JP6216214B2 - コンタクトレンズ - Google Patents

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Description

本発明は、近視や遠視、乱視などに対する視力の矯正や装飾などの目的に用いられるコンタクトレンズおよびコンタクトレンズの製造方法に関するものである。
従来から、人眼に装用されるコンタクトレンズが知られており、例えば近視や遠視、乱視、老視といった視力異常の矯正のほか、網膜や角膜周縁の彩色やコントラストの調節といった眼の装飾などの目的で用いられている。また、材質についても、軟質材で形成されたソフトコンタクトレンズや硬質材で形成されたハードタイプのほか、軟質材からなる中央部分と硬質材からなる周辺部分とからなる複合構造の二種材タイプのコンタクトレンズなども提案されている。
ところで、コンタクトレンズは、知覚が敏感な角膜の表面に重ね合わされて装用されることから、良好な装用感を安定して得ることが重要になる。そして、良好な装用感を実現するためには、角膜上でのコンタクトレンズの動き量を少なくして安定位置させることに加えて、レンズ前面の涙液層を十分に確保してレンズ前面の乾燥を防止することが有効であると考えられる。
しかしながら、装用状態にあるコンタクトレンズは、角膜上での動きによって涙液の循環と涙液層の維持が図られることから、角膜上でのレンズ動き量を抑えるという前者の要求と、レンズ前面の涙液層を十分に確保するという後者の要求とを、両立して達成することが難しかった。
なお、特開2008−65289号公報(特許文献1)に記載のように、レンズ材質を改善して含水率を高くすることにより、レンズ動き量を抑えつつレンズ前面の涙液層を確保することも考えられるが、未だ満足できる程の装用感の向上は得られ難く、角膜上でのレンズ動き量を抑えるという前者の要求と、レンズ前面の涙液層を確保するという後者の要求とを、両立して達成することは困難であった。
特開2008−65289号公報
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、角膜上でのレンズ動き量を抑えてレンズ位置の安定性を図りつつ、レンズ前面の涙液層を安定して確保することが可能とされて、装用感が向上され得る新規な構造のコンタクトレンズを提供することにある。
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
先ず、本発明者は、コンタクトレンズと眼瞼の間の潤滑や角膜への酸素供給、異物の排除などに大きな役割を果たすコンタクトレンズ表面の涙液層に着目し、涙液層における涙液の量がコンタクトレンズの装用状態に応じて異なるとの知見を得た。
また、本発明者は、下眼瞼と眼球との間の隅部に存在する涙液メニスカスが、涙液層の形成と涙液の積極的な流動を促す作用に重要な役割を成していることを確認した。即ち、涙液メニスカスが重力で流下する涙液を貯留し、貯留された涙液が瞬目に際して上眼瞼でかき上げられることによって、裸眼状態における角膜表面や、コンタクトレンズ装用状態におけるレンズ前面に対して、涙液を行き渡らせて涙液層を形成し、更に涙液を積極的に流動させることを改めて明らかとした。このことから、本発明者は、涙液メニスカスにおける涙液の貯留状態の変化こそが、涙液層における涙液の量がコンタクトレンズの装用状態に応じて異なる要因であると考えるに至ったのである。
そして、このようにして得られた新たな知見に基づいて為された本発明は、角膜に重ね合わされて装用されるコンタクトレンズを製造するに際して、該コンタクトレンズの外周縁部において装用状態で下眼瞼に入り込む先細断面形状の下眼瞼差入部を設定すると共に、下眼瞼と眼球の間でレンズ前面に存在する涙液メニスカスの形成部分に位置する該コンタクトレンズの外周縁部の厚さ寸法の増大に伴って該涙液メニスカスが小さくなる相対関係に基づいて、該涙液メニスカスの大きさを考慮して該コンタクトレンズの該外周縁部の形状を設計する設計工程を採用し、かかる設計工程で決定されたレンズ形状をもって前記コンタクトレンズを製造することを、特徴とすることもできる
このような本発明に従うコンタクトレンズの製造方法によれば、下眼瞼に差し入れられることで眼瞼圧による位置決め作用などが享受され得る下眼瞼差入部を設けたうえで、涙液メニスカスを巧く活用してレンズ前面の涙液層を確保することにより、装用状態でのレンズ位置の安定性の向上とレンズ前面の涙液層の確保とが両立して達成される、新規なコンタクトレンズを効率的に設計製造することが可能になる。特に本発明では、下眼瞼に差し入れられる下眼瞼差入部の存在を前提としたうえで、下眼瞼と眼球の間でレンズ前面に存在する涙液メニスカスの形成部分に位置する該コンタクトレンズの外周縁部の厚さ寸法の増大に伴って該涙液メニスカスが小さくなる相対関係を見い出し、かかる相対関係に基づいて、該涙液メニスカスの大きさを考慮して該コンタクトレンズの外周縁部の形状を設計することにより涙液メニスカスの大きさを確保せしめるようにした。その結果、コンタクトレンズの外周縁部の下眼瞼への入り込みに基づいてレンズ位置の安定性を確保しつつ、レンズ前面の涙液層も十分に確保し得たのであって、それらの両立により、装用感が向上され得たコンタクトレンズの提供を実現可能となし得たのである。
すなわち、本発明では、眼球と下眼瞼との間への下眼瞼差入部を設けたうえで、装用者毎に異なる眼瞼および眼球の形状や特性、涙液の量、涙液の組成などを考慮して、例えば必要に応じて厚さ寸法が小さくなるようにレンズ外周縁部の形状を設計することにより、装用者に適するコンタクトレンズを提供して、涙液の量、換言すれば涙液メニスカスの大きさを適切に設定することができる。その結果、涙液の潤滑作用による装用感の向上や擦れによるレンズ表面の損傷の回避、良好な見え方の提供などが実現される。
また、涙液メニスカスを大きくするためには、レンズ外周縁部の厚さ寸法を小さくすることが望ましいが、外周縁部を過度に薄肉化すると耐久性や形状安定性の低下などの不具合が生じることから、必要な大きさの涙液メニスカスを得ながら、外周縁部にある程度の厚さを確保することが望ましい。そこにおいて、装用者の涙液メニスカスの大きさを考慮して外周縁部の厚さを含む形状を設計することで、外周縁部の必要以上の薄肉化を防いで、良好な装用感や見え方に加えて、レンズの形状安定性の確保による装用のし易さや耐久性の向上なども実現することができる。
本発明の第の態様は、角膜に重ね合わされて装用されるコンタクトレンズであって、装用状態で下眼瞼に入り込む先細断面形状の下眼瞼差入部外周縁部に設けられていると共に、レンズ前面において下眼瞼と眼球との間に存在する涙液メニスカスの領域に位置せしめられる凹状段差面設けられており、レンズ正面視において、該凹状段差面がレンズ中心回りの曲率半径よりも大きな曲率半径をもって周方向に延びていることを、特徴とする。
このような第の態様に従う構造とされたコンタクトレンズによれば、レンズ前面に設けられる凹状段差面が涙液メニスカスの領域に位置せしめられることで、涙液メニスカスの領域においてレンズ厚さ寸法を小さくすることができて、涙液メニスカスを大きく得ることができる。それ故、瞬目に際して涙液が上眼瞼でかき上げられることにより、レンズ前面に安定した涙液層が形成されて、乾燥の防止による装用感や見え方の向上、レンズ前面の擦れによる損傷の防止などが図られる。
また、コンタクトレンズの外周縁部において装用状態で下眼瞼に入り込む下眼瞼差入部が先細断面形状とされていることから、下眼瞼差入部が装用状態で下眼瞼に差し入れられても、下眼瞼の変形量が低減されて涙液層の減少が抑えられると共に、下眼瞼において眼球との境界に隣接して略水平に広がる平坦面の変形が防止される。その結果、下眼瞼の平坦面上に形成される涙液メニスカスを、大きく得ることができて、装用感の向上などがより効果的に実現される。
さらに、コンタクトレンズの耐久性の確保や、レンズの表裏反転に対する目視確認の容易化、手指による装用を容易にするための形状安定性の確保などを目的として、コンタクトレンズの最外周に設けられる下眼瞼差入部には、ある程度の厚さが必要とされる。そこにおいて、下眼瞼差入部が必要な厚さをもって形成されていても、涙液メニスカスの領域においてレンズ前面に凹状段差面が形成されていることで、当該凹状段差面の形成領域ではコンタクトレンズの厚さが小さくされている。これにより、コンタクトレンズの耐久性やハンドリングなどの要求性能を良好に確保しつつ、涙液メニスカスを大きく得ることによる装用感や見え方の向上などが図られる。
加えて、本態様によれば、凹状段差面が、下眼瞼の上端縁に近い曲率半径で形成されて、周方向の広い範囲で涙液メニスカスの存在する領域に対して大きく外れることなく位置せしめられる。その結果、涙液メニスカスが周方向の広い範囲に亘って大きく形成されて、瞬目によってレンズ前面の広い範囲に亘って安定した涙液層が形成されることから、より良好な装用感や見え方を得ることができる。
本発明の第二の態様は、角膜に重ね合わされて装用されるコンタクトレンズであって、装用状態で下眼瞼に入り込む先細断面形状の下眼瞼差入部が外周縁部に設けられていると共に、レンズ前面から突出しないで掘り下げられた形状でレンズ前面に開口する凹溝状の掘下部が形成されており、該掘下部の外周側の壁面によって凹状段差面が構成されている一方、該堀下部の最深部から外周側の方が内周側よりもレンズ径方向寸法が短くされて該堀下部の内周側の壁面よりも外周側の壁面の方が最深部から急に立ち上がる断面形状とされており、該堀下部の外周側の壁面によってレンズ前面において下眼瞼と眼球との間に存在する涙液メニスカスの領域に位置せしめられる該凹状段差面が設けられていると共に、該堀下部が一定の断面形状をもってレンズ周方向の全周に亘って設けられていることを、特徴とする。
本発明の第二の態様では、上記[0016]〜[0018]に記載の効果に加えて、次の効果が発揮され得る。すなわち、第二の態様によれば、装用状態でコンタクトレンズがレンズ中心回りに回転しても、全周に亘って設けられた凹状段差面が涙液メニスカスの領域に位置せしめられることから、良好な装用感や見え方などを安定して得ることができる。しかも、コンタクトレンズを装用する際に、コンタクトレンズの上下の確認を不要とすることができて、装用も容易になり得る。
本発明の第の態様は、角膜に重ね合わされて装用されるコンタクトレンズであって、装用状態で下眼瞼に入り込む先細断面形状の下眼瞼差入部が外周縁部に設けられていると共に、レンズ前面において下眼瞼と眼球との間に存在する涙液メニスカスの領域に位置せしめられる凹状段差面が設けられている一方、レンズを装用状態で周方向に位置決めする周方向位置決め手段が設けられていると共に、該周方向位置決め手段による位置決め状態で上側を除いた下側の領域にだけ該凹状段差面が設けられていることを、特徴とする
本発明の第三の態様では、上記[0016]〜[0018]に記載の効果に加えて、次の効果が発揮され得る。すなわち、の態様によれば、コンタクトレンズの外周縁部において、涙液メニスカスが形成される下眼瞼と眼球との隅部付近に配置される下側の領域にのみ凹状段差面が設けられることで、上眼瞼が凹状段差面のレンズ前面側の角部に触れるのを軽減することができる。従って、瞬目時などに上眼瞼が凹状段差面のレンズ前面側の角部に強く接触することでゴロツキ等の違和感が生じるのを回避できて、より良好な装用感を得ることができる。
しかも、装用状態のコンタクトレンズにおける下側の領域に凹状段差面が設けられていることから、上側の領域にはスラブオフなどの周方向位置決め手段やその他の構造を適宜に設けることができる。これにより、装用状態において凹状段差面が下眼瞼に対して適切に位置決めされることから、大きな涙液メニスカスを安定して得ることができる。
本発明の第四の態様は、第三の態様に記載されたコンタクトレンズにおいて、レンズ前面に開口する凹溝状の掘下部が形成されており、該掘下部の外周側の壁面によって前記凹状段差面が構成されている一方、該堀下部の内周縁部におけるレンズ周方向の曲率半径が該堀下部の外周縁部におけるレンズ周方向の曲率半径よりも大きくされており、該堀下部がレンズ正面視において周方向両側に向かって次第に狭幅となる三日月形を呈しているものである。
本発明の第の態様は、第〜第の何れかの態様に記載されたコンタクトレンズにおいて、瞳孔に重ね合わされる中央部分に光学部が設けられていると共に、該光学部の周囲に周辺部が設けられており、該周辺部のレンズ前面が盛り上げられることで該盛上部の内周側の壁面により前記凹状段差面が形成されているものである。
の態様によれば、周辺部に凹状段差面が形成されていることから、凹状段差面の形成が光学部の光学特性に影響することがなく、必要な形状の凹状段差面を高い自由度で形成することができる。しかも、凹状段差面が周辺部のレンズ前面を盛り上げることで形成されていることから、凹状段差面の形成によって周辺部が必要以上に薄肉となるのを防いで、優れた耐久性や形状安定性が確保される。
本発明の第の態様は、第〜第の何れかの態様に記載されたコンタクトレンズにおいて、瞳孔に重ね合わされる中央部分に光学部が設けられていると共に、該光学部の周囲に周辺部が設けられており、該周辺部のレンズ前面が掘り下げられることで該掘下部の外周側の壁面により前記凹状段差面が形成されているものである。
の態様によれば、第の態様と同様に、凹状段差面の形成が光学部の光学特性に影響することがなく、必要な形状の凹状段差面を高い自由度で形成することができる。しかも、凹状段差面が周辺部のレンズ前面を掘り下げることで形成されていることから、周辺部の厚肉化を抑えつつ、充分な高さの凹状段差面を形成することができて、より優れた装用感が実現される。
なお、本態様は、第の態様と組み合わせて採用することも可能であり、周辺部において盛上部の必要以上の厚肉化と掘下部の必要以上の薄肉化とを何れも防ぎつつ、充分な高さの凹状段差面を得ることができることから、良好な装用感を実現しながら、耐久性や形状安定性を確保することが可能となる。
本発明の第の態様は、第の態様に記載されたコンタクトレンズにおいて、レンズ径方向の断面形状において、前記凹状段差面を構成する前記掘下部の外周側の壁面のレンズ表面に沿った径方向線に対する傾斜角度が、該掘下部の内周側の壁面のレンズ表面に沿った径方向線に対する傾斜角度よりも大きくされているものである。
の態様によれば、凹状段差面を構成する掘下部の外周側の壁面の傾斜角度が大きく設定されることで、装用状態において凹状段差面を下眼瞼に対して好適な傾斜角度で配置可能となって、涙液メニスカスにおける涙液の量が効率的に確保される。また、上眼瞼が接触する掘下部の内周側の壁面の傾斜角度を小さく設定することで、瞬目時などに上眼瞼が掘下部の内周側の角部に引っ掛かるのを防いで、優れた装用感が実現される。
本発明の第の態様は、第〜第の何れかの態様に記載されたコンタクトレンズにおいて、前記凹状段差面のレンズ前面側の角部が、レンズ中心から5〜7mmの径方向位置に設定されているものである。
の態様によれば、一般的な装用状態において、凹状段差面のレンズ前面側の角部が下眼瞼の縁に近接して且つ下眼瞼の縁よりも下方に配置することができて、涙液メニスカスを大きく形成することができる。
本発明によれば、下眼瞼差入部に作用する眼瞼圧などを利用して装用状態でのレンズ位置の安定性を確保しつつ、下眼瞼の上に存在する涙液メニスカスの大きさを適切に設定することにより該涙液メニスカスによって貯留された涙液が瞬目に際して上眼瞼でかき上げるようにしてレンズ前面に広がることを巧く利用して、レンズ前面における涙液層を効率的に且つ安定して確保することができるのであり、その結果、コンタクトレンズにおける優れた装用感が実現され得る。
本発明の第一の実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面図。 図1のII−II断面図。 図1に示されたコンタクトレンズの装用状態を説明する正面図。 図1に示されたコンタクトレンズの装用状態での要部を拡大して示す縦断面図。 本発明の第二の実施形態としてのコンタクトレンズを示す正面図。 図5のVI−VI断面図。 右目の前眼部を側方視した写真であって、(a)が裸眼を、(b)が従来構造に係る比較例1のコンタクトレンズを装用した状態を、(c)が本発明に係る実施例のコンタクトレンズを装用した状態を、それぞれ示す。 左目の前眼部を側方視した写真であって、(a)が裸眼を、(b)が従来構造に係る比較例1のコンタクトレンズを装用した状態を、(c)が本発明に係る実施例のコンタクトレンズを装用した状態を、それぞれ示す。 右目の涙液メニスカスの高さを測定した結果を示す写真であって、(a)が裸眼を、(b)が従来構造に係る比較例1のコンタクトレンズを装用した状態を、(c)が本発明に係る実施例のコンタクトレンズを装用した状態を、それぞれ示す。 左目の涙液メニスカスの高さを測定した結果を示す写真であって、(a)が裸眼を、(b)が従来構造に係る比較例1のコンタクトレンズを装用した状態を、(c)が本発明に係る実施例のコンタクトレンズを装用した状態を、それぞれ示す。 本発明に係るコンタクトレンズを装用した前眼部の縦断面写真。 比較例2に係るコンタクトレンズを装用した前眼部の縦断面写真。 比較例3に係るコンタクトレンズを装用した前眼部の縦断面写真。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1,2には、本発明の第一の実施形態としてのコンタクトレンズ10が示されている。コンタクトレンズ10は、凸形の球冠形状を呈するレンズ前面12と、凹形の球冠形状を呈するレンズ後面14とが、レンズ外周端のエッジ部16において滑らかに接続された外面形状を有している。そして、図1に示すように、瞳孔に重ね合わされるコンタクトレンズ10の中央部分には、視力矯正用の光学特性を有する略円形の光学部18が所定の径寸法で設けられている一方、光学部18とエッジ部16の径方向間には、光学特性を有しない略円環形状の周辺部20が、光学部18の周囲を囲むように設けられている。
また、本実施形態のコンタクトレンズ10は、ソフトコンタクトレンズであって、各種公知の材料で形成可能であり、例えば、ハイドロキシエチルメタクリレート(HEMA)やN−ビニルピロリドン(N−VP)、ジメチルアクリルアミド(DMAA)、アミノ酸共重合体、親水性ゲルにシリコーンを結びつけたシリコーンハイドロゲルなどの生体親和性材料が好適に用いられ得る。更に、コンタクトレンズ10としては、ソフトタイプとハードタイプの特徴を併せ持つ二種材コンタクトレンズも採用可能であり、例えば、光学部18をハードタイプの材料で形成すると共に周辺部20をソフトタイプの材料で形成することで、優れた光学特性と装用感の両立が図られ得る。
さらに、コンタクトレンズ10は、直径(DIA)が好適には14〜14.8mmとされており、図3に示すように、周辺部20の外周縁部22が装用状態において強膜まで達するようになっている。
また、コンタクトレンズ10の外周縁部22には、凹状段差面24が設けられている。凹状段差面24は、コンタクトレンズ10の下部に形成されており、周方向に半周未満の長さで延びている。本実施形態の凹状段差面24は、レンズ前面12側に行くに従って外周側に傾斜するテーパ面とされている。
さらに、レンズ正面視において、凹状段差面24の曲率半径が、好適には5〜31mmとされており、より好適には7〜14mmとされる。即ち、凹状段差面24の曲率半径が5mmよりも小さいと、後述するコンタクトレンズ10の装用状態において、凹状段差面24が周方向の広範囲に亘って下眼瞼40の縁部に沿うように配置され難くなる。一方、凹状段差面24の曲率半径が31mmよりも大きいと、下眼瞼40の一般的な曲率半径を超えてしまうことから、凹状段差面24を下眼瞼40の縁部に位置合わせすると、凹状段差面24の周方向両端部において述する下眼瞼差入部30が下眼瞼40に大きく入り込みすぎるおそれがある。また、7〜14mmの範囲に設定することにより、凹状段差面24を下眼瞼40の縁部に位置合わせした状態で、下眼瞼差入部30の40〜80%が下眼瞼40に差し入れられて、涙液メニスカス46(後述)への貯涙効果が有効に発揮される。
更にまた、凹状段差面24のレンズ前面12側の角部(境界部26)は、好適には、コンタクトレンズ10のレンズ幾何中心から5〜7mmの位置に設定される。そして、凹状段差面24は、レンズ中心回りの曲率半径よりも大きな曲率半径をもって、周方向に延びていることが望ましい。
また、コンタクトレンズ10の外周縁部22は、凹状段差面24のレンズ前面12側の端部を境界部26として、境界部26の内周側が露出部28とされていると共に、境界部26の外周側が下眼瞼差入部30とされている。
露出部28は、図3に示された眼球38への装用状態において、下眼瞼40に差し入れられることなく露出する部分であって、外周縁部22の内周部分を構成している。更に、露出部28には、レンズ前面12に開口する凹溝状の掘下部32が形成されている。
この掘下部32は、図1に示すように、略周方向に延びており、掘下部32の外周側の壁面を含んで構成される凹状段差面24の曲率半径が、掘下部32の内周側の壁面34(以下、内周壁面34と称する)の曲率半径よりも小さくされて、レンズ正面視(図1中の紙面直交方向視)において、周方向両側に向かって次第に狭幅となる三日月形を呈している。なお、掘下部32の最深部において、凹状段差面24と内周壁面34が共通の接線を持つように滑らかに連続している。
さらに、掘下部32が形成されることで、コンタクトレンズ10の厚さ寸法が部分的に小さくなっており、掘下部32の最深部における最小厚さ寸法が0.05〜0.2mmとされている。掘下部32の最小厚さ寸法を上記の範囲に設定することにより、凹状段差面24の高さを掘り下げによって充分に得ながら、掘下部32において耐久性や形状安定性も充分に確保できる。
更にまた、図2に示すレンズ径方向の断面形状において、凹状段差面24を構成する掘下部32の外周側の壁面の傾斜角度が、内周壁面34の傾斜角度よりも大きくされている。これにより、掘下部32の最深部を境界とする内周側の径方向寸法(図4中のa)と外周側の径方向寸法(図4中のb)との比(a:b)が、好適には7:3〜5:5、より好適には6.5:3.5〜5.5:4.5とされている。
さらに、掘下部32のレンズ径方向寸法の最大値が0.5〜1.8mmとされている。掘下部32のレンズ径方向寸法の最大値をこのような数値範囲に設定することで、レンズ幾何中心から所定の距離に凹状段差面24を配置しながら、眼の構造やサイズに基づいてレンズ径方向寸法を決定される周辺部20に掘下部32を配置することができる。尤も、掘下部32のレンズ径方向寸法は、コンタクトレンズ10の直径やレンズ径方向における掘下部32の形成位置などに応じて適宜に変更設定され得るものであって、特に限定されるものではない。
一方、下眼瞼差入部30は、図3に示された眼球38への装用状態において、下眼瞼40に差し入れられる部分であって、外周縁部22の外周部分を構成してエッジ部16を含んでいる。
さらに、下眼瞼差入部30は、外周側に向かって次第に薄肉となる先細断面形状を有しており、境界部26側の端部において厚さ寸法が最大となっている。この下眼瞼差入部30の最大厚さ寸法は、好適には0.15〜0.4mmとされている。蓋し、下眼瞼差入部30の最大厚さ寸法が0.15mmよりも小さいと、レンズ前面12の掘り下げによる凹状段差面24の形成が困難になる一方、下眼瞼差入部30の最大厚さ寸法が0.4mmよりも大きいと、装用感への悪影響が看過し難くなるからである。なお、凹状段差面24の高さ寸法(図4中のh)が、好適には0.05〜0.2mmの大きさで確保されており、後述する涙液メニスカス46が大きく得られるようになっている。
更にまた、本実施形態の下眼瞼差入部30は、コンタクトレンズ10の外周縁部22における掘下部32を外れた部位に対して、厚さ寸法の径方向での変化率が大きくされている。しかも、下眼瞼差入部30のレンズ後面14の曲率は、同一周上の他の部分と等しくなっており、レンズ前面12が盛り上げられることで厚さ寸法の径方向変化率が大きくなっている。このように下眼瞼差入部30の厚さ寸法の径方向変化率が大きくされることによって、境界部26の厚さ寸法が同一周上の他の部分に比して大きくされており、高さ寸法の大きな凹状段差面24を形成可能とされている。要するに、本実施形態の凹状段差面24は、露出部28のレンズ前面12を掘り下げた掘下部32の外周側の壁面と、下眼瞼差入部30のレンズ前面12を盛り上げた盛上部の内周側の壁面とが協働して形成されている。
なお、好適には、下眼瞼差入部30の厚さ寸法の径方向変化率は、下眼瞼差入部30と同じ径方向位置で且つ下眼瞼差入部30を周方向に外れた部位に対して100〜325%の範囲で適宜に設定される。これによれば、装用感への悪影響を抑えつつ、レンズ前面12の盛り上げによって凹状段差面24を大きく確保することができる。
このような構造とされたコンタクトレンズ10は、図3に示すように、角膜を含む眼球38の表面に重ね合わされて装用される。また、コンタクトレンズ10の直径が角膜の直径よりも大きくなっており、装用状態においてコンタクトレンズ10のエッジ部16が強膜に達している。
なお、図1,2および上記の説明からも明らかなように、コンタクトレンズ10は、上下非対称形状を有しており、図3に示すように、掘下部32が下方に位置するように装用される必要がある。そこで、コンタクトレンズ10を装用状態で周方向に位置決めする周方向位置決め手段を設けることが望ましい。周方向位置決め手段の具体的な構造は、コンタクトレンズ10が周方向で位置決めされるものであれば特に限定されないが、例えば、コンタクトレンズの下部に厚肉部分を設けるなどして、コンタクトレンズの重心位置を下方に偏倚させるプリズムバラスト構造や、コンタクトレンズの上部に薄肉部分を形成して、かかる薄肉部分を上眼瞼で保持させるスラブオフ構造などといった、公知の構造が何れも採用され得る。
本実施形態のコンタクトレンズ10では、下眼瞼差入部30がレンズ前面12を盛り上げられた盛上部を含んでおり、コンタクトレンズ10の重心位置がレンズ幾何中心に対して下方に偏倚して設定されることで、プリズムバラスト構造の周方向位置決め手段が構成されている。これにより、装用状態において、コンタクトレンズ10の上側を除いた下側の領域に凹状段差面24が設けられている。なお、好適には、コンタクトレンズ10の重心位置が、レンズ幾何中心から下方に0.55mm以上偏倚して位置せしめられる。
そこにおいて、コンタクトレンズ10は、レンズ外径寸法(DIA)が瞳孔径よりも十分に大きく且つ角膜径と略同じかそれより大きくされており、装用状態において、露出部28が下眼瞼40から露出していると共に、下眼瞼差入部30が下眼瞼40に差し入れられている。好適には、コンタクトレンズ10のエッジ部16から内周側に向かって0.4〜2.4mmの領域が、下眼瞼40に入り込むようになっている。一方、コンタクトレンズ10の上部も、図3に示すように、装用状態で上眼瞼42に差し入れられていることが望ましい。
より詳細には、図4に示すように、下眼瞼差入部30が下眼瞼40と眼球38の間に差し入れられていると共に、境界部26が下眼瞼40の上端に設けられた平坦面44に対して略同じ位置か僅かに上方に設定されており、境界部26よりも内周側の露出部28が下眼瞼40よりも上方に位置せしめられている。
かくの如き装用状態において、凹状段差面24のレンズ前面12側の端部が平坦面44と位置合わせされることから、平坦面44の内周側には凹状段差面24が連続するように設けられており、図4に示す装用状態のレンズ径方向断面において、凹状段差面24が平坦面44に対して略垂直に広がっている。これにより、露出部28に設けられた掘下部32が、平坦面44に向かって開口している。なお、凹状段差面24は、平坦面44に対する傾斜角度がレンズ径方向で次第に変化しているが、掘下部32の開口部分において凹状段差面24と平坦面44が略垂直となっている。
そして、下眼瞼40と眼球38の間には、涙液メニスカス46が存在している。この涙液メニスカス46は、眼球38の表面を流下した涙液が下眼瞼40の平坦面44上に溜まって表面張力で保持されるものであって、コンタクトレンズ10の装用状態では、レンズ前面12と平坦面44とがなす下隅部に形成される。
そこにおいて、コンタクトレンズ10では、装用状態で凹状段差面24が平坦面44の内周側に連続するように配置されており、凹状段差面24が涙液メニスカス46の存在する領域に位置せしめられていると共に、平坦面44の上方に掘下部32が開口している。これにより、図4に示すように、涙液メニスカス46が界面張力によって掘下部32に入り込んだ状態で保持されることから、涙液メニスカス46が大きくなって、下眼瞼40上に貯留される涙液の量が多くなる。それ故、瞬目に際して涙液メニスカス46の貯留涙液が上眼瞼42でかき上げられることで、レンズ前面12に涙液層が有利に形成されて、レンズ前面12の乾燥が低減乃至は回避されることから、装用感や見え方への悪影響、擦れによるレンズ前面12の損傷などが防止される。
しかも、コンタクトレンズ10では、涙液メニスカス46の領域に凹状段差面24が形成されることで、外周縁部22の全体を薄肉化することなく、涙液メニスカス46の大きさが確保されるようになっている。それ故、外周縁部22において、下眼瞼差入部30や境界部26である程度の厚さ寸法を確保して、コンタクトレンズ10の耐久性や形状安定性を確保しながら、掘下部32を部分的に薄肉化することで、良好な装用感や見え方などを提供することが可能となっている。
また、凹状段差面24は、レンズ中心周りの曲率半径よりも大きな曲率半径をもって周方向に延びるように形成されていることから、下眼瞼40の縁部に近い形状で形成されており、より広い領域に亘って涙液メニスカス46が存在する平坦面44と対応して配置されるようになっている。それ故、涙液メニスカス46がより効率的に形成されて、目的とする装用感や見え方などの向上が図られる。特に、左右方向の広い範囲で涙液メニスカス46を大きく得ることができることから、瞬目に際してレンズ前面12の広い範囲に亘って涙液層が形成されて、レンズ前面12の部分的な乾燥も防止される。
さらに、凹状段差面24のレンズ前面12側の角部(境界部26)が、レンズ幾何中心から5〜7mmの径方向位置に設定されていることから、一般的な人の眼へのコンタクトレンズ10の装用状態において、凹状段差面24が下眼瞼40の縁部付近に配置されて、涙液メニスカス46の領域に位置せしめられる。従って、上記の如き涙液メニスカス46を大きく確保する効果を有効に得ることができて、装用感や見え方の向上が図られる。
さらに、コンタクトレンズ10では、下眼瞼差入部30においてレンズ前面12が盛り上げられていると共に、露出部28においてレンズ前面12が掘り下げられており、盛上部の内周側の壁面と掘下部32の外周側の壁面との協働によって、凹状段差面24が形成されている。これにより、盛上部における過度な厚肉化と、掘下部32における過度な薄肉化とを何れも防いで、適切な厚さ寸法で凹状段差面24の高さ寸法を大きく確保することができる。その結果、盛上部の厚肉化による装用感への悪影響や、掘下部32の薄肉化による耐久性および形状安定性の低下を防ぐことができると共に、涙液メニスカス46の大きさを有利に得ることができる。
更にまた、掘下部32において、凹状段差面24を構成する外周側の壁面の傾斜角度が、内周側の壁面34の傾斜角度よりも大きくされている。これにより、装用状態において、凹状段差面24が平坦面44に対してより垂直に近い大きな傾斜角度をもって配置されて、涙液メニスカス46を大きく得ることができる。しかも、掘下部32の開口の径方向幅寸法が充分に確保されることから、涙液メニスカス46が充分に大きく形成され得ると共に、毛管現象によって涙液が掘下部32に強く保持されてしまうのも回避できる。
また、本実施形態のコンタクトレンズ10では、凹状段差面24が装用状態で下側の領域にのみ形成されており、上側の領域には形成されていない。それ故、瞬目に際して上眼瞼42が凹状段差面24のレンズ前面12側の角部に触れるのを防いで、凹状段差面24の形成による装用感への悪影響が防止される。
さらに、本実施形態では、外周縁部22の下眼瞼差入部30が上側の領域において対応する部分よりも厚さ寸法の径方向変化が大きくなっており、外周縁部22における境界部26付近が厚肉となっていることから、コンタクトレンズ10の重心位置がレンズ幾何中心よりも下方に偏倚して設定されている。これにより、装用状態でコンタクトレンズ10が周方向に位置決めされており、凹状段差面24が安定して下側に位置せしめられることから、涙液メニスカス46の確保による良好な装用感などを安定して得ることができると共に、上眼瞼42が凹状段差面24に触れることによる装用感の悪化も安定して回避される。
ところで、本発明方法に従ってコンタクトレンズ10を製造するに際しては、涙液量や涙液組成だけでなく、眼瞼圧や下眼瞼40の平坦面44の大きさなどにも個人差があるものの、下眼瞼差入部30に及ぼされる下眼瞼圧による装用状態のレンズ安定性の向上効果や、凹状段差面24による涙液メニスカス46の増大に伴うレンズ前面12の涙液層の向上効果は、何れも有効に発揮され得る。そのような効果をより有効に得るためには、涙液メニスカス46の形成部分に位置するコンタクトレンズ10の外周縁部22である下眼瞼差入部30や露出部28の厚さ寸法の設定によって、涙液メニスカス46の大きさを、個人毎に調節設定することが望ましい。
すなわち、涙液メニスカス46の大きさは、涙液量や眼瞼圧、下眼瞼40の平坦面44の大きさなどによって個人差があるものの、かかる涙液メニスカス46は、コンタクトレンズ10の外周縁部22の厚さ寸法の増大に伴って小さくなる相対関係を有しているのである。それ故、具体的には、コンタクトレンズ10の装用者において、レンズ前面12の涙液層が不足している場合には、コンタクトレンズ10の下眼瞼差入部30と露出部28の少なくとも一方の厚さ寸法を小さくすることにより、涙液メニスカス46を増大させることが有効である。
ここにおいて、コンタクトレンズ10の装用時の位置安定性を向上させるには、下眼瞼差入部30の厚さを確保して眼瞼圧による位置決め作用を積極的に利用することも有効であるが、下眼瞼差入部30の厚さを大きくすると、下眼瞼40が前方へ押し出されて平坦面44が小さくなること等に起因して涙液メニスカス46が小さくなると共に、下眼瞼40への刺激によって装用感が低下するおそれもある。一方、下眼瞼差入部30の厚さ寸法を過度に小さくすると、眼瞼圧による位置決め作用が低下することに加えて、レンズの耐久性や形状安定性などが低下して、表裏の判別が難しくなったり、装用前の手指による取扱いが面倒になったりするおそれもある。
そこで、コンタクトレンズ10の装用者に応じて、レンズの安定位置決め作用とレンズ前面12の涙液層の確保とが両立して満足できる程度に涙液メニスカス46の大きさが確保されるように下眼瞼差入部30の厚さ寸法を適切に調節設定する。そして、下眼瞼差入部30の厚さ寸法を適切に設定できた場合には、凹状段差面24を設定する必要がなく、外周縁部を中心軸回りで回転対象なレンズ表裏形状をもって形成することも可能で、周方向の位置決め手段も必要ない。
一方、下眼瞼差入部30の厚さ寸法の調節だけでは、レンズの安定位置決め作用とレンズ前面12の涙液層の確保とを満足できる程度に両立させることが難しい場合には、下眼瞼差入部30の過度の薄肉化を回避して、凹状段差面24を設けることにより露出部28を薄肉化することを検討する。即ち、コンタクトレンズ10の外周縁部22を構成する露出部28も、その厚さ寸法を大きくすると涙液メニスカス46が小さくなる相対関係を有していることから、かかる相対関係に基づいて、装用者の裸眼での涙液メニスカス46の大きさを考慮して露出部28の厚さ寸法を小さくすることにより、下眼瞼差入部30の厚さ寸法をある程度に確保しつつ、コンタクトレンズ10の装用状態で必要な涙液メニスカス46を確保して、装用感の向上を図ることが可能になる。
従って、本発明では、コンタクトレンズ10の装用者に応じて、コンタクトレンズ10の外周縁部22の厚さ寸法を適切に調節設定して、涙液メニスカス46の大きさを調節することにより、レンズの安定位置決め作用とレンズ前面12の涙液層の確保とを両立して達成せしめ得る外周縁部22の形状を設計する設計工程を採用し、かかる設計工程で決定されたレンズ形状をもってコンタクトレンズ10を製造するようにされる。なお、実際の市場を考慮すると、例えば複数規格の外径寸法を有するコンタクトレンズ10のそれぞれについて、下眼瞼差入部30および露出部28の各厚さ寸法を異ならせたものを複数種類準備しておいて、それらの種類の中から各装用者に最も適するものを選択して提供することが望ましい。このように、複数種類の外周縁部22を設定したコンタクトレンズ10の組合せからなるレンズセットを市場に提供することにより、本発明に従う構造とされたコンタクトレンズ10を効率的に製造販売することができるだけでなく、装用者毎に適したコンタクトレンズ10の仕様を効率的に選択することが可能になり、また、装用者に対して速やかに提供することも可能になる。
図5,6には、本発明の第二の実施形態に従う構造とされたコンタクトレンズ50が示されている。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材および部位については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
すなわち、コンタクトレンズ50は、周辺部20の外周縁部52に凹状段差面54が形成されており、凹状段差面54のレンズ前面12側の角部である境界部56を挟んで内周側が露出部58とされていると共に、外周側が下眼瞼差入部60とされている。また、本実施形態において、凹状段差面54は、略一定の断面形状で周方向環状に連続しており、レンズ周方向で全周に亘って設けられている。それに伴って、境界部56と露出部58と下眼瞼差入部60も、それぞれ全周に亘って連続的に設けられている。
また、露出部58には、掘下部62が設けられており、レンズ前面12に開口して周方向環状に延びる凹溝状を呈している。なお、掘下部62の外周側の壁面である凹状段差面54と、掘下部62の内周側の壁面(内周壁面64)は、略一定の断面形状で周方向の全周に亘って連続的に延びている。
このような本実施形態に従う構造のコンタクトレンズ50は、装用状態において、下眼瞼差入部60の周上の一部が下眼瞼40と眼球38の間に差し入れられると共に、境界部56が下眼瞼40の平坦面44に位置決めされて、掘下部62が平坦面44に向かって開口するように配置されている。これにより、第一の実施形態と同様に、涙液メニスカス46の容積が大きく確保されて、レンズ前面12に涙液層が安定して形成されることで、装用感や見え方の向上、レンズ前面12の潤滑による損傷の防止などが、何れも有効に実現される。
しかも、本実施形態のコンタクトレンズ50では、全周に亘って略一定の断面形状を有しており、装用時にコンタクトレンズ50を周方向に位置決めする必要がない。従って、周方向位置決め手段が不要となって、より簡単なレンズ構造を採用できると共に、上下を確認する必要がないことから、より簡単に装用することができる。
[実施例1]
なお、コンタクトレンズの装用状態に応じた涙液メニスカス46の大きさの違いは、図7,8に示す前眼部光干渉断層計による前眼部の断面観察によっても確認されている。なお、図7が右目を、図8が左目を示す。
本実施例において、前眼部光干渉断層計としては、株式会社トーメーコーポレーション製の「SS−1000 CASIA」を使用した。また、図7,8(b)の観察に用いた比較例1のコンタクトレンズとしては、ベースカーブが8.60mm、度数が−4.75D、DIAが14.2mmのものを採用した。更に、図7,8(c)の観察に用いた実施例のコンタクトレンズとしては、ベースカーブが8.60mm、度数が−4.75D、DIAが14.5mmのものを採用した。なお、図7,8の(b),(c)のコンタクトレンズ装用状態は、コンタクトレンズを眼に馴染ませるために、装用から10分程度の時間が経過してから観察した。
図7,8によれば、(a)に示す裸眼状態において、下眼瞼40と眼球38表面との間に大きな涙液メニスカス46が形成されている。一方、(b)に示す従来構造の単焦点コンタクトレンズ(比較例1)の装用状態では、コンタクトレンズの外周縁部が下眼瞼40に殆ど差し入れられることなく下眼瞼40を下方に押しており、下眼瞼40が変形せしめられて平坦面44が殆どなくなっている。その結果、下眼瞼40上に形成される涙液メニスカス46が、裸眼の場合に比して著しく小さくなっている。
それに対して、図7,8の(c)に示す本発明構造のコンタクトレンズ(実施例)の装用状態では、涙液メニスカス46がコンタクトレンズ10の凹状段差面24に沿って掘下部32に入り込むことで大きく確保されている。これら図7,8の(a)〜(c)の観察結果によれば、本発明に係る実施例のコンタクトレンズの装用状態では、涙液メニスカス46が裸眼と遜色ない大きさで、従来構造に係る比較例のコンタクトレンズの装用状態よりも大きく確保されることが確認された。
[実施例2]
このような裸眼と比較例と実施例との涙液メニスカス46の大きさの違いは、ビデオメニスコメトリー法によって涙液メニスカス46の曲率半径、換言すれば実質的な高さ寸法を測定した結果(図9,10)からも明らかである。なお、図9が右目の測定結果を、図10が左目の測定結果を示す。
実施例2に示す涙液メニスカス46の曲率半径の測定では、平行線を投影するためのスリットを付け加えた興和株式会社の「DR−1」を使用した。また、実施例と比較例1の各コンタクトレンズの規格は、実施例1と同様である。なお、測定装置の詳細は、特開平1−267102号公報に開示されている。
すなわち、図9,10によれば、涙液メニスカス46の高さの指標である上下白線間の距離(涙液メニスカス曲率半径)が、比較例1のコンタクトレンズの装用状態において裸眼に比して大幅に小さくなる一方、実施例のコンタクトレンズ10の装用状態において裸眼と同等乃至はそれ以上となっている。この測定結果から、実施例のコンタクトレンズ10の装用状態において、裸眼に劣らない高さの涙液メニスカス46が形成されて、涙液層の形成と涙液の積極的な流動が有利に実現されることを確認した。
[実施例3]
また、本実施形態に従う構造とされたコンタクトレンズ10において、涙液メニスカス46の量を大きく確保するためには、下眼瞼差入部30の厚さ寸法や凹状段差面24の径方向での形成位置などが重要になることを実施例3として確認した。即ち、図11に示す本発明構造のコンタクトレンズ10(実施例)では、下眼瞼差入部30が充分に薄肉とされて下眼瞼40に差し入れられており、凹状段差面24が下眼瞼40の平坦面44に対して位置合わせされている。これにより、凹状段差面24と平坦面44の間に大きな涙液メニスカス46が形成されて、涙液の量が確保されている。
一方、図12に示す比較例2は、実施例に比して下眼瞼差入部30が厚肉とされたコンタクトレンズの装用状態であって、下眼瞼40と眼球38の間に対する下眼瞼差入部30の差し入れ量が不充分であることで、境界部26が平坦面44に対して上方に位置しており、凹状段差面24が平坦面44に対して上方に離隔している。その結果、涙液メニスカス46は、凹状段差面24と平坦面44との間ではなく、下眼瞼40から露出する下眼瞼差入部30の内周部分と平坦面44との間に形成されており、凹状段差面24が涙液メニスカス46の形成に寄与していない。従って、比較例2のコンタクトレンズでは、従来構造のコンタクトレンズと同程度の小さな涙液メニスカス46が形成されるに過ぎず、乾燥の防止が実現され難い。
さらに、図13に示す比較例3は、実施例に比して、レンズ外径(DIA)が小さすぎたり、凹状段差面24の形成位置がレンズ幾何中心に近すぎる等して、下眼瞼差入部30の下眼瞼40への差入れが不充分になっている例が示されている。これによれば、従来構造のコンタクトレンズと同様に、レンズ外周縁部を構成する下眼瞼差入部30が下眼瞼40を押して平坦面44を変形させてしまうことで、涙液メニスカス46の容積が著しく小さくなっている。従って、比較例3のコンタクトレンズにおいても、従来構造のコンタクトレンズと同様に小さな涙液メニスカス46が形成されるに過ぎない。
このように、本発明に係る実施例のコンタクトレンズ10では、下眼瞼40と眼球38の間に存在する涙液メニスカス46の形成領域に凹状段差面24が位置せしめられていることによって、涙液メニスカス46の容積を大きく得ることができて、レンズ前面12の乾燥を涙液層によって有利に防ぐことができるのである。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、凹状段差面は、必ずしも盛上部の内周側の壁面と掘下部の外周側の壁面とが協働して形成されるものに限定されず、例えばそれらの一方だけでも構成され得る。
さらに、凹状段差面は、下眼瞼の湾曲に沿うように、好適には、レンズ中心周りの曲率半径よりも大きな曲率半径で湾曲して、周方向に延びていることが望ましいが、例えば、レンズ正面視における左右方向(図1中の左右方向)に直線的に延びていても良い。また、レンズ中心周りの曲率半径よりも小さな曲率半径をもって周方向に延びる凹状段差面も採用され得る。
また、凹状段差面を、コンタクトレンズの上下両側に位置して形成したり、全周に亘って環状に形成することも可能である。そのような態様の凹状段差面を採用する場合には、装用時における上下の位置決め手段や周方向の位置決め手段を設けなくても良い。
更にまた、掘下部の断面形状は、適宜に変更され得る。具体的には、例えば、掘下部の内周側の壁面と外周側の壁面の少なくとも一方が平面とされていても良い。
また、前記実施形態では、単焦点のコンタクトレンズが例示されているが、例えば、老視矯正用のバイフォーカルや累進多焦点(プログレッシブ)のコンタクトレンズ、乱視矯正用のトーリックコンタクトレンズなどにも、本発明は好適に適用されることとなり、また、例示のソフトコンタクトレンズのほかハードコンタクトレンズや二種材コンタクトレンズなどへの適用も可能である。
10,50:コンタクトレンズ、12:レンズ前面、18:光学部、20:周辺部、22,52:外周縁部、24,54:凹状段差面、30,60:下眼瞼差入部、32,62:掘下部、38:眼球、40:下眼瞼、44:平坦部、46:涙液メニスカス

Claims (8)

  1. 角膜に重ね合わされて装用されるコンタクトレンズであって、装用状態で下眼瞼に入り込む先細断面形状の下眼瞼差入部が外周縁部に設けられていると共に、レンズ前面において下眼瞼と眼球との間に存在する涙液メニスカスの領域に位置せしめられる凹状段差面が設けられており、レンズ正面視において、凹状段差面がレンズ中心回りの曲率半径よりも大きな曲率半径をもって周方向に延びていることを特徴とするコンタクトレンズ。
  2. 角膜に重ね合わされて装用されるコンタクトレンズであって、装用状態で下眼瞼に入り込む先細断面形状の下眼瞼差入部が外周縁部に設けられていると共に、レンズ前面から突出しないで掘り下げられた形状でレンズ前面に開口する凹溝状の掘下部が形成されており、該掘下部の外周側の壁面によって凹状段差面が構成されている一方、該堀下部の最深部から外周側の方が内周側よりもレンズ径方向寸法が短くされて該堀下部の内周側の壁面よりも外周側の壁面の方が最深部から急に立ち上がる断面形状とされており、該堀下部の外周側の壁面によってレンズ前面において下眼瞼と眼球との間に存在する涙液メニスカスの領域に位置せしめられる該凹状段差面が設けられていると共に、該堀下部が一定の断面形状をもってレンズ周方向の全周に亘って設けられていることを特徴とするコンタクトレンズ。
  3. 角膜に重ね合わされて装用されるコンタクトレンズであって、装用状態で下眼瞼に入り込む先細断面形状の下眼瞼差入部が外周縁部に設けられていると共に、レンズ前面において下眼瞼と眼球との間に存在する涙液メニスカスの領域に位置せしめられる凹状段差面が設けられている一方、レンズを装用状態で周方向に位置決めする周方向位置決め手段が設けられていると共に、該周方向位置決め手段による位置決め状態で上側を除いた下側の領域にだけ該凹状段差面が設けられていることを特徴とするコンタクトレンズ。
  4. レンズ前面に開口する凹溝状の掘下部が形成されており、該掘下部の外周側の壁面によって前記凹状段差面が構成されている一方、該堀下部の内周縁部におけるレンズ周方向の曲率半径が該堀下部の外周縁部におけるレンズ周方向の曲率半径よりも大きくされており、該堀下部がレンズ正面視において周方向両側に向かって次第に狭幅となる三日月形を呈している請求項3に記載のコンタクトレンズ。
  5. 瞳孔に重ね合わされる中央部分に光学部が設けられていると共に、該光学部の周囲に周辺部が設けられており、該周辺部のレンズ前面が盛り上げられることで該盛上部の内周側の壁面により前記凹状段差面が形成されている請求項の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
  6. 瞳孔に重ね合わされる中央部分に光学部が設けられていると共に、該光学部の周囲に周辺部が設けられており、該周辺部のレンズ前面が掘り下げられることで該掘下部の外周側の壁面により前記凹状段差面が形成されている請求項の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
  7. レンズ径方向の断面形状において、前記凹状段差面を構成する前記掘下部の外周側の壁面のレンズ表面に沿った径方向線に対する傾斜角度が、該掘下部の内周側の壁面のレンズ表面に沿った径方向線に対する傾斜角度よりも大きくされている請求項に記載のコンタクトレンズ。
  8. 前記凹状段差面のレンズ前面側の角部が、レンズ中心から5〜7mmの径方向位置に設定されている請求項の何れか一項に記載のコンタクトレンズ。
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