、シート54の他端部(前端部)側に設けられるシート側ヒンジ部64と、車体側に設けられる車体側ヒンジ部65と、シート側ヒンジ部64に設けられるヒンジピン66と、シート側ヒンジ部64と車体側ヒンジ部65とを連結するガイド部材67とを含んで構成される。
シート側ヒンジ部64は、シート54の前端部側の内面544から下方に突出した形状を有している。ヒンジピン66は、シート側ヒンジ部64の先端部(下端部)近傍にて、シート側ヒンジ部64と一体的に設けられている。ヒンジピン66は、車幅方向に延在して設けられている。車体側ヒンジ部65は、例えば、車体フレーム(不図示)に一体に設けられるが、これに限定されない。第1の実施の形態と同様に、ラゲッジボックス21の前壁部に一体に設けられてもよい。車体側ヒンジ部65の前方側であって、上端部近傍には、固定軸652が設けられている。この固定軸652は、ガイド部材67を揺動可能に支持する役割を果たす。また、車体側ヒンジ部65は、ガイド部材67と連結される部分の下方に、ガイド部材67の回転を規制する規制片653が形成されている。
ガイド部材67は、例えば、金属製の板状部材により構成され、側面視にて、概して矩形状に形成されている。ガイド部材67の略中央であって、下端部近傍には、連結孔676が形成されている。この連結孔676で車体側ヒンジ部65の固定軸652を収容することにより、ガイド部材67が車体側ヒンジ部65に対して揺動自在に支持される。ガイド部材67は、シート54の閉状態において後端側が下がるように配置される一方、開状態において前端側が下がるように配置される(図8A、図8D参照)。
また、ガイド部材67には、ヒンジピン66が収容されると共にヒンジピン66をスライド可能に支持するガイド部670が形成されている。ガイド部670は、側面視にて、略L字形状を有する溝によって構成される。ガイド部670は、長手方向に延びる第1ガイド部671と、第1ガイド部671の先端から短手方向に延びる第2ガイド部672とによって形成される。第1ガイド部671は、ガイド部材67の長手方向と略平行に形成される。このため、第1ガイド部671は、シート54の閉状態においては後方側が下がるように配置される一方、開状態において前方側が下がるように配置される(図8A、図8D参照)。
第1ガイド部671の後端部は、シート54の閉状態におけるヒンジピン66を収容する第1軸収容部673を構成する。一方、第2ガイド部672の先端部(第1ガイド部671と連結していない側の端部)は、シート54の開状態におけるヒンジピン66を収容する第2軸収容部674を構成する。ヒンジピン66は、このガイド部670内に収容され、ガイド部670に沿ってスライド可能となっている。第2の実施の形態に係るシートヒンジ63においては、ガイド部材67が固定軸652によって車体側ヒンジ部65に連結されると共に、ヒンジピン66がガイド部670に支持されることによって、シート側ヒンジ部64(シート54)が車体側ヒンジ部65に連結される。
また、ガイド部材67において、前端側の上端面は、シート54の閉状態において、略水平になるように、斜めに切り欠かれている。この切り欠かれた部分は、一定条件下において、シート54の内面544に当接する当接部675を構成している。ガイド部材67には、シート54の内面544が当接部675に当接することによって回転力が与えられる。また、シート54の内面544であって、シート側ヒンジ部64の後方には、下方に突出する突起部543が形成されている。詳細は後述するが、この突起部543は、シート54の開状態におけるシート54の閉方向側(後方側)への回転を規制するストッパの役割を果たす(図8D参照)。
このように構成される第2の実施の形態に係るシートヒンジ構造において、図8Aに示すシート54の閉状態においては、ガイド部材67は、第1ガイド部671の後端側が下がった状態(すなわち、第1ガイド部671が後下方に傾斜した状態)となっている。このような状態の第1ガイド部671において、ヒンジピン66は、第1軸収容部673に収容された状態となっている。一方、第2軸収容部674は、第1軸収容部673よりも上方側に位置付けられた状態となっている。このため、第1軸収容部673からヒンジピン66を脱落し難くできる。この結果、シート54の閉状態を保持することが可能となる。
また、ガイド部材67の当接部675がシート54の内面544に対向した状態となっている。シート54を開く際には、まず、シート54の一端部(後端部)側を上方に持ち上げる。すると、シート54の他端部(前端部)側の内面544がガイド部材67の当接部675に当接する。そして、シート54とガイド部材67とが、一体となって車体側ヒンジ部65の固定軸652を支点に回転する。このように、ガイド部材67には、シート54の内面544が当接することによってシート54の開き方向に回転力が与えられる。
シート54とガイド部材67とが一体となって所定角度回転すると、図8Bに示すように、第1ガイド部671の前端側が下がった状態(すなわち、第1ガイド部671が前下方に傾斜した状態)となる。そして、第1軸収容部673と第2軸収容部674との上下の位置関係が逆転する。すなわち、第1軸収容部673が第2軸収容部674よりも上方側に位置付けられる。この状態から、ヒンジピン66を第1ガイド部671に沿ってスライドさせることにより、シート54を前方に移動させることができる。このとき、第1ガイド部671が前下方に傾斜した状態となっているため、シート54を前方にスライドさせる際に、シート54の自重を利用することができる。
そして、図8Cに示すように、ヒンジピン66が第1ガイド部671の先端(前端)までスライドされた状態となる。このとき、車体側ヒンジ部65の前方には、十分なスペースが確保されているため、シート54をさらに回転させることができる。ガイド部材67の下端面が規制片653に当接すると、ガイド部材67の回転が規制される。そして、ヒンジピン66を第2ガイド部672に沿って下方にスライドさせながらシート54をさらに回転させると、図8Dに示すように、シート54の開状態となる。以上のようにして、シート54の開放動作が行われる。
図8Dに示す状態においては、シート54の突起部543が、ガイド部材67の当接部675に対向した状態となっている。また、突起部543は、支持部276よりも下方に位置付けられている。このため、シート54に閉方向の外力が働いてシート54が閉方向に回転しても、突起部543が当接部675に当接されることによってシート54の閉方向の回転が規制される。よって、シート54の開状態を保持することができ、シート54が不意に閉じることを防止することができる。このように、当接部675は、シート54の閉方向の回転を規制する規制部の役割を果たす。また、このとき、第1軸収容部673が、第2軸収容部674よりも上方に位置付けられている。このため、第2軸収容部674からヒンジピン66が脱落し難くなる。この結果、シート54の開状態を安定的に保持することが可能となる。
以上のように、第2の実施の形態に係るシートヒンジ構造においても、シート54を車体前方にスライドさせることによって、シート54の開き角度を十分に確保することができる。また、シートの内面544と当接する当接部675によってシート54の回転を規制する機能を実現できる。このため、複雑な構成を必要とすることなくシート54の開状態を保持することが可能となる。
特に、第2の実施の形態に係るシートヒンジ構造においては、ガイド部670をガイド部材67に設けたことにより、シート54の回転支点を構成するヒンジピン66をガイドするガイド部670自体を揺動可能に構成できる。これにより、ヒンジピン66の位置や操作者から入力される力に追随してガイド部670を揺動させることができる。この結果、シート54の開放動作をスムーズに行うことができ、シート54の開放動作に要する操作性を向上することが可能となる。
なお、本発明は上記各実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
例えば、上記実施の形態においては、前端部側を回転支点として、後端部側を開閉自在に構成したシート14、54を備える場合について説明している。しかしながら、本発明に係るシートヒンジ構造が適用されるシート14、54の構成については、これに限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、後端部側を回転支点として、前端部側を開閉自在に構成する形態や、一方の側端部側(例えば、右方側端部側)を回転支点として、他方の側端部(例えば、左方側端部側)を開閉自在に構成する形態のシート14、54に適用することも可能である。
また、上記実施の形態において、シートヒンジ構造は自動二輪車1に適用される場合について説明している。しかしながら、本発明に係るシートヒンジ構造が適用される車両については、自動二輪車1に限定されるものではなく適宜変更が可能である。シートを開閉可能とする鞍乗型車両であれば任意の車両に適用することが可能である。例えば、自動三輪車や自動四輪車などの鞍乗型車両に適用することが可能である。
また、第1の実施の形態において、規制壁251に当接する突起部143がシート14に設けられる場合について説明している。しかしながら、突起部143が設けられる構成については、シート14に限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、シート側ヒンジ部24の一部に設けるようにしてもよい。
さらに、第2の実施の形態においては、突起部543と当接する当接部675がガイド部材67に設けられる場合について説明している。しかしながら、当接部675が設けられる構成については、ガイド部材67に限定されるものではなく適宜変更が可能である。例えば、当接部675は、車体側ヒンジ部65に設けるようにしてもよい。このように車体側ヒンジ部65に当接部675の機能を備えることによっても、シート54の回転を規制するために特別な部材等を用意する必要がない。このため、シートヒンジ63の部品点数を低減すると共に、製造コストを低減することが可能となる。