JP6249581B1 - 糖質分解酵素阻害剤の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】食経験が豊富で安全性の高い天然物由来の糖質分解酵素阻害剤、その製造方法、及びその含有物を提供する。【解決手段】ミミズ又はその破砕物、或いは、ミミズ又はその破砕物の乾燥粉末を原料にして糖質分解酵素阻害剤を得る。ミミズ抽出液を得る抽出工程と、そのミミズ粉末抽出物に由来する分子質量3kDa未満の画分を得る分画工程とを実行して糖質分解酵素阻害剤を得る。阻害の対象となる所定の糖質分解酵素が、α−アミラーゼ、α−グルコシダーゼから選択される少なくとも1つである。【選択図】なし

Description

本発明は、所定の糖質分解酵素に対して活性阻害効果を有する糖質分解酵素阻害剤の製造方法に関する。
厚生労働省の調査によると、近年、糖尿病であることが強く疑われる日本人成人男女は約950万人に上り、糖尿病の可能性を否定できない者も約1100万人に上る(非特許文献1)。また、実際に治療を受けている患者数は約317万人、年間医療費は約1.2兆円に達することが報告されており、国民健康面、医療財政面において大きな問題となっている(非特許文献2、非特許文献3)。
糖尿病は、インスリン生産が不足する、あるいはインスリンの働きが低下することによって起こる疾患であり、血糖値が上昇し、尿にも糖が出るという症状を呈する。インスリンは、膵臓のβ細胞で産生、分泌されるホルモンであり、全身の臓器においてグルコースを血中から取り込み血糖を低下させる働きを促進するほか、肝臓や筋肉でのグルコースからグリコーゲンへの合成促進、肝臓でのグリコーゲンからグルコースへの分解抑制など、多くの重要な役割を果たしている(非特許文献4)。糖尿病患者においては、インスリン不全による高血糖状態が継続することで、血管の細胞に損傷が蓄積し動脈硬化が進行する上、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害といった重篤な合併症を引き起こすことが知られている(非特許文献5)。
糖尿病は、過食、運動不足、肥満、ストレス、遺伝的要因などがその主な原因とされており、I型糖尿病とII型糖尿病に大別される。I型糖尿病は、膵臓β細胞の障害により絶対的にインスリンが不足し、治療にはインスリン注射を必要とする。一方、II型糖尿病は、インスリン生産量の低下や、インスリン耐性により相対的にインスリンが不足するもので、治療には食事療法、運動療法や薬物療法が行われる。日本人においては糖尿病患者の95%がII型糖尿病であるとされる(非特許文献5)。
食事で摂取した糖の消化、吸収においては、糖分解酵素が重要な働きを担っている。例えばデンプンは、はじめに口腔内で唾液のα−アミラーゼ(以下、唾液アミラーゼ)により一部が切断された後、小腸で膵臓のα−アミラーゼ(以下、膵アミラーゼ)によりマルトースにまで分解され、さらにマルターゼによりグルコースへと分解される。産物のグルコースは糖輸送体を介して小腸上皮細胞へと取り込まれ、さらに血管内へと輸送される(非特許文献6)。
アミラーゼは広義にはデンプンを加水分解する酵素の総称であり、糖鎖を不特定の部位で切断するエンド型の酵素と、糖鎖の非還元末端から一定数のグルコース単位を切断するエキソ型の酵素に分類される。α−アミラーゼ(酵素番号EC 3.2.1.1)は糖鎖のα1→4グルコシド結合のみを加水分解するエンド型の酵素であり、ヒトではさらにアイソザイムとして唾液アミラーゼと膵アミラーゼが知られている(非特許文献6)。これらのアイソザイムはDNA配列において非常に高い相同性を持ち、アミノ酸配列でも90%以上が同一であり、酵素としての性質もきわめてよく似ている(非特許文献7)。実際、これらのアイソザイムはヒトの血清や尿中にも共通して観察される。また、α−アミラーゼは動物、植物、微生物と広範な生物において見出され、ミミズにおいても存在が報告されている(非特許文献8)。
α−アミラーゼをはじめとする糖分解酵素の作用様式については、上述のエンド型、エキソ型の区分のほか、切断するグルコシド結合の種類による区分、最終生成物の種類による区分、直鎖状基質の重合度と分解速度の関係による区分、基質オリゴ糖の切断位置の違いによる区分など複数の観点から分類される。このような複雑な作用様式の差は各酵素の立体構造に由来するものであるが、グルコシド結合を切断する活性部位を含めた前後の構造に、サブサイトと呼ばれる糖結合部位の構成単位を想定することで、先行して理論的な解釈がなされた(非特許文献9)。その後、X線結晶構造解析から多くの酵素の機能がサブサイト構造と関連付けて明らかにされており、例えばヒトの唾液型α−アミラーゼにおいては496アミノ酸、3つのドメインからなり、ドメインAの深い割れ目構造に −4から +3までのサブサイトを持つこと(基質となる糖鎖は −1と +1の間で切断される)、活性の発現にはサブサイト −2のトリプトファン残基が重要であることが報告されている(非特許文献10)。
エキソ型アミラーゼは、デンプンやアミロースの非還元性末端から特定数のグルコース単位を切り離していく。エキソ型アミラーゼは、切り離すグルコース単位の鎖長にしたがってさらに分類される。1個のグルコース単位ずつ切り離す酵素はグルコアミラーゼ(酵素番号EC3.2.1.3);2個のグルコース単位ずつ(すなわち、マルトース単位で)切り離す酵素はβ−アミラーゼ(EC3.2.1.2);3個のグルコース単位ずつ(すなわち、マルトトリオース単位で)切り離す酵素はエキソ‐イソマルトトリオヒドロラーゼ(EC3.2.1.95);4個のグルコース単位ずつ(すなわち、マルトテトラオース単位で)切り離す酵素はエキソ‐イソマルトテトラオヒドロラーゼ(EC3.2.1.60);5個のグルコース単位ずつ(すなわち、マルトヘキサオース単位で)切り離す酵素はエキソ‐イソマルトヘキサオヒドロラーゼ(EC3.2.1.98)と呼ばれる。また、エンド型アミラーゼには、α1→4グルコシド結合のみを加水分解するα−アミラーゼ(EC3.2.1.1)のほかに、α1→6グルコシド結合を選択的に加水分解するプルラナーゼ(EC3.2.1.41) やイソアミラーゼ(EC3.2.1.68) がある(非特許文献6)。
マルターゼ、すなわちα−グルコシダーゼは、糖鎖の非還元末端に存在するα−D−グルコシド結合を加水分解するエキソグリコシダーゼの総称であるが、狭義にはα−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.20)のことを言い、マルトース、アミロース、及びそのオリゴ糖を基質とする(非特許文献11)。この他に広義のα−グルコシダーゼには、スクロースをグルコースとフルクトースに分解するスクラーゼや、ラクト―スをグルコースとガラクト―スに分解するラクターゼ、イソマルトースや低分子α1→6グルコシド結合を切断するイソマルターゼといった酵素が含まれる。フェニル‐α−D−グルコシドやp−ニトロフェニル−α−D−グルコシドも加水分解し、これを利用して酵素活性測定が行われることが多い(非特許文献11)。以上の通り、エンド型アミラーゼもエキソ型アミラーゼも、標的となるα−D−グルコシド結合を加水分解する酵素であり、標的の選択制に違いがあるが、基本的な作用機構は同じであると考えてよい。
他方、糖輸送体タンパク質は、生体膜を横切って糖の輸送を行うタンパク質の総称であり、その輸送様式からグルコース輸送体(GLUT)ファミリーとナトリウム・グルコース共役輸送体(SGLT)ファミリーが知られている。前者はグルコースをその濃度勾配に従って取り込む促進拡散系の輸送体であり、後者はナトリウムイオンの細胞内外の濃度勾配を利用して、ナトリウムの輸送と同時にグルコースをグルコース濃度勾配に逆らって取り込む能動輸送系の輸送体である(非特許文献12)。小腸においては絨毛細胞に発現するSGLT1がグルコースの細胞内への取り込みに主要な役割を果たしているほか、GLUT5がフルクトースの取り込みに寄与している。また、グルコースに対する親和性が低いものの多量に存在するGLUT2がグルコースの血中移行に寄与している(非特許文献13)。
これまでに、上述した糖質分解酵素の阻害剤や糖輸送体の阻害剤が、糖尿病の治療薬として開発され用いられてきた。種々のα−グルコシダーゼ阻害剤が食後血糖値上昇を抑制する糖尿病治療薬として用いられている。デオキシノジリマイシン(1−deoxynojirimycin)はα−グルコシダーゼおよびβ‐グルコシダーゼの阻害剤であり、それぞれに対するIC50値は12.6μMおよび47μMである(非特許文献14)。
また、アカルボース、ミグリトール、ボグリボースが広く用いられている。アカルボースは直鎖四糖状の構造をしており、α−グルコシダーゼとともにα−アミラーゼに対しても阻害効果を示す。ボグリボースとミグリトールは単糖に類似した構造をしている。これらは、アカルボースにくらべると、α−グリコシダーゼに対する阻害効果が強い(非特許文献15、非特許文献16)。ボグリボースに関して述べると、ブタ小腸マルターゼとスクラーゼに対して、アルカボースよりそれぞれ20倍および30倍強い阻害効果を示し、ラット小腸マルターゼとスクラーゼに対してはそれぞれ270倍および190倍強い阻害を示す。一方、ブタおよびラットの膵アミラーゼに対する阻害効果は、アカルボースの1/3000である。ボグリボースはα−アミラーゼよりもα−グルコシダーゼに対し選択性が高いが、α−グルコシダーゼに対するIC50値は10μMないし1nMである(非特許文献14、非特許文献15、非特許文献16)。これらの医薬品は、α−グルコシダーゼ活性を阻害することで小腸からのグルコースの取り込みを抑制するが、直接的に血糖値を低下させるわけではない。また、糖の分解を強く阻害しすぎた場合、腹部の張りや低血糖症状などの副作用が起こることが報告されている。
一方、糖輸送体に対しては、腎臓において発現し近位尿細管でのグルコース再吸収に中心的な役割を持つナトリウム・グルコース共役輸送体(SGLT2)を阻害する医薬品として、カナグリフロジンやイプラグリフロジンなどが知られている。これらは尿から再吸収されるグルコース量を低下させるものであるが、腎臓で作用する為、その薬物動態に注意が必要なほか、多尿や低血糖といった副作用が報告されている。
また、こうした現況のもと、野菜や海草、草木、微生物などの天然物から、経口摂取が可能なα−アミラーゼやα−グルコシダーゼに対する阻害成分を探索する試みが数多くなされている。
例えばコムギ(特許文献1)、ソバ(特許文献2)、チャ(特許文献3)、マイタケ(特許文献4)、オリーブ葉(特許文献5)、インゲン豆(非特許文献17)などからα−アミラーゼ阻害効果が、クルミ(特許文献6)、アマノリ(特許文献7)、ウメ(特許文献8)、焼酎もろみ(特許文献9)、桑葉(非特許文献18)、サラシア属植物(非特許文献18)などからα−グルコシダーゼ阻害効果が見出されており、α−アミラーゼとα−グルコシダーゼの双方に阻害効果を持つものも複数報告されている。微生物由来化合物からも阻害剤に関する多くの報告がある。例として、α−グルコシダーゼ阻害剤であるノジリマイシン(nojirimycin)やα−アミラーゼ阻害剤のS−AIなどのようなオリゴ糖を成分とするものと、タンパク質を成分とするものを上げることができる(非特許文献19)。
これらの阻害効果を示す成分には、その性質や構造が明らかにされているものもあり、例えば特許文献7のアマノリでは硫酸化された糖を含む構造であるポルフィランが、特許文献3のチャや特許文献5のオリーブ葉ではフラボン、フラボノールといったフラボノイドやその配糖体を含むポリフェノール化合物が、桑葉では1−デオキシノジリマイシンが、サラシア属植物ではサラシノールおよびコタラノールが含まれる。サラシノールとコタラノールは、活性発現にスルホニウム硫酸分子内塩構造が必要であり、市販のα−グルコシダーゼ阻害剤アカルボースと同程度の活性を示す(非特許文献18)。また、特許文献1および非特許文献17では、それぞれコムギおよびインゲン豆のタンパク質(分子質量3,500Da以上)が、特許文献10ではジャガイモのタンパク質を分解して得たペプチドが、それぞれ阻害効果を示す成分として挙げられている。
ミミズは環形動物門貧毛綱に分類されるひも状の生物であり、主に土壌中に生息して有機物を摂食し、消化吸収と排泄を通じて、土壌中の有機物を分解する役割を担っている。この点で、ミミズは土壌の耕起を促すとともに、植物が利用可能な有機物を土壌中にもたらしており、農業に必須の存在である。ミミズは食物連鎖の下層に位置し、自然界では、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類などの幅広い生物によって捕食されている。また、魚やニワトリのエサとしても利用されてきたし、人類においても各地で食用の記録がある。東洋では解熱、鎮痛、利尿、血流促進などの目的で漢方薬としても長く利用されてきた。このようにミミズには安全性に足る十分な食経験があり、ミミズ乾燥粉末を用いた健康食品も生産されている(特許文献11、特許文献12)。
これまでに、ミミズの体腔液や破砕液、及びこれらから製造されたミミズ乾燥粉末から、上述したアミラーゼ活性(非特許文献8)の他、セルラーゼ活性(非特許文献20)、リパーゼ活性(非特許文献21)、ウロキナーゼ様活性や組織プラスミノーゲンアクチベーター(t−PA)様活性などの複数のプロテアーゼ活性(非特許文献22、非特許文献23)が見出されている。さらに、ミミズ破砕液のアセトン沈殿画分からエラスターゼ阻害活性、マトリクスメタロプロテイナーゼ阻害活性及びチロシナーゼ阻害活性(非特許文献24)、ミミズ乾燥粉末抽出液の10kDa未満の低分子画分からジぺプチジルペプチダーゼIV阻害活性(特許文献13)、同じく5kDa以下の低分子画分からアンジオテンシン変換酵素阻害活性(特許文献14)が報告されている。本発明者らは最近、ミミズ抽出液の3kDa以下の画分が、トリプシン、キモトリプシン、リパーゼなどの酵素活性を促進する物質を含有することを示している(特願2017−076108;酵素活性促進剤の製造方法及び酵素活性促進剤の含有物)。しかしながら、これまでミミズ成分におけるα−アミラーゼ阻害活性やα−グルコシダーゼ阻害活性についての報告はない。
特開2014−51473号公報 特開2005−220110号公報 特開2010−222277号公報 特開2000−319192号公報 特開2002−10753号公報 特開2004−352649号公報 特開2006−104100号公報 特許第4403457号公報 国際公開第2008/090999号公報 特開平10−292000号公報 特許第5548931号公報 特開2015−48353号公報 特許第5901092号公報 特開2015−168631号公報
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本発明の主たる課題は、糖質分解酵素とりわけα−アミラーゼ及びα−グルコシダーゼの活性阻害効果を有する、食経験が豊富で安全性の高い天然物由来の糖質分解酵素阻害剤の製造方法を提供することであり、さらに糖尿病や肥満の予防、改善に有効な食品、医薬品等としての提供を可能にする点にある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の第1特徴構成は、所定の糖質分解酵素に対して活性阻害効果を有する糖質分解酵素阻害剤の製造方法であって、前記所定の糖質分解酵素の1つが、α−グルコシダーゼあり、ミミズ又はその破砕物、或いは、ミミズ又はその破砕物の乾燥粉末を原料にして水を加えてミミズ抽出液を得る抽出工程と、そのミミズ抽出液に由来する分子質量3kDa未満の抽出液3kDa未満画分を得る分画工程とを実行して前記糖質分解酵素阻害剤を得ることを特徴とするものである。
本発明の第2特徴構成は、前記所定の糖質分解酵素の1つが、α−アミラーゼであることを特徴とするものである。
本構成によれば、ミミズには豊富な食経験があり、安全性の高い天然由来原料であることから、小腸での糖分解酵素活性とりわけα−アミラーゼ活性やα−グルコシダーゼ活性を阻害することにより糖の消化吸収を抑える効果を持つ、糖尿病、肥満、メタボリックシンドロームといった生活習慣病の予防、改善に有効な医薬品、健康食品、サプリメント等としての応用が期待できる。また、対象はヒトに限定されることなく、近年ヒト同様に生活習慣病様の疾病が問題となっている、イヌやネコなどの愛玩哺乳動物やウシ、ウマ、ブタなどの家畜に対する、医薬品や健康改善目的のペットフードとしての応用も考えられる。原料となるミミズは容易に繁殖させることができ、生産性の上でも利点がある。
また、本構成によれば、ミミズ抽出液のうち、分子質量3kDa未満の画分である抽出液3kDa未満画分を得る分画工程により、ミミズ抽出液のうち分子質量3kDa以上の高分子質量画分を除去することができる。
上述のように、ミミズ自体にはα−アミラーゼ活性を持つ酵素成分が含まれることが報告されているため、本発明の糖質分解酵素阻害剤からミミズ由来のα−アミラーゼを排除する目的においても、当該分画工程は重要な意味を持つ。
さらに、得られた分子質量3kDa未満の抽出液3kDa未満画分に凍結乾燥処理等の濃縮操作を加えることにより、当該画分に含まれるα−アミラーゼ活性阻害効果やα−グルコシダーゼ活性阻害効果を持つ糖質分解酵素阻害剤を高濃度で得ることができる。凍結乾燥処理粉末は保存性、加工性の点でも優位である。
本発明の第特徴構成は、前記分画工程により回収した抽出液3kDa未満画分に、凍結融解処理、酸処理、加熱処理、有機溶媒処理から選択される少なくとも1つを実行して、前記糖質分解酵素阻害剤を得ることを特徴とするものである。
本構成によれば、上記凍結融解処理を行うことにより、凍結融解に弱い成分を変性させ除去することができる。また凍結中は本発明の糖分解酵素阻害剤を安定に長期保存することも期待できる。また、上記酸処理を行うことにより、酸に弱い成分を変性させ除去することができる。また、上記加熱処理を行うことにより、熱に弱い成分を変性させ除去することができる。加えて熱による殺菌効果も期待できる。また、上記有機溶媒処理を行うことにより、有機層に移行する成分及び界面に移行する成分を除去することができる。各処理の後には、遠心分離等の分離操作を行い、変性した成分を容易に取り除くことができる。そしてこれらの処理は単独で実行するだけでなく、複数組み合わせて実行してもよく、より純度の高い糖質分解酵素阻害剤を得ることができる。
本発明により、食経験が豊富で安全性の高い天然物由来の糖質分解酵素阻害剤の製造方法を提供することができる。また、糖尿病や肥満の予防、改善に有効な食品、医薬品等としての提供が可能となる。
実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を種々の濃度となるように調製し、α−アミラーゼ溶液に加えたときに観測される生成物量(405nmの吸光度)の経時変化を示すグラフ図 実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を各濃度でα−アミラーゼ溶液に加えたときのα−アミラーゼ活性の相対値(抽出液3kDa未満画分粉末を加えない時のα−アミラーゼ活性に対する相対値)を示すグラフ図 反応液に加えたα−アミラーゼ濃度ごとに、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を各濃度で反応液に加えたときのα−アミラーゼ活性阻害率を示すグラフ図 反応液に加える基質試液濃度の変化のα−アミラーゼ活性に対する影響を示すグラフ図 実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を含まない、あるいは終濃度40mg/mLとなるように抽出液3kDa未満画分粉末を含む条件において、反応液に加える基質試液の相対濃度を変化させたときのα−アミラーゼ活性を解析し、横軸に基質試液の相対濃度、縦軸に反応速度を取ったミカエリス(Michaelis) プロットを示すグラフ図 実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を含まない、あるいは終濃度40mg/mLとなるように抽出液3kDa未満画分粉末を含む条件において、反応液に加える基質試液の相対濃度を変化させたときに観測されたα−アミラーゼ活性測定の結果を解析し、横軸に基質試液の相対濃度の逆数、縦軸に反応速度の逆数を取ったラインウィーバー‐バーク(Lineweaver−Burk) プロットを示すグラフ図、及び、このプロットより求めた酵素反応速度論パラメータを示す表図 実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を含まない、あるいは終濃度40mg/mLとなるように抽出液3kDa未満画分粉末を含む条件において、反応液に加える基質試液の相対濃度を変化させたときに観測されたα−アミラーゼ活性を解析し、横軸に基質試液の相対濃度、縦軸に基質試液の相対濃度を反応速度で除した数値を取ったヘインズ・ウールフ(Hanes−Woolf) プロットを示すグラフ図、及び、このプロットより求めた酵素反応速度論パラメータを示す表図 基質試液の相対濃度を変化させたうえで、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末をさまざまな濃度で反応液に加えたときに観測されたα−アミラーゼ活性を解析し、基質試液の相対濃度ごとに、横軸に反応液に加えた抽出液3kDa未満画分粉末の終濃度、縦軸に反応速度の逆数を取ったディクソン(Dixon) プロットを示すグラフ図 実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末をさまざまな濃度で反応液に加えたときに観測されたα−グルコシダーゼ活性、生成物量(400nmの吸光度)の経時変化を示すグラフ図 実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を種々の濃度となるようにα−グルコシダーゼ反応液に加えたときのα−グルコシダーゼ活性に対する阻害率を示したグラフ図
本発明について詳細に説明する。本発明に係る糖質分解酵素阻害剤は、原料となるミミズを破砕して得られた破砕液を用いて調製したミミズ乾燥粉末に、水を加えてミミズ抽出液を得る抽出工程と、その抽出工程で得られたミミズ抽出液を限外濾過して分子質量3kDa未満の画分である抽出液3kDa未満画分を得る分画工程とを実行することで得られる。抽出液3kDa未満画分を得るための分画工程は、限外濾過に限らず、遠心分離、ゲル濾過等公知の分画法を用いても良い。この抽出液3kDa未満画分を主成分とする糖質分解酵素阻害剤は、後述する実施例において、α−アミラーゼ活性及びα−グルコシダーゼ活性を阻害する効果を持つことを確認した。
本発明に係る糖分解酵素阻害剤の製造方法では、上記分子質量分画後のミミズ抽出液から得た抽出液3kDa未満画分に凍結乾燥処理を実行して、抽出液3kDa未満画分の凍結乾燥粉末である抽出液3kDa未満画分粉末としてもよい。本工程により抽出液3kDa未満画分を濃縮することができ、高濃度の糖質分解酵素阻害剤を得ることができる。また抽出液3kDa未満画分粉末とすることで、保存性や加工性を高めることができる。また、上記分子質量分画後の抽出液3kDa未満画分に、凍結融解処理、酸処理、加熱処理、有機溶媒処理から選択される少なくとも1つの処理を実行することができる。凍結融解処理に関しては、−80℃までの温度(極低温冷凍庫)および−196℃(液体窒素温度)で処理することができる。酸処理に関してはpH2までの酸を用いて処理することができる。加熱処理に関しては、常圧下、100℃までの温度で処理することができる。有機溶媒処理に関しては、ヘキサンなどの、水層と有機溶媒層に分層することができる有機溶媒を用いることができる。
これらの処理工程はその順を問わず複数組み合わせて実行してもよく、また、処理後の溶液に遠心分離や濾過などの一般的な分離操作を行うことができ、固形物を除去することでより純度の高い糖質分解酵素阻害剤を得ることができる。
本発明に係る糖質分解酵素阻害剤は、これを含有する含有物とすることで、酵素、とりわけα−アミラーゼ活性やα−グルコシダーゼ活性を阻害する目的の医薬品、健康食品、サプリメント、あるいはペットフードなどとして用いることができる。
以下、本発明の実施例について説明する。ただし本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〈ミミズ乾燥粉末の調製方法〉
本発明の実施例において用いたミミズ乾燥粉末の調製は特許文献12の方法に準じて行った。即ち、原料となる養殖シマミミズ(Eisenia fetida)の生体30kgを水道水で洗浄した後、5%(w/v)炭酸水素ナトリウム水溶液に1時間浸漬し、体腔液を吐出させて除去した。再び水洗したミミズを破砕し、プラスチックバックに充填して密閉した後、静水圧式高圧処理装置(SHP−100−50A、シナダ製、新潟県長岡市)を用いて、100MPa、60℃で16時間処理した。この処理物をローラーポンプ(RP−LVS、古江サイエンス製、東京都新宿区)及び円筒型超遠心分離機(ASM160AP、巴工業製、東京都品川区)を用いて、17,000rpmで連続的に遠心分離した。得られた遠心上清を、真空凍結乾燥機(TF20−80TNNN、宝製作所製、東京都板橋区)を用いて凍結乾燥処理した後、粉末状に破砕した。この粉末を80℃、6時間乾燥させたものを最終的なミミズ乾燥粉末とした。このときの回収量は4.0kgであり、出発のミミズ生体重量30kgに対して、収率は13%であった。
[実施例1]
上記調製工程において得られたミミズ乾燥粉末5gをビーカーに量り取り、蒸留水を加えて50mLとし、10%(w/v)懸濁液を得た。懸濁液はスターラーを用いて10分間撹拌した後、16,100xgで10分間遠心分離を行い、沈殿物を除去した。この上清をミミズ抽出液とした。
次にこのミミズ抽出液をVivaspin 20(3kDa MWCO、GE Healthcare製、英国リトル・チャルフォント)を用いて限外濾過し、分子質量3kDa未満の低分子画分の濾液を得た。この濾液を抽出液3kDa未満画分とし、さらに凍結乾燥機(FDU−1200、EYELA製、東京)を用いて凍結乾燥した粉末を抽出液3kDa未満画分粉末とした。このとき、24mLの抽出液3kDa未満画分から、1.7gの抽出液3kDa未満画分粉末を得た。従って、出発のミミズ乾燥粉末5gからの抽出液3kDa未満画分粉末の収率は、34%であった。すなわち、出発のミミズ生体重量30kgから、1.3kgの抽出液3kDa未満画分粉末が得られ、その収率は4.4%であった。
〈α−アミラーゼ活性測定試験〉
α−アミラーゼ活性は、ダイヤカラー・AMY−Lダイレクト(KTAM−103(緩衝液)及びKTAM−113(基質試液)、東洋紡株式会社、大阪府大阪市)を用いて測定した。製造者の説明に従って本製品の測定原理を以下に説明する。すなわち、試料中のα−アミラーゼが合成基質α−2−クロロ−4−ニトロフェニル−ガラクトシルマルトシド(GalG2CNP)を加水分解して、ガラクトシルマルトシド(GalG2)と2−クロロ−4−ニトロフェノール(CNP)を生成する。CNPに起因する黄色の吸光度の単位時間当たりの増加量を405nmの波長で測定することによりα−アミラーゼ活性を求めることができる。なお、CNPの405nmにおけるモル吸光係数(ε405)は13,400M−1cm−1である。
α−アミラーゼは、ブタ膵臓由来α−アミラーゼ(品番A3176、 SIGMA製、ロット番号:SLBM2655V)の粉末に、粉末濃度が10mg/mLとなるように20mM Tris−HCl(pH7.0)緩衝液を加え、5分間反転撹拌した後、16,100xgで10分間遠心分離して不溶性成分を除いた。この上清についてブラッドフォード(Bradford)法でウシ血清アルブミン(BSA)を標準としてタンパク質濃度を定量した。この上清のタンパク質濃度は226μg/mLであった。この上清を同緩衝液で0.5μg/mLにまで希釈し、これをα−アミラーゼのストック溶液とした。
上述の方法で調製した0.5μg/mLのα−アミラーゼ溶液5μLと、予め37℃に保温した緩衝液108.5μLを96ウェルマイクロプレートに加え、37℃で5分間保温した。これに予め37℃に保温した基質試液36.5μLを加えることにより酵素反応を開始し、マイクロプレートリーダー(xMark、Bio−Rad Laboratories製、米国カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いて37℃における405nmの吸光度を1分ごとに15分間にわたり測定した。一方、対照実験として、α−アミラーゼ溶液の代わりにα−アミラーゼを含有しない緩衝液を加えて同様に測定を行い、これをブランクとした。それぞれの測定時間ごとに、α−アミラーゼを加えたときの測定値からブランク値を差し引いて、それぞれの測定時間ごとの405nmの吸光度変化(ΔA405)が測定時間の増加につれて直線的に増加することを確認した。その直線の傾きから、1分間当たりの吸光度変化量(ΔA405/min)を求めた。使用したマイクロプレートの光路長は反応液量150μLで0.458cmである。また、生成物CNPの分子吸光係数ε405は13,400M−1cm−1である。これらの値とΔA405/minとから、1分間当たりに生成したCNP量を算出し、これを反応速度(すなわち酵素活性)とした。このとき、抽出液3kDa未満画分を含まない条件下でのα−アミラーゼ活性は6.5×10−6M/minと求められた。
〈α−アミラーゼ阻害効果測定試験〉
図1は、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を種々の濃度となるように調製し、α−アミラーゼ溶液に加えたときに観測される生成物量(405nmの吸光度)の経時変化を示すグラフ図である。それぞれの濃度におけるα−アミラーゼ活性は、生成物の生成の経時変化を示す直線の傾きから求められる。凡例のEBは酵素のブランクを示し、DBは酵素及び抽出液3kDa未満画分粉末のダブルブランクを示す。なお、EBは終濃度10mg/mLの抽出液3kDa未満画分粉末を含む。
抽出液3kDa未満画分のα−アミラーゼ阻害効果は、具体的には、以下の方法で測定した。抽出液3kDa未満画分の試料溶液は、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を緩衝液に80、40、20、10、5mg/mLになるように溶解することにより調製した。予め37℃で保温した各濃度の試料溶液75μLと緩衝液33.5μLをマイクロプレートのウェルに混合し、これに0.5μg/mLのα−アミラーゼ溶液5μLを加え、37℃で5分間保温した。次いで、予め37℃に保温した基質試液36.5μLを加えることで、反応液として反応を開始し、マイクロプレートリーダーを用いて37℃における405nmの吸光度を1分ごとに15分間にわたり測定した。なお、各測定は3回ずつ行った。
測定結果を図1に示した。上記の方法で図1の測定結果を解析したところ、抽出液3kDa未満画分粉末を含まないとき、α−アミラーゼによって1分間当たりに生成したCNP量、すなわち反応速度は6.5×10−6M/minと求められた。さらに、この値を相対値1として、各試料溶液を用いたときのα−アミラーゼ活性を相対的に示した(図2)。図2より、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を酵素反応系に添加すると、その濃度に依存してα−アミラーゼ活性が阻害されることがわかる。終濃度40mg/mLの抽出液3kDa未満画分粉末を添加した場合、α−アミラーゼ活性は相対活性で0.65(65%)に低下した。一方、上記の測定において、α−アミラーゼを含まず、終濃度10mg/mLの 抽出液3kDa未満画分粉末を含む条件の反応液では、GalG2CNP分解活性は観察されなかった(図1のEB)。これらの結果から、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分には、濃度依存的にα−アミラーゼ活性を阻害する成分が含まれていること、さらに当該成分はα−アミラーゼ様活性を全く有さないことが示された。
[比較試験例1]
上記α−アミラーゼ活性測定試験のα−アミラーゼストック溶液の調製において、ブラッドフォード法で定量したα−アミラーゼ溶液の緩衝液による希釈率を変更して、0.25μg/mL及び0.1μg/mLのα−アミラーゼストック溶液を調製した。これら濃度の異なるα−アミラーゼ溶液を用いて、前述したα−アミラーゼ阻害効果測定試験と同様の方法で抽出液3kDa未満画分によるα−アミラーゼ阻害効果を試験した。測定は各々3回ずつ行った。
測定結果を上記と同様の方法で解析した。抽出液3kDa未満画分粉末を含まないとき、α−アミラーゼによって1分間当たりに生成したCNP量、すなわち反応速度を測定したところ、α−アミラーゼストック溶液濃度が0.25μg/mLのとき3.1×10−6M/min、また0.1μg/mLのとき1.3×10−6M/minと求められた。上述の0.5μg/mLのα−アミラーゼストック溶液を用いたときの結果を考慮すると、酵素反応速度は酵素濃度に比例して変化することが示された。このことは、本酵素反応が、ミカエリス‐メンテン型の速度論(Michaelis−Menten−type kinetics)に従うことを示している。
ここで図2と同様に、各α−アミラーゼストック溶液濃度において、抽出液3kDa未満画分粉末を含まないときの反応速度をそれぞれ相対値1として、各濃度の抽出液3kDa未満画分粉末を加えたときの反応速度をそれぞれ相対値で求めた。さらに、求めた相対値について(1−相対値)×100の計算を行い、これを阻害率(単位:%)とした。図3に、0.25μg/mL、0.1μg/mLのα−アミラーゼストック溶液、及び比較のため上述の0.5μg/mLのα−アミラーゼストック溶液を用いたときの、反応液に加えた抽出液3kDa未満画分粉末の終濃度と阻害率との関係を示す。
図3に示すように、α−アミラーゼ活性阻害率は、反応液に加えた抽出液3kDa未満画分粉末の終濃度に依存して大きくなった。酵素濃度の違いは、抽出液3kDa未満画分粉末の終濃度が10mg/mL以下の範囲では阻害率に若干のばらつきを生じさせたものの、抽出液3kDa未満画分粉末の終濃度20mg/mL以上では阻害率に影響を与えなかった。また、終濃度40mg/mLで抽出液3kDa未満画分粉末を加えた場合でも阻害率はいずれの酵素濃度においても35%となり、本発明の糖分解酵素阻害剤は低用量でα−アミラーゼ活性を激烈に阻害するものではなく、穏やかに作用して効果を発揮する可能性が示唆された。
[比較試験例2]
上記α−アミラーゼ活性測定試験に用いた基質試液を緩衝液で希釈し、基質試液の原液を相対濃度1としたときの、相対濃度0.75、0.5、0.25、0.1、0.05の基質試液希釈液をそれぞれ調製した。これら濃度の異なる基質試液を用いて、上記と同様の方法でα−アミラーゼ活性測定試験を行った。なお、酵素液は0.5μg/mLのα−アミラーゼストック溶液を用いた。また、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を終濃度40mg/mLとなるように反応液に加えたときのα−アミラーゼ活性を、これら濃度の異なる基質試液を用いて、前述したα−アミラーゼ阻害効果測定試験と同様の方法で測定した。それぞれの測定は3回ずつ行った。
測定結果を図4に示した。グラフ(図4(a))が抽出液3kDa未満画分粉末を加えないときの結果、グラフ(図4(b))が終濃度40mg/mLとなるように抽出液3kDa未満画分粉末を反応液に加えたときの結果をそれぞれ表す。基質試液の濃度は相対濃度で示した。ここで相対濃度は基質試液製品の原液を相対値1とした。α−アミラーゼ活性は、それぞれの基質濃度において観測された直線の傾きから求められる。
どちらの場合も、反応液中の基質濃度の増加に応じて405nmの吸光度変化量(ΔA405/min)すなわち酵素活性は増大した。また、同じ基質濃度で比較すると、いずれの基質濃度においても、抽出液3kDa未満画分粉末の添加によりΔA405/minは減少し、α−アミラーゼ活性が阻害された。ここで、上記の方法で解析を行い、それぞれの相対的な基質濃度において、終濃度40mg/mLとなるように抽出液3kDa未満画分粉末を添加したときのα−アミラーゼ活性阻害率を求めた(表1)。
Figure 0006249581
表1に示すとおり、基質試液の原液を用いた条件において、終濃度40mg/mLとなるように抽出液3kDa未満画分粉末を添加したとき、α−アミラーゼ活性阻害率は約35%であったが、基質試液を緩衝液で希釈して相対濃度0.50とした条件では、α−アミラーゼ活性阻害率は約38%となった。さらに、基質試液の相対濃度を0.1とした条件では阻害率は約43%であり、相対濃度を0.05とした条件では阻害率は約49%であった。基質試液をさらに希釈し、相対濃度を0.03にした場合、酵素反応に伴う405nmの吸光度が著しく小さく、その変化を追跡することが困難であった。以上示したとおり、酵素反応液に含まれるα−アミラーゼ濃度と抽出液3kDa未満画分粉末濃度は一定であるにもかかわらず、基質濃度が減少するにつれて、阻害率が上昇した。また、逆に、基質濃度が増大するにつれて、阻害率が減少した。このことから、本発明の糖質分解酵素阻害剤は、酵素活性部位への基質の結合と競合することによりα−アミラーゼ活性を阻害するタイプの阻害様式を持つことが推察された。
そこでさらに、本発明の糖質分解酵素阻害剤によるα−アミラーゼ阻害の性質を、酵素反応速度論(非特許文献25、非特許文献26)を用いて解析した。基質試液の相対濃度を横軸に、図4の各データより求めた反応速度(v)を縦軸にプロットしてミカエリス プロットを作成した(図5)。さらに、基質試液の相対濃度の逆数(1/v)を横軸に、反応速度の逆数を縦軸に取ったラインウィーバー‐バーク(Lineweaver−Burk)プロット(図6)、及び、基質試液の相対濃度を横軸に、基質試液の相対濃度を反応速度で除した値を縦軸にプロットしたヘインズ‐ウールフ(Hanes−Woolf)プロット(図7)を作成した。それぞれのプロットから最小二乗法による近似直線を得て、これよりミカエリス定数K(単位:M)および最大速度Vmax(単位:M/s)の酵素反応速度論パラメータを求めた。また、分子活性(ターンオーバー数) kcat(単位:1/s)はVmax/[E]で表現される。ここに[E](単位:M)は反応液中の酵素初濃度である。特異性定数kcat/K(単位:1/(Ms))はkcatとKとから算出した。なお、基質試液に含まれるGalG2CNPのモル濃度は不明であるため、これらのパラメータを表記する上では、基質試液原液のGalG2CNPのモル濃度を定数[S] と示した。
阻害剤による酵素阻害は大きく拮抗型と混合型に分類される(非特許文献26)。拮抗型阻害は、阻害剤が酵素上で基質が結合する部位(基質結合部位)に結合し、基質結合部位を基質と阻害剤が競合的に奪い合うことにより起こる。阻害剤の存在下では、酵素と基質の結合が阻害剤により邪魔されるので、酵素と基質の間の親和力が低下(すなわちKが増大)し、酵素−基質複合体(ES複合体)の形成が抑制される。しかし、基質濃度が十分大きい場合には、阻害剤による酵素−基質間の結合に対する邪魔は実質的に無視できるようになり、得られる反応速度(すなわち最大速度Vmax)は、阻害剤が存在しない場合に得られる最大速度Vmaxと同じ値になる。
混合型阻害では、阻害剤は基質結合部位とは別の部位(阻害剤結合部位)に結合し、このことにより、基質結合部位への基質結合や酵素反応速度定数が影響を受ける。混合型阻害の特別な場合である非拮抗阻害では、酵素に対する基質と阻害剤の相互作用は互いに独立であり、かつ酵素−阻害剤複合体(EI)では活性が喪失していると考える。この場合、活性は遊離の酵素(E)によりもたらされるため、阻害剤がない場合に比べて、阻害剤が存在する場合には、最大速度Vmaxが低下するが、Kは変化が見られない。一般的な混合型阻害では、酵素に対する基質と阻害剤の相互作用は、相互に影響されるため、阻害剤非存在下に比べて、存在下には、酵素と基質の親和力および酵素活性の両方に変化が見られる。
酵素阻害剤が、酵素の基質結合部位にのみに結合する拮抗型阻害、あるいは阻害剤結合部位にのみ結合する混合型阻害ばかりでなく、両方の結合部位に結合する場合も考えられる。この場合には、阻害剤の基質結合部位あるいは阻害剤結合部位への親和力の程度に依存して、拮抗型阻害(すなわち阻害剤存在下にVmaxおよびkcatは変化しないが、Kは増大する)と混合型阻害(阻害剤存在下にVmaxおよびkcatが減少し、Kは増大する)の両方の性質が現れる可能性があると考えられる。
図5のミカエリス(Michaelis) プロットにおいて、各プロットは飽和曲線を示しており、終濃度40mg/mLとなるように抽出液3kDa未満画分粉末を添加した場合、反応速度(v)すなわち酵素活性が低下していることがわかる。本発明の糖質分解酵素阻害剤によるα−アミラーゼ活性阻害の様式が拮抗型であるならば、最大反応速度Vmaxは、抽出液3kDa未満画分粉末の添加、非添加条件で等しくなると考えられる。しかし、基質濃度が最大を与える基質試液の原液を用いた条件でも、反応速度が最大値に到達しなかった。これは、最大反応速度に到達するには、さらに高濃度の基質が必要であることを示唆しているのであるが、少なくとも図5のみから、拮抗型阻害か混合型阻害かの明確な判断は困難であった。
そこでラインウィーバー‐バーク プロットを作成し、酵素反応速度論パラメータを求めた(図6)。最大反応速度は、抽出液3kDa未満画分粉末の終濃度0mg/mL、40mg/mLいずれの条件でもほぼ等しい値となった。すなわち、基質濃度が十分過剰である条件下に与えられる(ことが予測される)最大速度Vmaxは、抽出液3kDa未満画分粉末の添加の有無にかかわらず変化しないことが示された。一方、抽出液3kDa未満画分粉末(終濃度40mg/mL)の添加により、K値がほぼ2倍に増大したことから、α−アミラーゼと基質との親和性が顕著に低下することが示された。これらの結果は、本発明の糖質分解酵素阻害剤によるα−アミラーゼ活性阻害の様式が拮抗型である可能性を強く示唆する。
同じデータを用いてヘインズ‐ウールフ プロットを作成し、酵素反応速度論パラメータを求めた(図7)。終濃度40mg/mLの抽出液3kDa未満画分粉末の添加により、最大反応速度、及びα−アミラーゼと基質との親和性の双方が低下することが示された。すなわち、K値がほぼ1.5倍に増大し、Vmax(およびkcat)値は21%減少した。これらの結果は、抽出液3kDa未満画分粉末中の酵素阻害剤によるα−アミラーゼ活性阻害は、混合型阻害様式であることを示唆するものである。ただし、K値に対する影響に比べるとVmax(およびkcat)値に対する影響は軽微であり、拮抗型阻害の可能性が無視できない。
これら図6と図7の結果の差異の理由として、拮抗型阻害の場合、阻害剤濃度に対して基質濃度を増加させると阻害効果は減少するが、ラインウィーバー‐バーク プロットはその特性上、基質濃度の低い領域での測定データに重みが掛かるのに対し、ヘインズ‐ウールフ プロットは、基質濃度の高い領域での測定結果に重みが掛かる性質を持つことが考えられる。図6のプロットからは読み取れない混合型阻害の特徴が図7のプロットに反映された可能性がある。
以上のことから、本発明の糖質分解酵素阻害剤によるα−アミラーゼ活性の阻害機構としては、以下の問題が惹起される。
第一は、観測された阻害は単一の阻害物質により引き起こされるのか、それとも、2種類以上の阻害物質により引き起こされるのか。
もし、単一の物質により阻害が引き起こされるとすると、この物質はα−アミラーゼの基質結合部位に結合して拮抗型阻害を引き起こすのか、あるいは阻害剤結合部位に結合して混合型阻害を引き起こすのか、あるいは、両方の結合部位に結合して拮抗型と混合型の阻害型を示すのか。
さらに、阻害が単一の阻害剤より引き起こされるのではなく、阻害型の異なる2種類以上の阻害剤により引き起こされるものであり、これらが、酵素の基質結合部位や阻害剤結合部位に結合し、その効果が、基質の結合親和性の低下(すなわちKの増大)や分子触媒活性の低下(すなわちVmaxおよびkcatの減少)を引き起こす可能性がある。
阻害物質の種類、拮抗型阻害か混合型阻害かの判別、酵素の基質結合部位および阻害剤結合部位の同定には、うえで検討した酵素反応速度論的手法には限界がある。将来的には、阻害物質の有効成分の純化を進め、酵素と阻害剤との複合体のX線結晶解析やNMRなどを用いた高精度の構造解析を行うことにより、阻害剤が基質結合部位に結合しているのか、それとは別の阻害剤結合部位に結合しているのか、あるいは、両方の部位に結合しているのかを解析し、阻害様式を決定する必要がある。
[比較試験例3]
上記α−アミラーゼ活性測定試験に用いた基質試液(原液)を緩衝液で希釈し、濃度の異なる基質試液希釈液を調製した。具体的には、基質試液原液の濃度を相対濃度1とし、相対濃度0.5、及び相対濃度0.25の基質試液希釈液をそれぞれ調製した。また、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を緩衝液に80、40、20、10、5mg/mLとなるように溶解し、濃度毎に抽出液3kDa未満画分粉末の試料溶液を調製した。前述したα−アミラーゼ阻害効果測定試験の場合と同様、予め37℃で保温した各濃度の試料溶液75μLと緩衝液33.5μLをマイクロプレートのウェル内で混合し、これに0.5μg/mLのα−アミラーゼ溶液5μLを加え、37℃で5分間保温した。次いで、予め37℃に保温した各濃度の基質試液36.5μLを加えることで、反応液として反応を開始し、マイクロプレートリーダーを用いて37℃における405nmの吸光度(A405)を1分ごとに15分間にわたり測定した。なお、各測定は3回ずつ行った。
各測定結果について上記の方法で解析を行い、基質試液の相対濃度ごとに、横軸(x軸)に抽出液3kDa未満画分粉末の終濃度、縦軸(y軸)に反応速度の逆数をプロットするディクソン プロットを作成した(図8)。各プロットから最小二乗法による回帰直線を得て、その回帰式より、基質濃度が異なる回帰直線の交点をそれぞれ求めた。ディクソン プロットにおいては、この交点のx座標の符号を変えた値が阻害物質定数(inhibitor constant)Kを表す(非特許文献25、非特許文献26)。従って、本発明の糖質分解酵素阻害剤によるα−アミラーゼ活性阻害の阻害物質定数(K)は、39±2mg/mLであることが示された。ここで、抽出液3kDa未満画分粉末に含まれる物質の平均分子量が3,000であると仮定すると、Kはモル濃度で13mMと推定される。また、当該阻害物質の平均分子量が1,500であると仮定するとKは26mMと推定される。ただし、抽出液3kDa未満画分粉末に含まれる物質すべてが阻害剤成分ではないと考えられるため、実質的なKはさらに小さな値になるものと考えられる。
〈α−グルコシダーゼ活性測定試験〉
α−グルコシダーゼ活性は、非特許文献27及び非特許文献28の方法を参考にして、α−グルコシダーゼにより、基質パラ−ニトロフェニル−α−D−グルコピラノシド(PNPG)をパラ−ニトロフェノール(PNP)とD−グルコース(G)へと加水分解し、生じたパラ−ニトロフェノールに由来する400nmの吸光度変化量を測定することにより評価した。
α−グルコシダーゼはラット腸アセトンパウダーラット由来(品番I1630、 SIGMA、ロット番号:SLBN7104V)を酵素源として用いた。0.5gのアセトンパウダーを10mLの50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に懸濁し、容器を氷水につけながら、ホモジナイザー(NS−51、マイクロテック・ニチオン製、千葉県船橋市)を用いて、回転調整器の目盛り20で3分間破砕した。破砕液を4℃、15,000xgで15分間遠心分離して得られた上清を酵素液とした。酵素液のタンパク質量は、ブラッドフォード法によりウシ血清アルブミン(BSA)を標準として定量した。本酵素液のタンパク質濃度は4.5mg/mLと求められた。
基質パラ−ニトロフェニル−α−D−グルコピラノシド(PNPGと略す;品番25032−91、ナカライテスク製、ロット番号:M6E7187)を、50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に3mMとなるよう溶解したものをPNPG基質液とした。
酵素液12.5μLと、予め37℃に保温した50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)87.5μLを96ウェルマイクロプレートに加え、37℃で5分間保温した。これに予め37℃に保温したPNPG基質液50μLを加えることで反応を開始し、マイクロプレートリーダーを用いて37℃における400nmの吸光度(A400)を1分ごとに15分間にわたり測定した。一方、対照実験として、酵素液の代わりに、α−グルコシダーゼを含有しない50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を添加して同様に測定を行い、これをブランクとした。酵素液を添加したときの測定値からブランク値を差し引いて、測定時間ごとの400nmの吸光度変化(ΔA400)を求め、この吸光度変化が反応時間に伴って直線的に増加することを確認し、その直線の傾きより1分間当たりの吸光度変化量(ΔA400/min)を求めた。ここで、生成物PNPの400nmにおける分子吸光係数ε400は18,300M−1cm−1であり(非特許文献27)、また、PNPのpKは7.15であり、測定時のpHは7.0であるので、ヘンダーソン‐ハッセルバルヒ式(非特許文献26)より、測定条件におけるε400は7,585M−1cm−1となる。また、使用したマイクロプレートの光路長は反応液量150μLで0.458cmであることから、これらの値とΔA400/minから、1分間当たりに生成したPNP量を算出し、これを反応速度すなわち酵素活性とした。このとき、抽出液3kDa未満画分粉末を含まない条件下でのα−グルコシダーゼ活性は3.4×10−6M/minと求められた。
〈α−グルコシダーゼ阻害効果測定試験〉
図9は、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末をさまざまな濃度で反応液に加えたときに観測されたα−グルコシダーゼ活性、生成物量(400nmの吸光度)の経時変化を示す。凡例のEBは酵素のブランクを、DBは酵素及び抽出液3kDa未満画分粉末のダブルブランクをそれぞれ示す。なお、EBは終濃度10mg/mLとなるように抽出液3kDa未満画分粉末を含む。
抽出液3kDa未満画分のα−グルコシダーゼ阻害効果は、具体的には、以下の方法で測定した。抽出液3kDa未満画分の試料溶液は、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末を50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に80、40、20、10、4、2mg/mLになるように溶解することにより調製した。予め37℃で保温した各濃度の試料溶液75μLとpH7.0の50mMリン酸カリウム緩衝液12.5μLをマイクロプレートのウェルに混合し、これに酵素液12.5μLを加え、37℃で5分間保温した。次いで、予め37℃に保温したPNPG基質液50μLを加えることで、反応液として反応を開始し、マイクロプレートリーダーを用いて37℃における400nmの吸光度(A400)を1分ごとに15分間にわたり測定した。なお、各測定は3回ずつ行った。
測定結果を図9に示した。反応液に加えた抽出液3kDa未満画分の濃度の増大に応じて、400nmの吸光度変化(ΔA400)を示す直線の傾きが減少することがわかる。一方で、α−グルコシダーゼを含まず、終濃度10mg/mLとなるように抽出液3kDa未満画分を含む条件の反応液では、PNPG分解活性は観察されなかった(図9のEB)。これらの結果から、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分には、濃度依存的にα−グルコシダーゼ活性を阻害する成分が含まれていること、また当該成分はα−グルコシダーゼ様活性を全く有さないことが示された。
さらに、上記の方法で図9の測定結果を解析した。抽出液3kDa未満画分粉末を含まないときの酵素反応速度(v)は、α−グルコシダーゼによって1分間当たりに生成したPNP量から、3.4×10−6M/minと求められた。同様に、ある濃度の抽出液3kDa未満画分粉末を加えたときの酵素反応速度(v)を算出し、抽出液3kDa未満画分粉末による阻害率(単位:%)を[1−(v/v)]×100と定義し、各種濃度の抽出液3kDa未満画分粉末が存在するときの阻害率を求めた。横軸に抽出液3kDa未満画分粉末の終濃度、縦軸に阻害率をプロットした図10を作成した。図10より、反応液に加える抽出液3kDa未満画分粉末の終濃度を増加させると、阻害率は増加するが飽和曲線的な挙動を示すことがわかる。ここで、α−グルコシダーゼ活性を50%阻害する抽出液3kDa未満画分粉末の終濃度をIC50とすると、IC50は7.4mg/mLであった。一般に、酵素と阻害剤が結合して酵素‐阻害剤複合体が形成される場合、その平衡定数が阻害物質定数Kに相当し、その値はほぼIC50に相当する。したがって、抽出液3kDa未満画分粉末のα−グルコシダーゼに対する阻害物質定数Kは7.4mg/mLとみなすことができる。同等の濃度の抽出液3kDa未満画分粉末を用いた場合のα−アミラーゼ活性阻害率は約10%であった。また、上述の通り、抽出液3kDa未満画分粉末のα−アミラーゼに対する阻害物質定数Kは39±2mg/mLであった。以上のことから、本発明の糖質分解酵素阻害剤はα−アミラーゼ活性よりもα−グルコシダーゼ活性に対して、5.3倍も高い阻害効果を発揮することが示された。
次に、実施例1で得られた抽出液3kDa未満画分粉末にさらに各種処理工程を加えた実施例について説明する。
[実施例2]
実施例1で得られた抽出液3kDa未満画分粉末を80mg/mLとなるようにダイヤカラー・AMY−Lダイレクトの緩衝液(KTAM−103、α−アミラーゼ阻害試験用)あるいは50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0、α−グルコシダーゼ阻害試験用)に溶解した試料溶液を調製した。この溶液を−80℃の超低温フリーザー(MDF−U384、三洋電機製、大阪府守口市)を用いて凍結処理し、一晩保持した後、容器を水道水につけて融解した。この溶液を「凍結融解処理溶液」(実施例2)とした。
[実施例3]
実施例1で得られた抽出液3kDa未満画分粉末を80mg/mLとなるように10mMのHCl(pH2.0)に溶解した。この溶液を室温で3時間保持した後、1MのNaOHを加えて中和した。さらに凍結処理を行った後、凍結乾燥機を用いて再度凍結乾燥処理粉末とした。この再凍結乾燥処理粉末に、10mMのHClに溶解した際と同じ体積となるように、ダイヤカラー・AMY−Lダイレクトの緩衝液(KTAM−103、α−アミラーゼ阻害試験用)あるいは50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0、α−グルコシダーゼ阻害試験用)を加えて試料溶液を調製した。この溶液を「酸処理溶液」(実施例3)とした。
[実施例4]
実施例1で得られた抽出液3kDa未満画分粉末を80mg/mLとなるようにダイヤカラー・AMY−Lダイレクトの緩衝液(KTAM−103、α−アミラーゼ阻害試験用)あるいは50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0、α−グルコシダーゼ阻害試験用)に溶解した試料溶液を調製した。この溶液をアルミブロック恒温槽(DTU−1BN、タイテック製、東京)を用いて100℃、10分間あるいは30分間加熱処理を行った。ここで、α−グルコシダーゼ阻害試験用に50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)に溶解した80mg/mLの抽出液3kDa未満画分粉末では、加熱処理後に沈殿物を視認したため、15,000xgで5分間遠心分離して沈殿物を除去し、上清を捕集した。以上のように加熱処理して捕集した抽出液3kDa未満画分粉末の溶液を室温まで冷却したものを「加熱処理溶液」(実施例4)とした。
[実施例5]
実施例1で得られた抽出液3kDa未満画分粉末を80mg/mLとなるようにダイヤカラー・AMY−Lダイレクトの緩衝液(KTAM−103、α−アミラーゼ阻害試験用)あるいは50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0、α−グルコシダーゼ阻害試験用)に溶解した試料溶液を調製した。この溶液をガラスバイアルに入れ、等量のヘキサン(試薬特級、ノルマルヘキサン97%含有、ナカライテスク製、京都市)を加えて蓋をし、ボルテックスミキサーを用いて5分間激しく撹拌した。10,000xgで5分間遠心分離して十分に分層させたあと、ヘキサン層を取り除き、水層を慎重に回収した。この水層の溶液を「ヘキサン抽出溶液」(実施例5)とした。なお、抽出液3kDa未満画分粉末を含まないダイヤカラー・AMY−Lダイレクトの緩衝液(KTAM−103、α−アミラーゼ阻害試験用)あるいは50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0、α−グルコシダーゼ阻害試験用)に対して、等量のヘキサンを加え、同様の抽出操作を行ったものも調製し、これらをそれぞれコントロールとした。
[実施例2〜5に対するα−アミラーゼ阻害効果測定試験]
上記実施例2〜5で得られた各試料溶液を用い、前述したα−アミラーゼ阻害効果測定試験と同様の方法で測定を行った。予め37℃で保温した各試料溶液75μLと緩衝液33.5μLをマイクロプレートのウェルに混合し、これに0.5μg/mLのα−アミラーゼ溶液5μLを加え、37℃で5分間保温した。次いで、予め37℃に保温した基質試液36.5μLを加えることで、反応液として反応を開始し、マイクロプレートリーダーを用いて37℃における405nmの吸光度を1分ごとに15分間にわたり測定した。なお、各測定は3回ずつ行った。上記の方法で結果を解析し、抽出液3kDa未満画分粉末を含まないときのα−アミラーゼ活性に対して、各試料溶液を用いたときの阻害率をそれぞれ算出した(表2)。なお、比較のために実施例1の終濃度40mg/mLとなるように抽出液3kDa未満画分粉末を加えた場合のα−アミラーゼ活性阻害率も表2に合わせて示した。
Figure 0006249581
まず、実施例2の凍結融解処理溶液に関して詳細に説明する。−80℃で凍結し、一晩保持した後に融解した凍結融解処理溶液を用いた場合でも、抽出液3kDa未満画分粉末を加えない場合と比較してα−アミラーゼ活性を35%阻害した。これは未処理の抽出液3kDa未満画分粉末を用いたときと同等の効果であったことから、α−アミラーゼ活性阻害効果を示す成分は実施例2の凍結融解処理に対して安定性および耐凍結融解性があることが示された。また、このことから、低温に弱い成分を変性させて除去する効果や、微生物の増殖を防ぎ長期保存できる可能性が期待できる。
次に実施例3の酸処理溶液に関して、pH2で3時間保持した後に中和した酸処理溶液を用いた場合でも、抽出液3kDa未満画分粉末を加えない場合と比較してα−アミラーゼ活性を34%阻害した。この結果は、α−アミラーゼ活性阻害効果を示す成分が実施例3の酸処理に対して安定性および耐酸性をもつことを示している。また、このことから酸に弱い成分を変性させて除去する効果や酸による殺菌効果が期待できる。加えて経口摂取した際、胃酸に耐えて小腸へ到達しα−アミラーゼを阻害する可能性も期待できる。
さらに実施例4の加熱処理溶液に関して、100℃で10分間および30分間加熱処理した加熱処理溶液を添加した場合、抽出液3kDa未満画分粉末を添加しない場合に比較して、α−アミラーゼ活性をそれぞれ36%および40%阻害した。これは、加熱処理を施していない抽出液3kDa未満画分粉末を添加したときと同等あるいはそれを上回る阻害効果を示している。以上のことから、抽出液3kDa未満画分粉末中のα−アミラーゼ活性阻害剤成分は実施例4の加熱処理に対して高い安定性および耐熱性をもつことが示された。また、このことは、抽出液3kDa未満画分粉末に対して加熱処理を行うことにより、熱に弱い成分を失活させたり、変性除去する効果が期待されるし、さらに殺菌効果や殺ウイルス効果が期待できる。
また、実施例5のヘキサン抽出溶液に関して、ヘキサンを抽出液3kDa未満画分粉末に加えて撹拌、分層する抽出操作を行った後に得られた水層を用いた場合、抽出液3kDa未満画分粉末を添加しない場合に比較してα−アミラーゼ活性を35%阻害した。一方、抽出液3kDa未満画分粉末の代わりに緩衝液だけを用いて同様の抽出操作を行った水層を用いてα−アミラーゼ阻害を検討した。抽出操作を行って得た水層の阻害活性は、抽出操作を行っていないコントロール(すなわち未処理の緩衝液)の阻害活性と差が見られなかった。これらの結果は、α−アミラーゼ活性阻害効果を示す成分がヘキサン抽出操作により水層に移行したかもしれないヘキサンに由来するものではないことを示している。また、抽出液3kDa未満画分粉末中のα−アミラーゼ阻害物質は、ヘキサンに対して安定であること、ヘキサン層や界面へ移行することなく水層に保持されること、親水性の高い物質であることが示された。うえの結果から、ヘキサンなどの有機溶媒を用いる抽出操作により、有機層に移行する成分及び界面に移行する成分を除去する効果が期待できる。ヘキサンは生体物質の抽出工程において適用される最も高い非極性と高い疎水性をもつ有機溶媒であり、通常これより高い非極性や疎水性をもつ溶媒が用いられることは例外的である。従って、上記のように、当該の抽出液3kDa未満画分粉末が、ヘキサン中で、α−アミラーゼ活性阻害効果を減弱させたり消失したりすることがなかったことから、ヘキサン以外の有機溶媒中でも、十分な安定性と耐有機溶媒性を有するものと判断できる。
[実施例2−5に対するα−グルコシダーゼ阻害効果測定試験]
さらに、上記実施例2〜5で得られた各試料溶液を用い、前述したα−グルコシダーゼ阻害効果測定試験と同様の方法で測定を行った。予め37℃で保温した各濃度の試料溶液75μLと50mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)12.5μLをマイクロプレートのウェルに混合し、これに酵素液12.5μLを加え、37℃で5分間保温した。次いで、予め37℃に保温したPNPG基質液50μLを添加することにより、反応液として反応を開始し、マイクロプレートリーダーを用いて37℃における400nmの吸光度を1分ごとに15分間にわたり測定した。なお、各測定は3回ずつ行った。上記の方法で結果を解析し、抽出液3kDa未満画分粉末を含まないときのα−グルコシダーゼ活性に対して、各試料溶液を用いたときの阻害率をそれぞれ算出した(表3)。なお、比較のために実施例1の終濃度40mg/mLの抽出液3kDa未満画分粉末を加えた場合のα−グルコシダーゼ活性阻害率も表3に合わせて示した。
Figure 0006249581
表3に示すとおり、実施例2の凍結融解処理溶液、または実施例3の酸処理溶液を終濃度40mg/mLで反応液に加えた場合でも、α−グルコシダーゼ活性阻害率は実施例1の抽出液3kDa未満画分粉末(未処理溶液)を用いた場合と同等であった。
これらの結果から、α−グルコシダーゼ活性阻害効果を示す成分は実施例2の凍結融解処理や実施例3の酸処理に対して非常に安定であり、高い耐凍結融解性、耐酸性を持つことが示された。また、実施例4の加熱処理溶液を反応液に加えた場合、α−グルコシダーゼ活性阻害率は実施例1の抽出液3kDa未満画分粉末(未処理溶液)を用いた場合と比較してわずかに低下した。さらに実施例5のヘキサン抽出溶液を終濃度40mg/mLで反応液に添加した場合にも、α−グルコシダーゼ活性阻害率は実施例1の抽出液3kDa未満画分粉末(未処理溶液)を用いた場合に比較してわずかな低下が見られた。抽出液3kDa未満画分粉末を凍結融解、酸性、加熱、ヘキサン処理などの前処理を行うことで、行わない場合に比べ、わずかに阻害活性が低下する例も観測されたが、それでも、これら前処理後の阻害効果は十分に大きい。したがって、α−グルコシダーゼ活性阻害活性を示す成分は実施例4の加熱処理や実施例5のヘキサン抽出処理に対して高い安定性、耐熱性、耐有機溶媒性を有するものと判断できる。α−グルコシダーゼ活性阻害活性を示す成分に見られるこれらの特性は、上述のα−アミラーゼ活性阻害効果を示す成分の特性と共通しており、保存性、加工性、応用性などの面でも上記同様の優位な効果が期待される。
以上の結果より、実施例1で得た抽出液3kDa未満画分粉末に対して凍結融解処理、酸処理、加熱処理、有機溶媒処理を単独、または複数組み合わせて実行することにより、より純度の高い、α−アミラーゼ活性阻害効果、及びα−グルコシダーゼ活性阻害効果をもつ糖質分解酵素阻害剤を得ることができると考えられる。
このようにして得られたミミズ由来の糖分解酵素阻害剤は、医薬品、機能性食品、添加剤、ペットフードなどへ用いることが可能である。
[別の実施形態]
(1)上記実施形態では、原料となるミミズにシマミミズ(Eisenia fetida)を使用したが、医薬品、健康食品用途で使用される他種のミミズを用いてもよい。
(2)上記実施形態では、ミミズの破砕液に静水圧式高圧処理を行い、遠心分離にかけた上清を凍結乾燥して調製したミミズ乾燥粉末を用いたが、別の方法で調製されたミミズ乾燥粉末を用いてもよい。
(3)上記実施形態における糖質分解酵素阻害剤の製造方法に含まれる各工程の処理条件については適宜変更が可能である。
(4)上記実施形態では、ミミズ乾燥粉末を原料として糖質分解酵素阻害剤を製造する場合を例に示したが、ミミズ又はその破砕物を原料として糖質分解酵素阻害剤を製造してもよい。

Claims (3)

  1. 所定の糖質分解酵素に対して活性阻害効果を有する糖質分解酵素阻害剤の製造方法であって、
    前記所定の糖質分解酵素の1つが、α−グルコシダーゼあり、
    ミミズ又はその破砕物、或いは、ミミズ又はその破砕物の乾燥粉末を原料にして水を加えてミミズ抽出液を得る抽出工程と、そのミミズ抽出液に由来する分子質量3kDa未満の抽出液3kDa未満画分を得る分画工程とを実行して前記糖質分解酵素阻害剤を得る糖質分解酵素阻害剤の製造方法。
  2. 前記所定の糖質分解酵素の1つが、α−アミラーゼである請求項1記載の糖質分解酵素阻害剤の製造方法。
  3. 前記分画工程により回収した抽出液3kDa未満画分に、凍結融解処理、酸処理、加熱処理、有機溶媒処理から選択される少なくとも1つを実行して、前記糖質分解酵素阻害剤を得る請求項1又は2記載の糖質分解酵素阻害剤の製造方法。
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