しかし、近年の軸受部品への耐久性向上の要求を考慮すると、従来の浸炭窒化処理では用途によっては十分な耐久性を付与することが困難である場合がある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐久性が向上した軸受部品および当該軸受部品を備える転がり軸受を提供することである。
本発明に従った軸受部品は、0.95質量%以上1.1質量%以下の炭素と、0.3質量%未満の珪素と、0.5質量%未満のマンガンと、0.008質量%未満の硫黄と、1.4質量%以上1.6質量%未満のクロムとを含み、残部鉄および不純物からなる鋼からなり、他の部品と接触する面である接触面を含む表層部に浸炭窒化層が形成された軸受部品である。上記軸受部品では、上記表層部における平均窒素濃度が0.3質量%以上0.6質量%以下であり、かつ、上記表層部における窒素濃度のばらつきが0.1質量%以下である。また、上記軸受部品では、上記接触面における硬度が700HV以上である。
本発明者は、転がり軸受などに用いられる軸受部品の耐久性を向上させるための方策について鋭意検討を行った。その結果、以下のような知見を得て、本発明に想到した。
軸受部品において、他の部品と接触する接触面(たとえば軌道輪の転走面や玉およびころの転動面など)およびその直下では、亀裂などの損傷が発生し易い。これに対して、上記接触面に浸炭窒化処理を施すことにより軸受部品の耐久性の向上を図ることができる。
本発明者の検討によると、上記接触面を含む表層部の窒素濃度が0.2質量%未満である場合には、異物混入潤滑下における軸受部品の寿命が低下する。そのため、軸受部品の寿命の低下を抑制するためには、上記表層部の窒素濃度を少なくとも0.2質量%以上にする必要がある。一方、上記表層部の窒素濃度が0.7質量%を超える場合には、残留オーステナイト量が過大となるため上記接触面の硬度が低下する。そのため、上記接触面の硬度の低下を抑制するためには、上記表層部の窒素濃度を0.7質量%以下にする必要がある。
また、軸受部品は、成形された鋼材に対して浸炭窒化処理や焼戻処理などの熱処理を施し、その後上記接触面に仕上げ加工を施すことにより製造される。そして、上記熱処理を施すことにより鋼材が変形する場合があり(たとえば軌道輪が楕円形となり真円度が崩れる場合がある)、仕上げ加工時の研削取り代にばらつきが生じる場合がある。そのため、従来の軸受部品では、上記表層部において窒素濃度のばらつきが大きくなるという問題がある。
これに対して、本発明に従った軸受部品では、上記表層部における平均窒素濃度が0.3質量%以上0.6質量%以下であり、かつ、上記表層部における窒素濃度のばらつきが0.1質量%以下にまで低減されている。そのため、上記軸受部品では、上記表層部の窒素濃度が0.2質量%以上0.7質量%以下となっており、異物混入潤滑下における寿命の低下および上記接触面の硬度の低下が抑制されている。すなわち、上記接触面における硬度が700HV以上に維持されている。したがって、本発明に従った軸受部品によれば、耐久性が向上した軸受部品をより確実に提供することができる。
また、本発明に従った軸受部品において、「表層部」とは上記接触面から上記軸受部品の厚み方向において深さ20μmまでの領域を意味する。また、「表層部における平均窒素濃度」および「表層部における窒素濃度のばらつき」は、後述する本発明の実施の形態において規定される通りである。
次に、本発明に従った軸受部品を構成する鋼の成分組成を上記範囲に設定した理由について説明する。
炭素:0.95質量%以上1.1質量%以下
炭素含有量は、焼入硬化後における軸受部品の硬度および炭化物量に大きな影響を与える。鋼の炭素含有量が0.95質量%以上である場合には、熱処理により鋼中に多くの炭素を導入することなく、十分な硬度および炭化物量を達成することができる。一方、炭素含有量が1.1質量%を超える場合には、鋼の製造時点において大型の炭化物が形成され、当該炭化物が軸受部品の耐久性に悪影響を与える可能性がある。そのため、炭素含有量は0.95質量%以上1.1質量%以下とした。
珪素:0.3質量%未満
珪素は、鋼中の水素吸蔵量を増加させ、水素脆性を助長する。鋼の珪素含有量が0.3質量%以上である場合には、水素が鋼中に入り易い用途において水素脆性による剥離が起こり易くなる。そのため、上記軸受部品では、鋼の珪素含有量を0.3質量%未満に低く設定した。
マンガン:0.5質量%未満
マンガンは、鋼の焼入性と焼入前の鋼の硬度に寄与する。しかし、マンガン含有量が0.5質量%以上である場合には焼入前の素材の硬度が高くなり、冷間工程における加工性が低下する。そのため、マンガン含有量は0.5質量%未満とした。
硫黄:0.008質量%未満
硫黄は、マンガンなどと化学結合して硫化マンガンなどの非金属介在物を形成する。この非金属介在物は、軸受の寿命に悪影響を与える可能性がある。そのため、上記軸受部品では、鋼の硫黄含有量を0.008質量%未満に低く設定した。
クロム:1.4質量%以上1.6質量%未満
クロムは、鋼の焼入性の向上に寄与する。また、本発明に従った軸受部品では、水素脆性による剥離を防ぐために珪素含有量が低くなっているため、焼入性が低下している。そこで、珪素含有量を低くしたことによる焼入性の低下を補うために、上記軸受部品では、鋼のクロム含有量を1.4質量%以上1.6質量%未満に高く設定した。
上記軸受部品では、上記軸受部品の厚み方向における窒素濃度の傾きが−15(1/m)以上であってもよい。上記窒素濃度の傾きは、後述する実施例において説明するように測定される。これにより、上記接触面に仕上げ加工を施した後の上記表層部における窒素濃度のばらつきを容易に低減することができる。
また、「窒素濃度の傾き」とは、上記接触面に研削処理などの仕上げ加工を施す前における窒素濃度の傾きでもよいし、上記接触面に仕上げ加工を施した後(製品状態)の窒素濃度の傾きでもよい。すなわち、上記軸受部品では、上記接触面に仕上げ加工を施す前において上記窒素濃度の傾きが−15(1/m)以上でもよいし、上記仕上げ加工を施した後において上記窒素濃度の傾きが−15(1/m)以上でもよいし、上記仕上げ加工を施す前および施した後のいずれにおいても上記窒素濃度の傾きが−15(1/m)以上でもよい。
上記軸受部品では、上記接触面から0.05mmの深さの位置における平均残留オーステナイト量が25体積%以上35体積%以下であり、かつ、上記接触面から0.05mmの深さの位置における残留オーステナイト量のばらつきが3体積%以下であってもよい。
本発明者の検討によると、上記接触面から0.05mmの深さの位置における残留オーステナイト量が22体積%以上である場合には寿命が大きく向上する。一方で、上記深さの位置における残留オーステナイト量が38体積%を超える場合には上記接触面の硬度が低下する。したがって、上記深さの位置における平均残留オーステナイト量を25体積%以上35体積%以下とし、かつ上記深さの位置における残留オーステナイト量のばらつきを3体積%以下として、上記深さの位置における残留オーステナイト量が22体積%以上38体積%以下とすることにより、寿命の低下および上記接触面の硬度の低下をさらに抑制することができる。また、「上記深さの位置における平均残留オーステナイト量」および「上記深さの位置における残留オーステナイト量のばらつき」は、後述する本発明の実施の形態において規定される通りである。
上記軸受部品では、全体の平均残留オーステナイト量が18体積%以下であってもよい。
本発明者の検討によると、軸受部品全体の平均残留オーステナイト量が18体積%以下である場合には経年寸法変化率が低下する。したがって、全体の平均残留オーステナイト量を18体積%以下とすることにより、軸受部品の寸法安定性を向上させることができる。
上記軸受部品において、上記表層部には、直径が0.5μm以下である炭窒化物が100μm2当たり5個以上存在していてもよい。
本発明者の検討によると、上記表層部に直径0.5μm以下の炭窒化物が100μm2当たり5個以上存在する場合には、当該炭窒化物の析出強化によって軸受部品の静的負荷容量が向上する。したがって、上記表層部における上記炭窒化物の存在量を上記範囲に規定することにより、軸受部品の静的負荷容量をより向上させることができる。なお、この場合には、上記表層部における炭素濃度は0.9質量%以上1.1質量%以下となる。
ここで、「表層部に直径0.5μm以下の炭窒化物が100μm2当たり5個以上存在する」とは、上記接触面に垂直な断面で上記軸受部品を切断し、得られた断面の表層部を顕微鏡で観察した場合に直径0.5μm以下の炭窒化物が100μm2当たり5個以上確認されることをいう。また、「炭窒化物」とは、鉄の炭化物または当該炭化物の炭素の一部が窒素に置換されたものであり、Fe−C系の化合物およびFe−C−N系の化合物を含む。また、この炭窒化物は、クロムなど、鋼に含まれる合金元素を含んでいてもよい。
上記軸受部品では、上記接触面以外の面である非研削面を含む非研削部における窒素濃度が0.7質量%未満であってもよい。
本発明者の検討によると、上記非研削部の窒素濃度が0.7質量%以上である場合には残留オーステナイト量が過大となり、その結果上記非研削面の硬度が低下する。したがって、上記非研削面における十分な硬度を確保するためには、上記非研削部における窒素濃度を0.7質量%未満とすることが好ましい。なお、「非研削部」とは、上記非研削面から上記軸受部品の厚み方向において深さ20μmまでの領域を意味する。また、この場合には、上記非研削面から0.1mmの深さの位置における硬度が700HV以上となる。
上記軸受部品では、加熱温度を500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行った後において、上記接触面から0.4(mm)の深さの位置におけるビッカース硬度が、上記軸受部品の厚み方向において上記浸炭窒化層が形成されていない領域におけるビッカース硬度より80HV以上高くなっていてもよい。
これにより、上記接触面における窒素濃度が0.4質量%以上であることを保証することができる。
本発明に従った転がり軸受は、耐久性が向上した上記本発明に従った軸受部品を備えている。したがって、本発明に従った転がり軸受によれば、耐久性が向上した転がり軸受を提供することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明に従った軸受部品および転がり軸受によれば、耐久性が向上した軸受部品および転がり軸受を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
まず、図1を参照して、本実施の形態に係る転がり軸受としての深溝玉軸受1の構造について説明する。深溝玉軸受1は、環状の外輪11と、外輪11の内側に配置された環状の内輪12と、外輪11と内輪12との間に配置され、円環状の保持器14に保持された転動体である複数の玉13とを備えている。外輪11の内周面には外輪転走面11Aが形成されており、内輪12の外周面には内輪転走面12Aが形成されている。内輪12は、内輪転走面12Aが外輪転走面11Aと対向するように外輪11の内側に配置されている。複数の玉13は、転動面13Aにおいて外輪転走面11Aおよび内輪転走面12Aに接触し、かつ保持器14により周方向に所定のピッチで配置されている。これにより、複数の玉13は、外輪11および内輪12の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。このような構成により、深溝玉軸受1の外輪11および内輪12は、互いに相対的に回転可能となっている。また、外輪11、内輪12および玉13は、後述する本実施の形態に係る軸受部品である。
次に、図2を参照して、本実施の形態に係る他の転がり軸受としての円錐ころ軸受2の構造について説明する。円錐ころ軸受2は、環状の外輪21および内輪22と、転動体である複数のころ23と、円環状の保持器24とを備えている。外輪21の内周面には外輪転走面21Aが形成されており、内輪22の外周面には内輪転走面22Aが形成されている。内輪22は、内輪転走面22Aが外輪転走面21Aと対向するように外輪21の内側に配置されている。
ころ23は、転動面23Aにおいて外輪転走面21Aおよび内輪転走面22Aに接触し、かつ保持器24により周方向に所定のピッチで配置されている。これにより、ころ23は、外輪21および内輪22の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、円錐ころ軸受2は、外輪転走面21Aを含む円錐、内輪転走面22Aを含む円錐、およびころ23が転動した場合の回転軸の軌跡を含む円錐のそれぞれの頂点が軸受の中心線上の1点で交わるように構成されている。このような構成により、円錐ころ軸受2の外輪21および内輪22は、互いに相対的に回転可能となっている。また、外輪21、内輪22およびころ23は、外輪11、内輪12および玉13と同様に、本実施の形態に係る軸受部品である。
次に、本実施の形態に係る軸受部品(外輪11,21、内輪12,22、玉13およびころ23)の構造について説明する。上記軸受部品は、0.95質量%以上1.1質量%以下の炭素と、0.3質量%未満の珪素と、0.5質量%未満のマンガンと、0.008質量%未満の硫黄と、1.4質量%以上1.6質量%未満のクロムとを含み、残部鉄および不純物からなる鋼からなっている。上記軸受部品は、他の部品と接触する接触面(外輪転走面11A,21A、内輪転走面12A,22A、転動面13A,23A)を有しており、上記接触面を含む表層部には浸炭窒化層が形成されている。
上記軸受部品では、上記表層部における平均窒素濃度が0.3質量%以上0.6質量%以下となっており、かつ上記表層部における窒素濃度のばらつきが0.1質量%以下となっている。これにより、上記軸受部品では、異物混入潤滑下における寿命が向上し、かつ上記接触面の硬度の低下が抑制されている。より具体的には、上記接触面の硬度が700HV以上に維持されている。そのため、上記軸受部品を備える深溝玉軸受1および円錐ころ軸受2は、耐久性が向上したものとなっている。
また、上記軸受部品において、「表層部における平均窒素濃度」および「表層部における窒素濃度のばらつき」は以下のように測定される。ここでは、内輪12,22について測定する場合を例として説明する。
図3を参照して、まず、内輪12,22の接触面(内輪転走面12A,22A)上の任意の箇所に測定点S1が設定される。次に、測定点S1から見て円周方向にθ(30°)ずれた測定点S2と、測定点S2から見て円周方向にθ(30°)ずれた測定点S3と、測定点S3から見て円周方向にθ(30°)ずれた測定点S4と、測定点S4から見て円周方向にθ(30°)ずれた測定点S5と、測定点S5から見て円周方向にθ(30°)ずれた測定点S6とがそれぞれ設定される。このようにして、内輪12,22の接触面上に円周方向に沿って30°ずつずれた複数の測定点S1〜S6が設定される。なお、測定点S1〜S6は、内輪12,22の接触面上において軸方向中央部に設定される。
内輪12,22などの軌道輪は熱処理により楕円形に変形して真円度が崩れる場合があり、これにより研削加工後の表層部における窒素濃度にばらつきが生じる場合がある。これに対して、円周方向に沿って30°ずつずれた測定点S1〜S6を設定した場合には、測定点が円周方向のほぼ半周分の領域に分散配置されるため、実質的に測定点S1〜S6に窒素濃度の最大値および最小値を含めることができる。そのため、測定点S1〜S6での測定値に基づいた評価を行うことにより、「表層部における平均窒素濃度」および「表層部における窒素濃度のばらつき」をより正確に評価することができる。
図4は、測定点S1〜S6(横軸)において測定された表層部の窒素濃度(縦軸)を示している。図4中の縦軸に示される各々の窒素濃度の平均値を、「表層部における平均窒素濃度」とすることができる。また、当該「表層部における平均窒素濃度」と測定点S1〜S6における測定値との差のうち最も大きい値を、「表層部における窒素濃度のばらつき」とすることができる。
また、上記軸受部品(外輪11,21、内輪12,22、玉13およびころ23)では、上記接触面(外輪転走面11A,21A、内輪転走面12A,22A、転動面13A,23A)に仕上げ加工を施す前において、厚み方向における窒素濃度の傾きが−15(1/m)以上となっていてもよい。これにより、上記接触面に仕上げ加工を施した後において、上記表層部における窒素濃度のばらつきを0.1質量%以下にまで低減することができる。なお、上記軸受部品では、上記接触面に仕上げ加工を施した後においても、厚み方向における窒素濃度の傾きが−15(1/m)以上となっていてもよい。
また、上記軸受部品(外輪11,21、内輪12,22、玉13およびころ23)では、上記接触面(外輪転走面11A,21A、内輪転走面12A,22A、転動面13A,23A)から0.05mmの深さの位置における平均残留オーステナイト量が25体積%以上35体積%以下であり、かつ、上記深さの位置における残留オーステナイト量のばらつきが3体積%以下となっていてもよい。これにより、異物混入潤滑下における寿命および上記接触面の硬度の低下をさらに抑制することができる。また、「上記深さの位置における平均残留オーステナイト量」および「上記深さの位置における残留オーステナイト量のばらつき」は、図3および図4を参照して説明した「表層部における平均窒素濃度」および「表層部における窒素濃度のばらつき」の場合と同様に測定することができる。
また、上記軸受部品(外輪11,21、内輪12,22、玉13およびころ23)では、軸受部品全体の平均残留オーステナイト量が18体積%以下となっていてもよい。これにより、経年寸法変化率が低下するため、軸受部品の寸法安定性を向上させることができる。
また、上記軸受部品(外輪11,21、内輪12,22、玉13およびころ23)では、上記表層部に直径が0.5μm以下である炭窒化物が100μm2当たり5個以上存在していてもよい。これにより、軸受部品の静的負荷容量をより向上させることができる。
また、上記軸受部品(外輪11,21、内輪12,22、玉13およびころ23)では、上記接触面(外輪転走面11A,21A、内輪転走面12A,22A、転動面13A,23A)以外の面である非研削面11B,12B,22Bを含む非研削部における窒素濃度が0.7質量%未満であってもよい。これにより、非研削面11B,12B,22Bにおける十分な硬度(700HV以上)を確保することができる。
また、上記軸受部品(外輪11,21、内輪12,22、玉13およびころ23)では、加熱温度を500℃、保持時間を1時間とした熱処理を行った後において、上記接触面(外輪転走面11A,21A、内輪転走面12A,22A、転動面13A,23A)から0.4(mm)の深さの位置におけるビッカース硬度が、上記軸受部品の厚み方向において浸炭窒化層が形成されていない領域におけるビッカース硬度より80HV以上高くなっていてもよい。これにより、上記接触面における窒素濃度が0.4質量%以上であることを保証することができる。
次に、本実施の形態に係る軸受部品の製造方法について説明する。本実施の形態に係る軸受部品の製造方法では、上記本実施の形態に係る軸受部品(外輪11,21、内輪12,22、玉13およびころ23)を製造することができる。
図5を参照して、まず、工程(S10)として、鋼材準備工程が実施される。この工程(S10)では、まず、0.95質量%以上1.1質量%以下の炭素と、0.3質量%未満の珪素と、0.5質量%未満のマンガンと、0.008質量%未満の硫黄と、1.4質量%以上1.6質量%未満のクロムとを含み、残部鉄および不純物からなる鋼材が準備される。そして、当該鋼材が軸受部品の概略形状に成形される。たとえば、棒鋼、鋼線などを素材とし、当該棒鋼、鋼線などに対して切断、鍛造、旋削などの加工が施されることにより、軸受部品である外輪11,21、内輪12,22、または玉13およびころ23などの概略形状に成形された鋼材が準備される。
次に、工程(S20)として、焼入硬化工程が実施される。この工程(S20)では、上記工程(S10)において準備された鋼材に対して浸炭窒化処理および窒素拡散処理が順に施された後、当該鋼材がMs点(マルテンサイト変態開始点)以下の温度にまで冷却される。この工程(S20)については後に詳述する。
次に、工程(S30)として、焼戻工程が実施される。この工程(S30)では、上記工程(S20)において焼入硬化された鋼材に対して、A1点以下の温度で熱処理が施される。より具体的には、上記工程(S20)が完了した後、A1点以下の180℃以上220℃以下の温度(たとえば210℃)で鋼材が所定時間保持されることにより当該鋼材に焼戻処理が施される。その後、当該鋼材は室温の空気により冷却される(空冷)。これにより、鋼材の靭性などを向上させることができる。
次に、工程(S40)として、仕上げ工程が実施される。この工程(S40)では、焼戻処理が施された鋼材の接触面(外輪転走面11A,21A、内輪転走面12A,22Aおよび転動面13A,23A)に対する研削加工が実施される。これにより、本実施の形態に係る軸受部品である外輪11,21、内輪12,22、玉13およびころ23(図1および図2参照)が製造され、本実施の形態に係る軸受部品の製造方法が完了する。そして、製造された外輪11、内輪12および玉13が組み合わされることにより深溝玉軸受1(図1参照)が製造され、外輪21、内輪22およびころ23が組み合わされることにより円錐ころ軸受2(図2参照)が製造される。
次に、焼入硬化工程(S20)について、図6〜図9を参照して詳細に説明する。図6は、当該焼入硬化工程(S20)を詳細に説明するための図である。図7は、図6の雰囲気制御工程に含まれる未分解アンモニア(NH3)分圧制御工程を説明するための図である。また、図8は、図6の雰囲気制御工程に含まれる水素(H2)分圧制御工程を説明するための図である。また、図9は、図6の浸炭窒化工程に含まれる加熱パターン制御工程における加熱パターン(温度履歴)の一例を示す図である。図9において、横方向は時間を示しており、右に行くほど時間が経過していることを示している。
図6を参照して、焼入硬化工程(S20)では、まず、上記工程(S10)において準備された鋼材が浸炭窒化される浸炭窒化工程が実施される。次に、浸炭窒化工程において鋼中に侵入した窒素を拡散させるための窒素拡散工程が実施される。そして、窒素拡散工程が完了した後に、鋼材をMs点以下の温度にまで冷却する冷却工程が実施される。浸炭窒化工程では、アンモニア、一酸化炭素、二酸化炭素および水素を含む雰囲気中において鋼材が加熱される。
浸炭窒化工程は、熱処理炉内の雰囲気が制御される雰囲気制御工程30と、熱処理炉内において被処理物である鋼材に付与される温度履歴が制御される加熱パターン制御工程40とを備えている。この雰囲気制御工程30と加熱パターン制御工程40とは、独立に、かつ並行して実施することができる。そして、雰囲気制御工程30は、熱処理炉内の未分解アンモニア分圧が制御される未分解NH3分圧制御工程31と、熱処理炉内の水素分圧が制御されるH2分圧制御工程32と、熱処理炉内の一酸化炭素および二酸化炭素の少なくともいずれか一方の分圧が制御されるCO/CO2分圧制御工程33とを含んでいる。
CO/CO2分圧制御工程33では、下記の式(1)を参照して、熱処理炉内の一酸化炭素および二酸化炭素の少なくともいずれか一方の分圧が制御されることにより、炭素活量(ac *)が制御される。
そして、雰囲気制御工程30においては、上記の式(1)で定義されるac *が0.88以上1.27以下(好ましくは0.9以上1.1以下)となり、かつ下記の式(2)で表わされるαの値が0.012以上0.020以下(好ましくは0.013以上0.018以下)の範囲になるように、未分解NH3分圧制御工程31、H2分圧制御工程32およびCO/CO2分圧制御工程33が実施される。式(2)においてPN(atm)は未分解アンモニアの分圧であり、PH(atm)は水素の分圧である。
具体的には、図7を参照して、未分解NH3分圧制御工程31では、まず、熱処理炉内の未分解アンモニア分圧を測定する未分解NH3分圧測定工程(S11)が実施される。未分解アンモニア分圧の測定は、たとえばガスクロマトグラフや赤外線分析計を用いて実施することができる。そして、工程(S11)において測定された未分解アンモニア分圧に基づいて、熱処理炉へのアンモニアガスの供給量を増減させるNH3供給量調節工程(S13)の実施の要否を判断する、未分解NH3分圧判断工程(S12)が実施される。当該判断は、αの値が0.012以上0.020以下の範囲になるように予め決定された目標の未分解アンモニア分圧と、測定された未分解アンモニア分圧とを比較し、測定された未分解アンモニア分圧が目標の未分解アンモニア分圧になっているかどうかを判定することにより実施される。
未分解アンモニア分圧が目標の未分解アンモニア分圧になっていない場合には、熱処理炉内の未分解アンモニア分圧を増減させるための工程(S13)が実施された後、工程(S11)が再度実施される。工程(S13)は、たとえば、熱処理炉に配管を介して連結されたアンモニアガスのボンベから単位時間に熱処理炉に流入するアンモニアの量(アンモニアガスの流量)を当該配管に取り付けられたマスフローコントローラなどを備えた流量制御装置により調節することにより実施することができる。すなわち、測定された未分解アンモニア分圧が目標の未分解アンモニア分圧よりも高い場合、上記流量を低下させ、低い場合、上記流量を増加させることにより、工程(S13)を実施することができる。この工程(S13)において、測定された未分解アンモニア分圧と目標の未分解アンモニア分圧との間に所定の差がある場合、どの程度流量を増減させるかについては、予め実験的に決定したアンモニアガスの流量の増減と未分解アンモニア分圧の増減との関係に基づいて決定することができる。
一方、未分解アンモニア分圧が目標の未分解アンモニア分圧になっている場合には、工程(S13)が実施されることなく、工程(S11)が再度実施される。
また、H2分圧制御工程32は、上述の未分解NH3分圧制御工程31と同様に実施される。すなわち、図8を参照して、H2分圧制御工程32では、まず、熱処理炉内の水素分圧を測定するH2分圧測定工程(S21)が実施される。水素分圧の測定は、たとえば熱伝導ガス分析計を用いて実施することができる。そして、工程(S21)において測定された水素分圧に基づいて、熱処理炉への水素ガスの供給量を増減させるH2供給量調節工程(S23)の実施の要否を判断する、水素分圧判断工程(S22)が実施される。当該判断は、αの値が0.012以上0.020以下の範囲になるように予め決定された目標の水素分圧と、測定された水素分圧とを比較し、測定された水素分圧が目標の水素分圧になっているかどうかを判定することにより実施される。
水素分圧が目標の水素分圧になっていない場合には、熱処理炉内の水素分圧を増減させるための工程(S23)が実施された後、工程(S21)が再度実施される。工程(S23)は、たとえば、熱処理炉に配管を介して連結された水素ガスのボンベから単位時間に熱処理炉に流入する水素の量(水素ガスの流量)を当該配管に取り付けられたマスフローコントローラなどを備えた流量制御装置により調節することにより実施することができる。すなわち、測定された水素分圧が目標の水素分圧よりも高い場合、上記流量を低下させ、低い場合、上記流量を増加させることにより、工程(S23)を実施することができる。この工程(S23)において、測定された水素分圧と水素分圧との間に所定の差がある場合、どの程度流量を増減させるかについては、アンモニアの場合と同様に、予め実験的に決定した水素ガスの流量の増減と水素分圧の増減との関係に基づいて決定することができる。
一方、水素分圧が目標の水素分圧になっている場合には、工程(S23)が実施されることなく、工程(S21)が再度実施される。
図6を参照して、CO/CO2分圧制御工程33では、エンリッチガスとしてのプロパン(C3H8)ガス、ブタンガス(C4H10)などの供給量が調節されることにより、COおよびCO2の分圧の少なくともいずれか一方の分圧が制御され、ac *が調整される。具体的には、たとえば、赤外線ガス濃度測定装置を用いて雰囲気中の一酸化炭素の分圧PCOおよび二酸化炭素の分圧PCO2が測定される。そして、当該測定値に基づいて、上記の式(1)で定義されるac *が0.88以上1.27以下の範囲内の目標の値となるように、エンリッチガスとしてのプロパン(C3H8)ガス、ブタンガス(C4H10)などの供給量が調節される。
ここで、αの値は、上記の式(2)を参照して、未分解NH3分圧制御工程31、H2分圧制御工程32およびCO/CO2分圧制御工程33により、それぞれ未分解アンモニア分圧、水素分圧およびac *の少なくともいずれか1つを変化させることにより制御することができる。すなわち、αの値は、たとえば未分解NH3分圧制御工程31およびCO/CO2分圧制御工程33により、未分解アンモニア分圧およびac *を一定に保持した状態で、H2分圧制御工程32により水素分圧を変化させて制御してもよいし、H2分圧制御工程32およびCO/CO2分圧制御工程33により、水素分圧およびac *値を一定に保持した状態で、未分解NH3分圧制御工程31により未分解アンモニア分圧を変化させて制御してもよい。
さらに、図6を参照して、加熱パターン制御工程40では、鋼材に付与される加熱履歴が制御される。具体的には、図9に示すように、鋼材が上述の雰囲気制御工程30によって制御された雰囲気中で、A1変態点以上である820℃以上880℃以下(好ましくは830℃以上870℃以下)の温度で加熱され、180分以上600分以下(好ましくは240分以上480分以下)の時間保持される。そして、上記保持時間が経過するとともに加熱パターン制御工程40は終了し、同時に雰囲気制御工程30も終了する。
図6を参照して、浸炭窒化工程が終了した後に窒素拡散工程が実施される。この工程では、上記浸炭窒化工程での処理温度以下の温度で鋼材が加熱され、30分以上120分以下(好ましくは45分以上90分以下)の時間保持される。これにより、鋼中に侵入した窒素を拡散させることができる。また、この工程では、ac *が0.88以上1.27以下(好ましくは0.9以上1.1以下)となり、かつ、αの値が0.003以上0.012以下(好ましくは0.003以上0.008以下)の範囲となるように熱処理炉内の雰囲気が制御される。ac *値およびα値の制御は、上記浸炭窒化工程の場合と同様に実施することができる。
図6を参照して、窒素拡散工程が終了した後に冷却工程が実施される。この工程では、鋼材が油中に浸漬(油冷)されることにより、MS点以下の温度にまで冷却される。以上の工程(浸炭窒化工程、窒素拡散工程および冷却工程)が順に実施されることにより、鋼材の表層部が浸炭窒化されるとともに焼入硬化される。
(実施例1)
まず、軸受部品の耐久性に対して、表層部の平均窒素濃度および窒素濃度のばらつきが及ぼす影響を調査した。具体的には、軌道輪(内輪)の転走面に圧痕を形成して圧痕起点型はく離寿命試験を行い、内輪の異物混入潤滑下における寿命を評価した。実験手順は以下の通りである。
試験は、JIS規格6206型番の深溝玉軸受(内径30mm、外径62mm、幅16mm、転動体9個)を用いて実施した。まず、上記本実施の形態と同様の手順により内輪を作製した(浸炭窒化温度:850℃、焼戻温度:180℃)。浸炭窒化工程では未分解アンモニア分圧、水素分圧、炭素の活量、熱処理時間および焼入温度を調整することにより、内輪の表面付近に侵入する窒素の濃度分布を制御した。また、比較のため、浸炭窒化工程後に窒素拡散工程を実施しない内輪も作製した。
次に、作製した内輪の転走面の溝底部中央に円すい型ダイヤモンドのロックウェル硬さ測定用圧子を荷重196Nで押し付けて圧痕を形成した。圧痕は内輪1個当り30個形成し、周方向に等間隔に(すなわち中心角12°ごとに)形成した。
次に、作製した内輪と、外輪、転動体および保持機とを組合わせて軸受を作製した。そして、作製した軸受を用いて寿命試験を行った。試験機には、2個の軸受に対して均等にラジアル荷重を負荷する構造のものを用いた。1個の軸受に対して約3.04GPaの荷重を負荷し、3000rpmの回転数で軸受を回転させて試験を行った。また、潤滑は試験軸受が配置されたハウジング内に定量の油を流し続けることにより行った。
上記試験により、内輪の表層部における窒素濃度と圧痕起点型はく離寿命との関係について調査した。また、表層部における窒素濃度を一定(0.4質量%)にした場合において、表層部における窒素濃度のばらつきと圧痕起点型はく離寿命との関係についても調査した。なお、「表層部の窒素濃度のばらつき」は、上記実施の形態と同様の方法により測定した(図3および図4参照)。
上記試験結果を図10および図11に示す。図10は、内輪の表層部の窒素濃度(横軸、質量%)と、圧痕起点型はく離寿命のL10寿命(縦軸、h)との関係を示している。図11は、内輪の表層部の窒素濃度のばらつき(横軸、質量%)と圧痕起点型はく離寿命のL10寿命(縦軸、h)との関係を示している。
図10に示すように、表層部における窒素濃度が0.2質量%(図10中破線に示す)未満である場合にはL10寿命が低下した。一方で、後述の調査結果において説明するように、表層部の窒素濃度が0.7質量%を超える場合には残留オーステナイト量が過大となり、接触面の硬度が700HV以下にまで低下した(図19および図20参照)。
また、図11に示すように、窒素濃度のばらつきが0.1質量%(図11中破線に示す)以下である場合には一定以上のL10寿命が確保されているのに対して、0.1質量%を超える場合にはL10寿命が大きく低下した。これらの結果より、異物混入潤滑下での寿命の低下を抑制し、かつ接触面の硬度を700HV以上に維持するためには、表層部の窒素濃度を0.2質量%以上0.7質量%以下にすること、つまり表層部の平均窒素濃度を0.3質量%以上0.6質量%以下とし、かつ表層部の窒素濃度のばらつきを0.1質量%以下にすることが有効であることが分かった。
(実施例2)
次に、表層部の窒素濃度のばらつきと窒素濃度の傾きとの関係について調査した。まず、上記本実施の形態と同様の手順により工程(S10)〜(S30)を実施して内輪を作製した(実施例)。浸炭窒化工程の時間は4時間とし、窒素拡散工程の時間は1時間とした。また、比較のため、浸炭窒化工程後に窒素拡散工程を実施しない内輪も作製した(比較例)。そして、仕上げ工程(S40)を実施する前に作製した内輪について表層付近の窒素濃度分布を調査した。
図12は、作製した内輪の深さ方向における窒素濃度分布を示している。図12において、横軸は内輪の深さ(mm)を示し、縦軸は窒素濃度(質量%)を示している。また、図12において(A)は実施例の測定結果を示し、(A’)は実施例の測定結果に対する近似曲線を示し、(B)は比較例の測定結果を示し、(B’)は比較例の測定結果に対する近似曲線を示している。たとえば、窒素濃度が0.3質量%および0.1質量%の深さの2点間で窒素濃度の傾きを算出すると、(0.3−0.1)/距離(m)の関係式により窒素濃度の傾きが得られ、その結果実施例では比較例よりも窒素濃度の傾きが大きくなった(−15(1/m)以上であった)。また、熱処理による内輪の変形量を0.2mmとして表層部の平均窒素濃度が0.4質量%になるように仕上げ工程(S40)を実施すると、比較例では表層部の窒素濃度のばらつきが0.25質量%であったのに対して、実施例では0.08質量%(0.1質量%以下)であった。この結果より、浸炭窒化工程後に窒素拡散工程を実施することが、仕上げ加工後の表層部の窒素濃度のばらつきの低減に対して有効であることが分かった。
(実施例3)
次に、軸受部品の耐久性に対して、表層付近の平均残留オーステナイト量および残留オーステナイト量のばらつきが及ぼす影響を調査する実験を行った。まず、上記実施の形態と同様の手順により内輪を作製した。浸炭窒化工程は、表層部の平均窒素濃度が0.4質量%になるように実施した。焼戻工程では、処理温度を調整することにより、内輪の転走面付近の残留オーステナイト量を制御した。次に、作製した内輪と他の軸受部品(外輪、転動体および保持器など)とを組合わせて軸受を作製した。そして、上記実施例1の場合と同様に寿命試験を行った。
図13は、内輪の転走面から0.05mmの深さの位置における残留オーステナイト量(横軸、体積%)と、圧痕起点型はく離寿命のL10寿命(縦軸、h)との関係を示している。図13に示すように、残留オーステナイト量が増大するのに伴いL10寿命が大きくなった(残留オーステナイト量が22体積%を超える場合にはL10寿命が100h以上となった)。一方で、残留オーステナイト量が38体積%を超えると、接触面の硬度が700HV以下に低下した。この結果より、異物混入潤滑下での寿命および接触面の硬度の低下を抑制するためには、転走面から0.05mmの深さの位置における残留オーステナイト量を22体積%以上38体積%以下にすること、つまり上記深さ位置における平均残留オーステナイト量を25体積%以上35体積%以下とし、かつ上記深さ位置における残留オーステナイト量のばらつきを3体積%以下にすることが有効であることが分かった。
(実施例4)
次に、軸受部品の寸法安定性に対して、軸受部品全体の平均残留オーステナイト量が及ぼす影響について調査した。まず、外径(φ)60mm、内径(φ)54mm、幅(t)15mmのリング状試験片を、浸炭窒化温度、焼戻温度および表層部の窒素濃度を変化させて作製した。そして、この試験片に対して120℃で2500時間保持する熱処理を実施し、当該熱処理前後における外径の寸法差を当該熱処理前の外径で除することにより経年寸法変化率を算出した。
図14は、試験片の表面からの深さ(横軸、mm)と、残留オーステナイト量(縦軸、体積%)との関係を示している。図14中の凡例には「浸炭窒化温度−焼戻温度−表層部の窒素濃度」の表記により熱処理条件が示されている。たとえば、「850℃−180℃−0.1質量%」の表記は、浸炭窒化温度が850℃、焼戻温度が180℃、表層部の窒素濃度が0.1質量%であることを示している。図14の残留オーステナイト量の分布より試験片内の平均残留オーステナイト量を算出するとともに、先に算出した対応する試験片の経年寸法変化率との関係を調査した。図15は、試験片全体の平均残留オーステナイト量(横軸、体積%)と経年寸法変化率(縦軸)との関係を示している。
図15に示すように、平均残留オーステナイト量と経年寸法変化率とは比例関係にあった。また、平均残留オーステナイト量を18体積%以下とすることにより、経年寸法変化率を60×10−5以下にまで低下させることが可能であった。
(実施例5)
次に、軸受部品の静的負荷容量に対して、表層部に存在する炭窒化物が及ぼす影響について調査した。クロム(Cr)を含有する鋼は、浸炭窒化処理などにより鋼中に窒素を侵入させると、母材中のクロム濃度が低下してオーステナイト単相領域が拡大するため、炭素の固溶限濃度が上昇する。その結果、特に対策を講じることなく高濃度の浸炭窒化処理を施すと、脱炭は生じなくとも、炭窒化物が減少または消失する。ここで、軸受部品の高強度化の観点からは、炭窒化物を残存させ、当該炭窒化物による析出強化機能を利用することが好ましいと考えられる。
上記本実施の形態では、浸炭窒化工程における炭素活量ac *の値を0.88以上1.27以下に設定し、窒素富化層の炭素固溶限の上昇よりも早く浸炭を行うことにより炭窒化物の消失が抑制されている。この炭窒化物の残存による効果を確認する実験を行った。
図16は従来の方法により浸炭窒化を行った場合における試験片の断面SEM(Scanning Electron Microscope)写真であり(倍率5000倍)、図17は上記本実施の形態と同様の手順により浸炭窒化を行った場合(ac *=1)における試験片の断面SEM写真である(倍率5000倍)。図16の写真では炭窒化物がほとんど消失しているのに対して、図17の写真では直径0.5μm以下の炭窒化物が100μm2当たりに少なくとも5個以上存在していた。
次に、上記炭窒化物の効果を確認するため、試験片に浸炭窒化処理を異なった条件で実施し、炭化物の存在量(数密度)を変化させつつ、硬度を750HVとしたサンプルを作製し、当該サンプルの表面に直径(φ)9.525mmの窒化珪素製の玉を押し付けることにより、形成される圧痕深さを測定する実験を行った。実験結果を図18に示す。図18において、横軸は窒化珪素製の玉の押し付ける圧力(GPa)を示し、縦軸は玉の押し付けにより形成された圧痕の深さ(μm)を示している。また、図18において正方形印は炭窒化物が消失したサンプル(比較例)、菱形印は直径0.5μm以下の炭窒化物が100μm2当たりに5個以上存在したサンプル(実施例)の測定結果を示している。
図18に示すように、炭窒化物が消失したサンプルに比べて、直径0.5μm以下の炭窒化物が100μm2当たりに5個以上存在するサンプルでは、圧痕の深さが小さくなっていることが確認された。この結果より、軸受部品の静的負荷容量の向上のためには、表層部において直径0.5μm以下の炭窒化物が100μm2当たりに5個以上存在することが有効であることが分かった。
(実施例6)
次に、非研削面の硬度に対して、非研削部の窒素濃度および残留オーステナイト量が及ぼす影響について調査した。まず、上記本実施の形態と同様の手順により軸受部品を作製した。このとき、角部やぬすみ部などの非研削部の窒素濃度および残留オーステナイト量を変化させた。そして、上記非研削部における窒素濃度および残留オーステナイト量と、非研削面の硬度との関係について調査した。
上記実験結果を図19および図20に示す。図19において、横軸は非研削部における窒素濃度(質量%)を示し、縦軸は非研削部における残留オーステナイト量(体積%)を示している。また、図20において、横軸は非研削部における残留オーステナイト量(体積%)を示し、縦軸は非研削面から0.1mmの深さの位置における硬度(HV)を示している。図19に示すように、非研削部の窒素濃度が0.7質量%以上である場合には、残留オーステナイト量が35体積%以上になった。そして、図20に示すように、非研削部の残留オーステナイト量が35体積%以上である場合には、上記深さ位置での断面硬度が700HV以下にまで低下した。この結果より、非研削部の十分な硬度を確保するためには、当該非研削部の窒素濃度を0.7質量%未満とすることが有効であることが分かった。
一般に、機械の破壊事故のうちの80〜90%は疲労が原因で発生している。また、それらの破壊の発端となる箇所は、孔、切り欠、段付き部、亀裂、欠陥または打ち傷などの形状変化部である。つまり、これらの形状変化部において応力が集中して疲労強度が低下することにより部品が破壊される。非研削面における硬度が低い場合には、図21の写真に示すように組み付けや搬送時に打ち傷Aが発生し、当該打ち傷Aに応力が集中して破壊の起点となる可能性が高くなる。そのため、製品の十分な耐久性を確保するためには非研削面における硬度を700HV以上に確保する必要がある。
(実施例7)
次に、軸受部品の接触面における窒素濃度が0.4質量%以上であることを保証するための断面硬度の測定位置および断面硬度差分の基準値などを決定するための方法について説明する。
(1) 試験片および実験方法について
(1−1) はじめに
まず、窒素濃度と相関関係が高い高温焼戻での加熱温度および保持時間を決定する必要がある。ここで、高温焼戻による変態は熱活性化過程であるため、加熱温度の高温化と保持時間の長時間化とは同じ意味を持ち、両者を共に変数にすることには意味はないと考えられる。そこで、本実施例では、保持時間を一定(1時間)に固定した上で、加熱温度を300℃、400℃、500℃、600℃、700℃と変更し、硬度の差が最も明確になる加熱温度を調べることにより最適な加熱温度を決定した。
また、各材料の化学成分の違いによる焼入性の差や焼入時の冷却速度の差は、焼入後の硬度に影響を及ぼし、また高温焼戻後の硬度にも影響を及ぼすと考えられる。そのため、本実施例では断面硬度の絶対値そのものを使用せず、窒化されていない表層から深い位置(芯部)での硬度(ここではたとえば熱処理後最表面から1mmという深さでの硬度とした)と、窒化された領域内における任意の深さの位置での硬度との硬度差(硬度差分)を指標として採用した。つまり、材料の化学成分は各材料ロット間で違う場合があり、当該硬度差分はこのような違いをオフセットするためのものである。
(1−2) 対象試験片
調査対象とした試験片の化学成分を表1に示す。材料は全て上記成分範囲内とし、これらを様々な熱処理炉、熱処理雰囲気で浸炭窒化処理を施した。なお、浸炭窒化処理の温度は840℃以上860℃以下という範囲に含まれていた。
具体的には、試験片番号1については、処理温度を850℃、処理時間を120分(min)とし(以下、「850℃×120min」というように表記する)、未分解アンモニア分率:0.2体積%、炭素の活量:0.9で浸炭窒化処理を行なった。また、試験片番号2については、840℃×70min、未分解アンモニア分率:0.1体積%、炭素の活量:0.85で浸炭窒化処理を行なった。また、試験片番号3については、850℃×120min、未分解アンモニア分率:0.1体積%、炭素の活量:0.9で浸炭窒化処理を行なった。また、試験片番号4については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.1体積%、炭素の活量:0.9で浸炭窒化処理を行なった。また、試験片番号5については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.1体積%、炭素の活量:0.9で浸炭窒化処理を行なった。
また、試験片番号6については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.13体積%、炭素の活量:0.9で浸炭窒化処理を行なった。また、試験片番号7については、850℃×150min、未分解アンモニア分率:0.1体積%、炭素の活量:0.85で浸炭窒化処理を行なった。また、試験片番号8については、850℃×150min、未分解アンモニア分率:0.25体積%、炭素の活量:0.9で浸炭窒化処理を行なった。また、試験片番号9については、850℃×180min、未分解アンモニア分率:0.3体積%、炭素の活量:0.95で浸炭窒化処理を行なった。また、試験片番号10については、850℃×90min、未分解アンモニア分率:0.2体積%、炭素の活量:0.9で浸炭窒化処理を行なった。
(1−3) 窒素濃度測定方法
高温焼戻後のサンプルの断面硬度と窒素濃度との相関を調査するため、サンプル(鋼)中の窒素濃度分布を測定する必要がある。浸炭窒化処理後の鋼中窒素濃度の測定には、EPMAの線分析を用いた。定量化は既知の窒素濃度を有する校正用試験片を分析し、その検量線を用いて実施した。EPMA分析(Electron Probe Micro Analysis)に用いたサンプルおよび測定方法の模式図は、図22に示す通りである。
図22に示すように、たとえば内輪12をサンプルとして用いる場合を考える。当該サンプルについて、浸炭窒化処理後のサンプルの窒素濃度を測定した。具体的には、当該サンプルから図22に示すような試験片12Aを切り出し、当該試験片の外周面12Bから内周面12Cに向かう方向に沿って、試験片12Aの高さ方向の中央部(半幅となる位置)において、切り出し端面についてEPMA線分析を行った。
(1−4) 断面硬度測定方法
上記(1−3)で述べた試験片12Aにおいて、EPMA分析を行なった切り出し端面にて硬度測定を行なった。測定方法としては、マイクロビッカース硬度計を用いてビッカース硬度測定を行なった。
(2) 高温焼戻の保持温度の探索
(2−1) 実験内容
窒素濃度と相関関係の高い焼戻温度(加熱温度)を探索するため、浸炭窒化処理後に180℃という加熱温度で2時間の保持時間という焼戻を施した試験片12Aに、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃というそれぞれの加熱温度で保持時間を1時間とした5種類の高温焼戻を行った。なお、高温焼戻時の雰囲気は大気雰囲気とした。そして、それぞれの高温焼戻条件で処理された試験片について断面硬度を測定した。なお、ここでは窒素侵入量が多いと考えられる浸炭窒化処理条件の試験片番号8、9の試験片について測定を行なった。
(2−2) 実験結果
実験結果をまとめたグラフを図23に示す。図23に示したグラフは、焼戻温度(℃)を横軸とし、断面硬度の差分(すなわち(断面硬度の最大値)−(熱処理後最表面から1mmの深さ位置での断面硬度):ΔHVとも表示する)を縦軸にして実験結果を整理したものである。図23から分かるように、断面硬度の差分ΔHVは、加熱温度を500℃とし、保持時間を1時間とした高温焼戻後に最も大きくなっていた。この加熱温度を500℃としたときの断面硬度の差分ΔHVは、加熱温度を300℃または700℃とした高温焼戻後の当該断面硬度の差分ΔHVの約2倍の値を示していた。したがって、相対的に窒素濃度と相関の高い焼戻後の硬度は、加熱温度を500℃程度とした焼戻後の硬度であると考えられる。このため、以下の実験では、断面硬度の測定を、加熱温度を500℃とし、保持時間を1時間とした高温焼戻後の試験片について実施した。
(3) 窒素濃度と断面硬度の差分(ΔHV)との関係の調査
ここでは表1に示した組成の各試験片について浸炭窒化処理を施し、さらに高温焼戻として加熱温度を500℃、保持時間を1時間という熱処理を行なった後、図22を用いて説明したように試験片12Aの窒素濃度をEPMA分析により測定した。浸炭窒化処理は、加熱温度が850℃、炭素の活量/未分解アンモニア分率(γ)の値が4.75となる条件で行った。また、当該試験片12Aについて、図22に示した切り出し端面において深さ方向での断面硬度を測定した。そして、当該深さ方向でのある位置における断面硬度と熱処理後最表面から1(mm)という深さ位置における断面硬度との差分(断面硬度差分(ΔHV))の関係を調査した。その結果を図24および図25に示す。
図24および図25において、横軸は窒素濃度(質量%)であり、縦軸は断面硬度差分(ΔHV)(単位はビッカース硬度)である。また、図25は、図24から窒素濃度が0〜0.1質量%という範囲での窒素濃度と断面硬度差分との関係を抜き出したものである。図24より、窒素濃度が0を超え0.1質量%以下の範囲においては、窒素濃度と断面硬度差分との相関が強く、一方で窒素濃度が0.1質量%を超える範囲では窒素濃度と断面硬度差分との相関は相対的に弱いことが分かった。これは窒素濃度が高い領域で不完全焼入が発生する場合があること、ならびに試験片中に固溶した窒素は必ずしもマルテンサイトの分解速度低下に寄与するとは限らないためと考えられる。また、図25より窒素濃度が0を超え0.1質量%以下の範囲において窒素濃度と断面硬度差分との相関係数を算出すると、両者の相関係数は0.8348と高い。このため、0〜0.1質量%という窒素濃度の範囲であれば、断面硬度差分から窒素濃度を予測することが可能であると考えられる。したがって、以下の実験では、窒素濃度と断面硬度差分とが正の相関を持つ領域(0〜0.1質量%)の略中間位置である、窒素濃度が0.06質量%と断面硬度差分が80ΔHVとの関係を用いることにした。
(4) 浸炭窒化処理の時間と窒素濃度分布との関係
転がり軸受の構成部品の場合、その形状を整えるために焼入および焼戻後に研削加工を行う。したがって、一定の処理条件で浸炭窒化処理を行うと、その研削加工の取代により製品最表面(転走面または転動面)における窒素濃度が変化することになる。このため、製品最表面における窒素濃度を0.4質量%以上に保つためには、片側研削取代により浸炭窒化処理の条件を変更する必要がある。
図26には、上記成分範囲内の鋼に加熱温度が850℃、炭素の活量/未分解アンモニア分率(γ)の値が4.75の条件で、処理時間を4時間(図中(A))、6時間(図中(B))、8時間(図中(C))、10時間(図中(D))として浸炭窒化処理をした場合の窒素濃度分布(高温焼戻を行う前)を示している。図26の横軸は表面からの深さ(mm)、縦軸は窒素濃度(質量%)を示している。ここで、γの値が5より大きい条件で浸炭窒化処理をした場合、窒素侵入量が低下して窒素濃度が高い領域がより表面側に偏ることになる。この結果、処理時間を非常に長くする方法以外では、製品表面における窒素濃度を0.4質量%以上にすることが事実上困難になる。また、浸炭窒化処理の温度が860℃以上の場合にはγの値を5以下に保つことが困難であり、また840℃以下の場合には窒素の鋼中への拡散速度が遅くなり、結果として処理時間が長くなる。このため、上記鋼の浸炭窒化処理には、850℃程度の温度が適切である。なお、浸炭窒化処理時の加熱温度は焼入後の旧オーステナイト結晶粒の大きさで判別することが可能であり、加熱温度が850℃である場合には上記鋼では旧オーステナイト結晶粒の大きさがJIS規格で9番〜11番の範囲となる。
図26より、製品最表面の片側研削取代が0.125(mm)である場合には浸炭窒化処理の時間を4時間、0.15(mm)である場合には6時間、0.175(mm)である場合には8時間、0.2(mm)である場合には10時間とすることにより、製品最表面における窒素濃度を0.4質量%以上にすることが可能であることが分かった。
(5) 窒素拡散処理と窒素濃度分布との関係
不完全焼入組織の発生や残留オーステナイト量の過多による硬度低下を防止するためには、浸炭窒化処理後に窒素拡散処理を行うことが有効である。図27は、窒素拡散処理後の鋼中の窒素濃度分布(測定値および計算値)を示している。図27において、横軸は表面からの深さ(mm)を示し、縦軸は窒素濃度(質量%)を示している。図27中において、(A)は浸炭窒化処理の処理時間が6時間、窒素拡散処理の処理時間が2時間(未分解NH3濃度が0.1体積%)である場合の計算値、(B)は浸炭窒化処理の処理時間が6時間、窒素拡散処理の処理時間が1時間(未分解NH3濃度が0.05体積%)である場合の計算値、(C)は浸炭窒化処理の処理時間が6時間、窒素拡散処理の処理時間が2時間(未分解NH3濃度が0.05体積%)である場合の計算値、(D)は浸炭窒化処理の処理時間が4時間、窒素拡散処理の処理時間が2時間(未分解NH3濃度が0.1体積%)である場合の計算値を示している。これらの計算値は、窒素の拡散係数を1.2×10−6(m2/s)として算出した。(A)〜(D)に示す計算値は、実測値とほぼ合致した。
次に、浸炭窒化処理の時間および窒素拡散処理の時間を変更したFEM解析を行い(浸炭窒化処理時間:4、5、6、7、8、9、10時間、窒素拡散処理時間:1、2時間)、各処理条件での窒素濃度分布を計算した。そして、当該計算結果を目的変数とした回帰式を算出した。さらに、上記高温焼戻(加熱温度:500℃、保持時間:1時間)により窒素が0.03mm内部に拡散すること、および熱処理後の仕上げ加工における研削取り代(0.1〜0.2mm)などを考慮して、上記高温焼戻後における断面硬度差分の測定位置を決定する下記の式(3)および(4)を構築した。下記の式(3)は、製品最表面の窒素濃度が0.4質量%以上であることを保証するための断面硬度の測定位置(x1)を示し、式(4)は、製品最表面の窒素濃度が0.3質量%以上であることを保証するための断面硬度の測定位置(x2)を示している。なお、この場合には窒素拡散処理における加熱温度を850℃、未分解NH3濃度を0.06体積%、炭素の活量を0.9として計算した。
(6) 品質保証の手順
上記(1)〜(5)の検討結果より、熱処理後に製品最表面における窒素濃度が0.4質量%以上であることを保証する手順は以下の通りになる。まず、浸炭窒化処理の時間T1(h)、窒素拡散処理の時間T2(h)を上記式(3)に代入して高温焼戻後の断面硬度の測定位置x1(mm)を算出する。次に、加熱温度を500℃、保持時間を1時間として高温焼戻を施す。次に、上記高温焼戻後の製品から試験片を切り出し、算出した上記測定位置x1(mm)および窒化されていない内部における断面硬度を測定し、当該測定値の差より断面硬度差分を算出する。そして、当該断面硬度差分が80ΔHV以上であるか否かを判別する。これにより、当該断面硬度差分が80ΔHV以上であれば、研削加工後の製品最表面における窒素濃度が0.4質量%以上であることを保証することができる。
浸炭窒化処理の時間T1が6時間、窒素拡散処理の時間T2が2時間である場合には、上記式(3)より0.4mmの深さ位置の断面硬度差分が80ΔHV以上であるときに製品最表面の窒素濃度が0.4質量%以上であることが保証される。また、浸炭窒化処理の時間T1が6時間未満であり、また窒素拡散処理の時間T2が2時間未満である場合にも、同様に0.4mmの深さ位置での断面硬度差分により評価することができる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。