JP6213098B2 - 疲労特性に優れた高強度熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、疲労強度に優れた高強度熱延鋼板、及びその製造方法に関するものである。
近年、環境問題に端を発して自動車の燃費向上が望まれているが、それに向け自動車の軽量化が求められている。その為には、自動車用鋼板の板厚を低減する必要があるが、その課題となっているのは、疲労強度の改善である。軽量化の為鋼板の板厚を低減した場合、鋼材に加わる応力は増加し、疲労寿命は劣化する。そのため、より疲労寿命の高い鋼板の開発が望まれていた。
自動車の足回り部品として多用されている強度440MPa級の高強度熱延鋼板では、疲労限度比FL(疲労強度)/TS(引張強度)0.50以上が求められる。
従来、疲労強度の改善に向けては、特許文献1に示されるようにミクロ組織をフェライト、マルテンサイトからなる複合組織とする、等の対策が取られていた。しかし、その場合、高価な合金を添加する必要が生じ、コスト増加を招いていた。
また一方で、自動車用部品は多くの場合、プレス成形により部品形状に加工された後用いられるため、優れたプレス成形性が必要とされる。プレス成形性の代表的な指標として、全伸びの値があり、多くの自動車用高強度熱延鋼板は、必要とされる全伸びの値が得られるように製造されている。上述の疲労強度の改善に際しては、対象の高強度熱延鋼板の全伸びの値を劣化させることなく行う必要がある。
特開平6−17203号公報
本発明は、コスト増加を招くことなく、また全伸びの劣化を招くことなく、疲労強度を改善した高強度熱延鋼板、及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究をした。その結果、鋼板の表裏層を板厚内部より硬質とした鋼板を得ることにより、鋼材の表面からのき裂が生じにくく、鋼板内部の加工性を維持したまま鋼材の疲労限度比を改善することが可能となることを知見した。また、表裏層のミクロ組織をフェライトとベイナイトの複合組織、またはベイナイト単相組織として、比較的粗大な板状の炭化物を有するパーライト組織を有さない組織とすることにより、疲労き裂の発生原因となりうる粗大な炭化物が生成しないので、それを起点とした疲労き裂が発生しにくくなることを知見した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成したもので、鋼板表裏層において所定の組織制御を行い鋼板の表裏層の強度を増加させる一方で、鋼板内部を軟質なフェライトとパーライトの複合組織とすることで鋼板の疲労強度を改善し、鋼板全体の成形性(全伸び)を良好に保つことができるようにしたものである。
本発明の要旨は、次の通りである。
(1)発明1は、質量%で
C:0.03〜0.09%、
Si:0.01〜2.20%、
Mn:0.30〜2.20%
P:0.100%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.005〜0.050%、
N:0.0100%以下、
を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物の組成からなり、鋼板の表裏面から全板厚の少なくとも10%に相当する厚みの領域のミクロ組織がフェライトとベイナイトの複合組織、またはベイナイト単相組織からなり、板厚中心部の全板厚の少なくとも50%に相当する厚みの領域のミクロ組織がフェライトとパーライトの複合組織からなり、前記表裏面から全板厚の少なくとも10%に相当する厚みの領域の硬さが前記板厚中心部の全板厚の少なくとも50%に相当する厚みの領域の平均硬さの1.10倍以上であることを特徴とする疲労特性に優れた高強度熱延鋼板である。
(2)発明2は、質量%でさらに、
Nb:0.050%以下、
Ti:0.30%以下、
V:0.10%以下、
Cu:1.0%以下、
Ni:1.0%以下、
Cr:1.0%以下、
B:0.0050%以下、
Ca:0.0030%以下、
REM:0.0200%以下、
のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする発明1に記載の疲労特性に優れた高強度熱延鋼板である。
(3)発明3は、発明1または発明2に記載の疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法であって、発明1または発明2の組成を有する鋳片を1150℃以上に加熱し、粗圧延した後、Ar3温度+50(℃)以上の温度にて仕上げ圧延を行い、その後、仕上げ圧延終了温度から680℃までの間の平均の熱伝達係数α(J/m2secK)を下記
式(1)で示される範囲内として鋼板の表面及び裏面から冷却を行い、その後鋼板全板厚の平均の温度を600℃以下として巻取りを行うことを特徴とする疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法
85×板厚(mm)+800
≦α(J/m2secK)≦85×板厚(mm)+1850 ・・・(1)
(4)発明4は、発明1または発明2に記載の疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法であって、発明1または発明2の組成を有する鋳片を1150℃以上に加熱し、粗圧延した後、Ar3温度+50(℃)以上の温度にて仕上げ圧延を行い、その後、仕上げ圧延終了温度から680℃までの間の冷却での平均の水量密度W(m3/sec/m2)を下記式(2)で示される範囲内として鋼板の表面及び裏面から冷却を行い、その後鋼板全厚の平均の温度を600℃以下として巻取りを行うことを特徴とする疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法
0.005×板厚(mm)+0.0037
≦W(m3/sec/m2)≦0.005×板厚(mm)+0.07 ・・・(2)
本発明によれば、従来と比べ、加工性を劣化させることなく、疲労限度比、すなわち疲労強度と引張強度のバランスに優れた熱延鋼板を得ることができ、自動車軽量化に寄与する。
連続熱間圧延工程における冷却条件を示す図である。 疲労試験片を示す図である。 表裏層の硬さ(HVs)と板厚中心部の硬さ(HVc)との硬さの比(HVs/HVc)と疲労限度比の関係を示す図である。 熱伝達係数α(J/m2secK)と表裏層の硬さと板厚中心部の硬さとの硬さの比(HVs/HVc)を示す図である。 板厚、冷却速度と表裏層の硬さと板厚中心部の硬さとの硬さの比(HVs/HVc)の関係を示す図である。 板厚、水量密度W(m3/sec/m2)と硬さ比(HVs/HVc)の関係を示す図である。 発明鋼のミクロ組織を示す顕微鏡写真で、(a)は表層部のミクロ組織、(b)は板厚中心部のミクロ組織の顕微鏡写真である。
以下に本発明について、詳細に説明する。
本発明者らは、疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の開発のため、鋼板表裏層において所定の組織制御を行い、かつそのような表裏層が板厚中心より硬質である鋼板、及びその容易な製造方法を開発した。
鋼板の表裏層をその板厚内部より硬質とすることにより、鋼材の疲労限度比が上昇するのは以下の理由による。
鋼材の疲労強度は鋼材が高強度なほど一般的には高い。これは、鋼板の強度が高いほど、一定レベルの繰り返し応力下において、鋼材の表面からき裂が生じにくいためである。従って、表裏層を高強度、即ち硬質とすることにより繰り返し応力の負荷時に表面からの疲労き裂の発生を抑制することができる。その一方で、板厚内部を表裏層より軟質とすることにより鋼板の加工性の劣化は避けることができる。従って、鋼板の表裏層を板厚内部より硬質とした鋼板を得ることにより、鋼板内部の加工性を維持したまま鋼材の疲労限度比を改善することが可能となる。
また、本発明においては、上記の原理を応用することに加え、表裏層のミクロ組織をフェライトとベイナイトの複合組織、またはベイナイト単相組織として、比較的粗大な板状の炭化物を有するパーライト組織を有さない組織とすることにより、疲労特性の改善を図った。そのような組織とすることにより、疲労き裂の発生原因となりうる粗大な炭化物が生成しなくなり、それを起点とした疲労き裂が発生しにくくなる。
本発明においては、鋼板の表裏層の強度を増加させる一方で、鋼板内部を軟質なフェライトとパーライトの複合組織とすることで鋼板全体の成形性(全伸び)は良好に保つことができる。本発明者らは、表裏層のみが硬質となっており、かつフェライトとベイナイトの複合組織、またはベイナイト単相組織となっている高強度熱延鋼板の開発に取り組み、熱間圧延後の所定の温度域における冷却において、冷却水量等の冷却条件により変動する鋼板と冷却水の間の熱伝達係数を、板厚に応じた所定以上の値以上に制御し、表裏層と板厚中心の冷却速度の差を所定量大きくすることにより、目標とする高強度熱延鋼板を得る製造方法及びそれによる高強度熱延鋼板を開発した。
尚、熱伝達係数α(J/m2secK)とは、2種類の物資間での熱エネルギーの伝え易さを表す値であり、単位面積、単位時間、単位温度差あたりの伝熱量(すなわち単位温度差あたりの熱流束密度)である。
熱伝達係数は、冷却に用いる流体の速度等の条件によって大きく異なる。熱伝達係数を、板厚に応じた所定以上の値以上に制御することにより、表裏層のみが硬質となっている高強度熱延鋼板の開発に向け、本発明者らが行った実験について次に説明する。
図1は連続熱間圧延工程における冷却パターンに示している。即ち、仕上げ圧延後の680℃までの急速冷却とその後に通常冷却(放冷)をして巻き取る工程までの表層冷却と中央部(1/2t)の冷却パターンの概要を示す。なお、圧延後冷却開始までの時間(秒)を2.5秒以下、好ましくは1.6秒以下にすることが望ましい。圧延後の冷却開始までの時間とは、仕上げ圧延機とランアウトテーブルの冷却ゾーンの間を鋼板が走行する時間である。仕上げ圧延機とランアウトテーブルの冷却ゾーンとは、それらの間に通常温度計等の計測装置が設置されており積極的な冷却が行われないため、鋼板が空冷されゾーンである。
表1に示す鋼Aの組成からなる鋳片を用いて、図1及び表2−1及び表2−2に示す熱延条件にて、板厚3mm〜12mmの熱延鋼板の製造を行った。ここで、表2−1及び表2−2の仕上げ圧延温度、巻き取り温度は放射温度計により測定した値である。放射温度計による温度の測定値は、鋼材の表面(圧延時の上側の面)の最表層の温度の測定値である。仕上げ圧延後の冷却の際、冷却水の量等で定まる、鋼板と冷却水の間の熱伝達係数は、鋼板の表面(圧延時の上側の面)、裏面(圧延時の下側の面)ともに同程度となるようにした。
表2−2に示す熱伝達係数は、所定の冷却条件で鋼材が冷却されている場合に、鋼材表面のからの抜熱量と鋼材の温度低下量の関係示し、一定条件での冷却においては下記式(3)のαで示される値である。この熱伝達係数は、冷却水量、鋼材の表面の状態などに依存する。
熱伝達係数α=Q/(Tw−Ta)・・・(3)
ここで、Q:単位面積当たりの熱移動量(W)、Tw:鋼板の表面温度(K)、Ta:冷却水の温度(K)、ただしTw>Taとする。
表2−2に示す熱伝達係数は、例えば特公平6−88060号公報に記載されるような、冷却帯の入側及び出側及び冷却ゾーン内の中間温度計にて測定された温度実績値に基づいて、逐次最小自乗法を用いることで、水冷時における上部各冷却バンクの熱伝達係数、下部各冷却バンクの熱伝達係数、及び空冷時における上部各冷却バンク、下部各冷却バンクの熱伝達係数を修正する技術を用いて求めた。
熱伝達係数は冷却の温度域の違いによる変動が見られたが、表2−2に示す値は、680℃以上の温度域での平均値である。また、連続熱間圧延工程では、通常、仕上げ圧延の後ランアウトテーブルでの冷却が始まるまでの間の数秒間、水冷が行われず空冷される領域が存在するが、表2−2における熱伝達係数の平均値はその温度域を通過した直後の水冷開始温度から680℃の間の平均値である。なお、熱伝達係数は以下のようにして求めた。
まず、各々の水量密度による冷却を行った場合のランアウトテーブル中における鋼板の温度をランアウトテーブル中の数ケ所で測定し、それにより鋼板の温度履歴を求めた。次に、上記式(3)及び比熱の値を用いて、ランアウトテーブル内の各位置における温度降下量を求め、それより鋼板の温度履歴を求めた。そして、それが実測と一致するように熱伝達係数を求めた。
得られた熱延鋼板の幅方向中央部より2枚の幅方向のJIS5号引張試験片、幅方向の疲労試験片、ミクロ組織観察用試験片を採取した。ミクロ組織観察用試験片の圧延方向断面(幅方向と垂直な断面)を埋め込み、研磨を行い、ナイタール腐食の後、板厚中心部、及び板厚の10%に相当する距離だけ表裏面から離れた位置の計3箇所の板厚方向位置にてミクロ組織の観察を行った。
その後、同じ断面の鏡面研磨を行い、板厚中心部、及び表層及び裏層の3か所においてビッカース硬さ測定を行い、そこでの硬さ(HV)の測定値の平均値を求めた。
板厚中心部の硬さの測定においては、板厚中心部に位置する、全板厚の50%に相当する厚さを有する層の中を、板厚方向(板面と垂直な方向)に0.1mm間隔で、硬さ(HV)を測定し、その平均値(算術平均)を求めた(以降、単に板厚中心部の平均硬さHVcということがある)。その硬さ測定の際の荷重は1kgとした。鋼板の表裏層の硬さの測定は以下のように行った。
表裏層の硬さの測定においては、鋼板の表層、及び裏層から、鋼板全厚の10%に相当する距離だけ離れた板厚方向位置において、鋼板の圧延方向と平行方向な線上で0.1mm間隔の距離を置いて10点の硬さ(HV)測定を行い、表裏層における測定値の平均値(算術平均)を求め、さらに表層と裏層の硬さ平均値の平均値(算術平均)を求めた(以降、単に表層或いは表裏層の平均硬さHVsということがある)。その際、硬さ測定の荷重は1kgとした。尚、表裏層各々の硬さの平均値の差は互いに±5%以内であり、小さかった。ここで、鋼板の表層、裏層とは、それぞれ圧延時にそれぞれ上側、下側であった面を指す。
鋼板の疲労強度(FL)の評価は、表面が熱延ままの鋼板から図2に示す寸法の疲労試験片1を採取し、その中央部の表裏面に試験片の長手方向に所定の曲げの繰り返し応力を加え、試験片が疲労破壊するまでの繰り返し数である平面曲げ疲労寿命を求めた。図2中のLは圧延方向、Wは板厚方向である。そして、応力レベルを変えて疲労寿命を求め、そして、107回の繰り返し数においても破壊しなかった最低の応力を疲労強度MPa(FL)として求めた。疲労強度(FL)を求める際は、その疲労強度近傍の応力レベルにおいては付加する繰り返し応力を10MPaごとに変えて繰り返し応力を付加する試験を行った。この疲労強度を、引張強度MPa(TS)で除した値を疲労限度比(FL/TS)とした。
このとき、試験片に加える繰り返し応力の条件は、完全両振り、即ち、応力振幅=σ0とした場合に、応力の時間変化が、最大応力=σ0、最小応力=−σ0、応力の平均値=0の正弦波となるような応力を加える条件とした。また、疲労寿命を評価するうえでは、同じ応力振幅σ0の値での試験を試験数N=3として複数回行い、得られた各試験ごとの測定値を算術平均して平面曲げ疲労寿命の平均値を求め、その求めた平均値により評価することとした。その他の試験条件はJIS Z 2275に準拠するものとした。
図3に得られた熱延鋼板の、表裏層の硬さ(HVs)と板厚中心部の硬さ(HVc)の平均値の比(以降単に「硬さ比」と称することがある)と疲労限度比の関係を示す。硬さ比(HVs/HVc)を1.10以上とすることにより疲労限度比を0.50以上とすることができることが分かる。ここで、硬さは表層と裏層ではほぼ同じであった。尚、ここで、表裏層は硬いほど疲労特性は改善する。しかし、本発明では鉄鋼材料を急冷した場合に生じる硬質なミクロ組織を用いて表裏層を硬質としており、その観点から、板厚中心と表裏層の硬さ比は大きくても3.0倍であり、1.30倍が実用的である。
ここで、充分な疲労強度を得るために、板厚中心部に対して十分な硬さを有する表裏層の位置を、表裏層から全板厚の10%に相当する距離だけ離れた位置とする必要があるのは以下の理由によるものと推定される。
疲労き裂は鋼材の表裏面において、繰り返し応力により転位が移動し、それが蓄積して表面に凹凸が生じることにより発生するとされている。硬質な表裏層により疲労き裂を抑制するためには、硬質な表裏層の厚さは所定以上の値とする必要があり、本発明者らの知見では、表層および裏層の厚さはそれぞれ全板厚の10%とする必要がある。
尚、本発明のようにランアウトテーブルにおいて、表裏層の表面からの抜熱により鋼板を冷却する場合、表裏層の表面に近い位置ほど冷却速度は大きいので、表裏層に近い位置ほどより多くの低温変態組織が現れるようにあり、硬さは増加する。従って、上述の場合、板厚の10%の厚さより表層側、または裏層側にある組織は10%の硬さ位置より硬い。従って、表裏層から全板厚の10%離れた位置における硬さは、表裏層と、そこから板厚の10%離れた位置の間にある材料の中で、最小の硬さの値を有するものと推定される。
図4に680℃以上の熱伝達係数α(kcal/m2hr℃)と硬さ比(HVs/HVc)の関係を示す。ここでHVsは表層の平均硬さで、HVcは板厚中心部の平均硬さである。熱伝達係数が大きくなるほど、硬さ比も増加する。これは熱伝達係数が増加した場合、表裏層での抜熱量が増加して表裏層が急冷される一方で、鋼板の内部の冷却速度は表裏層ほど大きく増加しないため、板厚中心と表裏層の冷却速度の差が大きくなるためである。
また、図4から、硬さ比(HVs/HVc)は同じ熱伝達係数αで冷却した場合、板厚3mm、6mm、12mmと板厚が異なる鋼板の硬さ比からみて、板厚が小さいほど硬さ比が大きいことが判明した。
図5は、680℃以上の熱伝達係数α(J/m2secK)と板厚が異なる場合の表裏層の硬さと板厚中心部の硬さとの硬さ比(HVs/HVc)の変化を示す。図中の○印付き数字は表層の平均硬さと板厚中心部(1/2tと表記することがある)の平均硬さとの硬さ比を表示している。同じ板厚で熱伝達係数α(J/m2secK)が変化した場合の硬さ比の変化に着目すると、熱伝達係数が増加するにつれ硬さ比は増加するが、過度に熱伝達係数が大きくなると硬さ比は逆に低下することが分かる。熱伝達係数が増加するにつれ硬さ比は増加するのは、鋼板表裏層の組織により硬質なベイナイトがより多く含まれるようになるためである。一方、過度に熱伝達係数が大きくなると硬さ比が小さくなるのは、その場合に、鋼板の板厚中心部、及び表裏層の組織が共にベイナイトを多く含む組織となり、それらの間での組織の差が小さくなるためである。
硬さ比を1.10以上にするために必要な熱伝達係数の範囲は板厚が大きいほど大きく、十分な硬さ比を得るためには下記式(1)で表わされる範囲内とする必要があることが分かる。
85×板厚(t:mm)+800
≦α(J/m2secK)≦85×板厚(t:mm)+1850 ・・・(1)
図6は、680℃以上の水量密度W(m3/sec/m2)と板厚(mm)が異なる場合の硬さ比(HVs/HVc)の変化を示す図である。図中の○印は表層の平均硬さと板厚中心部の平均硬さとの硬さ比を表示している。同じ板厚で水量密度が変化した場合の硬さ比の変化に着目すると、水量密度が増加するにつれ硬さ比は増加するが、過度に水量密度が大きくなると硬さ比は逆に低下することが分かる。水量が増加するにつれ硬さ比が増加するのは、熱伝達係数の増加により鋼板表裏層の組織により硬質なベイナイトがより多く含まれるようになるためである。一方、過度に熱伝達係数が大きくなると硬さ比が小さくなるのは、その場合に、鋼板の板厚中心部、及び表裏層の組織が共にベイナイトを多く含む組織となり、それらの間での組織の差が小さくなるためである。
硬さ比を1.10以上とするために必要な水量密度の範囲は板厚が大きいほど大きく、十分な硬さ比を得るためには、水量密度を下記式(2)で表わされる範囲内とする必要があることが分かる。
0.005×板厚(t:mm)+0.0037
≦W(m3/sec/m2)≦0.005×板厚(t:mm)+0.07・・・(2)
以上のように、硬さ比を1.10以上とするためには、仕上げ圧延終了温度から680℃までの間の平均の熱伝達係数α(J/m2secK)或いは仕上げ圧延終了温度から680℃までの間の冷却での平均の水量密度W(m3/sec/m2)を所定の範囲に制御すればよいことが分る。
また、図7は発明鋼のミクロ組織を示す顕微鏡写真で、(a)は表層部のミクロ組織、(b)は板厚中心部のミクロ組織の顕微鏡写真である。表裏層の組織を図7(a)に示すようなフェライトとベイナイトの複合組織、またはベイナイト単相組織とすることにより、良好な疲労限度比を得ることができることが判明した。これは、ベイナイト組織には微細な炭化物が含まれるが、その微細な炭化物により表裏層強度が増加する一方で、疲労き裂自体は炭化物が微細であるために抑制されるためである。良好な疲労強度を得る上では、表裏層の組織はベイナイト単相であることが好ましい。しかし、本発明は比較的低炭素の鋼を対象としており、そのような鋼では冷却中に炭化物は比較的微細に析出するので、疲労特性上は有利である。この観点から、本発明における表裏層における鋼組織は、ベイナイト単相組織に加え、フェライトとベイナイトの複合組織も含むものとする。
本発明の鋼における良好な疲労強度は、表裏層が硬質であることによる効果に加え、表裏層の鋼組織を上記の組織とすることの効果も合わせて得ることにより得られる。表裏層においてそのような組織を得る為には、上述のような熱伝達係数α或いは水量密度Wでの急速冷却を鋼板表裏層温度が680℃となるまで行う必要があることが判明した。
本発明において、図7(a)で示すフェライトとベイナイトの複合組織またはベイナイト単相組織は、表裏層に存在し、表層および裏層はそれぞれ全板厚の少なくとも10%に相当する厚み(全板厚の10%以上)の厚みを有する必要がある。これは、以下の理由によるものと推定している。
本発明において、表裏層の組織を上記とすることにより、表裏層表面近傍のミクロ組織中における炭化物を起点とした疲労き裂の発生が遅延される。そのような効果を得るために必要な表裏層の組織の厚さは、本発明者らの知見によると、表層および裏層はそれぞれ全板厚の少なくとも10%に相当する厚みとする必要がある。
この表裏層のフェライトとベイナイトの複合組織またはベイナイト単相組織の層の厚さの最大値は、後述のように、より軟質な組織の層を板厚中心部に全板厚の50%以上の厚さに設ける必要性があることから、表層および裏層の厚さの最大値はそれぞれは全板厚の25%である。また、ここで鋼板の表層は圧延時に上側であった面であり、裏層とは圧延時に下側であった面である。但し、本発明では、表面・裏面の組織、特性は板厚中心に対して大凡対象であることを前提としており、表層、裏層を区別する必要はない。
本発明において、鋼板の成形性(全伸び)を良好とするためには、板厚中心部の組織は図7(b)に示すように軟質なフェライトとパーライトの複合組織とする必要がある。そのような組織により全伸びを良好とする効果を得るためには、その層の厚みは全板厚の50%以上とする必要がある。このフェライトとパーライトの複合組織からなる層の厚さの上限は全板厚の80%である。このように全板厚の80%とするのは、前述のように、鋼板の表裏層のそれぞれに全板厚の10%以上、両者の合計20%の厚さを有する硬質な層を設ける必要があるためである。
本発明の鋼板のミクロ組織については、鋼板の表裏層組織はフェライトとベイナイトの混合組織、またはベイナイト単相組織とする必要がある。これは、ベイナイト組織により表裏層を硬くする、更に粗大な炭化物を抑制することにより表裏層からの疲労き裂の発生を抑制することができるためである。一方、板厚中心部のミクロ組織はフェライトとパーライトの複合組織とする必要がある。これは、良好な疲労特性を得ながらも、得られる鋼板の成形性を良好に保つためである。そして、表裏層組織に存在するベイナイトと板厚中心部組織に存在するパーライトとの存在形態は、表裏面から板厚の少なくとも10%に相当する厚みの領域の硬さが前記板厚中心部の板厚の少なくとも50%に相当する厚みの領域の平均硬さの1.10倍以上となるようにすればよい。このため、鋼板の表裏層のミクロ組織としては、ベイナイト単相組織とすることが好ましいが、フェライト相を20%面積分率以下含むフェライトとベイナイトの混合組織であってもよい。
次いで、本発明の鋼板の化学成分の限定理由について説明する。ここで記載の成分についての「%」は質量%を意味する。
(C:0.03〜0.09%)
Cが高すぎると、フェライト変態が遅延し板厚中心部においてベイナイトが生成しやすくなり、板厚中心部の硬さが増加する。そのため、急冷却時にも表裏層と板厚中心の硬さ比を大きくすることができなくなる。また、鋼板の伸びが低下する。これらの観点からCの上限は0.09%とする。Cが低すぎるとフェライト変態が速くなり、急冷却を行っても鋼板表裏層をフェライトとベイナイトの複合組織またはベイナイト単相組織にはできなくなる。そこで、Cの下限は0.03%とする。また、上記の観点から、Cは0.03〜0.09%としたが、0.05〜0.08%であることが好ましい。
(Si:0.01〜2.20%)
Siは、鋼の強化に寄与し、所定の強度を得るために0.01%以上含有する必要がある。しかし、2.20%超とした場合、変態点が過度に高温となるため、本発明に必要な圧延温度の確保が困難となるためその上限は2.20%、好ましくは2.0%、より好ましくは1.40%である。上記の観点から、Siは0.01〜2.20%としたが、0.01〜1.40%であることが好ましい。
(Mn:0.30〜2.20%)
Mnは、固溶強化元素として強度上昇に有効である。所望の強度を得るためには0.30%以上必要であるが、0.80%以上とすることが望ましい。一方、2.20%超添加するとスラブ割れを生ずるため、2.20%以下とする。また、Mnはオーステナイトフォーマーでありフェライト変態を遅延させる。従って、Mnが過多にあると板厚中心部においてベイナイトが生成しやすくなり、表裏層と板厚中心部の硬さ比を大きくすることができなくなる。この観点からもMnの上限は2.20%、好ましくは1.60%である。上記の観点から、Mnは0.30〜2.20%としたが、0.80〜1.60%であることが好ましい。
(P:0.100%以下)
Pは、不可避的に含有される不純物元素であり低いほど望ましく、0.100%超含有すると加工性や溶接性に悪影響を及ぼすと共に疲労特性も低下させるので、0.100%以下とするが、好ましくは0.020%以下である。
(S:0.010%以下)
Sは、Pと同様に不可避的に含有される不純物元素であり低いほど望ましく、多すぎるとMnS等の粗大な介在物となって成形性を劣化させるので、0.010%以下とする必要があるが、Sの上限値は好ましくは0.003%である。
(Al:0.005〜0.050%)
A1は、溶鋼の脱酸に必要な元素である。その効果を得るには0.005%以上、好ましくは0.010%以上含有させることが望ましい。しかし、過多に添加すると、変態点を極度に上昇させ、本発明に必要な圧延温度の確保が困難となるためその上限値は0.050%、好ましくは0.030%とする。以上の観点から、Alは、0.005〜0.050%としたが、0.010〜0.030%とすることが望ましい。
(N:0.0100%以下)
Nは、成分調整段階で溶鋼に混入する不可避的不純物であり低いほど望ましい。過多にあると、鋼材の時効を促進し加工性を劣化させる可能性があるので0.0100%以下とする。好ましくは、0.0040%以下である。
以上を基本的な組成とする。
次いで、必要に応じて選択的に添加させることができる成分(元素)について説明する。これらの成分はいずれも鋼板の強度を増加するに寄与する成分である。上記基本成分に加えて、必要に応じて、強度を得る為に以下の元素の内一種類以上を添加してもよい。
(Nb:0.050%以下)
Nbは析出強化により強度を増加させる元素である。強度を得る為に、必要に応じてNbを添加してもよい。十分な強度増加の効果を得るためには、0.005%以上の添加をすることが望ましい。しかし過多にあるとその効果は飽和する一方で、コストを増加させる要因となるので、上限値を0.050%とする。
(Ti:0.300%以下)
Tiは析出強化により強度を増加させる元素である。強度を得る為に、必要に応じてTiを添加してもよい。十分な強度増加の効果を得るためには、0.005%以上の添加をすることが望ましい。しかし過多にあるとその効果は飽和する一方で、コストを増加させる要因となるので、上限値を0.300%とする。
(V:0.10%以下)
Vは析出強化により強度を増加させる元素である。強度を得る為に、必要に応じてVを添加してもよい。十分な強度増加の効果を得るためには、0.01%以上の添加をすることが望ましい。しかし過多にあるとその効果は飽和する一方で、コストを増加させる要因となるので、上限値を0.10%とする。
(Cu:1.0%以下)
Cuは固溶強化により強度を増加させる元素である。強度を得る為に、必要に応じてCuを添加してもよい。十分な強度増加の効果を得るためには、0.10%以上の添加をすることが望ましい。しかし過多にあるとその効果は飽和する一方で、コストを増加させる要因となるので、上限値を1.0%とする。
(Ni:1.0%以下)
Niは固溶強化により強度を増加させる元素である。強度を得る為に、必要に応じてNiを添加してもよい。十分な強度増加の効果を得るためには、0.10%以上の添加をすることが望ましい。しかし過多にあるとその効果は飽和する一方で、コストを増加させる要因となるので、上限値を1.0%とする。
(Cr:1.0%以下)
Crは固溶強化により強度を増加させる元素である。強度を得る為に、必要に応じてCrを添加してもよい。十分な強度増加の効果を得るためには、0.10%以上の添加をすることが望ましい。しかし過多にあるとその効果は飽和する一方で、コストを増加させる要因となるので、上限値を1.0%とする。
(B:0.0050%以下)
Bは焼き入れ強化により強度を増加させる元素である。強度を得る為に、必要に応じてBを添加してもよい。十分な強度増加の効果を得るためには、0.0001%以上の添加をすることが望ましい。しかし過多にあるとその効果は飽和する一方で、コストを増加させる要因となるので、上限値を0.0050%とする。
(Ca:0.0030%以下)
硫化物の形態制御を行い、強度を増加し、加工性を改善するために、Caを添加してもよい。形態制御のため必要な効果を得る為には0.0005%以上を添加することが望ましい。一方、過多にあると効果が飽和し、かつコスト増加要因となるので、それを防ぐ観点から上限値をCa:0.0030%とする。
(REM:0.0200%以下)
REMもCaと同様に硫化物の形態制御を行い、強度を増加し、加工性を改善するために、REM(希土類元素)を添加してもよい。形態制御のため必要な効果を得る為には0.0005%以上を添加することが望ましい。一方、過多にあると効果が飽和し、かつコスト増加要因となるので、それを防ぐ観点から上限値をREM:0.0200%とする。
以上必要に応じて選択的に含有させる成分について説明したが、これらの選択成分は上記に説明した下限値以下を含有しても本発明の疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の効果を損なうものではないので、本発明はその下限値以下をも含有することを許容するものである。
次に、本発明の製造方法の限定理由について、詳細に述べる。
初めに、上記に述べた成分に調整された鋳片を精錬工程、連続鋳造工程を用いて製造する。次に、加熱、粗圧延、仕上げ圧延、冷却、巻き取り及び精整工程から連続熱延工程により熱延鋼板を得る。
(1150℃以上に加熱)
加熱温度は、粗圧延、仕上げ圧延からなる連続熱間圧延工程により熱延鋼板を得るために必要とされる温度が好ましい。この温度は常法では、仕上げ圧延の温度を所定以上とする観点から1150℃以上である。加熱温度が高すぎると加熱中に生じる酸化層に起因した表面疵が生じる。また、過度に加熱温度を上げることは、生産コストの観点からも好ましくない。この観点から加熱温度の上限は1300℃が望ましい。
粗圧延は、加熱抽出後から仕上げ圧延の間の圧延工程であるが、その温度域も常法に従う。
(Ar3温度+50(℃)以上の温度にて仕上げ圧延)
仕上げ圧延温度は、Ar3温度+50℃以上とする必要がある。これは圧延温度がそれより低い場合、パーライト変態が鋼板表裏層において促進され、ランアウトテーブルでの熱伝達係数の増加による表裏層硬さの増加効果が得られないためである。そのような効果を安定して得るためには好ましくは、仕上げ圧延温度はAr3+80℃以上とする。尚、Ar3変態温度は以下の式(4)で求めるものとする。
仕上げ圧延温度が過度に高いと、圧延前の鋼板に付着する酸化層の厚みが増加し、それが圧延時に噛みこまれ、鋼板に疵を残す。この観点から、仕上げ圧延温度の上限は概ね1100℃とする。
Ar3=868−396×C+25×Si−68×Mn−36×Ni−21×Cu−25×Cr+30×Mo ・・・(4)
ここで、各成分元素は鋼中に含有されている質量%である。
(680℃までの間の平均の熱伝達係数α)
所定の硬さ比を得る為に必要な、仕上げ圧延終了温度から680℃までの間の平均の鋼板表裏層の熱伝達係数αの範囲は板厚に依存し、その許容範囲は下記式(1)で表わされる。
85×板厚(t:mm)+800
≦α(J/m2secK)≦85×板厚(t:mm)+1850 ・・・(1)
しかし、硬さ比を最大とする観点から、熱伝達係数αは下記式(1−2)式を満たすことが望ましい。
85×板厚(t:mm)+1200
≦α(J/m2secK)≦85×板厚(t:mm)+1700 ・・(1−2)
ここで、必要な熱伝達係数α(J/msecK)に下限(式1の左辺)が存在するのは、それが小さすぎると鋼板表裏層でパーライトが生成し、そこで所定の組織(フェライトとベイナイトの複合組織またはベイナイト単相組織)とならないためである。一方、それに上限(式1の右辺)が存在するのは、それが大きすぎると板厚中心部においてもベイナイトが生成し、表裏層と板厚中心部が共にベイナイトを多量に含む組織となり、両者の硬さの差が小さくなるためである。
そのような冷却条件を満たす急冷却の温度域を680℃以上としたのは、急冷却に伴って生じる硬さ比を増加させるミクロ組織の変化は、680℃以上の温度域の冷却速度の変化により生じるためである。
(680℃までの間の冷却での平均の水量密度W)
所定の硬さ比を得る為に必要な、680℃以上の冷却における水量密度W(m3/sec/m2)の範囲は板厚に依存し、その許容範囲は下記式(2)で表わされる。
0.005×板厚(mm)+0.0037
≦W(m3/sec/m2)≦0.005×板厚(t:mm)+0.07 ・・・(2)
しかし、硬さ比を最大とする観点からは、680℃以上の冷却における水量密度W(m3/sec/m2)の範囲は下記式(2−2)を満たすことが望ましい。
0.005×板厚(t:mm)+0.03≦W(m3/sec/m2
≦0.005×板厚(t:mm)+0.06 ・・・(2−2)
ここで、必要な水量密度W(m/sec/m)に下限(式2の左辺)が存在するのは、それが小さすぎると熱伝達係数が低下し、それにより鋼板表裏層でパーライトが生成し、そこで所定の組織(フェライトとベイナイトの複合組織またはベイナイト単相組織)とならないためである。一方、それに上限(式2の右辺)が存在するのは、それが大きすぎると板厚中心部においてもベイナイトが生成し、表裏層と板厚中心部が共にベイナイトを多量に含む組織となり、両者の硬さの差が小さくなるためである。
そのような水量密度での冷却を必要とする急冷却の温度域を680℃以上としたのは、急冷却に伴って生じる硬さ比を増加させるミクロ組織の変化は、680℃以上の温度域の冷却速度の変化により生じるためである。
(600℃以下として巻取り)
巻取り温度は600℃以下とする。これは、巻取り温度が600℃を超える場合、十分な熱伝達係数αを得ても十分な表裏層硬度の増加効果が得られないためである。これは、巻き取り温度が600℃を超える場合、鋼板表裏層においても、巻き取り後に生成するベイナイトが軟質となり、所定の硬さ比が得られないためである。表裏層の硬度を増加させる観点からは、巻き取り温度は560℃以下とすることが好ましい。
尚、本発明において、680℃から巻き取り温度の間のランアウトテーブル上での冷却は、特段の冷却を行わない空冷、または水冷で行うものとする。ここでの冷却速度は速い方が、より大きな硬さ比を得る上で好ましい。しかし、過度に大きくすると冷却停止温度のばらつきも大きくなるので、特に規定はしない。
巻き取り温度の下限は特に規定しないが、350℃未満の場合、巻き取り温度の精度が劣化するので、巻き取り温度は350℃以上が好ましい。
尚、ここで、仕上げ圧延温度、圧延後の冷却の速度、巻き取り温度は、鋼板表面温度ではなく、全板厚の平均温度である。全板厚の平均温度は、表面温度の測定値に合うように鋼板の伝熱計算を行うなどして全板厚の温度を算出し、それらを算術平均して求める。
本技術において、鋳片が加熱温度を出た後の粗圧延の温度、時間、パススケジュール、仕上げ圧延のパススケジュール、仕上げ圧延終了から冷却を開始するまでの時間等の条件は、常法に従うものとする。
以下に、実施例に基づいて発明例、比較例により本発明の効果を具体的に説明する。
表1に示す成分の鋼を転炉にて溶製した後、連続鋳造により鋳片とした。その後、表2−1及び表2−2に示す条件にて、再加熱を行い、粗圧延、仕上げ圧延、冷却、巻取りを行う事により熱延鋼板とした。得られた鋼板の組織、機械的特性を表3−1及び表3−2に示した。















Figure 0006213098
























Figure 0006213098










Figure 0006213098










Figure 0006213098






Figure 0006213098
鋼板の幅方向中心部より採取した試験片を用いて、鋼板の引張試験、圧延方向断面の組織観察を行い、それと同じ断面のビッカース硬さ(HV)測定を行った。その際、鋼板の表裏層の硬さの測定は、鋼板の表層、及び裏層から、鋼板全板厚の10%に相当する距離だけ離れた板厚方向位置において、鋼板の圧延方向と平行方向な線上で0.1mm間隔の距離を置いて10点の硬さ測定を行い、表裏層における硬さ測定値の算術平均値を求め、さらに表層と裏層の平均値の算術平均値を求めた。表3−1に表層硬さ(HVs)として示してある。硬さ測定の荷重は1kgとした。尚、表裏層各々の硬さの平均値の差は互いに±5%以内であり、小さかった。ここで、鋼板の表層、裏層とは、それぞれ圧延時にそれぞれ上側、下側であった面を指す。また、板厚中心部の硬さの測定は、板厚中心部に位置する、全板厚の50%に相当する厚さを有する層の中を、板厚方向(板面と垂直な方向)に0.1mm間隔で、硬さ(HV)を測定し、その平均値(算術平均)を求めた。その硬さ測定の際の荷重は1kgとした。表3−1に板厚中心部の硬さは1/2t硬さ(HVc)として示してある。
表2−1〜表3−2に示す条件1−2、2、3−2、4、4−2、5−2、6、7、8、12〜20、24〜28は発明例であり、本発明のミクロ組織となっていて、鋼板表裏層と板厚中心部の硬さの比(HVs/HVc)は1.10倍以上であり、良好な加工性(全伸びT.El%)を有し、良好な疲労限度比[FL(疲労強度MPa)/TS(引張強度MPa)]0.50以上が得られている。
比較例の条件1は、表2−2に示すように急速冷却域の熱伝達係数(680℃以上平均)が小さすぎ、また水量密度(680℃以上平均)も小さすぎるため、表3−1に示すように鋼板表裏層と板厚中心部の硬さの比(HVs/HVc)が小さい。また、表裏層でパーライトが生成していて、表裏層のフェライト+ベイナイト層の厚み(板厚比%)が小さい。このため表3−2に示すように疲労限度比(FL/TS)が小さい。
比較例の条件2−2は、表2−2に示すように急速冷却域の熱伝達係数が大きすぎ、また水量密度(680℃以上平均)も大きすぎるため、表3−1及び表3−2に示すようにフェライトとパーライトとからなる組織が板厚中心部に形成されず、鋼板表裏層と板厚中心部の硬さの比が小さい。このため疲労限度比が小さい。
比較例の条件3は、表2−2に示すように急速冷却域の熱伝達係数および水量密度が小さすぎるため、表3−1及び表3−2に示すように表裏層のフェライト+ベイナイト層の厚みが小さい。また、表裏層でパーライトが生成していて、鋼板表裏層と板厚中心部の硬さの比が小さい。このため疲労限度比が小さい。
比較例の条件4−3は、表2−2に示すように急速冷却域の熱伝達係数および水量密度が大きすぎるため、表3−1及び表3−2に示すようにフェライトとパーライトとからなる組織が板厚中心部に形成されず、鋼板表裏層と板厚中心部の硬さの比が小さい。このため疲労限度比が小さい。
比較例の条件5は、表2−2に示すように急速冷却域の熱伝達係数および水量密度が小さすぎるため、表3−1及び表3−2に示すよう鋼板表裏層と板厚中心部の硬さの比が小さい。また、表裏層でパーライトが生成している。このため疲労限度比が小さい。
比較例の条件9は、表2−1に示すように仕上げ圧延温度が低すぎる為、表3−1及び表3−2に示すように表裏層のフェライト+ベイナイト層の厚みが小さい。また、表裏層でパーライトが生成していて、鋼板表裏層と板厚中心部の硬さの比が小さい。このため、このため疲労限度比が小さい。
比較例の条件10は、表2−1に示すように巻取り温度が高すぎる為、表3−1及び表3−2に示すように鋼板表裏層で軟質のベイナイトが生成し、そのため鋼板表裏層と板厚中心部の硬さの比が小さい。このため、このため疲労限度比が小さい。
比較例の条件21は、表1に示すように鋼中に含有されているMn量が所定より高い。そのため、表3−1及び表3−2に示すように所定の硬さ比が得られておらず、疲労限度比が小さい。
比較例の条件22は、表1に示すように鋼中に含有されているSi量が所定より高い。そのため、表2−1に示すように仕上げ圧延温度下限が過度に高くなっており、圧延温度がその下限を下回っており、そのため表3−1及び表3−2に示すように表裏層にパーライトが生成し所定の硬さ比が得られておらず、疲労限度比が小さい。
比較例の条件23は、表1に示すように鋼中に含有されているC量が所定より低い。そのため、表3−1及び表3−2に示すように所定の硬さ比が得られておらず、疲労限度比が小さい。
1 試験片
L 圧延方向
W 板幅方向

Claims (4)

  1. 質量%で
    C:0.03〜0.09%、
    Si:0.01〜2.20%、
    Mn:0.30〜2.20%、
    P:0.100%以下、
    S:0.010%以下、
    Al:0.005〜0.050%、
    N:0.0100%以下、
    を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物の組成からなり、鋼板の表裏面から板厚の少なくとも10%に相当する厚みの領域のミクロ組織がフェライトとベイナイトの複合組織、またはベイナイト単相組織からなり、板厚中心部の板厚の少なくとも50%に相当する厚みの領域のミクロ組織がフェライトとパーライトの複合組織からなり、前記表裏面から板厚の少なくとも10%に相当する厚みの領域の硬さが前記板厚中心部の板厚の少なくとも50%に相当する厚みの領域の平均硬さの1.10倍以上であることを特徴とする疲労特性に優れた高強度熱延鋼板。
  2. 質量%で、さらに、
    Nb:0.050%以下、
    Ti:0.30%以下、
    V:0.10%以下、
    Cu:1.0%以下、
    Ni:1.0%以下、
    Cr:1.0%以下、
    B:0.0050%以下、
    Ca:0.0030%以下、
    REM:0.0200%以下
    のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の疲労特性に優れた高強度熱延鋼板。
  3. 請求項1または請求項2に記載の疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法であって、
    請求項1または請求項2の組成を有する鋳片を1150℃以上に加熱し、粗圧延した後、Ar3温度+50(℃)以上の温度にて仕上げ圧延を行い、その後、仕上げ圧延終了温度から680℃までの間の平均の熱伝達係数αを下記式(1)で示される範囲内として鋼板の表面及び裏面から冷却を行い、その後鋼板全厚の平均の温度を600℃以下として巻取りを行うことを特徴とする疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法
    85×板厚(mm)+850
    ≦α(J/msecK)≦85×板厚(mm)+1850 ・・・(1)
  4. 請求項1または請求項2に記載の疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法であって、
    請求項1または請求項2の組成を有する鋳片を1150℃以上に加熱し、粗圧延した後、Ar3温度+50(℃)以上の温度にて仕上げ圧延を行い、その後、仕上げ圧延終了温度から680℃までの間の冷却での平均の水量密度Wを下記式(2)で示される範囲内として鋼板の表面及び裏面から冷却を行い、その後鋼板全厚の平均の温度を600℃以下として巻取りを行うことを特徴とする疲労特性に優れた高強度熱延鋼板の製造方法
    0.005×板厚(mm)+0.0037
    ≦W(m/sec/m)≦0.005×板厚(mm)+0.07 ・・・(2)
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