光伝送システムの大容量化を目指して、シングルコア光ファイバを用いた光伝送システムが研究されているのみならず、マルチコア/マルチモード光ファイバを用いた空間多重光伝送システムが研究されている(例えば、非特許文献1参照)。空間多重伝送システムでは、コアや伝送モードを用いることで、周波数利用効率を向上させることができるが、コア間やモード間でのクロストークにより信号品質が低下する。そのため、高品質な空間多重光伝送の実現には、MIMO(Multi−input Multi−output)等化信号処理技術の活用が必要となる。(例えば、非特許文献2,3参照)
しかしながら、MIMO信号処理技術を用いた空間多重光伝送方式には以下の課題がある。すなわち、空間チャネル間には群速度遅延が存在し、伝送距離に応じて累積する。空間チャネル間のクロストークの時間的な広がりは遅延量に応じて広がるため、MIMO等化信号処理を行うために必要なフィルタのタップ数が遅延量に応じて増加する。マルチコアファイバを用いた伝送システムでは、信号が伝搬する各コアが空間チャネルに該当し、コア間の伝搬定数差に起因した群速度遅延が存在する。
また、マルチモードファイバを用いた伝送システムでは、励起されたモードが空間チャネルに該当し、モード間の伝搬定数差に起因したDMGD(Differential Mode Group Delay)が存在する。伝送距離やマルチモードファイバの構造にもよるが、その遅延量は数十nsオーダーの大きさになる。さらに、伝送距離が数百kmを超えると、この遅延量は、100ns程度まで増加する場合もある。
DMGDやクロストークからなる遅延による影響を補正するMIMO等化信号処理技術として、周波数領域等化処理(FDE:Frequency Domain Equalization)と時間領域等化処理(TDE:Time Domain Equalization)等がある。
FDE方式は、演算量がTDE方式より少ない特長があるが、DMGDより長いCP(Cyclic Prefix)の挿入が必要となるため、DMGDが長い場合には、データ伝送効率が劣化する問題がある。もしくは、CPとデータからなる全体のフレーム長を長くすることで、CP挿入によるデータ伝送効率の劣化を回避できるものの、全体のフレーム長が長くなるため、時間によるチャネル特性変動への追随性が劣化する問題がある(例えば、非特許文献4参照)。なお、FDE方式の中では、CPを挿入せずに、受信信号を遅延に相当する長さだけオーバーラップさせてから、FDE方式による等化処理を複数回行い、遅延の影響を受ける部分を削除する方法(OAS:Overlap and Save)もあるが(例えば、非特許文献5参照)、DMGDが長い場合には、オーバーラップする区間も長くなるため、データ伝送効率が劣化するか、演算量が増加する問題がある。
TDE方式は、CPの挿入が必要ないため、データ伝送効率の向上が可能であり、さらに、時間によるチャネル特性変動への追随性が優れているものの、演算量がフィルタのタップ数の二乗(例えば、非特許文献4参照)に比例して増加するため、伝送距離の増加に伴うDMGDの増加により、演算量が膨大となる問題がある。
なお、TDE方式とFDE方式は、動作領域はそれぞれ、時間領域と周波数領域で異なるが、基本動作は、両方式ともに、フィルタの係数の計算段階(以下、等化係数計算段階と称する。)と計算したフィルタ係数の時間による変動を追随する段階(以下、等化係数追随段階と称する。)で構成される。
従来のシングルモードファイバにおける100Gb/sシングルキャリアデジタルコヒーレント伝送方式では、遅延量が大きくほぼ静的な波長分散(〜数万ps/nm)は、FDE方式を用いて補正を行う。また、動的な変動を伴う偏波モード分散(PMD:polarization mode dispersion)に対しては(〜100ps)、TDE方式を用いて、10〜20tap程度のFIR(Finite impulse response)フィルタを適応的に動かすことにより補正を行う。このようにすることで、光ファイバ中で生じる伝搬チャネルの変動に追随している(例えば、非特許文献6参照)。
従来のシングルキャリアデジタルコヒーレント方式を空間多重光伝送システムに拡張すると、100Gb/s級の速度で動作する1000tap程度の動的なTDE方式が必要になるが、タップ数が大きくなると、MIMO等化処理の収束性および安定性が低下し、その回路規模も増大するとともに、演算量が増加する。
一方、動的変動を適応的な周波数領域等化で処理するOFDM方式におけるFDE方式の研究も行われており、シングルキャリアのTDE方式に比べて、大きな遅延量に対する演算コストの面ではすぐれているが、伝送路の変動に対する追随性は低い(例えば、非特許文献7参照)。また、FDE方式を使うためには、送信データにDMGDより長いCPを挿入する必要があり、DMGDが大きいマルチモードファイバでは、必要なCPの長さが長くなるため、データ伝送効率が劣化する問題がある。
マルチキャリア方式による空間多重光伝送システムは、シングルキャリア方式による空間多重光伝送システムに比べて、TDE方式のMIMO等化処理に必要なフィルタのタップの数が「シングルキャリア方式に必要な等化フィルタのタップ数/マルチキャリア数」に少なくなる。少なくなるタップ数からなる等化フィルタによるMIMO等化処理をキャリアの数分だけ、複数回行う必要はあるが、TDE方式によるMIMO等化処理の計算量は、タップ数の長さの二乗に比例して増加するため(例えば、非特許文献4、8参照)、短いタップを持つフィルタによるMIMO等化処理を複数回行うことが、長いタップを持つ等化フィルタによるMIMO等化処理を1回行うことより、演算量の面では有利である。同様に、マルチキャリア方式によるMIMO等化処理では、シングルキャリアによるMIMO等化処理に比べて、全体的な演算量の軽減が可能となる。
一方、マルチキャリア方式の採用する場合でも、伝送距離が数百km以上になると、伝送距離の増加に伴うDMGDの増加により、MIMO等化処理に必要な演算量も増えるため、その演算量の軽減が課題となる。
<第1実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態による空間多重光伝送システムを説明する。図1は同実施形態の構成を示すブロック図である。この図において、符号11、12、13は、所定のキャリア数のマルチキャリア信号を生成して送信するマルチキャリア送信機である。マルチキャリア送信機11、12、13のそれぞれから信号1、2、3が送信される。
符号2は、モード変換及び結合を行うモードコンバータ・結合器である。符号3は、伝送媒体であるマルチモードファイバである。符号4は、分波及びモード変換を行う分波器・モードコンバータである。符号51、52、53は、マルチキャリア送信機11、12、13が送信した信号1、2、3をマルチモードファイバ3を介して受信する受信機である。
符号6は、受信機51、52、53からそれぞれ出力した信号の波長分散を補償する波長分散補償部である。符号7は、波長分散補償部6から出力する信号からサブキャリアを抽出して周波数変換を行うサブキャリア抽出・周波数変換部である。
符号81は、サブキャリア抽出・周波数変換部7から出力するサブキャリア毎に信号処理を行うSC#1(第1のサブキャリア)処理部である。SC#n(nは1からサブキャリアの数と同数まで)処理部は、サブキャリアと同数だけ設けられる。図1においては、SC#1処理部81、SC#2処理部82、SC#20処理部83のみを図示したが実際には、20個(ここでは、サブキャリア数が20)の処理部が設けられる。
符号811は、各モードの受信信号の分離及び等化処理を適応的に行うMIMO等化処理部である。このMIMO等化処理部811については後述する。符号8121、8122、8123は、受信信号毎に位相と周波数オフセットを補償する位相・周波数オフセット補償部である。
符号8131、8132、8133は、位相・周波数オフセット補償部8121、8122、8123それぞれから出力する信号に対して判定を行って信号1、2、3を復調する判定部である。SC#1処理部81の判定部8131、8132、8133からはそれぞれ信号1SC(サブキャリア)1、信号2SC1、信号3SC1が出力されることになる。他のSC#n処理部からも同様に信号が出力される。
次に、図2を参照して、図1に示すMIMO等化処理部811の構成を説明する。図2は、図1に示すMIMO等化処理部811の構成を示すブロック図である。この図において、符号8111は、FDE方式を用いて、周波数領域の演算で周波数領域の等化係数を求める等化係数計算部である。符号8112は、周波数領域の等化係数を時間領域の等化係数に換算する係数変換部である。符号8113は、TDE方式を用いて、時間領域の演算で時間領域の等化係数の追随段階の処理を行う係数追随部である。
次に、図1を参照して、図1に示す空間多重光伝送システムの動作を説明する。本実施形態では、空間多重の伝送媒体としてマルチモードファイバ3を利用し、使用するモード数(空間多重数)は3、マルチモードファイバのDMGDを60ns、2オーバーサンプルのシステムで実装可能なMIMO等化処理回路の規模を3×3×180タップとする。
60nsのDMGDの存在下でクロストークを含む波形劣化を180tapのフィルタで等化するためには、DMGDの正負も考慮すると、サブキャリアのボーレートは750Mbaud(=180tap/(60ns×2×2oversample))以下であることが望ましい。例えば、12.5GHzのWDMスロットを考えると、サブキャリア間のガードバンド40MHzで525Mbaudの20キャリアの信号が収容可能である。これはシングルキャリア信号に換算すると10.5Gbaudに相当する。
まず、マルチキャリア送信機11、12、13は、設計値に応じたキャリア数のマルチキャリア信号を生成し(ここでは20キャリア)、各サブキャリアの3つの伝送モードに対して互いに異なる既知信号を周期的にデータの先頭に挿入した互いに異なるデータが重畳された信号が、モードコンバータ・結合器2を通してマルチモードファイバ3に入力する。既知信号挿入の周期は、伝送路の特性変動の速度によるが、あらかじめ設定することとする(例えば、1秒毎に1回挿入など)。
ここで、サブキャリア毎に同じ既知信号を挿入してもよいし、サブキャリア毎に異なる既知信号を挿入してもよい。ただし、各サブキャリアのモード毎には、お互いに異なる既知信号を挿入する。各既知信号の長さは、DMGDやクロストークによる遅延量より長くなるように生成する。また、生成した既知信号は、2回以上繰り返して送信信号に周期的に挿入する。
図3を参照して、一つのサブキャリアにおける既知信号の挿入の例を示す。図3は、既知信号とデータ信号の例を示す図である。この例では、モード毎に異なる256の長さの既知信号がモード毎に異なるデータの先頭に2回繰り返して挿入されている。また、該既知信号は、1,000,000個のデータ毎に周期的に挿入されている。
従来のFDE方式では、等化処理ブロックごとにCPを挿入する必要がある。例えば、CPとデータの長さの比が1対9の場合、伝送効率の最大値は0.9である(=9/(1+9))。しかし、本実施形態では、データの先頭にDMGDより長い既知信号を2回以上挿入するが、データ部分にはCPを挿入しないため、伝送効率が従来のCPを用いたFDE方式より優れている。例えば、図3の場合、256個の長さの既知信号が2回挿入されてから、データが1,000,000個挿入されるため、伝送効率は、0.999488である(=1,000,000/1,000,512)。また、既知信号の挿入周期を長くすることでさらなる伝送効率の向上も可能となる。
ここで、従来のFDE方式におけるCPの挿入は、等化処理ブロック毎に、データの後半部の一部のデータを、そのままデータの先頭部にコピーして伝送することを示す。CPの長さをDMGDより長く設定することで、DMGDによるチャネルの遅延の影響が、等化処理ブロック内に収まるため、等化処理ブロック毎のDFT処理で得られた周波数係数を用いた周波数用域での等化処理を可能とする。本実施形態では、モード毎に、DMGDより長い同一の既知信号を2回以上繰り返して挿入する。
このように既知信号を2回反復して挿入することで、CPを挿入することと同様の効果が得られるため、周波数領域の等化処理が可能となる。例えば、図4は、本実施形態におけるモードごとに異なる長さ256の既知信号を2回反復して挿入する例を示す図である。各モードの2回反復して挿入した既知信号の次には、各モードのデータ信号を挿入する。
本実施形態では、60(3mode×20キャリア)の異なる信号が重畳可能である。重畳する信号は、高速な信号を分割したものでもよいし、低速な信号をそれぞれのキャリアの伝搬モードに割り当ててもよい。図1においては、各伝送モードに割り当てる20キャリアのマルチキャリア信号群を、それぞれ信号1、信号2、信号3と表している。
次に、マルチモードファイバ3を伝送した信号は分波器・モードコンバータ4を通してシングルモードに変換され、それぞれの受信信号に対応した受信機51、52、53で受信する。受信機51、52、53のそれぞれでは、マルチキャリア信号を一括して受信し、量子化・標本化する。そして、波長分散補償部6は、マルチキャリア信号一括で波長分散を補償する。
次に、サブキャリア抽出・周波数変換部7は、サブキャリア抽出を行い、それぞれのサブキャリアをベースバンド信号に周波数変換する。この受信信号は、モードコンバータ・結合器2、分波器・モードコンバータ4やマルチモードファイバ上で生じるクロストークおよびDMGDの影響を受けて、お互いに混ざり合っているため、サブキャリアごとに実装されるMIMO等化処理部811は、信号分離・等化処理を行う。
MIMO等化処理部811における、MIMO等化処理は、等化係数計算部8111による、FDE方式を用いた周波数領域の等化係数計算処理と、等化係数変換部8112による周波数領域で計算した等化係数を、時間領域の等化係数等化係数に変換する係数変換処理と、等化係数追随部8113による、TDE方式を用いた時間領域の等化係数を用いた等化係数追随処理で行われる。
次に、図5を参照し、図2に示す等化係数計算部8111による等化係数計算処理を説明する。図5は、図2に示す等化係数計算部8111による等化係数計算処理を示す説明図である。等化係数計算部8111は、DMGDの影響により異なる遅延で受信される各モードの信号をすべて受信してから、各モードのM個の信号をMポイントのDFT(Discrete Fourier Transform)処理を行い、周波数領域に変換する。図5に示す例では、モード1の信号が受信されてから、モード2とモード3の信号は、それぞれ、150、180個の信号分の時間差で受信される。最後に受信されるモード3の信号を受信してから、各モードのM個の信号のDFT処理を行う。
この例では、モード1、モード2、モード3の受信信号は、それぞれ、181番目からM個の受信信号、31番目からM個の受信信号、1番目からM個の受信信号が、DFT処理の対象となる。図5に示すY1,Y2,Y3は、ぞれぞれ、各モードの受信信号y1,y2,y3のDFT処理後の長さMの列ベクトルを表す。ここで、各モードの受信タイミングは、スライディングウィンドウ式により、各モードの受信信号と各モードの既知信号との相関値の最大値を求めるピーク検出法等を用いて求める。
一方、前述のDFTの長さMは、等化係数追随部8113のTDE方式のFIR等化フィルタのタップ数以上、既知信号の2倍から該等化フィルタのタップ数を引いた値以下に設定する。例えば、等化係数追随部8113の等化フィルタのタップ数が180、既知信号の長さが256の場合、Mは、180以上、332(256×2−180=332)以下に設定する(図5に示す例では、Mは180に設定されている)。このようにDFTの長さを設定することで、MポイントのDFT処理は、受信信号の中で、既知信号の後に挿入されたデータ部分を除いて、既知信号のみを対象とすることになる。
すなわち、各モードの信号はお互いに混ざり合っているが、FDE等化処理は、混ざり合っている既知信号のみを用いるようになる。また、DMGDより長い既知信号を2回以上繰り返して挿入することで、CPを挿入した効果が得られる。この効果により、受信信号を周波数領域に変換して周波数領域の等化処理を行うことが可能となる。したがって、従来のLMS(Least Mean Square)法やRLS(Recursive Least Square)法等のFDE方式を用いることができる。
次に、前述のピーク検出法で求めた各モードの受信タイミングから、各モード間の遅延差を計算し、その値を用いて送信信号と受信信号のタイミングを合わせてから、送信した既知信号のMポイントのDFT処理を行う。例えば、図5の例では、モード1の信号が受信されてから、モード2とモード3の信号は、それぞれ、150、180個の信号分の時間差で受信されるため、モード1の181番目からM個の既知信号のDFT処理と、モード2の31番目からM個の既知信号のDFT処理と、モード3の1番目からM個の既知信号のDFT処理を行う。
このように、各モードの受信タイミングに合わせて、送信した既知信号のタイミングを合わせてDFT処理を行うことで、DMGDによりモード毎に異なる遅延が生じても、後述するFDE方式により求めた周波数領域の等化係数を時間領域の等化係数への変換することで、時間領域で等化処理を行ったことと同様になるため、演算量の軽減が可能となる。ここで、M個の信号に相当する時間では、各モードのチャネル特性は変わらないことを前提とする。各モードの既知信号x1,x2,x3のDFT処理後の長さMの列ベクトルの信号を、それぞれ、X1,X2,X3とする。
次に、長さMの列ベクトルY1,Y2,Y3と、長さMの列ベクトルX1,X2,X3を、列成分毎にFDE方式により周波数領域の3X3のMIMO等化処理を行い、3X3の周波数領域の等化係数を求める。例えば、式(1)にL列目(1≦L≦M)の成分の9個の周波数領域の等化係数(W
11 L,W
12 Lと,...,W
33 L)と、Y1、Y2,Y3とX1,X2,X3のL列目の成分の関係式を示す。
ここで、WijLは、Yj(1≦j≦3)のL列目の信号からXi(1≦i≦3)のL列目の信号への周波数領域の等化係数を示す。式(1)にLMSやRLS等の手法を用いて3X3のMIMO等化処理を行うことで、L列目の成分に対する3X3の周波数領域の等化係数が求まる。この3X3のMIMO等化処理を、Y1,Y2,Y3とX1,X2,X3のすべての列の成分に関して行うことで、各列の、3X3の9個の等化係数が求まる。例えば、Mが256の場合、合計2304(256×9)個の周波数領域の等化係数が求まる。
周波数領域の等化処理では、列成分ごとにFDE方式による周波数領域の等化処理を反復して行われるが、周波数成分毎の等化処理の演算量が少ないため、時間領域の等化処理より演算量の軽減が可能となる。
次に、図6を参照し、等化係数変換部8112により、等化係数計算部8111が出力する周波数領域の等化係数を時間領域の等化係数へ変換する係数変換処理を説明する。図6は、図2に示す等化係数変換部8112の動作の例を示す図である。等化係数変換部8112は、等化係数計算部8111が出力するM個の3X3の等化係数の行列の同じ行と同じ列の等化係数を合わせて、IDFT(Inverse Discrete Fourier Transform)処理を行い、時間領域の等化係数を計算する。
例えば、図6では、等化係数計算部8111が出力するM個の3X3の等化係数の行列の内、各3X3行列の1行目の1行列成分(1,1)を用いて、MポイントのIDFT処理を行う。このIDFT処理の出力は、受信モード1から送信モード1への時間領域の等化係数となる。同様に、前記等化係数計算部8111が出力する各3X3行列のi番目の行とj列の成分(i,j)を用いて、MポイントのIDFT処理を行うと、受信モードjから送信モードi(1≦i,j≦3)への時間領域の等化係数が求まる。式(2)は、この関係式を示す。ここで、w
ij(l≦k≦M)は、受信モードjから送信モードiへの時間領域の等化係数を表す長さMの列ベクトルのk列目の成分である。
次に、等化係数追随部8113による等化係数追随段階の処理を説明する。まず、等化係数追随部8113は、等化係数変換部8112が出力する時間領域の等化係数を用いて受信信号の等化を行い、送信信号を復元し、位相・周波数オフセット補償部に出力する。各モードの復元された送信信号は、式(3)で表すように、各モードの受信信号と時間領域の等化係数の組み合わせで求まる。
ここで、xi’(m)(1≦i≦3)は、モードiのm番目の送信信号を復元した信号である。ここで、フィルタのタップの数は、前述のように180に設定している。
次に、等化係数追随部8113は、時間により変わるチャネルの変動に対応するため、時間領域の等化係数の追随処理を行う。この追随処理は、チャネル変動の特性により処理頻度を調整するが、既知信号挿入部が既知信号を挿入する周期より短い周期に設定する。
ここで、時間領域の等化係数の追随処理は、式(3)により復元された送信信号x
i’(n)を用いて、時間領域の等化係数を更新することで行われる。式(4)と式(5)は、この時間領域の等化係数を更新する際に用いる式を表す。
式(4)のA
j(1≦j≦3)、式(5)で表す180X180の行列である。
また、式(4)の[A1 A2 A3]は、式(5)で生成した、それぞれ180X180のサイズのA1とA2とA3を180X540の行列に合成した行列を表す。
時間領域の等化係数の追随処理は、式(3)により復元された各モードの送信信号「n+1」番目から「n+180」番目の信号と、各モードが受信する「n+1」番目の信号から「n+359」番目の信号を用いて、式(4)で表す時間領域の等化係数の更新を行うことを示す。この際に、時間領域のLMS方式やRLS方式等を使い、等化係数を求める。普通の時間領域のLMS方式やRLS方式による時間領域の等化係数の計算は、初期値を0ベクトルに設定してから行うため、演算量が高く収束速度が遅くなるが、本実施形態における、時間領域の等化係数の追随処理は、更新前の等化係数をLMS方式やRLS方式の初期値として用いるため、収束速度が速くなるとともに、演算量の軽減も可能となる。これにより、TDE方式を用いて等化係数の追随処理を行っても、少ない演算量で、チャネルを時間変動への追随が可能となる。
次に、式(4)で新たに求めた時間領域の等化係数を式(3)の等化係数として用いることで、チャネルの変動に応じて更新した等化係数による送信信号の復元が得られる。また、この等化信号処理は、LMS方式やRLS方式のみならず、送信側でサブキャリアごとに挿入された既知信号を用いたMMSE(Minimum mean square error)規範、もしくは、ゼロフォーシング規範を用いてもよいし、マルチユーザーCMA(Constant modulus algorithm)のようなブラインド信号処理アルゴリズムを用いてもよい。
次に、位相・周波数オフセット補償部8121、8122、8123は、受信信号毎に位相リカバリと周波数オフセット補償を行う。そして、判定部8131、8132、8133は判定を行い、データを復調して出力する。
ここでは、525Mbaudのクロックで3×3×180タップの信号処理を20並列で独立に行えばよく、MIMO等化処理部811単位で考えれば、合計のボーレートが等しい10.5Gbaudのシングルキャリア方式に比べて、タップ数の削減にともなう、MIMO等化処理の回路規模の削減や収束性・安定性が向上、及び計算量が軽減することは明らかである。また、等化係数計算処理と等化係数追随処理を、それぞれ、FDE方式とTDE方式に分けて行うことにより、すべての処理をTDE方式で行う技術より、演算量の軽減を可能とする。
なお、本実形態では、単一偏波信号の例を説明したが、送信信号が偏波多重信号の場合は、MIMO処理回路を6×6×180tapとすることによって対応すればよい。この場合、等化係数計算処理は、6×6×1のMIMO処理をFDE方式より180個の周波数成分毎に180回行う。次に、この計算で得た周波数領域の等化係数を時間領域に変換し、6×6×180tapのTDE方式により、等化係数追随処理を行う。
また、前述した説明においては、光マルチキャリア信号を一括受信する例を説明したが、光マルチキャリア信号の受信は必ずしも一括でなく個別に受信する構成であってもよい。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態による空間多重光伝送システムを説明する。第1実施形態では伝送モード数が3の時について説明したが、第2実施形態では、N個の伝送モードを使用する場合の空間多重光伝送システムの信号処理装置について説明する。本実施形態の信号処理装置の構成は、図1に示す構成と同等であり、異なる点はマルチキャリア送信機および受信機の数とMIMO等化処理部の後段に接続されている回路の並列数がN個になっているという点である。サブキャリア処理部の数は、第1実施形態と同様、SC#1〜SC#20の20個である。
OSをオーバーサンプリングレート、伝送路のDMGDがT(ns)で、N×N×1のFDE方式による等化係数計算部8111とN×N×PタップのTDE方式による等化係数追随部8113が実装可能と仮定すると、マルチキャリア信号のボーレートの上限値が(6)式より決定する。
N個の伝送モードを使用する場合、式(1)から式(5)は、それぞれ、式(7)から式(11)となる。
ここで、Mは前述のように、DFT及びIDFTのサイズである。
ここで、式(10)の[A
1 A
2,…A
N]は、式(11)を用いて生成した、N個のP×Pの行列を合成したP×NPの行列である。
これよりWDMスロットの帯域幅からボーレートとガードバンドを考慮して、キャリア数を決定した信号処理装置においても、等化係数計算処理と等化係数追随処理を、それぞれFDE方式とTDE方式で行うことで、Nモード伝送の場合でもシングルキャリア方式に比べ、MIMO等化処理の回路規模の削減や収束性・安定性の向上、及び計算量の軽減が得られる。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態による空間多重光伝送システムを説明する。第1、第2実施形態では、マルチモードファイバ3を伝送媒体として用いた場合の信号処理装置を説明したが、第3実施形態では、空間多重の伝送媒体としてマルチコアファイバを用いる場合の信号処理装置である。図7は、第3実施形態による空間多重光伝送システムの信号処理装置の構成を示す図である。この図において、図1に示す信号処理装置と同一の部分には同一の符号を付し、その説明を簡単に行う。
図7において、符号11、12、13は、所定のキャリア数のマルチキャリア信号を生成して送信するマルチキャリア送信機である。マルチキャリア送信機11、12、13のそれぞれから信号1、2、3が送信される。
符号9は、結合を行う結合部である。符号10は、伝送媒体であるマルチコアファイバである。符号11は、結合を行う結合部である。符号51、52、53は、マルチキャリア送信機11、12、13が送信した信号1、2、3をマルチコアファイバ10を介して受信する受信機である。
符号6は、受信機51、52、53からそれぞれ出力した信号の波長分散を補償する波長分散補償部である。符号7は、波長分散補償部6から出力する信号からサブキャリアを抽出して周波数変換を行うサブキャリア抽出・周波数変換部である。
符号81は、サブキャリア抽出・周波数変換部7から出力するサブキャリア毎に信号処理を行うSC#1(第1のサブキャリア)処理部である。SC#n(nは1からサブキャリアの数と同数まで)処理部は、サブキャリアと同数だけ設けられる。
符号811は、信号分離・等化処理を行うMIMO等化処理部である。符号8121、8122、8123は、受信信号毎に位相と周波数オフセットを補償する位相・周波数オフセット補償部である。
図7に示すMIMO等化処理部811は、第1、第2実施形態と同様に、FDE方式を用いた周波数領域の演算で、等化係数計算処理を行う等化係数計算部8111と、この処理で計算した周波数領域の等化係数を時間領域の等化係数に換算する等化係数変換部8112と、TDE方式を用いた時間領域の演算で、等化係数追随段階の処理を行う等化係数追随部8113(図2参照)とで構成され、それぞれの動作は、第1、第2実施形態と同様である。
符号8131、8132、8133は、位相・周波数オフセット補償部8121、8122、8123それぞれから出力する信号に対して判定を行って信号1、2、3を復調する判定部である。SC#1処理部81の判定部8131、8132、8133からはそれぞれ信号1SC(サブキャリア)1、信号2SC2、信号3SC1が出力されることになる。他のSC#n処理部からも同様に信号が出力される。
このように、基本的な構成はマルチモードファイバ3を用いる場合と同様である。異なる点は、空間多重信号が、異なるコアに入力される点と、伝送する信号が受ける信号劣化要因がコア間のクロストークであることと、コアごとの伝搬定数βが製造上の理由等から異なるため、コア間で群遅延差が生じることである。
したがって、第1、第2実施形態で説明したDMGDをこのコア間の群遅延差に置き換えれば、(6)式を用いて、マルチモードファイバ使用時と同様のマルチキャリア信号の設計手法及び第1、第2実施形態で説明したMIMO等化信号処理技術が適用可能になる。
前述した説明では、3コアファイバの例を説明したが、3より大きなコア数を持つファイバにも適用可能である。したがって、マルチコアファイバ10を用いる場合でも、MIMO等化処理回路単位で考えれば、合計のボーレートが等しいシングルキャリア方式に比べて、タップ数の削減に伴い、MIMO等化処理の回路規模の削減や収束性・安定性の向上が得られるとともに、等化係数計算処理と等化係数追随処理を、それぞれFDE方式とTDE方式で行うことで、MIMO等化処理に必要な計算量の軽減が可能であることは明らかである。
なお、図1に示すシステム構成と、図7に示すシステム構成とを組み合わせ、伝送媒体としてマルチコア・マルチモード光ファイバを用いるようにしてもよい。
このように、光マルチキャリア信号と独立かつ並列なMIMO等化処理を行うことで、少数タップでの等化処理により、空間多重光伝送システムにおいてMIMO等化処理の収束性や安定性を向上し、高品質な伝送が実現できる。さらに、MIMO等化処理を行う際に、周波数領域の等化係数計算処理と時間領域の等化係数追随処理を行うことで、すべての処理を時間領域で行った場合に比べ、計算量の軽減が可能となる。また、すべての処理を周波数領域で行う場合に比べ、CPの挿入を不要とするためデータ伝送効率の向上ができる。
また、前述のすべての実施形態は、空間多重光伝送システムの実施形態として説明してきたが、空間多重光伝送システムの信号処理方法の実施形態と、発明のカテゴリは異なるが、発明を構成する技術的に思想が同様である。すなわち、前述の空間多重光伝送システムの信号処理装置の実施形態は、空間多重光伝送システムの信号処理方法の実施形態としても同様に活用することができる。
以上説明したように、光マルチキャリア信号を複数の空間多重パスを有する光伝送路を介して伝送する空間多重光伝送システムにおいて、受信装置は、受信した光マルチキャリア信号に対し、伝送中に生じたクロストークをサブキャリアごとに補償するMIMO等化処理部を備え、送信装置は、空間多重パス間で生じる遅延量が受信装置のMIMO等化処理部のタップ数の時間ウインドウ内に収まるように、光マルチキャリア信号のサブキャリアのボーレートを設定し、かつ該遅延量より長い既知信号を2回以上反復して周期的に送信信号に挿入し、MIMO等化処理部は、周波数領域等化処理(FDE)方式により周波数領域の等化係数を計算する等化係数計算部と、計算した周波数領域の等化係数を時間領域の等化係数に変換する等化係数変換部と、時間領域等化処理(TDE)方式により時間領域の等化係数追随を行う等化係数追随部とから構成するようにした。
この構成によれば、所望の少数タップでの等化処理により、MIMO等化処理の収束性や安定性を向上することができ、高品質な伝送を実現することが可能となる。MIMO等化処理における等化係数計算処理と等化係数追随処理をそれぞれFDE方式とTDE方式で行うことで、演算負荷を軽減することができる。送信信号の等化処理単位毎にCPを挿入する必要がないため、DMGDやクロストークによる遅延量が増加しても、伝送効率が劣化しない。
このように、光マルチキャリア信号毎に独立かつ並列なMIMO等化処理を行うことで、シングルキャリアデジタルコヒーレント方式より、少数タップでの等化処理が可能になる。また、MIMO等化処理を行う際に、等化係数計算処理と等化係数追随処理を、それぞれFDE方式とTDE方式で行うことで、演算負荷を軽減するとともに、MIMO等化処理の収束性や安定性を向上し、高品質な伝送が実現できるという効果が得られる。また、従来のFDE方式と異なり、送信信号の等化処理単位毎のCPの挿入を不要とするため、伝送距離の増加によりDMGDやクロストークによる遅延量が増加しても、伝送効率が劣化しない。
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明してきたが、上記実施の形態は本発明の例示に過ぎず、本発明が上記実施の形態に限定されるものではないことは明らかである。したがって、本発明の技術思想及び範囲を逸脱しない範囲で構成要素の追加、省略、置換、その他の変更を行ってもよい。