図1は、本発明の一実施例である複合成形体10の構成を概略的に示す図であり、その複合成形体10を厚み方向に切断した断面の構成を例示している。本実施例の複合成形体10は、強化繊維を含有する熱可塑性の樹脂基材12を、後述する図4或いは図5に示すような工程で加工することにより、例えば所定の厚みを有する板状に構成されたものである。前記樹脂基材12は、例えば、PP(ポリプロピレン)樹脂等の熱可塑性樹脂をガラス長繊維マットで強化した強化繊維含有熱可塑性樹脂の一例であるGMT(glass-mat reinforced thermoplastics)等の材料を主体として構成されたものである。前記複合成形体10には、前記樹脂基材12と一体に取付部材14が形成されている。この取付部材14は、例えば、PA6(ポリアミド6、6ナイロン)樹脂をはじめとする合成樹脂材料を主体として構成されたものである。前記取付部材14は、例えば、板状に形成された前記樹脂基材12における一方の面(表面又は裏面)から突出するように設けられている。
図1に示すように、前記樹脂基材12には、比較的密度が低い低密度部12aと、その低密度部12aよりも密度が高い高密度部(ソリッド部)12bとが形成されている。図1においては、前記樹脂基材12における前記低密度部12aに相当する部分を左上から右下への破線によるハッチングで、前記高密度部12bに相当する部分を左右方向の実線によるハッチングでそれぞれ示している。前記取付部材14に相当する部分を右上から左下への実線によるハッチングで示している。前記取付部材14を構成する樹脂が前記低密度部12aに含浸させられている部分を左上から右下への破線によるハッチング及び右上から左下への実線によるハッチングを共にかけることで示している。前記低密度部12aと前記取付部材14との境界に相当する部分(界面)を細い破線で示している。ハッチングに関し、後述する各図において同じである。図1に示すように、前記複合成形体10においては、前記取付部材14を構成する樹脂の一部が前記低密度部12aに含浸させられた状態で固化されている。すなわち、前記取付部材14は、後述する前記複合成形体10の製造工程(成形工程)において、前記樹脂基材12に対して射出された溶融樹脂の一部が前記低密度部12aに浸透させられて固化させられることで前記樹脂基材12と接合されたものである。
前記低密度部12aは、例えば前記複合成形体10の製造工程(成形工程)において、前記樹脂基材12が予熱(加熱)されること等により膨張させられ、前記強化繊維が立ち上がることで形成されたものである。前記低密度部12aにおいては、その低密度部12aを構成する樹脂(熱可塑性樹脂)が少なくとも前記高密度部12bよりも疎とされている。前記低密度部12aは、溶融樹脂等が浸透させられる連通気孔(連続気泡)を備えている。すなわち、前記低密度部12aは、換言すれば、後述する射出成形工程において溶融樹脂が浸透させられる多孔質の溶融樹脂浸透部である。前記高密度部12bは、その高密度部12bを構成する樹脂(熱可塑性樹脂)が少なくとも前記低密度部12aよりも密とされている。前記高密度部12bは、少なくとも前記低密度部12aよりも連通気孔(連続気泡)が少なく、溶融樹脂等が浸透させられ難い構成とされている。好適には、前記高密度部12bは、溶融樹脂等が略浸透させられない構成とされている。すなわち、前記高密度部12bは、換言すれば、後述する射出成形工程において溶融樹脂の浸透(流動)を抑制する溶融樹脂浸透抑制部である。
図2は、前記複合成形体10における一部構成を具体的に例示する図であり、図1と同様に、前記複合成形体10を厚み方向に切断した断面の構成を例示している。この図2及び後述する図3等に示すように、前記樹脂基材12において、前記高密度部12bは、前記低密度部12aに隣接して形成されている。好適には、前記取付部材14を構成する樹脂の一部が含浸させられる前記低密度部12aに隣接して、前記高密度部12bが形成されている。更に好適には、前記取付部材14を構成する樹脂の一部が含浸させられる前記低密度部12aの周囲に、その低密度部12aを囲繞するように前記高密度部12bが形成されている。換言すれば、前記取付部材14を構成する樹脂の一部が含浸させられる前記低密度部12aに隣接して、その低密度部12aに浸透させられた溶融樹脂をせき止める位置に前記高密度部12bが形成されている。後述するように、前記樹脂基材12における前記高密度部12bの形成位置は、前記複合成形体10の製造工程(成形工程)において前記取付部材14を構成する溶融樹脂が射出延いては含浸させられる前記低密度部12aの位置、及びその低密度部12aにおいて所望される前記溶融樹脂の含浸量(浸透量)等に基づいて予め設定される。
図16は、本実施例との比較のために、従来の技術による複合成形体の成形方法及びその成形方法により成型される複合成形体100について説明する図である。従来の技術による複合成形体の成形方法では、先ず、図16(a)に示すように、前述した本実施例の樹脂基材12と同様に強化繊維を含有する熱可塑性の樹脂基材である、例えばGMT等の樹脂基材102が予熱(加熱)される。この予熱により、前記樹脂基材102に含まれる強化繊維が立ち上がること等により、図16(b)に示すように、その樹脂基材102が膨張させられる。すなわち、前記予熱により、前記樹脂基材102に膨張部が形成される。次に、図16(c)に示すように、膨張部が形成された前記樹脂基材102が上型106と下型108との間に設置され、それら上型106及び下型108の間でその樹脂基材102にプレス加工が施される。前記下型108には、取付部材104の形状に相当する内周面を備えた空洞108aと、その空洞108a内に溶融樹脂を射出(供給)するための供給口108bとが形成されている。前記プレス加工と相前後して、前記供給口108bから前記空洞108a内に溶融樹脂が射出させられて固化させられることで、図16(d)に示すように、前記樹脂基材102に対して前記取付部材104が一体に形成(接合)された複合成形体100が成形される。
前述のような複合成形体の成形方法では、前記樹脂基材102に溶融樹脂を射出して固化させる際、その溶融樹脂の一部が前記樹脂基材102に浸透させられて固化させられる。これにより、前記取付部材104が所謂アンカー効果により前記樹脂基材102と強固に接合される。前記アンカー効果を発生させるため、前記取付部材104を構成する樹脂の一部を前記樹脂基材102に浸透させるには、その樹脂基材102をある程度低密度としておく必要がある。しかし、前記従来の技術では、前記樹脂基材102に対する溶融樹脂の射出成形時に、その樹脂基材102に浸透する前記溶融樹脂の量(浸透量)を制御できない。すなわち、前記樹脂基材102において、低密度状態で残しておきたい箇所にまで溶融樹脂が充填されてしまうおそれがある。その結果、前記樹脂基材102に含浸させられる溶融樹脂の量(含浸量)が過多となる。さらには、本来前記取付部材104を成形したい場所に溶融樹脂が流動せず、図16(d)に破線で囲繞して示すように、前記取付部材104にショートすなわち成形体における不完全な充填の状態(充填不足)が発生するおそれがある。
前記従来の技術における不具合の発生を抑制するため、前述のように、本実施例の複合成形体10において、前記樹脂基材12に形成された前記高密度部12bは、その高密度部12bを構成する樹脂が密とされることで溶融樹脂等が浸透させられ難い構成とされており、好適には、溶融樹脂等が略浸透させられない構成とされている。従って、後述する前記複合成形体10の製造工程(成形工程)において、前記樹脂基材12に対して溶融樹脂が射出成形される際、その溶融樹脂は前記低密度部12aには浸透させられるが、前記高密度部12bにおける浸透は抑制され、その高密度部12bにおいてせき止められる。これにより、前記低密度部12aに浸透させられる溶融樹脂の流動を随意に制御することができ、その低密度部12aに対する溶融樹脂の含浸量(浸透量)を制御することができる。すなわち、図2に示すように、前記樹脂基材12において前記低密度部12a及び前記高密度部12bを形成する位置を適宜定めることで、前記樹脂基材12に対して溶融樹脂が射出成形される際、前記樹脂基材12(低密度部12a)に対するその溶融樹脂の含浸量を適切な値に制御することができ、必要十分なアンカー効果を確保しつつ、含浸量が多くなることによるショートの発生を好適に抑制できる。本実施例によれば、従来の技術では困難であった異材同士の接合、例えばPP樹脂とPA6樹脂との接合が可能となる。
図3は、前記複合成形体10における一部構成を具体的に例示する図であり、図1及び図2と同様に、前記複合成形体10を厚み方向に切断した断面の構成を例示している。この図3に示すように、前記複合成形体10において、前記樹脂基材12の厚み方向(表裏方向)に関してそれぞれ形態の異なる複数の態様の前記高密度部12bが、その樹脂基材12に形成されたものであってもよい。例えば、図3の紙面向かって左側に示す高密度部12bは、前記低密度部12aを側方(樹脂基材12の面方向)において挟み込むと共に、前記樹脂基材12の裏面側を覆うように形成されている。このように、前記樹脂基材12の裏面側を覆うように前記高密度部12bが形成された形態では、前記樹脂基材12の表面側へ突出する取付部材14が好適に形成される。図3の紙面向かって右側に示す高密度部12bは、前記低密度部12aを側方において挟み込むと共に、前記樹脂基材12の表面側を覆うように形成されている。このように、前記樹脂基材12の表面側を覆うように前記高密度部12bが形成された形態では、前記樹脂基材12の裏面側へ突出する取付部材14が好適に形成される。すなわち、前記樹脂基材12の厚み方向に関して、前記樹脂基材12に形成される前記高密度部12bの形状を適宜設定することで、前記取付部材14の取付部位等の自由度を更に向上させることができる。
図4は、本実施例の複合成形体10の成形方法の一例の要部を説明する工程図である。図6は、図4に示す成形方法に対応する、前記複合成形体10の成形方法を時系列で説明する図である。図4に示すように、本実施例の成形方法では、先ず、予熱工程Pa1において、前記樹脂基材12が加熱炉に投入され、その樹脂基材12に予熱が施される。図6(a)は、この予熱工程Pa1に対応する。前記予熱工程Pa1において、前記樹脂基材12に予熱が施されることにより、その樹脂基材12に含まれる強化繊維が立ち上がり、比較的低密度とされた膨張部が前記樹脂基材12に形成される。ここで、前記予熱工程Pa1においては、図6(a)に示すように、前記樹脂基材12における所定部位に吸熱板16が設けられた状態でその樹脂基材12に予熱が施される。前記吸熱板16が設けられる位置は、前記樹脂基材12において前記高密度部12bが形成される部分に相当する。
図6(b)は、前記予熱工程Pa1により予熱の施された前記樹脂基材12を例示している。図6(a)及び(b)に示すように、前記予熱工程Pa1において、前記樹脂基材12における前記吸熱板16に覆われていない部分は、十分に予熱(加熱)が施されることで前記強化繊維が立ち上がる等して膨張する。すなわち、前記予熱工程Pa1による予熱により膨張させられる膨張部となる。この膨張部が後述するプレス工程Pa2においてプレス加工されることで、前記低密度部12aとなる。一方、前記予熱工程Pa1において、前記樹脂基材12における前記吸熱板16に覆われた部分は、その吸熱板16により熱が遮蔽されることで加熱が弱くなり、例えばGMTにおける熱可塑性樹脂が溶融しない(或いは、少なくとも低密度部12aよりも溶融の度合いが低い)未溶融部となる。この未溶融部においては、前記熱可塑性樹脂が密となり、十分に加熱が施された余の部分よりも密度が高くなる。この未溶融部が後述するプレス工程Pa2においてプレス加工されることで、前記高密度部12bとなる。このように、前記予熱工程Pa1において、前記樹脂基材12における前記吸熱板16に覆われた部分が前記高密度部12bとなり、余の部分すなわち前記吸熱板16に覆われていない部分が前記低密度部12aとなる。すなわち、本実施例の複合成形体の成形方法においては、前記予熱工程Pa1が高低密度部形成工程に相当する。換言すれば、本実施例の複合成形体10において、前記高密度部12bは、好適には、前記樹脂基材12の予熱時に、その樹脂基材12における前記高密度部12bに相当する部分に前記吸熱板16が設けられた状態で予熱されることで形成されたものである。
図7は、前記予熱工程Pa1において、前記樹脂基材12に前記高密度部12bを形成するために用いられる前記吸熱板16の一例を示す斜視図である。図7においては、前記樹脂基材12の厚み方向両面に1対の前記吸熱板16が設けられる様子すなわち前記樹脂基材12が1対の前記吸熱板16に挟み込まれる様子を例示している。前記吸熱板16は、吸熱性(遮熱性)を有する板状の部材であり、アルミニウム合金等の吸熱性に優れた金属材料が好適に用いられる。前記吸熱板16には、好適には、図7に示すように、その厚み方向に少なくとも1つの孔部16aが貫通して設けられている。前記樹脂基材12において、前記吸熱板16に覆われた部分は、前記予熱工程Pa1において前記樹脂基材12に予熱が施されることで前記高密度部12bが形成される部分に相当する。前記樹脂基材12において、前記吸熱板16に覆われない部分及びその吸熱板16に設けられた孔部16aに相当する部分は、前記予熱工程Pa1において前記樹脂基材12に予熱が施されることで前記低密度部12aが形成される部分に相当する。このように、前記吸熱板16を適宜構成することで、前記樹脂基材12における所望の位置に所望の形態の前記高密度部12bを形成することができる。
図4に示すプレス工程Pa2においては、前記予熱工程Pa1において予熱の施された前記樹脂基材12が、図6(c)に示すように、例えば竪型プレス機における上型18と下型20との間に設置され、前記プレス機によるプレス動作により、それら上型18及び下型20の間でその樹脂基材12にプレス加工が施される。前記下型20には、前記取付部材14の形状に相当する内周面を備えた空洞20aと、その空洞20a内に溶融樹脂を射出(供給)するための供給口20bとが形成されている。前記プレス工程Pa2におけるプレス加工と相前後して、図4に示す射出成形工程P3において、前記供給口20bから前記空洞20a内に溶融樹脂が射出させられて固化させられることで、図6(d)に示すように、前記樹脂基材12(低密度部12a)に対して前記取付部材14が一体に形成(接合)された本実施例の複合成形体10が成形される。前記プレス工程Pa2及び前記射出成形工程P3は、何れが先に実行されてもよく、略同時に行われるものであってもよい。図4及び図6に示す本実施例の成形方法においては、高低密度部形成工程としての前記予熱工程Pa1において、前記取付部材14が設けられる部分に対応する前記低密度部12aに隣接して前記高密度部12bが形成される。従って、前記射出成形工程P3において前記空洞20a内に溶融樹脂が射出される際、前記低密度部12aに浸透させられる溶融樹脂が、その低密度部12aに隣接して設けられた前記高密度部12bにおいてせき止められる。これにより、前記樹脂基材12(低密度部12a)に対するその溶融樹脂の含浸量を適切な値に制御することができ、必要十分なアンカー効果を確保しつつ、含浸量が多くなることによるショートの発生を好適に抑制できる。
図5は、本実施例の複合成形体10の成形方法の他の一例の要部を説明する工程図である。図8は、図5に示す成形方法に対応する、前記複合成形体10の成形方法を時系列で説明する図である。図5に示す成形方法において、前述した図4に示す成形方法と共通する工程である射出成形工程P3については、同一の符号を付してその説明を省略する。図5に示すように、本実施例の成形方法では、先ず、予熱工程Pb1において、前記樹脂基材12が加熱炉に投入され、その樹脂基材12に予熱が施される。図8(a)は、この予熱工程Pb1に対応する。この予熱工程Pb1において前記樹脂基材12に予熱が施されることにより、その樹脂基材12に含まれる強化繊維が立ち上がり、図8(b)に示すように、前記樹脂基材12が膨張させられる。すなわち、前記予熱により、比較的低密度とされた膨張部が前記樹脂基材12に形成される。前記予熱工程Pb1においては、前述した図4に示す予熱工程Pa1とは異なり、前記樹脂基材12に対して前記吸熱板16は設けられない。従って、従来技術と同様に、前記予熱により前記樹脂基材12全体が膨張させられ、結果、全体が比較的低密度の状態とされる。
図5に示すプレス工程Pb2においては、前記予熱工程Pb1において予熱の施された前記樹脂基材12が、図8(c)に示すように、例えば竪型プレス機における上型22と前記下型20との間に設置され、前記プレス機によるプレス動作により、それら上型22及び下型20の間でその樹脂基材12にプレス加工が施される。前記下型20の構成は、図6(c)を用いて前述したものと同様であるため、その説明を省略する。前記上型22には、プレス加工される前記樹脂基材12において前記高密度部12bが形成される位置に対応して突起部22aが設けられている。前記樹脂基材12が前記上型22と前記下型20との間でプレス加工される際、前記突起部22aが設けられた位置においては、その突起部22aが設けられていない部分よりも前記樹脂基材12が大きく圧縮させられる。このように大きく圧縮させられた部分が前記高密度部12bとされ、余の部分が前記低密度部12aとされる。換言すれば、前記低密度部12aは、膨張させられた前記樹脂基材12が完全にはプレスされないことにより形成される。すなわち、図5に示すプレス工程Pb2においては、前記樹脂基材12における前記高密度部12bに相当する部分が前記低密度部12aに相当する部分よりも大きく圧縮させられることで、前記樹脂基材12に前記低密度部12a及び前記高密度部12bが形成される。すなわち、本実施例の複合成形体の成形方法においては、前記プレス工程Pb2が高低密度部形成工程に相当する。換言すれば、本実施例の複合成形体10において、前記高密度部12bは、前記樹脂基材12のプレス時に、その樹脂基材12における前記高密度部12bに相当する部分が前記低密度部12aに相当する部分よりも大きく圧縮させられることで形成されたものである。
図5に示す射出成形工程P3は、前記プレス工程Pb2に続いて或いはそのプレス工程Pb2と略同時に実行される。すなわち、前記供給口20bから前記空洞20a内に溶融樹脂が射出させられて固化させられることで、図8(d)に示すように、前記樹脂基材12(低密度部12a)に対して前記取付部材14が一体に形成(接合)された本実施例の複合成形体10が成形される。ここで、図5及び図8に示す本実施例の成形方法においては、高低密度部形成工程としての前記プレス工程Pb2において、前記取付部材14が設けられる部分に対応する前記低密度部12aに隣接して前記高密度部12bが形成される。従って、前記射出成形工程P3において前記空洞20a内に溶融樹脂が射出される際、前記低密度部12aに浸透させられる溶融樹脂が、その低密度部12aに隣接して設けられた前記高密度部12bにおいてせき止められる。これにより、前記樹脂基材12(低密度部12a)に対するその溶融樹脂の含浸量を適切な値に制御することができ、必要十分なアンカー効果を確保しつつ、含浸量が多くなることによるショートの発生を好適に抑制できる。
図9は、本発明の複合成形体の具体的な一構成例である複合成形体30の構成を例示する斜視図である。図10は、図9のA−A断面図である。図11は、図9のB−B断面図である。図12は、図9のC−C断面図である。本実施例の複合成形体30は、車両のエンジンルームと車室との間に設けられる隔壁部であるダッシュパネル32と、そのダッシュパネル32に取り付けられたペダルモジュール34とを、備えて構成されている。図9〜図12に示すように、前記ダッシュパネル32は、例えば一部において屈曲させられた板状の部材であり、パネル部32aと、そのパネル部32aの周縁を縁取るように設けられた周縁部32bと、図示しないフットブレーキのマスタシリンダホール32cと、図示しないステアリング装置のステアリングコラムホール32dと、フットレスト32eとを、備えている。前記周縁部32bには、前記複合成形体30を例えば車体等に取り付けるための複数の取付穴32fが形成されている。前記ペダルモジュール34は、例えば、図示しないフットブレーキペダルのペダルサポート又はアクセルペダルのペダルブラケットに相当する。
前記複合成形体30は、図4又は図5を用いて前述した本実施例の成形方法により成形される。すなわち、前記樹脂基材12を予熱してその樹脂基材に膨張部を形成した後に、前記樹脂基材12をプレスし、且つ前記樹脂基材12に溶融樹脂を射出して固化させることで前記取付部材14としての前記ペダルモジュール34等を一体に形成したものである。すなわち、前記複合成形体30において、前記ダッシュパネル32は、前記樹脂基材12の加工により構成されたものである。図10〜図12に示すように、例えば、前記パネル部32aの一部又は全部(好適には全部)が前記低密度部12aに相当する。前記周縁部32bの一部又は全部(好適には全部)が前記高密度部12bに相当する。前記ペダルモジュール34が前記取付部材14に相当する。すなわち、前記ペダルモジュール34は、前記射出成形工程P3等において前記樹脂基材12(低密度部12a)に対して射出成形されたものである。図12に示すように、前記フットレスト32eにおける平坦部には、前記樹脂基材12(低密度部12a)に対して合成ゴム等のエラストマが射出成形されることで、滑り防止のための足置き部36が形成されている。すなわち、本実施例の複合成形体30において、前記ダッシュパネル32は前記低密度部12a及び前記高密度部12bから形成されている。前記ペダルモジュール34及び前記足置き部36が前記取付部材14に相当する。
前記低密度部12aは、その低密度部12aを構成する樹脂(熱可塑性樹脂)が疎とされているため、遮音性(防音性)に優れている。前記ダッシュパネル32においては、前記パネル部32aが前記低密度部12aから形成されていることで、遮音機能を有する。前記高密度部12bは、その高密度部12bを構成する樹脂が密とされているため、機械的強度に優れている。前記ダッシュパネル32においては、他部材との取り付けに係る前記周縁部32b、前記マスタシリンダホール32cの周囲、及び前記ステアリングコラムホール32dの周囲等が前記高密度部12bから形成されていることで、前記ダッシュパネル32が他部材に取り付けられた際、十分な強度(耐久性)を実現できる。図11及び図12に示すように、前記複合成形体30においては、取付部材としての前記ペダルモジュール34、前記足置き部36を構成する樹脂の一部が含浸させられる前記低密度部12aに隣接して、前記高密度部12bが形成されている。これにより、前記樹脂基材12(低密度部12a)に対するその溶融樹脂の含浸量を適切な値に制御することができ、必要十分なアンカー効果を確保しつつ、含浸量が多くなることによるショートの発生を好適に抑制できる。
図13は、本発明の複合成形体の他の具体的な一構成例である複合成形体40の構成を例示する図であり、その複合成形体40をその平面部に垂直な方向から見た平面図である。図14は、図13のD−D断面図である。本実施例の複合成形体40は、例えば、車両等に好適に用いられる板状の防音部材に相当し、平面視において均等に配置された複数の肉厚部42aを備えた防音パネル42と、その防音パネル42における前記複数の肉厚部42aを相互に接続する接続部44とを、備えている。前記複数の肉厚部42aは、図13に示すように、例えば平面視において正六角形状が均等に配置された構成(所謂蜂の巣状)に形成されると共に、断面視において均等に配列された台形状に構成されている。すなわち、前記肉厚部42aは、頂上が平坦で周囲(側部)が傾斜する所謂メサ状に構成されている。図14に示すように、前記防音パネル42においては、前記複数の肉厚部42a相互間が、その肉厚部42aよりも厚み寸法が薄い部分に相当する肉薄部42bで連結されて一体に構成されている。前記接続部44は、好適には、前記複数の肉厚部42a相互間であって前記肉薄部42bよりも前記防音パネル42の表面側に設けられている。
前記複合成形体40は、図4又は図5を用いて前述した本実施例の成形方法により成形される。すなわち、前記樹脂基材12を予熱してその樹脂基材に膨張部を形成した後に、前記樹脂基材12をプレスし、且つ前記樹脂基材12に溶融樹脂を射出して固化させることで前記取付部材14としての前記接続部44を一体に形成したものである。すなわち、前記複合成形体40において、前記防音パネル42は、前記樹脂基材12の加工により構成されたものである。図13及び図14に示すように、例えば、前記肉厚部42aの一部又は全部(好適には全部)が前記低密度部12aに相当する。前記肉薄部42bの一部又は全部(好適には全部)が前記高密度部12bに相当する。前記接続部44が前記取付部材14に相当する。すなわち、前記接続部44は、前記射出成形工程P3等において前記樹脂基材12(低密度部12a)に対して射出成形されたものである。前記接続部44の材料としては、軟質且つ伸び性に優れた合成ゴム等のエラストマが好適に用いられる。すなわち、本実施例の複合成形体40において、前記防音パネル42は前記低密度部12a及び前記高密度部12bから形成されている。前記接続部44が前記取付部材14に相当する。
前記複合成形体40においては、前記防音パネル42における肉厚部42aが前記低密度部12aから形成されていることで、遮音機能を有する。更に、前記高密度部12bに比べて衝撃吸収性(弾力性)に優れている。前記防音パネル42においては、取付部材としての前記接続部44を構成する樹脂の一部が含浸させられる前記低密度部12aに隣接して、前記高密度部12bが形成されている。これにより、前記樹脂基材12(低密度部12a)に対するその溶融樹脂の含浸量を適切な値に制御することができ、必要十分なアンカー効果を確保しつつ、含浸量が多くなることによるショートの発生を好適に抑制できる。更に、前記複数の肉厚部42aが、軟質の樹脂である前記接続部44により相互に接続されているため、前記防音パネル42全体の衝撃吸収性及び形状融和性を向上できる。すなわち、図15に白抜矢印で示すように、前記防音パネル42に対してその表面側から衝撃物体46が衝突した場合、前記低密度部12aから形成された前記肉厚部42aの衝撃吸収性によりその衝撃が吸収される。この際、図15に示すように、前記高密度部12bから形成された前記肉薄部42bは破壊される可能性があるが、前記複数の肉厚部42a相互間に設けられた前記接続部44により、前記複数の肉厚部42a相互の接続は維持される。更に、軟質の樹脂から構成された前記接続部44が伸びることで、前記衝撃物体46の衝突に係る衝撃を更に緩和することができる。
このように、本実施例によれば、強化繊維を含有する熱可塑性の樹脂基材12を予熱してその樹脂基材12に膨張部を形成した後に、前記樹脂基材12をプレスし、且つ前記樹脂基材12に溶融樹脂を射出して固化させることで取付部材14を一体に形成した複合成形体10、30、40であって、前記樹脂基材12は、低密度部12aと、その低密度部12aに隣接して設けられたその低密度部12aよりも密度が高い高密度部12bとを、備え、前記取付部材14は、前記溶融樹脂の一部が前記低密度部12aに浸透させられて前記樹脂基材12と接合されたものであることから、前記低密度部12aに浸透させられる前記溶融樹脂が、その低密度部12aに隣接して設けられた前記高密度部12bにおいてせき止められ、前記樹脂基材12内に前記溶融樹脂が必要以上に浸透するのを好適に抑制できる。すなわち、ショートの発生を抑制しつつ異材同士を確実に接合させる複合成形体10、30、40を提供することができる。
前記高密度部12bは、前記樹脂基材12の予熱時に、その樹脂基材12における前記高密度部12bに相当する部分に吸熱板16が設けられた状態で予熱されることで形成されたものであるため、前記吸熱板16の形状及び配置等を適宜設定することで、前記樹脂基材12内の所定位置に前記低密度部12a及び前記高密度部12bを実用的な態様で形成することができる。
前記高密度部12bは、前記樹脂基材12のプレス時に、その樹脂基材12における前記高密度部12bに相当する部分が前記低密度部12aに相当する部分よりも大きく圧縮させられることで形成されたものであるため、例えば前記樹脂基材12のプレス用の金型において前記高密度部12bに相当する部分に突起部22aを設けてプレスを行うこと等により、前記樹脂基材12内の所定位置に前記低密度部12a及び前記高密度部12bを実用的な態様で形成することができる。
前記複合成形体30において、前記低密度部12aはダッシュパネル32に相当し、前記取付部材14はペダルサポート又はペダルブラケットを備えたペダルモジュール34に相当するものであるため、複合成形体30としてのダッシュパネル32の成形において、ショートの発生を抑制しつつ異材同士を確実に接合させることができる。
前記複合成形体40において、前記低密度部は防音パネル42に相当し、前記取付部材は前記防音パネル42相互の接続部44に相当するものであるため、複合成形体40としての防音パネル42の成形において、ショートの発生を抑制しつつ異材同士を確実に接合させることができる。
前記吸熱板16は、その厚み方向に少なくとも1つの孔部16aが貫通して設けられたものであるため、孔部16aを形成した箇所では吸熱量が小さくなり前記樹脂基材12の膨張率が高くなるため、前記樹脂基材12内の所定位置に前記低密度部12a及び前記高密度部12bを実用的な態様で形成することができる。
強化繊維を含有する熱可塑性の樹脂基材12を予熱してその樹脂基材12に膨張部を形成する予熱工程Pa1、Pb1と、前記樹脂基材12をプレスするプレス工程Pa2、Pb2と、前記樹脂基材12に溶融樹脂を射出して固化させることで取付部材14を一体に形成する射出成形工程P3とを、含む複合成形体10、30、40の成形方法であって、前記樹脂基材12に、低密度部12aと、その低密度部12aに隣接するその低密度部12aよりも密度が高い高密度部12bとを、形成する高低密度部形成工程を含み、前記射出成形工程P3は、前記高低密度部形成工程により形成された前記低密度部12aに前記溶融樹脂の一部を浸透させて、前記取付部材14を前記樹脂基材12と接合させるものであるため、前記低密度部12aに浸透させられる前記溶融樹脂がその低密度部12aに隣接して設けられた前記高密度部12bにおいてせき止められ、前記樹脂基材12内に前記溶融樹脂が必要以上に浸透するのを好適に抑制できる。すなわち、ショートの発生を抑制しつつ異材同士を確実に接合させる複合成形体10、30、40の成形方法を提供することができる。
前記高低密度部形成工程は、前記予熱工程Pa1において、前記樹脂基材12における前記高密度部12bに相当する部分に吸熱板16が設けられた状態で前記樹脂基材12を予熱することで前記低密度部12a及び前記高密度部12bを形成するものであるため、前記吸熱板16の形状及び配置等を適宜設定することで、前記樹脂基材12内の所定位置に前記低密度部12a及び前記高密度部12bを実用的な態様で形成することができる。
前記高低密度部形成工程は、前記プレス工程Pb2において、前記樹脂基材12における前記高密度部12bに相当する部分を前記低密度部12aに相当する部分よりも大きく圧縮させることで前記低密度部12a及び前記高密度部12bを形成するものであるため、例えば前記樹脂基材12のプレス用の金型において前記高密度部12bに相当する部分に突起部22aを設けてプレスを行うこと等により、前記樹脂基材12内の所定位置に前記低密度部12a及び前記高密度部12bを実用的な態様で形成することができる。
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
例えば、前述の実施例において、前記高密度部12bは、前記樹脂基材12の予熱時に、その樹脂基材12における前記高密度部12bに相当する部分に吸熱板16が設けられた状態で予熱されること、或いは前記樹脂基材12のプレス時に、その樹脂基材12における前記高密度部12bに相当する部分が前記低密度部12aに相当する部分よりも大きく圧縮させられることにより形成されたものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、前記高密度部12bは、他の方法によっても好適に形成される。
前述の実施例においては、前記樹脂基材12としてGMTを例示したが、本発明の複合成形体に用いられる樹脂基材は、必ずしもGMTでなくともよく、各種繊維強化プラスチック(fiber-reinforced plastics:FRP)が適宜選択されて用いられる。前記取付部材14に用いられる樹脂もPA6樹脂には限られず、種々の合成樹脂材料が用いられ得る。例えば、前記樹脂基材12に用いられる熱可塑性樹脂がポリプロピレンである場合に、前記取付部材14には、ナイロン66(PA66)、TPO或いはTPS等の熱可塑性エラストマ、ABS樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の合成樹脂材料が好適に用いられる。前記樹脂基材12が、強化繊維としてのカーボンファイバを含有するナイロン6による強化繊維含有熱可塑性樹脂(PA6−CFスタンパブルシート)である場合、前記取付部材14には、ポリフェニレンスルファイド(PPS)等が好適に用いられる。すなわち、本発明は、強化繊維を含有する熱可塑性の樹脂基材を予熱してその樹脂基材に膨張部を形成した後に、前記樹脂基材をプレスし、且つ前記樹脂基材に溶融樹脂を射出して固化させることで取付部材を一体に形成した複合成形体に広く適用されるものである。
前述の実施例では、本発明の複合成形体の具体的な構成例として、ダッシュパネル32、防音パネル42に本発明が適用された例を説明したが、本発明は、例えば、エンジンアンダーカバーやフェンダーカバー等の他の自動車用部材にも好適に適用される。或いは、自動車用部材以外の各種部材に本発明の複合成形体が適用されても当然に構わない。
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。