JP6237307B2 - Haz靱性に優れたuoe鋼管母材 - Google Patents

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Description

本発明は、HAZ靱性に優れたUOE鋼管母材に関する。
建築、橋梁、造船、ラインパイプ、建設機械、海洋構造物、タンクなどの各種溶接鋼構造物の建築又は建造に厚鋼板が用いられるが、溶接部の破壊に対する安全性及び信頼性を一層高める観点から、溶接部の靱性に対する要求が厳しさを増し、母材鋼板の靭性と同様に、溶接熱影響部(以下「HAZ」)にも、より優れた靱性が要求される。
HAZにおいては、溶融線に近づくほど溶接時の加熱温度が高くなるので、特に、溶融線近傍の1400℃以上に加熱される領域では、オーステナイト(以下「γ」)粒が著しく粗大化して、冷却後のHAZ組織が粗大化して靱性が劣化する。この傾向は、溶接入熱量が大きくなるほど顕著である。
一方、溶接鋼構造物の建造コストに占める溶接施工コストの割合は大きいので、溶接施工コストを低減するため、高能率の溶接法が用いられる。溶接施工コストの低減に最も有効な方法は、溶接パス数を減らすことである。このため、溶接入熱を大きくした高能率溶接法を用いて、大入熱溶接施工を行うが、大入熱溶接施工を行った場合、HAZ靭性が顕著に低下することは避けられない。
したがって、靭性に対する要求が厳しい溶接鋼構造物の建築・建造においては、入熱を制限して溶接パス数を増やし、能率と経済性を犠牲にして溶接施工をせざるを得ないという問題点がある。この問題を解決するため、これまで、大入熱溶接HAZ靱性を改善する種々の対策が提案されてきた。
例えば、特許文献1には、微細なTiNを鋼中に多数析出させることを特徴とする大入熱溶接用鋼材の製造法が提案されている。特許文献1の製造法は、析出した微細なTiNのピン止め効果で、HAZのγ粒の粗大化を抑制するものである。しかし、TiNは1350℃以上の高温で固溶するので、大入熱溶接時、十分なピン止め効果を得られるだけのTiN粒子サイズ・数を確保できず、HAZのγ粒が粗大化し、靭性は低下する。
特許文献2には、微細に析出させたREM化合物(酸化物、硫化物)のピン止め効果で、HAZのγ粒の粗大化を抑制する大入熱溶接用低温用高張力鋼が提案されているが、REM化合物を鋼中に安定的に微細分散させることは製造上非常に困難であり、特許文献2の高張力鋼は、必ずしも、HAZのγ粒の粗大化を抑制できず、靭性が低下する場合がある。
特許文献3には、Ti酸化物、又は、Ti酸化物とTi窒化物との複合体のいずれかの粒子がフェライト変態核として作用することにより、HAZ組織を微細化させて靭性を向上させる方法が開示されている。Ti酸化物は高温で安定であることから、大入熱溶接においても、その効果が維持されるとしている。
しかし、介在物から生成するフェライトの結晶方位は全くランダムというわけではなく、母相オーステナイトの結晶方位の影響を受ける。また、フェライト核生成能は溶接入熱および冷却速度にも依存するため、α核生成能を有するTi酸化物、又は、Ti酸化物とTi窒化物との複合体のいずれかの粒子を安定的にγ粒内に均一に分散させることは困難である。
特許文献4には、特許文献1〜3提案の技術を踏まえ、1400℃以上に加熱される部分でのγ粒の粗大化を防止できる溶接構造物用鋼が提案されている。しかし、特許文献4の溶接構造物用鋼は、溶接入熱量を100kJ/cm程度までに制限しており、それ以上の溶接入熱量にて溶接を実施した場合、HAZのγ粒が粗大化し、靭性が低下する場合があった。
ところで、近年、原油・天然ガスの長距離輸送に、従来のラインパイプに替えUOE鋼管を使用する試みがなされている。高圧化による輸送効率の向上や、管径・重量を低減して現地の施工能率の向上を図るため、鋼管母材に高強度化が求められるが、高強度化に伴い、HAZ靭性は顕著に低下する。それ故、UOE鋼管においては、HAZ靱性の向上が強く求められている。
特開昭50−033920号公報 特開昭60−184663号公報 特開昭60−245768号公報 特開平06−207243号公報
本発明は、溶接鋼構造物、特に、UOE鋼管の溶接部の破壊に対する安全性及び信頼性を一層高める観点から、HAZ靱性の向上が強く求められている現状に鑑み、HAZ靱性をより一層高めることを課題とし、該課題を解決するUOE鋼管母材を提供することを目的とする。
一般に、HAZ靭性を改善する方法として、析出物によるピン止め効果を利用してγ粒の粗大化を抑制する方法、γ粒内のα変態を促進する方法等があるが、本発明者らは、析出物によるピン止め効果を利用してγ粒の粗大化を抑制する方法を前提に、鋼管母材の成分組成を調整することで上記課題を解決する手法について鋭意検討した。
その結果、本発明者らは、Al、O、Mn、及び、Siの含有量を所要の範囲に限定し、かつ、上記各含有量が所要の関係式(後述する)を満たせば、鋼中に、ピン止め作用をなす微細なAl系酸化物(Al23、MnAl24)を析出させることができ、HAZのγ粒の粗大化を抑制できることを見いだした。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
(1)成分組成が、質量%で、
C :0.01〜0.20%、
Si:0.03〜0.30%、
Mn:0.50〜3.00%、
P :0.02%以下、
S :0.02%以下、
Al:0.0005〜0.0050%、
O :0.001〜0.010%
を含み、さらに、
Sn:0.0001〜0.0020%、As:0.0001〜0.0020%、及び、Sb:0.0001〜0.0020%の1種又は2種以上を合計で0.0030%以下を含み、
残部Fe及び不純物からなり、かつ、
下記式で定義するΔTが250未満である
ことを特徴とするHAZ靱性に優れたUOE鋼管母材。
ΔT=2.4×104[%Al]+2.6×104[%O]
+4.4[%Mn]−30[%Si]−20
(2)前記成分組成が、 さらに、質量%で、Cu:1.0%以下、及び、Ni:1.0%以下の1種又は2種を含むことを特徴とする前記(1)に記載のHAZ靱性に優れたUOE鋼管母材。
(3)前記成分組成が、さらに、質量%で、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Nb:0.05%以下、V:0.2%以下、及び、B:0.005%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載のHAZ靱性に優れたUOE鋼管母材。
(4)前記成分組成が、さらに、質量%で、Ca:0.005%以下、Mg:0.005%以下、及び、REM:0.05%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のHAZ靱性に優れたUOE鋼管母材。
(5)前記成分組成が、さらに、質量%で、Ti:0.01%以下を含むことを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載のHAZ靱性に優れたUOE鋼管母材。
本発明によれば、ラインパイプとしても使用し得る、HAZ靱性に優れたUOE鋼管母材を提供することができる。
本発明のHAZ靱性に優れたUOE鋼管母材(以下「本発明鋼管母材」ということがある。)は、
成分組成が、質量%で、
C :0.01〜0.20%、
Si:0.03〜0.30%、
Mn:0.50〜3.00%、
P :0.02%以下、
S :0.02%以下、
Al:0.0005〜0.0050%、
O :0.001〜0.010%、さらに、
Sn:0.0001〜0.0020%、As:0.0001〜0.0020%、及び、Sb:0.0001〜0.0020%の1種又は2種以上を合計で0.0030%以下、
残部Fe及び不純物からなり、かつ、
下記式で定義するΔTが250未満である
ことを特徴とする。
ΔT=2.4×104[%Al]+2.6×104[%O]
+4.4[%Mn]−30[%Si]−20
まず、本発明鋼管母材の成分組成の限定理由について説明する。なお、以下、%は質量%を意味する。
C:0.01〜0.20%
Cは、母材の強度を確保するのに有効な元素である。0.01%未満であると、添加効果が発現しないので、0.01%以上とする。好ましくは0.05%以上である。一方、0.20%を超えると、溶接性が低下するので、0.20%以下とする。好ましくは0.10%以下である。
Si:0.03〜0.30%
Siは、溶鋼の予備脱酸に有効な元素である。母材中において、微細なAl系酸化物(Al23、MnAl24)を所定量確保するためには、製鋼時のSi脱酸を制限する必要がある。そのため、Siは0.03〜0.30%とする。
0.03%未満であると、十分な予備脱酸効果が得られず、Oが溶鋼中に過剰に残存し清浄度が低下するので、0.03%以上とする。好ましくは0.07%以上である。
一方、0.30%を超えると、硬質第二相である島状マルテンサイトの生成を助長し、HAZ靭性を低下させるの、また、Si酸化物が多量に生成して、微細なAl系酸化物の生成に必要なO量を確保できなくなるので、0.30%以下とする。好ましくは0.25%以下である。
Mn:0.50〜3.00%
Mnは、強度及び靭性の確保に必要な元素であるとともに、微細なAl系酸化物の上に微細なMnSを析出させ、旧γ粒の粗大化を抑制するピン止め効果の向上に寄与する元素である。
Al:0.0005〜0.005%及びO:0.001〜0.01%(後述する)の下で、Mnを0.50〜3.00%に制御すると、微細なMnSが微細なAl系酸化物の上に析出して、ピン止め効果が安定的に向上する。
0.50%未満であると、所要の強度及び靭性が得られず、また、安定したピン止め効果が得られないので。0.50%以上とする。好ましくは0.80%以上である。一方、3.00%を超えると、焼入れ性が増大し、溶接性及びHAZ靭性が劣化するので、3.00%以下とする。好ましくは2.50%以下である。
P:0.02%以下
Pは、不純物元素であるので、少ない方が好ましい元素である。0.02%を超えると、母材の靱性が低下するので、0.02%以下とする。好ましくは0.01%以下である。
S:0.02%以下
Sは、不純物元素であるので、少ない方が好ましい元素である。0.02%を超えると、母材の靱性が低下するので、0.02%以下とする。好ましくは0.005%以下である。
Al:0.0005〜0.0050%
Alは、脱酸元素であるとともに、Oと結合して、HAZのγ粒の粗大化を抑制する作用(ピン止め効果)をなす微細なAl系酸化物(Al23、MnAl24)形成する元素である。0.0005%未満であると、Al系酸化物の生成量が少なく、ビン止め効果が発現しないので、0.0005%以上とする。好ましくは0.0010%以上である。
一方、0.0050%を超えると、Al系酸化物が粗大化して、ビン止め効果が得られないほか、粗大なAl23が生成して、破壊の起点となるので、0.0050%以下とする。好ましくは0.0040%以下である。
O:0.001〜0.010%
Oは、Alと結合して、HAZのγ粒の粗大化を抑制する作用(ピン止め効果)をなす微細なAl系酸化物(Al23、MnAl24)を形成する元素である。0.001%未満であると、Al系酸化物の生成量が少なく、ビン止め効果が発現しないので、0.001%以上とする。好ましくは0.004%以上である。
一方、0.010%を超えると、鋼の洗浄度を低下させるだけでなく、Al系酸化物が粗大化して、ビン止め効果が得られないとともに、粗大なAl23が生成して、破壊の起点となるので、0.010%以下とする。好ましくは0.007%以下である。
本発明鋼管母材においては、母材中に、微細なAl系酸化物(Al23、MnAl24)を分散させることで、HAZのγ粒の粗大化を抑制する(ピン止め効果)。そのため、Al:0.0005〜0.005%、及び、O:0.001〜0.01%と規定したが、ピン止め効果を安定的に確保し、HAZ靭性の一層の改善を図るためには、下記式で定義するΔTが250未満である必要がある。
ΔT=2.4×104[%Al]+2.6×104[%O]
+4.4[%Mn]−30[%Si]−20<250
ΔTは、Al系酸化物を形成する元素(AlとO)、及び、Al系酸化物の上に析出するMnSを形成する元素(Mn)の量と、Al系酸化物の生成に必要なO量を低減する脱酸元素(Si)の量に基づいて、Al系酸化物の鋼中分散状態を示す指標である。そして、本発明者らは、ΔTを実験的に求めた。
ΔTが250以上であると、Al系酸化物の晶出温度が上昇するか、又は、鋼の融点が低下し、溶鋼が融点に達するまでの間に、Al系酸化物が凝集・粗大化する。粗大化したAl系酸化物はピン止め粒子として機能しないので、γ粒は粗大化する。
一方、ΔTが250未満の場合、溶鋼が鋼の融点に達するまでの間において、Al系酸化物が成長せず、かつ、核生成も生じないので、Al系酸化物が、鋼中に、微細かつ多数分散する。微細でかつ多数のAl系酸化物はピン止め粒子として機能するので、γ粒の粗大化が抑制される。
したがって、Al:0.0005〜0.005%、O:0.001〜0.01%、Mn:0.5〜3.0%、及び、Si:0.03〜0.3%のもとで、ΔTを250未満に維持することで、母材中に、γ粒の粗大化を抑制するビン止め粒子として機能する微細なAl系酸化物を形成することができる。
それ故、本発明鋼管母材においては、溶接入熱量が300kJ/cm以上となる大入熱溶接を実施した場合でも、旧γ粒の粗大化を抑制し、もって、優れたHAZ靭性を確保することができる。この優れたHAZ靱性は、30kJ/cm程度の低入熱であっても発現するので、本発明鋼管母材は、UOE鋼管の製造に限らず、造船・建材用鋼板を含む、優れたHAZ靱性を必要とする鋼板として、幅広く活用することができる。
本発明鋼管母材は、上記元素の他、Sn:0.0001〜0.0020%、As:0.0001〜0.0020%、及び、Sb:0.0001〜0.0020%の1種又は2種以上を合計で0.0030%以下含有する。
Sn、As、及び、Sbは、溶鋼の脱酸過程で必然的に溶鋼中に存在し、酸素活量に影響を及ぼす元素である。溶鋼中に、Sn:0.0001〜0.0020%、As:0.0001〜0.0020%、及び、Sb:0.0001〜0.0020%が、合計で0.0030%以下存在すると、Al系酸化物の界面エネルギーが低下して、Al系酸化物が晶出するときの臨界核半径が小さくなる。臨界核半径を小さくすると、溶鋼が融点に達した段階におけるAl系酸化物の粒子半径を非常に小さくすることができる。
さらに、溶鋼中に、所要量のSn、As、及び、Sbの1種又は2種以上を添加すると、酸素活量を、Al系酸化物を多数分散させることができる適正な酸素活量に制御することができる。
Sn、As、及び、Sbが、それぞれ、0.0001%未満であると、上記効果が発現しないので、それぞれを、0.0001%以上とする。一方、Sn、As、及び、Sbが、それぞれ、0.0020%を超えると、Al系酸化物が微細に分散するために必要な酸素活量を得ることができず、また、熱間加工性が低下するので、それぞれを、0.0020%以下とする。
さらに、Sn、As、及び、Sbの1種又は2種以上の合計を0.0030%以下とする。上記合計が0.0030%を超えると、熱間加工性が著しく低下するので、上記合計は0.0030%以下とする。
本発明鋼管母材は、上記元素の他、元素群、(1)Cu:1.0%以下及びNi:1.0%以下の1種又は2種、(2)Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Nb:0.05%以下、V:0.2%以下、及び、B:0.005%以下の1種又は2種以上、(3)Ca:0.005%以下、Mg:0.005%以下、及び、REM:0.05%以下の1種又は2種以上、及び、(4)Ti:0.01%以下、の一群又は二群以上の元素を含有してもよい。
以下、元素群の元素の限定理由について説明する。
(1)群のCu及びNiの1種又は2種
Cu及びNiは、母材の強度と靭性の向上に寄与する元素である。必要に応じ、1種又は2種を添加する。
Cu:1.0%以下
Cuは、母材の強度と靭性の向上に寄与する元素である。しかし、1.0%を超えると、逆に、母材の強度と靭性が低下するので、1.0%以下とする。好ましくは0.7%以下である。下限は特に限定しないが、添加効果を安定して得たい場合には、0.1%以上添加する。好ましくは0.2%以上である。
Ni:1.0%以下
Niは、Cuと同様に、母材の強度と靭性の向上に寄与する元素である。しかし、1.0%を超えると、逆に、母材の強度と靭性が低下するので、1.0%以下とする。好ましくは0.7%以下である。下限は特に限定しないが、添加効果を安定して得たい場合には、0.1%以上添加する。好ましくは0.2%以上である。
CuとNiを共存させると、Cu又はNiを単独で多量に含有させることによる過度の焼入れ性の上昇を回避し、HAZ靭性及び溶接性への悪影響を最小限に抑制できるので、強度と靭性のバランスをとり易くなる。この場合、CuとNiの合計は2.0%以下が望ましい。
(2)群のCr、Mo、Nb、V、及び、Bの1種又は2種以上
Cr、Mo、Nb、V、及び、Bは、いずれも、母材の焼入れ性を高め、強度の確保に寄与する元素である。必要に応じ、1種又は2種以上を添加する。
Cr:0.5%以下
Crは、母材の焼入れ性を高め、強度の確保に寄与する元素である。しかし、0.5%を超えると、母材及びHAZ靭性の劣化を招くとともに、溶接低温割れの発生を招くので、0.5%以下とする。好ましくは0.4%以下である。下限は特に限定しないが、添加効果を安定的に得たい場合には、0.1%以上を添加する。好ましくは0.2%以上である。
Mo:0.5%以下
Moは、Crと同様に、鋼材の焼入れ性を高め、強度の確保に寄与する元素である。しかし、0.5%を超えると、母材及びHAZ靭性の劣化を招くとともに、溶接低温割れの発生を招くので、0.5%以下とする。好ましくは0.4%以下である。下限は特に限定しないが、添加効果を安定的に得たい場合には、0.1%以上を添加する。好ましくは0.2%以上である。
Nb:0.05%以下
Nbは、Crと同様に、鋼材の焼入れ性を高め、強度の確保に寄与する元素である。しかし、0.05%を超えると、母材及びHAZ靭性の劣化を招くとともに、溶接低温割れの発生を招くので、0.05%以下とする。好ましくは0.04%以下である。下限は特に限定しないが、添加効果を安定的に得たい場合には、0.005%以上を添加する。好ましくは0.008%以上である。
V:0.2%以下
Vは、Crと同様に、鋼材の焼入れ性を高め、強度の確保に寄与する元素である。しかし、0.2%を超えると、母材及びHAZ靭性の劣化を招くとともに、溶接低温割れの発生を招くので、0.2%以下とする。下限は特に限定しないが、添加効果を安定的に得たい場合には、0.02%以上を添加する。好ましくは0.05%以上である。
B:0.005%以下
Bは、Crと同様に、鋼材の焼入れ性を高め、強度の確保に寄与する元素である。しかし、0.005%を超えると、母材及びHAZ靭性の劣化を招くとともに、溶接低温割れの発生を招くので、0.005%以下とする。好ましくは0.004%以下である。下限は特に限定しないが、添加効果を安定的に得たい場合には、0.001%以上を添加する。好ましいくは0.0020%以上である。
(2)群の元素を2種以上添加すると、それぞれの元素を単独で多量に添加することによる過度の焼入れ性の上昇を回避し、HAZ靭性及び溶接性への悪影響を最小限に抑制できるので、強度と靭性のバランスをとり易くなる。この場合、上記元素の合計を1.0%以下に制御することが望ましい。
(3)群のCa、Mg、及び、REMの1種又は2種以上
Ca、Mg、及び、REMは、いずれも、硫化物の形態を制御し、熱間加工性を高め、低温靭性の確保に寄与する元素である。必要に応じて、1種又は2種以上を添加する。
Ca:0.005%以下
Caは、硫化物の形態を制御し、熱間加工性を高め、低温靭性の確保に寄与する元素である。しかし、0.005%を超えると、大型介在物やクラスターが生成して鋼の清浄度が阻害されるので、0.005%以下とする。好ましくは0.004%以下である。下限は特に限定しないが、添加効果を安定して得たい場合には、0.001%以上を添加する。好ましくは0.002%以上である。
Mg:0.005%以下
Mgは、Caと同様に、硫化物の形態を制御し、熱間加工性を高め、低温靭性の確保に寄与する元素である。しかし、0.005%を超えると、大型介在物やクラスターが生成して鋼の清浄度が阻害されるので、0.005%以下とする。好ましくは0.004%以下である。下限は特に限定しないが、添加効果を安定して得たい場合には、0.001%以上を添加する。好ましくは0.002%以上である。
REM:0.05%以下
REMは、Caと同様に、硫化物の形態を制御し、熱間加工性を高め、低温靭性の確保に寄与する元素である。しかし、0.05%を超えると、大型介在物やクラスターが生成して鋼の清浄度が阻害されるので、0.05%以下とする。好ましくは0.04%以下である。下限は特に限定しないが、添加効果を安定して得たい場合には、0.01%以上を添加する。好ましくは0.02%以上である。
ここで、REMとは、ランタノイドの15元素にY、及び、Scを合わせた17元素の総称であり、これらの元素の1種又は2種以上を添加する。REMの混合体であるミッシュメタルを添加することで、REMを添加してもよい。なお、REMの添加量は、これらの元素の合計添加量を意味する。
(3)群の元素を2種以上添加すると、それぞれの元素を単独で多量に添加することによる過度の焼入れ性の上昇を回避し、HAZ靭性及び溶接性への悪影響を最小限に抑制できるので、所望の強度と靭性のバランスをとり易くなる。この場合、それらの元素の合計添加量を0.05%以下にすることが望ましい。
(4)群のTi
(4)群の元素であるTiは、窒化物を生成し、鋼中の固溶N量を低減する作用をなす元素である。析出したTiNが、HAZでのオーステナイト粒の粗大化を抑制する作用をなすので、必要に応じて、添加する。
Ti:0.01%以下
Tiは、Nと反応してTiNを生成するので、鋼中の固溶N量を低減する作用をなす元素である。また、析出したTiNは、ピン止め効果で、熱間圧延前のスラブ加熱時の母材、及び、大入熱溶接時のHAZでのオーステナイト粒の粗大化を抑制し、母材及びHAZ靭性の向上に寄与する。
しかし、0.01%を超えると、Al系酸化物の生成に必要なO(酸素)量の低減を招き、その結果、ピン止め効果が小さくなり、HAZ靭性が低下するので、0.01%以下とする。好ましくは0.007%以下である。下限は特に限定しないが、添加効果を安定して得たい場合には、0.002%以上を添加する。好ましくは0.004%以上である。
次に、本発明鋼管母材の製造方法(以下「本発明製造方法」ということがある。)について説明する。
本発明製造方法は、脱炭反応を活用するために、溶鋼を低Al状態にして低Al鋼を製造することを特徴とする。通常のAlキルド鋼と、脱炭反応を活用して製造した低Al鋼を比較した場合、同じ酸素濃度の溶鋼を溶製するのであっても、溶存酸素の低減プロセスが異なる。
Alキルド鋼では、Al23が生成して溶存酸素が低減していくのに対し、低Al鋼では、Al23が分解されながら低減してくことになる。このため、低Al鋼を減圧処理した場合、製品段階で、通常のAlキルド鋼と同じ酸素濃度であっても、通常のAlキルド鋼よりも粗大な酸化物が極めて少ない、清浄度の高い鋼が得られることになる。
また、本発明製造方法は、微細なAl系酸化物を生成させるために、凝固段階で、溶存酸素濃度が高い状態を形成することを特徴とする。この手法は、溶鋼段階で酸化物を微細化する手法よりも効果が大きく、安定して微細なAl系酸化物を形成することができる。
このためには、凝固段階、即ち、溶鋼段階の末期で、溶存酸素濃度が高い状態を作る必要がある。溶存酸素濃度のみを高くした状態で鋳込んだ場合、凝固過程で、溶鋼中に溶け切れない酸素が、溶鋼成分と反応して生成する、いわゆる、二次脱酸生成物が大量に生成することになる。この二次脱酸生成物が、微細なAl系酸化物であり、これがピン止め粒子として機能する。
本発明製造方法では、減圧処理を行う際、その時点でのAl濃度で決まる溶存酸素濃度よりも、炭素濃度と真空槽の圧力で決まる溶存酸素濃度が低くなる条件で減圧精錬を行うことで脱炭反応が生じ、粗大な酸化物を低減できることを知見した。さらに、この状態から真空槽内圧力を高くして環流させることで、溶存酸素濃度のみを増加できることを知見した。
具体的な本発明製造方法を、以下に説明する。
製鋼炉から取鍋に出鋼した、質量%で、sol.Al:0.005%以下、Si:0.005〜0.3%、O(全酸素濃度):0.02%以下の溶鋼を、減圧清浄化処理として、環流型脱ガス装置において、(1)式を満たすAl濃度、C濃度、及び、真空槽内圧力で10分間以上環流処理し、該還流処理中及び処理後は、炭素以外の脱酸材を添加しないこと、即ち、脱酸剤は炭素を含めて一切添加しないか、又は、脱酸剤を添加するなら炭素に限ることを特徴とする。
Al<0.0008×((101.325×C)/P0_former1.5 ・・・(1)
Al:溶鋼のsol.Al濃度(質量%)
C :溶鋼のC濃度(質量%)
0_former:減圧清浄化処理時の真空槽内圧力(kPa)
前記減圧清浄化処理を施した後、後環流処理として、質量%で、sol.Al:0.005%以下、Si:0.005〜0.3%、O(全酸素濃度):0.005%以下の溶鋼を、(4)式を満たす範囲の真空槽内圧力P0_latterで、3分間以上環流処理し、該環流処理中及び処理後は炭素以外の脱酸剤を添加しないこと、即ち、脱酸剤は炭素を含めて一切添加しないか、又は、脱酸剤を添加するなら炭素に限ることを特徴とする。
5<P0_latter<15 ・・・(4)
0_latter:後環流処理時の真空槽内圧力(kPa)
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
上記方法で溶解後、1100℃で1.5時間加熱後鍛造し、厚さ150mm、幅150mm、長さ140mmのブロックを製造した。ブロックは1100℃で1.5時間加熱し、熱間圧延により厚さ30mm、幅150mm、長さ1000mmに圧延し、700℃まで空冷後、常温まで水冷して鋼板を52鋼種作製した。
作製した鋼板を用いて、11mm角、長さ60mm断面角形状の試験片に加工し、熱サイクルシミュレーターを用いて入熱75kJ/cm(1400℃×10秒保持、Δt800−500=300S)を模擬した熱サイクルを付与した(以下、再現熱サイクル試験)。再現熱サイクル試験後、Vノッチフルシャルピー試験片に加工し、試験温度0℃でシャルピー衝撃試験を行った。
表1に、各鋼板の成分組成を示し、表2に、ΔT計算値、旧γ粒径、及び、吸収エネルギー(0℃)値を示す。ここで、旧γ粒径が150μm以下のものを○、それ以上のものを×とした。また、0℃吸収エネルギーが200J以上のものを○、それ以下のものを×とした。
Figure 0006237307
Figure 0006237307
表1及び表2より、Al:0.0005〜0.005質量%、O:0.001〜0.01質量%、Mn:0.5〜3.0質量%、Si:0.03〜0.3質量%で、かつ、
ΔT=2.4×104[%Al]+2.6×104[%O]
+4.4[%Mn]−30[%Si]−20<250
に制御すると、HAZ靭性が改善されることが解る。
前述したように、本発明によれば、ラインパイプとしても使用し得る、HAZ靱性に優れたUOE鋼管母材を提供することができる。よって、本発明は、鉄鋼産業において利用可能性が高いものである。

Claims (5)

  1. 成分組成が、質量%で、
    C :0.01〜0.20%、
    Si:0.03〜0.30%、
    Mn:0.50〜3.00%、
    P :0.02%以下、
    S :0.02%以下、
    Al:0.0005〜0.0050%、
    O :0.001〜0.010%
    を含み、さらに、
    Sn:0.0001〜0.0020%、As:0.0001〜0.0020%、及び、Sb:0.0001〜0.0020%の1種又は2種以上を合計で0.0030%以下を含み、
    残部Fe及び不純物からなり、かつ、
    下記式で定義するΔTが250未満である
    ことを特徴とするHAZ靱性に優れたUOE鋼管母材。
    ΔT=2.4×104[%Al]+2.6×104[%O]
    +4.4[%Mn]−30[%Si]−20
  2. 前記成分組成が、 さらに、質量%で、Cu:1.0%以下、及び、Ni:1.0%以下の1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1に記載のHAZ靱性に優れたUOE鋼管母材。
  3. 前記成分組成が、さらに、質量%で、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、Nb:0.05%以下、V:0.2%以下、及び、B:0.005%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のHAZ靱性に優れたUOE鋼管母材。
  4. 前記成分組成が、さらに、質量%で、Ca:0.005%以下、Mg:0.005%以下、及び、REM:0.05%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のHAZ靱性に優れたUOE鋼管母材。
  5. 前記成分組成が、さらに、質量%で、Ti:0.01%以下を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のHAZ靱性に優れたUOE鋼管母材。
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