以下、本発明を実施するための例示的な実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。ただし、以下の実施形態で説明する寸法、材料、形状、構成要素の相対的な位置等は任意であり、本発明が適用される装置の構成又は様々な条件に応じて変更できる。また、図面において、同一であるか又は機能的に類似している要素を示すために図面間で同じ参照符号を用いる。
第1の実施形態
本発明の第1の実施形態によるシートリクライニング装置について、図1乃至6を参照して説明する。図1は、本実施形態によるシートリクライニング装置10を備えるリクライニングシート1を示す。リクライニングシート1は、背もたれ部を形成するシートバック20と、座部を形成するシートクッション30と、リクライニングシート1の側方においてシートバック20及びシートクッション30の接続部に配置されるシートリクライニング装置10とを備える。図1は、シートクッション30に接続されるシートリクライニング装置10の取付プレート11をさらに示す。シートリクライニング装置10は、シートバック20の傾斜調整を行うことで、リクライニングシート1のシートリクライニング機能を実現することができる。
図2は、図1のA−A線に沿ったシートリクライニング装置10の断面図である。シートリクライニング装置10は、取付プレート11、カム部材12、スプリング13、楔部材14、ロアギア15、アッパギア16及びリング部材17を備え、リクライニングシート1の両側方においてシャフト40を介して接続される。シャフト40は、1点鎖線で示すシャフト軸41に沿って延在し、モータ50に接続される。なお、リクライニングシート1の両側方に配置されるリクライニング装置10はそれぞれ略対照の構成を有することから、以下、説明の簡略化のため、図1に示すリクライニングシート1の右側方に配置されたリクライニング装置10についてのみ述べる。
図3は、リクライニング装置10の分解図であり、シャフト軸41に沿って各構成要素を示している。また、図4は、図3とは逆方向から見たリクライニング装置10の分解図である。なお、図4では、説明の簡略化のため取付プレート11を省略している。図3及び図4に示すように、カム部材12は、カム部121、端面121a及び孔部122を備えている。また、ロアギア15は外歯151及び中央開口部152を備え、アッパギア16は内歯161及び内歯161と同心的に形成されたバーリング部162を備えている。ロアギア15の外歯151及びアッパギア16の内歯161の歯数は、互いに1つ以上異なるように形成されている。
リクライニング装置10において、ロアギア15は、シートクッション30に結合される取付プレート11に固定され、アッパギア16は、シートバック20に接続される。アッパギア16が、内歯161がロアギア15の外歯151と向かい合うように、ロアギア15と組み合わされと、アッパギア16のバーリング部162がロアギア15の中央開口部152内に延在する。アッパギア16はリング部材17に回動可能に内包され、リング部材17はロアギア15にカシメ締結される。ロアギア15及びアッパギア16は互いに組み合わされた際に、ロアギア15の中央開口部152の内周とアッパギア16のバーリング部162の外周との間に隙間が形成されるように構成されている。当該隙間には、楔形状を有する一対の楔部材14が配置される。ここで、ロアギア15はシートクッション30に結合される取付プレート11に固定されているため、楔部材14は、楔形状の厚さに従ってアッパギア16をロアギア15に対して移動、すなわち、偏心させる。これにより、楔部材14は、楔部材14が配置される方向において、ロアギア15の外歯151及びアッパギア16の内歯161を噛み合わせることができる。
本実施形態によるリクライニング装置10における楔部材14を図5に示す。なお、図中には、楔部材14の周方向、並びに楔部材14の外周面144及び内周面146の幅方向が示されている。楔部材14は、外周面144がロアギア15の中央開口部152の内周に当接可能なように、及び、内周面146がアッパギア161のバーリング部162に当接可能なように円弧形状を有するように形成されている。一対の楔部材14は、それぞれ略対照の構造を有し、それぞれ、互いから離れる方向にある端部141から他端部142に向かうにしたがって、すなわち互いに近づく方向へ向かうに従って径方向の厚みが厚くなる楔形状を有している。楔部材14のそれぞれは、図5に示すように、突起部143と、外周面144に設けられる外周溝部145と、内周面146に設けられる内周溝部147と、両端部に設けられた端部突起部148を有する。楔部材14は、ロアギア15の中央開口部152の内周とアッパギア16のバーリング部162の外周との間に配置されると、外周面144が中央開口部152の内周に面接触する。この際、内周面146は、楔部材14の楔形状に従って、厚みの薄い端部141付近ではアッパギア161のバーリング部162との間にわずかな隙間を形成し、他端部142に向かうにしたがってバーリング部162との隙間が狭くなりやがて当接する。
図6は、取付プレート11側からリクライニング装置10を見た、リクライニング装置10の組立図である。なお、図6では、説明のため取付プレート11を省略している。楔部材14が中央開口部152の内周とバーリング部162の外周との間に配置される際には、図6に示すように、一対の楔部材14は互いに向かう端部142の間に隙間が形成され、当該隙間を広げるようにスプリング13が配置される。この際、スプリング13のそれぞれの端部は、一対の楔部材14のそれぞれの端部142に当接し、係止される。楔部材14がスプリング13によって一対の楔部材14間の隙間を広げるように付勢されると、楔部材14の内周面146が、バーリング部162の外周に強く押される。これにより、楔部材14とバーリング部162との間に摩擦力が働き、楔部材14のアッパギア16に対する回転が規制される。また、楔部材14はバーリング部162によって径外方向に押されるため、外周面144がロアギア15の中央開口部152の内周に強く押され、外周面144が中央開口部152の内周と摩擦係合する。これにより、楔部材14のロアギア15に対する回転が規制される。これらの楔部材14の回転の規制により、楔部材14の位置が保持されるため、楔部材14によるアッパギア16の偏心に基づくロアギア15の外歯151とアッパギア16の内歯161との噛み合い位置が保持される。
また、アッパギア16のバーリング部162の開口には、円板平面状の一部を径方向に開放するように切欠いたカム部121を有するカム部材12が挿入される。カム部材12は、シャフト40の形状と係合する形状を有する孔部122を有し、カム部材12は、シャフト40が孔部122に挿入されると、シャフト40の回転に従って回転することができる。なお、本実施形態では、孔部122は略六角形となるように形成されているが、孔部の形状はシャフトの形状に係合する任意の形状とすることができ、例えば、他の多角形や楕円形などの形状とすることができる。カム部材12がバーリング部162の開口に挿入され、シャフト40の回転に従ってカム部材12が回転すると、カム部121の端面121aが、カム部材12の回転方向に従って一対の楔部材14のうちのいずれかの突起部143と当接する。カム部材12の端面121aが突起部143と当接すると、カム部材12の回転方向に従って、当該当接している突起部143を有する楔部材14が回転する。この際、当該楔部材14は、スプリング13の力に抗して一対の楔部材14の他方との間の隙間を狭くするように回転するため、スプリング13の付勢に基づく楔部材14とロアギア15及びアッパギア16との摩擦係合が解除される。従って、当該摩擦係合による楔部材14の回転の規制が解除されて、楔部材14が回転可能になる。一対の楔部材14は、カム部材12の回転に従って一方の楔部材14が回転すると、スプリング13の付勢に基づいて他方の楔部材14も一体となって回転することができる。また、ロアギア15の外歯151とアッパギア16の内歯161の噛み合い位置は、楔部材14の楔形状の厚みに応じて移動するため、楔部材14の回転に従って移動可能になる。これにより、モータ50の動力に従ってシャフト40が回転すると、楔部材14がカム部材12を介してシャフトの40の回転に従って回転し、外歯151と内歯161の噛み合い位置を移動させることができる。
上記のように外歯151と内歯161の歯数は互いに異なっているため、楔部材14がシャフト40の回転に従って一回転するごとに、歯の噛み合い位置の移動に基づいて、歯数の差分の角度に相当する角度分だけアッパギア16がロアギア15に対して回動する。これにより、ロアギア15に接続されるシートクッション30に対する、アッパギア16に接続されるシートバック20の角度が調整され、リクライニングシート1のリクライニング機能が実現される。
ここで、従来のシートリクライニング装置では、長期間使用すると、楔部材が回転する際の、楔部材とロアギアの中央開口部の内周及びアッパギアのバーリング部との摩擦により、楔部材が摩耗し、作動性が悪化することがあった。これに対処するため、本実施形態によるシートリクライニング装置10では、図5に示すように、楔部材14の外周面144及び内周面146に、楔部材14の周方向に延在する外周溝部145及び内周溝部147が設けられている。楔部材14の外周溝部145及び内周溝部147はグリスやオイルなどの潤滑剤を蓄えることができる。そのため、楔部材14が回転する際に、該溝部145、147内に蓄えた潤滑剤を楔部材14の周方向に延在する溝部145、147の形状に沿って、楔部材14に当接する中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周に塗布することができる。
また、外周溝部145及び内周溝部147は、楔部材14の一方の端部から他方の端部にかけて周方向に延在している。そのため、該溝部145、147は、楔部材14が回転する際に、楔部材14に当接する中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周に残存する潤滑剤を溝部145、147の端部を介して収集し、溝部145、147内に供給していくことができる。これにより、溝部145、147を介して中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周に残存する潤滑剤を、楔部材14が回転する際の潤滑剤の塗布に効率的に再利用することができる。
さらに、図5に示すように、楔部材14の外周溝部145及び内周溝部147は、楔部材14の外周面144及び内周面146の幅方向に沿って振幅を有するような波形状となるように形成されている。外周溝部145及び内周溝部147を波形状に形成することにより、当該溝部145、147の波形状に沿って、溝部145、147に蓄えた潤滑剤を中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周に塗布することができる。そのため、楔部材14が回転する際に、溝部145及び147の波形状の幅、すなわち振幅にわたって潤滑剤を中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周に塗布することができる。従って、外周溝部145及び内周溝部147を波形状に形成する場合には、外周溝部及び内周溝部を直線形状に形成する場合に比べて、中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周の広い領域に潤滑剤を塗布することができる。
また、本実施形態における楔部材14の各端部には、一対の端部突起部148が形成されている。端部突起部148は、楔部材14の周方向に延在するように構成されており、一対の端部突起部148の間には、外周溝部145及び内周溝部147の端部が形成されている。楔部材14の各端部に一対の端部突起部148を形成すると、楔部材14が回転する際に、中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周に残存する潤滑剤を、端部突起部148の形状に沿って一対の端部突起部148の間により多く収集することができる。また、当該一対の端部突起部148の間に外周溝部145及び内周溝部147の端部を形成することにより、端部突起部148によって収集された潤滑剤を外周溝部145及び内周溝部147内に誘導することができ、残存する潤滑剤を効率的に再利用することができる。なお、楔部材14の端部142側の内周溝部147の端部149は一対の端部突起部148の間に形成されていないが、一対の楔部材14の互いに対向する内側溝部147の端部149同士は、内周面146の幅方向において互いに対応する位置に形成されている。これにより、楔部材14が回転する際に、一方の楔部材14の内側溝部147の端部149から出た潤滑剤を、他方の楔部材14の対向する溝部147の端部149で収集することができる。そのため、アッパギア16のバーリング部162に残存する潤滑剤を効率的に再利用することができる。
上記のように、本実施形態によるシートリクライニング装置10は、外歯151を有するロアギア15(第1のギア)と、内歯161を有するアッパギア16(第2のギア)であって、ロアギア15の外歯151と該内歯161が向かい合うようにロアギア15に組み合わされる、アッパギア16とを備える。また、シートリクライニング装置10は、ロアギア15及びアッパギア16の間に配置され、ロアギア15の外歯151がアッパギア16の内歯161と噛み合うように、アッパギア16をロアギア15に対して移動させる一対の楔部材14を備える。さらに、シートリクライニング装置10は、一対の楔部材14と当接し、一対の楔部材14を互いから離れる方向へ付勢するスプリング13と、一対の楔部材14と当接し、一対の楔部材14を回転させるカム部材12をさらに備える。一対の楔部材14のそれぞれは、外周面144及び内周面146の少なくとも一方において楔部材14の一方の端部から他方の端部まで周方向に延在する溝部145、147を備え、該溝部145、147は潤滑剤を蓄える。そのため、楔部材14が回転する際に、該溝部145、147内に蓄えた潤滑剤を溝部145、147の形状に沿って、楔部材14に当接する中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周の少なくとも一方に塗布することができる。また、上記のように、溝部145、147は楔部材14の一方の端部から他方の端部まで延在している。そのため、楔部材14が回転する際に、楔部材14に当接する中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周の少なくとも一方に残存する潤滑剤を、溝部145、147の端部を介して収集し、溝部145、147内に供給することができる。従って、収集した潤滑剤を潤滑剤の塗布に効率的に再利用することができる。従って、本実施形態によるシートリクライニング装置10は、楔部材14と中央開口部152及びバーリング部162との間に存する潤滑剤を長期間保持し、使用し続けることができる。そのため、中央開口部152の内周及びバーリング部162との摩擦による楔部材14の摩耗を抑制することができ、リクライニングシート1の作動性の悪化、異音の発生などを抑制することができる。また、溝部145、147は波形状を有する。そのため、楔部材14が回転する際に、溝部145、147に蓄えた潤滑剤を該波形状に沿って中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周に塗布することができ、中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周の広い領域に潤滑剤を塗布することができる。さらに、楔部材14は、楔部材14の少なくとも一方の端部において周方向に延在する一対の端部突起部148を有し、溝部145、147の少なくとも一方の端部が一対の端部突起部148の間に形成されている。これにより、楔部材14が回転する際に、中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周に残存する潤滑剤を、一対の端部突起部148の間により多く収集して溝部145、147に誘導することができ、潤滑剤の塗布に効率的に再利用することができる。
なお、本実施形態によるシートリクライニング装置10においては、楔部材14の溝部145、147を波形状に形成したが、溝部の形状はこれに限られない。溝部を、例えば、直線形状、ジグザグ形状、ローレット形状や網目形状などの任意の形状に形成することができる。さらに、複数個の溝部を設けることもできる。また、外周溝部145及び内周溝部147を外周面144及び内周面146の幅方向の縁に達しないように形成することで、楔部材14が回転する際に、潤滑剤が楔部材14と中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周との接触領域の外に流出することを防止することができる。なお、本実施形態によるシートリクライニング装置10では、溝部145、147は、楔部材14と一体的に、例えば削って形成されているが、楔部材14に溝部を設ける方法はこれに限られない。例えば、楔部材14に滑り性を向上させるコーティングを施し、該コーティングの厚みにより溝部を形成してもよいし、滑り性を有する他の部材などを楔部材14に取り付けて溝部を形成してもよい。また、本実施形態によるシートリクライニング装置10において、溝部145、147は楔部材14の外周面144及び内周面146の両方に形成されているが、外周面144及び内周面146の一方のみに形成されてもよい。この場合、ロアギア15の中央開口部152の内周及びアッパギア16のバーリング部162の外周のうち楔部材14が摺接する方に対応する面に溝部を形成する。すなわち、楔部材14がロアギア15の中央開口部152の内周と摺接する場合には外周面144に、楔部材14がアッパギア16のバーリング部162の外周と摺接する場合には内周面146に溝部を形成する。これにより、楔部材14が回転する際に、溝部145、147に蓄えた潤滑剤を楔部材と摺接する中央開口部152の内周又はバーリング部162の外周に塗布することができ、楔部材の摩耗を抑制することができる。
さらに、楔部材14の一対の端部突起部148の形状は任意である。しかしながら、一対の端部突起部148の形状を、外周溝部145及び内周溝部147に近づくにつれて端部突起部148の間が狭まるように、例えば、U字状又はV字状に形成することで、収集した潤滑剤をより効率的に溝部に誘導することができる。また、本実施形態において、一対の端部突起部148は楔部材14と一体的に形成されているが、一対の端部突起部148の構成はこれに限られない。例えば、一対の端部突起部148を、楔部材14とは別の部材によって形成し、楔部材14の端部に取り付ける構成としてもよい。
また、本実施形態によるシートリクライニング装置10のロアギア15の中央開口部152に、不図示の滑り軸受ブッシュを備える構成としてもよい。この場合、楔部材14の外周溝部145は、滑り軸受ブッシュに潤滑剤を塗布することができ、滑り軸受ブッシュによる楔部材14の摩耗を軽減することができる。
また、本実施形態では、モータ50を用いて、自動でリクライニングシート1のシートリクライニングを実行する構成としたが、本発明に従ったリクライニングシートは当該構成に限られない。例えば、シャフトが不図示のハンドルに接続され、ユーザがハンドルを操作して手動でシャフトを回転させることで、リクライニングシートのシートリクライニングを実行する構成としてもよい。さらに、本実施形態では、ロアギア15が外歯151を有し、アッパギア16が内歯161を有するように構成されているが、本発明に従ったシートリクライニング装置は当該構成に限られない。例えば、シートクッション30に接続されるロアギアが内歯及びバーリング部を有し、シートバック20に接続されるアッパギアが外歯及び中央開口部を有する構成としてもよい。
第2の実施形態
本発明の第2の実施形態によるシートリクライニング装置60について、図7及び8を参照して説明する。楔部材64以外の構成は第1の実施形態によるシートリクライニング装置10と同様であるため、相違点を中心に説明する。図7は、本実施形態によるシートリクライニング装置60の分解図であり、図中、説明の簡略化のため、取付プレート11を省略している。図8は、本実施形態によるシートリクライニング装置60における楔部材64を示す。なお、図中には、楔部材64の周方向、並びに楔部材64の外周面644及び内周面646の幅方向が示されている。本実施形態における楔部材64は、図7に示すように、第1の実施形態における楔部材14と同様に、ロアギア15の中央開口部152及びアッパギア16のバーリング部162との間に配置される。また、本実施形態における楔部材64には、図8に示すように、外周面644に波形状の外周溝部645が形成され、内周面646に波形状の内周溝部647が形成されている。
本実施形態における楔部材64では、第1の実施形態における楔部材14とは異なり、端部に端部突起部148が設けられていない。その代わりに、本実施形態では、一対の楔部材64の外周溝部645及び内周溝部647の各端部が、外周面644及び内周面646の幅方向において、互いの楔部材64の対向する外周溝部645及び内周溝部647の各端部に対応する位置に形成されている。すなわち、本実施形態における楔部材64では、外周面644の幅方向において、それぞれの楔部材の外周溝部645の対向する端部645a同士が互いに対応する位置に形成され、外周溝部645の他方の対向する端部645b同士が互いに対応する位置に形成されている。また同様に、内周面646の幅方向において、それぞれの楔部材の内周溝部647の対向する端部647a同士が互いに対応する位置に形成され、内周溝部647の他方の対向する端部647b同士が互いに対応する位置に形成されている。当該構成により、楔部材64が回転すると、楔部材64の回転方向に従って、先にその場所を通った楔部材の外周溝部645の端部645aから出た潤滑剤を、後続の楔部材の外周溝部645の端部645aで収集することができる。また同様に、楔部材64の外周溝部の端部645b、内周溝部の端部647a、及び内周溝部の端部647bでも、先にその場所を通った楔部材の溝部の端部から出た潤滑剤を、後続の楔部材の溝部の端部で収集することができる。
また、図8に示すように、本実施形態における楔部材64の各溝部の端部645a、645b、647a、647bは、各溝部の幅よりも、広い幅を有するように形成されている。各溝部の端部が溝部の幅よりも広い幅を有することで、楔部材64が回転する際に、ロアギア15の中央開口部152の内周及びアッパギア16のバーリング部162の外周に残存する潤滑剤をより多く収集し、各溝部に誘導することができる。また、例えば、各溝部の端部の位置が、外周面644及び内周面646の幅方向において、互いに対応する位置から多少ずれている場合でも、先にその場所を通った楔部材64の溝部から出た潤滑剤を、後続の楔部材64の溝部に潤滑剤を誘導することができる。そのため、本実施形態によるシートリクライニング装置60は、ロアギア15の中央開口部152の内周及びアッパギア16のバーリング部162の外周に残存する潤滑剤をより多く収集し、潤滑剤の塗布に効率的に再利用することができる。
上記のように、本実施形態によるシートリクライニング装置60では、一対の楔部材64の溝部の端部645a、645b、647a、647bは、互いの楔部材64の対向する溝部の端部645a、645b、647a、647b同士が対応する位置に形成される。これにより、楔部材64が回転する際、一方の楔部材64の溝部の端部645a、645b、647a、647bから出た潤滑剤を、該端部に対向する他方の楔部材64の溝部の端部645a、645b、647a、647bで収集することができる。従って、本実施形態によるシートリクライニング装置60は、ロアギア15の中央開口部152の内周及びアッパギア16のバーリング部162の外周の少なくとも一方に残存する潤滑剤を収集し、潤滑剤の塗布に効率的に再利用することができる。また、本実施形態によるシートリクライニング装置60において、楔部材64の溝部645、647の端部は、溝部の幅よりも広い幅を有する。これにより、ロアギア15の中央開口部152の内周及びアッパギア16のバーリング部162の外周に残存する潤滑剤をより多く収集して溝部645、647に誘導し、潤滑剤の塗布に効率的に再利用することができる。
なお、各溝部の端部645a、645b、647a、647bの位置は、外周面644及び内周面646の幅方向における任意の位置に形成することができる。従って、例えば、各溝部の端部の位置を外周面644及び内周面646の幅方向の略中央に、または中央からずれた位置にすることができる。また、外周面644及び内周面646の幅方向における各溝部の端部645a、645b、647a、647bの位置は、それぞれの楔部材の対向する溝部の端部645a、645b、647a、647b同士で対応していればよい。そのため、例えば、一対の楔部材64の外周溝部645の端部645aの位置は、それぞれの楔部材の外周溝部645の対向する端部645a同士で対応する位置であればよく、端部645bの位置と対応している必要はない。
また、図8に示すように、本実施形態によるシートリクライニング装置60においては、楔部材64の溝部645、647を波形状に形成したが、溝部の形状はこれに限られない。溝部を、例えば、直線形状、ジグザグ形状、ローレット形状や網目形状などの任意の形状に形成することができる。さらに、複数個の溝部を設けることもできる。また、外周溝部645及び内周溝部647を外周面644及び内周面646の幅方向の縁に達しないように形成することで、楔部材64が回転する際に、潤滑剤が楔部材64と中央開口部152の内周及びバーリング部162の外周との接触領域の外に流出することを防止することができる。なお、本実施形態によるシートリクライニング装置60では、溝部645、647は、楔部材64から、例えば削って形成されているが、楔部材64に溝部を設ける方法はこれに限られない。例えば、楔部材64に滑り性を向上させるコーティングを施し、該コーティングの厚みにより溝部を形成してもよいし、滑り性を有する他の部材などを楔部材64に取り付けて溝部を形成してもよい。また、外周面644及び内周面646の両方に溝部が形成されているが、外周面644及び内周面646の一方のみに形成されてもよい。この場合、第1の実施形態について述べたように、ロアギア15の中央開口部152の内周及びアッパギア16のバーリング部162の外周のうち楔部材64が摺接する方に対応する面に溝部を形成する。
本実施形態の変形例として、直線形状の溝部を外周面のみに形成した楔部材を図9に示す。図9に示す楔部材74は、楔部材74とロアギア15の中央開口部152の内周が摺接する場合を想定して形成されたものであり、直線形状の溝部745が楔部材74の外周面744にのみ形成されており、内周面746には溝部が形成されていない。当該構成を有する楔部材74を備えたシートリクライニング装置であっても、楔部材74の周方向に延在する溝部745に潤滑剤を蓄えて、楔部材74が回転する際に、楔部材74と摺接するロアギア15の中央開口部152の内周に潤滑剤を塗布することができる。従って、楔部材74を備えたシートリクライニング装置は、楔部材74に摺接するロアギア15の中央開口部152の内周による楔部材74の摩耗を抑制し、リクライニングシートの作動性の悪化や異音の発生等を抑制することができる。
以上、実施形態を参照して本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない範囲で変更された発明、及び本発明と均等な発明も本発明に含まれる。また、上述の各実施形態及び変形形態は、本発明の趣旨に反しない範囲で適宜組み合わせることができる。