以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る自動変速機の構成を示す骨子図であって、この自動変速機1は、エンジンの出力軸2に連結されたトルクコンバータ3と、トルクコンバータ3の出力側に入力軸4を介して連結され、トルクコンバータ3からの動力が入力される変速機構9とを有し、これらが入力軸4の軸心上に配置されて変速機ケース5に収容されている。
トルクコンバータ3は、エンジンの出力軸2に連結されたケース3aと、ケース3a内に固設されたポンプ3bと、ポンプ3bに対向配置されてポンプ3bにより作動油を介して駆動されるタービン3cと、ポンプ3bとタービン3cとの間に介設され、かつ、変速機ケース5にワンウェイクラッチ3dを介して支持されてトルク増大作用を行うステータ3eと、ケース3aとタービン3cとの間に設けられ、ケース3aを介してエンジンの出力軸2とタービン3cとを直結するロックアップクラッチ3fとによって構成されている。そして、タービン3cの回転が入力軸4を介して変速機構9側に伝達されるようになっている。
また、トルクコンバータ3と変速機構9との間には、トルクコンバータ3を介してエンジンにより駆動される機械式オイルポンプ6が配置されると共に、変速機構9には、変速機構9からの動力を駆動輪(図示せず)側へ出力する出力ギヤ7が入力軸4の軸心上に配置されている。
変速機構9は、該変速機構9を構成する摩擦締結要素として、ロークラッチ40、ハイクラッチ50、LRブレーキ60、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80を有し、出力ギヤ7の駆動源側であるトルクコンバータ3側に、ロークラッチ40及びハイクラッチ50が配置され、出力ギヤ7の反駆動源側である反トルクコンバータ3側にLRブレーキ60、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80がトルクコンバータ3側からこの順序で配置されている。
変速機構9はまた、入力軸4の軸心上に、第1、第2、第3プラネタリギヤセット(以下、「第1、第2、第3ギヤセット」という)10、20、30を有し、これらが変速機ケース5内における出力ギヤ7の反トルクコンバータ3側において、トルクコンバータ3側からこの順序で配置されている。
第1、第2、第3ギヤセット10、20、30のうち、第1ギヤセット10と第2ギヤセット20はシングルピニオン型であって、サンギヤ11、21と、これらのサンギヤ11、21に噛み合った各複数のピニオン12、22と、これらのピニオン12、22をそれぞれ支持するキャリヤ13、23と、ピニオン12、22に噛み合ったリングギヤ14、24とで構成されている。
また、第3ギヤセット30はダブルピニオン型であって、サンギヤ31と、サンギヤ31に噛み合った複数の第1ピニオン32aと、第1ピニオン32aに噛み合った第2ピニオン32bと、これらのピニオン32a、32bを支持するキャリヤ33と、第2ピニオン32bに噛み合ったリングギヤ34とで構成されている。
そして、第3ギヤセット30のサンギヤ31に入力軸4が直接連結されていると共に、第1ギヤセット10のサンギヤ11と第2ギヤセット20のサンギヤ21とが結合されて、ロークラッチ40の出力部材41に連結されており、また、第2ギヤセット20のキャリヤ23にハイクラッチ50の出力部材51が連結されている。
また、第1ギヤセット10のリングギヤ14と第2ギヤセット20のキャリヤ23とが結合されて、これらと変速機ケース5との間にLRブレーキ60が配設され、第2ギヤセット20のリングギヤ24と第3ギヤセット30のリングギヤ34とが結合されて、これらと変速機ケース5との間に26ブレーキ70が配設され、さらに、第3ギヤセット30のキャリヤ33と変速機ケース5との間にR35ブレーキ80が配設されている。そして、第1ギヤセット10のキャリヤ13に、出力ギヤ7が連結されている。
以上の構成により、この自動変速機1は、ロークラッチ40、ハイクラッチ50、LRブレーキ60、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80の締結状態の組み合わせにより、図2に示すように、Dレンジでの1〜6速と、Rレンジでの後退速とが形成されるようになっている。
本実施形態に係るブレーキ装置としてのLRブレーキ60は、図3に示すように、LRブレーキ60の締結時における応答性を向上させるため、クラッチクリアランス(締結用ピストンとリテーニングプレートとの間の寸法から全摩擦板の厚さの総和を減じた値)を調整する機能を有するタンデム式の油圧アクチュエータ61を備えている。
LRブレーキ60は、外周部が変速機ケース5の内周面に形成されたスプライン5aに係合された複数枚の固定側摩擦板62aと、内周部が回転部材としてのハブ部材85の外周面に形成されたスプライン85aに係合された複数枚の回転側摩擦板62bとが交互に配置されてなる摩擦板セット62を有し、ハブ部材85は、図1に示す第1ギヤセット10のリングギヤ14と第2ギヤセット20のキャリヤ23とに結合されている。
摩擦板セット62の反トルクコンバータ側(以下、反トルクコンバータ側(図の左側)を「後方」、トルクコンバータ側(図の右側)を「前方」とする)には、固定側摩擦板62aと同様に変速機ケース5のスプライン5aに係合され、スナップリング86により後方に対して抜け止めされたリテーニングプレート63が配設されている。
摩擦板セット62の前方には、LRブレーキ60、具体的には固定側摩擦板62aと回転側摩擦板62bとを締結するための締結用ピストン64と、締結用ピストン64を摩擦板セット62側へ移動させてクラッチクリアランスを調整するためのクリアランス調整用ピストン65とが順に配設されている。
クリアランス調整用ピストン65は、変速機ケース5に設けられたシリンダ5b内にシール部材87a、87b、87cを介して軸方向に移動可能に嵌合され、締結用ピストン64は、クリアランス調整用ピストン65の内側に設けられたシリンダ65a内にシール部材88a、88bを介してクリアランス調整用ピストン65に対して軸方向に相対移動可能に嵌合されている。
変速機ケース5のシリンダ5b内におけるクリアランス調整用ピストン65の背部には、前記シリンダ5bとクリアランス調整用ピストン65とによってクリアランス調整用油圧室(以下、「クリアランス調整室」という)66が油密的に形成され、クリアランス調整用ピストン65のシリンダ65a内における締結用ピストン64の背部には、前記シリンダ65aと締結用ピストン64とによって締結用油圧室(以下、「締結室」という)67が油密的に形成されている。
クリアランス調整室66には、変速機ケース5に設けられた油路5cが接続されており、該油路5cは、変速機ケース5の下方に配設されたコントロールバルブユニット(不図示)に通じている。前記コントロールバルブユニットは、前記油路5cを通じてクリアランス調整室66に所定の油圧を供給できるようになっている。
締結室67には、クリアランス調整用ピストン65の外周面部65bに設けられた開口部65cを介して、変速機ケース5に設けられた油路5dが接続されており、該油路5dは、前記コントロールバルブユニットに通じている。前記コントロールバルブユニットはまた、前記油路5dを通じて締結室67に所定の油圧を供給できるようになっている。なお、前記油路5dと開口部65cとの接続部はシール部材87b、87cによってシールされている。
LRブレーキ60ではまた、クリアランス調整用ピストン65における外周面部65bの周方向の複数箇所に径方向外方へ延びる前側ばね受け部65dが設けられると共に、これと対向するように、リテーニングプレート63の外周部の前面に周方向の複数箇所に後側ばね受け部89が別部材を固着することにより設けられており、互いに対向する前側、後側ばね受け部65d、89間に、クリアランス調整用ピストン65のリターンスプリング68が装着されている。
また、LRブレーキ60には、変速機ケース5に、クリアランス調整室66に油圧が供給されたときにクリアランス調整用ピストン65の摩擦板セット62側への移動を所定位置で規制してゼロクリアランス状態にするためのストッパとしてのスナップリング69が設けられている。
図3では、LRブレーキ60は、締結室67及びクリアランス調整室66から油圧が排出されてクリアランス調整用ピストン65が締結用ピストン64と共にリターンスプリング68の付勢力により反摩擦板セット62側に移動された解放状態で示されている。
LRブレーキ60の締結時に、図3に示す解放状態でクリアランス調整室66に油圧を供給すると、図4に示すように、クリアランス調整用ピストン65がリターンスプリング68の付勢力に抗してスナップリング69に当接するまで摩擦板セット62側に移動すると共に、クリアランス調整用ピストン65のシリンダ65a内でシール部材88a、88b等の摩擦等により締結用ピストン64も共に摩擦板セット62側に移動する。
クリアランス調整用ピストン65がスナップリング69に当接すると、締結用ピストン64は締結のためのストロークが終了して、摩擦板セット62、具体的には固定側摩擦板62a及び回転側摩擦板62bを押圧することなく該摩擦板62a、62bに接した状態もしくはほぼ接した状態であるゼロクリアランス状態となり、締結用ピストン64の位置はゼロクリアランス状態となる位置となる。
さらに、図4に示すゼロクリアランス状態で締結室67に油圧を供給すると、図5に示すように、締結用ピストン64が摩擦板セット62、具体的には固定側摩擦板62a及び回転側摩擦板62bを押し付けて、変速機ケース5に固定されたリテーニングプレート63と締結用ピストン64との間に摩擦板62a、62bが挟み込まれて相対回転不能になることで、LRブレーキ60が締結された締結状態となる。
一方、LRブレーキ60の解放時には、図5に示す締結状態で締結室67から油圧を排出すると、図4に示すように、締結用ピストン64が摩擦板62a、62bに接した状態もしくはほぼ接した状態で締結用ピストン64による押圧力が解除されて、LRブレーキ60がゼロクリアランス状態となる。
さらに、図4に示すゼロクリアランス状態でクリアランス調整室66からも油圧を排出すると、図3に示すように、クリアランス調整用ピストン65がリターンスプリング68の付勢力により反摩擦板セット62側に移動する。このとき、シール部材88a、88b等の摩擦等により、締結用ピストン64は、クリアランス調整用ピストン65との位置関係を保持したまま、該クリアランス調整用ピストン65と共に右側に移動して、LRブレーキ60が解放状態となる。
したがって、次にLRブレーキ60を締結するときには、クリアランス調整室66に油圧を供給すれば、締結用ピストン64はゼロクリアランス状態となり、ゼロクリアランス状態で締結室67に油圧を供給すれば、油圧の供給とほぼ同時に摩擦板62a、62bを押圧し、LRブレーキ60が応答性良く締結されることとなる。
また、自動変速機1は、ロークラッチ40、ハイクラッチ50、LRブレーキ60、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80に油圧を選択的に供給して各変速段を形成するための油圧制御回路を有しており、次に、図6及び図7により、この油圧制御回路100の構成、特に、Dレンジでの2速から1速への変速時及び1速から2速への変速時の制御に関わる部分の構成を説明する。
図6及び図7に示す本実施形態に係る油圧制御回路100は、オイルポンプ6の吐出圧を所定油圧のライン圧に調整する調圧弁101と、運転者によって選択されたレンジに応じて前記ライン圧の供給先を切り換えるマニュアルバルブ102とを有し、前記ライン圧が各種バルブを含む所定の油圧回路100aを経由して、ロークラッチ40、ハイクラッチ50、LRブレーキ60、26ブレーキ70及びR35ブレーキ80側に出力されるようになっている。
前述したように、LRブレーキ60は、締結用ピストン64とクリアランス調整用ピストン65とを備えたタンデム式の油圧アクチュエータ61から構成され、クリアランス調整室66と締結室67とに油圧が供給されることにより締結されるようになっている。
前記油圧制御回路100は、LRブレーキ60のクリアランス調整室66に対する油圧の供給、排出を切り換えるシフトバルブ111と、該シフトバルブ111を切り換え動作させるオンオフソレノイドバルブ(以下、「オンオフSV」という)112と、LRブレーキ60の締結室67に供給される油圧を制御するリニアソレノイドバルブ(以下、「リニアSV」という)113とを備えると共に、LRブレーキ60のクリアランス調整室66と締結室67に対する油圧の供給、排出順序を規制するシーケンスバルブ114を備えている。
オンオフSV112及びリニアSV113は、後述する制御装置150からの制御信号によって作動し、オンオフSV112は、該オンオフSV112が設置された油路121の上流側、下流側を開通または遮断し、遮断したときには下流側の油路を排圧するように動作する。また、リニアSV113は、元圧ポートaに入力される油圧を所定油圧の制御圧に調整して出力ポートbに出力し、あるいは両ポートa、b間を遮断して出力ポートbをドレンポートcに連通させるように動作する。ドレンポートcは、変速機ケース5の下方に配設されたコントロールバルブユニットと略等しい位置で排圧するようになっている。
シフトバルブ111は、スプール111aのリターンスプリングが装着された方と反対側の端部に制御ポートdが設けられ、オンオフSV112が油路121を遮断して該制御ポートdを排圧しているときは、スプール111aは、リターンスプリングの付勢力により後述する図7に示す左側のセット位置にあり、オンオフSV112が油路121を開通させれば、制御ポートdにライン圧がパイロット圧として導入されることにより、スプール111aがリターンスプリングの付勢力に抗して、図面上、右側のストローク位置に移動する。
ここで、制御ポートdへのパイロット圧導入時の衝撃を緩和するため、油路121におけるオンオフSV112と制御ポートdとの間にオリフィス121aが設けられている。
また、シフトバルブ111には、クリアランス調整室66用の入力ポートe及び出力ポートfと、ドレンポートgとが設けられており、スプール111aがセット位置にあるときに、入、出力ポートe、fが連通することにより、油路122を介して供給されるライン圧が、油路123を介してLRブレーキ60のクリアランス調整室66に供給され、スプール111aがストローク位置にあるときは、入、出力ポートe、f間が遮断されて、出力ポートfがドレンポートgに連通することにより、LRブレーキ60のクリアランス調整室66が油路123を介して排圧されるようになっている。
さらに、このシフトバルブ111とクリアランス調整室66との間の油路123からは、リニアSV113の元圧ポートaに通じる油路(以下、「元圧油路」という)124が分岐され、該元圧油路124により、シフトバルブ111からLRブレーキ60のクリアランス調整室66に供給される油圧が制御元圧としてリニアSV113に供給されるようになっている。
そして、リニアSV113は、供給された元圧をLRブレーキ60の締結室67に供給する所定圧の油圧(以下、「締結室油圧」という)に調整し、該油圧を油路(以下、「締結油路」という)125を介して締結室67に供給するようになっているが、締結油路125上にシーケンスバルブ114が設置されている。
シーケンスバルブ114は、スプール114aのリターンスプリングが装着された方と反対側の端部に制御ポートhを有し、元圧油路124から分岐された油路126により、シフトバルブ111からLRブレーキ60のクリアランス調整室66に供給される油圧が、オリフィス126aを通ってパイロット圧として供給されるようになっている。そして、このパイロット圧が供給されたときに、スプール114aが図6に示すセット位置からリターンスプリングの付勢力に抗して図7に示すストローク位置に移動する。
シーケンスバルブ114には、締結室67用の入力ポートi及び出力ポートjと、ドレンポートkとが設けられており、スプール114aがストローク位置にあるときに、入、出力ポートi、jが連通することにより、締結油路125の上流部125aと下流部125bとが連通して、リニアSV113から出力される締結室油圧が締結室67に供給され、スプール114aがセット位置にあるときは、入、出力ポートi、j間が遮断され、出力ポートjがドレンポートkに連通することにより、締結室油圧が締結油路125の下流部125bを介して排出される。ドレンポートkは、ドレンポートcよりも高い位置で、LRブレーキ60の締結室67と略等しい位置で排圧するようになっている。
図6及び図7に示す油圧制御回路100では、所定の油圧回路100aからLRブレーキ60及び26ブレーキ70への油路のみを示しているが、所定の油圧回路100aは、ロークラッチ40、ハイクラッチ50及びR35ブレーキ80にも接続されている。なお、図3から図5に示す油路5c、5dはそれぞれ、図6及び図7に示す油路123、125に対応する。
以上の構成に加えて、自動変速機1は、油圧制御回路100における各ソレノイドバルブを制御して運転状態に応じた変速段を形成する制御装置150を備えており、図8に示すように、該制御装置150には、運転者の操作により選択されたレンジを検出するレンジセンサ151からの信号、当該車両の車速を検出する車速センサ152からの信号、運転者のアクセルペダルの操作量を検出するアクセル操作量センサ153からの信号、トルクコンバータ3のタービン回転数、具体的には入力軸4の回転数を検出するタービン回転数センサ154からの信号等が入力されるようになっている。
そして、制御装置150は、これらの信号が示す運転状態に応じて油圧制御回路100における調圧弁101、オンオフSV112、リニアSV113及び所定の油圧回路100aに含まれるその他のソレノイドバルブに制御信号を出力し、所定の摩擦締結要素に選択的に油圧を供給して運転状態に応じた変速段を形成するようになっている。なお、制御装置150は、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
次に、前記各ソレノイドバルブの作動によるDレンジの2速から1速への変速時及び2速から1速への変速時の油圧制御について説明する。
自動変速機1では、2速から1速への変速は、ロークラッチ40を締結した状態で26ブレーキ70を解放してLRブレーキ60を締結することにより行われ、このLRブレーキ60に対する油圧制御について説明する。
まず、変速前の2速の状態について説明すると、2速では、図6に示すように、シフトバルブ111は、オンオフSV112によってシフトバルブ111の制御ポートdにパイロット圧が供給された状態であって、スプール111aがストローク位置にあり、そのため、シフトバルブ111とLRブレーキ60のクリアランス調整室66との間の油路123がシフトバルブ111のドレンポートgに連通して、クリアランス調整室66が排圧された状態となっている。
このとき、油路123から分岐された元圧油路124を介して、リニアSV113の元圧ポートaも、シフトバルブ111のドレンポートgに連通して排圧された状態となっている。
また、元圧油路124から分岐された油路126を介して、シーケンスバルブ114の制御ポートhも、シフトバルブ111のドレンポートgに連通してパイロット圧が排出された状態となっており、シーケンスバルブ114は、スプール114aがセット位置にあり、そのため、締結油路125の下流部125bがシーケンスバルブ114のドレンポートkに連通して、締結室67に作動油が充填された状態で締結室67が排圧される。このとき、リニアSV113は、出力ポートbをドレンポートcに連通し、締結油路125の下流部125bも排圧された状態となっている。
したがって、LRブレーキ60は、クリアランス調整室66と締結室67の両方から油圧が排出されて解放された状態となっており、一方、ロークラッチ40及び26ブレーキ70が締結されていることにより、自動変速機1の変速段は2速とされている。
次に、2速の状態から1速に変速するときは、26ブレーキ70を解放するように制御すると共に、LRブレーキ60を締結するように制御する。LRブレーキ60の締結時には、オンオフSV112に、油路121の上流側、下流側を遮断し、シフトバルブ111の制御ポートdに供給していたパイロット圧を排出するように制御する。
これにより、シフトバルブ111のスプール111aが図6に示すストローク位置から図7に示すセット位置に移動し、入、出力ポートe、fが連通して、油路122を介して供給されるライン圧が、油路123を介してクリアランス調整室66に供給されると共に、元圧油路124を介してリニアSV113の元圧ポートaに制御元圧として供給され、且つ油路126を介してシーケンスバルブ114の制御ポートhにもパイロット圧として供給される。クリアランス調整室66に油圧が供給されることにより、LRブレーキ60はゼロクリアランス状態とされる。
また、シーケンスバルブ114の制御ポートhにパイロット圧が供給されることにより、シーケンスバルブ114のスプール114aが図6に示すセット位置から図7に示すストローク位置に移動する。スプール114aがストローク位置に移動すると、入、出力ポートi、jが連通して、締結油路125の上流部125aと下流部125bとが連通する。このとき、締結室67に充填されていた作動油の一部は、リニアSV113のドレンポートcを通じて排出され、締結室67に負圧が生じることとなる。
その後に、リニアSV113に、元圧ポートaと出力ポートbとを連通し、元圧ポートaに入力される油圧を締結室油圧に調整して出力ポートbに出力するように制御する。これにより、リニアSV113から出力される締結室油圧が締結室67に供給される。
したがって、LRブレーキ60は、クリアランス調整室66と締結室67の両方に油圧が供給されてゼロクリアランス状態から締結状態とされ、ロークラッチ40も締結されていることにより、自動変速機1の変速段は1速とされる。
一方、自動変速機1では、1速から2速への変速は、ロークラッチ40を締結した状態でLRブレーキ60を解放して26ブレーキ70を締結することにより行われ、次に、このLRブレーキ60に対する油圧制御について説明する。
1速の状態から2速に変速するときは、LRブレーキ60を解放するように制御すると共に、26ブレーキ70を締結するように制御する。LRブレーキ60の解放時には、リニアSV113に、出力ポートbとドレンポートcとを連通し、締結室67に供給していた油圧をドレンポートcから排出するように制御する。これにより、締結室67に供給していた締結室油圧が排出されてLRブレーキ60が解放され、LRブレーキ60はゼロクリアランス状態とされる。
次に、オンオフSV112に、油路121の上流側、下流側を連通し、シフトバルブ111の制御ポートdにパイロット圧を供給するように制御する。これにより、シフトバルブ111のスプール111aが図7に示すセット位置から図6に示すストローク位置に移動し、油路123がシフトバルブ111のドレンポートgに連通して、クリアランス調整室66に供給されていた油圧が排出され、LRブレーキ60は解放状態とされる。
このとき、油路123から分岐された元圧油路124を介して、リニアSV113の元圧ポートaも、シフトバルブ111のドレンポートgに連通して排圧される。また、元圧油路124から分岐された油路126を介して、シーケンスバルブ114の制御ポートhもパイロット圧が排出され、シーケンスバルブ114は、図7に示すストローク位置から図6に示すセット位置に移動される。これにより、締結油路125の下流部125bがシーケンスバルブ114のドレンポートkに連通し、締結室67は、作動油が充填された状態で排圧される。
したがって、LRブレーキ60は、クリアランス調整室66と締結室67の両方から油圧が排出されて解放状態とされ、ロークラッチ40及び26ブレーキ70が締結されていることにより、自動変速機1の変速段は2速とされる。
前記油圧制御回路100によれば、LRブレーキ60を締結するとき、LRブレーキ60を解放状態からゼロクリアランス状態にし、その後に締結状態とすることができ、ゼロクリアランス状態で締結室67に油圧を供給すれば、LRブレーキ60を応答性良く締結することができる。
本実施形態ではまた、このようにして構成されたLRブレーキ60を備えた自動変速機1において、締結用ピストン64の位置を予測し、予測した締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときの該締結用ピストン64の位置に基づいて、LRブレーキ60の締結を開始するときの締結用ピストン64の位置がゼロクリアランス状態となる位置となるように締結室67への作動油の供給を制御する。
制御装置150は、締結用ピストン64の位置を予測し、予測した締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときの該締結用ピストン64の位置に基づいて、LRブレーキ60の締結を開始するときの締結用ピストン64の位置がゼロクリアランス状態となる位置となるように締結室67への作動油の供給を制御するようになっている。
締結用ピストン64の位置を予測するとき、クリアランス調整室66に供給される作動油の油圧や、LRブレーキ60の締結時にクリアランス調整室66に油圧を供給した後に締結室67に油圧を供給するまでの間に締結室67に生じる負圧による締結用ピストン64の反摩擦板セット側への後退量を用いて締結用ピストン64の位置を予測する。
制御装置150はまた、LRブレーキ60の締結時に締結室67に作動油をプリチャージするときに、予測した締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときの該締結用ピストン64の位置に基づいて、LRブレーキ60の締結を開始するときの締結用ピストン64の位置がゼロクリアランス状態となる位置となるように締結室67への作動油の供給を制御する。
締結用ピストン64の位置は、予め設定されたゼロクリアランス状態となる位置に対する位置として計算し、締結用ピストン64の位置を予測する。締結用ピストン64の位置は、締結室67に対して供給される作動油の積算流量に対応することから、締結用ピストン64の位置を、締結室67に対する作動油の積算流量を計算することにより予測する。
図9は、LRブレーキの締結時における締結用ピストンの位置の予測を説明するためのタイムチャートである。
図9に示すように、制御装置150では、締結用ピストン64の位置を予測する際、アクセル操作量が操作状態から非操作状態のゼロとされたコースト走行において2速から1速への変速指令が入力されると、時間t1においてLRブレーキ60の締結指令が入力されると共にクリアランス調整室油圧供給信号がON状態とされ、オンオフSV112にパイロット圧を排出するように制御信号を出力すると共に、クリアランス調整用ピストンストローク方向が締結方向と判定される。
これにより、LRブレーキ60では、シフトバルブ111がストローク位置からセット位置に移動してクリアランス調整室66に油圧が供給され、制御装置150では、クリアランス調整室66に供給される作動油の油圧を予測してクリアランス調整室66の予測油圧を算出する。
具体的には、ライン指示圧とクリアランス調整室66の前回の予測油圧との差圧を算出し、算出した差圧から、予め設定されたライン指示圧とクリアランス調整室の予測油圧との差圧とクリアランス調整室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データを用いてクリアランス調整室66に対する作動油の流入流量を算出し、算出したクリアランス調整室66に対する作動油の流入流量をクリアランス調整室66に対する作動油の前回の積算流量に加算してクリアランス調整室66に対する作動油の積算流量を算出し、算出したクリアランス調整室66に対する作動油の積算流量から、予め設定されたクリアランス調整室に対する作動油の積算流量とクリアランス調整室の予測油圧との関係を示す特性データを用いて、クリアランス調整室66の予測油圧を算出する。
図11は、ライン指示圧とクリアランス調整室の予測油圧の差圧とクリアランス調整室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データである。図11では、ライン指示圧がクリランス調整室66の予測油圧より高い場合、低い場合の差圧を右側、左側となるように横軸をとり、クリアランス調整室66に対する作動油の流入流量が正、負である場合を上側、下側となるように縦軸をとって表されている。
制御装置150には、図11に示すライン指示圧とクリアランス調整室66の予測油圧の差圧とクリアランス調整室66に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データが記憶されており、この特性データを用いて、ライン指示圧とクリアランス調整室66の前回の予測油圧との差圧から、クリアランス調整室66に対する作動油の流入流量が算出される。
そして、算出したクリアランス調整室66に対する作動油の流入流量がクリアランス調整室66に対する作動油の前回の積算流量に加算されてクリアランス調整室に対する作動油の積算流量が算出される。クリアランス調整室油圧供給信号がON状態とされた時間t1では、クリアランス調整室66の予測油圧をゼロとするとともに、クリアランス調整室66に対する作動油の積算流量をゼロとし、クリアランス調整室66に対する作動油の積算流量が算出される。
図12は、クリアランス調整室に対する作動油の積算流量とクリアランス調整室の予測油圧との関係を示す特性データである。図12では、クリアランス調整室に対する作動油の積算流量を横軸にとり、クリアランス調整室の予測油圧を縦軸にとって表されている。
制御装置150には、図12に示すクリアランス調整室66に対する作動油の積算流量とクリアランス調整室66の予測油圧との関係を示す特性データが記憶されており、この特性データを用いて、クリアランス調整室66に対する作動油の積算流量から、クリアランス調整室66の予測油圧が算出される。
例えば、図11に示すように、ライン指示圧とクリアランス調整室66の前回の予測油圧との差圧がDcnであるとき、クリアランス調整室66に対する作動油の流入流量がqcnとして算出される。また、図12に示すように、クリアランス調整室66に対する作動油の前回の積算流量がQc(n−1)であり、クリアランス調整室66の前回の予測油圧がPc(n−1)である場合、クリアランス調整室66に対する作動油の流入流量qcnが加算されてクリアランス調整室66に対する作動油の積算流量がQcnとして算出され、クリアランス調整室66の予測油圧がPcnとして算出される。制御装置150では、例えば10msec毎に算出される。
このようにして、制御装置150では、クリアランス調整室66に供給される油圧が予測され、クリアランス調整室66の予測油圧が、時間t2においてクリアランス調整用ピストン65が摩擦板セット62側にストロークする所定圧となると、シーケンスバルブ114がセット位置からストローク位置に作動するON状態と判定される。
シーケンスバルブ114がON状態と判定されると、締結室67に充填されていた作動油が排出されて締結室67に負圧が生じ、締結用ピストン64の位置が反摩擦板セット62側へ後退することを反映して、負圧による締結室67に対する作動油の流入流量(第2流入流量)が算出される。負圧による締結室67に対する作動油の流入流量は負の値として算出される。
制御装置150では、負圧による締結室67に対する作動油の流入流量が予め所定値に設定されているが、後述するように、負圧による締結室67に対する作動油の流入流量は、LRブレーキ60の締結時にタービン回転数が所定回転数であるときの予測した締結室67に対する作動油の積算流量とゼロクリアランス状態の積算流量との差に基づいて学習補正される。
その後に、クリアランス調整室66の予測油圧が、時間t3において前記所定圧からさらに高くなると、クリアランス調整用ピストン65が摩擦板セット62側に作動したON状態と判定される。
クリアランス調整用ピストン65がON状態と判定されると、クリアランス調整室66の油圧に応じて締結用ピストン64が移動することを反映して、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量(第1流入流量)が算出される。
図13は、クリアランス調整室の予測油圧とクリアランス調整室の油圧による締結室に対する作動油の積算流量との関係を示す特性データである。図13では、クリアランス調整室の予測油圧を横軸にとり、クリアランス調整室の油圧による締結室に対する作動油の積算流量を縦軸にとり、クリアランス調整用ピストンストローク方向が締結方向、解放方向である場合をそれぞれL1、L2として表されている。
制御装置150には、図13に示すクリアランス調整室の予測油圧とクリアランス調整室の油圧による締結室に対する作動油の積算流量との関係を示す特性データが記憶されており、この特性データを用いて、クリアランス調整室66の予測油圧とクリアランス調整用ピストンストローク方向とから、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の積算流量が算出され、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量(第1流入流量)が算出される。
例えば、図13に示すように、クリアランス調整室66の前回の予測油圧がPn−1であり、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の前回の積算流量がQf(n−1)である場合、クリアランス調整室66の予測油圧がPnであるとき、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の積算流量がQfnとして算出され、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量が(Qfn−Qf(n−1))として算出される。
次に、クリアランス調整室66の予測油圧が、時間t4において定常圧になると、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量の算出が終了され、締結室油圧供給信号がON状態とされ、リニアSV113に、元圧ポートaに入力される油圧を所定の締結室指示圧に調整するように制御信号を出力する。
制御装置150では、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の第1流入流量と、負圧による締結室67に対する作動油の第2流入流量と、後述する締結室67の油圧による締結室67に対する作動油の第2流入流量とが順次加算されて締結室67に対する作動油の積算流量が算出され、締結室油圧供給信号がON状態とされて締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときである締結室油圧供給開始時における締結室67に対する作動油の積算流量が算出される。
そして、算出した締結室油圧供給開始時における締結室67に対する作動油の積算流量と、締結用ピストン64がゼロクリアランス状態となる位置における締結室67に対する作動油の積算流量との差が算出され、算出された締結室67に対する作動油の積算流量の差に基づいて締結室指示圧が設定され、設定された締結室指示圧で締結室67に作動油をプリチャージするように制御する。
制御装置150には、締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときの締結室67に対する作動油の積算流量と締結用ピストン64がゼロクリアランス状態となる位置における締結室67に対する作動油の積算流量との差と、締結室67に作動油をプリチャージするときの締結室指示圧との関係を示すマップが記憶されており、このマップを用いて、締結室67に作動油をプリチャージするときの締結室指示圧が設定される。
締結室67に作動油をプリチャージするときの締結室指示圧であるプリチャージ圧は、所定時間で作動油をプリチャージするように設定されている。図9では、ゼロクリアランス状態となる位置における締結室67に対する作動油の積算流量をV0とし、締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときの締結室67に対する作動油の積算流量をV1とし、締結室67に作動油をプリチャージするときのプリチャージ圧をPpreとして示している。
これにより、LRブレーキ60では、リニアSV113によって所定の締結室指示圧に調整されて締結室67に油圧が供給され、制御装置150では、締結室67に供給される作動油の油圧を予測して締結室67の予測油圧を算出する。
具体的には、締結室指示圧と締結室67の前回の予測油圧との差圧を算出し、算出した差圧から、予め設定された締結室指示圧と締結室67の予測油圧との差圧と締結室67に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データを用いて締結室67に対する作動油の流入流量を算出し、算出した締結室67に対する作動油の流入流量を締結室67に対する作動油の前回の積算流量に加算して締結室67に対する作動油の積算流量を算出し、算出した締結室67に対する作動油の積算流量から、予め設定された締結室67に対する作動油の積算流量と締結室67の予測油圧との関係を示す特性データを用いて、締結室67の予測油圧を算出する。
制御装置150には、締結室指示圧と締結室の予測油圧との差圧と締結室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データが記憶されており、この特性データを用いて、締結室指示圧と締結室67の前回の予測油圧との差圧から、締結室67に対する作動油の流入流量が算出される。
なお、締結室指示圧と締結室の予測油圧との差圧と締結室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データは、図11に示す特性データと同様に、締結室指示圧が締結室67の予測油圧より高い場合、低い場合の差圧を右側、左側となるように横軸をとり、締結室67に対する作動油の流入流量が正、負である場合を上側、下側となるように縦軸をとって表された特性データとして設定されている。
そして、算出した締結室67に対する作動油の流入流量が締結室67に対する作動油の前回の積算流量に加算されて締結室67に対する作動油の積算流量が算出される。締結室油圧供給信号がON状態とされた時間t4では、締結室67の予測油圧をゼロとするとともに、締結室67に対する作動油の積算流量をゼロとし、締結室67に対する作動油の積算流量が算出される。
制御装置150にはまた、締結室67に対する作動油の積算流量と締結室67の予測油圧との関係を示す特性データが記憶されており、この特性データを用いて、締結室67に対する作動油の積算流量から、締結室67の予測油圧が算出される。
また、制御装置150では、締結室67の油圧に応じて締結用ピストン64が移動することを反映して、締結室67の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量(第2流入流量)が算出される。締結室67の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量は、締結室指示圧と締結室の予測油圧との差圧と締結室67の油圧による締結室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データを用いて、締結室指示圧と締結室67の予測油圧との差圧から算出される。
制御装置150は、締結室67への作動油のプリチャージが時間t5において終了すると、プリチャージ圧よりも低い圧力に所定時間保持した後に、LRブレーキ60の締結を開始するときである時間t6において再び締結室指示圧を高めて、時間t8において定常圧となるようにリニアSV113に制御信号を出力する。
これにより、LRブレーキ60では、締結室67に油圧が供給されて締結用ピストン64が摩擦板セット62、具体的には摩擦板62a、62bに押し付けられて、スリップ後にLRブレーキ60が締結されることになる。
このように、制御装置150では、締結室67に対する作動油の積算流量を用いて、締結用ピストン64の位置を予測し、予測した締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときの該締結用ピストン64の位置に基づいて、LRブレーキ60の締結を開始するときの締結用ピストン64の位置がゼロクリアランス状態となる位置となるように締結室67への作動油の供給を制御する。
本実施形態では、制御装置150はまた、LRブレーキ60の締結時にタービン回転数が所定回転数であるときの締結用ピストン64の位置を予測し、予測した締結用ピストン64の位置とゼロクリアランス状態となる位置との差に基づいて、LRブレーキ60の次回の締結時に負圧による締結用ピストン64の位置の反摩擦板セット側への後退量の特性を補正して締結用ピストン64の位置を予測する。
具体的には、制御装置150では、LRブレーキ60の締結時に、時間t6において締結室指示圧を高めた後に、時間t6まで低下していたタービン回転数が高くなって所定回転数になった時間t7における締結室67に対する作動油の積算流量が算出される。
そして、算出したタービン回転数が所定回転数であるときの締結室67に対する作動油の積算流量と、締結用ピストン64がゼロクリアランス状態となる位置における締結室67に対する作動油の積算流量との差が算出され、算出された締結室67に対する作動油の積算流量の差が所定範囲内にない場合、LRブレーキ60の次回の締結時に、前述した負圧による締結室67に対する作動油の流入流量(第2流入流量)が学習補正される。
図9では、ゼロクリアランス状態となる位置における締結室67に対する作動油の積算流量をV0とし、タービン回転数が所定回転数(所定タービン回転数)Nsであるときの締結室67に対する作動油の積算流量V2として示している。所定タービン回転数Nsは、好ましくはタービン回転数の極大値に設定される。
図14は、所定タービン回転数における締結室に対する作動油の積算流量と負圧による締結室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データである。図14では、所定タービン回転数における締結室に対する作動油の積算流量を横軸にとり、負圧による締結室に対する作動油の流入流量を縦軸にとって表されている。
制御装置150には、図14に示す所定タービン回転数における締結室に対する作動油の積算流量と負圧による締結室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データが記憶されており、この特性データを用いて、タービン回転数が所定回転数であるときの締結室67に対する作動油の積算流量と、締結用ピストン64がゼロクリアランス状態となる位置における締結室67に対する作動油の積算流量との差から、負圧による締結室67に対する作動油の流入流量が算出される。
例えば、図14に示すように、負圧による締結室67に対する作動油の流入流量が予め−K0に設定されている場合に、所定タービン回転数における締結室67に対する作動油の積算流量が、ゼロクリアランス状態となる位置における締結室67に対する作動油の積算流量V0に対して所定範囲α内であるとき、負圧による締結室67に対する作動油の流入流量として−K0が継続して用いられるが、前記所定範囲α内になく、所定タービン回転数における締結室67に対する作動油の積算流量がV0+βであるとき、LRブレーキ60の次回の締結時には、負圧による締結室67に対する作動油の流入流量が−(K0+ΔK)に補正されて用いられる。
なお、所定タービン回転数における締結室67に対する作動油の積算流量と負圧による締結室67に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データは、負圧による締結用ピストン64の位置の反摩擦板セット側への後退量の特性に対応する。
また、図10は、LRブレーキの解放時における締結用ピストンの位置の予測を説明するためのタイムチャートである。
図10に示すように、制御装置150では、LRブレーキ60の解放時にも、締結室67に対する作動油の積算流量を計算し、締結用ピストン64の位置を予測する。アクセル操作量がゼロから操作状態とされて1速から2速への変速指令が入力されると、時間t11においてLRブレーキ60の解除指令が入力されると共に締結室油圧供給信号がOFF状態とされ、リニアSV113に元圧ポートaに入力される油圧を予め設定された所定の締結室指示圧に調整しながらゼロまで低下させるように制御信号を出力する。
これにより、LRブレーキ60では、締結室67から油圧が徐々に排出され、制御装置150では、締結室67に供給される作動油の油圧を予測して締結室67の予測油圧を算出する。締結室67の予測油圧は、前述したLRブレーキ60の締結時の場合と同様にして算出される。
具体的には、締結室指示圧と締結室67の前回の予測油圧との差圧を算出し、算出した差圧から、予め設定された締結室指示圧と締結室67の予測油圧との差圧と締結室67に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データを用いて締結室67に対する作動油の流入流量を算出し、算出した締結室67に対する作動油の流入流量を締結室67に対する作動油の前回の積算流量に加算して締結室67に対する作動油の積算流量を算出し、算出した締結室67に対する作動油の積算流量から、予め設定された締結室67に対する作動油の積算流量と締結室67の予測油圧との関係を示す特性データを用いて、締結室67の予測油圧を算出する。
LRブレーキ60の解放時には、締結室指示圧と締結室67の前回の予測油圧との差圧が負として算出され、締結室67に対する作動油の流入流量が負として算出され、算出した締結室67に対する作動油の流入流量が締結室67に対する作動油の前回の積算流量に加算されて締結室67に対する作動油の積算流量が算出され、締結室67に対する作動油の積算流量から、締結室67の予測油圧が算出される。
制御装置150ではまた、LRブレーキ60の解放時にも、締結室67の油圧に応じて締結用ピストン64が移動することを反映して、締結室67の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量(第2流入流量)が算出される。締結室67の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量は、締結室指示圧と締結室の予測油圧との差圧と締結室の油圧による締結室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データを用いて、締結室指示圧と締結室67の予測油圧との差圧から算出される。
制御装置150では、時間t12においてリニアSV113に出力ポートbをドレンポートcに連通させるように制御信号を出力して締結室指示圧がゼロになると、所定時間経過後、時間t13においてクリアランス調整室油圧供給信号がOFF状態とされ、オンオフSV112にパイロット圧を供給するように制御信号を出力すると共に、クリアランス調整用ピストンストローク方向が解放方向と判定される。
これにより、LRブレーキ60では、シフトバルブ111がセット位置からストローク位置に移動してクリアランス調整室66から油圧が排出され、制御装置150では、クリアランス調整室66から排出される油圧を予測してクリアランス調整室66の予測油圧を算出する。クリアランス調整室66の予測油圧は、LRブレーキ60の締結時の場合と同様にして算出される。
具体的には、ライン指示圧とクリアランス調整室66の前回の予測油圧との差圧を算出し、算出した差圧から、予め設定されたライン指示圧とクリアランス調整室の予測油圧との差圧とクリアランス調整室66に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データを用いてクリアランス調整室66に対する作動油の流入流量を算出し、算出したクリアランス調整室66に対する作動油の流入流量をクリアランス調整室66に対する作動油の前回の積算流量に加算してクリアランス調整室66に対する作動油の積算流量を算出し、算出したクリアランス調整室66に対する作動油の積算流量から、予め設定されたクリアランス調整室66に対する作動油の積算流量とクリアランス調整室66の予測油圧との関係を示す特性データを用いて、クリアランス調整室66の予測油圧を算出する。
LRブレーキ60の解放時には、ライン指示圧とクリアランス調整室66の前回の予測油圧との差圧が負として算出され、クリアランス調整室66に対する作動油の流入流量が負として算出され、算出したクリアランス調整室66に対する作動油の流入流量がクリアランス調整室66に対する作動油の積算流量に加算されてクリアランス調整室66に対する作動油の積算流量が算出され、クリアランス調整室66に対する作動油の積算流量から、クリアランス調整室66の予測油圧が算出される。
また、クリアランス調整室66の油圧に応じて締結用ピストン64が移動することを反映して、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量(第1流入流量)が算出される。
制御装置150では、図13に示す特性データを用いて、クリアランス調整室66の予測油圧とクリアランス調整用ピストンストローク方向とから、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の積算流量が算出され、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量(第1流入流量)が算出される。
例えば、図13に示すように、クリアランス調整室66の前回の予測油圧がPn−1´であり、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の前回の積算流量がQf(n−1)´である場合、クリアランス調整室66の予測油圧がPn´であるとき、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の積算流量がQfn´として算出され、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量が(Qfn´−Qf(n−1)´)として算出される。
次に、クリアランス調整室66の予測油圧が、時間t14においてクリアランス調整用ピストン65が反摩擦板セット62側に移動される所定圧になると、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量の算出が終了され、クリアランス調整用ピストン65の作動がOFF状態と判定されると共に、シーケンスバルブ114がストローク位置からセット位置に作動したOFF状態と判定される。
制御装置150では、LRブレーキ60の解放時にも、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の第1流入流量と、負圧による締結室67に対する作動油の第2流入流量と、締結室67の油圧による締結室67に対する作動油の第2流入流量とが順次加算されて締結室67に対する作動油の積算流量が算出される。なお、LRブレーキ60の解放時には、負圧による締結室67に対する作動油の第2流入流量はゼロとして算出される。
その後に、クリアランス調整室66の予測油圧は、時間t15において前記所定圧からさらに低くなり、時間t16においてゼロとなっている。LRブレーキ60では、クリアランス調整室66と締結室67の両方から油圧が排出され、LRブレーキ60が解放されることになる。
このように、制御装置150では、締結室67に対する作動油の積算流量を用いて、LRブレーキ60の締結時及び解放時に、クリアランス調整室66の予測油圧及び締結室67の予測油圧が算出されると共に、締結用ピストン64の位置に対応する締結室67に対する作動油の積算流量が算出される。
図15は、前記自動変速機の制御フローチャートを示す図である。図15に示すように、締結用ピストン64の位置に対応する締結室67に対する作動油の積算流量を算出し、算出した締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときの該締結用ピストン64の位置に対応する締結室67に対する作動油の積算流量に基づいて、LRブレーキ60の締結を開始するときの締結用ピストン64の位置がゼロクリアランス状態となる位置となるように締結室67に作動油を供給する自動変速機1の制御は、制御装置150によって行われる。
制御装置150には先ず、各種信号が読み込まれる(ステップS1)。具体的には、運転者の操作により選択されたレンジ、当該車両の車速、運転者のアクセルペダルの操作量、トルクコンバータ3のタービン回転数などが読み込まれる。次に、ステップS1で読み込まれた各種信号に基づいて、アクセル操作量が操作状態から非操作状態のゼロとされたコースト走行において2速から1速への変速指令が入力されてLRブレーキ60の締結指令が入力され、クリアランス調整室油圧供給信号がON状態であるか否かが判定される(ステップS2)。
ステップS2での判定結果がNOの場合、すなわちLRブレーキ60の締結指令が入力されずにクリアランス調整室油圧供給信号がOFF状態である場合、ステップS1〜S2が繰り返されるが、ステップS2での判定結果がYESになると、すなわちLRブレーキ60の締結指令が入力され、クリアランス調整室油圧供給信号がON状態になると、クリアランス調整用ピストン65の作動判定がON状態であるか否かが判定される(ステップS3)。
ステップS3での判定結果がNOの場合、すなわちクリアランス調整用ピストン65の作動判定がOFF状態である場合、ステップS1〜S3が繰り返されるが、ステップS3での判定結果がYESになると、すなわちクリアランス調整用ピストン65の作動判定がON状態になると、締結室油圧供給信号がON状態であるか否かが判定される(ステップS4)。
ステップS4での判定結果がNOの場合、すなわち締結室油圧供給信号がOFF状態である場合、ステップS1〜S4が繰り返されるが、ステップS4での判定結果がYESになると、すなわち締結室油圧供給信号がON状態になると、締結室油圧供給開始時における締結室67に対する作動油の積算流量と、ゼロクリアランス状態における締結室67に対する作動油の積算流量との差が算出される(ステップS5)。
図16は、締結室に対する作動油の積算流量を算出する動作を示すフローチャートである。制御装置150では、締結室に対する作動油の積算流量が所定時間、例えば10msecごとに絶えず算出されている。図16に示すように、締結室67に対する作動油の積算流量の算出について、制御装置150では、クリアランス調整室66の予測油圧が算出され(ステップS21)、締結室67の予測油圧が算出される(ステップS22)。図16では、ステップS21、ステップS22の順に記載しているが、ステップS21とステップS22とは同時に絶えず算出されている。
図17は、クリアランス調整室の予測油圧を算出する動作を示すフローチャートである。図17に示すように、ステップS21におけるクリアランス調整室66の予測油圧の算出について、制御装置150では、ライン指示圧とクリアランス調整室の前回の予測油圧との差圧が算出される(ステップS31)。LRブレーキ60の締結時にクリアランス調整室油圧供給信号がON状態とされたとき、クリアランス調整室66の前回の予測油圧はゼロに設定されている。
そして、ライン指示圧とクリアランス調整室の前回の予測油圧との差圧に基づいてクリアランス調整室66に対する作動油の流入流量が算出される(ステップS32)。ライン指示圧とクリアランス調整室との予測油圧の差圧とクリアランス調整室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データを用いて、ライン指示圧とクリアランス調整室66の予測油圧との差圧から、クリアランス調整室66に対する作動油の流入流量が算出される。
次に、クリアランス調整室66に対する前回の作動油の積算流量にクリアランス調整室66に対する作動油の流入流量を加算してクリアランス調整室66に対する作動油の積算流量が算出される(ステップS33)。LRブレーキ60の締結時にクリアランス調整室油圧供給信号がON状態とされたとき、クリアランス調整室66に対する前回の作動油の積算流量はゼロに設定されている。
ステップS33でクリアランス調整室66に対する作動油の積算流量が算出されると、クリアランス調整室66に対する作動油の積算流量に基づいてクリアランス調整室66の予測油圧が算出される(ステップS34)。クリアランス調整室に対する作動油の積算流量とクリアランス調整室の予測油圧との関係を示す特性データを用いて、クリアランス調整室66に対する作動油の積算流量から、クリアランス調整室66の予測油圧が算出される。
図18は、締結室の予測油圧を算出する動作を示すフローチャートである。図18に示すように、ステップS22における締結室67の予測油圧の算出について、制御装置150では、締結室指示圧と締結室67の前回の予測油圧との差圧が算出される(ステップS41)。LRブレーキ60の締結時に締結室油圧供給信号がON状態とされたとき、締結室67の前回の予測油圧はゼロに設定されている。
そして、締結室指示圧と締結室67の前回の予測油圧との差圧に基づいて締結室67に対する作動油の流入流量が算出される(ステップS42)。締結室指示圧と締結室の予測油圧との差圧と締結室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データを用いて、締結室指示圧と締結室67の前回の予測油圧との差圧から、締結室67に対する作動油の流入流量が算出される。
次に、締結室67に対する前回の作動油の積算流量に締結室67に対する作動油の流入流量を加算して締結室67に対する作動油の積算流量が算出される(ステップS43)。LRブレーキ60の締結時に締結室油圧供給信号がON状態とされたとき、締結室67に対する前回の作動油の積算流量はゼロに設定されている。
ステップS43で締結室67に対する作動油の積算流量が算出されると、締結室67に対する作動油の積算流量に基づいて締結室67の予測油圧が算出される(ステップS44)。締結室に対する作動油の積算流量と締結室の予測油圧との関係を示す特性データを用いて、締結室67に対する作動油の積算流量から、締結室67の予測油圧が算出される。
図16に戻って、ステップS21でクリアランス調整室66の予測油圧が算出され、ステップS22で締結室67の予測油圧が算出されると、クリアランス調整用ピストンストローク方向が判定され、締結方向又は解放方向が判定される(ステップS23)。
次に、ステップS21で算出されたクリアランス調整室66の予測油圧とステップS23で判定されたクリアランス調整用ピストンストローク方向とから、クリアランス調整室66の油圧による締結室67に対する作動油の第1流入流量が算出される(ステップS24)。クリアランス調整室の予測油圧とクリアランス調整室の油圧による締結室に対する作動油の積算流量との関係を示す特性データを用いて、クリアランス調整室66の予測油圧とクリアランス調整用ピストンストローク方向とから、締結室67に対する作動油の第1流入流量が算出される。
そして、LRブレーキ60の締結指令が入力されていると共に、シーケンスバルブ作動がON状態であり、且つ締結室指示圧がゼロであるか否かが判定される(ステップS25)。
ステップS25での判定結果がYESの場合、すなわちLRブレーキ60の締結指令が入力されていると共に、シーケンスバルブ作動がON状態であり、且つ締結室指示圧がゼロである場合、負圧による締結室67に対する作動油の第2流入流量が算出される(ステップS26)。負圧による締結室67に対する作動油の第2流入流量は予め所定値に設定され、負の値として算出される。
一方、ステップS25での判定結果がNOの場合、すなわちLRブレーキ60の締結指令が入力されていない、シーケンスバルブ作動がOFF状態である、あるいは締結室指示圧がゼロでない場合、締結室指示圧と締結室67の予測油圧との差圧に基づいて、締結室67の油圧による締結室67に対する作動油の第2流入流量が算出される(ステップS27)。締結室67の油圧による締結室67に対する作動油の流入流量は、締結室指示圧と締結室の予測油圧との差圧と締結室に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データを用いて、締結室指示圧と締結室67の予測油圧との差圧から算出される。
ステップS26又はステップS27で締結室67に対する作動油の第2流入流量が算出されると、締結室67に対する前回の作動油の積算流量に、ステップS24で算出された締結室67に対する作動油の第1流入流量とステップS26又はステップS27で算出された締結室67に対する作動油の第2流入流量を加算して締結室67に対する作動油の積算流量が算出される(ステップS28)。制御装置150では、所定時間、例えば10msec毎に算出される。
図15に戻って、ステップS5において、締結室油圧供給開始時における締結室67に対する作動油の積算流量と、ゼロクリアランス状態における締結室67に対する作動油の積算流量との差が算出され、締結室67に作動油を供給する締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときのゼロクリアランス状態までの締結室67に対する作動油の積算流量が算出される。
そして、締結室67に作動油を供給する締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときのゼロクリアランス状態までの締結室67に対する作動油の積算流量に基づいて、締結室67に作動油をプリチャージするプリチャージ時における締結室指示圧が算出される(ステップS6)。
プリチャージ時における締結室指示圧は、ゼロクリアランス状態までの締結室に対する作動油の積算流量とプリチャージ時における締結室指示圧との関係を示すマップを用いて、ゼロクリアランス状態までの締結室67に対する作動油の積算流量から算出される。そして、ステップS6で算出されたプリチャージ時における締結室指示圧で締結室67に作動油を供給するように制御する(ステップS7)。
次に、締結室67に対する作動油の積算流量と、ゼロクリアランス状態における締結室67に対する作動油の積算流量とが一致したか否かが判定される(ステップS8)。
ステップS8での判定結果がNOの場合、すなわち締結室67に対する作動油の積算流量と、ゼロクリアランス状態における締結室67に対する作動油の積算流量とが一致していない場合、ステップS7〜S8が繰り返されるが、ステップS8での判定結果がYESになると、すなわち締結室67に対する作動油の積算流量と、ゼロクリアランス状態における締結室67に対する作動油の積算流量とが一致すると、タービン回転数が所定回転数である所定タービン回転数のときの締結室67に対する作動油の積算流量がゼロクリアランス状態における締結室67に対する作動油の積算流量に対して所定範囲内であるか否かが判定される(ステップS9)。
ステップS9での判定結果がYESの場合、すなわち所定タービン回転数のときの締結室67に対する作動油の積算流量がゼロクリアランス状態における締結室67に対する作動油の積算流量に対して所定範囲内である場合、LRブレーキ60の次回の締結時に、ステップS26において、負圧による締結室67に対する作動油の第2流入流量を予め設定された所定値を継続して用いる(ステップS10)。
一方、ステップS9での判定結果がNOの場合、すなわち所定タービン回転数のときの締結室67に対する作動油の積算流量がゼロクリアランス状態における締結室67に対する作動油の積算流量に対して所定範囲内にない場合、LRブレーキ60の次回の締結時に、ステップS26において、所定タービン回転数のときの締結室67に対する作動油の積算流量に基づいて、負圧による締結室67に対する作動油の第2流入流量を予め設定された所定値を補正して用いる(ステップS11)。
所定タービン回転数のときの締結室67に対する作動油の積算流量とゼロクリアランス状態における締結室67に対する作動油の積算流量との差から、所定タービン回転数における締結室67に対する作動油の積算流量と負圧による締結室67に対する作動油の流入流量との関係を示す特性データを用いて、負圧による締結室67に対する作動油の第2流入流量が補正されて用いられる。
このようにして、制御装置150では、締結用ピストン64の位置に対応する締結室67に対する作動油の積算流量を算出し、算出した締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときの締結用ピストン64の位置に対応する締結室67に対する作動油の積算流量に基づいて、LRブレーキ60の締結を開始するときの締結用ピストン64の位置がゼロクリアランス状態となる位置となるように締結室67に作動油を供給するように制御する。
このように、本実施形態に係る自動変速機1の制御では、締結用ピストン64の位置が予測され、予測した締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときの締結用ピストン64の位置に基づいて、LRブレーキ60の締結を開始するときの締結用ピストン64の位置がゼロクリアランス状態となる位置となるように締結室67への作動油の供給が制御される。これにより、LRブレーキ60の締結時に締結用ピストン64の位置をゼロクリアランス状態となる位置にすることができ、LRブレーキ60の締結時におけるショックの発生や応答性の低下を抑制することができる。クリアランス調整室66に油圧を供給したときに締結用ピストン64の位置がゼロクリアランス状態となる位置にない場合においても、LRブレーキ60の締結時に締結用ピストン64の位置をゼロクリアランス状態となる位置にすることができる。
また、クリアランス調整室66に供給される作動油の油圧を用いて締結用ピストン64の位置が予測される。これにより、クリアランス調整室66に供給される作動油の油圧に応じて締結用ピストン64が移動することを反映して締結用ピストン64の位置を予測することができる。
また、クリアランス調整室66に油圧を供給した後に締結室67に油圧を供給するまでの間に締結室67に生じる負圧による締結用ピストン64の位置の反摩擦板セット側への後退量を用いて締結用ピストン64の位置が予測される。これにより、締結室67に生じる負圧によって締結用ピストン64が反摩擦板セット側へ移動することを反映して締結用ピストン64の位置を予測することができる。
また、LRブレーキ60の締結時にタービン回転数が所定回転数であるときの締結用ピストン64の位置が予測され、予測した締結用ピストン64の位置とゼロクリアランス状態となる位置との差に基づいて、LRブレーキ60の次回の締結時に負圧による締結用ピストン64の位置の反摩擦板セット側への後退量の特性を補正して締結用ピストン64の位置が予測される。これにより、締結用ピストン64の位置の予測精度を高めることができる。
また、LRブレーキ60の締結時に締結室67に作動油をプリチャージするときに、予測した締結用ピストン64が摩擦板セット62の締結を開始するときの締結用ピストン64の位置に基づいて、LRブレーキ60の締結を開始するときの締結用ピストン64の位置がゼロクリアランス状態となる位置となるように締結室67への作動油の供給が制御される。これにより、LRブレーキ60の締結時に締結用ピストン64の位置をゼロクリアランス状態となる位置に速やかにすることができる。
なお、前述した実施形態は、本発明を図1に骨子を示す自動変速機1のLRブレーキ60に適用したものであるが、その他のブレーキ70、80にも同様に適用することができ、また変速機構の構成の異なる自動変速機におけるブレーキ装置にも同様に適用される。
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能である。