本発明では、音響波を受信するモードでは、プルイン電圧より小さい電圧を受信バイアスとして素子に印加する。そして、前記素子が音響波を送信するモードでは、前記素子に前記受信バイアスより小さい電圧を送信バイアスとして印加する。
以下に、本発明の実施の形態について図を用いて説明する。図1は、本発明の静電容量型トランスデューサの一例の示す図であり、図1(a)は上面図、図1(b)は、図1(a)のA−B断面図である。本実施形態では、静電容量型トランスデューサ1が、間隙を隔てて形成された一対のうち一方の電極を含む振動膜が振動可能に支持された構造のセル2を有する素子3(エレメント)を複数個備える。図1(a)では、3つの素子3のみ記載しているが、素子数はいくつでも構わない。また、各素子3は、セル2が44個から構成されているが、個数はいくつであっても構わない。また、セル2の配列は格子状の配置でも千鳥配置でもどのような配列でも構わない。さらに、素子3の大まかな外形は図1(a)に記載のような長方形でも、正方形や六角形などでも構わない。
図1(b)に示す様に、セル2は、基板4、基板4上に形成される第一の絶縁膜5、第一の絶縁膜5上に形成される第一の電極6、第一の電極6上の第二の絶縁膜7を有する。さらに、第二の電極10とメンブレン9とを含む振動膜11と、振動膜11を支持する振動膜支持部12と、間隙(キャビティ)8を有している。基板4がガラス基板などの絶縁性基板の場合、第一の絶縁膜5はなくてもよい。間隙8を上面からみた形状は円形であり、振動する部分の形状は円形であるが、正方形、長方形等の形状でも構わない。また、セル2の第一の電極6と第二の電極10との間にバイアス電圧を印加する電圧印加手段13と、第二の電極10に送信駆動電圧を印加する電圧印加手段14を有している。
振動膜11のメンブレン9は絶縁膜である。特に、窒化シリコン膜は、低い引張り応力、例えば、300MPa以下の引張り応力で形成する事が出来るので、窒化シリコン膜の残留応力により振動膜の大きな変形を防止することができて望ましい。振動膜11のメンブレン9は絶縁膜でなくとも構わない。例えば、1Ωcm以下の低抵抗シリコン単結晶をメンブレン9として用いることもできる。その場合、メンブレンを第二の電極として用いることもできる。
本実施形態の静電容量型トランスデューサでは、第一の電圧印加手段13が第一の電極6にバイアス電圧を印加する事が出来る。なお、第二の電極10はグランド電位に固定された状態とする。本発明においてグランド電位とは、必ずしも0Vに限らず、送受信回路が有する基準電位を示す。第一の電極6にバイアス電圧が印加されると、第一の電極6と第二の電極10との間に電位差が生じる。この電位差により、振動膜の復元力と静電引力が釣り合うところまで振動膜11は変位する。この状態で音響波が振動膜11に到達すると、振動膜11が振動する事で第一の電極6と第二の電極10の間の静電容量が変化して第二の電極10に電流が流れる。この電流は音響波の強度に対応する電気信号であり、この電流が、第二の電極10につながっている第二の電極パッド41を介して出力される。また、第一の電圧印加手段13が第一の電極6にバイアス電圧を印加した状態で、第二の電圧印加手段14が第二の電極10に送信駆動電圧を印加する(つまりバイアス電圧に送信駆動電圧を重畳する)ことにより、音響波が送信される。送信駆動電圧は、所望の音響波を送信できる波形であればどのような波形でも良い。単極パルスや双極パルス、バースト波や連続波など、所望の波形を用いればよい。
ここで、「プルイン」について説明する。例えば1つのセルに注目した場合、第一の電極6へ印加する電圧が増大すると、振動膜11の復元力と静電引力が釣り合い、振動膜11が間隙8の下面の絶縁膜7に接触するに至る。このように、振動膜11が下側に接触することをプルインと呼び、このプルインする際の電圧をプルイン電圧という。バイアス電圧が高いほど、第一の電極6と第二の電極10との距離は近づくため、受信した音響波を電気信号に変換する、あるいは電気信号を音響波に変換する変換効率は高くなる。しかし、プルイン電圧以上のバイアス電圧が電極間に印加され、振動膜が間隙下面に接触すると、セルが有する周波数特性が大きく変化して、検出できる音響波の受信感度も大きく変化する。また、送信できる音響波の強度や周波数特性も大きく変化する。つまり、素子単位で考えた場合、駆動対象の素子群内に、プルイン電圧以上の電圧が印加された素子3と、されない素子3とが混在する場合、受信感度などのばらつきが大きくなる。
本実施形態では、複数の素子のうち少なくとも一部の素子群が音響波を受信するモードでは、前記素子群内の各素子のプルイン電圧のうちの最小のプルイン電圧よりも小さい電圧を、受信バイアス電圧として前記素子群に印加する。なお、1つの素子に着目した場合、本明細書では、「素子がプルインする」とは、その素子内の全セルがプルインすることを示すものとする。つまり、その素子内の全セルがプルインする電圧をその素子のプルイン電圧とする。素子が複数ある場合、素子毎にプルイン電圧は異なる可能性がある。よって、本実施形態では、素子毎のプルイン電圧のうち最小となるプルイン電圧よりも、受信バイアス電圧を小さくする。これにより、素子群内の全素子が受信駆動の際にプルインしない状態で駆動するため、素子毎の受信感度のばらつきを小さくできて好ましい。また、前記素子群が音響波を送信するモードでは、前記素子群に前記受信バイアス電圧より小さい電圧を送信バイアス電圧として印加する。さらに、送信駆動の際は、送信駆動対象の素子群に対して送信駆動電圧が送信バイアス電圧に重畳される。送信駆動対象の素子は時系列に切り替えることにより、超音波のリニア電子スキャンを行うことができる。なお本実施形態では、送信バイアス電圧と送信駆動電圧の和を、前記最小のプルイン電圧より小さくする事が好ましい。なお、送信駆動電圧は、例えば図2(b)に示す波形の振幅の最大値の事であり、バイアス電圧を増加させる方向の振幅を示す。静電容量型トランスデューサ1を構成する素子で、プルイン電圧以上の電圧が印加された素子3と、されない素子3とが混在する場合、送信音圧のばらつきが大きくなる。本実施形態では、上記の如く、素子群において、送信駆動の際にプルインしない状態で駆動する事で素子毎の送信音圧のばらつきを小さくできて好ましい。
本実施形態の静電容量型トランスデューサは、半導体微細加工プロセスにより製造する事が出来る。絶縁膜7やメンブレン9の厚さ、間隙8の高さは、製造時の成膜ばらつきなどによりばらつくことがある。製造時のばらつきにより、第一の電極6と第二の電極10の間の距離がばらつくことになる。また、振動膜11を構成するメンブレン9と第二の電極10の厚さもばらつくため、振動膜11のばね定数もばらつくことになる。第一の電極6と第二の電極10の間の距離がばらついたり、振動膜11のばね定数がばらついたりすると、セル2のプルイン電圧がばらつく為、複数のセル2から構成される素子3のプルイン電圧がばらつく。該製造ばらつきにより生じるプルイン電圧のばらつきを有する素子3を複数個含む静電容量型トランスデューサ1で、素子群に同一のバイアス電圧を印加する場合、該素子群の全ての素子3がプルインしない状態で駆動する。このことで、受信感度のばらつきを小さくする事が出来る。また、バイアス電圧と送信電圧との和について、その素子群の全ての素子3がプルインしない状態にして、駆動を行う事で、送信音圧のばらつきを小さくする事が出来る。音響波の受信感度を高くして鮮明な超音波画像を取得するためには、上記条件の範囲で受信バイアス電圧をできるだけ高くする事が好ましい。
受信のバイアス電圧と送信のバイアス電圧を同一にして駆動する場合は、送信のバイアス電圧も高くなるため、送信駆動電圧が制限される。それ故に、送信できる音響波の強度も制限される。例えば最小のプルイン電圧が100Vであり、受信のバイアス電圧を80Vにした場合、送信のバイアス電圧も80Vとしたとき、送信駆動電圧(すなわち、その絶対値の振幅)は20V未満となる。これと異なって、本実施形態のように送信のバイアス電圧を受信のバイアス電圧より小さくすると、図2(a)に示すように、静電容量型トランスデューサが送信できる音響波の強度を向上する事が出来る。これについて、以下に詳細に述べる。
図2(a)は送信駆動電圧と音響波の強度(送信音圧)特性の一例である。横軸はプルイン電圧に対する送信駆動電圧の比率であり、縦軸は送信音圧の強度比である。系列はプルイン電圧に対する送信のバイアス電圧の比率である。縦軸の送信音圧の強度比は、系列Vdc0.5(プルイン電圧に対する送信バイアス電圧の比率Vdcが0.5の系列(×で示す))で送信駆動電圧/プルイン電圧が0.49の時の送信音圧を1として規格化した値である。各系列の曲線は、プロットした点を最小二乗法で近似した2次の近似曲線である。縦軸の送信音圧は、静電容量型トランスデューサの第一の電極6にバイアス電圧を印加し第二の電極10に送信駆動電圧を印加して音響波を送信した時に、素子3の直上の音響波の時間波形を取得し、取得した時間波形の片側振幅の最大値の事である。
図2(b)に送信駆動電圧の時間波形を示し、図3に素子3の表面の音圧の時間波形を示す。図2(b)、図3ともに横軸は時間(μsec)である。図2(b)の縦軸は最大値で規格化した電圧比であり、送信駆動電圧は矩形の双極パルス波である。矩形のパルス幅は50nsecである。図3の縦軸は最大値で規格化した音圧比である。送信駆動電圧は、図2(b)のような矩形の双極パルス波に限らず、片側の単極のパルス波でも、バースト波でも良く、所望の周波数特性と送信音圧が得られる波形であれば良い。図2(a)は、送信のバイアス電圧と送信駆動電圧の和が上記最小のプルイン電圧の99%以下までの組み合わせで計算した結果を示している。例えばプルイン電圧に対する送信のバイアス電圧の比率Vdcを0.8とし(◆で示す)、送信駆動電圧/プルイン電圧を0.19とすると、送信音圧の強度比は0.7となる。さらに送信駆動電圧を増加して送信音圧の強度を高くしようとすると、送信駆動電圧を増加する分だけ、送信のバイアス電圧を下げる必要がある。例えばプルイン電圧に対する送信のバイアス電圧の比率を0.7とし(■で示す)、送信駆動電圧/プルイン電圧を0.29とすると、送信音圧の強度比は0.86となる。最も強度の高い送信音圧を得るためには、例えばプルイン電圧に対する送信のバイアス電圧の比率を0.5とし(×で示す)、送信駆動電圧/プルイン電圧を0.49で駆動すれば、送信音圧の強度比は1となる。送信のバイアス電圧と送信駆動電圧の和が最小のプルイン電圧の99%以下で駆動する場合において、最大の送信音圧を得るためには、送信駆動電圧/プルイン電圧を0.5未満の範囲内で増加して駆動する事で、さらに大きな送信音圧の強度を得る事が出来る。
例えば、プルイン電圧に対する受信のバイアス電圧の比率を0.8とし、送信のバイアス電圧と受信のバイアス電圧を同一にして送信駆動をする(◆で示す)。この場合、最大の送信駆動電圧の比率は0.19となり、この条件で得られる送信音圧の強度比は最大で0.7までしか達しない。一方、本実施形態のように、プルイン電圧に対して受信のバイアス電圧の比率を0.8とし、送信のバイアス電圧の比率を0.5とする(すなわち受信のバイアス電圧より小さくする)。すると、×で示す線のように最大の送信駆動電圧の比率は0.49となり、得られる送信音圧の強度比は1.0となる。送信のバイアス電圧の比率を0.7とすると(この場合も受信のバイアス電圧より小さくする)、■で示す線のように最大の送信駆動電圧の比率は0.29となり、得られる送信音圧の強度比は0.86である。送信と受信のバイアス電圧を同一にして駆動した時の送信音圧よりも大きな送信音圧が得られる。
つまり、受信のバイアス電圧よりも送信のバイアス電圧を小さくし、送信駆動電圧をプルイン電圧と送信のバイアス電圧の差より小さくする事で、送信と受信のバイアス電圧を同一にして駆動した時の音圧と同等以上の音圧を送信する事が出来る。上記では、プルイン電圧に対する受信のバイアス電圧の比率を0.8として説明したが、1より小さい0.8以外の値でも構わない。
また、送信のバイアス電圧を受信のバイアス電圧より小さい範囲で駆動する場合において、同じ送信音圧の強度を得るには送信のバイアス電圧は低い方が好ましい。例えば、送信音圧の強度比として0.6を得る場合、送信のバイアス電圧を最小のプルイン電圧の0.8とし(◆で示す)、送信駆動電圧/プルイン電圧を0.165とする事で0.6の強度比が得られる。同様にして、送信のバイアス電圧を最小のプルイン電圧の0.5とし(×で示す)、送信駆動電圧/プルイン電圧を0.345とする事で0.6の強度比が得られる。しかし、同じ強度比が得られる点の接線の傾きを比較すると、送信のバイアス電圧が低い方が接線の傾きが小さい。傾きが小さい方が、印加する電圧がばらついた場合に生じる送信音圧の強度比のばらつきが小さい事を示しており、傾きが小さい駆動条件で駆動する事が好ましい。
印加する電圧がばらつくとは、第一の電極6に印加したバイアス電圧の実効的な電界強度がばらつく事を意味する。つまり、静電容量型トランスデューサ1を構成する素子3毎にプルイン電圧が異なる場合を考える。この場合、第一の電極6は素子3で共通である為、第一の電極6に共通のバイアス電圧を印加すると、素子3毎に実効的に印加されるバイアス電圧が異なる。さらに、共通の送信駆動電圧を第二の電極10に印加すると、素子3毎に実効的に印加される送信駆動電圧が異なる。送信のバイアス電圧が高い程、実効的に印加されるバイアス電圧と送信駆動電圧の違いによる送信音圧の強度ばらつきへの影響が大きいことから、本実施形態のように送信音圧の強度ばらつきが小さくなる駆動条件で駆動する事が好ましい。図2(a)から明らかなように、送信のバイアス電圧は、最小のプルイン電圧の1/2以下である領域で駆動することが好ましい。
送信駆動電圧を送信のバイアス電圧より小さくする事で振動膜11を正常に振動させる事が出来る。静電容量型トランスデューサは、送信のバイアス電圧以上に、送信駆動電圧の振幅を大きくすると、振動膜11が正常に振動しないことがある。振動膜11の正常な振動とは、バイアス電圧を印加しない初期の状態での振動膜11の位置を、バイアス電圧を印加した時に振動膜11の位置が変化する方向と逆側に超えないで振動する事を意味する。送信駆動電圧が送信のバイアス電圧以上となると、素子3が有する周波数特性が大きく変化する。したがって送信音圧の強度ばらつきが大きくなり、送信音圧の強度比も所望のものが得られなくなる為、送信駆動電圧を送信のバイアス電圧より小さくすることが好ましい。
例えば、送信音圧の強度比0.2を得る場合、送信のバイアス電圧を最小のプルイン電圧の0.3倍とし(図2(a)において、●で示す)、送信駆動電圧/プルイン電圧を0.24とする事が好ましい。送信のバイアス電圧と送信駆動電圧の組み合わせは、所望の送信音圧の強度比が得られ、振動膜11が正常に振動し、所望の送信音圧の強度が得られる点を含む近似曲線の傾きが小さい条件に設定する事が好ましい。
次に、図4(a)に駆動装置の一例を示す。超音波診断装置などの装置は、システム制御部16、バイアス電圧制御部17、送信駆動電圧制御部18、送受信回路19、超音波プローブ20、画像処理部21、表示部22などで構成される。駆動装置は、バイアス電圧制御部17、送信駆動電圧制御部18などを備える。超音波プローブ20は、被検体へ音響波を送信し、被検体から反射した音響波を受信する静電容量型トランスデューサ1を含む送受信プローブである。送受信回路19は、外部から供給されたバイアス電圧や駆動電圧を超音波プローブ20に供給したり、超音波プローブ20が受信した音響波を処理して画像処理部21へ出力したりする回路である。バイアス電圧制御部17は、超音波プローブ20へバイアス電圧を供給する為に送受信回路19へバイアス電圧を供給している。バイアス電圧制御部17は、図示しない電源とスイッチから構成され、システム制御部16から指示されたタイミングで、送信のバイアス電圧と受信のバイアス電圧をスイッチで切り替えて送受信回路19へ供給する。送信駆動電圧制御部18は、超音波プローブ20へ送信駆動電圧を供給する為に送受信回路19へ送信駆動電圧を供給する。システム制御部16から指示されたタイミングで、所望の周波数特性と送信音圧の強度が得られる波形を、送受信回路19へ供給する。画像処理部21は、送受信回路19から出力された信号を用いて画像変換(例えばBモード画像、Mモード画像など)を行い、表示部22へ出力する。表示部22は、画像処理部21から出力される画像信号を表示する表示装置である。画像表示部22は、駆動装置などとは別体の構成にすることもできる。システム制御部16は、バイアス電圧制御部17、送信駆動電圧18、画像処理部21などを制御する回路である。
図4(b)に送受信回路の一例を示す。送受信回路26は、送信部23と受信プリアンプ24とスイッチ部25から構成される。送信駆動時には、図4(a)のシステム制御部16から指示された送信のバイアス電圧に従い、バイアス電圧制御部17から印加されたバイアス電圧を超音波プローブ20に印加する。同様にシステム制御部16から指示された送信駆動電圧に従い、送信駆動電圧制御部18から印加された電圧を送信部23を介して超音波プローブ20に印加する。送信駆動電圧が印加されると、スイッチ部25は開いた状態となり、受信プリアンプ24には信号が流れないようになる。送信駆動電圧が印加されない状態では、スイッチ部25は閉じた状態であり、受信の状態となる。スイッチ部25は、図示しないダイオードなどで構成されており、受信プリアンプ24が破壊されないようにする保護回路の役目を果たす。超音波プローブ20から音響波が送信され、被検体で反射された音響波が超音波プローブ20に戻ってくると、超音波プローブ20は音響波を受信する。受信駆動時には、図4(a)のシステム制御部16から指示された受信のバイアス電圧に従い、バイアス電圧制御部17から印加されたバイアス電圧を超音波プローブ20に印加する。スイッチ部25は閉じた状態であるため、受信信号は受信プリアンプ24で増幅され、画像処理部21に送られる。
図5に被検体情報取得装置である超音波プローブの一例を示す。図5は超音波プローブの斜視図である。超音波プローブ27は、静電容量型トランスデューサ1と音響マッチング層28と音響レンズ29と回路基板30から構成される。図8の静電容量型トランスデューサ1は図1の静電容量型トランスデューサ1と同様な構成であり、図5に示すように素子3が1次元アレイの如くX方向に多数個並んでいる。図5では1次元アレイだが、素子3を2次元アレイ状に並べてもよいし、コンベックス型など他の形状としてもよい。静電容量型トランスデューサ1は、回路基板30に実装され、電気的に接続される。回路基板30は、図4(a)に示した送受信回路19と一体となった基板でも良いし、回路基板30を介して図4(a)のような送受信回路19と接続させてもよい。静電容量型トランスデューサ1が音響波を送信する表面側には、被検体と音響インピーダンスの整合を取る為に、音響マッチング層28を設けている。音響マッチング層28は、被検体への漏電を防止する為の保護膜として設けてもよい。音響マッチング層28を介して音響レンズ29が配置されている。音響レンズ29は、被検体と音響マッチング層28との間で、音響インピーダンスの整合が取れる物を用いるのが好ましい。図5のようなY方向に曲率を持つ音響レンズ29を設けると、Y方向に広がる音響波を音響レンズの焦点位置で絞る事が出来る。X方向に広がる音響波はそのままでは絞る事が出来ない為、素子3(素子群)毎に音響波を送信するタイミングをずらしてビームフォーミングで送信駆動する事で、焦点位置で音響波を絞る事が出来る。音響レンズ29の形状は、所望の音響波の分布特性が得られる形状にするのが好ましい。また、用いる被検体の種類に応じて、音響マッチング層28や音響レンズ29の種類や形状を選択すれば良いし、設けなくてもよい。超音波プローブ27へのバイアス電圧と送信駆動電圧の供給や、被検体から反射した音響波を受信して得られる被検体の情報を含む受信信号は、図示しないケーブルを介して送受信回路19または画像処理部21へ伝送される。
図6を用いて本実施形態の静電容量型トランスデューサの製造方法の一例を示す。図6は、図1(a)のA−B断面図である。図6(a)に示すように、基板31上に第一の絶縁膜32を形成する。基板31はシリコン基板であり、第一の絶縁膜32は第一の電極との絶縁を形成するためのものである。基板31がガラス基板のような絶縁性基板の場合、第一の絶縁膜32は形成しなくともよい。また、基板31は、表面粗さの小さな基板が望ましい。表面粗さが大きい場合、本工程の後工程での成膜工程でも、表面粗さが転写されていくとともに、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間でばらついてしまう。このばらつきは、変換効率のばらつきとなるため、感度、帯域ばらつきとなる。従って、基板31は、表面粗さの小さな基板が望ましい。さらに、第一の電極33を形成する。第一の電極33は、表面粗さが小さい導電材料が望ましく、例えば、チタン、アルミニウム等である。基板と同様に、第一の電極の表面粗さが大きい場合、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間、各素子間でばらついてしまうため、表面粗さが小さい導電材料が望ましい。
次に、第二の絶縁膜34を形成する。第二の絶縁膜34は、表面粗さが小さい絶縁材料が望ましく、第一の電極と第二の電極との間に電圧が印加された場合の第一の電極と第二の電極間の電気的短絡あるいは絶縁破壊を防止するために形成する。低電圧で駆動する場合は、後述のメンブレンが絶縁体であるため、第二の絶縁膜34を形成しなくともよい。さらに、本工程の後工程で実施する犠牲層除去時に第一の電極がエッチングされることを防止するために形成する。犠牲層除去時のエッチング液、エッチングガスにより、第一の電極がエッチングされない場合は、第二の絶縁膜34を形成しなくともよい。基板と同様に、第二の絶縁膜34の表面粗さが大きい場合、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が、各セル間でばらついてしまうため、表面粗さが小さい絶縁膜が望ましい。例えば、窒化シリコン膜、シリコン酸化膜等である。
次に、図6(b)に示すように、犠牲層35を形成する。犠牲層35は、表面粗さが小さい材料が望ましい。基板と同様に、犠牲層の表面粗さが大きい場合、表面粗さによる第一の電極と第二の電極間の距離が各セル間でばらついてしまうため、表面粗さが小さい犠牲層が望ましい。また、犠牲層を除去するエッチングの時間を短くするために、エッチング速度の速い材料が望ましい。また、犠牲層を除去するエッチング液あるいはエッチングガスに対して、絶縁膜、メンブレンがほぼエッチングされないような犠牲層材料が求められる。犠牲層を除去するエッチング液あるいはエッチングガスに対して、絶縁膜、メンブレンがエッチングされる場合、振動膜の厚さばらつき、第一の電極と第二の電極との間の距離ばらつきが発生する。振動膜の厚さばらつき、第一の電極と第二の電極との間の距離ばらつきは、各セル間の感度、帯域ばらつきとなる。絶縁膜、メンブレンが窒化シリコン膜、あるいはシリコン酸化膜の場合、表面粗さが小さく、絶縁膜、メンブレンがエッチングされにくいエッチング液あるいはエッチングガスを用いる事が出来る犠牲層材料が望ましい。例えば、アモルファスシリコン、ポリイミド、クロム等である。特に、クロムのエッチング液は、窒化シリコン膜あるいはシリコン酸化膜をほぼエッチングしないので、絶縁膜、メンブレンが窒化シリコン膜あるいはシリコン酸化膜の場合、望ましい。
次に、図6(c)に示すように、メンブレン36を形成する。メンブレン36は、低い引張り応力が望ましい。例えば、500MPa以下の引張り応力がよい。窒化シリコン膜は応力コントロールが可能であり、500MPa以下の低い引張り応力にする事が出来る。メンブレンが圧縮応力を有する場合、メンブレンがスティッキングあるいは座屈を引き起こし、大きく変形する。また、大きな引張り応力の場合、メンブレンが破壊されることがある。従って、メンブレン36は、低い引張り応力が望ましい。例えば、応力コントロールが可能で、低い引張り応力にできる窒化シリコン膜である。
次に、図示しないエッチングホールを形成し、エッチングホールを介して、犠牲層35を除去して、エッチングホールを封止する。例えば、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜で封止する事が出来る。犠牲層除去工程あるいは封止工程は、第二の電極を形成後に行うこともできる。
次に、図6(d)に示すように、第二の電極37を形成する。第二の電極37は、残留応力が小さい材料が望ましく、アルミニウムなどである。犠牲層除去工程あるいは封止工程を第二の電極形成後に行う場合、第二の電極は、犠牲層エッチングに対するエッチング耐性、耐熱性を有する材料が望ましい。例えばチタンなどである。図6(d)では、第二の電極37は、電気的に分離されているが、電気的に繋がっていても良い。図6(e)は、第一の電極33と第二の電極37に、それぞれ、電圧印加手段13と電圧印加手段14が接続された状態を示す。なお、図6(e)では犠牲層35が示されているが、これは最終的には除去されてここに間隙が形成される。
なお、本実施形態において、静電容量型トランスデューサ1を構成する素子3の最小のプルイン電圧は、実際に音響波を送受信するための素子3のプルイン電圧を測定してもよいし、静電容量型トランスデューサの周囲に配置した、プルイン電圧測定用素子(TEG)のプルイン電圧を測定してもよい。ただし、音響波を送受信するための素子でプルイン電圧を測定すると、素子の絶縁膜が帯電して特性のばらつきが生じてしまう為、TEGのプルイン電圧を測定するのが好ましい。プルイン電圧の測定は、バイアス電圧を変化させたときの容量を測定する事で測定する事が出来る。バイアス電圧を増加させていくと、容量も増加していき、或る電圧で容量が変化しなくなる。この電圧がプルイン電圧である。また、バイアス電圧を変化させたときの共振周波数の変化を測定する事でも、プルイン電圧を測定する事が出来る。バイアス電圧を増加させていくと、共振周波数が低下していき、或る電圧で共振周波数が高い周波数へシフトする。この電圧がプルイン電圧である。プルイン電圧は所望の精度が得られる方法で測定すればよく、測定の手法は問わない。
また、上記に示した製造工程において、成膜した各膜の膜厚や誘電率、セルの直径を測定する事で、プルイン電圧を計算で推定することも可能である。プルイン電圧の計算は、有限要素法などで静電容量と振動膜変位の関係を計算して静電容量を変位の多項式近似とし、その一次および二次偏導関数を解く事で計算する事が出来る。膜厚は光干渉法や触針式表面形状測定装置などを用いて測定する事が出来る。誘電率は、上下の電極間に膜を成膜して電極間の容量を測定し、容量と電極面積、上下電極間距離、真空の誘電率から求める事が出来る。セルの直径は、顕微鏡などを用いて光学的に測定をする事が出来る。膜厚を測定する為の膜厚測定素子は、音響波を送受信するための素子の特性を計算で予測する為に、該素子の近傍に配置する事が好ましい。シリコン基板などを用いた半導体微細加工プロセスに用いる成膜装置の成膜ばらつきを把握する為に、必要な数だけ所望の位置に設ければよい。
素子3の最小のプルイン電圧は、上記に示した測定と計算を併用する事で、予測する事が出来る。例えば、静電容量型トランスデューサ1を構成する素子3が50個、1次元アレイ状に配置されている場合について述べる。膜厚測定素子を素子3毎に設け、製造工程で各膜の膜厚と誘電率、セルの直径を測定する。測定したデータを元に、有限要素法で各素子3のプルイン電圧を計算する。また、1次元アレイの両端に配置されている素子3のプルイン電圧を測定する。両端の素子3の測定値と計算値のずれを、残りの素子の計算値の補正において考慮する事で、精度よくプルイン電圧を予測する事が出来る。測定する素子の数は、1つでも良いし、複数個測定をして計算値とのずれの平均値を補正係数として計算値を補正してもよい。また、静電容量型トランスデューサ1を構成する素子3の近傍にTEGを複数個設けて、TEGのプルイン電圧を測定した値を測定値として用いてもよく、TEGを素子3と同じ個数設けて素子3のプルイン電圧を測定してもよい。上記のような方法で素子群のなかの各素子3のプルイン電圧のうちの最小のプルイン電圧を知る事が出来るが、他の手法でプルイン電圧を予測したり測定したりしても構わない。こうした最小のプルイン電圧は、例えば、製造時に取得して、それに基づき駆動装置の素子の受信バイアス電圧、送信バイアス電圧などを設定する。
本実施形態の静電容量型トランスデューサは、図1(a)の第二の電極パッド41に電気的に接続された図示しない引き出し配線を用いる事で、第二の電極37から電気信号を引き出す事が出来る。静電容量型トランスデューサで超音波を受信する場合、直流電圧を第一の電極33に印加しておく。超音波を受信すると、第二の電極37を有する振動膜38が変形するため、第二の電極37と第一の電極33との間の間隙の距離が変わり、静電容量が変化する。この静電容量変化によって、引き出し配線に電流が流れる。この電流を図4(b)に示した送受信回路26で電流−電圧変換を行い、電圧として超音波を受信する事が出来る。また、第一の電極33に直流電圧を印加し、送信駆動電圧を第二の電極37に印加し、静電気力によって、振動膜38を振動させる事が出来る。これによって、超音波を送信する事が出来る。
上記のように製造された静電容量型トランスデューサを本実施形態の駆動方法によって駆動する事で、次の効果が奏される。すなわち、送信と受信のバイアス電圧を同一にして駆動した時に生じる、1つの静電容量型トランスデューサ内の駆動対象の素子から送信される音響波の強度ばらつきを低減する事が出来る。これにより、被検体からの反射波のばらつきが低減して、受信した信号に基づいた超音波画像の歪みが減少し、分解能が向上する。
(実施例1)
以下に、本発明の実施例について図7と図8を用いて説明する。図7(a)、(b)は本実施例の静電容量型トランスデューサの上面図であり、図7(b)は図7(a)の拡大模式図である。図8(a)は、本実施例で静電容量型トランスデューサの素子に印加する送信駆動電圧の時間波形である。
図7(a)に示した静電容量型トランスデューサ1の外形寸法は、Y方向が7.5mm、X方向が44mmである。素子3の外形は、X方向が0.2mm、Y方向が4mmであり、196個の1次元アレイ状に配置されている。図7(a)の一部を拡大した模式図が図7(b)であり、図7(b)のA−B断面図が図6(d)である。素子3を構成するセル2は円形の形状であり、間隙8の直径は31μmである。セル2は図7(b)のように最密に配置されており、1つの素子3を構成するセル2は、隣接したセルと34μmの間隔で配置されている。つまり隣接しているセル2同士の間隙8の最短距離は3μmである。図7(b)ではセル数は省略しているが、実際には1つの素子3には702個のセル2を配置させている。
セル2は、300μm厚さのシリコン基板4、シリコン基板4上に形成される第一の絶縁膜5、第一の絶縁膜5上に形成される第一の電極6、第一の電極6上の第二の絶縁膜7を有する。また、第二の電極10とメンブレン9とを含む振動膜11、振動膜11を支持する振動膜支持部12、間隙8を有している。間隙8の高さは240nmである。さらに、第一の電極と第二の電極との間にバイアス電圧を印加する電圧印加手段13と、第二の電極に送信駆動電圧を印加する電圧印加手段14を有している。第一の絶縁膜5は、熱酸化により形成した厚さ1μmのシリコン酸化膜である。第二の絶縁膜7は、PE−CVDにより形成した100nmのシリコン酸化膜である。第一の電極6は厚さが50nmのチタンであり、第二の電極10は厚さが100nmのアルミニウムである。メンブレン9はPE−CVDにより作製した窒化シリコン膜であり、450MPa以下の引張り応力で形成し、厚みは1400nmである。
上記のような静電容量型トランスデューサの周囲に、プルイン電圧測定用素子(TEG)を配置する。静電容量型トランスデューサの両端の素子と中央の素子に近接して配置されたTEGのプルイン電圧は、左端から順に203V、207V、216Vである。また、上記に示した製造工程において成膜した各膜の膜厚を測定する為に、左端の素子3を第1の素子とし、右端の素子3を第196番目の素子とした場合、第1の素子の近傍から第196番目の素子の近傍まで、8mmの間隔で5か所に膜厚測定素子を配置する。間隙8の直径は、膜厚測定素子を近傍に配置した素子内の10か所を測定する。各素子10か所の平均を間隙8の直径とする。間隙8の直径に差はなく、31μmである。間隙8の直径の測定結果と各膜の膜厚測定結果を元に、有限要素法でプルイン電圧を計算すると、第1の素子の近傍の膜厚測定素子から順に、226V、224V、230V、236V、240Vとなる。計算値と測定値のずれは約10%であり、膜厚測定結果から計算したプルイン電圧の傾向を元に最小のプルイン電圧を予測する。すると、膜厚測定結果から計算したプルイン電圧が224Vである素子が最小のプルイン電圧をもつ素子であり、その素子の実際のプルイン電圧は約201Vである事が予測できる。本実施例の静電容量型トランスデューサ1を構成する素子3のプルイン電圧は、201Vから216Vまでばらついていると予測できる。膜厚測定結果から計算したプルイン電圧の最小値224Vに計算値と測定値のズレ−10%を考慮すると201Vである(201.6Vなので小数点以下を切り下げ)。また、膜厚測定結果から計算したプルイン電圧の最大値240Vに計算値と測定値のズレ−10%を考慮すると216Vである。
次に、静電容量型トランスデューサ1に25μmの厚さの音響マッチング層を形成する。本実施例では、音響インピーダンスが1.082MRayls、減衰係数が1.47×F1.44dB/cm/MHz(Fは周波数)のシリコーン接着剤を用いる。さらに音響マッチング層の上に音響インピーダンスが1.22MRayls、減衰係数が3.1×F1.4dB/cm/MHz、平均厚さが530μmの音響レンズを形成する。
次に、作製した静電容量型トランスデューサを用いて、送信駆動を行う。まず、比較例として受信のバイアス電圧と送信のバイアス電圧が同じ場合について述べる。受信のバイアス電圧と送信のバイアス電圧を最小のプルイン電圧の80%として、第一の電極6に160Vのバイアス電圧を印加する。送信駆動電圧は、最小のプルイン電圧に対する送信駆動電圧の比率を0.05、0.1、0.19として、第二の電極10に印加する。送信駆動電圧の時間波形を図8(a)に示す。図8(a)の横軸は時間(μs)を示し、縦軸は送信駆動電圧(V)を示す。系列は、最小のプルイン電圧に対する送信駆動電圧の比率0.05〜0.19を示す。送信駆動電圧の波形は、図8(a)のようなパルス幅45nsの双極波であり、波形のプラス側とマイナス側の振幅の絶対値が、送信駆動電圧である。その時の送信音圧の特性を図8(b)に示す。図8(b)中の曲線は、各条件で送信した時のプロットの2次の多項式近似曲線である。図8(b)の横軸は、最小のプルイン電圧に対する送信駆動電圧の比率である。縦軸は送信駆動電圧を印加した時に静電容量型トランスデューサ1を構成する素子3の1エレメントが送信する送信音圧であり、音響マッチング層と音響レンズを通過した後の送信音圧を示している。図8(b)は、プルイン電圧が201Vである、最小のプルイン電圧を有する素子と、プルイン電圧が216Vである、最大のプルイン電圧を有する素子の送信音圧を示している。プルイン電圧が最大の素子の方が第一の電極と第二の電極間に実効的にかかる電位差が小さくなる為、変換効率が低くなり送信音圧が小さくなっている。
送信駆動電圧を、最小のプルイン電圧の14%とすると、最小のプルイン電圧を有する素子は340kPaの音響波を送信し、最大のプルイン電圧を有する素子は260kPaの音響波を送信する。この時の送信音圧の差は80kPaであり、送信音圧の平均値300kPaに対して±13%送信音圧がばらつく。送信音圧がばらつく為、被検体から反射される音響波の強度もばらつく。静電容量型トランスデューサからばらついた音響波を送信し、被検体から反射された音響波を受信する時には、受信のバイアス電圧を第一の電極6に印加する。本比較例では送信のバイアス電圧と受信のバイアス電圧が同じである為、160Vの電圧を印加する。送信のバイアス電圧を印加した時と同様に、素子毎に第一の電極と第二の電極間に実効的にかかる電位差が異なる為、受信感度もばらつき、同じ音響波を受信したときには±13%ばらつく。送信と受信を行う場合、最終的に得られる受信信号は、±26%ばらつく。一般的に、送信と受信を行う超音波プローブのばらつきは、最終的に得られる受信信号として±25%以下である事が好ましいため、送信のバイアス電圧と受信のバイアス電圧が同じ場合、ばらつきを小さくする事が難しい。
次に本実施例として、上記で作製した静電容量型トランスデューサを用いて、送信のバイアス電圧を受信のバイアス電圧よりも小さくした場合の送信駆動について述べる。本実施例では、受信のバイアス電圧を最小のプルイン電圧の80%とし、送信のバイアス電圧を最小のプルイン電圧の50%として駆動する。第一の電極6に100Vの送信のバイアス電圧を印加する。送信駆動電圧は、最小のプルイン電圧に対する送信駆動電圧の比率を0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.49として、第二の電極10に印加する。
送信駆動電圧の時間波形を図9(a)に示す。図9(a)の横軸は時間(μs)を示し、縦軸は送信駆動電圧(V)を示す。系列は、最小のプルイン電圧に対する送信駆動電圧の比率0.2〜0.49を示す。送信駆動電圧の波形は、図8(a)と同様なパルス幅45nsの双極波であり、波形のプラス側とマイナス側の振幅の絶対値が、送信駆動電圧である。その時の送信音圧の特性を図9(b)に示す。図9(b)中の曲線は、各条件で送信した時のプロットの2次の多項式近似曲線である。図9(b)の縦軸と横軸は、図8(b)と同様である。図9(b)の系列も、図8(b)と同様である。
比較例と同様な送信音圧340kPaを得るために、送信駆動電圧は最小のプルイン電圧の30%として第二の電極10に60V印加する。最小のプルイン電圧を有する素子は340kPaの音響波を送信し、最大のプルイン電圧を有する素子は280kPaの音響波を送信する。この時の送信音圧の差は60kPaであり、送信音圧の平均値に対して±22.7%送信音圧がばらつく。比較例のように、受信のバイアス電圧と送信のバイアス電圧を同じ電圧とした場合と比較すると、本実施例のように送信のバイアス電圧を受信のバイアス電圧よりも小さくする事で、送信音圧のばらつきを低減する事が出来る。また、受信動作を行う際には、比較例と同様に受信のバイアス電圧を、最小のプルイン電圧の80%として第一の電極6に160Vを印加する。比較例と同様に、同じ音響波を受信したときの受信感度のばらつきは±13%の為、本実施例のように音圧を送信し、被検体から反射した音響波を受信する時の最終的に得られる受信信号のばらつきは、±19.7%となる。このように、送信のバイアス電圧を受信のバイアス電圧よりも小さく駆動する事で、送信と受信を行う超音波プローブのばらつきを低減する事が出来る。
本発明の好ましい実施形態、実施例について説明したが、本発明はこれらの実施形態や実施例に限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。