鋼の連続鋳造に際しては、従来から耐スポーリング性に優れたAl2O3−SiO2−C質ノズルが広く使用されてきたが、近年の鋼種の多様化に伴って連続鋳造に使用する耐火物の損傷やその程度が、溶鋼側から供給される成分の影響を強く受けるようになってきた。
特に、高酸素鋼の連続鋳造については、溶鋼による耐火物の脱炭作用、及び溶鋼中に存在するFeO、MnO、B2O3、SiO2、CaO等の酸化物(溶鋼中に存在する非金属介在物を総称して、以下「スラグ成分」ともいう。)が溶鋼側から供給され続けられることで、耐火物との低融化反応により浸食性の強いAl2O3−SiO2−MnO−FeO−CaO系など複合酸化物が耐火物稼働界面や組織中で継続的に生成し、溶鋼と共に流下することで耐火物の損傷が激しくなってくる。
例えば、鍋とタンディッシュ間の無酸素鋳造を目的に適用されている鍋用ロングノズルでは、溶鋼が継続的に衝突する内孔湯当たり部分や溶鋼温度で長時間接触する溶鋼浸漬部分での損傷が激しく、その寿命が著しく短くなる等の問題が発生している。また、同じ材質系が使用される浸漬ノズルや下部ノズルでも同様の問題が生じている。
このため、耐火物の損傷抵抗性を高めるための一般的な方法として、Al2O3−SiO2−C系材質では、脱炭による組織劣化を防止するため、炭素含有量、あるいは前記スラグ成分等との低融化をもたらす主成分となり得る耐火物側のSiO2量を減じ又は含まない組成にする等の対策が試みられてきた。しかし、SiO2やCを減じることにより、一定の効果はあるものの、主骨材として添加しているAl2O3成分がMnO、FeO、B2O3、SiO2、CaO等と反応し低融点化するため、十分な効果が得られていないのが実状である。
このような状況に鑑み、Al2O3骨材の一部又は全部を、前記スラグ成分と反応しにくい組成の骨材に置換した耐火物も提案されている。
例えば、特許文献1には、主としてアルミナ及び黒鉛からなる配合物に、粒度が0.02〜1.0mm以下のマグネシアを3〜60質量%以下配合したアルミナ−マグネシア−黒鉛系耐火物、又はこの耐火物中にスピネルを含有する耐火物が提案されている。
特許文献2には、ノズル全体又は溶鋼と接するノズルの内孔部の全部若しくは一部が、鉱物相としてのスピネル又はスピネル及びペリクレースからなる耐火材料が提案されている。
特許文献3には、ノズル全体又は溶鋼と接するノズルの内孔部の全部若しくは一部が、スピネル50〜95質量%、ペリクレース0〜20質量%、黒鉛5〜30質量%、不可避の不純物3質量%以下のスピネル−ペリクレース−黒鉛系の耐火物である浸漬ノズルが提案されている。
これら多くの提案があるが、鋼種その他の条件によって耐用性が異なることもあり、また更なる連続鋳造用ノズルの長寿命化の要求に対して、連続鋳造用ノズル用耐火物及びそのノズル自体の高耐用化が必要になってきた。
従来技術において連続鋳造用ノズルの耐用性を決定付けている第一の原因は、連続鋳造用耐火物の高い気孔率にある。連続鋳造用ノズルの溶鋼に接触する耐火物は、耐スポーリング性(押し割れの防止をも含む)を向上させるために、内張材質として一般的にその見掛け気孔率が18%以上35%以下に設定され、本体部分のAl2O3−C系材質と一体成形されて使用される場合が多い。このような内張材質の高気孔率な組織では、スピネル(Al2O3・MgO)やペリクレース(MgO)の骨材を添加したとしても、浸食性、浸透性の強い成分を含むスラグ成分が気孔を介して容易に組織深部に浸透し、耐火物粒子の溶解を早める。
第二の原因は、MgO、CaOなど高い膨張特性を持った成分系を使用しにくい連続鋳造用ノズルの使用環境にある。すなわち、連続鋳造用ノズルは、予熱が十分でない状態、あるいは無予熱に近い状態で使用される場合も多く、更には、使用後に取り置きされて室温近くまで冷却した後、再度使用されることも少なくない。このような使用環境の連続鋳造用ノズルに内張材が適用された場合、その内張材とするスピネル(Al2O3・MgO)やペリクレース(MgO)骨材を添加した耐火物層は、コランダム(Al2O3)と比較して高熱膨張であるために、本体部分を押し割る可能性が高くなることに加え、フリーのアルミナとの併存下でのスピネル化に伴う体積膨張や、フリーのアルミナが無い場合でもMgO成分の耐火物内での移動に伴う緻密化による高弾性な層の生成が原因となり、耐スポーリング性が損なわれやすく耐用向上が図れていない。
また一方では、鋼中への耐火物からの炭素の溶出等による鋼品質の低下を抑制するために、耐火物内の炭素含有量を低減した材料が選択される動向があり、耐火物の耐熱衝撃性が低下する傾向が強くなってきた。
このように高度な耐食性と耐熱衝撃性が同時に求められる中、構造及び材質の両面を改善する設計で、耐スポーリング性と耐食性とを兼ね備えさせる提案が行われている。
例えば特許文献4には、CaO換算で8.5〜40重量%を含有するCaO含有粉末と、SiO2含有量1重量%未満のアルミナクリンカー、スピネルクリンカ、マグネシアクリンカーの1種又は2種以上との混合粉末からなり、同混合粉末中のカーボン及びSiO2 の含有量がそれぞれ1重量%未満で、かつ0.21mm以下の粒径のものを20〜70重量%含む連続鋳造用ノズル内孔体が提案されている。
流し込み施工体としたこの内孔体を溶鋼流通経路たる内孔全体に備えた浸漬ノズルは、耐食性と共に耐熱衝撃性をも一定程度満足するものであった。しかしながら長時間使用した際等に、この形態の浸漬ノズルに、その吐出孔付近を起点とする破壊が生じ、又は当該内孔体の剥離ないし消失が生じることとなった。
このように、耐火物との低融化反応により浸食性の強いFeO−MnO−Al2O3−SiO2−CaO系など複合酸化物の鋼中介在物(スラグ成分)を伴う溶鋼の連続鋳造においては、耐スポーリング性を備えた上で、優れた耐浸潤性・耐食性が得られる連続鋳造用の浸漬ノズルはこれまで提供されていない。特に、溶鋼中の酸素を100ppm以上含有する溶鋼においては、ほとんど長時間又は複数チャージ(溶鋼鍋の溶鋼量を1チャージとする。「チャージ」は「ch」とも表記する。)の鋳造ができない状況である。
前述の背景の中、本発明者らはスピネル質で炭素成分を含有していない不定形耐火物からなる層(以下単に「不定形耐火物層」ともいう。)を流し込み工法により内孔面に内側層として設置した浸漬ノズルを開発し、低炭素含有鋼又は浸食性の強い成分(スラグ成分)を含有する溶鋼の鋳造に供してきた。
しかしながら浸食性の強い成分(スラグ成分)を含有する溶鋼の鋳造においては、それら浸食性の強い成分が前記の不定形耐火物層に浸潤し、この浸潤に伴って不定形耐火物層が膨張して、不定形耐火物層自体の剥離や浸漬ノズル本体部分の層を破壊する現象を生じることがあった。これら不定形耐火物層や本体部分の損傷は、溶鋼浸漬部、特に吐出孔付近で顕著であり、吐出孔から下方の欠損等による破片が鋼の品質に悪影響を及ぼしていた。
そこで本発明は、FeO−MnO−Al2O3−SiO2−CaO系などの耐火物にとって浸食性の強い複合酸化物系の鋼中介在物(スラグ成分)を含む溶鋼、特に、酸素を100ppm以上含有する溶鋼の連続鋳造において、前記スラグ成分等に対する高い耐浸潤性を備えると共に、内孔側の内側層や本体部分の破壊を防止することのできる浸漬ノズルを提供することを課題とする。またこれらにより、現状1チャージの使用が限界である浸漬ノズルの複数チャージ使用を可能にすることを課題とする。
本発明は、次の(1)〜(4)に記載の浸漬ノズルを提供する。
(1)1000℃非酸化雰囲気中での加熱後の常温における見掛け気孔率が12%以上である耐火物により本体部分が構成されている鋼の連続鋳造用の浸漬ノズルにおいて、1000℃非酸化雰囲気中での加熱後の常温における見掛け気孔率が2%以上8%以下、かつ、1500℃非酸化雰囲気中の熱間における曲げ強度が15MPa以上40MPa以下である耐火物からなる内側層が前記本体部分の内孔側の一部又は全部に配置されており、前記内側層の耐火物は、Al 2 O 3 とMgOの合計が94質量%以上97質量%以下であってこのAl 2 O 3 及びMgO成分はスピネル又はスピネルとコランダムからなり、フリーの炭素が2質量%以上5質量%以下、残部が不可避成分を含む酸化物又は無機化合物からなり、Al 2 O 3 とMgOとのモル比(Al 2 O 3 /MgO)が1.05以上2.00以下であることを特徴とする、浸漬ノズル。
(2)前記内側層とその外側に隣接して存在する本体部分である外側層との間に、空間又は可縮性を有するモルタル層が存在しており、この空間又は可縮性を有するモルタル層が式1及び式2を満たす、(1)に記載の浸漬ノズル。
Sm ≧ (Ri×αi/100−Ro×αo/100) ・・・式1
αo ≦ αi ・・・式2
ここで、前記の式1及び式2中の各記号の意味は次の通りである。
Sm:浸漬ノズル半径方向における空間の長さ又はモルタル層の可縮寸法(mm)
αi:内側層の耐火物の1500℃非酸化雰囲気中における熱膨張率(%)
αo:外側層の耐火物の1500℃非酸化雰囲気中における熱膨張率(%)
Ri:内側層の最外周面の室温における半径(mm)
Ro:外側層の最内周面の室温における半径(mm)
(3)前記内側層の耐火物が式3を満たす、(1)又は(2)に記載の浸漬ノズル。
M/(E×αi/100) ≧ 24 ・・・式3
ここで、前記式3中の各記号の意味は次の通りである。
M:内側層の耐火物の1000℃非酸化雰囲気中での加熱後の常温における曲げ強度(MPa)
E:内側層の耐火物の1000℃非酸化雰囲気中での加熱後の常温における弾性率(GPa)
αi:内側層の耐火物の1500℃非酸化雰囲気中における熱膨張率(%)
(4)前記内側層は、内孔の溶鋼浸漬部又は内孔の溶鋼浸漬部と吐出孔内壁部に設置されている、(1)から(3)のいずれかに記載の浸漬ノズル。
なお、前記の常温における曲げ強度はJIS R2213、熱間における曲げ強度はJIS R2656、弾性率はASTM C597、熱膨張率はJIS 2207−3、見掛け気孔率はJIS R2205、化学成分はJIS R2216、JIS R2011、鉱物組成はJIS K 0131に準じた測定による。
以下、本発明を詳細に説明する。
前記の課題の解決にあたって本発明では、高度な耐浸潤性や耐食性が要求される、溶鋼中の酸素が約100ppm以上含有する溶鋼を対象として検討した。このような溶鋼に関して前記の課題が解決できれば、このレベルより低い酸素を含有する溶鋼に対しては、相対的に前記高酸素含有の溶鋼に対する場合よりも、より高い耐浸潤性や耐食性が得られる。
本体部分が、1000℃非酸化雰囲気中での加熱後の常温における見掛け気孔率が12%以上である耐火物により構成されている浸漬ノズルとは、溶鋼を鋳造するために使用する一般的な浸漬ノズルであることを意味する。
一般的な浸漬ノズルは高い耐熱衝撃性を備える必要があるため、その本体部分にはアルミナを約50〜約85質量%、黒鉛を約15〜約35質量%、又はこれらにシリカ等を含む耐火物が使用されている。高酸素含有鋼用等の浸漬ノズルでは特に、その溶鋼浸漬部に前記耐火物の他、鋳型内溶鋼面付近のパウダーとの接触部分に使用される、ジルコニアを約80〜約88質量%、黒鉛を約10〜約16質量%程度含有する耐火物が使用されることがある。そしてこのような耐火物の1000℃非酸化雰囲気中での加熱後の常温における見掛け気孔率は、黒鉛を多量に含有すること、またCIP等の管状成形を行う等の制約から、一般的に12%以上25%以下程度である。
このような耐火物を内孔側にも適用すると、鋼中への炭素の溶出等によって鋼の品質に悪影響が生じたり、耐火物自体が鋼中成分により酸化又は浸食されて損傷することがある。したがって、浸漬ノズルの構造体としての耐熱衝撃性を維持し、かつ鋼品質への悪影響を減ずるためには、その本体部分には一般的な耐火物を使用しつつ、溶鋼と接触する内孔側の一部又は全部には酸化や浸食に強い耐火物層(内側層)を、厚み5mm〜10mm程度で設置する必要がある。
このような内側層は、従来技術では、炭素を含まない、コランダム及びスピネルを主たる構成鉱物とし、かつ製造が容易な不定形耐火物を流し込み工法により形成していた。 しかし、このような流し込み工法による不定形耐火物では緻密な組織は得難く、気孔率が約18%〜約30%の粗な組織となっていた。そして本発明者らの研究により、この気孔を経路としてスラグ成分が浸潤して、当該不定形耐火物の構成成分と反応して当該耐火物を膨張させることがわかった。また、この膨張により当該不定形耐火物層自体が破壊し、又は当該不定形耐火物の周辺に存在する本体部分の耐火物層(外側層)を圧迫して、その外側層を破壊することがわかった。更には、当該不定形耐火物と鋼由来のスラグ成分等が反応して低融物を生成し、当該不定形耐火物が軟化して摩耗や溶損ないしは剥離を生じることがわかった。
そして本発明者らは、このような損傷・破壊の根本的な原因が内側層の組織内への鋼由来スラグ成分の浸潤とそれによる膨張にあることを知見した。この知見に基づき、本発明は、前記の浸潤と膨張を抑制することにより、内側層の破壊又は外側層(本体部分)の破壊を防止するものである。
図5に従来技術(前記の不定形耐火物の流し込み材)と本発明の一例の耐火物(後記実施例2)につき、未使用品を非酸化雰囲気中1500℃まで昇温した際の熱膨張曲線の例、実操業1チャージ鋳造後の試料を非酸化雰囲気中1500℃まで昇温した際の熱膨張曲線の例を、連続表示した図を示す。従来技術の耐火物は特に1チャージ使用後の昇温過程で大きく膨張していることがわかる。更にこの状態から鋳造に供すると、溶鋼由来のスラグ成分等が耐火物内に浸潤して、試料の熱膨張は更に大きくなる。従来技術の耐火物を使用後冷却した試料の残存寸法が4%を超える膨張を示すこともある(熱間では4%よりも更に膨張率が大きくなっていると考えられる)。これに対して本発明の耐火物は未使用品の昇温過程でも1チャージ後品の昇温過程でも、膨張の程度が増大することなくほぼ同様な熱膨張曲線を示している。
浸潤を抑制することができる内側層の耐火物は、1000℃非酸化雰囲気中での加熱後の常温における見掛け気孔率が8%以下である必要がある。見掛け気孔率が小さくなるのに伴い、スラグ成分の浸潤量は漸次小さくなる傾向を示す。そして高酸素含有鋼中の特に浸潤しやすいスラグ成分については、内側層の耐火物の見掛け気孔率が8%以下になると顕著に浸潤が抑制される。見掛け気孔率と浸潤特性のこのような関係から、見掛け気孔率の下限値は特に限定する必要はない。しかし、現実に一定の品質を維持して安定的に産業上の製造が可能な見掛け気孔率の値として、また水分その他の揮発成分が耐火物内から離脱するための経路として内側層にも若干の気孔を備えることが好ましいので、見掛け気孔率の下限値は2%程度であることが好ましい。
なお、見掛け気孔率を1000℃非酸化雰囲気中での加熱後の常温における値とするのは、予熱後鋳造開始時、及びそれ以降の熱的処理を経た状態、すなわち溶鋼やそのスラグ成分と接する時点での耐火物の特性を評価する必要があるからである。
更に溶鋼浸漬部、特に吐出孔付近では複雑かつ流速の大きい溶鋼流がこれら部位の内孔面に接触するが、その溶鋼流による機械的な応力により、摩耗損傷や剥離による破壊を生じる危険性も高くなる。前述の従来技術の不定形耐火物の場合は、浸潤した後に膨れ及び軟化を生じて摩耗損傷や剥離による破壊が顕著に生じる。そこで、これら内側層に適用する耐火物には、溶鋼温度すなわち1500℃における熱間での強度を高める必要がある。そこで、本発明では、1500℃非酸化雰囲気中の熱間における曲げ強度を15MPa以上とする。摩耗損傷や剥離に対しては、この曲げ強度の上限を限定する必要はなく、高いほどよい。本発明では40MPaまでは破壊が生じずに健全であることを確認している。
本発明により、浸漬ノズルの溶鋼浸漬部、特に吐出孔から下方の欠損等を防止することができる。また溶鋼浸漬部内壁の損耗を大幅に減ずることもできる。これらにより、浸漬ノズルの寿命を延長することができる。
特に、多量のFeO系酸化物などの耐火物にとって浸食性の強い複合酸化物系の鋼中介在物(スラグ成分)を含む溶鋼、例えば酸素を100ppm以上含有する鋼の連続鋳造において、前記スラグ成分等に対する高い耐浸潤性を備えると共に、内側層や本体部分の破壊を防止することができる。
これらの効果により、複数チャージ又は従来よりも長い時間の連続鋳造に耐え得る浸漬ノズルを提供することができる。
図1〜図3に本発明の浸漬ノズルの例を示す。
本発明の浸漬ノズル10は、溶鋼と接触する内孔面の少なくとも一部又は全部に、内側層2として本発明の緻密質耐火物層を設置し、その外側層としての本体部分として、モールドパウダー接触部分6及び溶鋼浸漬部7をジルコニア−黒鉛系、溶鋼非浸漬部5をアルミナ−黒鉛系(シリカ成分、非酸化物等を含有するものを含む)又はジルコニア−黒鉛系若しくはジルコニア−カルシア−黒鉛系等の、相対的に本発明の内側層の耐火物よりも耐熱衝撃性に優れる耐火物により構成する。
本発明の耐火物による内側層2は、浸漬ノズルの内孔面の特にその破壊や本体部分の破壊が生じやすい部位、例えば溶鋼浸漬部の中でも吐出孔9付近のみ、溶鋼浸漬部全体又はこれらに更に吐出孔内壁部を加えた領域に少なくとも設置されていればよい。溶鋼浸漬部以外の領域を含む内孔面全体に設置してもよい。
内側層とその外側層とは直接接触させて設置してもよく、空間又はモルタルを介して設置してもよい。内側層とその外側層との間には、これらが相互に同程度の熱膨張特性を有する場合(例えば各耐火物を構成する成分や鉱物が同様である場合等)は、これら層間には空間又は可縮性を有するモルタル層を設置する必要はない。熱膨張率に差がある場合(内側層の熱膨張率が外側層の熱膨張率よりも相対的に大きい場合、例えば約0.8%程度)でも、溶鋼温度との差をできるだけ小さくする温度で予熱を行ってから溶鋼を受鋼すれば、外側層も内側層も破壊する危険性は小さい。黒鉛を相対的に多量に含有して、かつ相対的に高い見掛け気孔率を備えた外側層が応力緩和機能を示すからである。
しかし、より高く安定した耐熱衝撃性を得るため、また予め本体部分とは別に成形した内側層の成形体を本体部分に高い精度で設置するためには、内側層とその外側層(本体部分)との間には空間又は可縮性を有するモルタル層が存在することが好ましい。これらの空間又は可縮性を有するモルタル層は前記式1及び式2を満たすことが更に好ましい。 式1及び式2を満たすことで、内側層から外側層への応力を顕著・確実に軽減して、外側層の破壊をほぼ完全に抑制することが可能となる。
この式1、式2を満たす場合とは言い換えると、内側層が溶鋼温度で熱膨張しても外側層には内側層の膨張による応力を生じさせない構造であることを示す。なお、浸漬ノズルの鉛直方向すなわち縦方向の下端部付近での縦方向の内側層の上下端の本体部分(外側層)との境界における空間又はモルタルの可縮代は、内側層の縦方向長さを基準にして、また吐出孔に関しては、溶鋼吐出方向に直角方向の内側層と外側層との関係を基準にして前述の式1を準用して空間厚み又はモルタルの可縮代を決定すればよい。
前述のように緻密、かつ黒鉛等の応力緩和機能を有する構成原料を含有しない内側層の耐火物を浸漬ノズルに適用する場合には、予熱温度が例えば800℃未満である場合等、熱的条件の変動等に伴って、熱衝撃による破壊の危険性が高くなる場合がある。そこで内側層は更に前記式3を満たすことが好ましい。式3は内側層の受鋼時における耐熱衝撃性に関する指標であって、破壊抵抗性を示す。
ここでαiを内側層の耐火物の1500℃非酸化雰囲気中における熱膨張率(%)とするのは、溶鋼により内側層は瞬時に溶鋼温度すなわち約1500℃に達するからである。M及びEを1000℃非酸化雰囲気中での加熱後の常温における値とするのは、これら値が当該浸漬ノズルを連続鋳造に供する際の製品としての物性、及び通常の鋳造前の予熱後の物性にほぼ相当するのであって、これら物性は、耐火物温度が瞬時に1500℃まで上昇した場合でも短時間に変化することがないからであり、1000℃非酸化雰囲気中での値を用いることが適切だからである。
内側層を設置した浸漬ノズルでの内側層に破壊が生じるか否かは、この破壊抵抗性と共に溶鋼温度(約1500℃)と予熱温度との差(ΔT℃)にも依存する。ただし、このΔT℃は通常500℃程度であるので、本発明ではこれを基準として破壊抵抗性を規定した。すなわち、ΔT℃が500℃程度であれば、式3の右辺の値(破壊抵抗値)が24以上であれば内側層が受鋼時の熱衝撃によって破壊する危険性を大幅に低くすることができる。なお、破壊抵抗値の上限については、限定する必要はないが、ΔTが約680℃以下の場合、50までは破壊が生じずに健全であることを確認している。
前記の内側層の耐火物は、Al2O3とMgOの合計が94質量%以上97質量%以下であってこのAl2O3及びMgO成分はスピネル又はスピネルとコランダムからなり、フリーの炭素が2質量%以上5質量%以下、残部が不可避成分を含む酸化物又は無機化合物からなり、Al2O3とMgOとのモル比(Al2O3/MgO)が1.05以上2.00以下、であることが好ましい。
ここで化学成分としてのAl2O3及びMgOを構成する鉱物はスピネル又はスピネルとコランダム、すなわちMgO成分はペリクレース以外の鉱物からなることを示す。FeO等のスラグ成分との反応性が小さいスピネルを主とし又はスピネルのみからなる組成すなわち(Al2O3/MgO)モル比が1.05程度であることがより好ましい。
スピネル組成(粒子としてのスピネルの使用)が好ましい理由をさらに詳述すると、主に次の三点が挙げられる。第一点は、MgOより熱膨張率が低く、耐スポーリング性を維持・改善できる点にある。第二点は、スピネル粒子は熱力学的に安定であり、スラグ相への低粘性化の影響が小さい点に加え、溶解したMgO成分の一部が炭素との反応性を増すことで、MgO成分の稼働面側への移動を容易にする点にある。第三点は、スラグ中のFeOの吸収能が優れており、スラグ相の浸透を促進しない点にある。
一般的にMgO成分は溶鋼中に存在するスラグ成分との接触でも低融点化合物を作り難く、耐食性の面では好ましいとされる。ところが、開気孔(この開気孔の程度がすなわち見掛け気孔率である)を有する耐火物では、この開気孔を介してスラグ相が組織中への浸透し、徐々にMgO成分がMgイオンとして気孔に浸透するスラグ中への溶解が進み、スラグの低粘性化をもたらす。その結果、MgOを含有した耐火物では、Al2O3系耐火物に比べてスラグの浸透が深くなる。特に、スラグ中のFeO成分がFeイオンの形で多く存在する場合は、粒子間をつなぐ炭素質の結合組織が消失する(C+(FeO)→CO(g)+Fe)。この結果、骨材粒子の脱落による損傷が進行しやすくなり耐用改善が望めなくなる。一方、熱力学的に安定なスピネル相はMgO粒子に比べてスラグの低粘性化効果が小さい。更に、MgO(ペリクレース)自体の熱膨張率がコランダム、スピネルと比較して大きく、耐熱衝撃性や耐押し割り性の面で不利である。これら理由により、耐火物の当初組成中にペリクレースとしてMgO成分を含有させることは好ましくない
本発明の内側層は前記見掛け気孔率に示される緻密構造なので、その緻密性により溶鋼中のスラグ成分の内側層耐火物組織内への浸潤は大幅に抑制される。このことからも内側層は、Al2O3(コランダム)が併存する、すなわちアルミナリッチな組成であってもよく、モル比(Al2O3/MgO)は1.05以上2.00以下であってもよい。
その第一の理由は、粒子中のAl2O3成分が溶鋼中のスラグ成分と選択的に反応してその粒子の分解を容易にし、スピネル粒子周辺での液相生成を促進するためである。その第二の理由は、稼働面でのスラグ中の平均モル比(Al2O3/MgO)をアルミナリッチな組成に予め調整することで、耐火物組織内部より気孔を通じて移動してくるMgO成分の移動が促進されて稼働面のスラグ相に吸収されることが促進され、稼働面付近のスラグ中の(MgO)の濃度を上げるためである。スピネル相は熱力学的に安定相であるために、(MgO)成分のスラグ相への継続的な供給により、新たに高融点で緻密な二次スピネル相の生成(晶出)がスラグ中より起こることになる。ここで、二次スピネル相とは、耐火物原料配合時には添加していないスピネル粒子であり、スラグ中のAl2O3、MgO成分を原料として、スラグ中から新たに結晶化したAl2O3、MgO系のスピネル結晶として成長した相をいう。稼働面に生成する二次スピネル相の組成は、(MgO)の供給量に応じて大きく変化し、耐火物内部よりMgO成分が十分供給される場合は、MgOリッチな二次スピネル相が稼働面付近の耐火物のマトリックス部に生成し、その耐火物の耐食性を高めると考えられる。
この(Al2O3/MgO)モル比が1.05より小さいと二次スピネル相の生成が生じ難く、またペリクレースとしてのMgOが存在することにもなるので、好ましくない。前記モル比が2.00よりも大きいと二次スピネルは生成するものの低融化成分が残存し溶損が過大傾向となるので、好ましくない。このモル比は、鋼種によって異なるスラグ成分の組成、すなわちそれによる耐火物の損傷速度の程度により最適範囲を決定すればよい。
なお、耐火物中に金属Alが存在している場合は、これをAl2O3としての酸化物に換算して加算することができる。その理由は、金属Alが存在していても、鋳造中には酸化してコランダムとしてのAl2O3になるからである。
また、本発明の内側層の耐火物は、SiC、B4C等の非酸化物である無機質材料を含んでもよい。これらは鋼及びそのスラグ成分由来の酸素に対する抵抗性を担うと共に、耐食性の向上にも寄与する。また、当該耐火物中に約2質量%以下程度であればSiO2成分を含んでもよい。SiO2成分はスピネル粒子周辺での液相生成と二次スピネルの生成等を促進する機能をも果たすことがある。
このように耐火物の溶鋼と接触する側に、被膜状の緻密で薄いスピネル(二次スピネル)層をも速やかに生成させることで、浸潤や溶損を低減して耐火物内部を保護することができる。すなわち、二次スピネル層の速やかな形成による薄くて緻密な保護層を溶鋼と接する稼働面に形成させ、溶鋼中などに懸濁しているMnO−SiO2−FeOなど含む耐火物組織内への浸潤性の高いスラグに対しても顕著な浸潤抑制効果及び耐食性改善効果を得られ、しかも浸漬ノズルとしての耐熱衝撃性や耐押し割れ性を損なわずにこれらの効果を得ることができる。
内側層の耐火物中の炭素量は、当該耐火物中の成分全量を100質量%としたときに、フリーの炭素成分が2質量%以上5質量%以下であることが好ましい。フリーの炭素成分とは、SiC等の他の元素と結合した化合物を含まず、主として耐火物を構成する粒子間を繋ぐ連続的組織の炭素と粒子状等の独立した組織構造の炭素質基材(黒鉛、カーボンブラック等)を意味する。
フリーの炭素成分としては、混練時に成形性、強度付与を目的に添加するフェノール樹脂、フラン樹脂、ポリアクリルニトリル樹脂、ピッチ、タールなど固定炭素割合の高い樹脂等(以下、「結合炭素」ともいう。)が使用できる。この結合炭素に加え、結晶をもつ黒鉛、無煙炭などの炭素基材あるいは結晶性をもたない炭素基材、それらの混合組織をもつ炭素基材のいずれか1種以上を単独で使用するか併用することもできる。耐食性や緻密性向上、強度の向上等のため、結合材としての炭素だけで構成しても構わない。炭素基材を使用する場合は、耐火物組織内を安定的かつ強度に還元雰囲気にし、又は局部的な損傷を避けるために、0.045mm以下の粉末原料として使用することが好ましい。
結合材に炭素を使用する場合には、フリーの炭素成分が2.0質量%より少ないと耐火物組織を緻密にし難くまた十分な強度を得難くなる。また、5.0質量%より多いと組織の緻密性、高強度化等の物性面では好ましいものの、溶鋼との接触により容易に溶解消失するため、耐火物稼働面では開気孔が増大して粗な耐火物組織となり、溶鋼側からのスラグ成分の耐火物組織内部への浸潤等が増えて耐食性の低下等を招来する危険性が高まる。
次に、本発明の浸漬ノズルの製造方法について述べる。
内側層の耐火物は 前記化学組成及びモル比に合致するように、スピネル鉱物としての原料粒子を主体として、アルミナ質原料粒子、スピネル原料粒子等を選択すればよい。なお、これら原料粒子の大きさは0.5mm以下であることが、緻密化及び前記スラグ成分との反応による二次スピネル生成を促進する等のためには好ましい。
これら原料粒子にフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を添加して混練し成形用のはい土を製造して成形し、乾燥又は焼成等の熱処理をすることができる。
円管状の内側層の成形には、例えば一軸(上下方向)の静圧若しくは衝撃によるプレス、CIPによる静圧プレス、又は加振若しくは流し込み等の泥漿鋳込みによる成形等、さまざまな任意の方法を採ることができ、成形方法を限定する必要はない。ただし、前述の見掛け気孔率、曲げ強度その他の物性等を得ることのできる方法を選択する必要があり、一軸(上下方向)の静圧プレス方法が、高度に安定した品質を高い生産性で得ることができるので好ましい。
またこの内側層としての成形体は、前述の見掛け気孔率、曲げ強度その他の物性等を得ることができさえすれば、製造における熱処理温度を特定する必要はない。すなわち、主として成形体としての構造を維持するための硬化や揮発分の除去等を目的とする約300℃以下での熱処理(いわゆる不焼成)でも、更に強度向上や気化温度が高い揮発分の除去又は空間となる可燃性物の除去等を目的とする約600℃以上約800℃以下での熱処理(いわゆる軽焼成)でも、又は更に高温度の約1100℃〜1200℃程度で熱処理してもかまわない。これら熱処理条件は、可燃性物又は気化性物の除去、強度や弾性率の発現、緻密化等の観点から、当該耐火物の組織構造、使用する結合材の特性等に応じて、任意に選択すればよい。内側層としての成形体の熱処理は、本体部分とは独立して行ってもよく、本体部分内に設置した後に本体部分と同時に行ってもよい。
本発明の内側層を浸漬ノズル(本体部分)内に設置するには、複数の方法を採ることができる。
その第一の方法は、内側層とその外側に位置する浸漬ノズルの本体部分である外側層との間に空間やモルタル等を設置せずに、これら層間を直接接触させる構造に関する。この第一の方法においては、内側層を予め円管状に成形しておき、例えば浸漬ノズルの本体部分をCIP(Cold Isostatic Press)にて成形する際に、事前に成形した内側層をそのモールド内で内孔となる芯棒側に設置して、この内側層外側の本体部分となる空間に本体部分用耐火物の成形用はい土を充填し、同時に成形することができる。この成形後に通常の浸漬ノズルと同様に乾燥、非酸化雰囲気中での焼成、加工等をすればよい。
第二の方法は、内側層とその外側に位置する浸漬ノズルの本体部分である外側層との間に空間を設置する構造に関する。この第二の方法においては、内側層を予め円管状に成形しておき、浸漬ノズルの本体部分をCIPにて成形する際に、事前に成形した内側層の周囲に加熱後に消失する材料からなる、内側層と外側層との間の空間としての厚みに相当する層(例えば紙や樹脂のシート)を形成しておき、これをそのモールド内に設置して、本体部分と同時に成形することができる。この成形後に通常の浸漬ノズルと同様に乾燥、非酸化雰囲気中での焼成、加工等をすればよい。
第三の方法は、内側層とその外側に位置する浸漬ノズルの本体部分である外側層との間にモルタルを設置する構造に関する。この第三の方法においては、内側層を除いた本体部分と円管状の内側層を別々に成形し、乾燥、非酸化雰囲気中での焼成、加工等をしておき、この本体部分の内孔内に内側層をモルタルによって設置することができる。内側層と外側層の間にモルタルを採用する場合は、モルタルはアルミナ質、スピネル質を採用することが好ましい。このモルタル中にペリクレースが存在すると外側層又は内側層内のAl2O3と反応して二次スピネルを生成して高い熱膨張を生じて特に外側層を破壊する虞があるので、ペリクレースとしてのMgOは含まないことが望ましい。一般的なモルタルは、その見掛け気孔率が約20〜約30%程度と粗な組織であることに加え、低融化成分(SiO2等)を多量に含むこと、微粉構成であること等から熱間では焼結や軟化もしやすいので、1500℃の熱間で約20%〜約40%程度の可縮性は期待できる。前述の式2に示す可縮代を確保できるだけの可縮性を備えていることが更に好ましい。
なお、内側層を溶鋼浸漬部のみ等の部分的な領域に設置する場合は、それ以外の損傷が問題にならない領域には従来技術の不定形耐火物を、流し込み工法によって層を形成する等の任意の構造、方法を採ることができる。
本発明の浸漬ノズルについて、試験室における実験によって得た実施例、及び実際の設備における連続鋳造操業に供した実施例等を以下に述べる。
[実施例A]
実施例Aは内側層の耐火物の見掛け気孔率と曲げ強度について調査した結果を示す。本実施例においては溶鋼浸漬部にのみ緻密質の層を2mmの空間を介して設置し、非溶鋼浸漬部(上方部分)には従来技術の不定形耐火物による層をモルタル層を介して設置した実製品を供試料とした。ここで形状、式1内の記号の値は次の通りであり、その空間の厚み(浸漬ノズル半径方向の長さ)Smは式1の条件を満たしている。
Sm:2.0(mm)
αi:1.33(%)
αo:0.50(%)
Ri:41(mm)
Ro:43(mm)
実機試験では、表1に示す実施例及び比較例による各浸漬ノズルを炭素含有量10ppm以上、酸素含有量100ppm以上の鋼種の1チャージ(約130分)又は2チャージ(約260分)の連続鋳造操業に供し、操業後の使用済み品を調査して、評価を行った。
評価では、内側層へのスラグ成分の最大浸潤程度、吐出孔付近の本体部分折損(亀裂、部分的な損傷、折損等)の有無、内側層の損傷(摩耗、部分欠損、亀裂等)有無を主に観察して、これら項目での不具合がなくて2チャージ以上使用することが可能な場合を総合評価として合格(表1中「○」表示)、不可能な場合を不合格(表1中「×」表示)とした。
表1に内側層の耐火物の組成、見掛け気孔率、曲げ強度及び実機試験結果を示す。なお、本実施例における外側層の耐火物の組成等は、フリーの炭素を9質量%、ZrO2を86質量%、その他成分を5質量%の組成からなり、1000℃の非酸化雰囲気中での加熱後の常温における見掛け気孔率が16.5%、曲げ強度が8.9MPaである。
比較例1、2は従来技術の1チャージ限定で使用されている通常の浸漬ノズルである。実施例1〜3は本発明の内側層であって、静圧(油圧)一軸加圧により成形し、約250℃で熱処理したものを使用した浸漬ノズルである。比較例3は実施例1〜3と同じ構造・組成であるものの成形条件等の調整によって内側層も見掛け気孔率を10%、曲げ強度を12MPaとした浸漬ノズルである。
同じ浸漬ノズルを比較例1は1チャージ、比較例2は2チャージ使用した例であり、1チャージ使用の比較例1では内側層へのスラグ成分の浸潤が大きいものの吐出孔付近の本体部分損傷及び内側層の損傷は無かった。しかし2チャージ使用の比較例2では内側層へのスラグ成分の最大浸潤厚みが比較例1よりも更に大きく、吐出孔付近の本体損傷が発生し(複数試料のうち、亀裂の場合も折損の場合もある)、また特に吐出孔付近の内側層の剥離や欠損等の等損も多発した。
これらの比較例1、2に対し、実施例1〜3では2チャージ使用でも内側層へのスラグ成分の浸潤が殆どなく、吐出孔付近の本体部分損傷及び内側層の損傷も皆無であった。しかし比較例3では吐出孔付近の本体部分損傷は観られなかったものの、内側層へのスラグ成分の浸潤が大きくなり、内側層の一部に剥離・欠損の損傷が観られた。これらのことから、1000℃非酸化雰囲気内熱処理後の見掛け気孔率が2〜8%以下、1500℃非酸化雰囲気内熱間での曲げ強度が15〜40MPaの場合に、少なくとも2チャージの連続鋳造が可能であることがわかる。
[実施例B]
実施例Bは内側層と外側層との間の空間や可縮性のモルタルの影響について調査した結果を示す。本実施例においては溶鋼浸漬部にのみ緻密質の層を設置し、非溶鋼浸漬部(上方部分)には従来技術の不定形耐火物による層を設置した実製品を供試料とした。内側層と外側層との間の層部分を除く浸漬ノズルの構造、組成、実験方法等は、前記実施例Aと同様である。
可縮性モルタルは、炭素が20質量%、MgOが72質量%、SiO2が6質量%(主として粘土由来)、残部が不可避成分からなり、原料粒度構成、粘性管理等により、可縮性を約30%に調整したものを使用した。
表2に各試料の構成及び実機実験結果を示す。
実施例4は内側層と外側層との間に空間も可縮性のモルタルも設置せずに直接接触させた例である。外側層の熱膨張率が内側層の熱膨張率と同じであるので、式1によるSmの値は「ゼロ」すなわち空間も可縮代も必要ないことを表す。この実施例4では2チャージ使用でき、更に外側層の破壊(亀裂も含め)は観られなかった。
実施例5と実施例6は外側層の熱膨張率が内側層の熱膨張率よりも小さい場合で、内側層と外側層との間に、実施例5は空間、実施例6は可縮性モルタルを設置した例である。外側層の半径Roが内側層の半径Riと同じ(内側層と外側層とが直接接触している)と仮定した際の式1によるSmの値は0.34mmとなる。実施例5の空間は2mmであり、必要な空間厚み0.34mmに対して十分(約5.9倍)の空間を設置した。実施例6のモルタル層の厚みは2mmで可縮率は約30%であり、最大0.6mm可縮することができ、必要な空間厚み0.34mmに対して十分(約1.7倍)な可縮寸法を設置したことになる。
なお表中の−1.67mmは、空間又は前記可縮性モルタルの厚みが2mmの構造の場合に必要な空間厚み又はモルタルの可縮寸法を表している。言い換えると、これらの例におけるRiとRoの関係(Ro=Ri+2)では必要な空間厚み又はモルタルの可縮代に対して既に1.67mm過剰になっていることを表す。
この実施例5、実施例6の鋳造の結果、共に2チャージ使用でき、更に外側層の破壊(亀裂も含め)は観られなかった。
[実施例C]
実施例Cは内側層の耐火物の耐熱衝撃性について調査した結果を示す。
内側層の耐火物は緻密であることから、操業条件、特に受鋼時の熱衝撃、すなわち溶鋼温度と予熱温度との差(ΔT℃)の大きさによっては通常の浸漬ノズルに使用される高気孔率かつ黒鉛等を多量に含有する耐火物に比較して、破損しやすくなる場合がある。そこで内側層の耐火物の破壊抵抗に関する物性とΔTとの関係を調査した。
本実施例においては溶鋼浸漬部にのみ緻密質の層を可縮性モルタル層を介して設置し、非溶鋼浸漬部(上方部分)には従来技術の不定形耐火物による層を設置した実製品を供試料とし、前記実施例Aの実施例2又は実施例3と同様の構造・組成とした。
試験では、予熱温度を変えた各浸漬ノズルの吐出孔に栓をした内孔に、1500℃に維持した溶銑を流し込むことで熱衝撃を加え、破壊の有無を評価した。その破壊の評価は、冷却後溶銑を排出して内側層の内孔側面を観察する方法により行った。内側層に破壊(亀裂、部分的な損傷、剥離等を含む)がない場合を適合(○表示)、ある場合を不適合(×表示)とした。
比較例4は比較例1、比較例2と同じ試料、実施例7〜10は実施例2とほぼ同様の物性で同様の式3の破壊抵抗性、実施例11と実施例12は結合材の調整により実施例2よりも強度を低下させており、式3の破壊抵抗性が小さい例を示す。
熱衝撃(ΔT)の程度は、通常条件(ただし、やや大きい方)である500℃(予熱温度は約1000℃)のほか、300℃(予熱温度は約1200℃)、680℃(予熱温度は約820℃)、820℃(予熱温度は約680℃)である。
表3に組成、見掛け気孔率、曲げ強度及び試験結果を示す。
比較例4は従来技術の通常の熱衝撃条件であるΔTが500℃の条件で破壊がないことがわかる。破壊抵抗性を高位に示す実施例7〜9は、前記いずれのΔTでも破壊していないことがわかる。これに対し、ΔTが500℃の場合で、破壊抵抗性が24の実施例11は破壊していないが、破壊抵抗性が21の実施例12では破壊が観られた。
これらの結果から、式3の破壊抵抗性が24以上の場合、従来技術と同程度以上の耐熱衝撃性を維持することができることがわかる。
[実施例D]
実施例Dは内側層の耐火物のAl2O3とMgOとのモル比等について調査した結果を示す。
本実施例においては、内側層用の耐火物を浸潤・浸食試験用の試料に成形して、高周波炉内の溶鋼中に浸漬し200rpmにて回転しながら120分間保持した。試料は20mm×20mmの角柱とし、溶鋼は酸素を約100ppm含有する鋼とした。そして、各試料の最大浸潤箇所の浸潤厚みと最大損傷部位を測定し、耐浸潤性と耐溶損性を評価した。具体的には、(Al2O3/MgO)モル比が1.05の実施例14を基準として、この浸潤厚みと溶損厚みをそれぞれ100として、他の実施例の評価を行った。
表4に化学成分、Al2O3とMgOとのモル比等の試料の構成及び試験結果を示す。
前記モル比が大きくなるにつれ、浸潤厚みは小さくなる傾向になるが、溶損厚みは増大する傾向を示している。耐溶損性を大きく低下させないためには、前記モル比は2.00以下にすることが好ましい。また前記モル比が0.84の参考例13で浸潤厚みが最も大きくなっている。これはMgOがペリクレースとして存在したことによるものと考えられる。これらの結果から、前記モル比は1.05〜2.00の範囲であることが好ましいことがわかる。
フリーの炭素量を2.0質量%まで減じた実施例18では、浸潤厚みは小さくなる傾向になるが、溶損厚みは増大する傾向を示している。これは結合組織が相対的に少なくなったために摩耗による損耗も加わったためと考えられる。また、フリーの炭素量を5.0質量%まで増加させた参考例19では、浸潤厚みも溶損厚みもやや増加する傾向になり、浸潤厚みの方が浸潤厚みより増大幅がやや大きい傾向を示している。これは炭素質の組織が相対的に多くなったために、酸化や炭素組織自体に内在する気孔からの浸潤等が大きくなったことが考えられる。フリーの炭素量を減じた場合も増加させた場合も、前記それぞれの傾向が強まると考えられる。
これらの結果から、フリーの炭素量は、顕著な悪影響を示さない程度の2質量%以上5質量%以下程度であることが好ましい。