以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。説明中、「上」、「下」等の方向を示す語は、図面に示された状態に基づいた便宜的な語である。
図1は、一実施形態に係る分光装置の構成を模式的に示す図面である。分光装置1は、いわゆるラマン分光装置である。分光装置1は、励起光源(光源部)2と、ラマンプローブとしての分光プローブ10と、分光器3とを備える。図1では、分光装置1によって、試料20を測定する場合の状態を模式的に示している。図1では、試料20は、液体試料であり、試料20の例は、後述するように、リチウムイオン二次電池の電解液である。
励起光源2は、ラマン分光が可能な所定の波長の励起光を出力可能な光源であればよい。励起光源2の例は、レーザ光源である。レーザ光源としての励起光源2の具体例は、励起光として波長532nmの光を出力する固体レーザである。
分光プローブ10は、励起光源2から出力された励起光を試料20まで伝搬させる励起用ファイバ11と、励起光が照射された試料20からのラマン散乱光としての信号光を分光器3に伝搬させるための検出用ファイバ15とを有する。
分光器3は、検出用ファイバ15から出力されたラマン散乱光を分光するための装置である。分光器3は、ラマン散乱光を分光可能であればよく、公知の分光器3が使用され得る。
一実施形態において、図1に示すように、分光装置1は、励起光源2から出力された励起光を励起用ファイバ11の入射端11b(励起光源2側の端)に入射させるための第1の光学系(入射側光学系)4を備えても良い。本実施形態では、励起光源2自体を光源部として説明しているが、光源部は、励起光源2と共に、第1の光学系4を含んでもよい。
同様に、分光装置1は、検出用ファイバ15の出力端(分光器3側の端)15bから出力される信号光を分光器3に入射させるための第2の光学系(出射側光学系)5を備えても良い。更に、分光装置1は、出射端15bから分光器3に導かれる信号光の光路上に、励起光をカットし信号光のみを通過させるフィルタを備えてもよい。このようなフィルタを備えることで、検出感度が向上する。
分光プローブ10の構成について、図2(a)及び図2(b)を利用して更に詳細に説明する。図2(a)は、図1に示した分光プローブの試料側の先端部の拡大図である。図2(a)では、分光プローブ10の先端部を模試的に示している。図2(b)は、図2(a)の矢印α方向から見た場合の分析領域の模式図である。
分光プローブ10は、試料20側の先端部において、励起用ファイバ11と検出用ファイバ15とが互いに固定された固定領域Fを有してもよい。固定領域Fにおいて、励起用ファイバ11のファイバ軸C1は、検出用ファイバ15のファイバ軸C2と略平行であり得る。
固定領域Fにおける励起用ファイバ11を検出用ファイバ15に(或いは、検出用ファイバ15を励起用ファイバ11に)固定する方法は、それらを固定可能であって、所望の分析が可能な方法であればよい。例えば、励起用ファイバ11と検出用ファイバ15とが接するように接着剤などで固定してもよいし、或いは、励起用ファイバ11及び検出用ファイバ15とを固定部材で固定してもよい、固定部材としては、例えば、励起用ファイバ11及び検出用ファイバ15それぞれを挿入可能な孔が形成された部材が例示され得る。
固定領域Fにおいて、励起用ファイバ11と検出用ファイバ15との間の距離の例は、励起用ファイバ11と検出用ファイバ15のうち直径のより小さいファイバの直径の3倍以下である。これにより、後述する分光プローブ10の空間分解能をより高くし得る。励起用ファイバ11と検出用ファイバ15との間の距離は、例えば、励起用ファイバ11のファイバ軸(又は中心軸若しくは光軸)C1と、検出用ファイバ15のファイバ軸(又は中心軸若しくは光軸)C2との間の距離である。
励起用ファイバ11は、コア部12とクラッド部13とを有する光ファイバである。コア部12の屈折率は、例えば1.5〜1.8である。クラッド部13は、コア部12の屈折率より小さく、例えば、1.4〜1.7である。一実施形態において、励起用ファイバ11の直径は、試料20に挿入可能な大きさであればよい。励起用ファイバ11の直径の例は30μmである。直径が30μmの励起用ファイバ11の場合、クラッド部13の厚さの例は1.75μmである。励起用ファイバ11の試料20側の先端部の端面11aは、ファイバ軸C1に対して傾斜している。ファイバ軸C1に対する端面11aの傾斜角θ1の例は45°である。端面11aは、図2(a)に示したように、平坦面であってもよい。端面11aにはミラーコートが施されている。ミラーコートは、例えば、端面11aの外面に金属膜14を形成することで実現され得る。ミラーコートの具体例は、アルミニウムメッキ、銀メッキなどである。
上記構成では、励起用ファイバ11内を伝搬してきた励起光は端面11aで反射し、励起用ファイバ11の側方に照射される。励起用ファイバ11から出射された励起光で照射される領域を照射領域30と称す。図2(a)及び図2(b)では、ハッチングにより照射領域30を示している。
励起用ファイバ11は、次のように製造され得る。まず、光ファイバにおいてそのファイバ軸C1に直交している端面を、ファイバ軸C1に対して傾斜するように研磨することによって、研磨面を形成する。次に、その研磨面にミラーコートを施す。ミラーコートは、例えば、金属膜14を蒸着により形成することで実施され得る。
検出用ファイバ15は、励起用ファイバ11と同様に、コア部16とクラッド部17とを有する光ファイバである。コア部16及びクラッド部17の屈折率の例は、励起用ファイバ11の場合と同様である。一実施形態において、励起用ファイバ11の場合と同様に、検出用ファイバ15の直径は、試料20に挿入可能な大きさであればよい。検出用ファイバ15の直径及びクラッド部17の厚さの例は、励起用ファイバ11の直径及びクラッド部の厚さと同じでもよい。検出用ファイバ15の先端側の端面15aは、ファイバ軸C2に対して直交している。
検出用ファイバ15は、励起用ファイバ11の端面11aで反射した励起光が出射される側に配置されている。検出用ファイバ15は、励起用ファイバ11の端面11aからの励起光が照射された試料20から生じたラマン散乱光(信号光)が端面15aから入射されるように、励起用ファイバ11に対して配置されている。例えば、図2に示すように、励起用ファイバ11が検出用ファイバ15より突出するように、すなわち、分光プローブ10の試料20側の先端部において、段差が生じるように、検出用ファイバ15は励起用ファイバ11に対して配置されている。
一実施形態において、図2に示したように、検出用ファイバ15は、励起用ファイバ11から出射された励起光の照射領域30の外側に配置される。この場合、端面15aが照射領域30との間の距離が狭い方が、空間分解能を向上させる観点から好ましい。一実施形態において、励起用ファイバ11の端面11aにおいて、検出用ファイバ15側と反対側の縁、すなわち、端面11aのうちファイバ軸C1方向において、入射端11b(図1参照)側に位置する縁と同じ位置又はその近傍に端面15aが位置するように配置されてもよい。
上記構成では、励起光源2から出力され励起用ファイバ11に入射された励起光は、励起用ファイバ11中を伝搬する。励起用ファイバ11で端面11aに向けて導かれてきた励起光は、ミラーコートされると共に、研磨面である端面11aで反射する。端面11aでの反射は、全反射条件以外の反射であることから、端面11aで反射された励起光は、励起用ファイバ11のクラッド部(壁面)13を透過して励起用ファイバ11の側方(検出用ファイバ15側)から出射される。すなわち、励起用ファイバ11を伝搬して来た励起光は、端面11aでその光路が曲げられて励起用ファイバ11から出射される。励起用ファイバ11から出射された励起光が試料20に照射されると、試料20で生じたラマン散乱光が信号光として検出用ファイバ15に入射する。検出用ファイバ15に入射された信号光は、検出用ファイバ15内を伝搬した後、出射端15b(図1参照)から出射される。出射端15bから出射された信号光は、分光器3に入射され、分光器3内で分光され得る。よって、分光装置1で試料20が分析され得る。
励起光の照射領域30内の試料20から信号光が生じる一方、検出できる信号光は、検出用ファイバ15に入射可能な光である。検出用ファイバ15に入射可能な光は、検出用ファイバ15の端面15a側の視野角(或いは、検出用ファイバ15の入射可能な光の最大入射角)内の領域の光である。以下の説明では、検出用ファイバ15の視野角内の領域を、受光領域31と称す。受光領域31は例えば検出用ファイバ15の開口数で規定されてもよい。図2(a)及び図2(b)では、照射領域30とは異なるハッチングを付して受光領域31を示している。
照射領域30内の試料20が励起光によって励起されると共に、受光領域31内の試料20から生じた信号光が検出用ファイバ15に入射することから、照射領域30と受光領域31とが重複した領域内の試料20が分光装置1により分析される。そのため、以下の説明では、分光プローブ10の外側の領域であって、励起光の照射領域30と、検出用ファイバ15の受光領域31の重複した領域を分析領域32とも称す。
分析領域32の大きさが、ラマン分光によって試料20を分析できる領域であるため、分析領域32の大きさが、分光プローブ10の空間分解能に対応する。本実施形態において、分光プローブ10の空間分解能は、次のように定義される。
すなわち、分光プローブ10の空間分解能は、分析領域32における幅L1、幅L2及び幅L3(図2(a)及び図2(b)参照)のうち一番大きな幅の値である。幅L1、幅L2及び幅L3のうちの一番大きな幅の値をLmaxとも称す。
幅L1は、図2(a)に示すように、励起用ファイバ11及び検出用ファイバ15のファイバ軸C1,C2を含む平面において、検出用ファイバ15のファイバ軸C2に直交する方向の幅である。幅L2は、図2(b)に示すように、励起用ファイバ11及び検出用ファイバ15のファイバ軸C1,C2を含む平面に直交する方向の分析領域32の幅である。幅L3は、ファイバ軸C1,C2に平行な方向の分析領域32の幅である。以下の説明では、L1,L2及びL3それぞれを対応する幅の方向を示すために使用することもある。
本明細書では特に断らない限り、分光装置1の空間分解能は、上記定義の空間分解能である。本明細書において、空間分解能が高いとは、空間分解能に対応するLmaxが小さいことを意味する。
上述したように、励起用ファイバ11を伝搬して来た励起光は、端面11aでその光路が曲げられて励起用ファイバ11から出射される。すなわち、照射領域30は、端面11aを基準として、試料20側に延びていく。そのため、以下、説明のために、ファイバ軸C1に沿って伝搬してきた光が端面11aで反射された光の進行方向に延びる方向を、照射領域30の延在方向A1と称す。この延在方向は、端面11aで反射された励起光の光路に対応する。なお、図2では、延在方向A1とファイバ軸C1との関係を示すため、延在方向A1を示す矢印を、端面11aまで延長して示している。この点は、他の図でも同様である。
同様に、受光領域31は、検出用ファイバ15に入射可能な光の領域であるため、端面15aと反対側に延びている。受光領域31は、仮にファイバ軸C2に沿って伝搬してきた光が端面15aから出射された場合において、その光の照射領域に対応する。そのため、仮にファイバ軸C2に沿って検出用ファイバ15内を伝搬してきた光が端面15aから出射された場合の光の進行方向を、受光領域31の延在方向A2と称す。この延在方向A2は、検出用ファイバ15に入射可能な信号光の光路に対応する。図2に示したように端面15aがファイバ軸C2に直交している形態では、受光領域31の延在方向は、ファイバ軸C2の方向と同じである。
分光プローブ10では、端面11aがファイバ軸C1に対して傾斜していることにより、励起用ファイバ11を伝搬してきた励起光は、端面11aでその光路が曲げられて励起用ファイバ11の側方に出射される。そのため、照射領域30の延在方向A1は、一定の角度(図2(a)の例では、約90°)でファイバ軸C1と交差している。ファイバ軸C2は、ファイバ軸C1と実質的に平行で、延在方向A2は、ファイバ軸C2の方向と同じであることから、照射領域30の延在方向A1と受光領域31の延在方向A2とは交差する。そのため、分析領域32は、端面11aがファイバ軸C1に直交している場合、すなわち、延在方向A1と延在方向A2とが実質的に平行である場合より小さい。従って、分光プローブ10では、空間分解能として1.0mm以下、すなわち、Lmaxが1.0mm以下という高い分解能を実現できる。
空間分解能は、L1,L2,L3のうちの一番大きい値Lmaxで決定される。そのため、幅L1,L2,L3はいずれも1.0mm以下であればよい。
ただし、L1は、好ましくは、100μm以下であり、更に好ましくは、50μm以下である。L2は、好ましくは、50μm以下であり、更に好ましくは、30μm以下である。L3は、好ましくは、100μm以下であり、更に好ましくは、50μm以下である。
上記のような好ましい範囲によって、例えば、幅L1,L2,L3それぞれの方向においてより小さい試料20の分光分析が可能である。
上記例示したようなL1,L2及びL3の範囲例は、励起用ファイバ11と検出用ファイバ15の配置関係、及び、端面11aの形状及び端面11aのファイバ軸C1に対する傾斜角θ1を調整することにより実現され得る。
例えば、幅L2が50μm以下であれば、リチウムイオン二次電池の電解液を試料20として分光分析可能である。この点を、図3(a)及び図3(b)を参照して説明する。
図3(a)は、分光プローブでリチウムイオン二次電池の電解液を分光分析する場合の実験構成例の模式図である。図3(b)は、図3(a)のIIIb―IIIb線に沿った断面図である。図3(b)は、IIIb―IIIb線に沿った断面構成の一部を拡大して示している。
図3(a)に示した試料20は、リチウムイオン二次電池の電解液である。電解液の屈折率は、通常、1.3〜1.6である。実験モデルとしてのリチウムイオン二次電池は、離間した正極板21と負極板22とを有する。正極板21は正極活物質の粉末をペースト状にしたものをアルミ箔25上に塗布したものである。負極板22は負極活物質の粉末をペースト状にしたものを銅箔26上に塗布したものである。正極板21と負極板22との間に、試料20としての電解液が注入されている。正極板21の内面(負極板22側の面)及び負極板22の内面(正極板21側の面)には、それぞれセパレータ23,24が設けられている。電解液が漏れないように、正極板21及び負極板22などの構成要素はケースに収容されているが、図3(a)及び図3(b)ではケースの記載を省略している。
実験モデルに対して、分光プローブ10は、図3(b)に示したように、ファイバ軸C1,C2を含む平面に直交する方向(すなわち、幅L2の方向)が、正極板21(又は負極板22)の板厚方向となるように、一対のセパレータ23,24の間に配置される。
実電池において、正極板及び負極板の間隔は、通常、10μm〜50μmである。正極板及び負極板との間には、それらの間隔と同様の厚さ(すなわち、10μm〜50μm)を有する、電解液が染み込んだセパレータが挟まれている。
このような実電池の構成では、分光プローブ10の挿入スペースが確保されないので、図3(a)に示した実験モデルは、電解液を試料20とするために、2枚のセパレータ23,24を離間して配置し、その間の電解液中に分光プローブ10を挿入可能な構成を採用している。
分析領域32の幅L2が50μm以下であれば、図3(a)及び図3(b)に示したような分光プローブ10の配置により、セパレータ23,24間の間隔を狭くできるので、実電池の構成により近いモデルで電解液を解析可能である。更に、幅L2が30μm以下であれば、例えば、セパレータ23,24の厚さを20μmとし、セパレータ23,24間の間隔を30μmとすすることで、正極板21及び負極板22との間の間隔が70μmとなり、更に実電池に近い構成となる。このような実験モデルであれば、従来知られていなかった実電池内の現象を、分光プローブ10を用いて解析可能である。
分光プローブ10としての空間分解能が1.0mm以下であり、更に、幅L2が50μm以下、更に好ましくは、30μm以下とする場合の構成は、例えば、以下の条件を満たせばよい。
(a)直径30μm〜50μmの励起用ファイバ11と検出用ファイバ15とが、固定領域Fにおいて固定されている。
(b)固定領域Fにおいて、励起用ファイバ11と検出用ファイバ15の距離がそれらのファイバのうち直径のより小さい方のファイバの直径の3倍以下、好ましくは、互いに接するように固定されている。
(c)固定領域Fにおいてファイバ軸C1とファイバ軸C2とが実質的に平行である。
(d)平坦面としての端面11aがファイバ軸C1に対して30°〜60°で傾いている。傾斜角θ1の一例は、45°である。
(e)検出用ファイバ15の端面15aが照射領域30とほぼ接する程度に近づけられて配置されている。
ここでは、リチウムイオン二次電池の実験モデルを例にして説明したが、例えば、幅L2方向における、解析対象である試料20の長さが短い場合などは、同様の構成を採用し得る。
励起光を伝搬させる光ファイバ(励起用ファイバ11)と、信号光を受ける光ファイバ(検出用ファイバ15)とが異なるので、例えば、一つの光ファイバで、励起光の伝搬と信号光の伝搬の2つの機能を持たせる場合より、検出感度が向上する。これは光ファイバ自体のラマン散乱又は発光を除去できるからである。
分光プローブ10では、試料20側の固定領域Fでは、励起用ファイバ11と検出用ファイバ15とそれらのファイバ軸C1,C2が実質的に平行であれば、分光プローブ10の先端部をより小さくすることができる。そのため、試料20が小さくても分光プローブ10の先端部を試料20内又は試料20近傍に配置することができるので、高い空間分解を維持しながら、より小さい試料20を分光分析可能である。固定領域Fを小さくすると共に、より高い空間分解能を実現する観点からは励起用ファイバ11と検出用ファイバ15とが接していることが好ましいが、前述したように、励起用ファイバ11と検出用ファイバ15との間の距離は、それらのファイバのうち直径のより小さいファイバの直径の3倍以下であればよい。
更に、端面11a自体を加工(斜め研磨)して励起光の光路を屈曲させているので、例えば、仮に微小なレンズを作成して光を集光させる場合などに比べて、空間分解能の向上が容易である。
端面11aは、研磨された研磨面であることから、端面11a内に凹凸が生じている場合より、励起光の光路を調整しやすい。また、光ファイバの端面を研磨した後、ミラ−コートを施すことで励起用ファイバ11を容易に製造できる。
以上、分光プローブ10の種々の形態について説明したが、分光プローブ10の形態は、分析領域32に基づく空間分解能が1.0mm以下となるような構成であれば、種々変形できる。以下、分光プローブの種々の変形例を、分光プローブ10との相違点を中心にして説明する。次に説明する種々の形態の分光プローブは、分光プローブ10の代わりに分光装置1に適用され得る。また、以下の各変形例の分光プローブは、少なくとも分光プローブ10と同様の作用効果を有する。各変形例を示す図面では、図2(a)において二点鎖線で示された矢印α方向から見た状態の図面は省略しているが、各変形例における空間分解能の定義は、分光プローブ10の場合と同様である。
図4は、図2(a)に示した分光プローブの第1の変形例を示す模式図である。図4では、第1の変形例としての分光プローブ40の試料20側の先端部を拡大して示している。分光プローブ40は、励起用ファイバ41と、検出用ファイバ15とを有する。分光プローブ40は、励起用ファイバ11の代わりに励起用ファイバ41を備える点で分光プローブ10と相違する。
励起用ファイバ41は、励起用ファイバ11と同様にコア部12とクラッド部13とを有する光ファイバである。励起用ファイバ41は、その試料20の端面41aがレンズ加工された面、すなわち、湾曲面である点で、励起用ファイバ11と相違する。より具体的には、端面41aは、外側に凸である湾曲面である。端面41aには、励起用ファイバ11の場合と同様に、ミラーコートが施されており、ミラーコートの例は、金属膜14である。
レンズ加工された端面41aの形状は、1.0mm以下の空間分解能が得られるような形状であって、試料20内を分析可能なように設定されていればよい。例えば、図3に示したリチウムイオン二次電池の電解液を試料20とする場合、レンズ加工された端面41aの形状は、幅L2の例示した好ましい範囲が更に得られるような形状であることが更に好ましい。
端面41aは、励起用ファイバ41のファイバ軸C1に対して傾斜すると共に、端面41aにミラーコートが施されているので、照射領域30と受光領域31との重複領域である分析領域32が、分光プローブ10の場合と同様に小さくなる。その結果、分光プローブ40でも、1.0mm以下の空間分解能を実現できる。
図5は、図2(a)に示した分光プローブの第2の変形例を示す模式図である。図5では、第2の変形例の分光プローブ50の試料20側の先端部を拡大して示している。図5に示した分光プローブ50は、励起用ファイバ51と検出用ファイバ52とを有する。
励起用ファイバ51は、励起用ファイバ11と同様にコア部12とクラッド部13とを有する光ファイバである。励起用ファイバ51は、試料20側の端面51aにミラーコートが施されてない点で、励起用ファイバ11と相違する。
検出用ファイバ52は、検出用ファイバ15と同様にコア部16とクラッド部17とを有する光ファイバである。検出用ファイバ52は、試料20側の端面52aが、ファイバ軸C2に対して傾斜している点で、検出用ファイバ15と相違する。
励起用ファイバ51の端面51aには、ミラーコートが施されていないので、励起用ファイバ51に導かれてきた励起光は、端面51aを通過して励起用ファイバ51から出射される。端面51aを通過する際、励起光は端面51aで屈折する。端面51aは、ファイバ軸C1に対して傾斜しているので、屈折された励起光は、ファイバ軸C1に対して斜め方向に出射される。従って、照射領域30の延在方向A1は、ファイバ軸C1に対して傾いている。この際、端面51aは、照射領域30の延在方向A1がファイバ軸C1に対して検出用ファイバ52側に向けて曲がるように形成されている。
検出用ファイバ52の端面52aは、励起用ファイバ11の場合と同様に、光ファイバの端面を研磨することにより形成されている。すなわち、端面52aは、端面51a(又は端面11)と同様に研磨面である。光は、端面52aで屈折して検出用ファイバ52に入射する。検出用ファイバ52に入射される光の光路は、仮に検出用ファイバ52内を伝搬してきた光が端面52aから出射された場合の光路と逆の光路である。従って、受光領域31の延在方向A2は、ファイバ軸C2に対して傾いている。この際、端面52aは、受光領域31の延在方向A2がファイバ軸C2に対して励起用ファイバ51側に向けて曲がるように形成されている。
図2(a)に示した場合と同様に、励起用ファイバ51と検出用ファイバ52とは、固定領域Fにおいて互いに接すると共に、ファイバ軸C1,C2が実質的に平行になるように配置されている。ただし、一実施形態において、図2(a)に示した場合と異なり、励起用ファイバ51の端面51aのうち、より先端側の縁と、検出用ファイバ52の端面52aのうち、より先端側の縁とが重なるように配置されている。
一実施形態において、分光プローブ50は、図5に例示したように、励起用ファイバ51と検出用ファイバ52とは、それらの接触部を含む平面に対して対象な構成であり得る。
端面51aがファイバ軸C1に対して傾斜していない場合、照射領域30の延在方向A1は、励起用ファイバ51のファイバ軸C1と同じ方向であり、端面51aから出射された励起光は端面51aから離れるに従って広がる。同様に、端面52aがファイバ軸C2に対して傾斜していない場合、受光領域31の延在方向A2は、検出用ファイバ52のファイバ軸C2と同じである。前述したように、検出用ファイバ52に入射される光の光路は、仮に検出用ファイバ52内を伝搬してきた光が端面52aから出射される光路と逆の光路である。従って、受光領域31の形状は、照射領域30と同様に、端面52aと反対側が広がった形状である。ファイバ軸C1とファイバ軸C2とは実質的に平行であるため、端面51a,52aが傾斜していない場合、照射領域30の延在方向A1と、受光領域31の延在方向A2とは実質的に平行である。そのため、端面51a(又は端面52a)側と反対側において、照射領域30と受光領域31は、ほとんど全体的に重なる。
これに対して、端面51a,52aそれぞれが対応するファイバ軸C1,C2に対して傾斜していると、図5に示したように、照射領域30の延在方向A1と、受光領域31の延在方向A2とは交差する。よって、延在方向A1と延在方向A2とが実質的に平行な場合より、照射領域30と受光領域31とが交差する領域である分析領域32は小さくなる。その結果、分光装置1において、1.0mm以下といった高い空間分解能を得られる。
端面51aのファイバ軸C1に対する傾斜角θ1及び端面52aのファイバ軸C2に対する傾斜角θ2並びに励起用ファイバ51と検出用ファイバ52の配置関係は、空間分解能(すなわち、Lmax)が1.0mm以下であって、試料20内を分析可能なように設定されていればよい。例えば、図3(a)及び図3(b)に示したリチウムイオン二次電池の電解液を試料20とする場合、幅L2が、好ましくは、50μm以下、更に好ましくは、30μm以下となるように、端面51aのファイバ軸C1に対する傾斜角θ1及び端面52aのファイバ軸C2に対する傾斜角θ2並びに励起用ファイバ51と検出用ファイバ52の配置関係が設定される。なお、端面51aにミラーコートが施されていない場合、試料20の屈折率と、コア部12の屈折率との関係を考慮して、傾斜角θ1が決定され得る。同様に、傾斜角θ2も試料20の屈折率と、コア部12の屈折率との関係を考慮して決定され得る。
図5では、励起用ファイバ51の端面51aのうちより先端側の縁と検出用ファイバ52の端面52aのうちより先端側の縁の位置が重なるように配置されているが、励起用ファイバ51の端面51aの縁と検出用ファイバ52の端面52aの縁とは、ずれていても良い。
図6は、図2(a)に示した分光プローブの第3の変形例を示す図面である。図6では、第3の変形例の分光プローブ60の試料20側の先端部を拡大して示している。図6に示した分光プローブ60は、励起用ファイバ61と検出用ファイバ62とを有する。
励起用ファイバ61は、励起用ファイバ11と同様にコア部12とクラッド部13とを有する光ファイバである。励起用ファイバ61は、試料20側の端面61aにミラーコートが施されてない点及び端面61aにレンズ加工が施されている、すなわち、端面61aが湾曲面である点で、励起用ファイバ11と相違する。換言すれば、励起用ファイバ61は、図4に示した励起用ファイバ41の端面41aにミラーコートを施していない形態に対応する。
検出用ファイバ62は、検出用ファイバ15と同様にコア部16とクラッド部17とを有する光ファイバである。検出用ファイバ62は、試料20側の端面62aにレンズ加工が施されている、すなわち、端面62aが湾曲面である点で、検出用ファイバ15と相違する。この構成では、端面62aは、ファイバ軸C2に対して傾斜している。
図5に示した分光プローブ50が有する励起用ファイバ51及び検出用ファイバ52と励起用ファイバ61及び検出用ファイバ62との相違点について説明すると、励起用ファイバ61と検出用ファイバ62とは、端面61a及び端面62aがレンズ加工されている点で、励起用ファイバ51及び検出用ファイバ52と相違する。
端面61aは、照射領域30の延在方向A1がファイバ軸C1に対して検出用ファイバ62側に曲がるように湾曲している。端面62aには、受光領域31の延在方向A2がファイバ軸C2に対して励起用ファイバ61側に曲がるように湾曲している。
端面61aにはレンズ加工が施されているので、励起光は、端面61aのレンズ効果により、端面61aから出射された後に収束し得る。逆に、検出用ファイバ62の端面62aには、レンズ加工が施されているので、仮に検出用ファイバ62内を端面62aに向けて伝搬して来た光が端面62aで収束するように出射される場合と逆の光路を通って、光は検出用ファイバ62に入射され得る。従って、図6に示したように、端面62aの外側で一度収束された光が端面62aに入射される。そのため、照射領域30及び受光領域31の双方が、端面61a,62aの外側で収束部を有すると共に、照射領域30の延在方向A1及び受光領域31の延在方向A2とは交差する。その結果、照射領域30と受光領域31の重なっている領域である分析領域32をより狭くできる。すなわち、分光装置1の空間分解能(すなわち、Lmax)を1.0mm以下とし得る。
端面61aの形状及び端面62aの形状並びに励起用ファイバ61と検出用ファイバ62の配置関係が、空間分解能が1.0mm以下であって、試料20内を分析可能なように設定されていればよい点は、分光プローブ10の場合及び他の変形例の場合と同様である。
更に、分光プローブは、上述した種々の形態の分光プローブ10,40,50,60がそれぞれ備える励起用ファイバと検出用ファイバとの機能を反転させた形態でもよいし、種々の形態の分光プローブ10,40,50,60が備える励起用ファイバと検出用ファイバとをそれぞれ組み合わせた分光プローブでもよい。これらの点について、第4の変形例及び第5の変形例を参照して具体的に説明する。
図7は、図2(a)に示した分光プローブの第4の変形例を示す図面である。図7では、第4の変形例の分光プローブ70の試料20側の先端部を拡大して示している。図7において、受光領域32の延在方向A2を示す矢印は、ファイバ軸C2との関係を示すために、後述する端面72aまで延長して示してある。図7に示した分光プローブ70は、励起用ファイバ71と検出用ファイバ72とを有する。
励起用ファイバ71は、励起用ファイバ11の場合と同様にコア部12とクラッド部13とを有する光ファイバである。励起用ファイバ71は、試料20側の端面71aがファイバ軸C1に直交している点で励起用ファイバ11と相違する。
検出用ファイバ72は、検出用ファイバ15の場合と同様にコア部16とクラッド部17とを有する光ファイバである。検出用ファイバ72は、試料20側の端面72aがファイバ軸C2に対して傾斜した平坦面であり、端面72aにミラーコートが施されている点で、検出用ファイバ15と相違する。端面72aには、例えば、端面72a上に金属膜14を形成することでミラーコートが施されている。
励起用ファイバ71及び検出用ファイバ72の配置関係及び端面72aのファイバ軸C2に対する傾斜角θ2は、空間分解能(すなわち、Lmax)が1.0mm以下であって、分析対象である試料20を分析可能なように設定されていればよい。
図7に示した分光プローブ70の構成は、図2(a)に示した検出用ファイバ15を励起用ファイバ71として使用し、図2(a)に示した励起用ファイバ11を検出用ファイバ72として使用した場合の形態に対応する。この場合、分光プローブ70における照射領域30と受光領域31とが、分光プローブ10の場合と反転していることになるが、それらの重なり領域である分析領域32は、分光プローブ10の場合と同様であり得る。従って、分光プローブ70においても、1.0mm以下といった高い空間分解能を実現可能である。
図8は、図2(a)に示した分光プローブの第5の変形例を示す図面である。図8では、第5の変形例の分光プローブ80の試料20側の先端部を拡大して示している。図8に示した分光プローブ80は、図5に示した励起用ファイバ51と図6に示した検出用ファイバ62とを備える分光プローブである。励起用ファイバ51の端面51aのファイバ軸C1に対する傾斜角θ1及び検出用ファイバ62の端面62aのレンズ加工状態、すなわち、端面62aの湾曲状態並びに励起用ファイバ51及び検出用ファイバ62の配置状態は、空間分解が1.0mm以下であって、分析対象である試料内を分析可能な範囲となるように設定されていればよい。
以上、本発明の種々の実施形態及び変形例について説明した。しかしながら、本発明は上述した種々の実施形態及び変形例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。換言すれば、励起用ファイバ及び検出用ファイバの少なくとも一方の端面であってその端面を含むファイバのファイバ軸に対して傾斜している端面で光が反射又は屈折し、その結果、光の光路が屈曲して分光分析領域に基づく空間分解能が1.0mm以下であれば、分光プローブの構成は種々変形可能である。
分光プローブは、少なくとも一つの励起用ファイバ及び少なくとも一つの検出用ファイバを備えていればよい。例えば、一つの励起用ファイバの周囲に複数の検出用ファイバが配置されていてもよい。この場合、複数の検出用ファイバは、照射領域の異なる部分に対して、複数の受光領域が重なるように配置されていればよい。或いは、一つの検出用ファイバの周囲に複数の励起用ファイバが配置されていれてもよい。或いは、励起用ファイバと検出用ファイバとの組みを複数備えていても良い。
例示した種々の分光プローブの変形例では、励起用ファイバと検出用ファイバとは、固定領域において、互いが接するように固定されていたが、1.0mm以下の所望の空間分解能が得られる形態であれば、励起用ファイバと検出用ファイバとは離れていてもよい。例示したように、励起用ファイバと検出用ファイバとの間の距離は、それらの直径のより小さい方の3倍以下であることが、1.0mm以下の所望の空間分解能を得る観点から好ましい。
空間分解能として1.0mm以下を実現可能であれば、固定領域Fにおいて、励起用ファイバのファイバ軸と検出用ファイバのファイバ軸とが実質的に平行でなくてもよい。この場合、空間分解能は、例えば、分析領域の検出用ファイバのファイバ軸に平行方向の幅、励起用ファイバのファイバ軸と検出用ファイバのファイバ軸を含む面内において検出用ファイバのファイバ軸に垂直な方向の幅、これら2つの方向に垂直な方向の幅のうち一番大きな幅の値でよい。
これまでの説明において、空間分解能として1.0mm以下を実現可能な構成において、更に好ましい形態として、幅L2がより好適な範囲の場合を例示した。しかしながら、試料20の大きさ等に応じて、幅L1及び/又は幅L3がより好適な範囲の形態であってもよい。
試料として、リチウムイオン二次電池の電解液を例示したが、試料は、これに限定されず、他の液体試料でもよいし、気体が試料であってもよい。例えば、試料は、生体内の血液であってよい。分光プローブを注射針に仕込んで血管内にその先端部を導入すれば、人体組織を損傷させずに血液の分析を実施し得る。このような医療目的としては、例えば、内視鏡などと組み合わせて、生体内の体液などを分光分析してもよい。
励起用ファイバ及び検出用ファイバの少なくとも一方の端面は研磨された研磨面として説明したが、ファイバ軸に対して傾斜した端面は、例えば、融解によって形成された面でもよい。
分光プローブを用いた分光装置はラマン分光装置に限定されずに、他の分光、例えば、蛍光を利用した分光を行う場合にも適用されてもよい。