JP6282884B2 - がんぎ車、ムーブメント、及び時計 - Google Patents
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Description
また、がんぎ歯車部の摺動面上での保油性能を向上させるために、摺動面上にフッ素等による保油処理を行う構成も考えられる。しかしながら、この場合にはがんぎ歯車部の摺動面とアンクルの爪石との摺動により、負荷が増加するため、アンクルからてんぷへの伝達エネルギーが減少して、てんぷの振り角が低下するおそれがある。
(1)本発明に係るがんぎ車は、アンクルに噛み合うがんぎ歯車部と、前記がんぎ歯車部の構成材料よりも表面エネルギーの小さい材料からなり、前記がんぎ歯車部を覆う撥油膜と、前記がんぎ歯車部のうち、少なくとも前記アンクルとの摺動面を前記撥油膜から露出させる第1露出部と、を備えていることを特徴としている。
また、がんぎ歯車部のうち、摺動面以外の部分に撥油膜が形成されているため、摺動面上に保持された油が摺動面以外の余計な部分に流れていくのを抑制し、汚れの付着を抑制できる。
さらに、従来のように油を保持させる領域(例えば、がんぎ歯車部の摺動面)に保油処理を行う構成と異なり、摺動面とアンクルとの間で負荷が増大するのを抑制できる。これにより、てんぷの振り角が低下するのを抑制し、安定した歩度特性を得ることができる。
その結果、メンテナンス性の向上を図り、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
この構成によれば、保油部に油を保持させることで、保油量を向上させることができる。しかも、保油部(第2露出部)と摺動面(第1露出部)との間でスムーズに油を流通させることができるため、メンテナンス性の向上を図り、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
この構成によれば、第2露出部上の油は、毛細管現象等により幅が縮小する方向に向けて流通することになる。これにより、第2露出部に保持された油をがんぎ歯車部の摺動面と保油部との間でスムーズに流通させることができる。
この構成によれば、リービングコーナや背面に存在する油が、第3露出部を通って保油部に向けて流通することになる。これにより、保油部と摺動面との間で油を循環させることができるので、潤滑性能を確保した上で、メンテナンス性を向上させることができる。
この構成によれば、上述したがんぎ車を備えているため、メンテナンス性の向上を図り、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
この構成によれば、上記本発明のムーブメントを備えているため、メンテナンス性の向上を図り、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
<第1実施形態>
[機械式時計]
はじめに、機械式時計1について説明する。図1は、ムーブメント表側の平面図である。
図1に示すように、本実施形態の機械式時計1は、ムーブメント10と、このムーブメント10を収納する図示しないケーシングと、により構成されている。
地板11には、巻真案内穴11aが形成されており、ここに巻真12が回転自在に組み込まれている。この巻真12は、おしどり13、かんぬき14、かんぬきばね15及び裏押さえ16を有する切換装置により、軸方向の位置が決められている。また、巻真12の案内軸部には、きち車17が回転自在に設けられている。
脱進機構30は、上述した表輪列の回転を制御する機構であって、四番車27と噛み合うがんぎ車35と、このがんぎ車35を脱進させて規則正しく回転させるアンクル36と、を備えている。
調速機構31は、上述した脱進機構30を調速する機構であって、てんぷ40を具備している。
次に、上述した脱進機構30について、より詳細に説明する。図2は脱進機構30の平面図である。
図2に示すように、脱進機構30のがんぎ車35は、がんぎ歯車部101と、がんぎ歯車部101に同軸で固定された軸部材102と、を備えている。以下の説明では、軸部材102の軸線に沿う方向を単に軸方向、軸線に直交する方向を径方向といい、軸線回りに周回する方向を周方向という。また、図2では、がんぎ車35の回転方向をCWで示している。
各スポーク部113は、ハブ部112の外周縁からリム部111の内周縁に向かって放射状に延在している。
図3、図4に示すように、リム部111の外周面には、特殊な鉤型状に形成された複数の歯部114が径方向の外側に向けて突設されている。これら複数の歯部114の先端部に、後述するアンクル36の爪石144a,144b(図2参照)が噛み合うようになっている。
ほぞ部123のうち、軸方向の一端側に位置するほぞ部123は、図示しない輪列受に回転可能に支持され、軸方向の他端側に位置するほぞ部123は、上述した地板11に回転可能に支持されている。
図5に示すように、出爪石144bの先端部は、がんぎ歯車部101の回転方向CWにおける手前側に位置して歯部114の停止面115aに当接する停止面146aと、回転方向CWの奥側に位置する背面146bと、出爪石144bの先端面を構成するとともに、停止面146aと背面146bとを接続する衝撃面146cと、を有している。また、停止面146aと衝撃面146cとにより構成される角部は、ロッキングコーナ146dとして機能し、背面146bと衝撃面146cとにより構成される角部は、リービングコーナ146eとして機能している。なお、出爪石144bのうち、停止面146aからロッキングコーナ146dを経てリービングコーナ146eに至る範囲が本実施形態の摺動面146を構成している。
その後、てんぷ40の自由振動により、アンクル36がP1方向とは反対側のP2方向に向けて回動すると、上述した動作と同様の動作によって、歯部114と入爪石144aとが係合状態から離脱状態に移行する。このように、脱進機構30は、がんぎ車35の歯部114と、入爪石144a及び出爪石144bと、の係合状態及び離脱状態が交互に繰り返されるようになっている。
この構成によれば、摺動面115を撥油膜120の第1露出部118とすることで、摺動面115上での潤滑油Oの保油性能を向上させることができる。これにより、がんぎ車35の歯部114と、アンクル36の爪石144a,144bと、の間の潤滑性能を向上させ、歯部114と爪石144a,144bとの間の摩耗を低減できる。
また、歯部114のうち、摺動面115及び段差部116の内面以外の部分には、撥油膜120が形成されているため、摺動面115及び段差部116の内面に保持された潤滑油Oが摺動面115以外の余計な部分に流れていくのを抑制し、汚れの付着を抑制できる。
さらに、従来のように潤滑油Oを保持させる領域(例えば、摺動面)に保油処理を行う構成と異なり、摺動面115と爪石144a,144bとの間で負荷が増大するのを抑制できる。これにより、てんぷ40の振り角が低下するのを抑制し、安定した歩度特性を得ることができる。
そして、本実施形態では、段差部116の内面に第2露出部119を形成したため、段差部116内での保油性能を確実に向上させることができる。しかも、段差部116(第2露出部119)と摺動面115(第1露出部118)との間でスムーズに油を流通させることができるため、メンテナンス性の向上を図り、長期に亘って動作信頼性を確保できる。
次に、第1実施形態の変形例について説明する。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。図9は、変形例における歯部114の拡大図であって、(a)は周方向の一方側から歯部114を見た斜視図、(b)は周方向の他方側から歯部114を見た斜視図である。
上述した実施形態では、段差部116の内面全体に第2露出部119を形成した場合について説明したが、少なくとも衝撃面115c上に第1露出部118が形成されていれば、撥油膜120の形成範囲については適宜設計変更が可能である。例えば、図9に示すように、歯部114のうち、軸方向の一方側を撥油膜220により覆う構成としても構わない。
この場合、摺動面115のうち、停止面115aにおける軸方向の他方側に位置する部分、及び衝撃面115cが第1露出部118を構成し、段差部116のうち、立ち上がり部116bにおける軸方向の他方側、及び底部116aが第2露出部119を構成している。
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図11は、第2実施形態における歯部114の拡大平面図である。
図11に示すように、本実施形態における撥油膜320は、上述した基部221と、段差部116の底部116aにおいて、径方向に沿って帯状に延在する複数の被覆部321と、を有している。各被覆部321は、周方向に間隔をあけてストライプ状に配設されている。そして、底部116a上において、被覆部321以外の部分は、径方向に沿って帯状に延在するとともに、周方向に間隔をあけて配設された第2露出部322を構成している。
これにより、摺動面115に残存する潤滑油Oをスムーズに回収することができるので、潤滑油Oが摺動面115以外の余計な箇所に付着するのを抑制するとともに、段差部116内の潤滑油Oの減少速度を低下させることができる。その結果、メンテナンス性を向上させることができる。
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図13は、第3実施形態における歯部114の拡大斜視図である。
図13に示すように、歯部114の背面115bには、径方向の内側に向かうに従い軸方向の幅が漸次狭くなる第3露出部350が形成されている。この第3露出部350は、径方向の外側端部が衝撃面115cに連なり、軸方向の一方側が段差部116の底部116aに連なっている。
この構成によれば、リービングコーナ115e側まで到達した潤滑油Oは、背面115bの第3露出部350を通って段差部116内に向けて流通することになる。これにより、段差部116と摺動面115との間で潤滑油Oを循環させることができるので、潤滑性能を確保した上で、メンテナンス性を向上させることができる。
例えば、上述した各実施形態及び変形例では、保油部として、段差部116を設ける構成について説明したが、これに限られない。例えば、図14に示すように、歯部114を、先端部に向かうに従い厚さが漸次薄くなるテーパ状に形成し、そのテーパ部分360を厚さ方向に窪んだ保油部として機能させても構わない。なお、図15に示すように、保油部を設けない構成としても構わない。
また、上述した実施形態では、撥油膜としてフッ素等を用いる構成について説明したが、これに限らず、種々の方法を採用することが可能である。例えば、エピラム処理等を行っても構わない。
10…ムーブメント
35…がんぎ車
36…アンクル
101…がんぎ歯車部
115…摺動面
115e…リービングコーナ
116…段差部(保油部、凹部)
118…第1露出部
119,322…第2露出部
120,230,320…撥油膜
350…第3露出部
360…テーパ部分(保油部、凹部)
O…潤滑油(油)
Claims (6)
- アンクルに噛み合うがんぎ歯車部と、
前記がんぎ歯車部の構成材料よりも表面エネルギーの小さい材料からなり、前記がんぎ歯車部を覆う撥油膜と、
前記がんぎ歯車部のうち、少なくとも前記アンクルとの摺動面を前記撥油膜から露出させる第1露出部と、を備え、
前記がんぎ歯車部は、前記がんぎ歯車部の厚さ方向に窪むとともに、油を保持する保油部を備え、
前記保油部には、前記保油部を前記撥油膜から露出させるとともに、前記保油部と前記摺動面との間で油を流通させる第2露出部が配設され、
前記第2露出部は、径方向に沿って延在するとともに、周方向に間隔をあけて複数配設されていることを特徴とするがんぎ車。 - 前記第2露出部は、帯状に配設されていることを特徴とする請求項1記載のがんぎ車。
- 前記第2露出部は、前記摺動面から前記保油部または前記保油部から前記摺動面に向かうに従い幅が縮小していることを特徴とする請求項1記載のがんぎ車。
- 前記がんぎ歯車部は、回転方向の手前側に位置するとともに、リービングコーナを間に挟んで前記摺動面に連なる背面を備え、
前記背面には、前記背面を前記撥油膜から露出させるとともに、前記保油部に向けて油を流通させる第3露出部が配設されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のがんぎ車。 - 請求項1から請求項4の何れか1項に記載のがんぎ車を備えていることを特徴とするムーブメント。
- 請求項5に記載のムーブメントを備えることを特徴とする時計。
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