以下、本発明の実施形態を説明する。本発明において、前後の方向は、薬液注入装置がシリンジを保持した状態においてピストンがシリンダに押し込まれる方向を「前」とし、それと反対方向を「後」として定義する。
[薬液注入装置]
図1を参照すると、ピストン保持機構10とシリンダ保持機構30とを有する本発明の一実施形態による薬液注入装置100が示されている。この薬液注入装置100は、サイズの異なる複数種のシリンジ110を、アダプタを使用することなく装着でき、シリンジ110内に充填されている薬液を被験者に注入することができる。
薬液注入装置100に装着することのできるシリンジ110の一例を図2に示す。シリンジ110は、薬液を保持するシリンダ111と、シリンダ111に摺動自在に挿入されるピストン114と、を有する。シリンダ111は、先端に導管112を有するとともに後端にシリンダフランジ113を有しており、ピストン114はシリンダ111の後端からシリンダ111内に挿入される。ピストン114の後端には円盤状のピストンフランジ115が形成されている。
ピストンフランジ115の後端面に力を加え、ピストン114がシリンダ111内に押し込まれるようにピストン114をシリンダ111に対して前進させることで、シリンダ111内の薬液を、導管112を通じて押し出すことができる。例えば、先端に注入針が接続された延長チューブ(不図示)を導管112に連結し、注入針を被験者の血管内に穿刺した状態でピストン114をシリンダ111内に押し込むことによって、薬液を被験者に注入することができる。
注入する薬液の種類および被験者の体重などによって薬液の注入量は異なることが多い。したがって、種々の注入量に対応できるように、容量が異なる複数種類のシリンジ110が存在する。容量の異なる複数種のシリンジ110は、通常、シリンダ111の直径、シリンダ111の長さおよびピストン114の太さが異なる。また、これらの寸法の違いに伴い、シリンジ110の良好な操作性の観点などから、シリンダフランジ11のサイズ、ピストンフランジ115の直径D、および、ピストン114がシリンダ111内に最も挿入されたときの、シリンジ110の軸方向でのピストンフランジ115の後面からシリンダフランジ113の前面までの距離L(この距離Lは、簡略のため、「フランジ間距離L」ともいう)なども異なっている。シリンジ110に充填できる薬液の容量が少ないほど、これら各部の寸法は小さくなる。
本発明では任意の種類のシリンジ110を使用することができる。使用可能なシリンジ110の種類としては、薬液の充填形態で分類すれば、薬液が予め充填されているプレフィルドシリンジ、および医療現場で注入に先立って薬液が充填される後充填シリンジ(メーカからの出荷時には薬液は充填されていないという意味で「空シリンジ」ともいう)が挙げられ、また、用途で分類すれば、MR用シリンジ、CT用シリンジ、アンギオ用シリンジなどが挙げられる。
再び図1を参照すると、シリンダ保持機構30は、シリンダ111の後端部分を、シリンダ111がピストン114の移動方向すなわち前後方向に移動しないように保持する。ピストン保持機構10は、シリンダ保持機構30によってシリンダ111が保持されたシリンジ110の少なくともピストンフランジ115の後端面を支持することによってピストンフランジ115を保持するように構成されている。また、ピストン保持機構10は、シリンダ保持機構30に保持されたシリンジ110の中心軸線と平行に配設された主軸50に支持されている。
主軸50は、その軸線方向に移動自在に支持されており、この主軸50の移動によってピストン保持機構10を前進および後退させることができる。
主軸50の動作のために、薬液注入装置100は、ねじ軸51および連結機構52をさらに有している。ねじ軸51は、主軸50と平行に配設され、不図示のモータを駆動源として回転させられる。必要に応じて、モータとねじ軸51との間に、複数の歯車を組み合わせた適宜の減速機構を有していてもよい。連結機構52は、ねじ軸51に噛み合う構造を有し、主軸50に固定されている。これら主軸50、ねじ軸51、連結機構52およびモータは、本発明における、ピストン保持機構10をシリンダ保持機構30に向けて前進させたり逆方向に後退させたりする駆動機構を構成する。
連結機構52は主軸50に固定されているので、ねじ軸51が回転しても連結機構52は回転せず、したがって、連結機構52はねじ軸51の回転方向に応じてねじ軸52に沿って移動し、この移動によってピストン保持機構10を前後方向に移動させることができる。また、連結機構52をねじ軸51に対して係脱自在に構成すれば、ねじ軸51を回転させたまま、ねじ軸51への連結機構52の係合および非係合を切り替えてピストン保持機構10の移動および停止を切り替えることもできる。
以上のように、シリンダ保持機構30およびピストン保持機構10によってシリンジ110のシリンダ111とピストン114とを別個に保持した状態で、シリンジ110の後端側から先端側へ向かってピストン保持機構10を前進させることで、ピストン114をシリンダ111に対して前進させ、シリンダ111内の薬液を排出することができる。
ここで、ピストン保持機構10およびシリンダ保持機構30は、サイズの異なる複数種のシリンジ110に適合するように構成されている。以下、これらについて詳細に説明する。
[ピストン保持機構]
図3に、ピストン保持機構10の一形態を示し、図4にその分解斜視図を示す。図示したピストン保持機構10は、互いに並んで配置された一対のフランジ保持部材12、13と、フランジ保持部材12、13を観音開き式に前後方向に揺動自在に支持するフレーム11と、フランジ保持部材12、13を前後方向に揺動させる作動部材14とを有する。
フレーム11は主軸50に固定されており、主軸50の前後方向への移動によってピストン保持機構10を前後方向に移動させることができる。フランジ保持部材12、13は、シリンジ110のピストンフランジ115(図2参照)をその直径方向両側から保持する。作動部材14は、前後方向に移動自在にフレーム11に支持され、作動部材14の移動によって一対のフランジ保持部材12、13が同期して揺動するように、一対のフランジ保持部材12、13および作動部材14が連結されている。フランジ保持部材12、13と作動部材14との連結構造は任意であり、例えば図示した形態のように、フランジ保持部材12、13に突起(不図示)を形成するとともに、作動部材14には、各フランジ保持部材12、13の突起に対応する位置に2つの長穴14aを形成し、これら長穴14a内にフランジ保持部材12、13の突起を遊動自在に挿入することによって、作動部材14の移動に伴ってフランジ保持部材12、13が揺動するように両者を連結することができる。
フランジ保持部材12には、シリンダ保持機構30(図1参照)に保持されたシリンジ110のピストンフランジ115の後面と対向する側に、ピストンフランジ115の外周部を受ける複数のフランジ受け12a、12b、12c、12d、12eが形成されている。もう一方のフランジ保持部材13にも同様にフランジ受け13a、13b、13c、13d、13eが形成されている。両フランジ保持部材12、13は、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eも含めて互いに対称となるように構成されており、ピストンフランジ115の中心を間においた反対側の位置でピストンフランジ115の外周部を保持する。
これらフランジ受け12a〜12e、13a〜13eはそれぞれ、底面および底面に対して立ち上がった側面を有し、本形態の薬液注入装置が装着できるシリンジ110のサイズに対応するように、最大サイズ用から最小サイズ用まで順番に階段状に形成されている。すなわち、本形態の薬液注入装置(図1参照)は5種類のサイズのシリンジ110を装着することができる。
フランジ保持部材12、13の揺動中心から最も遠い位置に形成された1段目のフランジ受け12a、13aは、最小サイズのシリンジ110に対応し、図5Aに示すように、フランジ保持部材12、13がその揺動範囲の最前端位置にあるときに、最小サイズのシリンジ110のピストンフランジ115を受け入れることができるように構成されている。より詳しくは、フランジ受け12a、13aは、フランジ保持部材12、13が最前端位置にあるときに、底面が、ピストン保持機構10の移動方向に垂直な平面と平行となるように形成され、また、フランジ受け12a、13aの側面は、最小サイズのシリンジ110のピストンフランジ115のみを受け入れることができるように両フランジ受け12a、13aの側面間の距離が規定されている。
1段目のフランジ受け12a、13aの外側に形成された2段目のフランジ受け12b、13bは、2番目に小さいサイズのシリンジ110に対応し、図5Bに示すように、フランジ保持部材12、13が図5Aに示す位置よりも所定の角度だけ後退した位置である2段目の位置にあるときに、2番目に小さいサイズのシリンジ110のピストンフランジ115を受け入れることができるように構成されている。より詳しくは、2段目のフランジ受け12b、13bは、フランジ保持部材12、13が2段目の位置にあるときに、底面が、ピストン保持機構10の移動方向に垂直な平面と平行となるように形成され、また、フランジ受け12b、13bの側面は、2番目に小さいサイズのシリンジ110のピストンフランジ115は受け入れることができるがそれよりも大きいサイズのシリンジ110のピストンフランジ115は受け入れることができないように両フランジ受け12b、13bの側面間の距離が規定されている。
3段目のフランジ受け12c、13cは、3番目に小さいサイズのシリンジ110に対応し、図5Cに示すように、フランジ保持部材12、13が図5Bに示す位置よりもさらに所定の角度だけ後退した位置である3段目の位置にあるときに、3番目に小さいサイズのシリンジ110のピストンフランジ115を受け入れることができるように構成されている。より詳しくは、3段目のフランジ受け12c、13cは、フランジ保持部材12、13が3段目の位置にあるときに、底面が、ピストン保持機構10の移動方向に垂直な平面と平行となるように形成され、また、フランジ受け12c、13cの側面は、3番目に小さいサイズのシリンジ110のピストンフランジ115は受け入れることができるがそれよりも大きいサイズのシリンジ110のピストンフランジ115は受け入れることができないように両フランジ受け12c、13cの側面間の距離が規定されている。
4段目のフランジ受け12d、13dは、4番目に小さいサイズのシリンジ110に対応し、図5Dに示すように、フランジ保持部材12、13が図5Cに示す位置よりもさらに所定の角度だけ後退した位置である4段目の位置にあるときに、4番目に小さいサイズのシリンジ110のピストンフランジ115を受け入れることができるように構成されている。より詳しくは、4段目のフランジ受け12d、13dは、フランジ保持部材12、13が4段目の位置にあるときに、底面が、ピストン保持機構10の移動方向に垂直な平面と平行になるように形成され、また、フランジ受け12d、13dの側面は、4番目に小さいサイズのシリンジ110のピストンフランジ115は受け入れることができるがそれよりも大きいサイズのシリンジ110のピストンフランジ115は受け入れることができないように両フランジ受け12d、13dの側面間の距離が規定されている。
フランジ保持部材12、13の揺動中心に最も近い位置に形成された5段目のフランジ受け12e、13eは、最大サイズのシリンジ110に対応し、図5Eに示すように、フランジ保持部材12、13が図5Dに示す位置よりもさらに所定の角度だけ後退した位置である5段目の位置にあるときに、最大サイズのシリンジ110のピストンフランジ115を受け入れることができるように構成されている。より詳しくは、5段目のフランジ受け12e、13eは、フランジ保持部材12、13が5段目の位置にあるときに、底面が、ピストン保持機構10の移動方向に垂直な平面と平行になるように形成され、また、フランジ受け12e、13eの側面は、最大サイズのシリンジ110のピストンフランジ115を受け入れることができるように両フランジ受け12e、13eの側面間の距離が規定されている。
フランジ受け12a〜12e、13a〜13eの底面は、ピストン114をシリンダ111内に押し込むためにピストン保持機構10を前進させたとき、ピストンフランジ115を後面から押圧する部分である。よって、上記のように、フランジ保持部材12、13が、保持し得る何れかのサイズのシリンジ110のピストンフランジ115を受けるべく所定の角度に揺動されたときに、ピストン保持機構10の移動方向に垂直な平面と平行となるようにフランジ受け12a〜12e、13a〜13eの底面を形成することで、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eは面接触によりピストンフランジ115を押圧することができる。その結果、ピストン保持機構10は、より安定してピストン114をシリンダ111内に押し込むことができるようになる。
以上のように、一対のフランジ保持部材12、13にそれぞれ複数のフランジ受け12a〜12e、13a〜13eを階段状に設け、保持するシリンジ110のサイズに応じて所定のフランジ受け12a〜12e、13a〜13eがピストンフランジ115を保持するようにすることで、アダプタを用いることなく、サイズの異なる複数種のシリンジ110のピストンフランジ115を保持することができる。
通常、サイズの異なる複数種のシリンジのピストンフランジを、アダプタを使用せずに保持しようとする場合、例えば図9に示すようなフランジ保持機構1000を考え付くことができる。図9に示すフランジ保持機構1000は、ピストンフランジを受け入れるための凹部1001が、その深さ方向に段階的に直径が小さくなるように形成されている。凹部1001の各段の直径は、このフランジ保持機構1000が保持できるシリンジのピストンフランジの直径に対応しており、最大サイズのシリンジのピストンフランジは、凹部1001の最も浅い位置の段で保持され、最小サイズのシリンジのピストンフランジは、凹部1001の最も深い位置で保持される。
前述したように、サイズの小さいシリンジは、フランジ間距離L(図2参照)も小さく、充填されている薬液を全て排出するためには、サイズの大きいシリンジの場合よりもさらにフランジ保持機構1000を前進させる必要がある。しかしながら、図9に示すフランジ保持機構1000では最小サイズのシリンジのピストンフランジを保持する部分は凹部1001の最も深い位置にあるため、凹部1001の深さによっては、フランジ機構1000を最も前進させたとしてもピストンを最後までシリンダ内に押し込むことができない場合が生じる。このことは、必要な量の薬液を被験者に注入できない場合があることを意味する。
そこで本発明では、前後方向に観音開き式に揺動する一対のフランジ保持部材12、13を用い、このフランジ保持部材12、13は、その揺動方向最後端の位置で最大サイズのシリンジ110のピストンフランジ115を保持し、揺動方向最前端の位置で最小サイズのシリンジ110のピストンフランジ115を保持するように、最大サイズ用から最小サイズ用まで順番に複数のフランジ受け12a〜12e、13a〜13eが階段状に形成された構成を有している。
こうすることで、サイズの小さいシリンジ110のピストンフランジ115の保持位置を、それよりもサイズの大きいシリンジ110のピストンフランジ115の保持位置よりもシリンダ保持機構30(図1参照)に近づけることができる。その結果、サイズの小さいシリンジ110であっても、ピストン114が最後まで押し込まれるようにピストンフランジ115を保持することができる。保持できる全てのサイズのシリンジ110について、ピストン114が最後まで押し込まれることを確実にするためには、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eがピストンフランジ115を受け入れるためにフランジ保持部材12、13が所定の揺動角度をとり、かつ、ピストン保持機構10を最も前進させた状態での、後述するシリンジ保持位置基準面S0(図1参照)から各フランジ受け12a〜12e、13a〜13eの底面までの距離が、それぞれ対応するシリンジ110のフランジ間距離Lと等しいかそれ以下であることが望ましい。
一対のフランジ保持部材12、13における、一方のフランジ受け12a〜12eおよびそれに対応するもう一方のフランジ受け13a〜13eの側面間の距離は、対応するシリンジ110のピストンフランジ115を受け入れることができる寸法であれば特に制限されないが、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eがピストンフランジ115を保持し散る状態のとき、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eの側面がピストンフランジ115の側面に当接するように形成されていることが好ましい。
こうすることにより、ピストン保持機構10を前進させてピストン114をシリンダ111内に押し込む際、ピストンフランジ115の半径方向へのずれがフランジ受け12a〜12e、13a〜13eの側面によって抑制されるので、ピストン114をシリンダ111内に真っ直ぐ押し込むことができる。
また、ピストン114をシリンダ111内に押し込んでいる間、フランジ保持部材12、13には後方に揺動する向きの力が働く。しかし、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eの側面がピストンフランジ115の側面に当接していることにより、フランジ保持部材12、13の後方への揺動が抑制され、むしろ、ピストンフランジ115の側面をより強固に保持することができる。
上述したフランジ受け12a〜12e、13a〜13eの効果をより効果的に発揮させるためには、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eは、図3に示すように、側面が円弧状に形成されていることが好ましい。フランジ受け12a〜12e、13a〜13eの側面を円弧状とすることによって、ピストンフランジ115の側面をより広い領域で保持することができる。さらに、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eを同心状に配置することで、共通の中心軸上で各サイズのシリンジ110のピストンフランジ115を保持することができる。
以上説明した形態では、ピストン保持機構10は5段階のフランジ受け12a〜12e、13a〜13eを有しているが、フランジ受けの段数は、2段以上であれば任意である。
[シリンダ保持機構]
次に、シリンダ保持機構30について説明する。
図1に示したシリンダ保持機構30の斜視図を図6に示す。また、図6に示すシリンダ保持機構30の動作を図7および図8に示す。
図示したシリンダ保持機構30は、シリンジ110のシリンダ111の外周面を外側から挟んで保持する一対のシリンダ押え32と、シリンダ押え32を開閉動作させるために手動で操作されるレバー36とを有する。
シリンダ保持機構30は、シリンダ押え32を支持するために、主軸50の移動方向に垂直な方向に間隔をあけて対向配置されてこの薬液注入装置100(図1参照)の本体に固定された一対のシリンダ押え32とこれらシリンダ押え32の対向方向と平行にシリンダ押え32の間に掛け渡されて、シリンダ押え32に固定された1本または複数本のガイド軸35とをさらに有する。一対のシリンダ押え32は、このガイド軸35に、スライド自在に支持されることによって、互いに対向方向に移動可能に支持されている。
図6および図7に示すように、ベース31とシリンダ押え32との間には、一対のシリンダ押え32を互いに接近させる方向に付勢する付勢手段であるコイルばね38が配置されている。図示した例では、付勢手段としてコイルばね38が示されているが、付勢手段は、シリンダ押え32を上記のように付勢することができれば任意の手段を用いることができる。
付勢手段がコイルばね38である場合、ガイド軸35にコイルばね38を通すことによって、コイルばね38を容易にベース31とシリンダ押え32との間に支持することができる。また、薬液注入装置100が、例えばMRI検査のためにMRI造影剤を被験者に注入する装置など、MRI装置の近傍で使用される装置である場合、薬液注入装置100を構成する部品は非磁性材料である必要がある。その場合、コイルばね38は樹脂ばねとすることができる。
レバー36は、コイルばね38の付勢力に抗して一対のシリンダ押え32を互いに離れる方向に移動させる働きをするカム37を一体に備えている。レバー36は、主軸50の軸方向には移動せず周方向のみに回転可能に主軸50に支持されている。主軸50自身が任意に回転できるように支持されている場合は、レバー36は主軸50に固定されていてもよい。
カム37は、レバー36の揺動中心から半径方向外向きかつ互いに反対方向へ延びたロッド状の部分を有し、そのロッド状の部分の両端部が、一対のシリンダ押え32の間で両方のシリンダ押え32に作用する。一方、各シリンダ押え32には、カム37の両側の先端部がそれぞれ作用する溝状のカム受け32cが形成されている。
レバー36とカム37との関係は、例えば図7および図8に示すような関係とすることができる。言い換えれば、カム37は、レバー36の操作により一対のシリンダ押え32が図7および図8に示す範囲内で移動するように、レバー36に形成されることができる。
図7は、レバー36が操作されていない状態を示す。この状態では、レバー36は第1の位置にあり、カム37はシリンダ押え32の対向方向に対してほぼ垂直な姿勢をとっている。シリンダ押え32はコイルばね38の付勢力によりカム37に押し付けられ、互いの間隔が最も狭くなった状態とされる。
図8は、レバー36が操作されて第2の位置まで回転した状態を示す。この状態では、レバー36の回転に伴ってカム37がシリンダ押え32の対向方向とほぼ平行な姿勢となるまで、レバーと一体となって回転している。カム37が回転するにつれて、シリンダ押え32はコイルばね38の付勢力に抗して互いの間隔が拡がる方向へ移動し、レバー36が第2の位置に達したとき、シリンダ押え32の間隔が最大となる。
以上のように、レバー36の操作によってシリンダ押え32の間隔を連続的に変化させることができる。これによって、シリンダ押え32の間隔の範囲内であれば、アダプタを用いることなく任意の外径を有するシリンダ111を保持することができる。ここで、レバー36の操作による各シリンダ押え32の移動量が等しいことが好ましい。各シリンダ押え32の移動量が等しいことにより、シリンダ押え32の対向方向での、保持するシリンダ111の中心軸の位置を、シリンダ111の直径によらずに一定とすることができる。レバー36の操作による各シリンダ押え32の移動量を等しくするためには、各シリンダ押え32の付勢力のバランス、ガイド軸35上での各シリンダ押え32のスライドの摺動性、カム37/カム受け32cの形状などを適宜設定すればよい。
シリンダ111を安定して保持することができるようにするため、シリンダ押え32は、V字形に凹んだ支持面32bを互いの対向面に有している。シリンダ111は、この支持面32bに挟まれて保持される。V字形の支持面32bを有することで、シリンダ111の外周面は周方向において4点で支持され、これによってシリンダ111をより安定して保持することができる。
また、支持面32bをV字形とすることで、シリンダ押え32の対向方向およびシリンダ111の軸方向に垂直な方向(図示した例の場合、上下方向)での、保持するシリンダ111の中心軸の位置を、シリンダ111の直径によらずに一定とすることができる。このV字形の支持面32bと、上記の各シリンダ押え32の移動量を等しくすることとを組み合わせれば、直径の異なる複数種のシリンダ111を一定の中心軸上に一定の姿勢で保持することができる。
各シリンダ押え32の互いの対向面には、シリンダフランジ113(図2参照)が挿入されるフランジ受け溝32aが形成されている。シリンダフランジ113をフランジ受け溝32aに挿入したうえで各シリンダ押え32によりシリンダ111を保持することにより、シリンダ111の軸方向の位置を定めることができる。フランジ受け溝32aの大きさおよび形状は、このシリンダ保持機構30が保持できる最大サイズのシリンダ111のシリンダフランジ113を挿入することができれば任意であってよい。
なお、このシリンダ保持機構30および前述したピストン保持機構10でシリンジ110のシリンダ111およびピストンフランジ115をそれぞれ保持した状態で、ピストン保持機構10を前進させると、シリンジ110には前進方向への力が作用する。しかし、シリンダフランジ113の前面がフランジ受け溝32aの前側の内面に押圧されるだけで、実際にシリンジ110が前進方向へ移動することはない。このことは、どのサイズのシリンジ110を保持した場合でも同様であり、したがって、フランジ受け溝32aの前側の内面は、この薬液注入装置100が保持し得る全てのサイズのシリンジ110の前後方向での位置を決めるシリンジ保持位置基準面S0(図1参照)とすることができる。シリンダ保持機構30の各部の寸法、ピストン保持機構10の各部の寸法、シリンダ保持機構30とピストン保持機構10との相対的な位置関係、および主軸50の移動量などは、このシリンジ保持位置基準面S0を基準に設計することができる。
以上説明したシリンダ保持機構30は、一対のシリンダ押え32の間隔を拡げるために操作されるレバー36を有しているが、レバー36は本発明において必須の構成ではない。
例えば、一対のシリンダ押え32の先端部(フランジ受け溝32aにシリンダフランジ113が挿入されるようにシリンダ111を挿入するときに、シリンダ111が挿入される側の端部であり、図示した例では上端部)を図示したように、互いの対向面をシリンダ111の挿入方向に対して傾斜させ、先端に向かうにつれて互いの間隔が拡がる形状とする。この場合において、シリンダ押え32の互いの対向面の傾斜角度および形状を、一対のシリンダ押え32の間へのシリンダ111の挿入に伴い、シリンダ押え32がシリンダ111によって押し広げられるように設計する。これにより、レバー36を必要とせずにシリンダ111をシリンダ押え32の間に保持することができる。
以下、レバーを不要としたシリンダ保持機構の幾つかの形態を、図面を参照して説明する。
図10〜13に、スライドベアリング41を介してガイド軸35にシリンダ押え32を支持したシリンダ保持機構を示す。スライドベアリング41は、軸方向に直線運動するように構成されたベアリングであり、シリンダ押え32に形成されたガイド孔32d内に挿入されてシリンダ押え32に固定されている。このように、スライドベアリング41を介してシリンダ押え32を支持することで、シリンダ押え32は、ガイド軸35上をその軸方向に、より滑らかに移動することができる。その結果、図10に示したように、一対のシリンダ押え32が閉じた状態で、シリンダ押え32の上方(先端側)から両シリンダ押え32の間に向かってシリンダ111を押し込むだけで、シリンダ押え32はコイルばね38の付勢力に抗して開く。さらにシリンダ111を押し込み、シリンダ111の外周面がシリンダ押え32に形成されたV字形の支持面32bに挟まれることによって、シリンダ111が保持される。スライドベアリング41の作用により、シリンダ111を押し込む力は、より小さくてよく、したがって、シリンダ保持機構30へのシリンダ111の保持をよりスムーズかつ容易に行なうことができるようになる。もちろん、シリンダ押え32は、使用者がシリンダ押え32を手動で直接移動させることによって開閉させることもできる。本形態では、シリンダ押え32をガイド軸35に対して滑らかにスライドさせるためにスライドベアリング41を使用したが、スライドベアリング41の代わりにDUブッシュを使用することもできる。
なお、図10〜13に示したシリンダ保持機構は、レバーを備えていないことによりレバーに関わる構造が図6等に示したシリンダ保持機構と異なる他に、シリンダ押え32の支持構造も図6等に示したシリンダ保持機構と異なっている。
具体的には、ガイド軸35は1本であり、そのガイド軸35が固定されるベース31は、ガイド軸35の軸方向と平行に延びた平坦部31aと、平坦部31aの両端に形成された立ち上がり部31bとを有する。ガイド軸35は、その両端が立ち上がり部31bに固定されている。また、平坦部31aの、シリンダ押え32と対向する面には、ガイド軸32の軸方向と平行に延びる半円柱状の凸部31cが形成されており、一方、シリンダ押え32には、この凸部31cが嵌合する、ガイド軸35の軸方向と平行に延びた凹溝32eが形成されている。これにより、ガイド軸35が1本であっても、シリンダ押え32がガイド軸35の周方向に回転するのを防止することができる。
上述したシリンダ押え32の支持構造は、図6等に示したものと同様に構成されていてもよい。また、本形態の構造を図6等に適用してもよい。
図13〜14に、レバーを不要としたシリンダ保持機構の他の形態を示す。本形態では、ベアリングまたはブッシュは使用されておらず、その代わりに、各シリンダ押え32にプーリ42が2つずつ取り付けられている点が、図10〜13に示した形態と異なっている。その他の構造については、前述した形態と同様であってよい。
プーリ42は、ベース31の凸部31cと対向する位置で、シリンダ押え32の移動方向に垂直な軸周りに回転自在に、シリンダ押え32に支持されている。本形態では、プーリ42は、側方から見た形状が、ベース31の半円柱状の凸部31cの横断面形状にほぼ合致するような、軸方向中央部が最も小径の糸巻き型とされている。シリンダ押え32は、プーリ42の外周面がベース31の凸部31c上に載置された状態で支持されている。したがって、ガイド軸35に沿った方向の力がシリンダ押え32に作用すると、プーリ42が凸部31c上を転がりながらシリンダ押え32はガイド軸35に沿って移動することができる。これにより、シリンダ押え32を小さい力で移動させることができるようになり、結果的に、スライドベアリングあるいはDUブッシュを用いた場合と同様、シリンダ保持機構へのシリンダの保持をよりスムーズかつ容易に行なうことができるようになる。
図13〜14に示したシリンダ保持機構は、各シリンダ押え32がそれぞれ2つのプーリ42を支持しているが、プーリ42の数は任意であってよい。また、プーリ42は、ガイド軸35上を転がって移動するようにシリンダ押え32に支持されていてもよいし、ガイド軸35とベース31の凸部31cとの間に配置されてガイド軸35および凸部31cの両方に当接するように支持されていてもよい。さらには、上記の形態では、プーリ42がシリンダ押え32に支持されているが、プーリ42をベース31の平坦部31a上で回転自在に支持し、そのプーリ42上に、シリンダ押え32を、プーリ42の回転によって移動するように支持することもできる。
以上、開閉用のレバーを不要としたシリンダ保持機構の2つの形態を示したが、これらの形態を組み合わせ、スライドベアリング41およびプーリ42の両方を備えた構成とすることもできる。
[薬液注入装置の動作]
次に、上述した薬液注入装置の動作について、図1〜図8に示した薬液注入装置100の動作を主として説明する。
初期状態では、ピストン保持機構10は、最も後退した位置とされている。
この状態で、まず、操作者は、シリンダ保持機構30のレバー36を第2の位置まで回転させ、一対のシリンダ押え32を開く。次いで、操作者は、薬液が充填されているシリンジ110を用意し、用意したシリンジ110のシリンダフランジ113の位置をフランジ受け溝32aの位置に合わせ、そのうえで、レバー36を第2の位置から第1の位置へ向けて回転させる。レバー36を回転させることにより、シリンダ押え32の間隔が狭められ、その支持面32bがシリンダ111の外周面に当接する。また、シリンダ押え32の間隔が狭められることにより、シリンダフランジ113がフランジ受け溝32a内に挿入される。これによって、シリンジ110は、シリンダ111の部分が保持される。
スライド自在に設けられた一対のシリンダ押え32を、コイルばね38の付勢力を利用してシリンダ111の外周面に押圧しているので、任意の外径を有するシリンダ111を保持することができる。
なお、シリンダ保持機構が、例えば図10〜14に示したような、シリンダ押え32の開閉用のレバーを備えていない場合は、コイルばね38の付勢力によって閉じている一対のシリンダ押え32の間にシリンダ111に押し込むようにすることによって、シリンダ111をシリンダ押え32の支持面32bの間で保持させることができる。または、操作者がシリンダ押え32に直接力を加えて手動で開き、その間にシリンダ111を挿入し、シリンダ押え32に加えている力を解除することによって、シリンダ111をシリンダ押え32の支持面32bの間で保持させることもできる。
次いで操作者は、シリンジ110のサイズに合わせて、ピストン保持機構10の作動部材14を前方または後方へ移動させ、フランジ保持部材12、13の揺動角度を、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eがピストンフランジ115を受け入れることができる適切な角度になるように調整する。
この際、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eがそれぞれ対応するサイズのピストンフランジ115を受け入れることのできる揺動角度にフランジ保持部材12、13があるときに係脱可能に係合することでフランジ保持部材12、13をその揺動角度に保持する係合構造を、例えばフランジ保持部材12、13およびフレーム11に備えることができる。このような係合構造を有することが好ましい。これにより、フランジ保持部材12、13は、係合構造の係脱によるクリック感を有しながら段階的に揺動することができ、フランジ保持部材12、13の揺動角度の調整を容易に行なうことができる。係合構造は、例えば、一方の部材に備えられた凸部と他方の部材に備えられた凹部とを有することができる。また、係合構造は、フレーム保持部材12、13およびフレーム11ではなく、互いに相対移動する他の部材、例えばフレーム保持部材12および作動部材14、あるいはフレーム11および作動部材14に設けられてもよい。
また、フランジ保持部材12、13の揺動角度の調整に際し、隣接するフランジ受け12a〜12e、13a〜13e間の揺動角度の差が小さい場合は、フランジ保持部材12、13が適切な角度とされているか分かりにくいことがある。そこで、シリンジ110のサイズとフランジ保持部材12、13との対応を操作者が視覚から直観的に認識できるようにするために、フランジ保持部材12、13を、ピストンフランジ115を受ける所定の揺動角度ごとに異なる色が視認されるように構成することが好ましい。例えば、フランジ保持部材12、13を、ピストンフランジ115を受ける所定の揺動角度ごとに色分けすることが挙げられる。フランジ保持部材12、13の色分けに対応して、シリンジ110もそのサイズごとに色分けすれば、両者の色を目視で対比して、フランジ保持部材12、13の揺動角度とシリンジ110との組み合わせが適切であるか否かを視覚的に判断するこができる。フランジ保持機構12、13およびシリンジ110の色分けは、具体的には、例えば、ピストンフランジ115の少なくとも一部分をサイズごとに異なる色で着色するとともに、各フランジ受け12a〜12e、13a〜13eの少なくとも一部分(例えば底面および/または内周面)を、それが受けるべきピストンフランジ115の色と同じ色に着色する。ピストンフランジ115およびフランジ受け12a〜12e、13a〜13eの着色する部分は、操作者が両者の対応を容易に視認できる部分であれば任意であってよい。
これにより、ピストンフランジ115の色と同じ色のフランジ受け12a〜12e、13a〜13eでピストンフランジ115を受けるようにフランジ保持部材12、13を揺動させるだけで、極めて簡単にフランジ保持部材12、13の揺動角度を調整することができる。
ここでは、ピストンフランジ115およびフランジ受け12a〜12e、13a〜13eを着色することによって、フランジ保持部材12、13を、ピストンフランジ115を受ける所定の揺動角度ごとに異なる色が視認されるように構成した例を示した。しかし、フランジ保持部材12、13を所定の揺動角度ごとに異なる色で視認させる他の手段としては、LED(発光ダイオード)を利用することもできる。
LEDは、赤色、緑色および青色の各色の光を発光するものが存在しており、また、それらの色を組み合わせることで任意の色を発光することができる。そこで、例えば、図15に示すように、ピストン保持機構10は、制御によって発光色を変化させることのできる1つまたは複数のLEDユニット15を備えることができる。LEDユニット15の数および取り付け位置は、LEDユニット15による発光を使用者が容易に視認できる数および位置であれば任意である。図15に示す形態では、2つのLEDユニット15が、フレーム11(図4参照)の上面両端部に取り付けられているが、一対のフランジ保持部材12、13の少なくとも一方に1つまたは複数のLEDユニット15が取り付けられていてもよい。
LEDユニット15は、例えば、それぞれ異なる色の光を発する複数のLED素子を有することができる。この場合、単一のLED素子のみを発光させたり、複数のLED素子を組み合わせて発光させたりして各LED素子の駆動を適宜制御することによって、任意の色の光を発することができる。あるいは、LEDユニット15は、任意の色の光を発するマルチカラーLEDを有することもできる。マルチカラーLEDは、赤色LEDチップ、緑色LEDチップおよび青色LEDチップを単一のパッケージ内に封入したものであり、やはり同様に、単一のチップのみを発光させたり、複数のチップを組み合わせて発光させたりすることによって、任意の色の光を発することができる。
上記の何れのタイプのLEDユニット15を用いた場合であっても、LEDユニット15の発光色は、フランジ保持部材12、13の揺動角度ごとに、その角度のときにフランジ保持部材12、13が受けるピストンフランジ115の色と同じ色の光が発せられるように制御される。LEDユニット15の発光色の制御には、例えば、図16を用いて後述する、フランジ保持部材12、13の揺動角度に関するデータを取得するためのセンサ18を用いることができる。センサ18は、フランジ保持部材12、13の揺動角度に応じて出力値が変化するので、センサ18からの出力値に応じてLEDユニット15を制御することによって、LEDユニット15はフランジ保持部材12、13の揺動角度に応じた所望の色の光を発することができる。
なお、上記のように、フランジ保持部材12、13の揺動角度に応じてLEDユニット15が異なる色で発光される場合、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eは着色されていてもよいし、着色されていなくてもよい。
このように、LEDユニット15を、ピストンフランジ115を受けるフランジ保持部材12、13の所定の揺動角度ごとに異なる色で発光させることによって、フランジ保持部材12、13がどのサイズのシリンジ110のピストンフランジ115に適合した揺動角度になっているかを色の違いで視覚的に判断できるようにする考え方は、シリンダ保持機構30がどのサイズのシリンダ111を保持しているかの判断にも適用することができる。
例えば、図15に示すように、シリンダ保持機構30は、1つまたは複数のLEDユニット34を備えることができる。LEDユニット34は、ピストン保持機構10で用いたLEDユニット15と同様、制御によって発光色を変化させることができるものであり、それぞれ異なる色の光を発する複数のLED素子を有するもの、および任意の光を発することのできるマルチカラーLEDを有するものの何れも用いることができる。LEDユニット34の数および位置は、LEDユニット34による発光を使用者が容易に視認できる数および位置であれば任意である。図15に示す形態では、各シリンダ押え32(図6等参照)にそれぞれ1つずつLEDユニット34が取り付けられているが、一方のシリンダ押え32のみにLEDユニット34が取り付けられていてもよいし、1つのシリンダ押え32に複数のLEDユニット34が取り付けられていてもよい。
LEDユニット34は、一対のシリンダ押え32の間隔に応じて、シリンダ保持機構30が保持するシリンダ111の直径に対応した所定の間隔ごとに異なる色の光が発せられるように発光色が制御される。LEDユニット34の発光色は、フランジ保持部材12、13のフランジ受け12a〜12e、13a〜13eが着色されている場合は、シリンダ保持機構30が保持しているシリンダ111に対応するピストン114のピストンフランジ115に着色されている色と同じ色である。あるいは、フランジ保持部材12、13がLEDユニット15によって照明される場合、シリンジ110がピストン保持機構10およびシリンダ保持機構30によって適切に保持されているときに、フランジ保持部材12、13を照明するLEDユニット15から発せられる光の色と、シリンダ保持機構30を照明するLEDユニット34から発せられる光の色が同じ色であるように、両LEDユニット15、34の発光色が制御される。
LEDユニット34の発光色の制御には、例えば、図16を用いて後述する、一対のシリンダ押え32の間隔に関するデータを取得するためのセンサ38を用いることができる。センサ38は、シリンダ押え32の間隔に応じて出力値が変化するので、センサ38からの出力値に応じてLEDユニット34を制御することによって、LEDユニット34はシリンダ押え32の間隔に応じた所望の色の光を発することができる。
以上のように、保持しているシリンジ110のサイズに応じて異なる色の光を発するようにシリンダ押え32にLEDユニット34を設け、LEDユニット34の発光色を、フランジ保持部材12、13のフランジ受け12a〜12e、13a〜13eに着色されている色、またはフランジ保持部材12、13に設けられているLEDユニット15の発光色と対応させることによって、シリンダ保持機構30およびピストン保持機構10がシリンジ110の各部を適切に保持しているか否かを視覚的に判断することができる。また、LEDユニット38は、シリンダ保持機構30が保持しているシリンジ110のサイズに応じて発光色が変化するため、ピストンフランジ115が着色されている必要はなく、よって、シリンジ110として、ピストンフランジ115が着色されていない一般的なシリンジ110を使用することができる。
フランジ保持部材12、13の揺動角度の調整後、フランジ受け12a〜12e、13a〜13eがピストンフランジ115に当接するまでピストン保持機構10を前進させる。ピストン保持機構10の前進は、モータによるねじ軸51の回転を、連結機構52を介して主軸50に伝達させることによって行なうこともできるし、連結機構52がねじ軸51との連結を解除できるように構成されている場合は、ねじ軸51との連結を解除した状態で手動でピストン保持機構10を前進させることによって行なうこともできる。
以上により、シリンジ110は、シリンダ111がシリンダ保持機構30により保持されるとともに、ピストンフランジ115がピストン保持機構10によって保持される。
シリンジ110が薬液注入装置100に保持されたら、それ以降は通常の薬液注入装置と同様、薬液の注入条件を設定し、薬液の注入動作をスタートさせる。
注入条件は、入力されたデータに基づいて薬液注入装置100が所定のアルゴリズムに従って計算等によって求めることができる。注入条件の設定に必要なデータは、操作者によって入力されることができる。あるいは、シリンジ110がRFIDタグなどのデータキャリアを備えている場合は、薬液注入装置100は、データキャリアからデータを読み出すリーダを備え、リーダが読み出したデータを入力データとして利用することもできる。
以上説明したように、本形態の薬液注入装置100によれば、シリンダ保持機構30は任意の直径のシリンダ111を保持でき、かつ、ピストン保持機構10は、ピストンフランジ115のサイズが異なる複数種のピストン114を保持できる。したがって、薬液注入装置100は、サイズの異なる複数種のシリンジ110を、アダプタを用いることなく保持することができる。その結果、アダプタの管理は不要となり、また、アダプタの誤使用といった問題も一切発生しない。このことは、使用されるシリンジ110の種類が多い薬液注入装置100、例えばMRI検査用の造影剤を注入する薬液注入装置である場合に特に有効である。
また、上述した形態では、操作者がシリンダ保持機構30およびピストン保持機構10を手動で操作してシリンジ110のシリンダ111およびピストン115をそれぞれ保持しており、それだけでは薬液注入装置100は、どのサイズのシリンジ110を保持しているかの情報を得ることはできない。
そこで、例えば図16に示すように、薬液注入装置100は、シリンダ保持機構30およびピストン保持機構10がそれぞれセンサ38、18を有することができる。
シリンダ保持機構30が有するセンサ38は、図6に示す一対のシリンダ押え32がシリンダ111を保持した状態でのシリンダ押え32の間隔に関するデータを取得するためのセンサである。シリンダ押え32の間隔は、シリンダ保持機構30が保持したシリンダ111の直径(外径)に対応している。シリンダ111の直径はシリンジ110のサイズごとに異なっているので、シリンダ押え32の間隔から、保持したシリンジ110のサイズを判断することができる。
シリンダ押え32の間隔は、例えば、2つのシリンダ押え32のうち少なくとも一方について、レバー36が第1の位置にあるとき(図7参照)のシリンダ押え32の位置から、シリンダ押え32がシリンダ111を保持した状態でのシリンダ押え32の位置までのシリンダ押え32の移動量をセンサ38によって検出し、その検出した移動量から取得することができる。このようなセンサ38としては、例えばリニアセンサを用いることができる。
一方、ピストン保持機構10が有するセンサ18は、図3等に示す一対のフランジ保持部材12、13の揺動角度に関するデータを取得するためのセンサである。上述したように、フランジ保持部材12、13の揺動角度は、保持するピストンフランジ115の直径と1対1で対応している。ピストンフランジ115の直径は、通常、シリンジ110のサイズごとに異なっているので、フランジ保持部材12、13の揺動角度から、保持したシリンジ110のサイズを判断することができる。
フランジ保持部材12、13の揺動角度は、フランジ保持部材11、12の位置、あるいはフランジ保持部材11、12を作動させる作動部材14の位置をセンサ18によって検出し、その検出した位置から取得することができる。このようなセンサ18としては、例えばリニアセンサを用いることができる。
図16に示す薬液注入装置100は、これら各センサ18、38からの出力に基づいてシリンジ110のサイズを判断するシリンジ判断部62と、ピストン114をシリンダ111内へ押し込むための駆動機構65の動作を制御する制御部61と、入力デバイス63と、表示デバイス64とをさらに有している。
シリンジ判断部62は、各センサ18、38による検出結果に基づいて、ピストン保持機構10およびシリンダ保持機構30がそれぞれどのサイズのシリンジ110を保持しているかを判断する。ピストン保持機構10およびシリンダ保持機構30がシリンダ110を適切に保持していれば、各センサ18、38から得られるシリンジ110のサイズは互いに同じである。しかし、シリンダ押え32がシリンダ111を適切に保持していない場合、フランジ保持部材12、13がピストンフランジ115を適切に保持していない場合、またはこれらの両方の場合は、各センサ18、38からの検出結果から得られるシリンジ110のサイズが異なることになる。
そこで、シリンジ判断部62は、両センサ18、38の検出結果から得られるシリンジ110のサイズがともに同じサイズのシリンジ110である場合に、そのサイズのシリンジ110を保持していると判断し、保持しているシリンジ110のサイズに関する情報を制御部61に出力する。一方、各センサ18、38の検出結果から得られるシリンジ110のサイズが互いに異なるサイズのシリンジ110である場合、シリンジ判断部62は、シリンダ押え32および/またはピストン保持部材12、13による保持が適切に行なわれていないと判断し、その旨の情報を制御部61に出力する。
入力デバイス63は、薬液の注入条件を設定するのに必要なデータ、および薬液注入動作の開始/停止のための指令を操作者が入力するためのデバイスである。注入条件を設定するのに必要なデータは、例えば、薬液の種類および被験者の身体的情報(性別、身長、体重など)を含む。入力デバイス63としては、例えば、タッチパネル、キースイッチおよびこれらの組み合わせなどが挙げられる。表示デバイス64は、入力デバイス63による入力操作のための入力用画面、薬液の注入状況を表す画面、およびその他必要な情報を表示するためのデバイスである。表示デバイス64としては、例えば、液晶表示パネルおおびタッチパネルなどを挙げることができる。タッチパネルは、入力デバイス63と表示デバイス64の両方を兼ねることができる。
制御部61は、シリンジ判定部62から出力された判断結果、および入力デバイス63から入力されたデータなどに基づいて薬液の注入条件を算出したり、ピストン保持機構10を進退移動させる駆動機構65の動作を制御したりするなど、この薬液注入装置100の動作全般を制御する。制御部61が算出する注入条件としては、例えば、薬液の注入速度、薬液の注入量などが挙げられる。
また、制御部61は、シリンジ110の保持が適切に行なわれていない旨の判断結果がシリンジ判定部62から出力された場合は、その旨の警告を表示デバイス64に表示させ、操作者に注意を促す。一方、シリンジ110の保持が適切に行なわれている場合、すなわち、保持しているシリンジ110のサイズに関する情報がシリンジ判定部62から出力された場合、制御部61は、この情報を利用して注入条件を算出する。
注入条件が算出されると、制御部61は、算出された注入条件に従って薬液が注入されるように、駆動機構65の動作を制御する。これによって、シリンジ110が適切に保持された状態でピストン114が前進させられ、薬液が適切に注入される。
上述した形態では、薬液注入装置100は、ピストン保持機構10およびシリンダ保持機構30の両方がセンサ18、38を備えている場合を説明した。しかし、シリンダ押え32用のセンサ38およびフランジ保持部材12、13用のセンサ18は、それぞれ単独でも十分に機能する。したがって、本発明においては、ピストン保持機構10およびシリンダ保持機構の両方がセンサ18、38を備えている必要はなく、シリンダ押え32用のセンサ38のみ、またはフランジ保持部材12、13用のセンサ18のみを有していてもよい。その場合であっても、シリンダ111またはピストン114が適切に保持されている限り、保持したシリンジ110のサイズを判断することができる。
ところで、実際の薬液注入装置100は、通常、図16に示した構成のうち少なくともシリンダ保持機構30、ピストン保持機構10および駆動機構65が、シリンジ110の着脱のために必要な部分を除いて適宜カバー部材で覆われ、例えば「注入ヘッド」と呼ばれる1つのユニットとして構成されることが多い。これによって、被験者へ薬液を注入する際に、シリンジ110を被験者の近くに設置することができる。
ここで、実際に薬液を注入するのに先立って、シリンダ保持機構30およびピストン保持機構10によるシリンジ110の保持状態を確認したり、駆動機構65の動作を設定したり、シリンジ110からのエア抜きをしたりする場合がある。これらの確認や設定等の便宜上、各種設定用のボタン、駆動機構65の動作を開始させるためのボタンおよび駆動機構65の動作を停止させるためのボタンなど、入力デバイス63の少なくとも一部は注入ヘッドに設けられることが一般的である。
一方で、この薬液注入装置100により被験者に薬液を注入した後、CT装置やMR装置等の撮像装置で被験者の断層画像を撮像する場合、撮像装置が稼働している間は、撮像装置からX線や電磁波が照射されている。そこで、操作者の被曝を防止したり磁場の均一性を保ったりするため、撮像装置の稼働中は、操作者は、撮像装置および注入ヘッドが配置されている検査室から待避することが多い。しかし、薬液の注入中に発生した何らかの不具合により注入を停止する必要が生じたり、注入の開始前に操作者が検査室から待避しなければならない状況が生じたりすることがある。
そこで、薬液注入装置100は、入力デバイス63の一部として、駆動機構65の動作を開始させるためのボタンおよび駆動機構65の動作を停止させるためのボタンを、注入ヘッドとは別にさらに備えた遠隔操作装置66を有し、注入ヘッドからだけでなく、遠隔操作装置66からも、駆動機構65の動作の開始および開始を操作できるようにすることが好ましい。入力デバイス63は制御部61に接続されるが、薬液注入装置100が遠隔操作装置66をさらに有し、入力デバイス63の一部が遠隔操作装置66に含まれる場合、遠隔操作装置66に含まれる入力デバイス63と制御部61との接続は、無線接続であってもよいし、有線接続であってもよい。
さらに、遠隔操作装置66は、入力デバイス63の一部として、駆動機構65の動作設定用のボタンを含み、遠隔操作装置66からも駆動機構65の動作を設定できるようにすることができる。また、表示デバイス64の一部が遠隔操作装置66に含まれていてもよい。遠隔操作装置66が入力デバイス63および表示デバイス64を有する場合、これらはタッチパネルとすることができる。