JP6222150B2 - セレクタブルワンウエイクラッチ - Google Patents

Description

本発明は、ワンウエイクラッチの機能を選択的に発揮させることが可能なセレクタブルワンウエイクラッチに関する。

セレクタブルワンウエイクラッチとして、爪部材が突出可能に設けられたプレートと爪部材が噛み合う凹部が形成されたプレートとが同一軸線上に設けられ、爪部材の状態を２つのプレート間に設けられたセレクタプレートによって変更することにより、２つのプレート間のトルク伝達を所定の一方向の回転時のみ許容するロックモードと、２つのプレート間のトルク伝達を両方向の回転時で遮断する解放モードとを選択可能なものが知られている（特許文献１）。

特開２００２−５１４２９２号公報

特許文献１のセレクタブルワンウエイクラッチは、セレクタプレートを回転させることによりロックモードと解放モードとを切り替えている。そのため、このセレクタブルワンウエイクラッチがギアオイルに浸された環境下にある場合、凹部が形成されたプレートとセレクタプレートとの間に介在するギアオイルの粘性の影響を受ける。特に、ギアオイルの温度が低い場合にはギアオイルの粘性が高くなるので粘性の影響を受けやすい。ギアオイルの粘性が高くなると、凹部が形成されたプレートとセレクタプレートとの間に介在するギアオイルの剪断力が大きくなる。そのため、プレートの回転によってセレクタプレートに作用するトルクがセレクタプレートを解放モードに保持するトルクを上回り、セレクタプレートが意図せずに回転するおそれがある。このようなセレクタプレートの意図しない回転によって、解放モードに維持すべき場合にも拘わらず、爪部材の突出がセレクタプレートによって制限されずに凹部に噛み合ってしまう誤係合が生じるおそれがある。

そこで、本発明は、セレクタプレートが意図せずに回転しても爪部が凹部に噛み合う誤係合の発生を抑制できるセレクタブルワンウエイクラッチを提供することを目的とする。

本発明のセレクタブルワンウエイクラッチは、互いに同一軸線上に配置された第１プレート及び第２プレートと、前記第１プレートから前記第２プレートに向かって突出可能な状態で前記第１プレートに対して支軸を介して回転可能に設けられ、前記第１プレートから突出した場合に前記第２プレートが所定の回転方向の時に限って前記第２プレートに形成された凹部に噛み合う爪部材と、前記第１プレートと前記第２プレートとの間に配置され、前記爪部材の通過を許容できる貫通孔が形成され、かつ前記爪部材が前記貫通孔を通過することにより前記爪部材が前記第１プレートから突出可能なロック位置と、前記爪部材が前記貫通孔の非形成部位に接触することにより前記爪部材が前記第１プレート側に収納されたままに維持される解放位置との間で前記第１プレートに対して相対回転可能なセレクタプレートと、前記第１プレートに設けられて、前記支軸を前記セレクタプレートに接近する方向に移動可能な状態で支持する支軸移動機構と、を備え、前記支軸移動機構は、温度に応じて体積変化する材料の体積変化を利用して環境温度が低いほど前記セレクタプレートに接近する方向に変位する変位部と、前記変位部に設けられて前記支軸を保持する保持部とを含んでいるものである。

本発明のセレクタブルワンウエイクラッチによれば、環境温度が低いほど支軸を回転支持する位置がセレクタプレートに接近する。そのため、セレクタプレートがロック位置に位置する場合、環境温度が低いときは高いときに比べて爪部材がセレクタプレートの貫通孔の非形成部位に接触して突出しにくくなる。つまり、環境温度の低温時にはセレクタプレートがロック位置に位置していても爪部材が貫通孔を通過して第２プレートの凹部と噛み合うことが制限される。したがって、セレクタブルワンウエイクラッチがギアオイルに浸された環境下にある場合に、環境温度が低い条件で解放位置に保持すべきセレクタプレートがギアオイルの粘性の影響を受けて意図せずに回転してロック位置に切り替わったとしても非形成部位に接触するので、爪部材が突出することを抑制できる。これにより、セレクタプレートが意図せずに回転しても、爪部材が第２プレートの凹部に噛み合う誤係合の発生を抑制できる。

本発明の一形態に係るセレクタブルワンウエイクラッチを示した図。 図１のII-II線に関するロックモード時の断面図。 図１のII-II線に関する解放モード時の断面図。 支軸移動機構の詳細を示した断面図。 常温時の状態を示した断面図。 低温時の状態を示した断面図。 参考例に係るセレクタブルワンウエイクラッチの低温時の状態を示した断面図。

図１に示すように、セレクタブルワンウエイクラッチ（以下、クラッチという。）１は不図示のハイブリッドトランスアクスルに組み込まれて使用されている。クラッチ１は、ケース１００に固定された固定軸１０１と、固定軸１０１と同一の軸線Ａｘの回りに回転可能な回転軸１０２との間に介在する。クラッチ１は、回転軸１０２の回転方向がＲ１の場合に回転軸１０２から固定軸１０１へのトルク伝達を許容して回転軸１０２を固定する状態と回転方向が反対のＲ２の場合にそのトルク伝達を遮断して回転軸１０２を解放する状態とが切り替わるロックモードと、回転軸１０２の回転方向がＲ１及びＲ２のいずれの方向においても回転軸１０２から固定軸１０１へのトルク伝達を遮断して回転軸１０２を解放する状態に維持する解放モードとの間で動作モードを選択できる。

クラッチ１は、固定軸１０１に固定された保持プレート２と、軸線Ａｘの回りに回転軸１０２と一体回転可能に設けられた回転プレート３と、保持プレート２と回転プレート３との間に配置されて軸線Ａｘの回りに回転可能に設けられたセレクタプレート４とを備えている。保持プレート２は本発明に係る第１プレートに、回転プレート３は本発明に係る第２プレートにそれぞれ相当する。

図２及び図３に示したように、保持プレート２には、回転プレート３と対向する側に開口し周方向に並ぶ複数の保持室１０が形成されている。各保持室１０には回転プレート３と噛み合う爪部材１１が一つずつ設けられている。各爪部材１１は、その基端部１１ａが保持プレート２の半径方向に延びる軸線Ａｘ１の回りに回転可能に支軸Ｐを介して保持プレート２に設けられ、かつ回転プレート３側に向かう突出方向にばね１２にて付勢されている。これにより、各爪部材１１は保持プレート２側に後退して保持室１０に収納された状態と、保持プレート２から回転プレート３に向かって突出する状態との間で動作できる。つまり、各爪部材１１は突出可能な状態で保持プレート２に設けられる。なお、支軸Ｐは後述する移動機構５を介して保持プレート２に設けられている。

図１にも示されているように、回転プレート３には、保持プレート２と対向する側に開口し周方向に並ぶ複数の凹部１５が形成されている。各凹部１５は突出した爪部材１１が噛み合う際に爪部材１１の先端部１１ｂが突き当たる壁部１５ａを有している。図示を省略したが、凹部１５の個数は爪部材１１の個数よりも多く、かつ各凹部１５の位相と各爪部材１１の位相とが互いに異なっている（図２参照）。したがって、突出した複数の爪部材１１の一部が、複数の凹部１５の一部と噛み合うことになる。

セレクタプレート４には、周方向に並びかつ突出した爪部材１１の一部分が通過可能な複数の貫通孔１６が各爪部材１１と同位相で形成されている。セレクタプレート４の回転位置は、爪部材１１がセレクタプレート４の貫通孔１６を通過して回転プレート３の凹部１５に噛み合うことが可能な図２のロック位置と、爪部材１１の先端部１１ｂがセレクタプレート４の貫通孔１６の非形成部位１７に突き当たることによって爪部材１１の突出を制限して爪部材１１が保持プレート２側に収納したままに維持可能な図３の解放位置との間で切り替えることができる。これにより、上述したロックモードと解放モードとが選択的に実施される。

図１に示したように、セレクタプレート４には半径方向に延びる作動用アーム４ａが設けられていて、その作動用アーム４ａを駆動装置２０にて駆動することにより、セレクタプレート４の回転位置が切り替えられる。駆動装置２０は、アクチュエータ２１と、アクチュエータ２１の動作をセレクタプレート４の作動用アーム４ａに伝達する伝達機構２２とを備えている。アクチュエータ２１は、ケース１００に固定されたメインボディ２３と、メインボディ２３に対して進退可能でかつ作動用アーム４ａにリンク結合された駆動ロッド２４とを含んでいる。伝達機構２２は、ケース１００に固定され、アクチュエータ２１の駆動ロッド２４をガイドするガイド部材２５と、駆動ロッド２４に固定されたスプリングシート２６と、ガイド部材２５とスプリングシート２６との間に圧縮状態で装着されたリターンばね２７とを含む。

図１に実線で示された状態は、駆動装置２０のアクチュエータ２１が作動することによって駆動ロッド２４がリターンばね２７の弾性力に抗してメインボディ２３から突出してセレクタプレート４がロック位置に切り替えられた状態である。この状態のクラッチ１は上述したロックモードとなる。一方、図１の実線で示された状態から駆動装置２０のアクチュエータ２１が非作動に切り替えられると、リターンばね２７の弾性力によって駆動ロッド２４がメインボディ２３側に後退して作動用アーム４ａが二点鎖線で示した位置に移動してセレクタプレート４が解放位置に切り替えられる。これによりクラッチ１は解放モードとなる。

図２のロックモードの場合、回転プレート３の回転方向がＲ１の時には爪部材１１の先端部１１ｂが凹部１５の壁部１５ａに突き当たる。したがって、爪部材１１が回転プレート３の凹部１５に噛み合って保持プレート２と回転プレート３とが接合されてこれらのトルク伝達が可能となり回転プレート３はケース１００に対して固定される。一方、回転プレート３の回転方向がＲ２の時には爪部材１１がＲ２の方向に向かって傾斜しているので、爪部材１１が回転プレート３の凹部１５に干渉しても爪部材１１が保持プレート２側に押し戻されるにすぎない。そのため、爪部材１１が凹部１５に噛み合わない。したがって、クラッチ１がロックモードの場合、回転プレート３の回転方向がＲ２の時には保持プレート２と回転プレート３との間のトルク伝達は遮断されて回転プレート３は解放される。

一方、図３の解放モードの場合には、爪部材１１がセレクタプレート４の貫通孔１６の非形成部位１７に接触することによって各爪部材１１が保持プレート２側に収納したままの状態となり回転プレート３の凹部１５に達しない。したがって、回転プレート３はＲ１及びＲ２のいずれの回転方向であっても回転プレート３から保持プレート２へのトルク伝達が遮断されて回転プレート３は解放される。図３の解放モードの状態は、上述したリターンばね２７の弾性力によって維持される。

クラッチ１はケース１００内のギアオイルに浸された環境下にあり、各プレート２、３、４間にギアオイルが介在する。ギアオイルは粘性を有しているため、回転プレート３が回転するとそのトルクの一部がギアオイルを介して他のプレートに伝達するのでクラッチ１はギアオイルの粘性の影響を受ける。

セレクタプレート４には回転プレート３の回転に伴い解放位置からロック位置に向かう方向のトルクが作用する。特に、低温環境下でギアオイルの粘性が高い場合には、そのトルクは他の環境下に比べて大きくなる。このような状況で、セレクタプレート４に作用するトルクがリターンばね２７の弾性力によって生じるトルクを上回ると駆動装置２０のアクチュエータ２１が非作動であるにも拘わらずセレクタプレート４が意図せずに回転してロック位置に切り替わる可能性がある。

そこで、クラッチ１は、ギアオイルの低温時に意図せずにセレクタプレート４が回転して解放位置からロック位置に切り替わっても爪部材１１の突出を制限するために、爪部材１１を回転支持する支軸Ｐをセレクタプレート４に接近する方向に移動可能な状態で支持する支軸移動機構５を備えている。

図４に示したように、支軸移動機構５は保持プレート２に設けられている。支軸移動機構５は保持プレート２に形成された有底円筒状のシリンダ２ａに設けられた変位部３１と、変位部３１に設けられて支軸Ｐを保持する保持部３２とを備えている。変位部３１はシリンダ２ａに対して軸線Ａｘ方向にスライド可能な状態でシリンダ２ａ内に設けられた可動プレート３５と、可動プレート３５に基端部３６ａが固定されていて軸線Ａｘ方向に延びる連結軸３６と、連結軸３６が挿入された状態でシリンダ２ａの開口部を塞ぐ蓋３７と、可動プレート３５、シリンダ２ａ、及び蓋３７に囲まれた領域に封入された封入材３８とを含んでいる。封入材３８としては、温度による体積変化が保持プレート２等と比べて十分に大きいものを採用することが望ましく、例えばロウ等の温度に応じて体積変化する材料が選択されている。保持部３２は連結軸３６の先端部３６ｂに固定され、支軸Ｐを回転自在に保持する軸受として構成されている。

支軸移動機構５は図４の状態から環境温度が低くなると封入材３８が縮小する。そのため、可動プレート３５が矢印Ｒで示した図４の右方向に移動する。これによって、可動プレート３５に固定された連結軸３５と連結軸３５に固定された保持部３２とが同方向に移動する結果として、支軸Ｐがセレクタプレート４に接近する方向に移動する。一方、支軸移動機構５は図４の状態から環境温度が高くなると封入材３８が膨張する。そのため、可動プレート３５が矢印Ｌで示した図４の左方向に移動する。これによって、可動プレート３５に連動する保持部３２が図４の左方向に移動する結果として、支軸Ｐがセレクタプレート４から離れる方向に移動する。

図５Ａに示した環境温度が常温時の場合には、上述したように爪部材１１は、セレクタプレート４がロック位置の状態で、セレクタプレート４の貫通孔１６の非形成部位１７に影響を受けずに回転しながら突出し、貫通孔１６を通過した状態で回転プレート３の凹部１５に噛み合うことができる。一方、図５Ｂの低温時の場合には、爪部材１１を回転支持する支軸Ｐが上述したようにセレクタプレート４に接近する方向ｆに移動する。それにより、セレクタプレート４がロック位置にある状態であっても、爪部材１１がセレクタプレート４の非形成部位１７に接触して十分に回転できないので、爪部材１１が貫通孔１６を通過できない状態となる。したがって、仮にセレクタプレート４がギアオイルの粘性の影響を受けて意図せずに解放位置からロック位置へ切り替わったとしても、爪部材１１の突出が制限されるから爪部材１１が回転プレート３の凹部１５に噛み合う誤係合の発生を抑制できる。

本発明は上記形態に限定されず本発明の要旨の範囲内において種々の形態にて実施できる。上記形態は、第１プレートである保持プレート２が回転不能に固定され、かつ第２プレートである回転プレート３が軸線Ａｘの回りに回転可能であるが、上記形態はクラッチの一適用例にすぎない。例えば、第１プレート及び第２プレートが同一の軸線の回りに相対回転可能な形態で本発明を実施することもできる。

（参考例）
本発明の参考例について図６を参照しながら説明する。参考例のクラッチには、上記形態の支軸移動機構５の代わりにばね１２の固定位置を移動させるばね移動機構５０が設けられている。ばね移動機構５０は保持プレート２に形成された有底円筒状のシリンダ５１と、シリンダ５１内にスライド可能に設けられ、ばね１２が固定された可動プレート５２と、シリンダ５１及び可動プレート５２に囲まれた領域に封入された封入材５３とを含んでいる。封入材５３は上記形態の封入材３８と同様の材料で構成され、温度に応じて体積変化する。したがって、参考例のクラッチは、環境温度が低温時になると封入材５３が縮小して可動プレート５２及びばね１２の固定位置がセレクタプレート４から離れる方向に移動する。その結果、爪部材１１に働くばね１２の弾性力が小さくなるので、爪部材１１が十分に突出できなくなる。これにより、参考例のクラッチも上記形態のクラッチと同様に、仮にセレクタプレート４がギアオイルの粘性の影響を受けて意図せずにロック位置に切り替わったとしても、爪部材１１の突出量が不足するから爪部材１１が回転プレート３の凹部１５に噛み合う誤係合の発生を抑制できる。

１ クラッチ
２ 保持プレート（第１プレート）
３ 回転プレート（第２プレート）
４ セレクタプレート
５ 支軸移動機構
１１ 爪部材
１５ 凹部
１６ 貫通孔
１７ 非形成部位
３１ 変位部
３２ 保持部
Ａｘ 軸線
Ｐ 支軸

Claims (1)

1. 互いに同一軸線上に配置された第１プレート及び第２プレートと、
   前記第１プレートから前記第２プレートに向かって突出可能な状態で前記第１プレートに対して支軸を介して回転可能に設けられ、前記第１プレートから突出した場合に前記第２プレートが所定の回転方向の時に限って前記第２プレートに形成された凹部に噛み合う爪部材と、
   前記第１プレートと前記第２プレートとの間に配置され、前記爪部材の通過を許容できる貫通孔が形成され、かつ前記爪部材が前記貫通孔を通過することにより前記爪部材が前記第１プレートから突出可能なロック位置と、前記爪部材が前記貫通孔の非形成部位に接触することにより前記爪部材が前記第１プレート側に収納されたままに維持される解放位置との間で前記第１プレートに対して相対回転可能なセレクタプレートと、
   前記第１プレートに設けられて、前記支軸を前記セレクタプレートに接近する方向に移動可能な状態で支持する支軸移動機構と、
   を備え、
   前記支軸移動機構は、温度に応じて体積変化する材料の体積変化を利用して環境温度が低いほど前記セレクタプレートに接近する方向に変位する変位部と、前記変位部に設けられて前記支軸を保持する保持部とを含んでいる、
   ことを特徴とするセレクタブルワンウエイクラッチ。

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