本発明の中性子シンチレーターは、リチウム6及びホウ素10から選ばれる少なくとも1種の中性子捕獲同位体を含有する無機蛍光体粒子(以下、単に無機蛍光体粒子ともいう)を第一の構成要素とする。
該無機蛍光体粒子においては、リチウム6またはホウ素10と中性子との中性子捕獲反応によって、それぞれα線及びトリチウムまたはα線とリチウム7(以下、2次粒子ともいう)が生じ、当該2次粒子によって、無機蛍光体粒子に4.8MeVまたは2.3MeVのエネルギーが付与される。当該エネルギーを付与されることによって、無機蛍光体粒子が励起され、蛍光を発する。
かかる無機蛍光体粒子を用いた中性子シンチレーターは、リチウム6及びホウ素10による中性子捕獲反応の効率が高いため、中性子検出効率に優れており、また、中性子捕獲反応の後に無機蛍光体粒子に付与されるエネルギーが高いため、中性子を検出した際に発せられる蛍光の強度に優れる。
本発明において、無機蛍光体粒子中のリチウム6及びホウ素10の含有量(以下、中性子捕獲同位体含有量ともいう)は、それぞれ1atom/nm3及び0.3atom/nm3以上とすることが好ましく、それぞれ6atom/nm3及び2atom/nm3以上とすることが特に好ましい。なお、上記中性子捕獲同位体含有量とは無機蛍光体粒子1nm3あたりに含まれる中性子捕獲同位体の個数をいう。中性子捕獲同位体含有量を上記範囲とすることによって、入射した中性子が中性子捕獲反応を起こす確率が高まり、中性子検出効率が向上する。
かかる中性子捕獲同位体含有量は、無機蛍光体粒子の化学組成を選択し、また、無機蛍光体粒子の原料として用いるフッ化リチウム(LiF)あるいは酸化ホウ素(B2O3)等におけるリチウム6およびホウ素10の同位体比率を調整することによって適宜調整できる。ここで、同位体比率とは、全リチウム元素に対するリチウム6同位体の元素比率及び全ホウ素元素に対するホウ素10同位体の元素比率であって、天然のリチウム及びホウ素ではそれぞれ約7.6%および約19.9%である。中性子捕獲同位体含有量を調整する方法としては、天然の同位体比を有する汎用原料を出発原料として、リチウム6およびホウ素10の同位体比率を所期の同位体比率まで濃縮して調整する方法、或いはあらかじめリチウム6およびホウ素10の同位体比率が所期の同位体比率以上に濃縮された濃縮原料を用意し、該濃縮原料と前記汎用原料を混合して調整する方法が挙げられる。
一方、中性子捕獲同位体含有量の上限は特に制限されないが、60atom/nm3以下とすることが好ましい。60atom/nm3を超える中性子捕獲同位体含有量を達成するためには、あらかじめ中性子捕獲同位体を高濃度に濃縮した特殊な原料を多量に用いる必要があるため、製造にかかるコストが極端に高くなり、また、無機蛍光体粒子の種類の選択も著しく限定される。
なお、上記無機蛍光体粒子中のリチウム6及びホウ素10の含有量は、あらかじめ無機蛍光体粒子の密度、無機蛍光体粒子中のリチウム及びホウ素の質量分率、及び原料中のリチウム6及びホウ素10の同位体比率を求め、それぞれ以下の式(1)及び式(2)に代入することによって求めることができる。
リチウム6の含有量=ρ×WLi×CLi/(700−CLi)×A×10−23 (1)
ホウ素10の含有量=ρ×WB×CB/(1100−CB)×A×10−23 (2)
(式中、ρはシンチレーターの密度[g/cm3]、WLi及びWBはそれぞれ無機蛍光体粒子中のリチウム及びホウ素の質量分率[質量%]、CLi及びCBはそれぞれ原料におけるリチウム6およびホウ素10の同位体比率[%]、Aはアボガドロ数[6.02×1023]を示す)
前記無機蛍光体粒子は特に制限されず、従来公知の無機蛍光体を粒子状としたものを用いることができるが、具体的なものを例示すれば、Eu:LiCaAlF6、Eu,Na:LiCaAlF6、Eu:LiSrAlF6、Ce:LiCaAlF6、Ce,Na:LiCaAlF6、Ce:LiSrAlF6、Eu:LiI、Ce:Li6Gd(BO3)3、Ce:LiCs2YCl6、Ce:LiCs2YBr6、Ce:LiCs2LaCl6、Ce:LiCs2LaBr6、Ce:LiCs2CeCl6、Ce:LiRb2LaBr6等の結晶からなる無機蛍光体粒子、及び、Li2O−MgO−Al2O3−SiO2−Ce2O3系のガラスからなる無機蛍光体粒子等が挙げられる。
本発明において、無機蛍光体粒子の発光する波長は、後述する樹脂と混合した際に透明性を得やすい点で、近紫外域〜可視光域であることが好ましく、可視光域であることが特に好ましい。
本発明において、無機蛍光体粒子に含有せしめる中性子捕獲同位体が、リチウム6のみであることが好ましい。中性子捕獲反応に寄与する中性子捕獲同位体をリチウム6のみとすることによって、常に一定のエネルギーを無機蛍光体粒子に付与することができ、また、4.8MeVもの極めて高いエネルギーを付与することができる。したがって、蛍光の強度のバラつきが少なく、且つ特に蛍光の強度に優れた中性子シンチレーターを得ることができる。
中性子捕獲同位体としてリチウム6のみを含有する無機蛍光体粒子の中でも、化学式LiM1M2X6(ただし、M1はMg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属元素であり、M2はAl、Ga及びScから選ばれる少なくとも1種の金属元素であり、XはF、Cl、BrおよびIから選ばれる少なくとも1種のハロゲン元素である)で表わされ、少なくとも1種のランタノイド元素を含有するコルキライト型結晶、及び当該コルキライト型結晶であって、さらに少なくとも1種のアルカリ金属元素を含有するコルキライト型結晶が好ましい。
当該コルキライト型結晶を具体的に例示すればEu:LiCaAlF6、Eu,Na:LiCaAlF6、Eu:LiSrAlF6及びEu,Na:LiSrAlF6からなる無機蛍光体粒子が、発光量が高く、また、潮解性が無く化学的に安定であるため最も好ましい。
本発明は、中性子シンチレーターのn/γ弁別能を向上せしめることを目的として、前記無機蛍光体の形状を粒子状とすることを特徴の一つとする。以下、かかる無機蛍光体粒子を用いることによって、n/γ弁別能が向上する作用機序について説明する。
一般に、γ線が無機蛍光体粒子に入射すると、無機蛍光体粒子の内部で高速電子が生成され、該高速電子が無機蛍光体粒子にエネルギーを付与することによって、無機蛍光体粒子が発光する。かかる発光によって出力される波高値が、中性子の入射による波高値と同程度に高く、両者を弁別できない場合には、γ線が中性子として計数され、中性子計数に誤差が生じる。特に、γ線の線量が高い場合には、該γ線による誤差が増大し、顕著に問題となる。
γ線の入射によって中性子検出器から出力される波高値は、前記高速電子によって付与されるエネルギーに依存するため、該エネルギーを低減することによって、γ線が中性子シンチレーターに入射した際に出力される波高値を低減することができる。
本発明の中性子シンチレーターにおいては、サイズの小さな無機蛍光体粒子を用いるため、当該無機蛍光体粒子にγ線が入射した際に生じる高速電子が、その全エネルギーを付与する前に無機蛍光体粒子から逸脱する。そのため、該高速電子から無機蛍光体粒子に付与されるエネルギーが低減され、γ線が入射した際に出力される波高値が、中性子が入射した際の波高値よりも低くなるため、n/γ弁別能が向上する。
本発明において、無機蛍光体粒子の形状は、前記説明したように、γ線の入射によって生じる高速電子が無機蛍光体粒子から逸脱し、n/γ弁別能が向上する形状であれば特に制限されない。一般にはサイズが小さい程、高速電子が無機蛍光体粒子から速やかに逸脱し、n/γ弁別能が向上する。しかしながら、無機蛍光体粒子はその種類及び製法に応じて平板状、角柱状、円柱状、あるいは球状等の種々の粒子形態を有し、前記高速電子の逸脱のし易さは、かかる粒子形態によって異なるため、前記高速電子を無機蛍光体粒子から速やかに逸脱させるために好適な形状を知ることは、一般には困難である。
本発明者らの検討によれば、無機蛍光体粒子の形状を、その比表面積が50cm2/cm3以上である形状とすることが好ましく、比表面積が100cm2/cm3以上である形状とすることが特に好ましい。なお、本発明において、無機蛍光体粒子の比表面積とは、無機蛍光体粒子の単位体積当たりの表面積を言う。
ここで、本発明における比表面積は単位体積当たりの表面積であるから、(1)無機蛍光体粒子の絶対的な体積が小さいほど大きくなる傾向にあり、また(2)形状が真球状である場合に最も比表面積は小さくなり、逆に無機蛍光体粒子の比表面積が大きいほど、該無機蛍光体粒子は真球状からかけ離れた形状となる。例えばX軸、Y軸及びZ軸方向に延びる辺を有する立方体で考えた場合、X=Y=Zの正6面体の場合に最も比表面積が小さく、いずれかの軸方向の長さを短くし、その分他の軸方向の辺を長くしたものは同じ体積でも比表面積が大きくなる。
より具体的には、1辺が0.5cmの正6面体では比表面積が12cm2/cm3であるが、同0.1cmの正6面体(0.001cm3)の場合には、その比表面積は60cm2/cm3である。さらに同じ体積(0.001cm3)で厚みを0.025cmとした場合、縦横が0.2cm×0.2cmのサイズとなり、よって比表面積は100cm2/cm3となる。
換言すれば、比表面積が大きいということは少なくともいずれか1つの軸方向の長さが極めて小さい部分を有するということを示すものである。そしてこの小さい軸方向及びその軸方向に近い向きに走る前記γ線によって励起される高速電子は、前述のとおり速やかに結晶から逸脱するため、該高速電子から無機蛍光体粒子に付与されるエネルギーを低減することができるものである。
前記比表面積に基づく好適な無機蛍光体粒子の形状は、上記の如き知見及び考察により見出されたものであり、当該比表面積を、高速電子から無機蛍光体粒子に付与されるエネルギーを考慮する上で、無機蛍光体粒子が種々の粒子形態を有することを加味した形状の指標として用いることができる。そして実用上、当該比表面積を好ましくは50cm2/cm3以上、より好ましくは比表面積が100cm2/cm3以上とすることによって、特にn/γ弁別能に優れた中性子検出器を得ることができる。
なお、本発明において、前記比表面積の上限は、特に制限されないが、3000cm2/cm3以下とすることが好ましい。該比表面積が3000cm2/cm3を超える場合、すなわち無機蛍光体粒子の全ての軸方向の長さが極めて小さい場合には、前記リチウム6及びホウ素10と中性子との中性子捕獲反応で生じた2次粒子が、無機蛍光体粒子にその全エネルギーを付与する前に無機蛍光体粒子から逸脱する事象が生じるおそれがある。かかる事象においては、中性子の入射によって無機蛍光体粒子に与えられるエネルギーが低下するため、無機蛍光体の発光の強度が低下する。前記2次粒子の全エネルギーを確実に無機蛍光体粒子に与え、無機蛍光体の発光の強度を高めるためには無機蛍光体粒子の比表面積を1500cm2/cm3以下とすることが特に好ましい。
なお上記説明では軸という用語を用いたが、X,Y及びZの空間座標位置を示すために便宜的に用いただけであり、本発明で用いる無機蛍光体粒子がこれら特定の軸方向に辺を有する立方体に限定されるものでは無論ない。
また無機蛍光体粒子が不定形の場合、上記比表面積は密度計及びBET比表面積計を用いて得られる密度及び質量基準の比表面積から容易に求めることができる。
また別の観点から本発明で用いる無機蛍光体粒子の大きさを規定すると、目開き2mmのふるいを全通し、目開き100μmのふるいを通過する粒子を実質的に含んでいない粒子であることが好ましく、目開き1mmのふるいを全通し、目開き100μmのふるいを通過する粒子を実質的に含んでいないことがより好ましい。このように篩分けした粒子は前記比表面積の粒子を得やすい。ここで、目開き100μmのふるいを通過する粒子を実質的に含んでいないとは、同目開きの篩で5分間振とうした際の質量変化が5%以下であることを言う。
本発明において、好適に用いられる無機蛍光体粒子の形状を具体的に例示すれば、平板状、角柱状、円柱状、球状、或いは不定形の粒子形態であって、等比表面積球相当径が10〜600μm、特に好ましくは20〜300μmである形状が挙げられる。
前記無機蛍光体粒子の製造方法は特に限定されず、前記好適な形状の無機蛍光体粒子よりも大きな形状を有する無機蛍光体のバルク体を粉砕及び分級して、所期の形状の無機蛍光体粒子を得る方法、或いは、無機蛍光体の溶液を出発原料として粒子生成反応により、好適な形状の無機蛍光体粒子を直接得る方法が挙げられる。
かかる製造方法の中でも、無機蛍光体のバルク体を粉砕及び分級する方法が、生産効率が高く、初期の無機蛍光体粒子を安価に得られるため好ましい。無機蛍光体のバルク体を粉砕する方法は特に限定されず、ハンマーミル、ローラーミル、ロータリーミル、ボールミル、或いはビーズミル等の公知の粉砕機をなんら制限なく用いることができる。中でも、比表面積が極端に大きい所謂微粉末の発生を抑制し、前記説明したような、好ましくは3000cm2/cm3以下、特に好ましくは1500cm2/cm3以下の比表面積を有する無機蛍光体粒子を得るためには、ハンマーミル及びローラーミルを用いることが特に好ましい。
また、前記無機蛍光体のバルク体を粉砕した無機蛍光体粒子を分級する方法は、乾式ふるい、湿式ふるい、或いは風力分級等の公知の方法を特に制限なく適用することができる。
本発明の中性子シンチレーターは、前記無機蛍光体粒子を含んでなる樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ともいう)からなることを特徴とする。前記説明から理解されるように、本発明の無機蛍光体粒子は、一般に用いられる無機蛍光体に比較してサイズが小さいため、単独の無機蛍光体粒子では中性子検出効率に乏しいという問題が生じる。かかる問題は、複数の無機蛍光体粒子を樹脂と混合し、当該樹脂中に分散せしめることによって解決することができ、前記優れたn/γ弁別能を有しながら、なおかつ高い中性子検出効率を有する中性子シンチレーターを得ることができる。
本発明における樹脂組成物のもう一つの必須成分は有機樹脂である。当該樹脂としては、100〜200℃の温度において、前記無機蛍光体粒子の発光波長における該樹脂の内部透過率が80%/cm以上であることが好ましく、90%以上であることが特に好ましい。かかる有機樹脂を具体的に例示すれば、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等があげられる。また屈折率を調整するなどの目的で、複数の樹脂を混合して用いてもよい。
なお、本発明において、内部透過率とは、前記有機樹脂に光を透過せしめた際に該有機樹脂の入射側および出射側の表面で生じる表面反射損失を除いた透過率であって、光路長1cm当りの値で表す。該光路長1cm当りの内部透過率(τ10)は、厚さの異なる一対の前記有機樹脂について、それぞれの表面反射損失を含む透過率を測定し、以下の式(3)に代入することによって求めることができる。
log(τ10)={log(T2)−log(T1)}/(d2−d1) (3)
(式中、d1及びd2は、一対の前記有機樹脂のcm単位の厚さを示し、d2>d1である。また、T1及びT2は、それぞれ厚さがd1及びd2の有機樹脂の表面反射損失を含む透過率を示す)
本発明においては、100〜200℃の範囲のいずれかの温度において、無機蛍光体粒子の屈折率と有機樹脂の屈折率とが、前記無機蛍光体粒子の発光波長において一致する。通常、100〜200℃の高温域では、無機蛍光体粒子の屈折率が室温の場合と実質的に変化しないのに対して、有機樹脂は熱膨張とそれに伴う密度低下のために、屈折率が低下する。
従って、100〜200℃の範囲のいずれかの温度において屈折率を一致させるためには、室温(25℃)で前記無機蛍光体粒子の発光波長における該粒子の屈折率よりも、有機樹脂の屈折率を高くしておけばよい。具体的には無機蛍光体粒子の屈折率に対する有機樹脂の屈折率の比が、1.01〜1.08であることが好ましく、1.01〜1.04であることが特に好ましい。無機蛍光体粒子の屈折率に対する有機樹脂の屈折率の比をかかる範囲とすることによって、100〜200℃の範囲において、無機蛍光体粒子と樹脂との界面における光の散乱を抑制することができ、本発明の中性子シンチレーターの透過率を高めることができる。透過率が高いほど、後段の光検出器へシンチレーション光を効率よく導くことができる。これにより、該光検出器から出力される信号の波高値が増大して中性子検出器の信号/雑音比が向上する。また、該波高値のバラつきも小さくなるため、前記閾値を設けて中性子とγ線を弁別することが容易となる。
前記無機蛍光体粒子の発光波長における屈折率は、屈折率計を用いて測定することができる。一般に、屈折率計の光源として、Heランプのd線(587.6nm)、同r線(706.5nm)、H2ランプのF線(486.1nm)、同C線(656.3nm)、Hgランプのi線(365.0nm)、同h線(404.7nm)、同g線(435.8nm)、及び同e線(546.1nm)を用いることができる。これら光源の中から、無機蛍光体粒子の発光波長より短波長側の光源及び長波長側の光源を適宜選択し、各光源の波長及び該波長において測定された屈折率を、それぞれ以下のセルマイヤーの式(4)に代入して定数A及びBを求めた後、同式に無機蛍光体粒子の発光波長を代入して所期の屈折率を求めることができる。なお、無機蛍光体粒子の発光波長が、前記いずれかの光源の波長と一致する場合は、当該光源を用いて屈折率を求めれば良い。また、かかる屈折率の測定においては、測定に適した形状の無機蛍光体のバルク体及び樹脂のバルク体を用いて良い。
n2−1=Aλ2/(λ2−B) (4)
(式中、nは波長λにおける屈折率を表し、A及びBは定数である)
上記屈折率は100〜200℃で求める必要がある。通常、市販の屈折率計には、定温の熱媒体を循環させて所望の温度での屈折率を測定する機能が付与されているため、該機能を利用して測定すればよい。
前記樹脂組成物における無機蛍光体粒子と樹脂の混合割合は、特に限定されないが、該樹脂組成物中の無機蛍光体粒子の体積分率を10%以上とすることが好ましく、20%以上とすることが特に好ましい。該樹脂組成物中の無機蛍光体粒子の体積分率をかかる範囲とすることによって、樹脂組成物の単位体積当たりの中性子検出効率を向上させることができる。
一方、前記樹脂組成物中の無機蛍光体粒子の体積分率は50%以下とすることが好ましく、40%以下とすることが特に好ましい。無機蛍光体粒子の体積分率が50%を超える場合、すなわち樹脂組成物中で無機蛍光体粒子が極めて密に充填されている場合には、γ線の入射によって生じた高速電子が、無機蛍光体粒子から逸脱した後に隣接する他の無機蛍光体粒子に到達してエネルギーを付与する事象が生じる恐れがある。かかる事象が生じた場合には、隣接する複数の無機蛍光体粒子に付与されるエネルギーの和が大きくなるため、γ線による波高値が上昇してn/γ弁別能が悪化する。
本発明において、前記樹脂組成物は無機蛍光体粒子と液体または粘体の樹脂を混合したスラリー状またはペースト状の樹脂組成物として用いても良く、或いは無機蛍光体粒子と液体または粘体の樹脂前駆体を混合した後に該樹脂前駆体を硬化せしめた固体状の樹脂組成物として用いても良い。
当該樹脂組成物の製造方法は特に制限されないが、以下に具体的な製造方法を例示する。
本発明における樹脂組成物をスラリー状またはペースト状の樹脂組成物として用いる場合には、まず、無機蛍光体粒子と液体または粘体の樹脂を混合する。かかる混合操作においては、プロペラミキサー、プラネタリーミキサー、またはバタフライミキサー等の公知の混合機を特に制限なく用いることができる。
次いで、混合操作において樹脂組成物中に生じた気泡を脱泡する。かかる脱泡操作においては、真空脱泡機、または遠心脱泡機等の脱泡機を特に制限なく用いることができる。かかる脱泡操作を行うことによって、気泡による光の散乱を抑制することができ、樹脂組成物の内部透過率を高めることができる。
なお、前記混合操作及び脱泡操作において、樹脂組成物の粘度を低下せしめ、混合及び脱泡を効率よく行う目的で、樹脂組成物に有機溶媒を添加しても良い。
本発明において樹脂組成物を固体状のものとして用いる場合には、液体または粘体の樹脂前駆体を用いて前記と同様に混合操作及び脱泡操作を行う。次いで、得られた無機蛍光体粒子と樹脂前駆体の混合物を所望の形状の鋳型に注入し、該樹脂前駆体を硬化せしめる。硬化せしめる方法は特に制限されないが、加熱、紫外線照射、或いは触媒添加により、樹脂前駆体を重合する方法が好適である。
ここで、本発明の樹脂組成物からなる中性子シンチレーターは、スラリー状またはペースト状で用いることができ、また、固体状で用いる場合にも所望の形状の鋳型によって成型できるため、任意の形状とすることが容易である。したがって、本発明によれば、用途に応じてファイバー状、中空チューブ状、或いは大面積の中性子シンチレーターを提供することができる。
なお、前記無機蛍光体粒子と樹脂の比重が異なる場合には、無機蛍光体粒子が液状樹脂又は硬化前の樹脂中で沈降または浮上して分離し、中性子シンチレーターとしての特性が不均一となる恐れがある。かかる無機蛍光体粒子の分離を抑制し、一様な特性の中性子シンチレーターを得るために、前記樹脂組成物中に充填材粒子をさらに含有させることが好ましい。当該充填材粒子が無機蛍光体粒子同士の間隙に充填されることによって、前記無機蛍光体粒子の分離を抑制することができる。
また、該充填材粒子の比重を無機蛍光体粒子と同等とすることが特に好ましい。充填材粒子の比重を無機蛍光体粒子と同等とすることによって、該充填材粒子及び無機蛍光体粒子が、樹脂中で沈降または浮上する速度が一致し、該充填材粒子が無機蛍光体粒子同士の間隙に精緻に充填されるため、無機蛍光体粒子が前記樹脂組成物中に均一に分散され、中性子シンチレーターの一様性がさらに向上する。
さらに、該充填材粒子は、前記無機蛍光体粒子の発光波長における100〜200℃での屈折率が、100〜200℃での樹脂の屈折率に近いものを用いることが好ましい。具体的には該充填材粒子の屈折率に対する透明樹脂の100〜200℃の範囲のいずれかの温度での屈折率の比が、0.95〜1.05であることが好ましく、0.98〜1.02であることがより好ましく、100〜200℃の範囲のいずれかの温度で一致することが特に好ましい。充填材粒子の屈折率に対する透明樹脂の屈折率の比をかかる範囲とすることによって、充填材粒子と樹脂との界面における光の散乱を抑制することができ、本発明における樹脂組成物の内部透過率を高めることができる。
かかる充填材粒子の形状は特に制限されないが、無機蛍光体粒子同士の間隙に充填せしめるため、無機蛍光体粒子と同等の形状、またはその大きさが無機蛍光体粒子以下であることが好ましい。
また樹脂組成物への混合割合は、無機蛍光体粒子の体積の20%以上とすることが好ましい。かかる混合割合とすることによって、無機蛍光体粒子の分離を抑制する効果が充分に発揮される。なお、該充填材粒子の樹脂組成物への混合割合の上限は、特に制限されない。特に、中性子シンチレーターのn/γ弁別能を劇的に向上させる目的で、無機蛍光体粒子の体積分率を著しく低減する場合には、無機蛍光体粒子を均一に分散せしめるべく多量の充填材粒子を混合することが好ましい。但し、樹脂組成物を製造する際の粘性等を考慮すると500%以下が好ましく、200%以下がより好ましく、120%以下がさらに好ましい。また樹脂組成物全体を100体積%とした場合、80体積%未満が好ましく、50体積%未満がより好ましい。
かかる充填材粒子としては、具体的には、シリカ、酸化チタン、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化リチウム、炭酸マグネシウム、フッ化ストロンチウム、雲母(マイカ)、及び各種ガラス等の無機物粒子、或いはシリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン及びスチレンブタジエン等の有機物粒子等が挙げられる。
さらに充填材粒子としては、無機蛍光体粒子と同種であって、ドーピング元素がない無機物からなる充填材粒子が最も好ましい。すなわち、無機蛍光体粒子と同種の無機物からなる充填材粒子は、その比重が無機蛍光体粒子の比重と一致しているため、前記説明したように無機蛍光体粒子を前記樹脂組成物中に均一に分散せしめることができる。さらに、該充填材粒子は、その屈折率が無機蛍光体粒子の屈折率と一致しているため、無機蛍光体粒子と屈折率が近い樹脂を選択すれば、自ら該充填剤粒子と樹脂の屈折率が近くなり、樹脂組成物の内部透過率を高めることが容易にできる。より好ましくは前記化学式LiM1M2X6で示され、ランタノイド元素などがドーピングされていない結晶である。
なお、該充填剤粒子は前記中性子捕獲同位体を実質的に含まないことが好ましい。該充填剤粒子が中性子捕獲同位体を含む場合には、該充填剤粒子に含まれる中性子捕獲同位体が、前記無機蛍光体粒子に含まれる中性子捕獲同位体と競合し、無機蛍光体粒子による中性子捕獲反応が阻害されて中性子シンチレーターの中性子検出効率が低下する恐れがある。ただし、無機蛍光体粒子による中性子捕獲反応を顕著に阻害しない範囲においては、該充填剤粒子が中性子捕獲同位体を含んでいても良い。本発明者らの検討によれば、充填剤粒子の中性子捕獲同位体含有量が、無機蛍光体粒子の中性子捕獲同位体含有量の1/10以下であれば、問題なく使用することができる。なお、該充填剤粒子の中性子捕獲同位体含有量は、前記説明した無機蛍光体粒子の中性子捕獲同位体含有量と同様にして求めることができる。
本発明において、前記無機蛍光体粒子及び樹脂に加えて、中性子捕獲同位体を含有しない蛍光体(以下、中性子不感蛍光体ともいう)をさらに混合してなる中性子シンチレーターとすることが好ましい。
かかる態様においては、γ線の入射によって生じた高速電子が、前記無機蛍光体粒子から逸脱した後に該中性子不感蛍光体に到達してエネルギーを付与し、該中性子不感蛍光体が蛍光を発する。すなわち、γ線が入射した際には、無機蛍光体粒子と中性子不感蛍光体の双方がエネルギーを付与され蛍光を発する。一方、中性子が入射した際には、無機蛍光体粒子で生じた2次粒子は無機蛍光体粒子から逸脱しないため、無機蛍光体粒子のみが蛍光を発する。
ここで、前記無機蛍光体粒子と該中性子不感蛍光体は、蛍光寿命や発光波長等の蛍光特性に差異を有するため、かかる蛍光特性の差異を利用して中性子とγ線を弁別することができる。すなわち、蛍光特性の差異を識別できる機構を中性子検出器に設けておき、無機蛍光体粒子に由来する蛍光と中性子不感蛍光体に由来する蛍光の双方が検出された場合にはγ線が入射した事象とし、無機蛍光体粒子に由来する蛍光のみが検出された場合にはγ線が入射した事象として処理することができる。かかる処理を講じることによって、n/γ弁別能に特に優れた中性子検出器を得ることができる。
蛍光特性の差異を識別できる機構を具体的に例示すれば、前記無機蛍光体粒子と中性子不感蛍光体の蛍光寿命の差異を識別でき得る波形解析機構、及び、無機蛍光体粒子と中性子不感蛍光体の発光波長を識別でき得る波長解析機構が挙げられる。
以下、前記波形解析機構について、より具体的に例示する。該波形解析機構は、前置増幅器、主増幅器、波形解析器及び時間振幅変換器により構成される。
前記中性子シンチレーターと光検出器と組み合わせてなる本発明の中性子検出器において、該光検出器より出力された信号を、前置増幅器を介して主増幅器へ入力し、増幅・整形する。ここで、主増幅器で増幅・整形され、該主増幅器より出力される信号の強度は経時的に増加するが、かかる増加に要する時間(以下、立ち上がり時間ともいう)は、前記無機蛍光体粒子あるいは中性子不感蛍光体の蛍光寿命を反映しており、蛍光寿命が短い程、立ち上がり時間が短くなる。
該立ち上がり時間を解析するため、主増幅器で増幅・整形された信号を波形解析器に入力する。波形解析器は、前記主増幅器より入力された信号を時間積分し、当該時間積分された信号強度が所定の閾値を超えた際にロジック信号を出力する。ここで、波形解析器には二段階の閾値が設けられており、第一のロジック信号と第二のロジック信号がある時間間隔を以て出力される。
次に波形解析器から出力される二つのロジック信号を時間振幅変換器(Time to amplitude converter, TAC)に入力し、波形解析器から出力される二つのロジック信号の時間差をパルス振幅に変換して出力する。該パルス振幅は、波形解析器から出力される第一のロジック信号と第二のロジック信号の時間間隔、すなわち立ち上がり時間を反映する。
前記説明から理解されるように、該時間振幅変換器から出力されるパルス振幅が小さい程、立ち上がり時間が短く、したがって前記無機蛍光体粒子あるいは中性子不感蛍光体の蛍光寿命が短いと識別される。
以下、前記波長解析機構について、より具体的に例示する。該波長解析機構は、光学フィルタ、該光学フィルタを介して中性子シンチレーターに接続される第二の光検出器、及び弁別回路により構成される。
本態様において、中性子シンチレーターから放出される光の一部は前記光学フィルタを介さずに第一の光検出器に導かれ、他の一部は光学フィルタを介して第二の光検出器に導かれる。
ここで、無機蛍光体粒子はAnmの波長で発光し、中性子不感蛍光体はAnmとは異なるBnmの波長で発光するものとする。すると、前記説明したように、γ線が入射した際には無機蛍光体粒子と中性子不感蛍光体の双方が蛍光を発するため、中性子シンチレーターからはAnm及びBnmの光が発せられ、中性子が入射した際には無機蛍光体粒子のみが蛍光を発するため、Anmの光のみが発せられる。
本態様において、前記光学フィルタは、Anmの波長の光を遮り、且つBnmの波長の光を透過するフィルタである。したがって、中性子を照射した際に中性子シンチレーターから発せられたAnmの光は、第一の光検出器には到達するが、第二の光検出器には光学フィルタによって遮られるため到達しない。一方で、γ線を照射した際にシンチレーターから発せられた光の内、Anmの光については前記中性子を照射した場合と同様であるが、Bnmの光は、第一の光検出器に到達し、また光学フィルタを透過するため第二の光検出器にも到達する。
そのため、Anmの光が第一の光検出器に入射し、該光検出器から信号が出力された際に、第二の光検出器から信号が出力されなければ中性子による事象とし、Bnmの光が第二の光検出器に入射して該光検出器から信号が出力されればγ線による事象として識別することができる。
なお、本態様において、前記のように中性子とγ線を弁別するために弁別回路が設けられる。該弁別回路は、前記第一の光検出器からの信号に同期して動作し、該光検出器からの信号が出力された際に、第二の光検出器からの信号の有無を判定する回路である。該弁別回路として具体的なものを例示すれば、反同時計数回路、ゲート回路等が挙げられる。
かかる中性子不感蛍光体を具体的に例示すれば、2,5−Dipheniloxazole、1,4−Bis(5−phenyl−2−oxazolyl)benzene等の有機蛍光体が挙げられる。かかる有機蛍光体は、一般に前記無機蛍光体粒子に比較して蛍光寿命が短いため、蛍光寿命の差異を利用してn/γ弁別能を向上させるために好適に用いることができる。
本発明の中性子検出器は、前記中性子シンチレーターと光検出器と組み合わせてなる。即ち、中性子の入射によって中性子シンチレーターから発せられた光は、光検出器によって電気信号に変換され、中性子の入射が電気信号として計測されるため、中性子計数等に用いることができる。本発明において、光検出器は特に限定されないが、100〜200℃の高温における動作特性に優れた高温用光電子増倍管を用いることが好ましい。かかる高温用光電子増倍管を具体的に例示すれば、浜松ホトニクス社製 R3991A、R1288A、R1288AH及びR5473−02が挙げられる。或いは、光検出器の温度を約60℃以下に保持する冷却機構を設けることによって、一般的な光電子増倍管、フォトダイオード、アバランシェフォトダイオード、ガイガーモードアバランシェフォトダイオード等の従来公知の光検出器を何ら制限なく用いることができる。
なお、中性子シンチレーターは、光検出器に対向する光出射面を有し、当該光出射面は平滑な面であることが好ましい。かかる光出射面を有することによって、中性子シンチレーターで生じた光を効率よく光検出器に入射できる。また、光検出器に対向しない面に、アルミニウム或いはポリテトラフロロエチレン等からなる光反射膜を施すことにより、中性子シンチレーターで生じた光の散逸を防止することができ、好ましい。
本発明の中性子シンチレーターと光検出器とを組み合わせて中性子検出器を製作する方法は特に限定されず、例えば、光検出器の光検出面に中性子シンチレーターの光出射面を光学グリース或いは光学セメント等で光学的に接着し、光検出器に電源および信号読出し回路を接続して中性子検出器を製作することができる。なお、前記信号読出し回路は、一般に前置増幅器、整形増幅器、及び多重波高分析器などで構成される。
また、前記光反射膜が施された中性子シンチレーターを多数配列し、光検出器として位置敏感型光検出器を用いることにより、中性子検出器に位置分解能を付与することができる。
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
実施例1
本実施例では、Euを0.04mol%ドープしたEu:LiCaAlF6結晶からなる無機蛍光体粒子を用い、中性子検出器を製作した。
該Eu:LiCaAlF6結晶は、中性子捕獲同位体としてリチウム6のみを含有する。該Eu:LiCaAlF6結晶の密度は3.0g/cm3、リチウムの質量分率は3.2質量%、原料におけるリチウム6の同位体比率は95%であり、したがってその中性子捕獲同位体含有量は、前記式(1)より、9.1atom/nm3である。
また、該Eu:LiCaAlF6結晶に放射線を照射し、該Eu:LiCaAlF6結晶の発光波長を蛍光光度計で測定した結果、370nmであった。なお、該放射線は、中性子照射時に生じる2次粒子の一つであるα線とし、線源として241Amを用いた。
Eu:LiCaAlF6結晶からなる無機蛍光体粒子の製造に際し、まず、約2cm角の不定形の形状を有する前記Eu:LiCAF6結晶のバルク体を用意し、該バルク体をハンマーミルによって粉砕した後、乾式分級により分級して、200μmの上側ふるいを通過し100μmの下側ふるいに残留したものを集め不定形の無機蛍光体粒子を得た。
該無機蛍光体粒子の質量基準の比表面積を、BET比表面積計を用いて測定したところ、0.015m2/gであった。したがって、単位体積当たりの表面積は、450cm2/cm3であった。
本実施例において、LiCaAlF6結晶からなる充填材粒子を用いた。該LiCaAlF6結晶の密度は3.0g/cm3、リチウムの質量分率は3.7質量%、原料におけるリチウム6の同位体比率は7.6%であり、したがってその中性子捕獲同位体含有量は、前記式(1)より、0.73atom/nm3であった。また、該LiCaAlF6結晶の比重は、前記Eu:LiCaAlF6結晶と同一であり、3.0g/cm3であった。
当該LiCaAlF6結晶からなる充填材粒子は、無機蛍光体粒子と同様にバルク体を粉砕した後、乾式分級により分級して、200μmの上側ふるいを通過し100μmの下側ふるいに残留したものを用いた。
本実施例では、有機樹脂としてシリコーン樹脂(信越化学製、KER−2500)を用いた。該樹脂はA液とB液の2液からなり、等量の2液を混合して樹脂前駆体を調製した後、該樹脂前駆体を加熱により硬化せしめて使用することができる。該有機樹脂を硬化せしめ、厚さが0.3cm及び1cmの試験片を用意し、前記Eu:LiCaAlF6結晶の発光波長である370nmにおいて、表面反射損失を含む透過率をそれぞれ測定し、前記式(3)に代入することによって内部透過率を求めた。その結果、100〜200℃の温度において内部透過率が92〜95%/cmであった。
前記Eu:LiCaAlF6結晶からなる無機蛍光体、LiCaAlF6結晶からなる充填材、及び前記シリコーン樹脂の370nmにおける室温(25℃)での屈折率を、屈折率計を用いて測定した。なお、かかる屈折率の測定においては、測定に適した所定の形状のEu:LiCaAlF6結晶のバルク体、LiCaAlF6結晶のバルク体及び樹脂のバルク体を用いた。屈折率計の光源として、Hgランプのi線(365.0nm)、及びh線(404.7nm)を用いた。各光源の波長及び該波長において測定された屈折率を、前記セルマイヤーの式(4)に代入して定数A及びBを求めた後、同式を用いて370nmにおける屈折率を求めた。その結果、Eu:LiCaAlF6結晶、LiCaAlF6結晶、及びシリコーン樹脂の370nmにおける屈折率は、それぞれ1.40、1.40及び1.43であり、無機蛍光体粒子の屈折率に対する有機樹脂の屈折率の比、及び充填材粒子の屈折率に対する有機樹脂の屈折率の比は、ともに1.02であった。
高温下での屈折率を同様にして測定した結果、125℃において、Eu:LiCaAlF6結晶、LiCaAlF6結晶、及びシリコーン樹脂の370nmにおける屈折率は、全て1.40となり、無機蛍光体粒子の屈折率と有機樹脂の屈折率、及び充填材粒子の屈折率と有機樹脂の屈折率が、ともに一致した。
前記Eu:LiCaAlF6結晶からなる無機蛍光体粒子10.0g、LiCaAlF6結晶からなる充填材粒子10.0g、及び予め等量のA液とB液を混合したシリコーン樹脂の樹脂前駆体10.0mLを混合容器に入れ、混合物の粘度を低下せしめる目的で、トルエン1mLを添加した。
これらを、撹拌棒を用いてよく混合した後、該混合操作において混合物中に生じた気泡を、真空脱泡機を用いて脱泡した。
次いで、直径が2cm、厚さが約0.3cmのポリテトラフロロエチレン製の鋳型にそれぞれ注入し、80℃で5時間加熱してトルエンを留去した後、100℃で24時間加熱して樹脂前駆体を硬化せしめ、無機蛍光体粒子を含む樹脂組成物からなる本発明の中性子シンチレーターを得た。
該樹脂組成物の形状は、直径が2cm、厚さが0.3cmであり、体積は0.94mLであった。また、該樹脂組成物には無機蛍光体粒子及び充填材粒子が0.56gずつ含まれており、無機蛍光体粒子及び充填材粒子の密度から、これらの体積はともに0.19mLである。したがって、該樹脂組成物中の無機蛍光体粒子の体積分率は20%であり、充填材粒子の樹脂組成物への混合割合は、無機蛍光体粒子の体積の100%であった。
前記直径が2cm、厚さが0.3cmの樹脂組成物からなる中性子シンチレーターを光検出器に接続して本発明の中性子検出器を製作した。まず、前記中性子シンチレーターの直径が2cmの一面を光出射面とし、当該光出射面以外の面にテープ状のポリテトラフロロエチレンを巻いて光反射膜とした。次いで、光検出器として光電子増倍管(浜松ホトニクス社製 R1288AH)を用意し、当該光電子増倍管の光検出面と前記中性子シンチレーターの光出射面を光学グリースによって光学的に接着した後、該中性子シンチレーターと光検出器を遮光用のアルミ箔で覆った。
前記光電子増倍管に電源を接続し、また、信号読出し回路として、光電子増倍管側から前置増幅器、整形増幅器及び多重波高分析器を接続し、本発明の中性子検出器を得た。
本発明の中性子検出器を125℃の恒温器内に設置し、その性能を以下の方法により評価した。2.4MBqの放射能のCf−252を20cm角の立方体形状の高密度ポリエチレンの中心に設置し、該Cf−252からの中性子を高密度ポリエチレンで減速して照射した。
光電子増倍管に接続された電源を用いて、高電圧を光電子増倍管に印加した。中性子の入射によって、中性子シンチレーターから発せられた光を光電子増倍管でパルス状の電気信号に変換し、当該電気信号を前置増幅器、整形増幅器を介して多重波高分析器に入力した。多重波高分析器に入力された電気信号を解析して波高分布スペクトルを作成した。
次に、中性子に替えて、0.83MBqの放射能のCo−60を用いて、該Co−60からのγ線を照射する以外は、前記と同様にして波高分布スペクトルを作成した。
得られた波高分布スペクトルを図1に示す。図1の実線および点線は、それぞれ中性子およびγ線照射下での波高分布スペクトルである。なお、当該波高分布スペクトルにおいて、横軸を中性子ピークの波高値を1とした相対値で示した。
図1より、明瞭な中性子ピークが確認でき、また、γ線の入射によって生じる電気信号の波高値は、中性子ピークの波高値に比較してはるかに低く、容易にγ線と中性子を弁別できることが分かる。
実施例2
シリコーン樹脂として室温での屈折率が1.45のもの(信越化学製、KER−6020)を用いた。当該シリコーン樹脂は175℃でEu:LiCaAlF6結晶からなる無機蛍光体粒子と屈折率が一致した。
実施例1と同様にして中性子検出器を作成し、これを175℃の恒温器内に設置し、その性能を実施例1と同様にして測定した。
得られた波高分布スペクトルを図2に示す。図2の実線および点線は、それぞれ中性子およびγ線照射下での波高分布スペクトルである。なお、当該波高分布スペクトルにおいて、横軸を中性子ピークの波高値を1とした相対値で示した。
図2より、明瞭な中性子ピークが確認でき、また、γ線の入射によって生じる電気信号の波高値は、中性子ピークの波高値に比較してはるかに低く、容易にγ線と中性子を弁別できることが分かる。
比較例1
シリコーン樹脂として室温での屈折率が1.45のもの(樹脂が信越化学製、KER−7030)を用いた。
実施例1と同様にして直径が2cm、厚さが0.3cmの樹脂組成物からなる中性子シンチレーターを製造したが、これは室温でほぼ透明であった。この樹脂組成物(中性子シンチレーター)を加熱したところ、温度上昇と共に徐々に透明性を失い、125℃、175℃では著しく白濁し、透明性を失った。
上記中性子シンチレーターを用いて中性子検出器を作成し、25℃、125℃及び175℃で性能を評価した。結果を図3ないし図5に示すが、室温での性能は良好なものの、高温では中性子の感度が悪く、資源探査などの高温での使用には不十分なものであった。