第1の発明は、衣類を収納するドラムと、永久磁石と巻線を有し、前記ドラムを駆動する電動機と、直流電源から電力が供給され、スイッチング素子を有し前記電動機に電流を供給するインバータ回路と、前記電動機の電流を検知する電流検知手段と、前記スイッチング素子をオンオフ制御する制御手段と、前記ドラムの開口部を開閉する蓋と、前記蓋をロックする蓋ロック手段とを有し、前記制御手段は、前記電動機の制動時に、前記巻線を短絡する短絡制動期間を経て前記ドラムの速度を略零とし、前記ドラムの速度が略零となったことを前記電流検知手段により電流値で検知した後、前記直流電源から前記巻線に電流を供給するように前記スイッチング素子を制御してから前記蓋ロック手段を使用者が前記蓋を開くことが可能な状態とすることにより、インバータ回路からドラムに至る経路での故障の一要素である、断線故障やスイッチング素子の故障などが起こった場合にあっても、誤った判定による蓋ロック手段の解除動作をなくし、安全性が高いものとすることができる。
また、制御手段は、前記制動時に、前記巻線を短絡する短絡制動期間を経て前記ドラムの速度を略零とすることにより、比較的簡単な構成で制動動作と前記ドラムの速度が略零になった状態を検知することができ、その上で断線故障やスイッチング素子の故障が起こった場合の安全性についても高いものが実現できるものとなる。
第2の発明は、特に第1の発明において、前記制御手段は、前記制動時に前記ドラムの速度が略零となった後、前記電流検知手段の出力が所定値となるように前記スイッチング素子を制御してから前記蓋ロック手段を使用者が前記蓋を開くことが可能な状態とすることにより、力行時にベクトル制御など電流制御を用いる構成では力行時に用いる構成要素の一部を流用し、比較的簡単な構成で安定した動作が実現でき、断線故障やスイッチング素子の故障が起こった場合の安全性も高めることができる。
第3の発明は、特に第1の発明において、前記制御手段は、前記制動時に前記ドラムの速度が略零となった後、前記電流検知手段の出力が所定値に満たない場合、前記蓋ロック手段を使用者が前記蓋を開くことが不可能な状態を継続するものとすることにより、力行時にベクトル制御など電流制御を用いる構成では力行時に用いる構成要素の一部を流用し、比較的簡単な構成で明確な信号変化から確実性の高い異常状態の検知が可能となり、安全性が高いものとすることができる。
第4の発明は、特に第1〜第3のいずれかの発明の電動機とドラムの間に動力伝達経路を有し、前記制御手段は、前記制動時に前記ドラムの速度が略零となった後、前記電動機への電流供給期間中に前記動力伝達経路の故障を検知した場合、前記蓋ロック手段を使用者が前記蓋を開くことが不可能な状態を継続する構成とすることにより、前記断線故障時に加え、やはり前記インバータ回路から前記ドラムに至る経路の一要素である、前記動力伝達経路での故障が発生した場合に発生しうる前記ドラム回転に対しても、高い安全性を実現することができるものとなる。
第5の発明は、特に第4の発明の動力伝達経路をベルトとし、前記電流供給期間中に前記電動機に供給される電流の周波数は、前記電動機と前記ベルトおよび前記ドラムによる機構共振周波数成分を有する構成とすることにより、前記ドラムに新たな運動を加えることなく、前記ベルトの有無を非常に高い精度で検知することができ、高い安全性を実現することができる。
第6の発明は、特に第1〜第5のいずれかの発明の制動時に、前記ドラムの速度が略零となった後、前記ドラムの速度を、毎分1回転以下とすることにより、使用者の危険を極力低減した、極めて高い安全性を実現ですることが可能となる。
第7の発明は、特に第1〜第6のいずれかの発明の電動機に位置検知器を持たないセンサレス方式としたことにより、誤った判定による蓋ロック手段の解除動作をなくし、使用者の安全性の確保を行うことができ、低コストな洗濯機を提供できる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態におけるインバータ装置のブロック図を示すものである。
図1において、埋め込み構造としたネオジの永久磁石40、41と3相の巻線42、43、44を有し、衣類45を収納するドラム46を、プーリ47およびベルト48を介して回転駆動する原動機となる電動機49と、6石のスイッチング素子51、52、53、54、55、56を有し、直流から交流への逆変換を行い、電動機49に交流電流Iu、Iv、Iwを供給するインバータ回路57と、スイッチング素子51、52、53、54、55、56をオンオフ制御する制御手段58を有し、制御手段58は、交流電流Iu、Iv、Iwを検知する電流検知手段59を有しており、本実施の形態においては、電流検知手段59は、3相それぞれの電流を電圧に変換するシャント抵抗61、62、63、および低電位側のスイッチング素子54、55、56のオン期間にシャント抵抗61、62、63の両端に発生する電圧を受け、線電流Iu、Iv、Iw値が−10〜+10Aに対して、0〜5Vのアナログ電圧に変換して出力する増幅器64により構成されている。
本実施の形態においては、電流検知手段59として3相の各相に対応する3個の抵抗シャント抵抗61、62、63を用いる3シャントなどと呼ばれる構成を用いているが、1シャントと呼ばれるような1個のシャント抵抗で、検知タイミングから3相の各電流値Iu、Iv、Iwを分離する構成、あるいはDCCTと呼ばれるような直流電流成分から検
出が可能な電流センサを2個〜3個使用するものであってもかまわない。
さらに制御手段58は、中央制御部66を有し、インバータ回路57の制御のための信号生成や、電流検知手段59からの出力信号Iua、Iva、Iwa信号受付などをすべてデジタル式にて行うものとなっている。
PWM回路67は、中央制御部66からDuty信号を受けて、64マイクロ秒周期の三角波でのパルス幅変調(PWM)を行った信号Bを出力するものであり、中央制御部66の信号S1〜S6は、インバータ回路57との間に設けた、切り替え手段69、駆動回路70を経てスイッチング素子51、52、53、54、55、56のゲート信号を与えるものとなっているが、切り替え手段69が、中央制御部66のK信号がハイである場合には、図1に表示されている状態となって、S1〜S6が採用されるのに対し、K信号がローとなっている場合には、切り替え手段69内の各スイッチが下側に接続された状態となる。
インバータ回路57は、AC230V50Hzの交流電源71、全波の整流器72、コンデンサ73により構成した直流電件74から、直流電圧VDCが供給されており、抵抗76、77によって構成した直流電圧検知回路78の出力Aが、中央制御部66にアナログ電圧信号として入力される形となっており、中央制御部66の内部では、これもA/D変換されたデジタル値として処理されていくものとなっている。
図2は、本発明の第1の実施の形態におけるインバータ装置の中央制御部66内の詳細構成を示すブロック図である。
なお、中央制御部66を実現する実際の部品としては、1チップ式のマイクロコンピュータなどが用いられるものとなるが、図1の中央制御部66の外側の部分も含めて、1台のマイクロコンピュータのソフトウェアで処理することで実現しても良いし、逆に中央制御部66内の構成をハードウェアで実現しても良く、1チップとしても多チップの部品で実現してもよく、またDSPなどと呼ばれるような各種プロセッサを部品として用いたものであっても良い。
図2において、3相電流Iu、Iv、Iwに対応した信号Iua、Iva、Iwaと算出された位相θ信号を用いて、数式1を用いてIdとIqへの変換、すなわち静止座標から回転座標への変換を行って出力する第1の座標変換手段80、設定値IdrとIdの誤差を計算する減算手段81、設定値IqrとIqの誤差を計算する減算手段82、減算手段81、82の出力に対して、PI(比例、積分)のゲインを作用させる誤差増幅手段83、84を設けており、その出力VdとVqは、θ信号と共にdq座標から、数式2を用いて3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwの値に変換する第2の座標変換手段88が設けられており、PWM手段89において、A信号に対する3相の電圧指令値の比率で、64us周期の三角波のキャリア波を作用させ、そのキャリア波との瞬時値比較、およびデッドタイムを付して、上下の駆動信号S1〜S6を生成するものとなる。
なお、本実施の形態においては、電流検知手段59は、3相すべての電流を検知できる構成としているが、電動機49の三相の巻線42、43、44の内の2相以上の電流を検知すれば、残りの1相はキルヒホッフの法則によって計算できるものとなるため、2相のみの検知としてもかまわない。
速度推定手段90は、電動機49のパラメータ(抵抗値、最大インダクタンス、最小インダクタンス)を記憶しており、電動機49の電圧方程式を用いて、速度センサなしでありながら電動機49の速度推定を行うもので、第1の座標変換手段80の出力Id、Iqと、第2の座標変換手段88の入力Vd、Vqを受け、推定速度ω、ω2を出力するものとしている。
なお速度推定手段90の内部は、電動機49の電圧値および電流値から、位相誤差に対応するεが算出され、それが零に収束するように、積分もしくは比例積分要素などを持つ誤差増幅がなされ、フィードバック系が構成される。
速度推定手段90の出力ω2を受ける積分器92は、ω2を時間積分し、2πとなった時点で零にリセットされる位相信号θを出力する。
本実施の形態は、さらに速度設定値ωrとωとの差を計算する減算手段94、減算手段94の出力に対して、PI(比例、積分)のゲインを作用させる誤差増幅手段95、算出速度ωからIdrを決めるIdr設定手段96、短絡ブレーキ制御手段98、速度設定値ωr、ブレーキ要求信号BRQの信号発生を行うシーケンス発生手段99が設けられている。
Idr設定手段96は、ω値がドラム46の速度換算で400r/min以下の場合には、Idrとして0Aを出力し、ドラム46の速度換算で400r/minを超える場合には、Idr<0Aとしつつ、絶対値としてはωの増大に伴い徐々に増加させることにより、ドラム46の速度換算で1200r/minではIdr=−5Aとするものとなっており、高速での弱メ界磁制御がかかるものとなっている。
シーケンス制御部99は、電気洗濯機として動作を行うため、外部の構成要素との各種信号(停止ボタン信号Sstop、給水弁信号Skb、排水弁信号Shb、蓋ロック信号Srk、蓋閉信号Sclなど)を送受信しながら、電動機49の運転に関わる各種の信号も送受信するものである。
切替手段100は、制動時に前記ドラムの速度が略零となった後、シーケンス制御部99からの信号Kaを受けて、各接点をaからbに切り替えることで、Idr、Iqr、θの値を、信号発生器101の出力Idr0、Iqr0、θ0に切り替える作用を持っている。
短絡電流判定手段103は、短絡状態での3相分の電流信号Iua、Iva、Iwaの瞬時値の絶対値のすべてが0.6Aを下回った場合にCs信号をハイとするものとなっている。
図3は、本実施の形態における、短絡ブレーキ制御手段98内のブロック図である。
図3において、短絡ブレーキ制御手段98は、関数発生器105、積分器106、遅延手段107を有しており、遅延手段107はBRQに対して遅延時間Td1=5msの時間遅れで積分器106のINTEG信号を発生させる。
積分器106においては、INTEGがローの状態では積分値Dutyは初期値となる零となっており、INTEG信号がハイに上がった時点から時間積分の動作が開始されることにより、Duty信号が出力されるものとなっている。
特に本実施の形態においては、積分器106出力となるDuty信号を関数発生器105の入力として用いることにより、積分の開始からの時間のカウントを省略した簡単な構成でありながら、短絡時間比率拡大期間の開始からの時間に応じた短絡時間比率の拡大速度を変化させることができるものとなっている。
ここで積分器106は、100%で制限がかかる上限リミッタによりDuty値の制限を行う機能を内蔵したものとなっており、この制限動作により、Dutyは最終的に上限値である100%にて頭打ちとなり、その段階でPWMからベタオン状態に移るものとなる。
なおDuty100%となった時点では、低電位側スイッチング素子54、55、56内のIGBTやダイオードの電圧降下分、およびインバータ回路57から電動機49までの配線による電圧降下分は、電動機49の入力電圧として例えば2〜3V程度残るものとなるが、このような電圧は略零の範疇と考える。
図4は、本実施の形態の関数発生器105の入出力特性を示すグラフであり、横軸に入力、縦軸には出力をとり、後に積分器106の入力となることから、短絡時間比率拡大速度dDuty/dtの意味合いを持つ値となる。
特に本実施の形態においては、短絡時間比率Dutyの拡大期間において、その開始からの時間をカウントする代わりにDutyに対する増加速度dDuty/dtの関数を備えたものとしている。
これによって、計算に使用する変数の数が削減できるものとなり、安価で小型のマイクロコンピュータでも使用できるものとなるなどの効果がある。
しかしながら、特にこのような構成にする必要があるというものではなく、開始からの時間をカウントし、その時間の関数として出力を行うものを用いてもかまわない。
また、十分な特性が得られるのであれば、図4に示した曲線(カーブ)の代わりに、直線や、階段状の値を用いてもよく、マイクロコンピュータでの計算の負担を軽いものとすることも可能となる。
短絡ブレーキ制御手段98は、電気洗濯機に何らかの異常が発生した場合、および動作の区切りの時点で、電動機49をブレーキ状態として停止させた場合の制御を行うものであり、シーケンス発生手段99からのブレーキ要求信号BRQを受けた場合には電動機49の入力を徐々に短絡状態、すなわち3相の入力端子間の電圧がほぼ零となるように、インバータ回路57内のスイッチング素子51、52、53、54、55、56に対するゲート制御を実現するものとなっている。
図5は、本実施の形態における一般にドラム式洗濯機と呼ばれるインバータ装置の断面図である。
図5において、衣類45を収納するドラム46は、電動機49からベルト48を介してプーリ110に動力が伝えられて回転駆動がなされ、電動機49に3相の交流電流を供給するインバータ回路57は、制御手段58に接続されている。
ドラム46は樹脂製の受け筒111の内部で回転するものとなっており、給水弁113、排水弁114の開閉が制御手段58からのSkb信号、Shb信号により開閉することによって、受け筒111内に水が給排水され、別に投入される洗剤と共に、洗濯と脱水がなされるものとなっている。
ここで、ドラム46の前方には開閉可能な蓋116が設けられており、使用者が蓋116を開閉するためのハンドル117が設けられており、洗濯および脱水中にドラム46が回転する際には、蓋116が閉じられ、使用者の安全確保や、水の飛散の防止するものとなっている。
なお、蓋116は一部が透明のガラスでできており、洗濯動作中にもドラム46内の洗濯の状態が見えるものとなっている。
蓋116がハンドル117の操作で開かれた状態は、破線で示している。
本実施の形態においては、蓋116は本体に繋がる蝶番部分を中心として開閉するものとしているが、引き戸構成のものや、折りたたみする構成のもの、シャッタ構成のもの、また取り外しができるものなどであってもかまわない。
蓋ロック手段119は、蓋116が閉じられた状態に保持するものであり、ソレノイド120、プランジャ121、バネ122およびロック制御回路123からなっており、ソレノイド120に通電がなされていない図示している状態では、蓋116はロック状態となるため、使用者がハンドル117を引いても、その他いかなる操作を行っても、蓋116を開くことはできない状態となる。
ロック制御回路123は、制御手段58からのSrk信号により、ソレノイド120への通電を行い、ロックの解除を行われると、使用者はハンドル117を引いて蓋116を開くことができる状態となる。
なお、蓋検知スイッチ125は、蓋116の開閉状態を検知するものであり、開閉検知信号Sclを制御手段58に伝え、蓋116が開かれている場合には、Sclはローとなり安全確保の面から、インバータ回路57への信号としては、電動機49への交流電流の供給は行わず、ドラム46を回転する運転はなされないものとなっている。
そして、脱水運転の終了後など、制御手段58からSrk信号が送られると、蓋ロック手段119は、ソレノイド120への通電を行うことによってロック状態が解除され、使用者が蓋116を開くことができる状態となる。
脱水運転が停止する場合としては、所定の脱水時間に達した場合の他、使用者が停止ボタン126を操作し、Sstop信号が発生した場合、また過負荷などの異常が発生した際にも、制御手段58内の異常信号が発生し、いずれも電動機49の制動がかかり、ドラム46が停止された時点で、制御手段58でのBRQ信号での停止の判定がなされた後、蓋ロック手段119がロック状態を解除され、使用者はハンドル117を引くことによっ
て、蓋116が開けることができる。
図6は、本発明の第1の実施の形態におけるインバータ装置のBRQによって短絡ブレーキとなる場合の波形図であり、(ア)はBRQ信号、(イ)はK信号、(ウ)はDuty信号である。
力行期間から、中央制御部66の内部信号BRQは時刻T1でハイとなり、同時にK信号がハイからローになるが、この時点ではDuty値は零であるため、スイッチング素子51、52、53、54、55、56のIGBT部分は、すべてオフとなる5msのオールオフ期間Td1に移る。
なお、オールオフ期間Td1中には、電動機49が低速である場合には、ほとんど電流が零の状態となるが、高速である場合(誘導起電力が高い状態)では、スイッチング素子51、52、53、54、55、56のダイオード部分を通じて、直流電源への回生電流が流れる。
(ウ)に示される低電位側スイッチング素子54、55、56のオン時間の比率(Duty)は、短絡時間比率となり、オールオフ期間に続いて、T2からT3はDutyが増加する短絡時間比率拡大期間となり、一方高電位側スイッチング素子51、52、53については、切り替え手段69の作用によりオフ状態が保たれるものとなる。
短絡時間比率拡大期間中の短絡時間比率(Duty)の拡大速度は、時間経過と共に低下、また短絡時間比率が100%に近づくほど、低下するものとなっている。
電動機49の入力電圧の観点では、回転により発生する誘導起電力が瞬時値として正/負を繰り返すが、それが短絡時間中には強制的に零となるものとなり、絶対値が抑えられるものとなる。
よって本実施の形態は、T2〜T3の短絡時間比率拡大期間は、短絡時間の増加により、電圧の絶対値が低下させるようにスイッチング素子54、55、56が制御される電圧低減期間となる。
T3において、Dutyが100%に達した時点で、短絡時間比率Dutyが最大限、すなわち100%に保たれた状態となり、負荷の運動エネルギーを吸収する短絡制動期間に入るものとなる。
Duty100%となった時点では、低電位側スイッチング素子54、55、56内のIGBTやダイオードの電圧降下分、およびインバータ回路57から電動機49までの配線による電圧降下分は、電動機49の入力電圧として例えば2〜3V程度残るものとなるが、このような電圧は略零の範疇、すなわち短絡と考えられる状態になる。
このように、短絡時間比率となるDutyを徐々に増大させることにより、短絡制動期間に移る過程での過渡的な電流の跳ね上がりを防ぐことができ、過電流が防止できるものとなり、インバータ回路57の各構成要素の破壊、および電動機49の過電流故障を防ぐことができる。
特に、本実施の形態においては、短絡時間比率の拡大速度dDuty/dtを徐々に低下させたものとしていることにより、短絡制動期間に入る時点での電動機49の速度条件が広範囲に振られても、過渡的な電流の跳ね上がりを防ぐことができるという効果があり、速度が高い条件下ではT2付近のDutyの拡大速度の設計、また速度が低い条件下で
はT3付近のDutyの拡大速度の設計で対応可能となる。
なお、特に高速における直流電源74への回生による過電圧を抑える面からは、短絡時間比率拡大期間の後半となるT3付近での短絡時間比率拡大速度dDuty/dtを、中速〜低速条件下での過渡的な電流の跳ね上がりが許容できる範囲で高める設計とすることにより、最小限に抑えることができるものとなる。
そして、電動機49が広範囲の速度条件にて短絡制動期間に入る場合の線電流の過電流の防止とともに、直流電源74の回生による過電圧発生も抑えることができ、速度情報が不要であることから、センサレスと呼ばれるような電動機49に位置検知用のセンサ、および速度検知用のセンサを持たず低コストとした構成にも対応することができる。
さらに、電気洗濯機のように電動機49の回転方向が、一方向ではなく、右に回ったり左に回ったりするインバータ装置であっても、相順に関係なく短絡ブレーキ(短絡制動)期間に移行する制御が可能であることから、有効なものとなる。
図7は、本発明の第1の実施の形態におけるインバータ装置のBRQによって短絡ブレーキとなり、図6に示した期間から、さらに時間が経過し、電動機49および負荷であるドラム46が停止する前後の動作波形図を示している。
図7において、(ア)はドラム46の速度、(イ)はIu、Iv、Iwの電流波形、(ウ)は短絡電流判定手段103のCs出力信号、(エ)は切替手段69への入力信号となるK信号、(オ)は蓋ロック手段119に入力されるSrk信号を示している。
短絡ブレーキ状態となった電動機49は、次第に速度が低下し、同時に線電流については周波数がほぼ速度に比例して低下し、線電流の振幅も最終的には低下し、速度が零となる時点で零に収束していくものとなる。
本実施の形態においては、零電流である場合の電流検知手段59の出力は、5V電源のほぼ中間となる2.5V程度となるが、運転開始前のスイッチング素子54、55、56がオフの状態での値を零電流に相当するオフセット値として記憶しておいて使用し、各相の線電流の絶対的な値で扱うものとなる。
短絡ブレーキに入った時点から停止に至るまで時間については、短絡ブレーキに入った時点での電動機49の速度、負荷の慣性モーメント、電動機49のインダクタンスや抵抗値、スイッチング素子54、55、56のオン状態での電圧(VCE(SAT))などによって左右されるものとなり、一定時間ではないため、速度の低下によって現れる物理現象である電流値を、本実施の形態で用いることにより、十分な低速にまで速度が低下した状態を検知するものとしている。
具体的には、本実施の形態においては、3つの線電流Iu、Iv、Iwの瞬時値の絶対値のすべてが0.6Aを下回った時点T1でCs信号をハイとするものとなり、ドラム46の速度として7r/min程度に低下した段階となる。
短絡ブレーキ制御手段98はT1にて、ハイとなったCs信号を受けた後、0.15秒間の遅延時間を経過したT2時点で、のKおよびKa信号をハイとして、切替手段69、切替手段100の状態を変化させ、6石のスイッチング素子51、52、53、54、55、56のオンオフ制御を有効とし、かつ信号発生器101からのIdr0、Iqr0、θ0が有効に作用した形で、直流電源74から電動機49の巻線42、43、44に制御された電流が供給される状態となる。
すなわち、制御手段58は制動時にドラム46の速度が略零となった後、直流電源74から巻線42、43、44に電流を供給するようにスイッチング素子51、52、53、54、55、56を制御するものとなる。
信号発生器101の出力Idr0、Iqr0、θ0については、T2時点ではいずれも0であるが、20ms経過したT3において、Idr0のみ3Aとなり、これが300ms継続するものとなる。
この間に、電動機49内には巻線42、43、44の電流によって、回転が無く、大きさも固定された静止の起磁力が発生するものとなり、位置決めと言われるような状態で、速度が零となり、完全に静止した状態に落ち着く。
その後、(オ)に示されるように、制御手段58から蓋ロック手段119に、Srk信号がハイとして送られるとなり、蓋ロック手段119は、ソレノイド120に通電された状態となって、使用者は蓋116を開くことが可能な状態となる。
また、停止したことが判定された後、シーケンス発生手段99からの指示より、電気洗濯機として必要な次の工程に移る場合もある。
以上のように、位置センサや速度センサを用いない低コストと簡単な構成でありながら、短絡ブレーキを用い、かつその期間の電流からの適切な停止の判定により、安全性の確保を行うことができるものとなる。
図8は、本実施の形態において、脱水動作などの完了時および途中でのブレーキに入る場合のフローチャート図を示している。
図8において、ブレーキ動作スタート130に入ると、短絡ブレーキ(BRQ)131に移り、図6に説明したように、電圧低減期間に続いて短絡制動期間に入る。
Cs132にて、停止に近い速度に減速が進んだことを判定した時点で、電流供給134に移り、本実施の形態においては、Kaがハイとなって、力行時にも使用される電流制御機能が活用された形で、300ms(=0.3秒間)の期間、U端子から、VとW端子に向かっての直流の電流が供給され、この時点でインバータ回路57の動作、および電動機49に至る配線が正常である場合には、U、V、Wの全相の線電流の絶対値は、いずれも0.6Aを超えるものとなる。
電流制御有効135において、線電流の絶対値が0.6Aを超えているかどうかの判断がなされ、YESの場合にはロック解除137に移り、ここでソレノイド120の通電が行われ、使用者は蓋116を開くことができる状態となる。
一方、NOの場合には、全相の線電流の絶対値が0.6Aを超えるまで待機する状態となり、ロック解除137に移らない状態となるため、使用者の安全性が確保される。
なお、本実施の形態においては、インバータ装置の電源が投入された段階でも、図8に示す動作が1回行われるものとなり、例えば前回の運転の制動が完了していない状態であった場合にも、ドラム46に残っている回転がある場合の使用者に危険を極力回避するため、使用者が蓋116を開くことができないように、蓋ロック手段119の状態を保つものとなっている。
特に、本実施の形態においては、短絡制動期間を設けているため簡単なプログラム構成で制御手段58が実現できるものとなり、かつ短絡制動期間の最終段階での電流についても、正しい零電流状態における電流検知手段59の出力値をオフセット値として使用して絶対的な電流値を扱うものとしているため、例えば短絡ブレーキ中に電流検知手段59に故障が発生した場合、0Vや5Vなどの実際の電流値とは無関係に出力信号が固定される可能性が高いことを発明者らは把握しているが、その場合にはCs信号はハイとなる可能性は極めて低くなり、高い安全性が確保されるものとなる。
電流供給期間に、直流電源74から巻線42、43、44に電流を供給するようにスイッチング素子51、52、53、54、55、56を制御し、その電流の供給が有効になされるかどうかで、配線の断線などを判断するため、短絡制動期間中に断線故障が生じた場合でも、蓋ロック手段119は、使用者が蓋117を開くことができない状態に保たれるものとなり、安全性が保たれるものとなる。
本実施の形態においては、電流供給期間における電動機49への電流値としては、各巻線42、43、44のすべてにおいて、0.6Aを超える値としているが、それ以下であっても良く、電流検知手段59の最小分解能以上の電流であれば、電流制御として有効に成り立つものとなり、配線の断線等が無い場合には、その電流検知手段59の反応があるため、断線等が発生した場合と正常な場合の違いが検知できるものとなり、電流制御中の印加電圧からの判断を併用することもできる。
また、電流供給期間と電流の大きさについては、ドラム46に衣類45が入った状態での位置決め動作を確実に行う場合には、さらに期間を長くするか、または電流値をさらに大とすることが必要となる。
ただ、位置決め動作を行わせることが必須というものではなく、単に電流制御が有効に働くものかどうかで、断線故障が起こったかどうかが判定できれば十分に有効なものとなり、位置決め動作を確実に行わせる場合であっても、1秒以上の直流電流の通電は、運転時間の長期化と、電気エネルギー消費による資源の浪費に繋がる要素が発生してくる。
本実施の形態で用いている電流供給期間の長さと電流値については、それぞれ300msと0.6Aを超える程度という比較的小さい値を用いていることから、電流供給期間の開始直後に発生するトルクによるドラム46の速度は、毎分1回転以下に抑えられるものとなる。
特に、本実施の形態のように、電動機49の入力を短絡した状態での電流が十分小であって、ほぼ停止している段階での断線の有無の確認を行うのであれば、必ずしも位置決め動作、すなわち発生させた直流磁界とd軸の位相差を十分小さい値とする動作は、必要なものではないことから、電流供給期間として500ms以下の最小限の電流とすることにより、その電流による新たなドラム46の運動は発生しないものとなり、短時間での停止の判定が可能となり、かつ無駄や動きのない品位の高いインバータ装置が実現できるものとなる。
電流供給期間の電流値に関しても、増せば増すほど位置決めさせるトルクが大となるものとなるが、電流供給期間を例えば1msなどのように短くした場合には、やはりドラム46に加わるトルク積(発生トルクと時間の積)は小となり、それによる新たなドラム46の運動(角加速度)は無視しうる程度に抑えられるものとなり、ドラム46の軸受けなどの摩擦などにより、電流供給期間に発生した運動エネルギーは、ごく短時間で吸収されて静止するものとなり、電流検知手段59の最小の分解能を大きく上回る電流値による、より確実な断線有/無の判定ができるとともに、短時間で、無駄な動きがなく高品位なイ
ンバータ装置が実現できるものとなる。
発明者の検討により、電流供給期間に電流を供給する場合、500ms以内で、各線電流の電流値の絶対値が1.5A以下であれば、10秒以内に毎分1回転以下に抑えられるものとなり有効であり、特に300ms以内、1Aであれば2秒以内で毎分1回転以下に抑えられるため、使用者の安全確保、および品位の上から有効である。
このように、電流供給期間があるが故に、逆にトルク発生でドラム46が回転してしまうという不具合も、十分に抑えることができるものとなり、少なくとも蓋ロック手段119の解除の直後に、使用者が蓋117を開いた状態でも、電流供給期間に発生したトルクによる回転で危険が発生することは無い。
なお、本実施の形態においては、ドラム46の回転軸は、水平としたものを示したが、特に水平にこだわるものであるというものでもなく、垂直、あるいは斜めの回転軸を有するものとしても良い。
ドラム46の回転駆動のための動力伝達経路についても、プーリ110、ベルト48を用いたものを示したが、これについてもこの構成に限定するものでもなく、ギア(歯車)を用いたものや、ダイレクト駆動と呼ばれるように、ドラム46の軸に直接に電動機を備えて同一の速度で回転するものなどであってもかまわない。
また、蓋ロック手段119の構成に関しても、本実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、例えば複数の蓋ロック手段を設け、使用者のハンドル操作によっていつでもロック解除が可能な第1の蓋ロック手段と、制御手段からの信号によってロック状態が解除される第2の蓋ロック手段とを併用する構成、あるいは蓋を閉じた状態で常にロック状態となるが、ロック解除は制御手段からの信号によって阻止/許可が働くもの、制御手段からの信号によってハンドル操作ができなくなるものなど、様々な構成を用いることができ、いずれの場合でも使用者が蓋を開くことができるかどうかを制御手段からの信号によって変化させることができるものであれば良く、具体的な構成は自由に設計できるものである。
(実施の形態2)
図9は、本発明の第2の実施の形態におけるインバータ装置の中央処理部140の内部ブロック図である。
本実施の形態においては、特に中央処理部140の構成の一部が、第1の実施の形態と異なるが、その他は同等であるため、特に第1の実施の形態から異なる構成要素のみを説明する。
図9にて、制御手段140は、短絡ブレーキ制御手段141、シーケンス発生手段142、切替手段143、信号発生器144が設けられており、シーケンス発生手段142からのKb信号によってb側端子に接続されると、第2の座標変換手段88の入力信号Vd、Vq、θ、および第1の座標変換手段80の入力信号θを、信号発生器144からのVd0、Vq0、θ0に切り替えることにより、電動機49に所定の電圧を印加するものとなっている。
その他の部分の構成に関しては、第1の実施の形態と同等である。
図10は、本実施の形態におけるインバータ装置のBRQによって短絡ブレーキとなり、電動機49および負荷であるドラム46が停止する前後の動作波形図を示している。
図10において、(ア)はドラム46の速度、(イ)はIu、Iv、Iwの電流波形、(ウ)は短絡電流判定手段103のCs出力信号、(エ)は切替手段69への入力信号となるK信号、(オ)は蓋ロック手段119に入力されるSrk信号を示している。
本実施の形態においては、T3時点以降の動作が、第1の実施の形態とは異なり、電流供給期間の長さとして、20msという短いものとなっており、電流値としては、電流検知手段59でノイズの問題がない検知が可能となる下限に近い、0.6Aをやや超える値となる電圧指令Vd0、Vq0としている。
図11は、本実施の形態において、脱水動作などの完了時および途中でのブレーキに入る場合のフローチャートを示している。
図11において、ブレーキ動作スタート150に入ると、短絡ブレーキ(BRQ)151に移り、図6に説明したように、電圧低減期間に続いて短絡制動期間に入る。
Cs152にて、停止に近い速度に減速が進んだことを判定した時点で、電圧供給154に移り、本実施の形態においては、Kbがハイとなり、20msの期間、直流電源74からスイッチング素子51、52、53、54、55、56を通じて、U端子がプラス、VとW両端子が共通のマイナスとなる形で電圧が印加される。
この時点でインバータ回路57の動作、および電動機49に至る配線が正常である場合には、U、V、Wの全相の線電流の絶対値は、いずれも0.6Aを超えるものとなる。
本実施の形態では、電流値判断155にて、20ms間の線電流の絶対値のピークの最小値の各相の最小値を閾値である0.6Aと比較して超えているかどうかの判断がなされ、達の場合にはロック解除157に移り、ここでソレノイド120の通電が行われ、使用者は蓋116を開くことができる状態となる。
一方、未達の場合には、エラー表示158となり、使用者が蓋116を開くことができない状態を保ちながら、エラーが発生していることを使用者に知らせるものとなり、使用者の安全性が確保される。
なお、ベクトル制御を用いないインバータ装置においては、U、V、W相の電圧値での設定を行えばよく、簡単な構成でありながら、断線した場合には、電流が流れない状態となることを確実に判定することができるものとなる。
また、電流供給期間が20msと短いことから、電流供給期間中に発生するトルク積(トルクと時間の積)は小なるものとなるため、ドラム46が空である場合の慣性モーメント0.3kg平米において、角速度1radは、毎分1回転以下の非常に小さいものとなり、軸受け等の摩擦などにより、100ms程度で静止するものとなる。
特に蓋117の一部が透明であって、使用者がドラム46の回転を見ることができる構成においては、一旦ドラム46が停止した後、新たなドラム46の動きがあると、使用者に不安感、不信感を抱かせるものとなり、そのような感覚を無くし、品位の上でも優れたインバータ装置を実現することができるものとなる。
(実施の形態3)
図12は、本発明の第3の実施の形態における、制動時にドラム46の速度が略零となった後の、電動機49への電流供給期間の前後の各部動作波形図を示しており、(ア)は電動機49の各巻線42、43、44に供給される電流Iu、Iv、Iw、(イ)はCs信号、(ウ)はK信号を示している。
本実施の形態においては、インバータ回路59から電動機49に供給される電流の波形が異なるが、その他の部分としては、実施の形態1および2と同等であり、電動機49とドラム46の間の動力伝達経路として、ベルト48が用いられているものとなっている。本実施の形態においては、電流供給期間の内、T3〜T4を500msとした上で供給電流も大とすることにより、ドラム46内に衣類45が入った状態であっても、T4時点での位置決め動作が確実に完了するものとなっているものとなり、T4以降の動作についての説明を以降に行う。
T5〜T6の80ms期間には、V端子からW端子に向かって電流が供給されるものとなり、T3〜T4での位置決め動作によるT5時点での永久磁石40、41の磁極に対して、電気角90度進んだ位相の弱めの起磁力が、T5〜T6には発生するものとなる。
図13は、本実施の形態におけるベルト48が正常な場合と、外れた場合(または切れた場合)について、電動機49の永久磁石40、41の位相を示しており、(ア)はT4時点、(イ)と(ウ)はT6時点、(エ)と(オ)はT8時点における状態である。
なお、永久磁石40、41の数は極数となるが、図13においては、2極機として示しており、機械角と電気角が等しくわかりやすい図としているが、現実的には4極、6極、8極などであってもよい。
(ア)においては、T3〜T4の期間に大きな電流が十分長い期間供給されたため、ベルト48が正常な場合も外れている場合も、N極を示す永久磁石40の向き、すなわちd軸は、電流ベクトルIaにほぼ等しい状態となり、位置決めがなされた状態となっている。
なお、位置決め動作については、一度の直流磁界の発生での死点回避が困難な場合を想定し、電気角90度等ずらした複数回の電流供給を行う、回転磁界を与える方法なども有効な場合もある。
次に、T6時点に関しては、T5〜T6の80ms間の位置決め力は、弱めのものとなっているため、ベルト48が正常に繋がっている状態では、ドラム46が有する大きな慣性モーメントJdとドラム46の軸受けでの摩擦要素も加わり、(イ)に示されるように、d軸の向きは(ア)とほとんど変化しない状態となる。
これに対して、(ウ)に示すベルト48がT5以前に外れた場合には、電動機49のみの慣性モーメントJm、および電動機49内の軸受けのみのごく小さい摩擦しかない状態となるため、T5〜T6の位置決めが有効に作用する状況となり、(ア)から、ほぼ電気角90度異なった位相となる。
なお、電動機49軸からみた場合の等価的なドラムの慣性モーメントとしては、ドラム46の軸での慣性モーメントJdを、プーリ減速比の二乗で除した値となるが、通常のドラム式洗濯機と呼ばれる構成においては、ドラム46が空の状態であっても、Jmと比較するとかなり大きな値となり、ベルト48の有無での差は非常に大きいものとなる。
もし仮に、T5〜T6において大きな電流を長時間供給するものとすると、ベルト48が正常であっても、ドラム46がベルト48によって回転される位置決め動作が有効に行われるものとなるが、本実施の形態では電流供給時間、および電流値を、ベルト48が有る状態では、位置決めが行われない程度の値に定めた状態にある。
T7〜T8においては、再度T3〜T4期間と同様の位相で2msという極めて短い期間の電流供給を行っているが、本実施の形態においては、この期間の電流立ち上がり速度dI/dtと電圧Vの関係から、数式3によって、インダクタンス値Lを求める。
永久磁石41、42は埋め込み構造としているため、Lq>Ldの関係がある。
図13において、ベルト48が正常な(エ)では供給される電流Iaの位相に対しては、LはほぼLdとなるのに対し、(オ)はほぼLqとなり、T8時点での位相(T6、T7もほぼ同等)が把握できるので、T5〜T6の位置決め動作が有効に行われたかどうかの判断から、ベルト48が正常かどうかの判断ができるものとなる。
T7〜T8は、蓋ロック手段119を解除状態(使用者が蓋117を開くことができる状態)とする前の最終的な電流供給期間となるが、これを2msというごく短時間とすることにより、ベルト48が正常に存在する場合のドラム46の新たな運動は発生せず、安全面で優れており、かつ無駄な動きも発生しないため品位が高いものとすることができる。
したがって、単に電動機49が停止していることが確認できるだけでなく、その段階で動力伝達経路を構成するベルト48が外れたり切れたりしていないことも確認することができる。
特に、ブレーキの最終段階近い状態で、ベルト48が外れたり切れたりした場合には、ドラム46が慣性(惰性)で回転し続けることになり、電動機49の停止の正確な判定のみでは、安全上の問題が残るものとなる。
この点において、本実施の形態ではベルト48が正常であり、かつ電動機49までの配線にも断線がなく、インバータ回路59からドラム46に至る経路すべてが正常であり、かつ停止状態であることが検知でき、もしそれらが満足されない場合には、動力伝達経路の故障、すなわちベルト48の切れ等を検知した判定とすることにより、蓋ロック手段119を使用者が蓋117を開くことが不可能な状態を継続するものとなり、より安全性の高いインバータ装置が実現できるものとなる。
なお、本実施の形態においては、インダクタンスLを求めるための電流供給は電流制御された電流源としているが、特に電流源に限定するものではなく、所定の電圧Vを印加して、電流の大きさ、もしくは電流の増加速度(dI/dt)から計算を行うものであってもよく、また一定の位相で電流または電圧を供給する代わりに、位相や電流値の大きさを時間とともに変化させながら、短時間の電流を断続的に供給する、または微弱な電流を連続的に供給するなどしても良く、少なくともベルト48が正常な状態において、ドラム46および電動機49がほとんど回転しない程度の電流または電圧を供給であればd軸やq軸の向きを探るには有効であり、自己インダクタンスLの検知の他に、供給した電圧や電流位相に対して電気的に90度ずれた成分の電圧や電流の値から、相互インダクタンスを用いた回転子位置を行う構成などであってもかまわない。
本実施の形態においては、ベルト48という動力伝達経路としているため、他の形の動力伝達経路に比較すると、ベルト外れやベルト切れなどの信頼性面でやや不利となるが、ベルト外れを適切に検知する本実施の形態の構成の有効性が高いものとなる。
ただし、動力伝達経路としてはベルト48以外にも歯車を用いたものなどもあり、それらに用いた場合でも、故障によって発生する安全上の問題を解決する効果がある。
(実施の形態4)
図14は、本発明の第4の実施の形態における、制動時にドラム46の速度が略零となった後の、電動機49への電流供給期間の前後の各部動作波形図を示している。
(ア)はVからWに供給される電流波形、(イ)はその周波数の変化、(ウ)はVとW間に発生する電圧の振幅(絶対値)を示しており、リプル分は除去した値としている。
ベルト48が電動機49とドラム46側のプーリ110の間に正常にかかっている場合には、主にベルト48の長さ方向の弾性による電動機49軸での捻りバネ定数K[Nm/rad]と、電動機49の慣性モーメントJm[kg平米]により、電動機49軸における機構反共振周波数、すなわちトルクに対する角速度および角加速度が最大となる共振周波数fが、単振動の数式4で計算されるものとなる。
なお、ここでは機構系の角速度(速度)とトルク(力)を、それぞれ電気系の電圧と電流に置き換えて、インピーダンスが極大となる周波数であるため、機構反共振周波数と言う表現も正しいものとなる、本明細書では共振と反共振を合わせて共振として記述しており、機構反共振周波数は機構共振周波数に含むものとしている。
また、この振動モードはベルト48の張力を測定する際などに用いられるベルトを弦として弾いた際に生じるものとは異なり、ベルト48が長さ方向に伸び縮みすることによる剛性(弾性の逆数)、およびベルトの張りの長さ、電動機49側のベルト掛けされるプーリ部分の半径などによって決まるものとなり、本実施の形態では、55Hzとなる。
反共振周波数fは、ドラム46の慣性モーメントJdがある程度大きい条件においては、ほぼ一定となり、ドラム46のみのドラム46軸でのJdが(0.3[kg平米])である場合、には内容物となる衣類45や水が加わった場合の影響は、比較的小さいものとなる。
ただ、ドラム46の慣性モーメントJdの影響や、ベルトの温度特性、経時変化などよる変化、またバラツキなどによってfが変動する要因があるため、本実施の形態においては、T10〜T11の電流供給期間において、供給される電流の周波数を30〜80Hzに変化させている。
よって、電流供給期間T10〜T11中に電動機49に供給される電流は、一方向のトルクを発生させるものではなく、正負交互のトルクを発生するものとなり、その周波数は、電動機49とベルト48およびドラム46による機構共振周波数である55Hzの成分を含むものとなるため、ドラム46の原動機となる電動機49は機構共振周波数を含み、その前後の周波数範囲の交番トルクを発生させるものとなっている。
VW間に供給される交番電流によって、電動機49に発生した交番トルクが、機構共振周波数fである55Hz付近での電圧絶対値|Vv−Vw|の極大点Rが存在する場合には実線となり、ベルト48が外れた場合の破線との差があるため、R点の存在を検知する
ことにより、ベルト48は正常な状態であることが判断できるものとなる。
すなわち、ベルト48を介して、負荷となるドラム46を回転駆動するための原動機となる電動機49に、原動機を含む機構要素の共振周波数成分の交番トルクを発生させ、それによる振動の大きさ(速度の振幅)にほぼ比例した永久磁石40、41の誘導起電力が巻線に発生するものとなるため、電動機49の入力電圧の振幅によって、原動機となる電動機49の振動の振幅を検知することで、機構共振周波数の有無からベルト48の有無を判定するものとなる。
なお、永久磁石40、41の位相によっては、VW間の電流供給ではトルクが発生しないことがあるため、VW以外の相UWなどでも行えば、ベルト48が正常である場合にはいずれかの相の間の交番電流の供給時の(ウ)に図示した反応での検知が可能となり、合わせて3相すべての配線に断線等がないことも検知できるものとなる。
本実施の形態においては、特に電流を30〜80Hzにしたことにより、電流供給期間中のドラム46の動きとしては、検知のための新たな運動をドラム46に発生されることはなく、ドラム46の周辺でも0.1mm以下という、ごく微小な振動に抑えることができることができ、使用者が透明ガラスを有する蓋117を通してドラム46を見ていても、不信感、不安感などを感じることもなく、極めて品位が高く、かつベルト48の外れや切れがある場合でも、その異常を高精度で検出できることから、ドラム46が完全に停止状態であることの裏付けがしっかりととれるものとなり、安全性として極めて高いものが確保できるものとなる。
ベルト48が正常か否かを判定する手段としては、トルクを発生させて、角加速度との関係から慣性モーメントを算出するなどの構成も可能であるが、T10時点で電動機49の停止の判定は完了している状態にあり、再度トルク発生でドラム46に運動を与えてしまうと、せっかく停止の判定を行った意味が薄れることもあるが、本実施の形態であればベルト48が正常かどうかの判定のために、ドラム46が動き出してしまうこともなく、好都合である。
以上の各実施の形態で説明したように、本発明のインバータ装置では、蓋ロック手段119の状態を、ドラム46が完全に停止した段階で、使用者が蓋117を開くことができるものとすることから、安全性の確保ができるものとなる。
なお、各実施の形態においては、ホールICなどの位置センサは特に設けない「センサレス」と呼ばれる構成としているため、低コストであり、かつ位置センサの取付けの位置バラツキなどによる影響をなくせるなど様々な効果を得ることができ、その上で電動機49への配線の断線の検出、および動力伝達経路(ベルト)48の外れなどの異常も検知することにより、ドラム46が確実に停止した状態で使用者が蓋117を開けるという、安全性が高いインバータ装置を実現するものとなっている。
なお、本実施の形態においては、機構インピーダンス(角速度/トルク)が極大となる、反共振周波数を用いたが、機構インピーダンス(角速度/トルク)が極小となる共振周波数を用いる構成もあり、13Hz程度でドラム46とベルト48の共振により発生するものとなるため、この周波数成分を用いてトルクに対する角速度、すなわち電動機49入力電流に対して電圧が小さくなることから、やはりベルト48の有無を判定することができるものとなる。
ドラム46の慣性モーメントの変動に関しては、やや広めに周波数を変化(スイープ等)することにより、カバーすることができるものとなり、ついでにドラム46内の衣類4
5の質量を検知するようにして、例えば脱水の程度を検知するようにしてもよい。
特に、ベルト48の外れに関しては、位置センサがあるインバータ装置にも用いることができ、通常用いられる電気角60度毎に信号が変化する位置センサなどよりも精度の高いベルト48の外れ有/無が判定できるものとすることもできる。
もちろん、位置センサを用いるインバータ装置における万一の位置センサ故障にも対応することができ、多重の安全性確保も行うことができるものとなり、抜群の安全性の確保ができるものとなる。
また、制動を行う場合の制御の構成として、各実施の形態では短絡制動を用いたものとしているが、他の構成により電気的な制動を電動機49に加えるものでも良く、電動機49が停止した時点でのインバータ回路59からドラム46に至る経路の故障である、断線が無いこと、また動力伝達経路の異常がないことの検知により、ドラム46が真の停止状態にある状態で、使用者が蓋117を開くことができる状態とすることができれば良い。