以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る圧縮着火式エンジンの制御装置が適用されたエンジンシステム100の概略構成図である。エンジンシステム100は、車両に搭載されて、エンジン本体1を有する。
エンジン本体1は、少なくともガソリンを含有する燃料が供給されるガソリンエンジンであり、4サイクルエンジン、すなわち、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程が順に実施されるエンジンである。エンジン本体1は、圧縮自着火燃焼が実施される圧縮着火式エンジンである。エンジン本体1は、気筒18が設けられたシリンダブロック11と、シリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12とを有する。エンジン本体1は、例えば、4つの気筒18を有する。
各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されたピストン14が往復動可能に嵌挿されている。各気筒18内には、気筒18の内側面とピストン14の頂面とによって囲まれた燃焼室19が形成されている。
ピストン14および燃焼室19の具体的構成は特に限定されないが、例えば、図3に示すような構成を有する。図3に示す例では、ピストン14の頂面の中央には、シリンダヘッド12から離間する方向に凹むとともにその深さが中央から径方向外側に向かに従って深くなった後浅くなる、いわゆるリエントラント型のキャビティ141が形成されている。
本実施形態では、熱効率の向上や圧縮自着火燃焼の安定化等を目的として、エンジン本体1の幾何学的圧縮比は、15以上の比較的高い値に設定されている。エンジン本体1の幾何学的圧縮比は、これに限定されるものではないが、15以上20以下程度の範囲が好ましい。
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、気筒18内に吸気を導入するための吸気ポート16および気筒18内から排気を排出するための排気ポート17がそれぞれ形成されている。吸気ポート16および排気ポート17には、これら各ポート、詳細には、シリンダヘッド12に形成されたこれら各ポート16,17の開口をそれぞれ開閉する吸気弁21および排気弁22がそれぞれ配設されている。
排気弁22は、排気弁駆動機構70aによって駆動される。排気弁駆動機構70aは、排気バルブリフト可変機構(以下、排気VVL(Variable Valve Lift)という)71と、排気位相可変機構(以下、排気VVT(Variable Valve Timing)という)75とを含む。
排気VVL71は、排気弁22の作動モードを図4(a)の実線で示す通常モードと、図4(b)の実線で示す特殊モードとに切り替える。すなわち、排気弁22のリフト特性を、図4(a)の実線で示す第1特性と、図4(b)の実線で示す第2特性とに切り替える。通常モードでは、排気弁22のバルブリフトは、開弁後徐々に増大していき、最大リフトに到達すると再び徐々に減少してゼロに至る。特殊モードでは、排気弁22のバルブリフトは、通常モードと同様に、第1の開弁期間t_1中は、開弁後徐々に増大し最大リフトに到達した後再び徐々に減少していくが、そのままゼロに至ることなく、そのリフト量すなわち第1の開弁期間t_1での最大リフトよりも低いリフトを所定期間維持した後ゼロに至る。このように、特殊モードでは、排気弁22の開弁期間すなわち排気弁22が開弁してから最終的に(本実施形態では吸気行程中に)閉弁するまでの間の期間t_3は、所定の最大リフトとなる第1の開弁期間t_1と、この第1の開弁期間t_1に継続して最大リフトが第1の開弁期間t_1における最大リフトよりも小さくなるよう構成された第2の開弁期間t_2とからなる。特殊モードでは、通常モードにおける閉弁時期の直前から通常モードにおける閉弁時期よりも遅角側の所定タイミングまで開弁しており、排気弁の開弁期間は通常モードよりも特殊モードの方が長くなっている。排気VVL71は、これらのモードを実現するために、カム形状が互いに異なる第1カムと第2カムとを有する。第1カムは、図4(a)の実線で示すリフト特性に対応した形状を有し、カム山を1つ有する。第2カムは、図4(b)の破線で示すリフト特性に対応した形状を有し、カム山を2つ有する。排気VVL71は、第1カムと第2カムの作動状態を選択的に排気弁22に伝達するロストモーション機構を含んでおり、第1カムの作動状態を排気弁22に伝達することで排気弁22の作動状態を通常モードとし、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達することで排気弁22の作動状態を特殊モードとする。排気VVL71は、例えば油圧作動式である。なお、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達させた場合には、排気弁22のリフト特性は、図4(a)の破線で示す形状となる。
排気VVT75は、クランクシャフト15に対する排気カムシャフトの回転位相を変更して排気弁22の開弁時期と閉弁時期とを変更する。なお、排気弁VVT75は、通常モードおよび特殊モードの各モードで、それぞれ排気弁22の開弁期間を一定に維持したまま、排気弁22の開弁時期と閉弁時期とを変更する。排気VVT75は、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての説明は省略する。
排気VVT75は、排気弁22の作動状態が特殊モードとされている場合、排気弁22が排気行程に加えて吸気行程でも開弁するように、排気カムシャフトの回転位相を設定する。また、排気VVT75は、排気弁22の作動状態が特殊モードとされている場合、第2の開弁期間t_2中に吸気上死点がくるように、すなわち吸気上死点における排気弁22のバルブリフトが第2の開弁期間t_2中に実現される比較的小さい値となるように、排気カムシャフトの回転位相を設定する。このように、本実施形態では、排気弁22の作動状態が特殊モードとされることで、排気弁22が排気行程に加えて吸気行程中にも開弁する排気二度開きが実施される。特に、本実施形態では、排気弁22は、途中で閉弁することなく吸気上死点を挟んで排気行程と吸気行程において連続して開弁する。ここで、このように排気弁22を吸気上死点を挟んで連続して開弁させた場合には、排気弁22とピストン14とが干渉するおそれがある。これに対して、本実施形態では、前述のように、吸気上死点付近での排気弁22のバルブリフト量が小さい値に抑えられるため、排気弁22とピストン14との干渉を回避することができる。排気二度開きすなわち特殊モードは、高温の既燃ガスすなわち内部EGRガスを燃焼室19内に残留させていわゆる内部EGRを行うために実施される。具体的には、排気二度開きが実施されて吸気行程中にも排気弁22が開弁していると、排気行程で一旦排気ポート17に排出された排気が吸気行程中に燃焼室19内に逆流して排気すなわち高温の既燃ガスが燃焼室19内に残留する。
吸気弁22は、吸気弁駆動機構70bによって駆動される。吸気弁駆動機構70bは、排気弁駆動機構70aと同様に、吸気弁21の作動モードを2モードで切り替える吸気VVL74と、クランクシャフト15に対する吸気カムシャフトの回転位相を変更して吸気弁21の開弁時期と閉弁時期とを変更する吸気VVT72とを含む。
吸気VVL74は、吸気弁21のバルブリフトを相対的に大きくする大リフトカムと、吸気弁21のバルブリフトを相対的に小さくする小リフトカムと、これらカムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に吸気弁21に伝達するロストモーション機構とを含む。吸気VVL74は、大リフトカムの作動状態を吸気弁21に伝達することで、吸気弁21の作動モードを、バルブリフトおよび開弁期間が相対的に大きいモードにする。吸気VVL74は、小リフトカムの作動状態を吸気弁21に伝達することで、吸気弁21の作動モードを、バルブリフトおよび開弁期間が相対的に小さいモードにする。大リフトカムと小リフトカムとは、閉弁時期又は開弁時期を同じにして切り替わるように設定されている。
吸気VVT72は、排気VVT75と同様に、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての図示は省略する。
各吸気ポート16には、吸気通路30が接続されている。具体的には、吸気通路30の下流端には気筒18に対応して分岐する分岐通路が形成されており、これら分岐通路と各吸気ポート16とが接続されている。
吸気通路30には、その上流側から順に、エアクリーナ31、水冷式のインタークーラ/ウォーマ34、スロットル弁36、サージタンク33が配設されている。
吸気通路30には、インタークーラ/ウォーマ34をバイパスするインタークーラバイパス通路35が接続されている。インタークーラバイパス通路35には、気筒18内に流入する新気の温度を調整するためにインタークーラバイパス通路35を通過する空気流量を調整するインタークーラバイパス弁351が配設されている。なお、インタークーラ/ウォーマ34及びそれに付随する部材は、省略してもよい。
各排気ポート17には排気通路40が接続されている。具体的には、吸気通路30と同様に、排気通路40の上流端には気筒18に対応して分岐する分岐通路が形成されており、これら分岐通路と各吸気ポート18とが接続されている。
排気通路40には、排ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置が配設されている。本実施形態では、上流側から順に直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とが設けられている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42は、例えば三元触媒を含む。
吸気通路30と排気通路40との間には、排気の一部を吸気に還流するため、すなわち、外部EGRを行うためのEGR装置50が設けられている。EGR装置50は、EGR通路51と、EGRクーラ52と、EGRクーラバイパス通路53とを含む。EGR通路51は、吸気通路30のうちのサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40のうちの直キャタリスト41よりも上流側の部分とを接続している。EGRクーラ52は、EGR通路51を通過するガスを冷却するためのものであり、EGR通路51に介設されている。EGRクーラバイパス通路53は、EGRクーラ52をバイパスする通路であり、EGR通路51のうちEGRクーラ52の上下流部分を接続している。EGR通路51およびEGRクーラバイパス通路53には、それぞれ、各通路51、53を通過する排気の流量を調整するEGR弁511、EGRクーラバイパス弁531が配設されている。以下、このEGR装置50を用いて排気の一部を吸気に還流することを、外部EGRを行うといい、このEGR装置50により吸気に還流された排気を外部EGRガスという場合がある。
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、燃焼室19内に燃料を直接噴射するインジェクタ67が取り付けられている。インジェクタ67は、図3に示すように、その噴口が燃焼室19の天井面の中央部分から、その燃焼室19内に臨むように配設されており、キャビティ141と相対している。本実施形態では、インジェクタ67は、複数の噴口を有する多噴口型である。インジェクタ67から噴射された燃料噴霧は、燃焼室19の中心位置から放射状に広がる。
ここで、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングでインジェクタ67から燃料が噴射された場合には、図3の矢印に示すように、燃料噴霧はキャビティ141の壁面に沿って流動する。そのため、本エンジンシステム100では、後述する高圧リタード噴射を行った際に、燃料噴霧をより早期に拡散させて早期に混合気を形成することができる。
インジェクタ67には、燃料供給システム62により燃料タンク(不図示)から燃料が供給される。燃料供給システム62は、燃料ポンプ63と蓄圧レール64とを含む。燃料ポンプ63は、燃料タンクから蓄圧レール64に燃料を圧送する。本実施形態では、燃料ポンプ63は、エンジン1によって駆動されるプランジャー式のポンプである。蓄圧レール64は圧送された燃料を比較的高い圧力で蓄える。インジェクタ67は、蓄圧レール64に蓄えられている高圧の燃料を燃焼室19内に噴射する。噴射圧の値は特に限定されるものではないが、例えば、30MPa以上120MPa以下に設定されている。
シリンダヘッド12には、燃焼室19内の混合気に強制点火する点火プラグ25が取り付けられている。本実施形態では、点火プラグ25は、エンジン本体1の排気側から斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12を貫通して配置されている。図3に示すように、点火プラグ25の先端は、圧縮上死点に位置するピストン14のキャビティ141内に臨んでいる。
前記各装置は、パワートレイン・コントロール・モジュール(制御手段、以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。
PCM10には、図1,2に示すように、各種のセンサSW1〜SW16の検出信号が入力される。
センサSW1は、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1である。センサSW2は、新気の温度を検出する吸気温度センサSW2である。エアフローセンサSW1、吸気温度センサSW2は、吸気通路20のうちエアクリーナ31の下流側に配設されている。センサSW3は、インタークーラ/ウォーマ34を通過した後の新気の温度を検出する第2吸気温度センサSW3であり、インタークーラ/ウォーマ34の下流側に配置されている。センサSW4は、外部EGRガスの温度を検出するためのEGRガス温センサSW4であり、EGR通路50のうち吸気通路30との接続部分近傍に配置されている。センサSW5は、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5であり、吸気ポート16に取り付けられている。センサSW6は、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6であり、シリンダヘッド12に取り付けられている。センサSW7は、排気温度を検出する排気温センサSW7である。センサSW8は、排気圧を検出する排気圧センサSW8である。排気温センサSW7、排気圧センサSW8は、排気通路40のうちEGR通路50の接続部分近傍に配置されている。センサSW9は、排気中の酸素濃度を検出するリニアO2センサSW9であり、排気通路40のうち直キャタリスト41の上流側に配置されている。センサSW10は、排気中の酸素濃度を検出するラムダO2センサSW10であり、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置されている。センサSW11は、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11である。センサSW12は、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12である。センサSW13は、車両のアクセルペダル(図示略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13である。センサSW14、センサSW15は、それぞれ吸気側及び排気側のカム角センサSW14,SW15である。センサSW16は、インジェクタ67に供給される燃料の圧力を検出する燃圧センサSW16であり、コモンレール64に取り付けられている。
PCM10は、各センサSW1〜16の検出信号に基づいて種々の演算を行う。PCM10は、これらの検出信号に基づいてエンジン本体1や車両の運転条件を判定する。PCM10は、運転条件に応じてインジェクタ67、点火プラグ25、燃料供給システム62、並びに、各種の弁(スロットル弁36、インタークーラバイパス弁351、EGR弁511、EGRクーラバイパス弁531)のアクチュエータへ制御信号を出力して、これらを制御する。PCM10は、運転条件に応じて、吸気VVT72、吸気VVL74、排気VVT75、排気VVL71へ制御信号を出力して、これらおよび吸気弁21、排気弁22を制御する。
図5は、横軸がエンジンの回転数、縦軸がエンジン負荷の制御マップを示している。前述のように、エンジン本体1では、点火プラグ25による点火を行わずに混合気を自着火させて燃焼させる圧縮自着火燃焼が実施される。ただし、エンジン負荷が高い運転領域において圧縮自着火燃焼を実施した場合には、混合気の温度が高いために燃焼が急峻になり燃焼騒音等の問題が生じる。そのため、本実施形態に係るエンジンシステム100では、エンジン負荷が所定の第3負荷T3未満の低負荷領域でのみ圧縮自着火燃焼を実施し、エンジン負荷が第3負荷T3以上の高負荷領域では点火プラグ25により混合気を強制点火する火花点火燃焼を実施する。すなわち、このエンジンシステム100では、低負荷領域がCI(Compression Ignition)燃焼領域に設定され、高負荷領域がSI(Spark Ignition)燃焼領域に設定されている。なお、これら燃焼領域の境界線は、図例に限定されるものではない。
CI燃焼領域は、さらに、エンジン負荷の高低に応じて3つの領域に分けられている。以下に、各領域の詳細な制御内容について説明する。
(1)第2領域(高負荷側圧縮自着火領域)
CI燃料領域のうちエンジン負荷が所定の第1負荷T1以上かつ第2負荷T2未満となる領域に設定された第2領域A2では、外部EGRは実施されず内部EGRのみが実施される。すなわち、第2領域A2では、EGR弁511およびEGRクーラバイパス弁531は閉弁される一方、排気VVL71により排気弁22の作動状態が特殊モードとされて、排気二度開きが実施される。そして、第2領域A2では、図6に示すように、排気VVT75により、排気弁22の開弁時期EVOは、排気下死点BDCよりも進角側にされる。図6において、実線EXは排気弁22のバルブリフトを示しており、破線INは吸気弁21のバルブリフトを示している。また、第2領域A2では、吸気行程中にインジェクタ67により噴射が行われる吸気行程噴射が実施される。第1負荷T1は、全エンジン回転数において一定の値に設定されている。一方、第2負荷T2は、エンジン回転数に応じて異なる値に設定されており、第3負荷T2からエンジン回転数が高くなるに従って低くなるよう設定されている。
第2領域A2で前記の制御を行うのは次の理由による。
前述のように、エンジン負荷が高い場合には燃焼室19内および混合気の温度が高いために圧縮自着火燃焼を行うと燃焼騒音等の問題が生じる。そのため、燃焼騒音等を回避するためには燃焼室19内の温度は低い方が好ましい。一方、燃焼室19内の温度が低すぎる場合には、今度は、混合気の温度が自着火可能な温度にまで上昇せず、失火等が発生して、安定した圧縮自着火燃焼を実現できないという問題が生じる。
そこで、エンジン負荷が第2負荷T2未満の比較的低い負荷であって混合気の発熱量が小さく、この発熱量だけでは燃焼室19内および混合気の温度を十分に高められない第2領域A2では、失火等を回避するべく、内部EGRを実施して高温の既燃ガス(内部EGRガス)を燃焼室19内に残留させ、これにより燃焼室19内および混合気の温度を高めている。
また、排気弁22を排気下死点BDCより遅角側で開弁させた場合には、排気下死点BDCから排気弁22の開弁時期EVOまでの間、既燃ガスが圧縮されることになり、ポンピングロスが増大する。
そこで、第2領域では、ポンピングロスの増大を回避して効率を高めるべく、排気弁22を排気下死点BDCよりも進角側で開弁させる。
また、空気と燃料との混合が十分になされていれば混合気を適切にすなわち排気性能および熱効率の高い状態で自着火させることができる。そして、第2領域では、混合気の温度がそれほど高くないため、混合気が過早着火するおそれがない。
そこで、第2領域では、燃料を吸気行程中に噴射して予め空気と混合させておくことで圧縮上死点近傍において適切に自着火させる。
(2)第1領域(低負荷側圧縮自着火領域)
CI燃料領域のうちエンジン負荷が第1負荷T1未満となる極低負荷領域に設定された第1領域A1では、第2領域と同様に、外部EGRは実施されず、排気二度開きによる内部EGRのみが実施されるとともに、吸気行程噴射が実施される。一方、第1領域A1では、図7に示すように、排気VVT75により、排気弁22の開弁時期EVOは、排気下死点BDCよりも遅角側に設定される。図7において、実線EXは排気弁22のバルブリフトを示しており、破線INは吸気弁21のバルブリフトを示している。
また、第1領域A1では、吸気行程中にインジェクタ67により噴射が行われる吸気行程噴射が実施される。
第1領域A1で前記の制御を行うのは次の理由による。
第1領域A1も、第2領域A2と同様に、混合気の発熱量が小さく、この発熱量だけでは燃焼室19内の温度が十分に高められない。そのため、第1領域A1でも、失火等を回避するべく、前記のように、内部EGRを実施して高温の既燃ガス(内部EGRガス)を燃焼室19内に残留させ、これにより燃焼室19内および混合気の温度を高めている。
しかしながら、第2領域A2よりもエンジン負荷が低い極低負荷領域である第1領域A1では、発熱量が小さいために生成される既燃ガスすなわち内部EGRガスの温度も低い。そのため、第1領域A1では、内部EGRを実施しても燃焼室19内の温度を十分に高めることができない。
ここで、ポンピングロスを増大させれば、増大したポンピングロス分燃焼室19に噴射する燃料量を増大させることができる。そして、この燃料量の増大に伴って混合気の発熱量および混合気の温度を高めることができ、混合気の着火性を高めて失火等を回避することができる。
そこで、第1領域A1では、混合気の温度を高めるべく、第2領域A2と異なり、排気弁22を排気下死点よりも遅角側で開弁させてポンピングロスを増大させ、この増大したポンピングロス分燃料量を増大させる。
具体的には、前述のように、排気弁22を排気下死点BDCより遅角側で開弁させた場合には、排気下死点BDCからこの開弁時期までの間、既燃ガスが圧縮されることになり、ポンピングロスが増大する。すなわち、図8の模式的なPV線図に示されるように、排気弁22の閉弁時期EVOを排気下死点BDCよりも遅角側に設定した場合には、閉弁時期EVOを排気下死点BDCに設定した場合に対して、斜線で示した分ポンピングロスが増大する。ポンピングロスが増大すれば、エンジン負荷すなわち要求されるエンジン出力に対して、燃料量を増大させることができる。そして、燃料量が増大すれば、混合気中の燃料割合が増大することにより混合気の着火性が向上するとともに、発熱量が増大することにより直接的および内部EGRガスの高温化を介して燃焼室19内の温度を高めて、混合気の着火性を高めることができる。
従って、第1領域A1では、混合気の着火性を高めて安定した圧縮自着火燃焼を実現するべく、排気弁22の閉弁時期EVOを排気下死点BDCよりも遅角側に設定してポンピングロスを増大させ、これに合わせて燃料量を増大させる(ポンピングロスを増大させない場合よりも燃料量を増大させる)。
また、前述のように、本実施形態では、排気弁22の開弁期間は、同一モードにおいて一定に維持される。そのため、前記のように排気弁22の開弁時期EVOが遅角側とされると、排気弁22の閉弁時期EVCも遅角側となる。排気二度開きにおいて、排気弁22の閉弁時期EVCがより遅角側となると、吸気行程中で排気弁22が開弁している期間が長くなり燃焼室19に逆流する既燃ガスすなわち内部EGRガス量が増大する。そのため、前記のように、第1領域A1において、排気弁22をより遅角側で開弁および閉弁させれば、内部EGR量を増大させ、これにより燃焼室19内の温度を高めることもできる。
エンジン負荷と燃料量との関係を図9に示す。図9に示すように、全負荷領域において燃料量はエンジン負荷の減少に伴い減少していくが、第1負荷T1以下の第1領域A1では、エンジン負荷の変化に対する燃料量の減少割合が小さく、エンジン負荷に対して相対的に多くの燃料量を噴射している。図9の実線は、実際に噴射される燃料量を示しており、図9の波線は、第1負荷T1以上の領域におけるエンジン負荷と燃料量との関係を仮に第1負荷T1以下の領域に適用した場合のエンジン負荷と燃料量との関係を示している。
なお、第1領域A1で吸気行程中に噴射を行うのは、第2領域A2で吸気行程中に噴射を行うと同様の理由からである。
(3)第3領域A3(高負荷側圧縮自着火領域)
CI燃料領域のうちエンジン負荷が第2負荷T2以上となる比較的エンジン負荷の高い領域に設定された第3領域A3では、排気二度開きによる内部EGRに加えて外部EGRが実施される。第3領域A3では、第1領域A1および第2領域A2に比べて内部EGRガス量が少なくされるとともに、EGRクーラ52を通過することによって冷却された排ガスすなわちクールドEGRガスが燃焼室19内に導入される。すなわち、第3領域A3では、EGRクーラバイパス弁531は閉弁され、EGR弁511が開弁される。第3領域A3では、第2領域と同様に、排気VVT75により、排気弁22の開弁時期EVOが排気下死点BDCよりも進角側に設定される。一方、第3領域A3では、第1領域A1および第2領域A2と異なり、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間にインジェクタ67により燃焼室19内に噴射が行われる高圧リタード噴射が実施される。
第3領域A3で前記の制御を行うのは次の理由による。
前述のように、エンジン負荷が高い場合には、燃焼室19内の温度が高いために圧縮自着火燃焼を行うと燃焼騒音等の問題が生じる。そのため、燃焼騒音等を回避するためには燃焼室19内の温度は低い方が好ましい。
そこで、エンジン負荷が第2負荷T2以上の比較的高い負荷であって、燃焼室19内の温度が高くなりやすい第3領域A3では、燃焼騒音等の問題を回避するべく、前記のように、高温の内部EGRガス量が少なく抑えられるとともに、クールドEGRガスが燃焼室19内に導入されて、これにより燃焼室19内の温度が適正な温度に抑えられる。
また、燃焼室19内の温度が高い場合において、吸気行程中に燃料を噴射した場合には、過早着火するおそれがある。
そこで、第3領域A3では、過早着火を回避するべく、前記のようにEGRにより燃焼室19内の温度を適正に制御するとともに、第1領域A1および第2領域A2と異なり、圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間に燃料を噴射して、膨張行程期間での燃焼を実現するとともに、均質な混合気を比較的短時間で形成するべく、燃料を比較的高圧で噴射する。
なお、第3領域A3で排気弁22を排気下死点よりも進角側で開弁させるのは、第2領域A2の場合と同様の理由、すなわち、ポンピングロスを低減するためである。
(排気弁22の閉弁時期EVOのエンジン負荷方向の変化について)
前記のように、本エンジンシステム100では、圧縮自着火燃焼が実施されるCI領域全域において排気二度開きによる内部EGRが実施される一方、排気弁22の開弁時期EVOが、第1領域A1すなわち極低負荷領域では排気下死点BDCよりも遅角側に設定され、それ以外の領域では排気下死点BDCよりも進角側に設定される。
排気弁22の開弁時期EVOは、前記設定を維持しつつ、CI領域全域において、エンジン負荷が減少するほど遅角される。例えば、図10に示されるように、排気弁22の開弁時期EVOは、エンジン負荷に対する変化量が一定となるように、エンジン負荷の減少に伴い遅角される。前述のとおり、本実施形態では、排気弁22の開弁期間は、同一モードにおいて一定に維持されており、排気弁22の開弁時期EVOが遅角側とされると排気弁22の閉弁時期EVCも遅角側となる。そして、排気二度開きにおいて、排気弁22の閉弁時期EVCがより遅角側となると、吸気行程中で排気弁22が開弁している期間が長くなり燃焼室19に逆流する既燃ガスすなわち内部EGRガス量が増大する。そのため、このように、CI領域全域において、排気弁22の開弁時期EVOおよび閉弁時期EVCが、エンジン負荷が低くなるほど遅角されれば、エンジン負荷が低くなるほど内部EGR量を増大させることができる。そのため、内部EGR量をエンジン負荷および混合気温度に合った適正な量導入することができ、CI領域全域において、燃焼室19内の温度を適正に高めることができる。
ここで、排気弁22の開弁時期EVOが排気下死点BDCよりも過剰に進角側に設定されていると、膨張仕事を十分に得ることができない。そのため、第2領域A2および第3領域A3において、排気弁22の開弁時期EVOは、排気下死点前10〜50°CAさらには30〜40°CAよりも遅角側に設定されているのが好ましい。本実施形態では、第3領域A3のエンジン負荷が最大となる運転条件における排気弁22の開弁時期EVOが、排気下死点前30°CAに設定されている。そして、圧縮自着火領域全域において、排気弁22の開弁時期EVOは、エンジン負荷が低下するに従ってこの排気下死点前30°CAから徐々に進角される。なお、排気弁の開弁時期EVOは、例えば、第1領域A1のエンジン負荷が最小となる運転条件において、排気下死点後120〜160°CA程度に設定される。
そして、このように、排気弁22の開弁時期EVOが、エンジン負荷が増大するほど進角されることで、本エンジンシステム100では、混合気の全体量に対する内部EGRガス量の割合である内部EGR率は、CI領域全域において、エンジン負荷が増大するほど小さくなる。内部EGR率は、エンジン負荷に対して、例えば、図11に示されるように、変化する。すなわち、第3領域A3ではエンジン負荷の低下に対して比較的大きい割合で内部EGR率は増大していき、第2領域A1ではエンジン負荷の低下に対して比較的小さい割合で内部EGR率は増大していき、第1領域A1ではエンジン負荷の低下に対してより小さい割合で内部EGR率は増大していく。内部EGR率の具体的な値は限定されるものではないが、例えば、最大値が50〜80%となるように設定される。また、本実施形態では、第3領域A3において、外部EGRは、外部EGRと内部EGRとを合わせた全EGRガスの混合気中の割合すなわちEGR率が、第2領域A2と第3領域A3とを合わせた領域において、エンジン負荷の増大に伴って減少するよう設定されている。
(4)SI燃焼領域
SI燃焼領域での具体的制御内容は特に限定されるものではないが、このエンジンシステム100では、SI燃焼領域では、過早着火やノッキングといった異常燃焼の回避、NOx生成の抑制および冷却損失の低減を目的として、高圧リタード噴射が実施され、内部EGRが停止される一方クールドEGRガスを燃焼室19内に導入する外部EGRが実施される。また、SI燃焼領域では、ポンプ損失を低減するべく、スロットル弁36は全開とされて、EGR弁511の開度を調整することで気筒18内に導入する新気量が調整される。図9に示すように、外部EGR率は、SI燃焼領域において、エンジン負荷が高くなるほど小さくされるとともに最大負荷において外部EGR率が0となり外部EGRが停止されるように設定されている。さらに、外部EGR率は、内部EGRと外部EGRとを含む全EGR率が、第3領域A3とSI燃焼領域とにわたってエンジン負荷の増加に対するEGR率の低下割合が一定となるように設定されている。
また、吸気弁21は、内部EGR率が前記のように実現されるように制御されればよく、その制御内容は特に限定されるものではないが、例えば、吸気VVL54により、CI燃焼領域では小リフトとされ、SI燃焼領域では大リフトとされる。
以上のように、本エンジンシステム100では、第2領域A2および第3領域A3において排気弁22の開弁時期EVOを排気下死点BDCよりも進角側で開弁させつつ、極低負荷領域である第1領域A1において、排気弁22を排気下死点BDCよりも遅角側で開弁させている。そのため、第2領域A2および第3領域A3において、既燃ガスの圧縮に伴うポンピングロスの発生を回避して燃費性能を高めつつ圧縮自着火燃焼を実現することができるとともに、内部EGRの導入だけでは混合気の温度を十分に高めることができない極低負荷領域である第1領域A1において、既燃ガスの圧縮に伴うポンピングロスを増大させ、これにより、燃料量を増大させて気筒内の温度を高めて安定した圧縮自着火燃焼を実現することができ、エンジンシステム全体として燃費性能を高めることができる。また、極低負荷領域のみSI燃焼を行う場合や、極低負荷領域を省略する、すなわち、第2負荷領域からエンジン負荷を設定する場合には、無負荷状態からの加速時や無負荷状態への減速時に、燃焼形態の変更、あるいは、負荷の急激な変更に伴い、トルクショックが生じるおそれがあるが、本エンジンシステム100では、前記のように極低負荷領域でも安定した圧縮自着火燃焼を実現することができ、トルクショックを回避して良好な走行性を得ることができる。
特に、第1領域A1において、エンジン負荷が低くなるほど排気弁EVOの開弁時期を遅角側にしている。そのため、エンジン負荷の低下に伴う混合気の温度の低下に応じてポンピングロスをより増大させて混合気の上昇量を高めており、第1領域A1全体でより確実に安定した圧縮自着火燃焼を実現することができる。
また、圧縮自着火領域全域において、排気弁22を少なくとも排気行程と吸気行程とで開弁させる排気二度開きを行っており、圧縮自着火領域全域において内部EGRガスを確保して混合気の温度を高めることができるとともに、排気弁22の開弁期間を一定に維持しつつエンジン負荷が低いほど排気弁22の開弁時期を遅角側にしているため、エンジン負荷が低いほど排気弁の閉弁時期を遅角側として既燃ガスの逆流量すなわち高温の内部EGRガス量を増大させることができ、圧縮自着火燃焼領域全体において、より確実に混合気の温度を適正に高めて安定した圧縮自着火燃焼を実現することができる。
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、吸気行程中に燃料を噴射する場合において、気筒18内に設けたインジェクタ67ではなく、別途、吸気ポート16に設けたポートインジェクタにより、吸気ポート16内に燃料を噴射してもよい。
また、排気弁22の特殊モードとして、吸気圧縮上死点付近で排気弁22が一端閉弁し、その直後に排気弁22が開弁するよう構成されたものを適用してもよい。なお、この場合における、前記排気弁22の開弁期間は、排気弁が最初に開弁してから最終的に吸気行程で閉弁するまでの期間となる。
また、エンジン1の動弁系に関し、吸気弁21のVVL74に代えて、リフト量を連続的に変更可能なCVVL(Continuously Variable Valve Lift)を備えるようにしてもよい。
また、高圧リタード噴射は、必要に応じて分割噴射にしてもよく、同様に、吸気行程噴射もまた、必要に応じて分割噴射にしてもよい。これらの分割噴射では、吸気行程と圧縮行程とのそれぞれにおいて燃料を噴射してもよい。