以下、場合により図面を参照しつつ本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
<定義>
本明細書において、「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本明細書において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
<エアロゲル複合体>
狭義には、湿潤ゲルに対して超臨界乾燥法を用いて得られた乾燥ゲルをエアロゲル、大気圧下での乾燥により得られた乾燥ゲルをキセロゲル、凍結乾燥により得られた乾燥ゲルをクライオゲルと称するが、本実施形態においては、湿潤ゲルのこれらの乾燥手法によらず、得られた低密度の乾燥ゲルを「エアロゲル」と称する。すなわち、本実施形態においてエアロゲルとは、広義のエアロゲルである「Gel comprised of a microporous solid in which the dispersed phase is a gas(分散相が気体である微多孔性固体から構成されるゲル)」を意味するものである。一般的にエアロゲルの内部は、網目状の微細構造となっており、2〜20nm程度のエアロゲル粒子(エアロゲルを構成する粒子)が結合したクラスター構造を有している。このクラスターにより形成される骨格間には、100nmに満たない細孔がある。これにより、エアロゲルは、三次元的に微細な多孔性の構造をしている。なお、本実施形態におけるエアロゲルは、例えば、シリカを主成分とするシリカエアロゲルである。シリカエアロゲルとしては、例えば、有機基(メチル基等)又は有機鎖を導入した、いわゆる、有機−無機ハイブリッド化されたシリカエアロゲルが挙げられる。なお、本実施形態のエアロゲル複合体は、エアロゲル中にシリカ粒子が複合化されながらも、上記エアロゲルの特徴であるクラスター構造を有しており、三次元的に微細な多孔性の構造を有している。
本実施形態のエアロゲル複合体は、エアロゲル成分及びシリカ粒子を含有するものである。なお、必ずしもこれと同じ概念を意味するものではないが、本実施形態のエアロゲル複合体は、三次元網目骨格を構成する成分としてシリカ粒子を含有するものである、と表現することも可能である。本実施形態のエアロゲル複合体は、後述するとおり断熱性と柔軟性とに優れている。特に、柔軟性が優れていることによりエアロゲル複合体としての取り扱い性が向上して大型化も可能となるため、生産性を高めることができる。なお、このようなエアロゲル複合体は、エアロゲルの製造環境中にシリカ粒子を存在させることにより得られるものである。そしてシリカ粒子を存在させることによるメリットは、複合体自体の断熱性、柔軟性等を向上できることのみならず、後述する湿潤ゲル生成工程の時間短縮、あるいは洗浄及び溶媒置換工程から乾燥工程の簡略化が可能であることにもある。なお、この工程の時間短縮及び工程の簡略化は、柔軟性が優れるエアロゲル複合体を作製する上で必ずしも求められることではない。
本実施形態において、エアロゲル成分とシリカ粒子との複合化態様は様々である。例えば、エアロゲル成分は膜状等の不定形であってもよく、粒子状(エアロゲル粒子)であってもよい。いずれの態様においても、エアロゲル成分が様々な形態になりシリカ粒子間に存在しているため、複合体の骨格に柔軟性が付与されていると推察される。
まず、エアロゲル成分とシリカ粒子の複合化態様としては、不定形のエアロゲル成分がシリカ粒子間に介在する態様が挙げられる。このような態様としては、具体的には、例えばシリカ粒子が膜状のエアロゲル成分(シリコーン成分)により被覆された態様(エアロゲル成分がシリカ粒子を内包する態様)、エアロゲル成分がバインダーとなりシリカ粒子同士が連結された態様、エアロゲル成分が複数のシリカ粒子間隙を充填している態様、これらの態様の組み合わせの態様(クラスター状に並んだシリカ粒子がエアロゲル成分により被覆された態様等)、など様々な態様が挙げられる。このように、本実施形態においてエアロゲル複合体は、三次元網目骨格がシリカ粒子とエアロゲル成分(シリコーン成分)から構成されることができ、その具体的態様(形態)に特に制限はない。
一方、後述するように、本実施形態においてエアロゲル成分は、不定形ではなく図1のように明確な粒子状となってシリカ粒子と複合化していてもよい。
本実施形態のエアロゲル複合体においてこのような様々な態様が生じるメカニズムは必ずしも定かではないが、本発明者は、ゲル化工程におけるエアロゲル成分の生成速度が関与していると推察している。例えば、シリカ粒子のシラノール基数を変動させることによってエアロゲル成分の生成速度が変動する傾向がある。また、系のpHを変動させることによってもエアロゲル成分の生成速度が変動する傾向がある。
このことは、シリカ粒子のサイズ、形状、シラノール基数、系のpH等を調整することにより、エアロゲル複合体の態様(三次元網目骨格のサイズ、形状等)を制御できることを示唆する。したがって、エアロゲル複合体の密度、気孔率等の制御が可能となり、エアロゲル複合体の断熱性と柔軟性を制御することができると考えられる。なお、エアロゲル複合体の三次元網目骨格は、上述した様々な態様の一種類のみから構成されていてもよいし、二種以上の態様から構成されていてもよい。
以下、図1を例にとり、本実施形態のエアロゲル複合体について説明するが、上述のとおり本開示は図1の態様に限定されるものではない。ただし、上記いずれの態様にも共通する事項(シリカ粒子の種類、サイズ、含有量等)については、以下の記載を適宜参照することができる。
図1は、本開示の一実施形態に係るエアロゲル複合体の微細構造を模式的に表す図である。図1に示されるように、エアロゲル複合体10は、エアロゲル成分を構成するエアロゲル粒子1が部分的にシリカ粒子2を介して三次元的にランダムに連なることにより形成される三次元網目骨格と、当該骨格に囲まれた細孔3とを有する。この際、シリカ粒子2はエアロゲル粒子1間に介在し、三次元網目骨格を支持する骨格支持体として機能していると推察される。したがって、このような構造を有することにより、エアロゲルとしての断熱性及び柔軟性を維持しつつ、適度な強度がエアロゲルに付与されることになると考えられる。すなわち、本実施形態においては、エアロゲル複合体は、シリカ粒子がエアロゲル粒子を介して三次元的にランダムに連なることにより形成される三次元網目骨格を有していてもよい。また、シリカ粒子はエアロゲル粒子により被覆されていてもよい。なお、上記エアロゲル粒子(エアロゲル成分)はケイ素化合物から構成されるため、シリカ粒子への親和性が高いと推察される。そのため、本実施形態においてはエアロゲルの三次元網目骨格中にシリカ粒子を導入することに成功したと考えられる。この点においては、シリカ粒子のシラノール基も、両者の親和性に寄与していると考えられる。
エアロゲル粒子1は、複数の一次粒子から構成される二次粒子の態様を取っていると考えられており、概ね球状である。エアロゲル粒子1の平均粒子径(すなわち二次粒子径)は2nm以上とすることができ、5nm以上であってもよく、10nm以上であってもよい。また、当該平均粒子径は、50μm以下とすることができ、2μm以下であってもよく、200nm以下であってもよい。すなわち、当該平均粒子径は、2nm〜50μmとすることができるが、5nm〜2μmであってもよく、又は10nm〜200nmであってもよい。エアロゲル粒子1の平均粒子径が2nm以上であることにより、柔軟性に優れるエアロゲル複合体が得易くなり、一方、平均粒子径が50μm以下であることにより、断熱性に優れるエアロゲル複合体が得易くなる。なお、エアロゲル粒子1を構成する一次粒子の平均粒子径は、低密度の多孔質構造の2次粒子を形成し易いという観点から、0.1nm〜5μmとすることができるが、0.5nm〜200nmであってもよく、又は1nm〜20nmであってもよい。
シリカ粒子2としては特に制限なく用いることができ、例えば非晶質シリカ粒子が挙げられる。さらに当該非晶質シリカ粒子としては、溶融シリカ粒子、ヒュームドシリカ粒子及びコロイダルシリカ粒子からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。これらのうち、コロイダルシリカ粒子は単分散性が高く、ゾル中での凝集を抑制し易い。なお、シリカ粒子2としては、中空構造、多孔質構造等を有するシリカ粒子であってもよい。
シリカ粒子2の形状は特に制限されず、球状、繭型、会合型等が挙げられる。これらのうち、シリカ粒子2として球状の粒子を用いることにより、ゾル中での凝集を抑制し易くなる。シリカ粒子2の平均一次粒子径は1nm以上とすることができ、5nm以上であってもよく、20nm以上であってもよい。また、当該平均一次粒子径は、500nm以下とすることができ、300nm以下であってもよく、100nm以下であってもよい。すなわち、当該平均一次粒子径は、1〜500nmとすることができるが、5〜300nmであってもよく、又は20〜100nmであってもよい。シリカ粒子2の平均一次粒子径が1nm以上であることにより、適度な強度をエアロゲルに付与し易くなり、乾燥時の耐収縮性に優れるエアロゲル複合体が得易くなる。一方、平均一次粒子径が500nm以下であることにより、シリカ粒子の固体熱伝導を抑制し易くなり、断熱性に優れるエアロゲル複合体が得易くなる。
エアロゲル粒子1(エアロゲル成分)とシリカ粒子2とは、水素結合及び/又は化学結合の態様を取って結合していると推測される。この際、水素結合及び/又は化学結合は、エアロゲル粒子1(エアロゲル成分)のシラノール基及び/又は反応性基と、シリカ粒子2のシラノール基により形成されると考えられる。そのため、結合の態様が化学結合であると、適度な強度をエアロゲルに付与し易いと考えられる。このことから考えると、エアロゲル成分と複合化させる粒子として、シリカ粒子に限らず、粒子表面にシラノール基を有する無機粒子又は有機粒子も用いることができる。
シリカ粒子2の1g当りのシラノール基数は、10×1018個/g以上であるが、50×1018個/g以上であってもよく、100×1018個/g以上であってもよい。また、当該シラノール基数は、1000×1018個/g以下であるが、800×1018個/g以下であってもよく、700×1018個/g以下であってもよい。すなわち、当該シラノール基数は、10×1018〜1000×1018個/gであるが、50×1018〜800×1018個/gであってもよく、又は100×1018〜700×1018個/gであってもよい。シリカ粒子2の1g当りのシラノール基数が10×1018個/g以上であることにより、エアロゲル粒子1(エアロゲル成分)とのより良好な反応性を有することができ、耐収縮性に優れるエアロゲル複合体を得易くなる。一方、シラノール基数が1000×1018個/g以下であることにより、ゾル作製時における急なゲル化を抑制し易くなり、均質なエアロゲル複合体が得易くなる。
シリカ粒子のシラノール基数は、次のようにして測定することができる。
[1]まず、質量を測定済みの容器(X[g])に、シリカ粒子を15g量りとり、適量(100ml以下)の水に分散させる。シリカ粒子が水等の媒体に分散された分散液の状態の場合は、シリカ粒子が15gとなるように、容器に分散液を量りとる。
[2]次に、0.1mol/L塩酸で分散液のpHを3.0〜3.5に調整する。このときの質量(Y[g])を測定し、分散液の総質量(Y−X[g])を求める。
[3]上記[2]で得られた総質量の1/10にあたる量((Y−X)/10[g])の分散液を、別の容器に量りとる。この段階で分散液に含まれるシリカ粒子(A[g])は1.5gである。
[4]そこに、塩化ナトリウムを30g添加し、さらに超純水を添加して全量を150gにする。これを、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液でpH4.0に調整し、滴定用サンプルとする。
[5]この滴定用サンプルに0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液をpHが9.0になるまで滴下し、pHが4.0から9.0になるまでに要した水酸化ナトリウム量(B[mol])を求める。
[6]下記式(I)よりシリカ粒子の持つシラノール基数を算出する。
ρ=B・NA/A・SBET ……(I)
式(I)中のNA[個/mol]はアボガドロ数を示し、SBET[m2/g]は、シリカ粒子のBET比表面積を示す。
前記のシラノール基数の算出方法の詳細については、例えば、AnalyticalChemistry、1956年、第28巻、12号、p.1981−1983及びJapanese Journal of Applied Physics、2003年、第42巻、p.4992−4997に開示されている。
なお、シリカ粒子のBET比表面積SBETは、BET比表面積法(ガス吸着法)にしたがって求めることができる。具体的な測定方法としては、例えば、250℃で充分に真空脱気したシリカ粒子について、BET比表面積測定装置(ガス吸着量測定装置)を用い、窒素ガスを吸着させる1点法又は多点法により求めることができる。シリカ粒子の乾燥は、真空凍結乾燥機を用いて乾燥してもよい。乾燥後のシリカ粒子は、残分(乾燥後の状態)を乳鉢等で細かく砕いて測定用試料とする。
本実施形態において、粒子の平均粒子径(エアロゲル粒子の平均二次粒子径、シリカ粒子の平均一次粒子径等)は、走査型電子顕微鏡(以下「SEM」と略記する。)を用いてエアロゲル複合体の断面を直接観察することにより得ることができる。例えば、三次元網目骨格からは、その断面の直径に基づきエアロゲル粒子又はシリカ粒子個々の粒子径を得ることができる。ここでいう直径とは、三次元網目骨格を形成する骨格の断面を円とみなした場合の直径を意味する。また、断面を円とみなした場合の直径とは、断面の面積を同じ面積の円に置き換えたときの当該円の直径のことである。なお、平均粒子径の算出に当たっては、100個の粒子について円の直径を求め、その平均を取るものとする。
なお、シリカ粒子については原料から平均粒子径を測定することが可能である。例えば、二軸平均一次粒子径は、任意の粒子20個をSEMにより観察した結果から、次のようにして算出される。すなわち、通常水に分散している固形分濃度5〜40質量%のコロイダルシリカ粒子を例にすると、コロイダルシリカ粒子の分散液にパターン配線付きウエハを2cm角に切ったチップを約30秒浸した後、当該チップを純水にて約30秒間すすぎ、窒素ブロー乾燥する。その後、チップをSEM観察用の試料台に載せ、加速電圧10kVを掛け、10万倍の倍率にてシリカ粒子を観察し、画像を撮影する。得られた画像から20個のシリカ粒子を任意に選択し、それらの粒子の粒子径の平均を平均粒子径とする。この際、選択したシリカ粒子が図2に示すような形状であった場合、シリカ粒子2に外接し、その長辺が最も長くなるように配置した長方形(外接長方形L)を導く。そして、その外接長方形Lの長辺をX、短辺をYとして、(X+Y)/2として二軸平均一次粒子径を算出し、その粒子の粒子径とする。
エアロゲル複合体における細孔3のサイズは、後述の[密度及び気孔率]の項にて説明する。
エアロゲル複合体に含まれるエアロゲル成分の含有量は、エアロゲル複合体の総量100質量部に対し、4質量部以上とすることができるが、10質量部以上であってもよい。また、当該含有量は、25質量部以下とすることができるが、20質量部以下であってもよい。すなわち、当該含有量は、4〜25質量部とすることができるが、10〜20質量部であってもよい。含有量が4質量部以上であることにより適度な強度を付与し易くなり、25質量部以下であることにより良好な断熱性を得易くなる。
エアロゲル複合体に含まれるシリカ粒子の含有量は、エアロゲル複合体の総量100質量部に対し、1質量部以上とすることができるが、3質量部以上であってもよい。また、当該含有量は、25質量部以下とすることができるが、15質量部以下であってもよい。すなわち、当該含有量は、1〜25質量部とすることができるが、3〜15質量部であってもよい。含有量が1質量部以上であることにより適度な強度をエアロゲル複合体に付与し易くなり、25質量部以下であることによりシリカ粒子の固体熱伝導を抑制し易くなる。
エアロゲル複合体は、これらエアロゲル成分及びシリカ粒子の他に、熱線輻射抑制等を目的として、カーボングラファイト、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、銀化合物、チタン化合物等のその他の成分をさらに含んでいてもよい。その他の成分の含有量は特に制限されないが、エアロゲル複合体の所期の効果を十分に確保する観点から、エアロゲル複合体の総量100質量部に対し、1〜5質量部とすることができる。
本実施形態のエアロゲル複合体は、シラノール基数が10×1018〜1000×1018個/gである上記のシリカ粒子と、(分子内に)加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物、及び、加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種と、を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物(ゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥して得られるもの)である。
加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物としては、後述のポリシロキサン化合物以外のケイ素化合物(シリコン化合物)を用いることができる。すなわち、上記ゾルは、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物(ポリシロキサン化合物を除く)、及び、加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物(以下、場合により「ケイ素化合物群」という)を含有することができる。ケイ素化合物における分子内のケイ素数は1又は2とすることができる。
加水分解性の官能基を有するケイ素化合物としては、特に限定されないが、例えば、アルキルケイ素アルコキシドが挙げられる。アルキルケイ素アルコキシドは、耐水性を向上する観点から、加水分解性の官能基の数を3個以下とすることができる。このようなアルキルケイ素アルコキシドとしては、モノアルキルトリアルコキシシラン、モノアルキルジアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、モノアルキルモノアルコキシシラン、ジアルキルモノアルコキシシラン、トリアルキルモノアルコキシシラン等が挙げられ、具体的には、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。加水分解性の官能基としては、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基などが挙げられる。
縮合性の官能基を有するケイ素化合物としては、特に限定されないが、例えば、シランテトラオール、メチルシラントリオール、ジメチルシランジオール、フェニルシラントリオール、フェニルメチルシランジオール、ジフェニルシランジオール、n−プロピルシラントリオール、ヘキシルシラントリオール、オクチルシラントリオール、デシルシラントリオール、トリフルオロプロピルシラントリオール等が挙げられる。
加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物は、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基とは異なる反応性基(加水分解性の官能基及び縮合性の官能基に該当しない官能基)を更に有していてもよい。反応性基としては、エポキシ基、メルカプト基、グリシドキシ基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、アミノ基等が挙げられる。エポキシ基は、グリシドキシ基等のエポキシ基含有基に含まれていてもよい。
加水分解性の官能基の数が3個以下であり、反応性基を有するケイ素化合物として、ビニルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等も用いることができる。
また、縮合性の官能基を有し、反応性基を有するケイ素化合物として、ビニルシラントリオール、3−グリシドキシプロピルシラントリオール、3−グリシドキシプロピルメチルシランジオール、3−メタクリロキシプロピルシラントリオール、3−メタクリロキシプロピルメチルシランジオール、3−アクリロキシプロピルシラントリオール、3−メルカプトプロピルシラントリオール、3−メルカプトプロピルメチルシランジオール、N−フェニル−3−アミノプロピルシラントリオール、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルシランジオール等も用いることができる。
さらに、分子末端の加水分解性の官能基が3個以下のケイ素化合物であるビストリメトキシシリルメタン、ビストリメトキシシリルエタン、ビストリメトキシシリルヘキサン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等も用いることができる。
加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物、及び、加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解生成物は、単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
本実施形態のエアロゲル複合体を作製するにあたり、ケイ素化合物は、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物を含むことができる。すなわち、上記のケイ素化合物を含有するゾルは、(分子内に)加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種(以下、場合により「ポリシロキサン化合物群」という)をさらに含有することができる。
ポリシロキサン化合物等における官能基は、特に限定されないが、同じ官能基同士で反応するか、あるいは他の官能基と反応する基とすることができる。加水分解性の官能基としては、例えば、アルコキシ基が挙げられる。縮合性の官能基としては、水酸基、シラノール基、カルボキシル基、フェノール性水酸基等が挙げられる。水酸基は、ヒドロキシアルキル基等の水酸基含有基に含まれていてもよい。なお、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物は、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基とは異なる前述の反応性基(加水分解性の官能基及び縮合性の官能基に該当しない官能基)を更に有していてもよい。これらの官能基及び反応性基を有するポリシロキサン化合物は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。これらの官能基及び反応性基のうち、例えば、エアロゲル複合体の柔軟性を向上する基としては、アルコキシ基、シラノール基、ヒドロキシアルキル基等が挙げられ、これらのうち、アルコキシ基及びヒドロキシアルキル基はゾルの相溶性をより向上することができる。また、ポリシロキサン化合物の反応性の向上とエアロゲル複合体の熱伝導率の低減の観点から、アルコキシ基及びヒドロキシアルキル基の炭素数は1〜6とすることができるが、エアロゲル複合体の柔軟性をより向上する観点から2〜4であってもよい。
ヒドロキシアルキル基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(A)で表される構造を有するものが挙げられる。
式(A)中、R1aはヒドロキシアルキル基を示し、R2aはアルキレン基を示し、R3a及びR4aはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、nは1〜50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(A)中、2個のR1aは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個のR2aは各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(A)中、2個以上のR3aは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR4aは各々同一であっても異なっていてもよい。
上記構造のポリシロキサン化合物を含有するゾルの縮合物である(ゾルから生成された)湿潤ゲルを用いることにより、低熱伝導率かつ柔軟なエアロゲル複合体をさらに得易くなる。このような観点から、式(A)中、R1aとしては炭素数が1〜6のヒドロキシアルキル基等が挙げられ、当該ヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。また、式(A)中、R2aとしては炭素数が1〜6のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。また、式(A)中、R3a及びR4aとしては、それぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。また、式(A)中、nは2〜30とすることができるが、5〜20であってもよい。
上記一般式(A)で表される構造を有するポリシロキサン化合物としては、市販品を用いることができ、X−22−160AS、KF−6001、KF−6002、KF−6003等の化合物(いずれも、信越化学工業株式会社製)、XF42−B0970、Fluid OFOH 702−4%等の化合物(いずれも、モメンティブ社製)などが挙げられる。
アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物としては、例えば、下記一般式(B)で表される構造を有するものが挙げられる。
式(B)中、R1bはアルキル基、アルコキシ基又はアリール基を示し、R2b及びR3bはそれぞれ独立にアルコキシ基を示し、R4b及びR5bはそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、mは1〜50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(B)中、2個のR1bは各々同一であっても異なっていてもよく、2個のR2bは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個のR3bは各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(B)中、mが2以上の整数の場合、2個以上のR4bは各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR5bも各々同一であっても異なっていてもよい。
上記構造のポリシロキサン化合物又はその加水分解生成物を含有するゾルの縮合物である(ゾルから生成された)湿潤ゲルを用いることにより、低熱伝導率かつ柔軟なエアロゲル複合体をさらに得易くなる。このような観点から、式(B)中、R1bとしては、炭素数が1〜6のアルキル基、炭素数が1〜6のアルコキシ基等が挙げられ、当該アルキル基又はアルコキシ基としては、メチル基、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、式(B)中、R2b及びR3bとしては、それぞれ独立に炭素数が1〜6のアルコキシ基等が挙げられ、当該アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。また、式(B)中、R4b及びR5bとしては、それぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。また、式(B)中、mは2〜30とすることができるが、5〜20であってもよい。
上記一般式(B)で表される構造を有するポリシロキサン化合物は、例えば、特開2000−26609号公報、特開2012−233110号公報等にて報告される製造方法を適宜参照して得ることができる。
なお、アルコキシ基は加水分解するため、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物はゾル中にて加水分解生成物として存在する可能性があり、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物とその加水分解生成物とは混在していてもよい。また、アルコキシ基を有するポリシロキサン化合物において、分子中のアルコキシ基の全てが加水分解されていてもよいし、部分的に加水分解されていてもよい。
これら、加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物、及び、加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物は、単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
上記ゾルに含まれるケイ素化合物群の含有量(加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物の含有量、及び、加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解生成物の含有量の総和)は、ゾルの総量100質量部に対し、5質量部以上とすることができ、10質量部以上であってもよい。当該含有量は、ゾルの総量100質量部に対し、50質量部以下とすることができ、30質量部以下であってもよい。すなわち、ケイ素化合物群の含有量は、ゾルの総量100質量部に対し、5〜50質量部とすることができるが、10〜30質量部であってもよい。5質量部以上にすることにより良好な反応性を得易くなり、また、50質量部以下にすることにより良好な相溶性を得易くなる。
また、上記ゾルが、ポリシロキサン化合物をさらに含有する場合、ケイ素化合物群の含有量及びポリシロキサン化合物群の含有量(加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するポリシロキサン化合物の含有量、及び、加水分解性の官能基を有するポリシロキサン化合物の加水分解生成物の含有量の総和)の総和は、ゾルの総量100質量部に対し、5質量部以上とすることができ、10質量部以上であってもよい。当該含有量の総和は、ゾルの総量100質量部に対し、50質量部以下とすることができ、30質量部以下であってもよい。すなわち、当該含有量の総和は、ゾルの総量100質量部に対し、5〜50質量部とすることができるが、10〜30質量部であってもよい。含有量の総和を5質量部以上にすることにより良好な反応性をさらに得易くなり、また、50質量部以下にすることにより良好な相溶性をさらに得易くなる。この際、ケイ素化合物群の含有量とポリシロキサン化合物群の含有量との比は、0.5:1〜4:1とすることができるが、1:1〜2:1であってもよい。これらの化合物の含有量の比を0.5:1以上とすることにより良好な相溶性をさらに得易くなり、また、4:1以下とすることによりゲルの収縮をさらに抑制し易くなる。
上記ゾルに含まれるシリカ粒子の含有量は、ゾルの総量100質量部に対し、1質量部以上とすることができ、4質量部以上であってもよい。当該含有量は、ゾルの総量100質量部に対し、20質量部以下とすることができ、15質量部以下であってもよい。すなわち、シリカ粒子の含有量は、ゾルの総量100質量部に対し、1〜20質量部とすることができるが、4〜15質量部であってもよい。含有量を1質量部以上にすることにより適度な強度をエアロゲルに付与し易くなり、乾燥時の耐収縮性に優れるエアロゲル複合体が得易くなる。また、含有量を20質量部以下にすることによりシリカ粒子の固体熱伝導を抑制し易くなり、断熱性に優れるエアロゲル複合体が得易くなる。
<エアロゲル複合体の具体的態様>
本実施形態のエアロゲル複合体は、シラノール基数が10×1018〜1000×1018個/gである上記のシリカ粒子と、(分子内に)加水分解性の官能基又は縮合性の官能基を有するケイ素化合物、及び、加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解生成物からなる群より選択される少なくとも一種と、を含有するゾルの縮合物である湿潤ゲルの乾燥物である(上記のゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥することで得られる)。なお、上記縮合物は、加水分解性の官能基を有するケイ素化合物の加水分解により得られた加水分解生成物の縮合反応により得られてもよく、加水分解により得られた官能基ではない縮合性の官能基を有するケイ素化合物の縮合反応により得られてもよい。ケイ素化合物は、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基の少なくとも一方を有していればよく、加水分解性の官能基及び縮合性の官能基の双方を有していてもよい。
本実施形態のエアロゲル複合体は、シロキサン結合(Si−O−Si)を含む主鎖を有するポリシロキサンを含有することができる。エアロゲル複合体は、構造単位として、下記M単位、D単位、T単位又はQ単位を有することができる。
上記式中、Rは、ケイ素原子に結合している原子(水素原子等)又は原子団(アルキル基等)を示す。M単位は、ケイ素原子が1個の酸素原子と結合した一価の基からなる単位である。D単位は、ケイ素原子が2個の酸素原子と結合した二価の基からなる単位である。T単位は、ケイ素原子が3個の酸素原子と結合した三価の基からなる単位である。Q単位は、ケイ素原子が4個の酸素原子と結合した四価の基からなる単位である。これらの単位の含有量に関する情報は、Si−NMRにより得ることができる。
本実施形態のエアロゲル複合体におけるエアロゲル成分としては、以下の態様が挙げられる。これらの態様を採用することにより、エアロゲル複合体の断熱性及び柔軟性を所望の水準に制御することが容易となる。各々の態様を採用することで、各々の態様に応じた熱伝導率及び圧縮弾性率を有するエアロゲル複合体を得ることができる。したがって、用途に応じた断熱性及び柔軟性を有するエアロゲル複合体を提供することができる。
本実施形態のエアロゲル複合体は、下記一般式(1)で表される構造を有することができる。本実施形態のエアロゲル複合体は、式(1)で表される構造を含む構造として、下記一般式(1a)で表される構造を有することができる。上記一般式(A)で表される構造を有するポリシロキサン化合物を使用することにより、式(1)及び式(1a)で表される構造をエアロゲル複合体の骨格中に導入することができる。
式(1)及び式(1a)中、R1及びR2はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、R3及びR4はそれぞれ独立にアルキレン基を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。なお、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。pは1〜50の整数を示す。式(1a)中、2個以上のR1は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に、2個以上のR2は各々同一であっても異なっていてもよい。式(1a)中、2個のR3は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に、2個のR4は各々同一であっても異なっていてもよい。
上記式(1)又は式(1a)で表される構造をエアロゲル成分としてエアロゲル複合体の骨格中に導入することにより、低熱伝導率かつ柔軟なエアロゲル複合体となる。このような観点から、式(1)及び式(1a)中、R1及びR2としては、それぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。また、式(1)及び式(1a)中、R3及びR4としては、それぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。式(1a)中、pは2〜30とすることができ、5〜20であってもよい。
本実施形態のエアロゲル複合体は、支柱部及び橋かけ部を備えるラダー型構造を有するエアロゲル複合体であり、かつ橋かけ部が下記一般式(2)で表される構造を有するエアロゲル複合体であってもよい。このようなラダー型構造をエアロゲル成分としてエアロゲル複合体の骨格中に導入することにより、耐熱性と機械的強度を向上させることができる。上記一般式(B)で表される構造を有するポリシロキサン化合物を使用することにより、一般式(2)で表される橋かけ部を有するラダー型構造をエアロゲル複合体の骨格中に導入することができる。なお、本実施形態において「ラダー型構造」とは、2本の支柱部(struts)と支柱部同士を連結する橋かけ部(bridges)とを有するもの(いわゆる「梯子」の形態を有するもの)である。本態様において、エアロゲル複合体の骨格がラダー型構造からなっていてもよいが、エアロゲル複合体が部分的にラダー型構造を有していてもよい。
式(2)中、R5及びR6はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、bは1〜50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(2)中、bが2以上の整数の場合、2個以上のR5は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR6も各々同一であっても異なっていてもよい。
上記の構造をエアロゲル成分としてエアロゲル複合体の骨格中に導入することにより、例えば、従来のラダー型シルセスキオキサンに由来する構造を有する(すなわち、下記一般式(X)で表される構造を有する)エアロゲルよりも優れた柔軟性を有するエアロゲル複合体となる。シルセスキオキサンは、組成式:(RSiO1.5)nを有するポリシロキサンであり、カゴ型、ラダー型、ランダム型等の種々の骨格構造を有することができる。下記一般式(X)に示すように、従来のラダー型シルセスキオキサンに由来する構造を有するエアロゲルでは、橋かけ部の構造が−O−(構造単位として上記T単位を有する)であるが、本態様のエアロゲル複合体では、橋かけ部の構造が上記一般式(2)で表される構造(ポリシロキサン構造)である。ただし、本実施形態のエアロゲルは、一般式(1)〜(3)で表される構造に加え、さらにシルセスキオキサンに由来する構造を有していてもよい。
式(X)中、Rはヒドロキシ基、アルキル基又はアリール基を示す。
支柱部となる構造及びその鎖長、並びに橋かけ部となる構造の間隔は特に限定されないが、耐熱性と機械的強度とをより向上させるという観点から、ラダー型構造としては、下記一般式(3)で表されるラダー型構造を有していてもよい。
式(3)中、R5、R6、R7及びR8はそれぞれ独立にアルキル基又はアリール基を示し、a及びcはそれぞれ独立に1〜3000の整数を示し、bは1〜50の整数を示す。ここで、アリール基としては、フェニル基、置換フェニル基等が挙げられる。また、置換フェニル基の置換基としては、アルキル基、ビニル基、メルカプト基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。なお、式(3)中、bが2以上の整数の場合、2個以上のR5は各々同一であっても異なっていてもよく、同様に2個以上のR6も各々同一であっても異なっていてもよい。また、式(3)中、aが2以上の整数の場合、2個以上のR7は各々同一であっても異なっていてもよく、同様にcが2以上の整数の場合、2個以上のR8は各々同一であっても異なっていてもよい。
なお、より優れた柔軟性を得る観点から、式(2)及び(3)中、R5、R6、R7及びR8(ただし、R7及びR8は式(3)中のみ)としては、それぞれ独立に炭素数が1〜6のアルキル基、フェニル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。また、式(3)中、a及びcは、それぞれ独立に6〜2000とすることができるが、10〜1000であってもよい。また、式(2)及び(3)中、bは、2〜30とすることができるが、5〜20であってもよい。
本実施形態のエアロゲル複合体は、下記一般式(4)で表される構造を有することができる。本実施形態のエアロゲル複合体は、シリカ粒子を含有すると共に、下記一般式(4)で表される構造を有することができる。
式(4)中、R9はアルキル基を示す。ここで、アルキル基としては、炭素数が1〜6のアルキル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。
本実施形態のエアロゲル複合体は、下記一般式(5)で表される構造を有することができる。本実施形態のエアロゲル複合体は、シリカ粒子を含有すると共に、下記一般式(5)で表される構造を有することができる。
式(5)中、R10及びR11はそれぞれ独立にアルキル基を示す。ここで、アルキル基としては、炭素数が1〜6のアルキル基等が挙げられ、当該アルキル基としては、メチル基等が挙げられる。
本実施形態のエアロゲル複合体は、下記一般式(6)で表される構造を有することができる。本実施形態のエアロゲル複合体は、シリカ粒子を含有すると共に、下記一般式(6)で表される構造を有することができる。
式(6)中、R12はアルキレン基を示す。ここで、アルキレン基としては、炭素数が1〜10のアルキレン基等が挙げられ、当該アルキレン基としては、エチレン基、ヘキシレン基等が挙げられる。
<エアロゲル複合体の物性>
[熱伝導率]
本実施形態のエアロゲル複合体において、大気圧下、25℃における熱伝導率は0.03W/m・K以下とすることができるが、0.025W/m・K以下であってもよく、又は0.02W/m・K以下であってもよい。熱伝導率が0.03W/m・K以下であることにより、高性能断熱材であるポリウレタンフォーム以上の断熱性を得ることができる。なお、熱伝導率の下限値は特に限定されないが、例えば0.01W/m・Kとすることができる。
熱伝導率は、定常法により測定することができる。具体的には例えば、定常法熱伝導率測定装置「HFM436Lambda」(NETZSCH社製、製品名、HFM436Lambdaは登録商標)を用いて測定することができる。定常法熱伝導率測定装置を用いた熱伝導率の測定方法の概要は次の通りである。
(測定サンプルの準備)
刃角約20〜25度の刃を用いて、エアロゲル複合体を150mm×150mm×100mmのサイズに加工し、測定サンプルとする。なお、HFM436Lambdaにおける推奨サンプルサイズは300mm×300mm×100mmであるが、上記サンプルサイズで測定した際の熱伝導率は、推奨サンプルサイズで測定した際の熱伝導率と同程度の値となることを確認済みである。次に、面の平行を確保するために、必要に応じて#1500以上の紙やすりで測定サンプルを整形する。そして、熱伝導率測定前に、定温乾燥機「DVS402」(ヤマト科学株式会社製、製品名)を用いて、大気圧下、100℃で30分間、測定サンプルを乾燥する。次いで測定サンプルをデシケータ中に移し、25℃まで冷却する。これにより、熱伝導率測定用の測定サンプルを得る。
(測定方法)
測定条件は、大気圧下、平均温度25℃とする。上記の通り得られた測定サンプルを0.3MPaの荷重にて上部及び下部ヒーター間に挟み、温度差ΔTを20℃とし、ガードヒーターによって一次元の熱流になるように調整しながら、測定サンプルの上面温度、下面温度等を測定する。そして、測定サンプルの熱抵抗RSを次式より求める。
RS=N((TU−TL)/Q)−RO
式中、TUは測定サンプル上面温度を示し、TLは測定サンプル下面温度を示し、ROは上下界面の接触熱抵抗を示し、Qは熱流束計出力を示す。なお、Nは比例係数であり、較正試料を用いて予め求めておく。
得られた熱抵抗RSより、測定サンプルの熱伝導率λを次式より求める。
λ=d/RS
式中、dは測定サンプルの厚さを示す。
[圧縮弾性率]
本実施形態のエアロゲル複合体において、25℃における圧縮弾性率は3MPa以下とすることができるが、2MPa以下であってもよく、1MPa以下であってもよく、又は0.5MPa以下であってもよい。圧縮弾性率が3MPa以下であることにより、取り扱い性に優れるエアロゲル複合体とし易くなる。なお、圧縮弾性率の下限値は特に限定されないが、例えば0.05MPaとすることができる。
[変形回復率]
本実施形態のエアロゲル複合体において、25℃における変形回復率は90%以上とすることができるが、94%以上であってもよく、又は98%以上であってもよい。変形回復率が90%以上であることにより、優れた強度、変形に対する優れた柔軟性等をより得易くなる。なお、変形回復率の上限値は特に限定されないが、例えば100%又は99%とすることができる。
[最大圧縮変形率]
本実施形態のエアロゲル複合体において、25℃における最大圧縮変形率は80%以上とすることができるが、83%以上であってもよく、又は86%以上であってもよい。最大圧縮変形率が80%以上であることにより、優れた強度、変形に対する優れた柔軟性等をより得易くなる。なお、最大圧縮変形率の上限値は特に限定されないが、例えば90%とすることができる。
これら圧縮弾性率、変形回復率及び最大圧縮変形率は、小型卓上試験機「EZTest」(株式会社島津製作所製、製品名)を用いて測定することができる。小型卓上試験機を用いた圧縮弾性率等の測定方法の概要は次の通りである。
(測定サンプルの準備)
刃角約20〜25度の刃を用いて、エアロゲル複合体を7.0mm角の立方体(サイコロ状)に加工し、測定サンプルとする。次に、面の平行を確保するために、必要に応じて#1500以上の紙やすりで測定サンプルを整形する。そして、測定前に、定温乾燥機「DVS402」(ヤマト科学株式会社製、製品名)を用いて、大気圧下、100℃で30分間、測定サンプルを乾燥する。次いで測定サンプルをデシケータ中に移し、25℃まで冷却する。これにより、圧縮弾性率、変形回復率及び最大圧縮変形率測定用の測定サンプルを得る。
(測定方法)
500Nのロードセルを使用する。また、ステンレス製の上圧盤(φ20mm)、下圧盤(φ118mm)を圧縮測定用冶具として用いる。測定サンプルをこれら冶具の間にセットし、1mm/minの速度で圧縮を行い、25℃における測定サンプルサイズの変位等を測定する。測定は、500N超の負荷をかけた時点又は測定サンプルが破壊した時点で終了とする。ここで、圧縮ひずみεは次式より求めることができる。
ε=Δd/d1
式中、Δdは負荷による測定サンプルの厚みの変位(mm)を示し、d1は負荷をかける前の測定サンプルの厚み(mm)を示す。
また、圧縮応力σ(MPa)は、次式より求めることができる。
σ=F/A
式中、Fは圧縮力(N)を示し、Aは負荷をかける前の測定サンプルの断面積(mm2)を示す。
圧縮弾性率E(MPa)は、例えば0.1〜0.2Nの圧縮力範囲において、次式より求めることができる。
E=(σ2−σ1)/(ε2−ε1)
式中、σ1は圧縮力が0.1Nにおいて測定される圧縮応力(MPa)を示し、σ2は圧縮力が0.2Nにおいて測定される圧縮応力(MPa)を示し、ε1は圧縮応力σ1において測定される圧縮ひずみを示し、ε2は圧縮応力σ2において測定される圧縮ひずみを示す。
一方、変形回復率及び最大圧縮変形率は、負荷をかける前の測定サンプルの厚みをd1、500Nの最大負荷をかけた時点又は測定サンプルが破壊した時点の測定サンプルの厚みをd2、負荷を取り除いた後の測定サンプルの厚みをd3として、以下の式に従って算出することができる。
変形回復率=(d3−d2)/(d1−d2)×100
最大圧縮変形率=(d1−d2)/d1×100
なお、これら熱伝導率、圧縮弾性率、変形回復率及び最大圧縮変形率は、後述するエアロゲル複合体の製造条件、原料等を変更することにより適宜調整することができる。
[密度及び気孔率]
本実施形態のエアロゲル複合体において、細孔3のサイズ、すなわち平均細孔径は5〜1000nmとすることができるが、25〜500nmであってもよい。平均細孔径が5nm以上であることにより、柔軟性に優れるエアロゲル複合体が得易くなり、また、1000nm以下であることにより、断熱性に優れるエアロゲル複合体が得易くなる。
本実施形態のエアロゲル複合体において、25℃における密度は0.05〜0.25g/cm3とすることができるが、0.1〜0.2g/cm3であってもよい。密度が0.05g/cm3以上であることにより、より優れた強度及び柔軟性を得ることができ、また、0.25g/cm3以下であることにより、より優れた断熱性を得ることができる。
本実施形態のエアロゲル複合体において、25℃における気孔率は85〜95%とすることができるが、87〜93%であってもよい。気孔率が85%以上であることにより、より優れた断熱性を得ることができ、また、95%以下であることにより、より優れた強度及び柔軟性を得ることができる。
エアロゲル複合体についての、3次元網目状に連続した細孔(通孔)の平均細孔径、密度及び気孔率は、DIN66133に準じて水銀圧入法により測定することができる。測定装置としては、例えばオートポアIV9520(株式会社島津製作所製、製品名)を用いることができる。
<エアロゲル複合体の製造方法>
次に、エアロゲル複合体の製造方法について説明する。エアロゲル複合体の製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法により製造することができる。
すなわち、本実施形態のエアロゲル複合体は、ゾル生成工程と、ゾル生成工程で得られたゾルをゲル化し、その後熟成して湿潤ゲルを得る湿潤ゲル生成工程と、湿潤ゲル生成工程で得られた湿潤ゲルを洗浄及び(必要に応じ)溶媒置換する工程と、洗浄及び溶媒置換した湿潤ゲルを乾燥する乾燥工程とを主に備える製造方法により製造することができる。なお、「ゾル」とは、ゲル化反応が生じる前の状態であって、本実施形態においては上記ケイ素化合物群と、場合によりポリシロキサン化合物群と、シリカ粒子とが溶媒中に溶解若しくは分散している状態を意味する。また、湿潤ゲルとは、液体媒体を含んでいながらも、流動性を有しない湿潤状態のゲル固形物を意味する。
以下、本実施形態のエアロゲル複合体の製造方法の各工程について説明する。
(ゾル生成工程)
ゾル生成工程は、上述のケイ素化合物と、場合によりポリシロキサン化合物と、シリカ粒子及び/又はシリカ粒子を含む溶媒とを混合し、加水分解させてゾルを生成する工程である。本工程においては、加水分解反応を促進させるため、溶媒中にさらに酸触媒を添加してもよい。また、特許第5250900号公報に示されるように、溶媒中に界面活性剤、熱加水分解性化合物等を添加することもできる。さらに、熱線輻射抑制等を目的として、溶媒中にカーボングラファイト、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物、銀化合物、チタン化合物等の成分を添加してもよい。
溶媒としては、例えば、水、又は、水及びアルコール類の混合液を用いることができる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等が挙げられる。これらの中でも、ゲル壁との界面張力を低減させる点で、表面張力が低くかつ沸点の低いアルコールとしては、メタノール、エタノール、2−プロパノール等が挙げられる。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
例えば溶媒としてアルコール類を用いる場合、アルコール類の量は、ケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の総量1モルに対し、4〜8モルとすることができるが、4〜6.5であってもよく、又は4.5〜6モルであってもよい。アルコール類の量を4モル以上にすることにより良好な相溶性をさらに得易くなり、また、8モル以下にすることによりゲルの収縮をさらに抑制し易くなる。
酸触媒としては、フッ酸、塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、臭素酸、塩素酸、亜塩素酸、次亜塩素酸等の無機酸類;酸性リン酸アルミニウム、酸性リン酸マグネシウム、酸性リン酸亜鉛等の酸性リン酸塩類;酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸、アジピン酸、アゼライン酸等の有機カルボン酸類などが挙げられる。これらの中でも、得られるエアロゲル複合体の耐水性をより向上する酸触媒としては有機カルボン酸類が挙げられる。当該有機カルボン酸類としては酢酸が挙げられるが、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸等であってもよい。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
酸触媒を用いることで、ケイ素化合物及びポリシロキサン化合物の加水分解反応を促進させて、より短時間でゾルを得ることができる。
酸触媒の添加量は、ケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の総量100質量部に対し、0.001〜0.1質量部とすることができる。
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、イオン性界面活性剤等を用いることができる。これらは単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物、ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物などを使用できる。ポリオキシエチレン等の親水部と主にアルキル基からなる疎水部とを含む化合物としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。ポリオキシプロピレン等の親水部を含む化合物としては、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロック共重合体等が挙げられる。
イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、臭化セチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム等が挙げられ、アニオン性界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、両イオン性界面活性剤としては、アミノ酸系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤、アミンオキシド系界面活性剤等が挙げられる。アミノ酸系界面活性剤としては、例えば、アシルグルタミン酸等が挙げられる。ベタイン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン等が挙げられる。アミンオキシド系界面活性剤としては、例えばラウリルジメチルアミンオキシドが挙げられる。
これらの界面活性剤は、後述する湿潤ゲル生成工程において、反応系中の溶媒と、成長していくシロキサン重合体との間の化学的親和性の差異を小さくし、相分離を抑制する作用をすると考えられている。
界面活性剤の添加量は、界面活性剤の種類、あるいはケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の種類並びに量にも左右されるが、例えばケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の総量100質量部に対し、1〜100質量部とすることができる。なお、同添加量は5〜60質量部であってもよい。
熱加水分解性化合物は、熱加水分解により塩基触媒を発生して、反応溶液を塩基性とし、後述する湿潤ゲル生成工程でのゾルゲル反応を促進すると考えられている。よって、この熱加水分解性化合物としては、加水分解後に反応溶液を塩基性にできる化合物であれば、特に限定されず、尿素;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等の酸アミド;ヘキサメチレンテトラミン等の環状窒素化合物などを挙げることができる。これらの中でも、特に尿素は上記促進効果を得られ易い。
熱加水分解性化合物の添加量は、後述する湿潤ゲル生成工程でのゾルゲル反応を十分に促進することができる量であれば、特に限定されない。例えば、熱加水分解性化合物として尿素を用いた場合、その添加量は、ケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の総量100質量部に対して、1〜200質量部とすることができる。なお、同添加量は2〜150質量部であってもよい。添加量を1質量部以上とすることにより、良好な反応性をさらに得易くなり、また、200質量部以下とすることにより、結晶の析出及びゲル密度の低下をさらに抑制し易くなる。
ゾル生成工程の加水分解は、混合液中のケイ素化合物、ポリシロキサン化合物、シリカ粒子、酸触媒、界面活性剤等の種類及び量にも左右されるが、例えば20〜60℃の温度環境下で10分〜24時間行ってもよく、50〜60℃の温度環境下で5分〜8時間行ってもよい。これにより、ケイ素化合物及びポリシロキサン化合物中の加水分解性官能基が十分に加水分解され、ケイ素化合物の加水分解生成物及びポリシロキサン化合物の加水分解生成物をより確実に得ることができる。
ただし、溶媒中に熱加水分解性化合物を添加する場合は、ゾル生成工程の温度環境を、熱加水分解性化合物の加水分解を抑制してゾルのゲル化を抑制する温度に調節してもよい。この時の温度は、熱加水分解性化合物の加水分解を抑制できる温度であれば、いずれの温度であってもよい。例えば、熱加水分解性化合物として尿素を用いた場合は、ゾル生成工程の温度環境は0〜40℃とすることができるが、10〜30℃であってもよい。
(湿潤ゲル生成工程)
湿潤ゲル生成工程は、ゾル生成工程で得られたゾルをゲル化し、その後熟成して湿潤ゲルを得る工程である。本工程では、ゲル化を促進させるため塩基触媒を用いることができる。
塩基触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化アンモニウム、フッ化アンモニウム、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム等のアンモニウム化合物;メタ燐酸ナトリウム、ピロ燐酸ナトリウム、ポリ燐酸ナトリウム等の塩基性燐酸ナトリウム塩;アリルアミン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−エトキシプロピルアミン、ジイソブチルアミン、3−(ジエチルアミノ)プロピルアミン、ジ−2−エチルヘキシルアミン、3−(ジブチルアミノ)プロピルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、t−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、プロピルアミン、3−(メチルアミノ)プロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3−メトキシアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の脂肪族アミン類;モルホリン、N−メチルモルホリン、2−メチルモルホリン、ピペラジン及びその誘導体、ピペリジン及びその誘導体、イミダゾール及びその誘導体等の含窒素複素環状化合物類などが挙げられる。これらの中でも、水酸化アンモニウム(アンモニア水)は、揮発性が高く、乾燥後のエアロゲル複合体中に残存し難いため耐水性を損ない難いという点、さらには経済性の点で優れている。上記の塩基触媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
塩基触媒を用いることで、ゾル中のケイ素化合物群、ポリシロキサン化合物群、及びシリカ粒子の、脱水縮合反応及び/又は脱アルコール縮合反応を促進することができ、ゾルのゲル化をより短時間で行うことができる。また、これにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができる。特に、アンモニアは揮発性が高く、エアロゲル複合体中に残留し難いので、塩基触媒としてアンモニアを用いることで、より耐水性の優れたエアロゲル複合体を得ることができる。
塩基触媒の添加量は、ケイ素化合物群及びポリシロキサン化合物群の総量100質量部に対し、0.5〜5質量部とすることができるが、1〜4質量部であってもよい。0.5質量部以上とすることにより、ゲル化をより短時間で行うことができ、5質量部以下とすることにより、耐水性の低下をより抑制することができる。
湿潤ゲル生成工程におけるゾルのゲル化は、溶媒及び塩基触媒が揮発しないように密閉容器内で行ってもよい。ゲル化温度は、30〜90℃とすることができるが、40〜80℃であってもよい。ゲル化温度を30℃以上とすることにより、ゲル化をより短時間に行うことができ、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができる。また、ゲル化温度を90℃以下にすることにより、溶媒(特にアルコール類)の揮発を抑制し易くなるため、体積収縮を抑えながらゲル化することができる。
湿潤ゲル生成工程における熟成は、溶媒及び塩基触媒が揮発しないように密閉容器内で行ってもよい。熟成により、湿潤ゲルを構成する成分の結合が強くなり、その結果、乾燥時の収縮を抑制するのに十分な強度(剛性)の高い湿潤ゲルを得ることができる。熟成温度は、30〜90℃とすることができるが、40〜80℃であってもよい。熟成温度を30℃以上とすることにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができ、熟成温度を90℃以下にすることにより、溶媒(特にアルコール類)の揮発を抑制し易くなるため、体積収縮を抑えながらゲル化することができる。
なお、ゾルのゲル化終了時点を判別することは困難な場合が多いため、ゾルのゲル化とその後の熟成とは、連続して一連の操作で行ってもよい。
ゲル化時間と熟成時間は、ゲル化温度及び熟成温度により異なるが、本実施形態においてはゾル中にシリカ粒子が含まれていることから、従来のエアロゲルの製造方法と比較して特にゲル化時間を短縮することができる。この理由は、ゾル中のケイ素化合物、ポリシロキサン化合物等が有するシラノール基及び/又は反応性基が、シリカ粒子のシラノール基と水素結合及び/又は化学結合を形成するためであると推察する。なお、ゲル化時間は10〜120分間とすることができるが、20〜90分間であってもよい。ゲル化時間を10分間以上とすることにより均質な湿潤ゲルを得易くなり、120分間以下とすることにより後述する洗浄及び溶媒置換工程から乾燥工程の簡略化が可能となる。なお、ゲル化及び熟成の工程全体として、ゲル化時間と熟成時間との合計時間は、4〜480時間とすることができるが、6〜120時間であってもよい。ゲル化時間と熟成時間の合計を4時間以上とすることにより、強度(剛性)のより高い湿潤ゲルを得ることができ、480時間以下にすることにより熟成の効果をより維持し易くなる。
得られるエアロゲル複合体の密度を下げたり、平均細孔径を大きくするために、ゲル化温度及び熟成温度を上記範囲内で高めたり、ゲル化時間と熟成時間の合計時間を上記範囲内で長くしてもよい。また、得られるエアロゲル複合体の密度を上げたり、平均細孔径を小さくするために、ゲル化温度及び熟成温度を上記範囲内で低くしたり、ゲル化時間と熟成時間の合計時間を上記範囲内で短くしてもよい。
(洗浄及び溶媒置換工程)
洗浄及び溶媒置換工程は、上記湿潤ゲル生成工程により得られた湿潤ゲルを洗浄する工程(洗浄工程)と、湿潤ゲル中の洗浄液を乾燥条件(後述の乾燥工程)に適した溶媒に置換する工程(溶媒置換工程)を有する工程である。洗浄及び溶媒置換工程は、湿潤ゲルを洗浄する工程を行わず、溶媒置換工程のみを行う形態でも実施可能であるが、湿潤ゲル中の未反応物、副生成物等の不純物を低減し、より純度の高いエアロゲル複合体の製造を可能にする観点からは、湿潤ゲルを洗浄してもよい。なお、本実施形態においては、ゲル中にシリカ粒子が含まれていることから、後述するように溶媒置換工程は必ずしも必須ではない。
洗浄工程では、上記湿潤ゲル生成工程で得られた湿潤ゲルを洗浄する。当該洗浄は、例えば水又は有機溶媒を用いて繰り返し行うことができる。この際、加温することにより洗浄効率を向上させることができる。
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、1,2−ジメトキシエタン、アセトニトリル、ヘキサン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、N、N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、酢酸、ギ酸等の各種の有機溶媒を使用することができる。上記の有機溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
後述する溶媒置換工程では、乾燥によるゲルの収縮を抑制するため、低表面張力の溶媒を用いることができる。しかし、低表面張力の溶媒は、一般的に水との相互溶解度が極めて低い。そのため、溶媒置換工程において低表面張力の溶媒を用いる場合、洗浄工程で用いる有機溶媒としては、水及び低表面張力の溶媒の双方に対して高い相互溶解性を有する親水性有機溶媒が挙げられる。なお、洗浄工程において用いられる親水性有機溶媒は、溶媒置換工程のための予備置換の役割を果たすことができる。上記の有機溶媒の中で、親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。なお、メタノール、エタノール、メチルエチルケトン等は経済性の点で優れている。
洗浄工程に使用される水又は有機溶媒の量としては、湿潤ゲル中の溶媒を十分に置換し、洗浄できる量とすることができる。当該量は、湿潤ゲルの容量に対して3〜10倍の量とすることができる。洗浄は、洗浄後の湿潤ゲル中の含水率が、シリカ質量に対し、10質量%以下となるまで繰り返すことができる。
洗浄工程における温度環境は、洗浄に用いる溶媒の沸点以下の温度とすることができ、例えば、メタノールを用いる場合は、30〜60℃程度の加温とすることができる。
溶媒置換工程では、後述する乾燥工程における収縮を抑制するため、洗浄した湿潤ゲルの溶媒を所定の置換用溶媒に置き換える。この際、加温することにより置換効率を向上させることができる。置換用溶媒としては、具体的には、乾燥工程において、乾燥に用いられる溶媒の臨界点未満の温度にて、大気圧下で乾燥する場合は、後述の低表面張力の溶媒が挙げられる。一方、超臨界乾燥をする場合は、置換用溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、2−プロパノール、ジクロロジフルオロメタン、二酸化炭素等、又はこれらを2種以上混合した溶媒が挙げられる。
低表面張力の溶媒としては、20℃における表面張力が30mN/m以下の溶媒が挙げられる。なお、当該表面張力は25mN/m以下であっても、又は20mN/m以下であってもよい。低表面張力の溶媒としては、例えば、ペンタン(15.5)、ヘキサン(18.4)、ヘプタン(20.2)、オクタン(21.7)、2−メチルペンタン(17.4)、3−メチルペンタン(18.1)、2−メチルヘキサン(19.3)、シクロペンタン(22.6)、シクロヘキサン(25.2)、1−ペンテン(16.0)等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン(28.9)、トルエン(28.5)、m−キシレン(28.7)、p−キシレン(28.3)等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン(27.9)、クロロホルム(27.2)、四塩化炭素(26.9)、1−クロロプロパン(21.8)、2−クロロプロパン(18.1)等のハロゲン化炭化水素類;エチルエーテル(17.1)、プロピルエーテル(20.5)、イソプロピルエーテル(17.7)、ブチルエチルエーテル(20.8)、1,2−ジメトキシエタン(24.6)等のエーテル類;アセトン(23.3)、メチルエチルケトン(24.6)、メチルプロピルケトン(25.1)、ジエチルケトン(25.3)等のケトン類;酢酸メチル(24.8)、酢酸エチル(23.8)、酢酸プロピル(24.3)、酢酸イソプロピル(21.2)、酢酸イソブチル(23.7)、エチルブチレート(24.6)等のエステル類などが挙げられる(かっこ内は20℃での表面張力を示し、単位は[mN/m]である)。これらの中で、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン等)は低表面張力でありかつ作業環境性に優れている。また、これらの中でも、アセトン、メチルエチルケトン、1,2−ジメトキシエタン等の親水性有機溶媒を用いることで、上記洗浄工程の有機溶媒と兼用することができる。なお、これらの中でも、さらに後述する乾燥工程における乾燥が容易な点で、常圧での沸点が100℃以下の溶媒を用いてもよい。上記の溶媒は単独で、又は2種類以上を混合して用いてもよい。
溶媒置換工程に使用される溶媒の量としては、洗浄後の湿潤ゲル中の溶媒を十分に置換できる量とすることができる。当該量は、湿潤ゲルの容量に対して3〜10倍の量とすることができる。
溶媒置換工程における温度環境は、置換に用いる溶媒の沸点以下の温度とすることができ、例えば、ヘプタンを用いる場合は、30〜60℃程度の加温とすることができる。
なお、本実施形態においては、ゲル中にシリカ粒子が含まれていることから、上述のとおり溶媒置換工程は必ずしも必須ではない。推察されるメカニズムとしては次のとおりである。すなわち、従来であれば乾燥工程における収縮を抑制するため、湿潤ゲルの溶媒を所定の置換用溶媒(低表面張力の溶媒)に置き換えていたが、本実施形態においてはシリカ粒子が三次元網目状の骨格の支持体として機能することにより、当該骨格が支持され、乾燥工程におけるゲルの収縮が抑制される。そのため、洗浄に用いた溶媒を置換せずに、ゲルをそのまま乾燥工程に付すことができると考えられる。このように、本実施形態においては、洗浄及び溶媒置換工程から乾燥工程の簡略化が可能である。ただし、本実施形態は溶媒置換工程を行うことを何ら排除するものではない。
(乾燥工程)
乾燥工程では、上記のとおり洗浄及び(必要に応じ)溶媒置換した湿潤ゲルを乾燥させる。これにより、最終的にエアロゲル複合体を得ることができる。すなわち、上記ゾルから生成された湿潤ゲルを乾燥してなるエアロゲルを得ることができる。
乾燥の手法としては特に制限されず、公知の常圧乾燥、超臨界乾燥又は凍結乾燥を用いることができる。これらの中で、低密度のエアロゲル複合体を製造し易いという観点からは、常圧乾燥又は超臨界乾燥を用いることができる。また、低コストで生産可能という観点からは、常圧乾燥を用いることができる。なお、本実施形態において、常圧とは0.1MPa(大気圧)を意味する。
本実施形態のエアロゲル複合体は、洗浄及び(必要に応じ)溶媒置換した湿潤ゲルを、乾燥に用いられる溶媒の臨界点未満の温度にて、大気圧下で乾燥することにより得ることができる。乾燥温度は、置換された溶媒(溶媒置換を行わない場合は洗浄に用いられた溶媒)の種類により異なるが、特に高温での乾燥が溶媒の蒸発速度を速め、ゲルに大きな亀裂を生じさせる場合があるという点に鑑み、20〜150℃とすることができる。なお、当該乾燥温度は60〜120℃であってもよい。また、乾燥時間は、湿潤ゲルの容量及び乾燥温度により異なるが、4〜120時間とすることができる。なお、本実施形態において、生産性を阻害しない範囲内において臨界点未満の圧力をかけて乾燥を早めることも、常圧乾燥に包含されるものとする。
本実施形態のエアロゲル複合体は、また、洗浄及び(必要に応じ)溶媒置換した湿潤ゲルを、超臨界乾燥することによっても得ることができる。超臨界乾燥は、公知の手法にて行うことができる。超臨界乾燥する方法としては、例えば、湿潤ゲルに含まれる溶媒の臨界点以上の温度及び圧力にて溶媒を除去する方法が挙げられる。あるいは、超臨界乾燥する方法としては、湿潤ゲルを、液化二酸化炭素中に、例えば、20〜25℃、5〜20MPa程度の条件で浸漬することで、湿潤ゲルに含まれる溶媒の全部又は一部を当該溶媒より臨界点の低い二酸化炭素に置換した後、二酸化炭素を単独で、又は二酸化炭素及び溶媒の混合物を除去する方法が挙げられる。
このような常圧乾燥又は超臨界乾燥により得られたエアロゲル複合体は、さらに常圧下にて、105〜200℃で0.5〜2時間程度追加乾燥してもよい。これにより、密度が低く、小さな細孔を有するエアロゲル複合体をさらに得易くなる。追加乾燥は、常圧下にて、150〜200℃で行ってもよい。
<エアロゲル複合体付き支持部材>
本実施形態のエアロゲル複合体つき支持部材は、これまで説明したエアロゲル複合体と、当該エアロゲル複合体を担持する支持部材と、を備えるものである。このようなエアロゲル複合体つき支持部材であれば、高断熱性と優れた屈曲性とを発現することができる。
支持部材としては、例えば、フィルム状支持部材、シート状支持部材、箔状支持部材、多孔質支持部材等が挙げられる。
フィルム状支持部材は、高分子原料を薄い膜状に成形した部材であり、PET、ポリイミド等の有機フィルム、ガラスフィルムなどが挙げられる(金属蒸着フィルムも含む)。
シート状支持部材は、有機、無機及び/又は金属のファイバー状の原料を成形した部材であり、紙、不織布(ガラスマットも含む)、有機繊維クロス、ガラスクロス等が挙げられる。
箔状支持部材は、金属原料を薄い膜状に成形した部材であり、アルミ箔、銅箔等が挙げられる。
多孔質支持部材は、有機、無機及び/又は金属を原料とした多孔質構造を有する部材であり、多孔質有機材料(例えば、ポリウレタンフォーム)、多孔質無機材料(例えば、ゼオライトシート)、多孔質金属材料(例えば、ポーラス金属シート、多孔質アルミシート)等が挙げられる。
エアロゲル複合体つき支持部材は、例えば次のようにして作製することができる。まず、上述のゾル生成工程に従ってゾルを準備する。当該ゾルを支持部材上にフィルムアプリケーター等を用いて塗布した後、又は当該ゾルに支持部材を含浸させた後、上述の湿潤ゲル生成工程に従って湿潤ゲル付き支持部材を得る。そして、得られた湿潤ゲル付き支持部材を、上述の洗浄及び溶媒置換工程に従って洗浄及び(必要に応じ)溶媒置換を行い、さらに上述の乾燥工程に従って乾燥することにより、エアロゲル複合体つき支持部材を得ることができる。
フィルム状支持部材又は箔状支持部材上に形成したエアロゲル複合体の厚みは1〜200μmとすることができるが、10〜100μmであっても、又は30〜80μmであってもよい。1μm以上とすることで良好な断熱性を得易くなり、また、200μm以下とすることにより柔軟性を得易くなる。
以上のとおり説明をした本実施形態のエアロゲル複合体は、エアロゲル成分及びシリカ粒子を含有することにより、従来のエアロゲルでは達成困難であった優れた断熱性と柔軟性とを有している。特に優れた柔軟性は、従来達成困難であったフィルム状支持部材及び箔状支持部材上にエアロゲル複合体の層を形成することを可能とした。そのため、本実施形態のエアロゲル複合体つき支持部材は、高断熱性と優れた屈曲性とを有している。なお、シート状支持部材及び多孔質支持部材にゾルを含浸させる態様においても、乾燥後の取り扱い時にエアロゲル複合体の粉落ちを抑制することが可能である。
このような利点から、本実施形態のエアロゲル複合体及びエアロゲル複合体つき支持部材は、建築分野、自動車分野、家電製品、半導体分野、産業用設備等における断熱材としての用途等に適用できる。また、本実施形態のエアロゲル複合体は、断熱材としての用途の他に、塗料用添加剤、化粧品、アンチブロッキング剤、触媒担持体等として利用することができる。
<断熱材>
本実施形態の断熱材は、これまで説明したエアロゲル複合体を備えるものであり、高断熱性と優れた屈曲性とを有している。なお、上記エアロゲル複合体の製造方法により得られるエアロゲル複合体をそのまま(必要に応じ所定の形状に加工し)断熱材とすることができる。
次に、下記の実施例により本開示をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は本開示を制限するものではない。
(実施例1)[湿潤ゲル、エアロゲル複合体]
ケイ素化合物としてメチルトリメトキシシランLS−530(信越化学工業株式会社製、製品名:以下『MTMS』と略記)を60.0質量部及びジメチルジメトキシシランLS−520(信越化学工業株式会社製、製品名:以下『DMDMS』と略記)を40.0質量部、並びにシリカ粒子含有原料としてPL−2L(PL−2Lの詳細については表1に記載。シリカ粒子含有原料について以下同様。)を100.0質量部、水を40.0質量部及びメタノールを80.0質量部混合し、これに酸触媒として酢酸を0.10質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル1を得た。得られたゾル1に、塩基触媒として5%濃度のアンモニア水を40.0質量部加え、60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル1を得た。
その後、得られた湿潤ゲル1をメタノール2500.0質量部に浸漬し、60℃で12時間かけて洗浄を行った。この洗浄操作を、新しいメタノールに交換しながら3回行った。次に、洗浄した湿潤ゲルを、低表面張力溶媒であるヘプタン2500.0質量部に浸漬し、60℃で12時間かけて溶媒置換を行った。この溶媒置換操作を、新しいヘプタンに交換しながら3回行った。洗浄及び溶媒置換された湿潤ゲルを、常圧下にて、40℃で96時間乾燥し、その後さらに150℃で2時間乾燥することで、上記一般式(4)及び(5)で表される構造を有するエアロゲル複合体1を得た。
[エアロゲル複合体付き支持部材]
・エアロゲル複合体付きフィルム状支持部材
上記ゾル1を、(縦)300mm×(横)270mm×(厚)12μmのポリエチレンテレフタレート製フィルムに、ゲル化後の厚みが40μmとなるようにフィルムアプリケーター(テスター産業株式会社製、PI−1210)を用いて塗布し、60℃で3時間ゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル付きフィルム状支持部材1を得た。
その後、得られた湿潤ゲル付きフィルム状支持部材1をメタノール100mLに浸漬し、60℃で2時間かけて洗浄を行った。次に、洗浄した湿潤ゲル付きフィルム状支持部材を、メチルエチルケトン100mLに浸漬し、60℃で2時間かけて溶媒置換を行った。この溶媒置換操作を、新しいメチルエチルケトンに交換しながら2回行った。洗浄及び溶媒置換された湿潤ゲル付きフィルム状支持部材を、常圧下にて、120℃で6時間乾燥することでエアロゲル複合体付きフィルム状支持部材1を得た。
・エアロゲル複合体付きシート状支持部材
上記ゾル1を、(縦)300mm×(横)270mm×(厚)100μmのEガラスクロスに、ゲル化後のシート状支持部材の厚みが120μmとなるように含浸し、60℃で3時間ゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル付きシート状支持部材1を得た。
その後、得られた湿潤ゲル付きシート状支持部材1をメタノール300mLに浸漬し、60℃で2時間かけて洗浄を行った。次に、洗浄した湿潤ゲル付きシート状支持部材を、メチルエチルケトン300mLに浸漬し、60℃で2時間かけて溶媒置換を行った。この溶媒置換操作を、新しいメチルエチルケトンに交換しながら2回行った。洗浄及び溶媒置換された湿潤ゲル付きシート状支持部材を、常圧下にて、120℃で8時間乾燥することでエアロゲル複合体付きシート状支持部材1を得た。
・エアロゲル複合体付き箔状支持部材
上記ゾル1を、(縦)300mm×(横)270mm×(厚)12μmのアルミニウム箔に、ゲル化後の厚みが40μmとなるようにフィルムアプリケーターを用いて塗布し、60℃で3時間ゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル付き箔状支持部材1を得た。
その後、得られた湿潤ゲル付き箔状支持部材1をメタノール100mLに浸漬し、60℃で2時間かけて洗浄を行った。次に、洗浄した湿潤ゲル付き箔状支持部材を、メチルエチルケトン100mLに浸漬し、60℃で2時間かけて溶媒置換を行った。この溶媒置換操作を、新しいメチルエチルケトンに交換しながら2回行った。洗浄及び溶媒置換された湿潤ゲル付き箔状支持部材を、常圧下にて、120℃で6時間乾燥することでエアロゲル複合体付き箔状支持部材1を得た。
・エアロゲル複合体付き多孔質支持部材
上記ゾル1を、(縦)300mm×(横)270mm×(厚)10mmの軟質ウレタンフォームに、ゲル化後の多孔質支持部材の厚みが10mmとなるように含浸し、60℃で3時間ゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル付き多孔質支持部材1を得た。
その後、得られた湿潤ゲル付き多孔質支持部材1をメタノール300mLに浸漬し、60℃で2時間かけて洗浄を行った。次に、洗浄した湿潤ゲル付き多孔質支持部材を、メチルエチルケトン300mLに浸漬し、60℃で2時間かけて溶媒置換を行った。この溶媒置換操作を、新しいメチルエチルケトンに交換しながら2回行った。洗浄及び溶媒置換された湿潤ゲル付き多孔質支持部材を、常圧下にて、120℃で10時間乾燥することでエアロゲル複合体付き多孔質支持部材1を得た。
(実施例2)[湿潤ゲル、エアロゲル複合体]
シリカ粒子含有原料としてPL−2Lを100.0質量部、水を100.0質量部、酸触媒として酢酸を0.10質量部、カチオン系界面活性剤として臭化セチルトリメチルアンモニウム(和光純薬工業株式会社製:以下『CTAB』と略記)を20.0質量部及び熱加水分解性化合物として尿素を120.0質量部混合し、これにケイ素化合物としてMTMSを70.0質量部及びDMDMSを30.0質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル2を得た。得られたゾル2を60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル2を得た。その後、得られた湿潤ゲル2を用いて、実施例1と同様にして上記一般式(4)及び(5)で表される構造を有するエアロゲル複合体2を得た。
[エアロゲル複合体付き支持部材]
上記ゾル2を用いて、実施例1と同様にして、エアロゲル複合体付きフィルム状支持部材2、エアロゲル複合体付きシート状支持部材2、エアロゲル複合体付き箔状支持部材2及びエアロゲル複合体付き多孔質支持部材2を得た。
(実施例3)[湿潤ゲル、エアロゲル複合体]
シリカ粒子含有原料としてPL−5を200.0質量部、酸触媒として酢酸を0.10質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを20.0質量部及び熱加水分解性化合物として尿素を120.0質量部混合し、これにケイ素化合物としてMTMSを60.0質量部及びDMDMSを40.0質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル3を得た。得られたゾル3を60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル3を得た。その後、得られた湿潤ゲル3を用いて、実施例1と同様にして上記一般式(4)及び(5)で表される構造を有するエアロゲル複合体3を得た。
[エアロゲル複合体付き支持部材]
上記ゾル3を用いて、実施例1と同様にして、エアロゲル複合体付きフィルム状支持部材3、エアロゲル複合体付きシート状支持部材3、エアロゲル複合体付き箔状支持部材3及びエアロゲル複合体付き多孔質支持部材3を得た。
(実施例4)[湿潤ゲル、エアロゲル複合体]
シリカ粒子含有原料としてPL−2Lを100.0質量部、水を100.0質量部、酸触媒として酢酸を0.10質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを20.0質量部及び熱加水分解性化合物として尿素を120.0質量部混合し、これにケイ素化合物としてMTMSを60.0質量部及びDMDMSを20.0質量部、並びにポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Aを20.0質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル4を得た。得られたゾル4を60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル4を得た。その後、得られた湿潤ゲル4を用いて、実施例1と同様にして上記一般式(3)、(4)及び(5)で表される構造を有するエアロゲル複合体4を得た。
なお、上記「ポリシロキサン化合物A」は次のようにして合成した。まず、撹拌機、温度計及びジムロート冷却管を備えた1リットルの3つ口フラスコにて、ヒドロキシ末端ジメチルポリシロキサン「XC96−723」(モメンティブ社製、製品名)を100.0質量部、メチルトリメトキシシランを181.3質量部及びt−ブチルアミンを0.50質量部混合し、30℃で5時間反応させた。その後、この反応液を、1.3kPaの減圧下、140℃で2時間加熱し、揮発分を除去することで、両末端2官能アルコキシ変性ポリシロキサン化合物(ポリシロキサン化合物A)を得た。
[エアロゲル複合体付き支持部材]
上記ゾル4を用いて、実施例1と同様にして、エアロゲル複合体付きフィルム状支持部材4、エアロゲル複合体付きシート状支持部材4、エアロゲル複合体付き箔状支持部材4及びエアロゲル複合体付き多孔質支持部材4を得た。
(実施例5)[湿潤ゲル、エアロゲル複合体]
シリカ粒子含有原料としてHL−3Lを100.0質量部、水を100.0質量部、酸触媒として酢酸を0.10質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを20.0質量部及び熱加水分解性化合物として尿素を120.0質量部混合し、これにケイ素化合物としてMTMSを60.0質量部及びDMDMSを20.0質量部、並びにポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Aを20.0質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル5を得た。得られたゾル5を60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル5を得た。その後、得られた湿潤ゲル5を用いて、実施例1と同様にして上記一般式(3)、(4)及び(5)で表される構造を有するエアロゲル複合体5を得た。
[エアロゲル複合体付き支持部材]
上記ゾル5を用いて、実施例1と同様にして、エアロゲル複合体付きフィルム状支持部材5、エアロゲル複合体付きシート状支持部材5、エアロゲル複合体付き箔状支持部材5及びエアロゲル複合体付き多孔質支持部材5を得た。
(実施例6)[湿潤ゲル、エアロゲル複合体]
シリカ粒子含有原料としてST−OZL−35を143.0質量部、水を57.0質量部、酸触媒として酢酸を0.10質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを20.0質量部及び熱加水分解性化合物として尿素を120.0質量部混合し、これにケイ素化合物としてMTMSを60.0質量部及びDMDMSを20.0質量部、並びにポリシロキサン化合物としてポリシロキサン化合物Bを20.0質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル6を得た。得られたゾル6を60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル6を得た。その後、得られた湿潤ゲル6を用いて、実施例1と同様にして上記一般式(2)、(4)及び(5)で表される構造を有するエアロゲル複合体6を得た。
なお、上記「ポリシロキサン化合物B」は次のようにして合成した。まず、撹拌機、温度計及びジムロート冷却管を備えた1リットルの3つ口フラスコにて、XC96−723を100.0質量部、テトラメトキシシランを202.6質量部及びt−ブチルアミンを0.50質量部混合し、30℃で5時間反応させた。その後、この反応液を、1.3kPaの減圧下、140℃で2時間加熱し、揮発分を除去することで、両末端3官能アルコキシ変性ポリシロキサン化合物(ポリシロキサン化合物B)を得た。
[エアロゲル複合体付き支持部材]
上記ゾル6を用いて、実施例1と同様にして、エアロゲル複合体付きフィルム状支持部材6、エアロゲル複合体付きシート状支持部材6、エアロゲル複合体付き箔状支持部材6及びエアロゲル複合体付き多孔質支持部材6を得た。
(比較例1)[湿潤ゲル、エアロゲル]
水を200.0質量部、酸触媒として酢酸を0.10質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを20.0質量部及び熱加水分解性化合物として尿素を120.0質量部混合し、これにケイ素化合物としてMTMSを100.0質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル1Cを得た。得られたゾル1Cを60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル1Cを得た。その後、得られた湿潤ゲル1Cを用いて、実施例1と同様にしてエアロゲル1Cを得た。
[エアロゲル付き支持部材]
上記ゾル1Cを用いて、実施例1と同様にして、エアロゲル付きフィルム状支持部材1C、エアロゲル付きシート状支持部材1C、エアロゲル付き箔状支持部材1C及びエアロゲル付き多孔質支持部材1Cを得た。
(比較例2)
水を200.0質量部、酸触媒として酢酸を0.10質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを20.0質量部及び熱加水分解性化合物として尿素を120.0質量部混合し、これにケイ素化合物としてMTMSを80.0質量部及びDMDMSを20.0質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル2Cを得た。得られたゾル2Cを60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル2Cを得た。その後、得られた湿潤ゲル2Cを用いて、実施例1と同様にしてエアロゲル2Cを得た。
[エアロゲル付き支持部材]
上記ゾル2Cを用いて、実施例1と同様にして、エアロゲル付きフィルム状支持部材2C、エアロゲル付きシート状支持部材2C、エアロゲル付き箔状支持部材2C及びエアロゲル付き多孔質支持部材2Cを得た。
(比較例3)
水を200.0質量部、酸触媒として酢酸を0.10質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを20.0質量部及び熱加水分解性化合物として尿素を120.0質量部混合し、これにケイ素化合物としてMTMSを70.0質量部及びDMDMSを30.0質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル3Cを得た。得られたゾル3Cを60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル3Cを得た。その後、得られた湿潤ゲル3Cを用いて、実施例1と同様にしてエアロゲル3Cを得た。
[エアロゲル付き支持部材]
上記ゾル3Cを用いて、実施例1と同様にして、エアロゲル付きフィルム状支持部材3C、エアロゲル付きシート状支持部材3C、エアロゲル付き箔状支持部材3C及びエアロゲル付き多孔質支持部材3Cを得た。
(比較例4)
水を200.0質量部、酸触媒として酢酸を0.10質量部、カチオン系界面活性剤としてCTABを20.0質量部及び熱加水分解性化合物として尿素を120.0質量部混合し、これにケイ素化合物としてMTMSを60.0質量部及びDMDMSを40.0質量部加え、25℃で2時間反応させてゾル4Cを得た。得られたゾル4Cを60℃でゲル化した後、80℃で24時間熟成して湿潤ゲル4Cを得た。その後、得られた湿潤ゲル4Cを用いて、実施例1と同様にして比較例エアロゲル4Cを得た。
[エアロゲル付き支持部材]
上記ゾル4Cを用いて、実施例1と同様にして、エアロゲル付きフィルム状支持部材4C、エアロゲル付きシート状支持部材4C、エアロゲル付き箔状支持部材4C及びエアロゲル付き多孔質支持部材4Cを得た。
各実施例におけるシリカ粒子含有原料の態様を表1にまとめて示す。また、各実施例及び比較例における、乾燥方法、Si原料(ケイ素化合物及びポリシロキサン化合物)の種類及び添加量、並びにシリカ粒子含有原料の添加量を表2にまとめて示す。
[各種評価]
各実施例で得られた湿潤ゲル、エアロゲル複合体及びエアロゲル複合体付き支持部材、並びに各比較例で得られた湿潤ゲル、エアロゲル及びエアロゲル付き支持部材について、以下の条件に従って測定又は評価をした。湿潤ゲル生成工程におけるゲル化時間、メタノール置換ゲルの常圧乾燥におけるエアロゲル複合体及びエアロゲルの状態、並びにエアロゲル複合体及びエアロゲルの熱伝導率、圧縮弾性率、密度並びに気孔率の評価結果をまとめて表3に、エアロゲル複合体付き支持部材及びエアロゲル付き支持部材の180°屈曲試験の評価結果をまとめて表4に示す。
(1)ゲル化時間の測定
各実施例及び比較例で得られたゾル30mLを、100mLのPP製密閉容器に移し、測定サンプルとした。次に、60℃に設定した定温乾燥機「DVS402」(ヤマト科学株式会社製、製品名)を用い、測定サンプルを投入してからゲル化するまでの時間を計測した。
(2)メタノール置換ゲルの常圧乾燥におけるエアロゲル複合体及びエアロゲルの状態
各実施例及び比較例で得られた湿潤ゲル30.0質量部を、メタノール150.0質量部に浸漬し、60℃で12時間かけて洗浄を行った。この洗浄操作を、新しいメタノールに交換しながら3回行った。次に、洗浄された湿潤ゲルを、刃角約20〜25度の刃を用いて、100mm×100mm×100mmのサイズに加工し、乾燥前サンプルとした。得られた乾燥前サンプルを安全扉付き恒温器「SPH(H)−202」(エスペック株式会社製、製品名)を用い、60℃で2時間、100℃で3時間乾燥し、その後さらに150℃で2時間乾燥することで乾燥後サンプルを得た(特に溶媒蒸発速度等は制御していない)。ここで、サンプルの乾燥前後の体積収縮率SVを次式より求めた。そして、体積収縮率SVが5%以下であるときを「収縮なし」と評価し、5%以上であるときを「収縮」と評価した。
SV=(V0−V1)/V0×100
式中、V0は乾燥前サンプルの体積を示し、V1は乾燥後サンプルの体積を示す。
(3)熱伝導率の測定
刃角約20〜25度の刃を用いて、エアロゲル複合体及びエアロゲルを150mm×150mm×100mmのサイズに加工し、測定サンプルとした。次に、面の平行を確保するために、必要に応じて#1500以上の紙やすりで整形した。得られた測定サンプルを、熱伝導率測定前に、定温乾燥機「DVS402」(ヤマト科学株式会社製、製品名)を用いて、大気圧下、100℃で30分間乾燥した。次いで測定サンプルをデシケータ中に移し、25℃まで冷却した。これにより、熱伝導率測定用の測定サンプルを得た。
熱伝導率の測定は、定常法熱伝導率測定装置「HFM436Lambda」(NETZSCH社製、製品名)を用いて行った。測定条件は、大気圧下、平均温度25℃とした。上記のとおり得られた測定サンプルを0.3MPaの荷重にて上部及び下部ヒーター間に挟み、温度差ΔTを20℃とし、ガードヒーターによって一次元の熱流になるように調整しながら、測定サンプルの上面温度、下面温度等を測定した。そして、測定サンプルの熱抵抗RSを次式より求めた。
RS=N((TU−TL)/Q)−RO
式中、TUは測定サンプル上面温度を示し、TLは測定サンプル下面温度を示し、ROは上下界面の接触熱抵抗を示し、Qは熱流束計出力を示す。なお、Nは比例係数であり、較正試料を用いて予め求めておいた。
得られた熱抵抗RSより、測定サンプルの熱伝導率λを次式より求めた。
λ=d/RS
式中、dは測定サンプルの厚さを示す。
(4)圧縮弾性率の測定
刃角約20〜25度の刃を用いて、エアロゲル複合体及びエアロゲルを7.0mm角の立方体(サイコロ状)に加工し、測定サンプルとした。次に、面の平行を確保するために、必要に応じて#1500以上の紙やすりで測定サンプルを整形した。得られた測定サンプルを、測定前に、定温乾燥機「DVS402」(ヤマト科学株式会社製、製品名)を用いて、大気圧下、100℃で30分間乾燥した。次いで測定サンプルをデシケータ中に移し、25℃まで冷却した。これにより、圧縮弾性率測定用の測定サンプルを得た。
測定装置としては、小型卓上試験機「EZTest」(株式会社島津製作所製、製品名)を用いた。なお、ロードセルとしては500Nを使用した。また、ステンレス製の上圧盤(φ20mm)及び下圧盤(φ118mm)を圧縮測定用冶具として用いた。平行に配置した上圧盤及び下圧盤の間に測定サンプルをセットし、1mm/minの速度で圧縮を行った。測定温度は25℃とし、測定は、500N超の負荷をかけた時点又は測定サンプルが破壊した時点で終了とした。ここで、ひずみεは次式より求めた。
ε=Δd/d1
式中、Δdは負荷による測定サンプルの厚みの変位(mm)を示し、d1は負荷をかける前の測定サンプルの厚み(mm)を示す。
また、圧縮応力σ(MPa)は、次式より求めた。
σ=F/A
式中、Fは圧縮力(N)を示し、Aは負荷をかける前の測定サンプルの断面積(mm2)を示す。
圧縮弾性率E(MPa)は、0.1〜0.2Nの圧縮力範囲において、次式より求めた。
E=(σ2−σ1)/(ε2−ε1)
式中、σ1は圧縮力が0.1Nにおいて測定される圧縮応力(MPa)を示し、σ2は圧縮力が0.2Nにおいて測定される圧縮応力(MPa)を示し、ε1は圧縮応力σ1において測定される圧縮ひずみを示し、ε2は圧縮応力σ2において測定される圧縮ひずみを示す。
(5)密度及び気孔率の測定
エアロゲル複合体及びエアロゲルについての、3次元網目状に連続した細孔(通孔)の密度及び気孔率は、DIN66133に準じて水銀圧入法により測定した。なお、測定温度を室温(25℃)とし、測定装置としては、オートポアIV9520(株式会社島津製作所製、製品名)を用いた。
(6)耐屈曲性試験
各実施例及び比較例で得られたエアロゲル複合体付き支持部材及びエアロゲル付き支持部材を50mm幅に加工し、JIS K5600−1に準じて、エアロゲル複合体層側のマンドレル試験を行った。マンドレル試験機としては、東洋精機製作所製のものを用いた。マンドレル半径1mmにおいて180°屈曲させた際のエアロゲル複合体及びエアロゲル層側のクラック及び/又は剥がれ発生の有無を目視にて評価した。そして、クラック及び/又は剥がれが発生しなかったものを「非破壊」、発生したものを「破壊」と評価した。
表3から、実施例のエアロゲル複合体は、湿潤ゲル生成工程におけるゲル化時間が短く反応性に優れ、メタノール置換ゲルを用いた常圧乾燥においては、良好な耐収縮性を有していた。なお、今回の評価において、いずれの実施例においても良好な耐収縮性が示されたことはすなわち、溶媒置換工程を実施せずとも良質なエアロゲル複合体を得られることが示されたことになる。
また、実施例のエアロゲル複合体は、熱伝導率及び圧縮弾性率が小さく、高断熱性と高柔軟性の両方に優れることが読み取れる。また、実施例のエアロゲル複合体付き支持部材は、良好な耐屈曲性を有していた。
一方、比較例1〜3は、湿潤ゲル生成工程におけるゲル化時間が長く、メタノール置換ゲルを用いた常圧乾燥においては、ゲルが収縮し、表面にクラックを生じた。また、熱伝導率及び柔軟性のいずれかが劣っていた。さらに、エアロゲル付き支持部材は、屈曲に対して脆いため、容易に破壊されてしまった。比較例4は、耐収縮性、柔軟性及び耐屈曲性は十分であるが、ゲル化時間が長く、熱伝導率が大きかった。
(7)SEM観察
実施例4及び実施例6で得られたエアロゲル複合体付き箔状支持部材におけるエアロゲル複合体の表面をSEMにより観察した。図3は、実施例4で得られたエアロゲル複合体付き箔状支持部材におけるエアロゲル複合体の表面を、(a)1万倍、(b)5万倍、(c)20万倍及び(d)35万倍でそれぞれ観察したSEM画像である。図4は、実施例6で得られたエアロゲル複合体付き箔状支持部材におけるエアロゲル複合体の表面を、(a)1万倍、(b)5万倍、及び(c)20万倍でそれぞれ観察したSEM画像である。
図3にて示されるように、実施例4で得られたエアロゲル複合体は三次元網目骨格(三次元的に微細な多孔性の構造)を有していることが観察された。観察された粒子の粒子径はシリカ粒子由来の約20nm程度のものが主であった。当該シリカ粒子よりも粒子径の小さい球状のエアロゲル成分(エアロゲル粒子)も確認できるが、主にエアロゲル成分は球状の形態を取らず、シリカ粒子を被覆したりシリカ粒子間のバインダーとして機能したりしているようであることが観察される。このように、エアロゲル成分の一部がシリカ粒子間でバインダーとして機能しているため、エアロゲル複合体の強度を向上することができると推察される。
図4にて示されるように、実施例6で得られたエアロゲル複合体も三次元網目骨格を有していることが観察された。しかしながら、そのクラスター構造は独特である。本実施例においては、通常のエアロゲルのように粒子と粒子とが数珠状に連結した構造をとらず、粒子と粒子との連結部がエアロゲル成分(シリコーン成分)により高密に充填されているようであることが観察される。また、シリカ粒子由来の粒子の粒子径がシリカ粒子自体の粒子径よりも有意に大きくなっていることから、シリカ粒子がエアロゲル成分により厚く被覆されていると推察される。このように、本実施例においては、エアロゲル成分が粒子と粒子とのバインダーとして機能するだけでなく、クラスター構造全体を被覆しているため、エアロゲル複合体の強度をさらに向上することができると推察される。なお、実施例6では、使用しているST−OZL−35が酸性のゾルであるため、系中のpHが小さい状態でエアロゲル複合体が作製された。そのため、エアロゲル成分の生成速度が遅くなり、得られるエアロゲル複合体におけるエアロゲル成分が粒子状になり難かったと推察される。