図面を参照して、実施形態としてのエンジンについて説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
[1.構成]
[1−1.エンジン]
図1は、本実施形態のエンジン1の吸気系及び排気系(以下、単に吸排気系ともいう)の構造を模式的に示す上面図であり、図2は、エンジン1の内部構造を示す断面図である。このエンジン1は、例えばガソリンを燃料とする四気筒の内燃機関(ガソリンエンジン)である。エンジン1のシリンダブロック47内には、中空円筒形状に形成された四本のシリンダ32(気筒)が列設され、その上面にシリンダヘッド33が固定される。なお、各シリンダ32に対する構成は四気筒とも全て同一であるため、図2にはエンジン1に設けられた四つのシリンダ32のうちの一つを示す。図中に示す白抜き矢印は、吸気及び排気の流れの方向を表し、吸気及び排気の流れの方向において上流側,下流側のことを単に上流側,下流側という。
図2に示すように、各シリンダ32の内部には、その内周面に沿ってピストン48が往復摺動自在に内装される。ピストン48の上面とシリンダ32の内周面とシリンダヘッド33との三者に囲まれた空間は、エンジン1の燃焼室46として機能する。ピストン48の下部は、コネクティングロッドを介して、クランクシャフト49の軸心から偏心した中心軸を持つクランクアームに連結される。これにより、ピストン48の往復動作がクランクアームに伝達され、クランクシャフト49の回転運動に変換される。
シリンダヘッド33のシリンダ32に対向する面(対向面部)33aには、吸入空気を燃焼室46内に供給するための吸気ポート34,37と、燃焼室46内で燃焼した後の排気を排出するための排気ポート40,43とが穿孔形成される。つまり、一つのシリンダ32に対して二つの吸気ポート34,37と二つの排気ポート40,43とが設けられる。
これらの吸気ポート34,37及び排気ポート40,43の配置を、図1に例示する。それぞれの吸気ポート34,37におけるシリンダ32側の開口端である開口部35,38には吸気弁36,39(吸気バルブ)が設けられ、反対側の開口端には吸気マニホールド11が接続される。また、それぞれの排気ポート40,43におけるシリンダ32側の開口端である開口部41,44には排気弁42,45(排気バルブ)が設けられ、反対側の開口端には排気マニホールド21が接続される。
図1に示すように、二つの吸気ポート34,37は、流路断面積が互いに異なるように形成される。なお、流路断面積とは、空気が流通する空洞部分(流路)において、空気の流通方向に対して垂直な断面の面積のことを意味し、以下、単に断面積という。ここでは、一方の吸気ポート37が、他方の吸気ポート34よりも断面積が大きく形成される。二つの排気ポート40,43についても同様に、断面積が互いに異なり、一方の排気ポート43が、他方の排気ポート40よりも断面積が大きく形成される。なお、ここでは、断面積の大きい吸気ポート37及び排気ポート43と、断面積の小さい吸気ポート34及び排気ポート40とが、上面視で点火プラグ59を挟んで対角線状に設けられる。
上記の吸気弁36,39及び排気弁42,45の上部は、図2に示すように、エンジン1の上部に設けられる可変バルブ機構50に接続される。可変バルブ機構50は、吸気弁36,39及び排気弁42,45のそれぞれについて、最大バルブリフト量及びバルブタイミングを個別に、又は、連動させつつ変更するための機構である。吸気弁36,39及び排気弁42,45の動作は、可変バルブ機構50を介して、後述するエンジン制御装置71によって各々の動作を個別に制御される。
吸気弁36,39及び排気弁42,45の各上端部はそれぞれ、可変バルブ機構50内のロッカーアーム51,55に接続され、ロッカーアーム51,55の揺動に応じて個別に上下方向に往復駆動される。また、各ロッカーアーム51,55の他端には、カムシャフトに軸支されたカム52,56が設けられる。カム52,56の各形状(カムプロファイル)に応じて、ロッカーアーム51,55の揺動パターンが定められる。
可変バルブ機構50には、ロッカーアーム51,55の各揺動量及び揺動のタイミングを変化させるための機構として、バルブリフト量調整機構53,57とバルブタイミング調整機構54,58とが設けられる。バルブリフト量調整機構53,57は、吸気弁36,39及び排気弁42,45の各最大バルブリフト量を連続的に変更する機構であり、カム52,56からロッカーアーム51,55に伝達される各揺動の大きさを変更する機能を持つ。なお、ロッカーアーム51,55の各揺動の大きさを変更するための具体的な構造は任意とする。
また、バルブタイミング調整機構54,58は、吸気弁36,39及び排気弁42,45の開閉のタイミング(バルブタイミング)を変更する機構であり、ロッカーアーム51,55に揺動を生じさせるカム52,56又はカムシャフトの回転位相を変更する機能を持つ。カム52,56又はカムシャフトの回転位相を変更することで、クランクシャフト49の回転位相に対するロッカーアーム51,55の揺動のタイミングを連続的にずらす(変化させる)ことが可能となる。
なお、可変バルブ機構50の中で排気弁42,45の動作を変更する要素であるロッカーアーム55,カム56,バルブリフト量調整機構57及びバルブタイミング調整機構58のことを、第一可変バルブ機構50aと称する。また、可変バルブ機構50の中で吸気弁36,39の動作を変更する要素であるロッカーアーム51,カム52,バルブリフト量調整機構53及びバルブタイミング調整機構54のことを、第二可変バルブ機構50bと称する。
吸気ポート34と排気ポート40との間には、点火プラグ59がその先端を燃焼室46側に突出させた状態で設けられる。点火プラグ59による点火時期は、エンジン制御装置71で制御される。また、吸気ポート34,37には、吸気ポート34,37内に燃料を噴射するインジェクター60が設けられる。インジェクター60から噴射される燃料量は、エンジン制御装置71によって制御される。
[1−2.排気系]
排気系の構造について詳述する。図1に示すように、本実施形態では一つのシリンダ32に対して、断面積の異なる二つの排気ポート40,43がそれぞれ設けられ、四つのシリンダ32に対してそれぞれ設けられたこれらの排気ポート40,43の下流側には、一つの排気マニホールド21が接続される。
排気マニホールド21の下流側には、排気を外部へ導く排気管24が接続され、排気管24の内部には触媒64が設けられる。この触媒64は、例えば酸化触媒や三元触媒であって、排気中に含まれる窒素酸化物(NOx),一酸化炭素(CO),炭化水素(HC)等の成分やPM(Particulate Matter,粒子状物質)などの物質を浄化,分解,除去する機能を持つ。
排気マニホールド21は、排気ポート40,43にそれぞれ接続される排気独立管25,26と、排気独立管25,26の直下流側に設けられて排気独立管25,26を集合させる排気集合部23とを有する。排気独立管25,26は、シリンダ32毎に設けられており、排気集合部23は全ての排気独立管25,26を集合させる部分である。以下、排気マニホールド21の中で、排気独立管25,26の部分をまとめて排気独立管部22と称する。
一方の排気ポート40と、この排気ポート40に接続される排気独立管25とが、シリンダ32から排気集合部23までの独立した排気の流路である排気独立流路4を形成する。また、他方の排気ポート43と、この排気ポート43に接続される排気独立管26とが、シリンダ32から排気集合部23までの独立した排気の流路である排気独立流路5を形成する。すなわち、各シリンダ32に連通する排気独立流路4と排気独立流路5との流路は、シリンダ32から排気集合部23まで交わらず、排気集合部23で合流する。排気集合部23は、シリンダ32や排気系で発生しうる排気脈動や排気干渉を緩和するように機能する。
このように、エンジン1は、同一のシリンダ32に接続される複数の排気独立流路4,5と、排気独立流路4,5のシリンダ32側と反対側の端部に設けられ、排気独立流路4,5が全て集合されてなる排気集合部23とを有する流路7を備える。また、エンジン1は、排気独立流路4,5のシリンダ32側の端部に各々設けられた排気弁42,45を備えている。
本実施形態では、排気ポート40,43及び排気独立管25,26の断面形状が略円形状または略角断面形状に形成されており、一方の排気ポート40の内径は他方の排気ポート43の内径より小さく設定されている。また、一方の排気独立管25の内径は他方の排気独立管26の内径より小さく設定されている。つまり、各シリンダ32の一方の排気独立流路4の断面積S21の方が、他方の排気独立流路5の断面積S22よりも小さく設定されている(S21<S22)。このように、各シリンダ32に連通する排気独立流路4と排気独立流路5とは、互いに断面積の大きさが異なるよう設定されている。
一方の排気独立流路4を形成する排気ポート40及び排気独立管25の各断面積は、同一(又は略同一)に設定されている。同様に、他方の排気独立流路5を形成する排気ポート43及び排気独立管26の各断面積も、同一(又は略同一)に設定されている。つまり、排気独立流路4,5は、その全長にわたってほぼ一定の断面積を有する。
本実施形態に係る排気独立流路4,5は、他方の排気独立流路5より断面積が小さく設定されている排気独立流路4の断面積S21が、一つのシリンダに対して一つの排気ポートが設けられる場合の排気ポートの断面積より、半分かそれよりも小さくなるよう設定されている。
ここで、一方の排気ポート40の開口部41の中心側端部から排気独立管25の排気集合部23側の端部までの長さを、排気独立流路4の長さL3と呼ぶ。同様に、他方の排気ポート43の開口部44の中心側端部から排気独立管26の排気集合部23側の端部までの長さを、排気独立流路5の長さL4と呼ぶ。図1に示すように、各シリンダ32の排気独立流路4の長さL3と排気独立流路5の長さL4とは同一(又は略同一)に設定されている。なお、本実施形態では、排気独立流路4の長さL3と排気独立流路5の長さL4とは、エンジン1の排気により、触媒64を早期活性化できる程度の短い長さに設定されている。
上述したように、一つのシリンダ32に連通する排気独立流路4及び排気独立流路5は、互いに断面積が異なり、長さが同一(又は略同一)に設定されている。つまり、同一のシリンダ32に連通する排気独立流路4と排気独立流路5とは、長さに対する断面積の比率が互いに異なるように設定されている。これは、後述する共振周波数fが、排気独立流路4と排気独立流路5とで異なるようにするためである。
排気弁42,45は、第一可変バルブ機構50aにより、一部の排気弁が閉弁状態で休止されるようになっている。例えば、排気弁45を閉弁状態で休止して、排気弁42を開閉動作させることで、断面積の小さい排気独立流路4のみに排気を流通させることができる。反対に、排気弁42を閉弁状態で休止して、排気弁45を開閉動作させることで、断面積の大きい排気独立流路5のみに排気を流通させることができる。また、排気弁42及び排気弁45を何れも休止させずに開閉動作させることで、排気独立流路4及び排気独立流路5に共に排気を流通させることができる。この場合が最も排気が流れる流路の断面積が大きくなる。なお、これらの排気弁42,45の動作は、全てのシリンダ32で同一であるものとする。
[1−3.吸気系]
次に、吸気系の構造について詳述する。本エンジン1の吸気系は、上述の排気系と同様の構成を含んで構成されている。図1に示すように、本実施形態では一つのシリンダ32に対して、断面積の異なる二つの吸気ポート34,37がそれぞれ設けられ、四つのシリンダ32に対してそれぞれ設けられたこれらの吸気ポート34,37の上流側には、一つの吸気マニホールド11が接続される。
吸気マニホールド11の上流側には、吸入空気をエンジン1へ導く吸気管14が接続される。また、図2に示すように、吸気管14にはスロットルボディ(図示略)が介装され、スロットルボディの内部には電子制御式のスロットルバルブ62が内蔵される。吸気マニホールド11側へと流れる空気量は、スロットルバルブ62の開度(スロットル開度)に応じて調節される。このスロットル開度は、エンジン制御装置71によって制御される。また、スロットルボディよりもさらに上流側の吸気管14にはエアフィルター63が設けられる。これにより、エアフィルター63で濾過された新気が吸気マニホールド11を介してエンジン1の各シリンダ32に供給される。
吸気マニホールド11は、吸気ポート34,37にそれぞれ接続される吸気独立管15,16と、吸気独立管15,16の直上流側に設けられて吸気独立管15,16を集合させる吸気集合部13とを有する。吸気独立管15,16は、シリンダ32毎に設けられており、吸気集合部13は全ての吸気独立管15,16に分岐する前の部分である。以下、吸気マニホールド11の中で、吸気独立管15,16の部分をまとめて吸気独立管部12と称する。
一方の吸気ポート34と、この吸気ポート34に接続される吸気独立管15とが、吸気集合部13からシリンダ32までの独立した吸気の流路である吸気独立流路2を形成する。また、他方の吸気ポート37と、この吸気ポート37に接続される吸気独立管16とが、吸気集合部13からシリンダ32までの独立した吸気の流路である吸気独立流路3を形成する。
すなわち、シリンダ32に連通する吸気独立流路2と吸気独立流路3とは、吸気集合部13の下流側で分岐した後は互いに交わらず、それぞれ独立した流路を構成する。言い換えると、下流側から見たときに、二つの吸気独立流路2,3は、シリンダ32から吸気集合部13まで交わらず、吸気集合部13にて合流する。吸気集合部13は、吸気マニホールド11に設けられたサージタンクとして、シリンダ32や吸気系で発生しうる吸気脈動や吸気干渉を緩和するように機能する。
このように、エンジン1は、同一のシリンダ32に接続される複数の吸気独立流路2,3と、吸気独立流路2,3のシリンダ32側と反対側の端部に設けられ、吸気独立流路2,3が全て集合されてなる吸気集合部13とを有する流路6を備える。また、エンジン1は、吸気独立流路2,3のシリンダ32側の端部に各々設けられた吸気弁36,39を備えている。
本実施形態では、吸気ポート34,37及び吸気独立管15,16の断面形状が略円形状または略角断面形状に形成されており、一方の吸気ポート34の内径は他方の吸気ポート37の内径より小さく設定されている。また、一方の吸気独立管15の内径は他方の吸気独立管16の内径より小さく設定されている。つまり、各シリンダ32の一方の吸気独立流路2の断面積S11の方が、他方の吸気独立流路3の断面積S12よりも小さく設定されている(S11<S12)。このように、各シリンダ32に連通する吸気独立流路2と吸気独立流路3とは、互いに断面積の大きさが異なるよう設定されている。
一方の吸気独立流路2を形成する吸気ポート34及び吸気独立管15の各断面積は、同一(又は略同一)に設定されている。同様に、他方の吸気独立流路3を形成する吸気ポート37及び吸気独立管16の各断面積も、同一(又は略同一)に設定されている。つまり、吸気独立流路2,3は、その全長にわたってほぼ一定の断面積を有する。
ここで、一方の吸気ポート34の開口部35の中心側端部から吸気独立管15の吸気集合部13側の端部までの長さを、吸気独立流路2の長さL1と呼ぶ。同様に、他方の吸気ポート37の開口部38の中心側端部から吸気独立管16の吸気集合部13側の端部までの長さを、吸気独立流路3の長さL2と呼ぶ。図1に示すように、各シリンダ32の吸気独立流路2の長さL1と吸気独立流路3の長さL2とは、同一(又は略同一)に設定されている。
上述したように、一つのシリンダ32に連通する吸気独立流路2及び吸気独立流路3は、互いに断面積が異なり、長さが同一(又は略同一)に設定されている。つまり、同一のシリンダ32に連通する吸気独立流路2及び吸気独立流路3は、長さに対する断面積の比率が互いに異なるように設定されている。これは、後述する共振周波数fが、吸気独立流路2と吸気独立流路3とで異なるようにするためである。
吸気弁36,39は、第二可変バルブ機構50bにより、一部の吸気弁を閉弁状態で休止されるようになっている。例えば、吸気弁39を閉弁状態で休止して、吸気弁36を開閉動作させることで、断面積の小さい吸気独立流路2のみに吸気を流通させることができる。反対に、吸気弁36を閉弁状態で休止して、吸気弁39を開閉動作させることで、断面積の大きい吸気独立流路3のみに吸気を流通させることができる。また、吸気弁36及び吸気弁39を何れも休止させずに開閉動作させることで、吸気独立流路2及び吸気独立流路3に共に吸気を流通させることができる。この場合が最も吸気が流れる流路の断面積が大きくなる。なお、これらの吸気弁36,39の動作は、全てのシリンダ32で同一であるものとする。
[1−4.制御系,検出系]
エンジン1のクランクシャフト49には、その回転角や回転速度を検出するエンジン回転速度センサー55が設けられる。以下、ここで検出された回転速度のことを、単にエンジン回転数Neとも呼ぶ。このエンジン回転速度センサー55が、エンジンの回転速度を検出する検出手段として機能する。なお、エンジン回転速度センサー55で検出された回転角に基づいてエンジン制御装置71の内部でエンジン回転数Neを演算する制御構成としてもよい。
本実施形態のエンジン1が適用される車両には、エンジン制御装置71(ECU,Engine Electronic Control Unit)が設けられる。このエンジン制御装置71は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成され、車両に設けられた車載ネットワーク網の通信ラインに接続される。なお、車載ネットワーク上には、例えばブレーキ制御装置,変速機制御装置,車両安定制御装置,空調制御装置,電装品制御装置といったさまざまな公知の電子制御装置が、互いに通信可能に接続される。
エンジン制御装置71は、エンジン1に関する点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系といった広範なシステムを総合的に制御する電子制御装置である。エンジン制御装置71の具体的な制御対象としては、可変バルブ機構50を介しての吸気弁36,39及び排気弁42,45のバルブリフト量又はバルブタイミング、各シリンダ32の点火時期、インジェクター60からの燃料噴射量、スロットルバルブ62の開度などが挙げられる。本実施形態では、エンジン回転数Neに応じて、吸気弁36,39及び排気弁42,45の一部を閉弁状態で休止させる休止制御について説明する。
[2.制御構成]
図2に示すように、エンジン制御装置71には、上記の休止制御を実施するために、バルブリフト量制御部72及びバルブタイミング制御部73が設けられる。これらの各要素は電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
バルブリフト量制御部72(制御手段)は、エンジン回転数Neに応じて可変バルブ機構50のバルブリフト量調整機構53,57に制御信号を出力し、吸気弁36,39及び吸気弁42,45のバルブリフト量を制御するものである。本実施形態のバルブリフト量制御部72は、エンジン1の運転状態に応じてバルブリフト量を制御するとともに、エンジン回転数Neに基づいて吸気弁36,39及び排気弁42,45のうち一部の動作を休止させる休止制御を実施する。
バルブタイミング制御部73(制御手段)は、エンジン回転数Neに応じて可変バルブ機構50のバルブタイミング調整機構54,58に制御信号を出力し、吸気弁36,39及び排気弁42,45のそれぞれのバルブタイミング(開弁及び閉弁のタイミング)を変更するものである。本実施形態のバルブタイミング制御部73は、エンジン1の運転状態に応じてバルブタイミングを制御する。なお、バルブリフト量制御部72の代わりにバルブタイミング制御部73が休止制御を実施する制御構成としてもよい。この場合、休止制御を実施するための条件はエンジン回転数Neに基づいて判定されることとしてもよい。
[3.休止制御]
休止制御では、エンジン回転数Neが低回転域(0≦Ne<Ne1)の場合,中回転域(Ne1≦Ne<Ne2)の場合及び高回転域(Ne2≦Ne)の場合に応じて、吸気弁36,39及び排気弁42,45の閉弁状態が制御される。以下に、各回転領域における休止制御について具体的に説明する。
エンジン回転数Neが所定の低回転域(0≦Ne<Ne1)にある場合は、複数の吸気独立流路2,3のうち断面積の小さい吸気独立流路2に吸気が流れ、複数の排気独立流路4,5のうち断面積の小さい排気独立流路4に排気が流れるように制御される。すなわち、バルブリフト量制御部72により、断面積の大きい吸気独立流路3に設けられた吸気弁39のバルブリフト量がゼロとなるようにバルブリフト量調整機構53が制御される。これにより、吸気弁39の動作が停止され、閉弁状態で休止される。
同様に、バルブリフト量制御部72により、断面積の大きい排気独立流路5に設けられた排気弁45のバルブリフト量がゼロとなるようにバルブリフト量調整機構57が制御される。これにより、排気弁45の動作が停止され、閉弁状態で休止される。このとき、各シリンダ32における吸気弁36及び排気弁42は開閉動作することで、吸気ポート34及び排気ポート40のみが開放されることになり、吸気独立流路2及び排気独立流路4のみに吸気及び排気を流通させることができる。
エンジン回転数Neが所定の中回転域(Ne1≦Ne<Ne2)にある場合は、断面積の大きい吸気独立流路3及び排気独立流路5に吸気及び排気が流れるように制御される。すなわち、バルブリフト量制御部72により、断面積の小さい吸気独立流路2に設けられた吸気弁36のバルブリフト量がゼロとなるようにバルブリフト量調整機構53が制御される。これにより、吸気弁36の動作が停止され、閉弁状態で休止される。
同様に、バルブリフト量制御部72により、断面積の小さい排気独立流路4に設けられた排気弁42のバルブリフト量がゼロとなるようにバルブリフト量調整機構57が制御される。これにより、排気弁42の動作が停止され、閉弁状態で休止される。このとき、各シリンダ32における吸気弁39及び排気弁45は開閉動作することで、吸気ポート37及び排気ポート43のみが開放されることになり、吸気独立流路3及び排気独立流路5のみに吸気及び排気を流通させることができる。
エンジン回転数Neが所定の高回転域(Ne2≦Ne)にある場合は、複数の吸気独立流路2,3の全てに吸気が流れ、複数の排気独立流路4,5の全てに排気が流れるように制御される。すなわち、バルブリフト量制御部72により、吸気独立流路2,3に設けられた吸気弁36,39が動作するようにバルブリフト量調整機構53が制御される。同様に、排気独立流路4,5に設けられた排気弁42,45が動作するようにバルブリフト量調整機構57が制御される。これらにより、各シリンダ32における吸気弁36,39及び排気弁42,45は、開閉動作し、吸気ポート34,37及び排気ポート40,43が開放されることになる。従って、全ての独立流路2,3及び4,5に吸気及び排気を流通させることができる。
[4.作用]
ここで、一般的な吸気系の慣性効果について、図3を用いて説明する。図3では、内部に空洞を有する空洞部75に、開口部としてのネック部76が設けられたヘルムホルツ共鳴器を模式的に示している。
吸気系の共振周波数fは、ヘルムホルツ共鳴器の振動から、次の式[1]で示される。
式[1]において、aは音速,Sは図3に示すネック部76の断面積,Lはネック部76の長さ,Vは空洞部75の容積を表す。上記の式[1]から分かるように、共振周波数fは、ネック部76の断面積S及び長さLと、空洞部75の容積Vとによって決定する。ここで、空洞部75をシリンダ32に、ネック部76を吸気独立流路2,3に対応させることで、エンジン1への慣性効果の影響を検することができる。
同一のシリンダ32に連通する吸気独立流路2,3は、長さに対する断面積の比率が互いに異なるように設定されているため、式[1]から、これら二つの吸気独立流路2,3の共振周波数f11,f12は異なる。言い換えると、これら二つの吸気独立流路2,3の共振周波数f11,f12が異なるように、各長さL1,L2と、各断面積S11,S12とが設定されている。
吸気ポート34,37における吸気弁36,39の開弁に伴い、吸気の吸い込みにより吸気独立流路2,3の吸気弁36,39端に密度の低い負圧波が発生する。この負圧波が吸気独立流路2,3内を伝わり、開放端である吸気独立管15,16端で正圧波として反射して吸気弁36,39側に戻ってくる。この正圧波が、吸気弁36,39が開いている間に吸気弁36,39に到達することで、体積効率を向上させることができる慣性効果が生じる。
このような慣性効果は、吸気弁36,39が開いてから閉じるまでの間に吸気系の圧力振動の1サイクルが完了する圧力振動の周波数が、共振周波数に近づくことで上昇する。このため、仮にエンジン回転数Ne(吸気の間隔)及び開弁期間が変化した場合、慣性効果が上昇して最適な体積効率が得られる共振周波数fが変化することになる。このときの共振周波数fの逆数で表される周期1/fと、エンジン回転数Neと、吸気弁36,39が開弁している期間に相当する角度幅θとの関係は、次の式[2]で示される。なお、120/Neはクランクシャフト49が2回転するエンジンの1サイクルの時間であり、θ/720°はエンジン1が2回転する際にバルブが開いている割合である。
さらに、式[3]の共振周波数fに式[1]を導入することで、式[4]の関係が導出される。
式[4]は、慣性効果が作用するエンジン回転数Neを示すものである。
式[4]から分かるように、吸気独立流路2,3の断面積が小さい場合、又は吸気独立流路2,3の長さ若しくはシリンダ32の容積が大きい場合には、慣性効果が作用するエンジン回転数Neは小さくなる。一方、吸気独立流路2,3の断面積が大きい場合、又は吸気独立流路2,3の長さ若しくはシリンダ32の容積が小さい場合には、慣性効果が作用するエンジン回転数Neは大きくなる。
上述した内容は、シリンダ32と排気独立流路4,5からなる排気系の慣性効果についても同様であり、ネック部76は排気独立流路4,5にも対応する。上記の式[1]から分かるように、シリンダ32と排気独立流路4,5からなる排気系では、排気独立流路4,5の断面積、排気独立流路4,5の長さ、シリンダ32の容積を変化させることで、排気系の共振周波数fを設定することができる。
本実施形態では、同一のシリンダ32に連通する排気独立流路4,5は、長さに対する断面積の比率が互いに異なるように設定されているため、式[1]から、これら二つの排気独立流路4,5の共振周波数f21,f22は異なる。言い換えると、これら二つの排気独立流路4,5の共振周波数f21,f22が異なるように、各長さL3,L4と、各断面積S21,S22とが設定されている。
また、式[4]から分かるように、排気独立流路4,5の断面積が小さい場合、又は排気独立流路4,5の長さ若しくはシリンダ32の容積が大きい場合には、慣性効果が作用するエンジン回転数Neは小さくなる。一方、排気独立流路4,5の断面積が大きい場合、又は排気独立流路4,5の長さ若しくはシリンダ32の容積が小さい場合には、慣性効果が作用するエンジン回転数Neは大きくなる。
バルブリフト量制御部72は、エンジン回転数Neが所定の低回転域(0≦Ne<Ne1)にある場合には、第二可変バルブ機構50bを介して各シリンダ32における吸気弁39を閉弁状態で休止させる。また、バルブリフト量制御部72は、第一可変バルブ機構50aを介して各シリンダ32における排気弁45を閉弁状態で休止させる。これにより、吸気独立流路2のみに吸気を流通させ、また排気独立流路4のみに排気を流通させる。
このとき、吸気独立流路2の断面積S11は、吸気独立流路3の断面積S12よりも小さく設定されているため、吸気系(吸気独立流路2)の共振周波数f11を、吸気独立流路3のみに吸気を流通させる場合の共振周波数f12よりも低い低周波数側に設定することができる。また、排気独立流路4の断面積S21は、排気独立流路5の断面積S22よりも小さく設定されているため、排気系(排気独立流路4)の共振周波数f21を、排気独立流路5のみに排気を流通させる場合の共振周波数f22よりも低い低周波数側に設定することができる。
バルブリフト量制御部72は、エンジン回転数Neが所定の中回転域(Ne1≦Ne<Ne2)にある場合には、第二可変バルブ機構50bを介して各シリンダ32における吸気弁36を閉弁状態で休止させる。また、バルブリフト量制御部72は、第一可変バルブ機構50aを介して各シリンダ32における排気弁42を閉弁状態で休止させる。これにより、吸気独立流路3のみに吸気を流通させ、また排気独立流路5のみに排気を流通させる。
このとき、吸気独立流路3の断面積S12は、吸気独立流路2の断面積S11よりも大きく設定されているため、吸気系(吸気独立流路3)の共振周波数f12を、吸気独立流路2のみに吸気を流通させる場合の共振周波数f11よりも高くすることができる。また、吸気独立流路3の断面積S12は、吸気独立流路2,3の各断面積の合計(S11+S12)よりも小さいため、吸気独立流路2,3の両方に吸気を流通させる場合の共振周波数f13よりも低くすることができる。これらにより、吸気系(吸気独立流路3)の共振周波数f12を中周波数側に設定することができる。
また、排気独立流路5の断面積S22は、排気独立流路4の断面積S21よりも大きく設定されているため、排気系(排気独立流路5)の共振周波数f22を、排気独立流路4のみに排気を流通させる場合の共振周波数f21よりも高くすることができる。また、排気独立流路5の断面積S22は、排気独立流路4,5の各断面積の合計(S21+S22)よりも小さいため、排気独立流路4,5の両方に排気を流通させる場合の共振周波数f23よりも低くすることができる。これらにより、排気系(排気独立流路5)の共振周波数f22を中周波数側に設定することができる。
バルブリフト量制御部72は、エンジン回転数Neが所定の高回転域(Ne2≦Ne)にある場合には、第二可変バルブ機構50bを介して各シリンダ32における吸気弁36,39を動作させる。また、バルブリフト量制御部72は、可変バルブ機構50aを介して各シリンダ32における排気弁42,45を動作させる。これにより、吸気独立流路2,3の両方に吸気を流通させ、排気独立流路4,5の両方に排気を流通させる。
このとき、吸気独立流路2,3の各断面積の合計(S11+S12)が最も大きくなるため、吸気系の共振周波数f13を、吸気独立流路2,3の共振周波数f11,f12よりも高い高周波数側に設定することができる。また、排気独立流路4,5の各断面積の合計(S21+S22)が最も大きくなるため、排気系の共振周波数f23を、排気独立流路4,5の共振周波数f21,f22よりも高い高周波数側に設定することができる。
以上のように、複数の吸気弁36,39のうち一部の吸気弁を閉弁状態で休止させる休止制御をすることにより、吸気が流通する流路の断面積を、S11<S12<S11+S12の関係となるように変化させることで、吸気系の共振周波数fを、f11<f12<f13の関係となるように変化させることができる。また、複数の排気弁42,45のうち一部の排気弁を閉弁状態で休止させる休止制御をすることにより、排気が流通する流路の断面積を、S21<S22<S21+S22の関係となるように変化させることで、排気系の共振周波数fを、f21<f22<f23の関係となるように変化させることができる。
図4は、本実施形態のエンジン1のエンジン回転数Neと排気効率との関係を示す図である。グラフAは、排気独立流路4のみに排気が流通した場合、グラフBは、排気独立流路5のみに排気が流通した場合、グラフCは、排気独立流路4,5の両方に排気が流通した場合のエンジン回転数Neに対する排気効率を示す。図4に示すように、排気が流通する流路の断面積が小さく共振周波数fが低い場合には、エンジン1の低速回転域に排気効率のピークを持ち、断面積が大きく共振周波数fが高い場合には、エンジン1の高速回転域に排気効率のピークを持つ。
本実施形態のエンジン1は、低回転域(0≦Ne<Ne1)では排気弁42が開弁し、中回転域(Ne1≦Ne<Ne2)では排気弁45が開弁し、高回転域(Ne2≦Ne)では排気弁42,45の両方が開弁することで、排気系の共振周波数fを三段階に変化させることができる。これにより、エンジン回転数Neの全域において排気効率を高めるとともにトルクを向上させることができる。
また、本実施形態に係るエンジン1は、排気集合部23の下流側に触媒64を内蔵した排気管24が接続されており、触媒64の早期活性化のためにはエンジン1と触媒64との距離を短くする必要がある。この場合、排気独立流路4,5の長さをできるだけ短くすることが有効である。そのため、上記の式[1]の長さLを変更して排気系の共振周波数fを変更することは困難である。なお、シリンダ32の容積は、共振周波数f及び慣性効果以外の要素にも影響を与える場合があるため、シリンダ32の容積を変更して排気系の共振周波数fを変更することも困難である。
そこで、本実施形態に係るエンジン1は、同一のシリンダ32に連通する複数の排気独立流路4,5の断面積を異ならせることよって、共振周波数fの異なる複数の排気独立流路4,5を備えた排気系構造とすることができる。なお、排気系の共振周波数fは、式[1]に示すように断面積Sと長さLとの比率に応じて変化するものである。このため、本実施形態に係るエンジン1では、同一のシリンダ32に連通する複数の排気独立流路4,5の長さに対する断面積の比率が互いに異なるように設定することで、共振周波数fの異なる複数の排気独立流路4,5を備えた排気系構造とすることができる。
排気独立流路4,5の長さに対する断面積の比率が互いに異なるように設定するためには、以下に示すように長さ又は断面積を変更することにより行うことができる。
例えば、同一のシリンダ32に連通する二本の排気独立流路4,5の長さが同じであり、且つ、断面積が同じである場合には、二本の排気独立流路4,5の長さに対する断面積の比率が等しくなり、共振周波数が互いに等しくなる。この場合、二本の排気独立流路の長さに対する断面積の比率が異なるように、いずれかの排気独立流路の断面積を変更することで、共振周波数が異なる複数の排気独立流路を備える排気系構造を提供することができる。
また、同一のシリンダ32に連通する2本の排気独立流路の長さが、一方が他方の2倍の長さである場合には、長いほうの排気独立流路の断面積が短いほうの排気独立流路の断面積の2倍であると、2本の排気独立流路の長さに対する断面積の比率が等しくなり、共振周波数が互いに等しくなる。この場合、2本の排気独立流路の長さに対する断面積の比率が異なるように、いずれかの排気独立流路の断面積又は長さを変更することで、共振周波数が異なる複数の排気独立流路を備える排気系構造を提供することができる。
また、本実施形態に係るエンジン1では、排気独立流路4,5の断面積と長さとの比を一定にすることで、共振周波数を変化させずに排気独立流路4,5の断面積Sと長さLとを変化させることができる。例えば、排気独立流路4,5の長さLを2分の1にする場合であれば、排気独立流路4,5の断面積も2分の1にすることで、排気独立流路4,5の長さに対する断面積の比率を維持することにより、排気独立流路4,5の共振周波数の関係を変化させずにエンジン1と触媒64との距離を短くして触媒64の早期活性化させることができる。
また、式[1]から分かるように、排気系の共振周波数は、排気独立流路4,5の断面積Sと長さLとにより表される√(S/L)に比例して変化するものである。このため、本実施形態に係るエンジン1では、同一のシリンダ32に連通される排気独立流路4,5の断面積Sと長さLとにより表される√(S/L)を変更することで、排気系の共振周波数fを変化させることができる。例えば、排気系の共振周波数fを2倍に設定する場合には、排気独立流路4,5の断面積を4倍にするか、又は排気独立流路4,5の長さを4分の1にすればよい。または、排気系の共振周波数fを2分の1に設定する場合には、排気独立流路4,5の断面積を4分の1にするか、又は排気独立流路4,5の長さを4倍にすればよい。
このようにして、同一のシリンダ32に連通する排気独立流路4,5の断面積と長さとを変更して、排気独立流路4,5の長さに対する断面積の比率が互いに異なるように設定することで、共振周波数fの異なる複数の排気独立流路4,5を備えた排気系構造とすることができる。また、排気独立流路4,5に設けられた排気弁42,45のうち特定のバルブを休止させることで、排気系の共振周波数fをf21<f22<f23の関係となるように変化させることができる。さらに、排気系の共振周波数fは、排気独立流路4,5をそれぞれ開閉させる排気弁42,45のうち、特定の排気弁を閉弁状態で休止させるだけで変化させることができるので、制御構成を簡素化することができる。
吸気系についても同様に、同一のシリンダ32に連通する吸気独立流路2,3の断面積と長さとを異なるものにすることで、吸気系の共振周波数fをf11<f12<f13の関係となるように変化させることができる。さらに、吸気系の共振周波数fは、吸気独立流路2,3をそれぞれ開閉させる吸気弁36,39のうち、特定の吸気弁を閉弁状態で休止させるだけで変化させることができるので、制御構成を簡素化することができる。
[5.効果]
(1)上記のエンジン1では同一のシリンダ32から吸気集合部13又は排気集合部23までを互いに断面積の異なる複数の吸気独立流路2,3又は排気独立流路4,5で形成する。さらに、複数の吸気独立流路2,3又は排気独立流路4,5に設けられた複数の吸気弁36,39又は排気弁42,45のうち特定のバルブを、可変バルブ機構50により閉弁状態で休止させることで、空気の流れる流路を断面積の異なる複数の独立流路に切り替える。これにより、エンジン回転数Neに適合するように空気の流れる流路の共振周波数fを変化させることができ、慣性効果が得られる。すなわち、エンジン回転速度を共振周波数に合うように変化させるのではなく、エンジン回転速度にあわせて慣性効果が十分得られるように共振周波数を変化させることができる。そのため、吸気流路に適用した場合には吸気効率を高めることができ、排気流路に適用した場合には排気効率を高めることができる。このようにして、エンジンの運転状態に影響を与えることなく、慣性効果によりエンジン1の体積効率を高めることにより、トルクを向上させることができる。
言い換えると、上記のエンジン1では、同一のシリンダ32に対して、互いに断面積の異なる複数の独立流路2,3及び4,5が設けられるため、例えば図7のようなシリンダヘッド103内で排気ポート104が合流するとともに、この合流した流路が独立管125へと連通する従来のエンジン101に比べて、一つのシリンダ32に対して断面積の小さい独立流路2,4がそれぞれ接続されることになる。そのため、本エンジン1は、仮に独立流路2,4の長さが従来のエンジン101と同一であったとしても、従来のエンジン101の流路が有する共振周波数よりも低い共振周波数fを持った流路を備えることができる。さらに、互いに断面積の異なる複数の独立流路2,3及び4,5を可変バルブ機構50によって切り替えることで、共振周波数fを複数段(上記実施形態では三段階)に切り替えることができる。これにより、エンジン回転数Neに合った共振周波数fを持つ流路に吸気及び排気を流すことができ、吸気効率及び排気効率を高めることができる。
また、排気流路に適用した場合、本エンジン1は、複数の排気独立流路4,5の断面積を互いに異なるものとすることで、低い共振周波数fを持った流路を形成している。つまり、排気独立流路4,5の断面積を小さくすることで、共振周波数fを低下させることができるため、排気独立流路4,5の長さは短く設定することができる。言い換えると、排気独立流路4,5を短い長さに設定した場合であっても共振周波数fを低中周波数側に設定できるように、排気独立流路4,5の断面積を設定することで、触媒64を排気集合部23の直下流に配置することが可能となる。
これにより、触媒64に高温の排気を流入させることができ、触媒64を早期に活性化させることができる。また、排気独立流路4,5の長さを短くすることで、流路7(排気マニホールド21)全体を小型化することができ、触媒64をエンジン1の近傍に配置することができるため、エンジン1の熱によっても触媒64を昇温することができる。これらによって、エンジン1の低温始動時の排ガス性能を向上させることができる。
従って、上記のエンジン1では、エンジン1の低温始動時における排ガス浄化性能の向上と、排気効率を高めることによるトルクの向上とを両立させることができる。
さらに、共振周波数fは、式[1]に示すように、ネック部76の長さLに対する断面積Sの比率によって決定する。上記のエンジン1では、同一のシリンダ32に連通する複数の吸気独立流路2,3又は排気独立流路4,5が、シリンダ32から各集合部13,23までの長さに対する断面積の比率が互いに異なる。このため、共振周波数fの異なる流路を確実に設定することができ、空気が流通する流路を切り替えることにより、エンジン回転数Neに適合するようにエンジン1の吸気系又は排気系の共振周波数fを変化させることができる。これによって、吸気効率又は排気効率を高め、トルクを向上させることができる。
(2)上記のエンジン1では、バルブリフト量制御部72により、エンジン回転数Neに基づいて吸気弁36,39又は排気弁42,45の閉弁状態が制御されて、空気が流通する流路を切り替えることができる。このような制御によって、エンジン1の運転状態に適した吸気系又は排気系の共振周波数fを得ることができ、吸気効率又は排気効率を高め、トルクを向上させることができる。
(3)上記のエンジン1では、バルブリフト量制御部72が、エンジン回転数Neが低いほど断面積の小さい流路(吸気独立流路2,排気独立流路4)に空気が流れるように、吸気弁36,39又は排気弁42,45の閉弁状態を変更する。これによって、エンジン回転数Neの低い低中回転域における吸気効率や排気効率を高め、トルクを向上させることができる。
(4)上記のエンジン1では、バルブリフト量制御部72により、エンジン回転数Neが低回転域,中回転域及び高回転域の場合において、それぞれ特定の流路に空気が流れるよう吸気弁36,39又は排気弁42,45の閉弁状態が制御される。このように、エンジン回転数Neに基づいてバルブの閉弁状態を制御することで、エンジン1の運転状態に適した共振周波数fを得ることができ、吸気効率や排気効率を高め、トルクを向上させることができる。
[6.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
上述の実施形態では、一つのシリンダ32に、二つの吸気ポート34,37及び二つの排気ポート40,43を備えたエンジン1について説明したが、吸気ポート又は排気ポートの数はこれに限定されない。例えば、図5に示すように、一つのシリンダ82に、二つの吸気ポート83,84と三つの排気ポート85,87,89とを備えたエンジン81としてもよい。
この場合、排気ポート85,87,89に接続される排気マニホールド91は、排気独立管94,95,96からなる排気独立管部92と、排気独立管94,95,96の下流側に接続されて排気独立管94,95,96を集合させている排気集合部93とを有する。排気独立管94,95,96は、それぞれ排気ポート85,87,89に接続されている。排気ポート85,87,89の開口部にはそれぞれ、開口部を開閉させる排気弁86,88,90が設けられている。排気マニホールド91の排気集合部93の下流側に、排気を外部へ導く排気管24が接続されており、この排気管24には、触媒64が設けられる。
各シリンダ82に設けられた排気ポート85と独立管94とからなる排気独立流路97の断面積S31と、排気ポート87と独立管95とからなる排気独立流路98の断面積S32と、排気ポート89と独立管96とからなる排気独立流路99の断面積S33とは、S31,S32,S33の順に大きくなるよう設定されている(S31<S32<S33)。すなわち、変形例に係るエンジン81では、各シリンダ82に設けられた排気独立流路97と、排気独立流路98と、排気独立流路99とが互いに断面積の大きさが異なるよう設定されている。また、断面積S31と、断面積S32と、断面積S33とが、以下の式[5]の関係となるよう設定されている。
S31<S32<S31+S32<S33<S31+S33<S32+S33<S31+S32+S33 式[5]
このとき、排気弁86,88,90について、上述の実施形態と同様の制御を実施することが可能である。すなわち、排気弁88,90を閉弁状態で休止させて、排気弁86が開弁するように動作させることにより、断面積S31の排気独立流路97のみに排気を流通させることができる。同様に、排気弁86,90を休止させることにより、断面積S32の排気独立流路98のみに排気を流通させることができる。また、排気弁86,88を休止させることにより、断面積S33の排気独立流路99のみに排気を流通させることができる。
また、排気弁90を休止させることにより、断面積の合計がS31+S32となる排気独立流路97及び98に排気を流通させることができる。また、排気弁88を休止させることにより、断面積の合計がS31+S33となる排気独立流路97及び99に排気を流通させることができる。また、排気弁86を休止させることにより、断面積の合計がS32+S33となる排気独立流路98及び99に排気を流通させることができる。さらに、排気弁86,88,90が全て開弁するように動作させることにより、断面積の合計がS31+S32+S33となる排気独立流路97,98,99全てに排気を流通させることができる。
このような制御の場合、排気が流通する断面積に応じて、排気系の共振周波数fが変化する。ここでは排気が流通する流路の断面積を、上記の式[5]の関係となるように順に変化させることで、排気系の共振周波数fを七段階に変化させることができる。
図6は、変形例に係るエンジン81のエンジン回転数Neと排気効率との関係を示す図である。グラフD,E,F,G,H,I,Jは、それぞれ排気が流通する流路を切り替えた場合のエンジン回転数Neに対する排気効率の関係を示す。なお、低回転側のグラフDが最も断面積の小さい排気独立流路97に排気が流通した場合であり、高回転側のグラフほど断面積が大きい流路に排気が流通した場合を示す。つまり、グラフD〜Jは、上記の式[5]の七段階の断面積の関係に対応する。
図6に示すように、エンジン回転数Ne(0〜Ne3,Ne3〜Ne4,Ne4〜Ne5,Ne5〜Ne6,Ne6〜Ne7,Ne7〜Ne8,Ne8〜)に応じて特定の排気弁を閉弁させることにより、排気系の共振周波数を七段階に変化させることができ、上述の実施形態と同様に、エンジン回転数Neの全域において排気効率を高めるとともにトルクを向上させることができる。例えば、エンジン回転数NeがNe3≦Ne<Ne4である場合には、グラフEに対応する排気独立流路98のみに排気を流通させることで高い排気効率を得ることができる。
また、変形例に係るエンジン81によれば、互いに断面積が異なる三つの排気独立流路97,98,99を備え、排気の流れる1乃至3の流路を切り替えることにより、上記実施形態よりも多段階的にエンジン回転数Neに合致させるよう共振周波数fを設定することができる。このため、排気効率の落ち込みを抑えて、より連続的に排気効率を高めることができる。
上述の実施形態では、エンジン1とその吸気系と排気系の両方について説明したが、排気系に適用されることで、排気効率の向上に加え、触媒の早期活性化という効果を得ることができる。このため、排気系のみに本発明の構成を適用したものであってもよい。
また、上述の実施形態では、四つのシリンダ32を有する4気筒エンジン1に適用したものを例示したが、シリンダ32の数は限定されず、単気筒エンジンにも、四気筒以外の多気筒エンジンにも適用することができる。
また、上述の実施形態では、ガソリンエンジンを例示したが、エンジン1の種類は限定されず、ディーゼルエンジンであってもよい。
また、上述の実施形態では、排気集合部23の下流側に排気管24が接続され、排気管24の内部に触媒64が設けられるものを例示したが、排気集合部23が排気の下流側に延長されて、排気マニホールド21に触媒64が設けられるようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、吸気管14にはスロットルボディが介装され、スロットルボディの内部にはスロットルバルブ62が内蔵されるものを例示したが、可変バルブ機構50により吸気量を制御することで、スロットルボディ及びスロットルバルブ62を備えないスロットルレスとしてもよい。
また、上述の実施形態では、吸気独立流路2,3及び排気独立流路4,5について、その全長にわたってほぼ一定の断面積を有するものを例示したが、同一のシリンダ32に連通する吸気独立流路2,3又は排気独立流路4,5は、その共振周波数f11,f12又は共振周波数f21,f22がそれぞれ異なるように各断面積が設定されていればよい。このため、吸気独立流路2,3又は排気独立流路4,5の断面積を適宜変更して、断面積が流路の途中で変化するものであってもよい。吸気独立流路2の断面積を変更する場合には、吸気ポート34,37の断面積を変化させてもよく、吸気独立管15,16の断面積を変化させてもよく、あるいはこれらの両方を変化させてもよい。排気独立流路4,5の断面積を変更する場合には、排気ポート40,43の断面積を変化させてもよく、排気独立管25,26の断面積を変化させてもよく、あるいはこれらの両方を変化させてもよい。
上述の実施形態では、図4を参照して、バルブの制御により排気の流れる流路を切り替えることで、排気系の共振周波数fを三段階に変化させる場合について説明したが、共振周波数fの変化はこれに限定されない。例えば、エンジン回転数Neが低回転域にある場合には排気弁45を休止させることで排気弁42を動作させて、中・高回転域にある場合には排気弁42,45の両方を動作させることにより、排気系の共振周波数fを二段階に変化させてもよい。