JP6268965B2 - 圧縮着火式エンジンの制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、圧縮着火式エンジンの制御装置に関する。
従来より、燃費性能の向上および排気性能の向上を目的として、エンジン本体に形成された燃焼室内で空燃比が理論空燃比よりもリーンに設定された混合気を圧縮自己着火燃焼させることが行われている。
例えば特許文献1には、リーンな混合気を圧縮自着火燃焼させるエンジンシステムであって、低回転・低負荷の所定の運転領域でのみ圧縮自着火燃焼を実施し、それ以外の運転領域では火花点火燃焼を実施する装置が開示されている。
特開2009−091994号公報
ここで、空燃比リーンの混合気の圧縮自着火燃焼を燃焼温度が高くなる運転条件において実施すると、燃焼により生成されるNOx量が増大し、排気性能がかえって悪化するという問題がある。これに対して前記特許文献1に開示されている装置では、燃焼温度が比較的低い低負荷・低回転領域でのみ圧縮自着火燃焼が実施されているため、NOx量の増大を回避することができる。しかしながら、この装置では、一部の領域でしか圧縮自己着火燃焼が実施されないことから、燃費性能を十分に高めることができないという問題がある。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、排気性能を高く維持しつつより広い範囲での圧縮自着火燃焼を実現することのできる圧縮着火式エンジンの制御装置を提供する。
前記課題を解決するために、本発明は、内側に少なくとも燃料と空気とを含む混合気が燃焼する燃焼室が形成された気筒と、当該気筒内に吸気を導入する吸気ポートと、前記気筒内から排気を排出する排気ポートと、前記吸気ポートを開閉可能な吸気弁と、前記排気ポートを開閉可能な排気弁とを有するエンジン本体と、前記排気ポートに接続される排気通路に設けられて三元触媒を含む触媒装置と、前記混合気の燃焼形態および前記燃焼室内の混合気の空燃比を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、少なくともエンジン負荷が所定負荷よりも低い低負荷領域では前記燃焼形態を圧縮自着火燃焼にし、前記圧縮自着火燃焼が実施される圧縮自着火領域のうちエンジン負荷が特定負荷未満の低負荷側圧縮自着火領域では、前記燃焼室で生成された既燃ガスの一部を当該燃焼室に残留させる内部EGRを実施するとともに当該燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンにする一方、前記圧縮自着火領域のうちエンジン負荷が前記特定負荷以上の高負荷側圧縮自着火領域では、前記混合気の空燃比を理論空燃比とし、前記特定負荷は、エンジン回転数が高いほど低い値に設定されており、前記制御手段は、前記圧縮自着火領域のうちエンジン回転数が特定回転数未満の低回転側圧縮自着火領域では、その全域において、前記燃焼室で生成された既燃ガスの一部を当該燃焼室に残留させる内部EGRを実施するとともに当該燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンな値にすることを特徴とする圧縮着火式エンジンの制御装置を提供する(請求項1)
この発明によれば、燃焼温度が高い運転領域においても最終的に外部に排出されるNOx量を少なく抑えつつ圧縮自着火燃焼を実現することができ、排気性能を高く維持しつつより広い範囲での圧縮自着火燃焼を実現することができる。
具体的には、エンジン負荷および燃焼温度が比較的低く燃焼により生成されるNOx量の少ない低負荷側圧縮自着火領域では、空燃比を理論空燃比よりもリーンとしつつ圧縮自己着火燃焼を実施しているので、この領域において燃費性能を高くすることができる。そして、エンジン負荷および燃焼温度が比較的高い高負荷側圧縮自着火領域では、燃焼により生成されるNOx量が比較的多くなるが、本発明では、この高負荷側圧縮自着火領域において空燃比を三元触媒によるNOxの浄化が可能な理論空燃比としつつ圧縮自己着火燃焼を実施しているので、燃焼により生成されたNOxを三元触媒により浄化して最終的に外部に出されるNOx量を少なく抑えて排気性能を高く維持しつつ圧縮自着火燃焼の実施に伴う燃費性能向上効果を得ることができる。
特に、混合気の温度および燃焼温度そして燃焼により生成されるNOx量は、エンジン回転数が高くなるほど、また、エンジン負荷が高くなるほど高くなる。これに対して、前記低負荷側圧縮自着火燃焼と高負荷側圧縮自着火燃焼との境界となる負荷すなわち空燃比をリーンと理論空燃比とで切替える基準となる特定負荷が、エンジン回転数が高いほど低い値に設定されているため、NOx量が多くなる高回転・高負荷領域において確実に空燃比を理論空燃比として外部に排出されるNOxをより確実に小さく抑えることができる。
しかも、低負荷側圧縮自着火領域において、内部EGRが実施されて高温の既燃ガスが燃焼室内に残留するよう構成されている。そのため、エンジン負荷が低く混合気の着火性が悪化しやすい低負荷側圧縮自着火領域において、混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンとして低温の新気を多量に導入しつつ混合気の温度を適正に高めることができ、安定した圧縮自着火燃焼を実現することができる。
ここで、エンジン回転数が十分に低い低回転領域では混合気および燃焼温度が低いため、空燃比リーンの圧縮自着火燃焼を実施してもNOx生成量は少なく抑えられる。このことを考慮して、本発明では、エンジン回転数が特定回転数未満の低回転側圧縮自着火領域の全域において、内部EGR実施されるとともに空燃比理論空燃比よりもリーンな値に設定される。これにより、外部に排出されるNOx量を少なく抑えつつ燃費性能をより高めることができる。
また、本発明は、内側に少なくとも燃料と空気とを含む混合気が燃焼する燃焼室が形成された気筒と、当該気筒内に吸気を導入する吸気ポートと、前記気筒内から排気を排出する排気ポートと、前記吸気ポートを開閉可能な吸気弁と、前記排気ポートを開閉可能な排気弁とを有するエンジン本体と、前記排気ポートに接続される排気通路に設けられて三元触媒を含む触媒装置と、前記燃焼室で生成された既燃ガスの一部を吸気に還流する外部EGR手段と、前記混合気の燃焼形態および前記燃焼室内の混合気の空燃比を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、少なくともエンジン負荷が所定負荷よりも低い低負荷領域では前記燃焼形態を圧縮自着火燃焼にし、前記圧縮自着火燃焼が実施される圧縮自着火領域のうちエンジン負荷が特定負荷未満の低負荷側圧縮自着火領域では、前記燃焼室で生成された既燃ガスの一部を当該燃焼室に残留させる内部EGRを実施するとともに当該燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンにする一方、前記圧縮自着火領域のうちエンジン負荷が前記特定負荷以上の高負荷側圧縮自着火領域では、前記混合気の空燃比を理論空燃比とし、前記特定負荷は、エンジン回転数が高いほど低い値に設定されており、前記制御手段は、前記高負荷側圧縮自着火領域において、前記外部EGR手段により既燃ガスの一部を燃焼室内に導入しつつ前記内部EGRを実施して既燃ガスの一部を当該燃焼室に残留させるとともに、この高負荷側圧縮自着火領域における内部EGRによる残留既燃ガスの混合気全体に対する割合を、前記低負荷側圧縮自着火領域におけるこの内部EGRによる残留既燃ガスの混合気全体に対する割合よりも小さくすることを特徴とする圧縮着火式エンジンの制御装置を提供する(請求項)。
本発明によれば、高負荷側圧縮自着火領域において、燃焼温度を低く抑えて燃焼時のNOxの生成量を少なく抑えることができるとともに、異常燃焼を抑制してより確実に安定した圧縮自着火燃焼を実現することができる。このことは、排気性能および燃費性能をより確実に高める。また、EGRの実施により、EGRガスに含まれる未燃ガスを再度燃焼させることで、燃料を効率よく消費することができ、高負荷側圧縮自着火領域においても、燃費性能を高めることができる。
また、高負荷側圧縮自着火領域において内部EGRおよび外部EGRの両方が実施されるとともに、内部EGRによる残留既燃ガスの混合気全体に対する割合が、低負荷側圧縮自着火領域における当該割合よりも小さくされるので、高負荷側圧縮自着火領域において、内部EGRと外部EGRとの組み合わせにより混合気の温度を適正な温度にすることができる。
また、前記制御手段は、前記排気弁を少なくとも排気行程と吸気行程中とに開弁させて前記排気ポート側に排出された既燃ガスを気筒内に逆流させることで気筒内に既燃ガスを残留させるのが好ましい(請求項)。
このようにすれば、既燃ガスを排気ポート側に排出せず気筒内に残留させる場合に比べて、冷却損失を小さく抑えてより確実に燃費性能を高めることができる。
具体的には、既燃ガスを気筒内に残留させる方法として排気行程途中で排気弁を閉弁する方法を用いた場合には、排気弁閉弁後、既燃ガスが圧縮高温化されてこの高温化された既燃ガスが気筒の壁面で冷却されるため比較的大きい冷却損失が生じるが、排気弁を排気行程と吸気行程中とに開弁させて排気ポート側に排出された既燃ガスを気筒内に逆流させる方法では、既燃ガスの高温圧縮化が行われないため、前記冷却損失を小さく抑えることができる。
以上説明したように、本発明によれば、排気性能を高く維持しつつより広い範囲での圧縮自着火燃焼を実現することができる。
本発明の実施形態に係るエンジンシステムを示す概略図である。 図1に示すエンジンシステムの制御に係るブロック図である。 図1に示す燃焼室を拡大して示す断面図である。 (a)通常モードにおける排気弁のリフト特性を示した図である。(b)特殊モードにおける排気弁のリフト特性を示した図である。 エンジンの運転制御マップを例示する図である。 エンジン負荷と気筒内のガスの内訳との関係を示した図である。 エンジン負荷と気筒内のガスの内訳との関係を示した図である。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る圧縮着火式エンジンの制御装置が適用されたエンジンシステム100の概略構成図である。エンジンシステム100は、車両に搭載されて、エンジン本体1を有する。
エンジン本体1は、少なくともガソリンを含有する燃料が供給されるガソリンエンジンであり、4サイクルエンジン、すなわち、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程が順に実施されるエンジンである。エンジン本体1は、圧縮自着火燃焼が実施される圧縮着火式エンジンである。エンジン本体1は、気筒18が設けられたシリンダブロック11と、シリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12とを有する。エンジン本体1は、例えば、4つの気筒18を有する。
各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されたピストン14が往復動可能に嵌挿されている。各気筒18内には、気筒18の内側面とピストン14の頂面とによって囲まれた燃焼室19が形成されている。
ピストン14および燃焼室19の具体的構成は特に限定されないが、例えば、図3に示すような構成を有する。図3に示す例では、ピストン14の頂面の中央には、シリンダヘッド12から離間する方向に凹むとともにその深さが中央から径方向外側に向かに従って深くなった後浅くなる、いわゆるリエントラント型のキャビティ141が形成されている。
本実施形態では、熱効率の向上や圧縮自着火燃焼の安定化等を目的として、エンジン本体1の幾何学的圧縮比は、15以上の比較的高い値に設定されている。エンジン本体1の幾何学的圧縮比は、これに限定されるものではないが、15以上20以下程度の範囲が好ましい。
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、気筒18内に吸気を導入するための吸気ポート16および気筒18内から排気を排出するための排気ポート17がそれぞれ形成されている。吸気ポート16および排気ポート17には、これら各ポート、詳細には、シリンダヘッド12に形成されたこれら各ポート16,17の開口をそれぞれ開閉する吸気弁21および排気弁22がそれぞれ配設されている。
排気弁22は、排気弁駆動機構70aによって駆動される。排気弁駆動機構70aは、排気バルブリフト可変機構(以下、排気VVL(Variable Valve Lift)という)71と、排気位相可変機構(以下、排気VVT(Variable Valve Timing)という)75とを含む。
排気VVL71は、排気弁22の作動モードを図4(a)の実線で示す通常モードと、図4(b)の実線で示す特殊モードとに切り替える。すなわち、排気弁22のリフト特性を、図4(a)の実線で示す第1特性と、図4(b)の実線で示す第2特性とに切り替える。通常モードでは、排気弁22のバルブリフトは、開弁後徐々に増大していき、最大リフトに到達すると再び徐々に減少してゼロに至る。特殊モードでは、排気弁22のバルブリフトは、通常モードと同様に、第1の開弁期間t_1中は、開弁後徐々に増大し最大リフトに到達した後再び徐々に減少していくが、そのままゼロに至ることなく、そのリフト量すなわち第1の開弁期間t_1での最大リフトよりも低いリフトを所定期間維持した後ゼロに至る。このように、特殊モードでは、排気弁22の開弁期間すなわち排気弁22が開弁してから最終的に(本実施形態では吸気行程中に)閉弁するまでの間の期間t_3は、所定の最大リフトとなる第1の開弁期間t_1と、この第1の開弁期間t_1に継続して最大リフトが第1の開弁期間t_1における最大リフトよりも小さくなるよう構成された第2の開弁期間t_2とからなる。特殊モードでは、通常モードにおける閉弁時期の直前から通常モードにおける閉弁時期よりも遅角側の所定タイミングまで開弁しており、排気弁の開弁期間は通常モードよりも特殊モードの方が長くなっている。排気VVL71は、これらのモードを実現するために、カム形状が互いに異なる第1カムと第2カムとを有する。第1カムは、図4(a)の実線で示すリフト特性に対応した形状を有し、カム山を1つ有する。第2カムは、図4(b)の破線で示すリフト特性に対応した形状を有し、カム山を2つ有する。排気VVL71は、第1カムと第2カムの作動状態を選択的に排気弁22に伝達するロストモーション機構を含んでおり、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達することで排気弁22の作動状態を通常モードとし、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達することで排気弁22の作動状態を特殊モードとする。排気VVL71は、例えば油圧作動式である。なお、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達させた場合には、排気弁22のリフト特性は、図4(a)の破線で示す形状となる。
排気VVT75は、クランクシャフト15に対する排気カムシャフトの回転位相を変更して排気弁22の開弁時期と閉弁時期とを変更する。なお、排気弁VVT75は、通常モードおよび特殊モードの各モードで、それぞれ排気弁22の開弁期間を一定に維持したまま、排気弁22の開弁時期と閉弁時期とを変更する。排気VVT75は、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての説明は省略する。
排気VVT75は、排気弁22の作動状態が特殊モードとされている場合、排気弁22が排気行程に加えて吸気行程でも開弁するように、排気カムシャフトの回転位相を設定する。また、排気VVT75は、排気弁22の作動状態が特殊モードとされている場合、第2の開弁期間t_2中に吸気上死点がくるように、すなわち吸気上死点における排気弁22のバルブリフトが第2の開弁期間t_2中に実現される比較的小さい値となるように、排気カムシャフトの回転位相を設定する。このように、本実施形態では、排気弁22の作動状態が特殊モードとされることで、排気弁22が排気行程に加えて吸気行程中にも開弁する排気二度開きが実施される。特に、本実施形態では、排気弁22は、途中で閉弁することなく吸気上死点を挟んで排気行程と吸気行程において連続して開弁する。ここで、このように排気弁22を、吸気上死点を挟んで連続して開弁させた場合には、排気弁22とピストン14とが干渉するおそれがある。これに対して、本実施形態では、前述のように、吸気上死点付近での排気弁22のバルブリフト量が小さい値に抑えられるため、排気弁22とピストン14との干渉を回避することができる。排気二度開きすなわち特殊モードは、高温の既燃ガスすなわち内部EGRガスを燃焼室19内に残留させていわゆる内部EGRを行うために実施される。具体的には、排気二度開きが実施されて吸気行程中にも排気弁22が開弁していると、排気行程で一旦排気ポート17に排出された排気が吸気行程中に燃焼室19内に逆流して排気すなわち高温の既燃ガスが燃焼室19内に残留する。
ここで、高温の既燃ガスを燃焼室19内に残留させる方法すなわち内部EGRの方法としては、排気弁22を排気行程の途中で閉弁して既燃ガスを燃焼室19内に閉じ込める方法があるが、この方法に比べて排気二度開きによる内部EGRは冷却損失を小さく抑えることができる。そのため、本実施形態では、システム全体の熱効率すなわち燃費性能を高めるべく、排気二度開きにより内部EGRを行う。
具体的には、吸気上死点を挟んでネガティブオーバーラップ期間が設けられた場合、排気弁22の閉弁後吸気上死点までの間に既燃ガスは圧縮され高温化する。高温化されることで、既燃ガスの温度と気筒の壁面との間には温度差が生じる。温度差が生じると、既燃ガスは、気筒の壁面、詳細には、気筒の壁面を冷却しているエンジン冷却水により冷却される。この冷却により、既燃ガスの熱エネルギーは減少し、既燃ガスの温度は低下する。
これに対して、排気二度開きでは、吸気上死点を挟んで排気弁22が開弁しており、既燃ガスは圧縮高温化されない。そのため、排気二度開きでは、気筒の壁面すなわちエンジン冷却水による冷却に伴う既燃ガスの温度低下を小さく抑えることができ、冷却損失を小さく抑えることができる。
吸気弁22は、吸気弁駆動機構70bによって駆動される。吸気弁駆動機構70bは、排気弁駆動機構70aと同様に、吸気弁21の作動モードを2モードで切り替える吸気VVL74と、クランクシャフト15に対する吸気カムシャフトの回転位相を変更して吸気弁21の開弁時期と閉弁時期とを変更する吸気VVT72とを含む。
吸気VVL74は、吸気弁21のバルブリフトを相対的に大きくする大リフトカムと、吸気弁21のバルブリフトを相対的に小さくする小リフトカムと、これらカムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に吸気弁21に伝達するロストモーション機構とを含む。吸気VVL74は、大リフトカムの作動状態を吸気弁21に伝達することで、吸気弁21の作動モードを、バルブリフトおよび開弁期間が相対的に大きいモードにする。吸気VVL74は、小リフトカムの作動状態を吸気弁21に伝達することで、吸気弁21の作動モードを、バルブリフトおよび開弁期間が相対的に小さいモードにする。大リフトカムと小リフトカムとは、閉弁時期又は開弁時期を同じにして切り替わるように設定されている。
吸気VVT72は、排気VVT75と同様に、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての図示は省略する。
各吸気ポート16には、吸気通路30が接続されている。具体的には、吸気通路30の下流端には気筒18に対応して分岐する分岐通路が形成されており、これら分岐通路と各吸気ポート16とが接続されている。
吸気通路30には、その上流側から順に、エアクリーナ31、水冷式のインタークーラ/ウォーマ34、スロットル弁36、サージタンク33が配設されている。
吸気通路30には、インタークーラ/ウォーマ34をバイパスするインタークーラバイパス通路35が接続されている。インタークーラバイパス通路35には、気筒18内に流入する新気の温度を調整するためにインタークーラバイパス通路35を通過する空気流量を調整するインタークーラバイパス弁351が配設されている。なお、インタークーラ/ウォーマ34及びそれに付随する部材は、省略してもよい。
各排気ポート17には排気通路40が接続されている。具体的には、吸気通路30と同様に、排気通路40の上流端には気筒18に対応して分岐する分岐通路が形成されており、これら分岐通路と各吸気ポート18とが接続されている。
排気通路40には、排ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置が配設されている。本実施形態では、上流側から順に直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とが設けられている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42には、それぞれ、混合気が理論空燃比となる条件でCO,HC、NOxを浄化可能な三元触媒が含まれている。
吸気通路30と排気通路40との間には、排気の一部を吸気に還流するため、すなわち、外部EGRを行うためのEGR装置50が設けられている。EGR装置50は、EGR通路51と、EGRクーラ52と、EGRクーラバイパス通路53とを含む。EGR通路51は、吸気通路30のうちのサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40のうちの直キャタリスト41よりも上流側の部分とを接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通過するガスを冷却するためのものであり、EGR通路51に介設されている。EGRクーラバイパス通路53は、EGRクーラ52をバイパスする通路であり、EGR通路51のうちEGRクーラ52の上下流部分を接続している。EGR通路51およびEGRクーラバイパス通路53には、それぞれ、各通路51、53を通過する排気の流量を調整するEGR弁511、EGRクーラバイパス弁531が配設されている。以下、このEGR装置50を用いて排気の一部を吸気に還流することを、外部EGRを行うといい、このEGR装置50により吸気に還流された排気を外部EGRガスという場合がある。
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、燃焼室19内に燃料を直接噴射するインジェクタ67が取り付けられている。インジェクタ67は、図3に示すように、その噴口が燃焼室19の天井面の中央部分から、その燃焼室19内に臨むように配設されており、キャビティ141と相対している。本実施形態では、インジェクタ67は、複数の噴口を有する多噴口型である。インジェクタ67から噴射された燃料噴霧は、燃焼室19の中心位置から放射状に広がる。
ここで、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングでインジェクタ67から燃料が噴射された場合には、図3の矢印に示すように、燃料噴霧はキャビティ141の壁面に沿って流動する。そのため、本エンジンシステム100では、後述する高圧リタード噴射を行った際に、燃料噴霧をより早期に拡散させて早期に混合気を形成することができる。
インジェクタ67には、燃料供給システム62により燃料タンク(不図示)から燃料が供給される。燃料供給システム62は、燃料ポンプ63と蓄圧レール64とを含む。燃料ポンプ63は、燃料タンクから蓄圧レール64に燃料を圧送する。本実施形態では、燃料ポンプ63は、エンジン1によって駆動されるプランジャー式のポンプである。蓄圧レール64は圧送された燃料を比較的高い圧力で蓄える。インジェクタ67は、蓄圧レール64に蓄えられている高圧の燃料を燃焼室19内に噴射する。噴射圧の値は特に限定されるものではないが、例えば、30MPa以上120MPa以下に設定されている。
シリンダヘッド12には、燃焼室19内の混合気に強制点火する点火プラグ25が取り付けられている。本実施形態では、点火プラグ25は、エンジン本体1の排気側から斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12を貫通して配置されている。図3に示すように、点火プラグ25の先端は、圧縮上死点に位置するピストン14のキャビティ141内に臨んでいる。
前記各装置は、パワートレイン・コントロール・モジュール(制御手段、以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。
PCM10には、図1,2に示すように、各種のセンサSW1〜SW16の検出信号が入力される。
センサSW1は、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1である。センサSW2は、新気の温度を検出する吸気温度センサSW2である。エアフローセンサSW1、吸気温度センサSW2は、吸気通路20のうちエアクリーナ31の下流側に配設されている。センサSW3は、インタークーラ/ウォーマ34を通過した後の新気の温度を検出する第2吸気温度センサSW3であり、インタークーラ/ウォーマ34の下流側に配置されている。センサSW4は、外部EGRガスの温度を検出するためのEGRガス温センサSW4であり、EGR通路50のうち吸気通路30との接続部分近傍に配置されている。センサSW5は、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5であり、吸気ポート16に取り付けられている。センサSW6は、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6であり、シリンダヘッド12に取り付けられている。センサSW7は、排気温度を検出する排気温センサSW7である。センサSW8は、排気圧を検出する排気圧センサSW8である。排気温センサSW7、排気圧センサSW8は、排気通路40のうちEGR通路50の接続部分近傍に配置されている。センサSW9は、排気中の酸素濃度を検出するリニアOセンサSW9であり、排気通路40のうち直キャタリスト41の上流側に配置されている。センサSW10は、排気中の酸素濃度を検出するラムダOセンサSW10であり、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置されている。センサSW11は、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11である。センサSW12は、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12である。センサSW13は、車両のアクセルペダル(図示略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13である。センサSW14、センサSW15は、それぞれ吸気側及び排気側のカム角センサSW14,SW15である。センサSW16は、インジェクタ67に供給される燃料の圧力を検出する燃圧センサSW16であり、コモンレール64に取り付けられている。
PCM10は、各センサSW1〜16の検出信号に基づいて種々の演算を行う。PCM10は、これらの検出信号に基づいてエンジン本体1や車両の運転条件を判定する。PCM10は、運転条件に応じてインジェクタ67、点火プラグ25、燃料供給システム62、並びに、各種の弁(スロットル弁36、インタークーラバイパス弁351、EGR弁511、EGRクーラバイパス弁531)のアクチュエータへ制御信号を出力して、これらを制御する。PCM10は、運転条件に応じて、吸気VVT72、吸気VVL74、排気VVT75、排気VVL71へ制御信号を出力して、これらおよび吸気弁21、排気弁22を制御する。
図5は、横軸がエンジンの回転数、縦軸がエンジン負荷の制御マップを示している。前述のように、エンジン本体1では、点火プラグ25による点火を行わずに混合気を自着火させて燃焼させる圧縮自着火燃焼が実施される。ただし、エンジン負荷が高い運転領域において圧縮自着火燃焼を実施した場合には、混合気の温度が高いために燃焼が急峻になり燃焼騒音等の問題が生じる。そのため、本実施形態に係るエンジンシステム100では、エンジン負荷が所定の第1負荷T1未満の低負荷領域でのみ圧縮自着火燃焼を実施し、エンジン負荷が第1負荷T1以上の高負荷領域では点火プラグ25により混合気を強制点火する火花点火燃焼を実施する。すなわち、このエンジンシステム100では、低負荷領域がCI(Compression Ignition)燃焼領域に設定され、高負荷領域がSI(Spark Ignition)燃焼領域に設定されている。なお、これら燃焼領域の境界線は、図例に限定されるものではない。
CI燃焼領域は、さらに、エンジン負荷の高低に応じて2つの領域に分けられている。以下に、各領域の詳細な制御内容について説明する。
(1)第1領域(低負荷側圧縮自着火領域)
CI燃料領域のうちエンジン負荷が所定の第2負荷T2未満の領域に設定された第1領域A1では、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンとなるように、すなわち、空気過剰率λ>1となり、燃料量に対するEGRガスも含めた混合気の全量の割合であるG/Fが35以上となるように、制御される。
第1領域A1では、外部EGRは実施されず内部EGRのみが実施される。すなわち、第1領域A1では、EGR弁511およびEGRクーラバイパス弁531は閉弁される一方、排気VVL71により排気弁22の作動状態が特殊モードとされて、排気二度開きが実施される。例えば、内部EGR率は20%以上に制御される。
第1領域A1では、図6、図7に示すように、エンジン負荷が低いほど内部EGR率が大きくなるように制御される。具体的には、エンジン負荷が低いほど排気弁22の閉弁時期が遅角されて、吸気行程で燃焼室19に逆流する既燃ガス量が多くされる。図6および図7は、互いにエンジン回転数の異なる運転条件における、エンジン負荷に対する気筒18内のガスの内訳の変化を示したものである。これら図6、図7の横軸は、エンジン負荷であり、縦軸は、気筒18内に流入可能なガス量を100%として、この流入可能なガス量に対する各ガス(新気、内部EGRガス、外部EGRガス)量の割合を示している。図6は、図5の回転数NE1での混合気の内訳を示しており、図7は、図5の回転数NE2であって回転数NE1よりも高回転での混合気の内訳を示している。これら図6、図7に示すように、第1領域A1では、所定の負荷Tmin以下では内部EGR率は最大値に維持され、この負荷Tminよりエンジン負荷が大きい領域では、エンジン負荷の低下に伴って内部EGR率は最大値になるまで徐々に増加される。
なお、図6、図7の破線mは、空気過剰率λ=1となる新気量を示した線であり、破線mよりも上の部分(破線mと100%ラインとで挟まれた部分)の新気量が各エンジン負荷で噴射される燃料に対して空気過剰率λ=1となる量である。図6、図7において、第1領域A1では、新気が破線mよりも下方まで位置しており、空気過剰率λが少なくとも1以上であることが示されている。
また、第1領域A1では、吸気行程中にインジェクタ67により噴射が行われる吸気行程噴射が実施される。
本実施形態では、図5に示すように、第2負荷T2は、エンジン回転数に対して異なる値に設定されている。具体的には、第2負荷T2は、エンジン回転数が予め設定された基準回転数NE1以下では第1負荷T1と同じ値に設定され、基準回転数NE1よりエンジン回転数が高くなると第1負荷T1からいエンジン回転数の増大に伴って低下するように設定されている。
すなわち、CI領域のうち基準回転数NE1よりもエンジン回転数の低い低回転領域は、その全領域が第1領域A1に含まれており、基準回転数NE1よりもエンジン回転数の低い運転領域では、第1負荷(=第2負荷)を境として第1領域A1とSI燃焼領域とに分けられている。
第1領域A1で前記の制御を行うのは次の理由による。
エンジン負荷が第2負荷T2未満の比較的低い第1領域A1では、混合気の発熱量が小さく燃焼温度も比較的低いため、燃焼により生成されるNOxすなわちROW NOxが少なく抑えられる。そのため、第1領域A1では、三元触媒によりNOxを浄化させる必要がない。すなわち、空燃比を、三元触媒によるNOx浄化が可能な理論空燃比にする必要がない。
そこで、第1領域A1では、燃費性能を高めるべく空燃比をリーンすなわち空気過剰率λ>1とし燃料割合G/Fを35以上とする。なお、空燃比をリーンにすることで燃費性能が高まるのは、温度の低い新気量が増えて混合気の温度および燃焼温度が低く抑えられる結果冷却損失および排気損失が低減するためと考えられる。
また、前述のように、燃焼騒音等を回避するためには燃焼室19内の温度を低くする方が好ましいが、燃焼室19内の温度が低すぎると、今度は、混合気の温度が自着火可能な温度にまで上昇せず、失火等が発生して、安定した圧縮自着火燃焼を実現できないおそれがある。
そこで、エンジン負荷が第1負荷T1未満の比較的低い負荷であって混合気の発熱量が小さく、この発熱量だけでは燃焼室19内および混合気の温度を十分に高められない第1領域A1では、失火等を回避するべく、内部EGRを実施して高温の既燃ガス(内部EGRガス)を燃焼室19内に残留させ、これにより燃焼室19内および混合気の温度を高めている。
燃焼室19内および混合気の温度はエンジン負荷が低く混合気の発熱量が小さくなるほど低くなる。
そこで、第1領域A1では、エンジン負荷の低下に伴って内部EGR率を高くしていき、エンジン負荷に応じて内部EGRによって混合気の温度を適正に高め、これにより
第1領域A1全域において混合気の着火性を高める。
本願発明者らが検討したところ、EGR率を所定以上に高くすると、圧縮端温度を逆に低下させる場合があることを知見した。これは、次の理由によると考えられる。内部EGR率を高くして高温の内部EGRガスの割合を高めれば燃焼室19内の混合気の圧縮前温度は確実に高くなる。しかしながら、内部EGRガスすなわち既燃ガスは、三原子分子であるCOやHOを多く含んでおり、窒素(N)や酸素(O)を含む空気(つまり、気筒内に導入される新気)と比較して比熱比が高い。そのため、EGR率を過剰に高くして気筒内に導入する既燃ガスの割合を増やしたときには、圧縮開始前の混合気の温度は高くなるものの、圧縮をしても混合気の温度はそれほど高まらず、結果として、圧縮端温度が低くなると考えられる。
そこで、本実施形態では、前記のようにエンジン負荷の低下に伴って内部EGR率を高くしていくが、内部EGR率が、それ以上内部EGR率を高めても圧縮端温度が上昇しない所定の値に到達すると、内部EGR率をそれ以上高めることなく、この所定の値を維持する。すなわち、前記のように、所定の負荷Tmin以下において内部EGR率を最大値に維持し、これにより、圧縮端温度を確実に高める。
ここで、前記のように、NOxの生成を少なく抑えつつ空燃比リーンで圧縮自着火燃焼を実施できるのは、燃焼温度が低い領域である。そして、燃焼温度は、エンジン回転数が高くなるほど、また、エンジン負荷が高くなるほど、高くなる。そのため、この制御を実施する第1領域A1の上限負荷である第2負荷は、エンジン回転数が高くなるほど低く設定されている。また、エンジン回転数が十分に低い運転領域では、燃焼温度も低く抑えられる。特に、エンジン回転数が十分に低い運転領域では、燃焼騒音が許容値を超えるようなエンジン不可であってもNOxの生成量を少なく抑えることができる。そのため、エンジン回転数が基準回転数NE1以下の領域では、CI燃焼を実施する領域全域で空燃比をリーンとしてもNOxの生成量を少なく抑えることができる。そこで、本実施形態では、第2負荷のうちエンジン回転数が基準回転数NE1以下の値を、CI燃焼の上限負荷である第1負荷と同じ値とし、CI燃焼領域のうち基準回転数NE1よりもエンジン回転数が低い領域では、その全領域において空燃比リーンの圧縮自着火燃焼を実施する。
また、空気と燃料との混合が十分になされていれば混合気を適切にすなわち排気性能および熱効率の高い状態で自着火させることができる。そして、第1領域A1では、混合気の温度が比較的低いため、混合気が過早着火するおそれがない。
そこで、第1領域A1では、燃料を吸気行程中に噴射して予め空気と混合させておくことで圧縮上死点近傍において混合気を適切に自着火させる。
(2)第2領域(高負荷側圧縮自着火領域)
CI燃料領域のうちエンジン負荷が第2負荷T2以上の領域に設定された第2領域A2では、第1領域と異なり、混合気の空燃比が理論空燃比となるように、すなわち、空気過剰率λ=1となるように、制御される。図6、図7に示すように、空気過剰率λ=1は、スロットル弁36を絞って新気量を少なく抑えることにより実現されるのではなく、燃焼室19内に多量のEGRガスを導入することで実現される。すなわち、第2領域A2では、気筒18内に流入可能なガス量のうち空気過剰率λ=1となる新気以外は、すべてEGRガスとされる。
第2領域A2では、内部EGRに加えて外部EGRが実施される。特に、EGRクーラを通過して冷却された既燃ガス(クールドEGRガス)が吸気に還流される。すなわち、第2領域A2では、排気VVL71により排気弁22の作動状態が特殊モードとされて、排気二度開きが実施されるとともに、EGRクーラバイパス弁531が閉弁される一方EGR弁511が開弁される。
第2領域A2においても、図6、図7に示すように、エンジン負荷が低いほど内部EGR率は大きくなるように制御される。ただし、第2領域A2では、第1領域A1に比べて内部EGR率は小さくされる。より詳細には、内部EGR率は、第1領域A1と第2領域A2とのうち所定負荷Tmin以上の領域では、エンジン負荷の低下に従って内部EGR率は略一定の増加量で増大されていく。一方、外部EGR率は、エンジン負荷が低いほど、わずかではあるが少なくなるように制御される。
第2領域A2では、第1領域A1と同様に、吸気行程中にインジェクタ67により噴射が行われる吸気行程噴射が実施される。
第2領域A2で前記の制御を行うのは次の理由による。
エンジン負荷が第2負荷T2以上であってエンジン負荷およびエンジン回転数が高い側に設定された第2領域A2では、混合気の発熱量が大きく燃焼温度も比較的高い。そのため、燃焼により生成されるNOx(ROW NOx)を十分に抑えることができない。そこで、第2領域A2では、燃焼により生成されたNOxを三元触媒で浄化することで最終的に車両から外部に排出されるNOxを少なく抑えるべく、NOxの三元触媒での浄化が可能なように、混合気の空燃比を理論空燃比として空気過剰率λ=1とする。
ここで、混合気の空燃比を理論空燃比とすると、空燃比がリーンの場合に比べて温度の低い新気量が少なくなり混合気の温度が高くなる結果冷却損失および排気損失が増加する。しかしながら、本発明者らは、圧縮自着火燃焼時における空燃比の違いに伴う燃費性能の差について詳細な検討を行った結果、空燃比を理論空燃比にする場合であっても、燃焼室内にEGRガスを多量に導入することで新気量を少なく抑えれば、空燃比リーンの場合に比べて冷却損失および排気損失は増加するものの、EGRガス中の未燃燃料分が燃焼室内で燃焼することにより燃料が効率よく消費されて未燃損失が減少し、結果的に空燃比リーンの場合に比べて、燃費の悪化を最小限に抑えることができることを突き止めた。
そこで、本実施形態では、第2領域A2において、EGRを実施しつつ混合気の空燃比を理論空燃比すなわち混合気の空気過剰率λをλ=1に制御する。特に、本実施形態では、気筒18内に流入可能なガス量のうち空気過剰率λ=1となる新気以外をすべてEGRガスとして、燃費性能を高くしている。
ここで、前記のように、第2領域A2は第1領域A1よりも混合気の発熱量が大きく燃焼温度も比較的高い。そこで、第2領域A2では、内部EGR率を第1領域A1よりも小さくするとともにクールドEGRガスを気筒18内に導入して、混合気の温度を自着火可能、かつ、異常燃焼しない適正な温度に制御する。このように、クールドEGRガスを気筒18内に導入すれば、燃焼温度を低く抑えて燃焼時のNOxの生成量を少なく抑えることもできる。また、クールドEGRガスを気筒18内に導入すれば、高温の内部EGRガス量を少なく抑えて混合気の温度が過剰に高くなるのを抑制しつつ、前記のように、気筒18内に流入可能なガス量のうち空気過剰率λ=1となる新気以外をすべてEGRガスとすることができる。
第2領域A2においてエンジン負荷が低いほど内部EGR率が大きくなるように制御されるのは、第1領域A1の場合と同様の理由からである。すなわち、第2領域A2においても、エンジン負荷が低いほど混合気の発熱量が小さくなるのに合わせて内部EGR率を高めることで混合気の温度を適正に高めている。
また、第2領域A2においても、第1領域A1と同様に、混合気を適切にすなわち排気性能および熱効率の高い状態で自着火させるべく、燃料を吸気行程中に噴射して予め空気と混合させておき圧縮上死点近傍において混合気を適切に自着火させる。
なお、第2領域A2では、混合気の温度が比較的高いため、エンジンの種類等によっては、前記のように吸気行程中に燃料を噴射することで過早着火する可能性がある。そのため、このように過早着火が生じるシステムでは、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間にインジェクタ67により燃焼室19内に燃料を噴射する高圧リタード噴射を実施して、均質な混合気を比較的短時間で形成して膨張行程期間での燃焼を実現するようにしてもよい。
(3)SI燃焼領域
SI燃焼領域での具体的制御内容は特に限定されるものではないが、このエンジンシステム100では、SI燃焼領域では、混合気の空燃比は理論空燃比とされ、過早着火やノッキングといった異常燃焼の回避、NOx生成の抑制および冷却損失の低減を目的として、高圧リタード噴射が実施され、内部EGRが停止される一方クールドEGRガスを燃焼室19内に導入する外部EGRが実施される。また、SI燃焼領域では、ポンプ損失を低減するべく、スロットル弁36は全開とされて、EGR弁511の開度を調整することで気筒18内に導入する新気量が調整される。
また、吸気弁21は、混合気の空燃比や内部EGR率が前記のように実現されるように制御されればよく、その制御内容は特に限定されるものではないが、例えば、吸気VVL54により、CI燃焼領域では小リフトとされ、SI燃焼領域では大リフトとされる。
以上のように、本エンジンシステム100では、エンジン負荷が特定負荷T2未満の第1領域A1であって混合気の温度および燃焼温度が低く燃焼により生成されるNOx量が少ない領域では、内部EGRが実施されることで混合気の着火性が高められて安定した圧縮自着火燃焼を実現することができるとともに混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンとされるため、NOxの排出を少なく抑えつつ燃費性能を高めることができる。さらに、エンジン負荷が特定負荷T2以上の第2領域A2であって混合気の温度および燃焼温度が比較的高く燃焼により生成されるNOx量が多い領域では、混合気の空燃比が理論空燃比とされつつ圧縮自着火燃焼が実施されるため、三元触媒によるNOxの浄化すなわち最終的に外部に排出されるNOx量を少なく抑えつつ燃費性能を高めることができる。従って、本エンジンシステム100によれば、排気性能と燃費性能を確実に高めることができる。
しかも、第2負荷T2が、エンジン回転数が低いほど低い値に設定されており、混合気の温度および燃焼温度そして燃焼により生成されるNOx量が増大する領域で確実に混合気の空燃比が理論空燃比とされるため、外部に排出されるNOxを確実に少なく抑えることができる。
また、第2領域A2において、外部EGRが実施されているので、混合気の温度および燃焼温度が高くなりやすいこの第2領域A2において、燃焼温度の上昇を抑えて燃焼時のNOxの生成量を少なく抑えることができるとともに、異常燃焼を抑制することができ、排気性能の向上および安定した圧縮自着火燃焼の実現に伴う燃費性能の向上を実現することができる。また、EGRガスに含まれる未燃ガスを再度燃焼室19内で燃焼させることができ、第2領域A2において未燃損失を小さく抑えて燃費性能を高めることができる。
さらに、第2領域A2において、外部EGRに加えて内部EGRも実施されているので、これらEGRの組み合わせにより混合気の温度および燃焼温度をより確実に適正な温度にして、より確実に適正な圧縮自着火燃焼を実現することができる。
また、これらEGRガスの導入によりスロットルを絞ることなく気筒18内への新気量の導入を抑制して混合気の空燃比を理論空燃比にすることができ、ポンピングロスを抑制することができる。このことは、燃費性能をより一層高める。
また、内部EGRとして、排気二度開きによる方法を用いているので、気筒の壁面すなわちエンジン冷却水による冷却に伴う既燃ガスの温度低下を小さく抑えること、すなわち、冷却損失を小さく抑えることができる。このことは、システム全体の熱効率すなわち燃費性能を高める。
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、吸気行程中に燃料を噴射する場合において、気筒18内に設けたインジェクタ67ではなく、別途、吸気ポート16に設けたポートインジェクタにより、吸気ポート16内に燃料を噴射してもよい。
また、エンジン1の動弁系に関し、吸気弁21のVVL74に代えて、リフト量を連続的に変更可能なCVVL(Continuously Variable Valve Lift)を備えるようにしてもよい。
また、高圧リタード噴射は、必要に応じて分割噴射にしてもよく、同様に、吸気行程噴射もまた、必要に応じて分割噴射にしてもよい。これらの分割噴射では、吸気行程と圧縮行程とのそれぞれにおいて燃料を噴射してもよい。
1 エンジン(エンジン本体)
10 PCM(制御手段)
18 気筒
21 吸気弁
22 排気弁

Claims (3)

  1. 内側に少なくとも燃料と空気とを含む混合気が燃焼する燃焼室が形成された気筒と、当該気筒内に吸気を導入する吸気ポートと、前記気筒内から排気を排出する排気ポートと、前記吸気ポートを開閉可能な吸気弁と、前記排気ポートを開閉可能な排気弁とを有するエンジン本体と、
    前記排気ポートに接続される排気通路に設けられて三元触媒を含む触媒装置と、
    前記混合気の燃焼形態および前記燃焼室内の混合気の空燃比を制御する制御手段とを備え、
    前記制御手段は、
    少なくともエンジン負荷が所定負荷よりも低い低負荷領域では前記燃焼形態を圧縮自着火燃焼にし、
    前記圧縮自着火燃焼が実施される圧縮自着火領域のうちエンジン負荷が特定負荷未満の低負荷側圧縮自着火領域では、前記燃焼室で生成された既燃ガスの一部を当該燃焼室に残留させる内部EGRを実施するとともに当該燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンにする一方、前記圧縮自着火領域のうちエンジン負荷が前記特定負荷以上の高負荷側圧縮自着火領域では、前記混合気の空燃比を理論空燃比とし、
    前記特定負荷は、エンジン回転数が高いほど低い値に設定されており、
    前記制御手段は、前記圧縮自着火領域のうちエンジン回転数が特定回転数未満の低回転側圧縮自着火領域では、その全域において、前記燃焼室で生成された既燃ガスの一部を当該燃焼室に残留させる内部EGRを実施するとともに当該燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンな値にすることを特徴とする圧縮着火式エンジンの制御装置。
  2. 内側に少なくとも燃料と空気とを含む混合気が燃焼する燃焼室が形成された気筒と、当該気筒内に吸気を導入する吸気ポートと、前記気筒内から排気を排出する排気ポートと、前記吸気ポートを開閉可能な吸気弁と、前記排気ポートを開閉可能な排気弁とを有するエンジン本体と、
    前記排気ポートに接続される排気通路に設けられて三元触媒を含む触媒装置と、
    前記燃焼室で生成された既燃ガスの一部を吸気に還流する外部EGR手段と、
    前記混合気の燃焼形態および前記燃焼室内の混合気の空燃比を制御する制御手段とを備え、
    前記制御手段は、
    少なくともエンジン負荷が所定負荷よりも低い低負荷領域では前記燃焼形態を圧縮自着火燃焼にし、
    前記圧縮自着火燃焼が実施される圧縮自着火領域のうちエンジン負荷が特定負荷未満の低負荷側圧縮自着火領域では、前記燃焼室で生成された既燃ガスの一部を当該燃焼室に残留させる内部EGRを実施するとともに当該燃焼室内の混合気の空燃比を理論空燃比よりもリーンにする一方、前記圧縮自着火領域のうちエンジン負荷が前記特定負荷以上の高負荷側圧縮自着火領域では、前記混合気の空燃比を理論空燃比とし、
    前記特定負荷は、エンジン回転数が高いほど低い値に設定されており、
    前記制御手段は、前記高負荷側圧縮自着火領域において、前記外部EGR手段により既燃ガスの一部を燃焼室内に導入しつつ前記内部EGRを実施して既燃ガスの一部を当該燃焼室に残留させるとともに、この高負荷側圧縮自着火領域における内部EGRによる残留既燃ガスの混合気全体に対する割合を、前記低負荷側圧縮自着火領域におけるこの内部EGRによる残留既燃ガスの混合気全体に対する割合よりも小さくすることを特徴とする圧縮着火式エンジンの制御装置。
  3. 請求項1または2に記載の圧縮着火式エンジンの制御装置において、
    前記制御手段は、前記排気弁を少なくとも排気行程と吸気行程中とに開弁させて前記排気ポート側に排出された既燃ガスを気筒内に逆流させることで気筒内に既燃ガスを残留させることを特徴とする圧縮着火式エンジンの制御装置。
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