JP6263307B1 - 熱膨張性樹脂組成物及び熱膨張性樹脂製材料 - Google Patents

熱膨張性樹脂組成物及び熱膨張性樹脂製材料 Download PDF

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Abstract

【課題】樹脂成分と膨張性黒鉛とを含む熱膨張性樹脂組成物において、加熱されて形態の殆どが燃焼で変化した状況における膨張性黒鉛を含む膨張体の粘結力を高める効果を生み出す新たな成分を見出し、樹脂成分の種類によらず、膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる熱膨張性樹脂組成物の提供。【解決手段】樹脂成分100質量部に対して、膨張性黒鉛を40〜100質量部及びスピロ環ジホスフォネート化合物を2〜50質量部含有してなることを特徴とする熱膨張性樹脂組成物、及び、熱膨張性樹脂製材料。【選択図】なし

Description

本発明は、熱膨張性樹脂組成物及び熱膨張性樹脂製材料に関し、特に、加熱されて膨張した膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるため、該膨張体は、低温域における火炎及び煙の遮断機能をより効果的に発揮でき、シート状の製品や、パテ又は塗料等の不定形の製品にして有効利用できる性能に優れた熱膨張性樹脂組成物及び熱膨張性樹脂製材料に関する。
建築材料の分野においては、耐火性能が重視され、耐火性能を有する種々の材料が開発されている。膨張性黒鉛は、加熱により体積が急激に膨張する性質があり、この特性を利用して樹脂成分に膨張性黒鉛を含有させた組成物として、熱膨張性シートと呼ばれるシート状の製品や、パテ、塗料、被覆物等の不定形の製品が知られている。これらの製品は、空間内に納めたり、或いは、鉄柱や電線等に被覆されるなどの形態で使用されて、火災時に、熱で膨張を生起して火の回りを遅くするための延焼防止材として用いられている。
この際に膨張性黒鉛と併用される樹脂成分には、火災時に、効果的な断熱層を形成し、これによって火災及び煙の遮断機能を発揮できる耐火性能を有するものであることが要求される。このような機能が要求される樹脂成分には、製品の性能や加工方法等により、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が適時採用されている。例えば、特許文献1には、ポリ塩化ビニル系樹脂の有する難燃性と成形性を利用した熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料が提案されており、この樹脂材料によれば、膨張性及び膨張後の形状保持性を維持しつつ、製品を一般的な成形法で連続生産ができるとしている。また、成形体を膨張させて得られる構造体は、従来と同等の耐火性を有し、火災と煙を遮断するのに必要な機械的強度を有するとしている。特許文献1の記載の技術では、炭酸カルシウム等の無機充填剤を特定量配合すると、熱容量増大による難燃性向上の役割を果たすとしている。
また、特許文献2で提案されている熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物は、膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れ、低温域から、火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得るため、膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる熱膨張性シート、パテ、塗料等の、延焼防止材として効果的で有用な各種製品(成形品)が提供されるとしている。
上記した従来技術は、加熱により炭化するポリ塩化ビニル系樹脂の有する難燃性と成形性を利用し、また、その粘結力を生起させるものであり、塩化ビニル系樹脂以外の一般的樹脂は、対象外となっている。
これに対し、塩化ビニル系樹脂は、燃焼時に、塩化水素や種々の塩素系ガスを発生させるので、ハロゲンを含有しない樹脂を使用することについての検討が進められている。熱膨張性樹脂組成物の樹脂成分として、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂及びオレフィン樹脂等、多数の一般的な樹脂について検討されており、性能や加工方法等により、熱可塑性、熱硬化性が適時採用されている。
特許第4250153号公報 特許第5992589号公報
しかしながら、これらの一般的な樹脂は、一般的に可燃性であり、火災時のような高温にさらされると燃焼して消失してしまう。そして、膨張性黒鉛は、高温になると急激に体積が増加するので、延焼防止材として機能することが期待されるが、膨張した黒鉛自体は極めて脆く、僅かな外力で散失してしまう。
これらのことから、単純に、樹脂成分と膨張性黒鉛とを含む混合物を延焼防止材として使用しても、良好な火炎及び煙の遮断機能を得ることはできない。そのために、熱膨張性樹脂組成物を構成する成分中に、加熱で炭化する塩化ビニル系樹脂を使用する場合も含め、一般的に、樹脂成分とともに難燃剤が添加されている。ここで、難燃剤の使用目的は、熱膨張性樹脂組成物の成形品に炎が近接した際に、成形品の表面に炭化層を形成させて、断熱効果を生起させることにある。すなわち、難燃剤によってもたらされる効果は、成形品の内部まで燃焼が進む速度を遅らせたり、或いは、炎を離すと消火したりすることを期待するものであり、前記した特許文献2に記載の技術によって達成される、「膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる」とした効果を期待したものではない。なお、この点についての詳細は後述する。
上記した状況下、本発明者らは、本発明者らが提案している前記した特許文献2に記載した発明をさらに進めていく過程で、以下の認識をもつに至った。特許文献2では、塩化ビニル系樹脂と、新たに見出した脱塩触媒を必須成分としたことで、「加熱されて膨張した後の膨張体が、形状保持性及び機械的強度に優れ、低温域から、火炎及び煙の遮断機能を効果的に発揮し得るものになる」、優れた熱膨張性塩化ビニル系樹脂材料の実現を達成している。上記した従来技術に対し、本発明者らは、熱膨張性樹脂組成物の構成成分に、従来用いられていない新たな成分を用いるだけの簡便な手段で、特許文献2に記載した技術で必須としている塩化ビニル系樹脂の場合は勿論、一般的な可燃性樹脂を樹脂成分(バインダー成分)とした場合においても、特許文献2に記載の技術で達成したと同様の、上記効果が得られる技術が達成できれば極めて有用であるとの認識をもった。
従って、本発明の目的は、樹脂成分と膨張性黒鉛とを構成成分として含む熱膨張性樹脂組成物において、加熱されて形態の殆どが燃焼で変化した状況における膨張性黒鉛を含む膨張体の粘結力を高める有効な効果を生み出す新たな成分を見出し、樹脂成分の種類によらず、特許文献2に記載の発明で得られたと同様の効果を実現できる熱膨張性樹脂組成物を提供することにある。すなわち、本発明の技術的課題は、従来技術において行われている、難燃剤を添加することで得られる効果の向上を目指すものではない。
上記の目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、樹脂成分100質量部に対して、膨張性黒鉛を40〜100質量部及びスピロ環ジホスフォネート化合物を2〜50質量部含有してなることを特徴とする熱膨張性樹脂組成物を提供する。
上記本発明の好ましい熱膨張性樹脂組成物としては、前記スピロ環ジホスフォネート化合物が、下記の一般式の構造のものであることが挙げられる。
Figure 0006263307
(式中、Ar2及びAr3は、同一または異なっていてもよく、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、式中、R4、R5、R6及びR7は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基又は炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。)
また、上記本発明の好ましい熱膨張性樹脂組成物としては、前記樹脂成分が、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エラストマー及びゴムからなる群から選ばれるものであることが挙げられる。
また、本発明は、シート状、ペースト状又は塗料状であり、上記いずれかの熱膨張性樹脂組成物からなることを特徴とする熱膨張性樹脂製材料を提供する。その好ましい実施形態としては、窓枠、ドア枠、柱、壁又は電線のいずれかに、設置或いは充填或いは塗工するためのものであることが挙げられる。
本発明によれば、樹脂成分の種類によらず、加熱による膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる熱膨張性樹脂組成物、及び、該組成物を用いた熱膨張性シート、パテ、塗料等の有用な各種製品が提供される。本発明によれば、例えば、熱膨張性シート等を窓枠等に納めて設置した場合に、熱膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになるので、延焼防止材としてより効果的に機能し得、火災と炎とを効果的に遮断することができるものになる。本発明によれば、例えば、熱膨張性樹脂組成物をペースト状にして、解放空間に充填して使用できるパテや、塗料状の製品とすれば、金属製或いは木製の柱や壁、或いは電線等に塗工等することで、形状保持性及び機械的強度に優れる熱膨張性の被覆物を形成でき、火災と炎とを効果的に遮断することができるものになる。
次に、本発明の好ましい実施の形態を挙げて、本発明を詳細に説明する。前記したように、本発明者らは、既に、その膨張体が高い粘結力を示す、膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる熱膨張性樹脂組成物を実現し、このことについて提案している。上記した効果は、良好な火炎及び煙の遮断機能を得るために重要なものであるのに対し、下記に述べるように、本発明者らが提案している前記した特許文献2以外の従来技術は、この点について検討したものではなかった。
すなわち、本発明で問題としている膨張体の粘結力は、熱膨張性の樹脂組成物からなる製品である成形品を、高温で長時間さらし、成形品の形状を失う状態にまで燃焼させた時に生起した、形状保持性及び機械的強度に優れる膨張黒鉛体による焼延防止効果を可能にするものであり、従来技術によって行われている一般的な難燃の思想とは全く異なる。
一例を挙げれば、膨張性黒鉛を含む樹脂組成物からなるシート状成型品は、窓サッシの枠内に装着することで、火災等に、このシート状成形品が、シート形状を失いながら膨張体に変り、窓枠からはみ出すことで、火が窓サッシを通過して外部に出ることを防いでいる。このため、膨張体が火災時に発生する火風力で飛散してしまうと、火の通過を防ぐことができなくなる。本発明は、下記に述べるように、この膨張体が飛散してしまう点について注目し、膨張体に従来技術では達成できていなかった強度を実現することを目的としてなされたものである。
上記したことから、火風力で膨張体が飛散してしまうことがないように、膨張体の強度は強いことが望まれており、従来技術では、強度を得る目的で、リン系難燃剤、臭素系難燃剤、或いは、無機のフィラー等が添加されている。
しかしながら、前記したように、これらの難燃剤等によって得られる効果は、表面の炭化による断熱効果や、焼却残渣に含まれる残渣固形分の増加効果であり、本発明者らの検討によれば、実際には、要望されている膨張体の強度向上、すなわち、膨張体の粘結力の増加には大きな効果を示さない。
上記のことから、本発明が目的としている「膨張後における膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる」とした効果の検証は、従来より行われている一般的な難燃剤の効果を評価する試験法、例えば、LIL規格等は、本発明の目的の評価方法としては適用できない。このように、加熱されて膨張した後の膨張体の強度についての公式の試験方法は、存在していないため、本発明では、後述する方法で評価した。具体的には、一定量の膨張性樹脂組成物を所定の型枠の中に置き、高温で一定時間燃焼させたときに生成した膨張体を上部から一定の厚みまで圧縮し、その時の最大抗力を粘結力として表現し、この値を強度の比較目安とした。
本発明の熱膨張性樹脂組成物は、前記したような、樹脂組成物をシートとして窓枠の内部に装着する形態の製品した場合、火災時に窓枠から噴き出し膨張体は、従来達成できていなかった強度を有し、火風力によって容易に吹き飛ぶことがないため、窓枠のすき間から炎がその外側に出ることを効果的に抑制することができる。また、本発明の熱膨張性樹脂組成物は、パテの形態の製品にして、空調機器設置時に壁に貫通させた配管やケーブルの穴のシール用とすることも有効であり、このように構成すれば、火災時に膨張して穴を塞ぎ、火風力に抗してその状態を維持できるので、炎が容易には貫通しないようにすることが可能になる。
この結果、本発明によれば、炎による燃焼の拡大を抑え込むことができ、火災現場に居た人の脱出時間を稼ぎ、消火活動を助けることが可能になる。本発明者らの検討によれば、火災時に発生する火風力は極めて強く、膨張体の膨張度合、すなわち、従来技術で検討されることが多かった、膨張倍率の大小についての課題よりも、火風に抗して膨張体が形状を保って炎を遮断することの方が極めて重要であり、本発明は、かかる認識の下なされたものである。
本発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂、及び、その他のポリウレタン樹脂や不飽和ポリエステル樹脂等の一般的な樹脂と、膨張性黒鉛からなる樹脂組成物に適用可能な技術であり、また、その膨張体が、高い粘結力を生起する、シート状等の成形品や、塗料やパテ等の多様な形態の有用な製品の提供を可能にする技術である。
本発明者らは、前記した「加熱されて膨張した膨張体が形状保持性及び機械的強度に優れるものになる熱膨張性樹脂組成物」を可能にする構成成分について鋭意検討していく過程で、驚くべきことに、スピロ環ジホスフォネート化合物を配合した膨張性黒鉛を含有してなる樹脂組成物が、用いる樹脂成分の種類によらず、黒鉛の膨張体の粘結力を非常に高めることができることを見出して本発明を達成した。
本発明を構成するスピロ環ジホスフォネート化合物としては、下記式で表される構造のものが好ましい。
Figure 0006263307
(式中、Ar2及びAr3は、同一または異なっていてもよく、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、式中、R4、R5、R6及びR7は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基又は炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。)
上記した化合物は、特開2004−035480号公報に記載の製造方法を参照することで容易に得ることができる。その配合量は、樹脂成分100質量部に対して、2〜50質量部、好ましくは、4〜20質量部程度であることが好ましい。上記範囲より少ないと添加による十分な効果が得られないし、過剰に加えても、さらなる効果が得られず、経済性に劣る。
本発明者らは、本発明の目的を達成できる成分について検討を重ねた結果、火災初期に想定される温度域、すなわち、200〜500℃の温度域で加熱されて得られた膨張体が、樹脂成分の種類によらず、スピロ環ジホスフォネート化合物の配合の有無で、その粘結力の値に大きな差を生じることを見出した。さらに、800℃まで加熱した時にも同様の効果があることが判った。
スピロ環ジホスフォネート化合物を配合した熱膨張性樹脂組成物の、加熱による膨張体は、配合しない組成物の膨張体よりも高い粘結力を示し、より形状保持性及び機械的強度に優れた、火炎及び煙の遮断機能をより効果的に発揮し得るものになることを確認した。この結果、本発明の熱膨張性樹脂組成物を用いることで、従来の製品よりも、火炎及び煙の遮断機能により優れた熱膨張性シート等の有用な各種製品の提供が可能になる。また、本発明の熱膨張性樹脂組成物によって達成される膨張体の高い粘結力は、構成する樹脂成分の種類によらず、熱可塑性及び熱硬化性の各種の樹脂、エラストマー、ゴム或いはこれらの組み合わせを樹脂成分とした場合にも得られることから、広範な樹脂材料が使用できるので、より多様な製品への適用が可能になる。具体的には、シート状に限らず、例えば、ペースト状にすることで開放空間に充填して使用できるパテや、塗料とすることで、金属製或いは木製の柱や壁、或いは、電線等に塗工することで、加熱して膨張後に、より高い粘結力を示す、形状保持性及び機械的強度により優れた膨張体の被覆物を形成できる有用な各種製品の提供が可能になる。
以下、本発明を達成した経緯について述べる。本発明者らは、先に述べたように、既に特許文献2で、塩化ビニル系樹脂をベースとし、これに、該樹脂用の可塑剤と、膨張性黒鉛と、難燃剤としてポリリン酸アンモニウムと、脱塩酸触媒として酸化亜鉛を配合してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物を提案しているが、この組成物からなる製品を、窓枠等に適用し、実際の使用環境を種々に想定しての使用について種々検討を行い、良好なる特性が得られることを確認している。
上記技術に対し、塩化ビニル系樹脂は、安価で機械的強度に優れており、耐久性もある有用な樹脂であるが、塩化ビニル系樹脂だけを対象樹脂にすると、脱塩素化の市場の流れに抗していけない。また、適用箇所によっては、他の樹脂成分の使用が望まれる場合もあり、塩化ビニル系樹脂を含む広範囲な樹脂について、膨張体の高い粘結力による優れた火炎及び煙の遮断機能が発揮される樹脂組成物が望まれている。
上記した現状に対し、本発明者らは、先に提案している技術において、膨張体の高い粘結力が実現できたことに鑑み、多様な樹脂成分に対しても同様の効果が得られる有用な成分が存在するのではないかと考え、種々の検討を行った。
塩化ビニル系樹脂の場合は、脱塩酸によるポリエン化が極めて生起しやすく、さらに、ジッパー効果で加速されることはよく知られている。ポリエン化は、炭化層の形成に関与していることと、そのポリエン化の開始温度を熱膨張性黒鉛の膨張開始温度域と重複させることで、膨張していく黒鉛の表面に該樹脂の炭化層を有効に発現させて良好な粘結力を生み出していると推定している。本発明者らが先に提案している技術では、新たに見出した脱塩酸触媒として機能する酸化亜鉛等が、このポリエン化に際して顕著な役割をしていると考えられる。
しかしながら、塩化ビニル系樹脂を含む広範囲な樹脂について、同様の先に提案している技術で得られた効果の達成を期待する場合は、ポリエン化の機構による効果とは別の観点が必要となる。当然ながら、一般的に使用されている難燃剤の適応検討がまずは考えられる。
まず、樹脂の燃焼は、次のような事象からなる、A→B→C→D→E→F→Aサイクルと言われている。
A)可燃性ガスによる熱傷;可燃性ガス、酸素の補給
B)燃焼による輻射熱の発生;有機材料表面の温度上昇
C)有機材料中への熱分解;有機材料の温度上昇
D)有機材料の熱分解;可燃性ガスの発生
E)可燃性ガスの材料表面への拡散;有機材料中の拡散
F)可燃性ガスの燃焼場への拡散;気相中の拡散
そして、多種の難燃剤は、いずれも樹脂の燃焼サイクルを困難にすべく用いられている。例えば、ハロゲン化合物は、ラジカル安定化、酸素遮断効果での難燃効果であり、金属水酸化物は、脱水による吸熱効果を計っている。また、リン酸化合物とチッソ化合物の共用は、発泡断熱層を形成して優れた難燃効果を示すとされている。また、リンとハロゲン化合物の共用は、ラジカル補足に効果があるとされている。
以上の難燃剤に対する考えは、いずれも、対象樹脂組成物の燃焼を、生成した炭化層の遮断で損傷を表面層に止める効果、及び、燃焼速度を遅らせる効果等を対象としている。言い換えれば、樹脂組成物の延焼を防ぐ点に重きを置いている。
先に述べたように、本発明が課題とするところは、500℃近い火災初期及びその後の800℃までの本格的な火災の過程で、樹脂組成物が初期形態を失い、生起した黒鉛の膨張体の強い粘結力を実現させることにより、火災時の煙や炎等の遮断効果の向上を図ることにあるので、難燃剤の使用目的とは大きく異なっている。加熱により膨張した黒鉛は、本来、極めて脆いので、本発明者らは、本発明が目的とする膨張体の高い粘結力を得るためには、この膨張体に何等かの作用をする要素が必要となると考えた。すなわち、例えば、ファイバー状に膨張した膨張黒鉛同士を相互に固着させるバインダー的な役割を果たしているものが存在するのか、それとも極度の膨張を抑えて密な膨張体にしているものが存在するのかである。或いは、個々のファイバー状の膨張黒鉛の表面に固い炭化層の被覆面ができて、それにより高い粘結力が得られているのか、或いは、これらの複合効果なのかは現段階で明らかでないが、そのような要素が想定される。
本発明者らは、上記した認識の下、様々な検討をする過程で、偶然にも、スピロ環ジホスフォネート化合物を樹脂組成物に組み込んだところ、火災初期を想定した200〜800℃の温度域で生成した膨張体が、樹脂成分の種類によらず、高い粘結力を示すことが判った。
スピロ環ジホスフォネート化合物は、リン系難燃剤として市販されているが、後述するように、本発明者らの検討によれば、他のリン系難燃剤は、本発明が目的とした膨張体の粘結力の向上効果に殆ど寄与しないことが確認された。
ここで、ホスフォネート化合物を樹脂材料の難燃剤として利用し、樹脂成型品等に難燃性を付与すること、すなわち、樹脂成型品等が熱によって延焼しにくくすることについての提案もされている。しかしながら、先に述べたように、本発明が目的とするのは、このような難燃性を問題としているのでなく、火災時の煙や炎等に対する遮断効果の向上を図るため、500℃近い火災初期及びその後の800℃までの火災の過程で、膨張性黒鉛を含む樹脂組成物が、初期形態を失い、生起した黒鉛の膨張体における強い粘結力を実現させる構成を達成することであり、従来技術とは、その目的及び効果において全く異なる。具体的には、リン系難燃剤であるホスフォネート化合物を、膨張性黒鉛を含む樹脂組成物に適用することについて、提案されていない。
次に、検討例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。尚、文中、「部」又は「%」とあるのは、特に規定されていなければ質量基準である。
以下に、例で使用した主な成分を記載した。なお、商品名、製造元・販売元が記載されていない場合は、試薬品或いは一般的な市販品である。
〔塩化ビニル系樹脂〕
リューロンペースト772A(商品名、東ソー社製、平均重合度1650)。以下、PVCと略す。
〔可塑剤〕
・フタル酸ジオクチル。DOPと略す。
・トリクレジルフォスフェート。TCPと略す。
〔膨張性黒鉛〕
SYZR802、SYZR803、SYZR502(商品名、三洋貿易社が販売)。SYZR802の膨張開始温度は、180℃である。
〔ホスフォネート化合物〕
スピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210(帝人社製)。以下、FCX210と略す。
〔ポリウレタン樹脂の原料〕
・ポリイソシアート成分:平均NCOを30%含有のクルードMDIであるルプラネートM20S(BASF INOAC ポリウレタン社製)。M20と略す。
・ポリオール成分:平均分子量2000のポリエチレングリコールであるD−2000(商品名、三井化学社製)。D−2000と略す。
〔不飽和ポリエステル樹脂の原料〕
・主剤:スチレンモノマー含有の不飽和ポリエステル(日本特殊塗料社製)。
・硬化剤:過酸化物系触媒(日本特殊塗料社製)。
〔難燃剤及び無機物〕
・リン酸エステル:PX200(商品名、大八化学社製)。PX200と略す。
・リン酸亜鉛:Z−PO−3(商品名、鈴裕化学社製)。Z−PO−3と略す。
・ポリリン酸アンモニウム:試薬。表中、PPNと略す。
・硫酸メラミン:アピノン901(商品名、三和ケミカル社製)。アピノン901と略す。
・ポリリン酸メラミン・メラム・メレム:ホスメル200(商品名、日産化学工業社製)。ホスメル200と略す。
・ホスフィン酸金属塩:OP1230(商品名、鈴裕化学社製)。OP1230と略す。
・ホスフィン酸金属塩:OP1232(商品名、鈴裕化学社製)。OP1312と略す。
・臭素/三酸化アンチモン:FCP1590(商品名、鈴裕化学社製)。FCP1590と略す。
・水酸化マグネシウム:試薬。MgOHと記載。
・シリカ:試薬。
・酸化亜鉛:試薬。
[実施例1、比較例1](樹脂成分がPVCである場合の添加剤の検討)
樹脂成分としてPVCとDOPとを用い、膨張性黒鉛として、SYZR802とSYZR502との混合物を用い、さらに、前記特許文献2に記載の脱塩性触媒である酸化亜鉛を、添加した場合と添加しない場合の2通りをそれぞれ基本構成とした。そして、これらの基本構成に対し、本発明が目的とする、加熱後の膨張体の粘結力を高めることができる新たな成分を見出すために、表2に添加剤として示した各化合物を添加したことによる上記効果の違いについて検討した。
表1に具体的な配合を示した。
Figure 0006263307
(評価方法)
表1の各配合物をそれぞれ、離型紙上に厚みが約2mmになるようにコートして、110℃、10分間加熱してシートを得た。得られた各シートから約1.6gを採取して試料とした。そして、採取した各試料を、横27mm、縦27mm、高さ50mmの、上部が開放され、下部が閉じたスチール製の容器に入れ、下記のようにして、膨張体の形状保持性及び機械的強度を調べた。
予め、500℃に設定されている電気炉に、上記した試料の入った容器を置き、直ちに昇温を開始させ、800℃まで20分間要する条件で加熱した。800℃に達したら約50分間かけて放冷して室温まで冷却した。
室温まで放冷してから膨張した試料を取出した。取出し後、膨張した試料(以下、膨張体と呼ぶ)について、下記のようにして圧縮試験をして強度を測定した。すなわち、上記容器の開放部側の部分を膨張体の上部とし、この上部表面に、膨張体の上部面積よりも大きい平滑な板をあて、圧縮試験機を用いて圧縮し、強度を測定した。具体的には、膨張体が下部から15mmの厚みになるまで圧縮して、その位置まで圧縮した際の圧縮強度を粘結力M35とし、下部から5mmの位置まで圧縮した際の圧縮強度を粘結力M45として表示した。粘結力の単位は、ニュートン(N)で示した。結果を表2に示した。
また、表2に、膨張体について測定した高さを示した。膨張体の高さは、圧縮試験前の、容器から取出した膨張体の下部からの高さをmmで表示した。表2中に示した残渣率は、加熱前の試料の重量と、加熱後の膨張体の重量とを測定し、両者の重さの比を%で示した。
Figure 0006263307
表2に示されているように、添加剤としてスピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を添加した試料の膨張体は、他の添加剤を添加した試料の膨張体に比べて、粘結力M35及び粘結力M45の測定値において、いずれも極めて優れた粘結力を示すことが確認された。
酸化亜鉛の添加の有無である配合1と2の違いは、添加剤によって膨張体の粘結力に及ぼす影響がバラついていた。スピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を添加した試料の膨張体では、酸化亜鉛を添加した配合2の試料の方が高い粘結力の膨張体が得られることが確認された。先に挙げた特許文献2に記載の発明の構成を満足するNo.10の、ポリリン酸アンモニウム(PPN)と酸化亜鉛を添加した試料の場合も、特許文献2に記載されているように膨張体の粘結力を高くできる。しかし、スピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を添加した試料の場合に得られる粘結力には及ばないことがわかった。また、膨張体の高さは、多くの場合、添加剤を添加することで若干低くなる傾向がみられた。膨張体の残渣率は、添加剤の種類によって異なるものの、添加剤を添加することで若干高くなるものが多かった。膨張体の高さ或いは膨張体の残渣率と、膨張体の粘結力との間に相関性は見られなかった。
[実施例2、比較例2](樹脂成分がポリウレタン樹脂である場合の検討)
実施例1の結果から、添加剤としてスピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を用い、樹脂成分として、ポリオール成分とポリイソシアート成分とを重付加反応してなるポリウレタン樹脂を用いた構成の膨張性樹脂組成物について検討した。具体的には、表3の配合物を、実施例1と同様に、離型紙上にコートして、110℃、10分間加熱してシートを得た。得られた各シートから約1.6gを採取して試料とした。得られた試料を用いて、加熱温度を500℃で5分間ホールドとした以外は実施例1と同様にして膨張体を得た。得られた膨張体を用い、実施例1と同様にして圧縮試験をして強度を測定した。結果を表4に示した。圧縮試験は、下部から5mmの位置まで圧縮して行い、得られた圧縮強度を粘結力M45として表示した。
Figure 0006263307
Figure 0006263307
表4に示したように、樹脂成分としてポリウレタン樹脂を用いた場合も、FCX210の添加で、粘結力が増加することが確認された。また、その添加量は、樹脂成分100部に対して、4部〜20部程度でよく、15部より多く添加しても、粘結力のさらなる向上効果は認められなかった。膨張体の高さは、添加剤を添加することで若干低くなる傾向がみられた。膨張体の残渣率は、添加剤の添加による明確な影響は認められなかった。
[実施例3、比較例3](樹脂成分が不飽和ポリエステル樹脂である場合の検討)
実施例1の結果から、添加剤としてスピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を用い、樹脂成分として、スチレンモノマー含有の不飽和ポリエステルを主剤とし、過酸化物系触媒を硬化剤とした構成の膨張性樹脂組成物について検討した。具体的には、表5の配合物を、金属製の平底容器に入れて、60℃、12時間加熱して試料とした。得られた試料を用いて、加熱温度を500℃で5分間ホールドとした以外は実施例1と同様にして膨張体を得た。
得られた膨張体を用い、実施例1と同様にして圧縮試験をして強度を測定した。結果を表6に示した。圧縮試験は、下部から5mmの位置まで圧縮して行い、得られた圧縮強度を粘結力M45として表示した。また、実施例1と同様にして得た膨張体の高さ及び残差率も表6中に示した。表6に示したように、樹脂成分が不飽和ポリエステル樹脂の場合も、スピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を添加したことによって得られる膨張体の粘結力の向上効果が確認された。
Figure 0006263307
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[実施例4、比較例4](樹脂成分がPVCである場合のFCX210と無機物の添加による効果の違いの検討)
実施例1の結果から、添加剤としてスピロ環ジホスフォネート化合物であるFCX210を用い、塩化ビニル系樹脂組成物の基本構成を表7のようにして構成した場合と、上記FCX210に替えて無機物を添加した場合における、それぞれの膨張体の粘結力の向上効果について、実施例1で行ったと同様の方法で検討した。その結果を表8に示した。
Figure 0006263307
Figure 0006263307
表8に示したように、表7に示したPVCの配合でも、表4に示した膨張性ポリウレタン樹脂組成物の場合と同じく、FCXの添加量に従って、膨張体の粘結力が向上することが確認された。一方、水酸化マグネシウムやシリカを添加しても、膨張体の粘結力向上に寄与しなかった。
その他、樹脂成分として、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、イソブチレン樹脂、熱可塑性エラストマーをそれぞれに用い、樹脂成分100部に、熱膨張性黒鉛を40部に、添加剤としてFCX210を18.0部入れた場合と、FCX210を添加しない場合について検討した。その結果、FCX210を添加することで、加熱後の膨張体の粘結力が大きくなることが確認された。

Claims (4)

  1. 加熱されて成形品の形態の殆どが燃焼で変化した状況における、膨張性黒鉛を含む膨張体が優れた形状保持性及び機械的強度を有するものになる熱膨張性樹脂組成物であって、
    樹脂成分100質量部に対して、膨張性黒鉛を40〜100質量部及びスピロ環ジホスフォネート化合物を2〜50質量部含有してなり、
    前記スピロ環ジホスフォネート化合物が、下記の一般式の構造のものであることを特徴とする熱膨張性樹脂組成物。
    Figure 0006263307
    (式中、Ar 2 及びAr 3 は、同一または異なっていてもよく、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基である。また、式中、R 4 、R 5 、R 6 及びR 7 は、それぞれ同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数6〜20の置換もしくは非置換のアリール基又は炭素数1〜20の飽和もしくは不飽和の炭化水素基である。)
  2. 前記樹脂成分が、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、エラストマー及びゴムからなる群から選ばれる請求項1に記載の熱膨張性樹脂組成物。
  3. その形状が、シート状、ペースト状又は塗料状であり、請求項1又は2に記載の熱膨張性樹脂組成物からなることを特徴とする熱膨張性樹脂製材料。
  4. 窓枠、ドア枠、柱、壁又は電線のいずれかに、設置或いは充填或いは塗工するためのものである請求項に記載の熱膨張性樹脂製材料。
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