JP6268372B2 - ヤマビル駆除剤 - Google Patents

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本発明は、ヤマビルに対する駆除効能が優れ、しかも環境負荷を低減しうるヤマビル駆除剤に関するものである。
草地、林野、山間、山林、水辺での作業や農作業では、ヤマビル防除等の防虫対策が重要視されている。
例えば、従来、森林作業従事者、山間農村部での農作業従事者にあっては、作業中に襲来する、ヤマビルにより吸血される被害が後を絶たないし、元来山奥に生息するシカやイノシシなどの野生生物が近年生息域を広げ人里に近づくようになり、これら野生動物を主な媒介とするヤマビル(例えば該動物に寄生するヤマビル等)も人家のそばにまで出現し、住民が吸血され、また、ハイキングコースや山間部の児童公園などにおいても観光客や子供たちが吸血されるという被害も報じられる(例えば非特許文献1参照)ようになってきている。更に見た目、吸血行為の不気味さ、草むらに潜んでいるかもしれないという不安感が、ハイキングや自然散策などの観光産業の妨げになる可能性もあり、ヤマビルの駆除や防除対策が強く要望されている。
従来、ヤマビルの防除対策としては、例えばN,N−ジエチル−m−トルイミド(通称:ディート)、食塩水、木酢液を靴や衣服に吹き付けて、ヤマビルを忌避する方法等が広く知られている(例えば非特許文献2参照)。しかし、ディートや食塩水を吹き付ける方法は、耐水性乏しく、特に下草の露などにさらされると短時間でその効果は消失してしまうし、また、木酢液は反対に、吹き付けた後、乾燥するとその効果が消失することが判明している。
そこで、ディートを主成分とし、エタノールやアルコキシメタクリレート、ポリエチレングリコール系溶媒を配合することで耐水性を持たせた製剤(特許文献1)、ディートのほかに低級アルコールや、水、ゲル基剤、セルロース系高分子を含有させることで忌避成分を被膜内部に止めようとする試み(特許文献2)、疎水性モノマーを構成単位とする共重合体を使用する方法(特許文献3)等が提案されている。しかし、アルコキシメタクリレートを使用する方法は製造時の工程が煩雑で、コスト的観点から好ましくないし、セルロース系高分子を使用する方法についても耐水性が大幅に改良されるとは言い難い。更にこれら従来技術は、人体もしくは靴、服などに処理して、忌避するものがほとんどであり、駆除するものではなかった。
また、植物へ散布して害虫を駆除するものの代表として農薬がある。このような駆除剤には、駆除効果のある有効成分とは別に、害虫や植物に対する付着性や拡展性を付与させる目的で、展着剤を配合することが一般的であり、かかる展着剤としては、通常、主に、アニオン系展着剤やノニオン系展着剤が、植物への薬害等の環境面への影響等の配慮上、用いられている。
特開平11−116459 特開2003−171205 特開2007−51097
2007年8月28日付朝日新聞夕刊 第53回日本林学会関東支部大会発表論文集;「簡便なヤマビル防除法」;山中征夫
本発明は、ヤマビルに対して、優れた駆除効果を示しつつ、施用処理により、植物が最悪枯死するなどの植物への薬害等の環境面への悪影響等をも十分配慮し、環境負荷への影響を抑止することができるヤマビル駆除剤を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するべく、先ず、ヤマビルに酸性物質を散布することで、ヤマビルの体表面や周辺を酸性状態に維持することにより、駆除効果が発揮されると考え、種々の酸性物質につき、試験検討した結果、塩酸のような強酸性物質は、大部分が解離しているため、その水溶液は低濃度でも低pHになるものの、弱酸性物質では駆除能のある低pH域下の同等pH値でもはや駆除能を全く示さなくなるし、また低pHになりすぎて植物への薬害等の環境面への悪影響がでやすくなる一方、弱酸性物質は、未解離のものが多く存在しているため、強酸性物質の水溶液と同程度のpHに調整するには、比較的高濃度にする必要があるものの、弱酸性物質の水溶液は自然界に散布しても、簡単にpH変動してしまう強酸性物質と比べると、低pHを維持しやすいことが推測され、この点に着目し、弱酸性物質による駆除効果をさらに詳しく精査し、キレート性カルボン酸に優れた駆除効果があることを突き止め、さらに駆除効果を一層高めるべく、害虫や植物に対する付着性や拡展性等の付与を目的に添加される展着剤をキレート性カルボン酸と組み合わせることに思い至り、種々展着剤を精査した結果、キレート性カルボン酸の駆除作用性に不可欠である低pHの維持を阻害せず、かつ植物への薬害等の環境面への影響等でもある程度の低濃度であれば問題視されることのない特定のポリオキシアルキレンアルキルアミン第四級アンモニウム塩系展着剤が適していることを見出し、かかる知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
(1)キレート性カルボン酸及びポリオキシアルキレンアルキルアミン第四級アンモニウム塩がポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウムクロライドであるポリオキシアルキレンアルキルアミン第四級アンモニウム塩系展着剤を含有することを特徴とするヤマビル駆除剤。
(2)キレート性カルボン酸の含有割合が5〜50重量%であり、キレート性カルボン酸に対するポリオキシアルキレンアルキルアミン第四級アンモニウム塩系展着剤の重量比が0.05以上であって、しかもポリオキシアルキレンアルキルアミン第四級アンモニウム塩系展着剤の含有割合が3重量%以下である前記(1)に記載のヤマビル駆除剤。
(3)キレート性カルボン酸がヒドロキシカルボン酸または植物由来のものである前記(1)または(2)に記載のヤマビル駆除剤。
(4)キレート性カルボン酸が、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、グルコン酸、乳酸またはグリコール酸である前記(3)に記載のヤマビル駆除剤。
本発明のヤマビル駆除剤は、ヤマビル、中でも草むらや葉裏に潜んでいるヤマビルに対して、優れた駆除効果を示し、環境負荷への影響を抑止することができるという格別の効果を奏する。
本駆除剤におけるキレート性カルボン酸は、キレート基を持ち、金属根とキレート結合を形成しうるものであれば特段限定されないが、所期の効果を十分に期する上で、植物由来のものや、ヒドロキシカルボン酸が好ましい。植物由来のキレート性カルボン酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸等が挙げられ、ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、グルコン酸等が挙げられ、これらの好ましいものの中でも特にリンゴ酸、クエン酸、マロン酸、酒石酸が好ましい。
本駆除剤におけるキレート性カルボン酸の含有量は、原液としてはその溶解度や経済性の観点から5〜50重量%とするのがよい。本駆除剤は、施用時に、水等で希釈するのがよい。施用時のキレート性カルボン酸の含有量は、効力及び環境負荷の観点からして、5〜20重量%が好ましい。この含有量が少なすぎると駆除効果が十分になるし、また、多すぎても植物が枯死するような環境への影響が出やすくなる。
ポリオキシアルキレンアルキルアミン第四級アンモニウム塩系展着剤は、ポリオキシアルキレンアルキルアミンの第四級アンモニウム塩からなるカチオン系展着剤である。
本発明では、ポリオキシアルキレンアルキルアミンの第四級アンモニウム塩におけるポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミンであり、該アミンにおけるアルキル鎖部としては、炭素数8以上、例えば炭素数8〜20等の分岐していてもよい長鎖アルキル基部が好ましく、ポリオキシアルキレンアルキルアミン第四級アンモニウム塩系展着剤としては、ポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウムクロライド系のものが用いられ、中でもポリオキシエチレン長鎖アルキルメチルアンモニウムクロライド系のものが好ましい。
本駆除剤における上記展着剤の含有量は、原液としては0.5〜5重量%とするのがよく、高含量の場合には施用時に水等で希釈して3重量%以下とし、低含量の場合にはそのまま使用して差し支えない。展着剤の含有量が3重量%超であると植物が最悪枯死するなどの植物への薬害等の環境面への悪影響等が生じやすくなる。施用時の上記展着剤の含有量は、効力及び環境負荷の観点からして、0.5〜2重量%とするのがよい。
また、キレート性カルボン酸に対する該展着剤の重量比は、0.05以上であるのが好ましい。この比が小さすぎると駆除効果が不十分になる。
本駆除剤は、通常、溶媒として水を用い、必要に応じ少量のアルコールを併用してもよい。
本駆除剤には、その目的を損なわない範囲で、必要に応じ、適宜各種添加成分を配合してもよく、このような添加成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防黴剤、顔料、増粘剤、ゲル化剤等が挙げられる。
本駆除剤の製造は、これらの成分を任意の順に溶解、混合することにより行われ、例えば、水にキレート性カルボン酸を溶解させた後、展着剤を添加して均一に混合すればよい。
本駆除剤は、通常、高濃度の場合には水で適した濃度に希釈して、また、低濃度の場合にはそのまま、ヤマビルの棲息域や潜伏域や棲息推定域等に噴霧、散布したり、また、長靴等の靴類や衣類に塗布したり、スプレーで吹き付けたりして付着させるなどして施用することができる。
次に試験例、実施例等によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
試験例、比較試験例
20cm×30cm×高さ9.5cmの直方体形プラスチック容器に、約4cm程度の深さで土壌を敷き詰めヤマビルを放した。この容器内に、水に、表1に示すように、各種酸性物質を添加、溶解させてpH1.5付近に調整してなる酸性液を、200mL/m散布し、1日後の致死率を調べた。その結果を表1に示す。
Figure 0006268372
表1より、強酸の塩酸は、キレート性カルボン酸では駆除能のある低pH域下の同等pH値でもはや駆除能を全く示さなくなることが分かる。
実施例1,2、比較例1〜4
下記の重量割合の組成からなる薬剤を、水にリンゴ酸を溶解させ(比較例1)、また、同様の操作後、さらに展着剤を加え均一に混合して調製した。20cm×30cm×高さ9.5cmの直方体形プラスチック容器に、約4cm程度の深さで土壌を敷き詰め、さらに土壌表面が概ね隠れるように枯葉を敷き、ヤマビルを放した。この容器内に薬剤を200mL/m散布して1日後の致死率を調べた。また、これとは別に上記薬剤を植物(スズメノカラビラ、ヒメクグ、メヒシバ)に散布して1日後の薬害状況も調べた。それらの結果を表2に示す。
実施例1:リンゴ酸10.0%、A0.5%、水89.5%
実施例2:リンゴ酸10.0%、A1.5%、水88.5%
比較例1:リンゴ酸10.0%、水90%
比較例2:リンゴ酸10.0%、A4.0%、水86.0%
比較例3:リンゴ酸10.0%、B1.5%、水88.5%
比較例4:リンゴ酸10.0%、C1.0%、水89.0%
A:NK−3000S(商品名、竹本油脂社製ポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウムクロライド)
B:リグニンスルホン酸ナトリウム(アニオン系展着剤)
C:ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル(ノニオン系展着剤)
Figure 0006268372
農薬等の水溶液や懸濁液を散布する際には、一般的にアニオン系やノニオン系の展着剤が用いられるが、これらを各実施例に使用のAの展着剤に代えて用いた比較例3、4のヤマビル駆除剤では、駆除効果が極端に悪化した。
これに対し、Aの展着剤を用いた各実施例では、枯葉が存在している状況でも高い致死率が得られた。
また、展着剤を添加しない場合は、致死率が低下した。
実施例3〜8、比較例5〜7
下記の重量割合の組成からなる薬剤を、水にキレート性カルボン酸を溶解させた後、展着剤を加え均一に混合して調製した。20cm×30cm×高さ9.5cmの直方体形プラスチック容器に、約4cm程度の深さで土壌を敷き詰め、さらに土壌表面が概ね隠れるように枯葉を敷き、ヤマビルを放した。この容器内に薬剤を200mL/m散布して、1日後の致死率を調べた。また、これとは別に上記薬剤を植物(スズメノカラビラ、ヒメクグ、メヒシバ)に散布して1日後の薬害状況も調べた。それらの結果を表3に示す。
実施例3:リンゴ酸10.0%、A1.0%、水89.0%
実施例4:リンゴ酸20.0%、A1.0%、水79.0%
実施例5:クエン酸10.0%、A1.0%、A89.0%
実施例6:酒石酸10.0%、A0.5%、水89.5%
実施例7:マロン酸5.0%、A1.0%、水94.0%
実施例8:乳酸10.0%、A0.5%、水89.5%
比較例5:リンゴ酸2.0%、A0.5%、水97.5%
比較例6:リンゴ酸10.0%、A0.1%、水89.9%
比較例7:クエン酸3.0%、A1.0%、水96.0%
Figure 0006268372
Figure 0006268372
表3より、薬剤は、キレート性カルボン酸含量が5重量%以上であって、キレート性カルボン酸に対する上記展着剤の重量比が0.05以上であると十分な致死率となり、優れた駆除効果を示すことが分かる。

Claims (4)

  1. キレート性カルボン酸及びポリオキシアルキレンアルキルアミン第四級アンモニウム塩がポリオキシエチレンアルキルメチルアンモニウムクロライドであるポリオキシアルキレンアルキルアミン第四級アンモニウム塩系展着剤を含有することを特徴とするヤマビル駆除剤。
  2. キレート性カルボン酸の含有割合が5〜50重量%であり、キレート性カルボン酸に対するポリオキシアルキレンアルキルアミン第四級アンモニウム塩系展着剤の重量比が0.05以上であって、しかもポリオキシアルキレンアルキルアミン第四級アンモニウム塩系展着剤の含有割合が3重量%以下である請求項1に記載のヤマビル駆除剤。
  3. キレート性カルボン酸がヒドロキシカルボン酸または植物由来のものである請求項1または2に記載のヤマビル駆除剤。
  4. キレート性カルボン酸が、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、グルコン酸、乳酸またはグリコール酸である請求項3に記載のヤマビル駆除剤。
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