以下、本発明の液体吐出装置の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態は例示として挙げるものであり、これにより本発明の内容を限定的に解釈すべきではない。なお、以下、本実施形態では、一例として、インク(液状材料)を吐出して被記録媒体Sに画像をプリントするインクジェットプリンターを用いて説明する。
<1. インクジェットプリンターの構成>
図1は、インクジェットプリンター1の構成を示すブロック図である。インクジェットプリンター1は、紙、布、フィルム等の被記録媒体Sに画像を印刷する印刷装置である。インクジェットプリンター1には、図示せぬコンピューターから印刷させる画像に応じた印刷データが供給される。
インクジェットプリンター1は、コンピューターなどの外部装置と通信を行うインターフェース部10、搬送ユニット20、メモリ30、n(nは2以上の自然数)個の吐出ユニット40-1〜40-n、検出器群50、コントローラー60、駆動信号生成ユニット70、温調ユニット80及び照射ユニット90を有する。インクジェットプリンター1は、コンピュータから印刷データを受信すると、コントローラー60によって各ユニットを制御して、紙に画像を印刷する。
搬送ユニット20は、媒体(例えば、被記録媒体Sなど)を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送させる機構であり、その詳細は図2を参照して後述する。
メモリ30は、CPU(Central Processing Unit)の作業領域として機能するとともに、そこには各種のプログラムや電位差テーブルTBLが格納されている。メモリ30は、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。また、電位差テーブルTBLには、温度と対応づけて駆動パルスの電位差が記憶されている。
吐出ユニット40-1〜40-nは、被記録媒体Sにインクを吐出するためのものである。吐出ユニット40-1〜40-nは、搬送中の被記録媒体Sに対してインクを吐出することによって、被記録媒体Sにドットを形成し、画像を被記録媒体Sに印刷する。本実施形態のインクジェットプリンター1はラインプリンターであり、吐出ユニット40-1〜40-nは紙幅分のドットを一度に形成することができる。
本実施形態に用いるインクは、温度に応じて粘度が変化する。このため、各吐出ユニット40-1〜40-nの温度を検出し、温度に応じて吐出ユニット40-1〜40-nに供給する駆動信号COM1〜COMnを生成する。各吐出ユニット40-1〜40-nは、デジタル温度センサ41-1〜41-nを備える。デジタル温度センサ41-1〜41-nは、各吐出ユニット40-1〜40-nの温度を検出し、検出した温度を示す温度データを生成する。デジタル温度センサ41-1〜41-nとコントローラー60とは、いわゆるI2C(Inter-Integrated Circuit)通信のインターフェースを備え、それらの間は、抵抗でプルアップされた双方向のオープンコレクタの2本の信号線で接続されている。2本の信号線には、シリアル形式のデータ とクロックとが供給される。即ち、2本の信号線は、n個のデジタル温度センサ41-1〜41-nとコントローラー60とで共用される1個の伝送路100である。このため、吐出ユニット40-1〜40-nごとに個別の信号配線(伝送路)を用いてコントローラー60と通信する場合と比較して、信号配線の数を大幅に低減することができる。さらに、I2C通信では、n個のデジタル温度センサ41-1〜41-nが同時に温度データを出力しないので、伝送中に信号が干渉するといった不都合もない。
なお、以下の説明では、吐出ユニット40-1〜40-nを区別する必要がない場合には、単に吐出ユニット40と称する。また、デジタル温度センサ41-1〜41-nを区別する必要がない場合には、単にデジタル温度センサ41と称する。また、駆動信号COM1〜COMnを区別する必要がない場合には、駆動信号COMと称する。
本実施形態では、複数の吐出ユニット40-1〜40-nを適宜組み合わせて1個のラインヘッドを構成する。そして、YMCKの各色ごとのラインヘッドを用いて被記録媒体Sにインクを吐出する。
検出器群50には、ロータリー式エンコーダ(不図示)、紙検出センサなどが含まれる。ロータリー式エンコーダは、上流側搬送ローラー25Aや下流側搬送ローラー25Bの回転量を検出する。ロータリー式エンコーダの検出結果に基づいて、被記録媒体Sの搬送量を検出することができる。紙検出センサは、給紙中の紙の先端の位置を検出する。
コントローラー60は、インクジェットプリンター1全体を制御する。コントローラー60は、CPU61と、ユニット制御回路62とを有する。CPU61は、プリンタ全体の制御を行うための演算処理装置である。
駆動信号生成ユニット70は、コントローラー60か供給される波形データDw1〜Dwnに基づいて、吐出ユニット40-1〜40-nを駆動する駆動信号COM1〜COMnを生成する。波形データDw1〜Dwnは、デジタル温度センサ41-1〜41-nの各々で生成された温度データに応じたものとなっている。このため、駆動信号COM1〜COMnは各吐出ユニット40-1〜40-nの温度に応じた大きさの駆動パルスを有する。
温調ユニット80は、吐出ユニット40に供給されるインクの温度を調整するためのものである。温調ユニット80にはヒーター81が設けられており、ヒーター81からの発熱によってインクの温度を調整することができる。コントローラー60は、温調ユニット80のヒーター81を制御することができる。なお、温調ユニット80やインクの供給については後述する。
照射ユニット90は、吐出ユニット40の搬送方向下流側に設けられており、被記録媒体Sに向けて紫外線を照射する。照射ユニット90は、仮硬化用照射部91K、91C、91M、及び91Y、並びに本硬化用照射部92を含む(図2参照)。
図2は、本実施形態のインジェットプリンター1の一例を示す概略断面図である。
搬送モーター(図示せず)により、上流側ローラー25A及び下流側ローラー25Bからなる搬送ローラーが回転し、搬送ドラム26が従動する。被記録媒体Sは、搬送ローラー、並びに支持体である搬送ドラム26の周面に沿い、搬送ローラーの回転に伴って搬送される。搬送ドラム26の周囲には、K色のインクを吐出するラインヘッド40K、C色のインクを吐出するラインヘッド40C、M色のインクを吐出するラインヘッドM、及びY色のインクを吐出するラインヘッドYが搬送ドラム26に対向して配置される。
上記支持体は、被記録媒体Sが搬送される面を有し、被記録媒体Sを支持し、かつ、ヘッドに対し相対的に移動して、ヘッドに対して相対的に移動するものである。図2で言うと、支持体に相当する搬送ドラム26が、被記録媒体Sが搬送される面を有し、被記録媒体Sを支持し、かつ、ヘッドに対し相対的に移動して、各ラインヘッドと対向する位置を通過するものである。当該支持体が被記録媒体Sを支持しつつヘッドに対して相対的に移動する場合、任意の位置から同じ位置に戻るまでの時間(周期)が5秒以上であることが好ましく、6秒であることがより好ましい。当該時間が上記範囲内であると、支持体の放熱により温度上昇を抑制することができる。また、上記周期の上限は特に制限されるものではないが、高速印刷を実現するため、例えば15秒以内であるとよい。
なお、上記の支持体による所定周期での移動は、少なくともインクジェット記録が行われる間になされればよく、さらにはインクジェット記録が行われる間、連続的又は断続的になされればよい。
上記支持体の形状としては、図2のようなドラム状の支持体に限られるものではなく、以下に限定されないが、例えばドラム状、ローラー状、及びベルト状の支持体、並びに被記録媒体Sを支持する板状の支持体(プラテン等)も好ましく挙げられる。ヘッドに対して相対的になされる支持体の移動は、1つの方向に移動(回転)して同じ位置に戻る移動としてもよく、ある方向への移動及び他の方向への移動により同じ位置に戻る移動としてもよい。後者の場合、当該ある方向への移動を、単票型の一被記録媒体への記録に伴う移動とし、かつ、当該他の方向への移動を、一の被記録媒体への記録を終えて次の被記録媒体へ記録を行うための移動とする形態が挙げられる。
なお、シリアルプリンターの場合、上記のある方向への移動は副走査に相当する。また、ヘッドに対して相対的になされる支持体の移動は、ヘッドに対する支持体の相対的な移動であればよく、支持体に対してヘッドが移動するような移動も含む。
支持体の材質としては、以下に限定されないが、例えば、金属、樹脂、及びゴムが挙げられ、中でも金属が好ましい。当該材質が金属であると、ゴム等の高分子材料である場合と異なり、支持体を長期間使用しても、熱による劣化と思われるヒビ割れが生じず、長期使用が可能となる。当該金属としては、以下に限定されないが、例えば、アルミニウム、ステンレス、銅、及び鉄、並びにこれらの合金が挙げられる。さらに、金属製の支持体の表面、即ち被記録媒体Sの搬送面をコーティング剤などで塗装してもよい。これにより、塗装しない支持体よりも、支持体表面の硬度を向上させることができ、かつ、被記録媒体Sとの間で滑りにくくすることができる。当該コーティング剤としては、以下に限定されないが、例えば、樹脂などの有機系コーティング剤及び無機化合物などの無機系コーティング剤、並びにこれらの複合コーティング剤が挙げられる。なお、以上の支持体に関する事項は、ラインプリンターに限らず、シリアルプリンターにも適用可能である。
このように、各ラインヘッドと対向する被記録媒体Sに向けてインクを吐出し付着させる吐出動作により記録を行う。ラインヘッド40Kの搬送方向下流側には仮硬化用照射部91K、ラインヘッド40Cの搬送方向下流側には仮硬化用照射部91C、ラインヘッド40Mの搬送方向下流側には仮硬化用照射部91M、ラインヘッド40Yの搬送方向下流側には仮硬化用照射部91Yが、各々配置され、被記録媒体Sに向けて紫外線を照射する。搬送方向の更に下流側には本硬化用照射部92が配置されている。このような記録装置は、例えば特開2010−269471号の図11の様にして構成することができる。
本明細書において、「仮硬化」とは、インクの仮留め(ピニング)を意味し、より詳しくはドット間の滲みの防止やドット径の制御のために、本硬化の前に硬化させることを意味する。一般に、仮硬化における重合性化合物の重合度は、仮硬化の後で行う本硬化による重合性化合物の重合度よりも低い。また、「本硬化」とは、被記録媒体上に形成された
ドットを、記録物を使用するのに必要な硬化状態まで硬化させることをいう。ここで、本明細書において「硬化」というときは、特に言及のない限り、上記本硬化を意味するものとする。
なお、本硬化用照射部92より紫外線が照射されて、インクが本硬化されればよいため、仮硬化用照射部91K、91C、91M、及び91Yの一部又は全部から紫外線を照射せず、本硬化用照射部92より紫外線を照射して硬化動作を終了してもよい。このように、硬化動作は、仮硬化を行わずに本硬化のみを行うものであってもよい。
このように、本実施形態によれば、硬化性、吐出安定性、及び連続印刷後の記録装置内における温度上昇の抑制のいずれにも優れ、さらに硬化シワの発生も抑制することのできるインクジェット記録装置を提供することができる。さらに言えば、本実施形態の記録装置は、低粘度の紫外線硬化型インクを用いる場合であっても、優れた硬化性及び吐出安定性を確保しつつ、連続印刷後の記録装置内における温度上昇の抑制に優れるものである。
図3に、吐出ユニット40の構造を示す。吐出ユニット40は、圧電素子200の駆動によりキャビティ245内のインク(液体)がノズル241から吐出するものである。この吐出ユニット40は、ノズル241が形成されたノズルプレート240と、キャビティプレート242と、振動板243と、複数の圧電素子200を積層してなる積層圧電素子201とを備えている。
キャビティプレート242は、所定の形状(凹部が形成されるような形状)に成形され、これにより、キャビティ245およびリザーバ246が形成される。キャビティ245とリザーバ246とは、インク供給口247を介して連通している。また、リザーバ246は、インク供給チューブ311を介してインクカートリッジ310と連通している。
積層圧電素子201の図3中下端は、中間層244を介して振動板243と接合されている。積層圧電素子201には、複数の外部電極248および内部電極249が接合されている。即ち、積層圧電素子201の外表面には、外部電極248が接合され、積層圧電素子201を構成する各圧電素子200同士の間(または各圧電素子の内部)には、内部電極249が設置されている。この場合、外部電極248と内部電極249の一部が、交互に、圧電素子200の厚さ方向に重なるように配置される。
そして、外部電極248と内部電極249との間に駆動信号COMを印加することにより、積層圧電素子201が図3中の矢印で示すように変形して(図3上下方向に伸縮して)振動し、この振動により振動板243が振動する。この振動板243の振動によりキャビティ245の容積(キャビティ内の圧力)が変化し、キャビティ245内に充填されたインク(液体)がノズル241より液滴として吐出する。
液滴の吐出によりキャビティ245内で減少した液量は、リザーバ246からインクが供給されて補給される。また、リザーバ246へは、インクカートリッジ310からインク供給チューブ311を介してインクが供給される。
図4は、ラインヘッドの下面における複数の吐出ユニット40の配列を示す説明図であり、図5は、各吐出ユニットの位置関係を示す説明図である。吐出ユニット40の下面は、被記録媒体Sと対向する。
ラインヘッドの下面では、複数の吐出ユニット40が千鳥列配置で並んでいる。以下の説明では、図中の左から順に、第1吐出ユニット40a、第2吐出ユニット40b、第3吐出ユニット40c、第4吐出ユニット40d、…と呼ぶことにする。搬送方向上流側には、奇数番号の第1吐出ユニット40a、第3吐出ユニット40c、第5吐出ユニット40e、・・・が紙幅方向に並んでいる。また、搬送方向下流側には、偶数番号の第2吐出ユニット40b、第4吐出ユニット40d、第6吐出ユニット40f、…が紙幅方向に並んでいる。
各吐出ユニット40には、180個のノズル241からなるノズル列が形成されている。複数のノズル241は、紙幅方向に沿って、一定のノズルピッチで並んでいる。ここでは、ノズルピッチは1/180インチである。各ヘッドのノズルには、図中の左から順に番号が付されている(♯1〜♯180)。
搬送方向上流側の奇数番号の各吐出ユニット(例えば第3各吐出ユニット40c)の左端のノズル♯1と、搬送方向下流側の偶数番号の吐出ユニット(例えば第2吐出ユニット40b)の右端のノズル♯180との紙幅方向の間隔は、ノズルピッチと同じ1/180インチである。また、搬送方向上流側の奇数番号の吐出ユニット(例えば第3吐出ユニット40c)の右端のノズル♯180と、搬送方向下流側の偶数番号のヘッド(例えば第4吐出ユニット40d)の左端のノズル♯1との紙幅方向の間隔は、ノズルピッチと同じ1/180インチである。
このようにヘッドを配置することによって、印刷される紙の紙幅分の長さにわたって、紙幅方向に1/180インチの間隔でノズルを配置することができる。そして、このように吐出ユニット40を配置することによって、ラインヘッドは、紙幅方向に1/180インチの間隔で並ぶドット(ドット列)を紙幅分の長さにわたって形成することができる。
図6は、各種信号の説明図である。図中の上には、1周期分の駆動信号COMの波形が示されている。駆動信号生成ユニット70は、図中に示す駆動信号COMを繰り返し出力する。なお、1周期分の駆動信号COMが出力される間に、被記録媒体Sが搬送ユニット20によって1/180インチだけ搬送される。言い換えると、1/180インチ搬送される毎に、駆動信号生成ユニット70は、図中の1周期分の駆動信号COMを繰り返し出力する。
各繰返し周期T内では、4つの区間T11〜T14に分けることができる。第1区間T11には駆動パルスPS11を含む第1区間信号SS11が生成され、第2区間T12には駆動パルスPS12を含む第2区間信号SS12が生成され、第3区間T13には駆動パルスPS13を含む第3区間信号SS13が生成され、第4区間T14には駆動パルスPS14を含む第4区間信号SS14が生成される。
ラッチ信号LATのパルスは、1/180インチにて紙が搬送される毎に発生する。このパルスが繰り返し発生し、パルスの周期が求められることによって、搬送速度が求められる。
チェンジ信号CHは、4つの区間T11〜T14を示すための信号である。ラッチ信号LATが発生した後、所定の時間経過するごとに、チェンジ信号CHのパルスが発生する。
選択信号q0〜q3は、スイッチをON/OFFする信号である。選択信号q0〜q3は、区間単位でLレベル又はHレベルの信号になる。各ノズル241には圧電素子200とスイッチがそれぞれ設けられており、選択信号がHレベルのときにスイッチがONになり、駆動信号COMが圧電素子200に印加されることになる。
コンピューターから受信した印刷データには、印刷すべき画像を示す画像データが含まれている。この画像データには、多数の画素データが含まれている。各画素データは2ビットで構成されており、この2ビットのデータによって、各画素に形成すべきドットが示されている。コントローラー60は、印刷データに含まれている画素データに基づいて、ノズル241からインクを吐出させ、被記録媒体Sにドットを形成させる。
画素データが[00]の場合、選択信号q0によりスイッチがON/OFFされ、駆動信号COMの第1区間信号SS11が圧電素子200へ印加され、圧電素子200は駆動パルスPS11により駆動される。この駆動パルスPS11に応じて圧電素子200が駆動すると、インクが吐出されない程度の圧力変動がインクに生じて、インクメニスカス(ノズル部分で露出しているインクの自由表面)が微振動する。
画素データが[01]の場合、選択信号q1によりスイッチがON/OFFされ、駆動信号COMの第3区間信号SS13が圧電素子200へ印加され、圧電素子200は駆動パルスPS13により駆動される。この駆動パルスPS13に応じて圧電素子200が駆動すると、小程度の量のインクが吐出され、用紙に小ドットが形成される。
画素データが[10]の場合、選択信号q2によりスイッチがON/OFFされ、駆動信号COMの第2区間信号SS12が圧電素子200へ印加され、圧電素子200が駆動パルスPS12により駆動される。この駆動パルスPS12に応じて圧電素子200が駆動すると、中程度の量のインクが吐出され、用紙に中ドットが形成される。
画素データが[11]の場合、選択信号q3によりスイッチがON/OFFされ、駆動信号COMの第2区間信号SS12及び第4区間信号SS14が圧電素子200へ印加され、圧電素子200が駆動パルスPS12及び駆動パルスPS14により駆動される。これらの駆動パルスPS12及び駆動パルスPS14に応じて圧電素子200が駆動すると、用紙に大ドットが形成される。
なお、本実施形態では、駆動信号生成ユニット70は、コントローラー60の設定した波形データDw1〜Dwnによって指定された波形(電圧)の駆動パルスPS11〜PS14を出力している。後述するように、波形データDw1〜Dwnが変更されると、駆動パルスPS11〜PS14の波形(電圧)が変更されることになる。
図7は、吐出ユニットまでのインクの供給の説明図である。ここではブラックインクの供給について説明を行う。但し、他の色のインクの供給についてもブラックインクと同様である。また、ここでは説明の簡略化のため、吐出ユニットの数を4個にしている。
ブラックインクカートリッジ310Bは、ブラックインクを収容する収容体である。このブラックインクカートリッジに収容されているブラックインクが、インク供給チューブ311を通って、吐出ユニットに供給されることになる。
ブラックインクカートリッジ310Bからヘッドまでブラックインクが供給される途中に、温調ユニット80のヒーター81が設けられている。ヒーター81は、インク供給チューブ311のインクを所定の温度(例えば50度)になるまで加熱をする。言い換えると、ヒーター81を通過した直後のインクは、所定の温度になっている。
本実施形態では、ヒーター81の直後において、インク供給チューブ311が分岐している(つまり、分岐点がヒーター81の直後にある)。以下の説明では、分岐した供給路のことを枝供給路と呼ぶ。また、第1吐出ユニット40aにインクを供給する枝供給路のことを第1枝供給路311Aと呼び、第2吐出ユニット40bにインクを供給する枝供給路のことを第2枝供給路311Bなどと呼ぶ。
ラインプリンターでは複数の吐出ユニット40が紙幅方向に並んで配置されているため(図4参照)、吐出ユニット40とヒーター81との距離は、吐出ユニット40毎に異なることになる。このため、各吐出ユニット40にインクを供給する枝供給路の長さも、吐出ユニット40毎に異なっている。例えば、第1吐出ユニット40aは第4吐出ユニット40dよりもヒーター81の近くに設けられているので、第1枝供給路311Aは、第4枝供給路311Dよりも短い。
ところで、それぞれの枝供給路には、ヒーター81で温められたインクが流れることになる。ヒーター81で温められたインクは、枝供給路を流れる間に、放熱によって温度が低下する。このため、ヒーター81を通過した直後のインクの温度が例えば50度であっても、吐出ユニット40に到達したときのインクの温度は50度よりも低い温度である。
枝供給路の長さがヘッド毎に異なっているため、ヒーター81を通過してからヘッドに到達するまでの到達時間がヘッド毎に異なることになる。このため、ヘッドに到達したときのインクの温度は、ヘッド毎に異なることになる。例えば、第1吐出ユニット40aに到達したインクの温度が45度であるのに対し、第4吐出ユニット40dに到達したインクの温度が35度であることがある。
また、仮に枝供給路の長さが同じであったとしても、各吐出ユニット40のインク吐出量が異なる場合には、ヒーター81を通過してからヘッドに到達するまでの到達時間がヘッド毎に異なることになる。このような場合にも、ヘッドに到達したときのインクの温度は、吐出ユニット40毎に異なることになる。
インクは、温度が変われば粘度が異なる性質を持つ。インクの粘度が異なると、ノズル内のインクの挙動が変化することになる。このため、同じ波形の駆動信号COMによって圧電素子200が駆動されたとしても、インクの温度が異なれば、吐出されるインク滴の大きさが異なり、形成されるドットの大きさが変化することになる。この結果、印刷画像を構成するドットの大きさにばらつきが生じ、画質が低下するおそれがある。
そこで、吐出ユニット40におけるインクの温度に応じて、その吐出ユニット40を駆動する駆動信号COMの波形を変更している。各吐出ユニット40-1〜40-nにそれぞれデジタル温度センサ41-1〜41-nが設けられている。
上述したインクジェットプリンター1において、吐出ユニット40-1は、液体を吐出する第1のノズルと、第1のノズルに連通する第1のキャビティと、第1のキャビティ(圧力室)に対応して液体を吐出するために設けられた第1の圧電素子と、液体を吐出する第2のノズルと、第2のノズルに連通する第2のキャビティと、第2のキャビティに対応して液体を吐出するために設けられた第2の圧電素子と、を有する。また、吐出ユニット40-2は、液体を吐出する第3のノズルと、第3のノズルに連通する第3のキャビティと、第3のキャビティに対応して液体を吐出するために設けられた第3の圧電素子と、液体を吐出する第4のノズルと、第4のノズルに連通する第4のキャビティと、第4のキャビティに対応して液体を吐出するために設けられた第4の圧電素子と、を有する。そして、吐出ユニット40-1には、吐出ユニット40-1の第1温度を検出し、第1温度を示す第1温度データを生成するデジタル温度センサ41-1が設けられており、吐出ユニット40-2には、吐出ユニット40-2の第2温度を検出し、第2温度を示す第2温度データを生成するデジタル温度センサ41-2が設けられている。コントローラー60及び駆動信号生成ユニット70は、第1温度データに基づいて、第1温度に応じた大きさの変位が得られるように第1の圧電素子及び第2の圧電素子を駆動する駆動信号COM1、並びに第2温度データに基づいて、第2温度に応じた大きさの変位が得られるように第3の圧電素子及び第4の圧電素子を駆動する駆動信号COM2を生成する。さらに、インクジェットプリンター1は、デジタル温度センサ41-1及び41-2並びにコントローラー60の間に共通に設けられた伝送路100とを備える。このインクジェットプリンター1によれば、吐出ユニット40-1の温度に応じて吐出ユニット40-1に設けられた圧電素子を駆動するとともに、吐出ユニット40-2の温度に応じて吐出ユニット40-2に設けられた圧電素子を駆動するので、液体が温度に応じて粘度が変化しても、液体の吐出量を制御することができる。さらに、伝送路100は、共通に設けられているので、デジタル温度センサ41-1とコントローラー60との間に一の伝送路を設け、デジタル温度センサ41-2とコントローラー60との間に他の伝送路を設ける場合と比較して構成を簡素化することができる。
<2. インクジェットプリンターの動作>
図8は、コントローラー60の動作を示すフローチャートである。まず、コントローラー60は、デジタル温度センサ41-1〜41-nで生成された温度データを取得する(S101)。
図9に温度検出に係るシーケンスを示す。デジタル温度センサ41-1〜41-nにはそれらを一意に識別するアドレスx1〜xnが割り当てられている。この例では、コントローラー60は、期間t1においてデジタル温度センサ41-1から温度データを取得し、期間t2においてデジタル温度センサ41-2から温度データを取得し、以後、デジタル温度センサ41-3〜41-n-1から温度データを順に取得し、期間tnにおいてデジタル温度センサ41-nから温度データを取得する。
まず、期間t1では、コントローラー60は、伝送路100にデジタル温度センサ41-1を指定するアドレスx1を送信する。デジタル温度センサ41-1〜41-nがアドレスx1を受信すると、アドレスx1に対応するデジタル温度センサ41-1がACKをコントローラー60に返信する。ACKを受信したコントローラー60は、正常に、アドレスx1が受信されたことを確認することができる。この後、デジタル温度センサ41-1が温度データを含む温度応答をコントローラー60に送信する。
期間t2〜tnにおいても、期間t1と同様の通信が実行される。これによって、コントローラー60は、デジタル温度センサ41-1〜41-nが生成する温度データを取得することができる。即ち、本実施形態では、各デジタル温度センサ41-1〜41-nは、排他的に温度データを伝送路100に供給する。このように、時分割で各温度データが伝送路100に出力されるので、温度データが相互に干渉することを防止できる。
説明を図8に戻す。次に、コントローラー60は、検出された温度に基づいて、メモリ30に格納されている電位差テーブルTBLを参照し、電位差を決定する(S102)。
図10は、電位差テーブルTBLの説明図である。図中の横軸は温度を示し、縦軸は電圧値Vhの大きさを示している。図に示すように、温度Tが高くなるほど、電位差Vhは低い値を示す。また、ある温度T0以上の温度に対しては、電位差は一定値Vh0になる。例えば、デジタル温度センサ41-1の検出した温度がT1である場合、コントローラー60は、電位差テーブルTBLを参照し、電位差Vh1を決定することになる。
なお、図中の電位差テーブルTBLは、駆動パルスPS12に対する電位差Vh1を示している。他の駆動パルスに対する電位差テーブルTBLもそれぞれメモリ30に格納されており、コントローラー60は、検出された温度に基づいて、各駆動パルスについての電位差も同様に決定する。
図11は、駆動パルスPS12と電位差Vhの説明図である。図中の左側には、変更前の駆動信号COMの駆動パルスPS12が示されている。
この駆動パルスPS12では、電位が中間電位から最高電位まで上昇した後、最高電位で所定時間保持され、最高電位から最低電位まで下降し、最低電位で所定時間保持され、その後、中間電位まで電位が上昇する。変更前の駆動信号COMの駆動パルスPS12において、最高電位から最低電位までの電位差は、Vh0になっている。最高電位から最低電位まで電位が変化するとき、すなわち、圧電素子200が放電により変形するとき、ノズルからインク滴が吐出されるので、ノズルから吐出されるインク滴の大きさは電位差Vh0に大きく依存している。
説明を図8に戻す。このように決定された電位差に基づいて、コントローラー60は決定された電位差に応じた波形データを作成する(S103)。なお、作成される波形データDw1〜Dwnは、電圧変化点の時間や電位を示すデータから構成される。そして、コントローラー60は、吐出ユニット40-1〜40-nの駆動信号COM1〜COMnを生成する駆動信号生成ユニット70に対して、作成した波形データDw1〜Dwnを設定する(S104)。
駆動信号生成ユニット70に波形データDw1〜Dwnが設定されると、印刷処理が開始される(S105)。印刷処理では、搬送ユニット20が搬送方向に紙を搬送しつつ、搬送中の紙に対して吐出ユニット40-1〜40-nがインクを吐出することによって、紙に画像が印刷される。このとき、吐出ユニット40を駆動する駆動信号COMを生成する駆動信号生成ユニットは、設定された波形データに基づいて、図11の右側に示すような駆動パルスを含む駆動信号COMを出力する。このように、温度に応じた波形データが設定されることによって、駆動信号COMの波形が変更される。
吐出ユニット40でのインクの温度が低い場合、インクの粘度が高くなるので、駆動信号COMを変更しなければ、吐出されるインク滴が小さくなり、ドットが小さくなってしまう。これに対し、本実施形態では、吐出ユニット40でのインクの温度が低いことをデジタル温度センサ41が検出した場合、電圧変化が大きくなるように駆動信号COMの波形を変更し、吐出されるインク滴の大きさが大きくなるようにしている。これにより、吐出ユニット40のインクの温度が低くなっても、吐出ユニット40から吐出されるインク滴の大きさが変化しないようにしている。
このように、各吐出ユニット40のインクの温度に応じて駆動信号COMの波形が吐出ユニット40毎に変更されることによって、インク滴の大きさのヘッド間ばらつきを抑えることができる。特にラインプリンターの場合には、吐出ユニット40毎に枝供給路の長さが異なるため、吐出ユニット40毎のインクの温度にばらつきが生じやすいが、本実施形態によれば、インク滴の大きさの吐出ユニット40間ばらつきを抑えることができる。また、特に低粘度インクを使用する場合、温度変化に対する粘度変化が大きいので、本実施形態は特に有効である。
<3. インクジェットプリンターに用いるインク>
本実施形態のインクジェットプリンター1は、紫外線硬化型インク(以下、「インク」又は「インク組成物」ともいう。)を用いることが好ましい。
以下、好適な紫外線硬化型インクについて説明する。紫外線硬化型インクは、20℃での粘度及び平均重合性不飽和二重結合当量がそれぞれ所定の範囲であることを特徴とする。
〔3−1.紫外線硬化型インクの20℃での粘度〕
上記紫外線硬化型インクは、20℃での粘度が、25mPa・s以下であり、好ましくは15〜25mPa・sであり、より好ましくは17〜23mPa・sである。当該20℃での粘度が上記の上限値以下であると、インクの吐出安定性が優れたものとなる。また、当該20℃での粘度が上記の下限値以上であると、硬化シワの発生を効果的に抑制することができる。
硬化シワが発生する原理は次のように推測されるが、本発明の範囲は以下の推測によって何ら限定されることはない。硬化シワは、インクの塗膜において、塗膜表面が先に硬化した後、塗膜内部が塗膜表面よりも遅れて硬化する際に、先に硬化した塗膜表面が変形したり、後から硬化するまでの間に塗膜内部のインクが不規則に流動したりすることなどにより、発生すると推測される。また、粘度が低い紫外線硬化型インクは硬化に伴う重合収縮率(所定の質量を有する硬化前のインクの体積に対する、当該インクの体積と硬化後の当該インク(硬化物)の体積との差)が大きい傾向が見られ、このため硬化シワの発生が顕著であると推測される。また、後述する単官能の(メタ)アクリレート、中でも後述の一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートを含有する紫外線硬化型インクは、硬化シワが発生しやすい傾向が見られ、特に、一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリレートを含有し、かつ、粘度が低い紫外線硬化型インクは、硬化シワの発生が顕著であると推測される。本実施形態のインクジェット記録方法に用いられる紫外線硬化型インクは、これらを含有する場合でも、粘度を上記の範囲とすることにより、硬化シワの発生を効果的に抑制することができる。なお、本明細書における粘度は、後述の実施例で行った方法により測定された値を採用することができる。
ここで、インクの粘度を所望の範囲とするための、インクの設計方法の一例を説明する。
インクに含まれる重合性化合物全体の混合粘度は、使用する各重合性化合物の粘度と、当該各重合性化合物のインク組成物に対する質量比と、から推算することができる。
インクが、重合性化合物A,B…(途中省略)…,NというN種類の重合性化合物を含むと仮定する。重合性化合物Aの粘度をVAとし、インク中の重合性化合物全量に対する重合性化合物Aの質量比をMAとする。重合性化合物Bの粘度をVBとし、インク中の重合性化合物全量に対する重合性化合物Bの質量比をMBとする。同様にN番目の重合性化合物Nの粘度をVNとし、インク中の重合性化合物全量に対する重合性化合物Nの質量比をMNとする。確認的に示すと、「MA+MB+…(途中省略)…+MN=1」という数式が成り立つ。また、インクに含まれる重合性化合物全体の混合粘度をVXとする。そうすると、下記の数式(1)を満たすと仮定する。
MA×LogVA+MB×LogVB+…(途中省略)…+MN×LogVN=LogVX ・・・(1)
なお、例えば重合性化合物がインクに2種含まれる場合には、MBよりも後の重合性化合物の質量比をゼロとする。重合性化合物の種類数は1種以上の任意の数とすることができる。
次に、インク粘度を所望の範囲とするための手順(ステップ1〜7)の一例を説明する。
まず、使用する各重合性化合物の所定温度における粘度の情報を入手する(ステップ1)。入手方法としては、メーカーカタログなどから入手したり、各重合性化合物の所定温度における粘度を測定したりすることなどが挙げられる。重合性化合物単体の粘度は、同じ重合性化合物であってもメーカーにより異なることがあるので、使用する重合性化合物の製造メーカーによる粘度情報を採用するとよい。
続いて、VXに目標粘度を設定し、上記の数式(1)に基づきVXが目標粘度となるよう各重合性化合物の組成比(質量比)を決める(ステップ2)。目標粘度は、最終的に得たいインク組成物の粘度であり、例えば15〜25mPa・sの範囲のうちのある粘度とする。所定温度は20℃とする。
続いて、実際に重合性化合物を混合して重合性化合物の組成物(以下、「重合性組成物」という。)を調製し、所定温度における粘度を測定する(ステップ3)。
続いて、重合性組成物の粘度が上記の目標粘度に凡そ近い場合(本ステップ4では、「目標粘度±5mPa・s」になっていればよい。)、当該重合性組成物と、光重合開始剤や顔料など重合性化合物以外の成分(以下、「重合性化合物以外の成分」と言う)と、を含むインク組成物を調製し、当該インク組成物の粘度を測定する(ステップ4)。当該ステップ4において、重合性化合物以外の成分であって、例えば顔料のように顔料分散液の形態でインク組成物に混合する成分がある場合、顔料分散液に予め含まれている重合性化合物もインク組成物に持ち込まれてしまうため、ステップ2で決めた各重合性化合物の組成比から、顔料分散液としてインク組成物に持ち込まれてしまう重合性化合物の質量比を差し引いた質量比で、インク組成物を調整する必要がある。
続いて、上記インク組成物の測定粘度と上記重合性組成物の測定粘度との差を算出し、これをVYとする(ステップ5)。ここで、通常「VY>0」となる。VYは、重合性化合物以外の成分の種類や含有量などの含有条件によるが、後記の実施例においては、VY=3〜5mPa・sであった。
続いて、VXに「ステップ2の目標粘度−VY」を定め、上記の数式(1)から、VXが前記で定めた「ステップ2の目標粘度−VY」となるよう各重合性化合物の組成比を再度決める(ステップ6)。
続いて、ステップ6で決めた組成比の各重合性化合物と重合性化合物以外の成分とを混合してインク組成物を調製し、所定温度における粘度を測定する(ステップ7)。測定した粘度が目標粘度になっていれば、ステップ7で調整したインク組成物が、目標粘度を有するインク組成物として得られたことになる。
一方、ステップ3において、調製した重合性化合物の組成物の測定粘度が「目標粘度±5mPa・s」の範囲に入っていない場合、以下の微調整を行った上で、ステップ3から再度行う。まず、上記測定粘度が高すぎる場合、単体としての粘度が目標粘度よりも高い重合性化合物の含有量を減らし、かつ、単体としての粘度が目標粘度よりも低い重合性化合物の含有量を増やすといった微調整を行う。一方、上記測定粘度が低すぎる場合、単体としての粘度が目標粘度よりも低い重合性化合物の含有量を減らし、かつ、単体としての粘度が目標粘度よりも高い重合性化合物の含有量を増やすといった微調整を行う。また、ステップ7で、調製したインク組成物の測定粘度が目標粘度になっていない場合、上記の微調整と同様の調整を行った上で、ステップ7から再度行う。
〔3−2.紫外線硬化型インクの平均重合性不飽和二重結合当量〕
上記紫外線硬化型インクは、平均重合性不飽和二重結合当量が100〜150の範囲であり、好ましくは110〜150であり、より好ましくは120〜150であることを特徴とする。平均重合性不飽和二重結合当量が上記の下限値以上であると、硬化に起因して発生する反応熱量を少なく抑えられるため、連続印刷後の温度上昇を抑制でき、かつ、保存安定性が優れたものとなる。また、平均重合性不飽和二重結合当量が上記の上限値以下であると、硬化性が優れたものとなる。
ここで、本明細書における「平均重合性不飽和二重結合当量」とは、重合性の不飽和二重結合の平均当量と換言することができる。当該重合性不飽和二重結合を有する化合物は、重合性不飽和二重結合を備えた重合性官能基を有する化合物ということもでき、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート化合物、ビニル化合物、ビニルエーテル化合物、及びアリル化合物が挙げられる。上記の重合性不飽和二重結合を有する化合物は、重合性官能基を1個以上有する化合物であればよく、重合性官能基を2個以上有する場合には、同じ種類の重合性官能基であってもよく異なる種類の重合性官能基であってもよい。また、上記の各化合物は、上記の重合性官能基以外の構造から、芳香環骨格を有する重合性化合物、環状又は直鎖状の脂肪族骨格を有する重合性化合物、複素環骨格を有する重合性化合物などに分類することもできる。
本明細書において、紫外線硬化型インクの平均重合性不飽和二重結合当量は以下のようにして求めることができる。まず、インクに含まれる重合性化合物ごとに、重合性化合物の重合性不飽和二重結合当量を、下記数式(2)により算出する。
重合性化合物の重合性不飽和二重結合当量=重合性化合物の分子量/重合性化合物の分子中に含まれる重合性不飽和二重結合数 ・・・(2)
上記数式(2)中、重合性化合物の分子量や重合性不飽和二重結合数は、メーカーカタログの値や化学構造式から算出した値を採用することができる。
次に、インクの平均重合性不飽和二重結合当量を下記数式(3)により算出する。
インクの平均重合性不飽和二重結合当量=(重合性化合物Aの重合性不飽和二重結合当量×重合性化合物Aのインク中の含有量+重合性化合物Bの重合性不飽和二重結合当量×重合性化合物Bのインク中の含有量+・・+重合性化合物nの重合性不飽和二重結合当量×重合性化合物nのインク中の含有量)/(重合性化合物Aのインク中の含有量+重合性化合物Bのインク中の含有量+・・+重合性化合物nのインク中の含有量) ・・・(3)
上記数式(3)は、インクがn種類の重合性化合物を含むと仮定したときの式であり、当該「n」は1以上の任意の整数とする。上記数式(3)中、「含有量」はインクの総質量に対する質量%を表す。
インクの平均重合性不飽和二重結合当量が小さいほど、当該インクは重合性不飽和二重結合をより多く有しており、当該インクの重合に伴い発生する反応熱量がより大きくなる。一方、インクの平均重合性不飽和二重結合当量が大きいほど、当該インク中の重合性不飽和二重結合がより少なく、当該インクの重合に伴い発生する反応熱量はより小さくなる。
以下、本実施形態における紫外線硬化型インクに含まれ得る添加剤(成分)を説明する。
〔3−3.重合性化合物〕
インクに含まれる重合性化合物は、単独で、又は後述する光重合開始剤の作用により、光照射時に重合されて、印刷されたインクを硬化させることができる。重合性化合物としては、従来公知の、単官能、2官能、及び3官能以上の多官能といった種々のモノマー及びオリゴマーが使用可能である。上記モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。また、上記オリゴマーとしては、例えば、直鎖アクリルオリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、環状又は直鎖状の脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート、及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記の中でも、(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレートが好ましい。当該(メタ)アクリレートの中でも、単官能の(メタ)アクリレート及び2官能以上の(メタ)アクリレートの併用が好ましく、単官能の(メタ)アクリレート及び2官能の(メタ)アクリレートの併用がより好ましい。
以下、これらの(メタ)アクリレートを中心として、重合性化合物を詳細に説明する。その上で、上記単官能の(メタ)アクリレートの中でも、一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類が好ましく挙げられるため、まず上記のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類について説明することとする。
(3−3−1.ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類)
インクは、下記一般式(I)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含むことが好ましい。
CH2=CR1−COOR2−O−CH=CH−R3・・・(I)
(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2は炭素数2〜20の2価の有機残基であり、R3は水素原子又は炭素数1〜11の1価の有機残基である。)
インクが当該ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有することにより、インクを低粘度化することができ、インクの硬化性を優れたものとすることができ、かつ、硬化シワの発生を効果的に抑制することができる。さらに言えば、ビニルエーテル基を有する化合物及び(メタ)アクリル基を有する化合物を別々に使用するよりも、ビニルエーテル基及び(メタ)アクリル基を一分子中に共に有する化合物を使用する方が、インクの硬化性を良好にする上で好ましい。
上記の一般式(I)において、R2で表される炭素数2〜20の2価の有機残基としては、炭素数2〜20の直鎖状、分枝状又は環状の置換されていてもよいアルキレン基、構造中にエーテル結合及び/又はエステル結合による酸素原子を有する置換されていてもよい炭素数2〜20のアルキレン基、炭素数6〜11の置換されていてもよい2価の芳香族基が好適である。これらの中でも、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、及びブチレン基などの炭素数2〜6のアルキレン基、オキシエチレン基、オキシn−プロピレン基、オキシイソプロピレン基、及びオキシブチレン基などの構造中にエーテル結合による酸素原子を有する炭素数2〜9のアルキレン基が好適に用いられる。
上記の一般式(I)において、R3で表される炭素数1〜11の1価の有機残基としては、炭素数1〜10の直鎖状、分枝状又は環状の置換されていてもよいアルキル基、炭素数6〜11の置換されていてもよい芳香族基が好適である。これらの中でも、メチル基又はエチル基である炭素数1〜2のアルキル基、フェニル基及びベンジル基などの炭素数6〜8の芳香族基が好適に用いられる。
上記の各有機残基が置換されていてもよい基である場合、その置換基は、炭素原子を含む基及び炭素原子を含まない基に分けられる。まず、上記置換基が炭素原子を含む基である場合、当該炭素原子は有機残基の炭素数にカウントされる。炭素原子を含む基として、以下に限定されないが、例えばカルボキシル基、アルコキシ基が挙げられる。次に、炭素原子を含まない基として、以下に限定されないが、例えば水酸基、ハロ基が挙げられる。
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類としては、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−ビニロキシメチルプロピル、(メタ)アクリル酸2−メチル−3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1,1−ジメチル−2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸6−ビニロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸2−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)プロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシエトキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシイソプロポキシイソプロポキシ)イソプロピル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(イソプロペノキシエトキシエトキシエトキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコールモノビニルエーテル、及び(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールモノビニルエーテルが挙げられる。
これらの中でも、インクをより低粘度化でき、引火点が高く、かつ、インクの硬化性に優れるため、(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル、即ち、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル及びメタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルのうち少なくともいずれかが好ましく、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチルが
より好ましい。特にアクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル及びメタクリル酸2−
(ビニロキシエトキシ)エチルは、何れも単純な構造であって分子量が小さいため、イン
クを顕著に低粘度化することができる。(メタ)アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)
エチルとしては、(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及び(メタ
)アクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられ、アクリル酸2−(ビニ
ロキシエトキシ)エチルとしては、アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル及
びアクリル酸2−(1−ビニロキシエトキシ)エチルが挙げられる。なお、アクリル酸2
−(ビニロキシエトキシ)エチルの方が、メタクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチ
ルに比べて硬化性の面で優れている。
ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の製造方法としては、以下に限定されないが、(メタ)アクリル酸と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法B)、(メタ)アクリル酸ハロゲン化物と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法C)、(メタ)アクリル酸無水物と水酸基含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法D)、(メタ)アクリル酸エステルと水酸基含有ビニルエーテルとをエステル交換する方法(製法E)、(メタ)アクリル酸とハロゲン含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法F)、(メタ)アクリル酸アルカリ(土類)金属塩とハロゲン含有ビニルエーテルとをエステル化する方法(製法G)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとカルボン酸ビニルとをビニル交換する方法(製法H)、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとアルキルビニルエーテルとをエーテル交換する方法(製法I)が挙げられる。
これらの中でも、本実施形態に所望の効果を一層発揮することができるため、製法Eが好ましい。
(3−3−2.単官能の(メタ)アクリレート)
インクは、単官能の(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。ここで、インクが上述のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類(但し、単官能の(メタ)アクリレートであるものに限る。)を含む場合、当該ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類も上記単官能の(メタ)アクリレートに含まれるものとするが、当該ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類についての説明は省略する。以下では、上述のビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類以外の単官能の(メタ)アクリレートについて説明する。インクが当該単官能の(メタ)アクリレートを含有することにより、インクを低粘度化することができ、インクの硬化性に一層優れ、かつ、光重合開始剤その他の添加剤の溶解性も優れたものとなる。さらに言えば、光重合開始剤その他の添加剤の溶解性が優れたものとなることに起因してインクの吐出安定性が一層優れたものとなり、また塗膜の強靭性、耐熱性、及び耐薬品性が増す。
上記単官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、エトキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、アルコキシ化ノニルフェニル(メタ)アクリレート、p−クミルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、が挙げられる。
上記の中でも、硬化性、保存安定性、及び光重合開始剤の溶解性に一層優れるため、分子中に芳香環骨格を有する単官能の(メタ)アクリレートが好ましい。芳香環骨格を有する単官能の(メタ)アクリレートとしては、以下に限定されないが、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシフェノキシプロピル(メタ)アクリレート、及びフェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。これらの中でも、インクを低粘度化することができ、かつ、硬化性、耐擦性、インクの被記録媒体への密着性、及び光重合開始剤の溶解性のいずれ
も優れたものとすることができるため、フェノキシエチル(メタ)アクリレート及びベン
ジル(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかが好ましく、フェノキシエチル(メ
タ)アクリレートがより好ましい。
上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類以外の単官能の(メタ)アク
リレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
単官能の(メタ)アクリレートの含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、
30〜70質量%が好ましく、40〜60質量%がより好ましい。当該含有量が上記範囲内であると、インク粘度、具体的に言えば20℃でのインク粘度及び吐出温度でのインク粘度の双方を所望の範囲としやすくなる。加えて、当該含有量が上記の下限値以上であると、硬化性に一層優れ、かつ、光重合開始剤の溶解性も優れたものとなる。一方、当該含有量が上記の上限値以下であると、硬化性に一層優れ、かつ、密着性も優れたものとなる。
なお、当該単官能の(メタ)アクリレートの含有量は、インクが単官能(メタ)アクリレートである上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含む場合には、これを含む含有量である。
特に、インクが上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有する場合、当該ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、10〜50質量%が好ましく、15〜40質量%がより好ましい。当該含有量が上記の下限値以上であると、インクを低粘度化でき、かつ、インクの硬化性を一層優れたものとすることができる。一方、当該含有量が上記の上限値以下であると、インクの保存安定性を良好な状態に維持することができ、硬化シワの発生を一層効果的に抑制することができる。
また、インクが上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類以外の単官能の(メタ)アクリレートを含有する場合、当該(メタ)アクリレートの含有量は、10〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。当該含有量が上記の下限値以上であると、硬化性に加えて光重合開始剤の溶解性も一層優れたものとなる。一方、当該含有量が上記の上限値以下であると、硬化性に加えて密着性も一層優れたものとなる。上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類以外の単官能の(メタ)アクリレートとしては、硬化性及び光重合開始剤の溶解性が一層優れたものとなるため、芳香環骨格を有する単官能(メタ)アクリレートが好ましい。
(3−3−3.2官能以上の(メタ)アクリレート)
インクは、2官能以上の(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。上述のように、単官能の(メタ)アクリレート及び2官能以上の(メタ)アクリレートを併用することがより好ましい。
2官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
3官能以上の多官能の(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
2官能以上の(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
2官能以上の(メタ)アクリレートの含有量は、上述した単官能の(メタ)アクリレートの好ましい含有量との関係で決定するのが好ましい。2官能以上の(メタ)アクリレートの含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、20〜60質量%が好ましく、20〜50質量%がより好ましい。当該含有量が上記範囲内であると、インクの硬化性や硬化物の耐擦性が優れたものとなり、インクの粘度を所望の粘度に設計しやすい。また、重合性化合物の単体の粘度が比較的低い単官能の(メタ)アクリレート、中でも特に粘度が低い上記ビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類と、比較的粘度が高いその他の重合性化合物と、を組み合わせることが好ましい。これにより、上述したインクの粘度を所望の範囲に設計しやすくなる。
また、上述した単官能の(メタ)アクリレートの好ましい含有量との関係から、30〜70質量%の単官能の(メタ)アクリレートと、20〜60質量%の2官能以上の(メタ)アクリレートと、を含有することが好ましい。
なお、重合性化合物の総含有量は、その他の成分の含有量との関係より、インクの総質量(100質量%)に対し、50〜95質量%程度であるとよい。
また、重合性化合物として光重合性の化合物を用いることにより、光重合開始剤の添加を省略することも可能であるが、光重合開始剤を用いた方が、重合の開始を容易に調整することができ、好適である。
〔3−4.光重合開始剤〕
本実施形態におけるインクは、光重合開始剤を含んでもよい。当該光重合開始剤は、紫外線の照射による光重合によって、被記録媒体の表面に存在するインクを硬化させて印字を形成するために用いられる。光の中でも紫外線(UV)を用いることにより、安全性に優れ、且つ光源ランプのコストを抑えることができる。紫外線のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記重合性化合物の重合を開始させるものであれば、制限はないが、光ラジカル重合開始剤や光カチオン重合開始剤を使用することができ、中でも光ラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。
上記の光ラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルフォスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
これらの中でも、特にインクの硬化性を一層良好にすることができるため、アシルフォスフィンオキサイド化合物が好ましい。
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン-1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル-1−フェニルプロパン-1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル-1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン-1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン、及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドが挙げられる。
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ-1,2−ジフェニルエタン-1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル-1−フェニル−プロパン-1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル-1−プロパン-1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ-1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン-1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル-1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン-1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ-1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン-1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]-1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]-1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン-1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール-1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASF社製商品名)、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製商品名)、Speedcure TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、Speedcure DETX(2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン)(以上、Lambson社製商品名)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製商品名)、及びユベクリルP36(UCB社製商品名)などが挙げられる。
光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
光重合開始剤の含有量は、紫外線硬化速度を向上させて硬化性を優れたものとすることができ、かつ、光重合開始剤の溶け残りや光重合開始剤に由来する着色を避けるため、インクの総質量(100質量%)に対して、20質量%以下であることが好ましい。
特に、光重合開始剤がアシルフォスフィンオキサイド化合物を含む場合、その含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、5〜15質量%であることがより好ましく、7〜13質量%であることがさらに好ましい。含有量が上記の下限値以上であると、硬化性に一層優れる。より具体的に言えば、特にLED(好ましい発光ピーク波長:360nm〜420nm)による硬化の際に十分な硬化速度が得られるため硬化性に一層優れる。一方、含有量が上記の上限値以下であると、光重合開始剤の溶解性に一層優れる。
〔3−5.色材〕
本実施形態におけるインクは、色材を含んでもよい。色材としては、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
(3−5−1.顔料)
色材として顔料を用いることにより、インクの耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21が挙げられる。
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロ-1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブル-1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブル−4、60が挙げられる。
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメント グリーン 7,10、C.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、C.I.ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の顔料を使用する場合、その平均粒子径は300nm以下が好ましく、50〜200nmがより好ましい。平均粒子径が上記の範囲内にあると、インクにおける吐出安定性や分散安定性などの信頼性に一層優れるとともに、優れた画質の画像を形成することができる。ここで、本明細書における平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。
(3−5−2.染料)
色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロ-17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブル−9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロ-1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブル-1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
上記染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
色材の含有量は、優れた隠蔽性及び色再現性が得られるため、インクの総質量(100質量%)に対して、1〜20質量%が好ましい。
〔3−6.分散剤〕
本実施形態におけるインクが顔料を含む場合、顔料分散性をより良好なものとするため、分散剤を含んでもよい。分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤が挙げられる。その具体例として、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、及びエポキシ樹脂のうち一種以上を主成分とするものが挙げられる。高分子分散剤の市販品として、味の素ファインテクノ社製のアジスパーシリーズ(商品名)、アビシア社(Avecia Co.)から入手可能なソルスパーズシリーズ(Solsperse 32000,36000等〔以上、商品名〕)、BYKChemie社製のディスパービックシリーズ(商品名)、楠本化成社製のディスパロンシリーズ(商品名)が挙げられる。
分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、分散剤の含有量は特に制限されず適宜好ましい量を添加すればよい。
〔3−7.その他の添加剤〕
本実施形態におけるインクは、上記に挙げた添加剤以外の添加剤(成分)を含んでもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、蛍光増白剤(増感剤)、シリコーン系などの界面活性剤、重合禁止剤、重合促進剤、浸透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添加剤として、例えば従来公知の、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、pH調整剤、及び増粘剤が挙げられる。
続いて、記録方法に用いられる被記録媒体及び記録方法に含まれる各工程について、詳
細に説明する。
〔3−8.被記録媒体〕
上記の被記録媒体として、例えば、インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体が挙げられる。当該被記録媒体のうち、インク非吸収性の被記録媒体としては、例えば、インクジェット記録用に表面処理していない(すなわち、インク吸収層を形成していない)プラスチックフィルム、紙等の基材上にプラスチックがコーティングされているものやプラスチックフィルムが接着されているもの等が挙げられる。ここでいうプラスチックとしては、ポリ塩化ビニル(塩ビ)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリウレタン(PU)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。インク低吸収性の被記録媒体の例としては、アート紙、コート紙、マット紙等の印刷本紙などが挙げられる。
〔3−9.吐出工程〕
本実施形態における吐出工程は、紫外線硬化型インクを所定範囲の吐出温度でラインヘッドから被記録媒体に向けて吐出するものである。そして、当該吐出温度は30〜40℃である。
上記の30〜40℃という温度は、加温により昇温させた温度としては比較的低温である。このように、吐出されるインクの温度(吐出温度)が比較的低温であると、温度のばらつきが殆どないことからインクの吐出安定性が良好なものとなるという有利な効果が得られる。
ここで、本明細書における吐出温度は、次の方法により測定した値を採用してもよい。吐出ユニット40に設けられたノズルプレートのノズル面に設けた熱電対の温度を印刷開始前にデジタル温度センサ41で測定し、これを吐出温度とする。ただし、当該方法は本発明が採り得る吐出温度の測定方法を何ら限定するものではない。なお、インクを収容したインクカートリッジからヘッドへインクを供給する経路にヒーター81を配置し、ヒーター81で加温したインクを吐出ユニット40に供給することにより、インクを所定の吐出温度とすることができる。
以下、上記の吐出温度についてより具体的に説明する。当該温度が30℃以上であると、吐出安定性が優れたものとなる。これに加えて、30℃未満で吐出可能な紫外線硬化型インクは粘度が非常に低いが、この低粘度に起因して硬化シワが発生しやすくなるという問題が生じる。これに対し、本実施形態におけるインクは当該問題を回避することができる。なお、上記の問題は特に、プリンターの方式がラインプリンターである場合、及び光源が発光ダイオード(LED)である場合に、顕著である。そのため、本実施形態においてラインプリンターやLEDを用いる場合、特に大きな効果がもたらされる。
一方、上記の吐出温度が40℃以下であると、記録装置内の温度上昇を抑制することができる。
また、上記の効果を一層大きなものとし、かつ、上記の問題をより確実に回避するため、上記の吐出温度は34〜40℃が好ましい。
また、上記の吐出温度におけるインクの粘度は、8〜15mPa・sが好ましく、8〜13mPa・sがより好ましい。当該粘度が上記範囲内であると、インクの組成に起因した硬化シワの発生を効果的に抑制でき、かつ、高粘度に起因する吐出の不安定さを防止し吐出安定性に一層優れる。
また、紫外線硬化型インクは、上述したように、通常のインクジェット用インクで使用される水性インクよりも粘度が高いため、吐出時の温度変動による粘度変動が大きい。このようなインクの粘度変動は、液滴サイズの変化及び液滴吐出速度の変化に対して大きな影響を与え、ひいては画質劣化を引き起こし得る。そのため、吐出されるインクの温度(吐出温度)はできるだけ一定に保つことが好ましい。本実施形態におけるインクは、吐出温度が比較的低温であるとともに、加温による温度調節により、吐出温度をほぼ一定に保つことができる。したがって、本実施形態におけるインクは、画質安定性にも優れている。
(3−3−10.硬化工程)
本実施形態の記録方法に含まれる硬化工程は、被記録媒体に付着した紫外線硬化型インクを、照射ユニット90の光源から紫外線(光)が照射されることによって硬化させるものである。本工程において、インクに含まれる光重合開始剤が紫外線の照射により分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進される。あるいは本工程において、紫外線の照射により重合性化合物の重合反応が開始する。このとき、インクにおいて光重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が紫外線を吸収して励起状態となり、光重合開始剤と接触することによって光重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
光源(紫外線源)としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、紫外線硬化型インクの硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV−LED)及び紫外線レーザダイオード(UV−LD)等のLED(発光ダイオード)は小型、高寿命、高効率、及び低コストであり、紫外線硬化型インク用光源として期待されている。
このように、本実施形態における紫外線硬化型インクは、光源がLED及びメタルハライドランプのいずれであっても好適に使用可能であるが、中でもLEDが好ましい。
上記の光源(紫外線源)の発光ピーク波長は、360〜420nmの範囲が好ましく、380〜410nmの範囲がより好ましい。発光ピーク波長が上記範囲内であると、UV−LEDの入手が容易であるとともに安価であることから好適である。
また、上記範囲に発光ピーク波長を有する光源(好ましくはLED)から照射される紫外線のピーク強度(照射ピーク強度)は、好ましくは500mW/cm2以上であり、より好ましくは800mW/cm2以上であり、さらに好ましくは1,000mW/cm2以上である。照射ピーク強度が上記範囲内であると、硬化性に一層優れ、かつ、硬化シワの発生をより効果的に抑制することができる。特に、被記録媒体に吐出したインクを最初に照射する紫外線の照射ピーク強度を上記範囲とすることにより、硬化シワの発生をより効果的に抑制することができる。硬化シワが発生する原理は上述のとおりに推測されるが、照射ピーク強度が上記範囲内であると、塗膜表面の硬化と同時に内部まで硬化させることができ、硬化シワの発生を効果的に抑制することができると推測される。さらに、本実施
形態におけるインクの20℃における粘度が15mPa・s以上であると、硬化シワの発
生をより効果的に抑制することができる。特に、紫外線硬化型インクが上述の一般式(1
)で表されるビニルエーテル基含有(メタ)アクリル酸エステル類を含有し、照射ピーク
強度が上記範囲内であると、硬化性に一層優れ、かつ、硬化シワの発生をさらに効果的に
抑制できる。
なお、本明細書における照射ピーク強度は、紫外線強度計UM-10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(KONICA MINOLTA SENSING,INC.)製)を用いて測定された値を採用する。ただし、これは照射ピーク強度の測定方法を制限するという意味でなく、従来公知の測定方法が利用可能である。
また、本実施形態における紫外線硬化型インクは、200mJ/cm2以下の照射エネルギーを照射することにより硬化可能であることが好ましい。当該紫外線硬化型インクを、本実施形態の記録方法に用いることにより、照射エネルギー量が比較的小さなLEDを用いても硬化が可能となり、LEDの発熱を小さくでき、かつ、低コスト印刷であって大きな印刷速度が実現可能となる。インクを硬化可能な照射エネルギーの下限は、特に制限されるものではないが、100mJ/cm2以上とすればよい。
また、記録を行う際の照射エネルギーは、照射に伴う発熱を抑制するため、600mJ/cm2以下とすることが好ましく、500mJ/cm2以下とすることがより好ましい。記録を行う際の照射エネルギーの下限は、特に制限されるものではないが、十分に硬化させるため、200mJ/cm2以上であるとよい。ここで、上記の記録を行う際の照射エネルギーは、照射が複数回行われる場合には、各照射エネルギーを合計した総照射エネルギーである。
なお、本明細書における照射エネルギーは、照射開始から照射終了までの時間に照射ピーク強度を乗じて算出される。また、照射が複数回に亘って行われる場合、上記の照射エネルギーは、複数回の照射を合計した照射エネルギー量で表される。発光ピーク波長は、上記の好ましい波長範囲内に1つあってもよいし複数あってもよい。複数ある場合であっても上記範囲の発光ピーク波長を有する紫外線の全体の照射エネルギー量を上記の照射エネルギーとする。
このようなインクは、上記波長範囲の紫外線照射により分解する光重合開始剤、及び上記波長範囲の紫外線照射により重合を開始する重合性化合物のうち少なくともいずれかを含むことにより得られる。
また、被記録媒体への、吐出時における単位面積当たりのインクの吐出量(付着量、打ち込み量)は、インクの無駄な使用を防止するため、5〜16mg/インチ2が好ましい。
また、単位面積当たりのインクの吐出量は、記録解像度と、記録解像度で規定される記録単位領域(画素)当たりに打ち込むインク量と、によって変わるが、記録解像度(印刷解像度)を「副走査方向の解像度×副走査方向と交差する方向(主走査方向)の解像度」で表すと、300dpi×300dpi〜1500dpi×1500dpiが好ましい。そして、この記録解像度に応じて、ヘッドのノズル密度及び吐出量を調整することが好ましい。
なお、画素当たりのインクの吐出量は、2〜50ng/画素が好ましく、3〜20ng/画素がより好ましい。また、ノズル密度(ノズル列におけるノズル間距離)は、180〜720dpiが好ましく、300〜720dpiがより好ましい。
このように、本実施形態によれば、硬化性、吐出安定性、及び連続印刷後の記録装置内における温度上昇の抑制のいずれにも優れ、さらに硬化シワの発生も抑制することのできるインクジェット記録方法を提供することができる。さらに言えば、本実施形態の記録方法は、低粘度の紫外線硬化型インクを用いる場合であっても、優れた硬化性及び吐出安定性を確保しつつ、連続印刷後の記録装置内における温度上昇の抑制に優れるものである。
以下、本実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
[使用材料]
実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示すとおりである。
〔重合性化合物〕
・VEEA(アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、日本触媒社(Nippon Shokubai Co., Ltd.)製商品名、単官能の(メタ)アクリレート)・ニューフロンティアPHE(フェノキシエチルアクリレート、第一工業製薬社(Dai-ichi Kogyo Seiyaku Co., Ltd.)製商品名、単官能の(メタ)アクリレート、以下「PEA」と記載した。)・APG-100(ジプロピレングリコールジアクリレート、新中村化学工業社製商品名、2官能の(メタ)アクリレート、以下「DPGDA」と記載した。)・A−DPH(トリプロピレングリコールジアクリレート、2官能の(メタ)アクリレート、新中村化学社(SHIN-NAKAMURA CHEMICAL CO.、LTD.)製商品名)
〔光重合開始剤〕
・DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフ
ィンオキサイド、BASF社製商品名、以下「TPO」と記載した。)
・IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、BASF社製商品名、以下「819」と記載した。)
〔色材〕
・Cyanine Blue KRO(C.I.ピグメントブルー15:3(フタロシアニン顔料)、山陽色素社(SANYO COLOR WORKS, Ltd.)製商品名、顔料粒径80nm、以下「PB15:3」と記載した。)
〔分散剤〕
・Solsperse 32000(アビシア(Avecia)社製商品名、以下「32000」と記載した。)
[紫外線硬化型インク1〜11の調製]
下記表1に記載の各材料を、表1に記載の含有量(単位:質量%)となるように添加し、これを高速水冷式撹拌機で撹拌することにより、紫外線硬化型インク1〜11を得た。なお、各インクの粘度は、上述の粘度設計手法に従って所望の値とした。
[測定・評価項目]
〔1.インクの平均重合性不飽和二重結合当量〕
インクの平均重合性不飽和二重結合当量を上述の数式(2)及び(3)により算出した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を実測値及び下記ランク(基準)に分けて下記表1に示す。
1:100以上150以下であった。
2:100未満であった。
3:150を上回った。
〔2.20℃でのインクの粘度測定(ランク)〕
DVM−E型回転粘度計(東京計器社製)を用いて、上記で調製した各インクの粘度を、20℃及び回転数10rpmの条件下で測定した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記表1に示す。
1:15mPa・s未満であった。
2:15mPa・s以上25mPa・s以下であった。
3:25mPa・sを上回った。
〔3.インクの硬化性評価〕
PETフィルム(PET50(K2411)PA−T1 8LK〔商品名〕、リンテッ
ク社(Lintec Corporation)製)上に、バーコーターを用いて上記で調製した各インクを
塗布し、膜厚10μmの塗膜をそれぞれ得た。そして、紫外線照射装置(UV−LED)
から、照射強度が1,000mW/cm
2
であり、且つピーク波長が395nmである紫
外線を所定時間照射して上記の各塗膜を硬化させた。なお、指触試験により画像(塗膜表
面)のタック感がなくなった時点で硬化したものと判断した。
評価は、硬化の際に要した紫外線の照射エネルギーを算出することにより行った。照射
エネルギー[mJ/cm2]は、光源から照射される被照射表面における照射強度[mW/cm2]を測定し、これと照射継続時間[s]との積から求めた。照射強度の測定は、紫外線強度計UM-10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(KONICA MINOLTA SENSING,INC.)製)を用いて行った。 評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記表1に示す。
A:積算光量200mJ/cm2以下の照射エネルギーで硬化した。
B:積算光量200mJ/cm2を超える照射エネルギーで硬化した。
〔4.インクの保存安定性評価〕
上記「2.」で粘度測定した各インクを50mL容のガラス瓶に入れ、密栓した後に60℃の恒温槽内に投入して1週間保存した。その後、室温まで温度を下げた各インクについて、上記「2.」と同様の方法で粘度測定した。そして、保存前後の増粘率(保存前のインクの粘度に対する保存後のインクの粘度の割合)により、保存安定性を評価した。 評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記表1に示す。
A:増粘率が5%未満であった。
B:増粘率が5%以上であった。
なお、紫外線硬化型インク1〜4,9は実施例として使用できるインクに相当し、紫外線硬化型インク5〜8,10,11は比較例に用いられるインクに相当する。
以下、各実施例及び各比較例における記録方法について説明する。
[実施例1]
図2に示す、被記録媒体Sの画像が記録されるべき幅(被記録幅)にほぼ相当する長さを有し4個の吐出ユニットを幅方向に並べて構成されるラインヘッドを備えるラインプリンターを使用した。なお、図2に示す吐出ユニット及び照射ユニットうち、ラインヘッド40C、仮硬化用照射部91C及び本硬化用照射部92を使用し、その他のものは使用しなかった。
搬送ドラム26はアルミニウム製とし、搬送ドラム26の直径を500mm、印刷速度を285mm/s、ドラム回転周期を5.5sとした。
ノズル密度を600dpiとしたラインヘッド40Cから、上記PETフィルム(PET50(K2411)PA−T1 8LK)に向けて、記録解像度600dpi×600dpi及び1パス(シングルパス)の条件で、表2に示すインク1を10分間連続で吐出した(10分間の連続印刷を行った)。硬化後の膜厚が11μmとなるよう、画素当たりのインク滴量を調整した。本実施例1のインク滴量は7ngであった。このようにしてベタパターン画像を形成した。なお、当該ベタパターン画像とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録した画像を意味する。
上記吐出時の温度は、表2中「吐出温度」欄に示す35℃とした。ここで、吐出温度は次の方法により測定した。ラインヘッド40Cへインクを供給する経路にヒーター81を配置し、所定温度に加温したインクをラインヘッド40Cに供給した。ラインヘッド40Cのノズル面に設けた熱電対の温度をデジタル温度センサ41を用いて印刷開始前に測定し、これを吐出温度とした。ノズル面(ノズルプレート)はステンレス製とした。
続いて、PETフィルムに付着したインクに光源から紫外線を照射し、インクを硬化させた。具体的には、まず仮硬化用照射部91Cとして、ピーク波長395nm及び照射ピーク強度500mW/cm2のLEDを用いた。当該LEDから、照射エネルギーが20mJ/cm2である紫外線を照射し、仮硬化を行った。また、本硬化用照射部92として、ピーク波長395nm及び照射ピーク強度1,500mW/cm2のLEDを用いた。当該LEDから、照射エネルギーが400mJ/cm2である紫外線を所定時間照射してベタパターン画像を硬化させた。このようにして、上記ベタパターン画像が硬化した記録物を得た。なお、指触試験により画像(塗膜表面)のタック感がなくなったことを確認した。
[実施例2〜7,比較例1〜12]
使用したインク及び吐出温度を、それぞれ下記の表2及び表3に記載したものとした点以外は、実施例1と同様にして記録物を得た。
[実施例8]
搬送ドラム26の直径を318mmとしてドラム回転周期を3.5sとした点以外は、実施例1と同様にして記録物を得た(印刷速度は実施例1と同じ値である。)。
[実施例9]
仮硬化用照射部91Cの光源にLEDの代わりにメタルハライドランプ(表2では「メタハラ」と略記した。)を配置した点以外は、実施例1と同様にして記録物を得た。
[実施例10]
ラインプリンターに替えて、光源としてピーク強度500mW/cm2のLEDをキャリッジの横に搭載したシリアルプリンターを用いた点以外は、実施例1と同様にして記録を行った。用いたシリアルプリンターは、特開2010-167677号の図2に記載のインクジェットプリンターである。インク1をヘッド(シリアルヘッド)のノズル列に充填した。ヘッドのノズル密度を300dpiとし、液滴重量を7ngとし、記録解像度を600dpi×600dpi(但し、1パス当たりの記録解像度を300dpi×300dpi)として、吐出温度35℃の条件で、上記PETフィルムの同一被記録領域へのドットの形成を4パス(主走査方向2パス×副走査方向2パス)行った。このようにして膜厚11μmのベタパターン画像を印刷した。
プリンターのキャリッジには上記ラインプリンターに搭載した仮硬化用照射部91Cと同じLEDを、ヘッドの副走査方向の長さと同じ長さ分設けた。1回のパス当たりの照射エネルギーを40mJ/cm2として、パスごとに仮硬化を行った。プリンターのキャリッジよりも記録媒体の搬送方向下流に上記ラインプリンターに搭載した本硬化用照射部92と同じLEDを、被記録媒体の幅と同じ長さ分、幅方向に設け、照射エネルギーが400mJ/cm2である紫外線を所定時間照射して、キャリッジよりも被記録媒体の搬送方向下流側に搬送されてきた被記録媒体のベタパターン画像を硬化させた。このようにして、上記ベタパターン画像が硬化した記録物を得た。なお、実施例1と同様、指触試験により画像(塗膜表面)のタック感がなくなったことを確認した。
[測定・評価項目]
〔5.吐出安定性評価〕
300個のノズルから、下記の表2及び表3に示す番号のインクを用いて10分間連続印刷を行った(10分間連続で吐出させた。)。印刷開始前に、ノズルから皿にインクを500滴吐出させて1滴当たりの吐出量(質量)を測定し、印刷終了後直ちに、印刷開始前と同様にして1滴当たりの吐出量(質量)を測定した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記の表2及び表3に示す。
A:連続印刷中、不吐出ノズルは無かった。印刷開始前のインク滴当たりの吐出量に対する印刷終了後の吐出量の質量の変化が5%以下であった。
B:連続印刷中、不吐出ノズルは無かった。印刷開始前のインク滴当たりの吐出量に対する印刷終了後の吐出量の質量の変化が5%を上回った。
C:連続印刷中、不吐出ノズルがあった。
なお、以下の項目「6.」及び「7.」はいずれも連続印刷後の記録装置内における温度上昇に関する評価であるが、記録装置内の複数個所で当該評価を行うことにより、評価結果の信頼性を高めるものである。そこで、当該記録装置内の複数個所として、ヘッド側であるノズルプレートのノズル面と被記録媒体側であるドラムとを選んだ。
〔6.連続印刷後のヘッドのノズル面における温度上昇評価〕
印刷開始前に、ノズルプレートのノズル面に設けた熱電対の温度をデジタル温度センサ41を用いて測定した。それから10分間連続印刷を行い、連続印刷後に当該熱電対の温度を測定した。そして、印刷開始前の温度及び連続印刷後の温度の差を、連続印刷後のヘッドのノズル面における温度上昇として評価した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記の表2及び表3に示す。なお、表では
「連続印刷後のノズル面温度上昇」と略記した。
A:10℃未満であった。
B:10℃以上15℃未満であった。
C:15℃以上であった。
〔7.連続印刷後のドラムにおける温度上昇評価〕
実施例10を除く各実施例及び各比較例は、次のようにして評価を行った。搬送ドラム26の表面のうちラインヘッドと対向し得る位置の表面温度を印刷開始前に測定した。それから10分間連続印刷を行い、印刷開始前と同様に、ラインヘッドと対向し得る搬送ドラム26の表面温度を連続印刷後に測定した。そして、印刷開始前の表面温度及び連続印刷後の表面温度の差を、連続印刷後の搬送ドラム26における温度上昇として評価した。
一方、実施例10は、ラインヘッドと対向し得る位置にある、搬送ドラム26でなくプラテンの表面温度を、印刷開始前及び連続印刷後に測定した点以外は、上記各実施例及び各比較例と同様にして評価した。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記の表2及び表3に示す。なお、表では「連続印刷後のドラム温度上昇」と略記した。また、実施例10の「連続印刷後のドラム温度上昇」は、正確に言えば、連続印刷後のプラテン温度上昇である。
A:10℃未満であった。
B:10℃以上15℃未満であった。
C:15℃以上であった。
〔8.硬化シワ評価〕
上記の各実施例及び各比較例で得られた記録物について、目視で硬化膜(硬化した塗膜)の表面を観察した。評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記の表2及び表3に示す。
A:シワが全く発生していなかった。
B:シワが硬化膜の一部の領域で発生していた。
C:シワが硬化膜の表面の全体に発生していた。
以上の結果より、20℃における粘度が25mPa・s以下であり、かつ、平均重合性
不飽和二重結合当量が100〜150である紫外線硬化型インクを、吐出温度が30〜40℃の状態で、ヘッドから被記録媒体に向けて吐出する吐出工程と、被記録媒体に付着したインクを、光源から紫外線を照射して硬化させる硬化工程と、を含むインクジェット記録方法(各実施例)は、そうでない記録方法(各比較例)に比して、硬化性、吐出安定性、及び連続印刷後の温度上昇の抑制のいずれにも優れ、さらに硬化シワの発生も抑制可能であることが分かった。以下、実施例及び比較例ごとに考察を行うが、以下の考察は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
まず、紫外線硬化型インクの20℃における粘度が25mPa・s以下である場合、硬化性に優れた。また、紫外線硬化型インクの平均重合性不飽和二重結合当量が100以上である場合、インクの保存安定性に優れた。さらに、当該当量が150以下である場合、硬化性に優れた。なお、当該当量が150以下である場合、インクの硬化性に優れるため、複数色のインクを用いて行う実際の印刷の際には、インク同士の混色を防止するための最小限の硬化に必要となる、仮硬化用照射部91Cの光源からの照射エネルギーをより小さくでき、光源からの照射及び光源の発熱に起因して、搬送ドラム26の温度が上昇することも低減でき、本発明において好ましいものと推測される。
また、紫外線硬化型インクの平均重合性不飽和二重結合当量が100を下回るか、又は吐出温度が40℃を上回る場合、連続印刷後のヘッドのノズル面における温度上昇及び連続印刷後の搬送ドラムにおける温度上昇が顕著であった。より詳しく言えば、平均重合性不飽和二重結合当量が100を下回ると、硬化時の反応熱量が大きいため連続印刷後の記録装置内において温度が大幅に上昇したものと推測される。
連続印刷後の搬送ドラムにおいて温度が大幅に上昇すると、被記録媒体が熱で変形する場合があるため、得られる記録物の品質が劣るという問題が生じる。一方、連続印刷後のヘッドのノズル面において温度が大幅に上昇すると、吐出量の変化が大きくなるため、画像安定性を悪化させるという問題が生じる。これに対し、各実施例によれば、連続印刷後の搬送ドラム及びノズル面の双方における温度上昇を効果的に抑制できるため、上記の問題が生じない。
また、実施例8より、ドラム回転周期(s)をより短くした場合、特に連続印刷後の搬送ドラムにおいて温度が、他の実施例に比して一層上昇した。
また、実施例9より、硬化用光源としてLEDに替えてメタルハライドランプを用いた場合、LEDを用いた場合と比べて、連続印刷後の搬送ドラムの温度上昇が大きかった。これは、メタルハライドランプの発熱によりドラムの温度上昇幅が大きかったためと推測される。光源としてメタルハライドランプを用いると、発熱によるドラム温度上昇により被記録媒体が熱で変形する可能性があることや、LEDと比べて大型の光源であるため設置スペースが必要となることがある。つまり、LEDを用いることは、連続印刷後の搬送ドラムにおける温度上昇を効果的に抑制できるため好ましく、さらに低発熱及び省スペースの記録装置とできる点でも好ましい。
また、実施例10より、ラインプリンターでなくシリアルプリンターを用いた場合、ラインプリンターと比べて温度上昇は少なかったものの、記録速度がより小さくなった。つまり、本発明の記録方法によれば、ラインプリンターにより高速印刷を行う場合であっても、硬化シワの発生を効果的に抑制可能な記録を行うことができると推測される。
なお、実施例として示していないが、仮硬化用照射部91Cの光源のLEDの照射ピーク強度を高くするほど、硬化シワを効果的に抑制することができた。特に、被記録媒体に向けて吐出され付着したインクを最初に照射する光源の照射ピーク強度を、好ましくは500mW/cm2以上、より好ましくは800mW/cm2以上とすることにより、硬化シワを一層効果的に抑制することができた。
また、実施例として示していないが、ドラムの軸側以外、即ちドラムの表面側のドラム半径の半分の材質を、アルミニウム製でなくゴム製とした点以外は、実施例1と同様にして行ったところ、長期使用(6か月)に伴いヒビ割れが生じた。これは、ゴム製ドラムの表面が熱によって劣化したことに起因するものと推測される。したがって、搬送ドラムの材質は金属が好ましいと推測される。
<4.変形例>
本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に述べる各種の変形例が可能である。また、各変形例は、変形例同士を適宜組み合わせてもよく、更に、上述した各実施形態と適宜組み合わせてもよい。
(1)上述した各実施形態では、液体吐出装置の一例としてインクジェットプリンター1を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の液体吐出装置に、本実施形態と同様の技術を適用しても良い。また、これらの方法や製造方法も応用範囲の範疇である。
(2)上述した各実施形態では、インクを吐出ユニット40から吐出していた。しかし、吐出ユニット40から吐出する液体は、このようなインクに限られるものではない。例え
ば、金属材料、有機材料(特に高分子材料)、磁性材料、導電性材料、配線材料、成膜材
料、電子インク、加工液、遺伝子溶液などを含む液体(水も含む)をノズルから吐出して
も良い。
(3)上述した実施形態では、圧電素子を用いてインクを吐出していた。しかし、液体を吐出する方式は、これに限られるものではない。例えば、熱によりノズル内に泡を発生させる方式など、他の方式を用いてもよい。
(4)上述した実施形態では、温調ユニット80にはヒーター81が設けられていた。但し、これに限られるものではなく、クーラーが設けられていてもよい。要するに、温調ユニット80は、インクの温度を調整できるものであればよい。
(5)上述した実施形態では、各吐出ユニット40にそれぞれデジタル温度センサ41が設けられており、吐出ユニット40の温度を直接的に検出していた。しかし、デジタル温度センサ41を設ける場所は、吐出ユニット40に限られるものではない。例えば、供給路にデジタル温度センサ41を設け、供給路のインクの温度を検出しても良い。これによって、出ユニット40の温度を間接的に検出することができる。そして、コントローラー60がデジタル温度センサ41の検出結果に基づいて駆動信号COMの波形を吐出ユニット40毎に変更すれば、インク滴の吐出ユニット40間ばらつきを抑えることができる。
また、デジタル温度センサ41の替わりに、枝供給路311A〜311Dに流れるインクの流量(言い換えると、吐出ユニットに供給されるインクの流量)に基づいて、ヘッドでのインクの温度を間背的に算出してもよい。
(6)次に、吐出ユニット40の他の例について説明する。図12に示す吐出ユニット40Xは、圧電素子200の駆動により振動板262が振動し、キャビティ258内のインク(液体)がノズル253から吐出するものである。ノズル(孔)253が形成されたステンレス鋼製のノズルプレート252には、ステンレス鋼製の金属プレート254が接着フィルム255を介して接合されており、さらにその上に同様のステンレス鋼製の金属プレート254が接着フィルム255を介して接合されている。そして、その上には、連通口形成プレート256およびキャビティプレート257が順次接合されている。
ノズルプレート252、金属プレート254、接着フィルム255、連通口形成プレート256及びキャビティプレート257は、それぞれ所定の形状(凹部が形成されるような形状)に成形され、これらを重ねることにより、キャビティ258およびリザーバ259が形成される。キャビティ258とリザーバ259とは、インク供給口260を介して連通している。また、リザーバ259は、インク取り入れ口261に連通している。
キャビティプレート257の上面開口部には、振動板262が設置され、この振動板262には、下部電極263を介して圧電素子200が接合されている。また、圧電素子200の下部電極263と反対側には、上部電極264が接合されている。駆動信号COMが、上部電極264と下部電極263との間に印加(供給)されることにより、圧電素子200が振動し、それに接合された振動板262が振動する。この振動板262の振動によりキャビティ258の容積(キャビティ内の圧力)が変化し、キャビティ258内に充填されたインク(液体)がノズル253より液滴として吐出する。
液滴の吐出によりキャビティ258内で減少した液量は、リザーバ259からインクが供給されて補給される。また、リザーバ259へは、インク取り入れ口261からインクが供給される。
(7)上述した実施形態では、全てのデジタル温度センサ41-1〜41-nで検出された各温度データをコントローラー60で取得した後、コントローラー60は波形データDw1〜Dwnを生成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、一つのデジタル温度センサ41-1から温度データを取得し、温度に応じた波形データDw1を生成し、その後、他のデジタル温度センサ41-2から温度データを取得し、温度に応じた波形データDw2を生成してもよい。この場合は、温度データを取得したら、直ちに、波形データを生成するので、温度変化に対する応答性を高めることが可能となる。
(8)上述した実施形態では、伝送路100を介した通信方式として双方向通信が可能なI2C方式を一例として説明したが本発明はこれに限定されるものではなく、1つの伝送路を用いて、各デジタル温度センサ41-1〜41-nで検出された温度データを排他的に伝送するのであれば、どのような方式であってもよい。例えば、n個のデジタル温度センサ41-1〜41-nにおいて、予め温度データを送信する順番を定めておき、定められた順番で温度データを送信するようにしてもよい。