本発明を実施するための形態について、以下に説明する。尚、同じ部材等については、同一の符号を付して説明を省略する。
〔第1の実施の形態〕
第1の実施の形態におけるアルカリ金属セルの製造方法について、図2から図18に基づき説明する。尚、図面においては、便宜上、接合部金属膜について一部省略されている場合がある。
最初に、図2に示されるように、Si(シリコン)基板110の一方の面に、凹部111を形成する。このSi基板110は、直径φが4インチ、厚さが1.5mmであり、両面が鏡面加工されている。凹部111は、Si基板110の一方の面にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、凹部111形成される領域に開口を有する不図示のレジストパターンを形成する。この後、ドライエッチング、または、ウェットエッチングにより、レジストパターンの形成されていない領域のSiを除去し、凹部111を形成し、更に、不図示のレジストパターンを有機溶剤等により除去する。これにより、Si基板110の一方の面には、Si基板110の縁に沿って、エッチングのされていない凸部112が幅Wで形成され、凸部112の内側には深さDが100μmの凹部111が形成される。尚、図2(a)は、この工程における上面図であり、図2(b)は、図2(a)における一点鎖線2A−2Bにおいて切断した断面図である。
次に、図3に示されるように、Si基板110の一方の面における凸部112の上に接合部金属膜114を形成し、後述する開口部113となる領域の周囲に接合部金属膜115を形成する。具体的には、Si基板110において凹部111が形成されている一方の面にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、接合部金属膜114及び115が形成される領域に開口を有する不図示のレジストパターンを形成する。この後、真空蒸着またはスパッタリングにより、Cr/Pt/Auからなる金属積層膜を形成した後、有機溶剤に浸漬させることにより、レジストパターンの上に形成された金属積層膜をレジストパターンとともにリフトオフにより除去する。これにより、残存する金属積層膜により接合部金属膜114及び115を同時に形成することができる。このように形成された接合部金属膜114及び115における各々の金属層の厚さは、Cr:50nm、Pt:50nm、Au:200nmである。尚、後述する第1の接合金属及び第2の接合金属は、金属膜の表面において濡れ広がりやすいため、第1の接合金属が所望の領域に濡れ広がるように接合部金属膜114を形成し、第2の接合金属が所望の領域に濡れ広がるように接合部金属膜115を形成する。
次に、図4に示されるように、凹部111が形成されている領域において、Si基板110を貫通する開口部113を形成する。具体的には、凹部111が形成されているSi基板110の一方の面にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、開口部113が形成される領域に開口を有する不図示のレジストパターンを形成する。この後、レジストパターンが形成されていない領域において、Si基板110を貫通するまで、ドライエッチングによりSiを除去することにより、開口部113を形成する。この後、レジストパターンは有機溶剤等により除去する。このように形成された開口部113は、直径kφが2mmであって、ピッチkpが5mmである。開口部113は、ドライエッチング以外の方法により形成してもよく、例えば、ウェットエッチング、サンドブラスト加工等により形成してもよい。尚、図4(a)は、この工程における上面図であり、図4(b)は、図4(a)における一点鎖線4A−4Bにおいて切断した断面図である。また、図4においては、便宜上、接合部金属膜114及び115は省略されている。
次に、図5に示されるように、Si基板110において凹部111が形成されている一方の面とは反対側の他方の面に、第1の透明基板である第1のガラス基板121を陽極接合により接合する。第1のガラス基板121は、直径φが4インチ、厚さが0.3mmのガラス基板であり、陽極接合は、陽極接合装置を用いて、加重が500N、温度が360℃で、600Vの電圧を10分間印加することにより行う。これにより、Si基板110に形成された開口部113の他方の面の側は、第1のガラス基板121により塞ぐことができる。尚、図5(a)は、この工程における上面図であり、図5(b)は、図5(a)における一点鎖線5A−5Bにおいて切断した断面図である。また、図5においては、便宜上、接合部金属膜114及び115は省略されている。
次に、図6に示されるように、Si基板110の中央付近における開口部113に、アルカリ金属を含む化合物140を設置し、更に、Si基板110の一方の面における開口部113間の所定の位置に、金属スペーサ150を設置する。金属スペーサ150は、例えば、溶融温度が280℃のAuSn合金により形成されている直径が0.2mmの粒状のものである。金属スペーサ150は、AuSn合金以外の材料により形成されたものであってもよく、例えば、AuGe合金、AuSi合金により形成されたものであってもよい。本実施の形態においては、開口部113のうちアルカリ金属を含む化合物140が設置された開口部を一の開口部と記載し、この一の開口部を除く開口部113を他の開口部と記載する場合がある。尚、図6(a)は、この工程における上面図であり、図6(b)は、図6(a)における一点鎖線6A−6Bにおいて切断した断面図である。また、図6においては、便宜上、接合部金属膜114及び115は省略されている。
次に、図7に示されるように、第2の透明基板である第2のガラス基板122の一方の面に、接合部金属膜124及び125を形成する。尚、接合部金属膜124は、Si基板110に形成された接合部金属膜114に対応する位置に形成されており、接合部金属膜125は、Si基板110に形成された接合部金属膜115に対応する位置に形成されている。具体的には、第2のガラス基板122の一方の面にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、接合部金属膜124及び125が形成される領域に開口を有する不図示のレジストパターンを形成する。この後、真空蒸着またはスパッタリングにより、Cr/Pt/Auが積層された金属積層膜を形成し、更に、有機溶剤に浸漬させることにより、レジストパターンの上に形成された金属積層膜をレジストパターンとともにリフトオフにより除去する。これにより、残存する金属積層膜により接合部金属膜124及び125が形成する。このように形成された接合部金属膜124及び125における各々の金属層の膜厚は、Cr:50nm、Pt:50nm、Au:200nmである。尚、後述する第1の接合金属及び第2の接合金属は、金属膜の表面において濡れ広がりやすいため、第1の接合金属が所望の領域に濡れ広がるように接合部金属膜124を形成し、第2の接合金属が所望の領域に濡れ広がるように接合部金属膜125を形成する。
次に、図8に示されるように、第2のガラス基板122の一方の面に形成された接合部金属膜125の上に、第2の接合金属により第2の接合金属層152を形成する。具体的には、第2のガラス基板122の一方の面にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行うことにより、第2の接合金属層152が形成される領域に開口を有する不図示のレジストパターンを形成する。この後、真空蒸着等により、膜厚が5μmの第2の接合金属からなる膜を成膜した後、有機溶剤等に浸漬させることにより、レジストパターンの上に成膜された第2の接合金属からなる膜をレジストパターンとともにリフトオフにより除去する。これにより、第2のガラス基板122の接合部金属膜125の上に第2の接合金属による第2の接合金属層152を形成する。本実施の形態においては、第2のガラス基板122の接合部金属膜125の上に形成される第2の接合金属層152は、幅が約50μmとなるように形成される。また、本実施の形態においては、第2の接合金属として、AuSn合金を用いたが、第2の接合金属は、AuGe合金やAuSi合金であってもよく、金属スペーサ150を形成している材料と同一なものを用いてもよい。本実施の形態において、第2の接合金属として用いられたAuSn合金は、重量比がAu:Sn=80:20の合金であり、溶融温度は280℃である。尚、図8(a)は、この工程における上面図であり、図8(b)は、図8(a)における一点鎖線8A−8Bにおいて切断した断面図である。
次に、図9に示されるように、第2のガラス基板122の一方の面に形成された接合部金属膜124の上に、第1の接合金属により第1の接合金属層151を形成する。具体的には、第2のガラス基板122の一方の面にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行う。これにより、図10に示されるように、第1の接合金属層151が形成される領域に開口部161aを有するレジストパターン161を形成し、更に、スクリーン印刷と同様の方法により、開口部161aを埋め込むように、第1の接合金属層151を形成する。この後、レジストパターン161は有機溶剤等により除去する。第1の接合金属は、粒径が0.05μm以上、1μm以下のAu微粒子であり、第1の接合金属層151は、接合部金属膜124の上に、幅が約50μm、厚さが約20μmとなるように形成する。尚、後述するように、第1の接合金属層151においては、第2の接合金属の溶融温度よりも低い、約200℃の温度で接合されるものであるため、Au微粒子の粒径は、0.05μm以上、1μm以下であることが好ましい。尚、図9(a)は、この工程における上面図であり、図9(b)は、図9(a)における一点鎖線9A−9Bにおいて切断した断面図である。
次に、図11及び図12に示されるように、Si基板110の一方の面と第2のガラス基板122の一方の面とを第1の接合金属層151における第1の接合金属により接合する。具体的には、真空チャンバー内にバッファガスとなる窒素ガスを導入して窒素雰囲気とし、この窒素雰囲気中において、Si基板110の一方の面における接合部金属膜115に第2のガラス基板122の一方の面に形成された第1の接合金属層151を接触させる。この後、200℃の温度で、20MPaの加圧を30分間行うことにより、第1の接合金属層151を形成しているAu微粒子による圧着がなされ、Si基板110の一方の面の縁部と第2のガラス基板122の一方の面の縁部とを接合する。この際、Si基板110と第1のガラス基板121との間に存在している金属スペーサ150の溶融温度は約280℃であるため、この工程における温度では、溶けることなく形状を保っている。従って、Si基板110の一方の面と第2のガラス基板122の一方の面とは接触はしていない。
このようなAu微粒子を用いた接合では、接合の際に、酸素等のガスが発生することはないため、アルカリ金属を含む化合物140が入れられている開口部113に、酸素等の不純物が入り込むことはない。また、Au微粒子による接合では、一度圧着されると、Auの融点(約1000℃)まで加熱しないと圧着された部分は融解しないため、1000℃以下の温度であれば、200℃以上の温度に再加熱されたとしても、第1の接合金属層151が溶けることはない。よって、1000℃以下の温度であれば、温度加熱を伴う工程を行っても、開口部113の内部のガスが外に漏れ出すことはない。具体的には、圧着された後の第1の接合金属層151の溶融温度は、第2の接合金属層152を形成している第2の接合金属における接合温度よりも高いため、第2の接合金属層152による接合の際には、圧着された後の第1の接合金属層151が溶けることはない。尚、図11(a)は、この工程における上面図であり、図11(b)は、図11(a)における一点鎖線11A−11Bにおいて切断した断面図であり、図12は、この工程における断面の要部拡大図である。
次に、図13及び図14に示されるように、アルカリ金属を含む化合物140よりアルカリ金属を発生させる。アルカリ金属を含む化合物140がCsディスペンサーである場合には、Csディスペンサーに、レンズ171により集光させたレーザ光を照射し加熱することによりアルカリ金属ガスであるCsを発生させる。Csは融点が約28℃であるため、アルカリ金属を含む化合物140に集光されたレーザ光を照射し、約28℃以上に加熱することにより、Csの気体と液体の混合状態となる。このうち気体となったCsがSi基板110と第2のガラス基板122との隙間を介して拡散し、各々の開口部113に供給される。この際、レーザ光は、レンズ171により集光されているため、アルカリ金属を含む化合物140にのみ集光し加熱することができる。よって、この工程においては、第2の接合金属層152を形成している第2の接合金属であるAuSn合金は、溶融温度以上に加熱されることはなく、第2の接合金属層152が融解することはない。尚、図13(a)は、この工程における上面図であり、図13(b)は、図13(a)における一点鎖線13A−13Bにおいて切断した断面図であり、図14は、この工程における断面の要部拡大図である。
次に、図15及び図16に示されるように、第2の接合金属層152により、Si基板110の一方の面と第2のガラス基板122の一方の面とを接合する。具体的には、第2の接合金属層152を形成している第2の接合金属であるAuSnの溶融温度よりも高い温度に加熱した状態で、図16に記載されているように、押付け治具172により、第2のガラス基板122の側からSi基板110に向けて圧力を加える。この後、冷却することにより、Si基板110と第2のガラス基板122とが第2の接合金属層152により接合される。この接合の際に用いられる押付け治具172の直径は約8.5mmであり、第2のガラス基板122の直径よりも小さい。第2の接合金属層152による接合の際には、押付け治具172により第2のガラス基板122の中央部分をSi基板110が設けられている側に加圧し、Si基板110の一方の面における凹部111の底面と第2のガラス基板122の一方の面とを接合する。この接合においては、押付け治具172により第2のガラス基板122に加えられる圧力は100MPaであり、10分間加圧することにより、第2のガラス基板122の周囲を変形させながら接合を行う。
これにより、第2の接合金属層152によりSi基板110と第2のガラス基板122とが接合される。この際、金属スペーサ150も第2の接合金属層152と同じAuSnにより形成されているため、金属スペーサ150も溶融し開口部113の周囲に濡れ広がる。このような溶融し開口部113の周囲に濡れ広がった金属スペーサ150は、Si基板110と第2のガラス基板122との接合に寄与する。これにより、Si基板110に形成された開口部113は、第2の接合金属層152による接合により空間的に各々分離される。尚、図15(a)は、この工程における上面図であり、図15(b)は、図15(a)における一点鎖線15A−15Bにおいて切断した断面図であり、図16は、この工程における断面の要部拡大図である。
次に、図17に示されるように、ダイシング等により各々の開口部113ごとに分離する。これにより、図18に示されるような開口部113をセル内部とする本実施の形態におけるアルカリ金属セルを作製することができる。尚、図18(a)は、本実施の形態におけるアルカリ金属セルの上面図であり、図18(b)は、図18(a)における一点鎖線18A−18Bにおいて切断した断面図である。
本実施の形態における作製されたアルカリ金属セルは、セル内部に含まれる酸素等の不純物の量が少ないため、原子発振器に用いた場合に、経時変化等がなく、安定度の高い原子発振器となる。
また、アルカリ金属セルのセル内部には、アルカリ金属を発生させた後のアルカリ金属を含む化合物が存在していないため、セルの内部の圧力を長期的安定に保つことができる。また、1つのアルカリ金属を含む化合物が設置されている開口部、即ち、1つの原料室に対し、複数のアルカリ金属セルを同時に作製することができるため、量産性が高く、低コストでアルカリ金属セルを製造することができる。
上記においては、第1の接合金属層151を形成している第1の接合金属に、接合温度が約200℃のAu微粒子を用い、第2の接合金属層152を形成している第2の接合金属に接合温度が約280℃のAuSn合金を用いた場合について説明した。しかしながら、これに限定されることはなく、第1の接合金属と第2の接合金属とは、(1)に示される式の関係にあればよい。即ち、第1の接合金属の接合温度よりも、第2の接合金属の接合温度が高い関係にあればよい。
(第1の接合金属の接合温度)<(第2の接合金属の接合温度)・・・・・(1)
また、上記においては、金属スペーサ150と第2の接合金属層152とは、同じAuSnで形成されており、金属スペーサ150の溶融温度と第2の接合金属の接合温度とが等しい場合について説明した。しかしながら、金属スペーサ150の溶融温度と、第1の接合金属の接合温度及び第2の接合金属の接合温度との関係は、(2)に示される式の関係にあればよい。即ち、金属スペーサ150の溶融温度は、第1の接合金属の接合温度よりも高く、第2の接合金属の接合温度以下となる関係にあればよい。
(第1の接合金属の接合温度)<(金属スペーサ150の溶融温度)≦(第2の接合金属の接合温度)・・・・・・・・(2)
上記においては、第2の接合金属層152を形成している第2の接合金属及び金属スペーサ150を形成している材料としては、溶融温度が280℃のAuSn(重量比がAu:Ge=96.8:3.2)を用いた場合について説明した。第2の接合金属及び金属スペーサ150を形成している材料としては、他に溶融温度が361℃のAuGe(重量比がAu:Ge=87.5:12.5)、溶融温度が363℃のAuSi(重量比がAu:Ge=96.8:3.2)等を用いることができる。
また、上記においては、第2のガラス基板122に第1の接合金属層151と第2の接合金属層152を形成されているが、第1の接合金属層151と第2の接合金属層152のうちのいずれか一方、または双方をSi基板110の一方の面に形成してもよい。この際、第1の接合金属層151と第2の接合金属層152のうちのいずれか一方をSi基板110の一方の面に形成した場合には、他方は第2のガラス基板122に形成する。
〔第2の実施の形態〕
次に、第2の実施の形態におけるアルカリ金属セルの製造方法について説明する。本実施の形態は、Si基板110の一方の面に、溝部210を形成し、溝部210に金属スペーサ150を設置して製造する製造方法である。尚、下記に説明する内容以外については、第1の実施の形態と同様である。
本実施の形態においては、図19に示されるように、Si基板110の一方の面において、金属スペーサ150が設置される領域を含む領域に溝部210が形成されており、溝部210を含む領域には、接合部金属膜215が形成されている。溝部210の形成方法は、最初に、Si基板110の一方の面にフォトレジストを塗布した後、露光装置による露光、現像により溝部210が形成される領域に開口を有する不図示のレジストパターンを形成する。この後、ドライエッチング等により、レジストパターンの形成されていない領域におけるSiを所望の深さまでエッチングにより除去し、更に、レジストパターンは有機溶剤等により除去する。このように形成された溝部210は、所望の深さ、幅、長さで形成されており、金属スペーサ150が設置される領域を中心に縦横に延びるように形成されている。また、接合部金属膜215は、第1の実施の形態における接合部金属膜115と同様のものであり、Cr/Pt/Auを形成する際の工程と同様の工程により形成されている。このように形成された溝部210における接合部金属膜215の上に金属スペーサ150を設置する。尚、この工程は、第1の実施の形態におけるアルカリ金属セルの製造方法における図11及び図12に対応する工程である。
次に、第1の実施の形態と同様に、アルカリ金属を含む化合物を加熱することにより、アルカリ金属を発生させた後、図20に示されるように、第2の接合金属層152によりSi基板110と第2のガラス基板122とを接合する。具体的には、第2の接合金属層152の接合温度以上に加熱した状態で、第2のガラス基板122をSi基板110側に加圧することにより接合する。ここで、金属スペーサ150も第2の接合金属層152を形成している第2の接合金属と同じAuSuにより形成されているため、第2の接合金属層152による接合の際、金属スペーサ150も溶けて、溝部210に沿って濡れ広がる。このように、金属スペーサ150が溶けて、溝部210に沿って濡れ広がるが、溝部210が形成されていない場合には、溶けた金属スペーサ150が行き場をなくし、開口部113に流れ込んでしまい、歩留りの低下等を招く。しかしながら、本実施の形態においては、金属スペーサ150が溶けて、溝部210に沿って濡れ広がるため、開口部113に流れ込むことを防ぐことができるため、高い歩留りでアルカリ金属セルを製造することができる。尚、この工程は、第1の実施の形態におけるアルカリ金属セルの製造方法における図15及び図16に対応する工程である。
また、本実施の形態においては、図21に示されるように、溝部210は開口部113の周囲を囲むように形成してもよい。これにより、金属スペーサ150を形成しているAuSnが溝部210に沿って濡れ広がり、開口部113の周囲をより強固にすることができる。
〔第3の実施の形態〕
次に、第3の実施の形態について説明する。ところで、第1の接合をSi基板の周辺において行った場合、アルカリ金属を含む化合物が設置されているところの近くの開口部と、距離が離れている開口部とでは、アルカリ金属の量に差がでる可能性がある。即ち、アルカリ金属を含む化合物をレーザにより加熱してアルカリ金属原子を蒸発させて各々の開口部まで拡散させた場合、アルカリ金属を含む化合物から離れたところでは、途中でトラップされる可能性があり、各々の開口部において差(ばらつき)が発生する。
本実施の形態は、Si基板を複数に区切ることによりブロックを形成し、アルカリ金属原子は区切られた小さなブロック内を拡散させることにより、各々のアルカリ金属セルにおけるアルカリ金属原子の量のばらつきを少なくするものである。
次に、第3の実施の形態におけるアルカリ金属セルの製造方法について、図22から図28に基づき説明する。
最初に、図22に示すように、Si基板310の一方の面に、複数の凹部311を形成するためのレジストパターン316を形成し、ドライエッチングにより、レジストパターン316が形成されていない領域におけるSi基板310の表面を除去する。これにより、Si基板310の一方の面に深さ100μmの凹部311を形成する。本実施の形態において用いられるSi基板310は、φ4in、厚さが1.5mmのSi基板である。
この後、レジストパターン316を有機溶剤等により除去する。これにより、Si基板310の一方の面におけるレジストパターン316が形成されていた領域においては、Si基板310の表面においてエッチングがなされないため、凸部312a、312bが形成される。尚、本実施の形態においては、凸部312aはSi基板310の周囲に形成されるものとし、凸部312bは凹部311と凹部311との境界に形成されるものとする。尚、図22(a)は、この工程における上面図であり、図22(b)は、図22(a)における一点鎖線22A−22Bにおいて切断した断面図である。
次に、図23に示すように、Si基板310の凹部311が形成されている領域において、Si基板310を貫通する開口部313、314を形成する。具体的には、Si基板310の凹部311が形成されている一方の面にフォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行なうことにより、開口部313、314が形成される領域に開口部を有する不図示のレジストパターンを形成する。この後、ドライエッチング等により、レジストパターンの開口部におけるSi基板310を除去し貫通させることにより、Si基板310に開口部313、314を形成する。この後、レジストパターンは、有機溶剤等により除去する。開口部313、314を形成する方法としては、ドライエッチング以外の方法であってもよく、例えば、サンドブラストによる加工、ウェットエッチング(異方性エッチング)等の方法であってもよい。
これにより、本実施の形態においては、1つの凹部311において、3×3の計9個の開口部313、314が形成される。形成される開口部313、314の直径は、2mmであり、5mmピッチで形成される。本実施の形態においては、各々の凹部311により各々のブロックが形成される。また、基板310に形成される3×3の開口部313、314のうち、中心に形成される貫通孔を開口部313とし、開口部313の周囲に形成される貫通孔を開口部314とする。図23(a)は、この工程における上面図であり、図23(b)は、図23(a)における一点鎖線23A−23Bにおいて切断した断面図であり、図23(c)は、図23(a)における一点鎖線23Cで囲まれた領域を拡大した拡大図である。
次に、図24に示すように、Si基板310の一方の面における凸部312bの上に、接合部金属膜115を形成し、開口部313、314の周囲を囲むように接合部金属膜114を形成する。尚、図24(a)は、この工程における1ブロックの上面の拡大図であり、図24(b)は、図24(a)における一点鎖線24A−24Bにおいて切断した断面図である。また、図24に示されている接合部金属膜114、115については、後述する図25、図26等においては、省略されている。
具体的には、第1の接合としてAu微粒子接合、第2の接合としてAuSnの溶融接合をする場合において、双方の接合したい領域に接合部金属膜114、115を形成する。形成される接合部金属膜114、115は、Cr/Pt/Au等の金属多層膜が用いられており、Crは基板との接着剤の役割を果たし、Ptはバリアメタル、Auは接合のためAu微粒子やAuSnとの濡れ性をよくするためのものである。
本実施の形態においては、接合部金属膜114、115は、リフトオフにより形成されている。具体的には、Si基板310において凹部311が形成されている一方の面に、フォトレジストを塗布し、露光装置による露光、現像を行なうことにより、接合部金属膜114、115が形成される領域に開口を有する不図示のレジストパターンを作製する。この後、真空蒸着又はスパッタリングにより、金属多層膜を成膜した後、有機溶剤等に浸漬させことにより、レジストパターンとともに、レジストパターンの上に成膜された金属多層膜を除去する。これにより、レジストパターンの開口部における残存する金属多層膜により不図示の接合部金属膜114、115が形成される。本実施の形態においては、金属多層膜は、膜厚が50nmのCr膜、膜厚が50nmのPt膜、膜厚が200nmのAu膜をスパッタリングにより順次積層することにより形成されている。
同様に、Si基板310の一方の面に接合される第2のガラス基板122においても、後述する図27等において示される接合部金属膜124、125を形成する。第2のガラス基板122に形成される接合部金属膜124、125は、Si基板310に形成される接合部金属膜114、115と同様ものであり、Si基板310に形成される接合部金属膜114、115に対応する位置に形成される。
尚、上記においては、フォトレジストを塗布する場合について説明したが、ドライフィルムレジストをSi基板310等に張り付けた後、露光、現像することにより、レジストパターンを形成してもよい。
次に、図25に示すように、Si基板310の他方の面に、第1のガラス基板121を接合する。第1のガラス基板121は、厚さが0.3mmのガラス基板であり、Si基板310の他方の面への第1のガラス基板121の接合は、本実施の形態においては、陽極接合により行なう。この際行なわれる陽極接合は、例えば、陽極接合装置を用いて、荷重が500N、温度が360℃、電圧が600V、時間が10分間の接合条件で行なう。尚、図25(a)は、この工程における上面図であり、図25(b)は、図25(a)における一点鎖線25A−25Bにおいて切断した断面図である。
次に、図26に示すように、各々のブロック、即ち、各々の凹部311に形成された中央の開口部313にアルカリ金属を含む化合物140を設置し、凹部311における開口部313と開口部314との間に、複数の金属スペーサ150を設置する。金属スペーサ150は、複数のAuSn(20%)合金により形成されており、金属スペーサ150を形成しているAuSn(20%)合金の融点は、280℃であり、ワイヤ形状のものや粒形のものが市販されている。本実施の形態においては、金属スペーサ150には、直径0.2mmの粒形状のものが用いられている。尚、図26(a)は、この工程における上面図であり、図26(b)は、図26(a)における一点鎖線26A−26Bにおいて切断した断面図であり、図26(c)は、図26(a)における一点鎖線26Cで囲まれた領域を拡大した拡大図である。
次に、図27に示すように、真空チャンバー内にバッファガスとなる窒素を導入し、真空チャンバー内において、Si基板310の一方の面に第2のガラス基板122を接合する第1の接合を行う。具体的には、圧力が10KPaとなるようコントロールして、Si基板310の一方の面に形成された凹部311となるブロックの周囲において、第2のガラス基板122の接合部金属膜125の上に形成された第1の接合金属層151を接触させる。第1の接合金属層151は、金属微粒子により形成されており、この後、200℃の温度で20MPaの加圧を30分間行う。これにより、Au微粒子からなる第1の接合金属層151が圧着され、各々のブロックの周辺部分のみ接合される。
この際、Si基板310の凹部311の内部においては、金属スペーサ150により、Si基板310と第2のガラス基板122との間に隙間が形成される。この第1の接合では、接合の際の温度を200℃としているため、金属スペーサ150であるAuSn(20%)合金は融解(融解温度:280℃)していない。しかしながら、20MPaの加圧により若干変形するため、Si基板310と第2のガラス基板122との間の隙間は、Si基板310の周辺部分の高さと同程度の100μmとなる。
このような金属微粒子からなる接合では、接合の際に酸素などのガスは発生することはないため、アルカリ金属を含む化合物140が封入されているセル等の内部となる開口部313、314に酸素などの不純物が入り込むことはない。また、Auの微粒子は一度圧着されるとAuの融点(約1000℃)までは、融解しないという性質があるため、接合温度(200℃)以上の温度に再加熱されたとしても、セルの内部におけるガスが、接合面を介してセルの外部へ漏れ出すことはない。尚、本実施の形態においては、セルとは、アルカリ金属セル及びアルカリ金属セルが形成される部分を意味しており、セルの内部は、Si基板310と、第1のガラス基板121と、第2のガラス基板122とにより囲まれる開口部314により形成される。
この後、第1の実施の形態における図14に示される場合と同様に、アルカリ金属を含む化合物140からアルカリ金属を生成する。アルカリ金属を含む化合物140としてCsディスペンサーを用いた場合、Csディスペンサーのみにレーザ光を照射して加熱し、Csを発生させる。尚、レーザ光をCsディスペンサーのみに集光して加熱するため、AuSn合金は融点以上とはならず融解しない。開口部313内において発生させたCsは融点が約28℃であり、融点以上に加熱することで液体と気体の混合状態となる。気体のCsはSi基板310と第2のガラス基板122との隙間を介して、開口部313からブロック内の開口部314に拡散する。本実施の形態においては、1枚のSi基板310を小さく区切ってブロック化し、各々のブロック毎にアルカリ金属を含む化合物140を配置しているため、開口部313の周囲における開口部314にアルカリ金属蒸気を均一に拡散させることができる。
次に、図28に示すように、接合装置内において第2の接合を行う。第2の接合は、第2の接合金属層152を形成しているAuSnの溶融温度(280℃)よりも高い温度に設定し、圧力をかけることによりAuSn溶融接合を行なう。接合時においては、ブロックの外周よりも小さい押付け治具(15mm×15mm)によりSi基板310の中央部を100MPaで10分間押付け、ブロックの周縁部の第2のガラス基板122を変形させながら接合する。これにより、第2の接合金属層152により第2の接合が行なわれる。
この際、AuSnにより形成されている金属スペーサ150も溶融し、Csガスが拡散した通路(スペース)を押しつぶすことによりSi基板310と第2のガラス基板122との接合が行なわれる。
この後、Si基板310に第1のガラス基板121及び第2のガラス基板122が接合されたものを開口部314ごとに分割することにより、開口部314内にアルカリ金属原子が封入されている本実施の形態におけるアルカリ金属セルが完成する。
本実施の形態においては、Si基板310を複数のブロックに分けているため、各々の開口部314に均一にアルカリ金属蒸気を拡散させることができ、均一なアルカリ金属セルを得ることができ、アルカリ金属セルの歩留りを向上させることができる。
〔第4の実施の形態〕
次に、第4の実施の形態について説明する。本実施の形態は、第1から第3の実施の形態における製造方法により製造されたアルカリ金属セルを用いて製造される原子発振器である。図29に基づき本実施の形態における原子発振器について説明する。本実施の形態における原子発振器は、CPT方式の小型原子発振器であり、光源410、コリメートレンズ420、λ/4板430、アルカリ金属セル440、光検出器450、変調器460を有している。
光源410は、面発光レーザ素子が用いられている。アルカリ金属セル440には、アルカリ金属としてCs(セシウム)原子ガスが封入されており、D1ラインの遷移を用いるものである。光検出器450は、フォトダイオードが用いられている。
本実施の形態における原子発振器では、光源410より出射された光をセシウム原子ガスが封入されたアルカリ金属セル440に照射し、セシウム原子における電子を励起する。アルカリ金属セル440を透過した光は光検出器450において検出され、光検出器450において検出された信号は変調器460にフィードバックされ、変調器460により光源410における面発光レーザ素子を変調する。
図30に基づき、本実施の形態における原子発振器について説明する。本実施の形態における原子発振器は、回路基板471上に縦方向に形成されている。回路基板471上には、アルミナ基板472が設けられており、アルミナ基板472上には光源410となる面発光レーザ素子が設置されている。尚、アルミナ基板472は、光源410の温度等を制御するための面発光レーザ用ヒータ473が設けられている。光源410の上方には、ND(Neutral Density)フィルタ474が設けられている。NDフィルタ474は、ガラス等により形成された断熱スペーサ475により所定の位置に設置されている。NDフィルタ474の上部にはコリメートレンズ420が設けられており、コリメータレンズの上方には、λ/4板430が設けられている。λ/4板430はシリコン等により形成されたスペーサ476により所定の位置に設置されている。λ/4板430の上には、アルカリ金属セル440が設けられている。アルカリ金属セル440は、2枚のガラス基板441を有しており、2枚のガラス基板441が対向している状態で、縁の部分がシリコン基板442により接続されており、ガラス基板441とシリコン基板442に囲まれた部分には、アルカリ金属が封入されている。尚、アルカリ金属セル440において、レーザ光が透過する面がガラス基板441により形成されている。アルカリ金属セル440の両側には、セル用ヒータ477が設けられており、アルカリ金属セル440を所定の温度に設定することができる。アルカリ金属セル440の上方には、光検出器450が設けられており、光検出器450はシリコンからなるスペーサ478により所定の位置に設置されている。
次に、図31に、CPTに関連する原子エネルギー準位の構造を示す。二つの基底準位から励起準位に電子が同時に励起されると光の吸収率が低下することを利用する。面発光レーザは搬送波波長が894.6nmに近い素子を用いている。搬送波の波長は面発光レーザの温度、もしくは出力を変化させてチューニングすることができる。図32に示すように、変調をかけることで搬送波の両側にサイドバンドが発生し、その周波数差がCs原子の固有振動数である9.2GHzに一致するように4.6GHzで変調させている。図33に示すように、励起されたCsガスを通過するレーザ光はサイドバンド周波数差がCs原子の固有周波数差に一致した時に最大となる。従って、光検出器450の出力が最大値を保持するように変調器460においてフィードバックして光源410における面発光レーザ素子の変調周波数を調整する。原子の固有振動数が極めて安定なので変調周波数は安定した値となり、この情報がアウトプットとして取り出される。尚、波長が894.6nmの場合では、±1nmの範囲の波長が必要となる。
尚、本実施の形態における原子発振器においては、アルカリ金属セル440には、第1から第3の実施の形態におけるアルカリ金属セルのいずれかが用いられている。また、本実施の形態における原子発振器のアルカリ金属セル440において、シリコン基板442は、第1の実施の形態等におけるSi基板110に相当するものである。また、ガラス基板441は、第1の実施の形態等における第1のガラス基板121及び第2のガラス基板122に相当するものである。
また、本実施の形態においては、アルカリ金属としてCsを用い、そのD1ラインの遷移を用いるために波長が894.6nmの面発光レーザを用いたが、CsのD2ラインを利用する場合852.3nmを用いることもできる。また、アルカリ金属としてRb(ルビジウム)を用いることもでき、D1ラインを利用する場合は795.0nm、D2ラインを利用する場合は780.2nmを用いることができる。また、Rbを用いる場合の変調周波数は、87Rbでは3.4GHz、85Rbでは1.5GHzで変調させる。尚、これらの波長においても、±1nmの範囲の波長が必要となる。
以上、本発明の実施に係る形態について説明したが、上記内容は、発明の内容を限定するものではない。